タイトル: | 公開特許公報(A)_脂肪族ジカルボン酸ジクロライドの製造方法 |
出願番号: | 2012202964 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C07C 51/60,C07C 53/42 |
小原 慎司 江花 寛厚 宮崎 恒春 JP 2014058458 公開特許公報(A) 20140403 2012202964 20120914 脂肪族ジカルボン酸ジクロライドの製造方法 日油株式会社 000004341 細田 益稔 100097490 青木 純雄 100097504 小原 慎司 江花 寛厚 宮崎 恒春 C07C 51/60 20060101AFI20140307BHJP C07C 53/42 20060101ALI20140307BHJP JPC07C51/60C07C53/42 1 OL 8 4H006 4H006AA02 4H006AC47 4H006BB70 4H006BC10 4H006BC31 4H006BC40 4H006BE50 4H006BS90 本発明は、脂肪族ジカルボン酸ジクロライドの製造方法に関し、更に詳しくは高純度の脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを得ることの出来る製造方法に関する。 脂肪族カルボン酸クロライドは、多くの化学製品、たとえば、化粧品基剤、有機過酸化物、アルキルケテンダイマ―などを合成する際の工業的に重要な中間体である。また、脂肪族ジカルボン酸ジクロライドは脂肪族カルボン酸クロライドとの相違点として反応点が2つあることから、高分子化合物の原料として使用されている。この脂肪族カルボン酸クロライドは、脂肪族カルボン酸と塩素化剤を反応させて得られる。塩素化剤としては塩化チオニル、ホスゲン、三塩化リンが挙げられる。 これらの方法のうち、塩化チオニル法は、反応速度が三塩化リンに比べてはるかに遅く、副生成物である塩化水素と亜硫酸ガスの処理にコストがかかる。ホスゲン法も自身の毒性の問題がある。これに対し、三塩化リン法は原料の三塩化リンが安価であり、副生する亜リン酸は比較的容易に有用な無機リン化合物に変換再利用でき、資源の有効面からも好ましい方法である。 三塩化リン法は、溶融した脂肪族カルボン酸に三塩化リンを滴下し、反応を行う三塩化リン滴下法が知られている(特許文献1)。この方法において、脂肪族カルボン酸の融点が三塩化リンの沸点である76℃より低い場合は、76℃より低い温度で反応を行うことができる。しかし、融点が76℃以上の脂肪族カルボン酸の場合は、反応温度が三塩化リンの沸点を超えてしまい、過剰の三塩化リンを必要とし、なおかつ温度が高いので、有機リン等の不純物が生成しやすくなる。そのため、融点が76℃以上の脂肪族カルボン酸には三塩化リン滴下法は適していない。 そこで、融点が76℃以上の脂肪族カルボン酸の場合には脂肪族カルボン酸を不活性有機溶媒に溶解させ、そこに三塩化リンを滴下する溶媒法がある(特許文献2)。脂肪族カルボン酸を溶媒に溶解することで、反応温度を76℃より低くできる。しかし、溶媒法も、適切な溶剤の選定が難しく、脱溶媒工程が増えるので熱履歴が余分にかかり、不純物が生成しやすくなるという問題がある。また、脱溶剤を行っても完全に除去することは困難であるため、生成物の品質は悪くなる。特開2000−290223特開平6−041000 本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的は、高純度の脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを得ることの出来る製造方法を提供することである。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、脂肪族ジカルボン酸よりも先に三塩化リンを仕込み、無溶媒で反応を行い、脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを得ることの出来る製造方法を見出した。 