タイトル: | 公開特許公報(A)_アデノ随伴ウイルスを用いた脳ニューロンへの遺伝子導入方法 |
出願番号: | 2012164886 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 35/76,A61K 48/00,A61P 25/00,A61K 38/00 |
岡戸 晴生 平井 志伸 三輪 昭子 JP 2014024773 公開特許公報(A) 20140206 2012164886 20120725 アデノ随伴ウイルスを用いた脳ニューロンへの遺伝子導入方法 公益財団法人東京都医学総合研究所 591063394 小林 浩 100092783 大森 規雄 100120134 丸山 智裕 100181168 鈴木 康仁 100104282 岡戸 晴生 平井 志伸 三輪 昭子 A61K 35/76 20060101AFI20140110BHJP A61K 48/00 20060101ALI20140110BHJP A61P 25/00 20060101ALI20140110BHJP A61K 38/00 20060101ALN20140110BHJP JPA61K35/76A61K48/00A61P25/00A61K37/02 6 OL 10 4C084 4C087 4C084AA02 4C084AA13 4C084MA66 4C084NA14 4C084ZA021 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC83 4C087MA66 4C087NA14 4C087ZA02 本発明は、アデノ随伴ウイルスを用いた脳ニューロンへの遺伝子導入方法に関する。 脳のニューロンに外来遺伝子を導入する方法としては、これまでに、成体マウスではアデノウイルス(非特許文献1:Le Gal La Salle et al., Science 1993 Feb 12;259(5097):988-90)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(非特許文献2:Kaplitt MG et al., Nat Genet. 1994 Oct;8(2):148-54)又はレンチウイルス(非特許文献3:Naldini L et al.,Science 1996 Apr 12;272(5259):263-7)を脳実質に投与し、外来遺伝子を局所的に導入する方法が報告されている。また、胎児マウスでは、アデノウイルスを胎児の脳室に投与する方法(非特許文献4:Hashimoto & Mikoshiba, J Neurosci. 2004 Jan 7;24(1):286-96)、プラスミドを胎児の脳室に注入し、電圧をかける子宮内電気穿孔法 (非特許文献5:Tabata H, Nakajima K, Neuroscience. 2001;103(4):865-72)が知られている。 しかしながら、脳実質にウイルスを投与する方法は、局所的に遺伝子を導入することができるに過ぎず、単回投与により広範囲にわたって脳に遺伝子を導入することはできなかった。また、アデノウイルス又はプラスミドを胎児の脳室に投与する方法は、ウイルス又はプラスミドを投与する前に既にニューロンに分化した細胞、例えば大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳のニューロンには、外来遺伝子を導入することはできなかった。Le Gal La Salle et al., Science 1993 Feb 12;259(5097):988-90Kaplitt MG et al., Nat Genet. 1994 Oct;8(2):148-54Naldini L et al., Science 1996 Apr 12;272(5259):263-7Hashimoto & Mikoshiba, J Neurosci. 2004 Jan 7;24(1):286-96Tabata H, Nakajima K, Neuroscience. 2001;103(4):865-72 本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳などの脳組織のニューロンを含む、脳を構成する広範なニューロンに目的遺伝子を単回投与で導入する方法を提供することにある。 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)をマウス胎児の脳室内に投与することにより、投与時に既に分化したニューロンを含む、脳を構成する広範なニューロンに目的遺伝子を単回投与で導入することができることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。(1)哺乳動物の脳室内に遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを投与する工程を含む、脳のニューロンに目的遺伝子を導入する方法。(2)哺乳動物が非ヒト哺乳動物である、上記(1)に記載の方法。(3)脳のニューロンが、大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳からなる群から選択される少なくとも1種の脳組織のニューロンである、上記(1)又は(2)に記載の方法。