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タイトル:公開特許公報(A)_非ヒト霊長哺乳類ノックダウン動物及びその利用
出願番号:2012183666
年次:2014
IPC分類:A01K 67/027,C12N 15/09,G01N 33/68,G01N 33/50,G01N 33/15


特許情報キャッシュ

山森 哲雄 高司 雅史 渡我部 昭哉 南部 篤 纐纈 大輔 JP 2014039501 公開特許公報(A) 20140306 2012183666 20120822 非ヒト霊長哺乳類ノックダウン動物及びその利用 大学共同利用機関法人自然科学研究機構 504261077 学校法人自治医科大学 505246789 特許業務法人快友国際特許事務所 110000110 山森 哲雄 高司 雅史 渡我部 昭哉 南部 篤 纐纈 大輔 A01K 67/027 20060101AFI20140207BHJP C12N 15/09 20060101ALI20140207BHJP G01N 33/68 20060101ALI20140207BHJP G01N 33/50 20060101ALI20140207BHJP G01N 33/15 20060101ALI20140207BHJP JPA01K67/027C12N15/00 AG01N33/68G01N33/50 ZG01N33/15 Z 20 OL 31 特許法第30条第2項適用申請有り 1 大学共同利用機関法人自然科学研究機構平成24年2月22日発行、Marmoset/Macaque Frontiers in Primate Neuroscience Researches、第5頁 2 Marmoset/Macaque Frontiers in Primate Neuroscience Researches、大学共同利用機関法人自然科学研究機構平成24年2月22日開催 3 大学共同利用機関法人自然科学研究機構平成24年3月26日開催、昼食セミナー (出願人による申告)文部科学省、平成21年度〜平成23年度科学技術試験研究委託事業「先端的遺伝子導入・改変技術による脳科学研究のための独創的霊長類モデルの開発と応用」に関わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 2G045 4B024 2G045AA29 2G045AA30 2G045AA40 2G045CB17 2G045CB26 2G045DA36 2G045FB20 2G045GC30 4B024AA11 4B024AA20 4B024DA02 4B024EA02 4B024GA11 本明細書は、非ヒト霊長哺乳類ノックダウン動物及びその利用に関する。 従来、大脳基底核のドーパミン産生細胞を変成・細胞死させる薬物投与モデルが試みられている(非特許文献1)。また、遺伝子操作によって、ドーパミン産生細胞を選択的に変成させる方法として、α−synuclein遺伝子の発現を抑制したトランスジェニックマウスやノックアウトマウスが開示されている(非特許文献2、3)。 さらに、ドーパミン2(D2)受容体の発現レベルをレンチウイルスを用いてノックダウンすることが行われている(非特許文献4)。Yoshihiro Kashiwaya, Y., et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 97: 5440-5444, 2000Masliah, E., et al., Science, 287, 1265-1269, 2000Abeliovich, A., et al., Neuron 25, 239-252, 2000Fernandes, AR., et al., Eur J Neurosci. 35, 1344-1353 しかしながら、上記非特許文献に記載のモデルは、いずれも、大脳基底核に投射するドーパミン細胞の変成や細胞死を引き起こすことによってドーパミン産生を制御するものであった。また、非特許文献に記載のモデルは、いずれもげっ歯類モデルであった。そして、ドーパミン受容体の発現抑制等に関し定量的な評価がないため、疾患モデルとして利用できるかのか否かも不明であった。霊長類のドーパミン受容体の発現を変化させたモデル動物を作出するには至らなかった。 本明細書は、特定のドーパミン受容体の作用が阻害された非ヒト霊長哺乳類のモデル動物及びその利用を提供する。 本発明者らは、ドーパミンD1受容体及び/又はD2受容体をコードする遺伝子の発現をRNA干渉により阻害することで、これら受容体の作用がそれぞれ阻害された非ヒト霊長哺乳類のノックダウン動物を作出した。さらに、本発明者らは、ノックダウン動物につき、ドーパミンD1受容体及び/又はD2受容体の発現量を定量的に評価するとともに、刺激伝達系のほか、運動及び学習行動について評価した。その結果、得られたノックダウン動物は、ドーパミンD1受容体及び/又はD2受容体の発現量が効果的に低減しており、これらの受容体の作用阻害に基づく特有の運動や学習行動を提示するという知見を得た。本明細書の開示は、この知見に基づき以下の手段を提供する。(1) 脳の一部において選択的にドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の作用がRNA干渉により阻害されている、ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患の非ヒト霊長哺乳類モデル動物。(2) 前記非ヒト霊長哺乳類は、マーモセットである、(1)に記載のモデル動物。(3) 前記非ヒト霊長哺乳類はマーモセットであり、ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号8又は10で表される塩基配列を標的とするshRNAを発現する、(1)又は(2)に記載のモデル動物。(4) 前記非ヒト霊長哺乳類はマーモセットであり、ドーパミンD2受容体遺伝子の配列番号23又は36で表される塩基配列を標的とするshRNAを発現する、(1)〜(3)のいずれかに記載のモデル動物。(5) 前記疾患は、統合失調症、認知症、強迫性神経症、うつ病、精神分裂症及びパーキンソン病からなる群から選択される1種又は2種以上である、(1)〜(4)のいずれかに記載のモデル動物。(6) 前記一部は線条体であり、少なくともドーパミンD2受容体の作用が阻害されている、前記疾患は、統合失調症又は強迫神経症である、(1)〜(5)のいずれかに記載のモデル動物。(7) 非ヒト霊長哺乳類のノックダウン動物の作出方法であって、 ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害するための1又は2以上核酸コンストラクトを前記非ヒト霊長哺乳類の脳の1又は2以上の特定部位に導入する工程、を備える、方法。(8) 前記非ヒト霊長哺乳類は、マーモセットである、(7)に記載の方法。(9) 前記1又は2以上核酸コンストラクトは、前記ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号8又は10で表される塩基配列を標的とする、(8)に記載の方法。