生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_電子スピン共鳴装置用セル
出願番号:2012231906
年次:2014
IPC分類:G01N 24/10,G01R 33/30


特許情報キャッシュ

田嶋 邦彦 木村 豊一 木村 雅博 JP 2014085132 公開特許公報(A) 20140512 2012231906 20121019 電子スピン共鳴装置用セル 国立大学法人京都工芸繊維大学 504255685 有限会社木村技研 512156822 大西 雅直 100137486 田嶋 邦彦 木村 豊一 木村 雅博 G01N 24/10 20060101AFI20140415BHJP G01R 33/30 20060101ALI20140415BHJP JPG01N24/10 510AG01N24/02 510A 4 2 OL 12 本発明は、空洞共振器のキャビティ内に試料をセットするために用いる電子スピン共鳴装置用セルに関する。 電子スピン共鳴装置(ESR装置:electron spin resonance)は常磁性種を選択的に検出する磁気共鳴分光法である。ESR装置では、測定試料を電子スピン共鳴装置用セル(以下、単にセルと称する)を用いてキャビティと呼ばれる空洞共振器に固定して信号を取得、記録する。 その際、一般的な分光装置では試料の容量が増加すれば信号強度が増加するが、ESR装置の場合には事情が異なる。ESRのマイクロ波(10GHz帯)は試料の水によって吸収される(誘電損失を招く)ため、水溶液の容量が増加しても信号強度は単調に増加しないばかりか、ある極大値を経てその後顕著に低下する。 この信号強度の最大値を可能な限り高めることがESRの感度向上につながり、そのためにセルのうち測定試料が導入されて測定対象となるセル本体部を特許文献1のような丸ガラス管ではなく、光路幅やセル長に比して光路長(奥行)の短い扁平形状にすることが行われている。 このような扁平セルを用いるために、従来ではガラス管に熱を加えて楕円に変形させる熱成型や、型の中に流し込んでそのまま固める方法によって、中空扁平なセル本体部を作成し、このセル本体部の両端側に変形していないガラス枝管を一体に残して試料給排路としていた。実開昭54−42594号公報 しかしながら、このようなセルは製作工法上、内容積が成り行きになるため、熟練工の経験と感に頼ってもなお、所望の内容積のものを精度よく作るには限界があるばかりか、内寸の非破壊的な計測さえ困難であり、特に高感度が要求される昨今になって、測定感度が一律ではないために測定精度に大きな影響が出るという問題が生じている。加えて、従来型扁平セルの製作過程では、例えば0.2mm〜0.3mmの扁平部分とガラス管との接合部分の加工が技術的に困難とされており、接合部分は強度的に脆弱となるため、この部位で高価なセルを破損する事態も頻繁に発生している。 本発明は、セル本体部の内容積を最適化する手法を提供することにより、同一内容量のセルを再現性よく作ることができ、同時にセルの強度を高める構造を実現することを目的としている。 また、本発明者がさらに検討を進めたところ、測定感度はセルの形状や大きさにも依存していることが明らかになった。マイクロ波が通過する領域ではセル本体部は均一な光路長を有していることが望ましいが、断面が楕円であったり、正面視が長方形の角部が丸まった形状であったりすると、場所によって光路長の違うところをマイクロ波が通過することになる。このため、扁平というだけではなく、セル本体部の外形や内空を極力直方体に極力近い形状にすることが必要であるとの知見に至った。この意味でも、従来の構造や加工方法が全く利用できないものであることも明らかになった。 本発明は、同時にセル本体の形状の最適化にも資することを目的としている。 さらに、セルの長さにも配慮が必要であることが判明した。前述のとおりセル(特にセル本体部)はキャビティ内に配置され、測定のための磁場が及ぶところであるが、セル本体部の周辺(ガラス枝菅との接続部分やガラス枝管)にも磁場が及ぶことでさらに精度が低下する要因となっている。 本発明は、簡単な構成で磁場の影響を有効に回避する手法を提供することをも目的としている。 