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タイトル:公開特許公報(A)_ポリアルキレンイミン誘導体を含むウイルス感染症治療薬
出願番号:2012235086
年次:2014
IPC分類:A61K 31/785,A61P 31/12,A61P 31/22


特許情報キャッシュ

米谷 芳枝 林 京子 甲斐 敬 JP 2014084306 公開特許公報(A) 20140512 2012235086 20121024 ポリアルキレンイミン誘導体を含むウイルス感染症治療薬 株式会社日本触媒 000004628 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 藤井 愛 100125508 野村 和歌子 100135909 米谷 芳枝 林 京子 甲斐 敬 A61K 31/785 20060101AFI20140415BHJP A61P 31/12 20060101ALI20140415BHJP A61P 31/22 20060101ALI20140415BHJP JPA61K31/785A61P31/12A61P31/22 8 5 OL 13 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086FA03 4C086MA01 4C086MA04 4C086MA63 4C086NA14 4C086ZB33 本発明はウイルス感染症治療薬に関する。本発明は特に、ポリアルキレンイミン誘導体を含む、ウイルス感染症を治療または予防するための医薬組成物に関する。 近年、様々なウイルスが引き起こすウイルス感染症が大きな問題となっている。例えば単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)は、初感染後に潜伏感染し、回帰発症して性器ヘルペスを起こす病原体である。その罹患率は高く、現在の薬剤による治療法では一生涯潜伏感染から抜け出すことは不可能であるとされる。さらに最近になって、HSV−2はヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染拡大や発症刺激の因子としても注目されるようになってきており(例えば非特許文献1参照)、HSV−2感染症の薬物療法はエイズ対策の上からも重要な課題となっている。 現在ヘルペス治療薬としては、抗ウイルス薬であるアシクロビルやビダラビン等の核酸アナログが知られている。しかしこれらの抗ウイルス薬は、ウイルス感染細胞内に入ってウイルス増殖を阻害するため、ウイルス側が薬剤の影響から抜け出すために変異を起こし薬剤耐性を獲得する可能性が高く、治療が長期に及ぶ場合には薬剤耐性ウイルスの出現に注意する必要がある。そこで、これまでの治療薬とは作用機序が異なるウイルス感染症治療薬が求められている。 本発明者らは、これまでの研究の結果、従来の抗ウイルス薬とは異なる作用機序を有するウイルス感染症治療薬として、所定の分子量を有するポリアルキレンイミンが有効であることを見出している(特許文献1参照)。国際公開第2010/044390号パンフレットワルドら、「ジャーナル オブ インフェクシャスディジーズ」(Wald et al., J. Infect. Dis., 185, p.45-52, 2002) ポリアルキレンイミンを用いた抗ウイルス薬の実用化のためには、その抗ウイルス活性をより高め、かつ細胞毒性を低下させることが要求される。本発明は、ポリアルキレンイミンを応用し、従来よりも優れた抗ウイルス薬を提供することを目的とする。 本発明者らはポリアルキレンイミンの抗ウイルス活性についてさらに研究を進めた結果、ポリアルキレンイミンの特定の誘導体が極めて優れた抗ウイルス活性を有し、かつ細胞毒性も低いことを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。(1)ポリアルキレンイミン誘導体を含むウイルス感染症を治療または予防するための医薬組成物であって、前記ポリアルキレンイミン誘導体が分岐状ポリアルキレンイミンに基づくものであり、かつ該分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の少なくとも一部が第1級アミノ基を修飾可能な化合物との反応により修飾された構造を有することを特徴とする、前記組成物。(2)前記第1級アミノ基を修飾可能な化合物が、アルキレンカーボネート、脂肪族イソシアネート、ならびに脂肪族カルボン酸のハロゲン化物および無水物(ここで、脂肪族イソシアネートおよび脂肪族カルボン酸における炭素原子はハロゲンにより置換されていてもよい)から選択される、(1)に記載の組成物。