タイトル: | 公開特許公報(A)_H7N7亜型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに結合するアプタマー |
出願番号: | 2012146649 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 15/115,C12Q 1/68,G01N 33/569 |
ペンメッチャ クマール 西川 富美子 末永 恵美 JP 2014008002 公開特許公報(A) 20140120 2012146649 20120629 H7N7亜型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに結合するアプタマー 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 ペンメッチャ クマール 西川 富美子 末永 恵美 C12N 15/115 20100101AFI20131217BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20131217BHJP G01N 33/569 20060101ALI20131217BHJP JPC12N15/00 HC12Q1/68 AG01N33/569 L 11 OL 16 (出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構「ラベル不要の高機能性バイオセンサシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA04 4B024CA11 4B024CA20 4B024HA14 4B063QA01 4B063QA19 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QQ79 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR62 4B063QR66 4B063QS25 4B063QS34 4B063QS39 4B063QX07 本発明は、H7N7亜型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに結合能を有するアプタマーに関する。 インフルエンザウイルスにはA、B、及びCの3つの型があり、季節性インフルエンザとして毎年流行を起こすのはA型とB型であることが知られている。このうちA型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面に突出したタンパク質であるヘマグルチニン(以下HAとする)とノイラミニダーゼ(以下NAとする)の組み合わせによって多くの亜型に分類されている。HAには、H1からH16の亜型、NAにはN1からN9の亜型が存在し、この組み合わせによって、H1N1、H2N2、H3N2等と表現される。 毎年流行するインフルエンザウイルスとは別に、近年、新型インフルエンザの世界的流行が懸念されている。新型インフルエンザウイルスとは、人類がこれまで感染したことのない抗原タンパク質を持つウイルスである。多くの人々が免疫を持たないため、高い確率で感染、発症し、パンデミックを引き起こす可能性がある。 近年、鳥インフルエンザウイルスや豚インフルエンザウイルスといった、本来、鳥または豚の種内のみで流行していたウイルスが、種の壁を乗り越えてヒトへと感染する事例が度々報告されている。鳥からヒトへと直接感染することが初めて報告されたのは1997年に香港で発生したH5N1亜型の鳥インフルエンザウイルスであるが、その後も鳥からヒトへの感染は拡大を続け、これまでH5N1亜型の他、H7N2亜型、H7N7亜型及びH9N9亜型で鳥から人への感染が確認されている(非特許文献1)。これらのウイルスは鳥からヒトへと感染できるように変異を遂げたものであるが、幸いヒトからヒトへと容易に感染する変異はまだ起きていないとされている。 しかしながら、ヒトからヒトへの感染が限定的に起こったことを示唆する報告もいくつか存在する。例えば、2003年にオランダの農場の家禽の間でH7N7亜型のインフルエンザが流行したが、ここではウイルスに感染した家禽に暴露した人だけでなく、始めの感染者の濃厚な接触者にも感染が認められた。症状の多くは、結膜炎や軽いインフルエンザ様症状であったものの、1名が呼吸器不全で死亡している(非特許文献2)。また、2009年にパンデミックを引き起こした、豚由来の新型インフルエンザウイルス(H1N1)は、ヒトからヒトへ感染し、その伝播力は季節性インフルエンザウイルスよりも強い。幸い病原性は高くはなかったが、将来高病原性へ変異する危険性をもっている。 これまでに分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスは、H5型、H7型のいずれかに分類されているため、これらの変異が注視されており、中でもH5N1亜型の変異が問題視されることが多い(非特許文献3)。しかしながら、H7N7亜型を含め、他の亜型によってパンデミックが引き起こされる可能性も指摘されており、これらのインフルエンザに対する対策として、迅速かつ正確な診断法の開発が強く望まれている。 インフルエンザウイルスは種々の型、亜型、株の違いによって病原性の強さなど、異なる性質を持つため、インフルエンザの予防対策や治療にとって、これらの識別は非常に重要な課題である。現在、使用されている迅速診断キットは、主にA型かB型かの型の識別のみであり、亜型まで識別するためには、インフルエンザウイルスの遺伝子配列を調べる方法が一般的である。