生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_高度腎機能障害を有する血栓塞栓症患者の血栓塞栓症の予防治療剤
出願番号:2012082279
年次:2015
IPC分類:A61K 31/4439,A61P 7/02,A61P 9/10,A61P 13/12


特許情報キャッシュ

木村 哲也 熊倉 智彦 橘 正哉 松本 千晶 阿部 研自 JP WO2013089164 20130620 JP2012082279 20121213 高度腎機能障害を有する血栓塞栓症患者の血栓塞栓症の予防治療剤 第一三共株式会社 307010166 石橋 公樹 100146581 北野 範子 100113583 竹元 利泰 100161160 児玉 博宣 100164460 金原 玲子 100119622 木村 哲也 熊倉 智彦 橘 正哉 松本 千晶 阿部 研自 JP 2011273516 20111214 A61K 31/4439 20060101AFI20150331BHJP A61P 7/02 20060101ALI20150331BHJP A61P 9/10 20060101ALI20150331BHJP A61P 13/12 20060101ALN20150331BHJP JPA61K31/4439A61P7/02A61P9/10A61P13/12 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC 再公表特許(A1) 20150427 2013549301 19 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086BC84 4C086GA08 4C086GA10 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA36 4C086ZA54 4C086ZA81 本発明は、エドキサバンを含有する、高度腎機能障害を有する血栓塞栓症患者の、血栓塞栓症の予防剤及び/又は治療剤に関する。 近年、ワルファリンに代わる経口抗凝固薬の開発が目覚しく、直接トロンビン阻害剤であるダビガトランや、活性化血液凝固第X因子(activated blood coagulation factor X)(本明細書中、FXaと称する。)阻害剤であるエドキサバン、リバロキサバン、アピキサバンなどが新たに見出されている。 エドキサバントシル酸塩水和物(特許文献1及び2)は、日本において、人工膝関節全置換術(Total Knee Replacement:本明細書中、TKRと称する。)、人工股関節全置換術(Total Hip Replacement:本明細書中、THRと称する。)又は股関節骨折手術(Hip Fracture Surgery:本明細書中、HFSと称する。)施行患者における静脈血栓塞栓症(Venous Thromboembolism:本明細書中、VTEと称する。)の発症抑制を適応症として、商品名リクシアナ(登録商標)錠として販売されている。エドキサバントシル酸塩水和物はまた、非弁膜症性心房細動(Non-Valvular Atrial Fibrillation:本明細書中、NVAFと称する。)に起因する脳梗塞症又は全身性塞栓症を適応症としてフェーズIII国際共同治験が進められている(非特許文献1及び2)。 リクシアナ(登録商標)錠の用法・用量として、通常、成人に、エドキサバン30mgが1日1回経口投与される。リクシアナ(登録商標)錠は、腎機能障害のある患者では血中濃度が上昇し出血の危険性が増大するおそれがあるので、中等度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス(本明細書中、CLCRと称する。)30mL/min以上50mL/min未満)がある患者では、個々の患者の静脈血栓塞栓症発現リスク及び出血リスクを評価した上で、適宜15mg、1日1回に減量して投与され、さらに、高度腎機能障害(CLCR30mL/min未満)のある患者については、禁忌となっている(非特許文献3)。また、エドキサバンを含有する医薬組成物は、その投与量が投与を必要とする患者の用量決定因子の基準値を基に選択され得ることが知られている(特許文献3)。 エドキサバンは、腎機能障害者を対象として臨床試験が行われ、当該試験では、腎機能障害者におけるエドキサバンの薬物動態が検討された(非特許文献4)。この臨床試験では、腎機能障害の程度が異なる5つの患者群に、15mgのエドキサバンが単回投与された。 