(3)前記分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の少なくとも10モル%が修飾されている、(1)または(2)に記載の組成物。(4)前記分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の数が、全体に含まれるアミノ基の数の25〜45モル%である、(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。(5)前記第1級アミノ基が修飾された構造が下記式:[式中、Xは酸素原子、−NH−、または炭素原子を表し、Yは水素または水酸基を表し、nは0〜6から選択される整数であり、該構造中に含まれる炭素原子はハロゲンにより置換されていてもよく、ただしXが酸素原子または−NH−である場合、nは0ではない]で示される、(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。(6)ポリアルキレンイミン誘導体を20mg/mL以下の濃度で含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。(7)ウイルス感染症がヘルペスウイルス感染症である、(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。(8)外用投与剤である、(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。 本発明により、従来の抗ウイルス薬とは異なる作用機序を有し、かつ従来の薬剤と同等以上の抗ウイルス活性を有するウイルス感染治療薬が提供される。本発明に係るウイルス感染治療薬は、薬剤耐性ウイルスが出現しにくい点において有利である。処理前のポリエチレンイミン(SP−012)のFT−IRスペクトルである。90%エチレンカーボネート処理ポリエチレンイミン(EC−PEI(90))のFT−IRスペクトルである。50%エチレンカーボネート処理ポリエチレンイミン(EC−PEI(50))のFT−IRスペクトルである。10%エチレンカーボネート処理ポリエチレンイミン(EC−PEI(10))のFT−IRスペクトルである。動物感染試験の試験A(ウイルス感染1時間前から投与開始)における発症スコアの推移を示すグラフである。動物感染試験の試験A(ウイルス感染1時間前から投与開始)におけるマウス生存率の推移を示すグラフである。動物感染試験の試験B(ウイルス感染1時間後から投与開始)における発症スコアの推移を示すグラフである。動物感染試験の試験B(ウイルス感染1時間後から投与開始)におけるマウス生存率の推移を示すグラフである。 本発明のウイルス感染治療薬は、ポリアルキレンイミン誘導体を有効成分として含む医薬組成物である。本発明におけるポリアルキレンイミン誘導体とは、ポリアルキレンイミンを所定の化合物と反応させることにより変性させた化合物を意味する。 ポリアルキレンイミンとは、例えばエチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ジメチルエチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、ヘプチレンイミン、オクチレンイミンといった炭素数2〜8のアルキレンイミン、特に炭素数2〜4のアルキレンイミンの1種または2種以上を常法により重合して得られるポリマーを意味する。これらのポリアルキレンイミンの中でも、ポリエチレンイミン(PEI)が本発明において特に好ましい。 ポリエチレンイミンは、例えばエチレンイミンを二酸化炭素、塩酸、臭化水素酸、p−トルエンスルホン酸、塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素などを触媒として開環重合させるなどの製法により合成することができるポリマーであり、接着、コーティング、ラミネートなどの幅広い分野で広く使用されている。本発明に用いることができる具体的なポリエチレンイミンとしては、例えば日本触媒社から市販されているエポミン(登録商標)(型番:SP−003、SP−006、SP−012、SP−018およびSP−200)やBASF社から市販されているルパゾール(Lupasol, 登録商標)などを挙げることができる。 ポリエチレンイミンを含むポリアルキレンイミンは、製法を選択することによって様々な分子量のものを合成することができ、また直鎖状あるいは分岐状のものを合成することができる。本発明におけるポリアルキレンイミン誘導体は、下記の式で例示される分岐状ポリエチレンイミンのような、分岐状ポリアルキレンイミンに基づくものである。 