そこで、より簡便なインフルエンザの亜型診断システムが確立されれば、初期の段階での封じ込めを可能とし、広い範囲にわたって流行が拡大するのを防ぐことができると期待される。 本発明者は、迅速かつ正確なインフルエンザウイルスの亜型診断法を提供するため、優れた識別能を有するアプタマーの開発を行ってきた。アプタマーとは、機能性核酸のことであり、抗体と類似の機能をもつが、標的化合物として、イオンのような小さいものから、ウイルスのような巨大複合体まで対象となるので、抗体よりも利用範囲が広い。特にRNAアプタマーは複雑な三次構造をとることによって、標的化合物を高度に識別して結合することが可能である(非特許文献4)。 本発明者は、以前に、季節性のインフルエンザA(H3N2亜型)およびB型のHAタンパク質に結合するアプタマーを取得し、これらアプタマーはインフルエンザのウイルスの有無と共に型、亜型、株を迅速かつ正確に判定できる診断手法を提供するだけでなく、該インフルエンザウイルスの宿主細胞表面への結合を妨げる作用をもつことを報告している。(非特許文献5,6,特許文献1)。また、最近では、鳥からヒトへの感染が確認されている、H5N1亜型及びH9N2亜型に加え、2009年にパンデミックを引き起こした豚インフルエンザのH1N1亜型のHAタンパク質に結合するアプタマーが取得できた(特許文献2)。 しかしながら、従来のアプタマーでは、H7型のHAタンパク質には結合しないため、H5N1亜型と同様にパンデミックが強く懸念されているH7N7亜型インフルエンザの診断に用いることはできない。 したがって、H7N7亜型株を迅速かつ正確に判定できる診断手法として、H7N7亜型のHAタンパク質に結合するアプタマーの開発は緊急の課題であった。特許第4441618号公報特開2012−100636号公報Taubenberger,J.K.,Morens,D.M.,Fauci 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さらに、取得したアプタマーの特異性をBiacoreT100で調べたところ、アプタマーH7-17はA/California/04/2009(H1N1)、A/HongKong/1073/1999(H9N2)に結合したものの、A/Netherlands/219/2003(H7N7)に比べて親和性は低く、Kd値はそれぞれ2.2μM、16μMであった(表2)。よって、アプタマーH7-17を用いてこれらの亜型を識別することは可能であると思われる。また、A/Panama/07/99(H3N2)、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)、及びA/Indonesia/05/2005(H5N1)に対しては、アプタマーH7-17は結合を示さなかった。 アプタマーH7-16は、A/California/04/2009(H1N1)にわずかに結合したが、A/Netherlands/219/2003(H7N7)に対するよりも親和性は低く(Kd=10μM)、両者を識別するには十分な差をもつ。よって、アプタマーH7-16を用いてこれらの亜型を識別することは可能であると思われる。また、A/Panama/07/99(H3N2)、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)、A/Indonesia/05/2005(H5N1)及びA/HongKong/1073/1999(H9N2)に対しては、アプタマーH7-16は結合を示さなかった。 以上の知見を得て本発明を完成した。 すなわち、本発明は以下の発明を含むものである。〔1〕 配列番号4または5のいずれかで示される塩基配列、または当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含むRNAからなることを特徴とする、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質に対する結合能を有するアプタマーRNA。〔2〕 配列番号4または5のいずれかで示される塩基配列、または当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含むRNAが構成する二次構造において、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質に対する結合能を有する先端領域部の構造を保持するように短鎖化された塩基配列からなるアプタマーRNA。〔3〕 アプタマーRNAを構成するヌクレオチドのリボース部位の少なくとも1箇所が、化学修飾されていることを特徴とする、前記〔1〕及び〔2〕のいずれかに記載のアプタマーRNA。〔4〕 前記化学修飾が、リボース部位の2’位(2’-OH)に対するフルオロ基(2’-F)もしくはメトキシ基(2’-OMe)による修飾、又は水素による置換(2’-deoxy)であることを特徴とする、前記〔1〕及び〔2〕のいずれかに記載のRNAアプタマーRNA。〔5〕 アプタマーRNAの3’及び/または5’末端がインバーストデオキシチミジン(idT)あるいはポリエチレングリコール(PEG)により修飾されていることを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のアプタマーRNA。〔6〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載のアプタマーRNAと同一の塩基配列又は当該塩基配列と相補的な塩基配列を含み、かつ前記〔1〕又は〔2〕に記載のアプタマーに変換可能な一本鎖DNA、二本鎖DNA又は相補的RNA。