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タイトル:公開特許公報(A)_ヒドリド金属錯体を用いて水素分子から電子を取り出す方法、および基質を還元する方法
出願番号:2012233783
年次:2014
IPC分類:C09K 3/00,C07D 213/22,C07F 15/02,C07F 15/04,C07F 17/02,C07F 9/141,C07C 211/11,C07C 255/03,C07D 279/36,C07D 219/02,C07B 61/00


特許情報キャッシュ

小江 誠司 松本 崇弘 大島 俊二 林 秀樹 JP 2014084397 公開特許公報(A) 20140512 2012233783 20121023 ヒドリド金属錯体を用いて水素分子から電子を取り出す方法、および基質を還元する方法 JNC株式会社 311002067 国立大学法人九州大学 504145342 濱田 百合子 100090343 古館 久丹子 100129160 山崎 智子 100177460 市川 利光 100108589 小江 誠司 松本 崇弘 大島 俊二 林 秀樹 C09K 3/00 20060101AFI20140415BHJP C07D 213/22 20060101ALI20140415BHJP C07F 15/02 20060101ALI20140415BHJP C07F 15/04 20060101ALI20140415BHJP C07F 17/02 20060101ALI20140415BHJP C07F 9/141 20060101ALI20140415BHJP C07C 211/11 20060101ALI20140415BHJP C07C 255/03 20060101ALI20140415BHJP C07D 279/36 20060101ALI20140415BHJP C07D 219/02 20060101ALI20140415BHJP C07B 61/00 20060101ALN20140415BHJP JPC09K3/00 109C07D213/22C07F15/02C07F15/04C07F17/02C07F9/141C07C211/11C07C255/03C07D279/36C07D219/02C07B61/00 300 6 OL 21 4C034 4C036 4C055 4H006 4H039 4H050 4C034BA10 4C036AA03 4C036AA18 4C055AA04 4C055BA01 4C055CA01 4C055DA27 4C055DB02 4C055EA01 4C055FA01 4H006AA01 4H006AB40 4H006AB82 4H039CA42 4H039CB90 4H050AA01 4H050AA02 4H050AB81 4H050AC10 4H050BB21 4H050WA13 4H050WB11 4H050WB14 4H050WB15 4H050WB16 4H050WB21 4H050WB22 本発明は、新規なヒドリド金属錯体を用い、温和な条件下でも水素分子から電子を取り出すことができる方法に関する。更に、上記錯体によって、基質を水素化する方法に関する。 本発明者らは以前に、[NiFe]ヒドロゲナーゼの全ての化学的機能を再現した[NiFe]ヒドロゲナーゼモデル錯体、[NiII(X)(H2O)(μ−H)RuII(C6Me6)](NO3){X=N、N’−dimethyl−N、N’-bis(2−mercaptoethyl)−1、3−propanediamine}を報告した。この錯体は水中、常温で水素をヘテロリティックに活性化でき、水素から抽出した電子を使って基質を還元する(非特許文献1、2、特許文献1)。 しかし、触媒に高価で希少資源である貴金属のルテニウムを使用しており、工業的な利用に向けては、より安価で豊富な鉄などの金属を使用することが望まれている。 これまでに、ニッケル・鉄ヒドリド錯体の合成例は報告されているが、水素から合成された錯体ではない(非特許文献3)。さらに、非特許文献3に記載のニッケル・鉄ヒドリド錯体は水素化物を用いて合成されており、水素化物を用いる合成方法は、等量以上の水素化剤を用いなければならず、工業的にコストが高いという問題がある。特開2009-235054号公報Science,2007,316,585−587.Chem.Commun.,2009,3317−3325.J.Am.Chem.Soc.,2009,131,6942−6943. 上記のように、ニッケル・ルテニウム二核錯体のルテニウムを鉄に替えることが望まれている。したがって、本発明は、ルテニウムを鉄に置換したニッケル・鉄二核錯体を用いて、水素の活性化と基質の電子およびヒドリド還元の方法を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を検討した結果、鉄やニッケルの支持配位子を工夫することで、ニッケル・鉄錯体を用いて水素を活性化し、基質の電子およびヒドリド還元ができることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は以下の通りである。1.下記工程A〜Bを含む基質の還元方法。(工程A)水素分子(H2)に、下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)を作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)とプロトン(H+)とを生成する工程 H2+M→H++[MH](工程B)下記反応式で表されるように、前記ニッケル・鉄ヒドリド錯体を基質(Q)と反応させて、基質を還元する工程 [MH]+Q→M+[Q+2e−+H+] 式(1)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。2.前記工程Bで前記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)を得て、前記工程Aでニッケル・鉄ニトリル錯体(M)として用いることを特徴とする前項1に記載の還元方法。3.前項1または2に記載の還元方法に用いる下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)。 式(1)において、l、mおよびnが、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rが、炭素数1〜5のアルキル基である。Lがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。4.前項1または2に記載の還元方法に用いる下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)。 式(2)において、l、mおよびnが、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。5.水素分子(H2)に、下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)を作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)とプロトン(H+)とを生成する方法。 H2+M→H++[MH] 式(1)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。6.下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)を基質(Q)と反応させて、基質を還元する方法。 [MH]+Q→M+[Q+2e−+H+] 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 本発明の水素の活性化と基質の還元方法によれば、第一周期金属であるニッケルと鉄を用いて、常圧の水素をヘテロリティックに活性化でき、生成したヒドリド錯体から、基質の電子およびヒドリド還元を行うことができる。安価な金属で水素をヒドリド源、および電子源として利用可能であり、社会に与えるインパクトは大きい。図1は、X線解析により得られたニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2のORTEP図を示す。図2は、X線解析により得られたニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のORTEP図を示す。図3は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)を1H NMR分光法により分析した結果を示す。図4(a)はニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のIRスペクトル、図4(b)はニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2’](BPh4)のIRスペクトル、図4(c)は図4(a)と図4(b)の差スペクトルを示す。図5(a)は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)をESI−MSで分析した結果、図5(b)はm/z 861.2の拡大図、図5(c)は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)の同位体分布の理論値、図5(d)は、ニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2’](BPh4)をESI−MSで分析した結果を示す。図6は、X線解析により得られたニッケル・鉄ブロモ錯体[NiII(N2S2)FeII(Br)2]のORTEP図を示す。図7は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)による酸化型メチルビオロゲンの還元反応を紫外線可視スペクトルで追跡した結果を示す。図7(a)はニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)の紫外線可視スペクトルであり、図7(b)はニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)に酸化型メチルビオロゲンを加えた際の紫外線可視スペクトルである。〈ニッケル・鉄ヒドリド錯体〉 本発明のヒドリド金属錯体を用いて水素分子から電子を取り出す方法、基質を水素化する方法は、出発物質として、下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体を用いる。 式(1)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 前記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体[1]は、実施例に記載の方法により調製することができる。 ニッケル・鉄ニトリル錯体[1]を構造解析する場合、実施例において後述するように、ニッケル・鉄ニトリル錯体[1]のアセトニトリル/テトラヒドロフラン混合溶液にエーテルをゆっくり添加することにより、ニッケル・鉄ニトリル錯体[1]の単結晶を得て、構造解析することができる。 ニッケル・鉄ニトリル錯体[1]の具体例として、下記式(1’)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体[1’]が挙げられる。 図1に示すように、式(1’)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体[1’]は、ニッケルと鉄の二核構造をしており、Ni・・・Feの距離は、3.3189(6)Åである。Ni−S−Feの角度は94.79(4)°と94.93(4)°である。〈ニッケル・鉄ヒドリド錯体〉 前記ニッケル・鉄ニトリル錯体[1]に、ナトリウムメトキサイドを含んだアセトニトリル/メタノール混合溶媒中で水素分子(H2)を作用させることにより、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]が生成する。 H2+M→H++[MH] 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]を構造解析する場合、実施例において後述するように、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]のジクロロメタン/メタノール混合溶液中で、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]の単結晶を得て、構造解析することができる。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]の具体例として、下記式(2’)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’]が挙げられる。 