本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。 すなわち、本発明の電子スピン共鳴装置用セルは、複数の分割片を内空を閉じるように組み合わせて接合することによって両端に開口する中空の試料導入部を形成された扁平なセル本体と、このセル本体に接続されて前記試料導入部と連通する別体の試料給排路とを備えてなることを特徴とする。 このように構成すれば、組み合わせ前の内空が開いた状態の各分割片に対して正確な造形を施すことによって、組み合わせた際の試料導入部(中空部)に予定通りの内容積を高い精度で実現することができる。したがって、試料導入部の内空全体に試料を導入した状態で正確な測定を再現性よく行うことが可能になる。しかも、試料給排路は別体であるから、セル本体部の造形の妨げになることも有効に回避することができる。 測定精度をより高めるためには、セル本体は直方体形状であって、試料導入部は等断面であることが好ましい。 加工容易性を高め、強度向上にも資するためには、セル本体と試料給排路の間を継手部材を介して接続していることが望ましい。このようにすれば、セル本体と試料給排路との複雑な接続構造を継手部材に担わせることができ、セル本体や試料給排路自体の構造を加工容易な形状にすることができる。しかも継手部材を通じて接続部分の強度を高める嵌め合い構造等が容易に実現でき、また継手部材が介在することで、セル本体や試料給排路の材料選択の自由度も高めることができる。 磁場の影響を適切に排除するためには、セル本体と継手部材が一部に嵌め合い構造を有しており、その嵌め合い部を除くセル本体の有効長が、これが挿入されるキャビティの長さより長く、磁場への影響が無視できる位置まで延在する長さに設定されていることが効果的である。これによれば、セルの寸法設定だけで、セル本体以外の部位が磁場の範囲に入って測定に影響を与えることを簡単かつ効果的に回避することができる。特に、継手部材に樹脂等を用いた場合に、樹脂からラジカルが発生して測定に悪影響を及ぼすことも有効に回避することができ、継手部材の材料の選択幅も広がることとなる。 本発明は、以上説明した構成であるから、セル本体部の内容積を最適化することができ、これにより内容積が既知である同一セルを再現性よく作ることを可能にした、新規有用な電子スピン共鳴装置用セルを提供することができる。本発明の一実施形態に係るセルをESR装置の模式的な構成とともに示す図。同セルの全体斜視図。同セルを構成するセル本体の組立工程図。同セル本体に継手部材を接続する工程図。同継手部材に試料給排路を接続する工程図。同セルを使って得られるESR信号のスペクトル図。同セルの長さと感度の関係を示す図。セルの変形例を示す図。 以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。 図1に示すように、本実施形態のESR装置1は、空洞共振器2の内部に形成されたキャビティ3内に、測定試料を導入したセル4をホルダHを用いてセットし、キャビティ3に対向する位置に配置した磁場発生器5から静磁場を発生させるとともに、図示しないマイクロ波導入手段からセル4内の測定試料にマイクロ波を印加して、磁気共鳴分光法によって測定試料の分析を行うものである。本実施形態のセル4はホルダHに保持させた状態で一体となって脱着可能で、ホルダHはセル4の保持姿勢、保持位置を長手方向、長手方向を軸とした場合の軸周り方向、軸の傾き方向(チルト方向)の3方向に調節できる機能を備え、一旦調節したらその姿勢及び位置で再現性よくセル4をキャビティ3に対して着脱可能とするものである。ESR装置1それ自体の基本原理および基本構成については周知であるため、説明を省略する。 この種のESR装置1においては、信号強度の最大値を可能な限り高めることがESRの感度向上につながり、そのためにセル4のうち測定試料が導入されるセル本体部41を、図2及び図3に示すように光路幅Wやセル長Lに比して光路長Dの短い扁平形状にすることが従来から有効とされている。 そこで、本実施形態においても扁平セル4を採用するものであるが、本実施形態では、セル本体41、試料給排路42,43、および継手部材44、45から扁平セル4を構成して継手部材44,45に他と異なる材料を用いた特殊なハイブリッド構造としている。 