(10) 前記1又は2以上核酸コンストラクトは、前記ドーパミンD2受容体遺伝子の配列番号23又は36で表される塩基配列を標的とする、(8)又は(9)に記載の方法。(11) 前記1又は2以上の核酸コンストラクトは、随伴アデノウイルスベクターの形態を含む、(7)〜(10)のいずれかに記載の方法。(12) 前記1又は2以上の特定部位に対して前記1又は2以上の核酸コンストラクトを注入する、(7)〜(11)のいずれかに記載の方法。(13) 前記1又は2以上の特定部位は線条体を含む、(7)〜(12)のいずれかに記載の方法。(14) さらに、前記1又は2以上の核酸コンストラクトを導入後の前記非ヒト霊長哺乳類の前記1又は2以上の特定部位に対して前記ドーパミンD1受容体及び前記ドーパミンD2受容体のいずれか又は双方に対する放射性化合物でラベル化された特異的リガンドを供給して、前記1又は2以上の特定部位の陽電子放射断層像を撮像して前記1又は2以上の特定部位のおけるノックダウンレベルを評価する工程、を備える、(7)〜(13)のいずれかに記載の方法。(15) ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能解析方法であって、 (1)〜(5)のいずれかに記載のモデル動物の、電気的生理、運動、学習行動及び記憶からなる群から選択される1種又は2種以上の機能に関する評価を行う工程、を備える、方法。(16) ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法であって、 (1)〜(5)のいずれかに記載のモデル動物に対して、1又は2以上の被験化合物を投与する工程と、 前記1又は2以上の被験化合物の投与による前記モデル動物の機能の変化を評価する工程と、を備える、方法。(17) 非ヒト霊長哺乳類のモデル動物の作出方法であって、 ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害するための1又は2以上の核酸コンストラクトを前記非ヒト霊長哺乳類の脳の1又は2以上の特定部位に導入して前記モデル動物候補を作製する工程と、 前記モデル動物候補についての1種又は2種以上の機能に関する評価を行う工程と、を備える、方法。(18) 前記評価工程に先立って、さらに、前記1又は2以上の核酸コンストラクトを導入後の前記非ヒト霊長哺乳類の前記1又は2以上の特定部位に対して前記ドーパミンD1受容体及び前記ドーパミンD2受容体のいずれか又は双方に対する放射性化合物でラベル化された特異的リガンドを供給して、前記1又は2以上の特定部位の陽電子放射断層像を撮像して前記1又は2以上の特定部位のおけるノックダウンレベルを評価する工程、を備える、(17)記載の方法。(19) 非ヒト霊長哺乳類のドーパミンD1受容体をノックダウンするための核酸コンストラクトであって、 前記ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号8又は10で表される塩基配列を標的としてRNA干渉を発現する核酸コンストラクト。(20) 非ヒト霊長哺乳類のドーパミンD2受容体をノックダウンするための核酸コンストラクトであって、 前記ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号23又は36で表される塩基配列を標的としてRNA干渉を発現する核酸コンストラクト。shRNAの標的配列決定用のshRNA発現カセットを示す図である。shRNAの標的配列決定用のin vitro評価系の概要を示す図である。shRNAの標的配列のドーパミンD1/D2受容体の抑制結果を示す図である。AAVベクター作製用の発現カセットを示す図である。片側被殻D1KDマーモセット個体におけるISHによるドーパミンD1受容体の発現抑制状態を示す図である。片側被殻D2KDマーモセット個体におけるISHによるドーパミンD2受容体の発現抑制状態を示す図である。片側被殻D1KDマーモセット個体についてのドーパミンD1受容体及びD2受容体についての[11C]SCH23390または[11C]raclopride投与後30-90分間におけるPET加算平均画像と左右の受容体結合能の比とを示す図である。片側被殻D2KDマーモセット個体についてのドーパミンD1受容体及びD2受容体についての[11C]SCH23390または[11C]raclopride投与後30-90分間におけるPET加算平均画像と左右の受容体結合能の比とを示す図である。両側尾状核D2KDマーモセット個体についてのドーパミンD1受容体及びD2受容体についての[11C]SCH23390または[11C]raclopride投与後30-90分間におけるPET加算平均画像を示す図である。大脳基底核の出力部位であるGPiにおける、M1電気刺激に対する速い興奮反応−抑制反応−遅い興奮反応の3相性の反応系を示す図である。片側被殻D1KDマーモセット個体及び片側被殻D2KDマーモセット個体におけるPSTH解析結果を示す図である。片側被殻D1KDマーモセット個体における大脳基底核ニューロンの自発発火活動の記録結果を示す図である。被殻片側におけるD1KDマーモセット個体及びD2KDマーモセット個体における回旋運動解析結果を示す図である。視覚弁別学習に用いた10組の刺激対を示す図である。各刺激対における学習曲線を示す図である。AAV注入の前後のそれぞれ4種類の刺激対の新規学習と逆転学習での学習試行をまとめ、それぞれの平均と標準誤差を示す図である。 本明細書は、非ヒト霊長哺乳類ノックダウン動物及びその利用に関し、特定のドーパミン受容体の作用が阻害された非ヒト霊長哺乳類のノックダウン動物、その作出方法及びその利用に関する。本明細書の開示によれば、非ヒト霊長哺乳類の脳において、選択的にかつ部位特異的にドーパミンD1、D2受容体の作用を阻害できる。このため、脳内の特異的部位におけるドーパミンD1、D2受容体の減少や機能低下(以下、これらをまとめて機能低下という。)による非ヒト霊長哺乳類において、ドーパミンD1、D2受容体の機能研究用動物のほか、各種疾患モデル動物を、容易に提供できるようになる。さらに、こうしたノックダウン動物は、疾患の予防又は治療用の薬物スクリーニングのほか、疾患の治療法開発に寄与することができる。 以下、本明細書の開示の各種の形態について詳細に説明する。以下では、本発明の代表的かつ非限定的な具体例について、図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善されたモデル動物等を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。 また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本発明を実施する際に必須のものではなく、特に本発明の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本発明の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。 