タイトル: | 公開特許公報(A)_採血管及びその製造方法 |
出願番号: | 2012214576 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 33/48 |
瀬戸口 雄二 井上 智雅 JP 2014070908 公開特許公報(A) 20140421 2012214576 20120927 採血管及びその製造方法 積水メディカル株式会社 390037327 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所 110001232 瀬戸口 雄二 井上 智雅 G01N 33/48 20060101AFI20140325BHJP JPG01N33/48 E 8 1 OL 17 2G045 2G045CA25 2G045CA26 2G045HA04 2G045HA06 2G045HA14 2G045HB04 2G045HB06 2G045HB13 本発明は、血液検査などに用いられる採血管及びその製造方法に関し、より詳細には、血清または血漿分離用組成物が底部に収納されている採血管及びその製造方法に関する。 従来、臨床検査などにおいて、有底の採血管本体を有する採血管が広く用いられている。この種の採血管は、有底の採血管本体と、該採血管本体の開口を閉塞しているゴム栓またはフィルム栓とを有する。また、この種の採血管において、血清または血漿を分離するために、予め採血管本体内に血清または血漿分離用組成物が収納されていることがある。この血清または血漿分離用組成物は、比重差により血清または血漿成分と、血球成分とを分離するように作用する。上記血清または血漿分離用組成物としては、チクソトロピー性を有する組成物が用いられている。 また、上記血清または血漿を得るために、採血管内には、血液処理剤が添加されていることが多い。このような血液処理剤としては、血漿を得る場合には、血液抗凝固剤が用いられる。また、血糖値を測定する場合などにおいては、血液処理剤として解糖阻止剤が添加されていることもある。 下記の特許文献1には、この種の採血管の製造方法の一例が開示されている。特許文献1では、合成樹脂からなる有底の採血管本体の底部に、一定量の血清または血漿分離用組成物を充填する。次に、採血管本体の内壁全体に上記血液処理剤をスプレー塗布し、乾燥することが記載されている。特開平10−305024号公報 特許文献1に記載のような従来の採血管においては、採血管を製造した後に、γ線により滅菌処理が施されていた。γ線は、透過力が強い。従って、γ線と他の物質との相互作用は起こり難い。よって、滅菌に必要な吸収線量に到達するのに長時間を要していた。そのため、滅菌効率が悪かった。 加えて、γ線の照射には、一般に、Co60が用いられている。時間の経過とともに、Co60の量は少なくなる。また、Co60の調達先は限られている。従って、γ線照射による滅菌では、滅菌コストが高くつくという問題もあった。 そこで、近年、γ線に代えて電子線を採血管に照射することにより滅菌する方法が用いられている。電子線照射の場合、電流設定値の調整により、必要吸収線量に到達するのに必要な時間をコントロールすることができる。また、電源のオン/オフにより、電子線の照射を自由にかつ容易に制御することができる。さらに、物質との相互作用が起こり易いため、秒単位の極めて短時間で、滅菌を行うことができる。従って、滅菌効率を高め得る。 しかしながら、電子線と、電子線が照射された物質との間の相互作用が非常に起こり易い。そのため、採血管の滅菌に電子線照射を用いた場合、上記血清または血漿分離用組成物が激しく発泡するという問題があった。 血清または血漿分離用組成物はチクソトロピー性を有する。従って、発泡により気泡が生じると、気泡が血清または血漿分離用組成物中に永久的に閉じ込められることになる。よって、採血後に遠心分離した際に、血清または血漿分離用組成物の一部が残りの部分から千切れがちであった。その結果、血液中に、あるいは血清または血漿中に油滴や油膜が生じることがあった。このような油滴や油膜が生じると、測定装置を汚染し、かつ誤った測定値を与えるおそれがある。 本発明の目的は、電子線照射により滅菌した場合であっても、血清または血漿分離用組成物における発泡が生じ難い、採血管及び該採血管の製造方法を提供することにある。 