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タイトル:公開特許公報(A)_セリアック病に関連する、CD300a遺伝子欠損マウスおよびCD300a発現細胞の活性調節剤の使用、ならびにCD300a発現細胞の活性調節剤を含有する医薬品
出願番号:2012245814
年次:2014
IPC分類:G01N 33/50,A61K 45/00,A61P 37/08,A61P 29/00,A61K 31/685,A61P 37/06,G01N 33/15,C07K 14/705


特許情報キャッシュ

渋谷 彰 小田 ちぐさ 鍋倉 宰 JP 2014095570 公開特許公報(A) 20140522 2012245814 20121107 セリアック病に関連する、CD300a遺伝子欠損マウスおよびCD300a発現細胞の活性調節剤の使用、ならびにCD300a発現細胞の活性調節剤を含有する医薬品 国立大学法人 筑波大学 504171134 特許業務法人SSINPAT 110001070 渋谷 彰 小田 ちぐさ 鍋倉 宰 G01N 33/50 20060101AFI20140425BHJP A61K 45/00 20060101ALI20140425BHJP A61P 37/08 20060101ALI20140425BHJP A61P 29/00 20060101ALI20140425BHJP A61K 31/685 20060101ALI20140425BHJP A61P 37/06 20060101ALI20140425BHJP G01N 33/15 20060101ALI20140425BHJP C07K 14/705 20060101ALN20140425BHJP JPG01N33/50 ZA61K45/00A61P37/08A61P29/00A61K31/685A61P37/06G01N33/15 ZC07K14/705 7 OL 79 (出願人による申告)平成22〜24年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 2G045 4C084 4C086 4H045 2G045AA29 2G045CB01 2G045CB17 2G045DA14 2G045DA20 2G045GA03 4C084AA17 4C084NA14 4C084ZB081 4C084ZB111 4C084ZB131 4C084ZC412 4C086AA01 4C086AA02 4C086DA41 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZB08 4C086ZB11 4C086ZB13 4C086ZC41 4H045BA09 4H045CA40 4H045DA50 4H045EA50 本発明は、セリアック病に関連する、CD300a遺伝子欠損マウスおよびCD300a発現細胞の活性調節剤の使用、ならびにCD300a発現細胞の活性調節剤を含有する医薬品に関する。 宿主(人体または動物体内)に病原体(細菌、ウイルス、寄生虫等)が侵入したり、内因性の起炎物質が発生したりすると、病原体の侵入部位または起炎物質の発生部位にて細動脈が一時的に収縮した後、拡張・充血に至って、病原体の侵入部位または起炎物質の発生部位の血流が局所的に緩慢になるといった炎症反応が発生する。 すると、白血球が血管壁に膠着し、さらに各種免疫系細胞から放出されるケミカルメディエーターの作用により、アメーバ様運動により血管壁を通過して遊走する。ケミカルメディエーターとしては、ヒスタミン、セロトニン、リンホカイン等が知られている。ヒスタミンやセロトニンを産生・放出するマスト細胞は、炎症反応において中心的な役割を果たしているリンパ球の一つである。また、マクロファージもマスト細胞と同様にTNF等のケミカルメディエーターを産生・放出する。 炎症反応によって、遊走させられた白血球が病原体等に誘引されると、病原体に抗原抗体反応を伴う体液性免疫や細胞障害性T細胞等が関与する細胞性免疫によって、病原体が体内から除去され(クリアランス)、感染拡大が防止される。このように、炎症反応およびそれに基づく免疫反応は、生体の恒常性を維持するためには極めて重要である。 一方で、炎症反応は、上述のような生体防御とともに、発赤、発熱、腫張、疼痛、機能障害といった不具合な徴候・症状を示してしまう。このような症状として、具体的には、アレルギー疾患、各種急性または慢性炎症が挙げられる。また、免疫学的寛容が適用されず、自己に対して免疫応等が生じてしまう自己免疫疾患が発生した場合も、炎症反応によって組織傷害が発生してしまう。 すなわち、炎症反応を伴う疾患を予防するには、炎症反応を惹起させる病原体を各種抗生物質(抗菌剤)によって死滅させることや、生体内の免疫機能を向上させる薬剤(免疫賦活剤)を投与して、炎症反応が過剰に亢進する前に、病原体を除去することが重要である。 一方、炎症反応を伴う疾患を改善・治療するには、たとえば、ケミカルメディエーターの放出を抑制するような、過剰に活性化した免疫機能を低下させる薬剤(抗炎症剤(免疫抑制剤))を投与して、炎症の鎮静化を図ることが知られている。 たとえば、特許文献1には、免疫活性剤として、抗原提示細胞として各種免疫系細胞の活性化を担う樹状細胞の機能賦活化剤が開示され、具体的には、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を有効成分とすることを特徴とするものである。 特許文献2には、抗炎症剤(免疫抑制剤)として、SPARC(Secreted prоtein which is acidic and rich in cystein)ペプチドおよび薬理学的担体を含む薬剤が開示されている。 ところで、自然免疫系を担当するミエロイド系(骨髄系)細胞の細胞膜上には、MAIR(Myeloid Associated Ig like Receptors)と称されるレセプター分子群が発現していることが知られている(非特許文献1)。このうち、CD300aとしても知られている(その他「LMIR1」、「CLM−8」と称されることもある)MAIR−Iは、マクロファージ、肥満細胞、顆粒球(好中球)、樹状細胞に発現しており、細胞内領域のITIM(Immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)配列を介して脱リン酸化酵素と会合し、抑制性シグナルを伝達する抑制性レセプターであることが知られている(非特許文献2)。しかしながら、当該受容体のリガンドは不明であり、いわゆるオーファンレセプターとなっていた。 セリアック病またはシリアック病(Coeliac disease、Celiac diseaseとも綴る)とは、小麦や大麦、ライ麦などに含まれるタンパク質の一種であるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる自己免疫疾患であり、進行性の腸炎である。この病気は、英国、ヨーロッパ、米国において300人に一人以上に罹患する。 2個のタンパク質、グリアジン及びグルテニンの混合物であるグルテンは、小麦、大麦、及びライ麦において見られる。グルテンは小腸と反応して、栄養及びビタミンを吸収するために必要である繊細な小腸上皮を攻撃する免疫システムを活性化することにより、損傷を引き起こす。 セリアック病の患者がグルテンを含有する食物などを摂取すると、ヒトの消化酵素では分解できない小麦に含まれる植物性タンパクのグルテンの一分画であるグリアジン由来ペプチドが、十二指腸粘膜下組織内でTG2により脱アミノ化され、抗原となり、自己抗体が産生されることが原因となっている。 セリアック病は、HLA−DQA1およびHLA−DQB1によりコードされるHLA−DQ2(個体の約90%を占める)、HLA−DQ2の変異体、またはHLA−DQ8のいずれかを保有する遺伝的に感受性な個体において発症する。 かかる個体は、小麦粉の非水溶性タンパク質、グルテン、ならびにライムギおよびオオムギ中の関連タンパク質から誘導されるペプチドに対して、不適切なHLA−DQ2および/またはDQ8に限定されたCD4+T細胞に媒介される免疫応答を惹起する。 この際の免疫反応がきっかけとなり、自己の免疫系が小腸の上皮組織を攻撃して炎症を起こすことで絨毛などを損傷し、また上皮細胞そのものの破壊にまで至る。この結果、小腸から栄養を吸収出来なくなり、食事の量などに関らず栄養失調の状態に陥る。 特許文献3の発明では、上記免疫応答を調節することが可能な、ペプチドに基づく免疫治療における使用のための最小混合物に関する発明が記載されている。 しかしながら、現状、病因の根底にある自然免疫応答は完全には解明されておらず、セリアック病の病態解明に有用なツールや、セリアック病を治療等するための医薬品が望まれていた。特開2007−297379号公報特開2011−516609号公報特表2012−510431号公報Yotsumoto et al.. J Exp Med 198 (2), 223-233, 2003Okoshi Y et al, Int Immunol., 17, 65-72, 2005. 本発明は、セリアック病の病態解明に有用なツールや、セリアック病に対する医薬品を提供することを目的とする。 本発明者は、CD300aのリガンドおよびCD300aの機能を解明すべく鋭意研究を重ねた結果、以下に示されるような知見を得た。 (i)CD300aのリガンドは、ホスファチジルセリン(フォスファチジルセリン、ホスホファチジルセリン)(PS)である。 (ii)PSがマスト細胞等のCD300aへ結合すると、CD300aの抑制性シグナル伝達が亢進し、マスト細胞等の活性化も抑制される。 (iii)ホスファチジルセリン結合性物質またはCD300a結合性物質が共存することにより、マスト細胞等のCD300aとPSとの結合が阻害されると、CD300aの抑制性シグナル伝達が抑制され、マスト細胞等の活性化も維持される。 (iv)グリアジンで誘導したCD300a遺伝子欠損マウスにおけるセリアック症状が野生型のマウスよりも増悪していた。 (v)上記の活性化の抑制または維持を通じて、セリアック病の病態解明や治療に資することができる。 (vi)CD300a遺伝子欠損マウスは、セリアック病の病態解析や医薬品の有効成分のスクリーニングなどを行うためのツールとなり得る。 これらの知見に基づいてなされた本発明により、たとえば、下記[1]〜[7]に示される活性調節剤、医薬品、CD300a遺伝子欠損マウスの使用、抗CD300a抗体などが提供される。 [1] セリアック病について、病態解析を行うための、またはその治療薬もしくは予防薬の有効成分となりうる候補物質をスクリーニングするための、CD300a遺伝子欠損マウスの使用。 [2] 前記CD300a遺伝子欠損マウスを、セリアック病を誘導する物質を投与したときにセリアック病を発症するモデルマウスとして使用する、[1]に記載の使用。 [3] セリアック病を発症した前記CD300a遺伝子欠損マウスに、セリアック病の治療薬の候補物質を投与して治療効果の有無を確認する工程、またはセリアック病を発症する前の前記CD300a遺伝子欠損マウスに、前記セリアック病を誘導する物質と共にセリアック病の予防薬の候補物質を投与して予防効果の有無を確認する工程を含む、[2]に記載の使用。 [4] CD300aとホスファチジルセリンの結合を亢進する物質を含有する、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を亢進するための活性調節剤を有効成分として含有することを特徴とする、セリアック病を治療または予防するための医薬品。 [5] 前記CD300aとホスファチジルセリンの結合を亢進する物質がホスファチジルセリンである、[4]に記載の医薬品。 [6] 前記ミエロイド系細胞が大腸粘膜固有層中のマクロファージである、[4]または[5]に記載の医薬品。 [7] セリアック病について、病態解析を行う際、またはその治療薬もしくは予防薬の有効成分となりうる候補物質をスクリーニングする際の、比較解析用のツールとしての、 CD300aとホスファチジルセリンの結合を阻害する物質を含有する、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を抑制するための活性調節剤の使用。 また、上記発明の別の側面として、次の発明が提供される。 上記[4]に係る発明の別の側面として、CD300aとホスファチジルセリンの結合を亢進し、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を亢進することを特徴とする、セリアック病を治療または予防する方法が提供される。当該方法は、生体内(in vivo)、生体外(ex vivo, in vitro)を問わずに適用可能であり、また生体内で適用される場合、その生物種は、ヒトであるか、ヒト以外であるか(たとえばマウス等の哺乳類)であるかを問わない。 上記[1]に係る発明のさらなる側面として、セリアック病を治療または予防するための医薬品の製造における、CD300aとホスファチジルセリンの結合を亢進し、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を亢進する活性調節剤の使用が提供される。 本発明により、CD300a遺伝子欠損マウスを、セリアック病の病態解明や治療等に有用なモデルマウス等として使用することができるようになる。また、本発明により、CD300a発現細胞の抑制性シグナル伝達を亢進する活性調節剤を有効成分として含有する、セリアック病を治療または予防するための医薬品の製造も可能となる。図1は、参考例1Aで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図2Aは、参考例1Bで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図2Bは、参考例1Bで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図2Cは、参考例1Cで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図2Dは、参考例1Dで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図2Eは、参考例1Dで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図2Fは、参考例1Eで得られたイムノブロット分析の結果を示す。図3Aは、野生型アレル中のCD300a遺伝子の構造、CD300a欠損マウスを作成するために使用したターゲティングベクター、および標的化アレルを示すための模式図である。図3Bは、野生型アレルおよび変異型アレルのPCR産物を示す電気泳動写真である。図3Cは、野生型マウスおよびCD300a欠損マウスを用いたウェスタンブロット分析の結果を示す。図3Dは、WTマウスとCD300a遺伝子欠損マウスのフローサイトメトリ−分析結果を示す。図4Aは、参考例2Aで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図4Bは、参考例2Cで得られた光学顕微鏡の分析結果を示す。図4Cは、参考例2Cで得られたレーザー走査型共焦点顕微鏡の分析結果を示す。図4Dは、参考例2Cで得られた、胸腺細胞を細胞質内に取り込んだNIH3T3または各形質転換体における細胞数の比率を示す結果を示す。図5Aは、参考例2Bで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図5Bは、参考例2Bで得られたRT−PCRの分析の結果を示す。図6Aは、参考例3Aで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図6Bは、参考例2Aで得られたβ―ヘキサミニダーゼアッセイの分析結果を示す。図7Aは、参考例3Bで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図7Bは、参考例3Cで得られた、各種サイトカインおよびケモカインの放出量の増加率の結果を示す。図7Cは、参考例3Eで得られた、各種サイトカインおよびケモカインの放出量の増加率の結果を示す図である。図7Dは、参考例3Fで得られた、イムノブロッティング分析の結果を示す。図7Eは、参考例3Gで得られた、イムノブロッティング分析の結果を示す図である。図7Fは、参考例3Gで得られた、TNF−αの増加率を示す図である。図8は、参考例3Dで得られたフローサイトメトリー分析の結果を示す。図9Aは、参考例4Bで得られたデンシトメトリー分析の結果を示す。図9Bは、参考例4Bで得られたデンシトメトリー分析の結果を示す。