ポリアルキレンイミンの分岐の程度は、分子骨格中に存在する第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基の存在比で表すことができる。各アミノ基の比は特に限定されるものではないが、第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基が全体のアミノ基に対してそれぞれ25〜45モル%、35〜50モル%、20〜35モル%を占めているものを好適に用いることができ、特に第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基が全体のアミノ基に対してそれぞれ30〜40モル%、30〜40モル%、25〜35モル%、中でもそれぞれ35モル%、35モル%、30モル%を占めているものを好適に用いることができる。なお、ポリアルキレンイミンの分岐の程度は、13C−NMR測定を行い、得られたスペクトルから算出することができる。 ポリアルキレンイミンは様々な分子量をとりうるが、本発明のポリアルキレンイミン誘導体のベースとなるポリアルキレンイミンの重量平均分子量は300〜400,000、特に重量平均分子量が300〜30,000、中でも2,000〜30,000、とりわけ2,000〜25,000の範囲であることが好ましく、2,000〜5,000の範囲が最も好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは水溶性糖類(和光純薬社製マルトトリオースおよびマルトヘキサオース、ならびに昭和電工社製プルランP−82など)を標準物質として用いてGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)法によって測定したものである。 本発明のポリアルキレンイミン誘導体は、分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の少なくとも一部、好ましくは5モル%以上、特に8モル%以上、とりわけ10モル%以上が、第1級アミノ基を修飾可能な化合物と反応することにより修飾されている構造を有することを特徴とする。また、分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基のうち修飾されているものが95モル%以下、特に90モル%以下、とりわけ80モル%以下であり、全ての第1級アミノ基が修飾されていないことが好ましい。 ここで、第1級アミノ基を修飾可能な化合物とは、好ましくは第1級アミノ基と選択的に反応し、例えばアミノ基をアミド基に変換するような化合物を意味する。第1級アミノ基を修飾可能な化合物の具体例としては、アルキレンカーボネート、脂肪族イソシアネート、ならびに脂肪族カルボン酸のハロゲン化物および無水物が挙げられる。アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、およびブチレンカーボネートなどが挙げられる。脂肪族イソシアネートとしては、イソシアン酸メチル、イソシアン酸エチル、イソシアン酸プロピルなど、炭素数1〜8の直鎖または分岐状の、飽和または不飽和炭素鎖(該炭素鎖は好ましくは直鎖であり、炭素原子は1以上のハロゲンにより置換されていてもよい)を有するイソシアネートが挙げられる。 脂肪族カルボン酸(例えば、アルキルカルボン酸)のハロゲン化物および無水物としては、炭素数1〜8の直鎖または分岐状の、飽和または不飽和炭素鎖(該炭素鎖は好ましくは直鎖であり、炭素原子は1以上のハロゲンにより置換されていてもよい)を有するカルボン酸のハロゲン化物および無水物が挙げられる。なお、本明細書において、ハロゲン(ハロ)はフッ素(フルオロ)、塩素(クロロ)、臭素(ブロモ)またはヨウ素(ヨード)を意味する。アルキルカルボン酸のハロゲン化物および無水物の具体例としては、塩化アセチル、無水酢酸、塩化プロピオニル、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸などが挙げられる。第1級アミノ基を修飾可能な化合物としてはアルキレンカーボネート、特にエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートが反応性およびコストの面から好ましい。 分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基が、第1級アミノ基を修飾可能な化合物と反応することにより修飾されている構造としては、例えば下記式で表される構造が挙げられる。上記式において、Xは酸素原子、−NH−、または炭素原子を表し、Yは水素または水酸基を表し、nは0〜6から選択される整数である。該構造中に含まれる炭素原子はハロゲンにより置換されていてもよい。