本願発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、血液抗凝固剤などの血液処理剤を、チクソトロピー性を有する血清または血漿分離用組成物から隔てるように採血管本体内に配置すれば、電子線照射による血清または血漿分離用組成物における発泡を効果的に抑制し得ることを見出し、本発明を成すに至った。 すなわち、本発明に係る採血管は、一端が開口し、他端が閉じられている有底管体からなる採血管本体と、前記採血管本体の底部に収納されている血清または血漿分離用組成物と、前記採血管本体内において、前記血清または血漿分離用組成物から隔てられた位置に設けられているイオン性の血液処理剤とを備える。 本発明に係る採血管のある特定の局面では、イオン性の血液処理剤が採血管本体の内面に塗布された後乾燥することにより設けられている。この場合には、スプレー塗布装置などを用い、イオン性の血液処理剤を、採血管本体の内壁の特定の位置に容易に配置することができる。本発明に係る採血管では、好ましくは、イオン性の血液処理剤が、前記血清または血漿分離用組成物から10mm以上隔てられて設けられている。この場合には、電子線照射に際しての血清または血漿分離用組成物の発泡をより効果的に抑制することができる。 本発明に係る採血管のさらに他の特定の局面では、前記イオン性の血液処理剤の設けられている部分の前記血清または血漿分離用組成物側の端部から前記採血管本体の開口側端部までの距離が40mm以下である。この場合には、血液処理剤による抗凝固作用、凝固促進剤あるいは解糖阻止作用を十分に発現させ得る。 本発明に係る採血管において、上記イオン性の血液処理剤としては、好ましくは、血液抗凝固剤が用いられ、より好ましくは、ヘパリン塩が用いられる。ヘパリン塩などの血液抗凝固剤は、上記血清または血漿分離用組成物と接するように配置されている場合、電子線照射による血清または血漿分離用組成物における発泡が生じ易い。これに対して、本発明によれば、このような発泡を効果的に抑制することができる。従って、イオン性の血液処理剤が血液抗凝固剤、特にヘパリン塩である場合、本発明の効果が特に大きい。 本発明に係る採血管の製造方法は、本発明に従って構成されている採血管の製造方法であり、前記採血管本体に血清または血漿分離用組成物を収納する工程と、前記採血管本体の内壁に前記イオン性の血液処理剤を前記血清または血漿分離用組成物から隔てられた位置に設ける工程とを備える。 本発明に係る採血管の製造方法のある特定の局面では、前記イオン性の血液処理剤を前記採血管本体の内壁に設けるにあたり、前記イオン性の血液処理剤をスプレー塗布し、乾燥する。この場合には、血液処理剤を、採血管本体の内壁の所望の位置に、正確かつ容易に配置することができる。 本発明に係る採血管では、採血管本体の内壁において、血清または血漿分離用組成物から隔てられた位置にイオン性の血液処理剤が設けられているため、電子線照射により滅菌を施したとしても、血清または血漿分離用組成物における発泡を効果的に抑制することができる。本発明の一実施形態であって、後述の実施例1で用いられている採血管本体の模式的正面断面図である。実施例1におけるヘパリンリチウム水溶液のスプレー塗布方法を説明するための部分切り欠き正面断面図である。実施例4におけるヘパリンリチウム水溶液のスプレー塗布に用いられているスプレーノズルを説明するための模式的正面図である。本発明の採血管の変形例を説明するための正面断面図である。本発明に係る採血管のさらに他の変形例を説明するための正面断面図である。実施例及び比較例における電子線照射後の採血管中の血清または血漿分離用組成物の写真である。 以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。 図1は、本発明の一実施形態の採血管に用いられる採血管本体を示す模式的正面断面図である。この採血管1は、採血管本体2を有する。採血管本体2は、有底の略円筒の形状を有する。採血管本体2の底部とは反対側の端部が開口端2aとされている。この開口端2a側に、適宜の栓体が取り付けられ、採血管1内が気密封止される。このような栓体は特に限定されず、ゴム栓、フィルム栓などの適宜の従来より周知の採血管用の栓体が用いられる。 上記採血管本体2内には、血清または血漿分離用組成物3が収納されている。より具体的には、血清または血漿分離用組成物3は、採血管本体2の底部に収納されている。前述したように、血清または血漿分離用組成物3は、チクソトロピー性を有する。