タイトル: | 公開特許公報(A)_循環腫瘍細胞の検出方法 |
出願番号: | 2012181987 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12Q 1/04,G01N 33/48,C12Q 1/37 |
岡本 行広 大塚 康平 長谷 哲成 渡慶次 学 長谷川 好規 馬場 嘉信 JP 2014039480 公開特許公報(A) 20140306 2012181987 20120821 循環腫瘍細胞の検出方法 国立大学法人名古屋大学 504139662 萩野 幹治 100114362 岡本 行広 大塚 康平 長谷 哲成 渡慶次 学 長谷川 好規 馬場 嘉信 C12Q 1/04 20060101AFI20140207BHJP G01N 33/48 20060101ALI20140207BHJP C12Q 1/37 20060101ALI20140207BHJP JPC12Q1/04G01N33/48 MC12Q1/37 5 OL 12 2G045 4B063 2G045AA24 2G045AA26 2G045BA13 2G045BB20 2G045CA25 2G045CB01 2G045CB02 2G045FA16 2G045FA19 2G045FB01 2G045FB12 2G045GB01 2G045GC15 2G045HA14 4B063QA01 4B063QQ03 4B063QQ08 4B063QQ36 4B063QR58 4B063QR69 4B063QS28 4B063QS36 4B063QX02 本発明は循環腫瘍細胞(circulating tumor cell: CTC)の検出方法に関する。 循環腫瘍細胞(以下、CTCと呼ぶ)は血液中を循環している腫瘍細胞であり、転移性悪性腫瘍の早期発見や予後予測、或いは治療効果の判定などの指標として注目されている(例えば非特許文献1を参照)。CTCの検出方法には、がん細胞特異的な遺伝子を標的としたRT-PCR法やマイクロアレイ法を利用した方法(例えば非特許文献2を参照)、フローサイトメトリーを利用した方法(例えば非特許文献3を参照)等が報告されてきた。 CTCは存在量が極めて少ないことから、その検出のためには通常、濃縮操作が必要となる。効率的な濃縮方法として、腫瘍細胞表面に発現するEpCAM(上皮細胞表面分子)を利用した方法が開発されるとともに、近年、それを応用した検出システムであるセルサーチシステム(登録商標、Veridex, LLC)が実用化された。セルサーチシステムを使用したCTC検査はアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けている。セルサーチシステムでは、抗EpCAM抗体固定化磁気ビーズを利用してCTCを濃縮・分取した後、免疫染色法にてCTCを同定することで、サンプル中のCTCを計数する(例えば非特許文献4を参照)。S. J. Cohen et al., Prognostic significance of circulating tumor cells in patients with metastatic colorectal cancer. Ann Oncol (2009) 20 (7): 1223-1229.Schroder CP et al., Detection of micrometastatic breast cancer by means of real time quantitative RT-PCR and immunostaining in perioperative blood samples and sentinel nodes. Int J Cancer. 2003 Sep 10;106(4):611-8.Moreno JG et al., Changes in circulating carcinoma cells in patients with metastatic prostate cancer correlate with disease status. Urology. 2001 Sep;58(3):386-92.Riethdorf S et al., Detection of circulating tumor cells in peripheral blood of patients with metastatic breast cancer: a validation study of the CellSearch system. Clin Cancer Res. 2007 Feb 1;13(3):920-8.Andreasen PA, Kjoller L, Christensen L, Duffy MJ. Int. J.Cancer 72, 1. (1997)Dano K, Romer J, Nielsen B S, Bjorn S, Pyke C, Rygaard J, Lund L R. Acta Pathol Microbiol Immunol Scand. 