生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_セレウリドの検出方法および検出用キット
出願番号:2012096794
年次:2013
IPC分類:C12Q 1/06


特許情報キャッシュ

西川 禎一 JP 2013223438 公開特許公報(A) 20131031 2012096794 20120420 セレウリドの検出方法および検出用キット 公立大学法人大阪市立大学 506122327 野河 信太郎 100065248 甲斐 伸二 100159385 金子 裕輔 100163407 稲本 潔 100166936 冨田 雅己 100174883 西川 禎一 C12Q 1/06 20060101AFI20131004BHJP JPC12Q1/06 11 1 OL 12 4B063 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QR48 4B063QR75 4B063QS12 4B063QS40 本発明は、バシラス・セレウス(Bacillus cereus:以下、「セレウス菌」ともいう)が産生する嘔吐毒素であるセレウリドの検出方法および検出用キットに関する。 セレウス菌は、土壌などの自然環境から飼料や家畜の腸管内に至るまで広く分布している芽胞形成桿菌であり、食品を汚染する機会が多いことが知られている。セレウス菌による食中毒には、エンテロトキシンという毒素による下痢型と、セレウリドという毒素による嘔吐型との二種類が存在するが、わが国で発生するセレウス菌による食中毒はほとんどが嘔吐型である。セレウス菌は耐熱性芽胞を形成することが知られており、加熱調理された食品中に生き残った芽胞が発芽・増殖して、食中毒を引き起こす。 嘔吐毒素であるセレウリドは、セレウス菌のセレウリド合成酵素によって生合成される、分子量1,153の環状ペプチドである。このセレウリド自体も熱に非常に強く、強酸および強塩基、ならびにタンパク質分解酵素にも耐性を示す。したがって、食品中でセレウス菌が死滅していても、セレウリドがある程度の量で存在していれば食中毒が発生しうる。 セレウス菌による食中毒の検査では、当該菌による汚染が疑われる食品中の菌数を平板培養法によって算出し、その結果に基づいて食中毒の原因が判定されてきた。他方で、セレウス菌株の中には、セレウリドを産生しない非病原性株(セレウリド非産生株)も自然環境中に多数存在するが、この検査では、そのようなセレウリド非産生株のセレウス菌と、セレウリド産生株のセレウス菌とを識別することができない。また、食中毒の直接の原因はセレウリドであるところ、セレウス菌の存在自体は、食中毒を引き起こすのに十分な量のセレウリドが存在するか否かの証拠にはならない。それゆえ、セレウリド自体を検出および定量することが求められている。 セレウリドの検出には、従来、ヒト喉頭がん由来のHEp-2細胞の空胞変性の観察による生物学的検査が標準的検査法として用いられている。しかし、この検査では、HEp-2細胞を常時維持しておく必要があり、検査者の熟練した技術も要するので、簡便な検査とはいえない。また、この検査では、結果を得るまでに4日ほどかかるので迅速性に欠ける。 近年、液体クロマトグラフィおよび質量分析を用いる理化学的検査によって、セレウリドを検出することも行われている。しかし、このような理化学的検査では、結果を迅速に得ることはできるが、高価な測定機器を必要とする。 最近では、セレウス菌がセレウリド合成酵素遺伝子を保有するか否かを、PCR法により検出する方法も開発されている(特許文献1参照)。しかし、この方法は、セレウス菌がセレウリド産生株であるか否かを調べる方法であって、セレウリド自体を検出する方法ではない。国際公開第2003/097821号 上記のとおり、セレウリドの検出には種々の検査が利用されているが、簡便且つ迅速に結果を得ることができ、高価な測定機器を必要としない検査法の開発が望まれている。本発明者は、このような事情に鑑みて、セレウリドの新規な検出方法および検出用キットを提供することを目的とした。 本発明者は、嘔吐毒素であるセレウリドが、セレウス菌とは異なる所定の細菌株に対して抗菌作用を示すことを発見した。