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タイトル:公開特許公報(A)_ペースト状組成物及びその製造方法
出願番号:2012077730
年次:2015
IPC分類:A61K 8/31,A61K 8/02,A61K 9/06,A61K 47/06


特許情報キャッシュ

小林 達弥 水岡 孝則 JP 2015110523 公開特許公報(A) 20150618 2012077730 20120329 ペースト状組成物及びその製造方法 日清オイリオグループ株式会社 000227009 志賀 正武 100064908 高橋 詔男 100108578 渡邊 隆 100089037 鈴木 三義 100094400 村山 靖彦 100108453 小林 達弥 水岡 孝則 A61K 8/31 20060101AFI20150522BHJP A61K 8/02 20060101ALI20150522BHJP A61K 9/06 20060101ALI20150522BHJP A61K 47/06 20060101ALI20150522BHJP JPA61K8/31A61K8/02A61K9/06A61K47/06 22 OL 18 4C076 4C083 4C076AA06 4C076BB31 4C076CC18 4C076DD34 4C076DD34A 4C076FF12 4C076FF17 4C083AC011 4C083AC012 4C083BB12 4C083CC01 4C083CC02 4C083CC31 4C083DD22 4C083EE01 4C083EE03 4C083EE06 4C083FF01 本発明は、ワセリンの代替物として好適なペースト状組成物及びその製造方法に関する。 近年の目まぐるしい産業の発展において、身の回りにはさまざまな化学構造を有する工業製品が用いられている。中でも、原油を素原料とする炭化水素系化合物は、石油産業の発展とともに、数々の加工法、形態、組成のものが流通しており、極めて身近な産業資材に汎用されている。なかでもパラフィン系炭化水素と称される化合物は、主として原油を沸点や融点などの差で分離精製・分画したものであり、液状の流動パラフィン、固体状のパラフィンワックス、主としてそれらの蒸留残渣であるペトロラタムなどに分類される。これらのパラフィン系炭化水素と称される素材は、その製造スケールが巨大であることから、非常に安価に供給されるため、食品、化学産業品、医薬品、化粧料の業界において好んで使用される素材のひとつである。種々の業界において、例えば、液状の流動パラフィンは潤滑油や化粧料の基材油として用いられ、固形のパラフィンワックスは離型剤、成形性向上剤、艶出し剤、防水・撥水剤や製品に形態を付与するための基材として用いられる。さらに、液状と固形の中間の形状を示し、日本においてワセリンとして知られるペースト状炭化水素であるペトロラタムは、医薬品における軟膏基材や工業製品の離型剤・潤滑剤として用いられる。 パラフィン系炭化水素は、数多くの化合物群を含む原油中から目的とする画分を蒸留などの操作で取り出すため、一般的に目的とする物性(例えば、沸点・融点)以外の共雑物を含むことが知られている。このため、原油から精製されたパラフィン系炭化水素を種々の用途として用いる際には、原油を起源とすることに起因する不純物や共雑物の存在によって、いくつかの不具合が生じてしまう。 特に、国内においてワセリンの名称で知られるペトロラタムは、石油原油の真空蒸留残渣を溶剤分別して得られるペースト状の成分であるため、流動パラフィンやパラフィンワックスと比較しても、高分子量・高融点の共雑化合物や原油に由来する硫黄成分や構造が同定できない成分を含むことが知られている。さらに、精製されたペトロラタムであっても、原油の産地による違いによって高融点・高分子成分が異なる場合が多く、粘度や融点などが異なることが知られている。 化粧料は一般的に多数の成分の配合を精密に設計されており、時にはこの高融点・高分子成分の差異が、化粧料の安定性に大きく影響を及ぼすことが知られている。ペトロラタムを、例えば化粧品の中でも口紅に配合する場合、主として艶の付与剤として用いる場合が多い。しかしながら、ペトロラタムは前述の通り極めて高融点の高分子成分を含むため、ペトロラタムが配合された口紅を口唇に塗布した際に、その塗布面の温度では前記高融点の高分子成分が融解せず、可視光の散乱が生じるため、本来の目的である艶の向上性が妨げられる。さらに、ペトロラタムを化粧料の使用感改良剤として用いる場合には、前述した産地の違いによる成分の違いが、静摩擦係数・動摩擦係数に影響し、使用感に大きな差異を与えることが知られている。 ペトロラタムが工業用の潤滑剤や離型剤として用いられる場合、前述の通り、精製品間で粘度や温度依存性に差異を生じ、この差異が、潤滑油に求められる静摩擦係数や動摩擦係数、離形性に大きな影響を与えることが知られている。 また、原油を起源とする流動パラフィン、パラフィンワックス、ペトロラタムを化粧品や医薬品における軟膏基材として用いる際、化粧料の場合と同様に使用感に差異を与えるだけではなく、原油に由来する構造が同定できない成分群が悪影響を及ぼすことが知られている。特に、曝光による変色や臭気の発生は使用感に影響を与えるだけではなく、人体の塗布部位に対する刺激の原因になったり、医薬品の有効成分本体に影響を与えたりする可能性がある。 一方で、これら炭化水素素材を用いた産業資材には、その製造過程における環境負荷が少ないことも、昨今の世界的な趨勢として求められている。