すなわち、本発明は、融点76℃以上の脂肪族ジカルボン酸から脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを製造する方法であって、 三塩化リンを仕込み、次いで前記脂肪族ジカルボン酸を仕込み、この際脂肪族ジカルボン酸1モルに対して三塩化リンを0.83〜1.07モルの仕込み比率で仕込み、無溶媒で20〜60℃で反応させることを特徴とする。 本発明によれば、脂肪族ジカルボン酸よりも先に三塩化リンを仕込み、無溶媒で反応を行うことによって、低温での反応で不純物の少ない脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを得ることができるため、産業への寄与は大きい。(脂肪族ジカルボン酸) 本発明における原料として用いられる脂肪族ジカルボン酸は、融点76℃以上の脂肪族ジカルボン酸である。脂肪族ジカルボン酸の融点の上限は特に限定の必要はないが、実際上は200℃以下のものが入手し易い。 脂肪族ジカルボン酸は、具体的には、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、イコサン二酸が好ましい。また、脂肪族ジカルボン酸の炭素数は、3以上が好ましく、20以下が好ましい。特に好ましい脂肪族ジカルボン酸は、汎用性が高い点で、炭素数が6以上、12以下の脂肪族ジカルボン酸である。脂肪族ジカルボン酸の炭素数を3以上とすることによって、生成する脂肪族ジカルボン酸ジクロライドの沸点を三塩化リンの沸点(76℃)より高くし易く、これによって精製を容易にし易い。また、脂肪族ジカルボン酸の炭素数を20以下とすることによって、原料が入手し易くなる。(原料の仕込み) 本発明においては、最初に反応容器に三塩化リンを仕込む。この段階では三塩化リンは液状である。三塩化リンの仕込み温度は、0〜30℃が好ましい。三塩化リンの仕込み時の温度が0〜30℃の範囲であると、三塩化リンの揮発量も少ない。 本発明における三塩化リンの仕込み比率は、脂肪族ジカルボン酸1.00モルに対して0.83〜1.07モルの範囲である。脂肪族ジカルボン酸1.00モルに対する三塩化リンの仕込み比率が0.83モルより少ないと、生成物中に未反応の遊離脂肪酸の比率が高くなり、1.07モルより多いと、三塩化リンが未反応物として生成物中に残存してしまう。 こうした観点からは、脂肪族ジカルボン酸1.00モルに対する三塩化リンの仕込み比率は、0.87モル以上が好ましく、0.90以上が更に好ましい。また、脂肪族ジカルボン酸1.00モルに対する三塩化リンの仕込み比率は、1.00モル以下が好ましく、0.97モル以下が更に好ましい。 脂肪族ジカルボン酸の仕込み方法は、一括で仕込んでも分割で仕込んでも良い。好ましくは、脂肪族ジカルボン酸を分割で仕込む。分割で仕込むと、反応系内が均一に混合しやすく、ローカルヒートが起こりにくく、また反応時間も短くなり、余計な熱履歴が掛からないため、不純物が生成しにくい。作業効率の観点から、より好ましい分割回数は3〜5分割である。(反応条件) 本発明における反応時間(脂肪族ジカルボン酸の仕込み開始から反応停止までの時間)は7〜11時間の範囲が好ましく、8〜10時間が更に好ましい。この範囲内であると、反応が十分に進行し遊離脂肪酸も低くなり、不純物の生成量も抑制し易い。 本発明における反応温度は、20〜60℃の範囲である。反応温度が20℃より低いと反応速度が遅く時間が掛かる。また反応温度が60℃より高いと、不純物の生成量が増えるとともに、系中の三塩化リンの揮発量が増える。これらの観点からは、反応温度は、55℃以下が更に好ましく、また30℃以上が更に好ましい。 なお、この反応温度は、脂肪族ジカルボン酸の仕込み開始時の温度から反応停止時の温度までの温度範囲である。 反応開始時は系中の温度が上がらず、脂肪族ジカルボン酸の仕込み終了時の反応温度は通常35〜45℃である。そこで、さらに加熱し昇温させ、50〜60℃の範囲を維持することが好ましい。また、その後攪拌を停止し、50〜60℃で3〜6時間静置を行うことが好ましい。