ただしXが酸素原子または−NH−である場合、nは0ではない。上記式中の−NH−は、分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の残基を示す。好ましくは、Xは酸素原子であり、nは1〜6(より好ましくは1〜4)から選択される整数であり、Yは水酸基である。 本発明の医薬組成物はポリアルキレンイミン誘導体を20mg/mL以下、特に15mg/mL以下、とりわけ10mg/mL以下の濃度で含有することが好ましい。 本発明の医薬組成物は、ポリアルキレンイミン誘導体を、そのままで、あるいは薬理学的に許容される各種製剤補助剤と混合して製剤化することができる。一般的には、目的に応じて経口投与、静脈内投与、局所投与、経皮もしくは経粘膜投与などの使用に適した剤形で投与される。各種の剤形としては、例えば経口投与のための内服剤、経静脈投与を含む非経口投与のための注射剤、あるいは経皮もしくは経粘膜投与を含む外用投与のための外用剤(外皮用剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、口腔剤もしくは吸入剤など)が挙げられる。なお、外用剤とは内服剤及び注射剤を除いた人体へ直接用いる全ての薬剤を意味する。また外用投与とは目、鼻、耳、口腔、肛門、皮膚もしくは粘膜に直接薬剤を投与することを意味し、経皮もしくは経粘膜投与がこれに含まれる。本発明の医薬組成物は外用投与剤とすることが特に好ましい。 本発明の医薬組成物において、ポリアルキレンイミン誘導体はリポソームと共に含有されていてもよい。リポソームとは、リン脂質2分子膜からなり、中に水を含む閉鎖系の脂質小胞体(ベシクル(vesicle))である。本発明で用いるリポソームの種類としては特に制限はなく、多重ラメラ小胞(MLV)、単ラメラ小胞(SUV、LUV)などのいずれのタイプでもよく、またその調製法も薄膜法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、逆相蒸発法、界面活性剤除去法、エタノール注入法など公知のいずれの手法を用いてもよい。また得られたリポソームの粒径をエクストルーダーや高圧乳化機、超音波等を用いて調整してもよい。 リポソーム膜成分としてはリン脂質など公知の各種脂質を使用することができる。例えば天然由来のホスファチジルコリン(卵黄レシチン、大豆レシチンなど)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、セラミド、スフィンゴミエリンやこれらの水添品、および合成により得られるジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジセチルホスフェート、ジヘキサデシルホスフェート、ジオクタデシルジメチルアンモニウム塩、ステアリルアミン、ならびにその他の人工脂質等を単独または混合して使用できる。 また、リポソーム膜成分として、膜を物理的又は化学的に安定させたり、膜の流動性を調節したりするためにコレステロール、コレステロールコハク酸、硫酸コレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等の動物由来のステロール、あるいはスチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の植物由来のステロール(フィトステロール)を単独または混合して使用できる。 製造時に用いる成分によって、リポソームを正荷電または負荷電のもの、あるいは中性のもの(すなわち正にも負にも荷電していないもの)とすることができる。本発明においてポリアルキレンイミン誘導体と併用するリポソームとしては、中性もしくは負荷電のリポソームが好ましい。中性のリポソームとしては、例えば卵黄レシチンや大豆レシチンといった中性のリン脂質とコレステロールなどの中性のステロールとを用いて製造されたものが挙げられる。負荷電のリポソームとしては、例えば中性の脂質と中性のステロールに加えて、硫酸コレステロールのような負に荷電したステロールを用いて製造されたもの(本明細書において、硫酸コレステロールを膜成分として含むリポソームを硫酸コレステロールリポソームと称する)、あるいは予め調製した中性リポソームをオレイン酸のような脂肪酸などで修飾して製造されたものが挙げられる。リポソームを他の化合物で修飾する方法は当業者に知られている。なお、本発明で用いるリポソームの粒径は特に限定されるものではないが、例えば0.15μm以下であるとより好ましい。中性または負荷電のリポソーム、特に負荷電のリポソームと併用することにより、ポリアルキレンイミン誘導体を細胞内に運ぶことができ、ポリアルキレンイミン誘導体の抗ウイルス作用を細胞内でも発揮させることが可能となると考えられる。 