図2に示すように、式(2’)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)は、ニッケルと鉄の二核構造をしており、Ni・・・Feの距離は、2.7930(6)Åである。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]のヒドリド配位子をジュウテリド配位子に置換したニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2]を中性子回折する場合、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]と同様な方法により、ニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2]のジクロロメタン/メタノール混合溶媒中で、ニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2]の単結晶を得て、構造解析することができる。 中性子回折により、ニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2]において、鉄中心にジュウテリド配位子が配位していることが確認される。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]は、1H NMRでも確認することができる。例えば、1H NMRによりニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’]を解析すると、図3に示すように、ヒドリド領域にヒドリドに由来すると考えられるピークを確認することができる。 前記ヒドリド基のピークは3つのリン原子(核スピン1/2)とのカップリングによって分裂していることからも鉄中心に配位したヒドリド基に由来するものであると考えられる。 鉄−ヒドリド伸縮振動は、IRによって確認できる。IRの測定には、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]とニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2]を用いる。 例えば、図4に示すように、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のIRスペクトルでは、鉄−ヒドリド伸縮振動が1687cm-1に、ニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2’](BPh4)では、鉄−ジュウテリド伸縮振動が1218cm-1に観測される。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2]はESI−MSでも確認できる。例えば、図5に示すように、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のESI−MSによる測定には、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)とニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2’](BPh4)を用いる。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のメタノール中でのESI−マススペクトルの測定は、m/z 861.2に[2’]+のシグナルを示し、ニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2’](BPh4)のメタノール中でのESI−マススペクトルの測定は、m/z 862.2に[D−labeled 2’]+のシグナルを示す。 本発明の基質の還元反応は、下記工程A〜Bを含む。(工程A)水素分子(H2)に、下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)を作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)とプロトン(H+)とを生成する工程 H2+M→H++[MH](工程B)下記反応式で表されるように、前記ニッケル・鉄ヒドリド錯体を基質(Q)と反応させて、基質をヒドリド還元する工程 [MH]+Q→M+[Q+2e−+H+] 式(1)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。(工程A)ニッケル・鉄ヒドリド錯体を生成する工程 工程Aは、下記反応式で表されるように、下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)と水素分子(H2)とを作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)とプロトン(H+)とを生成する工程である。 H2+M→H++[MH] 工程Aは、水素を系内に導入して反応させる。工程Aの反応時間は好ましくは1〜5時間、反応温度は好ましくは5〜40℃、反応圧力は好ましくは1〜8気圧とすることが好ましい。(工程B)基質を電子還元する工程 工程Bは、下記反応式で表されるように、下記反応式で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体を基質(Q)と反応させて、基質を還元する工程 工程Bは、水素を系内に導入して反応させる。工程Bの反応時間は好ましくは1〜5時間、反応温度は好ましくは5〜40℃とすることが好ましい。 本発明の還元反応の対象である基質としては、特に限定されないが、環状有機窒素化合物若しくは有機金属錯体の陽イオン類、プロトン酸類、ケトン類またはアルデヒド類であることが好ましく、環状ピリジニウムイオン類、チアジニウムイオン類、メタロセニウム類、プロトン酸類または芳香族アルデヒド類であることがより好ましい。 具体的には、例えば、メチルビオロゲン、ベンジルビオロゲン、アクリジニウムイオン、3−アミノカルボニル−1−フェニルメチルピリジニウムイオン、メチレンブルー、フェロセニウムイオン、テトラフルオロホウ酸、2−フルオロベンズアルデヒドおよび4−ニトロベンズアルデヒド挙げられる。 本発明の基質の還元方法は、工程Bにおいて基質を還元するとともに、出発物質であるニッケル・鉄ニトリル錯体を得ることができる。