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タイトル:公開特許公報(A)_熱安定性を有する蛍光タンパク質およびそれを利用する方法
出願番号:2012207406
年次:2014
IPC分類:C12N 15/09,C07K 14/435,G01N 21/78


特許情報キャッシュ

村井 麻莉子 小江 克典 杵渕 隆 鈴木 浩文 JP 2014060947 公開特許公報(A) 20140410 2012207406 20120920 熱安定性を有する蛍光タンパク質およびそれを利用する方法 オリンパス株式会社 000000376 蔵田 昌俊 100108855 福原 淑弘 100109830 中村 誠 100088683 野河 信久 100103034 白根 俊郎 100095441 峰 隆司 100075672 幸長 保次郎 100119976 河野 直樹 100153051 砂川 克 100140176 井関 守三 100158805 赤穂 隆雄 100172580 井上 正 100179062 佐藤 立志 100124394 岡田 貴志 100112807 堀内 美保子 100111073 竹内 将訓 100134290 村井 麻莉子 小江 克典 杵渕 隆 鈴木 浩文 C12N 15/09 20060101AFI20140314BHJP C07K 14/435 20060101ALI20140314BHJP G01N 21/78 20060101ALI20140314BHJP JPC12N15/00 AC07K14/435G01N21/78 C 8 1 OL 12 2G054 4B024 4H045 2G054AA02 2G054CA20 2G054CA22 2G054CA23 2G054CE02 4B024AA11 4B024BA80 4B024CA04 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA01 4B024GA11 4B024HA03 4B024HA11 4H045AA10 4H045AA20 4H045AA30 4H045BA70 4H045CA50 4H045EA50 4H045FA74 本発明は、熱安定性を有する蛍光タンパク質およびそれを利用する方法に関する。 緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein、GFP)などの蛍光タンパク質は、生物学における基礎研究から応用研究まで、幅広く利用される重要なツールである。オワンクラゲ(Aequorea victoria)由来のGFPが見出され、その遺伝子を原核生物である大腸菌や真核生物である線虫で発現させることで、緑色の蛍光によるイメージングが可能となった。GFPと他のタンパク質とを融合することで、その他のタンパク質の細胞内局在や発現量の変化をイメージングすることが可能となる。さらに、GFPを動物個体の組織内で発現させることで、動物個体をin vivoで非侵襲的にモニタリングすることが出来る。GFPは、このような性質を有するため、一般的な細胞研究のみならず、ガンの基礎研究や治療効果をモニターすることへの応用研究にも用いられている。 滅菌方法の1つとして、対象物を水分存在下で加熱する処理が存在する。このような処理は、湿熱処理と呼ばれる。特に、100度以下の湿熱処理は、食品や医薬品等の製造過程に用いられている。湿熱処理を行うことによって、微生物の発育制御および内在性酵素の不活化が起こり、製造物の品質が守られ、より長い有効期限が保持される。湿熱処理の効果を調べるためには、製品に生存する病原菌数を知る必要がある。しかし、それを直接カウントすることは多大な手間を要する。そこで、その活性を見るだけで湿熱処理効果を簡単に評価できる、酵素などのバイオインディケーターが必要とされる。従来、バイオインディケーターとして、製品中に存在する最も耐熱性の高い酵素が選択され、それが用いられてきた。 GFPは、基質を加えることなく蛍光を生じるため、GFPのバイオインディケーターとしての利用は、湿熱処理の効果の評価を容易にし、そのため、従来の酵素と比較して利便性が高いと予想される。しかしながら、一般に、GFPは極端な高温条件下で蛍光活性を失う。 非特許文献2には、既存のGFP変異体のうち、より耐熱性の高いものについて、バイオインディケーターとしての利用可能性を調べている。食品または医薬品の分野における湿熱処理効果を調べるためには、100度付近でもGFPが蛍光を発する必要がある。