そして、本発明者は、セレウリドによる該細菌株に対する抗菌作用を指標とすることにより、セレウリドの検出が可能となることを見出して、本発明を完成した。 よって、本発明は、 セレウリドが存在する可能性のある試料を加熱する工程と、 上記の加熱する工程で得られた試料の存在下にセレウリド感受性菌を培養する工程と、 上記の培養する工程で得られた培養物における該セレウリド感受性菌に対するセレウリドの抗菌作用に基づいて、上記の試料中のセレウリドを検出する工程とを含む、セレウリドの検出方法を提供する。 また、本発明は、セレウリド感受性菌を含むセレウリド検出用キットを提供する。 本発明のセレウリドの検出方法によれば、試料中のセレウリドを簡便かつ迅速に検出することを可能にする。また、本発明のセレウリド検出用キットは、本発明のセレウリドの検出方法に好適に用いることができる。セレウス菌BC1(+) 株の培養上清の濃縮物の存在下にセレウリド感受性菌を培養した固形培地に生じた阻止円を示す写真である。(1)セレウリドの検出方法[加熱工程] 本発明のセレウリドの検出方法(以下、単に「検出方法」ともいう)では、まず、セレウリドが存在する可能性のある試料を加熱する。 本発明の実施形態において、セレウリドが存在する可能性のある試料は特に限定されないが、例えば、セレウス菌に汚染された疑いのある食品および飼料、セレウス菌による食中毒が疑われる生体から採取された検体、並びにセレウス菌の培養上清などが挙げられる。生体から採取された検体としては、例えば嘔吐物、排泄物、唾液、消化液などが挙げられる。特に好ましい実施形態においては、上記の試料から、当該技術において公知の方法により得られた、セレウリドを含みうる液体試料を用いる。そのような液体試料としては、例えば、上記の試料と水性媒体とを混合し、得られた混合液を遠心分離したときの上清が挙げられる。なお、水性媒体としては、例えば水、緩衝液などが挙げられ、好ましくは、食品衛生検査指針に定められた食品希釈用リン酸緩衝生理食塩水である。 さらに、セレウリドの検出感度を向上させるために、該液体試料中のセレウリドを公知の方法により濃縮してもよい。すなわち、本発明の実施形態において、検出方法は、セレウリドが存在する可能性のある試料からセレウリドを濃縮する工程をさらに含むことができる。そのような濃縮のための溶媒は、セレウリドを溶解可能な溶媒であれば特に限定されないが、例えば炭素数1〜3の低級アルコール、酢酸エチルなどが好適に用いられる。 上記のとおり、本発明の検出方法では、後述のセレウリド感受性菌に対するセレウリドの抗菌作用に基づいて、試料中のセレウリドを検出する。しかし、セレウリドは、それを産生するセレウス菌には抗菌作用を示さない。それゆえ、試料中にセレウス菌が残存している場合、正確な検出が妨げられてしまう。そこで、本発明の検出方法では、上記の試料を、セレウス菌を殺菌可能な条件下で加熱する。 本発明の実施形態において、加熱温度は、セレウス菌を殺菌可能な温度であれば特に限定されないが、通常75〜130℃であり、好ましくは100〜121℃である。また、この加熱温度における加熱時間は、セレウス菌が死滅する限り特に限定されないが、通常10〜60分であり、好ましくは15〜20分である。 本発明の実施形態において、試料の加熱方法は特に限定されないが、加熱温度および時間を設定可能な装置を用いて加熱することが好ましい。そのような装置としては、例えばオートクレーブが挙げられる。 ここで、セレウス菌株の中には、嘔吐毒素であるセレウリドに加えて、バクテリオシンと呼ばれる、自己とは異なる細菌株に対して抗菌作用を示すポリペプチドを産生する株が存在することが知られている。セレウス菌のバクテリオシンとしてはセレインが知られているが、セレインは、後述するセレウリド感受性菌に対して抗菌作用を示す可能性がある。他方で、セレインなどのバクテリオシンは、セレウリドとは異なって、加熱により容易に不活性化することが知られている。したがって、上記の加熱する工程によれば、バクテリオシンのようなセレウリド以外の抗菌物質を不活性化し、これらの抗菌物質による偽陽性を防止する効果も得られる。なお、バクテリオシンは、セレウス菌を殺菌可能な温度で加熱すれば十分に不活性化することができる。[培養工程] ついで、本発明の検出方法では、上記の加熱する工程で得られた試料(以下、「加熱試料」ともいう)の存在下にセレウリド感受性菌を培養する。 