本発明の医薬組成物は、ポリアルキレンイミン誘導体以外の他の活性物質を含んでいてもよい。他の活性物質としては公知の抗ウイルス薬、例えばアシクロビル、バラシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ビダラビン、イドクスウリジン、ソリブジン、ブリブジン、ガンシクロビル、バルガンシクロビル塩酸塩、ホスカルネットナトリウム水和物、オセルタミビル、ザナミビル、アマンタジン、リマンタジン、ジドブジン、ジダノシン、ザルシタビン、サニルブジン、ラミブジン、アバカビル、テノホビル、エムトリシタビン、ネビラピン、エファビレンツ、デラビルジン、インジナビル、サキナビル、ロピナビル、リトナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、アタザナビル、ホスアンプレナビル、エンフュービルタイド、アデフォビル、エンテカビルおよびリバビリン、ならびにポビドンヨード等のヨウ素系消毒剤およびクロルヘキシジンのような殺ウイルス効果を有する消毒剤が挙げられる。 本発明の医薬組成物は、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)およびサイトメガロウイルス(CMV)等のヘルペスウイルス科に属するウイルス(これらをヘルペスウイルスと総称する)、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス(これらをインフルエンザウイルスと総称する)等のオルトミクソウイルス科に属するウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等のレトロウイルス科に属するウイルス、麻疹ウイルスおよびムンプスウイルス等のパラミクソウイルス科に属するウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルスおよびA型肝炎ウイルス等のピコルナウイルス科に属するウイルス、B型肝炎ウイルス等のヘパドナウイルス科に属するウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルスおよび西ナイルウイルス等のフラビウイルス科に属するウイルス、ヒトアデノウイルス等のアデノウイルス科に属するウイルス、コロナウイルス、SARSウイルス等のコロナウイルス科に属するウイルス、風疹ウイルス等のトガウイルス科に属するウイルス、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス等のラブドウイルス科に属するウイルス、エボラウイルス等のフィロウイルス科に属するウイルス、ならびにヒトパピローマウイルス(HPV)等のパポーバウイルス科に属するウイルスといった種々のウイルスに対して抗ウイルス作用を有し、これらのウイルスへの感染により発症する感染症の治療に有効である。例えば、本発明の医薬組成物は、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、麻疹ウイルス、ポリオウイルスおよびライノウイルスに対して優れた抗ウイルス作用を有し、これらのウイルスへの感染により発症する感染症の治療に有効である。これらの中でも、本発明の医薬組成物は、ヘルペスウイルス科、オルトミクソウイルス科、レトロウイルス科、パラミクソウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科、コロナウイルス科、トガウイルス科およびラブドウイルス科等に属するエンベロープを有するウイルス、特にヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルスおよびヒト免疫不全ウイルスのようなエンベロープを有するウイルスに対して優れた抗ウイルス作用を有し、これらのウイルスへの感染により発症する感染症の治療に有効である。本発明の医薬組成物は、ウイルスに感染する前に投与する予防薬としても、ウイルス感染の後に投与する治療薬としても使用することができる。 とりわけ本発明の医薬組成物は、ヘルペスウイルスへの感染により発症する口唇ヘルペス、ヘルペス口内炎、ヘルペス角膜炎、性器ヘルペス、新生児ヘルペス、水痘および帯状疱疹等のヘルペスウイルス感染症の予防または治療に有効であり、中でも単純ヘルペスウイルス2型の感染により発症する性器ヘルペスの予防または治療に特に有効である。さらに本発明の医薬組成物は、アシクロビルなどの従来の抗ウイルス薬に対する耐性を獲得したウイルスに対しても有効である。