Penna et al. “Thermal stability of recombinant green fluorescent protein (GFPuv) at various pH values.” (2004), Appl Biochem Biotechnol, Spring;113-116:469-83Penna et al. “Thermal characteristics of recombinant green fluorescent protein (GFPuv) extracted form Escherichia coli” (2004), Lett Appl Microbiol, 38, 135-9Crameri et al. “Improved green fluorescent protein by molecular evolution using DNA shuffling.” (1996), Nat Biotechnol, 14(3), 315-9 本発明の目的は、高い熱安定性を有する蛍光タンパク質およびそれを利用する方法を提供することにある。 本発明に係る蛍光タンパク質は、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物に由来し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない。 本発明に係る蛍光タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。 本発明に係る蛍光タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列との間で80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない。 本発明に係る湿熱滅菌方法は、滅菌の対象となる対象物と、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質および/または配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質とを湿熱処理することと、前記蛍光タンパク質の発光強度の前記湿熱処理前後における変化に基づいて、前記湿熱処理の程度を評価することとを含む。 本発明によれば、高い熱安定性を有する蛍光タンパク質およびそれを利用する方法が提供される。図1は、第1実施形態に係る蛍光タンパク質を発現する大腸菌の、加熱処理前後における発光の様子を示す図である。図2は、精製した第1実施形態に係る蛍光タンパク質の、加熱処理前後における発光の様子を示す図である。図3は、第1実施形態に係る蛍光タンパク質の、加熱処理の温度と加熱処理後の発光強度との関係を示す図である。 本発明の第1実施形態は、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物に由来し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない蛍光タンパク質である。 刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物とは、例えば、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属すカベルヌラリア・オベサ(Cavernularia obesa)(和名:ウミサボテン)である。この他に、未だ分類されていない生物または未発見の生物であって、後に刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属すことが判明した生物も、これに含まれる。 蛍光タンパク質とは、励起光を受けて励起され、発光を生じるタンパク質を意味する。この発光の発生には、基質を必要としない。発光の色は、緑色、赤色、黄色等のものが存在する。 第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない。本願において「発光活性を失わない」とは、100℃以上の環境に10分間以上置かれる前後で発光活性が変化しない場合だけでなく、100℃以上の環境に10分間以上置かれた後において、発光活性が低下するものの測定可能な発光を生じる程度の発光活性を有している場合も含む。例えば、第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、100℃以上の環境に10分間以上置かれても、その環境に置かれる前の発光活性の20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上または50%以上の発光活性を維持している。さらに、第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、100℃以上の環境に10分間以上置かれても、蛍光顕微鏡やルミノメーターといった一般的な蛍光を測定する装置により発光が測定可能な発光活性を維持している。 また、第1実施形態に係る蛍光タンパク質の存在する環境の温度を上昇させた場合に、その発光活性は、急に低下することなく、温度の上昇とともに少しずつ低下する。