図10Aは、参考例4Cで得られた抗気性細菌のCFUの算出結果を示す図である。図10Bは、CD300a好中球の誘導後、参考例4Cで得られた好中球およびマクロファージの細胞数を示す図である。図11は、参考例4Cで得られた、大腸菌を貪食した各マクロファージの細胞数の比率を示す図である。図12Aは、参考例4Dで得られたフローサイトメトリー分析を示す図である。図12Bは、参考例4Dで得られた各マウスの生存率を示す図である。図12Cは、参考例4Dで各マウスの腸内の細菌クリアランスを細菌のCFUで示した図である。図12Dは、参考例4Eで得られたフローサイトメトリー分析の結果等を示す図である。図12Eは、参考例4FでTX41を投与した後の各マウスの生存率を示す図である。図12Fは、参考例4Gで、TX41を投与した後の腸内のクリアランスを示す図である。図12Gは、参考例4Gで、TX41を投与した後の好中球の細胞数の変化を分析した結果を示す図である。図13は、正常食または高グルテン食の給餌開始からモニターした体重(BW)の経時変化を示す図である。図14は、正常食または高グルテン食を摂食開始後、20週目の各マウスの腸の病理組織学的解析の結果を示す写真である。図15は、正常食または高グルテン食を摂食開始後、20週の各マウスについての臨床スコアを示す図である。図16は、正常食または高グルテン食を摂食開始後、20週の各マウスについて、腸上皮細胞100個あたりの上皮内リンパ球数を示す図である。図17は、正常食または高グルテン食を摂食開始後、20週間の各マウスの空腸の懸濁液中のトランスグルタミナーゼ2の量(TG2)を示す図である。図18は、CD45+PI−細胞集団でゲートされた粘膜固有層の細胞のCD11bおよびCD11cの発現をフローサイトメトリー分析の結果を示す図である。図19は、正常食と高グルテン食で飼育したWTマウスとCD300a遺伝子欠損マウスの空腸の粘膜固有層における各免疫細胞の頻度を示す図である。図20は、各マウスの粘膜固有層(LP)マクロファージにおける各種サイトカインやケモカインの遺伝子発現量を示す図である。図21は、各免疫細胞におけるCD300a(MAIR−I)の発現について、フローサイトメトリーで解析した結果を示す図である。図22は、各マウスの粘膜固有層(LP)のCD11b+樹状細胞におけるサイトカインやケモカインの相対的な遺伝子発現量を示す図である。図23は、組換えマウスMFG−E8タンパク質の添加によるグリアジン誘発性のサイトカイン発現量の変化を示す図である。図24は、正常食または高グルテン食を与えているBalb/cのWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスにおける大腸の病理組織学的解析の結果を示す図である。図25は、Balb/cのWTまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来の血清について、抗グリアジンIgGおよびIgA抗体力価を示す図である。図26は、無グルテン食を与えられたWTマウスおよびCD300a遺伝子欠損マウスにおける体重変化率の経時変化(週別)を示す図である。図27は、WTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)における通常の状態でのCD11b+樹状細胞およびマクロファージのサイトカイン発現量を示す図である。図28は、グリアジンペプチドP31−43で刺激した後のチオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞のマクロファージにおけるサイトカイン発現量を示す図である。図29は、粘膜固有層のCD11b+樹状細胞におけるIL−6, IL−15, TNF−α,IFN−β,MCP1および MCP5の遺伝子発現量を示す図である。図30は、グリアジン刺激後のB6のWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)マクロファージにおけるIL−6,TNF−αおよびIFN−βの発現量を示す図である。図31は、微生物叢を枯渇させたWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来の粘膜固有層(LP)マクロファージ(グリアジンで刺激したもの)におけるサイトカインやケモカイン発現を示す図である。図32は、単離された粘膜固有層(LP)マクロファージのホスファチジルセリン発現細胞の頻度を示す図である。図33は、WTマウスとCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)マクロファージにおけるαvとβ3の各インテグリンサブユニットとの遺伝子発現量を示す図である。図34は、ホスファチジルセリン受容体(TIM−1、TIM−4、Stabiln−2、SR−PSOX、BAI1とMer)の遺伝子発現量を示す図である。図35は、TX41とTX49のH鎖とL鎖とをそれぞれ相同性解析を行った結果である。 本発明に係る活性調節剤、これを含有する医薬品、CD300a遺伝子欠損マウスの使用、抗CD300a抗体について、以下詳細に説明する。免疫機構およびCD300a等に関する従来の知見や公知の試験方法に言及する際に用いる文献を、実施例の末尾に列挙した。 [活性調節剤] 本発明における活性調節剤は、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を、抑制するためのものと、亢進するためのものを包含する。 ここで、「CD300aを発現するミエロイド系細胞」には、マスト細胞(肥満細胞)、マクロファージ、好中球、樹状細胞などが含まれる。CD300aは、ヒト、マウス、その他の哺乳類に発現しているものを総称しており、生物種は特に限定されるものではない。 また、「抑制性シグナル伝達」とは、抑制性レセプターであるCD300aが、細胞内領域のITIM(Immunoreceptor tyrosine−based inhibitory motif)配列を介して脱リン酸化酵素と会合することにより生じるシグナル伝達である。 以下の説明において、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を亢進するための活性調節剤は、結果的に免疫機能を抑制する作用を有する場合があるので、本発明において「免疫抑制剤」と称することがある(たとえば、セリアック病に対する医薬品の有効成分として用いる場合)。 <第1の活性調節剤> 本発明における第1の活性調節剤は、CD300aを介した抑制性シグナル伝達を抑制する作用を有する成分を含有する。本発明ではそのような成分として、ホスファチジルセリンとCD300aとの結合を阻害する物質、すなわちホスファチジルセリン結合性物質およびCD300a結合性物質を用いることができる。第1の活性調節剤は、これらの何れか一方を含んでいてもよいし、これら両方を含んでいてもよい。 本発明では、第1の活性調節剤を、セリアック病について、病態解析を行う際、またはその治療薬もしくは予防薬の有効成分となりうる候補物質をスクリーニングする際の、比較解析用のツールとして使用することができる。 (ホスファチジルセリン結合性物質) 第1の活性調節剤の一つであるホスファチジルセリン結合性物質は、CD300aのリガンドであるホスファチジルセリン(PS)に結合して、ホスファチジルセリンとミエロイド系細胞に発現したCD300aとの相互作用(結合)を阻害するものである限り特に限定されない。 ホスファチジルセリン結合性物質の具体例としては、MFG−E8(Milk Fat Globular Protein EGF−8)、T細胞免疫グロブリンや、可溶型TIM−1、可溶型TIM−4、可溶型スタビリンおよび可溶型インテグリンαvβ3などの可溶型蛋白質が挙げられ、中でもMFG−E8が好ましい。 また、ホスファチジルセリン結合性蛋白質としては、MFG−E8などのようなネイティブの蛋白質に限定されず、ホスファチジルセリンへの結合性を喪失しない限り、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するもの(変異体)であってもよい(たとえば、実施例における「D89E MFG−E8」等)。 これらの変異体は、部位特異的突然変異誘発(site−directed mutagenesis)やランダム突然変異法などの公知の方法によって作製される。 また、上記「可溶型蛋白質」とは、膜蛋白質など、後述するような希釈剤や体液に対して不溶性である、ネイティブの蛋白質において、公知の遺伝子組み換えの技術によって、疎水性ドメインを削除したり、親水性のペプチドを付加したりして、希釈剤や体液に対して可溶性になるように改変した蛋白質を指す。 (CD300a結合性物質) 第1の活性調節剤の一つであるCD300a結合性物質は、CD300aに結合して、ミエロイド系細胞に発現したCD300aとホスファチジルセリンとの相互作用(結合)を阻害するものである限り特に限定されない。 CD300a結合性物質の具体例としては、CD300aに対する中和抗体が挙げられる。中和抗体は、特定の一種類のモノクローナル抗体であってもよいし、二種類以上のモノクローナル抗体の組み合わせ(ないしポリクローナル抗体)であってもよい。また、中和抗体は、完全長の抗体であってもよいし、断片化された抗体(Fab断片もしくはF(ab')2等)であってもよい。 中和抗体は、公知の手法によって作製することができる。モノクローナル抗体であれば、一般的には、CD300aを用いた免疫、ハイブリドーマの作製、スクリーニング、培養、回収といった手順で、抗CD300aモノクローナル抗体を作製することができる。それらの中から、好ましいCD300aとホスファチジルセリンとの結合阻害能(中和作用)を有し、本発明の作用効果を奏する適切なモノクローナル抗体を選択すればよい。 (TX41、TX49およびこれらに類する抗体) TX41は抗マウスCD300aモノクローナル抗体(ラットIgG2a)であり、TX49は抗ヒトCD300aモノクローナル抗体(マウスIgG1)である。どちらも後記実施例において作成、使用されたモノクローナル抗体であり、CD300aとホスファチジルセリンとの結合を阻害してシグナル伝達を抑制する機能に優れているため、本発明におけるCD300a結合性物質として好ましい。ただし、本発明に用いることのできる抗CD300a抗体は、TX41、TX49およびこれらに類する(同等のアミノ酸配列からなる可変領域を有する)抗体に限定されるものではない。 TX41のH鎖の可変領域は配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、TX41のL鎖の可変領域は配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、TX49のH鎖の可変領域は配列番号3で示されるアミノ酸配列を有し、TX49のL鎖の可変領域は配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する。なお、これらの可変領域には、3つの相補性決定領域(CDR)および4つのフレームワーク領域が含まれる。TX41およびTX49の可変領域(H鎖およびL鎖それぞれ)のアミノ酸配列同士の相同性を解析した結果を図35に示す。 マウスのCD300aに対する結合性物質としては、TX41に基づいて、H鎖の可変領域が配列番号1で表されるアミノ酸配列からなり、L鎖の可変領域が配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる抗体を用いることが好ましい。 ヒトのCD300aに対する結合性物質としては、TX49に基づいて、H鎖の可変領域が配列番号3で表されるアミノ酸配列からなり、L鎖の可変領域として配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる抗体を用いることが好ましい。 また、マウスのCD300aに対する結合性物質としては、H鎖の可変領域が配列番号1で表されるアミノ酸配列に対し1,2,3,4または5個のアミノ酸の置換、付加、挿入または欠失を有するアミノ酸配列からなる抗体、またはL鎖の可変領域が配列番号2で表されるアミノ酸配列に対し1,2,3,4または5個のアミノ酸の置換、付加、挿入または欠失を含むアミノ酸配列からなる抗体を用いることもできる(H鎖およびL鎖の一方が上記の変異を有するものであってもよいし、それらの両方が上記の変異を有するものであってもよい)。 ヒトのCD300aに対する結合性物質としては、H鎖の可変領域が配列番号3で表されるアミノ酸配列に対し1,2,3,4または5個のアミノ酸の置換、付加、挿入または欠失を含むアミノ酸配列からなる抗体、またはL鎖の可変領域が配列番号4で表されるアミノ酸配列に対し1,2,3,4または5個のアミノ酸の置換、付加、挿入または欠失を有するアミノ酸配列からなる抗体を用いることもできる(H鎖およびL鎖の一方が上記の変異を有するものであってもよいし、それらの両方が上記の変異を有するものであってもよい)。 このような変異を生じさせる部位は、可変領域のうちCDRまたはその近傍の部位を避けることが好ましい。また、アミノ酸を置換する場合は、側鎖の構造および/または化学的な性質が類似するアミノ酸同士の間で行われる、保存的アミノ酸置換が好ましい。 抗CD300a抗体の定常領域、すなわちFab領域のうちの上記のような可変領域以外の領域およびFc領域の形態(アミノ酸配列、アミノ酸長)は、CD300aへの結合性、すなわち中和作用にほとんど影響しないため、本発明の作用効果を阻害しない範囲で適宜設計することができる。 すなわち、上記所定の可変領域のアミノ酸配列と、公知の各種の定常領域のアミノ酸配列からなる融合タンパク質として抗CD300a抗体を作製することができる。 たとえば、ヒトの定常領域を利用することにより、ヒトキメラ抗体として抗ヒトCD300a抗体を作製することは、好ましい実施形態の一つである。このような抗CD300a抗体は、公知の手法により作製することが可能である。 たとえば、上記所定の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAを合成し、定常領域のアミノ酸配列をコードするDNAおよびその他の必要なDNA(転写因子等)と連結することにより、抗CD300a抗体遺伝子の発現ベクターを構築することができる。このベクターを宿主細胞に導入して発現させるようにすれば、目的とする抗CD300a抗体を産生することができる。 なお、上述したようなTX41、TX49およびこれらに類する抗体は、本発明の作用効果に係る、ホスファチジルセリンとCD300aとの結合により生じる抑制性シグナル伝達を阻害する目的以外にも使用できる可能性がある。(CD300a siRNA) また、CD300aの遺伝子配列(DDBJ/EMBL/GenBank=INSD等のDNAデータベースから入手可能)を元に設計されたsiRNAにより、罹患部位におけるミエロイド系細胞におけるCD300aの発現を抑制し、CD300a遺伝子を欠損させた状態またはCD300aとホスファチジルセリンの結合を阻害した状態と同様に、上記の各種疾患に対する治療効果を得ることができる。換言すれば、CD300a遺伝子に対するsiRNAも、本発明におけるCD300aとホスファチジルセリンの結合を阻害する物質の一種といえる。 (第1の活性調節剤の用途) 本発明に係る第1の活性調節剤は、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を抑制するために使用することができる。この際、ミエロイド系細胞は、生体内にあるものであっても、生体外に分離されたものまたは生体外で培養されたものであってもよい。 上記の作用により、ミエロイド系細胞のCD300aの活性シグナリングを維持または向上させることで、当該ミエロイド系細胞から放出されるケミカルメディエーターを介する細胞間の情報伝達も維持または向上され、それに連なるさらなる細胞間の情報伝達によって引き起こされるセリアック病の免疫応答等に影響を及ぼすことができる。 したがって、CD300a結合性物質(TX41、TX49等の中和抗体)や、ホスファチジルセリン結合性物質(MFG−E8等)がセリアック病を解明するためのツールとなりうることは、当業者にとって十分に推認可能である。 実施例に示したセリアック病のように、CD300a遺伝子を欠損させる(すなわちCD300aとホスファチジルセリンとの結合を完全に生じさせない)ことで発症ないし症状が悪化することが確認された疾患に対しては、ホスファチジルセリンが治療薬となりうることも、当業者にとって十分に推認可能である。また、例えば、実験動物のセリアック病の病態を増悪させて比較解析するための比較解析ツールとしての薬剤の有効成分としても使用することができる。 <第2の活性調節剤> 第2の活性調節剤は、CD300aを介した抑制性シグナル伝達を亢進する(つまり、CD300aの活性シグナリングを抑制する)作用を有する成分を含有する。本発明ではそのような成分として、ホスファチジルセリンとCD300aとの結合を亢進する物質、特にCD300aのリガンドであるホスファチジルセリンを用いることができる。 また、本発明の別の側面により提供されるCD300a遺伝子欠損マウスを用いたスクリーニングにより、ホスファチジルセリンと同様の作用を有する、CD300aに対するアゴニスト(低分子化合物、抗体等)を発見できる可能性があり、それらもホスファチジルセリンとCD300aとの結合を亢進する物質として用いることができる。 (ホスファチジルセリン) ホスファチジルセリン(PS)は、ミエロイド系細胞に発現しているCD300aのリガンドであり、PSとCD300aとの相互作用(結合)によって、CD300a発現細胞の抑制性シグナリングが亢進する。たとえば、マスト細胞においては、この抑制性シグナリングを介して、ヒスタミンや、サイトカイン、ケモカインなどのケミカルメディエーターを放出するという、炎症反応に関連するマスト細胞の活性が抑制される。PSは工業的に生産されており、容易に入手することができる。 なお、生体外にある(試験的な環境における)CD300a発現細胞に対しては、PSを提示した状態にあるアポトーシス細胞(PSは、通常の細胞においては細胞の内側(脂質二重層のうち細胞質側の層)に存在するが、アポトーシスが起こると細胞の外側に提示されることが知られている)も第2の活性調節剤となり得る。また、外側にPSを含む脂質膜が形成されているリポソーム等も、第2の活性調節剤として用いることができる可能性がある。 (カルシウム塩) PSとマスト細胞におけるCD300aとの相互作用は、カルシウムイオンを必要とすることから、本発明に係る第2の活性調節剤は、電離によってカルシウムイオンを発生するカルシウム塩(たとえば、塩化カルシウム等)を含有することが好ましい。 第2の活性調節剤中のカルシウム塩の含有量は、投与部位におけるカルシウムイオンの濃度や本発明に係る第2の活性調節剤に含まれるPSの量等を考慮して、適宜決定することができる。 (第2の活性調節剤の用途) 本発明に係る第2の活性調節剤は、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達を亢進するために使用することができる。この際、ミエロイド系細胞は、生体内にあるものであっても、生体外に分離されたものまたは生体外で培養により生産したものであってもよい。 上記の作用により、ミエロイド系細胞のCD300aの活性シグナリングを抑制することで、当該ミエロイド系細胞から放出されるケミカルメディエーターを介する細胞間の情報伝達も抑制され、それに連なるさらなる細胞間の情報伝達によって引き起こされるCD4+T細胞の免疫応答等に影響を及ぼすことができる。したがって、本発明の第2の活性調節剤は、後述する所定の医薬品の有効成分(たとえば免疫抑制剤)として使用することができる。また、例えば、実験動物のセリアック病の病態を改善させて比較解析するための比較解析ツールとしての薬剤の有効成分としても使用することができる。 [医薬品] 本発明に係る医薬品(医薬組成物)は、上述したような活性調節剤を有効成分(免疫抑制剤など)として含有し、必要に応じて薬学的に許容される各種の添加剤(たとえば担体)をさらに含有していてもよい。 このような医薬品は、CD300aを発現するミエロイド系細胞の抑制性シグナル伝達が関与する疾病または症状を、治療(緩和も含む)または予防するためのものとして製剤化することができる。 より具体的には、前記第2の活性調節剤を有効成分(免疫抑制剤)として配合することにより、セリアック病を治療または予防するための医薬品などを調製することができる。 医薬品の投与部位は、適用対象とする疾病または病状に応じて、過剰な免疫機能(炎症反応)が生じている部位とすることができ、特に限定されるものではない。たとえば、腹腔内、気管内、皮下、皮内、泌尿生殖器内などの部位が挙げられる。 CD300aを発現するミエロイド系細胞は、通常、哺乳類の粘膜下組織や結合組織に存在するため、医薬品は、上記の部位の粘膜下組織や結合組織またはその付近に直接的に投与されることが好ましい。そのような投与は、静脈内注射、動脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射等の注射投与によって行うことができる。たとえば、炎症性感染症(細菌性腹膜炎など)を治療または予防する場合は、腹腔内注射が好ましい。 医薬品(ないしそこに含まれる有効成分)の1回あたりの投与量および投与回数は、患者の年齢、性別、体重及び症状、必要とされる治療効果の程度、投与方法、処理時間、有効成分の種類などにより異なり、適宜調整されてもよい。投与回数は、たとえば、1日あたり1回〜数回である。 医薬品が第2の活性調節剤を有効成分(免疫抑制剤)として含有する場合、免疫抑制効果を一層向上させるという観点から、当該医薬品は、投与されるヒトまたは動物1kgあたり、ホスファチジルセリンの1回あたりの投与量が通常3〜150mg、好ましくは5〜100mgになるように製剤化してもよい。 (薬学的に許容され得る担体) 本発明に係る医薬品は、必要に応じて、薬学的に許容され得る担体を含んでいてもよい。 薬学的に許容され得る担体とは、医薬品の目的に反しないものである限り特に限定されず、たとえば、水性希釈剤や非水性希釈剤等の希釈剤、抗酸化剤(亜硫酸塩など)等の安定剤・保存剤、リン酸塩類等の緩衝剤、界面活性剤等の乳化剤、着色剤、粘稠剤、リドカインなどの局所麻酔剤、グリコール類などの溶解補助剤、塩化ナトリウムやグリセリン等の等張化剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。 たとえば、本発明に係る医薬品の剤形が注射剤である場合、所望の粘度や含有成分の濃度になるように希釈剤を配合することにより、有効成分を希釈剤に溶解または分散させることが好ましい。 このような希釈剤としては、生理食塩水または市販の注射用蒸留水等の水性希釈剤、ポリエチレングリコール、エタノール等のアルコール類等の非水性希釈剤が挙げられる。 剤形が注射剤である医薬品は、常法に従って、フィルターによる濾過滅菌されてもよいし、殺菌剤の配合等により無菌化されてもよい。 また、本発明に係る医薬品を注射剤として投与する場合、用時調製の形態としてもよい。たとえば、凍結乾燥法などによって第2の活性調節剤を含む固体剤を調製し、使用前に希釈剤に溶解または分散させて注射剤を調製してから投与することができる。 CD300a発現細胞(大腸粘膜固有層中のマクロファージ)に対するホスファチジルセリンの結合が維持されると、MyD88およびTRIFを介した抑制性のグリアジンシグナル伝達経路によって、セリアック病の進行に保護的な役割が果たされる。したがって、第2の活性調節剤を有効成分として使用することにより、セリアック病に対する医薬品が得られる。 [CD300a遺伝子欠損マウスのセリアック病に関する使用] 本発明で得られた知見により、CD300a遺伝子欠損マウスに対して、セリアック病を誘導する物質として知られているグルテン由来のグリアジンペプチドを投与することでセリアック病を誘導した場合、セリアック病の病徴が野生マウスよりも悪化する。 すなわち、CD300a遺伝子欠損マウスは、セリアック病を誘導する物質を投与したときにセリアック病を発症するモデルマウスとして使用することができる。 本発明に係るセリアック病のモデルマウスはCD300a遺伝子が不活化し且つ、マスト細胞やマクロファージから抗炎性サイトカインの放出が抑制解除されたマウスである。 当該マウスは、早期に(壮年期から)セリアック病を誘導する物質を与えると、セリアック病の症状(小腸の炎症)を示す。そのため、このマウスはセリアック病の原因解明に役立つとともに、セリアック病治療薬の開発に貴重な役割を果たす。 セリアック病の症状は、炎症誘導物質投与した後に、マウスの小腸上皮の切片を顕微鏡下で観察する公知の方法等により確認することができる。 また、本発明に係るセリアック病モデルマウスは、セリアック病治療薬をスクリーニングする際にも用いることができる。特に、確実にセリアック病の症状を示すため、セリアック病の症状発症後の治療薬だけではなく、セリアック病の予防薬の開発にも有用である。 さらに、既に治療効果が実証されているセリアック病の治療薬の評価にも有用である。 例えば、一定の範囲の濃度では治療効果を有するが、当該範囲の濃度以下では効果を有さず、当該範囲の濃度以上では毒性を示す様な治療薬の最適な濃度の検討にも有用である。 具体的には、セリアック病モデルマウスを被験マウス群及び対照マウス群に分け、被験マウス群にのみ試験する治療薬を投与し、小腸上皮の切片により各群を比較し、治療薬の効果を評価することができる。 さらに、被検マウス群に濃度の異なる治療薬を与えることにより、治療効果のある最適な治療薬の濃度の検討を行うこともできる。 すなわち、CD300a遺伝子欠損マウスは、セリアック病を発症した前記CD300a遺伝子欠損マウスに、セリアック病の治療薬の候補物質を投与して治療効果の有無を確認する用途、または、セリアック病を発症する前の前記CD300a遺伝子欠損マウスに、前記セリアック病を誘導する物質と共にセリアック病の予防薬の候補物質を投与して予防効果の有無を確認する用途、さらにはセリアック病の病態解析用途に用いることができる。 また、CD300a(MAIR−I)受容体は、抗炎症性サイトカインの産生を抑制するシグナル伝達の上流を担っている。よって、抗炎症性サイトカインの産生を抑制するシグナルの伝達を維持または促進させるCD300a(MAIR−I)の作動薬(アゴニスト)やシグナル伝達物質を投与することで、セリアック病の症状は改善することが期待される。 このことから、CD300a遺伝子欠損マウスは、作動薬(アゴニスト)の探索、MAIR−I受容体より下流のシグナル伝達を相補するようなシグナル伝達物質やこれを誘導する物質の探索、さらには当該シグナル伝達物質等の産生に関与する遺伝子の探索の用のスクリーニングにも好適に用いることができる。 このスクリーニングは、CD300a遺伝子欠損マウスとWTマウス間で、DNAマイクロアレイ解析や2次元蛋白質電気泳動等による差分解析により行うことができる。 (CD300a遺伝子欠損マウスの作製方法) 本発明のCD300a遺伝子欠損マウスは、染色体上のCD300a遺伝子が不活性型CD300a遺伝子に置換されたことにより、CD300aタンパク質の機能が欠損したマウスである。 「不活性型CD300a遺伝子」とは、CD300a遺伝子の一部の欠損、CD300a遺伝子のコード領域への他の塩基配列の挿入、CD300a遺伝子内の点突然変異、CD300a遺伝子の発現調節領域内の変異などにより、正常なCD300aタンパク質を発現できない遺伝子をいう。欠損型CD300a遺伝子としては、たとえば、CD300a遺伝子に含まれるエクソン1〜6の少なくとも一つが欠損した遺伝子などが挙げられるが、これには限定されない。 「CD300aタンパク質の機能が欠損した」とは、本発明が関与する抑制性シグナル伝達に係るCD300aタンパク質の機能の少なくとも一部が失われたことをいい(たとえば、ヘテロノックアウトマウスのように片方のアレルのみ不活性型に置換されて、CD300aタンパク質の機能が一部失われたような場合が含まれる。)、好ましくは当該機能が完全に失われたことを意味する。 遺伝子カセットを用いてCD300a遺伝子欠損マウスを得るための一般的な方法は次の通りである。ただし、本発明のCD300a遺伝子欠損マウスはこの方法により得られるものに限定されない。 野生型アレル中のCd300a遺伝子のエクソンを抗生物質耐性遺伝子(マーカー遺伝子)カセットで置き換えた標的化アレル(変異型アレル)を有するターゲティングベクターを調製する。常法に従い、当該ターゲティングベクターとES細胞を用いてキメラマウスを得る。当該キメラマウスと野生型マウスとを交配させて、子マウス(ヘテロ接合体(+/−))を得、さらに子マウス同士を交配させて、孫マウスを得る。 孫マウスからゲノムDNAを抽出し、該ゲノムDNAをPCR法によって、ゲノムDNA中の野生型アレルおよび変異型アレルの存在の有無を確認し、変異型アレルのみを有する孫マウス(ホモ接合体(−/−))を得る。さらにCD300aが発現していないことを確認するために、当該マウス由来の細胞を抗CD300a抗体を用いたウエスタンブロット分析で確認し、CD300a遺伝子欠損マウスとする。 以下、実施例に則して、本発明をより具体的に説明するが、下記の実施例は、本発明を限定するものではない。 1.調製例 (1)CD300a−Fc融合タンパク質、MFG−E8およびD89E MFG−E8の調製 (1−1) ヒトIgGのFc部位を有するCD300aの融合タンパク質(CD300a−Fc)を、下記文献25に記載されているように、マウスまたはヒトCD300aの細胞外ドメイン全体をコードする遺伝子のcDNAとヒトIgG1Fcをコードする遺伝子のcDNAとを含むキメラcDNAから調製した。なお、上記融合タンパク質において、CD300aの細胞外ドメインが、マウス由来のものおよびヒト由来のものを、それぞれ「マウスCD300a−Fc」および「ヒトCD300a−Fc」と称する。 (1−2) MFG−E8は、Masato Tanaka氏(RCAI、日本国横浜市)から提供されたものである。 (1−3) D89E MFG−E8は、下記文献4に記載されているように、MFG−E8のRGDモチーフに部位特異的突然変異を導入して得られたMFG−E8の変異体である。 得られたD89E MFG−E8は、N末端から89番目のアミノ酸がアスパラギン酸からグルタミン酸に置換されている。また、MFG−E8(ネイティブ)は、フォスファチジルセリン(PS)とαvβ3インテグリンとの両方に結合して、アポトーシス細胞とαvβ3インテグリンを発現する貪食細胞とを架橋する(下記文献4)のに対して、D89E MFG−E8は、フォスファチジルセリン(PS)に結合するものの、αvβ3インテグリンに結合しない。 (2)マウスおよび盲腸結紮穿刺(CLP) 本参考例および実施例で使用されたノックアウトマウスは、以下のように作製あるいは提供されたものである。 (i)CD300a遺伝子欠損(Cd300a-/-)マウス 野生型アレル中のCd300a遺伝子のエクソン1〜6を、細菌人工染色体(BAC)システムを用いて、ネオマイシン耐性遺伝子カセット(PGK−GB2−neo)で置き換え、標的化アレル(変異型アレル)を調製した(図3A)。次いで、常法に従い、キメラマウスを得、さらに該キメラマウスと野生型マウスとを交配させて、子マウス(ヘテロ接合体(+/−))を得、さらに子マウス同士を交配させて、孫マウスを得た。 孫マウスの中から、CD300a欠損(Cd300a-/-)マウスを選別するために、各孫マウスの尾部からゲノムDNAを抽出し、該ゲノムDNAをPCR法によって、ゲノムDNA中の、WTアレルおよび変異型アレルの存在の有無を確認した。 なお、図3Bに示されるように、WTアレルを示すPCR産物、変異型アレルを示すPCR産物は、それぞれ、約540bp、約700bpのバンドとして検出される。 さらにCD300a遺伝子欠損マウスに、CD300aが発現していないことを確認するために、CD300a遺伝子欠損マウス由来の細胞を抗CD300a抗体を用いたウエスタンブロット分析に供した。図3Cに示されるように、野生型マウスでは、約50kDaにCD300aに由来するバンドが示される一方で、CD300a遺伝子欠損マウスでは、このバンドは検出されなかった。 (ii)C57BL/6J−kitW-sh/W-shマウス C57BL/6J−kitW-sh/W-shマウス(以下、「kitW-sh/W-shマウス」または「マスト細胞欠損マウス」)は、理研バイオリソースセンター(日本国つくば市)から提供されたものである。なお、該マウスは、マスト細胞を欠損したマウスであること(下記文献21)および、アポトーシス性のDNA断片化を経ずに、貪食細胞によってDNAが取り込まれた後に、貪食細胞内でDNAの分解が生じることが知られている(下記文献12)。 (iii)CAD欠損マウス CAD(カスパーゼ活性型DNA分解酵素(Caspase−activated DNase))欠損マウスは、下記文献12に記載されたものである。 (v)マクロファージおよび好中球のin vivo除去 下記文献30の記載に基づき、クロドン酸リポソームおよびコントロール用PBSリポソーム(Encapsula NanoSciences)を調製した。