タイトル: | 公開特許公報(A)_表面分析用有機物試料の製造方法及びそれを用いた表面分析方法 |
出願番号: | 2012242549 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 1/32 |
小林 孝成 井上 良幸 宗綱 信治 JP 2014092426 公開特許公報(A) 20140519 2012242549 20121102 表面分析用有機物試料の製造方法及びそれを用いた表面分析方法 株式会社UBE科学分析センター 594161998 伊丹 勝 100092820 千且 和也 100103274 小林 孝成 井上 良幸 宗綱 信治 G01N 1/32 20060101AFI20140422BHJP JPG01N1/32 B 4 1 OL 7 2G052 2G052AA13 2G052AB11 2G052AD32 2G052AD52 2G052CA03 2G052CA04 2G052EC18 2G052GA11 2G052GA19 2G052GA24 2G052GA28 2G052JA07 2G052JA09 本発明は、ガスクラスターイオンビーム(GCIB)による表面分析用有機物試料の製造方法及びそれを用いた表面分析方法に関する。 従来、表面分析用の試料断面作製に関しては、モノマーイオンビームによる断面作製や刃物(機械的接触)による断面作製が知られている。 例えば、クロスセクションポリッシャ、FIB等のモノマーイオンビームによる断面作製手法は、主に無機材料について適用される。この理由は、一般的にモノマーイオンビームは数kVで入射イオンを加速させる必要があり、有機材料の加工に用いた場合、イオン衝撃やそこで発生する熱等の要因により、多くの場合、加工面の有機物情報が有機鎖の切断等の要因で破壊されてしまうため、本来必要な情報が失われ、適切な分析面とならないためである。 また、刃物による断面加工は、ミクロトーム、SAICAS等の手法が知られている。これらの手法を用いると、基本的に加工面の有機成分の情報は保持されるが、加工環境や刃先に付着した極微量な汚染物により加工面が汚染され、試料の表面状態に著しく敏感なXPS、TOF−SIMS等の分析装置ではこれらの汚染が問題となり、その結果、クリーニング工程が必要もしくは、最悪の場合評価不能となる。さらに、一般的に刃物による精密分析用の試料断面加工は熟練を要し、加工時間も数時間に及ぶ場合が多い。 また、従来、イオンビームは、多層薄膜試料を分析する際の分析位置のマーキングを行うことにも用いられている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、イオンビームでマーキングを行うことで、試料の特定の位置を分析できる方法が記載されている。特開平4−339236号公報 しかしながら、特許文献1に記載の表面分析方法では、金属イオンビームを用いているため、有機物試料に照射した場合には有機物情報が失われてしまい、有機物試料には応用できないという問題がある。 本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、分析表面の有機物情報を失うことなく、さらに深さ方向分析の空間分析能を向上させ、ナノメートルオーダーの成分分析に用いることができる表面分析用有機物試料の製造方法及びそれを用いた表面分析方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、以上の目的を達成するために、鋭意検討した結果、有機物試料の表面にガスクラスターイオンビームを照射し、該有機物試料の表面に分析用の傾斜断面を有する凹部を形成することで、分析表面の有機物情報を失うことなく、さらに深さ方向分析の空間分析能を向上させ、ナノメートルオーダーの成分分析に用いることができることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は、有機物試料の表面にガスクラスターイオンビームを照射することによって、分析用の傾斜断面を有する凹部を前記有機物試料の表面に形成する工程を備えることを特徴とする表面分析用有機物試料の製造方法に関する。 また、本発明は、上記製造方法により製造された表面分析用有機物試料の前記傾斜断面を分析することを特徴とする表面分析方法に関する。 以上のように、本発明によれば、分析表面の有機物情報を失うことなく、さらに深さ方向分析の空間分析能を向上させ、ナノメートルオーダーの成分分析に用いることができる表面分析用有機物試料の製造方法及びそれを用いた表面分析方法を提供することができる。本発明の製造方法によって表面分析用有機物試料に傾斜断面を有する凹部を製造する工程を示す概略図である。本発明の製造方法によって製造された表面分析用有機物試料の傾斜断面付近の形状を示すプロファイルである。 本発明に係る表面分析用有機物試料の製造方法は、図1に示すように、有機物試料1の表面にガスクラスターイオンビーム3を照射し、前記有機物試料1の表面に分析用の傾斜断面7を有する凹部5(以下、クレータという場合もある。)を形成することを特徴とする。