タイトル: | 公開特許公報(A)_静脈血栓塞栓症の予防又は治療用組成物 |
出願番号: | 2012193503 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/202,A61P 7/04 |
濱崎 直孝 隈 博幸 波多江 日成子 津田 友秀 JP 2014047194 公開特許公報(A) 20140317 2012193503 20120903 静脈血栓塞栓症の予防又は治療用組成物 株式会社シノテスト 000131474 濱崎 直孝 隈 博幸 波多江 日成子 津田 友秀 A61K 31/202 20060101AFI20140218BHJP A61P 7/04 20060101ALI20140218BHJP JPA61K31/202A61P7/04 2 OL 8 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206DA05 4C206MA01 4C206MA04 4C206MA37 4C206MA43 4C206MA55 4C206MA57 4C206MA61 4C206MA72 4C206MA83 4C206MA86 4C206NA14 4C206ZA54 本発明は、イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルを含有することを特徴とする静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物に関する。 血栓症は、血管内に血栓が形成されることにより、血液の循環が妨げられる疾患であり、欧米では虚血性心疾患、脳血管障害と並んで3大血管疾患に数えられる非常に頻度の高い疾患である。 この血栓症は、血小板を主体とした「血小板血栓(白色血栓)」が血流速度の速い動脈に生じる動脈血栓症と、フィブリンと赤血球を主体とした「フィブリン血栓(赤色血栓)」が血流速度の比較的遅い静脈に生じる静脈血栓症に大別される。 動脈血栓症の基礎疾患としては、動脈硬化性疾患、血液粘稠度の亢進等が挙げられ、その治療や予防の方法としてアスピリンを中心とした抗血小板療法が行われており、静脈血栓症の基礎疾患としては、凝固阻止因子活性の低下、血流のうっ滞、凝固因子活性の上昇等が挙げられ、その治療や予防の方法としてヘパリンやワルファリンを用いた抗凝固療法が行われている。 このように、動脈血栓、静脈血栓は本質的に異なる血栓であり、その基礎疾患や治療法が異なることが知られている。 近年、日本においても、生活様式の欧米化による肥満・糖尿病等の増加や、高齢者の増加等に伴って、静脈血栓症の発生数が急激に増加している。静脈血栓症に伴って生じる主な疾患としては、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)及び肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)が挙げられる。DVTは、長距離飛行後や地震後の避難生活等により脚や腕等の深部静脈に血栓が発生する疾患である。PTEは、DVTで深部静脈に発生した血栓の一部が剥離して肺に移動することにより、肺動脈が閉塞する疾患であり、一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので、急速な対処が必要となる。このDVTとPTEの両者を併せて、静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と呼んでいる。 現在、VTEの予防や治療には、ヘパリンやワルファリン等の抗凝固薬が広く使用されているが、ヘパリンは注射薬として投与される必要があり、ワルファリンは食事内容や他の薬物の影響を受けやすく、その使用において注意が必要とされる。さらにこれらの抗凝固薬は、複数の凝固因子を抑制するため治療域が狭く、出血などの副作用があるため、その使用において注意が必要とされる。このため、出血等の副作用の少ない抗凝固薬の開発が望まれていた。 また、近年、静脈血栓症が増加の傾向にあると言われており、抗凝固薬を静脈血栓症の治療だけでなく予防にも使用するという観点からは、経口投与で効果を示す抗凝固薬が望まれている。 一方、イコサペント酸(エイコサペンタエン酸、イコサペンタエン酸;EPA)は、魚類や海獣類の脂肪中に多く含まれる(炭素数20でシス−二重結合を5個有する)n−3系高度不飽和脂肪酸である。 このEPAは、血小板凝集抑制作用を有し、心筋梗塞の予防や動脈硬化進展の抑制への可能性が示唆されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。また、EPAは、生体膜を構成するリン脂質中の脂肪酸の一つであるアラキドン酸(AA)と構造が類似することから、EPAの血小板凝集抑制作用やAAシクロオキシゲナーゼ代謝系への影響、特にトロンボキサンA2やプロスタサイクリン産生に影響を及ぼすことが報告されている(例えば、非特許文献3〜5参照。)。更に、近年では、EPAのリポキシゲナーゼ系への影響(例えば、非特許文献6〜8参照。)やEPAを含む魚油の線溶活性への影響(例えば、非特許文献9参照。)も報告されている。 しかしながら、本発明者らが知る限り、EPAが静脈血栓塞栓症において何らかの効果を有することを示唆する報告は行われていない。 また、最近、冠動脈性心疾患における無作為対照試験において、循環器疾患のリスク低下効果があるとされていたEPAやドコサヘキサエン酸(DHA)等のn−3系高度不飽和脂肪酸が効果を示さなかったとの報告も行われている(例えば、非特許文献10参照。)。Lancet(ii), 117頁, 1978年Lancet(ii), 433頁, 1979年Prostaglandins 19巻, 165頁, 1980年J. Biol. Chem. 258巻, 10197頁, 1983年J. Clin.Invest. 