したがって、本発明の基質の還元方法によれば、ニッケル・鉄ニトリル錯体を出発物質として、工程Aにおいて水素を添加し、工程Bにおいて基質を添加することにより、基質を連続して還元することができる。 以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。(材料および方法) 全ての実験は、特に記述のない限り標準のシュレンク技術及びグローブボックスを用いることによってN2又はAr雰囲気下で実施した。 アセトニトリルとジクロロメタンは、使用の前にCaH2で、メタノールはマグネシウム/ヨウ素で脱水蒸留した。 NiII(N2S2)は、文献(Chem.Commun.,1997,979−980)に記載の方法によりNiII(N2S2)において記述されている方法によって調製した(N2S2=N、N’−diethyl-N、N’−bis(2−mercaptoethyl)−1、3−propanediamine)。 水素ガス(99.9999%)と重水素ガス(99.5%)は、大陽日酸株式会社から購入し、精製せずに使用した。・1H NMRスペクトル 1H NMRスペクトルは、JEOL JNM−AL300分光計で測定した。その1Hケミカルシフトは、テトラメチルシラン(TMS、0.00ppm)を基準とした。・赤外吸収(IR)スペクトル KBrディスク中に含まれる固体化合物の赤外吸収スペクトルは、25℃で2cm−1の標準解像度を用いて650から4000cm−1までの領域をサーモ・ニコレーNEXUS8700FR−IR計器で測定した。・紫外線可視スペクトル 紫外線可視スペクトルは、25℃にて日本分光V-670 UV−Visible-NIR分光計(セルの長さ1.0cm)で測定した。・元素分析データ 元素分析データは、パーキンエルマー2400IIシリーズCHNS/O分析器によって得た。・X線結晶学的解析 ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2はアセトニトリル/テトラヒドロフラン混合溶液へのエーテルの拡散によって、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)はジクロロメタン/メタノール混合溶液中で、ニッケル・鉄ブロモ錯体[NiII(N2S2)FeII(Br)2]は、アセトニトリル溶液へのエーテルの拡散によって、ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)、及びニッケル・鉄ブロモ錯体[NiII(N2S2)FeII(Br)2]のX線品質結晶を作製した。 測定は、共焦点単色化Mo−Ka放射光(l=0.7107Å)を備えたリガク/MSCサターンCCD回析装置で行った。データを集め、CrystalClaerプログラム(リガク社)を用いて処理した。全ての計算は、モレキュラー・ストラクチャー・コーポレーションのteXan結晶学ソフトウェア・パッケージを用いて実施した。 ニッケル・鉄ブロモ錯体[NiII(N2S2)FeII(Br)2]、ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2及びニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)についての結晶学的データは、ケンブリッジ結晶構造データ・センター(CCDC)に預託した。それらのデータのコピーは、CCDC(12,Union Road,Cambridge CB2 1EZ,UK)に申し込めば入手できる。[実施例1]ニッケル・鉄ブロモ錯体の合成および解析(1)ニッケル・鉄ブロモ錯体[NiII(N2S2)FeII(Br)2]の合成 アセトニトリル24mlに臭化鉄(FeBr2、0.22g、1.0mmol)とNiII(N2S2)(0.31g、1.0mmol)を加え、一時間撹拌後、濾過して濾液にエーテルを加えると、黒赤色固体が析出した。濾過して、粉末を真空乾燥し、下記式に示すニッケル・鉄ブロモ錯体を合成した(FeIIBr2をベースとする収率87%)。 Anal.Calcd for[NiII(N2S2)FeII(Br)2]:C11H24Br2FeN2NiS2:C,25.27;H,4.63;N,5.36%。Found:C,25.27;H,4.45;N,5.47%.(2)ニッケル・鉄ブロモ錯体[NiII(N2S2)FeII(Br)2]のX線解析 ニッケル・鉄ブロモ錯体[NiII(N2S2)FeII(Br)2]は、アセトニトリル/エーテル混合溶媒中で結晶化することによって、X線解析に適した黒赤色の結晶を得た。その結果を図6に示す。 図6における主な原子間距離(1/Å)は、(1/Å)は、Fe1−Ni1=2.7656(7)、Ni1−S1=2.1894(6)、Ni1−S2=2.1875(6)、Ni1−N1=1.991(2)、Ni1−N2=1.982(2)、Fe1−S1=2.4138(8)、Fe1−S2=2.4097(7)、Fe1−Br1=2.4042(4)、Fe1−Br2=2.3720(5)である。[実施例2]ニッケル・鉄ニトリル錯体の合成および解析(1)ニッケル・鉄ニトリル錯体[NiII(N2S2)FeII(CH3CN){P(OEt)3}3](BPh4)2{[1’](BPh4)2}の合成 [NiII(N2S2)FeII(Br)2](52mg、0.10mmol)のメタノール溶液にP(OEt)3(80μL、0.46mmol)とNaBH4(20mg、0.53mmol)を加え、1時間撹拌した。NaBPh4(80mg、0.24mmol)を加えると、黒褐色固体が析出した。濾過して黒褐色固体を収集し、その黒褐色固体にジクロロメタンを加え、不溶性固体を濾過して除去し、濾液を減圧除去すると黒褐色固体が得られる。黒褐色固体をアセトニトリルに溶解し、[FeIII(C5H5)2](PF6)(33mg、0.10mmol)を加え、1時間後、NaBPh4(80mg、0.24mmol)のメタノール溶液を加えると、ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2が析出する。濾過後、粉末を真空中で乾燥した([NiII(N2S2)FeII(Br)2]をベースとする収率57%)。1H NMR(300MHz、CD3CN中、TMS基準、25℃):δ1.26−1.30(m,27H)、1.58(t,6H)、1.80−1.85、2.15−2.57、2.79−2.91、3.12−3.22(m,18H)、4.01−4.14(m,18H)、6.82−6.87、6.97−7.02、7.25−7.29(m、20H)。