通常、有機物試料表面の深さ方向分析において、ガスクラスターイオンを試料に照射し試料のエッチングを行いながら試料表面を分析する場合、照射されるガスクラスターイオンビーム径に応じて試料に形成された略円柱状の凹部の底面部分を段階的に作製し、その底面部分を段階的に分析する方法が用いられる。しかしながら、本発明は、クレータ5の壁面部分に分析用の傾斜断面7を形成し、その傾斜断面7を分析するため、従来のようなエッチングと分析とを交互に繰り返す必要がなくなる。 従来、凹部の底面部分を段階的に分析する有機物試料表面の深さ方向分析においては、クレータの壁面部分は底面部分に対して垂直であることが理想であるとされている。例えば、エッチングビーム束のぼやけにより、クレータが底面に向かって逆円錐状もしくは逆四角錐状のような形になってしまうと、エッチングの深さが深いほど測定可能な底面の領域は狭まってしまい、装置の測定視野によっては、本来データを取得したい箇所のみならず、壁面部分のデータも一緒に取得してしまうことになる。また、これを回避するために測定視野を狭めると、今度は測定の感度が悪化してしまう。そのため、クレータの壁面部分は底面部分に対してできるだけ垂直に作製することが理想であり技術常識であった。しかしながら、本発明に係る表面分析用有機物試料の製造方法及び表面分析方法では、クレータの壁面部分に注目し、あえて傾斜断面を有するクレータを形成し凹部の底面部分ではなく壁面部分である傾斜断面を分析するといった全く新しい発想によって、深さ方向分析の空間分析能を向上させることに成功した。 ガスクラスターイオンビームは、有機物試料の表面状態を損傷させずにエッチングすることができる。有機物は化学結合が破壊され易いが、ガスクラスターイオンはモノマーイオンビームと比較して巨大クラスターであるため、イオン1個当たりのエネルギーが小さく、試料が有機物試料であっても表面を損傷することなくエッチングすることができる。また、ガスクラスターイオンビームは、クラスターの持つ非線形照射効果により照射面を平坦化する効果を持っており、試料を水平方向に回転させることで、更なる平坦化が可能である。ガスクラスターイオンビームの照射範囲と水平方向の回転との組み合わせにより、クレータの傾斜断面の角度の調整も可能であるため、滑らかな有機物試料の傾斜断面の作製に適している。 本発明で用いられるガスクラスターイオンビームにおいて、照射する粒子(ガスクラスター)を構成する原子または分子としては、不活性ガス原子または分子で構成されたガスクラスターイオンが好ましく、希ガス原子で構成されたガスクラスターイオンがより好ましく、アルゴンで構成されたガスクラスターイオンが特に好ましい。アルゴン等の希ガスのクラスターを用いることで、表面を炭素等で汚染したり、化学結合が変化することなく傾斜断面を形成することができる。また、照射する粒子を構成する原子または分子の数としては、500〜3000個であることが好ましく、1000〜3000個であることがより好ましく、2000〜2500個であることが特に好ましい。原子または分子の数が500個未満では、高加速電圧時の試料損傷が増加し、3000個を超えると、低加速電圧時のエッチングレートが減少するため好ましくない。 また、イオンの加速エネルギーは、2.5〜20keVが好ましい。上記範囲であれば、照射する粒子のイオン1個当たりのエネルギーは平均で1〜20eV程度となり、一般的な有機物の結合エネルギーと同程度となるため、エッチング時に過剰な分子鎖等切断の発生の確率がモノマーイオンによる加工と比較して非常に低く、加工工程で大部分の有機物情報を保持することができるため好ましい。 また、本発明の製造方法において、傾斜断面を有する凹部の形成加工は、好ましくは真空中で機械的な接触なしで行われる。そのため、表面汚染の発生の可能性が極めて低くなる。さらに、本発明の製造方法は、クレータの底面部分を段階的に作製していく必要がないため、基本的な装置の操作を習得すれば、数十分程度の加工時間で実施が可能となり、従来法と比較しても飛躍的に作業のスループットが向上する。 本発明の製造方法によって製造された表面分析用有機物試料は、表面に分析用の傾斜断面を有する凹部が形成されている。上記傾斜断面の傾斜角度は、試料表面の水平方向に対して0.02〜0.05degが好ましい。傾斜断面形成加工は、試料表面の水平方向に対して、浅い角度で加工するほど分析面の引き伸ばし倍率は大きくなる。本発明において試料表面の水平方向とは、試料の厚み方向、すなわち分析される方向に対して垂直の方向を意味する。上記範囲の傾斜角度では、垂直方向に分析する場合と比べて、分析領域が1000〜3000倍となるため好ましい。傾斜角度が0.02deg未満では、より高い倍率の断面が期待されるが、加工時の再現性が悪くなり、傾斜角度が0.05degを超えると、分析に有用な十分な拡大倍率が期待できず好ましくない。 図2に、本発明の製造方法によって製造された表面分析用有機物試料の傾斜断面付近について、触針式表面粗さ計を用いて測定した形状のプロファイルの一例を示す。このプロファイルにおいて、傾斜角度をθ(deg)とすると、傾斜角度は、下記のように0.02(deg)となった。 これより、元の膜厚に対する傾斜処理面の拡大倍率は、下記のように2865倍と算出された。