タイトル: | 公開特許公報(A)_ピリドキサールリン酸の測定方法及び測定キット |
出願番号: | 2012151895 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12Q 1/25,C12M 1/34 |
渡部 保夫 JP 2014014281 公開特許公報(A) 20140130 2012151895 20120705 ピリドキサールリン酸の測定方法及び測定キット 国立大学法人愛媛大学 504147254 中島 淳 100079049 加藤 和詳 100084995 福田 浩志 100099025 渡部 保夫 C12Q 1/25 20060101AFI20131227BHJP C12M 1/34 20060101ALI20131227BHJP JPC12Q1/25C12M1/34 E 7 1 OL 16 特許法第30条第2項適用申請有り 2012年2月21日 国立大学法人愛媛大学発行の「平成23年度応用生命化学コース卒業論文公開発表会要旨集」に発表 (出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果支援事業、研究成果最適展開支援プログラムフィージビリティスタディステージ探索タイプ、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B029 4B063 4B029AA07 4B029BB16 4B029CC01 4B029FA12 4B063QA01 4B063QQ04 4B063QQ38 4B063QQ73 4B063QQ80 4B063QR18 4B063QR47 4B063QR49 4B063QR73 4B063QS02 4B063QX01 本発明は、ピリドキサールリン酸の測定方法及び測定キットに関する。 種々の酵素の補因子(補欠分子族)としてビタミンB6の活性型、ピリドキサールリン酸(PLP。ピリドキサール−5’リン酸とも称する。)は、種々の生体機能において重要であることが知られている。特に、PLPは、グルタミン酸(L−Glu)から、血液上昇抑制作用又は抗ストレス作用を示すと言われているγアミノ酪酸(GABA)への変換を触媒する酵素、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GDC)の補因子であることから、PLPの含有量に関心が向けられている。 PLPを含むビタミンB6群の測定としては、ホモシステインナーゼ及びそれに関連する酵素を用いた酵素学的定量法(例えば、特許文献1)、微生物や細胞を利用した方法(例えば、特許文献2及び特許文献3)などが知られている。その他にも、蛍光法や、化学定量法、蛍光高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法などが挙げられる。 一方、GABAの生理活性に着目して、精麦大麦又は精麦もち麦を所定の条件でグルタミン酸溶液に浸漬することにより、GABAを含有するもち麦を得る技術が提案されている(例えば、特許文献4及び特許文献5)。これらの文献には、精麦大麦又は精麦もち麦に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の働きにより、グルタミン酸がGABAに変換されると記載されている。特表2002−535009号公報特表2008−507964号公報特表2005−517926号公報特開2011−172516号公報特開2012−55211号公報 しかしながら、微生物や細胞を用いた測定方法はPLP特異的でない。蛍光法では、シアン化カリウムなどの試薬が必要であり、取り扱い上の制限がある。酵素学的定量法では、酵素製剤そのものが高価であり、また酵素は失活しやすい傾向がある。蛍光HPLC法では、熟達した操作技術の習得が要求されている。このように、従来のいずれの測定方法も、測定精度と簡便性とを共に備えたものではなかった。 従って、本発明は、簡便に且つ精度よくPLPを測定することが可能なPLPの測定方法及びそのための測定キットを提供することを目的とする。 本発明は以下のとおりである。 [1] ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源を準備すること、前記酵素源を、被検体を含む試料液中でグルタミン酸と接触させて、γアミノ酪酸の生成を行うこと、γアミノ酪酸の量を測定すること、を含むピリドキサールリン酸の測定方法。 [2] 前記酵素源が、精白度5%以上の精白粒を含む[1]に記載の測定方法。 [3] 記試料液のpHが3.0〜8.0である[1]又は[2]に記載の測定方法。 [4] 前記γアミノ酪酸の量の測定が、前記試料液中のγアミノ酪酸の含有量の測定である[1]〜[3]のいずれかに記載の測定方法。 [5] ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源、を含むピリドキサールリン酸の測定キット。 [6] 更に、グルタミン酸及びピリドキサールリン酸の少なくとも一方を含む[5]記載の測定キット。 [7] 前記酵素源が、精白度5%以上の精白粒である[5]又は[6]記載の測定キット。 本発明によれば、簡便に且つ精度よくPLPを測定することが可能なPLPの測定方法及びそのための測定キットを提供することができる。実施例1に係る各酵素源によるL−GluからのGABA生成量を比較したグラフである。実施例4にかかる精白ヒエによるGABA生成量を種々のpH条件で比較したグラフである。実施例5にかかる精白ヒエによるGABA生成量に基づいたPLP量の検量線の一例である。実施例8にかかる精白ヒエによるGABA生成量に基づいたPLP量の検量線の一例である。 本発明のピリドキサールリン酸の測定方法は、ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源を準備すること、前記酵素源を、被検体を含む試料液中で、グルタミン酸と接触させて、γアミノ酪酸の生成を行うこと、γアミノ酪酸の量を測定すること、を含むピリドキサールリン酸の測定方法である。 前記測定方法では、酵素源として所定の植物の種子、その糠、又はこれらの組み合わせを使用するので、簡便に且つ精度よくピリドキサールリン酸の測定を行うことができる。 これを更に詳述すれば、グルタミン酸からγアミノ酪酸を生成する反応を触媒する酵素、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GDC)は、補因子としてピリドキサールリン酸を必要とするアポ酵素である。前記酵素源である所定の植物の種子又は糠は、アポ型のグルタミン酸デカルボキシラーゼを多く含有すると推測される。このような酵素源に、ピリドキサールリン酸の存在下でグルタミン酸を接触させると、ピリドキサールリン酸の存在量に依存して、前記酵素源のグルタミン酸デカルボキシラーゼは活性型のホロ酵素となり、グルタミン酸からγアミノ酪酸を生成する。この結果、系中のγアミノ酪酸の含有量を測定することにより、ピリドキサールリン酸の存在を精度よく測定することができる。ただし、本発明はこの理論に拘束されない。 このように本発明では、アポ型のグルタミン酸デカルボキシラーゼの酵素源として特定の植物の種子又はその糠がそのままで利用可能であり、特別な装置や技術、高価な酵素剤を必要とすることなく、安価且つ簡便で、精度よくピリドキサールリン酸を測定できる。 本発明においてグルタミン酸デカルボキシラーゼは、国際生化学連合(I.U.B.)酵素委員会報告に準拠した酵素番号4.1.1.15に分類され、グルタミン酸からCO2を離脱し、γアミノ酪酸(γ-amino butyric acid:GABA)を生じる酵素の総称を指す(生化学データブックI,pp.1196-1197,日本生化学会編,東京化学同人,1979)。 本発明においてγアミノ酪酸(GABA)とは、「ギャバ」とも称され、血圧上昇抑制作用、抗ストレス作用、精神安定作用、成長ホルモン分泌促進作用、腎臓機能亢進作用など多様な機能性を示す非タンパク質性のアミノ酸である。γアミノ酪酸は、このような多様な機能性から、健康食品の素材として注目されている。 本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。 また本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。 さらに本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計含有量を意味する。 以下、本発明について説明する。[ピリドキサールリン酸の測定方法] 前記測定方法は、ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源を準備すること(以下、準備工程という)、前記酵素源を、被検体を含む試料液中で、グルタミン酸と接触させて、γアミノ酪酸の生成を行うこと(以下、反応工程という)、γアミノ酪酸の量を測定すること(以下、測定工程という)を含む。 