〔7〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として含有する、H7N7亜型インフルエンザウイルスの検出剤。〔8〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として含有する、H7N7亜型インフルエンザウイルス用診断剤。〔9〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として含有する、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質の亜型を特定するための診断用キット。〔10〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として用いることを特徴とするH7N7亜型インフルエンザウイルスの検出方法。〔11〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として用いることを特徴とする、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質の亜型を特定するための方法。 本発明により、インフルエンザウイルスのH7N7亜型同定のための検査薬として用いることができるアプタマーを提供できた。これらアプタマーを用いた検出法は、今までにはなかったH7N7亜型インフルエンザウイルスに対する正確で迅速なルーチン検査を可能とするものである。また、本発明のアプタマーは、H7N7亜型インフルエンザウイルスの宿主細胞表面への結合を妨げる作用をもつと考えられるので、H7N7亜型インフルエンザウイルスの予防及び治療薬となる可能性が高い。 また、本発明のアプタマーを、本発明者がこれまで提供してきた異なる亜型のインフルエンザウイルスに結合するアプタマーと複数混合して用いることにより、網羅的なインフルエンザ診断も可能である。ニトロセルロースフィルター結合定量法で調べた第7回目、第10回目、及び第11回目の選別サイクルにおけるRNAプールと、ターゲットHAタンパク質との結合能力を示す。第11回目の選別サイクルで得られたアプタマーH7-16及びH7-17の二次構造モデルを示す図である。表面プラズモン共鳴法によって測定したアプタマーH7-16及びH7-17とA/Netherlands/219/2003(H7N7)のHAタンパク質との相互作用解析図である。1.本発明のアプタマーについて(1)本発明の「アプタマー」とは 「アプタマー」とは、一般に、ある標的、例えばウイルス、タンパク質、ペプチド、糖類、金属イオン、小分子等に特異的に結合するように人工的に創製された核酸リガンドをいうが、本発明において用いる「アプタマー」は、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質に特異的な結合能を有する。核酸としてはRNAが好ましく、RNAを構成するリボース基が化学的に修飾されている場合も含む。 本発明のアプタマーは、周知のSELEX法(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)を適用し、中央の74塩基部分をランダム化したRNAライブラリーから得られたクローン由来のものであって、典型的には配列番号4及び5に示される塩基配列からなるRNAが挙げられる。本発明においては、ランダム領域を比較的長い74塩基配列としたことによって、より複雑な三次構造ができ、高度な識別が可能なアプタマーを提供することができたものと考えられる。(2)「アプタマー」の構造 本発明のアプタマーの二次構造モデルは、例えば図2に示されるように、先端のループ構造とステム構造とループ構造の繰り返しが続いたステム・ループ構造となっている。実際にインフルエンザウイルスのHAタンパク質抗原と結合する部位は、ランダム領域からなる領域で、主にこのうちの先端ループを含むステム領域であると考えられるため、当該先端部領域の構造を壊さない範囲でRNA鎖を短縮化することもできる。(3)本発明のアプタマーを構成する核酸 本発明においては、上記配列番号で示されるRNAに限らず、これらRNAと対応する配列を有する、DNA及び、これらDNAと相補のDNA、あるいはこれら相補のDNA鎖同士が二本鎖を構成したdsDNAを包含する。さらに、上記RNAと相補の塩基配列を有するRNAも包含する。これらはそれ自体慣用の遺伝子操作手段により、たやすく本発明のアプタマーRNAに変換可能であり、本発明のアプタマー製造用中間体である。また、本発明においては、上述のように、典型的な配列番号4及び5に示された塩基配列と共に、当該塩基配列中のヌクレオチド残基を1若しくは数個欠失、置換、あるいは付加させた改変アプタマーであっても、上記HAタンパク質と結合するものであればこれを包含する。また、後述のように、塩基配列の1部の塩基を化学修飾させた修飾アプタマーも包含される。(4)本発明のアプタマーの認識する部位 インフルエンザウイルス粒子表面には、それぞれ約900コピーのヘマグルチニン(HA)と約300コピーのノイラミニダーゼ(NA)が存在すると言われている。本発明のアプタマーはこれらの膜タンパク質のうち、HAタンパク質に結合する能力を持つものである。2.本発明のアプタマーRNAの製造方法(1)SELEX法 本発明のアプタマーは、それ自体周知のSELEX法により得られたものである。SELEX法は、ランダム配列の核酸ライブラリーの作成から出発し、標的タンパク質に結合した核酸のみを選別した後、PCR増幅するという一連の操作を複数回繰り返すもので、これにより、標的タンパク質に対し高い結合能を有する核酸を選別することができる。