1999;107:120-127. EpCAMを利用したCTCの濃縮法が頻用されているが、当該手法は、原理上、EpCAMを発現しないCTC(EpCAMネガティブCTC)の検出には利用できない。即ち、一部のCTCを検出することができないという、決定的な問題点を抱える。また、当該手法ではCTCを濃縮した後に計測することから、試料のロスが生じ、測定精度に影響を与える。一方、他の手法においては、特に操作が煩雑という問題がある。そこで本発明は、EpCAMネガティブCTCも検出できるCTC検出手段を提供することを課題とする。また、簡便性及び精度に優れたCTC検出手段を提供すること及びCTCの回収手段を提供することも課題とする。 本発明者らは検討を進める中で、がん細胞がウロキナーゼ(ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA))とその受容体(ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR))を発現している事実(非特許文献5、6等を参照)に着目した。そして、ウロキナーゼ活性を指標にすればCTCを簡便かつ精度よく検出及び回収できるとの期待の下、各種実験を行うことにした。具体的には、ウロキナーゼ特異的基質を含有するゲル材料上でCTC含有サンプルを所定時間インキュベートした後、CTCの検出を試みた。結果、CTC特異的なシグナルが認められた。即ち、簡便な操作にも拘わらず、CTCを特異的かつ精度よく検出することに成功した。当該手法は、EpCAMではなく、ウロキナーゼを指標にしていることから、EpCAMネガティブのCTCをも検出可能である。ゲル材料としてフィブリンゲルを用いた場合、ウロキナーゼはフィブリンゲル中のプラスミンを活性化し、フィブリンゲルを溶解可能とする。この反応を利用すれば、CTCのみがゲルに強く捕捉されるために、夾雑成分(例えば血球)からのCTCの分離及び回収が可能となる 以下の発明は、上記の成果に基づく。 [1]以下のステップ(1)〜(3)を含む、循環腫瘍細胞の検出方法: (1)ウロキナーゼ特異的基質を含有するゲル材料からなる培養面を用意するステップ; (2)前記培養面に血液サンプルを播種した後、インキュベートするステップ;及び (3)前記ウロキナーゼ特異的基質由来のシグナルを検出するステップ。 [2]前記ウロキナーゼ特異的基質が、ウロキナーゼ特異的蛍光基質である、[1]に記載の検出方法。 [3]前記ゲル材料がフィブリンゲルである、[1]又は[2]に記載の検出方法。 [4]前記血液サンプルが全血からなる、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の検出方法。 [5]ステップ(3)の後に、以下のステップ(4)を行う、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の検出方法: (4)培養面上の循環腫瘍細胞を回収するステップ。CTC検出法の検出原理の模式図。作製したマイクロチップ。マイクロチップの加工に使用したマスクのデザイン。実験手順の概要。蛍光検出の結果。左:蛍光基質(蛍光画像)、右:ハロゲンランプ(明視野画像)。矢印で示した中央の円はH1229細胞、それ以外の円は赤血球細胞。蛍光検出の結果。EpCAMポジティブCTCのHCC827細胞とEpCAMネガティブCTCのH1299細胞を比較した。左:ハロゲンランプ(明視野画像)、右:蛍光基質(蛍光画像)。洗浄前(上)と洗浄後(下)のチャネル内の様子。分離・捕捉後のCTCの回収方法の例。培養面をフィブリンゲルで構成した場合、ウロキナーゼ、プラスミン、ナットウキナーゼなどでフィブリンゲルを分解することにより、捕捉したCTCを回収できる。 本発明は循環腫瘍細胞(CTC)の検出方法に関する。本発明の検出方法によれば、簡便な操作によって血液サンプル中のCTCを検出することができる。本発明の検出方法は、EpCAMの発現状態に依存した従来法とは対照的に、血液サンプル中のCTCが発現するウロキナーゼを利用する。ウロキナーゼ(EC 3.4.99.26)は、プラスミノーゲン分子中の特定位置のペプチド結合を加水分解してプラスミンへと変換、活性化するセリンプロテアーゼである。