本願明細書において、「セレウリド感受性菌」とは、その生存および/または増殖がセレウリドによって阻害される性質を有する細菌をいう。したがって、この培養する工程では、加熱試料中にセレウリドが存在している場合、セレウリド感受性菌の生存および/または増殖が阻害されることとなる。 本発明の実施形態において、セレウリド感受性菌は、上記の性質を有する細菌であれば特に限定されないが、安全性の観点から非病原性細菌であることが望ましい。そのようなセレウリド感受性菌は、セレウリド産生株のバシラス・セレウスを除くバシラス属の細菌から選択されることが好ましく、例えばバシラス・スポロサーモデュランス(Bacillus sporothermodurans)が挙げられる。また、セレウリド感受性菌は、天然に存在する細菌であってもよいし、公知の方法により該細菌のセレウリド感受性が増強するように変異させた変異体であってもよい。なお、セレウリド感受性菌の入手手段については、該細菌自体が公知である場合、該細菌が生息している環境中から分離して入手してもよいし、微生物株保存機関から譲り受けてもよい。 なお、本発明においてはセレウリドに抗菌作用が見出されているので、ある細菌株のセレウリド感受性の有無は、例えば、該細菌株を、セレウリド標準品を用いた公知の増殖アッセイに付すことによって簡便に確認することができる。ここで、セレウリド標準品は、市販の精製セレウリド、または、セレウリド産生株のセレウス菌の培養上清から公知の方法により抽出および精製したセレウリドを、上記のように加熱処理して得ることができる。 本発明の検出方法に用いられる培地は、セレウリド感受性菌の種類に応じて、当該技術において公知の細菌用培地から適宜選択すればよい。また、本発明の実施形態において、培地は、液体培地であってもよいし、平板培地などの固形培地であってもよいが、操作の簡便性の観点から固形培地が好ましい。なお、培地の一例として、セレウリド感受性菌がバシラス・スポロサーモデュランスである場合は、ブレインハートインフュージョン培地、トリプトソーヤ寒天培地などが挙げられる。 本発明者は、培地にカリウム塩を添加することにより、メカニズムの詳細は不明であるが、セレウリドの検出感度が向上することを見出している。よって、本発明の実施形態においては、カリウム塩を含む培地(特に固形培地)を用いることが好ましい。本発明の実施形態において、カリウム塩は、セレウリド感受性菌の培養に影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、カリウムと無機酸または有機酸との塩から適宜選択できる。例えば、塩化カリウム、硫酸カリウム、リン酸二水素カリウム、酒石酸水素カリウムなどが挙げられ、それらの中でも塩化カリウムが特に好ましい。培地中のカリウム塩の濃度は、カリウム塩の種類および培養条件などに応じて適宜決定できるが、塩化カリウムを用いる場合は通常25 mM〜1Mであり、好ましくは100〜200 mMである。 培養する工程においては、培養方法は特に限定されず、セレウリド感受性菌の種類および後述の抗菌作用の評価手段に応じて、公知の細菌培養法から適宜選択すればよい。例えば、固形培地を用いる場合は、加熱試料を塗布した固形培地の表面でセレウリド感受性菌を培養するか、またはセレウリド感受性菌を塗布した固形培地の表面に加熱試料を接触させた状態で培養する。加熱試料を固形培地の表面に接触させる方法としては、加熱試料を滴下または塗布することなどが挙げられる。あるいは、固形培地の表面に、加熱試料を含ませた円形ディスクを配置してもよい。この場合、固形培地上に円形ディスクを中心として、加熱試料の濃度勾配が形成される。 上記のとおりセレウリドは耐熱性分子なので、固形培地の原料と加熱試料とを混合し、得られた混合物から固形培地を調製し、この固形培地でセレウリド感受性菌を培養してもよい。あるいは、セレウリド感受性菌としてバシラス・スポロサーモデュランスなどの耐熱性芽胞を形成する細菌を用いる場合、加熱によりゾル化した固形培地とセレウリド感受性菌とを混合し、得られた混合物をゲル化させて固形培地を調製し、この固形培地の表面に加熱試料を接触させて培養してもよい。