上記選別及びPCR増幅はそれぞれ、自然界における「淘汰」及び「増殖」に相当し、自然界における進化を試験管内で短時間に再現させるものである。 本発明においては、試験管内選択法によって合計11サイクルの選別を行い、その結果得られた特異的なウイルスに結合するRNAプールについてクローニングを行った。選別を経たRNAプールにはターゲットタンパク質に高い親和性を有するアプタマーが含まれていた。 具体的には、配列中央の74塩基をランダム領域とするDNAライブラリー(配列番号1)を合成し、T7プロモーター配列を含むプライマーを用いてPCR増幅した後、転写してRNAプールとし、このRNAプールに対し、上記HAタンパク質と結合するRNAを選別、増幅し、このサイクルを複数回繰り返すことにより、該HAタンパク質に対して特異性及び結合性の高い、配列番号4及び5に示されるアプタマーを得たものである。(2)その他の方法 本発明のアプタマーは、上記したとおり、基本的にはSELEX法により得たものではあるが、本発明においては、アプタマーの塩基配列を明らかにしており、SELEX法によらずとも、この塩基配列から本発明のアプタマーを合成することができる。 例えば、目的のアプタマーRNAに対応するDNAを化学合成し、これを鋳型としてT7プロモーター配列を含むプライマーを用いてPCRを実施し、増幅されたDNAからRNAポリメラーゼによる転写反応によりアプタマーRNAを合成する。この方法においては、プラスミドに上記dsDNAを連結したものも鋳型として用いることができる。 または、化学合成法により直接アプタマーRNAを合成することもできる。RNAの合成には、リボース部位の2’水酸基の保護が必要であるが、保護基として種々のアミダイトが開発されてきており、2-cyanoethoxymethyl(CEM)基を用いた場合はRNA合成時の鎖長伸長反応の効率が高くなり、100merを超える長鎖RNAも合成することができる。 このほか、上記アプタマーRNAと相補のRNAからは、RNA依存RNAポリメラーゼを使用することにより本発明のアプタマーRNAを得ることも可能である。3.アプタマーRNAの短縮化 本発明のアプタマーは短鎖化することが可能である。アプタマーの短縮化の主な目的は、アプタマーRNAの製造コストを削減することである。一般的なアプタマーの短鎖化方法であるマッピング法(非特許文献5、特許文献2)に従って行うことができるが、比較的単純な二次構造をとっていて、先端部のHA抗原結合領域の予測がつきやすい場合は、マッピング法実験を省略することができる。4.アプタマーRNAの化学修飾 本発明のアプタマーRNAにおいては、リボヌクレアーゼ耐性を付加するために、その配列中に化学修飾(modified)したヌクレオチドを有していても良い。このようなアプタマーRNAは、例えば、アプタマーRNA中のヌクレオチドのリボース部位の2’-OH基を、常法によりフロオロ基(2’-F)にまたはメトキシ基(2’-OMe)に、あるいは同リボース部位の2’位を水素に置換(2’-deoxy)することにより得られる。この化学修飾は、ピリミジンヌクレオチド部位がリボヌクレアーゼにより分解されやすいので、ピリミジンヌクレオチドに対してより有効である。 このような化学修飾は、ヘマグルチニンとの結合に関与する部位のヌクレオチドに対しては行わない。それ以外のヌクレオチドであれば全て修飾することも可能であるが、一般的にはループ領域のピリミジンヌクレオチドのリボース基について行う。 本発明においては、さらにアプタマーRNAの3’及び/又は5’末端をインバーストデオキシチミジン(idT)あるいはポリエチレングリコール(PEG)により修飾することもでき、これらにより、アプタマーRNAのリボヌクレアーゼ耐性はさらに向上し、生体中での分解による活性の低下を抑制することができ、生体内で有効な抗ウイルス作用を発揮させることが可能となる。5.アプタマーRNAを用いたH7N7亜型インフルエンザウイルスの検出法 臨床上、インフルエンザであるか、又は感冒等のその他のかぜ症候群の疾患であるかを迅速に診断することは非常に重要である。さらに、インフルエンザの場合、亜型が異なることでワクチンの効果が得られない場合もあり、治療に用いる医薬の決定、ワクチンの選択等においても、インフルエンザウイルスの型や亜型の識別は重要な意味を有する。 本発明のアプタマーは、H7N7亜型インフルエンザウイルスを識別できることから、以下に述べる方法によってインフルエンザウイルスの亜型の判定法へ利用することができる。使用の際には、1種のアプタマーを単独で用いても良いが、場合によっては、異なるインフルエンザウイルスのHAタンパク質に結合し得るアプタマーを複数混合して用いても良い。(1)標識化されたアプタマーRNAを用いる方法 本発明のアプタマーRNAはH7N7型インフルエンザウイルスの検査薬の検出剤として用いられる。例えば、本発明のアプタマーRNAをフルオロセイン、ローダミン、テキサスレッド等の蛍光色素で標識し、被験試料と接触、結合反応を行い、結合しなかったものを除去した後、蛍光あるいはその強度を検出、測定することにより、H7N7亜型インフルエンザウイルスの検出、あるいはその量を測定できる。この際、例えば、標識アプタマーRNAあるいは被験試料のいずれかを固定化した基板を用いて行うことができる。 また、結合時に蛍光発光する物質を用いて、本発明のアプタマー及び被験試料のいずれかを標識して、結合時の蛍光あるいはその強度を検出、測定することにより行うことも可能である。このような蛍光色素としては、例えば、フルオロセイン、ローダミン、テキサスレッド等が挙げられる。