例えば、これら炭化水素素材を用いた産業資材には、原料が化石燃料由来であるよりも植物由来又は微生物発酵由来であるものの方が、製造過程における二酸化炭素の排出量が少なく、環境負荷が少ないと考えられている。また、前記産業資材が使用後に排出された際、産業資材の原料が植物由来又は微生物発酵由来であると、河川や土壌中の微生物等によって容易に分解されやすく、環境負荷が少ないと考えられている。さらには、植物や微生物などの現生生物体の構成物質を起源とする産業資源に含まれる炭素は、化石燃料に含まれる炭素とは異なり、その現生生物体が成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来する。そのため、これらの産業資源を使用しても、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響を与えないと考えられている(以下、カーボンニュートラルの概念という場合がある)。以上のことから、原料が動植物由来又は微生物発酵由来であるほうが、原油由来のものよりも、産業資材が使用後に環境中に排出された際にも環境負荷が少ないと考えられる。 そこで、より環境負荷の少ない炭化水素素材を製造する方法が幾つか開示されている。例えば、特許文献1には、植物油等の生物由来の原料油を、ケトン化、水素脱酸素化、及び異性化することにより、炭化水素ベースオイルを製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、植物性脂肪アルコールを還元的脱ヒドロキシメチル化することにより、炭化水素混合物を得る方法が開示されている。 特表2009−518530号公報特表2010−531809号公報 しかしながら、特許文献1及び2において製造されている生物由来の炭化水素組成物は、いずれも液状組成物であり、ワセリン代替物としても利用可能なペースト状組成物を製造することは非常に困難であった。 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、既存の炭化水素組成物と比較して、目的とする成分以外の共雑物含有量が低減され、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、光照射下における安定性、潤滑性、及び離形性に優れ、環境負荷を低減した炭化水素組成物とその製造方法を提供する。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物を原料とし、当該脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンに対して水素化脱酸素反応を行うことによって、ペースト状の炭化水素組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明のペースト状組成物の製造方法、ペースト状組成物、及びペースト状組成物の使用方法は、下記[1]〜[22]である。[1] 脂肪酸組成が、(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であり、(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下であり、かつ(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ペースト状組成物の製造方法。[2] 前記脂肪酸組成物が、イソステアリン酸、2個のカルボン酸を有する炭素数36の分岐鎖脂肪酸、及び3個のカルボン酸を有する炭素数54の分岐鎖脂肪酸からなる群より選択される1以上を含有する、前記[1]のペースト状組成物の製造方法。[3] 前記脂肪酸組成物が、さらに、1個又は2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸を含有する、前記[1]又は[2]のペースト状組成物の製造方法。[4] 前記1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸が、イソステアリン酸である、前記[1]〜[3]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[5] 前記2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸が、2個のカルボン酸を有する炭素数36の分岐鎖脂肪酸及び3個のカルボン酸を有する炭素数54の分岐鎖脂肪酸からなる群より選択される1以上である、前記[1]〜[4]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[6] 前記脂肪酸組成物中の直鎖脂肪酸が、1個のカルボン酸を有する炭素数10〜22の直鎖脂肪酸、及び2個のカルボン酸を有する炭素数4〜10の直鎖脂肪酸からなる群より選択される1種以上である、前記[3]〜[5]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[7] 前記脱炭酸的二量化反応が、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上の存在下で行われる、前記[1]〜[6]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[8] 前記脱炭酸的二量化反応が、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される1以上の金属の存在下で行われる、前記[1]〜[7]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[9] 前記金属が、酸化物又は水酸化物である、前記[8]のペースト状組成物の製造方法。