(4)脳のニューロンが、大脳新皮質の深層、線条体、海馬、嗅球及び小脳からなる群から選択される少なくとも1種の脳組織のニューロンである、上記(1)又は(2)に記載の方法。(5)哺乳動物が胎児である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。(6)遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを含み、哺乳動物の脳室内に投与されることを特徴とする、脳疾患の治療用医薬組成物。 本発明により、大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳などの脳組織のニューロンを含む、脳を構成する広範なニューロンに単回投与で目的遺伝子を導入することができる。GFP発現AAVの投与から1ヶ月後の大脳におけるGFP発現を検出した結果を示す図である。A及びB: 新皮質の深層ニューロンにおける結果を示す。C-E:海馬CA1-CA3ニューロンにおける結果を示す。F:歯状回ニューロンにおける結果を示す。GFP発現AAVの投与から1ヶ月後の小脳における結果を示す図である。A及びC:プルキンエ細胞におけるGFP発現を検出した結果を示す。B及びD:核染色の結果を示す。E:AとDとを融合した画像を示す。GFP発現AAVの投与から4ヶ月後の大脳及び小脳におけるGFP発現を検出した結果を示す図である。 以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。1.概要 本発明は、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを用いて、哺乳動物の脳のニューロンに目的遺伝子を導入する方法に関する。 従来より、脳のニューロンに目的遺伝子を導入する方法は知られていたが、従来の方法では、遺伝子組換えウイルス又はプラスミドを投与する前に既にニューロンに分化した細胞、例えば大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系、小脳などのニューロンには、外来遺伝子を単回投与により導入することはできなかった。 これに対し、本発明者は、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスをマウス胎児の脳室内に投与することにより、投与時に既にニューロンに分化した細胞を含む、脳を構成する広範なニューロンに目的遺伝子を単回投与により導入することができることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明の方法により、従来の方法では遺伝子導入が困難であった脳組織のニューロンに対し、目的遺伝子を単回投与により導入することができるため、本発明は神経科学的研究及び遺伝子治療において極めて有用である。2.遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科の一属に分類され、直径20nmの一本鎖DNAウイルスである。AAVは、自己増殖能はなく、増殖はヘルパー依存性でアデノウイルスやヘルペスウイルスとの混合感染を必要とする。他方、単独で感染した場合は、潜伏感染する。AAVはアデノウイルスに比べ、免疫原性が非常に低く、また病原性がないため、ヒトの遺伝子治療にも応用することができる。また、AAVは物理的封じ込めレベルがP1であるため、実験においても扱いが容易である。AAVは、目的遺伝子の発現ベクターとして使用されており、目的遺伝子を核内において安定的に発現することができる。 本発明においては、遺伝子組換えAAVを目的遺伝子の発現ベクターとして使用することにより、従来技術では遺伝子を導入することができなかった脳組織のニューロンに遺伝子を導入することができる。 本発明に使用される遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスは、限定されるものではなく、当業者であれば公知の方法に基づいて作製することができる(Samulski RJ, et al., J Virol 1989; 63: 3822-8; Noro T, et al., Cancer Res. 2004 Oct 15; 64(20):7486-90.)。例えば、本発明の遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスは、以下の方法により作製することができるが、この方法に限定されるものではない。 まず、目的遺伝子を含むAAVベクタープラスミドとAAVヘルパープラスミドとアデノヘルパープラスミドとを、リン酸カルシウム法など公知の方法によりヒト胎児腎臓由来細胞であるA293細胞に形質導入し、培養する。次に、培養上清、あるいは培養細胞を採取し、培養細胞の場合は凍結融解ののちその上清を、CsCl密度勾配超遠心法により分画し、透析した後で濃縮することにより、目的遺伝子を発現する遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを得ることができる。ウイルスの力価はQ-PCR法などを用いて決定することができる。 遺伝子組換えAAVウイルスに含まれる目的遺伝子は、限定されるものではなく、その使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ニューロンを標識する場合は標識タンパク質を発現する遺伝子を選択することができ、脳における疾患を治療する場合は脳疾患の治療用遺伝子を選択することができる。