また本発明の医薬組成物は、これらの他にもインフルエンザ、AIDS、麻疹、おたふくかぜ、ポリオ、かぜ症候群、肝炎、日本脳炎、西ナイル熱、SARS、風疹、狂犬病、エボラ出血熱、尖圭コンジローマ、疣および子宮頸がんの予防あるいは治療にも有効である。 本発明は、別の側面において、上述のポリエチレンイミン誘導体を被験体、すなわち患者に投与することを含む、ウイルス感染を治療または予防する方法に関する。また、本発明は別の側面において、ウイルス感染を治療または予防するための、あるいはウイルス感染を治療または予防するための医薬の製造における上述のポリエチレンイミン誘導体の使用に関する。 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。1.エチレンカーボネート処理ポリエチレンイミン(EC−PEI)サンプルの調製(1)90%EC処理PEI(EC−PEI(90)) 冷却管、窒素導入管、試薬投入口、撹拌翼を備えた200mlガラス製セパラブルフラスコに、ポリエチレンイミン(エポミンSP−012、分岐状、GPC法による重量平均分子量3,610、含有アミノ基の比が1級:2級:3級=1:2:1)50gを仕込んだ。攪拌しながら反応容器内を窒素置換した後、試薬投入口よりエチレンカーボネート(和光純薬製)23.0g(0.261mol、エポミンSP−012に含まれる1級アミノ基の90モル%当量)を少量ずつ添加した。エチレンカーボネートを全量添加した後、室温で3時間攪拌してポリエチレンイミンの1級アミノ基とエチレンカーボネートとを反応させた。反応物の1H−NMRおよび13C−NMR測定を行い得られたスペクトルを解析したところ、反応前のポリエチレンイミンに含まれていた1級アミノ基のうち約84モル%がエチレンカーボネートと反応していることがわかった。また、電位差滴定により得られたEC−PEIのpKa値を測定したところ水中、25℃で7.04であった。一方、処理前のPEI(SP−012)のpKa値は7.77であった。処理前のPEI(SP−012)および得られたEC−PEIのFT−IRスペクトルを、それぞれ図1および図2に示す。スペクトル中、1650cm−1付近の吸収ピークがエチレンカーボネートの付加により生じたカルボニル(C=O)の吸収を示す。(2)50%EC処理PEI(EC−PEI(50)) エチレンカーボネートの量を12.8g(0.145mol、エポミンSP−012に含まれる1級アミノ基の50モル%当量)とした以外は上記(1)と同様にした。反応物の1H−NMRおよび13C−NMR測定を行い得られたスペクトルを解析したところ、反応前のポリエチレンイミンに含まれていた1級アミノ基のうち約53モル%がエチレンカーボネートと反応していることがわかった。また、電位差滴定により得られたEC−PEIのpKa値を測定したところ水中、25℃で7.29であった。得られたEC−PEIのFT−IRスペクトルを図3に示す。(3)10%EC処理PEI(EC−PEI(10)) エチレンカーボネートの量を2.56g(0.0291mol、エポミンSP−012に含まれる1級アミノ基の10モル%当量)とした以外は上記(1)と同様にした。反応物の1H−NMRおよび13C−NMR測定を行い得られたスペクトルを解析したところ、反応前のポリエチレンイミンに含まれていた1級アミノ基のうち約10モル%がエチレンカーボネートと反応していることがわかった。また、電位差滴定により得られたEC−PEIのpKa値を測定したところ水中、25℃で7.36であった。得られたEC−PEIのFT−IRスペクトルを図4に示す。2.細胞毒性試験および抗ウイルス活性試験(in vitro) Vero細胞(アフリカミドリザル腎由来細胞)を用いて各サンプルの細胞毒性を試験した。96穴プレートにVero細胞を培養し、種々の濃度に希釈したサンプルを加えた。72時間培養し、トリパンブルー染色法で生細胞数をカウントし、50%細胞増殖阻害濃度(CC50)を求めた。 さらに、Vero細胞を用いて、単純ヘルペスウイルス1型および2型(HSV−1/HSV−2)に対する各サンプルの増殖抑制効果を調べた。Vero細胞を48穴プレートに培養した。24時間後にHSV−2を0.1PFU(プラーク形成単位)/cellとして室温で1時間感染させた後、37℃で培養した。各サンプルは、ウイルス感染と同時に加え、各サンプルの存在下で培養を行った。感染24時間後、細胞と培地を収穫し、凍結融解を3回繰り返した後、Vero細胞懸濁液の上澄み液の感染性を滴定することによりウイルスの複製の程度を評価した。結果から、各サンプルの50%ウイルス増殖阻害濃度(IC50)を求めた。また、CC50と併せて選択指数(CC50/IC50)を求めた。 未処理のPEI(SP−012)と各種EC−PEIとについて行った試験の結果を表1にまとめた。値は3回のアッセイの平均値である。