次いで、CLP後24時間目に、これらのリポソーム0.5mLをマウス腹腔内に注入して、マクロファージを除去した。 また、CLP後24時間目に、抗Gr−1抗体を、マウス腹腔内に注入して、好中球を除去した。 なお、本実施例におけるマウスを用いた調製および評価試験の実施は何れも、筑波大学生命科学動物資源センター動物倫理員会作製のガイドラインを遵守したものである。 (3)各種抗体 各種抗体の購入先および調製方法を下記表1に示す。 (4)各種細胞の調製 各種細胞は、以下のように調製されたものである。 (i)骨髄由来マスト細胞(BMMC) マウス骨髄細胞2×108個を、10cmmディッシュにて、細胞増殖因子(SCF)(10ng/mL)、IL−3(4ng/mL)および仔牛血清(FBS)(10%)を含むコンプリートRPMI1649メディウム中で5週間以上培養して骨髄由来マスト細胞(BMMC)を調製した。BMMCは、毎週新しいメディウムで継代した。調製されたBMMCのうち、95%超は、フローサイトメトリー分析によって、c−Kit+FcεRI+細胞であることが示された。 (ii)骨髄由来マクロファージ(BMMφ) マウス骨髄細胞2×106細胞を、10cmmディッシュにて、M−CSF(10ng/mL)および仔牛血清(FBS)(10%)を含むコンプリートRPMI1649メディウム中で1週間培養して骨髄由来マクロファージ(BMMφ)を調製した。 (iii)NIH3T3細胞形質転換体 常法に基づいて、Flagタグ付きCD300aのcDNAまたはFlagタグ付きCD300dのcDNAを含むpMX−neoレトロウイルスベクタープラスミドを調製した。 調製されたプラスミドをNIH3T3細胞を形質導入(トランスフェクト)して、CD300aまたはCD300dを安定発現する形質転換体を得た。得られた、CD300aを安定発現する形質転換体およびCD300dを安定発現する形質転換体をそれぞれ、「NIH3T3形質転換体(CD300a)」および「NIH3T3形質転換体(CD300d)」と称する。 また、TIM−4を安定発現するNIH3T3細胞形質転換体は、T.Kitamura氏(東京大学)から提供されたものである。なお、この形質転換体を、「NIH3T3形質転換体(TIM−4)」と称する。 [評価方法] 以下に、評価方法の条件を記載する。なお、生存試験においては、カプラン・マイヤーログランク検定(Kaplan−Meier log−rank test)を用い、その他の評価試験においては、アンペアード・スチューデントt検定(unpaired Student's t test)を用いて統計学分析を行った。P<0.05を統計学的有意差とみなした。 (5)結合アッセイ等 (i)結合アッセイ 細胞を、2%FBSを含むリン酸緩衝液中、1mMCaCl2の存在下または非存在下でCD300aまたはコントロール用ヒトIgGを用いて30分間染色し、同一の緩衝液で2回洗浄して、FITC結合型のヤギ抗ヒトIgGのF(ab')2フラグメントとともにインキュベートした。次いで、アネキシンVで染色するために、細胞を、140mM NaClおよび2.5mMCaCl2を含む10mM HEPES−NaOH緩衝液中で、アネキシンVとともに15分室温でインキュベートした。 (ii)結合阻止アッセイ 細胞を、マウスCD300aに対するモノクローナル抗体(TX41)、コントロール用アイソタイプの抗体またはMFG−E8とともに、30分間プレインキュベートした後、上記結合アッセイのように、CD300a−Fcで染色した。また、CD300a−Fcがリン脂質へ結合したか否かを分析するために、PIPストリップアッセイ(Echelon Biosciences社製)を製造元の取扱説明書に準拠して実施した。 (6)好気性細菌のCFU(コロニー形成単位)の測定 マウスの腹膜灌流液の段階希釈液をプレーティングして、該希釈液をブレインハートインフュージョン(BHI)寒天を含むプレート上で、37℃、48時間培養した。次いで、好気性細菌のCFUを、下記文献27に記載されているように、腹膜灌流液1mL中のコロニー数を計測して算出した。 [参考例1:CD300aのリガンドの同定] [参考例1A] 各種造血幹細胞系列細胞株または腫瘍細胞系列細胞株におけるマウスCD300aリガンドの発現を確認するために、以下のような試験を行った。 「1.調製例」において得られた、骨髄由来マクロファージ(BMMφ)、骨髄由来樹状細胞(BMDC)またはIL−3依存性造血細胞株(BaF/3細胞)(各細胞数2X105個)を、CD300a−Fc(1μg)、および塩化カルシウム(1mM)を含むPBS(リン酸緩衝生理食塩水)中で20℃、30分間インキュベートし、次いでFITC結合型抗ヒトIgG抗体(0.1μg)およびヨウ化プロピジウム(PI)(1μg)を含む緩衝液を用いて染色した。 染色された各細胞を、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社製、FACSCalibur、型番「E6133」)を用いた分析に供した。 また、マウスCD300a−Fcの代わりにコントロール用ヒトIgG(1μg)を用いたこと以外は上記試験方法と同様にして、対照試験も実施した。 BMMφ、BMDCおよびBaF/3細胞を用いた場合のフローサイトメトリーの分析結果を、それぞれ図1A、図1Bおよび図1Cに示す(なお、対照試験は、「Ctrl Ig」に示す。)。 図1A〜図1Cに示されるように、マウスCD300a−Fcは、塩化カルシウムを含む場合、PI-細胞(生細胞)に結合する一方、PI+細胞(死細胞)には結合しないことが分かった。つまり、マウスCD300aリガンドは、死細胞において発現していることが示唆される。 [参考例1B] マウスCD300a−Fcが、死細胞の一種であるアポトーシス細胞に結合するか否かを検証するために、以下のような試験を行った。 C57BL/6マウス(野生型マウス)由来の胸腺細胞に、RPMIメディウム中でデキサメタゾン(Sigma社製)(10μM)とともにインキュベートして、胸腺細胞のアポトーシス細胞を調製した。 得られたアポトーシス細胞(細胞数2X105)を、CD300a−Fc(1μg)、APC結合型アネキシンV(BD Pharmingen社製)(1μl)および塩化カルシウム(1mM)を含むメディウム(PBS)中で20℃、30分間インキュベートし、次いで、FITC結合型抗ヒトIgG抗体(0.1μg)およびヨウ化プロピジウム(PI)(1μg)を含む緩衝液を用いて染色した。 染色された各細胞を、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社製、FACSCalibur、型番「E6133」)を用いて分析した(結果:図2A)。 また、塩化カルシウムを含むメディウムの代わりに塩化カルシウムを含まないメディウムを用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、フローサイトメトリーを用いた分析に供した(結果:図2B)。 図2Aによると、塩化カルシウムの存在下では、マウスCD300a−Fcは、アネキシンVで染色されない(アネキシンV-)胸腺細胞に結合しないのに対して、アネキシンVで染色される胸腺細胞に結合することが分かる。すなわち、マウスCD300a−Fcは、アポトーシスした胸腺細胞に結合することが示される。 一方で、図2Bに示されるように、塩化カルシウムの非存在下では、マウスCD300a−Fcは、アポトーシスした胸腺細胞へ結合しないことが分かる。 本試験結果から、マウスCD300aは、カルシウムイオン依存的に、アポトーシス細胞に結合することが理解できる。 [参考例1C] 参考例1Bで得られたアポトーシス細胞(細胞数2X105)を、マウスCD300a−Fc(1μg)、APC結合型アネキシンV(BD Pharmingen社製)(1μl)、コントロール用ヒトIgG1(1μg)および塩化カルシウム(1mM)を含むメディウム(PBS)中で20℃、30分間インキュベートし、次いで、FITC結合型抗ヒトIgG抗体(0.1μg)およびヨウ化プロピジウム(PI)(1μg)を含む緩衝液を用いて染色した。 染色された各細胞を、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社製、FACSCalibur、型番「E6133」)を用いた分析に供した(結果:図2C「HuIgG1」)。 また、コントロール用ヒトIgG1の代わりに、モノクローナル抗体である「TX41」またはマクロファージに発現する蛋白質「MFG−E8」を用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、上記試験条件と同様にして、フローサイトメトリーを用いて分析した(結果:図2C「TX41」および「MFG−E8」)。 ここで使用された「TX41」は、上述したように、抗マウスCD300aモノクローナル抗体であり、マウスCD300aとリガンドとの結合を阻止するものである。 また、「MFG−E8」は、フォスファチジルセリン(PS)とαvβ3インテグリンとの両方に結合し、アポトーシス細胞とαvβ3インテグリンを発現する貪食細胞(phagocyte)とを架橋することが知られている(下記文献4)。 図2Cの各フローサイトメトリーの結果を対比すると分かるように、TX41またはMFG−E8の存在下では、マウスCD300aは、アポトーシス細胞へ結合しないことが理解できる。 この点を鑑みると、マウスCD300a−Fcは、PSに対する結合性を有すること(CD300aのリガンドはPSであること)が示唆される。 [参考例1D] ヒトCD300aも、マウスCD300aと同様に、アポトーシス細胞に結合するのか否かを検証すべく、以下の試験を行った。 まず、Jurkat細胞(ヒトT細胞系列)を、RPMI1640メディウムに懸濁させ、該メディウムに紫外線を60分間照射して、Jurkat細胞のアポトーシス細胞を調製した。 アポトーシス細胞として、野生型マウス胸腺細胞由来のアポトーシス細胞の代わりに、上記「Jurkat細胞由来のアポトーシス細胞」を用い、「マウスCD300a−Fc」の代わりに「ヒトCD300a−Fc」を用いたこと以外は、参考例1Aの試験条件と同様にして、フローサイトメトリーを用いて分析した(結果:図2D)。 また、アポトーシス細胞として、野生型マウス胸腺細胞由来のアポトーシス細胞の代わりに、上記「Jurkat細胞由来のアポトーシス細胞」を用い、「マウスCD300a−Fc」の代わりに「ヒトCD300a−Fc」を用い、さらに、「TX41」の代わりに「TX49」または「コントロール用ヒトIgG1」を用いたこと以外は、参考例1Bの試験条件と同様にして、フローサイトメトリーを用いて分析した(結果:図2E「TX49」または「HuIgG1」)。なお、「TX49」とは、抗ヒトCD300a抗体(モノクローナル抗体)であり、CD300aとリガンドとの結合を阻止するものである。 図2D〜図2Eに示されるように、ヒトCD300a−Fcも、アネキシンV+細胞に結合する一方で、抗ヒトCD300a抗体の存在下では結合しないことが分かる。 すなわち、マウスCD300a−Fcと同様に、ヒトCD300aもアポトーシス細胞に結合することが示唆される。 [参考例1E] メンブレン(PIP−strip(Echelon Bioscience社製))に、各種リン脂質(PS、PC、PE)(100 pmol)を含む液(試料液)をスポットして、該メンブレン上に各種リン脂質を吸着させた。 次いで、該メンブレンを、マウスCD300a−Fc(1.5μg/mL)を含む塩化カルシウム(1mM)及びBSAを加えたTBST緩衝液(pH 8.0)中に20℃で2時間浸漬した。 浸漬後、マウスCD300a−Fcを含まないTBST緩衝液(pH8.0)で、3回洗浄して、メンブレン上の各リン脂質に未結合のCD300a−Fcを除去した後、HRP結合型抗ヒトIgG(Jackson Immun社製)を含むBSAを加えたTBST緩衝液(pH8.0)を用いて検出した(結果:図2F) 図2F中、「PE」、「PC」および「PS」は、それぞれホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、およびホスファチジルセリンがメンブレン上にスポットされた部分を指し、「Blank」は、何れのリン脂質もメンブレン上にスポットされていない部分を指す。 図2Fによれば、CD300aは、PEおよびPCの何れにも結合しない一方、PSに特異的に結合したことを示している。 参考例1A〜1Eの結果から、CD300aは、カルシウムイオン依存的にホスファチジルセリン(PS)に結合すること(CD300aのリガンドはPSであること)が理解できる。 [参考例2:CD300aの機能解析(2)] 一部のPS結合性受容体は、貪食細胞において発現し、生理学的および病理的状況下で、アポトーシス細胞の除去に関与することが知られている(下記文献4〜9)。 また、PSは、CD300aを発現する細胞である貪食細胞(マクロファージ等)において、いわゆる「eat me」シグナルを介在することが知られている(下記文献10〜11)。この点を鑑みて、下記参考例2A〜Cに記載の試験を行って、CD300aが、アポトーシス細胞の貪食作用に関与するか否かを検証した。 [参考例2A] CAD欠損マウスに由来する胸腺細胞を、参考例1Bと同様にして、アポトーシス胸腺細胞を調製した。 次いで、CD300a遺伝子欠損マウス由来のマクロファージ(チオグリコレート誘発性腹腔マクロファージ)(2×105細胞)を、8穴Lab−TeKIIチャンバースライド(Nalge Nunc社製)内で、CAD欠損マウスに由来するアポトーシス胸腺細胞とともに、1:5(マクロファージ:アポトーシス胸腺細胞(細胞数))の比率で、37℃、1時間共培養した。 次いで、下記文献5または26に記載されているように、共培養したマクロファージを冷PBSで洗浄し、パラホルムアルデヒド(1%)を含む固定液で固定した後、FITC標識化dUTP(Roche社製)を含む緩衝液を用いたTUNEL染色に供した。 染色された50細胞数以上のマクロファージをランダムにレーザー走査型共焦点顕微鏡(オリンパス社製、「FV10i」、型番:1B22358)で分析し、マクロファージ1細胞に含まれるTUNELポジティブ細胞(アポトーシス細胞)の数を計測した。全マクロファージの個数を100%として、0〜8個の各アポトーシス細胞を含むマクロファージの比率(貪食率)を算出した(結果:図4A「Cd300a-/-」)。 また、CD300a遺伝子欠損マウス由来のマクロファージの代わりに、野生型マウス由来のマクロファージを用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、貪食率を計測した(結果:図4A「WT」)。 図4Aに示されるように、マクロファージがCD300a遺伝子欠損マウスに由来する場合であっても、野生型マウスに由来する場合であっても、貪食率には明確な差異は見られなかった。 [参考例2B] マスト細胞は、公知のPS受容体(TIM−1、TIM−4、スタビリン2、インテグリンαvβ3)を発現するか否かを検証するために、以下の試験を行った。 骨髄由来マスト細胞(BMMC)(細胞数2X105個)と、PE(Phycoerythrin)結合型抗TIM−1モノクローナル抗体(0.1μg)、APC結合型抗TIM−4モノクローナル抗体(0.1μg)およびAlexa結合型抗マウスCD300aモノクローナル抗体(TX41)(0.5μg)を含むメディウム(PBS)中で20℃、30分間インキュベートした。 次いで、PBSを用いて、2回洗浄した後、染色された各細胞を、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社製、FACSCalibur、型番「E6133」)を用いた分析に供した(結果:図5A「BMMCs」)。 また、BMMCのかわりに、腹腔マクロファージおよびBM由来マクロファージを用いたこと以外は上記試験方法と同様にして、フローサイトメトリー分析も実施した(結果:図5A「Peritoneal macrophages」および「BM derived macrophages」)。 さらに、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(applied biosystems社製)を用いて、腹腔マクロファージおよびBMMCからcDNAを調製し、調製された各cDNAを用いて、スタビリン2、BAl−1、αvインテグリン、Cd300aおよびβアクチン(ローディングコントロール))の発現量を、RT−PCRによって分析した(結果:図5B)。 図5Aおよび図5Bを参照すると、マクロファージの場合とは異なって、マスト細胞は、CD300aおよびαvβ3インテグリンを発現するものの、貪食作用に関与するPS受容体であるTIM−1、TIM−4およびスタビリン2を低いレベルでしか発現していないことが分かる。 [参考例2C] NIH3T3形質転換体(CD300a)(細胞数6X104)を、FITCで標識化した細胞(アポトーシス胸腺細胞または胸腺細胞(生細胞))とともに、2時間共培養し、PBSで洗浄した後、光学顕微鏡(Keyence社製、BZ−9000)で分析した(結果:図4B)。 また、共培養および洗浄後の細胞を、パラフォルムアルデヒドを含む固定液Vectashield(Vector Laboratories社製)で固定して、レーザー走査型共焦点顕微鏡によって分析した(結果:図4C)。なお、図4Cにおいて、緑色部分(矢印で示す。)は、包摂された細胞(アポトーシス胸腺細胞または胸腺細胞(生細胞))を示す。 また、NIH3T3形質転換体(CD300a)の代わりに、NIH3T3未形質転換細胞(ネガティブコントロール)または「NIH3T3形質転換体(TIM−4)」(ポジティブコントロール)を用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、光学顕微鏡およびレーザー走査型共焦点顕微鏡を用いて分析した。 図4Bおよび図4Cにおける「NIH−3T3」および「NIH−3T3/Tim4」は、それぞれ、「NIH3T3」(未形質転換細胞)および「NIH3T3形質転換体(TIM−4)」を用いた光学顕微鏡およびレーザー走査型共焦点顕微鏡のイメージを示す。 また、レーザー走査型共焦点顕微鏡のイメージから、アポトーシス胸腺細胞を細胞質内に取り込んだ、未形質転換細胞または各形質転換体の細胞数の比率(共培養された未形質転換細胞または各形質転換体の細胞数を100%とする。)を計測した(結果:図4D「apoptotic」)。 また、同様にして、胸腺細胞(生細胞)を細胞質内に取り込んだNIH3T3または各形質転換体の細胞数の比率(共培養された未形質転換細胞または各形質転換体の細胞数を100%とする。)を計測した(結果:図4D「Live」)。 図4Bに示されるように、NIH3T3とは異なって、上記の形質変換体は、両方ともアポトーシス胸腺細胞に付着した。しかしながら、図4Cおよび図4Dから判断すると、NIH3T3形質転換体(TIM−4)のみがアポトーシス胸腺細胞を取り込み、貪食作用を発揮したことがわかる。 また、データを示さないが、NIH3T3と同様に、NIH3T3形質転換体(CD300a)は、生細胞(胸腺細胞)を貪食しないことが観察された。 参考例2A〜Cの結果から、CD300aは、マクロファージによるアポトーシス細胞の貪食作用に関与しないことが理解できる。 [参考例3:CD300aの機能解析(2)] 図5に示すように、マスト細胞は、CD300aを発現するものの、マクロファージとは異なって、PS受容体であるTIM−1、TIM−4、スタビリンを発現しない。 これらのPS受容体には、PSが直接的にまたは間接的に結合することが知られており、アポトーシス細胞の取り込みに寄与することが知られている(下記文献13)。そこで、CD300aもこのような機能を有しているのか否か(アポトーシス細胞を取り込む機能的重複があるのか否か)を検証すべく、下記参考例3A〜Cに示す試験を行った。 [参考例3A] CD300a遺伝子欠損マウスの骨髄細胞(BM細胞)2×108個を10cmmディッシュにて、細胞増殖因子(SCF)(10ng/mL)、IL−3(4ng/mL)および仔牛血清(FBS)(10%)を含むコンプリートRPMI1649メディウム中で4週間培養して、CD300a遺伝子欠損マウスの骨髄由来のマスト細胞(BMMC)を調製した。なお、BMMCは、毎週新しいメディウムで継代した。 次いで、得られたBMMCを、FITC結合型抗FcεRIα抗体(0.1μg)およびPE結合型抗c−Kit抗体(0.1μg/mL)を含むRPMI1649メディウム中で、4℃、30分インキュベートし、フローサイトメトリーで分析した(結果:図6A「CD300-/-」)。 また、CD300a遺伝子欠損マウス由来の骨髄細胞の代わりに野生型マウス由来の骨髄細胞を用いて、BMMCを調製したこと以外は、上記試験条件と同様にして、フローサイトメトリーで分析した(結果:図6A「WT」)なお、図6Aの数字は、ボックス中の細胞の比率を指し、各試験は独立して3回行った。 また、各BMMCを用いてβ−ヘキソサミニダーゼ放出アッセイ(脱顆粒アッセイ)を以下のように実施した(詳細な条件は下記文献29に記載されている)。 まず、対数増殖期における各BMMC1×105細胞〜2×105細胞を、ゼラチン(Sigma社製)でコートされた24穴プレート中で37℃、一昼夜培養し、ビオチン結合型マウス抗トリニトロフェノールIgE(0.5mg/mL)を含み、サプリメントを含まないメディウム中において、37℃、1時間インキュベートした。 次いで、上記メディウム中にストレプトアビジンを添加して、ビオチン結合型マウス抗トリニトロフェノールIgE同士をクロスリンクさせて、37℃、45分間培養した後、上清を採取した。 採取された上清に、p−ニトロフェニルーN−アセチルーβーD−グルコサミド(Sigma社製)およびクエン酸(0.4M)およびリン酸ナトリウム(0.2M)を含む緩衝液(pH4.5)を加え、37℃、3時間インキュベートして、放出されたβ−ヘキソサミニダーゼによってp−ニトロフェニルーN−アセチルーβーD−グルコサミドを加水分解反応させ、該反応を、0.2Mグリシン−NaOH(pH10.7)を添加して、停止した後、p−ニトロフェニルーN−アセチルーβーD−グルコサミドの加水分解によって生じる波長415nmの吸光度を測定し、β−ヘキソサミニダーゼの放出量を定量した。さらに、上記処理をしていない各BMMCに対する、β−ヘキソサミニダーゼの放出量の増加率(%)を図6Bに示した。 図6Bは、β−ヘキソサミニダーゼを放出したBMMCの比率を示す。図6Aおよび図6Bに示されるように、BMMCがCD300a遺伝子欠損マウス由来の場合と野生型マウス由来との場合とで、FcεRIαやc−Kitの発現(マスト細胞のマーカー蛋白質)や、β−ヘキソサミニダーゼの放出量の増加率には、有意な差異は見られなかった。 すなわち、骨髄細胞からの分化やFceRI介在性の脱顆粒化には、CD300aは影響を与えるものではないことが分かる。 [参考例3B] CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCおよび、参考例1Bで得られたアポトーシス細胞(BMMC:アポトーシス細胞=10:1(細胞数比))を、塩化カルシウム(1mM)、APC結合型アネキシンV(1μl)、CD300a−Fc(1μg/mL)およびMFG−E8(5μg)を含むPBS中で20℃、30分間インキュベートし、次いで、FITC結合型抗ヒトIgG抗体(0.1μg/mL)およびヨウ化プロピジウム(PI)(1μg)を含む緩衝液を用いて染色した。 染色された細胞を、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社製、FACSCalibur、型番「E6133」)を用いた分析に供した(結果:図7A「MFG−E8」)。 また、MFG−E8の代わりにコントロール用IgGを用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、フローサイトメトリー分析を行った(結果:図7A「Ctrl Ig」)。 図7Aに示される結果から、コントロール用IgGの存在下では、CD300a−Fcはアポトーシス細胞(アネキシンV+)に結合するのに対して、MFG−E8(PS結合性物質)の存在下では、この結合が特異的に阻害されていることが分かる。 なお、この混合試料の上清において、サイトカインおよびケモカインの濃度は、BD Pharmingen社製(TNF−αおよびIL−6)およびR&D Systems社製(MIP−2、MCP−1,IL−13およびMIP−1α)のELISAキットを用いてサイトカインやケモカインの定量を試みたところ、サイトカインやケモカインは検出されなかった。 [参考例3C] BMMCおよびアポトーシス細胞が共存する場合、LPS(リポポリサッカリド)の刺激によって、各種サイトカインの放出量が変化するか否かを検証すべく、以下のような試験を行った。 CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCおよびアポトーシス細胞(BMMC:アポトーシス細胞=10:1(細胞数比))を、LPS(1μg/mL)を含むRPMI中で4時間インキュベートした後、メディウムの上清を採取した。 次いで、サイトカインおよびケモカインの濃度を、BD Pharmingen社製(TNF−αおよびIL−6)およびR&D Systems社製(MIP−2、MCP−1,IL−13およびMIP−1α)のELISAキットを用いて3回測定し、上記のLPS処理が実施されていないBMMCの各サイトカインおよびケモカインの放出量の増加率を算出した(結果:図7B「Cd300a-/-」)。 また、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCの代わりに、野生型マウス由来のBMMCを用いたこと以外は上記試験条件と同様にして、サイトカインおよびケモカインの増加率を算出した(結果:図7B「WT」)。 図7Bに示されるように、何れのBMMCにおいても、LPSによって、各種サイトカインの放出量が増加した。しかしながら、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCにおいては、野生型マウス由来のBMMCに比べてTNF−α、IL−13、およびMCP−1が有意に増加した。 [参考例3D] さらに、各BMMCの細胞内中の各種サイトカインおよびケモカインの増加率を検証すべく、以下の試験を行った。 CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCおよび、参考例1Bで得られたアポトーシス細胞(BMMC:アポトーシス細胞=10:1(細胞数比))を、LPS(リポポリサッカリド)(1μg/mL)を含むメディウム(RPMI)中で4時間インキュベートした後、上記インキュベート後のBMMCおよびアポトーシス細胞を、各種サイトカインおよびケモカインに対する各種蛍光標識化抗体と、ホルムアルデヒドを含むメディウム(FIX & PERM,invitrogen社製)中で4℃、20分インキュベートし、染色された細胞を、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社製、FACSCalibur、型番「E6133」)を用いた分析に供した(結果:図8矢印(1))。また、各種サイトカインおよびケモカインに対する各種蛍光標識化抗体の代わりに、コントロール用抗体を用いたことは上記試験条件と同様にして、フローサイトメトリー分析を行った(コントロール試験(結果:図8矢印(2)))。 また、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCの代わりに、野生型マウス由来のBMMCを用いたこと以外は上記試験条件と同様にして、フローサイトメトリー分析を行った(結果:図8矢印(3))。さらに、各種サイトカインおよびケモカインに対する各種蛍光標識化抗体の代わりに、コントロール用抗体を用いたことは上記試験条件と同様にして、フローサイトメトリー分析を行った(コントロール試験(結果:図8矢印(4)))。 また、図8のグラフは、各BMMCにおける各サイトカイニンおよびケモカインに関するMFI値(mean fluorescence intensity)を測定し、LPS未処理のBMMCに対するMFIの増加量を示す。 図8によれば、何れのBMMCの細胞質中においても、LPS未処理の場合に比べてサイトカイニンおよびケモカインの量が増加したことを示しているが、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCの細胞質中では、野生型マウス由来のBMMCの細胞質中と比べても、TNF−α等が有意に増加したことが分かる。 [参考例3E] D89E MFG−E8は、RGDモチーフにおいて点変異(D89E)を含むMFG−E8のバリアント(変異体)であり、PSに結合するが、αvβ3インテグリンに結合しないという結合特性を有する。 そこで、D89E MFG−E8の存在下において、各BMMCのサイトカインおよびケモカインの放出量が変化するか否かを検証すべく、以下のような試験を行った。 CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCおよびアポトーシス細胞を含むメディウム中に、LPSとともにD89E MFG−E8(5μg/mL)を添加したこと以外は、参考例3Cと同様にして、TNF−α、IL−13、MCP−1およびIL−6を定量した(結果:図7C「CD300a-/-」)。 また、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCの代わりに、野生型マウス由来のBMMCを用いたこと以外は上記試験条件と同様にして、TNF−α、IL−13、MCP−1およびIL−6を定量した(結果:図7C「WT」)。 図7Cに示されるように、D89E MFG−E8の存在下では、BMMCがCD300a遺伝子欠損マウス由来の場合と野生型マウス由来との場合とで、各種サイトカインの濃度には、有意な差異が見られなかった。 [参考例3F] CD300aは、細胞内部位において免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を有し、抗CD300a抗体で架橋されると、SHP−1が誘導されることが知られている(下記文献14)。 そこで、CD300aとSHP−1とが相互作用するのか否かを検証すべく、以下のような試験を実施した。試験例3Cのように、LPSの存在下でアポトーシス細胞と4時間共培養したCD300a遺伝子欠損マウスまたは野生型マウス由来のBMMCの細胞破砕物を、抗CD300a抗体(TX41)で免疫沈降させた。 得られた免疫沈降物を用いて、下記文献14に記載されているように、抗SHP−1抗体または抗CD300a抗体によるイムノブロットを行った(結果:図7D)。 この結果からも分かるように、BMMCがアポトーシス細胞と共培養された場合、LPS刺激に応答して、SHP−1を誘導(リクルート)することが分かる。しかしながら、D89E MFG−E8の存在下においては、CD300aはSHP−1をリクルートしなかった。 すなわち、LPS刺激の応答に対するCD300aによるSHP−1の誘導(リクルート)には、PSがCD300aへ結合することが必要であると考えられる。 [参考例3G] SHP−1が、CD300a介在性のシグナリングに関与しているかどうかを調べるために、まず、野生型マウス由来のBMMCにおいて、siRNAでPtpn6(SHP−1遺伝子)をノックアウトして、SHP−1欠損(Ptpn6−KD)野生型マウス由来のBMMCを以下の条件で作製した。また、同様にして、CD300a遺伝子欠損マウス由来BMMCからSHP−1欠損(Ptpn6−KD)CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCを作製した。 BMMC中のSHP−1遺伝子(Ptpn6遺伝子)をターゲットとしたsiRNA(SHP−1 siRNA)(siGENOME SMARTpool;ThermoScientific Dharmacom)0.5mMを、X−treme Gene siRNA transfection reagent(Roche社製)1mLと混合し、下記文献28に記載されているように、5×105細胞のCD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCに形質導入(トランスフェクト)して、SHP−1がノックダウンされたCD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMC(BMMC(CD300a-/-・Ptpn6−KD))を作製した。 また、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCの代わりに、野生型マウス由来のBMMCを用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、SHP−1がノックダウンされた野生型マウス由来のBMMC(BMMC(WT・Ptpn6−KD))を作製した。 ここで、SHP−1 siRNAが各BMMCに形質導入され、SHP−1の発現量が低減していることを確認するために、BMMC(CD300a-/-・Ptpn6−KD)またはBMMC(WT・Ptpn6−KD)のライセートを用いて、抗SHP−1抗体、抗SHP−2抗体および抗βアクチン抗体によるイムノブロッティング分析を行った(結果:図7E)。 