例えば、第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、25℃での発光活性を100%とした場合、70℃で10分間加熱した場合に95%の発光活性を示し、80℃で10分間加熱した場合に75%の発光活性を示し、90℃で10分間加熱した場合に60%の発光活性を示し、100℃で10分間加熱した場合に50%の発光活性を示す。なお、一般的な蛍光タンパク質では、40℃を超えると発光活性は急激に低下するが、第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、そのような急激な発光活性の低下を示さない。 第1実施形態に係る蛍光タンパク質の例は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質である。この蛍光タンパク質は、ウミサボテン(カベルヌラリア・オベサ)の遺伝子クローニングによって得られた221個のアミノ酸から成る蛍光タンパク質に対して、複数のアミノ酸残基を置換する変異を導入することにより取得することができる。具体的には、アミノ酸配列のN末端側から142番目のスレオニンをイソロイシンに置換し(T142I)、154番目のシステインをアルギニンに置換(C154R)することで取得することができる。この蛍光タンパク質は、大腸菌にて発現させた場合、二量体を形成する。本願を通して、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質のことを、便宜的に「変異体1」、「mutant1」または「mut1」と称する。また、ウミサボテンの遺伝子クローニングによって得られた221個のアミノ酸から成る蛍光タンパク質のことを、便宜的に「野生型」または「WT」と称する。 変異体1のアミノ酸配列を以下に示す:MSIPENSGLTEEMPAQMNLEGVVNGHAFSMEGIGGGNILTGIQKLDIRVTEGDPLPFSFDILSVAFQYGNRTYTSYPAKIPDYFVQSFPEGFTFERTLSFEDGAIVKVESDISIEDGKFVGKIKYNGESFPEDGPVMKKEVIKLEPSSESMYVRDDTLVGEVVLSYKTQSTHYTCHMKTIYRSKKPVENLPKFHYVHHRLEKKKVEEGNYYEQHETAIAKP(配列番号1)。 第1実施形態に係る蛍光タンパク質の別の例は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質である。この蛍光タンパク質も、変異体1と同様に、ウミサボテンの野生型蛍光タンパク質に対して、複数のアミノ酸残基を置換する変異を導入することにより取得することができる。具体的には、アミノ酸配列のN末端側から129番目のセリンをグリシンに置換し(S129G)、154番目のシステインをセリンに置換し(C154S)、156番目のアスパラギン酸をグリシンに置換し(D156G)、204番目のリジンをイソロイシンに置換し(K204I)、209番目のアスパラギンをチロシンに置換(N209Y)することで取得することができる。この蛍光タンパク質は、大腸菌にて発現させた場合、単量体を形成する。本願を通して、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質のことを、便宜的に「変異体2」、「mutant2」または「mut2」と称する。 変異体2のアミノ酸配列を以下に示す:MSIPENSGLTEEMPAQMNLEGVVNGHAFSMEGIGGGNILTGIQKLDIRVTEGDPLPFSFDILSVAFQYGNRTYTSYPAKIPDYFVQSFPEGFTFERTLSFEDGAIVKVESDISIEDGKFVGKIKYNGEGFPEDGPVMKKEVTKLEPSSESMYVSDGTLVGEVVLSYKTQSTHYTCHMKTIYRSKKPVENLPKFHYVHHRLEKKIVEEGYYYEQHETAIAKP(配列番号2)。 第1実施形態に係る蛍光タンパク質のまた別の例は、配列番号1に記載のアミノ酸配列との間で80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない蛍光タンパク質である。すなわち、この蛍光タンパク質は、変異体1と比較してアミノ酸配列が変異しているものの、変異体1が有している熱に対する安定性と同様の性質を有している。この蛍光タンパク質の例は、変異体1のアミノ酸配列において、発光活性に対する影響が小さい部分のアミノ酸残基が置換され、または欠失しているタンパク質である。相同性は、好ましくは、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上である。 第1実施形態に係る蛍光タンパク質のさらに別の例は、配列番号2に記載のアミノ酸配列との間で80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない蛍光タンパク質である。