タイトル: | 公開特許公報(A)_皮膚内挙動評価方法 |
出願番号: | 2012236459 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 27/62,G01N 33/50 |
中野 恵介 杉林 堅次 藤堂 浩明 菊池啓介 松井 隆雄 濱邉 好美 JP 2014085292 公開特許公報(A) 20140512 2012236459 20121026 皮膚内挙動評価方法 株式会社コーセー 000145862 株式会社加速器分析研究所 512278272 渡邊 薫 100112874 井上 美和子 100147865 中野 恵介 杉林 堅次 藤堂 浩明 菊池啓介 松井 隆雄 濱邉 好美 G01N 27/62 20060101AFI20140415BHJP G01N 33/50 20060101ALI20140415BHJP JPG01N27/62 VG01N33/50 Q 11 OL 17 2G041 2G045 2G041CA01 2G041EA01 2G041FA10 2G041FA22 2G041FA23 2G041GA09 2G041JA02 2G041LA08 2G045CB09 2G045FB08 本発明は、皮膚内挙動評価方法に関する。 動物やヒトの皮膚は、異物侵入等の防御作用、衝撃や温度の緩衝作用等の役割を行なっている。 近年では、表皮や真皮等への浸透性を高めた高浸透性ビタミン等の薬剤や、薬物が肌を通じて直接血管に吸収されるようにする経皮吸収パッチ等が利用されている。この際に、効率良く薬剤の効能を発揮させるために、必要な層に、必要な薬剤を届けると共に貯留できるように、ドラッグデリバリーを調節することが必要となってくる。 しかし、皮膚は角層、表皮、真皮の多層構造であるため、皮膚用外用剤の効果を最大限に発揮させるためには、基材成分や薬効成分(以下、「被験物質」という)を動物やヒトの皮膚中の標的部位に効果的に届いたかどうかまた貯留しているかどうか等について、種々の系において被験物質の測定が実施され、被験物質の皮膚内動態が評価されてきた。 例えば、動物、ヒト等の摘出皮膚を用いる場合には、生体との整合性に欠け、皮膚内動態を高精度で評価できるとは言い難いものがあった。 また、バイオプシ等の侵襲的な測定では、被験物質の皮膚挙動を直接把握できるものの、ヒトでは被験者への精神的及び身体的負担が著しく大きく、一方で、動物ではヒトとの整合性に欠け、動物愛護の点からも問題がある。 また、IRやラマン、蛍光検出等の非侵襲的な測定では、被験物質の皮膚内挙動を直接把握できるものの(例えば、特許文献1及び2)、被験物質以外の信号も共に拾うため精密な測定ができず、皮膚内動態を高精度で評価できないという問題がある。特開2008−188302号公報国際公開2007/026325号パンフレット さらに、皮膚は、角層、表皮、真皮と多層構造であり、これら各層の性状も異なっているため、それぞれの層にどのように被験物質が届き、また貯留されるかが理解できることが望ましい。具体的には、皮膚の層ごとに塗布した被験物質やその代謝物の量を精度よく測定できることが望ましい。 このように、皮膚において被験物質の皮膚内動態を高精度で評価できる方法が望まれていた。 そこで、本発明は、被験物質の皮膚内動態を高精度で評価できる方法を提供するものである。 本発明者は、鋭意検討した結果、放射性核種を含む被験物質を皮膚に使用してこの被験物質の皮膚内の挙動を加速器質量分析システムにて測定することにより、被験物質の皮膚内動態を高精度で評価できることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、放射性核種を含む被験物質の、皮膚の厚み方向における分布を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法を提供するものである。 また、本発明は、放射性標識された被験物質の、皮膚での経時的変化を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法を提供するものである。 本発明によれば、被験物質の皮膚内動態を高精度で評価できる方法を提供できる。図1は、ブタ耳介の皮膚における塩酸リドカインの挙動を示す図である。縦軸は、被験物質の濃度(μg/ml)を示し、横軸は、皮膚の厚み方向の深さ(x/L)を示す。 左図は放射性同位体14Cで標識された塩酸リドカインの挙動を示すAMS測定の結果である。右図は非標識の塩酸リドカインの挙動を示すLC−MS/MS測定の結果である。図2は、AMS測定及びLC−MS/MS測定の角層−ドナー間分配係数Kを示す図である。図3は、皮膚における被験物質の経時的変化の概要図である。 本開示の被験物質の皮膚内挙動評価方法は、放射性核種を含む被験物質の、(a)皮膚の厚み方向における分布を、又は(b)皮膚での経時的変化を、加速器質量分析システムにて測定することを特徴とするものである。 「皮膚内挙動の評価」として具体的に有り得るケースとして、例えば以下(1)〜(9)のようなことが挙げられ、これは一定の時間間隔で「厚み方向の皮膚」及び/又は「同一平面上にある皮膚」を採取して、RI濃度を測定し、放射性核種を含む被験物質の濃度をTとし、厚み(Z軸)及び同一平面(XY軸)との関係で解析することが可能である。また、これら濃度、厚み、平面の関係をグラフ等にて表示してもよい。ただし、皮膚内挙動の評価は、これら(1)〜(9)の例示に限定されることはない。 (1)「深さ−濃度」(時間固定、採取位置固定)にて、被験物質の浸透をみる。 (2)「時間−濃度」(深さ固定、採取位置は隣にずらしていく)にて、被験物質の貯留、代謝、分解、消失をみる。 (3)「位置−濃度」(深さ固定、時間固定)にて、同一平面内での、被験物質の拡散をみる。 (4)時間の異なる複数の上記(1)「深さ−濃度」を比較する。 (5)位置の異なる複数の上記(1)「深さ−濃度」を比較する。 (6)深さの異なる複数の上記(1)「深さ−濃度」を比較する。 (7)位置の大きく異なる複数の上記(2)「時間−濃度」を比較する。 (8)深さの異なる複数の上記(3)「位置−濃度」を比較する。 (9)時間の異なる複数の上記(3)「位置−濃度」を比較する。 本開示の方法において、上述の解析を行う際に、被験物質の動態学的パラメータを使用してもよく、このパラメータは、最小二乗法(例えば下記(式1)等)により算出することが可能である。 薬物動態学的パラメータの算出方法として、以下の式1を用いることが可能である。ここで、式1中、CXは深さxにおける薬物濃度、Cvehはドナー中の薬物濃度、Lは角層の厚さ、Dは角層中の薬物の拡散定数、Kは角層−ドナー間分配係数、tはドナーの適用時間である。 本開示の方法では、測定試料中の被験物質に存在する放射性核種を利用して測定を行うものである。これにより、被験物質の皮膚内での挙動を評価することが可能となる。好ましくは、放射性核種で標識された被験物質を利用する。 本開示で皮膚内挙動評価をする被験物質は、特に限定されず、無機化合物、有機化合物の何れでもよい。有機化合物として、例えば、炭化水素;基本複素環系;ハロゲン誘導体;酸素、イオウ、窒素から選ばれる原子を含む化合物等が挙げられる。より具体的な有機化合物としては、皮膚に対して有用な作用を示すことが知られているもの、例えば、アミノ酸、ペプチド、蛋白質、脂質、多糖類、オリゴ糖類、セラミド、ビタミン類、これらの誘導体等が挙げられる。 これらの中でも、ニキビ、アセモを防ぐ成分;肌のキメを整える成分;皮膚をすこやかに保つ成分;肌荒れを防ぐ成分;肌をひきしめる成分;皮膚にうるおいを与える成分;皮膚の水分;油分を補い保つ成分;皮膚の柔軟性を保つ成分;皮膚を保護する成分;皮膚の乾燥を防ぐ成分;肌を柔らげる成分;肌にはりを与える成分;肌にツヤを与える成分;肌を滑らかにする成分;日やけを防ぐ成分;日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ成分;乾燥による小ジワを目立たなくする成分等が好ましく、医薬品成分又は医薬部外品の有効成分として用いられている成分が特に好ましい。 前記被験物質は、抽出物(例えば、植物、動物、微生物由来等)及び合成物(例えば化学合成等)の何れでもよい。 測定試料中の被験物質に、加速器質量分析で測定可能な濃度の放射性核種(例えば14C等)が存在している場合には、作業効率及び測定コストの点から、この放射性核種を含む被験物質を測定に利用することが可能である。 さらに、より精度よく被験物質の挙動を評価するために、測定試料に、放射性核種で標識された被験物質を添加して、測定試料中の放射性核種を含む被験物質の濃度を高めることが望ましい。このように、被験物質を放射性核種で標識した標識物を添加した測定試料を加速器質量分析システムで測定する方が、安定的な測定結果が得られるので望ましい。 本開示で使用する放射性核種として、加速器質量分析システム(以下、「AMSシステム」ともいう)にて測定可能な放射性核種であれば特に限定されない。例えば、放射性ベリリウム(ベリリウム7,10(7Be,10Be)等)、放射性炭素(炭素14(14C)等)、放射性アルミニウム(アルミニウム26(26Al)等)、放射性ケイ素(ケイ素32(32Si)等)、放射性塩素(塩素36(36Cl)等)、放射性カルシウム(カルシウム41(41Ca)等)、放射性マンガン(マンガン53(53Mn)等)、放射性ヨウ素(ヨウ素129(129I)等)、放射性水素(トリチウム(3H)等)、等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることが可能である。 放射性核種で標識された被験物質を得る場合には、原料に放射性核種を配合して、有機合成及び微生物生産等の公知の製造方法を利用することが可能である。 また、前記放射性核種を含む被験物質の濃度と皮膚組織の厚み方向との関係に基づき、被験物質の皮膚に対する影響を評価することも可能である。 ここで、「皮膚に対する影響」には、被験物質の浸透、貯留、代謝、分解等による影響が含まれる。 また、放射性核種を含む被験物質が測定試料1mL或いは1g中に、好ましくは0.2Bq〜0.002Bq、より好ましくは0.1Bq〜0.001Bq含まれていることが、精度的な点及び再現性の点で、好適である。 また、放射性核種を構造上含む被験物質と、これと同じ放射性核種を構造上含まない物質との質量割合は、好ましくは1000000〜1:1、より好ましくは10000:1〜100:1である。 なお、本開示における「放射性核種を含む被験物質」の「含む」とは、被験物質の化学構造に含まれていることをいい、「放射性核種を構造上含む被験物質」ともいう。 測定試料中の放射性核種を含む被験物質の濃度を測定する装置として、液体シンチレーションカウンターが挙げられる。 このような放射性核種を構造上含む被験物質の当該被験物質の濃度及び皮膚組織の厚み方向における挙動から被験物質の皮膚に対する影響を評価することが好ましく、この評価にて被験物質の皮膚内での挙動を理解することが可能である。 本開示で使用する「皮膚」は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ウマ等の哺乳動物の由来のものが挙げられる。このうち、ヒト、サル、ブタが、ヒトの皮膚での薬剤の挙動を確認する点で好ましい。さらに、入手容易でヒトの皮膚に近いブタが好適である。 また、使用する部位は、特に限定されず、例えば、顔、包皮、耳、腹部、背部、側腹、そけい部、肩及び臀部等が挙げられる。評価目的に応じて使用する部位を選択すればよいが、薬剤の皮膚内動態を知りたい部位に性状が近い部位の皮膚を使用することが望ましい。また、入手可能な部位でもよく、ヒト新生児包皮や容易に大量入手可能なブタの耳介が、好適である。 また、皮膚は、人工皮膚でもよく、厚みがあり層状となる人工皮膚が望ましい。