セル本体41は、石英ガラス製のもので、図3に示すように複数(この実施形態では2つ)の分割片41a、41bを内空を閉じるように組み合わせて接合することによって、扁平矩形状をなす直方体形状に構成している。具体的にこのセル本体41は、底壁41a1の左右両側に側壁41a2を有する扁平な上向きチャネル型の第1分割片41aと、この第1分割片41aの左右の側壁41a2、41a2の上端間に亘る位置に当接される板状の第2分割片41bとを接合して、内部に試料導入部たる矩形状の中空部41cを形成している。第1分割片41aは、底壁41a1と側壁41a2の入隅部41a3が可能な限り直角に近い状態となることが望ましく、接続端となる端部近傍の出隅部41a4も可能な限り直角に近い状態となることが望ましく、その製法として本実施形態は真空中で鋳型に溶けたガラスを流し込んで成型する真空鋳造法を採用している。勿論、所要の測定感度に見合う寸法精度が得られれば光造型や射出成型等の成型、レーザーを照射した部位を硬化させる紫外線硬化法などを用いることもできる。削り出しは入隅部41a3にRが出るため好ましくないが、測定精度に鑑みて許容範囲にあればこれを排除するものではない。 また、分割片41a、41b同士の突き合わせ部41dにおける接合には、接合面の面精度を極端に高くして表面を活性化することによって分子レベルでの接合を行うオプティカルコンタクトや、高温加熱によって接合面同士を溶着して接合させる溶着加工(無機質ガラス融着)、無機質フリット剤(低融点ガラスフリット)を接合面に挟み込み炉内焼成してガラス化する低融点ガラス融着法、感光性接着剤(紫外線硬化)により接合またはエポキシ樹脂や紫外線硬化樹脂などの有機接着剤を使用して接着する有機接着剤法、接合箇所をガスバーナーで加熱してガラスを溶接する溶接法、火加工により石英ガラスを溶かして接着する溶融接着法などを採用することができる。 一方、図4に示す継手部材44、45は、前記セル本体41の断面に略対応する矩形状の内空を有した第1接続部44a、45aと、この第1接続部44a、45aの隣接位置にあって円筒状をなす第2接続部44b、45bとを各々一体にしたもので、軸心位置に図1に示す試料流通路44c、45cが貫通しており、この試料流通路44c、45cを介してセル本体41の中空部43cと試料給排路42,43の内空とを連通させるものである。本実施形態では特にこの継手部材44、45に樹脂一体成型品を用いている。樹脂には、アクリル系、エポキシ系など、高精度で成型し易い材料を適宜選択することができる。そして、セル本体41の一端に継手部材44の第1接続部44aを接続し、他端に継手部材45の第1接続部45aを接続している。 また、図2に示すように、試料給排路42、43はセル本体41とは別体に構成された中空円筒状のもの、より具体的には石英ガラス製のいわゆるガラス枝管であり、従来と同様の一般的な製造工程により作られている。第1の試料給排路42は先端が先細り形状をしており、第2の試料給排路43は全体が等断面に構成されていて、第1の試料給排路42の基端側の径は前記第1の継手部材44の第2接続部44bの内径に対応し、第2の試料給排路43の径は前記第2の継手部材45の第2の接続部45bの内径に対応している。 そして、図4に示すようにセル本体41の各端部と継手部材44、45の第1接続部44a、45aをそれぞれ光硬化樹脂等の接着剤を使用して嵌め合わせ、さらに図5に示すように継手部材44、45の第2接続部44b、45bと試料給排路42、43の対応する端部とをそれぞれ光硬化樹脂等の接着剤を使用して嵌め合わせて、図2に示す石英―樹脂ハイブリッド扁平セル4として完成させている。 このようなセル構造であれば、入隅部41a3の直角を出し易く、外形の出隅部41a4にも直角を出し易くなる上に、光路長Dや光路幅Wも長手方向に沿って均一に製作することができ、内容積も明確に設定することができて、同一物を再現性よく製造することができるようになる。 このセル4を使用する際は、図2に示す第2の試料給排路43の基端に図示しないスポイトを取り付け、第1の試料給排路42の先端から測定試料を吸い上げてセル本体41の中空部43c内に充填し、測定が終われば第1の試料給排路42の先端から排出して次の測定試料を導入する形で利用する。