従って、採血管本体2内に血清または血漿分離用組成物3を収納した後、採血管本体2が傾いたりしたとしても、血清または血漿分離用組成物3が開口端2a側に向かって流れ難い。 他方、本実施形態の採血管1では、採血管本体2の内壁の一部に、イオン性の血液処理剤4が配置されている。イオン性の血液処理剤4は、採血管本体2の内壁に、本実施形態ではスプレー塗布及び乾燥により設けられている。もっとも、イオン性の血液処理剤4を採血管本体2の内壁の一部に設ける方法はこれに限定されるものではない。他の方法で血液処理剤を塗布し、乾燥させてもよい。 本実施形態の採血管1の特徴は、上記血液処理剤4が、採血管本体2内において、血清または血漿分離用組成物3から隔てられて設けられていることにある。より具体的には、採血管本体2の内壁に設けられている血液処理剤4の端部、図1では下端4aが、血清または血漿分離用組成物3から距離H1を隔てて配置されている。 従って、採血管本体2に栓体を取り付け、採血管1を完成させた後、電子線照射により滅菌を施したとしても、血清または血漿分離用組成物3において気泡が発生し難い。よって、血清または血漿分離用組成物の一部が千切れ、血液、血清または血漿中に油滴や油膜が漂い難い。そのため、測定装置の汚染が生じ難く、かつ測定誤差も生じ難い。この点については、具体的に実施例を挙げ、より具体的に説明する。 なお、上記のように、電子線照射により滅菌を施したとしても、血清または血漿分離用組成物中に気泡が生じ難いのは、イオン性の血液処理剤4が、血清または血漿分離用組成物3から隔てられていることによると考えられる。 これに対して、本実施形態では、血液処理剤4が、距離H1だけ血清または血漿分離用組成物3と隔てられているため、電子線を照射したとしても、血清または血漿分離用組成物の気泡の発生が生じ難くなっているものと考えられる。 なお、上記実施形態では、採血管本体2は円筒状の形状をしていたが、角筒状の他の形状を有していてもよい。 また、上記血液処理剤4の上端4bは、採血管本体2の開口端2aから距離H3だけ隔てられている。このように、採血管本体2の開口端2aに対し、血液処理剤4の上端4bが隔てられていることが望ましい。それによって、栓体による封止をより確実に行うことができる。もっとも、血液処理剤4の上端4bは、開口端2aに至っていてもよいが栓体が挿入される場合に、剥がれた血液処理剤4が、血清または血漿分離用組成物3の上面、または、距離H1だけ血清または血漿分離用組成物3と隔てられている部分に付着することで、電子線照射により、血清または血漿分離用組成物3に気泡が発生する場合は、この限りでない。 さらに、好ましくは、上記距離H1は、後述の実施例から明らかなように、10mm以上であることが好ましい。その場合には、血清または血漿分離用組成物3における気泡の発生をより効果的に抑制することができる。より好ましくは、距離H1は30mm以上である。 また、上記血液処理剤4の高さ方向に沿う寸法である距離H2は、40mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより望ましい。採血管本体2の長さにもよるが、40mm以下であれば、血液処理剤4におけるラジカルの発生を抑制でき、かつ距離H1を容易に十分な大きさとすることができる。 なお、上記採血管本体2、血清または血漿分離用組成物3及びイオン性の血液処理剤4を構成する材料は特に限定されないが、これらにつき以下において詳述する。 (採血管本体2の材料) 採血管本体2を構成する材料としては、特に限定されず、合成樹脂やガラスなどを好適に用いることができる。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または変性天然樹脂のいずれを用いてもよい。 熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリビニルアルコールアセタール化物、ポリビニルアルコールブチラール化物等が挙げられる。 熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−アクリレート樹脂等が挙げられる。 変性天然樹脂としては、例えば、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、エチルセルロース、エチルキチン等が挙げられる。 (血清または血漿分離用組成物) 血清または血漿分離用組成物としては、比重差により血球成分と、血清もしくは血漿とを分離する作用を有する従来より公知の血清または血漿分離用組成物を用いることができる。血清または血漿分離用組成物は、前述したとおり、チクソトロピー性を有する。用い得る血清または血漿分離用組成物の具体的な例としては、液状樹脂成分に無機粉末を分散させてなる組成物が挙げられる。上記液状樹脂組成物としては、シクロペンタジエン系オリゴマーとトリメリット酸エステルとを混合してなる液状樹脂成分、シリコーン樹脂、α−オレフィン−フマル酸ジエステル共重合体系、アクリル系樹脂、ポリエステル、セバシン酸と2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールと1,2−プロパンジオールとの共重合体系、ポリエーテルポリウレタン、もしくはポリエーテルエステル等の液状樹脂が挙げられる。また、ポリ−α−ピネンポリマーと塩素化炭化水素との液状混合物、塩素化ポリブテンとエポキシ化動植物油等の液状化合物との液状混合物、三弗化塩化エチレンやベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体等とポリオキシアルキレングリコール等との液状混合物、あるいは、石油類のスチームクラッキングにより得られる、C5留分(シクロペンタジエン、イソプレン、ピペリレン、2−メチルブテン−1、2−メチルブテン−2等を含む)の単独または共重合物、C9留分(スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、インデン、クマロン等を含む)の単独または共重合物、前記C5留分とC9留分の共重合物等の未水添、部分水添、または完全水添物からなる、石油樹脂(石油系炭化水素樹脂とも言う)あるいはDCPD樹脂(シクロペンタジエン系石油樹脂とも言う)等とベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体(例えばフタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル)等との液状混合物等の、液体同士あるいは固体と液体を混合して得られる溶液なども用いることができる。 上記無機粉末としては、特に限定されず、例えば、公知の気相法(乾式法とも言う)あるいは沈降法で製造されるシリカ、疎水性微粉末シリカまたは、ベントナイト、スメクタイト等からなる粘土鉱物等の二酸化ケイ素系、あるいは二酸化チタン系、アルミナ系等の微粉末を用いることができる。上記無機微粉末は単独で用いてもよく、2種以上の無機微粉末を用いてもよい。 (血液処理剤4) 上記イオン性の血液処理剤4としては、血液抗凝固剤、解糖阻止剤などの様々なイオン性の血液処理剤を用いることができる。 上記血液抗凝固剤としては、従来から血液抗凝固剤として使用されてきたものを使用可能である。例えば、エチレンジアミン四酢酸塩系化合物、ヘパリン系化合物、クエン酸系化合物またはシュウ酸系化合物等が挙げられる。 エチレンジアミン四酢酸塩系化合物としては、例えば、EDTA2K、EDTA3K、EDTA2Na等が挙げられる。ヘパリン系化合物としては、例えば、ヘパリンナトリウム、ヘパリンリチウム、ヘパリンアンモニウム等のヘパリン塩が挙げられる。クエン酸系化合物としては、例えば、クエン酸三ナトリウムが挙げられる。シュウ酸系化合物としては、例えば、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム等が挙げられる。好ましくは、ヘパリン塩が用いられる。ヘパリン塩は抗凝固性が高く、本発明による気泡抑制の効果も高い。 また、本発明で使用される解糖阻止剤としては、従来から解糖阻止剤として使用されてきたものをいずれをも用い得る。例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、クエン酸等が挙げられる。 また、2種以上のイオン性の血液処理剤4を併用してもよい。従って、上記イオン性の血液処理剤4として、前述した血液抗凝固剤及び解糖阻止剤の双方を併用してもよい。 (製造方法) 本発明の採血管の製造方法は、特に限定されないが、以下において好ましい実施態様を説明する。 本実施態様では、図1に示した採血管本体2内に、まず血清または血漿分離用組成物3を収納する。