例えば、三次元皮膚モデル等が挙げられ、この作製方法としては、表皮角化細胞を、培養インサートの液透過性膜の上に播種し、必要により浸漬培養、気液培養等を組み合わせて作製すること等が挙げられる。このとき播種する表皮細胞は、5×102〜5×106cells/cm2程度に(初期)増殖させたものが望ましい。さらにこれに真皮線維芽細胞を加えて、三次元皮膚モデルを作成することもできる。 被験物質含有の測定試料は、被験物質の想定される使用状態に応じて、固体、半固体、液体の何れの形態を選択することができる。例えば、化粧水等の流動性の高い液体で使用することを想定している場合には、測定試料を液体としたり、パッチやパック等で使用することを想定している場合には、測定試薬を半固体(例えばゲル状)としたりすればよい。 本開示の方法では、上記放射性核種を含む被験物質を加速器質量分析システム(以下、「AMSシステム」ともいう)にて測定する。 加速器質量分析(Accelerator Mass Spectrometory)システムとは、加速器を組み込んだ質量分析計と言える(例えば、松崎浩之,「加速器質量分析の原理」,J.Vac.Soc.Jpn(真空),Vol. 50 (2007) No. 7. 2008年01月01日)。 なお、本開示において、測定試料を酸化及びグラスファイト化した後にAMSシステムにて放射性核種を測定する。 本開示の方法では、上記AMSシステムにて、「(a)皮膚の厚み方向における被験物質の分布」及び/又は「(b)皮膚での被験物質の経時的変化」を測定する。 「(a)皮膚の厚み方向における、放射性核種を含む被験物質の分布」を測定することにより、厚み方向における被験物質の単数又は複数の存在位置という分布を明らかにすることができる。なお、「厚み方向」とは、角層、表皮、真皮の層方向ともいう。 より具体的には、皮膚に放射性核種を構造上含む被験物質を前記皮膚に接触させる。接触部分としては、皮膚であれば特に限定されず、角質層を剥離し、表皮又は真皮に被験物質を接触させてもよい。好ましくは放射性核種を含む被験物質を皮膚の最外部層(好適には角層部分)に接触させる。この「接触」とは、塗布、噴霧、被覆、貼付等が挙げられる。 そして、接触させた皮膚を厚み方向に多区分化し、その一区分の皮膚における放射性核種を含む被験物質の存在及びその量をAMSシステムにて明らかにすることができる。さらに、それ以外の区分について同様に放射性核種を含む被験物質の存在及びその量をAMSシステムにて明らかにすることも可能である。 このとき、厚み方向の多区分の皮膚から、一区分の皮膚を単数又は複数採取した皮膚を用いることが好適である。そして、この採取された一区分の皮膚中の放射性核種を含む被験物質をAMSシステムにて測定する。 これにより、放射性核種を含む被験物質の各区分での存在及びその量から、厚み方向における被験物質の分布を明らかにすることができ、これにより被験物質の皮膚内挙動を評価することができる。 同様に、本開示の方法により、厚み方向における被験物質の絶対量、被験物質の浸透や代謝、分解等の皮膚内動態を精密に測定することが可能となり、このような皮膚内動態を評価することができる。 「(b)皮膚での被験物質の経時的変化」を測定することにより、経時的に変化する被験物質を明らかにすることができる。 より具体的には、上述した皮膚に、放射性核種を含む被験物質を接触させる。接触部分としては、皮膚であれば特に限定されず、角質層を剥離し、表皮又は真皮に被験物質を接触させてもよい。好ましくは放射性核種を含む被験物質を皮膚の最外部層(好適には角層部分)に接触させる。この「接触」とは、塗布、噴霧、被覆、貼付等が挙げられる。 また、例えば、「皮膚の深さ−被験物質の濃度」という二次元プロットにおいて、被験物質が皮膚の深い区分まで時間を追う毎に浸透した場合、適用時間に比例して直線性が増してくる(直線=定常状態)。このようにして、種々の被験物質の二次元プロットのデータを得ることで、既知の被験物質における皮膚のある一区分に到達するための適用時間を予測したり、適用時間内に到達するための被験物質の必要濃度を予測することができる。 ある一区分における、ある被験物質の例えば、皮膚の深さが0.4のときの被験物質の濃度を時間に対して求めることができる。 このとき、一定の時間間隔で採取した皮膚を用いることが好適である。なお「一定の時間間隔」とは、特に限定されず、測定者が適宜決めることが可能であり、例えば1分間隔ごと等である。 この採取される皮膚は、厚み方向の一区分の皮膚を単数又は複数採取した皮膚を用いてもよい。これにより、深さ方向の被験物質の経時的変化を理解することが可能となる。 また、この採取される皮膚は、同一平面上の皮膚の一部を単数又は複数採取した皮膚であってもよい。これにより、同一平面上に被験物質が拡散や浸透等していく際の経時的変化を理解することが可能となる。 よって、厚み方向の皮膚又は同一平面上にある皮膚を測定し、皮膚の経時的変化をみることができる。厚み方向の皮膚を測定することで、被験物質の浸透性を理解することが可能となる。 また同一平面上の皮膚の複数箇所を一定間隔で測定することで、被験物質の特定の皮膚部分での経時変化を理解することができる。 本開示の被験物質の皮膚内挙動評価方法のより好適な手順として、(a)皮膚に、放射性核種を含む被験物質を接触させること、(b)接触させた皮膚における厚み方向の多区分から、一区分の皮膚を単数又は複数採取すること、(c)採取された一区分の皮膚中の放射性核種を含む被験物質を加速器質量分析システムにて測定すること、(d)放射性核種を含む被験物質の皮膚の厚み方向における分布を得ること、を含む方法が好適である。 これにより、皮膚の厚み方向における、被験物質の分布を精度よく簡便に理解することができる。 本開示の被験物質の皮膚内挙動評価方法のより好適な手順として、(a)放射性核種を含む被験物質を接触させた後、一定の時間間隔で皮膚を採取すること、(b)採取された皮膚を、加速器質量分析システムにて測定すること、(c)放射性核種を含む被験物質の皮膚での経時的な挙動を評価すること、を含む方法が好適である。 