前記測定方法における酵素源は、ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、ダイズ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子又はその糠(以下、これらを「種子等」という場合がある)である。 これらの植物の種子等では、アポ型グルタミン酸デカルボキシラーゼの含有量が多いと推測され、このような植物の種子等であれば、ピリドキサールリン酸の量を簡便且つ精度よく測定することができる。 中でも、イネ科のヒエ、ハダカムギ、アワ、キビは、ピリドキサールリン酸存在下で種子等の内部に生じるホロ型グルタミン酸デカルボキシラーゼの酵素活性が高く、ピリドキサールリン酸の有無によるγアミノ酪酸の生成量の差が大きいため、ピリドキサールリン酸の測定の精度の点で好ましく、中でもヒエ、ハダカムギ、又はアワの種子等が更に好ましい。前記測定方法では、これらを単独で又は2つ以上を組み合わせて使用することができる。 なお、ピリドキサールリン酸が存在する場合に種子内部に生じるホロ型グルタミン酸デカルボキシラーゼの酵素活性が高い種子等は、PLPの有無によるグルタミン酸から生成されるGABAの量の差により評価することができる。例えば、PLP存在下でのGABAの生成量がPLP非存在下でのGABAの生成量よりも1.5倍以上とすることができ、好ましくは、2.0倍以上とすることができる。 本評価方法としては、例えば、1mmol/LのPLPを添加又は未添加の0.5%(w/v)グルタミン酸水溶液に、対象となる種子等を所定量添加して、25℃6時間反応させ、反応後にγアミノ酪酸量を常法により測定する方法を採用することができる。 前記酵素源としては、前記植物の種子、その糠、又はこれらの組み合わせが挙げられる。 なお、本明細書における「種子」とは、胚(胚芽ともいう)、貯蔵組織(胚乳又は子葉)、及び種皮を含む器官を意味する。また、本明細書における「糠」とは、種子の精白処理後に種子から分離した果皮、種皮、胚芽などの部分を意味するが、胚乳から分離されていない精白処理前の果皮、種皮、胚芽部分を特に指す場合にも用いる。 また、前記種子は、精白処理前の全粒であってもよく、精白処理後の粒(精白粒)であってもよい。精白処理後の粒は、糠を部分的に有する精白粒であってもよく、すべての果皮、種皮及び胚芽が除去された精白粒であってもよい。すべての果皮、種皮及び胚芽が除去された精白粒の場合には、γアミノ酪酸生成の観点から糠と組み合わせて用いることが好ましい。 前記酵素源としては、酵素活性及び測定精度の点で、糠を部分的に有する精白粒、又は糠であることが好ましい。糠部分に酵素が多く含まれているため、糠を部分的に有する精白粒又は糠を酵素源とすることにより、いっそう高い酵素活性が期待できる傾向がある。また、糠を部分的に有する精白粒では、部分的に胚乳部分が露出するため、グルタミン酸が内部に浸透しやすくなり、測定精度がより向上する傾向がある。更に、前記酵素源は、酵素の安定性等の点で粒であることが好ましく、測定精度の点で糠を部分的に有する精白粒であることがより好ましい。 糠を部分的に有する精白粒としては、例えば、精白度が5%以上のものが挙げられ、酵素活性の点で、15%以上60%以下の精白粒が好ましく、20%以上30%以下の精白粒がより好ましく、35%以上40%以下の精白粒が更に好ましい。 なお、前記種子の形態は粒であることに限定されない。例えば、粒の他、破砕粒、又は粉末であってもよい。破砕粒又は粉末とすることにより、精白処理の有無に拘らず、酵素とグルタミン酸とが接触しやすくなり、また生成したγアミノ酪酸の測定がしやすくなる傾向がある。 前記酵素源は、種子又は糠の形態であることから、酵素自体よりも保存安定性が良好であり、酵素源の保存温度には制限はない。このため、酵素源は、−85℃〜25℃で保存することができ、保管の簡便性の点で、−20℃〜20℃のような一般的な温度で保存可能である。例えば、4℃〜5℃で保管した場合には、90日間以上、保管し得る。 前記反応工程では、前記酵素源を、被検体を含む試料液中でグルタミン酸と接触させて、γアミノ酪酸の生成を行う。 被検体にピリドキサールリン酸が含まれている場合、その含有量に応じて、酵素源のアポ酵素がホロ酵素となり、グルタミン酸からγアミノ酪酸の生成反応が進行する。 