なお、固形培地とセレウリド感受性菌または加熱試料との混合比率は、当該菌の培養が可能な程度であれば特に限定されず、適宜設定できる。 本発明の実施形態においては、固形培地に加熱試料を滴下するか、または加熱試料を含ませた円形ディスクを配置してセレウリド感受性菌を培養する方法が、該試料中にセレウリドが存在していたときに固形培地上に阻止円が形成されるので、特に好ましい。 また、液体培地を用いる場合は、該液体培地と加熱試料とを混合して、得られた混合物中でセレウリド感受性菌を培養する。この場合、液体培地と加熱試料との混合比率は特に限定されないが、後の検出工程でセレウリドの抗菌作用を評価しやすくするために、種々の比率で混合することが好ましい。 培養条件は、セレウリド感受性菌の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、培養温度は、セレウリド感受性菌がバシラス・スポロサーモデュランスである場合、通常25〜35℃、好ましくは28〜32℃である。また、培養時間は特に限定されず、セレウリドの抗菌作用を評価できるようになるまで培養すればよいが、通常は18〜24時間で十分である。[検出工程] 本発明の検出方法では、上記の培養する工程で得られた培養物におけるセレウリド感受性菌に対するセレウリドの抗菌作用に基づいて、試料中のセレウリドを検出する。 本願明細書において「セレウリドを検出する」とは、セレウリドの存在を見出すこと、および、セレウリドの量を測定することのいずれか一方または両方を意味する。 本発明の実施形態においては、上記の培養する工程で得られた培養物におけるセレウリド感受性菌の生存および/または増殖の程度を指標として、セレウリドの抗菌作用を評価することができる。具体的な評価手段としては、固形培地を用いた場合では、例えば、固形培地上の菌が繁殖しなかった領域(例えば、阻止円など)の有無の確認、およびその大きさの測定などが挙げられる。そのような領域が生じていることが確認できた場合、上記の試料中にセレウリドが存在していたと判定することができる。さらに、その領域の大きさに基づいて、試料中のセレウリド量の多寡を推測することができる。 また、液体培地を用いた場合では、例えば、培養物中の菌体数(全菌数および/または生菌数)の計測、培養物の吸光度の測定などが挙げられる。菌体数または吸光度の値が、加熱試料の非存在下での培養物に比べて低い場合、上記の試料中にセレウリドが存在していたと判定することができる。 本発明の実施形態においては、固形培地上に生じた阻止円の確認およびその大きさの測定が、操作が簡便で測定機器が不要であるので、セレウリドの抗菌作用の評価手段として特に好ましい。 なお、試料中のセレウリドを定量する場合は、次のとおりにすればよい。まず、上記の培養する工程で、濃度既知のセレウリド標準品の存在下にセレウリド感受性菌を培養する。次いで、その培養物について、上記と同様にしてセレウリドの抗菌作用を評価し、その結果に基づいて検量線を作成する。そして、得られた検量線を用いて、検査対象の試料の結果から該試料中のセレウリド量を求めることができる。(2)セレウリド検出用キット 本発明のセレウリド検出用キット(以下、単に「キット」ともいう)は、上記の本発明の検出方法に好適に用いられるキットであり、上記のセレウリド感受性菌を含む。 本発明のキットに含まれるセレウリド感受性菌については上記で述べたことと同様である。本発明の実施形態において、キットの構成品としてのセレウリド感受性菌の形態は特に限定されず、例えば、液体培地の培養物の形態であってもよいし、その凍結物の形態であってよい。また、バシラス・スポロサーモデュランスなどの芽胞形成性の細菌を採用する場合は、その芽胞の乾燥物の形態であってもよい。 本発明のキットは、カリウム塩を含む培地をさらに含んでいてもよい。なお、培地については上記で述べたことと同様である。また、操作の簡便性の観点から、本発明のキットは固形培地を含むことが好ましい。本発明の実施形態においては、セレウリド感受性菌の種類に応じて、キットは、セレウリド感受性菌と培地とを別個に含む構成としてもよいし、予め培地中にセレウリド感受性菌を播種した状態で含む構成としてもよい。 本発明のキットの使用方法は、上記の本発明の検出方法について述べたことと同様であるが、本発明キットはその使用方法が記載された説明書を含んでいてもよい。 