これにより、皮膚(好適には厚み方向の皮膚又は同一平面上にある皮膚)での被験物質の経時的変化を精度よく簡便に理解することができる。一般的に、被験物質のドラックデリバリー能を評価する際に、共焦点ラマン分光法、LC/MS/MS測定法、蛍光測定法、シンチレーションカウンター等の装置や方法が用いられている。 しかし、赤外線吸収スペクトル法及び共焦点ラマン分光法(例えば特許文献1及び2)では、被験物質の皮膚内挙動を直接把握することができるものの、測定のブレが大きく、感度が低く、また被験物質以外の信号をともに拾うため精密測定ができない。 また、蛍光測定法で、被験物質の皮膚内挙動を評価できることが考えられるが、この蛍光測定法では層ごとに塗布した薬剤の量を生体内に存在している被験物質と区別することは可能となるが、代謝物から蛍光物質が外れてしまう場合があるため、安定的な定量が難しい。 また、シンチレーションカウンターで、被験物質の皮膚内挙動を評価することが考えられるが、この場合は、感度が悪いため、被験物質の量及び被験物質を塗布する皮膚面積を多くする必要があり、作業効率や製造コスト、また検出感度や検出精度の点から不利である。 また、後記実施例に示すように、LC/MS/MS測定法で、皮膚層ごとに薬剤及び代謝分解物の量を高感度に測定できるものの、標準物質がない化合物は分析することができず、構造が変わると同定できなくなるためトレイサビリティーに欠ける点があり、前処理、分離、検出等の被験物質ごとに分析法の設定が必要となり、煩雑である。 また、AMSシステムは、超高感度で測定が可能であるためマイクロドーズ臨床試験で用いられていることが知られているが、超高感度が故に試料調製や特殊な補正を行う難しさが生じるため、評価目的に応じて様々な試行錯誤が必要となってくる。 上述のとおり、放射性核種を含む被験物質の各区分での存在及びその量、並びに適用時間から、厚み方向における被験物質の経時的変化及び経時的な分布を明らかにすることができ、これにより被験物質の皮膚内挙動を評価することができる。 斯様に、本開示の方法により、経時的に変化する被験物質の絶対量、経時的に変化する被験物質の浸透や代謝、分解等の皮膚内動態を精密に測定することが可能となり、このような皮膚内動態を高精度で評価することができる。そして、皮膚での薬剤のドラッグデリバリーを評価することができ、さらに薬剤のドラッグデリバリーを調節した薬剤の開発にも寄与することができる。 さらに前記一区分の皮膚の採取をテープストリッピングにて行うことが好適である。このテープストリッピングは、皮膚の一区分を採取することが可能な採取用テープを使用する。このテープストリッピング及びAMSシステムを組み合わせることで、簡便なサンプル処理手順でありながら高精度な測定を可能とする。 皮膚の一区分の厚みは、皮膚の角層、表皮及び真皮の各層を2〜50区分に分けるのが好適である。より具体的には、角層の場合、好ましくは0.4〜10μmであり、表皮の場合、好ましくは4〜100μmであり、真皮の場合、好ましくは40〜1000μmである。 そして、前記採取用テープにて、皮膚に接触させた側から一区分の皮膚を順次採取する。このときに採取される皮膚が角層部分であるのが好適である。角層部分は薬剤の物質を体内に浸透させにくい構造になっているため、この角層部分の被験物質の部分や経時的変化を理解することは被験物質の皮膚内挙動を把握する上で重要である。 本開示の「テープストリッピング」で使用する「採取用テープ」は、特に限定されないが、プラスチックフィルム、紙、布及びアルミ箔等の薄いシート状のテープに粘着剤を塗布した粘着テープ等が挙げられる。当該採取用テープとしては、粘着テープが好適である。 プラスチックフィルムの基材は、植物系及び石油系に分類することができる。石油系が、AMS測定の際のノイズを低減できるので、好適である。 また、プラスチックフィルムの基材として、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)等のポリオレフィン、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド等のアミド系;ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等のケトン系;ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド等の有機イオウ系; ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフタレート系;ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース系プラスチックス、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。 この基材うち、ポリプロピレンが好ましい。 このプロピレンをさらに縦横二軸に延伸させた延伸ポリプロピレン(OPP)が基材として好ましく、この延伸ポリプロピレンをテープ基材に好適に用いることができる。 さらに、ポリプロピレンのテープ基材(ポリプロピレンのフィルム)は、引張強度が10〜120N/cmであるものが好ましく、30〜90N/cmであるものがより好ましい。この引張強度にすることで、テープストリッピングの際にテープのゆがみや切断を生じないようになる。 なお、引張強度の測定条件は、テープ幅:25mm、初期チャック間距離:100mm、引張速度:300mm/分である。 前記テープ基材の厚みは、テープストリッピングの際に切断を生じず、またハンドリングの観点から0.03〜0.4mmであるものが好ましく、0.04〜0.1mmであるものが特に好ましい。 なお、テープ厚みの測定条件は、接触面の直径が5mmのダイヤルゲージにて行った。 