本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。(非ヒト霊長哺乳類モデル動物) 本明細書に開示されるモデル動物は、非ヒト霊長哺乳類である。非ヒト霊長哺乳類は、ヒト以外の霊長目の哺乳類を意味しており、好ましくは、真猿類の広鼻猿類及び狭鼻猿類に属する動物が挙げられる。なかでも、広鼻猿類が好ましく、例えばマーモセット類、クモザル類、オマキザル類が好ましく、典型的には、コモンマーモセット、フサオマキザル等が好ましく用いられる。 本明細書に開示されるモデル動物は、ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連するモデル動物である。すなわち、部位特定的にドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の作用が阻害され機能が低下されたモデル動物である。この種のモデル動物を利用することで、特定部位のドーパミンD1受容体機能及び/又はドーパミンD2受容体機能研究に用いることができる。 また、本明細書に開示されるモデル動物は、ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患のモデル動物である。この種の疾患としては、ドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患としては、特に限定されないが、例えば、統合失調症、認知症、強迫性神経症、うつ病、精神分裂症、パーキンソン病等が挙げられる。 本明細書に開示されるモデル動物においては、脳の一部において選択的にドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の作用がRNA干渉により阻害されている。脳の特定の部位におけるドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の機能低下は、多くの精神疾患、神経変性疾患に関与にしていることが近年明らかになってきている。脳の特定部位におけるドーパミンD1受容体やドーパミンD2受容体の機能低下(例えば、受容体数の低下)は、陽電子放射断層撮影(PET)等により容易に取得できる。したがって、本明細書に開示されるモデル動物は、こうした脳の特定部位におけるドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の作用を阻害した動物は、ドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の機能低下と疾患との関係を評価するのに有用な動物(モデル動物候補)となっている。こうしたモデル動物候補において、意図した疾患が生じるかどうかを評価し、効率的にモデル動物を取得できる。 例えば、統合失調症は、前頭前野におけるドーパミンD1受容体及び前部帯状回におけるドーパミンD2受容体の機能低下に起因し、パーキンソン病は、扁桃体におけるドーパミンD1受容体に起因するなどとされている。 また、本明細書に開示されるモデル動物において、線条体において少なくともドーパミンD2受容体の作用が阻害されていることで、統合失調症又は強迫神経症のモデル動物となる。なお線条体は、好ましくは、尾状核においてドーパミンD2受容体の作用が阻害されており、より好ましくは尾状核の両側でドーパミンD2受容体の作用が阻害されている。また、こうしたモデル動物によれば、逆転学習課題(一対の刺激課題の中、正解課題を途中で入れ替える)をさせたところ、対照群に対して、有意に逆転学習の阻害が観察されることがわかっている。したがって、かかるモデル動物は、特に、ヒトの強迫症や統合失調症患者の固執傾向モデル動物として有用である。 本明細書に開示されるモデル動物においては、ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の作用がRNA干渉により阻害されている。RNA干渉は、ある遺伝子のmRNAが分解される現象として周知である。RNA干渉は、siRNA又はshRNAを細胞内に導入するか、あるいは遺伝子工学的にこれらを発現させることでRNA干渉を細胞内で生じさせて標的遺伝子のmRNAを分解させ、当該遺伝子の発現を抑制させることができる。 ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体の作用は、どのような形態のRNA干渉によって阻害されていてもよいが、好ましくは、特定部位の細胞が遺伝子工学的に修飾されてRNA干渉作用が持続的に発現するようになっていることが好ましい。典型的には、ドーパミンD1受容体遺伝子又はドーパミンD2受容体遺伝子の特定標的部位に対するsiRNA又はshRNAをコードするDNAを発現可能に特定部位の細胞が保持している。なお、こうしたDNAなどの核酸コンストラクトは、後段で詳述する。こうした核酸コンストラクトは染色体に組み込まれていなくてもよいが、染色体に組み込まれていることが好ましい。 本明細書に開示されるモデル動物がマーモセットであるとき、脳の特定部位における細胞は、ドーパミンD1受容体のノックダウン効率を考慮すると以下の塩基配列を標的配列とするRNA干渉のための核酸コンストラクト(典型的にはshRNA)を保持していることが好ましい。ドーパミンD1受容体遺伝子中の配列番号1、3、4、6、7、8及び10で表される塩基配列からなる群から選択される1種又は2種以上が好ましく、より好ましくは、配列番号3、8及び10で表される塩基配列からなる群から選択される1種又は2種以上であり、さらに好ましくは、配列番号8及び10で表される塩基配列からなる群から選択される1種又は2種である。 また、前記モデル動物がマーモセットであるとき、脳の特定部位における細胞は、ドーパミンD2受容体のノックダウン効率を考慮すると以下の塩基配列を標的配列とするRNA干渉のための核酸コンストラクト(典型的にはshRNA)を保持していることが好ましい。ドーパミンD2受容体遺伝子中の配列番号11、13、22、23、33、36及び37で表される塩基配列からなる群から選択される1種又は2種以上が好ましく、より好ましくは、配列番号23及び36で表される塩基配列からなる群から選択される1種又は2種以上である。 本明細書に開示されるモデル動物は、ドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の作用が阻害されているために、これらの受容体の機能低下に関連する研究用モデル動物として又は当該機能低下に関連する疾患のモデル動物として利用できる。すなわち、受容体の機能解析方法、受容体に対する作動薬や拮抗薬の評価又はスクリーニング方法、ドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法に利用できる。 特に、線条体の片側部位(被殻又は尾状核)のドーパミンD1受容体の作用を阻害したマーモセットなどの非ヒト霊長哺乳類は、ドーパミンD1受容体の作動薬を用いた直接路経由のドーパミン投射の研究用等として有用である。