(2)表面プラズモン共鳴法(SPR) また、本発明においては、蛍光色素を標識せずに、インフルエンザウイルスを検出することも可能である。これには、例えば、表面プラズモン共鳴法(SPR)がある。すなわち、分子間の結合反応を、センサー表面でおこる分子間の結合時の微細な質量変化を表面プラズモン共鳴とよばれる光学現象を採用することで測定することができる。SPR法を利用した装置として、GEヘルスケアバイオサイエンス社製BiacoreT100がある。測定はセンサーチップの金薄膜表面に本発明のアプタマーRNAあるいは被験試料のいずれかを周知の方法で固定化し、これに被験試料あるいはアプタマーRNAを供給し、結合反応をリアルタイムでモニタリングしながら行う。6.本発明のアプタマーを用いた診断方法及び診断用キット 本発明のアプタマーは、H7N7亜型インフルエンザウイルスを含有するか、または含有する可能性のあるサンプルと接触させることによって、サンプル中にH7N7亜型インフルエンザウイルスが存在するかどうかの診断に利用できる。すなわち、現在インフルエンザウイルスの検出のために使用されている抗体を用いた迅速診断キットと同様の用途に使用することができる。 また、本発明のアプタマーは、先に取得した他の亜型のインフルエンザに対するアプタマーと共に、H7N7亜型インフルエンザウイルス診断用キットの提供を可能とする。診断剤、診断用キットの製造に際しては、適宜、周知の薬学的に許容可能な希釈剤、安定化剤、その他の担体などと組み合わせて用いる。 本発明の診断用キットの対象となるサンプルとしては、例えば、被験者の咽頭拭い液、鼻汁等の採取検体等や、それら検体を培養細胞やニワトリ受精卵に与えて感染・増殖の工程によって得た溶液等が挙げられる。 以上のように、本発明のアプタマーは、インフルエンザウイルスのH7N7亜型を識別できることから、例えば鳥類における流行をモニタリングし、将来のヒトへの感染やパンデミック予測に用いることもできる。 7.抗ウイルス剤、又はH7N7亜型インフルエンザウイルスの予防もしくは治療用組成物 本発明のアプタマーは、H7N7亜型のインフルエンザウイルスのHAタンパク質に結合し、ウイルスの細胞への結合を阻害すると考えられる。特に化学修飾されたアプタマーはヌクレアーゼ抵抗性で、血中半減期が長く、生体内への抗原性も無視できるので、各種の抗ウイルス製剤として、またH7N7亜型インフルエンザの予防用または治療用の医薬組成物として利用できる可能性を持つ。 抗ウイルス製剤、または医薬組成物とする場合には、経口、非経口のいずれでもよく、適宜、周知の薬学的に許容可能な無毒性の担体、希釈剤と組み合わせて用いる。非経口投与としては、典型的には注射剤であるが、噴霧剤などと共に吸入による投与も可能である。 また、直接ヒトなどに投与せずに、抗ウイルス剤として、マスクや看護用の衣服などに含浸させて用いることもできる。 以下に本発明の一実施形態として、A/Netherlands/219/2003(H7N7)のHAタンパク質に結合するアプタマーの選別例を挙げ、下記実施例において具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 なお、本発明で使用されている技術的用語は、別途定義されていない限り、当業者により普通に理解されている意味を持つ。本発明の実施例で用いた遺伝子組換え技術、PCR法、その他の手法などの具体的な手順や条件は、特に断らない限り、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,NY(2001)、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York (1989);D.M.Glover et al.ed.,"DNA Cloning",2nd ed.,Vol.1 to 4,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press (1995);Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,N.Y,1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA技術)」、東京化学同人 (1992);R.Wu ed.,"Methods in Enzymology",Vol.68 (Recombinant DNA),Academic Press,New York (1980);R.Wu et al.ed.,"Methods in Enzymology",Vol.100 (Recombinant DNA,PartB) & 101 (Recombinant DNA,Part C),Academic Press,New York (1983);R.Wu et al.ed.,"Methods in Enzymology",Vol.153 (Recombinant DNA,Part D),154 (Recombinant DNA,Part E) & 155 (Recombinant DNA,Part F),Academic Press,New York (1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法により行うことができる。 また、本発明で引用した先行文献又は特許出願明細書の記載内容は、参照して本明細書の記載として組み入れるものとする。