本発明ではウロキナーゼとウロキナーゼ特異的基質との反応を指標としてCTCを検出する。この点が本願発明の最大且つ重要な特徴である。本発明の検出方法では、具体的には以下のステップを行う。 (1)ウロキナーゼ特異的基質を含有するゲル材料からなる培養面を用意するステップ (2)前記培養面に血液サンプルを播種した後、インキュベートするステップ (3)前記ウロキナーゼ特異的基質由来のシグナルを検出するステップ まず、ウロキナーゼ特異的基質を含有するゲル材料からなる培養面を用意する(ステップ(1))。換言すれば、本発明ではウロキナーゼ特異的基質を含有するゲル材料で構成された培養面を使用する。典型的には、ウロキナーゼ特異的基質が添加されたゲル材料を培養支持体(培養基材)の上でゲル化させ、本発明の培養面とする。ゲル化の途中又はゲル化後にウロキナーゼ特異的基質を添加することにしてもよいが、ゲル材料内での濃度の均一性を高めるため或いは操作性の観点等から、ゲル化に先立ってゲル材料にウロキナーゼ特異的基質を混合、分散させておくとよい。 培養支持体の形状は特に限定されない。典型的には、ペトリ皿などの培養皿又はマイクロウェルプレート(6ウェル、24ウェル、96ウェル等)、マイクロチップ等を培養支持体として用いる。プレート状、フラスコ状などの培養支持体を用いることにしてもよい。培養支持体の材質も特に限定されない。材質の例はプラスチック(例えばポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート)、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、金属、天然ポリマー、合成ポリマーである。培養支持体の表面修飾の有無は問わない。即ち、ポリリジン、細胞外基質(ECM)、各種付着性タンパク質(フィブロネクチン、コラーゲンI型、コラーゲンIV型、ラミニン等)等が表面(即ち培養面が形成される面)にコートされた培養支持体を用いても、或いは非表面コートの培養支持体を用いてもよい。 ウロキナーゼ特異的基質とは、ウロキナーゼによる特異的な分解が可能な基質である。本発明では、ウロキナーゼによる分解を受け、検出可能なシグナルが生ずる基質を用いる。好ましくは、ウロキナーゼに対する特異性が高いウロキナーゼ特異的基質を用いる。当該基質は、実質的にウロキナーゼ以外の酵素による作用を受けないか、或いはウロキナーゼ以外の酵素による作用を受けたとしても上記の如きシグナルを生じない。 ウロキナーゼ特異的基質の例として、蛍光性基質(Glt-Gly-Arg-MCA(株式会社ペプチド研究所)、Pyr-Gly-Arg-MCA(シグマ社)、Bz-β-Ala-Gly-Arg-AMC・AcOH(積水化学工業株式会社)等)、発色性基質(pyroGlu-Gly-Arg-pNA・HCl(S-2444)(積水メディカル株式会社)、Bz-β-Ala-Gly-Arg-pNA・AcOH(Pefachrome社)、Cbo-Glu(OtBu)-Gly-Arg-pNA・AcOH(Pefachrome社)等)を用いることができる。好ましくは、検出感度や価格、溶解性等の点で優れた蛍光性基質を用いる。 培養面を構成することになるゲル材料は、細胞の培養に適するものであれば特に限定されない。例えば、フィブリンゲル、ゼラチン、アガロース、コラーゲン、アルギン酸Na等を用いることができる。市販のマトリックス材料(例えばマトリゲル(Becton Dickinsonの登録商標))を用いることもできる。好ましくは、検出感度の向上等を図るため(詳細は後述する)、ゲル材料としてフィブリンゲルを採用する。フィブリンゲルとはフィブリンをマトリックス成分としたゲル材料である。例えば、フィブリン糊、PRP(Platelet-rich Plasma)ゲル、CGF(concentrated growth factors)等のフィブリンゲルを用いることができる。 フィブリンゲルは、典型的には、カルシウムイオンの存在下でトロンビンをフィブリノゲンに作用させることによって調製される。プラスミンによるフィブリンの分解を防止するために、アプロチニンを添加するとよい。 PRPゲルとは、PRPをゲル化した材料であり、例えば以下の手順で調製される。まず、生体から分離された血液から多血小板血漿(PRP)を調製する。PRPは例えば、Whitmanらの方法(Dean H. Whitman et al.:J Oral Maxillofac Surg,55,1294-1299 (1997))に準じて、採取した血液を遠心分離処理に供することにより調製することができる。