図1に示すホルダHには第2の試料給排路43の基端側が樹脂チャック構造等によって保持される。 このようなハイブリッド構造であると、石英ガラス扁平部分41の内容積、光路長Dおよび光路幅Wを正確に製作、評価することが可能である。 近年、樹脂や食物などの活性酸素などの有機ラジカルを検出する必要性が増大しているが、図1に破線で示す静磁場の漏れに起因して樹脂素材からなる継手部材44、45から不要なラジカルが発生することを防ぐためには、継手部材44、45を極力磁場の影響の及ばないところに配置してセル本体41のみに磁場が印加された状態にしておくことが望ましい。 図1に示す本実施形態のキャビティ長L1は55mmであり、これに対して、図3に示すセル本体41の長さLを70mm、図1に示すセル本体41と継手部材44、45との嵌合深さをそれぞれ2mmとして、実質的にセル本体41と継手部材44、45の嵌め合い部を除くセル本体41の有効長L0を66mmに設定している。(内寸評価) 以上のセル4を用い、セル本体41(石英ガラス扁平部分)の内部に超純水を満たして秤量値からセル41の内部の容積を算出し、その結果からセル本体41の内部の光路長Dを算出し、上記の方法で評価した扁平セル部分の光路長Dおよび設計値を(表1)にまとめた。扁平なセル本体41の中空部41cにおける光路幅Wは3mm、5mm、7mmに設定し、それぞれ光路長Dを0.2mm、0.3mm、0.4mmとする計5種類のセル本体41を製作した。光路長Dが0.2mm、光路幅Wが7mmのセル本体41を有するセル(1)の1点、光路長Dが0.3mmのセル本体41については光路幅Wを3mm、5mm、7mmとするセル本体41を有するセル(2)、(3)、(4)の3点、光路長Dが0.4mm、光路幅Wが3mmであるセル本体41を有するセル(5)の1点の合計5点のセル4を製作し、ガラス枝管部分である試料給排路42、43とセル本体41との間をそれぞれ継手部材44、45を介在させた状態で光硬化樹脂により接着して石英―樹脂ハイブリッド扁平セルを製作した。以下が、従来セルも含めた評価結果である。(ESR測定および感度評価) 上記の従来型扁平セルと本実施形態のセル(1)〜(5)をホルダHに組み込み、それらをキャビティ3の内部の最適位置に最適姿勢で固定した状態で試料であるTEMPOL(ニトロキシドラジカル:以下特に必要がない場合は単に「試料」と称する)標準水溶液をセル本体41に注入し、キャビティ3内に配置してESRスペクトル測定およびパラメーター解析を行った。まず、図6の左図は光路幅Wが7.0mmで光路長Dが0.2mmのセル(1)を試料水溶液(1.0μM)で満たして記録したESR信号のスペクトルである。スペクトル両端の外部標準試料の信号と3本の試料の信号が観測され、ベースライン部分には石英ガラスに由来する信号も認められなかった。これは、このセル本体41の製作に最高純度の合成石英を使用したからである。光路幅Wはセル(1)と同じ7.0mmで光路長Dが0.3mmであるセル(4)で同様の測定を行うと、図6の右図に示すESR信号が得られた。まず、両スペクトルの外部標準試料の信号を比べると、セル(1)の信号強度1900に対して、セル(4)の強度は1000に減少した。外部標準試料の信号強度はキャビティ3内に存在する試料の誘電損失が増加するにつれて低下する。特に誘電損失が大きい水の存在量が増加すると見かけのESR感度は低下し、その結果として外部標準試料の信号強度は低下する。実際にセル(4)の内容積はセル(1)に比べて約66μL(約1.6倍)増加しているため、外部標準試料のESR信号強度はセル(1)の約1/2に減少した。次に、両セル(1)、(4)で観測された試料の信号強度およびS/N比(感度)を比較した。試料の信号強度(I)はセル(1)がセル(4)を約25%上回ることが判明した。同様にノイズレベルと信号高さの比(S/N比)は、セル(1)が13.4、セル(4)が11.1と評価されこの、S/N比もセル(1)がセル(4)を上回る結果が得られた。興味深いことに、外部標準試料の信号強度と試料(TEMPOL)の信号強度の比率はセル(1)のTEMPOL/Mn値は0.61、セル(4)の値は0.96であり、セル(4)がセル(1)を上回る結果が得られた。