76巻, 2446頁, 1985年Biochim.Biophys. Acta 750巻, 237頁, 1983年動脈硬化 13巻, 825頁, 1985年Thromb. Res. 40巻, 307頁, 1985年日本薬理学雑誌 91巻, 81〜89頁, 1988年J. Clin.Lipid. 6巻, 216〜234頁, 2012年 すなわち、本発明の課題は、静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用に有用な組成物を提供することである。 本発明者らは、静脈血栓塞栓症における抗血栓作用を有する物質について検討を重ねた結果、イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルに、静脈血栓の形成を顕著に抑制する効果が認められることを見出して、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。(1)イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルを含有する静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物。(2)イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルが、イコサペント酸エチルエステルである前記(1)記載の組成物。 本発明の組成物は、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症等の静脈血栓塞栓症の予防又は治療に対して極めて有用である。静脈血栓モデルラットへのイコサペント酸エチルエステルの投与実験におけるラットの尾部の退色の長さの平均値を示した図である。イコサペント酸エチルエステルを投与した静脈血栓モデルラットの尾部を写した写真である。 以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。(1)イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステル 本発明において、イコサペント酸とは、全−シス−5,8,11,14,17−イコサペント酸(エイコサペンタエン酸、イコサペンタエン酸;EPA)のことをいう。 本発明において、イコサペント酸の塩としては、薬理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどのアンモニウム塩、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルアミンなどの有機塩、アルギニン、リジン、グルタミン酸などのアミノ酸との塩等が挙げられる。 また、イコサペント酸のエステルとしては、薬理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステルなどの低級アルキルエステル、グリセロールエステル等をあげることができる。 本発明においては、イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルが、イコサペント酸エチルエステル(EPA−E)であることが好ましい。 本発明に用いるEPAは、魚類や海獣類の脂肪から抽出・生成されたもの、又は微生物等により産生されたもの等、特に制限なく用いることができる。そして、本発明に用いるEPAは、これを医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、特に制限なく用いることができる。 本発明において、イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルの純度は、特に限定されるものではないが、投与量が少なくてすむという点から高純度のものが好ましい。例えば、EPA−Eとして用いる場合は、全脂肪酸若しくはその塩又はそのエステル中のEPA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、90質量%以上のものがより好ましく、96.5質量%以上のものが特に好ましい。(2)静脈血栓塞栓症 本発明において、静脈血栓塞栓症(venousthromboembolism:VTE)とは、静脈内での血液の凝固が要因となって起こる疾患(静脈血栓症)に伴って生じる主な疾患のことをいう。例えば、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)及び肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)のことをいう。 DVTは、手術侵襲、長距離飛行後や地震後の避難生活等により脚や腕等の深部静脈に血栓が発生する疾患であり、エコノミークラス症候群として知られている疾患である。また、PTEは、DVTで深部静脈に発生した血栓の一部が剥離して肺に移動することにより、肺動脈が閉塞する疾患であり、一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので、静脈血栓の形成を抑制することには大きな意味がある。 したがって、本発明の静脈血栓の形成抑制作用を有するイコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルは、静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療のための組成物として非常に有用なものである。(3)静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物 本発明の静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物は、前記したイコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルそのものを投与してもよく、または一般的に用いられる適当な添加剤と組合わせることにより製剤を調製して投与してもよい。