タイトル: | 公開特許公報(A)_温度応答性を有する細胞培養基材の製造方法 |
出願番号: | 2012251173 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12M 3/00,C12N 5/071 |
長井 太郎 黒田 正敏 長谷 政彦 八巻 和正 角田 めぐみ JP 2014097031 公開特許公報(A) 20140529 2012251173 20121115 温度応答性を有する細胞培養基材の製造方法 大日本印刷株式会社 000002897 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 藤井 愛 100125508 長井 太郎 黒田 正敏 長谷 政彦 八巻 和正 角田 めぐみ C12M 3/00 20060101AFI20140502BHJP C12N 5/071 20100101ALN20140502BHJP JPC12M3/00 AC12N5/00 202A 5 OL 11 4B029 4B065 4B029AA08 4B029AA21 4B029BB11 4B029CC02 4B029CC11 4B029GB09 4B065AA90X 4B065BC41 4B065CA44 4B065CA46 本発明は、温度応答性を有する細胞培養基材の製造方法に関する。 従来、細胞を培養皿から非侵襲的に回収する手段として、温度応答性の細胞培養皿が開発されていた(特許文献1)。細胞培養皿への温度応答性能の付与方法としては、温度応答性ポリマーを構成するモノマーに電子線を照射することにより、重合反応および基材への固定化を同時に行う技術が報告されている(一例として特許文献2)。特公平6−104061号公報特開2008−220320号公報 こうした電子線を用いたモノマーの重合による温度応答性細胞培養皿の作製方法は効率的である一方で、部位によりモノマーの重合度が異なる場合や、基材間でモノマーの重合度が異なる場合があり、温度応答性等の品質にばらつきが生じるという問題があった。また、特にモノマーとしてN−イソプロピルアクリルアミドを用い、これを重合させて温度応答性ポリマーであるN−イソプロピルアクリルアミドを基材に固定化する場合は、毒性のあるN−イソプロピルアクリルアミドが揮発するという製造上の問題があった。一方、あらかじめ重合させておいた温度応答性ポリマーはモノマーの二重結合に相当するような反応性官能基が残存していないため、電子線照射のみでは基材への充分な固定化が困難であるという課題があった。 そこで本発明は、細胞培養基材の製造方法において、品質のばらつきと製造上の毒性の課題を解決し、かつ基材への温度応答性ポリマーの固定化を安定的に行う方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、温度応答性ポリマーと、放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤とを基材に配置し、放射線を照射して温度応答性ポリマーを基材に固定化する方法により、毒性のあるモノマーを用いることなく、また品質のばらつきなく、温度応答性ポリマーを基材に安定的に固定化できることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は以下の発明を包含する。(1)温度応答性を有する細胞培養基材の製造方法であって、 温度応答性ポリマーと放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤とを基材に配置する工程、および 基材に配置された温度応答性ポリマーと架橋剤に放射線を照射することにより温度応答性ポリマーを基材に固定化する工程を含む、前記方法。(2)架橋剤が、温度応答性ポリマーを形成するモノマーとは異なる、(1)記載の方法。(3)温度応答性ポリマーがアクリル系ポリマーまたはメタクリル系ポリマーであり、放射線反応性官能基がアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選択される、(1)または(2)記載の方法。(4)温度応答性ポリマーが、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである、(3)記載の方法。(5)架橋剤が、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリンジ(メタ)アクリレート、およびエトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。 本発明によれば、毒性の高いモノマーを使用しないため、製造上の安全性が高い。また放射線反応性官能基を有する架橋剤を用いることにより、架橋剤を介して様々な素材の基材に対し、温度応答性ポリマーを安定的に固定化することが可能となる。 本発明は、細胞を培養して細胞シートを形成し、これを非浸襲的に回収するのに好適な、温度応答性を有する細胞培養基材の製造方法に関する。本発明の細胞培養基材の製造方法は、温度応答性ポリマーと放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤とを基材に配置する工程、および基材に配置された温度応答性ポリマーと架橋剤に放射線を照射することにより温度応答性ポリマーを基材に固定化する工程を含む。 