PRPはPlatelet-derived Growth Factor(PDGF)、Transforming growth factorβ1(TGF−β1)、Transforming growth factor β2(TGF−β2)等の成長因子を豊富に含むことが知られている(Jarry J. Peterson:Oral surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod,85,638-646(1998))。PRPは日赤PC(濃厚血小板)採取法に準じて調製することができる。PRPの調製方法の具体例を以下に示す。まず、採取した血液にクエン酸ナトリウム等の凝固防止剤を添加し、室温で所定時間放置する。その後、血球及び軟膜が分離する条件(例えば約1,100rpmで約10分間)で遠心処理する。これにより2層に分離される。上層を採取した後、更に約2,500rpmで約10分間、遠心処理する。その結果得られた画分(Platelet-rich Plasma:PRP)を採取する。PRPの調製方法は当該方法に限定されるものではなく、必要に応じて修正を加えた方法により調製することができる。以上のようにして調製したPRPとトロンビン溶液をカルシウムイオン存在下で混合し、ゲル化させる。 ステップ(1)に続くステップ(2)では、用意した培養面に血液サンプルを播種した後、インキュベートする。この操作によって、血液サンプル中にCTCが存在すれば、それが分泌するウロキナーゼがウロキナーゼ特異的基質に作用し、特定のシグナルが生ずることになる。 ステップ(2)として、例えば、血液サンプルを播種した後、培地が添加され、インキュベートを開始する。予め培地で希釈しておいた血液サンプルを播種することにしてもよい。インキュベート条件は、例えば、5% CO2、温度37℃付近とする。また、インキュベート時間は特に限定されないが、例えば30分以上(具体的には30分〜2時間)である。インキュベートの途中で一又は複数回の培地交換を行うことにしてもよい。 インキュベートに使用する培地は、CTCの生存、増殖に適したものであれば特に限定されない。培地の例を挙げると、血清又は血清代替物を添加したRPMI1640培地、ダルベッコ変法イーグル培地(D-MEM: Dulbecco's modified Eagle medium)等である。 血液サンプルとしては、全血の他、不要成分の除去及び/又はCTCの濃縮を目的とした前処理後の血液サンプルなどを用いることができる。ここでの前処理として、緩衝液や生理食塩水等での希釈、遠心処理、並びに血漿層及びバッファー層の除去、からなる一連の処理を例示することができる。 好ましくは、血液サンプルを播種したときにサンプル中の細胞が凝集することなく分散した状態になるように、適度な濃度(細胞密度)に希釈した血液サンプルを用いる。このように細胞密度を予め調整しておけば、例えばシグナルの検出精度の向上を図ることができる。最適な希釈率は予備実験を通して決定すればよい。使用する血液サンプルの種類、インキュベート条件等によって最適な希釈率は変動し得るが、予備実験によって容易に設定可能である。尚、血液サンプルを調製するにあたっての採血の際には、凝固防止剤(例えばヘパリンやEDTAなどのキレート剤)を使用するとよい。 ステップ(2)に続くステップ(3)では、ウロキナーゼ特異的基質由来のシグナルを検出する。CTCが存在する位置の培養面では、CTC由来のウロキナーゼがウロキナーゼ特異的基質に作用し、固有のシグナルが生ずる。このステップでは、当該シグナルの検出結果に基づき、サンプル中にCTCが存在するか否か、及び/又はサンプル中のCTCの数(存在量)を判定・評価する。 分解されたウロキナーゼ特異的基質の量は、サンプル中のCTCの数(存在量)に依存する。一方、シグナル強度は分解されたウロキナーゼ特異的基質の量を反映する。従って、シグナル強度の測定結果に基づき、サンプル中のCTCの数(存在量)を推定することができる。ステップ(2)において、適度な濃度に希釈した血液サンプルを使用すれば、シグナルを生ずる位置の数(例えば蛍光性基質を用いた場合には蛍光ドットの数)から血液サンプル中のCTCを計数することも可能である。 本発明では、培養面をゲル材料で構成し、且つゲル材料にウロキナーゼ特異的基質を内包させていることから、CTC由来のウロキナーゼにより分解されたウロキナーゼ特異的基質(即ち、シグナルの発生源)の拡散が抑制される。これにより、検出感度や検出精度の向上などが達成される。ゲル材料としてフィブリンゲルを用いた場合にあっては、CTCが存在する位置のゲル材料がウロキナーゼの作用に起因して溶解し、CTCと培養面(ゲル材料)の接触面積が増大する。