標識タンパク質は、限定されるものではなく、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP、EGFP)、青色蛍光タンパク質(CFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、近赤外光蛍光タンパク質、DsRedタンパク質(DsRed1、DsRed2)などが挙げられ、目的の蛍光を発するタンパク質である限り、これらの変異体であってもよい。また、治療用遺伝子としては、例えば、脊髄小脳変性疾患の原因とされているアタキシン変異体を分解する機能を有する核酸、例えばshRNA、あるいは正常なアプラタキシン(aprataxin(APTX))タンパク質をコードする遺伝子、脳腫瘍の増殖を抑制する遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。3.遺伝子導入方法 本発明は、哺乳動物の脳室内に遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを投与することにより、目的遺伝子を脳のニューロンに導入する方法である。 本発明の方法は、従来の方法では目的の遺伝子を導入することができなかった脳組織のニューロンに単回投与により遺伝子を導入することができる。 従来技術である子宮内電気穿孔法は、電気穿孔操作を施す必要があるため、遺伝子導入の時期が制限される。具体的には、子宮内電気穿孔法を用いた場合、その操作上の理由から、ウイルス投与時のマウス胎児の胎齢は11日(E11)以後であり、E11より前に既にニューロンに分化した細胞に目的遺伝子を導入することは困難である。これに対し、AAVを用いる本発明の方法は、電気穿孔操作を施す必要がないため、遺伝子導入の時期は制限されない。そのため、子宮内電気穿孔法では遺伝子導入が困難なE11以前にニューロンに分化した細胞に対しても、目的遺伝子を導入することができる。 また、別の従来技術であるアデノウイルスを用いる方法は、ウイルス投与時に既にニューロンに分化した細胞に対しては目的遺伝子を導入することが困難である。これに対し、本発明の方法は、ウイルス投与時に既にニューロンに分化した細胞に対しても目的遺伝子を導入することができる。 すなわち、本発明の方法は、従来技術では遺伝子導入が困難であったニューロンに対し、遺伝子導入を行うことができる。特に、大脳新皮質で最も早期に生じるグルタミン作動性のニューロンは、従来技術では遺伝子導入が困難であったが、本発明の方法を胎齢13.5日(E13.5)の胎児に適用することにより、このニューロンへの遺伝子導入が可能となる。他方、本発明の方法を、より後期、例えば、胎齢17.5日(E17.5)の胎児に適用することにより、新皮質の深層及び浅層にわたるグルタミン作動性のニューロンに遺伝子導入し、標識することも可能となる。従って、本発明の方法は、神経科学研究において有用であるばかりではなく、疾患モデル動物の作製においても有用である。 本発明において、遺伝子導入の対象となる哺乳動物は、ヒト又は非ヒト哺乳動物であり、非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギなどのげっ歯類、サル、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマなどが挙げられる。 哺乳動物は、胎児、新生児、成体のいずれであってもよいが、胎児が好ましい。また、哺乳動物が胎児である場合、当該哺乳動物はウイルス投与時に胎児であればよく、その後に新生児及び成体になってもよい。ウイルス投与時の胎児の胎齢は、限定されるものではなく、哺乳動物の種類や遺伝子導入の目的に応じて適宜選択することができる。哺乳動物がマウスである場合、ウイルス投与時の胎児の胎齢としては、例えば13.5日(E13.5)〜17.5日(E17.5)、好ましくはE13.5、E15.5、E17.5が挙げられるが、これらに限定されるものではない。 本発明において、「脳のニューロン」における「脳」には、大脳、間脳、中脳、小脳、橋、延髄などの全ての脳組織(脳領域)が含まれるが、好ましくは大脳及び小脳である。また、本発明において、大脳には皮質、大脳基底核及び大脳辺縁系が含まれる。大脳皮質には新皮質が含まれ、大脳基底核には線条体が含まれ、大脳辺縁系には海馬(歯状回を含む)及び嗅球が含まれる。大脳新皮質は6層構造を有し、浅層及び深層に分類することができる。前記6層構造のうち、浅層は第2層から第4層を指し、深層は第5層及び第6層を指す。胎児期において、脳室帯で生じた(誕生した)ニューロンの前駆細胞は、まず新皮質の第6層を形成し、次に第5層、第4層というように、深層から浅層の順に層を形成する。すなわち、新皮質の発生初期に生じ、分化したニューロンは新皮質の深層に、遅い時期に生じたニューロンは新皮質の浅層に配置されることになる。 従って、従来技術であるアデノウイルスの脳室内投与による遺伝子導入方法(Hashimoto & Mikoshiba, J. Neurosci., 2004, 24(1): 286-296)では、投与時に既にニューロンに分化した細胞には目的の遺伝子を導入することができないため、新皮質の深層ニューロンに目的の遺伝子を導入することはできない。