本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーは細胞培養温度下(通常、37℃程度)において疎水性を示し、培養した細胞シートの回収時の温度下において親水性を示すものである。なお、温度応答性ポリマーが、疎水性から親水性に変化する温度(水に対する臨界溶解温度(T))としては、特に限定されないが、培養後の細胞シートの回収の容易さの観点からは、細胞培養温度よりも低い温度であることが好ましい。このような温度応答性ポリマー成分を含むことで、細胞培養時においては、細胞の足場(細胞接着面)が充分に確保されるため細胞培養を効率よく行うことができる。その一方、培養後の細胞シートの回収時においては、疎水性部分を親水性に変化させ、培養された細胞シートを細胞培養基材から分離させることで、細胞シートの回収をより一層容易にすることができる。特に所定の臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、同温度以上の温度で疎水性を示す温度応答性ポリマーが好ましい。このような温度応答性ポリマーにおける臨界溶解温度を特に下限臨界溶解温度と呼ぶ。 本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーは具体的には下限臨界溶解温度Tが0〜80℃、好ましくは0〜50℃であるポリマーが好ましい。Tが80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。またTが0℃より低いと、一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または細胞が死滅してしまうため好ましくない。そのような好適なポリマーとしてはアクリル系ポリマーまたはメタクリル系ポリマーが挙げられる。具体的に好適なポリマーとしては、例えばポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、およびポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。その他のポリマーとしては、例えばポリ−N−エチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルメタクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピロリジン、ポリ−N−アクリロイルピペリジン、ポリメチルビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体や、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体や、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体が挙げられる。 温度応答性ポリマーの分子量は、特に制限されないが、分子量に応じてグラフト密度を調整することが好ましい。例えば、比較的分子量の小さいポリマーは密に固定化し、比較的分子量の大きいポリマーは疎に固定化することが好ましい。 これらのポリマーを形成するためのモノマーとしては、例えばモノマーの単独重合体がT=0〜80℃を有するようなモノマーであって、放射線照射によって重合し得るモノマーが挙げられる。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、およびビニルエーテル誘導体等が挙げられ、これらの1種以上を使用してよい。モノマーが一種類単独で使用された場合、基材上に形成されるポリマーはホモポリマーとなり、モノマーが複数種一緒に使用された場合、基材上に形成されるポリマーはコポリマーとなるが、どちらの形態も本発明に包含される。また、増殖細胞の種類によってTを調節する必要がある場合や、被覆物質と細胞培養基材との相互作用を高める必要が生じた場合や、細胞培養基材の親水・疎水性のバランスを調整する必要がある場合などには、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフトまたはブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。 放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤として、好ましくは上記温度応答性ポリマーを形成するモノマーとは異なるものを用いる。例えば、温度応答性ポリマーとしてポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを用いる場合、N−イソプロピルアクリルアミド以外の架橋剤を用いる。それにより、製造上のモノマーによる毒性の問題を回避できるとともに、機器分析による架橋点の数の定量が容易となる。 放射線反応性官能基、例えば電子線反応性官能基は、放射線(例えば電子線)を照射することにより、基材に共有結合で結合することができるものであれば特に制限されない。放射線反応性官能基は、高エネルギー照射下でラジカルを形成することができる部分であり、放射線源にさらされるとフリーラジカルを発生し、架橋およびグラフトを達成する。