この種の動物は、ドーパミンD1受容体の作動薬の投与で阻害した側とは反対方向側への垂直面等における回旋運動が活発化するので、ドーパミンD1受容体の作動薬又は拮抗薬あるいはその候補化合物の評価用として有用である。 また、線条体の片側部位(被殻又は尾状核)のドーパミンD2受容体の作用を阻害したマーモセットなどの非ヒト霊長哺乳類は、ドーパミンD2受容体の作動薬を用いた間接路経由のドーパミン投射の研究用等として有用である。この種の動物は、ドーパミンD2受容体の作動薬の投与で阻害した側とは同方向側への垂直面等における回旋運動が活発化するので、ドーパミンD2受容体の作動薬又は拮抗薬あるいはその候補化合物の評価用として有用である。(非ヒト霊長哺乳類の作出方法) 本明細書に開示される非ヒト霊長哺乳類の作出方法は、既に説明した非ヒト霊長哺乳類のノックダウン動物である。本明細書に開示されるノックダウン動物を得るには、ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害するための核酸コンストラクトを前記非ヒト霊長哺乳類の脳の特定部位に導入する工程、を備えることができる。この方法によれば、受精卵操作などによらないで迅速に脳の特定部位のドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の作用が阻害された非ヒト霊長哺乳類を得ることができる。脳を構成する神経細胞においては細胞分裂が抑制されているため、この種の核酸コンストラクトを容易に維持できるため、その核酸コンストラクトによるドーパミンD1受容体の作用の阻害状態を安定して維持できる。 ノックダウン動物を作出するために用いる核酸コンストラクトは、ドーパミンD1受容体遺伝子又はドーパミンD2受容体遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害することができるものであればよく、特に限定されない。すなわち、これらの遺伝子の特定の塩基配列を標的とするsiRNA又はshRNAとすることができる。また、核酸コンストラクトとしては、これらをコードするDNAを発現可能に保持するベクターが挙げられる。 siRNAは、特に限定されないが、典型的には、21塩基対の二本鎖構造のRNAである。また、典型的には、各RNA鎖の3’部分は2塩基分突出した構造をとる。3’末端及び5’末端並びに、用いるリボヌクレオチド若しくはその塩基については、ヌクレアーゼ耐性を考慮して適宜人工的な修飾がなされていてもよく、そのような修飾は公知であるほか、修飾体を商業的に入手可能である。shRNAは、ヘアピン型の一本鎖構造のRNAであり、細胞内機構によってsiRNAへと切断加工される。 発現ベクターは、siRNA又はshRNAをコードするDNAを発現可能に保持している。すなわち、標的配列に適合するsiRNA又はshRNAをコードするDNAを哺乳類内で作動するプロモーターの作動下に保持するとともに、さらに転写終結のためのターミネーター、エンハンサー等を備えることができる。これらのためのプロモーターとしては、特に限定しないが、典型的にはU6プロモーター等が挙げられる。また、こうしたベクターを保持する細胞等を選択するためのマーカーのための発現カセットも含まれる。マーカー用のプロモーターとしては、特に限定しないが、典型的には、CMVプロモーター、SYN1プロモーター等が挙げられる。なお、ドーパミンD1受容体遺伝子及びドーパミンD2受容体遺伝子の標的配列として好ましいものは、既に説明したとおりである。 発現ベクターとしては、特に限定しないが、ウイルスベクター等が用いられる。ウイルスベクターとしては、特に限定しないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられるが、好ましくは、感染性、発現の維持性及び安全性の観点からアデノ随伴ウイルスベクターである。 siRNAやshRNAをコードするためのDNAの設計については、当業者において周知であり、また、標的配列を特定して商業的にも入手が可能である。さらに、こうしたDNAをウイルスベクター等の発現ベクターに組み込むことも当業者であれば適宜実施可能である。 核酸コンストラクトを脳の特定部位、すなわち、特定部位の細胞に注入するには、MRIを用いて、当該導入部位の座標を脳定位装置と共に確認し、麻酔した非ヒト霊長哺乳類の当該部位に対して頭蓋骨を切除してあるいは切除しないで、MRIと脳定位装置で正確な位置にマイクロシリンジ等により注入する等の方法が挙げられる。また、さらに、当該部位においてエレクトロポレーションを用いてもよい。 脳内の1又は2以上の特定部位は、特に限定しないが、ドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の局在部位やあるいは線条体(尾状核又は被殻)など記載した疾患に関連付けられている部位などが挙げられる。脳内の特定部位は、左右両側でもよいし、片側のみでもよい。特定部位は、異なる2箇所以上の部位を含んでいてもよい。例えば、扁桃体と線条体、あるいは前頭前野と前部帯状回などであってもよい。また、左右の部位や異なる部位においては、各部位に量的に異なる核酸コンストラクトを導入してもよい。 核酸コンストラクトの導入によるドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の作用を阻害する核酸コンストラクトの効果をPET等で確認することが、より適切なノックダウン動物の作出のために好ましい。PETを採用する場合には、核酸コンストラクトを導入後の非ヒト霊長哺乳類の特定部位に対してドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方に対する特異的リガンドを供給して評価を行う。特異的リガンドは、陽電子反β崩壊する核種で標識された化合物を放射性化合物(放射性トレーサー)として利用する。PETによって放射される陽電子を検出し、核酸コンストラクトの導入前と対比することで、核酸コンストラクトによるノックダウンレベルを評価することができる。 こうして作出したノックダウン動物は、非ヒト霊長哺乳類の脳の特定部位においてドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の作用が阻害され、すなわち、機能が低下したものとなっている。ノックダウン動物は、核酸コンストラクトが発現ベクター等の形態で導入されている場合には、安定的に神経細胞内に保持されて、ドーパミンD1受容体等の機能低下効果を安定して維持できる。(ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能解析方法) 本明細書に開示される機能解析方法は、本明細書に開示されるモデル動物の1種又は2種以上の機能に関する評価を行う工程を備えることができる。この方法によれば、特定部位におけるドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の機能低下や疾患と動物における各種機能との関係を解析することができる。