(実施例1)A/Netherlands/219/2003(H7N7)に特異的なアプタマーのin vitroでの選別(1−1)RNAランダムプールの作成 以下に示す、中央の74塩基をランダム領域とする一本鎖DNA(ssDNA)のライブラリーを合成してテンプレートとし(配列番号1)、T7プロモーターを含む5’末端プライマー(配列番号2)、及び3’末端プライマー(配列番号3)を用いてPCRを行った。〔テンプレート〕5'-GGAGCTCAGCCTTCACTGC-(N)74-GGCACCACGGTCGGATCCAC-3'(配列番号1)〔5’末端プライマー〕5'-TCTAATACGACTCACTATAGGAGCTCAGCCTTCACTGC-3'(配列番号2)〔3’末端プライマー〕5'-GTGGATCCGACCGTGGTGCC-3'(配列番号3) 次いでT7 Ampliscribe kit(Epicentre Technologies社製)を用いて、in vitroでの転写を行い、増幅されたDNAライブラリーをRNAライブラリーに変換した。(1−2)in vitroにおける選別得られたRNAライブラリー(30μg)を結合用緩衝液(0.01M HEPES,0.15M NaCl,pH7.4)に溶解させ、異なるRNA配列のコンフォメーションの平衡を促進するために、95℃で2分間処理して変性させた後に、室温で10分間冷却させた。非特異的に結合するRNAを除去するためコンペティターとしてtRNA[E.coliのトータルtRNA(Boehringer-Mannheim社製)]を加えた後、ターゲットとなるHAタンパク質を加えた。ターゲットとして選別に用いたHAタンパク質は、A/Netherlands/219/2003(H7N7)のインフルエンザウイルス由来のものである。HAタンパク質に対する特異性と高い親和性を有するRNAを得るために、RNAとタンパク質比、及びtRNA濃度は選別サイクルごとに修正した(表1)。 これらの混合液、50-100μlを室温で10-60分間(反応溶液量、反応時間は選別サイクルにより適宜変更)インキュベートした後、”Pop-top”フィルターホルダー(Nucleopore社製)に装着した湿潤済みニトロセルロースフィルター(HA WPフィルター,0.45μm,径13.0mm,Millipore)又はVivapureフィルター(VIVASCIENCE)(第4選別サイクル)に通し、タンパク質に結合したRNAをフィルター上に捕捉させて、フィルターを1-3ml(選別サイクルにより適宜変更)の結合用緩衝液で洗浄した。フィルター上に残留したタンパク質結合RNAは溶出用緩衝液(0.01M HEPES,0.15M NaCl,7M Urea,pH7.4)で回収し、エタノール沈殿で精製後、逆転写反応に供した。逆転写反応は、20μlの反応液中に最終濃度が50mM Tris-HCl(pH8.3),50mM KCl,10mM MgCl2,0.5mM Spermidine,10mM DTT,1μMプライマー(配列番号3),0.4mM dNTPsとなるように調製し、20U AMV逆転写酵素(Wako社製)を加えて42℃で1時間実施した。ただし、dNTPsと逆転写酵素は、変性及びアニーリングステップ(95℃で3分間処理後、室温で5分間インキュベート)の後、加えた。 得られたcDNAはPCRにより増幅され、次の選別ラウンドにおけるRNAを得るための鋳型として用いられた。逆転写後の混合液(cDNA)20μlにPCR用混合液 [PrimeSTAR Max Premix(TaKaRa社製),1μM5’末端プライマー,1μM3’末端プライマー]を80μl加え、95℃で30秒間加熱後、95℃、15秒;-55℃、10秒;-72℃、10秒のサイクルを、適正サイズで産物のバンドが得られるまでの回数(6−19サイクル)繰り返した。得られたPCR産物はエタノール沈殿で精製後、試験管内転写反応に供した。試験管内転写反応にはT7 Ampliscribeキットを使用し、37℃、オーバーナイトで転写を行った。RNA合成後、DNase I処理を行い、Micro Bio-Spin(R) Columns P30(BIO-RAD)による濃縮精製、または8%変性ポリアクリルアミドゲルによる分画を行った。変性ポリアクリルアミドゲルによる分画は第2、4、6、8及び11回目の選別サイクルに適用し、分画後にゲルから抽出したRNAに対してはエタノール沈殿による精製を行った。以上のようにして得たRNAを、定量後、次回の選別及び増幅サイクルに用いた。(1−3)選別及び増幅サイクル 各選別サイクルでは、非特異的に結合するRNAの濃縮を避けるために、フィルターによる選別方法の他、XENOBINDプレート(xenopore社製)及びPierceNickel Coated Plates(Thermo SCIENTIFIC社製)を用いた選別を行った。XENOBINDプレートの調製 HAタンパク質5μgを含有する結合用緩衝液100μlで各ウェルを満たし、4℃で一晩静置後、300μlのwashing buffer[50mM Na phosphate buffer(pH7.5),0.15M NaCl,0.1% Tween20]で洗浄を行った。洗浄後、3% BSAでブロッキングを行ったが、この際、ネガティブセレクション用として、HAがコートされていないウェルにもBSAを添加し、BSAのみがコートされたウェルの調製も行った。室温で一晩静置後、再びwashing bufferで洗浄を行い、選別に用いた。XENOBINDプレートによる選別 前の選別サイクルで得たRNAプールを、結合用緩衝液中で90℃、2分間変性させた後、室温で10分間冷却した後、BSAがコートされたウェルに充填し、10分間静置した。その後、RNAをウェルから回収し、tRNAを加え、HAタンパク質がコートされたウェルに充填した。