放射線反応性官能基は、用いる温度応答性ポリマーにより適宜選択されるが、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アジ基、一級、二級または三級の脂肪族基、脂環式基、ベンジル基などの芳香族基などが挙げられる。架橋剤は、これらの放射線反応性官能基を1種類のみ有するものでもよいし、複数種有するものでもよい。 温度応答性ポリマーとしてアクリル系ポリマーまたはメタクリル系ポリマーを用いる場合は、放射線反応性官能基として、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する架橋剤を用いることが好ましい。アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する架橋剤は入手しやすく、アジ基などと比較すると取り扱いが比較的容易である。 架橋剤は、放射線反応性官能基を2以上、好ましくは2つ有する。放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤を用いることにより、放射線照射により、架橋剤が、温度応答性ポリマーと基材の双方と共有結合を形成することができ、温度応答性ポリマーを基材に対し強固に固定化することができる。また、架橋剤が有する放射線反応性官能基の数を2とすることで、複数の分岐を持たない、より制御された表面を作製することが可能となる。 架橋剤の具体例として、ポリアルキレングリコール末端のヒドロキシル基に放射線反応性官能基が直接的または間接的(リンカーを解して)に導入された化合物が挙げられる。ポリアルキレングリコールは、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、すべての末端のヒドロキシル基に放射線反応性官能基が導入されていてもよく、一部の末端のヒドロキシル基に放射線反応性官能基が導入されていてもよい。そのような架橋剤の例として、以下の式Iで表される化合物が挙げられる。 A1−L1―O−((CH2)n−O)m−L2−A2 I(式中、A1およびA2は放射線反応性官能基を表し、L1およびL2は直接結合またはリンカーを表し、nはアルキレン鎖の炭素数を表し、mは重合度を示す整数である) nは、通常1〜10の整数であり、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3の整数である。mは通常1〜20の整数であり、好ましくは15以下、より好ましくは10以下の整数である。L1およびL2は、好ましくは直接結合であるが、リンカーとしては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5の、二価の脂肪族炭化水素基、好ましくはアルキレン基が挙げられる。アルキレン基における炭素が、窒素、酸素および硫黄から選択される同一または異なるヘテロ原子で置換された基でもよい。 ポリアルキレングリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマーなどが挙げられ、式Iで表される架橋剤の好ましい具体例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。 ポリエチレングリコールは細胞培養用途での使用実績が多いため、ポリエチレングリコール鎖が培養基材表面に導入されることによる細胞培養用途への悪影響の懸念が少ない。また、ポリエチレングリコールは細胞非接着性の物質として知られているため、導入量を変化させることで、細胞の接着性を制御することが可能となる。 架橋剤の別の例として、エトキシ化グリセリン(メタ)アクリレート、例えば、エトキシ化グリセリンジアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化グリセリンジメタクリレート、およびエトキシ化グリセリントリメタクリレートなどが挙げられる。 温度応答性ポリマーおよび架橋剤を基材に配置する工程においては、温度応答性ポリマーおよび架橋剤の混合物を調製して基材に配置してもよいし、温度応答性ポリマーと架橋剤をそれぞれ別々に基材に配置してもよい。別々に配置する場合は、同時に配置する必要はなく、例えば、架橋剤を基材に配置して乾燥した後に、温度応答性ポリマーを重ねて配置してもよい。この場合、架橋剤と温度応答性ポリマーは、それぞれ好適な溶媒に溶解した上で基材に配置することが好ましい。架橋剤を基材に配置して乾燥した後に、温度応答性ポリマーを重ねる場合では、架橋剤と温度応答性ポリマーの反応の場が界面に限定されてしまうため、温度応答性ポリマーおよび架橋剤を含む混合物を基材に配置することが好ましい。混合物は、温度応答性ポリマーと、放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤とを、好ましくは適当な溶媒に溶解することにより調製できる。 温度応答性ポリマーおよび/または架橋剤を溶解する溶媒は、温度応答性ポリマーおよび/または架橋剤を溶解できるものであれば特に制限はないが、常庄下において沸点120℃以下、特に60〜110℃のものが好ましい。好ましい溶媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、および水等が挙げられ、これらは組み合わせて使用してもよい。