HSV−1および2のいずれにおいても、EC−PEIは殆どの場合においてPEIよりも優れた選択指数を示した。3.動物感染試験 BALB/cマウス(雌、5〜6週齢)(n=5)に、メドロキシプロゲステロン(3mg/0.1mL/匹)をウイルス接種の6日前および1日前に皮下注射した。マウスの局所(性器)にHSV−2を1匹当たり20μLずつ(1x104PFUのウイルスを含有)接種した。サンプルの投与は、感染当日は感染1時間前(試験A)または感染1時間後(試験B)から開始し、1日2回(午前9時、午後6時)のペースで感染7日後まで続けた。各PEIサンプルに加えて、対照として生理食塩水、および公知の抗HSV剤であるアシクロビル(ACV)について試験を行った。対照およびACV以外の各サンプルは、1回あたり0.2mg/20μL/匹のPEIを含むように調製した。ACVは1%生理食塩水溶液として用いた。 感染3日後に局所をPBSで洗浄し、洗浄液中のウイルス量を、Vero細胞を用いたプラークアッセイ法により測定した。また、発症スコア(0:無症状、1:局所の軽度の炎症、2:浮腫を伴う中等度の炎症、3:浸出液のみられる重度の炎症、4:後肢の麻痺、5:死亡)および生存率を記録した。 ウイルス量の測定結果を表2にまとめた。試験Aおよび試験Bのいずれにおいても、EC−PEIは殆どの場合において、未処理のPEIはもとより、公知の抗HSV剤であるアシクロビルよりも優れた結果を示した。中でもEC−PEI(10)とEC−PEI(50)はいずれの試験においても特に優れた結果を示した。 試験Aおよび試験Bにおける発症スコアの平均値またはマウス生存率の推移を表すグラフを図5〜8に示す。いずれの試験においても、EC−PEIを用いた場合には、HSV−2による症状の発現がほぼ完全に抑制され、マウスの死亡例はみられなかった。この結果はACVよりも優れたものであると判断された。 ポリアルキレンイミン誘導体を含むウイルス感染症を治療または予防するための医薬組成物であって、前記ポリアルキレンイミン誘導体が分岐状ポリアルキレンイミンに基づくものであり、かつ該分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の少なくとも一部が第1級アミノ基を修飾可能な化合物との反応により修飾された構造を有することを特徴とする、前記組成物。 前記第1級アミノ基を修飾可能な化合物が、アルキレンカーボネート、脂肪族イソシアネート、ならびに脂肪族カルボン酸のハロゲン化物および無水物(ここで、脂肪族イソシアネートおよび脂肪族カルボン酸における炭素原子はハロゲンにより置換されていてもよい)から選択される、請求項1に記載の組成物。 分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の少なくとも10モル%が修飾されている、請求項1または2に記載の組成物。 分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の数が、全体に含まれるアミノ基の数の25〜45モル%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。 前記第1級アミノ基が修飾された構造が下記式:[式中、Xは酸素原子、−NH−、または炭素原子を表し、Yは水素または水酸基を表し、nは0〜6から選択される整数であり、該構造中に含まれる炭素原子はハロゲンにより置換されていてもよく、ただしXが酸素原子または−NH−である場合、nは0ではない]で示される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。 ポリアルキレンイミン誘導体を20mg/mL以下の濃度で含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。 ウイルス感染症がヘルペスウイルス感染症である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。 外用投与剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。 【課題】本発明は、従来よりも優れた抗ウイルス薬を提供することを目的とする。【解決手段】本発明によりポリアルキレンイミン誘導体を含むウイルス感染症を治療または予防するための医薬組成物が提供される。該ポリアルキレンイミン誘導体は、分岐状ポリアルキレンイミンに基づくものであり、かつ該分岐状ポリアルキレンイミンに含まれる第1級アミノ基の少なくとも一部が第1級アミノ基を修飾可能な化合物との反応により修飾された構造を有することを特徴とする。【選択図】図5


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