10分間インキュベートした後、結合用緩衝液900μlで洗浄し、未吸着のRNAを取り除いた。その後、タンパク質結合RNAを、加熱した溶出用緩衝液(0.01M HEPES,0.15M NaCl,7M Urea,pH7.4)で回収し、エタノール沈殿で精製後、上述した方法に従って、逆転写反応、PCR及び試験管内転写反応を実施した。以上のように得られたRNAは、定量後、次回の選別及び増幅サイクルに用いられた。PierceNickel Coated Platesの調製 ウェルを200μlのwashing buffer(1×PBS)で3回洗浄後、30nMのHAタンパク質溶液を100μlずつ充填し、室温で1時間振盪した。再び200μlのwashing buffer(1×PBS)でウェルを3回洗浄後、結合用緩衝液100μlを加えて活性化し、選別に用いた。PierceNickel Coated Platesによる選別 前の選別サイクルで得たRNAプールを、結合用緩衝液中で90℃、2分間変性させた後、室温で10分間冷却した後、BSAがコートされたウェルに充填し、10分間静置した。その後、ウェルから回収したRNAにtRNAを加え、HAタンパク質がコートされたウェルに充填した。10分間インキュベートした後、結合用緩衝液1mlで洗浄し、未吸着のRNAを取り除いた。その後、タンパク質結合RNAを、500mMイミダゾール溶液で回収し、透析によりイミダゾールを除去後、回収したRNA溶液をエタノール沈殿で精製した。これらのRNAは上述した方法に従って、逆転写反応、PCR及び試験管内転写反応に供され、定量後、次回の選別及び増幅サイクルに用いられた。(1−4)フィルター結合定量法による解析 高親和性のアプタマーが濃縮されていく進行状況を評価するため、第7回、第10回及び第11回目の選別サイクルにおけるRNAプールの結合活性をフィルター結合定量法で解析した。[α-32P]ATPを使用して放射性標識(ラベル)したRNAを調製し、以前報告した方法(非特許文献6,7,8)に従ってフィルター結合分析を行った。結合反応では、モル濃度で5倍過剰の大腸菌tRNAを非特異的競争阻害剤として加え、RNAとHAタンパク質を1対5のモル比で混合し結合させた後、フィルターに通した。上記結合用緩衝液1mlでフィルターを洗浄後、空気中で乾燥し、フィルターに残留した標識RNAの放射活性を画像解析装置(BAS2500,富士フイルム社製)で定量した。結合活性は、反応液に入れたRNA全量の内、タンパク質に結合し、フィルターに残留したRNA量をパーセンテージで表した(図1)。解析の結果、いずれの選別サイクルにおいても、ターゲットタンパク質に結合するRNAの割合は、タンパク質濃度が高いほど増加することが確認できた。さらに、選別サイクルを経るほど、ターゲットタンパク質に結合するRNAの割合が増えており、ターゲットタンパク質に高い親和性を有するRNAが濃縮されていることが示唆された。(1−5)アプタマーRNAの塩基配列解析 個別のRNAの塩基配列を得るために、第11回目の選別サイクルで得たPCR産物をpGEM-T Easy Vector(Promega社製)へライゲーションした後、大腸菌にトランスフォームした。プラスミドDNAの個々のクローンをプラスミド精製キット(Promega社製)で単離し、DNA塩基配列をDye Terminator Sequencing kit(Applied Biosystems Inc.社製)とDNAシークエンサー(Model 373A,Applied Biosystems Inc.社製)を用いて配列を解読し、そのDNA塩基配列に相当するRNA塩基配列を求めた。 選別されたRNAの塩基配列のうち、アプタマーH7-16(配列番号4)は全体のおよそ2割に存在する共通の塩基配列(GGAGGAGGAGGN)(但しN=G,C or A)を持ち、アプタマーH7-17は、全体のおよそ1割が全く同じ塩基配列を占めることがわかった。二次構造解析ソフト「BayesFold」(version 1.01、http://bayes.colorado.edu/Bayes/上で解析可能)を用いてこれらのアプタマーの二次構造予測を行ったところ、図2に示すような二次構造が予測された。(1−6)BiacoreT100による各アプタマーとターゲットHAタンパク質との相互作用解析 選別されたアプタマーとHAタンパク質との相互作用解析を、表面プラズモン共鳴装置 (BiacoreT100)を用いて行った。 解析には、Sensor Chip SA(SAチップ)(GEヘルスケア)を利用した。SAチップには、ビオチン化分子を固定化するためにストレプトアビジンが予め固定化してあるので、5'-端ビオチン化チミンヌクレオチド鎖[5'-(dT)24-3']をビオチン化したものを、流速10μl/minで、2分間添加し、固定化を行った。次いで、3'-端に24塩基のアデニンヌクレオチドを付加したアプタマー(50-100nM)を流速2μl/minで10分間添加し、チミンヌクレオチド鎖にハイブリダイズさせた。 上記のSAチップへA/Netherlands/219/2003(H7N7)のHAタンパク質溶液(2.5-40nM)を流速30μl/minで2分間添加し、固定化されたアプタマーとの相互作用解析を行った。解析の結果、アプタマーH7-16及びH7-17は共に、ターゲットタンパク質への結合能を持ち、その解離定数Kd値はH7-16が66nM、H7-17は500pMであった(表2)。(1−7)BiacoreT100による各アプタマーの特異性解析 アプタマーH7-16とH7-17の特異性を調べるため、上述した方法に従って、異なる亜型との相互作用解析をBiacoreT100により行った。