[10] 脂肪酸組成が、(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であり、(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下であり、かつ(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である、脂肪酸組成物と、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上とにより合成された金属石鹸に対して脱炭酸反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ペースト状組成物の製造方法。[11] 前記水素化脱酸素反応が、ケトン基を還元してメチレン基にする反応であり、ヒドラジン又は亜鉛アマルガムの存在下で行われる、前記[1]〜[10]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[12] 前記水素化脱酸素反応が、 前記脂肪族ケトンを還元し、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応と、得られた脂肪族アルコールを、分子内脱水させて不飽和結合を形成させる分子内脱水反応と、 前記分子内脱水反応により不飽和結合が形成された炭化水素を還元し、飽和炭化水素を得る不飽和結合の還元反応と、を有する、前記[1]〜[10]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[13] 前記ケトンの還元反応と前記不飽和結合の還元反応の少なくとも一方が、Pt、Pd、Ni、Cu、Cr、Ru、Rh、Li、Al、B、及びZnからなる群より選択される1以上の存在下で行われる、前記[12]のペースト状組成物の製造方法。[14] 前記分子内脱水反応が、ブレンステッド酸及び/又はブレンステッド塩基の共存下で行われる、前記[12]のペースト状組成物の製造方法。[15] 前記脂肪酸組成物における12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にある、前記[1]〜[14]のいずれかのペースト状組成物の製造方法。[16] 前記[1]〜[15]のいずれかのペースト状組成物の製造方法により製造され、12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にあることを特徴とするペースト状組成物。[17] ワセリンの代替物として用いられる、前記[16]のペースト状組成物。[18] 潤滑性向上剤として用いられる、前記[16]のペースト状組成物。[19] 離形性向上剤として用いられる、前記[16]のペースト状組成物。[20] 医薬品又は医薬部外品の軟膏基材として用いられる、前記[16]のペースト状組成物。[21] 化粧料に用いられる、前記[16]のペースト状組成物。[22] 脂肪酸組成が、(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であり、(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下であり、かつ(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことにより得られたペースト状組成物を、ワセリンの代替物として用いることを特徴とする、ペースト状組成物の使用方法。 本発明のペースト状組成物の製造方法により、特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物から、各種産業資材に好適なペースト状の炭化水素組成物を得ることができる。当該方法により得られたペースト状組成物は、原油から精製されたペースト状の炭化水素組成物よりも、不純物や共雑物の含有量を顕著に低減することができ、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、光照射下における安定性、潤滑性、及び離形性に優れている。さらに、原料とする脂肪酸組成物を生物由来のものを用いることにより、環境負荷が低減されたペースト状炭化水素組成物を得ることができる。このため、当該方法により得られたペースト状組成物は、主にワセリンの代替物として好適であり、各種産業資材に汎用することができる。<ペースト状組成物の製造方法> 本発明のペースト状組成物の製造方法は、特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする。特定の脂肪酸組成からなる脂肪酸組成物を原料とすることにより、ペースト状組成物を得ることができる。[脂肪酸組成物] 原料として用いる脂肪酸組成物は、下記(1)〜(3)の特性を備える脂肪酸組成からなる。(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上である。(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下である。(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である。 以下、各特性について述べる。 