その他の溶媒、例えば1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ブトキシエタノール、およびエチレン(もしくはジエチレン)グリコールまたはそのモノエチルエーテル等も使用可能であるが、好ましくはi−プロパノールを用いる。i-プロパノールは薄膜に塗布することで室温にて容易に揮発するため、特段の乾燥工程なしに、後述の乾燥によるメリットを得ることができるからである。また、基材として細胞培養に汎用されるポリスチレンを選択した場合においても表面を侵さないため好ましい。必要であれば、上記溶液にはその他添加剤として、硫酸等で代表される酸類、モール塩等を配合してよい。 混合物における温度応答性ポリマーの含有量は、ポリマーの分子量に応じて決定されるが、好ましくは放射線照射の直前における濃度が1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは10重量%以下である。混合物における温度応答性ポリマーに対する架橋剤の含有量は、モル比で1以上100以下が好ましく、10以上50以下がより好ましく、重量比で0.01〜0.05が好ましい。また、混合剤における架橋剤の含有量は、好ましくは0.05〜0.5重量%である。 基材は、その表面が、放射線反応性官能基と放射線照射により共有結合し得る材料を含むものである限り特に限定されない。表面のみが、放射線反応性官能基と放射線照射により共有結合し得る材料を含むものであってもよいし、基材の全部がそのような材料を含むものであってもよい。このような基材の材料は、通常細胞培養に用いられるガラス類、プラスチック類、セラミックス、金属等が挙げられるが、細胞培養が可能な材料であれば特に限定されない。基材の表面または中間層に本発明の目的を妨げない限り任意の層を設けてもよいし、任意の処理を施してもよい。例えば、基材表面にオゾン処理、プラズマ処理、スパッタリング等の処理技術を用いて親水化を施すことができる。 基材を構成する材料であって、それ自体が放射線反応性官能基と共有結合を形成し得るものとしては、ポリスチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリウレタン、ウレタンアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、共役結合を持つ天然ゴム、共役結合を持つ合成ゴム、ポリシリコンを含有するシリコンゴム等が挙げられる。基材はこれらの材料を2種以上含むブレンドポリマーまたはポリマーアロイからなるものであってもよい。 放射線反応性官能基と共有結合するように表面処理された基材としては、表面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレート、表面がコロナ処理またはプラズマ処理された合成樹脂、表面がウレタンアクリレート等のアクリル系樹脂により被覆された合成樹脂等が挙げられる。基材はこれらの材料を2種以上含むブレンドポリマーまたはポリマーアロイからなるものであってもよい。合成樹脂としてはナイロン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。合成樹脂はこれらの材料を2種以上含むブレンドポリマーまたはポリマーアロイからなるものであってもよい。 基材の形状としては、ディッシュ形状、フィルム形状、多孔質形状などが挙げられる。フィルム形状基材を用いる場合、フィルム形状基材表面に温度応答性ポリマーと架橋剤の層を形成した後、細胞培養に適した形状(例えばディッシュ形状)に加工することができる。また、ディッシュ形状の容器の細胞培養面に、フィルム形状の基材を接着剤などにより貼り付けてもよい。加工の際は、必要に応じて他の材料からなる部材を前記基材と組み合わせて使用することもできる。ディッシュ形状基材を用いる場合、少なくとも細胞接着面となるディッシュ内底面部分が温度応答性ポリマーと架橋剤の層により被覆されればよい。 本発明で用いる基材としては、細胞培養において実績のある、ポリスチレン、多孔質ポリエチレンテレフタレート、多孔質ポリカーボネートが特に適している。 温度応答性ポリマーおよび架橋剤を配置することにより基材上に形成する塗膜の塗布量は温度応答性ポリマーが機能(例えば温度応答性)を発揮するのに必要な塗布量である50mg/m2以上あればよい。塗布量の上限は特にないが、40g/m2未満が好ましく、10g/m2以下がより好ましい。塗布量が40g/m2以上である場合には、厚みが増して塗膜厚が安定しないこと、厚みが増して放射線の貫通・照射量が安定しないこと、並びに照射エネルギーに由来する膜内の対流によりポリマーの被覆量にムラが生じる場合がある。また、遊離のポリマーを洗浄するための洗浄時間を短くするためには塗膜量は10g/m2以下が望ましい。 温度応答性ポリマーおよび架橋剤の基材への小面積への塗布方法としては公知のいずれの方法でもよく、例えばスピンコーター、バーコーター等による塗布法、噴霧塗布法等が挙げられる。大面積への塗布方法としてはブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーディング法、リバースロールコーティング法、オフセットグラビアコーティング法等が使用できる。 ベタ形成においては、グラビアコート法、ロールコート法、スロットコート法、キスコ−ト法、スプレーコート法、ファウンテンコーティング法等公知のコーティング法を用いることが出来る。