また、TKR、THR、HFS施行後のVTE発症抑制を効能、効果として申請されたリクシアナ(登録商標)錠の審査報告書等には、申請者が、CLCRが30mL/min未満の患者は臨床試験成績がほとんどないことから、投与はVTEリスクと出血リスクを勘案して慎重に判断すべきであり、投与すべきと考えられる場合であっても減量が必要と考えていたこと、これに対し、医薬品医療機器総合機構及び専門協議の専門委員が、CLCRが30mL/min未満の患者ではリクシアナ(登録商標)錠の安全性は不明であること、VTEを回避するベネフィットに対し許容できない出血リスクが伴う可能性があること、及び抗凝固薬の投与以外でVTEのリスクを低減させることができることなどを理由に、CLCRが30mL/min未満の患者ではリクシアナ(登録商標)錠を禁忌とすべきと判断したことが記載されている(非特許文献5〜9)。 ダビガトラン、リバロキサバン及びアピキサバンは、各血栓塞栓症を適応症として臨床試験が進められているか又は承認されている。いずれの化合物も、腎機能障害者に対して除外基準を設けて臨床試験行ったり、各臨床試験に基づいて、腎機能障害者に対して適宜減量、注意、推奨しない、禁忌などの条件を付けて承認されたりしている。エドキサバン、リバロキサバン、アピキサバン及びダビガトランは、FXa又はトロンビンを中心とする血液凝固カスケードに作用する低分子化合物という点では共通するが、化合物の構造は大きく異なり、代謝経路、排泄経路、蛋白結合率、バイオアベイラビリティ、終末相の消失半減期(本明細書中、t1/2と称する。)及び/又は最高血漿中濃度到達時間(tmax)などの薬物動態が大きく異なることが知られている(非特許文献10)。WO2003/000657WO2003/000680WO2010/071164Thromb. Haemost. 2010 Sep;104(3):633-41Am. Heart J. 2010 Oct;160(4):635-41リクシアナ(登録商標)錠 添付文書 2011年7月改訂(第2版)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医療用医薬品の承認審査情報のホームページ(http://www.info.pmda.go.jp/approvalSrch/PharmacySrchInit?)、リクシアナ(登録商標)錠、申請資料概要、2.7.6 個々の試験のまとめ 114-128, 2011年7月25日Web公開独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医療用医薬品の承認審査情報のホームページ(http://www.info.pmda.go.jp/approvalSrch/PharmacySrchInit?)、リクシアナ(登録商標)錠、申請資料概要、2.5 臨床に関する概括評価 48-76, 2011年7月25日Web公開独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医療用医薬品の承認審査情報のホームページ(http://www.info.pmda.go.jp/approvalSrch/PharmacySrchInit?)、リクシアナ(登録商標)錠、申請資料概要、2.7.2 臨床薬理試験 30-32の「2.3.2 欧州腎機能障害PK」の節, 2011年7月25日Web公開リクシアナ(登録商標)錠 平成23年2月9日付審査報告書 41-43の「(2)腎機能障害患者やP-gp阻害剤との併用時の減量の妥当性」の節, 2011年7月25日Web公開リクシアナ(登録商標)錠 平成23年2月9日付審査報告書 66-69の「(7)1腎機能障害者」の節, 2011年7月25日Web公開リクシアナ(登録商標)錠 平成23年2月9日付審査報告書 74-78, 2011年7月25日Web公開Circ. J., 2011, Vol.75, 1539-1547 高度腎機能障害を有する血栓塞栓症患者のための、安全性の高い経口投与可能な血栓塞栓症の予防剤及び/又は治療剤が求められており、特に、高度腎機能障害を有する心房細動(Atrial Fibrillation:本明細書中、AFと称する。)患者は、血栓塞栓症のリスクが高く、長期間の抗凝固療法を必要とする集団であり、当該患者に適用できる安全性の高い経口投与可能な抗凝固剤の開発が求められている。 本発明者らは、高度腎機能障害を有する血栓塞栓症の患者であっても、1日1回15mgのエドキサバンを用いることで出血のリスクを回避しつつ、かつ、血栓塞栓症を有効に予防できることを見出した。また、本発明者らは、高度腎機能障害を有する血栓塞栓症の患者であっても、1日1回15mgのエドキサバンであれば長期間にわたって安全に、血栓塞栓症を有効に予防することができることを見出した。 