そうすることで、上層の目的の脂肪族ジカルボン酸ジクロライド層と下層の亜リン酸層に分離し易い。次いで下層の亜リン酸層を除去することができる。 本発明において合成した脂肪族ジカルボン酸ジクロライドは、用途によって精製を行う必要があり、その方法は特に限定されず、蒸留等を行うことで、系内に残存している未反応原料の三塩化リンや副生した亜リン酸などの無機リンを除去することができる。 以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。各例について以下の項目を測定し、測定結果を表1に示す。<脂肪族ジカルボン酸ジクロライドの品質評価項目>(1) 遊離脂肪酸(質量%) 脂肪族ジカルボン酸ジクロライド中の遊離脂肪酸の含有率をIR分析より算出した。脂肪酸を既知量配合したものを試料として本法により分析を行い、配合率と吸光度より検量線を作成し、その検量線を基に遊離脂肪酸の含有率を求める。なお、測定官能基はカルボン酸のC=O(1710cm−1)である。評価は遊離脂肪酸が3質量%以下で合格とした。遊離脂肪酸が3質量%より高いと、析出量が多くなるので配管の目詰まりが起こったり、純度が低くなる。(2) 有機リン(質量ppm) 有機リンを有機溶媒を用いて脂肪族ジカルボン酸ジクロライド中より分別し、30%過酸化水素−硫酸を用いる分解法でリンを酸化した後、リンモリブデンブルー法による比色定量法によって算出した。評価は有機リンが500質量ppm以下で合格とした。有機リンが生成してしまうと、蒸留を行っても減少させることは困難であり、純度が低くなってしまう。 (3) 酸無水物(質量%) 酸クロライドの合成の副反応として、生成した酸クロライドと未反応のカルボン酸が反応し、酸無水物が生成する。温度が高いとこの反応が進行しやすくなる。 分析値はNMR測定を行い、カルボニル基のα位のプロトンの積分比によって算出した。評価は酸無水物が1%以下で合格とした。 (1)、(2)及び(3)がいずれも合格であれば、評価は「○」とした。それ以外は「×」とした。(実施例1) 攪拌機、温度計及び還流管を取り付けた反応槽に三塩化リン885g(6.44モル)を仕込み、攪拌しながら粉体のセバシン酸467g(2.31モル)を仕込んだ。仕込み温度は30℃である。セバシン酸を仕込んだ直後は固/液反応であり、流動性が悪く、温度も上がりにくかった。しかし、反応が進むにつれて固体が溶解し、流動性も上がった。1.5時間攪拌すると、系内が均一分散したので、再び粉体のセバシン酸467g(2.31モル)を仕込んだ。さらに1.5時間後に同様の操作を行い、セバシン酸をすべて仕込んだ。仕込み比率は、セバシン酸1.00モルに対して三塩化リン0.93モルである。セバシン酸がすべて仕込み終わった時の温度は41℃であり、そこから昇温して反応温度55℃とし、セバシン酸が仕込み終わってから3時間攪拌を続けた。攪拌終了後、55℃で3時間静置を行い、下層の亜リン酸層を除去し、上層のセバシン酸ジクロライドを得た。(実施例2) 攪拌機、温度計及び還流管を取り付けた反応槽に三塩化リン214.5g(1.56モル)を仕込み、攪拌しながら粉体のアジピン酸83.3g(0.57モル)仕込んだ。仕込み温度は30℃である。実施例1と同様に2回に分けて残りのアジピン酸を3時間掛けて仕込んだ。仕込み比率は、アジピン酸1.00モルに対して三塩化リン0.91モルである。アジピン酸をすべて仕込み終わった時の温度は32℃であり、そこから昇温して反応温度55℃とし、アジピン酸が仕込み終わってから3時間攪拌を続けた。攪拌終了後、55℃で3時間静置を行い、下層の亜リン酸層を除去し、上層のアジピン酸ジクロライドを得た。(比較例1) 実施例1と同様の操作でセバシン酸を仕込み、反応温度を70℃として3時間攪拌した。攪拌終了後、70℃で3時間静置を行い、下層の亜リン酸層を除去し、上層のセバシン酸ジクロライドを得た。(比較例2) 攪拌機、温度計及び還流管取り付けた反応槽に粉体のセバシン酸1400g(6.92モル)を先に全量仕込み、55℃まで加熱し、そこに三塩化リン887g(6.46モル)を1時間かけて滴下した。