収納方法は特に限定されず、採血管本体2の底部に血清または血漿分離用組成物3を投入することにより行い得る。次に、採血管本体2の開口からノズルを採血管本体2内に挿入し、採血管本体2の内壁に、イオン性の血液処理剤4をスプレー塗布する。上記血液処理剤4をスプレー塗布するに際しては、血液処理剤4を含有する溶液または分散液を用意し、スプレーにより塗布すればよい。しかる後、塗布により付着したイオン性の血液処理剤4を乾燥させる。 このようなスプレー塗布、及び乾燥法を用いることにより、採血管本体2の内壁にイオン性の血液処理剤4を確実に付着させることができる。特に、図2に示すノズル11に比べ、図3に示す後述のノズル21を用いることにより、採血管本体2の内壁の特定の位置により確実に血液処理剤4を付着させることができる。 上記のようにして、血液処理剤4を採血管本体2の内壁に設けた後、採血管本体2にゴム栓などの栓体を減圧下で打栓する。このようにして、内部が減圧された採血管1を得ることができる。 なお、上記栓体を打栓するに際し、血液処理剤4が栓体と接触しないことが望ましい。それによって、打栓に際し、血液処理剤4の一部が血清または血漿分離用組成物3上に落下することを防止することができる。従って、図1に示した距離H3は、栓体が採血管本体2内に挿入される部分の長さよりも長いことが望ましい。より具体的には、図1の一点鎖線で示す栓体Aの採血管本体2に挿入されている深さLよりも、上記距離H3が長いことが望ましい。 もっとも、乾燥後の血液処理剤4が、栓体と接触しても、血液処理剤4が下方に落下し難い血液処理剤4の場合には、距離H3は栓体の挿入深さLよりも短くてもよい。また、前述したように、距離H3は0であってもよい。 図2に示すノズル11は、従来より周知の二重管構造のノズルである。二重管構造のノズル11は、内管と外管とを有する。内管から血液処理剤の液滴が放出され、外管と内管の隙間から圧縮空気が放出される。それによって、内管から放出された血液処理剤溶液または分散液がエアロゾルとしてスプレー塗布される。すなわち、図2の矢印で示すように、血液処理剤4の溶液または分散液がエアロゾルとして塗布される。この場合、ノズル11の採血管本体2内への挿入深度を調整することにより、血液処理剤4が付着する領域をコントロールすることができる。 より好ましくは、図3に示すように、ノズルの先端に反射板22を有するノズル21を用いることが望ましい。この場合、反射板22により、エアロゾルが反射される。従って、図3に矢印で示すように、エアロゾルが反射板22よりも下方には進まず、ノズル21の先端近傍において側方に噴出されることになる。よって、採血管本体2の内壁の特定の高さ位置の領域に、容易にかつ確実に血液処理剤4を付着させることができる。 なお、前述したように、血液処理剤4を含む溶液または分散液の塗布方法については特に限定されない。従って、インクジェット方式などの他の塗布方法を用いてもよい。 また、上記のようなエアロゾル方式のノズル11,21ではなく、水圧だけで一定量の薬液を吐出する塗布方法を用いてもよい。 さらに、合成樹脂フィルムやセルロースフィルムなどに、上記血液処理剤4を含む溶液または分散液を噴霧し、乾燥させる。図4に示すように、このようにして血液処理剤4が付着されたフィルム5を、採血管本体2内において血清または血漿分離用組成物3と距離を隔てるように配置してもよい。この場合、上記フィルム5を採血管本体2の内壁に貼り付けてもよい。あるいは、フィルム5に代えて図5に示すように、採血管本体2の内径よりも大きなフィルム5Aを用い、血清または血漿分離用組成物3上に落下しないように該フィルムを配置してもよい。 上記のように、本発明においては、イオン性の血液処理剤4が採血管本体2内において、底部に収納されている血清または血漿分離用組成物3と隔てられて配置される限り、その配置態様は特に限定されるものではない。 本発明の製造方法で得られた採血管の使用に際しては、真空採血法などにより血液を採血管本体2内に導いた後、血液が血液処理剤4と十分量接触して、血液処理剤が血液中に分散し、または、溶解した後、一定条件で遠心分離剤することで、血清または血漿成分を得ることができる。採血した後、血液処理剤を血液中に分散、または溶解させるためには、遠心分離剤を行う前に、転倒混和をするのが好ましい。 