すなわち、この蛍光タンパク質は、変異体2と比較してアミノ酸配列が変異しているものの、変異体2が有している熱に対する安定性と同様の性質を有している。この蛍光タンパク質の例は、変異体2のアミノ酸配列において、発光活性に対する影響が小さい部分のアミノ酸残基が置換され、または欠失しているタンパク質である。相同性は、好ましくは、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上である。 第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、高い熱安定性を示し、その性質に基づいて様々な技術に応用することが可能となる。第1実施形態に係る蛍光タンパク質を使用することで、これまで不可能であった新たな技術を達成することも可能となる。第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、例えば、湿熱処理に使用することが可能となる。 GFPといった従来の蛍光タンパク質は、基質を必要とせず単体で蛍光を発することから、湿熱処理等のバイオインディケーターとしての利用が期待される。しかしながら、一般的なGFPは、極端な高温条件下では蛍光を失ってしまう。そのため、湿熱処理の効果を調べるためには、高温条件に対する耐熱性が必要とされる。従来のオワンクラゲGFP変異体を用いて、バイオインディケーターとしての利用可能性を検討することも行われたが、100℃における耐熱性は示されていない。すなわち、従来の蛍光タンパク質を、100℃付近の高温条件を利用する湿熱処理に利用することはできない。 一方、第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、100℃以上の環境に10分間以上置いた後でも、測定するのに十分な明るさの蛍光活性を示すため、医薬品や食品の湿熱処理に利用することが可能となり、それらの製造過程において重要な湿熱処理の効果等を迅速に調べることができる。 また、第1実施形態に係る蛍光タンパク質によれば、高温環境下における生物の蛍光イメージングが可能となる。例えば、至適生育温度が45℃以上とされている好熱菌や、至適生育温度が80℃以上とされている超好熱菌において、従来行うことができなかった蛍光イメージングを行うことが可能となる。 第1実施形態に係る蛍光タンパク質は、核酸の形態で提供されてもよい。すなわち、第1実施形態に係る蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸も提供される。 このような核酸の具体的な例は、配列番号1および2に記載の塩基配列を含む核酸である。これらの塩基配列は、それぞれ、変異体1および2の遺伝子をコードしている。 変異体1の遺伝子をコードする塩基配列を以下に示す:ATGAGTATTCCAGAGAATTCGGGCTTAACAGAAGAGATGCCTGCTCAAATGAATTTAGAAGGAGTGGTAAATGGTCATGCCTTCTCTATGGAAGGAATTGGTGGAGGGAACATACTAACTGGAATTCAAAAGCTGGATATCCGTGTCACCGAGGGAGATCCTCTTCCGTTTTCCTTTGACATTCTCTCAGTTGCGTTTCAATATGGCAACAGAACTTACACAAGTTATCCTGCGAAGATCCCCGATTATTTCGTTCAATCATTCCCAGAAGGGTTCACCTTTGAAAGGACTCTTAGTTTTGAAGATGGTGCAATCGTAAAGGTCGAATCGGATATTAGTATTGAAGATGGCAAATTTGTTGGCAAGATTAAATATAATGGCGAAAGTTTTCCAGAGGATGGACCGGTGATGAAAAAGGAAGTTATCAAACTAGAACCGTCCAGTGAGTCAATGTATGTACGTGACGACACTTTGGTGGGAGAAGTTGTGTTGTCTTACAAGACCCAGTCGACTCATTACACTTGCCATATGAAAACAATCTACAGGTCCAAAAAGCCAGTAGAAAACCTGCCAAAGTTCCATTATGTTCATCATCGCCTCGAAAAGAAAAAAGTCGAGGAAGGCAACTACTACGAGCAACATGAGACGGCCATAGCTAAACCATGA(配列番号4)。 