評価対象となる機能は、特に限定しないが、例えば、電気的生理、運動、学習行動、記憶等が挙げられる。これらからなる群から選択される1種又は2種以上を評価対象とすることができる。(ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法) 本明細書に開示されるスクリーニング方法は、本明細書に開示されるモデル動物に対して、1又は2以上の被験化合物を投与する工程と、1又は2以上の被験化合物の投与によるモデル動物の機能の変化を評価する工程と、を備えることができる。こうしたスクリーニング方法によれば、脳の特異的部位におけるドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の機能が低下されているために、こうした部位におけるドーパミン受容体の機能低下に関連する疾患の予防又は治療に好適な薬剤を効果的にスクリーニングできる。 被験化合物としては、特に限定されないが、ドーパミンD1受容体作動薬又は拮抗薬あるいはこれらの候補化合物、ドーパミンD2受容体作動薬又は拮抗薬あるいはこれらの候補化合物等が挙げられる。評価工程における評価対象となるモデル動物の機能は、既に説明した本明細書に開示される機能解析方法において評価対象となる機能が挙げられる。(非ヒト霊長哺乳類のモデル動物の作出方法) 本明細書に開示される非ヒト霊長哺乳類のモデル動物の作出方法は、ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害するための1又は2以上の核酸コンストラクトを前記非ヒト霊長哺乳類の脳の1又は2以上の特定部位に導入して前記モデル動物候補を作製する工程と、前記モデル動物候補についての1種又は2種以上の機能に関する評価を行う工程と、を備えることができる。上記したように、本明細書の開示によれば、1又は2以上の特定部位のドーパミンD1受容体及び/又はドーパミンD2受容体の機能を低下させることができる。こうした非ヒト霊長哺乳類をモデル動物候補とし、その機能を評価することで、モデル動物をスクリーニングすることができる。 なお、評価工程に先立って、1又は2以上の核酸コンストラクトを導入後の非ヒト霊長哺乳類の1又は2以上の特定部位に対してドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の特定部位におけるノックダウンレベルを評価するようにすることで、より確度の高いモデル動物の作出が可能となる。 本明細書の開示によれば、また、非ヒト霊長哺乳類のドーパミンD1受容体をノックダウンするための核酸コンストラクトであって、ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号8又は10で表される塩基配列を標的としてRNA干渉を発現する核酸コンストラクト及び非ヒト霊長哺乳類のドーパミンD2受容体をノックダウンするための核酸コンストラクトであって、ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号23又は36で表される塩基配列を標的としてRNA干渉を発現する核酸コンストラクトも提供される。 既に記載のとおり、核酸コンストラクトが標的とする塩基配列は、ドーパミンD1受容体遺伝子及びドーパミンD2受容体遺伝子の他の好ましい標的配列であってもよい。また、核酸コンストラクトの形態は、siRNA及びshRNA並びにこれらをコードするDNAの形態のいずれであってもよい。 以下、本明細書の開示に関し、具体例を挙げて説明する。(マーモセットのドーパミンD1受容体遺伝子及びドーパミンD2受容体の塩基配列の決定) マーモセットのドーパミンD1受容体遺伝子DRD1又はドーパミンD2受容体遺伝子DRD2の5’−UTRおよび3’−UTRに対してPCRプライマーを設計し、マーモセット大脳皮質のcDNAを鋳型にPCRをおこない、そのPCR産物をpBluescript KS+にサブクローニングして全長の配列を決定した。各遺伝子につき、最低3クローン以上で一致した配列をマーモセットのDRD1の遺伝子配列(配列番号38)またはDRD2の遺伝子配列(配列番号39)とした。(shRNA発現ベクターの作製) shRNAとマーカーとなる蛍光タンパク質を1つのプラスミドから発現させるため、CSIVプラスミドをベースに作製した。図1に示すように、PGKプロモーターの下流にTurboFP635をつなぎ、インシュレーターを挟んでU6プロモーターを繋いだ。U6プロモーターの下流には制限酵素サイトXbaIとEcoRIを作り、shRNAのカセットを入れ替えられるようにした。以下の方法でshRNAの配列を決定した。(shRNA配列の決定) 効果的なshRNAの配列を決定するために、図2に示すin vitro評価系でshRNAのノックダウン効率を評価した。すなわち、pGL3-Controlプラスミドのルシフェラーゼ遺伝子とpoly (A)配列の間にマーモセットDRD1またはDRD2の配列を組み込んだ。このプラスミドとpRL-TKプラスミド、さらにshRNAの候補配列を組み込んだプラスミドをHEK293T細胞に導入して、ルシフェラーゼアッセイによって効果的なshRNA配列を決定した。 マーモセットのドーパミンD1受容体遺伝子に対しては以下の表1に示す合計10種類の配列(配列番号1〜10)を評価し、ドーパミンD2受容体遺伝子に対して以下の表2に示す27種類(配列番号11〜37)を評価した。結果を図3に示す。 図3に示すように、ドーパミンD1受容体に関しては阻害率が70%以上の標的配列が7種類あり、同80%以上の標的配列が3種類あり、同約90%の標的配列として配列番号8及び10があることがわかった。また、ドーパミンD2受容体に関しては、阻害率が70%以上の標的配列が7種類あり、同80%以上の標的配列が2種類あり、配列番号23、36が特に優れていることがわかった。(マーモセットへの注入用AAVベクターの作製及び線条体へのAAV注入) 上記の方法で決定したshRNA配列(ドーパミンD1受容体については配列番号8、ドーパミンD2受容体については配列番号23)を組み込んだAAVベクターを作成した。AAVベクター作製用のプラスミドは図4に示すように、CMVプロモーターまたはhSYN1プロモーターの下流にマーカーとしてhrGFPなどを組み込み、このプロモーターとITRの間にU6プロモーターを組み込んだ。U6プロモーターの下流には制限酵素サイトBamHIとHindIIIを作り、shRNAのカセットを入れ替えられるようにした。(1)ベクター用プラスミドの構築 shRNA配列を搭載するAAVベクターを作製するため、pSilencer 2.1-U6 neo (Ambion, Life technologies, Carlsbad, CA)からPvuIIで0.7 kb 長の断片を切り出し、pAAV-hrGFP (Agilent technologies, Santa Clara, CA) のMluIサイト(平滑化)に挿入した。生じた2種類のプラスミドのうち、U6-shRNAとCMV-GFPが同方向になっているものを採用した。