次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明の効果を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 (実施例1) (血清または血漿分離用組成物) シクロペンタジエン系オリゴマー(エクソンモービル社製、商品名:ESCOREZ5690)52.5gと、トリメリット酸エステル(大日本インキ化学工業社製、商品名:モノサイザーW700)43.5gとを130℃で溶解し、液状樹脂成分を調製した。この液状樹脂成分を約30℃まで冷却した。次に、プラネタリーミキサーで前記液状樹脂成分を攪拌しつつ、無機微粉末として、疎水性微粉末シリカ(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルR974)4.0g投入し、分散させた。 このようにして、血清または血漿分離用組成物を得た。得られた上記血清または血漿分離用組成物の比重は1.06であった。 続いて、7mL容量のポリエチレンテレフタレート製試験管(外直径13mm×長さ100mm、肉厚1.3mm)110本に、得られた血清または血漿分離用組成物を約0.9gずつ収容した。 (ヘパリンリチウム薬剤) ヘパリンリチウム(和光純薬社製、生化学試薬)を注射用水(大塚製薬社製)に溶解し、9000U/gのヘパリンリチウム水溶液を調製した。このヘパリンリチウム水溶液10mgを図2に示したノズル11を用い、上記採血管本体2の内壁に塗布し、乾燥させた。塗布に際しては、下記の表1に示す距離H1〜H3となるように塗布位置をコントロールした。また、乾燥に際しては、20m3/時間の流速の空気を吹付け乾燥した。しかる後、15kPaの減圧下において、ブチルゴムからなる栓体を採血管本体2に打栓し、実施例1の採血管を得た。このような採血管を100本用意した。 (実施例2,3) 実施例2及び実施例3では、それぞれ、ヘパリンリチウム水溶液の塗布量を5mgとしたこと、上記ヘパリンリチウム水溶液の塗布位置を、距離H1〜H3を下記の表1に示すようにしたことを除いては、採血管を作製した。 (実施例4〜6) 実施例4〜6では、図3に示したノズル21を用い、ヘパリンリチウム水溶液を5mgとしたこと、上記ヘパリンリチウム水溶液の塗布位置の距離H1〜H3を下記の表1に示すようにしたことを除いては実施例1と同様にして採血管を得た。 (比較例1) ヘパリンリチウム水溶液の濃度を3000U/gとし、ヘパリンリチウム水溶液の塗布量を30mgとし、距離H1〜H3を下記の表1に示すようにしたことを除いては、実施例1と同様にして、採血管を作製した。 (比較例2) ヘパリンリチウム水溶液の濃度を9000U/gとし、ヘパリンリチウム水溶液の塗布量を10mgとし、距離H1〜H3を下記の表1に示すように設定したことを除いては、実施例1と同様にして、採血管を作製した。 (比較例3) ヘパリンリチウム水溶液の濃度を18000U/gとし、ヘパリンリチウム水溶液の塗布量を5mgとし、距離H1〜H3を下記の表1に示すように設定したことを除いては、実施例1と同様にして、採血管を作製した。 (実施例及び比較例の評価) 上記のようにして得た採血管100本を、加速電圧10MeV、電流値10mAとし、ブチルゴム栓から底部において電子線照射量が20kGyとなるように設定し、電子線を照射して滅菌した。このようにして滅菌された採血管各100本を得た。 (1)電子線滅菌による発泡の有無の評価 実施例1〜6において滅菌された各100本の採血管中の血清または血漿分離用組成物の発泡度合を確認した。すなわち、電子線を照射し終えた直後の各100本の血液検査用容器について、採血管中の血清または血漿分離用組成物の発泡の有無及び発泡した場合にはその発泡度合を、下記の表3に示した4段階のスコアにより評価して、評価結果を下記の表2に示した。 なお、図6は、表3に示した4段階のスコアについて説明するための、電子線を照射し終えた直後の採血管中の血清または血漿分離用組成物の写真である。図6において、左側から右側にかけての4本の採血管における発泡状態が、それぞれ、スコア0、スコア1、スコア2及びスコア3の発泡状態であることを示す。図6の左端に示す血清または血漿分離用組成物中には発泡が見られない。このように、発泡が見られない場合のスコアを0とした。また、図6の左端以外に示す血清または血漿分離用組成物中には発泡が見られるが、その場合には、発泡により生じた泡の体積の分だけ、血液検査用容器内に収容されている血清または血漿分離用組成物の上面の高さが上昇している。