前記脂肪酸組成物は、分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上である。前記脂肪酸組成物中の分岐鎖脂肪酸の含有量は、70質量%以上であればよく、74質量%以上であることが好ましく、78質量%以上がより好ましい。脂肪酸組成物中の分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であることにより、得られた炭化水素組成物をペースト状とすることができる。分岐鎖脂肪酸の含有量が低い場合には、前記(2)や(3)の特性を備えていたとしても、製造された炭化水素組成物は固形状になりやすく、ペースト状組成物を製造することは困難である。 なお、本発明及び本願明細書において、分岐鎖脂肪酸とは、分岐鎖を有する炭化水素(炭素と水素からなる化合物)であって、1又は複数のカルボン酸を有する化合物をいう。つまり、分岐鎖を有する炭化水素の1又は複数の水素原子が、カルボキシル基に置換されている化合物である。 前記脂肪酸組成物に含まれる分岐鎖脂肪酸の炭素原子数やカルボン酸の数は特に限定されるものではなく、例えば、炭素数が5〜54であって、カルボン酸を1〜3個有する分岐鎖脂肪酸が挙げられる。前記脂肪酸組成物には少なくとも2種類以上の分岐鎖脂肪酸が含まれる。 また、本発明及び本願明細書において、分岐鎖脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の両方が含まれる。前記脂肪酸組成物に含まれている分岐鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸のみであってもよく、不飽和脂肪酸のみであってもよく、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の両方を含んでいてもよい。本発明のペースト状組成物の製造方法では、後述するように最終的には還元反応により、反応組成物中の不飽和結合を飽和結合とするため、原料とする脂肪酸組成物中の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の含有割合に関わらず、飽和炭化水素を主成分とするペースト状組成物を得ることができる。 前記脂肪酸組成物は、1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸(以下、「液状分岐鎖のモノマー酸」ということがある。)の含有量が65質量%以下である。前記脂肪酸組成物中の液状分岐鎖のモノマー酸の含有量は、65質量%以下であればよく、60質量%以下であることが好ましく、40〜60質量%がより好ましい。脂肪酸組成物中の液状分岐鎖のモノマー酸の含有量が65質量%以下であることにより、得られた炭化水素組成物をペースト状とすることができる。液状分岐鎖のモノマー酸の含有量が多すぎる場合には、前記(1)や(3)の特性を備えていたとしても、製造された炭化水素組成物はペースト状よりも液状になりやすく、好ましい粘度特性を備えるペースト状組成物を製造することは困難である。 液状分岐鎖のモノマー酸としては、例えば、炭素数5〜20の1個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸が挙げられる。具体的には、イソ吉草酸(イソペンタン酸)、イソカプロン酸(イソヘキサン酸)、イソエナント酸(イソヘプタン酸)、イソカプリル酸(イソオクタン酸)、イソペラルゴン酸(イソノナン酸)、イソカプリン酸(イソデカン酸)、イソウンデカン酸、イソラウリン酸(イソドデカン酸)、イソトリデシル酸(イソトリデカン酸)、イソミリスチン酸(イソテトラデカン酸)、イソペンタデシル酸(イソペンタデカン酸)、イソパルミチン酸(イソヘキサデカン酸)、イソマルガリン酸(イソヘプタデカン酸)、イソステアリン酸(イソオクタデカン酸、2−ヘプチルウンデカン酸)、イソノナデシル酸(イソノナデカン酸)、及びイソアラキン酸(イソイコサン酸)からなる群より選択される1種以上が好ましく、イソステアリン酸がより好ましい。なお、前記脂肪酸組成物には、液状分岐鎖のモノマー酸を1種類のみ含有していてもよく、2種類以上を含有していてもよい。 前記脂肪酸組成物は、分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸(以下、「液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸」と言うことがある。)の含有割合が10質量%以上(10≦[液状分岐鎖のダイマー又はトリマー酸の含有量]/[分岐鎖脂肪酸の含有量]×100)である。前記脂肪酸組成物が液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸を含有することにより、得られた炭化水素組成物をペースト状とすることができる。前記脂肪酸組成物において、分岐鎖脂肪酸に対する液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸の含有割合が低すぎる場合には、前記(1)や(2)の特性を備えていたとしても、製造された炭化水素組成物はペースト状よりも液状になりやすく、好ましい粘度特性を備えるペースト状組成物を製造することは困難である。 液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸としては、例えば、炭素数10〜54の2又は3個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸が挙げられる。