すなわち、本発明は:[1]1日1回15mgのエドキサバンが投与されることを特徴とする、エドキサバンを含有する、高度腎機能障害を有する血栓症患者及び/又は塞栓症患者の血栓症及び/又は塞栓症の予防剤及び/又は治療剤;[2]前記患者のクレアチニンクリアランスが、15mL/分以上30mL/分未満である、[1]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[3]少なくとも15日以上連続及び/又は断続して投与される、[1]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[4]前記血栓症及び/又は塞栓症が、静脈血栓塞栓症、又は、心房細動に起因する血栓症及び/又は塞栓症である、[1]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[5]前記静脈血栓塞栓症が、術後患者の静脈血栓塞栓症である、[4]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[6]前記静脈血栓塞栓症が、急性期の静脈血栓塞栓症である、[4]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[7]前記心房細動に起因する血栓症及び/又は塞栓症が、心房細動に起因する脳梗塞症、全身性塞栓症又は脳卒中である、[4]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[8]エドキサバンを含有する医薬組成物及びエドキサバンを1日1回15mgずつ投与することを指示する指示書を含む、高度腎機能障害を有する血栓症患者及び/又は塞栓症患者の血栓症及び/又は塞栓症を予防及び/又は治療するためのキット;[9]1日1回15mgのエドキサバンを患者に投与することを特徴とする、高度腎機能障害を有する血栓症患者及び/又は塞栓症患者の血栓症及び/又は塞栓症を予防及び/又は治療する方法;[10]15mgのエドキサバンが、高度腎機能障害を有する心房細動患者に対して1日1回投与されるように用いられることを特徴とする、エドキサバンを含有する血栓塞栓症の予防剤及び/又は治療剤;[11]前記患者のクレアチニンクリアランスが、15mL/分以上30mL/分未満である、[10]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[12]少なくとも15日以上連続及び/又は断続して投与されるように用いられる、[10]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[13]前記血栓塞栓症が、心房細動に起因する血栓塞栓症である、[10]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[14]前記心房細動に起因する血栓塞栓症が、心房細動に起因する脳梗塞症、全身性塞栓症又は脳卒中である、[13]に記載の予防剤及び/又は治療剤;[15]前記心房細動が非弁膜性心房細動である、[10]〜[14]いずれか1項に記載の予防剤及び/又は治療剤;ならびに[16]1日1回15mgのエドキサバンを患者に投与することを特徴とする、高度腎機能障害を有する心房細動患者の血栓塞栓症を予防及び/又は治療する方法;に関する。 本発明により、高度腎機能障害を有する患者であってもエドキサバンにより血栓塞栓症を予防、抑制または治療することができる。 最初に、本明細書中で使用する用語について、説明する。 本明細書において、「腎機能障害」とは、「軽度腎機能障害」、「中等度腎機能障害」、「高度腎機能障害」および「腎不全」の総称として使用される。 本明細書において、「軽度腎機能障害」とは、CLCRを用いて表現すると、CLCRが50mL/分以上80mL/分以下のこと又はCLCRが50mL/分以上80mL/分以下の人のことをいう。 本明細書において、「中等度腎機能障害」とは、CLCRを用いて表現すると、CLCRが30mL/分以上50mL/分未満のこと又はCLCRが30mL/分以上50mL/分未満の人のことをいう。 本明細書において、「高度腎機能障害」とは、重度腎機能障害ともいわれ、CLCRを用いて表現すると、CLCRが30mL/分未満のこと又はCLCRが30mL/分未満の人のことをいう。 本明細書において、「腎不全」とは、より重篤な高度腎機能障害であり、CLCRを用いて表現すると、CLCRが15mL/分未満のこと又はCLCRが15mL/分未満の人のことをいう。「腎不全」とは、一般に透析が必要な程度の腎機能障害のことをいう。本明細書において、「腎不全」、「腎不全患者」及び「腹膜透析患者」は、それぞれ同義として交換可能に使用され得る。 本明細書において腎機能障害の程度は、主としてCLCRの値を用いて説明されるが、当業者であれば、腎機能障害の程度の表現として推算糸球体濾過量(Estimated Glomerular Filtration Rate、eGFR)があり、CLCRとeGFRは相互に換算し得ることを認識する。 