これに対し、本発明の方法は、投与時に既にニューロンに分化した細胞にも目的の遺伝子を導入することができるため、新皮質の深層ニューロンに目的の遺伝子を導入することができる。また、同様の理由で、従来技術では線条体、海馬及び嗅球などに目的遺伝子を導入することができないのに対し、本発明の方法では線条体、海馬及び嗅球などに目的遺伝子を導入することができる。 また、本発明において、小脳には小脳皮質が含まれる。小脳皮質にはプルキンエ細胞が存在している。本発明の方法は、目的遺伝子を極めて高い導入効率でプルキンエ細胞に導入することができる。 本発明において、「分化したニューロン」又は「ニューロンに分化した細胞」とは、ニューロン前駆細胞からニューロンへの分化が完了した細胞をいい、ニューロンとしての機能を発揮している細胞をいう。 本発明の方法は、哺乳動物の脳室内に遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを投与する工程を含む、脳のニューロンに目的遺伝子を導入する方法である。本発明の方法は、例えば以下のようにして実施することができるが、これに限定されない。 まず、目的遺伝子を含む遺伝子組換えAAVを調製する。その調製方法は上記の通りであり、当業者であれば容易に行うことができる。次に、任意の方法で哺乳動物の脳室内に遺伝子組換えAAVを投与する。脳室内への投与手法は、本発明のウイルスを脳室内に注入することができる方法であれば、限定されるものではない。例えば、ガラスキャピラリーから作製したガラスピペットや、市販されているシリンジを用いて、ウイルスを脳室内に投与してもよい。遺伝子組換えAAVは、単独で投与してもよいし、それを含む組成物の形態で投与してもよい。投与対象の哺乳動物が胎児である場合は、まず、妊娠している動物を麻酔し、開腹し、子宮を確保する。次に、子宮壁越しに子宮内胎児の脳室に投与する。投与後に閉腹し、保温する。 ウイルスの投与量は、哺乳動物の種類、年齢(胎齢)、大きさ、体重、投与目的、遺伝子の発現量等により異なるが、例えば哺乳動物がマウス胎児で胎齢がE15.5の場合、ウイルスの投与量(約1μl)は、例えば1x1010〜2x1010vg/μl、好ましくは2x1010〜1x1011 vg/μlである。上記「vg」は「viral genome」を示す。 ウイルスを投与する部位は、哺乳動物の脳室内であるが、より好ましくは側脳室内、さらに好ましくは片側側脳室内である。これにより、単回投与で広範な脳領域に目的遺伝子を導入することができる。4.医薬組成物 本発明は、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを哺乳動物の脳室内に投与することにより、脳の広範なニューロンに目的遺伝子を導入することができる。そのため、目的遺伝子として脳疾患の治療用遺伝子を使用することにより、脳疾患の遺伝子治療が可能となる。すなわち、本発明は、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを含み、哺乳動物の脳室内に投与されることを特徴とする、脳疾患の治療用医薬組成物を提供する。 また、本発明においては、哺乳動物の胎児の脳のニューロンに治療用遺伝子を導入することができるため、胎児遺伝子治療が可能である。例えば、脊髄小脳変性疾患のうち頻度の高い優性遺伝疾患であるマシャド・ジョセフ病は、アタキシンの変異蛋白が原因の常染色体異常であるが、羊水検査でアタキシン遺伝子の変異が検出された場合、この有害なアタキシン変異体を分解する機能を有する核酸、例えばshRNAを発現するAAVを胎児脳室に注入することで、遺伝子治療を行なうことが可能となる。また、脊髄小脳変性疾患のうち劣性遺伝疾患である、aprataxin (APTX) 蛋白の機能喪失が原因で発症する早発性失調症(アプラタキシン欠損症)が胎児期に判明した場合、正常なアプラキシンを発現するAAVを胎児脳室に投与することにより、発症を予防することが可能となる。 本発明の医薬組成物は、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスのみを含むものであってもよいし、添加剤を含むものであってもよい。当該添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤などが挙げられる。これらを単独又は適宜組み合わせ、定法により本発明の医薬組成物を製造することができる。本発明に使用される遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスについての説明は上記「2.遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス」と同様である。 本発明の医薬組成物は、哺乳動物の脳室内に投与されることを特徴とするものである。「哺乳動物」、「脳室内」及び投与方法についての説明は上記「3.遺伝子導入方法」と同様である。 本発明の治療対象となる脳疾患としては、例えば、脊髄小脳変性症が挙げられる。また、治療用遺伝子としては、例えば、アタキシン変異体を分解する機能を有する核酸(例えばshRNA)、正常なアプラキシンタンパク質をコードする遺伝子などが挙げられる。 