このように、図6の血液検査用容器内に収容されている分離用組成物の上面の高さの上昇距離が2mm以下の場合のスコアを1とし、該上昇距離が2mmを超え、かつ5mm以下の範囲の場合のスコアを2とし、該上昇距離が5mmを超える場合のスコアを3とした。 表2から明らかなように、比較例1では60本の採血管において、比較例2及び3ではそれぞれ99本、97本の採血管において多量の発泡が認められた。これに対し、実施例1〜6では発泡が認められた血液検査用容器の本数が、それぞれ11、5、7、6、2および0本と少なかった。従って、本発明の滅菌方法により血清または血漿分離用組成物を充填した採血管を電子線滅菌することにより、電子線照射時における発泡が比較例1〜3に比べて著しく抑制されていた。 (2)血液分離性の評価 実施例1〜6及び比較例1〜3により滅菌された上記血清または血漿分離用組成物を収容した採血管のうち、発泡が見られたものを優先的に選択して、計5本に、ボランティアのヒト新鮮血を5mL/本の割合で採取し、転倒混和した。続いて、上記採血管を20℃で1700G×5分の条件により遠心分離した。 その後、遠心分離によって血漿と血球成分とを分離するために形成される上記血清または血漿分離用組成物による隔壁形成性、溶血の有無、油状浮遊物及び油膜の有無を目視により観察した。評価結果を以下の表4に示した。 表4から明らかなように、実施例1〜6では、上記血清または血漿分離用組成物が良好な隔壁形成性を示すとともに、溶血も見られず、遠心分離された血液成分中には油状浮遊物や油膜も発生しなかった。 比較例1〜3においては、隔壁形成性は良好かつ溶血も見られなかった。しかしながら、比較例1〜3では油状浮遊物及び油膜が、5本中の採血管中4本、4本及び3本においてそれぞれ生じた。 以上のように、実施例1〜6の滅菌方法を用いることにより、採血管中の血清または血漿分離用組成物の電子線照射時の発泡が抑制されることがわかる。さらに、このようにして滅菌された採血管の血清または血漿分離用組成物は、血液分離に用いた際にも良好な隔壁形成性を示し、油滴の発生もないことがわかった。1…採血管2…採血管本体2a…開口端3…血清または血漿分離用組成物4…血液処理剤4a…下端4b…上端5,5A…フィルム11,21…ノズル22…反射板 一端が開口し、他端が閉じられている有底管体からなる採血管本体と、 前記採血管本体の底部に収納されている血清または血漿分離用組成物と、 前記採血管本体内において、前記血清または血漿分離用組成物から隔てられた位置に設けられているイオン性の血液処理剤とを備える、採血管。 前記イオン性の血液処理剤が前記採血管本体の内面に塗布された後乾燥されて設けられている、請求項1に記載の採血管。 前記イオン性の血液処理剤が、前記血清または血漿分離用組成物から10mm以上隔てられて設けられている、請求項1または2に記載の採血管。 前記イオン性の血液処理剤の設けられている部分の前記血清または血漿分離用組成物側の端部から前記採血管本体の開口側端部までの距離が40mm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の採血管。 前記イオン性の血液処理剤が血液抗凝固剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の採血管。 前記血液抗凝固剤が、ヘパリン塩である、請求項5に記載の採血管。 請求項1〜6のいずれか1項に記載の採血管の製造方法であって、 前記採血管本体に血清または血漿分離用組成物を収納する工程と、 前記採血管本体の内壁に前記イオン性の血液処理剤を前記血清または血漿分離用組成物から隔てられた位置に設ける工程とを備える、採血管の製造方法。 前記イオン性の血液処理剤を前記採血管本体の内壁に設けるにあたり、前記イオン性の血液処理剤をスプレー塗布し、乾燥する、請求項7に記載の採血管の製造方法。 【課題】電子線照射による滅菌を行ったとしても、血清または血漿分離用組成物における発泡が生じ難い、採血管を提供する。【解決手段】一端が開口し、他端が閉じられている有底管体からなる採血管本体2の底部に血清または血漿分離用組成物3が収納されており、採血管本体2内において、血清または血漿分離用組成物3から隔てられた位置にイオン性の血液処理剤4が設けられている、採血管1。【選択図】図1