前記試料液に含まれる前記被検体としては、食品原料・食品加工試料、動物植物等生体試料、微生物試料などが挙げられ、特に制限はない。 前記被検体は、被検体の種類又は被検体本来の形状等によって、前処理を行ったものであってもよい。前記被検体の前処理は、被検体からのピリドキサールリン酸の抽出と同時に行うものであってもよい。 前記前処理としては、例えば、被検体が固形試料の場合には、ミル等を用いた粉砕工程を含むことができる。また、被検体が粉体懸濁液又は液体試料の場合には、前記前処理は、塩酸、硫酸、硝酸、スルホサリチル酸、トリクロロ酢酸、過塩素酸、メタリン酸などの酸や、場合によっては、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノールなどの有機溶媒を用いた除タンパク工程を含むことができる。 前記除タンパク工程としては、例えば、トリクロロ酢酸を、終濃度2質量%から10質量%程度になるように加えて撹拌し、生じた不溶物を遠心分離(例えば、100×g、10分間)や定性用ろ紙等を用いた濾過を行って除去する。得られた上澄み溶液を、必要に応じて、水酸化ナトリウム溶液で所定のpH(例えば4.0〜5.0)に調整、あるいは、ジエチルエーテルを用いてトリクロロ酢酸を除去する。 また、被検体からのPLPの抽出効率を高めるために、加熱処理を行うこともできる。前記加熱処理としては、前記被検体の水溶液又は水分散液を調製後、オートクレーブを用いて10分から2時間程度加熱することを挙げることができる。 また測定精度の向上の観点から、前記前処理は、被検体の濃縮工程を含むことができる。濃縮工程としては、凍結乾燥処理を挙げることができる。 前記被検体を含む試料液は、適当な水性媒体に被検体を溶解又は分散させることによって調製することができる。前記水性媒体としては、酢酸、リン酸、トリス塩酸等の緩衝液、水などを挙げることができる。 前記被検体を含む試料液では、被検体の濃度には特に制限はなく、必要に応じて、適宜希釈等を行ってもよい。この場合に用いられる希釈液としては、後述する反応系のpH等に適合するものであればいずれでも使用可能であり、前述した酢酸、リン酸、トリス塩酸等の緩衝液、水などを挙げることができる。 前記試料液におけるグルタミン酸の濃度としては、0.1%〜2%(w/v)とすることが、測定効率の観点から好ましく、0.5%〜1.5%(w/v)とすることがより好ましい。 なお、試料液に添加するグルタミン酸は、測定精度向上の観点から、水溶解後に所定のpHを示す凍結乾燥品であることが好ましい。なお、グルタミン酸の水溶解後のpHは、グルタミン酸の安定性を向上させるため、また、試料液のpHに対する緩衝能の観点から、3.5〜5.5であることが好ましく、3.5〜5.0であることがより好ましい。 前記試料液のpHは、酵素活性の観点から、3.0〜8.0であることが好ましく、3.5〜8.0であることがより好ましく、3.5〜5.5であることがより好ましい。 反応温度には特に制限はないが、酵素源の酵素活性の観点から、例えば15℃〜60℃とすることができ、25℃〜55℃であることが好ましく、25℃〜50℃であることがより好ましい。 反応時間は、反応温度との関係で適宜調整可能である。例えば、15℃〜60℃の反応温度とした場合には、0.5時間〜20時間とすることができ、測定精度及び測定効率の観点から、0.5時間〜8時間とすることが好ましく、0.5時間〜6時間とすることがより好ましく、0.5時間〜3時間とすることが好ましい。 反応効率及び酵素源の活性の観点から、25℃〜55℃の反応温度とした場合には、0.5時間〜6時間とすることが好ましく、1時間〜3時間とすることがより好ましい。 測定工程では、反応工程によって生成されたγアミノ酪酸の量を測定する。 測定対象となるγアミノ酪酸の量は、酵素源である粒又は糠の内部に生成したγアミノ酪酸の量であってもよく、反応後の前記試料液中のγアミノ酪酸の含有量であってもよい。 前記種子等の内部のγアミノ酪酸の量を測定する場合には、生成されたγアミノ酪酸の多くが測定対象となるため、測定精度が向上する傾向がある。 前記種子等の内部のγアミノ酪酸の量を測定する場合には、測定用試料を調製する調製工程を更に含むことができる。前記調製工程は、前記種子を乾燥すること、及び乾燥後に破砕すること、得られた破砕物から測定用試料を調製すること、を含むことが好ましい。これにより、前記種子等の内部に生成したγアミノ酪酸の測定が容易になる傾向がある。前記乾燥処理としては、水分量を15質量%以下とすればよく、60℃〜70℃で、2時間〜4時間、例えば65℃3時間とすることができる。 