又、絵柄層のパターン形成においては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等公知の印刷法を用いることが出来る。塗布方法として連続のコート法または印刷法を使用することもできる。連続のコート法または印刷法としては、具体的にはホットメルトコート、ホットラッカーコート、グラビアダイレクトコート、グラビアリバースコート、ダイコート、マイクログラビアコート、スライドコート、スリットリバースコート、カーテンコート、ナイフコート、エアコート、ロールコート等の塗布方法が使用できるが、これらは例示に過ぎず、当業者であれば適用可能なものを使用することができる。 本発明の方法は、基材上に配置した温度応答性ポリマーおよび架橋剤に放射線を照射して、基材表面と温度応答性ポリマーとの架橋剤を介した結合反応を進行させる放射線照射工程を含む。ここでいう結合反応は、放射線照射によって、基材と架橋剤との間の共有結合や、架橋剤と温度応答性ポリマーとの間の共有結合が、放射線反応性官能基を介して形成される反応をさす。 使用する放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等がある。本発明においては、γ線と電子線がエネルギー効率がよく、特に生産性の面から電子線が好ましい。紫外線に関しては適当な重合開始剤や基材とのアンカー剤を組合せることで使用できる。放射線の線量の範囲は、電子線であれば50kGy〜500kGyが好ましく、γ線であれば5kGy〜50kGyが好ましい。 放射線照射後は、塗膜を乾燥させて溶媒を除去することが好ましい。前記塗布工程で形成される塗膜は残留溶剤量の影響により結晶が形成されることがないため、乾燥前の塗膜に放射線を照射した後、乾燥を行ってもよいし、塗膜を乾燥した後に放射線を照射してもよい。ただし、乾燥前のウェットな状態の塗膜に放射線照射を行うと、環境変化や異物、塗膜厚変動等の影響を受ける可能性があることから、塗膜を乾燥した後に放射線を照射することが好ましい。乾燥方法としては特に限定されないが、典型的にはドライエア乾燥法、熱風(温風)乾燥法、(遠)赤外乾燥法などが挙げられる。 上述の各工程を経て形成された細胞培養基材には、基材表面上に共有結合により固定化されたポリマー分子だけでなく、固定化されていない遊離のポリマー分子や、未反応の架橋剤等が存在している。そこでこれらの遊離ポリマーや未反応物を除去するために洗浄を行う洗浄工程を更に含むことが好ましい。 洗浄方法としては特に限定されないが、典型的には浸漬洗浄、遥動洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄等が挙げられる。また洗浄液としては典型的には各種水系、アルコール系、炭化水素系、塩素系、酸・アルカリ洗浄液が挙げられる。洗浄方法と洗浄液の組み合わせは洗浄される細胞培養基材に応じて適宜選択すればよい。 本発明の方法により製造された細胞培養基材においては、温度応答性等の品質のばらつきがなく、温度応答性ポリマーが基材上に安定的に固定化されている。本発明の細胞培養基材においては、その表面に固定化された温度応答性ポリマーおよび架橋剤の層の乾燥時の厚さが0.001〜10μmであることが好ましい。 また細胞培養基材表面における温度応答性ポリマーおよび架橋剤の被覆量は、0.5〜5μg/cm2であることが好ましく、1.0〜4.0μg/cm2であることがより好ましい。被覆量が5.0μg/cm2を超過すると細胞は細胞培養基材表面上に付着せず、逆に被覆量が0.5μg/cm2未満だと培養細胞を基材から剥離回収することが困難となる。このようなポリマー被覆量は、例えばフーリエ変換赤外分光計全反射法(FT−IR−ATR法)、被覆部もしくは非被覆部の染色や蛍光物質の染色による分析、更に接触角測定等による表面分析を単独或は併用して求めることができる。 本発明の細胞培養基材を用いて、種々の細胞、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、種々組織に存在する幹細胞、さらには骨髄細胞、ES細胞等から細胞シートを作製することができる。こうして作製された細胞シートは表面の接着因子が損なわれていないことに加えて、細胞培養面に接した部分が均一な品質を有することから、再生医療などへの利用に適したものである。また、細胞シートを利用することでバイオセンサー等の検出デバイスへの応用へも展開できる。 以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の範囲に限定されるものではない。実施例1 ポリスチレンフィルムへの温度応答性付与(1−1)ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)の合成 500mLセパラブルフラスコの中にN−イソプロピルアクリルアミド17.8gと純水150mLを投入し、攪拌下、溶解・分散した。窒素ガス気流下、室温で過硫酸アンモニウム0.24g、N,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン0.30mLを加えて重合を開始させた。重合終了後、加温してゲルを取り出し、100℃の電気乾燥器中で乾燥した。乾燥したゲルを粉砕して、NMP溶媒でGPC分析したところ、分子量約35万であった。