本発明の実施形態において、キットは、試料からセレウリドを抽出および濃縮するための溶媒(例えば炭素数1〜3低級アルコール、酢酸エチルなど)、陽性対照としてのセレウリド標準品などをさらに含んでいてもよい。また、セレウリド感受性菌が芽胞乾燥物である場合、キットは、これを懸濁するための水性溶媒(例えば水、生理食塩水、緩衝液など)をさらに含んでいてもよい。 以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1: セレウリドの抗菌作用の検討(1)材料(1-1)供試菌株 セレウリド産生株のバシラス・セレウスとして、BC1(+) 株および08-151-3株を用いた。また、セレウリド非産生株のバシラス・セレウスとして、09-112-7株を用いた。これらのセレウス菌株は、本発明者が食中毒事例の検査時に分離して得た株である。また、セレウリド感受性菌として、バシラス・スポロサーモデュランスを用いた。この感受性菌は、本発明者が分離して得た細菌である。(1-2)培地・ブレインハートインフュージョン(BHI)液体培地 ブレインハートインフュージョン(37 g:Fluka社)を蒸留水(1L)に溶解し、これをオートクレーブで121℃、15分間滅菌して、BHI液体培地を得た。・BHI-SM液体培地 ブレインハートインフュージョン(37 g:Fluka社)およびスキムミルク(30 g)を蒸留水(1L)に溶解し、これをオートクレーブで121℃、15分間滅菌して、BHI-SM液体培地を得た。・トリプトソーヤ寒天培地(TSA) トリプトソーヤ寒天培地(40 g:日水製薬)を蒸留水(1L)に溶解し、これをオートクレーブで121℃、15分間滅菌した後、得られた液体をシャーレに20 mLずつ分注してTSA平板培地を得た。・TSA-KCl重層培地 トリプトソーヤ寒天培地(40 g:日水製薬)、および塩化カリウム(ナカライテスク)を所定の終濃度となるように蒸留水(1L)に溶解し、これをオートクレーブで121℃、15分間滅菌してTSA-KCl重層培地を得た。なお、塩化カリウムの終濃度は200 mM、400 mM、600 mM、800 mMおよび1Mとした。(1-3)セレウリド標準品 セレウリド標準品として、精製セレウリド(バイオコントロール研究所)を用いた。なお、陽性対照としてのセレウリド標準品は、未処理の精製セレウリドと、100℃および121℃で15分間加熱処理した精製セレウリドとの3種を用意した。(2)セレウリド培養上清からのセレウリドの濃縮 BHI培地で前培養した各セレウリド産生株(300μL)をBHI-SM培地(150 mL)に添加し、30℃にて120 rpmで20時間振とう培養した。培養物を室温にて8000 rpmで15分間遠心分離し、得られた上清をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)で濾過した。得られた濾液の一部を取って保存し、残りの濾液に1.5倍量の酢酸エチル(和光純薬工業)を加え、ホモジナイザー(三井電気精機製)を用いて1分間ホモジナイズした。これを室温にて12000 rpmで10分間遠心分離し、酢酸エチル画分を回収して、エバポレーターにより濃縮乾固した。得られた固形物に75%メタノール(150μL)を添加して、超音波処理により溶解して、培養上清の濃縮物を得た。なお、各菌の培養上清および濃縮物をそれぞれ等分し、一方には加熱せず未処理とし、他方には100℃で15分間加熱処理した。(3)HEp-2細胞を用いる空胞変性試験によるセレウリドの確認 上記(2)で得られた培養上清および濃縮物(以下、これらを単に「試料」ともいう)にセレウリドが存在するか否かを空胞変性試験により検討した。まず、各試料をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈して、96ウェルプレートに2倍段階希釈系列を調製した。また、陽性対照として、セレウリド標準品を用いた。コンフルエントにまで培養したHEp-2細胞をトリプシン処理により剥離し、1%ウシ胎仔血清含有EMEM(10 mL)で懸濁して得られた細胞懸濁液(約105 cells/mL)を各ウェルに100μLずつ添加した。