以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの作製 目的遺伝子を搭載したAAVベクタープラスミドとして、EGFP遺伝子を含むCAGS-EGFPTNA(SF) AAVベクターを用い、AAVヘルパープラスミドとしてpHelperを用い、アデノヘルパープラスミドとしてType 9 パッケージングプラスミド(pAAV2/9)(血清9型)を用いた。これらは全て日本医科大学の三宅博士より提供を受けた(Noro T, et al., Cancer Res. 2004 Oct 15; 64(20):7486-90.)。 まず、CAGS-EGFPTNA(SF) AAVベクター、pHelper、Type 9 パッケージングプラスミド(pAAV2/9)を、リン酸カルシウム法を用いて293A細胞にトランスフェクションし、その上清を、CsCl密度勾配超遠心法を用いて分画した。さらにCsCl密度勾配超遠心法を用いて分画し、透析した後で濃縮し、EGFPを発現する遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを得た。タイターはQ-PCR法を用いて決定した。1.脳のニューロンへの遺伝子導入 遺伝子組換えAAVベクターとして、実施例1で作製したEGFP発現AAVベクターを用いた。 脳への遺伝子導入は以下のようにして行った。 まず、妊娠マウス(ICR)をネンブタール腹腔内投与で麻酔し、開腹し、子宮を確保した。次に、ガラスキャピラリーから作製したピペットを用いて、GFP発現AAVベクターを、子宮壁越しに子宮内のE15.5の胎児の片側側脳室に刺入し、1μl程度注入した。注入後に閉腹し、保温した。2.GFPの検出 マウス胎児への上記ベクター投与から1ヶ月後及び4ヶ月後に、ペントバルビタール麻酔の後、4%パラホルムアルデヒド、0.2%ピクリン酸(PBS)で灌流固定した。抜脳し、後固定(2時間)した後、15%シュークロース/PBSで置換した。凍結ミクロトームで50μm厚に切片を作製し、PBS中に浮遊させ、4℃で保存した。DAPI/Topro3による核染色の後、パーマフローを用いて封入した。あるいは、チキンで作製した抗GFP抗体(一次抗体)、抗チキンAlexa488ラベルIgG(2次抗体)で染色し、DAPI/Topro3を用いて核染色をした後、同様に封入した。共焦点レーザー顕微鏡(オリンパスFV500)または蛍光顕微鏡(Keyence Biorevo7000)にて画像を取得した。3.結果 GFP発現AAVベクターのマウス胎児への投与から1ヶ月後の結果を図1及び2に示し、4か月後の結果を図3に示す。 図1に示されるように、新皮質の深層ニューロン(図1A及びB)、海馬CA1-CA3ニューロン(図1C-E)及び歯状回ニューロン(図1C及びF)において、GFPの発現が認められた。スケールバー:0.5mm(図1A及びC);0.1mm(図1B,D-F)。 また、図2に示されるように、小脳皮質のプルキンエ細胞において、GFPの発現が認められた。特に、核染色の結果から、GFP遺伝子が極めて高い導入効率でプルキンエ細胞に導入されていることが示された。スケールバー:0.1 mm。 さらに、図3に示されるように、GFP発現AAVベクターのマウス胎児への投与から4ヶ月後においても、新皮質の深層、海馬、嗅球、小脳を含む広範な脳領域において、GFPの発現が認められた。 これらの結果から、本発明の方法により、大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳などの脳組織のニューロンを含む、脳を構成する広範なニューロンに目的遺伝子を単回投与で導入することができることが示された。 本発明の方法は、大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳などの脳組織のニューロンを含む、脳を構成する広範なニューロンに単回投与で遺伝子を導入することができる。従って、本発明の方法は、神経科学的研究及び遺伝子治療において有用である。 哺乳動物の脳室内に遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを投与する工程を含む、脳のニューロンに目的遺伝子を導入する方法。 哺乳動物が非ヒト哺乳動物である、請求項1に記載の方法。 脳のニューロンが、大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳からなる群から選択される少なくとも1種の脳組織のニューロンである、請求項1又は2に記載の方法。 脳のニューロンが、大脳新皮質の深層、線条体、海馬、嗅球及び小脳からなる群から選択される少なくとも1種の脳組織のニューロンである、請求項1又は2に記載の方法。 哺乳動物が胎児である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを含み、哺乳動物の脳室内に投与されることを特徴とする、脳疾患の治療用医薬組成物。 【課題】大脳新皮質の深層、大脳基底核、大脳辺縁系及び小脳などの脳組織のニューロンを含む、脳を構成する広範なニューロンに外来遺伝子を単回投与で導入する方法の提供。【解決手段】哺乳動物の脳室内に遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスを投与する工程を含む、脳のニューロンに遺伝子を導入する方法。【選択図】なし