粉砕処理は、特に制限はなく、γアミノ酪酸が測定試料に流出可能な程度の大きさに粉砕されていればよい。例えば、ミル(イワタニ社製、IFM−300)で30秒間処理する方法が挙げられる。破砕物から測定用試料を調製する場合には、更に、常法によるタンパク質除去処理を行ってもよい。前記測定用試料は、水、50%(v/v)エタノール水溶液、2質量%スルホサリチル酸水溶液等の液体を用いて、破砕物からの水溶性成分を抽出することにより調製できる。 一方、試料液中のγアミノ酪酸の含有量を測定する場合には、反応処理後の試料液を、測定用試料として用いる。反応処理後の試料液には、反応後に穀物粒から前記試料液中に流出したγアミノ酪酸が含まれており、試料液におけるγアミノ酪酸の含有量は、前記種子等の内部に生成したγアミノ酪酸の量とほぼ比例関係にある。このため、反応処理後の試料液を測定用試料として用いることは、測定精度が損なわれることはなく、且つ測定のための前処理を行う必要がないため、好ましい。 γアミノ酪酸の量の測定は、γアミノ酪酸の定量方法として既知のものをそのまま適用することができ、例えば、アミノ酸分析方法、ギャバーゼを用いた酵素方法等を挙げることができる。γアミノ酪酸量の測定には、上述したような測定用試料を調製して用いてもよく、γアミノ酪酸を含有する試料液をそのまま用いてもよい。 また、γアミノ酪酸の測定は、上述したような直接的な測定であってもよく、間接的な方法であってもよい。間接的な方法としては、グルタミン酸からγアミノ酪酸が生成する際に発生する二酸化炭素を測定する方法を挙げることができる。二酸化炭素の測定には、炭酸ガスメータを利用してもよく(CO2電極法)、試料液中に溶存する二酸化炭素を測定可能な溶存炭酸ガス計(NDIR法)や二酸化炭素センサー(蛍光時間消失方式)を利用してもよい。 前記測定工程によって得られたγアミノ酪酸の量から、ピリドキサールリン酸の量を求めることができる。ピリドキサールリン酸の量は、例えば、γアミノ酪酸の量とピリドキサールリン酸の量の相関を示す検量線を作成又は準備して、測定されたγアミノ酪酸の量から求めることができる。[測定キット] 前記測定キットは、ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源を含む。 前記キットでは、前記の特定の植物の種子、その糠、又はこれらの組み合わせを、アポ型グルタミン酸デカルボキシラーゼの酵素源として利用するので、簡便且つ精度よくγアミノ酪酸の測定を行うことができる。また、酵素源として、前記の特定の植物の種子、その糠、又はこれらの組み合わせをそのままキットの要素として含んでいるので、測定時の取り扱い及び保管が容易である。 前記酵素源については、前記測定方法で記述した事項をそのまま適用する。なお、前記酵素源は、所定の収容部に収容された形態で、キットの要素を構成していればよい。酵素源として種子と糠との組み合わせを用いる場合には、種子と糠とを同一の収容部に収容していてもよく、使用時に混合できるように個別の収容部に収容していてもよい。 本キットは、更に、グルタミン酸及び/又はピリドキサールリン酸をキットの要素として含んでいることが好ましい。前記キットに含まれるグルタミン酸及びピリドキサールリン酸は、測定の精度及び簡便性の観点から、水溶解後に所定の濃度とpHを示す収容部に収容された凍結乾燥品であることが好ましく、更に、基準液調整用希釈液と共に前記キットに含まれていることがより好ましい。これにより、簡便に、グルタミン酸又はピリドキサールリン酸の基準液を調製することができる。 これらのグルタミン酸基準液は、試料液にグルタミン酸を添加する際に利用することができる。また、ピリドキサールリン酸基準液は、例えば、陽性対照サンプル等として利用できる。 前記基準液調整用希釈剤としては、水(脱イオン水、超純水等)、クエン酸緩衝液や酒石酸緩衝液が挙げられる。なお、グルタミン酸水溶液のpHを前述した所定範囲内とすることにより、前記基準液調整用希釈剤として緩衝能を有しない希釈液を使用することができるため、pH調整済みのグルタミン酸を用いる場合には、水とすることができる。 前記グルタミン酸及び/又はピリドキサールリン酸と、前記基準液調整用希釈剤とは、それぞれ、関連づけされた特定量で各収容部に収容されていることが好ましい。これにより、例えば、収容部に収容された特定量のグルタミン酸又はピリドキサールリン酸に対して、一の収容部に収容された特定量の前記基準液調整用希釈液を全量添加することにより、所定のpH及び濃度を示す基準液を簡便に調製することができる。 