図7Eに示されるように、SHP−1 siRNAを形質導入したBMMCでは、SHP−1の発現量が低減されていることが確認できる。なお、「Ctrl」は、SHP−1 siRNAの代わりに、コントロール用siRNAを形質導入したBMMCを用いたイムノブロッティング分析の結果を示す。 次に、BMMC(CD300a-/-・Ptpn6−KD)またはBMMC(WT・Ptpn6−KD)および参考例1Bで得られたアポトーシス細胞(BMMC:アポトーシス細胞=10:1(細胞数比))を、塩化カルシウム(1mM)およびLPS(リポポリサッカリド)(1μg/mL)含むRPMI中で4時間インキュベートした後、参考例3Bと同様にして、TNF−αの放出量を測定した(結果:図7F)。 図7F(左グラフ)に示されるように、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCは野生型マウス由来のBMMCよりも有意にTNF−αを産生した。一方で、図7F(右グラフ)に示されるように、野生マウスまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCは、SHP−1 siRNAが形質導入された場合、野生由来BMMCもCD300a遺伝子欠損マウス由来BMMCも、TNF−αの放出量は同程度であり、両者に有意な差異は見られなかった。 これらの結果は、PSがCD300aに結合すると、CD300aはSHP−1を誘導して、BMMCの活性化抑制シグナルを介在し、結果として、TNF−αの分泌の抑制をすることを示唆している。 参考例3の結果から、PSとCD300aとの相互作用は、BMMCから炎症誘発性の(LPS誘導性の)サイトカインおよびケモカインの産生を阻害すること、およびこの相互作用はSHP−1をリクルートして、TNF−αの分泌の抑制をすることが理解される。 [参考例4:CD300aの機能解析(3)] マスト細胞が産生するTNF−α、IL−3およびMCP−1は、好中球の化学誘引物質であり、CLP腹膜炎マウスにおいて、細菌クリアランスに重要な役割を果たすことが知られている(下記文献15〜19)。 そこで、CD300aが細菌クリアランス機能を有するか否かを検討するために、下記参考例4A〜4Hを行った。 [参考例4A] 野生型マウスの盲腸(腹側域)上において、1〜2cmの正中線切開を実施し、その末端部を結紮した。次いで、結紮部位において、27ゲージ針を用いて2回穿刺した後、該盲腸を腹部に戻し、無菌食塩水1mLを皮下注射して補水した後、切開部を縫合して切開部分を閉じた。なお、上記のCLPの詳細内容・条件は、下記文献16に記載されている。 CLPの実施前またはCLPの実施後4時間目において、腹膜灌流液を採取した。次いで、該腹膜灌流液にAPC結合型アネキシンV(1μg)およびCD300−Fc(1μg)を添加した後、FITC結合型抗ヒトIgGおよびPI(ヨウ化プロピジウム)で染色し、フローサイトメトリーで分析した(結果:図12A)。 図12Aは、下記文献20に記載されているように、腹膜炎部位は、多数の細胞がアポトーシスに至る部位であることを確認できる結果となっている。 すなわち、CD300aは、膜炎部位のマスト細胞の免疫制御に影響を与えることが示唆される。 [参考例4B] CD300aとマスト細胞の免疫制御との関係を検証すべく、以下のようにプロテオーム解析を行った。 まず、野生型マウスおよびマスト細胞欠損マウス(kitW-sh/W-shマウス)に、参考例4Aと同様にしてCLPを実施した。 CLP実施から4時間経過後、各マウスの腹膜灌流液を採取して、採取された腹膜灌流液を、製造元の説明書に準拠して、Proteome Profiler Array(R&D Systems社製)を用いてサイトカインおよびケモカインのプロテオーム解析に供した。 図9Aは、野生型マウスおよびマスト細胞欠損マウス(kitW-sh/W-shマウス)の腹膜灌流液を用いたデンシトメトリー分析(プロテオーム分析)の結果を示す(図9A中「PC」はポジティブコントロールを示す。)。 また、図9Bは、図9Aで示される各シグナルをデンシトメトリー像から得られた、各ケモカインやサイトカインのシグナルのピクセル密度を示す。 図9Bに示されるように、CLP後4時間目において、腹腔内のケモカインの濃度は、野生型マウスよりもkitW-sh/W-shマウスにおいて高いことが分かる。なお、本試験は、2回実施しても同様の結果が得られた。 [参考例4C] 参考例4Bと同様にして、野生型マウスおよびマスト細胞欠損マウス(kitW-sh/W-shマウス)から腹膜灌流液を採取した(各n=3)。 次いで、各腹膜灌流液から段階希釈液系列を調製し、調製された腹膜灌流液の各段階希釈液をプレーティングし、ブレインハートインフュージョン(BHI)寒天を含むプレート上で、37℃、48時間培養した。次いで、好気性細菌のCFUを、下記文献27に記載されているように、腹膜灌流液1mL中のコロニー数を計測して好気性細菌のCFUを算出した(結果:図10A)。 また、各腹膜灌流液中の好中球およびマクロファージの細胞数も計測し、結果をそれぞれ図10Bの「neutrophil」および「macrophage」に示す。 さらに、野生型マウスまたはマスト細胞欠損マウス(kitW-sh/W-shマウス)からBM由来マクロファージを調製した。これらのマクロファージ(細胞数:1X106)を、フルオレセイン標識化大腸菌を含むメディウム中で、24穴プレートで1時間共培養し、フローサイトメトリーで大腸菌を貪食した各マクロファージの細胞数を測定し、貪食しているマクロファージの比率を算出した(結果:図11「BM macrophage」)。 野生型マウスまたはマスト細胞欠損マウス(kitW-sh/W-shマウス)由来のBM由来マクロファージの代わりに、野生型マウスまたはマスト細胞欠損マウス(kitW-sh/W-shマウス)由来のPECマクロファージを用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、貪食しているマクロファージの比率を算出した(結果:図11「PEC macrophage」)。 図10Aに示されるように、CLP後4時間目のマスト細胞欠損マウス(kitW-sh/W-shマウス)では、野生型マウスに比べて、腹腔内における細菌CFUが少なく、好中球の細胞数が多いことが分かる。対して、図10Bおよび図11に示されるように、マクロファージの細胞数および貪食作用は、両遺伝子型間で有意差が無いものであった。 [参考例4D] CD300aが好中球の誘導(リクルート)に関与するか否かを検証するために、以下の実施例を行った。 マスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-shマウス)に、野生型マウス由来のBMMC(細胞数1X106)を含むPBS緩衝液を腹腔内注射で投与した(n=20)。次いで、投与してから28日間経過後、参考例4Aと同様にしてCLPを実施し、マウスの生存率を測定した(結果:図12B「WT BMMCs→KitW-sh/KitW-sh」)。 また、野生型マウス由来のBMMCの代わりに、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCを用いたこと以外は、上記試験条件と同様にして、マウスの生存率を測定した(結果:図12B「CD300a-/- BMMCs→KitW-sh/KitW-sh」)。なお、図12Bにおける「KitW-sh/KitW-sh」は、BMMCを投与しないで、CLPを実施したマスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-shマウス)の生存率を示す。 図12Bによれば、CLP後であっても、野生型マウス由来のBMMCが供されたマスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-shマウス)では、BMMCを投与されなかった場合と比べて、高い生存率が示された。 しかしながら、CLPの後において、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCが供されたマスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-shマウス)では、野生型マウス由来のBMMCやBMMCが投与されなかったマウスと比べて、CLP後であっても生存率が有意に高かったことが分かる(図12B)。 さらに、CLP後4時間目の上記各マウスの腹膜灌流液を用いて、参考例4Cと同様にして細菌のCFUを測定したところ、CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMCが供されたマスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-shマウス)では、他のマウスに比べて、細菌クリアランスも大きいことが示された(結果:図12C)。 [参考例4E] BMMCをマスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-shマウス)の腹腔内に投与することで、TNF−αの放出量が増加するか否かを検証するために、以下の実施例を行った。 CLPの24時間前において、マスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-shマウス)の腹腔内に、CFSE標識化した混合BMMC(CD300a遺伝子欠損マウス由来のBMMC:野生マウス由来のBMMC=1:1(細胞数比))を腹腔内注射で投与した。 該混合BMMCが注射されたマウスに参考例4Aと同様にしてCLPを実施し、CLP後4時間目に、腹膜灌流液を採取した。該腹膜灌流液中に含まれる各BMMCをフローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社製、FACSCalibur、型番「E6133」)を用いた分析に供した(結果:図12D)。 図12Dに示されるように、CLPから4時間後において、CD300D遺伝子欠損マウス由来のBMMC(CD300a-CFSE+細胞)は、野生型マウス由来のBMMC(CD300a+CFSE+細胞)よりも有意に大量のTNF−αを産生していることが分かる。 [参考例4F] 抗CD300aモノクローナル抗体(TX41)を投与した場合、CD300aにおいてどのような影響があるのかを検証するために、以下のような実施例を行った。 まず、CLPの1時間前または18時間前において、野生型マウスに、500μgの抗CD300aモノクローナル抗体(TX41)(n=13)を腹腔内注射したこと以外は、参考例4Aと同様にしてCLPを実施して、参考例4Dと同様にして、マウスの生存率を測定した(結果:図12E「Antibody to CD300a」)。 また、コントロールとして、TX41(n=13)の代わりに、アイソタイプコントロール用抗体(n=11)を用いたこと以外は上記試験条件と同様にして、マウスの生存率を測定した(結果:図12E「Control antibody」)。 図12Eに示されるように、CLP実施の1時間または18時間前において野生型マウスに腹腔内注射によってTX41を投与した後にCLPを実施した場合、コントロール用抗体を投与した場合と比べて、生存期間が長くなることが分かった。 [参考例4G] 参考例4Fにおける、CLP後4時間目の各マウスから腹膜灌流液を採取した。得られた腹膜灌流液を用いて、参考例4Cと同様にして、細菌CFUおよび好中球の細胞数を測定した(コントロール用抗体:n=5および、抗CD300aモノクローナル抗体:n=5)(それぞれ図12Fおよび図12G)。 なお、TX41が腹腔内注射で投与されても、各マウスのマスト細胞を含めたミエロイド系細胞が欠損することはなかった。 図12Fおよび図12Gに示されるように、CLP実施の1時間または18時間前において野生型マウスに腹腔内注射によってTX41を投与した場合、腹腔内において、有意に好中球の細胞数は増加し、細菌クリアランスも向上した。 参考例4の結果から、PSとCD300aとの相互作用を、たとえばTX41などで阻止することで、腹膜炎誘発性の敗血症を予防できることが理解される。 なお、生理的状況下においては、多くの細胞がアポトーシスに至っている。ここで、アポトーシス細胞の取り込みには、PS受容体は中心的な役割を果たし、自己免疫疾患の進展を防ぐのに必須なものである(下記文献22)。 一方で、微生物感染のような病理的状況では、顕著にアポトーシスによる細胞死が増加し、病原関連分子パターン(PAMPs)に対する受容体(たとえばToll様受容体)を介し、マスト細胞による炎症反応を引き起こすことが知られている(下記文献15,23および24)。また、マスト細胞は、病原体に対する免疫反応において重要な役割を果たすことも知られている。 以上から、上記実施例における結果は、PSが、数種類のPS受容体を介して貪食細胞へ取り込みシグナルを提供することのみならず、今回新たな知見として得られたように、CD300aを介したマスト細胞による炎症反応を有効に抑制する効果を有することが理解できる。 したがって、ホスファチジルセリン結合性物質(MFG−E8等)やCD300a結合性物質(CD300aに対する中和抗体等)が、PSとマスト細胞におけるCD300aとの相互作用を阻止して、マスト細胞を活性化させるまたは該活性を維持させることが理解される。 すなわち、これらの物質は、たとえばLPS誘発性の各種炎症性感染症(さらにはそれによる敗血症)の予防に用いられる医薬品の有効成分(免疫賦活化剤)として有用であることが理解できる。 また、PSは、CD300aの活性シグナリングを抑制させてマスト細胞の活性化を抑制することから、たとえば、アレルギー疾患や自己免疫疾患における炎症反応を抑制して(たとえば、ヒスタミン等のケミカルメディエーターの放出を抑制して)、アレルギー疾患や自己免疫疾患の症状を緩和または治療する(過剰な免疫機能を抑制する)ために用いられる免疫抑制剤の有効成分として有用であることが理解できる。 <セリアック病> セリアック病(CD)は、食餌グルテンタンパク質に対する免疫応答によって引き起こされ、進行性の腸炎である。グルテン由来のグリアジンペプチドに特異的な適応免疫応答は、セリアック病の進行に関与している。病因の根底にある自然免疫応答は完全には解明されていない。 ここでは、我々は、粘膜固有層のマクロファージ(粘膜固有層のマクロファージ)に発現している、骨髄関連免疫グロブリン様受容体ファミリーのメンバーであるCD300a(MAIR−I)が、食餌グルテン誘発腸疾患の進行に調節的役割を果たしていることを実証する。 高グルテン食を与えているCD300a(MAIR−I)が欠損したCD300a遺伝子欠損マウスは、セリアック病様の病徴変化を示した。高グルテン食を与えている野生型(WT)マウスと比較して、軽度の体重増加、高い臨床スコア、多量のトランスグルタミナーゼ2、空腸の粘膜固有層のマクロファージの蓄積を示した。 高グルテン食を与えられたCD300a遺伝子欠損マウスにおける粘膜固有層のマクロファージは、高グルテン食を与えられたWTマウスと比較して、IL−6、IL−15、TNF−α、IFN−β、MCP1およびMCP5を高発現した。 中毒性グリアジンペプチド(P31−43)の試験管内での刺激後に、CD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージは、上記サイトカインをより強く発現した。 IL−6、TNF−αおよびIFN−βの増強された発現は、MyD88欠損およびTRIF欠損の各遺伝的背景を有するCD300a(MAIR−I)のないCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージで引き起こされた。 さらに、アポトーシス細胞上のCD300a(MAIR−I)のリガンドであるホスファチジルセリンとCD300a(MAIR−I)との結合の遮断は、WTマウスの粘膜固有層のマクロファージでのサイトカイン産生を促進した。 総括すれば、これらの結果は、腸内の粘膜固有層のマクロファージとアポトーシス細胞上のCD300a(MAIR−I)の相互作用が、MyD88およびTRIFを介した抑制性のグリアジンシグナル伝達経路によってセリアック病の進行に保護的な役割を果たしていることを示している。(材料と方法) (マウス) 9〜14週齢の雄であるBalb/c野生型(WT)マウスと、CD300a(MAIR−I)を有しないBalb/cのCD300a遺伝子欠損マウスの同腹子を用意し、正常食(ND)、高グルテン食(HGD)、または無グルテン食(GFD)を与える実験等に使用した。 