これは、セル(4)内に存在する試料(TEMPOL)の総モル数がセル(1)を上回る反面、溶液量が増加したことで誘電損失による感度の低下が起こった結果である。すなわち、水溶液量の増加による誘電損失と、溶液量に依存するESR信号強度、この相反する作用の結果としてESRの見かけの感度が決まる。 次に、内容積がほぼ等しいセル(1)、セル(3)およびセル(5)(約10%内容積が小さい)のESR観測結果を表1において比較し、セル4の光路幅Wと光路長DがESR感度に及ぼす影響を検討した。すると、3種類のセル(1)、(3)、(5)で観測した試料(TEMPOL)のESR信号強度(I)は、セル4の光路長Dが増加するにつれて減少する傾向が顕著であった。このデータを見る限り、セル本体41は薄い(光路長Dが短い)ほどよいことがわかる。(1)と(4)、(2)と(3)を見ても同様である。但し、測定には一定量以上の試料が必要であることを考えると分岐点があることは容易に予想される。さらに、信号強度とセル内容積の比率をとると(表1)、この値はセル(1)、セル(3)からセル(5)の順で減少した。この観測結果は、誘電損失の程度がセル4の形状に敏感であることを示唆している。このような現象は、薄層構造をとる物質では渦電流が軽減されて、見かけの誘電損失が抑制された結果として理解できる。さらに、セル(2)、(3)について内容積とS/N比を見ると、光路幅Wに起因して内容積が大きくなるほどS/N比は大きくなるが、(4)に現れているようにあるところで飽和していることも確認できる。 このように、本実施形態では上記の分割構造によってセル本体41に対して微細な形状の制御が可能となったため、水溶液を満たした扁平セル4の誘電損失がその形状に依存して変化することを初めて実験的に検証することに成功したものである。このように、石英ガラス扁平部分であるセル本体41の形状が正確に評価出来たことで、その光路長DがESRの見かけの感度に著しい影響をもたらすことが実験的に証明できた。(優位性) 上記の5種類の石英―樹脂ハイブリッド扁平セル4では、試料(TEMPOL)のESR信号とノイズのS/N比および信号強度と内容積の比に優れたセル(1)が最良であった。このセル(1)と従来型扁平セルを比較すると、信号強度、S/N比においてセル(1)が従来型扁平セルを上回ることが判明した。従来型扁平セルの設計と製作は、セル形状の最適化などの研究過程を経ずに経験的に行われてきた。従来型扁平セルの形状は試行錯誤の過程で洗練され、優れたESR感度を提供する形状に収束していることは十分に評価できる。その反面で、扁平セル部分の形状が計測できないために、良好なESR感度を示す従来型扁平セルの製作はガラス職人の感覚に依存してきた。本開発の石英−樹脂ハイブリッド扁平セルは、石英ガラス扁平部分の形状が正確に評価できる特徴を有するため、セルの優劣が客観的に評価できる。これによって、均一な性能を有する扁平セルを市場に安定供給できる。この他にも、ESR装置には感度の向上に残された伸び代が少ないことを考えると、セル部分の設計がもたらすESRの感度向上は極めて重要な要素である。 また、継手部材44、45を採用したことで、セル本体41と試料給排路42、43との複雑な接続構造を継手部材44、45が担って、セル本体41や試料給排路42、43自体の構造を加工容易なものにすることを可能にしている。しかも継手部材44、45を通じてガラス一体成型に比して接続部分の強度が向上しており、また継手部材44,45が介在することで必要に応じてセル本体41と試料給排路42、43に異なる材料を用いることも可能なものとなっている。 なお、これ以外に本発明者はセルの長さLについても実験を行なった。その結果、60mmでは必要とされるESR感度が得られず、70mmにすることで必要な一定以上のESR感度信号レベル(図7における一点鎖線)を超えることを確認した。本実施形態では、上記のようなキャビティ3とセル4の寸法関係により、セル本体41の両端はキャビティから5.5mmずつ外方に突出し、その外側に継手部材44、45が配置されている。セル本体41の長さを60mmにすると、有効長L0は56mmとなり、キャビティ3の寸法55mmにほぼ合致するものとなるが、漏れ磁束によって両端の継手部材44、45も静磁場のなかに置かれる結果、ラジカルが発生してESR感度が鈍ったものと考えられる。