具体的には、炭素数6〜20の1個のカルボン酸を有する不飽和脂肪酸の2分子又は3分子による分子間重合反応によって得られた化合物が挙げられる。液状分岐鎖のダイマー酸又はトリマー酸としては、少なくとも1の分岐鎖構造を有している25℃で液状の脂肪酸であればよく、直鎖不飽和脂肪酸同士が分岐鎖構造を形成するように分子間重合反応することによって得られた化合物であってもよく、分岐鎖不飽和脂肪酸同士が分子間重合反応することによって得られた化合物であってもよい。具体的には、2分子のイソステアリン酸が分子間重合反応することによって得られる炭素数36の二塩基酸(2個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸)、3分子のイソステアリン酸が分子間重合反応することによって得られる炭素数54の三塩基酸(3個のカルボン酸を有する分岐鎖脂肪酸)等が挙げられる。 前記脂肪酸組成物は、上記(1)〜(3)の脂肪酸組成を満たす限り、その他の脂肪酸を含有していてもよい。例えば、前記脂肪酸組成物は、1種又は2種以上の直鎖脂肪酸を含有していてもよい。なお、本発明及び本願明細書において、直鎖脂肪酸とは、直鎖状の炭化水素であって、1又は2個のカルボン酸を有する化合物をいう。つまり、1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸は、直鎖状の炭化水素の一方の末端の炭素原子に結合している水素原子のうちの1個がカルボキシル基に置換されている化合物である。2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸は、直鎖状の炭化水素の両末端の炭素原子がそれぞれ、当該炭素原子に結合している1個の水素原子がカルボキシル基に置換されている。 前記脂肪酸組成物に含まれる直鎖脂肪酸は、25℃で液状であってもよく、固体状であってもよい。また、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。さらに、カルボン酸は1個有していてもよく、2個有していてもよい。中でも、炭素数8〜22の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸や、炭素数4〜10の2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸が好ましい。 具体的には、1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸としては、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(オクタデカントリエン酸)、アラキジン酸(エイコサン酸)、エルカ酸(ドコセン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)等が挙げられる。また、2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸としては、炭素数10のセバシン酸等が挙げられる。本発明においては、前記脂肪酸組成物が、炭素数10〜22の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸及び炭素数4〜10の2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の両方を含むことが好ましく、炭素数10〜22の1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸及びセバシン酸を含むことがより好ましい。 本発明においては、前記脂肪酸組成物に含まれる1個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の含有量は、26質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。 また、前記脂肪酸組成物としては、2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸を含むものであることが好ましく、セバシン酸を含むことがより好ましい。セバシン酸を含有する場合、その含有量は1質量%以上であることが好ましく、2〜4質量%であることがより好ましい。 前記脂肪酸組成物中の各脂肪酸は、原油から精製されたものであってもよく、水素ガスと炭酸ガスから合成されたものであってもよく、生物由来のもの(動植物由来や酵母発酵物由来のもの)であってもよい。予期せぬ不純物等の混入を抑制し得るため、合成物又は生物由来のものが好ましく、環境負荷の軽減の点から生物由来のものがより好ましい。なお、原油由来の脂肪酸中には14C同位体は含まれていないが、ガスを原料とした合成品や生物由来の脂肪酸には14C同位体が含まれており、12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にある。 試料の14C含量は、液体シンチレーションスペクトロメータにおいて、計数管中の分解する14C同位体を集計する(リビー計数管法)ことにより、又は加速器質量分析により測定することができる。加速器質量分析(略:AMS)は、核物理分析法を用いて、非常に少量の試料中(ミリグラム範囲)の14C同位体を、ppt〜ppqの範囲(10−12〜10−16)で検出できる。 また、脂肪酸組成物を調整する際には、脂肪酸はそのまま添加してもよく、アルカリ金属塩等の各種塩の状態で添加してもよい。