試験管内での実験のために、Balb/cWTマウスと、CD300a(MAIR−I)を有しないBalb/c又はC57BL/6B6のCD300a遺伝子欠損マウスとを、性別と年齢を一致させて用いた。MyD88遺伝子欠損B6マウスとTRIF遺伝子欠損B6マウスは、オリエンタルバイオサイエンス(京都、日本)から購入した。すべてのマウスは、特定病原体フリーの条件下で飼育した。 (給餌試験) WTマウスとCD300a(MAIR−I)マウスは、2%未満のグルテンを含む正常食の粉末(MF、オリエンタル酵母、東京、日本)(ND)で飼育した。また、WTマウスとCD300a遺伝子欠損マウスは、MF中にグルテンの30%(Sigma−Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州)を含む高グルテン食(HGD)で飼育した。いくつかの実験では、マウスはNDのペレット(MF)および無グルテン食(GFD;AIN−76A、リサーチダイエット、ニューブランズウィック、ニュージャージー州)を給餌した。 (微生物叢の枯渇) 抗生物質による微生物叢の枯渇は、[下記文献37]のように行った。微生物叢の枯渇は、ブレインハートインフュージョン培地のアガロースプレートを使用して個々のマウスから糞便中にプラーク形成単位の観察によって確認した。 (病理組織学的解析) マウスの病理組織学的変化は後述する特定の週で、ND,HGDまたはGFDを給餌した後に観察した。空腸および結腸の標本を単離してホルマリンで固定し、ヘマトキシリン-エオシンで染色した。 空腸における臨床スコアの基準は、[下記文献38]に記載したように定義した。簡単に言えば、陰窩と絨毛の比のスコアを、陰窩と絨毛(0〜3点)の平均深さによって算出した。また、単核細胞浸潤のスコア(0〜3点)を絨毛固有層と陰窩の直径平均によって算出した。そして、最終的な臨床スコアを合計0〜6点として表した。 空腸の腸管上皮細胞(IEL)における上皮内リンパ球数が計測され、腸管上皮細胞100個当たりのIEL数として表した([下記文献39])。空腸におけるトランスグルタミナーゼ2(TG2)の定量は、空腸の組織懸濁液を使用した。TG2−CovTest(Zedira、ダルムシュタット、ドイツ)をそのメーカーの手順書に従って行った。 (グリアジンに対するIgGおよびIgA抗体力価測定) マウスの血清中のグリアジンに対するIgGおよびIgAの抗体力価を酵素免疫測定法により決定した。これは、[下記文献40]に記載されているものを、少し改変して行った。 西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識した抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア、リトルチャルフォント、イギリス)とHRPで標識した抗マウスIgA抗体(サザンバイオテック、バーミンガム、アラバマ州)は、抗グリアジンIgGおよびIgAの検出抗体としてそれぞれ使用した。また、OPD試薬(Sigma−Aldrich)を比色分析のHRPの基質として使用した。 (粘膜固有層のマクロファージや樹状細胞の単離) 粘膜固有層のマクロファージ(LP Mφ)と樹状細胞(DC)の単離は、いくつかの変更を加えて、[下記文献41]に沿って行った。 空腸は、腸間膜およびパイエル板を除去した後、小片に切り出し、2mMEDTA(Sigma Aldrich)と20%FCSを含むPBS緩衝液で振とうしながら37℃で15分間、合計3回洗浄した。 残りの組織をホモジナイズし、タイプVIIIのコラゲナーゼ(Sigma−Aldrich)を1.5 mg/mL、FCSを20%で含むPBS緩衝液で、振とうしながら37℃で20分間消化した。 組織懸濁液中のCD45を発現している粘膜固有層のマクロファージと粘膜固有層の樹状細胞とを、ビオチン化抗マウスCD45(30−F11、BDバイオサイエンス、フランクリンレイクス、ニュージャージー州)とストレプトアビジン粒子プラスIMAG(BD Biosciences社)を使用して濃縮した。 粘膜固有層のCD45発現細胞を、フルオレセインイソチオシアネート結合抗マウスのCD11b(M1/70)、フィコエリトリン結合のCD11c(HL3)、プロピジウムヨウ素、Alexa647標識TX41(抗マウスCD300a(抗マウスMAIR−I)、ラットIgG2a)またはAlexa647標識TX74(抗−FLAG、TX41のアイソタイプコントロール)、ビオチン化抗マウスCD45およびストレプトアビジンアロフィコエリトリンCy7(allophycoerythrin−Cy7)で染色した。 なお、すべての蛍光標識抗体とストレプトアビジンアロフィコエリトリン−Cy7はBD Biosciences社から購入した。 CD45+PI−細胞の数でゲートされたCD11b+CD11clow 細胞とCD11c+細胞は、それぞれ、粘膜固有層のマクロファージおよび粘膜固有層の樹状細胞として、FACSAria(BD Biosciences)を使用して単離された。 フローサイトメトリーデータ解析の重要な原理は、不必要な粒子(死細胞および残渣など)を除きながら、目的の粒子を選択的に可視化することであり、この操作を、ゲーティング(ゲート)と呼ぶ。 (フローサイトメトリー解析) CD45+PI-である粘膜固有層の細胞におけるマクロファージ、CD11b+樹状細胞、およびCD11b-樹状細胞がCD11b+CD11clow, CD11b+CD11c+, およびCD11b-CD11c+の細胞数によりそれぞれゲートされた。 上皮内リンパ球と腸管上皮細胞を2 mMでEDTA、20%でFCSを含むPBS緩衝液で空腸の小片を洗浄することにより得た。この懸濁液中の上皮内リンパ球と腸管上皮細胞は、CD45+PI-細胞数と、cd45-PI-細胞数によってそれぞれゲートした。 粘膜固有層のマクロファージ、CD11b+樹状細胞、CD11b-樹状細胞、上皮内リンパ球および腸上皮細胞におけるCD300a(MAIR−I)の発現を、Alexa647で標識したTX41(抗マウスMAIR−I、ラットIgG2a)またはAlexa647で標識したTX74(TX41の抗FLAG、アイソタイプコントロール)で解析した。 ホスファチジルセリン(PS)を表示するアポトーシス細胞について、アロフィコシアニン共役アネキシンVを用いて分析した。フローサイトメトリー解析をFACSAria(BD Biosciences)を用いて行った。 (定量的RT−PCT法) 10000〜20000個の粘膜固有層のマクロファージと粘膜固有層の樹状細胞を中毒性グリアジンペプチドP31−43ペプチドで刺激したものと、刺激しないものを、IsogenLS(ニッポンジーン、東京、日本)に再懸濁し、手順書に従って全RNAを単離した。 一本鎖DNAは、cDNAの逆転写キット(アプライドバイオシステムズ社、フォスターシティ、カリフォルニア州)を用いて全RNAから合成した。使用した定量的逆転写酵素媒介ポリメラーゼ連鎖反応(Q-RT−PCR)用のプライマーセットはPrimerBankによって設計した(http://pga.mgh.harvard.edu/primerbank/)[下記文献42]。 Q−RT−PCRは、プラチナSYBRグリーンスーパーミックスUDG(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア州)、ABI7500ファスト(Applied Biosystems)を用いて行った。そのデータをDDCT(delta delta CT)法により分析した。 この研究で試験された全遺伝子を発現するコントロールのサンプルは、リポ多糖刺激した脾臓細胞(1000ng/ mLで、6時間)から調製し、一本鎖DNAであった。各サンプルの遺伝子発現を示した試料と比較定量することにより表した。 (グリアジン刺激) グルテンに由来する中毒性α-グリアジンペプチドP31−43 [下記文献43]と、コントロールとしてのオボアルブミンペプチドP323−339とを、オペロンバイオテクノロジー(ハンツヴィル、アラバマ州)に依頼して合成した。 これらのペプチドの純度は95%以上であり、0.001未満のエンドトキシン単位/mLで含まれている。このことは、カブトガニ色KYテストワコー(和光純薬、大阪)を用いて確認した。 B6マウスから調製したチオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞(PEC)のマクロファージを、100μg / mLのグリアジンペプチドP31−43、または、オボアルブミンP323−339を用いて、[下記文献44]に記載されているように刺激した。 WTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来の粘膜固有層のマクロファージやCD11b+樹状細胞の10000〜20000個を、96ウェル平底プレートのウェル内で、10%FCS、グルタミン/ストレプトマイシン/ペニシリン、HEPES、非必須アミノ酸を添加したRPMI1640培地で培養した。 Balb / cマウスまたはB6マウスの粘膜固有層のマクロファージを、それぞれ、10時間または3時間、100μg/mLのグリアジンペプチドP31−43で刺激した。いくつかの実験において、粘膜固有層のマクロファージは、組換えマウスのMFG−E8(終濃度5μg/mL)を用いて4℃、30分間処理し、または処理しないようにし、さらにグリアジンペプチドP31−43で、37℃で3時間、刺激した。 (統計分析) 全ての統計分析は、Mann−WhitneyのU検定を用いて行った。 P<0.05を統計学的に有意であると考えた。 [実施例1A]体重(BW)の変化(図13) CD300a(MAIR−I)がセリアック病(CD)の進行に関与しているか否かを調べるために、Balb/cのCD300a遺伝子欠損マウスまたは野生型(WT)マウスを2%未満のグルテン(ND)を含む正常食または30%のグルテン(HGD)を含む高グルテン食で飼育した。正常食または高グルテン食の給餌開始から、体重(BW)の変化をモニターした。 なお、「○」は、「WTマウス正常食、n=7」、「●」は「CD300a遺伝子欠損マウス、正常食、n=9」、「□」は、「WTマウス、高グルテン食、n=10」そして、「■」は「CD300a遺伝子欠損マウス、高グルテン食、n=14)」を示す。 高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスは、高グルテン食(HGD)で飼育したWTマウス(図13)よりも有意に少ない体重(BW)増加を示した。CD300a遺伝子欠損マウスでは、高グルテン食を摂食した後にセリアック病様腸症が進行することが確認された。これらの結果は、CD300a(MAIR−I)は高グルテン食を摂食した後の空腸における腸疾患の進行に防御的な役割を果たしていることを示唆している。 [実施例1B]H&E染色(図14) 正常食または高グルテン食(HGD)を摂食した後の、20週目のマウスの腸の病理組織学的解析を行った。各マウスの空腸をホルマリンで固定し、ヘマトキシリン−エオシンで染色した。図14に、各グループのマウスの代表的なデータを示す。 高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスでは、高グルテン食(HGD)で飼育したWTマウスと比較して、空腸における腸疾患の進行していた(図14参照)。 [実施例1C]上皮内リンパ球数(図15、図16) 上述した方法に従い、臨床スコアとマウスの空腸の腸上皮細胞(IEC)100個当たりの上皮内リンパ球(IEL)の数について、正常食または高グルテン食を摂食した後、20週の時点でカウントされた。なお、「*, **」は、それぞれ p<0.05,0.01を示す。 上述したように、CD300a遺伝子欠損マウスは、空腸内の絨毛萎縮を示し(図14)、また、有意に高い臨床スコアを示した(図15参照)。また、FDで飼育したCD300a遺伝子欠損マウスと同様にHGDで飼育したWTマウスと比較して、小腸の腸上皮細胞(IEC)における上皮内リンパ球(IEL)の増加を示した(図16参照)。 [実施例1D]TG2−CovTest(特定TG2架橋活性の定量測定ための比色分析)(図17) トランスグルタミナーゼ2(TG2)の量は、腸の炎症の徴候であることが知られている。TG2は、セリアック病の進行の鍵となる酵素である。WTマウスおよびCD300a遺伝子欠損マウスについて、少なくとも20週間、正常食または高グルテン食を摂食した後の、各マウスの空腸の懸濁液中のトランスグルタミナーゼ2の量(TG2)をTG2−CovTestによって定量化した。 その結果、高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスの腸内では、TG2の量が各マウスのグループの中で、最大であった(図17参照)。 [実施例1E]フローサイトメトリー(図18) CD45+PI−細胞集団でゲートされた粘膜固有層の細胞のCD11bおよびCD11cの発現を、フローサイトメトリーによって分析した。正常食または高グルテン食を供給されたBalb/c種のWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)細胞をフローサイトメトリーによって分析した。CD45発現LP細胞は、I−Magのテクノロジ(磁気ビーズを利用した細胞分離システム)を使用して濃縮した。 CD11b+CD11clow細胞は粘膜固有層のマクロファージであり、CD11b+CD11c+およびCD11b−CD11c+は粘膜固有層(LP)の樹状細胞(DC)である。 [実施例1F]免疫細胞の量的、質的な変化(図19) WTマウスとCD300a遺伝子欠損マウスの各マウスにおいて、粘膜固有層(LP)のマクロファージ(白抜)の頻度、粘膜固有層(LP)のCD11b+樹状細胞(黒塗)の頻度、粘膜固有層(LP)のCD11b−樹状細胞(網掛)の頻度を計測した。 すなわち、正常食(ND)と高グルテン食(HGD)で飼育したWTマウスとCD300a遺伝子欠損マウスの空腸の粘膜固有層における免疫細胞の量的、質的な変化を調べた。 高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスにおけるCD11b+ CD11clowを発現する粘膜固有層のマクロファージ(lp Mf)の頻度は、高グルテン食(HGD)で飼育したWTマウスと正常食(ND)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスの両方のそれよりも有意に大きかった(それぞれ、図18の右下パネルの5.8、左下パネルの2.3、右上パネルの2.2の細胞集団を対比して参照、図19参照)。 腸内の粘膜固有層のマクロファージは、末梢血中でCCR2を発現する炎症性単球から分化したものである[下記文献45]。 CCR2がMCP1とMCP5の受容体であることを考慮すると、グリアジン刺激後に、粘膜固有層のマクロファージでの、これらのケモカインの発現上昇は、高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスにおける粘膜固有層のマクロファージの高い頻度と一致している(図19参照)。 [実施例1H]サイトカインおよびケモカインの遺伝子発現量(図20) 各マウスから単離された粘膜固有層(LP)マクロファージにおける、サイトカインおよびケモカインの遺伝子発現を定量的RT−PCR法により解析した。なお、図20において、各遺伝子発現量は、正常食のWTマウスのものを標準の「1」として、相対量で表されている。 高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージは、炎症性サイトカイン(IL−6, IL−15, TNF−a,IFN−bおよびMCP1)およびMCP5といったいくつかのケモカインについて、高グルテン食(HGD)で飼育したWTマウスのものと比較して、有意に高い量を示した(図20参照)。 高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージからの炎症性サイトカインおよびケモカインの発現増強は、各マウスで観察された腸疾患に起因していると考えられる。 また、興味深いことに、正常食(ND)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージは、NDで飼育したWTマウスと比較して、IL−15およびp19を高発現した(図27)。 [実施例1I](図21) 粘膜固有層細胞のマクロファージ、CD11b+の樹状細胞、CD11b−の樹状細胞、腸上皮細胞および上皮内リンパ球におけるにおけるCD300a(MAIR−I)の発現をフローサイトメトリーにより解析した。 