これに伴い、ゲル材料内のウロキナーゼ特異的基質にウロキナーゼが作用し易くなり、或いは作用効率が上昇し、検出感度の向上がもたらされ得る。 ステップ(3)におけるシグナルの検出は常法で行えばよい。即ち、ウロキナーゼ特異的基質として蛍光性基質を用いた場合には、例えば、蛍光検出器で蛍光を検出すればよい。同様に発色性基質を用いた場合には、例えば、目視あるいは吸光度検出器で吸光度(呈色)を検出すればよい。 シグナルの検出の前に、不要成分の除去などのために洗浄処理を行ってもよい。典型的には、洗浄処理として、培地を除去した後、培地又は緩衝液等を添加する。この一連の操作を複数回(例えば2〜5回)繰り返すことにしてもよい。このような洗浄処理は検出感度の向上に有効である。培養面を構成するゲル材料としてフィブリンゲルを採用すれば、ステップ(2)のインキュベートによって、CTC由来のウロキナーゼがゲル材料を溶解し、CTCと培養面の間の保持力が高まることから、洗浄処理に伴うCTCのロスを防止することができる。これによって検出感度や信頼性の更なる向上がもたらされる。 本発明の一態様ではシグナルの検出後にCTCを回収する。具体的にはステップ(3)の後に以下のステップ(4)を行う。 (4)培養面上の循環腫瘍細胞を回収するステップ 具体的な回収方法として以下の2種類の方法を例示できる。即ち、培養面からCTCを物理的方法(例えばセルスクレーパーを使用)及び/又は酵素学的方法(例えばディスパーゼやトリプシンを使用)で剥離/分離した後にCTCを回収する方法と、培養面を構成するゲル材料を分解した後にCTCを回収する方法である。ゲル材料の分解には、例えば、ゲル材料を分解可能な酵素を利用できる。ゲル材料を分解可能な酵素は特に限定されない。例えばゲル材料としてフィブリンゲルを採用した場合には、ウロキナーゼ、プラスミン、ナットウキナーゼを用いることができる(図8を参照)。 好ましくは、不要成分の除去等を目的としてステップ(4)の前に洗浄処理を行う。典型的には、洗浄処理として、培地を除去した後、培地又は緩衝液等を添加する。この一連の操作を複数回(例えば2〜5回)繰り返すことにしてもよい。このような洗浄処理を伴う場合には、培養面を構成する材料としてフィブリンゲルを採用することが好ましい。上述の通り、培養面を構成するゲル材料としてフィブリンゲルを用いるとCTCと培養面の間の保持力が高まり、洗浄処理に伴うCTCのロスを防止できる。培養面をフィブリンゲルで構成した場合の回収操作として、「洗浄処理、ウロキナーゼ処理、ピペッティングによる細胞の懸濁、細胞懸濁液の採取からなる一連の操作」を例示することができる。尚、回収後のCTCは必要に応じて精製される。精製には例えば遠心処理、限外ろ過、FACS等が用いられる。 EpCAMを発現していないCTCの検出も可能なCTC検出法の開発を目指して研究進める中で、がん細胞がウロキナーゼ(uPA)とその受容体(uPAR)を発現している事実(非特許文献5、6等を参照)に着目し、以下の原理に基づく新規検出法の有効性を検討した。1.検出原理 CTCの分泌するタンパク分解酵素(ウロキナーゼ)によって特異的に分解されるゲル(フィブリンゲル)を用いる。この原理を図1に模式的に示す。CTCは、タンパク分解酵素を分泌することでゲルを溶解してウェルを作製し、トラップされると考えられる(図1参照)。これに対して血球細胞は当該酵素を持たないため、ゲル表面を洗浄することで洗い流すことができる(即ち、分離が可能になる)。また、ウロキナーゼ特異的蛍光基質をゲル内に含有させておくことにより、CTCが産生するウロキナーゼによって蛍光基質が特異的に分解され蛍光を発する。従って、蛍光の検出によってCTCの検出が可能と考えられる。2.実験方法(1)マイクロチップの用意 この実験で用いたマイクロチップ(図2)は以下の手順で作製した。シリコン基板上(3インチ、株式会社クリテック)に塗布したSU-8 3050(日本化薬)をスピンコーター(スピンコーター:IF-D7 ミサカ)で、5秒間かけて500 rpmまで加速した後、当該回転数で10秒間維持した。この後、1300 rpmになるまで2.67秒かけて加速し、1300 rpmの状態を27.33秒間維持して80 μmの厚さとした。続いて、95℃で45分間加熱してソフトベークし、常温で5分間放置した後、紫外光露光装置(M-1S80S ミサカ)により、予め作製したマイクロチップデザイン(図3)のフォトマスク(生協印刷部)を用いてパターニングした。このパターニングしたシリコン基板上のSU-8を再び9℃で5分間加熱後、常温で5分間放置した。最後の工程として、このSU-8をSU-8 Developer(日本化薬)を用いて現像した。