本明細書において、「静脈血栓塞栓症」(VTE)とは、深部静脈血栓症(術後患者の深部静脈血栓症及び急性期の深部静脈血栓症を含む。)、肺塞栓症(術後患者の肺塞栓症及び急性期の肺塞栓症を含む。)の総称として使用される。 本明細書において、「心房細動」(AF)には、非弁膜症性心房細動(NVAF)が含まれるが、これに限定されない。 本明細書において、「術後患者」とは、手術が行われた患者のことをいい、手術に至った理由は特に限定されない。「術後患者」は、術後入院している患者に限定されず、手術後退院したが手術に起因する血栓塞栓症の兆候を観察するために通院が必要な患者も含む。 本明細書において、「下肢手術」とは、下肢に行われる手術であれば特に限定されないが、例えば、下肢外科手術又は下肢整形外科手術が挙げられる。 本明細書において、「下肢整形外科手術」は、整形外科領域で行われる下肢手術であれば特に限定されないが、例えば、TKR、THR又はHFSが挙げられる。 本明細書において、「予防」とは病気及び/又は病態を未然に防ぐことをいい、二次予防も含む。 本明細書において、クレアチニンクリアランス(CLCR)は、Cockcroft-Gault式を用いて算出される。Cockcroft-Gault式男性:{(140-年齢)×体重(kg)}÷{72×血清クレアチニン値(mg/dL)}女性:[{(140-年齢)×体重(kg)}÷{72×血清クレアチニン値(mg/dL)}]×0.85 次に、本発明について説明する。 下記の式(I)で表されるN1-(5-クロロピリジン-2-イル)-N2-((1S,2R,4S)-4-[(ジメチルアミノ)カルボニル]-2-{[(5-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロチアゾロ[5,4-c]ピリジン-2-イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド(N1-(5-Chloropyridin-2-yl)-N2-((1S,2R,4S)-4-[(dimethylamino)carbonyl]-2-{[(5-methyl-4,5,6,7-tetrahydrothiazolo[5,4-c]pyridin-2-yl)carbonyl]amino}cyclohexyl)ethanediamide)は、国際一般名称(International Nonproprietary Names, INN)を、エドキサバン(edoxaban)、N-(5-クロロピリジン-2-イル)-N’-[(1S,2R,4S)-4-(N,N-ジメチルカルバモイル)-2-(5-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロ[1,3]チアゾロ[5,4-c]ピリジン-2-カルボキサミド)シクロヘキシル]オキサミド(N-(5-chloropyridin-2-yl)-N'-[(1S,2R,4S)-4-(N,N-dimethylcarbamoyl)-2-(5-methyl-4,5,6,7-tetrahydro[1,3]thiazolo[5,4-c]pyridine-2-carboxamido)cyclohexyl]oxamide)という。 リクシアナ(登録商標)錠は、下記の式(Ia)で表されるエドキサバントシル酸1水和物を有効成分として、日本で販売されている。 エドキサバントシル酸塩1水和物は体内に吸収された薬物の約50%が未変化体として腎臓から排泄され、CLCRの低下に伴って血漿中のエドキサバンの量は上昇する。腎機能障害者を対象とした臨床薬理試験では、健康成人と比較して腎機能障害者では投与後24時間までの血漿(血液)中濃度−時間曲線下面積(本明細書中、AUC0-24hと称する。)の上昇、t1/2の延長傾向、投与24時間後の血漿中エドキサバン濃度(本明細書中、C24hと称する。)の上昇、及び腎クリアランス(本明細書中、CLRと称する。)の低下が認められた。中等度腎機能障害者では、健康成人と比較してAUC0-24hは1.65倍、C24hは2.52倍に上昇した。また、中等度腎機能障害者と比較して高度腎機能障害者ではAUC0-24hや最高血漿中濃度(本明細書中、Cmaxと称する。)に大きな差は認められなかったものの、t1/2の延長及びC24hの上昇が認められた。高度腎機能障害者でのC24h上昇の程度は、健康成人の約3倍、軽度腎機能障害者の約2倍であった(表1)。 リクシアナ(登録商標)錠の審査報告書等には、申請者が、TKR、THR又はHFSを受けた患者のVTE予防に関し、日本TKR第II相試験を対象とした解析の結果から、CLCRが30mL/min未満の場合、当該薬を1日1回15mgで使用し得ることを申請していたことが記載されている。