変異体2の遺伝子をコードする塩基配列を以下に示す:ATGAGTATTCCAGAGAATTCGGGCTTAACAGAAGAGATGCCTGCTCAAATGAATTTAGAAGGAGTGGTAAATGGTCATGCCTTCTCTATGGAAGGAATTGGTGGAGGGAACATACTAACTGGAATTCAAAAGCTGGATATCCGTGTCACCGAGGGAGATCCTCTTCCGTTTTCCTTTGACATTCTCTCAGTTGCGTTTCAATATGGCAACAGAACTTACACAAGTTATCCTGCGAAGATCCCCGATTATTTCGTTCAATCATTCCCAGAAGGGTTCACCTTTGAAAGGACTCTTAGTTTTGAAGATGGTGCAATCGTAAAGGTCGAATCGGATATTAGTATTGAAGATGGCAAATTTGTTGGCAAGATTAAATATAATGGCGAAGGTTTTCCAGAGGATGGACCGGTGATGAAAAAGGAAGTTACCAAACTAGAACCGTCCAGTGAGTCAATGTATGTATCGGACGGCACTTTGGTGGGAGAAGTTGTGTTGTCTTACAAGACCCAGTCGACTCATTACACTTGCCATATGAAAACAATCTACAGGTCCAAAAAGCCAGTAGAAAACCTGCCAAAGTTCCATTATGTTCATCATCGCCTCGAAAAGAAAATAGTCGAGGAAGGCTACTACTACGAGCAACATGAGACGGCCATAGCTAAACCATGA(配列番号5)。 また、核酸は、プロモーターといった転写制御のための因子が結合する領域をさらに含んでよい。また、核酸は、第1実施形態に係る蛍光タンパク質とは異なるタンパク質をコードする遺伝子をさらに含んでよい。この場合、蛍光タンパク質とこの異なるタンパク質とが融合した状態で発現されるように、それらの遺伝子が核酸上に配置されている。 また、核酸はベクターの形態であってよい。ベクターは、抗生物質耐性遺伝子および複製起点といった一般的なベクターに含まれる要素を含んでよい。 このような核酸によれば、第1実施形態に係る蛍光タンパク質の遺伝子を、核酸の形態にて安定的に保存および使用することができる。 本発明の第2実施形態は湿熱滅菌方法である。 第2実施形態に係る湿熱滅菌方法は、滅菌の対象となる対象物と、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質および/または配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質とを湿熱処理することを含む。 対象物は、種々のものであってよく、例えば、食品、医薬品、培養培地、試薬、食品や医薬品の製造ための器具、試験用器具、医療用器具等である。好ましくは、対象物は、100℃を超える温度において変性するという理由から、通常100℃程度の湿熱処理が行われる対象物であり、例えば、食品および医薬品である。 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質(すなわち変異体1)および配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質(すなわち変異体2)のいずれか一方が、またはそれらが同時に、対象物とともに湿熱処理に供される。これらの蛍光タンパク質と対象物とが混合された状態で湿熱処理することができる。あるいは、湿熱処理を行う装置内に、これらの蛍光タンパク質と、対象物とを独立に存在させて、湿熱処理を行うことができる。湿熱処理の際、これらの蛍光タンパク質は、好ましくは水溶液中に存在している。これらの蛍光タンパク質は、既知の方法により製造されたものを使用してよい。例えば、大腸菌にて発現させて、大腸菌から抽出または精製したものを使用してよい。 湿熱処理として、水分存在下で対象物を加熱する。例えば、食品や医薬品に対して一般的に行われる条件にて湿熱処理が行われる。例えば、対象物は100℃以上の環境に10分間以上置かれる。 第2実施形態に係る湿熱滅菌方法は、前記蛍光タンパク質の発光強度の前記湿熱処理前後における変化に基づいて、前記湿熱処理の程度を評価することを含む。 湿熱処理の後、蛍光タンパク質の発光強度が測定される。その測定値を、湿熱処理前の測定した発光強度、またはその蛍光タンパク質の常温での一般的な発光強度と比較し、発光活性の低下の程度から、対象物に対する湿熱処理が十分であったかどうかが判断される。このとき、種々の処理条件下にて蛍光タンパク質を湿熱処理し、その結果に基づいて予め作成した、処理条件と蛍光活性との関係を示す検量線に当てはめることで、実際に対象物に対して行った湿熱処理の状態をより正確に調べることもできる。 第2実施形態に係る湿熱滅菌方法によれば、例えば医薬品や食品の湿熱処理の効果を、直接菌体数をカウント等する必要なく、迅速に調べることが可能となる。また、第2実施形態に係る湿熱滅菌方法によれば、蛍光を測定することにより評価することが可能となるため、従来の酵素を用いた反応に比べ、容易に評価を行うことが可能となる。 本発明の第3実施形態は、第2実施形態に係る湿熱滅菌方法において使用するための、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を有する湿熱滅菌評価用蛍光タンパク質である。 