これをCO2インキュベータにて37℃で48時間培養した。その後、上清をアスピレーターで除き、細胞をメタノール固定した。固定した細胞を10 %ギムザ液で染色して、位相差顕微鏡で空胞を観察した。1個の細胞の細胞質内に空胞を10個以上有する細胞が、全細胞の30%以上を占めるウェルに添加した試料をセレウリド陽性と判定し、それ以外を陰性と判定した。なお、陽性対照としてセレウリド標準品を用いて、同様の試験を行った。結果を以下の表1に示す。表中、「+」は陽性、「−」は陰性を示す。 表1より、セレウリド標準品は100℃および121℃で加熱しても、HEp-2細胞の空胞変性を誘導する活性が残存していることがわかった。また、BC1(+) 株の培養上清および濃縮物、並びに08-151-3株の培養上清の濃縮物では、HEp-2細胞の空胞変性が認められたことから、これらの試料にはセレウリドが存在することがわかった。他方で、セレウリド非産生株である09-112-7株の培養上清および濃縮物では、HEp-2細胞における空胞変性が認められなかったことから、この濃縮物にはセレウリドが存在しないことがわかった。これらの抽出物および濃縮物を、以下の試験に用いた。(4)セレウリドの抗菌作用の検討 セレウリドが、セレウリド感受性菌であるバシラス・スポロサーモデュランスに対して抗菌作用を示すか否かを検討した。 ブレインハートインフュージョン培地で前培養したバシラス・スポロサーモデュランス(1mL、1×108 CFU)を、加熱により溶解したTSA-KCl重層培地(5mL)に加えて混合し、得られた混合液をTSA平板培地上に流し固めた。培地が固まった後、得られた固形培地上に上記の試料(10μL)を滴下して、30℃で一晩培養した。培養後、固形培地に透明な阻止円が生じているか否かを確認した。なお、陽性対照としてセレウリド標準品を用いて、同様の試験を行った。 結果を以下の表2に示す。表中、「+」は阻止円の形成が認められたこと、「−」は阻止円の形成が認められなかったことを示す。また、セレウリド標準品、または100℃で加熱処理したBC1(+) 株の培養上清の濃縮物を滴下した固形培地に形成された阻止円の写真を、図1に示す。 セレウリド標準品は100℃および121℃で加熱しても、バシラス・スポロサーモデュランスを培養した固形培地において阻止円が生じた。よって、セレウリドは、バシラス・スポロサーモデュランスに対して抗菌作用を示すことがわかった。なお、阻止円は、200 mM 〜1MのいずれのKCl濃度の培地においても観察された。 他方で、セレウリド非産生株である09-112-7株の培養上清および濃縮物では、阻止円の形成は認められなかった。この結果は、上記の空胞変性試験の結果と合致している。 BC1(+) 株の培養上清については、非加熱試料では阻止円が生じたが、加熱処理した試料では阻止円は生じなかった。他方で、加熱処理したBC1(+) 株の培養上清には空胞変性活性が認められていたことから、非加熱試料による阻止円の形成はセレウリド以外の抗菌物質、すなわちセレインによると考えられる。また、BC1(+) 株の培養上清の濃縮物は加熱処理しても阻止円が生じたことから、滴下した培養上清中のセレウリド量が、阻止円の形成には不足していたと考えられる。なお、阻止円は、200 mM〜1MのいずれのKCl濃度の培地においても観察された。 08-151-3株の培養上清については、非加熱試料および加熱処理した試料のいずれでも阻止円は形成されなかった。他方で、濃縮物については、非加熱試料および加熱処理した試料の両方で阻止円の形成が認められた。 上記の結果より、セレウリド感受性菌に対するセレウリドの抗菌作用を指標とすることにより、セレウリドの検出が可能となることが示された。実施例2: 食品中のセレウリドの検出(1)材料(1-1)供試菌株 セレウリド産生株のバシラス・セレウスとして、03-137-1株を用いた。このセレウス菌株は、本発明者が食中毒事例の検査時に分離して得た株である。また、セレウリド感受性菌として、実施例1と同じバシラス・スポロサーモデュランスを用いた。(1-2)食品 食品として、市販の無菌包装米飯(200 g:佐藤食品工業)を用いた。