また、当該報告書等には、医薬品医療機器総合機構及び専門協議の専門委員が、CLCRが30mL/min未満の患者ではリクシアナ(登録商標)錠の安全性は不明であること、VTEを回避するベネフィットに対し許容できない出血リスクが伴う可能性があること、及び抗凝固薬の投与以外でVTEのリスクを低減させることができることなどを理由に、CLCRが30mL/min未満の患者ではリクシアナ(登録商標)錠を禁忌とすべきと判断したことが記載されている(非特許文献5〜9)。 リクシアナ(登録商標)錠の添付文書には、リクシアナ(登録商標)錠は、下肢整形外科手術施行患者に、原則として、術後の入院中に限って使用すること、投与期間については、患者個々の静脈血栓塞栓症及び出血のリスクを考慮して決定すべきであり、静脈血栓塞栓症のリスク低下後に漫然と継続投与しないこと、国内臨床試験において、下肢整形外科手術施行患者を対象として15日間以上投与した場合の有効性及び安全性は検討されていないことが記載されている。 抗凝固剤としてFXa阻害剤が術後患者の血栓塞栓症の予防及び/又は治療に使用される場合、投与期間は短期間、例えば、術後(例えば、外科及び/又は整形外科手術後。以下、同様)5日間、術後1週間、術後10日間又は術後2週間である。一方、抗凝固剤としてFXa阻害剤が急性期の血栓塞栓症の予防及び/又は治療、あるいは、AF患者の血栓塞栓症の予防及び/又は治療に使用される場合、投与期間は長期間、例えば、5日以上、1週間以上、10日以上、2週間以上、15日以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、半年以上又は1年以上である。 AFと慢性腎臓病(chronic kidney disease:本明細書中、CKDと称する。)はいずれも加齢に伴って有病率が高まる疾患であり、CKD患者では特にAFの有病率が高いことが報告されている。また、AF患者での腎機能の低下は血栓塞栓症の発症リスクを高める独立した因子とされている。このため、高度腎機能障害を有するAF患者は、虚血性脳卒中や全身性血栓塞栓症のリスクが高く、長期間の抗凝固療法を必要とする集団である。一方で、高度腎機能障害を有する患者では血小板機能の低下が認められるため、出血リスクが高い集団でもある。現時点で国内外の医療現場で高度腎機能障害を有するAF患者に使用されている抗凝固薬はワルファリンのみである。しかし、ワルファリンには薬効発現の個人差や食物や薬物との相互作用による用量調節の困難さがあり、また、腎機能障害の程度に伴ってワルファリン投与による大出血発現率が高まる傾向にあることが報告されている。このため、高度腎機能障害を有するAF患者での出血リスクと血栓塞栓症発症抑制効果のバランスに優れ、より管理しやすい経口投与可能な抗凝固薬の開発は重要である。 高度腎機能障害を有する血栓塞栓症の治療が必要な患者の集団に、長期間(例えば、15日以上)にわたってエドキサバンが投与され、その安全性及び/又は有効性が統計的に評価されたことはまだない。 本発明の予防剤及び/又は治療剤は、好ましくは、連続して及び/又は断続して、5日以上、1週間以上、10日以上、2週間以上、15日以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、半年以上又は1年以上投与される。本発明の予防剤及び/又は治療剤は、術後患者の静脈血栓塞栓症の発症抑制に使用される場合、好ましくは、連続して及び/又は断続して、1〜14日間投与される。本発明の予防剤及び/又は治療剤は、急性期の静脈血栓塞栓症の予防及び/又は治療に使用される場合、好ましくは、連続して及び/又は断続して、5日以上、1週間以上、10日以上、2週間以上、15日以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、半年以上又は1年以上投与される。本発明の予防剤及び/又は治療剤は、心房細動に起因する血栓塞栓症、例えば、心房細動に起因する脳梗塞症、全身性塞栓症又は脳卒中の予防及び/又は治療に使用される場合、好ましくは、連続して及び/又は断続して、5日以上、1週間以上、10日以上、2週間以上、15日以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、半年以上又は1年以上投与される。 本明細書において、「高度腎機能障害」は、CLCRが30mL/分未満のこと又はそのような人のことをいうが、その好ましいCLCRの範囲としては、30mL/分未満15mL/分以上が挙げられる。 本明細書において、「術後患者」は、好ましくは、手術後14日以下の患者をいう。 