前記キットは、グルタミン酸とピリドキサールリン酸との一方を含んでいればよく、これら双方を含んでいてもよい。 前記キットは、前記測定対象となる被検体を含有する試料液を調製するために使用可能な希釈液と、これに加えて、又は、これに代えて、測定に必要な他の試薬、陽性若しくは陰性対照サンプル又はこれらを調製するために必要な試薬を含むものであってもよい。さらには、前記キットは、前記ピリドキサールリン酸の測定方法を記載した製品説明書を含んでもよい。 本キットにおける「収容部」とは、それぞれの要素が混合せずに独立して存在するために有効な形態であれば特に制限はなく、例えば、容器や個別包装形態などであってもよく、一のシート状で独立して区分けされた領域としての形態であってもよい。 また、キットの構成要素のうち、組み合わせて収容可能な試薬類については、1つの収容部に含まれていてもよく、この場合、それぞれの収容部は、いずれか一方のみがあればよい。 また前記キットには、γアミノ酪酸の測定のための要素及びピリドキサールリン酸の量の算出するための要素を含むものであってもよい。このような測定のための要素としては、アミノ酸分析用の希釈液や、炭酸ガスメータ等の測定器、検量線などを挙げることができる。 以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。[実施例1] 酵素源として、精白ヒエ(精白度35%〜40%)、精白ハダカムギ(精白度15%)、精白アワ(精白度20%〜30%)、精白キビ(精白度20%)、精白モチムギ(精白度15%)を準備した。これらの酵素源は、粒の状態で使用した。 前記酵素源25gを、50mLの0.5%(w/v)のグルタミン酸水溶液(1mmol/Lのピリドキサールリン酸[PLP]含有。pH4.0)に浸漬して得られた試料液を、25℃で15時間保温した。 保温後に、試料液から酵素源を取り出して水切りし、65℃で3時間、乾燥を行った。乾燥後に得られた酵素源を試料粒としてそれぞれ10g、ミル(イワタニ社製、IFM-300)で30秒間処理し、破砕音が聞こえなくなるまで粉砕した。得られた粉砕物に、30mLの2%(w/v)スルホサリチル酸水溶液を加え、振とう器(強力振とう機SR-I、TAITEC社)で激しく15分間振とうした。振とう後に、1,000×g、10分間の遠心分離を行いタンパク質を除去し、上澄みを回収してアミノ酸分析用試験溶液とした。 また、グルタミン酸溶液として、所定量のPLPを添加しない無添加の0.5%(w/v)グルタミン酸水溶液を用いた以外は、上記と同様にして、PLP無添加群の試験溶液を調製した。 各試料溶液を、クエン酸緩衝液(pH2.2)で10倍に希釈してpH2.0の分析用サンプルを調製後、アミノ酸分析装置(島津社製高速液体クロマトグラフィ、Prominence)を用いて、アミノ酸を分離し、o−フタルアルデヒド/N−アセチルシステインを反応試薬とするポストカラム蛍光誘導体化検出法に従って、γアミノ酪酸(GABA)及びグルタミン酸(L−Glu)をそれぞれ定量した。 結果を表1及び図1に示す。なお、図1においてL−Gluの生成量は白バー(左軸)で示し、GABA生成量は黒バー(右軸)で示した。 表1及び図1に示されるように、酵素源としてヒエ、ハダカムギ、アワ、キビを用いた場合、PLPの有無に応じて生成されるGABAの量が大きく異なっていた。このことは、ヒエ、ハダカムギ、アワ、キビ中のグルタミン酸デカルボキシラーゼがアポ型の酵素として存在し、PLPの存在によってホロ型に変換し、グルタミン酸からGABAを生成することを示している。従って、ヒエ、ハダカムギ、アワ、又はキビは、PLPの測定用の酵素源として好適であることがわかる。 なかでも、ヒエとアワは、生成されたGABA量がいずれも150mg/100g以上と多く、またPLP無添加時に対するPLP添加時のGABA量の割合(GABA生成倍率)が4倍以上あり、酵素源として特に好ましいことがわかる。 一方、モチムギでは、PLPの存在とは関係なくGABAが生成されていた。このことは、モチムギ中のグルタミン酸デカルボキシラーゼは、ホロ型で多く存在し、PLPの存在に依存せずに、グルタミン酸からGABAを生成可能であることを示している。従って、モチムギは、PLPの測定の酵素源として不向きであることがわかる。[実施例2] 玄ヒエ粒、精白ヒエ粒(35%〜40%の精白度)又は精白アワ(20%〜30%の精白度)それぞれ25gを、0.5%(w/v)グルタミン酸水溶液(1mmol/LのPLP添加有。