CD300a(MAIR−I)は、TX41(抗MAIR−Iマウスモノクローナル抗体)を用いて検出した。なお、粘膜固有層細胞のマクロファージ(Mφ)、CD11b+樹状細胞およびCD11b−樹状細胞は、CD45+PI−の粘膜固有層の細胞数でゲートした。 上皮内リンパ球(IEL)および腸上皮細胞(IEC)は、CD3+CD45+PI−およびCD45−PI−の分画(fractions)にそれぞれゲートした。 CD300a(MAIR−I)は、マクロファージ、顆粒球、マスト細胞と樹状細胞を含む骨髄細胞の大部分に発現する([下記文献46])。 上述のように、発明者らは、粘膜固有層上のマクロファージ、粘膜固有層のCD11b+炎症性樹状細胞、CD11b−寛容原性の樹状細胞、腸管上皮細胞(IEL)および腸上皮細胞(IEC)、粘膜固有層のマクロファージについて、CD300a(MAIR−I)の発現を解析し、さらに、CD300a(MAIR−I)を発現した粘膜固有層のCD11b+樹状細胞および粘膜固有層のCD11b−樹状細胞の亜集団を調べた。その結果、腸管上皮細胞(IEL)および腸上皮細胞(IEC)では、CD300a(MAIR−I)を発現していなかった(図21)。 [実施例1J](図22) グリアジンペプチドの受容体が同定されていないが、以前の研究では、グリアジンP31−43ペプチドは初期エンドソームに蓄積し、それらの成熟を阻害することを報告している[下記文献47、48]。 粘膜固有層(LP)のCD11b+樹状細胞をBalb/cのWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスから単離し、in vitroで10時間100mg/mLの中毒性グリアジンペプチドP31−43で刺激した。 グリアジン刺激後のWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)のCD11b+樹状細胞のサイトカインやケモカイン(IL−6、IL−15、TNF−α、IFN−β、MCP1およびMCP5)の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法に解析した。なお、それら遺伝子の発現レベルは、相対的な量で表されており、非処理のWTマウスの遺伝子発現量を基準の「1」としている。 遺伝子発現量を調べた結果、グリアジンペプチドP31−43による刺激後、CD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージは、WTマウスの粘膜固有層のマクロファージと比較して、IL−6、IL−15、TNF−α、IFN−β、MCP1、及びMCP5をより有意に高発現した(図22)。 正常食(ND)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層の炎症性のCD11b+樹状細胞は、正常食(ND)で飼育したWTマウスと比較して、IL−15を高発現した。 [実施例1K]グリアジン誘発性のサイトカイン発現の抑制(図23) 発明者らは、組換えマウスMFG−E8タンパク質を添加することにより、粘膜固有層のマクロファージ上のCD300a(MAIR−I)と、アポトーシス細胞に呈示されているホスファチジルセリン(PS)との間の相互作用を遮断できるか否かを検討した。 B6のWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来の粘膜固有層細胞のマクロファージが、5mg/mLのマウスMFG−E8を用いて、または用いないで前処理され、その後、中毒性グリアジンペプチドP31−43により試験管内で10時間、刺激された。 その後、刺激したマクロファージのIL−6, TNF−αおよびIFN−βの遺伝子発現を定量的RT−PCR法により解析した。遺伝子発現量は、非処理のWTマウスの遺伝子発現量を「1」として比較定量した。 その結果、非処理WTマウスの粘膜固有層のマクロファージと比較して、MFG−E8で処理したWTマウスの粘膜固有層のマクロファージは、IL−6、TNF−αおよびIFN−βの発現を有意に増強させた(図23)。 これらの結果は、粘膜固有層のマクロファージ上のCD300a(MAIR−I)と、アポトーシス細胞上のホスファチジルセリンとの間の相互作用が, MyD88媒介およびTRIF媒介のグリアジンシグナル伝達経路を抑制することで、栄養グルテンに対する過剰な炎症反応を調節することを示している。 これらの結果は、粘膜固有層のマクロファージ上のCD300a(MAIR−I)とアポトーシス細胞上のホスファチジルセリンとの間の相互作用により、MyD88およびTRIFを介したグリアジンシグナル伝達経路を抑制して、食餌グルテンに対する過剰な炎症反応を調節することを示唆している。 [実施例1L](図24) 正常食または高グルテン食を与えているBalb/cのWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスについて大腸の病理組織学的解析を行った。 その結果、高グルテン食(HGD)で飼育したCD300a遺伝子欠損マウスにおける萎縮性変化は、腸では観察されなかった(図24)。 [実施例1M](図25) 正常食または高グルテン食を与えているBalb/cのWTまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来の血清について、抗グリアジンIgGおよびIgA抗体力価を上記方法に従って調べた。 図25において、上段のパネルは各マウスのデータを表している。そして、下段のパネルは、その平均値を表している。その結果、CD300a遺伝子欠損マウスは、高グルテン食を摂食した後に腸症を示したが、グリアジンに対するIgGおよびIgAの力価の増加は認められなかった。 [実施例1N]病理学的分析(図26) 無グルテン食を与えられたWTマウスおよびCD300a遺伝子欠損マウスにおける病理学的分析を行った。 Balb/cのWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスに無グルテン食を与えた。無グルテン食の給餌開始から、各マウスの体重(BW)の変化を経時的にモニターした。その結果、CD300a遺伝子欠損マウスはWTマウスに対して有意に低い体重増加率を示した。 [実施例1O]サイトカイン発現量(図27) WTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)における通常の状態でのCD11b+樹状細胞とマクロファージのサイトカイン発現量について調べた。 粘膜固有層(LP)マクロファージをBalb/cのWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスから単離し、p19の発現を定量的RT−PCR法により解析した。遺伝子発現量はWTマウスを「1」として相対定量で表した。 また、同様に、粘膜固有層(LP)のCD11b+樹状細胞をBalb/cマウスから単離し、IL−15の発現を定量的RT−PCR法により解析した。発現レベルはWTマウスのものを「1」として相対定量で表された。 図27に示すように、CD300a遺伝子欠損マウスは、WTマウスと比較して、p19およびIL−15の遺伝子発現量が有意に多かった。 [実施例1P](図28) 中毒性グリアジンペプチドP31−43で刺激した後のチオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞のマクロファージにおけるサイトカイン発現を調べた。 CD300a遺伝子欠損マウスにおける粘膜固有層のマクロファージだけ高グルテン食(HGD)の授乳後に炎症性サイトカインを大量に生産することを考え、発明者らは、グルテン由来中毒性グリアジンペプチドP31−43がマクロファージの炎症性サイトカインの発現を刺激するか否かを調べた。 チオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞(PEC)のマクロファージは、B6のWTマウスから調製した。そして、100mg/mLの中毒性グリアジンペプチドP31−43またはネガティブコントロール刺激としてのOVAペプチドP323−339でin vitroで3時間刺激した。 刺激を受けた腹腔滲出細胞マクロファージにおけるIL−6、IL−15、TNF−αおよびIFN−βの遺伝子発現を定量的RT−PCR法により解析した。遺伝子の発現レベルはOVAペプチドで感作をしたマクロファージを「1」として相対定量で表された。 グリアジンペプチドP31−43の刺激後、チオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞(PEC)のマクロファージは、コントロールのオボアルブミンペプチドP323−339で感作・刺激したマクロファージと比較して、IL−6、IL−15、TNF−β、およびIFN−αを有意に高発現した(図28) [実施例1Q](図29) CD11b+樹状細胞をBalb/cのWTマウスおよびCD300a遺伝子欠損マウスから単離し、100mg/mL中毒性のグリアジンペプチドP31−43で10時間、試験管内で刺激した。 刺激した粘膜固有層のCD11b+樹状細胞におけるIL−6, IL−15, TNF−α, IFN−β, MCP1およびMCP5の遺伝子発現量を定量的RT−PCR法により解析した。なお。遺伝子の発現レベルはWTマウスを「1」として相対定量で表した。 CD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のCD11b+樹状細胞は、WTマウスの粘膜固有層のCD11b+樹状細胞より、これらサイトカインIL−6, IL−15, TNF−α, IFN−βとMCP1をより多く発現した(図29)。 [実施例1R](図30) グリアジン刺激後のb6のWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)マクロファージにおけるサイトカインやケモカイン発現について調べた。 b6のWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来の粘膜固有層(LP)マクロファージを100mg/mLの中毒性グリアジンペプチドP31−43によりin vitroで3時間、刺激した。 刺激した粘膜固有層(LP)マクロファージのIL−6、TNF−αおよびIFN−βの遺伝子発現を定量的RT−PCR法により解析した。遺伝子の発現量をWTマウスのものを「1」として相対定量で表した。 その結果、CD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージは、WTマウスのものより、IL−6,TNF−α, IFN−βを有意に高発現した(図30)。 粘膜固有層のマクロファージのCD300a(MAIR−I)とアポトーシス細胞上のホスファチジルセリンの間の相互作用は、MyD88を媒介およびTRIF媒介としたグリアジンシグナル伝達経路を抑制した。 in vitroでグリアジンペプチドP31−43で刺激した後、CD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージは、炎症性サイトカインやI型IFNの両方を高度に発現した(図22と図30) これらの結果は、空腸内の粘膜固有層のマクロファージ上のCD300a(MAIR−I)が、食餌グルテン由来の中毒性グリアジンペプチドに対する応答により増強された炎症性サイトカインおよびケモカインの発現を抑制することを実証している。 [実施例1S](図31) 微生物叢を枯渇させたWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウス由来の粘膜固有層(LP)マクロファージ(グリアジンに刺激したもの)におけるサイトカインやケモカイン発現を調べた。 抗生物質処理した、Balb/cのWTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスから粘膜固有層(LP)マクロファージを単離し、100mg/mLの中毒性グリアジンペプチドP31−43によりin vitroで10時間で刺激した。 刺激した粘膜固有層(LP)マクロファージのIL−6、IL−15、TNF−α、IFN−β、MCP1およびMCP5の遺伝子発現を定量的RT−PCR法により解析した。遺伝子発現量はWTマウスのものを「1」として相対定量で表された。 グリアジンにP31−43で刺激したCD300a遺伝子欠損マウスの固有層のマクロファージにおけるTNF−αおよびIFN−βの高発現は、b6のCD300a遺伝子欠損マウスだけでなく(図30)、微生物叢を枯渇させたBalb/cのCD300a遺伝子欠損マウスでも観察された(図31)。 [実施例1T](図32) 単離された粘膜固有層(LP)マクロファージのホスファチジルセリン発現細胞の頻度を調べた。 WTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)マクロファージをアネキシンVで染色または染色せずに、ホスファチジルセリン発現している粘膜固有層(LP)マクロファージを、cd45+PI−CD11b+CD11clowでゲートした集団集団について検出した。なお、アネキシンVにより、アポトーシスによる細胞膜内のホスファチジルセリンの分布の変化を検出することができる。 発明者らは,CD300a(MAIR−I)は新しいホスファチジルセリン(PS)の受容体であり、細菌に対する炎症反応を調節していることを実証した。単離した粘膜固有層のマクロファージは、アネキシンV+細胞を10%未満、含んでいた(図32)。 [実施例1U](図33) チオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞(PEC)のマクロファージをWTマウスから調製し、粘膜固有層(LP)マクロファージは、WTマウスまたはCD300a遺伝子欠損マウスから単離した。 WTマウスとCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層(LP)マクロファージにおけるαvとβ3の各インテグリンサブユニットとホスファチジルセリン受容体の発現を調べた。 [実施例1V](図34) これらのマクロファージ中のαvβ3インテグリンとホスファチジルセリン受容体(TIM−1、TIM−4、Stabiln−2、SR−PSOX、BAI1とMER)の遺伝子発現量を定量的RT−PCR法により解析した。遺伝子の発現量は、WTマウスのチオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞のマクロファージを「1」として相対定量で表された。 粘膜固有層のマクロファージ及びチオグリコール酸誘発性腹腔滲出細胞(PEC)のマクロファージでは、Tim−1を発現しなかった(図33)。 PS受容体として知られているTim−4, stabilin−2, SR−PSOX, BAI1およびMarについても、WTマウスの粘膜固有層のマクロファージとCD300a遺伝子欠損マウスの粘膜固有層のマクロファージ間でそれほど有意な差がなかった(図33、図34)。[文献]1.K.Yotsumotoら、J Exp Med 198,223(2003年7月21日).2.H.kumagaiら、Biochem Biopys Res Commun 307,719(2003年8月1日).3.D.H.Chungら、J Immunol 171,6541(2003年12月15日).4.R.Hanayamaら、Nature 417,182(2002年5月9日).5.M.Miyanishiら、Nature 450,435(2007年11月15日).6.N.Kobayasiら、immunity 27,927(2007年12月).7.S.Y.Parkら、Cell Death Differ 15,192(2008年1月).8.D.Parkら、Nature 450,430(2007年11月15日).9.R.S.Scottら、Nature 411,207(2001年5月10日).10.V.A.Fadokら、J Immunol 148,2207(Apr 1,1992年4月).11.J.Savill,I.Dransfield, C.Gregory,C.Haslett,Nat Rev Immunol 2,965(2002年12月)12.S.Nagata, Annu Rev Immunol 23, 853(2005年)13.V.K.Kuchroo,V.Dardalon, S. 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