この製剤の剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ゼリー剤、又は吸入剤等の経口製剤、注射剤、輸液製剤、又は経皮吸収剤等の外用剤を挙げることができる。なお、これらの各種製剤は、それぞれ常法に準じて調製することができる。 本発明の静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物として、EPA−Eを用いる場合、閉塞性動脈硬化症及び高脂血症の治療薬として市販されているイコサペント酸エチルの軟カプセル剤(商品名:エパデール;持田製薬社製)を使用することができる。 本発明においてイコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルを、静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物(薬剤)として用いる場合、効果がある限り、その用法は問わない。また、この用法としては、経口、経皮吸収、及び静脈内投与等が好ましい。この投与量であるが、これは患者の体重、年齢、疾患の程度等に応じて適宜調整することができるが、経口投与する場合、例えばEPA−Eとして、0.1〜10g/日を、好ましくは0.3〜6g/日を、より好ましくは0.6〜4g/日を、特に好ましくは0.9〜2.7g/日を、1日に1回〜数回に分けて投与すればよい。 以下、実施例により本発明をより具体的に詳述するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。〔実施例1〕(イコサペント酸エチルエステルの静脈血栓抑制作用) 静脈血栓モデルラットを用いて、イコサペント酸エチルエステル(EPA−E)の静脈血栓予防効果について確かめた。1.EPA−E溶液の調製(1)5%アラビアゴム水溶液の調製 対照として、5%アラビアゴム(Acacia,powder [Gum Arabic];ナカライテスク社製)を含む水溶液を調製した。(2)EPA−E溶液の調製 エパデールS300(持田製薬社製)を前記(1)の5%アラビアゴム水溶液に溶解し、300mg/mLのイコサペント酸エチルエステルを含むEPA−E溶液を調製した。2.静脈血栓モデルラットへのイコサペント酸エチルエステルの投与実験(1)アラビアゴム水溶液の投与(a)前記1の(1)で調製した5%アラビアゴム水溶液をWISTAR種ラットに体重1kg当り1mLを経口単回投与した。なお、これを計6匹(6週齢の雌ラット3匹、9週齢の雌ラット3匹)のラットに対して行った。(b)前記(a)におけるアラビアゴム水溶液のラットへの投与から3時間後に、麻酔した前記ラットの尾根部(尾部先端から13cmの所)をタコ糸(止血帯)で縛った。そして、ラットの静脈内に血栓を誘発させるため、このラット尾根部に、ラット体重1kg当り1mgのカラゲニン溶液を静脈注射した。(c)静脈注射の10分後に、前記の尾根部を縛ったタコ糸(止血帯)を切断した。(d)前記の切断の24時間後に、各ラットの尾部の退色(すなわち変色)を観察した。(e)前記のタコ糸(止血帯)切断の24時間後における、各ラットの尾部の退色(変色)の長さを表1に示した。 また、前記のタコ糸(止血帯)切断の24時間後の各ラットの尾部の退色(変色)の長さの平均値±標準誤差を図1に示した。 そして、前記のタコ糸(止血帯)切断の24時間後のラット(個体No.2)の尾部を写した写真を図2に示した。(2)イコサペント酸エチルエステル溶液の投与(a)前記1の(2)で調製したEPA−E溶液をWISTAR種ラットに体重1kg当り1mLを経口単回投与した。なお、これを計14匹(6週齢の雌ラット7匹、9週齢の雌ラット7匹)のラットに対して行った。(b)これ以降は、前記(1)アラビアゴム水溶液の投与における(b)〜(d)の記載に従って操作を行なった。(c)前記のタコ糸(止血帯)切断の24時間後における、各ラットの尾部の退色(変色)の長さを前記表1に示した。 また、前記のタコ糸(止血帯)切断の24時間後の各ラットの尾部の退色(変色)の長さの平均値±標準誤差を図1に示した。 そして、前記のタコ糸(止血帯)切断の24時間後の各ラット(個体No.8)の尾部を写した写真を図2に示した。3.まとめ 表1、及び図1及び図2に示した静脈血栓モデルラットへのEPA−Eの投与実験の結果より、EPA−E溶液を投与したラットでは静脈血栓による尾部の退色(すなわち変色)の長さが、対照であるアラビアゴム水溶液を投与したラットの退色(変色)の長さに比べて明らかに短いことが分かる。 これらのことより、本発明のイコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルは、静脈における血栓形成の抑制効果に優れ、静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療のための組成物として有用であることが動物実験においても確かめることができた。 イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルを含有する静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物。 イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルが、イコサペント酸エチルエステルである請求項1記載の組成物。 【課題】 静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用に有用な組成物を提供する。【解決手段】イコサペント酸若しくはその塩又はそのエステルを含有する静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療用組成物。【選択図】なし