本発明の予防剤及び/又は治療剤が適用される術後患者としては、好ましくは、下肢手術を受けた患者が挙げられ、より好ましくは、整形外科領域で行われる下肢手術を受けた患者が挙げられ、より好ましくは、TKR、THR又はHFSを受けた患者が挙げられる。 本発明の医薬組成物、予防剤及び/又は治療剤の剤型は、経口投与可能な剤型であればよく、固形製剤であっても非固形製剤であってもよいが、好ましくは、固形製剤である。 経口投与可能な固形製剤は、特に制限されないが、錠剤(口腔内崩壊錠を含む。)、顆粒剤(細粒を含む。)、散剤又はカプセル剤が好ましい。経口投与可能な固形製剤の製造方法は、固形製剤の周知の製造方法を採用することができる。 本発明の医薬組成物が固形製剤である場合、該固形製剤は、コーティング剤を配合していてもよい。コーティング固形製剤は、錠剤等の固形製剤をコーティングしたものに限られず、コーティング剤を配合した種々の固形製剤を含む。例えば、エドキサバン、その薬理上許容される塩又はそれらの溶媒和物を含有する固形製剤において、コーティング剤が、該固形製剤中にマトリックス状に配合される固形製剤等も含まれる。 本発明はまた、エドキサバンを含有する医薬組成物及びエドキサバンを1日1回15mgずつ投与することを指示する指示書を含む、高度腎機能障害を有する血栓塞栓症患者の血栓塞栓症を予防及び/又は治療するためのキットに関する。当該キットに含まれる医薬組成物は、上述したような経口投与可能な剤型であればよい。キットの形態は特に限定されず、例えば、包装されたエドキサバンを含有する医薬組成物と、服用を指導する指示書(例えば、添付文書)を含む包装された容器が挙げられる。指示書は、添付文書のように独立した用紙として存在していてもよいし、エドキサバンを含有する医薬組成物を入れる容器に貼付されていてもよく、その添付の方法は特に限定されない。 本発明はまた、1日1回15mgのエドキサバンを患者に投与することを特徴とする、高度腎機能障害を有する血栓塞栓症患者の、血栓塞栓症の予防方法及び/又は治療方法に関する。エドキサバンは、1日1回15mg患者に投与されればよく、その投与形態は特に限定されないが、好ましくは、経口投与される。経口投与の場合、固形製剤が投与されても非固形製剤が投与されてもよいが、好ましくは、固形製剤が投与され、より好ましくは、錠剤が投与される。固形製剤は、1日1回15mgのエドキサバンが投与される態様であればよく、15mgのエドキサバンが1製剤(例えば、1錠又は1包)に含まれていてもよいし、15mgのエドキサバンが複数製剤(例えば、2錠以上又は2包以上)に分かれて含まれていてもよい。あるいは、固形製剤は、分割して使用され当該分割した1回用量にエドキサバンが15mg含まれる態様の製剤であってもよい。固形製剤が錠剤の場合、当該錠剤は、分割した1回用量がエドキサバンを15mg含むように設計された分割して使用される錠剤(ここで、当該錠剤は、分割した使用に対し効果及び安全性が適切に確保されるように設計されている)、例えば、2分割して使用されるエドキサバンを30mg含有する錠剤(ここで、当該錠剤は、分割した1回用量の効果及び安全性が適切に確保されるように設計されている)であってもよい。錠剤としては、好ましくは、15mgのエドキサバンが1個に含まれた錠剤が挙げられる。 次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。(実施例1:日本NVAF患者対象 後期第II相試験) 日本でNVAF患者519名を対象として、エドキサバン30mg×1/日、エドキサバン45mg×1/日、エドキサバン60mg×1/日、又はワルファリン(PT-INRを2.0〜3.0[70歳以上は1.6〜2.6]に調整)を12週間経口投与し、血栓塞栓性イベント発現頻度及び出血性イベント発現率を検討した。 血栓塞栓性イベントは、エドキサバン45mg群の1名に発現した脳梗塞症1件のみであった。 大出血はエドキサバン45mg群で3名(2.2%)に、60mg群で2名(1.5%)に発現した。大出血発現率、大出血又は臨床的に重要な出血の発現率に、ワルファリン群と各エドキサバン群の間に統計学的な有意差は認められず、エドキサバン群間での対比較でも同様に有意差は認められなかった。また、統計学的に有意な用量反応関係も認められなかった。 出血性イベント(大出血、臨床的に重要な出血、及び小出血の合計)発現率は、エドキサバン30mg群18.5%(24/130)、エドキサバン45mg群22.4%(30/134)、エドキサバン60mg群27.7%(36/130)、ワルファリン群20.0%(25/125)であり、エドキサバンは用量増加に伴う発現率の上昇が認められ、エドキサバン60mg群ではワルファリン群よりもやや高い発現割合を示した。