前記粘着剤として用いられる高分子として、例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系及びウレタン系等が挙げられる。これは単独で又は複数組み合わせて使用してもよい。このうち、ゴム系及び/又はアクリル系が好適である。これら高分子は、溶剤を使用せずに調製されることが多く、衛生用品にも多く使用されていることに加え、皮膚に適用しても皮膚を荒らさないからである。 前記ゴム系高分子として、例えば、天然ゴム系、イソプレン系、クロロプレンゴム系、スチレン-ブタジエンゴム系、スチレン-ブタジエンゴム系ラテックス系、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)系、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)系、ニトリルゴム系、ブタジエン系等が挙げられる。これは単独で又は複数組み合わせて使用してもよい。 前記アクリル系高分子としては、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等のアクリル樹脂を用いることが好ましい。 前記粘着剤の形態としては、上記高分子を溶剤(例えば、後述の抽出溶媒に用いる有機溶媒等)に溶かしたもの(溶剤型)、水に分散させたもの(無溶剤型、エマルション型、又はラテックスともいう)、高分子を硬化剤や水と化学反応させることにより硬化させるもの(反応硬化型)等が挙げられる。皮膚に適用した際の安全性の観点から、これらのうち、無溶剤型のものが好ましく、ゴム系高分子を用いた無溶剤型の粘着剤が特に好ましい。 また、前記粘着テープの粘着力は、皮膚を均一に、かつ、効率よく採取できるという観点から、好ましくは1〜10N/cm、より好ましくは4〜7N/cmである。粘着力の測定条件 被着体:耐水研磨紙で研磨されたステンレス板 テープ幅:25mm 圧着:2kgゴムローラー1往復 養生:室温20〜40分 引張強度:30mm/分 引張方向:180度方向 粘着剤の種類及び粘着力をより好適な条件にすることで、AMS測定するための一区分の皮膚を皮膚組織から良好に剥離することが可能となる。剥離が不良となると一区分の皮膚の量が不正確になりやすいが、本開示のように粘着剤を調整することで、被験物質の分布や経時的変化の結果の正確さすることができる。これにより、被験物質の皮膚での分布及び経時的変化を精度よく良好に測定することができる。 さらに、粘着テープに付着した皮膚から放射性核種を構造上に含む被験物質を回収する際に、当該被験物質を溶媒に溶解させるのが好適である。これにより、ノイズを低減でき、より精度の高い結果を得ることができる。 溶解の際に皮膚が付着した粘着テープを入れる容器は、溶媒に耐薬剤性があればよく、例えばプラスチック製、ガラス製等が挙げられる。 溶解させるときの物理的手段として、撹拌、振とう、超音波等が挙げられる。 溶解させるときの温度条件は、特に限定されず、被験物質の熱安定性や溶解性に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは、作業効率の点から、4〜40℃程度の常温である。このときの処理時間は適宜調整すればよい。 上記抽出溶媒を除去した放射性核種を構造上含む被験物質含むものをAMSシステムで測定してもよいし、その抽出溶媒に放射性核種を構造上含む被験物質を溶解させた状態のものをAMSシステムで測定してもよい。 抽出溶媒は、特に限定されず、被験物質の溶解性に応じて適宜選択すればよいが、一般的に皮膚に適用する被験物質は有機溶媒に溶解しやすいので、好ましくは、通常の抽出に用いる有機溶媒である。 抽出溶媒として、例えば、アルコール系(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等)、飽和又は環状の炭化水素系(ヘキサン、シクロヘキサン等)、エステル系(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等)、芳香族炭化水素系(例えば、トルエン、キシレン等)、ケトン系(例えばアセトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル系(例えばジエチルエーテル、石油エーテル等)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらを単独で又は複数組み合わせて使用してもよい。 このうち、好ましくは、テープやテープの接着剤からの被験物質の溶解性の観点から、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン及び石油エーテルである。 さらに好ましいのは、水溶性溶媒であり、このうち、炭素数1〜3のアルコール系(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、アセトニトリル、テトラヒドロフラン及びジメチルスルホキシドである。 これらを単独で又は複数組み合わせて使用してもよい。 前記抽出溶媒の使用量は、特に限定されないが、皮膚0.01〜1mgに対して、好ましくは0.1〜5mLであり、より好ましくは、AMS測定の際のノイズ低減でき、抽出溶媒の除去が容易なことから、0.5〜2mLであることが好適である。 以下に、本開示の方法のより具体的な手順を説明する。 また、本開示で使用する「皮膚」は、使用する部位から皮膚を切り取り、切り取った皮膚から毛と脂肪層を除去し、測定に使用するサイズに切り取る。切り取った皮膚を固定部材に固定する、固定部材を支持体に固定することで、PBS等を添加するための槽が内部に形成される。 固定した皮膚にPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を添加し、皮膚を水和する。