[脱炭酸的二量化反応] 本発明のペースト状組成物の製造方法においては、まず、前記脂肪酸組成物中の脂肪酸に対して、脱炭酸的二量化反応を行い、脂肪族ケトンを得る。本発明において、2分子の脂肪酸の各カルボン酸から脱炭酸し二量化する方法は、特に限定されるものではなく、公知の化学反応を利用して行うことができる。 例えば、炭素数が[n]である脂肪酸2分子から炭素数が[2n]である金属石鹸を合成した後、熱分解により脱炭酸させることによって、炭素数が[2n−1]である脂肪族ケトンが得られる。 金属石鹸の合成は、例えば、アルカリ土類金属や金属を用いたけん化反応により行うことができる。当該金属としては、例えば、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上を用いることができ、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される1以上の金属であることが好ましい。また、当該金属は、酸化物又は水酸化物として用いることがより好ましい。本発明においては、特に酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等を用いることが好ましい。 金属石鹸の熱分解の温度や反応時間は、脱炭酸反応が生じるために充分な温度・時間であれば特に限定されるものではない。例えば、金属石鹸を、140〜400℃、好ましくは160〜340℃で、5〜30時間、好ましくは10〜24時間加熱することにより、脱炭酸させることができる。 なお、本発明のペースト状組成物の製造方法においては、前記脂肪酸組成物から金属石鹸を合成する工程を省略することもできる。すなわち、原料として前記脂肪酸組成物を用いて脱炭酸的二量化反応を行う替わりに、金属石鹸を原料とし、当該金属石鹸を熱分解により脱炭酸させることにより、後の水素化脱酸素反応に用いる脂肪族ケトンを得てもよい。原料として用いる金属石鹸は、脂肪酸残基の組成が、前記脂肪酸組成物をけん化して得られる金属石鹸と同様となるものを用いる。具体的には、前記脂肪酸組成物と、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上とにより合成された金属石鹸が挙げられる。[水素化脱酸素反応] 前記脱炭酸的二量化反応によって得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことにより、飽和炭化水素を主たる成分とするペースト状組成物を得る。水素化脱酸素反応は、前記脂肪族ケトンのケトン基をメチレン基にし得る反応であれば特に限定されるものではなく、公知の化学反応を適宜組み合わせて行うことができる。 水素化脱酸素反応は、ウォルフ・キッシュナー還元や、クレメンゼン還元等のように、脂肪族ケトン中のケトン基を直接還元してメチレン基にする還元反応であってもよい。ウォルフ・キッシュナー還元やクレメンゼン還元は、常法により行うことができる。例えば、ウォルフ・キッシュナー還元は、ジメチルスルホキシドやジエチレングリコール等の溶媒に溶解させた脂肪族ケトンに、ヒドラジン及び塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を加えて、室温〜200℃で反応させる。また、クレメンゼン還元は、塩酸等の強酸性溶媒に溶解させた脂肪族ケトンに、亜鉛アマルガムを添加し反応させる。その他、水素ガスの存在下、パラジウム触媒を用いた触媒水素化により、脂肪族ケトンを直接還元することもできる。 水素化脱酸素反応は、前記脂肪族ケトンを還元し、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応と、得られた脂肪族アルコールを、分子内脱水させて不飽和結合を形成させる分子内脱水反応と、前記分子内脱水反応により不飽和結合が形成された炭化水素を還元し、飽和炭化水素を得る不飽和結合の還元反応と、の3段階の反応で行うこともできる。各段階の反応は、従来公知の化学反応により行うことができる。これらの3段階の反応は、一の反応系内で全て連続的に行うこともでき、またこのうちの2段階の反応のみを一の反応系内で同時に行うこともでき、それぞれの反応を別個の反応系で順次行うこともできる。 例えば、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応(すなわち、カルボニル基の炭素−酸素二重結合を還元して水酸基に変換する反応)や、不飽和結合の飽和結合への還元反応(すなわち、脂肪酸中の炭素−炭素二重結合を還元して炭素−炭素一重結合に変換する反応)は、公知の還元反応により行うことができる。また、両還元反応は、同じ触媒を用いた還元反応で実施してもよく、互いに異なる触媒を用いた還元反応で行ってもよい。本発明においては、Pt、Pd、Ni、Cu、Cr、Ru、Rh、Li、Al、B、及びZnからなる群より選択される1以上を触媒として用い、水素ガスを導入した環境下で還元反応を行うことが好ましい。その他、液体アンモニア存在下で、Liを触媒として用いるバーチ還元を行うこともできる。 また、分子内脱水反応は、脂肪族アルコールを分子内で脱水縮合させる反応であれば特に限定されるものではない。例えば、触媒として、ブレンステッド酸及び/又はブレンステッド塩基を用い、これらの共存下で加温することにより、脱水縮合反応を行うことができる。反応温度や時間は、用いる触媒の種類や反応に供される脂肪族アルコールの量等を考慮して適宜調整することができる。例えば、80〜250℃で1〜10時間反応させることができる。 