具体的には、少量のSU-8 Developer中に基板を浸漬して15分間振とうし、現像を行った。なお、現像後はSU-8 Developerですすいだ後にイソプロピルアルコール(WAKO)ですすいだ。このようにして得られたモールドを、Trichloro(1H, 1H, 2H, 2H-perfluorooctyl)silane(SIGMA-ALDRICH)を少量加えたチャンバー内で3時間放置して、モールド表面をシラン化した。このモールド上にPDMS(SILPOT 184 Dow corning)と硬化剤(Catalist SILPOT 184 Dow corning)を重量比10:1で混合したものをミキサー(ARE-310, THINKY)で混合、脱気したものを流し込み、2時間90℃で硬化させた。このモールドにUni core(Ted pella)を用いて1mmの穴をあけたものを、プラズマエッチング装置(SEDE-PFA メイワフォーシス)によって5 mA、40秒間の条件で処理した後、ガラス板(25×60mm C024601 松浪)に張り付けた。 ゲルのタンパク質の固定化を強固にするため及びゲル溶液のムラを減らすために、マイクロチップのチャネル内は3-Aminopropyltriethoxysilane, APTS(SIGMA-ALDRCH)によってアミノ基で修飾した。この処理によれば、APTSによってチャネル表面が正電荷を帯びることで、等電点が負(pI 5.5)のタンパク質であるフィブリノゲンが吸着しやすくなると考えられる。APTSを利用すると、エトキシ基が加水分解してヒドロキシル基となり、チャネル表面のヒドロキシル基と縮合することでチャネル表面をアミノ基で修飾することができる。APTSを純水(Milli-Q水)に5%の濃度になるように溶解し、マイクロチャネル内に気泡が入らないように導入して20分間室温で放置した。その後、純水を導入して1分間放置することでチャネルを洗浄した後、50℃のホットプレート上で1時間放置して乾燥させた。 以上の方法でアミノ化したチャネルに対して以下の手順でゲルを導入した。ウシ血漿由来フィブリノゲン(Fibrinogen from bovine plasma)(SIGMA) 10 mgをPBS(和光純薬工業株式会社)950μlに溶解した後、ペプチドゲン3097-V GLT-GLY-ARG-MCA(ペプチド研究所)をDMSO(SIGMA)で溶解して作製した20 mg/mlの溶液50μlを加えて、よくピペッティングした。このゲル溶液20μlに対して0.2 mg/mlのウシ血漿由来トロンビン(Thrombin from bovine plasma)(SIGMA) PBS溶液1μlを加えてよくピペッティングした。このようにして調製した溶液10μlをピペットにとり、マイクロチップのチャネルのインレット部へ差し込んだ後、もう一方からシリンジポンプで吸引してゲル溶液を導入した(5μl/分)。この状態で2分間放置してから再びゲル溶液を吸い出すことでチャネル内部をゲルでコートした。また、使用前には30分放置して溶液をゲル化させた。(2)血球とCTCの混合溶液をサンプルとした検出(図4) CTCモデル細胞(EpCAMネガティブなH1299細胞)と10000倍希釈の全血を混合した溶液をサンプルとした。全血の希釈にはPBSを用い、CTCモデル細胞の希釈には培養液を用いた。サンプルをチャネル内に導入してCO2インキュベータ内で30分放置した後、蛍光を観察した。CTCモデル細胞の位置の確認のため、Celltracker(タカラバイオ)をDMSOに1 mg/mlになるよう溶解した溶液を、細胞懸濁液に1μMになるよう添加して暗所で30分放置することでCTCを予め染色しておいた。Celltrackerでの蛍光は488 nmの励起光で、蛍光基質の蛍光は380 nmの励起光でそれぞれ観察を行った。なお、観察の際には倒立型蛍光顕微鏡(CKX41 オリンパス)、冷却型カラーカメラ(Retiga2000R)を用いて画像を所得した。また、撮影には位相差対物レンズ40倍(LCACHN40XPHP)を用いた。 並行して、別のCTCモデル細胞株(Hcc827細胞)についても実験を行った。なお、Hcc827細胞はEpCAMポジティブな肺小胞がん由来のがん細胞である。この際、同様の細胞濃度及びインキュベート時間で蛍光を観察した。この実験では正立型蛍光顕微鏡(エクリプス E800 Nikon)及びCCDカメラ(C2400-08 HAMAMATSU)を用いて画像を所得した。撮影には対物レンズ20倍(Plan Fluor 20x/0.45 ELWD Nikon)を用いた。