用いたHAタンパク質は、H1N1(A/California/04/2009)、H3N2(A/Panama/2007/1999)、H5N1(A/Vietnam/1203/2004及びA/Indonesia/05/2005)及びH9N2(A/HongKong/1073/1999)由来のものである。 さらに、取得したアプタマーの特異性をBiacoreT100で調べたところ、アプタマーH7-17はA/California/04/2009(H1N1)、A/HongKong/1073/1999(H9N2)に結合したものの、A/Netherlands/219/2003(H7N7)に比べて親和性は低く、Kd値はそれぞれ2.2μM、16μMであった(表2)。よって、アプタマーH7-17を用いてこれらの亜型を識別することは可能であると思われる。また、A/Panama/07/99(H3N2)、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)、及びA/Indonesia/05/2005(H5N1)に対しては、アプタマーH7-17は結合を示さなかった。 アプタマーH7-16は、A/California/04/2009(H1N1)にわずかに結合したが、A/Netherlands/219/2003(H7N7)に対するよりも親和性は低く(Kd=10μM)、両者を識別するには十分な差をもつ。よって、アプタマーH7-16を用いてこれらの亜型を識別することは可能であると思われる。また、A/Panama/07/99(H3N2)、A/Vietnam/1203/2004(H5N1)、A/Indonesia/05/2005(H5N1)及びA/HongKong/1073/1999(H9N2)に対しては、アプタマーH7-16は結合を示さなかった。[配列表フリーテキスト]1.(配列番号1)RNAランダムプール用テンプレート2.(配列番号2)RNAランダムプール用5’末端プライマー3.(配列番号3)RNAランダムプール用3’末端プライマー4.(配列番号4)アプタマーH7-165.(配列番号5)アプタマーH7-17 配列番号4または5のいずれかで示される塩基配列、または当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含むRNAからなることを特徴とする、H7N7型インフルエンザのHAタンパク質に対する結合能を有するアプタマーRNA。 配列番号4または5のいずれかで示される塩基配列、または当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含むRNAが構成する二次構造において、HAタンパク質に対する結合能を有する先端領域部の構造を保持するように短鎖化された塩基配列からなるアプタマーRNA。 アプタマーRNAを構成するヌクレオチドのリボース部位の少なくとも1箇所が、化学修飾されていることを特徴とする、請求項1及び2のいずれかに記載のアプタマーRNA。 前記化学修飾が、リボース部位の2’位に対するフルオロ基(2’-F)もしくはメトキシ基(2’-OMe)による修飾、又は水素による置換(2’-deoxy)であることを特徴とする、請求項1及び2のいずれかに記載のアプタマーRNA。 アプタマーRNAの3’及び/または5’末端がインバーストデオキシチミジン(idT)あるいはポリエチレングリコール(PEG)により修飾されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のアプタマーRNA。 請求項1または2に記載のアプタマーRNAと同一の塩基配列又は当該塩基配列と相補的な塩基配列を含み、かつ請求項1または2に記載のアプタマーに変換可能な一本鎖DNA、二本鎖DNA又は相補的RNA。 請求項1〜5のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として含有する、H7N7亜型インフルエンザウイルスの検出剤。 請求項1〜5のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として含有する、H7N7亜型インフルエンザウイルス用診断剤。 請求項1〜5のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として含有する、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質の亜型を特定するための診断用キット。 請求項1〜5のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として用いることを特徴とするH7N7亜型インフルエンザウイルスの検出方法。 請求項1〜5のいずれかに記載のアプタマーRNAを有効成分として用いることを特徴とする、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質の亜型を特定するための方法。 【課題】H7N7亜型インフルエンザウイルスの検査薬を提供する。【解決手段】鳥からヒトへの感染が確認されている、H7N7亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質をターゲットとするアプタマーを取得する。該アプタマーは特定の塩基配列、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含むRNA、又はさらに短鎖化されたRNAからなる、H7N7亜型インフルエンザのHAタンパク質に対する結合能を有するアプタマーRNA。【選択図】なし配列表