このときの処理温度は、4〜40℃程度の室温であるのが好ましく、処理時間は5〜30分程度であるのが好ましい。 そして、PBSを除去した後に、水和した皮膚の上に放射性核種を含む被験物質含有の測定試料を接触させて、測定試料で所定時間処理する。このときの処理温度は、4〜40℃程度の室温であるのが好ましく、処理時間は0.5〜3時間程度であるのが好ましい。 測定試料を皮膚に接触後に所定時間処理した後に、適宜測定試料の残分及び皮膚の水分を除去し、この皮膚をPBSで洗浄する。洗浄後に4〜40℃程度の室温にて1〜10分程度風乾する。 水分蒸散量測定装置にて、処理後の皮膚の経皮水分蒸散量初期値を測定する。 処理後の皮膚を支持体から外す。 テープを一定の圧力で処理後の皮膚の上に接着させる。テープを接着させた後に、一定の速度で剥がし、皮膚のストリッピングを行う。このストリッピングにより、皮膚の層がテープに付着することになる。また、ストリッピングの前後でテープの質量を測定することで、ストリッピングにより得られた皮膚量を測定する。 ストリッピングを単数又は複数の回数行う毎に経皮水分蒸散量を測定する。この所定の回数は、好ましくは2〜4回である。 さらに、ストリッピングの回数は、10〜20回の一定回数又は水分含量が50g/m2hなるまで行うのが好適である。 さらに、ストリッピングにて得られたテープから被験物質を抽出することが好適である。これにより、高精度に加速度質量分析システムによる測定を行うことが可能である。 ストリッピングにて得られたテープを容器に入れた後、その容器に溶媒を添加する。添加した後、振盪を行う。振盪の時間は好ましくは0.5〜2時間程度であり、振盪の温度は好ましくは10〜30℃である。被験物質が含まれる抽出液を保管する場合には、低温(1〜4℃)が望ましい。 上述した本開示の方法は、皮膚状態改善や皮膚疾患治療に対する効果的な薬効成分や製剤、投与方法の開発手段を提供することが可能である。 また、本開示の方法によれば、例えば、皮膚外用剤、化粧品、医薬部外品等の皮膚に適用する物質を投与したときの被験物質の皮膚内動態を評価することができる。これにより有効性のみならず安全性の観点からも被験物質の皮膚に対する影響の有無を判定することができる。 また、本開示の方法によれば、皮膚の特定の厚さに浸透した被験物質を測定し、その値を複数人の間で比較又は個人間の異なる時点での値を比較することにより、バリア機能や代謝機能等の皮膚の機能を評価することができる。 本開示の方法であれば、種々の皮膚の機能を評価することができ、その評価基準は適宜検討すればよいが、例えば、以下の(1)〜(5)の評価基準にて、評価(例えば、浸透性、貯留性、安全性、バリア機能、代謝機能等)することが可能である。 (1)被験物質が一定時間内に深いところまで浸透した場合、又は短時間で一定深さまで浸透した場合に、「被験物質の浸透性が高い」と評価することができる。 (2)被験物質が一定深さまで浸透した後、その深さに代謝・消失・浸透・拡散等することなく、留まっている場合に、「被験物質の貯留性が高い」と評価することができる。 (3)真皮まで到達すると安全性が懸念される被験物質について、真皮まで到達していないことが確認できた場合に、「被験物質の安全性が高い」と評価することができる。 (4)「皮膚のバリア機能が高い」と評価する場合には以下のようにして行う:まず、被験物質を複数の健常なバリア機能を有するヒト皮膚に適用し、一般的な皮膚内挙動を把握する。その後、その被験物質を対象ヒト皮膚に適用して得られた皮膚内挙動データを、既知の皮膚内挙動と比較し、バリア機能を評価することができる。例えば、健常なバリア機能を有するヒトよりも、浸透性が高ければ、そのヒトのバリア機能は低いと評価することができる。 (5)「皮膚の代謝機能が低い」と評価する場合には以下のようにして行う:まず、被験物質を複数の健常な代謝機能を有するヒトの皮膚に適用し、一般的な皮膚内挙動を把握する。その後、その被験物質を対象のヒトの皮膚に適用して得られた皮膚内挙動データを、既知の皮膚内挙動と比較し、代謝機能を評価することができる。例えば、健常な代謝機能を有するヒトよりも、その物質の代謝・消失が遅ければ、そのヒトの代謝機能は低いと評価することができる。 なお、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。〔1〕 放射性核種を含む被験物質の、皮膚の厚み方向における分布を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔2〕 皮膚に、放射性核種を含む被験物質を接触させること、 接触させた皮膚における厚み方向の多区分から、一区分の皮膚を単数又は複数採取すること、 採取された一区分の皮膚中の放射性核種を含む被験物質を加速器質量分析システムにて測定すること、 放射性核種を含む被験物質の皮膚の厚み方向における分布を得ること、を含む、前記〔1〕記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔3〕 放射性核種を含む被験物質の、皮膚での経時的変化を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔4〕 放射性核種を含む被験物質を接触させた後、一定の時間間隔で皮膚を採取すること、 採取された皮膚を、加速器質量分析システムにて測定すること、 放射性核種を含む被験物質の皮膚での経時的な挙動を評価すること、を含む、前記〔3〕記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔5〕 前記一定の時間間隔で採取する皮膚が、厚み方向の皮膚又は同一平面上にある皮膚である、前記〔4〕記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 〔6〕 前記一区分の皮膚の採取をテープストリッピングにて行う前記〔2〕、〔4〕又は〔5〕記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 テープストリッピングに使用するテープは、粘着テープが好適である。