pH4.0)50mlに浸漬して得られた試料液を、25℃6時間保温した。保温後に試料液を1,000×g、10分間、遠心分離して、上澄みを回収した。得られた上澄みに等量の4%(w/v)スルホサリチル酸溶液を加え、実施例1と同様にして除タンパクした後、アミノ酸分析用試験溶液を調製した。 また、グルタミン酸水溶液として、所定量のPLPを添加しない無添加の0.5%(w/v)グルタミン酸水溶液を用いた以外は、上記と同様にして、PLP無添加群の試験溶液を調製した。 それぞれの試験溶液を、実施例1と同様にして、アミノ酸分析を行い、GABA量を定量した。結果を表2に示す。 表2に示されるように、玄ヒエよりも精白ヒエ及び精白アワの方が高いGABA生成倍率を示し、精白粒を酵素源として用いることがより好ましいことがわかる。 また、精白ヒエ又は精白アワを浸漬して得られた試料液におけるGABA生産倍率は、いずれも2倍以上であった。従って、反応後の試料液中の粒のみならず、粒を浸漬して得られた試料液そのものも、PLPの存在有無に基づいたGABA量の測定に使用できることがわかる。[実施例3] グルタミン酸溶液として、1mmol/LのPLP、ピリドキシン(PN)又はピリドキサール(PL)をそれぞれ含有する0.5%(w/v)グルタミン酸水溶液50mL(pH4.0)を使用し、これらの各種グルタミン酸水溶液に精白ヒエ25gを浸漬して得られた試料液を、その後、25℃3時間保温した以外は、実施例2と同様にして、アミノ酸分析用試験溶液を得た。得られたアミノ酸分析試験溶液を、実施例1と同様にしてアミノ酸分析を行い、反応後の試料液中のGABAを定量した。結果を表3に示す。 表3に示されるように、精白ヒエによるGABA生成は、補因子としてPLPを添加した場合のみに生じるビタミンB6群に特異的なものであることがわかる。[実施例4] pHを2.0〜8.0にそれぞれ塩酸あるいは水酸化ナトリウムを添加することにより調整した0.5%(w/v)グルタミン酸水溶液(1mmol/LのPLP含有)50mLを使用し、酵素源として精白ヒエ25gを用いた以外は、実施例2と同様にして、GABA生成反応及びアミノ酸分析を行った。結果を表4及び図2に示す。なお図2において、L−Gluの生成量は白バー(左軸)で示し、GABA生成量は黒丸(右軸)で示した。 表4及び図2に示されるように、精白ヒエ粒を酵素源とした場合には、pH2.0〜8.0の広い範囲でGABAが生成されることがわかった。特に、pH3.0〜7.0で良好な酵素活性が得られることがわかる。[実施例5] 精白ヒエ粒2.5gを、PLP添加濃度0〜0.1mmol/Lに調整した1%(w/v)グルタミン酸水溶液(pH4.0)5mLに浸漬して得られた試料液を、25℃3時間保温した以外は、実施例2と同様にして、アミノ酸分析用試験溶液を調製した。得られた各種の試験溶液のアミノ酸の定量を、実施例1と同様にして行った。結果を図3に示す。 図3に示されるように、精白ヒエ粒の量及びグルタミン酸溶液の量をそれぞれ実施例2での1/10の量にした場合でも同様に、GABAを生成できることがわかった。 また、PLP添加濃度0〜0.1mmol/Lの範囲でのGABA測定値から、図3で示される検量線が作成できた。このことから、本測定方法は精度高く、PLPを測定できることがわかる。なお、本実施例の10倍量のスケールでも、同様の検量線は作成できた。[実施例6] 4℃冷蔵庫で3ヶ月間保管した岩手県産精白ヒエ又は北海道産精白ヒエ粒25gを用いた以外は、実施例2と同様にして、アミノ酸分析用試験溶液を調製し、それぞれの試験溶液について、実施例1と同様にGABAの定量を行った。結果を表5に示す。 表5に示されるように、酵素源としての精白ヒエを4℃で1ヶ月から3ヶ月保管していても、GABAの測定値には大きな変化がなかった。このことは、精白ヒエのアポ型グルタミン酸溶液デカルボキシラーゼは、4℃でも長期にわたって安定した酵素活性を維持できることがわかる。 また、岩手産のヒエも北海道産のヒエも、1ヶ月から3ヶ月の4℃保管でも、良好な酵素活性が維持されており、PLP測定の感度としては、産地間に差異がないことがわかった。 [実施例7] 精白ヒエ粒25gを水25mLに浸漬して試料液を調製し、得られた試料液を、20℃、30℃、40℃、50℃、又は60℃の温度条件下でそれぞれ30分間保温した。