(2)shRNA配列の入れ換え shRNA配列を目的遺伝子に対応したものに入れ換えるためには、Ambionの説明書に従って、標的配列に応じて図4に示す2本のオリゴを合成し、当該配列を置換することとした。この2本のオリゴはそれぞれ63塩基からなり、ヘアピン構造の両端にBamHI及びHindIIIに相当する配列を有する。置換に際してはこれらのオリゴを等濃度で混和し90℃で3分間加熱後1時間かけて室温まで冷却することで二本鎖のDNA断片とし、常法に従い、ベクター用プラスミドの該当する部位に挿入した。(3)AAVベクターの作製 AAVベクターはトランスフェクションを用いて作製した。すなわち、ベクタープラスミドに加えてAAVヘルパープラスミド、アデノウイルスヘルパープラスミド(Agilent technologies, Santa Clara, CA) をリン酸カルシウム法により293細胞に遺伝子導入した。72時間後に細胞を回収し、3回の凍結融解の後、超遠心による塩化セシウム濃度勾配を用いた精製を2回行った(参考文献 水上浩明、小澤敬也:「新規血清型に由来するAAVベクターの有用性」 Yakugaku Zasshi 126(11), 1021-1028, 2006.)。(4)ウイルスベクターの注入 手術の前段階として、麻酔下でマーモセットを脳定位固定装置に固定しMRI撮像を行って、線条体(被殻片側及び尾状核両側)の場所を確認した。その情報を元に、脳定位手術を行い、マーモセット線条体にウイルスベクターを注入した。手術においては、深麻酔下で頭皮を切開して頭骨の適切な位置に電動ドリルで穿孔した。硬膜が露出したら、ウイルス液を吸引したガラスキャピラリーを刺入し、ゆっくり目的位置まで進め、目的位置に到達したら、シリンジポンプを使って、0.1〜0.2μl/minのスピードで、一カ所あたり、1〜2μl(1〜10x10e9 vg/μl)、を数カ所に注入し、頭骨の穴は止血用ゼラチンスポンジ(スポンゼル)でふさぎ、頭皮を縫合して手術を終了した。注入個体は、術後の回復、ウイルスベクターからの遺伝子発現の上昇を待って、in situhybridization(ISH)またはPETによる発現抑制確認、さらに電気生理解析や回転運動解析用に用いた。マーモセット線条体尾状核両側へのウイルス注入個体は逆転学習解析用に用いた。特に、逆転学習用には、24月齢以上のヤングアダルトのマーモセットを用いた。(In situ hybridizationによる発現抑制確認) 片側被殻D1KDマーモセット個体及び片側被殻D2KDマーモセット個体(注入から3ヶ月経過後)を深麻酔下で生理食塩水と4% PFAを灌流して組織を固定し、の脳を取り出した。取り出した脳は30%スクロースに置換した。脳切片を作成後、DIGで標識したマーモセットのDRD1またはDRD2のプローブとハイブリダイズさせた。抗DIG-AP抗体と反応後、NBT/BCIPによりDRD1またはDRD2のmRNAを可視化した。結果を図5及び図6に示す。 図5に示すように、DRD1に対するshRNAを発現させた片側被殻D1KDマーモセット個体ではDRD1 mRNA特異的に発現が抑制されていることが確認された。また、図6に示すように、DRD2に対するshRNAを発現させた片側被殻D2KDマーモセット個体ではDRD2 mRNA特異的に発現が抑制されていることが確認された。(PETによる発現抑制確認) D1KDマーモセット個体又はD2KDマーモセット個体に関し、陽電子放射断層撮像(positron emission tomography: PET)は、1-2%イソフルラン麻酔下に、小動物用PET装置(microPET、SIMENS社製)を用いて行った。減弱補正のためのトランスミッションスキャンの後、ドーパミンD1受容体特異的リガンドとして [11C]SCH23390、D2受容体特異的リガンドとして[11C]racloprideを尾静脈より投与後、90分間のエミッションスキャンを行った。 [11C]SCH23390および[11C]raclopride注射液は、生理食塩水で1.0 ml/kg体重、の容積に希釈し、1頭あたりの投与放射能量を46-54 MBqに調整した。PET画像は、集積程度の指標として、SUV (Standard Uptake Value)= 関心領域における組織放射能(MBq/g)÷〔投与量(MBq)/体重(g)〕を用いた。 片側被殻D1KDマーモセット個体及び片側被殻D2KDマーモセット個体では、ドーパミンD1受容体及びD2受容体についての[11C]SCH23390または[11C]raclopride投与後30-90分間におけるPET加算平均画像を図7及び図8に示す。PET データから得られた脳組織におけるtissue time activity curve から、小脳部位を参照領域としたコンパートメントモデル(Simplified reference tissue model: SRTM)に基づき、ウイルス投与部位である被殻または尾状核におけるリガンドと受容体との間の結合能の推定を行った。片側被殻投与では左右の受容体結合能の比によって、D1受容体特異的ノックダウンを確認した。結果を図7及び図8に併せて示す。 また、両側尾状核D2KDマーモセット個体では、ウイルス投与前後の受容体結合能の比によって、D2受容体特異的ノックダウンを確認した。PET加算平均画像を図9に示す。 図7に示すように、片側被殻D1KDマーモセット個体においては、ウイルスを注入した片側被殻においてドーパミンD1受容体における陽電子の放出が選択的に低減しており、当該受容体が減少していることがわかった。また、低減量が約50%であることがわかった。 また、図8に示すように、片側被殻D2KDマーモセット個体においては、ウイルスを注入した片側被殻においてドーパミンD2受容体における陽電子の放出が選択的に低減しており、当該受容体が減少していることがわかった。また、低減量が約50%であることがわかった。 さらに、図9に示すように、尾状核両側D2KDマーモセット個体においては、ウイルスを注入した両側尾状核においてドーパミンD2受容体における陽電子の放出が選択的に低減しており、当該受容体が減少していることがわかった。また、低減量は、D2KDの個体はD1がR127.2% L113.7%、D2がR50.0% L38.1%であることがわかった。(大脳基底核の神経細胞活動記録) マーモセットの頭部を固定するための器具を、予め麻酔下で装着しておいた。その後、動物を覚醒状態で、チェアーに座らせ、頭部を固定した。ガラス被覆したエルジロイ金属電極(電極抵抗:0.5-1.5 MΩ)を淡蒼球内節(GPi)、淡蒼球外節(GPe)、視床下核(Stn)に刺入し、細胞外記録を行った。記録した単一ニューロン活動は増幅(x8,000倍)し、フィルタ(100-2,000 Hz)をかけた。そして、ニューロンのスパイクを単離し、ウインドウディスクリミネータを用いてデジタルパルスに変換した。大脳皮質一次運動野(M1)への電気刺激(300マイクロ秒の単一、単相パルス、刺激の強さ:最大で0.7 mA、刺激間隔:1.4秒)に対する大脳基底核ニューロンの応答を、刺激前後時間ヒストグラム(PSTH, peri-stimulus time histogram;ビン幅:1 ミリ秒、100試行)を用いて解析を行った。 