さらに好適には、粘着テープは、ポリプロピレン製テープ基材及びゴム系粘着剤から構成されるものである。より好適には、粘着テープの粘着力は、1〜10N/cmである。 テープストリッピング後、テープストリッピングにて得られた皮膚が付着したテープから抽出溶媒にて当該皮膚中の被験物質を回収すること、このなかの放射性核種を構造上含む被験物質をAMSシステムにて測定することが好適である。 前記抽出溶媒として、メタノール等の炭素数1〜3のアルコール類が好適である。〔7〕 接触させた側から一区分の皮膚を順次採取する前記〔2〕、〔4〕〜〔6〕の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔8〕 放射性核種を含む被験物質を皮膚の最外部層に接触させる前記〔2〕、〔4〕〜〔7〕の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔9〕 前記採取される皮膚が、角層部分である前記〔2〕、〔4〕〜〔8〕の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔10〕 放射性核種を含む被験物質を前記一区分の皮膚から有機溶媒抽出にて抽出する前記〔2〕、〔4〕〜〔9〕の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。〔11〕 前記放射性核種を含む被験物質の濃度と皮膚組織の厚み方向との関係に基づき、被験物質の皮膚に対する影響を評価する前記〔2〕、〔4〕〜〔10〕の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 次に実施例を挙げ、本技術(本発明)を更に詳しく説明するが、本技術(本発明)はこれら実施例に何ら制約されるものではない。[試験例]ブタ耳介皮膚を用いて、放射線標識された塩酸リドカインの皮膚内挙動を評価した。ドナー溶液の調製: 塩酸リドカイン(試薬特級,SIGMA社製)10μg/mL(in リン酸バッファー(PBS;pH7.4))と、[14C]−塩酸リドカインエタノール溶液(American Radiolabelled Chemicals社製、2.2×1012Bq/mol)を混合し、10ng/mL、4.4×107Bq/molの[14C]−塩酸リドカイン溶液(in PBS)を調整し、ドナー溶液とした。ドナー適用: ブタ耳介皮膚(全国農業共同組合連合会より購入)の毛と脂肪層を除去し、適当なサイズに切った後、角層側にドナーアプライ用セルを両面テープで強固に貼り付けた。セル内にリン酸バッファー(PBS;pH7.4)を添加し、室温(20〜30℃)で15分間皮膚を水和した。PBSを除去した後、セル内にドナー溶液を10mLアプライし、室温にて1時間静置した。ストリッピング: セル内のドナーをパスツールピペットを用いてガラスバイアルに一部回収した後、残分を除去した。皮膚の水分をキムワイプで拭き取り、皮膚をPBSで3回洗浄後、室温にて約5分間風乾した。TEWL計(VAPOSCAN AS−VT100RS,アサヒテクノラボ社製)を用いてTEWLを測定し、初期値を測定した。ピンセットを用いてストリッピング用テープ(3M社製、Scotch(登録商標)375SN、テープ基材:ポリプロピレンフィルム、粘着剤:無溶剤型ゴム系、粘着力:5.6N/cm、引張強度:67N/cm、テープ厚み:0.077mm)を支持体から剥がし、一定の圧力でテープを皮膚に接着させた後、一定の速度で剥がし、皮膚のストリッピングを行った。テープはストリッピング前後に微量天秤で重量を測定し、ストリッピングにより得られた皮膚量を測定した。ストリッピング後のテープはガラスバイアルに入れた。ストリッピングを2回行うごとにTEWLを測定した。ストリッピングは10〜20回の一定回数、またはTEWLが50g/m2hになるまで行った。抽出液の調整: ガラスバイアルに、メタノールを1mL添加した後、浸とう機で室温(20〜30℃)にて1時間振とうした。その後、バイアル中のテープを除去し、測定まで5℃で保管した。なお、ストリッピングされた皮膚 0.01〜1mgに対してメタノール1mLを添加するようにする。試料の酸化及びグラファイト化: 最初に、分取用石英管に安息香酸ナトリウム(2.5mg相当の炭素)を分取した。その後、マイクロピペットを用いて抽出液(メタノール)10μLを分取し、分取用石英管に添加した。試料を室温にて乾燥させた後、線状酸化銅約1gとともに酸化用石英管に入れ、真空下にて溶融・封管した。その後、酸化用石英管をマッフル炉にて850℃で加熱し、試料を酸化した。酸化した試料をマッフル炉より取り出して真空ラインに取り付け、酸化処理にて生成したCO2の単離・精製および定量を行った。精製処理したCO2ガスに約2.1倍モルのH2ガスを添加し、約2.5mgの鉄触媒下で650℃に加熱することにより還元し、グラファイトを作製した。生成したグラファイトの約半量(1mg程度)をアルミニウム製のカソードに充填した。AMS測定: グラファイトを充填したカソードをAMS測定用ホイールに装填し,タンデム型静電加速器質量分析装置(1.5SDH-1型0.6MV Pelletron AMS system,NEC社製)のイオン源(MS-SNICS)に取り付けた。1測定は1000 cycle(約100sec)で行い、3回のデータより同位体比を算出した。また、同時に、AMS用標準試料をAMS測定用ホイールに装填し測定した。AMS用標準試料としては、シュウ酸(NIST Oxalic Acid II 4990C, NIST)、炭素粉末(和光純薬工業社製)と鉄粉(Aldrich Chemical Company社製)を同重量混合したもの、ショ糖(IAEA C6,IAEA)を用いた。