すなわち、垂直方向に分析する場合と比べて、分析領域が約3000倍となったことを意味する。 次に、本発明の製造方法によって製造された表面分析用有機物試料の傾斜断面を分析する方法について説明する。 本発明に係る表面分析方法は、上記製造方法によって表面分析用有機物試料に形成された分析用の傾斜断面(クレータの傾斜のかかった壁面部分)を分析することを特徴とする。それにより、従来のようなエッチングと分析とを交互に繰り返す必要がなく、短時間で分析が可能となる。さらに、多層構造膜からなる有機物試料の断面を分析する場合に、その膜厚によっては垂直方向の分析では十分な空間分解能を得られない分析装置であっても、分析箇所を底面ではなく傾斜断面とすることで、上記の通り分析領域を広げることができるため、深さ方向分析の空間分析能を向上させ、ナノメートルオーダーの成分分析が可能となる。そのため、これまで得られなかったより詳細な有機物情報を得ることができる。 本発明に用いられる分析装置としては、X線光電子分光装置(XPS)、赤外分光装置(IR)、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)などが挙げられ、特に、XPS、TOF−SIMSを用いると、試料の元素分析、化学結合状態を定量することができるため好ましい。例えば、分析装置としてTOF−SIMSを用いた場合、上記傾斜断面形成加工条件にて試料にガスクラスターイオンを照射し有機物試料のエッチングを行い、形成された分析用の傾斜断面に高速のイオンビーム(1次イオン)をぶつけ、その際に表面から放出される2次イオンを飛行時間型質量分析計で分析することで、試料表面の化学構造を調べることができる。また、例えば、分析装置としてXPSを用いた場合、形成された傾斜断面に更にX線を照射し、これに伴う2次電子のエネルギーを観測することで、試料表面の元素組成や化学状態に関する情報を得ることができる。 また、上記XPS、TOF−SIMS分析以外にも、励起ビームとして電子線を用いて、試料から放出される電子(オージェ電子、二次電子等)や反射した電子、透過した電子等を分析してもよく、また励起ビームとしてレーザー光を用いて、試料から放出される光(蛍光)や電子等を分析してもよい。さらに、本発明に係る表面分析方法は、同一真空槽内で被分析試料のエッチングと分析を行ってもよいし、ゲートバルブなどで連結された別々の真空槽で被分析試料のエッチングと分析とを別々に行ってもよい。また、透過電子顕微鏡で分析する場合などのように、分析の種類によっては独立した別々の装置で被分析試料のエッチングと分析とを別々に行ってもよい。 本発明に係る表面分析方法は、有機物試料の表面に対してガスクラスターイオンビームを照射することによって有機物試料に形成された凹部の傾斜断面のうち、試料を水平方向に回転させながらエッチング処理を行わない場合には、ガスクラスターイオンビームの照射方向奥側の傾斜断面を分析することが好ましい。その理由としては、より広域な傾斜断面が期待されるからである。 本発明の製造方法は、有機物試料の表面状態を損傷させずに、表面汚染の発生の可能性が極めて低く表面分析用有機物試料を製造することができるため、あらゆる有機物試料に応用することができる。したがって、有機物試料としては特に制限はないが、例えば有機EL、有機太陽電池、有機半導体などに用いられる有機物試料は、ミクロン〜サブミクロン程度の分解能である上記分析装置(例えばXPS、IR、TOF−SIMS等)において評価される必要性が高いため、特に本発明に好適に用いられる。また、本発明の表面分析方法を用いることにより、従来よりも深さ方向分析の空間分析能を向上させ、ナノメートルオーダーの成分分析が可能となると共に、より短時間での分析を実現することができる。 1 有機物試料 3 ガスクラスターイオンビーム 5 凹部(クレータ) 7 傾斜断面 有機物試料の表面にガスクラスターイオンビームを照射することによって、分析用の傾斜断面を有する凹部を前記有機物試料の表面に形成する工程を備えることを特徴とする表面分析用有機物試料の製造方法。 前記傾斜断面の傾斜角度が0.02〜0.05degである請求項1記載の表面分析用有機物試料の製造方法。 前記ガスクラスターイオンビームのクラスターイオンがAr500〜Ar3000である請求項1又は2記載の表面分析用有機物試料の製造方法。 請求項1乃至3いずれか記載の製造方法により製造された表面分析用有機物試料の前記傾斜断面を分析することを特徴とする表面分析方法。 【課題】分析表面の有機物情報を失うことなく、さらに深さ方向分析の空間分析能を向上させ、ナノメートルオーダーの成分分析に用いることができる表面分析用有機物試料の製造方法及びそれを用いた表面分析方法を提供する。【解決手段】有機物試料1の表面にガスクラスターイオンビーム3を照射することによって、分析用の傾斜断面7を有する凹部5を前記有機物試料1の表面に形成する工程を備えることを特徴とする表面分析用有機物試料1の製造方法である。また、上記製造方法により製造された表面分析用有機物試料1の前記傾斜断面7を分析することを特徴とする表面分析方法である。【選択図】図1