氷冷後、各試料液にそれぞれ、0.1mmol/Lに調整した1%(w/v)グルタミン酸水溶液(pH4.0)25mLを加え、25℃6時間保温した以外は、実施例2と同様にして、アミノ酸分析用試験溶液を調製した。得られた各種の試験溶液のアミノ酸の定量を、実施例1と同様にして行った。結果を表6に示す。 表6に示されるように、精白ヒエ粒に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の活性が60℃においても保持されていることが分かった。[実施例8] 精白ヒエ粒25gを水25mLに浸漬して試料液を調製し、得られた試料液を、50℃で1時間又は2時間保温した以外は、実施例5と同様にしてアミノ酸分析用試験溶液の調製を行った。得られたアミノ酸分析用試験溶液と、0mmol/L〜0.08mmol/Lの濃度のPLP溶液を用いてアミノ酸定量を行い、得られたアミノ酸の量から検量線を作成した。結果を図4に示す。 図4に示されるように、反応温度を50℃とした場合、反応時間が2時間(図4中、黒丸)であっても、更に1時間(図4中、白丸)に短縮しても、実施例5に示したと同様に、PLP添加濃度0〜0.08mmol/Lの範囲でのGABA測定値から、検量線が作成できた。このことから、より短時間にPLP定量が可能であることが分かった。[実施例9] ハダカムギの糠を被検体として、被検体に含まれるPLP含量を測定した。 糠10gを、0.048M塩酸水溶液100mLに懸濁して試料液を調製し、得られた試料液を、120℃で2時間オートクレーブした。氷冷却後、pHを4.5に調整し、1,000×g、10分間、遠心分離して、合計65mLとなる上澄みを回収した。上澄みのうちの10mLを常法により凍結乾燥して前処理としての濃縮を行った。 得られた凍結乾燥品に1%(w/v)グルタミン酸水溶液(pH4.5)10mLを加え、溶解し、遠心分離(1,000×g、10分間)後、上澄み溶液を回収した。回収した上澄みのうち1mLを4mLの1%グルタミン酸水溶液(pH4.5)で希釈後、精白ヒエ2.5gを加えて試料液を調製した。その後、25℃3時間保温し、保温後に試料液を1,000×g、10分間、遠心分離して、上澄みを回収した。得られた上澄みに等量の4%(w/v)スルホサリチル酸溶液を加え、実施例1と同様にして除タンパクした後、アミノ酸分析用試験溶液を調製した。 得られたアミノ酸分析用試験溶液のアミノ酸の定量を、実施例1と同様にて行い、図3に示す検量線を用いて、サンプル1mLに含まれるPLP含量を計測した。その結果、上澄み65mL(糠10g)には520μgのPLPが含まれることが分かった。 実施例1から実施例9に示されるように、精白ヒエ等のアポ型グルタミン酸溶液デカルボキシラーゼを多く含有する所定のイネ科植物等の種子等は、安定がよく、簡便に且つ精度よく、PLPを測定することに用いることができる。 ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源を準備すること、 前記酵素源を、被検体を含む試料液中でグルタミン酸と接触させて、γアミノ酪酸の生成を行うこと、 γアミノ酪酸の量を測定すること、を含むピリドキサールリン酸の測定方法。 前記酵素源が、精白度5%以上の精白粒を含む請求項1記載の測定方法。 前記試料液のpHが3.0〜8.0である請求項1又は請求項2記載の測定方法。 前記γアミノ酪酸の量の測定が、前記試料液中のγアミノ酪酸の含有量の測定である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の測定方法。 ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源 を含むピリドキサールリン酸の測定キット。 更に、グルタミン酸及びピリドキサールリン酸の少なくとも一方を含む請求項5記載の測定キット。 前記酵素源が、精白度5%以上の精白粒である請求項5又は請求項6記載の測定キット。 【課題】簡便に且つ精度よくPLPを測定する。【解決手段】ヒエ、アワ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ、キビ、イネ、マメ、ハトムギ、モロコシ、アマランサス及びキヌアからなる群より選択された少なくとも1種の植物の種子、その糠又はこれらの組み合わせである酵素源を準備すること、前記酵素源を、被検体を含む試料液中でグルタミン酸と接触させて、γアミノ酪酸の生成を行うこと、γアミノ酪酸の量を測定すること、を含むピリドキサールリン酸の測定方法。【選択図】図1