解析: 解析ソフト(abc, ver.6.0, NEC社製)を用いて同位体比(14C/12C;pMC)を算出し、下記の式を用いて、試料の14C濃度(Sample 14C,dpm/mL)を算出した。 100pMC(Percentage of Modern Carbon) = 13.56dpm/gC Graphite 14C(dpm)=A(pMC)×0.1356(dpm/gC/pMC)×C量(gC) Sample 14C(dpm/mL)=(Graphite14C(dpm))/Aliquot(mL) テープに回収された薬物濃度(薬物量/角層重量)をx/Lに対してプロットした結果を、図1に示した。LC−MS/MS測定: ドナー溶液としては放射線標識されていない塩酸リドカイン(試薬特級,SIGMA社製)10μg/mL(in PBS)を用いた。以下に示す測定条件でLC―MS/MSにより塩酸リドカインを定量した。 分離カラム:Shodex 5μm、2.0mm i.d.×50mm(昭和電工) ガードカラム:YMC ODS−AM23×4.0mm i.d.S−5μm12nm 溶離液:10mM酢酸:アセトニトリル=7:3 流速:0.2mL/分 カラム温度:40℃ 試料溶液注入量:10μL ランタイム:7.5分質量分析条件MS:API4000(アプライドバイオシステムジャパン) イオン化法:ESI 極性:陽性 測定質量:235.21及び86.10 Vcap電圧:5000(V) ネブライザー圧力:40 乾燥ガス温度:500 乾燥ガス流量:20 薬物動態学的パラメータの算出:ドナーから皮膚へ移行した薬物の角層内の拡散はFickの第2法則を用いて次の式1で表される。ここでCXは深さxにおける薬物濃度、Cvehはドナー中の薬物濃度、Lは角層の厚さ、Dは角層中の薬物の拡散定数、Kは角層−ドナー間分配係数、tはドナーの適用時間である。式1に従って、テープに回収された薬物濃度(薬物量/角層重量)をx/Lに対してプロットし、最小二乗法により薬物の拡散定数D及び分配係数Kを求めた。 図1に示すように、AMS測定による薬物濃度と角層深さのプロットは高い直線性を有していた。これは、LC−MS/MS測定による薬物濃度と角層深さのプロットと同様の結果であった。また、図2に示すように、AMS測定により得られた角層−ドナー間分配係数KはLC−MS/MS測定に得られたKと近いものであった。これらの結果から、本発明の方法を用いることにより、放射線標識された塩酸リドカインの皮膚内挙動が評価できることが示された。また、本発明の方法は、既存のLC−MS/MS測定による方法よりも高感度であることがわかった。 放射性核種を含む被験物質の、皮膚の厚み方向における分布を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法。 皮膚に、放射性核種を含む被験物質を接触させること、 接触させた皮膚における厚み方向の多区分から、一区分の皮膚を単数又は複数採取すること、 採取された一区分の皮膚中の放射性核種を含む被験物質を加速器質量分析システムにて測定すること、 放射性核種を含む被験物質の皮膚の厚み方向における分布を得ること、を含む、請求項1記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 放射性核種を含む被験物質の、皮膚での経時的変化を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法。 放射性核種を含む被験物質を接触させた後、一定の時間間隔で皮膚を採取すること、 採取された皮膚を、加速器質量分析システムにて測定すること、 放射性核種を含む被験物質の皮膚での経時的な挙動を評価すること、を含む、請求項3記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 前記一定の時間間隔で採取する皮膚が、厚み方向の皮膚又は同一平面上にある皮膚である、請求項4記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 前記一区分の皮膚の採取をテープストリッピングにて行う請求項2、4又は5記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 接触させた側から一区分の皮膚を順次採取する請求項2、4〜6の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 放射性核種を含む被験物質を皮膚の最外部層に接触させる請求項2、4〜7の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 前記採取される皮膚が、角層部分である請求項2、4〜8の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 放射性核種を含む被験物質を前記一区分の皮膚から有機溶媒抽出にて抽出する請求項2、4〜9の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 前記放射性核種を含む被験物質の濃度と皮膚組織の厚み方向との関係に基づき、被験物質の皮膚に対する影響を評価する請求項2、4〜10の何れか1項記載の被験物質の皮膚内挙動評価方法。 【課題】 被験物質の皮膚内動態を高精度で評価できる方法を提供すること。【解決手段】 放射性核種を含む被験物質の、皮膚の厚み方向における分布を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法;放射性標識された被験物質の、皮膚での経時的変化を、加速器質量分析システムにて測定する、被験物質の皮膚内挙動評価方法。これにより、被験物質の皮膚内動態を高精度で評価できる。そして、皮膚での薬剤のドラッグデリバリーを評価することができ、さらに薬剤のドラッグデリバリーを調節した薬剤の開発にも寄与することができる。【選択図】なし