第3実施形態に係る蛍光タンパク質は、湿熱滅菌方法への使用に特化した形態であってよい。 第3実施形態に係る蛍光タンパク質によれば、第2実施形態に係る湿熱滅菌方法と同様に、医薬品や食品等の湿熱処理の効果を、迅速に容易に調べることが可能となる。 (1)ウミサボテン蛍光タンパク質遺伝子の変異体作製 野生型のウミサボテンGFPに対して、ランダムに変異を導入し、熱安定性を有する変異体をスクリーニングし、変異体1および2を取得した。 野生型のウミサボテンGFPは、特開2011−135781号公報に開示される方法に倣って取得した。そのアミノ酸配列は配列番号3に記載のアミノ酸配列であり、それをコードする遺伝子の塩基配列は、配列番号6に記載の塩基配列である。それぞれの配列を以下に示す: アミノ酸配列MSIPENSGLTEEMPAQMNLEGVVNGHAFSMEGIGGGNILTGIQKLDIRVTEGDPLPFSFDILSVAFQYGNRTYTSYPAKIPDYFVQSFPEGFTFERTLSFEDGAIVKVESDISIEDGKFVGKIKYNGESFPEDGPVMKKEVTKLEPSSESMYVCDDTLVGEVVLSYKTQSTHYTCHMKTIYRSKKPVENLPKFHYVHHRLEKKKVEEGNYYEQHETAIAKP(配列番号3) 塩基配列ATGAGTATTCCAGAGAATTCGGGCTTAACAGAAGAGATGCCTGCTCAAATGAATTTAGAAGGAGTGGTAAATGGTCATGCCTTCTCTATGGAAGGAATTGGTGGAGGGAACATACTAACTGGAATTCAAAAGCTGGATATCCGTGTCACCGAGGGAGATCCTCTTCCGTTTTCCTTTGACATTCTCTCAGTTGCGTTTCAATATGGCAACAGAACTTACACAAGTTATCCTGCGAAGATCCCCGATTATTTCGTTCAATCATTCCCAGAAGGGTTCACCTTTGAAAGGACTCTTAGTTTTGAAGATGGTGCAATCGTAAAGGTCGAATCGGATATTAGTATTGAAGATGGCAAATTTGTTGGCAAGATTAAATATAATGGCGAAAGTTTTCCAGAGGATGGACCGGTGATGAAAAAGGAAGTTACCAAACTAGAACCGTCCAGTGAGTCAATGTATGTATGTGACGACACTTTGGTGGGAGAAGTTGTGTTGTCTTACAAGACCCAGTCGACTCATTACACTTGCCATATGAAAACAATCTACAGGTCCAAAAAGCCAGTAGAAAACCTGCCAAAGTTCCATTATGTTCATCATCGCCTCGAAAAGAAAAAAGTCGAGGAAGGCAACTACTACGAGCAACATGAGACGGCCATAGCTAAACCATGA(配列番号6)。 変異体1は、次のように取得した。野生型ウミサボテンGFPへの変異導入には、GeneMorph II EZClone Domain Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用いた。野生型ウミサボテンGFPの遺伝子がクローニングされているpRSET−A(インビトロジェン社)のプラスミドを鋳型として、プライマー1(ATGAGTATTCCAGAGAATTCGGGCTTAACAG)(配列番号7)およびプライマー2(TCATGGTTTAGCTATGGCCGTCTCATG)(配列番号8)を加えて、キットに添付されているマニュアルに従ってPCR反応を行った。PCR反応後、1%アガロースゲルを用いて、電気泳動を行い、目的PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean−Up(Promega社)を用いて精製した。精製後、マニュアルに従ってPCR反応を行い、DpnIを加えて、37度で処理した後に、エタノール沈殿を行った。沈殿後、少量の蒸留水にDNAを溶かして、MicroPulser(BioRad社)を用いて、エレクトロポレーション法で、JM109(DE3)にトランスフォームを行った。トランスフォーム後の大腸菌を25cm四方のLB(50ng/mlのアンピシリン入り)プレートに撒いて、37℃で、コロニーを形成させて、スクリーニングを行った。コロニー形成後、UV/BLUE CONVERTER PLATE(UVP)で観察して、明るい蛍光を持ったコロニーを選んで培養を行い、その大腸菌が保持していたプラスミドのDNA配列を決定した。これによって、変異体1を得た。 変異体2は、特開2011−135781号公報に開示される方法に倣って取得した。具体的には、特開2011−135781号公報の実施例2から4に記載の方法に倣って取得した。変異体2と、特開2011−135781号公報に開示される「変異体2」とは同一のアミノ酸配列を有する。 2種の変異体のプラスミドをそれぞれ保持する大腸菌を37度で培養後、溶菌させて、His Link(Promega社)を用いたカラムクロマトグラフィーを行って精製した。 (2)大腸菌内での変異体の耐熱性評価 大腸菌内における変異体1の耐熱性を評価した。 野生型のウミサボテンGFPおよび変異体1の遺伝子をそれぞれ形質転換した大腸菌をLB培地のプレートにまき、コロニーを形成させた。野生型および変異体1をそれぞれ発現させた後、High Performance UV Transilluminator(フナコシ)を用いて365nmのUVをあてて、DP70(オリンパス)にて、加熱処理前の蛍光画像を取得した(図1a)。その後、それらのプレートをINCUPET(Pasolina)にて70℃で2時間加熱処理した。加熱処理完了後、同様の方法にて、加熱処理後の蛍光画像を取得した(図1b)。 図1aと図1bとの比較から、大腸菌内で発現させた場合、野生型と比較して、変異体1は加熱処理後も明るい蛍光を示しており、耐熱性を有していることがわかった。 (3)精製した変異体の耐熱性評価 精製されたEGFP(Clontech)(pRSET−B(インビトロジェン社)にクローニングしたものから発現)、並びにウミサボテンGFPの野生型、変異体1および変異体2を含むタンパク質溶液を、いずれも0.5mg/mlになるように水で希釈し、50μlずつ0.2mlチューブに入れた。それらを、High Performance UV Transilluminator(フナコシ)を用いて365nmのUVをあてて、DP70(オリンパス)にて、加熱処理前の蛍光画像を取得した(図2a)。その後、それらに対し、サーマルサイクラー(エムジェイジャパン)を用いて100℃で10分の加熱処理を行った。加熱処理完了後、同様の方法にて、加熱処理後の蛍光画像を取得した(図2b)。 また、同様の、0.5mg/mlに希釈した4種のタンパク質溶液について、サーマルサイクラー(エムジェイジャパン)で加熱処理する前と後における蛍光強度を、分光蛍光光度計(日立社)を用いて測定した。加熱処理前の蛍光強度を常温時(25℃)とし、70℃、80℃、90℃および100℃にてそれぞれ10分間加熱処理した後の蛍光強度をそれぞれ測定しプロットした(図3)。また、測定結果を以下の表1に示す。 図2および3から、EGFPおよび野生型と比較して、変異体1および2は100℃10分の加熱処理後も強い蛍光を保持しており、熱に対する高い安定性を有することが示された。また、図3から、EGFPと比較して、野生型、変異体1および変異体2は、温度の上昇とともに、なだらかに発光強度が低下することが示された。 刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物に由来し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない蛍光タンパク質。 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質。 配列番号1に記載のアミノ酸配列との間で80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない蛍光タンパク質。 請求項1から3の何れか1項に記載の蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸。 配列番号4に記載の塩基配列を含む核酸。 滅菌の対象となる対象物と、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質および/または配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質とを湿熱処理することと、 前記蛍光タンパク質の発光強度の前記湿熱処理前後における変化に基づいて、前記湿熱処理の程度を評価することとを含む湿熱滅菌方法。 前記湿熱処理は、前記対象物を100℃以上の環境に10分間以上置くことを含む請求項6に記載の方法。 請求項6に記載の湿熱滅菌方法において使用するための、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を有する湿熱滅菌評価用蛍光タンパク質。 【課題】高い熱安定性を有する蛍光タンパク質およびそれを利用する方法を提供することにある。【解決手段】特定のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質であって、刺胞動物門花虫綱ウミエラ目ウミサボテン科に属す生物に由来し、100℃以上の環境に10分間以上置かれても発光活性を失わない。「発光活性を失わない」は、発光活性が変化しない場合だけでなく、100℃以上の環境に10分間以上置かれた後において、発光活性が低下するものの測定可能な発光活性を有している場合を含む。【選択図】図1配列表


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