仕込み比率はセバシン酸1モルに対して三塩化リン0.93モルである。滴下終了後、55℃に保ったまま、溶液が透明になるまで6時間攪拌した。攪拌終了後、55℃で3時間静置を行い、下層の亜リン酸層を除去し、上層のセバシン酸ジクロライドを得た。(比較例3) アジピン酸1モルに対する三塩化リンの仕込み比率を0.73モルにして、実施例2と同様の操作でアジピン酸を仕込み、反応温度を55℃で3時間攪拌した。攪拌終了後、55℃で3時間静置を行い、下層の亜リン酸層を除去し、上層のアジピン酸ジクロライドを得た。(比較例4) 攪拌機、温度計、滴下ロート及び還流管取り付けた反応槽に溶融したセバシン酸139.6g(0.69モル)を仕込み、温度を130℃に保持し三塩化リン87.9g(0.64モル)を1時間掛けて滴下した。仕込み比率はセバシン酸1モルに対して三塩化リン0.93モルである。その後、130℃で2時間攪拌し、続いて温度を55℃にして2時間静置した。下層の亜リン酸層を除去し、上層のセバシン酸ジクロライドを得た。(比較例5) 攪拌機、温度計、滴下ロート及び還流管取り付けた反応槽にセバシン酸200.0g(0.99モル)とテトラヒドロフラン400.0gを仕込み、セバシン酸を溶解させ、温度を55℃に保持し三塩化リン123.6g(0.92モル)を1時間掛けて滴下した。仕込み比率はセバシン酸1モルに対して三塩化リン0.93モルである。その後、55℃で2時間攪拌し、続いて2時間静置した。下層の亜リン酸層を除去し、上層の粗セバシン酸ジクロライドを得た。その後、真空度20Torr、温度50℃で2時間掛けて脱溶剤を行い、テトラヒドロフランを除去し、セバシン酸ジクロライドを得た。(実施例3) 実施例1と同様にしてセバシン酸ジクロライドを合成する。ただし、セバシン酸を仕込み終わってから60℃で3時間撹拌し、その後60℃で3時間静置を行う。(実施例4) 実施例1と同様にしてセバシン酸ジクロライドを合成する。ただし、セバシン酸1モルに対して三塩化リンを0.83モルの仕込み比率で仕込む。(実施例5) 実施例1と同様にしてセバシン酸ジクロライドを合成する。ただし、セバシン酸1モルに対して三塩化リンを1.07モルの仕込み比率で仕込む。 表1に示す結果より、本発明に係る実施例1〜5の脂肪族ジカルボン酸ジクロライドは、熱履歴が少ないので、不純物の生成が少なく純度が高い製品が得られる。 比較例1では、反応温度が高いので、有機リン・酸無水物が増加する。 比較例2では、脂肪族ジカルボン酸を粉体のまま先に仕込み、後で三塩化リンを仕込んでいるため、ローカルヒートを起こしたり、反応時間が長く、熱履歴が多く掛かるため、有機リンが増加する。 比較例3では、三塩化リンの仕込み比率が低いので、反応率が低く、原料脂肪族ジカルボン酸が多く残存する。 比較例4は、脂肪酸溶融法である。脂肪酸の融点が高いので、必然的に反応温度も高くなり、有機リン、酸無水物が増加する。さらに三塩化リンの揮発量も増えるので、反応率も低くなり、原料脂肪族ジカルボン酸が多く残存する。 比較例5は溶媒法であるが、脱溶剤工程を必要とし、脱溶剤工程において熱履歴が余計に掛かっているので、有機リン、酸無水物が増加する。 融点76℃以上の脂肪族ジカルボン酸から脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを製造する方法であって、 三塩化リンを仕込み、次いで前記脂肪族ジカルボン酸を仕込み、この際前記脂肪族ジカルボン酸1モルに対して三塩化リンを0.83〜1.07モルの仕込み比率で仕込み、無溶媒で20〜60℃で反応させることを特徴とする、脂肪族ジカルボン酸ジクロライドの製造方法。 【課題】高純度の脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを得ることである。【解決手段】融点76℃以上の脂肪族ジカルボン酸から脂肪族ジカルボン酸ジクロライドを製造する。三塩化リンを仕込み、次いで脂肪族ジカルボン酸を仕込み、この際脂肪族ジカルボン酸1モルに対して三塩化リンを0.83〜1.07モルの仕込み比率で仕込み、無溶媒で20〜60℃で反応させる。【選択図】 なし