(1−2)温度応答性細胞培養フィルムの作製 前記の通り作製したPIPAAm、および新中村化学工業より購入した種々の架橋剤を所定濃度にてイソプロピルアルコール(IPA)に溶解させた(表1)。架橋剤の略称は以下の通りとする。PEGDA:ポリエチレングリコールジアクリレートEOGTA:エトキシ化グリセリントリアクリレートPEGDMA:ポリエチレングリコールジメタクリレート 市販のポリスチレン(PS)フィルム(サンディック社より入手)を調達し、これを10cm角に切り出した。前記溶液をこのPSフィルム面に0.5ml展開し、ミヤバーNo.2でコーティングした。電子線照射装置(岩崎電気社製)を用いて電子線照射を行い、PS表面にPIPAAmをグラフト重合した。このときの電子線照射線量は120kGyであった。(1−3)細胞培養皿の組み立て こうして作製された温度応答性細胞培養用シートを32mmφの円形に切り出し、35mmφポリスチレンディッシュ(ベクトンディッキンソン社製)底面に両面テープを介して接着させた。(1−4)細胞培養評価 このようにして得られた細胞培養皿をエチレンオキサイドガスにて滅菌した。ウシ血管内皮細胞(JCRBより入手)を、4.0×104cells/cm2になるように調整し、培養皿内に播種した。このとき、使用培地は10%FBS含有DMEM(シグマ製)であった。培養はCO2インキュベーターで37℃、5%CO2の条件にて行い、培養5日後顕微鏡観察したところ、コンフルエントになっている様子が確認された。その後、培養皿を20℃、5%CO2条件下のインキュベーターに入庫した。30分後、20℃のインキュベーターから出庫すると、32mmφ温度応答性フィルム上に形成されていた細胞シートが剥離している様子が確認された。実施例2 多孔ポリエチレンテレフタレート(PET)への温度応答性付与(2−1)温度応答性細胞培養フィルムの作製 実施例1記載の方法にて作製したPIPAAmを最終濃度2wt%、分子量575のPEGDAを最終濃度0.18wt%になるようにIPAに溶解させて塗工液を作製した。多孔PETとして、サイズ140mm×200mm、厚さ32μm、平均細孔径0.4μm、細孔密度1.5×108個/cm2の透明ポリエステル製メンブレン(it4ip社製)を用いた。 クラボウ社製グラビアコーティング試験機を用いたグラビアダイレクト法(Helio70線版)により上記塗工液をフィルム上に塗布した。40℃で20秒乾燥させた後、電子線照射装置(岩崎電気社製)により電子線を照射して、フィルム表面にPIPAAmを固定化した。このときの電子照射線量は150kGyであった。(2−2)細胞培養皿の組み立て 実施例(1−3)と同様に組み立てた。(2−3)細胞培養評価 実施例(1−4)と同様に評価した結果、30分以内に温度応答性による細胞シートの剥離が確認された。比較例(1−1)温度応答性細胞培養用シートの作製 前記の通り作製したPIPAAm2wt%をIPAに溶解させた。市販のポリスチレン(PS)フィルム(サンディック社より入手)を調達し、これを10cm角に切り出した。前記溶液をこのPSフィルム面に0.5ml展開し、ミヤバーNo.2でコーティングした。電子線照射装置(岩崎電気社製)を用いて電子線照射を行い、PSフィルム表面にPIPAAmをグラフト重合した。このときの電子線照射線量は120kGyであった。(1−2)細胞培養皿の組み立て 実施例(1−3)と同様に組み立てた。(1−3)細胞培養 実施例(1−4)と同様に評価したところ、24時間後においても細胞シートの自発的剥離は確認されなかった。 温度応答性を有する細胞培養基材の製造方法であって、 温度応答性ポリマーと放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤とを基材に配置する工程、および 基材に配置された温度応答性ポリマーと架橋剤に放射線を照射することにより温度応答性ポリマーを基材に固定化する工程を含む、前記方法。 架橋剤が、温度応答性ポリマーを形成するモノマーとは異なる、請求項1記載の方法。 温度応答性ポリマーがアクリル系ポリマーまたはメタクリル系ポリマーであり、放射線反応性官能基がアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選択される、請求項1または2記載の方法。 温度応答性ポリマーが、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである、請求項3記載の方法。 架橋剤が、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリンジ(メタ)アクリレート、およびエトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。 【課題】本発明は、細胞培養基材の製造方法において、品質のばらつきと製造上の毒性の課題を解決し、かつ基材への温度応答性ポリマーの固定化を安定的に行う方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、温度応答性を有する細胞培養基材の製造方法であって、温度応答性ポリマーと放射線反応性官能基を2以上有する架橋剤とを基材に配置する工程、および基材に配置された温度応答性ポリマーと架橋剤に放射線を照射することにより温度応答性ポリマーを基材に固定化する工程を含む、前記方法に関する。【選択図】なし