大脳基底核の出力部位であるGPiは、M1電気刺激に対して、速い興奮反応−抑制反応−遅い興奮反応の3相性の反応を示す。この反応系を図10に示す。一方、M1からの運動情報は大脳基底核内の次の3経路を通り、出力部位であるGPiに至ると考えられている:(1)脳皮質→線条体→GPi(「直接路」)、(2)大脳皮質→線条体→GPe→Stn→GPi(「間接路」)、(3)大脳皮質→Stn→GPi(「ハイパー直接路」)。これまでの実験結果から、M1電気刺激に対するGPiの3相性の反応のうち、「ハイパー直接路」が早い興奮反応を、「直接路」が抑制反応を、「間接路」が遅い興奮反応を引き起こすことがわかっている。また、GPiのニューロンはGABA作動性の抑制性で視床に投射している。したがって、「直接路」経由の抑制反応は、視床のニューロンを脱抑制し、必要な運動を引き起こすのに対して、「ハイパー直接路」経由の早い興奮反応と「間接路」経由の遅い興奮反応は、視床ニューロンを抑制し、不必要な運動を抑える役割があると推定される。 さらにPSTH解析に加えて、片側被殻D1KDマーモセット個体について大脳基底核ニューロンの自発発火活動を記録した(50秒間、ビン幅:0.5ミリ秒)。以上のような解析を、shRNAウィルス注入前(コントロール)、ウィルス注入後1ヵ月以降に行い、マーモセットにおけるノックダウンの影響を調べた。結果を図11及び図12に示す。 図11に示すように、片側被殻D1KDマーモセット個体では、運動前野(M1)を電気的に刺激した場合、20〜30ミリ秒以内の早い反応では、線条体直接路の最初の投射先である淡蒼球内節で直接路反応の抑制が少なくなるが、視床下核や淡蒼外節ではそのような差は見られないので、直接路選択的な効果が観察された。一方、図11に示すように、片側被殻D2KDマーモセット個体では、M1を電気的に刺激した場合、20〜30ミリ秒以内の早い反応では、線条体直接路の最初の投射先である淡蒼球外節で間接路反応の遅れが観察されるが、淡蒼内接ではそのような差は見られないので、この場合、間接路選択的な効果が観察された。 なお、D1RshRNA,D2RshRNAを導入したD1R受容体KDマーモセットの、GPi, GPe, Stnのいずれの核においても自発発火は、対照群と差がなく、刺激がない場合の異常な興奮や抑制がない事が確認された(図11)。しかし、図12に示すように、D1受容体、D2受容体のアゴニストであるアポモルフィンを投与して、D1受容体とD2受容体を刺激した場合に、D1R受容体KDマーモセットとD2受容体KDマーモセットでは、ケージ内での回転方向が逆であることがわかった。対照群では、アポモルフィン投与での回転方向の差がみられないことから、D1受容体とD2受容体の片側のノックダウンで左右の被殻の入出力のバランスが崩れた結果、特定の方向への回転が誘導されることがわかった。(回旋運動解析) 被殻片側におけるD1KDマーモセット個体及びD2KDマーモセット個体におけるウイルスの注入前後(注入後3日、1週間及び2週間経過後)で、ドーパミンD1受容体の作動薬であるアポモルフィン投与によって引き起こされる回旋運動を解析した。アポモルフィン(0.3mg/kg)を筋肉内投与し、直径50cmの円形容器内に動物を入れ、動物の行動を30分間ビデオ撮影した。撮影後、ビデオにより解析を行い、ウイルスを注入した側に対して同側方向もしくは反対側方向への動物の回旋数を測定した。結果を図13に示す。 図13に示すように、D1KDマーモセット個体においては反体側方向に、D2KDマーモセット個体においては同側方向に回転運動をすることが観察された。上述したM1刺激で、淡蒼球内節に於ける20〜30ミリ秒以降の遅い反応がD1KD個体では低下し、D2KD個体では増加することから淡蒼球内節から視床への抑制性投射が前者では減少し、後者では増大しその結果、M1に於ける活動がそれぞれ、増加、減少し、その結果、M1から反対側への皮質脊髄路への出力がそれぞれ、増加減少すると考えられる。この結果は、shRNAによるD1R、D2RKDの動物個体が、生理学的・行動学的予測と一致するとともに、様々な薬物の生体効果を調べる上で、大変有用であることを示している。 逆転学習用に作製した両側尾状核D2KDマーモセット個体(ヤングアダルト(24か月齢以上)に対して、マーモセット用に開発したタッチスクリーン付汎用性認知機能実験装置(Takemoto A, Izumi A, Miwa M, Nakamura K (2011) Development of a compact and general-purpose experimental apparatus with a touch-sensitive screen for use in evaluating cognitive functions in common marmosets. J Neurosci Methods 199:82-6)を用い、アイソレータ内の飼育ケージにこの装置を取り付けて実験を行った。 学習実験は、以下のようにして行った。前肢で実験装置の画面へタッチする行動を十分に訓練した。その後、視覚弁別学習を行った。視覚弁別学習の1試行は、次の通りであった。最初に、黒の一様画面の中央に、注意刺激として、赤い正方形が呈示された。マーモセットが注意刺激にタッチすると、1秒後に2つの抽象的な幾何学図形が左右に呈示された(図14参照)。この2つの図形の片方にタッチすると報酬を得ることができるが(報酬連合刺激)、もう一方にタッチしても報酬が得られなかった(報酬非連合刺激)。左右どちらに報酬連合刺激が呈示されるかは、毎試行ごとにランダムに決め、左右の呈示場所に偏りのないように呈示した。報酬連合刺激をタッチすると、短く高いビープ音が鳴ると共に報酬が与えられ、全ての図形が消え、黒の一様画面となった。報酬非連合刺激をタッチすると、音は鳴らず報酬も与えられず、全ての図形が消え、黒の一様画面となった。試行間間隔は、正答の場合は3秒、誤答の場合は5秒であった。マーモセット各個体に対して、1日に100試行行い、正答率を求めた。90%以上の正答率に達したら、その刺激対に対する弁別学習が完了したものとした。何らかの理由でマーモセットが反応せず、15分以上タッチがない状態が続いた場合は、その個体のその日の訓練は終了とした。 図14に示すように、用いたマーモセットの各個体とも、視覚弁別学習には、10組の刺激対(S1〜S10)を用いた。刺激対S1とS2に対しては、通常の視覚弁別学習のみを実施した。その後、4組の刺激対S3〜S6に対して、それぞれ通常の視覚弁別学習(新規学習, forward learning)を実施し、その後報酬連合刺激と報酬非連合刺激の割り当てを入替え、刺激と報酬の関係を逆転した状態にして学習(逆転学習, reversal learning)を行った。S6の刺激対の逆転学習成立後に、D2-shRNA-AAV注入、およびその前後のPET撮像を行った。この注入処置の後、学習機能が維持されているか確認するために、再度、注入処置直前と同じ刺激対S6の学習実験を行い、その後、S7〜S10の4種類の刺激対に対して、新規学習と逆転学習を行った。 