(1-3)食品希釈用PBS リン酸二水素カリウム(無水)(34 g:和光純薬工業)を蒸留水(50 mL)に溶解し、これに1N水酸化ナトリウム(約175 mL:和光純薬工業)を加えてpHを7.2に調整し、蒸留水で1Lにメスアップした。得られた溶液をオートクレーブにより121℃で20分間滅菌して、これを原液とした。この原液を蒸留水で1:800に希釈し、オートクレーブにより121℃で20分間滅菌して、食品希釈用PBSを得た。(2)食品からのセレウリドの抽出 03-137-1株をBHI液体培地に播種して、30℃で12時間培養した。培養物を食品希釈用PBSで1:1×106に希釈して、接種用菌液(1.9 cfu/g)を調製した。無菌包装米飯の包装をはがし、接種用菌液(5mL)を米飯上に均一に散布した。散布後、米飯にふたをしてシールし、30℃でインキュベーションした。インキュベーション開始から0、12、24、48および72時間において、米飯を25 gずつ採取した。採取した米飯を食品希釈用PBSで10倍希釈して、ストマッカーを用いてホモジナイズした。これを室温にて12000 rpmで10分間遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を121℃で10分間加熱して、試料を得た。(3)抗菌作用の検討 ブレインハートインフュージョン培地で前培養したバシラス・スポロサーモデュランス(1mL、1×108 CFU)を、加熱により溶解したTSA-KCl重層培地(5mL)に加えて混合し、得られた混合液をTSA平板培地上に流し固めた。培地が固まった後、得られた固形培地上に上記の試料(10μL)を滴下して、30℃で一晩培養した。培養後、固形培地に透明な阻止円が生じているか否かを確認した。その結果、48および72時間インキュベーションした米飯から得た試料を滴下した固形培地において阻止円が生じた。 よって、本発明の検出方法によって、バシラス・セレウスに汚染された食品中のセレウリドを検出できることが示された。 セレウリドが存在する可能性のある試料を加熱する工程と、 前記加熱する工程で得られた試料の存在下にセレウリド感受性菌を培養する工程と、 前記培養する工程で得られた培養物における前記セレウリド感受性菌に対するセレウリドの抗菌作用に基づいて、前記試料中のセレウリドを検出する工程とを含む、セレウリドの検出方法。 セレウリド感受性菌が、セレウリド産生株のバシラス・セレウスを除くバシラス属の細菌およびその変異体から選択される請求項1に記載の検出方法。 セレウリド感受性菌が、バシラス・スポロサーモデュランスおよびその変異体から選択される請求項1または2に記載の検出方法。 加熱する工程が、バシラス・セレウスを殺菌可能な条件下で行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の検出方法。 バシラス・セレウスを殺菌可能な条件が、75〜130℃で10〜60分間の加熱条件である請求項1〜4のいずれか1項に記載の検出方法。 培養する工程が、カリウム塩を含む培地を用いて行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載の検出方法。 カリウム塩を含む培地が、固形培地である請求項6に記載の検出方法。 検出する工程が、固形培地に生じる阻止円の大きさに基づいて、試料中のセレウリドを検出する工程である請求項7に記載の検出方法。 セレウリド感受性菌を含むセレウリド検出用キット。 カリウム塩を含む培地をさらに含む請求項9に記載のセレウリド検出用キット。 カリウム塩を含む培地が、固形培地である請求項10に記載のセレウリド検出用キット。 【課題】 本発明は、簡便且つ迅速に結果を得ることができ、高価な測定機器を必要としない新たなセレウリド検出方法を提供することを課題とする。【解決手段】 セレウリドが存在する可能性のある試料を加熱する工程と、この加熱する工程で得られた試料の存在下にセレウリド感受性菌を培養する工程と、この培養する工程で得られた培養物における、該セレウリド感受性菌に対するセレウリドの抗菌作用に基づいて、上記の試料中のセレウリドを検出する工程とを含むセレウリドの検出方法により、上記の課題を解決する。【選択図】 図1


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る