ESI−MS (in CH3CN):m/z 430.2{[1’−CH3CN]2+,I=100% in the range of m/z 200−2000}.Anal.Calcd.for[1’](BPh4)2:C79H112B2FeN3NiO9P3S2:C、61.57;H、7.33;N、2.73%。Found:C、61.31;H、7.24;N、2.73%。(2)ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2のX線解析 ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2は、アセトニトリル/テトラヒドロフラン混合溶媒中にジエチルエーテルを加えて結晶化することによって、X線解析に適した黒褐色の結晶を得た。 図1に、X線解析により得られた50%確率の楕円を有する[1’](BPh4)2のORTEP図を示す。明瞭化のためにカウンター・アニオン(BPh4)、溶媒分子(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル)および水素原子は省略してある。 図1における主な原子間距離(1/Å)は、Fe1−Ni1=3.3189(6)、Ni1−S1=2.1599(9)、Ni1−S2=2.167(1)、Ni1−N1=2.046(3)、Ni1−N2=2.015(3)、Fe1−S1=2.341(1)、Fe1−S2=2.340(1)、Fe1−P1=2.1812(9)、Fe1−P2=2.182(1)、Fe1−P3=2.195(1)である。[実施例3]ニッケル・鉄ヒドリド錯体の合成および解析(1)ニッケル・鉄ヒドリド錯体[NiII(N2S2)(μ−H)FeII{P(OEt)3}3](BPh4){[2’](BPh4)}の合成 ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2(200mg、0.13mmol)のアセトニトリル/メタノール混合溶液(5ml)に、ナトリウムメトキサイド(14mg、0.26mmol)を添加し、1気圧の水素を反応させてニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)を合成した(ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’](BPh4)2をベースとする収率41%)。ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)の1H NMR分光法による分析の結果を図3に示す。1H NMR(300MHz、CD2Cl2中、TMS基準、25℃):δ−3.57(dt,1H),0.92(t,6H,N−CH2−CH3),1.19-1.27(m,27H),1.47-1.53,1.62−1.75,1.83−1.90,2.34−2.43,2.62−2.73,3.10−3.20,3.27−3.34,3.59−3.67(m),3.93−4.07,4.18−4.28(m,18H)、6.85−6.90、7.00−7.05、7.28−7.33(m、20H)。ESI−MS (in CH3OH):m/z 861.2{[2]+,I=100% in the range of m/z 200−2000}.Anal.Calcd for [2’]:C53H90BFeN2NiO9P3S2:C,53.87;H,7.68;N,2.37%.Found:C,54.13;H,7.87;N,2.58%。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のIRスペクトルを図4(a)に、ニッケル・鉄ジュウテリド錯体[D−labeled 2](BPh4)のIRスペクトルを図4(b)に示す。また、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のESI−MSによる分析の結果を図5に示す。(2)ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のX線解析 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)は、ジクロロメタン/メタノール混合溶媒中で結晶化することによって、X線解析に適した黒褐色の結晶を得た。 図2に、X線解析により得られた50%確率の楕円を有するニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)のORTEP図を示す。明瞭化のためにカウンター・アニオン(BPh4)、および支持配位子(N2S2とP(OEt)3)の水素原子は省略してある。 図2における主な原子間距離(1/Å)は、Fe1−Ni1=2.7930(6)、Fe1−H1=1.57(5)、Ni1−H1=2.16(4)である。 図1に示すように、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)は、配位子のチオトレートで架橋されたニッケルと鉄の二核構造をしている。[実施例4]ニッケル・鉄ヒドリド錯体による基質の還元(1)アクリジニウムイオンの還元 N2雰囲気下でニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)(11.8mg、10μmol)のアセトニトリル溶液(1ml)に1当量のアクリジニウムイオンを加え、25℃で1時間反応させると、アクリジンが生成した。 得られた生成物を1H NMRで分析すると、アクリジンの収率は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)ベースで95%であった。(2)メチレンブルーの還元 N2雰囲気下でニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)(11.8mg、10μmol)のアセトニトリル/メタノール(1:1)混合溶液(1ml)に1当量の酸化型メチレンブルーを加え、25℃で1時間反応させると、還元型メチレンブルーが生成した。 得られた生成物をUV/vis分光法で分析すると、還元型メチレンブルーの収率は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)ベースで97%であった。