各セッションでの正答率(100試行中の正答数の割合)を求めて学習曲線を描いた。結果を図15に示す。さらに、各刺激ペアの新規学習と逆転学習の各試行の正答(1)、誤答(0)のバイナリの時系列データをもとに、Smith AC, Frank L, Wirth S, Yanike M, Hu D, Kubota Y, Graybiel AM, Suzuki W, Brown EN (2004) Dynamic Analysis of Learning in Behavioral Experiments. J Neurosci 24: 447-61の方法によって推定した学習曲線とその信頼区間から、ランダムな反応と統計的に区別できる状態(IO(0.95)) になるまでに要した試行数(学習試行, learning trial)を算出した。AAV注入の前後のそれぞれ4種類の刺激対の新規学習と逆転学習での学習試行をまとめ、それぞれの平均と標準誤差を求めた。結果を図16に示す。 図15及び図16に示すように、両側尾状核D2KDマーモセット個体では有意に逆転学習の阻害が観察された。このことから、こうしたマーモセット個体は、人の強迫症や統合失調症患者の固執傾向モデル動物として有用として考えられる。 脳の一部において選択的にドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の作用がRNA干渉により阻害されている、ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患の非ヒト霊長哺乳類モデル動物。 前記非ヒト霊長哺乳類は、マーモセットである、請求項1に記載のモデル動物。 前記非ヒト霊長哺乳類はマーモセットであり、ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号8又は10で表される塩基配列を標的とするshRNAを発現する、請求項1又は2に記載のモデル動物。 前記非ヒト霊長哺乳類はマーモセットであり、ドーパミンD2受容体遺伝子の配列番号23又は36で表される塩基配列を標的とするshRNAを発現する、請求項1〜3のいずれかに記載のモデル動物。 前記疾患は、統合失調症、認知症、強迫性神経症、うつ病、精神分裂症及びパーキンソン病からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のモデル動物。 前記一部は線条体であり、少なくともドーパミンD2受容体の作用が阻害されている、前記疾患は、統合失調症又は強迫神経症である、請求項1〜5のいずれかに記載のモデル動物。 非ヒト霊長哺乳類のノックダウン動物の作出方法であって、 ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害するための1又は2以上核酸コンストラクトを前記非ヒト霊長哺乳類の脳の1又は2以上の特定部位に導入する工程、を備える、方法。 前記非ヒト霊長哺乳類は、マーモセットである、請求項7に記載の方法。 前記1又は2以上核酸コンストラクトは、前記ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号8又は10で表される塩基配列を標的とする、請求項8に記載の方法。 前記1又は2以上核酸コンストラクトは、前記ドーパミンD2受容体遺伝子の配列番号23又は36で表される塩基配列を標的とする、請求項8又は9に記載の方法。 前記1又は2以上の核酸コンストラクトは、随伴アデノウイルスベクターの形態を含む、請求項7〜10のいずれかに記載の方法。 前記1又は2以上の特定部位に対して前記1又は2以上の核酸コンストラクトを注入する、請求項7〜11のいずれかに記載の方法。 前記1又は2以上の特定部位は線条体を含む、請求項7〜12のいずれかに記載の方法。 さらに、前記1又は2以上の核酸コンストラクトを導入後の前記非ヒト霊長哺乳類の前記1又は2以上の特定部位に対して前記ドーパミンD1受容体及び前記ドーパミンD2受容体のいずれか又は双方に対する放射性化合物でラベル化された特異的リガンドを供給して、前記1又は2以上の特定部位の陽電子放射断層像を撮像して前記1又は2以上の特定部位のおけるノックダウンレベルを評価する工程、を備える、請求項7〜13のいずれかに記載の方法。 ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能解析方法であって、 請求項1〜5のいずれかに記載のモデル動物の、電気的生理、運動、学習行動及び記憶からなる群から選択される1種又は2種以上の機能に関する評価を行う工程、を備える、方法。 ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法であって、 請求項1〜5のいずれかに記載のモデル動物に対して、1又は2以上の被験化合物を投与する工程と、 前記1又は2以上の被験化合物の投与による前記モデル動物の機能の変化を評価する工程と、を備える、方法。 非ヒト霊長哺乳類のモデル動物の作出方法であって、 ドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害するための1又は2以上の核酸コンストラクトを前記非ヒト霊長哺乳類の脳の1又は2以上の特定部位に導入して前記モデル動物候補を作製する工程と、 前記モデル動物候補についての1種又は2種以上の機能に関する評価を行う工程と、を備える、方法。 前記評価工程に先立って、さらに、前記1又は2以上の核酸コンストラクトを導入後の前記非ヒト霊長哺乳類の前記1又は2以上の特定部位に対して前記ドーパミンD1受容体及び前記ドーパミンD2受容体のいずれか又は双方に対する放射性化合物でラベル化された特異的リガンドを供給して、前記1又は2以上の特定部位の陽電子放射断層像を撮像して前記1又は2以上の特定部位のおけるノックダウンレベルを評価する工程、を備える、請求項17に記載の方法。 非ヒト霊長哺乳類のドーパミンD1受容体をノックダウンするための核酸コンストラクトであって、 前記ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号8又は10で表される塩基配列を標的としてRNA干渉を発現する核酸コンストラクト。 非ヒト霊長哺乳類のドーパミンD2受容体をノックダウンするための核酸コンストラクトであって、 前記ドーパミンD1受容体遺伝子の配列番号23又は36で表される塩基配列を標的としてRNA干渉を発現する核酸コンストラクト。 【課題】特定のドーパミン受容体の作用が阻害された非ヒト霊長哺乳類のモデル動物を提供する。【解決手段】脳の一部において選択的にドーパミンD1受容体及びドーパミンD2受容体のいずれか又は双方の作用がRNA干渉により阻害されている、ドーパミンD1受容体又はドーパミンD2受容体の機能低下に関連する疾患の非ヒト霊長哺乳類モデル動物を作製する。【選択図】なし配列表


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