このような場合、継手部材44、45に使う樹脂はラジカルを極力少なくすることができて十分な結合をするように構成するか、磁気を遮蔽する部材を導入することが必要となるが、本実施形態では長さ設定だけで磁気的影響を排除できることを知見したものである。実験に基づけば、図7に示すようにESR感度はセル4の長さが長くなるにつれて一点鎖線で示す敷居値より右上側でほぼ一定の感度に落ち着くと考えられ、この実施形態ではその敷居値は65mmあたりにあることが予想された。ただ、研究途中のため、更に追試しなければならないことを付言しておく必要がある。さらに、あまり長すぎるとホルダHと干渉するため、長さにも一定の制限が存する。 何れにしても本実施形態では、難しい材料の選定や磁気遮蔽等のための別段の構造を持ち込むことなく、セル本体41以外の部位が磁場の範囲に入って測定に影響を与えることを簡単かつ効果的に回避することを可能にしている。特に、本実施形態では継手部材44,45に樹脂等を用いているが、樹脂からラジカルが発生して測定に悪影響を及ぼすことも有効に回避することができ、継手部材44,45に自由な材料を用いることをも可能にするものである。したがって、強磁性体でなければ、加工性や接続方法、コスト等を総合的に勘案し、目的・用途に応じて継手部材44,45にセラミックやプラスチック、金属、ガラス等を用いることを妨げるものではない。 以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成や製法は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。 例えば、セルの分割数は2つに限らず、3若しくはそれ以上であっても構わず、各分割片の形状も上記実施例に限らない。図8(a)に例示するセル本体141は、分割片である上下2枚の平板材141a、141bの間を左右2枚の壁材141c、141dで接続することによって試料導入部たる中空部および外形がともに扁平矩形状をなすセルを実現するものであり、分割片141a、141bに対する特段の加工を不要にすることができる。 また、分割片を組み付けることによって、2以上の試料導入部たる中空部を備えたセル本体を同時に形成することもできる。図8(b)に示すセル本体241は、分割片である断面H型の芯材241aの両側に平板241b、241cを貼り合わせることによって、一対の中空部を同時に構成することができるものである。 その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。 3…キャビティ 4…電子スピン共鳴装置用セル 41…セル本体 41a、41b…分割片 41c…試料導入部(中空部) 42,43…試料給排路 44,45…継手部材 L0…有効長 L1…キャビティの長さ 複数の分割片を内空を閉じるように組み合わせて接合することによって両端に開口する中空の試料導入部を形成された扁平なセル本体と、このセル本体に接続されて前記試料導入部と連通する別体の試料給排路とを備えてなることを特徴とする電子スピン共鳴装置用セル。 セル本体は直方体形状であって、試料導入部は等断面である請求項1に記載の電子スピン共鳴装置用セル。 セル本体と試料給排路の間を継手部材を介して接続している請求項1又は2に記載の電子スピン共鳴装置用セル。 セル本体と継手部材が一部に嵌め合い構造を有しており、その嵌め合い部を除くセル本体の有効長が、これが挿入されるキャビティの長さより長く、磁場への影響が無視できる位置まで延在する長さに設定されている請求項3に記載の電子スピン共鳴装置用セル。 【課題】セル本体部の内容積を最適化することができ、これにより同一内容量のセルを再現性よく作ることを可能にするとともに、必要に応じてセルの強度も容易に向上させることが可能な、電子スピン共鳴装置用セルを提供する。【解決手段】2つの分割片を閉じるように組み合わせて接合することによって両端に開口する中空部を形成された扁平なセル本体41と、このセル本体41に接続されて中空部に連通する別体の試料給排路42、43とから電子スピン共鳴装置用セルを構成した。【選択図】図2


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