(3)血球とCTCの分離 CTCの検出と併せて、血球の分離も可能であるか調べることにした。この実験では、全血を1000倍に希釈した溶液に1.0×105 cells/mlになるようにH1299細胞を導入した溶液をサンプルとした。サンプル溶液の作製時は、6.6×102倍になるように全血をPBSで用いて希釈した溶液と、3.0×105 cells/mlのH1299細胞懸濁液(培養液に懸濁)を2:1で混合した。なお、インキュベーションは5時間、CO2インキュベータ内で放置することで実験を行った。3.結果(1)血球、CTC(H1299細胞およびHcc827細胞)混合溶液での検出 蛍光検出の結果を図5に示す。撮影倍率はすべて40倍のレンズを用いている。図5に示す通り、血球細胞については蛍光基質の蛍光が見られず、CTCモデル細胞(H1299細胞)のみ(矢印で示した中央の円)が蛍光していることが確認できた。CTCとしてHcc827細胞を用いた場合も同様の結果が得られた。(2)EpCAMポジティブCTCとEpCAMネガティブCTCの比較 EpCAMポジティブな肺小胞がん由来のがん細胞であるHcc827細胞を単独で含むサンプルを用いて蛍光の検出を試みたところ、1時間のインキュベーションで蛍光を確認することができた(図6上)。EpCMAネガティブCTC(H1299細胞)についても蛍光の検出が可能であった(図6下)。(3)血球の分離 全血中にCTCモデル細胞(H1299細胞)を導入したサンプルで実験を行った。洗浄流速は5μl/分とした。CTCモデル細胞はチャネル内にトラップされており血球細胞は洗浄されていることが確認できたため(図7)、CTCモデル細胞と血球細胞の分離に成功したといえる。尚、約80%もの高い捕捉率でH1299細胞を回収可能であった(データ示さず)。また、EpCAMポジティブなHcc827細胞を用いた場合も同等以上の捕捉率を達成した(データ示さず)。4.まとめ(1)CTC自身の分泌するタンパク分解酵素を利用した新たなCTC検出法、即ち、ウロキナーゼ特異的蛍光基質由来の蛍光を指標としたCTC検出法の開発に成功した。(2)このCTC検出法によれば、EpCAMポジティブCTC、EpCAMネガティブCTCのいずれについても特異的に検出できることが確認された。(3)フィブリンゲルを利用すれば、血球細胞を選択的に洗浄除去し、CTCを選択的に捕捉(トラップ)、回収することができた。即ち、CTCの検出と同時にCTCの回収も可能であることが示された。 本発明の検出方法によれば、簡便な操作によってCTCを検出することができる。操作の簡便化によって測定時間を短縮することもでき、また、キット化にも適する。一方、特に重要なことは、EpCAMの発現状態に依存しない本発明の検出方法によれば、CTCを検出できることから、従来法(EpCAMを利用したCTCの濃縮・回収を伴う方法)に比較して、血中のCTC数をより正確に測定することができる。即ち、正確性ないし精度に優れた検出結果がもたらされる。このように様々な利点を有する本発明は、CTCの存在量に基づく各種診断用のツールとして利用されることが期待される。 この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。 以下のステップ(1)〜(3)を含む、循環腫瘍細胞の検出方法: (1)ウロキナーゼ特異的基質を含有するゲル材料からなる培養面を用意するステップ; (2)前記培養面に血液サンプルを播種した後、インキュベートするステップ;及び (3)前記ウロキナーゼ特異的基質由来のシグナルを検出するステップ。 前記ウロキナーゼ特異的基質が、ウロキナーゼ特異的蛍光基質である、請求項1に記載の検出方法。 前記ゲル材料がフィブリンゲルである、請求項1又は2に記載の検出方法。 前記血液サンプルが全血からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の検出方法。 ステップ(3)の後に、以下のステップ(4)を行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の検出方法: (4)培養面上の循環腫瘍細胞を回収するステップ。 【課題】EpCAMネガティブな循環腫瘍細胞も検出できるCTC検出手段を提供することを課題とする。【解決手段】以下のステップ、即ち、(1)ウロキナーゼ特異的基質を含有するゲル材料からなる培養面を用意するステップ;(2)前記培養面に血液サンプルを播種した後、インキュベートするステップ;及び(3)前記ウロキナーゼ特異的基質由来のシグナルを検出するステップを含む、循環腫瘍細胞の検出方法が提供される。【選択図】なし