(3)プロトンの還元 N2雰囲気下でニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)(7.1mg、6.0μmol)のアセトニトリル溶液(2.8ml)に2当量のHBF4を加え、25℃で1時間反応させると、水素ガスが発生した。 発生した水素ガスをGCで分析すると、水素の収率は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)ベースで93%であった。(4)フェロセニウムイオンの還元 N2雰囲気下でニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)(11.8mg、10μmol)のアセトニトリル溶液(1ml)に1当量のフェロセニウムイオンを加え、25℃で1時間反応させると、フェロセンが生成した。 得られた生成物を1H NMRで分析すると、フェロセンの収率は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)ベースで94%であった。(5)酸化型メチルビオロゲンの還元 N2雰囲気下でニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)(23.6mg、20μmol)のアセトニトリル溶液(1ml)に1当量の酸化型メチルビオロゲンを加え、25℃で1時間反応させると、還元型メチルビオロゲンが生成した。 ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)による酸化型メチルビオロゲンの還元反応を紫外線可視スペクトルで追跡した結果を図7に示す。図7(a)はニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)の紫外線可視スペクトルを示し、図7(b)はニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)に酸化型メチルビオロゲンを加えた際の紫外線可視スペクトルを示す。 得られた生成物をUV/vis分光法で分析すると、還元型メチルビオロゲンの収率は、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)ベースで24%であった。 この結果から、本発明の基質の還元方法によれば、ニッケル・鉄ヒドリド錯体を用い、水素を用いて基質を還元できることが分かった。[実施例5]ニッケル・鉄ヒドリド錯体の再生 N2雰囲気下でニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)(11.8mg、10μmol)のアセトニトリル溶液(1ml)に1当量のフェロセニウムイオンを加え、25℃で1時間反応させると、ニッケル・鉄ニトリル錯体[1’]とフェロセンが生成した。ナトリウムメトキサイド(1.1mg、20μmol)を含むメタノール溶液(2ml)を加え、8気圧の水素を反応させると、ニッケル・鉄ヒドリド錯体[2’](BPh4)が再生した(収率:53%)。 下記工程A〜Bを含む基質の還元方法。(工程A)水素分子(H2)に、下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)を作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)とプロトン(H+)とを生成する工程 H2+M→H++[MH](工程B)下記反応式で表されるように、前記ニッケル・鉄ヒドリド錯体を基質(Q)と反応させて、基質を還元する工程 [MH]+Q→M+[Q+2e−+H+] 式(1)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 前記工程Bで前記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)を得て、前記工程Aでニッケル・鉄ニトリル錯体(M)として用いることを特徴とする請求項1に記載の還元方法。 請求項1または2に記載の還元方法に用いる下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)。 式(1)において、l、mおよびnが、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rが、炭素数1〜5のアルキル基である。Lがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 請求項1または2に記載の還元方法に用いる下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)。 式(2)において、l、mおよびnが、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lがそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 水素分子(H2)に、下記式(1)で表されるニッケル・鉄ニトリル錯体(M)を作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)とプロトン(H+)とを生成する方法。 H2+M→H++[MH] 式(1)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 下記反応式で表されるように、下記式(2)で表されるニッケル・鉄ヒドリド錯体(MH)を基質(Q)と反応させて、基質を還元する方法。 [MH]+Q→M+[Q+2e−+H+] 式(2)において、l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Xはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。Lはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基である。 【課題】本発明は、安価で豊富な金属を用いた二核錯体による、水素を用いた基質の還元方法を提供することを課題とする。【解決するための手段】水素分子に、ニッケル・鉄ニトリル錯体を作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、ニッケル・鉄ヒドリド錯体とプロトンとを生成する工程、およびニッケル・鉄ヒドリド錯体を基質と反応させて、基質を還元する工程を含む基質の還元方法。【選択図】なし


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