しかし、ワルファリン群と各エドキサバン群の間に統計学的に有意な差は認められず、エドキサバン群間での対比較でも同様に有意差は認められなかった。また、統計学的に有意な用量反応関係は認められなかった。 日本国内でNVAF患者を対象として実施した後期第II相試験での血漿中エドキサバン濃度を用いて、母集団薬物動態解析を行ったところ、エドキサバンの薬物動態に有意な影響を及ぼす共変量として、クリアランスに対してCLCRが選択された。 一方、エドキサバンの抗凝固作用に基づく副作用である出血と腎機能の関係については、特に中等度腎機能障害(CLCR30mL/min以上50mL/min未満)の被験者が少なく、高度腎機能障害(CLCR30mL/min未満)の被験者はほとんどいなかったため、明確には認められなかった(表2)。 しかし、出血性イベントと薬物動態パラメータの関係をロジスティック回帰モデルで検討したところ、定常状態でのAUC0-24h、Cmax、又はトラフ時血漿中エドキサバン濃度(Cmin)と出血性イベント(大出血、臨床的に重要な出血、及び小出血の合計)発現率の間にはいずれも相関関係が認められた。(実施例2:高度腎機能障害を有するNVAF患者を対象とした第III相試験)<治験プロトコール> 治験参加への同意取得後、事前検査時にCockcroft-Gault式によりCLCR値を算出して被験者の腎機能を評価し、高度腎機能障害(CLCR15mL/min以上30mL/min未満(血液透析患者を除く))もしくは腎機能正常又は軽度腎機能障害(CLCR50mL/min以上)のNVAF患者に該当することを確認する。さらに、治験登録選択基準に該当し除外基準に抵触しないことを確認して被験者登録を行う。 Cockcroft-Gault式 男性:{(140-年齢)×体重(kg)}÷{72×血清クレアチニン値(mg/dL)} 女性:[{(140-年齢)×体重(kg)}÷{72×血清クレアチニン値(mg/dL)}]×0.85 高度腎機能障害とNVAFを有する患者を対象とし、エドキサバン15mgを1日1回12週間投与したときのエドキサバンの安全性及び薬物動態を、腎機能正常又は軽度腎機能障害とNVAFを有する患者でのエドキサバン30mg又は60mgの1日1回12週間投与を対照として検討する。<被験者の選択> 以下に、患者の選択基準を示す。1)高度腎機能障害(CLCR15mL/min以上30mL/min未満)、あるいは腎機能正常又は軽度腎機能障害(CLCR50mL/min以上)を有するNVAF患者2)年齢20歳以上3)過去12か月以内に電気的記録によりAtrial Fibrillationが確認され、抗凝固療法の適応があり、試験期間中に抗凝固療法の実施が予定されている者4)血栓塞栓症の危険因子を1つ以上有する者<安全性評価項目>1)大出血又は臨床的に重要な出血の発現率2)出血性イベント(大出血、臨床的に重要な出血、又は小出血)の発現率3)大出血の発現率4)臨床的に重要な出血の発現率5)有害事象の発現率6)副作用の発現率<有効性の評価> 脳梗塞症及び全身性塞栓症を血栓塞栓性イベントと定義し、治験薬投与開始後から後観察期(治療期終了後又は中止後2週目)の来院時までの発現の有無を調査する。 15mgのエドキサバンが、高度腎機能障害を有する心房細動患者に対して1日1回投与されるように用いられることを特徴とする、エドキサバンを含有する血栓塞栓症の予防剤及び/又は治療剤。 前記血栓塞栓症が、心房細動に起因する、脳梗塞症、全身性塞栓症又は脳卒中である、請求項1に記載の予防剤及び/又は治療剤。 前記患者のクレアチニンクリアランスが、15mL/分以上30mL/分未満である、請求項1または2に記載の予防剤及び/又は治療剤。 少なくとも15日以上連続及び/又は断続して投与される、請求項1〜3いずれか1項に記載の予防剤及び/又は治療剤。 前記心房細動が非弁膜性心房細動である、請求項1〜4いずれか1項に記載の予防剤及び/又は治療剤。 エドキサバンを含有する医薬組成物及びエドキサバンを1日1回15mgずつ投与することを指示する指示書を含む、高度腎機能障害を有する心房細動患者の血栓塞栓症を予防及び/又は治療するためのキット。 1日1回15mgのエドキサバンを患者に投与することを特徴とする、高度腎機能障害を有する心房細動患者の血栓塞栓症を予防及び/又は治療する方法。 高度腎機能障害を有する血栓塞栓症患者のための、安全性の高い経口投与可能な血栓塞栓症の予防剤及び/又は治療剤を提供すること。15mgのエドキサバンが、高度腎機能障害を有する心房細動患者に対して1日1回投与されるように用いられることを特徴とする、エドキサバンを含有する血栓塞栓症の予防剤及び/又は治療剤。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る