ブレンステッド酸としては、例えば、活性白土、ゼオライト、アルミナ等の酸触媒が挙げられる。ブレンステッド塩基としては、水酸化アルミニウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。 不飽和結合の飽和結合への還元反応によって、分子内脱水反応により形成された不飽和結合と共に、元々原料とした脂肪酸が有していた不飽和結合や、それ以前の反応で形成されていた不飽和結合も還元される。このため、当該還元反応を充分に行うことにより、不飽和炭化水素の含有量が極微量である、又は飽和炭化水素のみからなる(すなわち、不飽和炭化水素の含有量が、通常の検出方法における検出限界以下である)組成物が得られる。[ペースト状組成物] 本発明のペースト状組成物の製造方法により得られた組成物は、飽和炭化水素を主たる成分とするペースト状(流動性があり、かつ粘性の高い状態)である。特に当該ペースト組成物は、原油から製造された従来のワセリンに比べて、高分子量・高融点の共雑化合物や構造不明な不純物等の含有量が非常に少ないため、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、光照射下における安定性、潤滑性、及び離形性に優れている。 当該ペースト状組成物は、特にワセリンの代替物として、各種製品の原料として好適に用いることができる。例えば、当該ペースト状組成物は、潤滑性向上剤、離形性向上剤、医薬品又は医薬部外品の軟膏基材として好適に用いることができる。 また、当該ペースト状組成物は、化粧料、医薬品、医薬部外品の原料としてそのまま用いることもできる。当該ペースト状組成物を化粧料等の原料の一種として使用する場合、化粧料等中における当該ペースト状組成物の含有量は、0.1〜95質量%にすることができ、0.5〜90質量%が好ましく、1〜80質量%がより好ましい。 当該ペースト状組成物を含有させる化粧料の形態としては、オイル溶解タイプ;O/W型、W/O型、W/O/W型、O/W/O型等の乳化タイプ;可溶化タイプ;固形タイプ等の所望の形態をとることができる。また、かかる化粧料の種類としては、クレンジングオイル、乳液、クリーム、美容液、エモリエントクリーム、リップケアスティック等のスキンケア化粧料、化粧下地、口紅、ファンデーション、アイシャドウ等のメイクアップ化粧料、ヘアワックス、ヘアスプレー、ヘアコンディショナー等のヘアケア化粧料などが挙げられる。 当該ペースト状組成物を含有させる化粧料、医薬品、医薬部外品には、必要に応じて、化粧料等に一般に用いられる各種成分を配合し、従来公知の方法により製造できる。 例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、親油性非イオン界面活性剤、親水性非イオン界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、天然系界面活性剤、液状油脂、固体油脂、ロウ類、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、粉体、保湿剤、天然の水溶性高分子、半合成の水溶性高分子、合成の水溶性高分子、無機の水溶性高分子、増粘剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、単糖、オリゴ糖、多糖、アミノ酸、有機アミン、合成樹脂エマルジョン、pH調製剤、ビタミン類、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、及び水等を必要に応じて適宜配合させることができる。 以下、具体的な実施例に基づいて、本発明についてさらに詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に何ら限定されるものではない。[実施例1;ペースト状の炭化水素組成物の合成] 攪拌機、温度計、窒素ガス導入管及び水分分離機を備えた2Lの耐圧性金属容器に、ラウリン酸[製品名:PALMAC98−12(ACIDCHEM社製)]8g、ミリスチン酸[製品名:PALMAC98−14(ACIDCHEM社製)]20g、パルミチン酸[製品名:PALMAC98−16(ACIDCHEM社製)]34g、ステアリン酸[製品名:PALMAC98−18(ACIDCHEM社製)]41g、アラキン酸/ベヘン酸の混合物[製品名:EDENOR C20−22(コグニス社製)]45g、セバシン酸[製品名:セバシン酸(小倉合成工業社製)]30g、精製ダイマー酸[製品名:EMPOL1012(コグニス社製)]304g、イソステアリン酸[製品名:PRISORINE 3505(クローダ社製)]518gと酸化亜鉛(和光純薬工業社製)152gを仕込み、320℃で窒素気流下12時間反応させた。反応後、原料脂肪酸総量(1000g)に対し5wt%量のRu/C(和光純薬社製)とp−トルエンスルホン酸1水和物(和光純薬工業社製)500ppmを加え、ヘッドスペースの空気を減圧下で除去した後、水素ガスを3MPaの圧力で連続的に導入し、240℃で3時間反応させた。次いで、原料脂肪酸総量に対し3wt%の水酸化アルミニウム[製品名:キョーワード200B(協和化学工業社製)]を加え、減圧下、105℃で2時間攪拌した。濾過にて、Ru/C、酸化亜鉛、水酸化アルミニウムを除去し、白色ペースト状の炭化水素組成物を650g得た。 なお、使用した精製ダイマー酸とイソステアリン酸を、GPC (Gel Permeation Chromatography)にて分析したところ、クロマトチャートにおいてダイマー酸の左側にピークは検出されなかった。つまり、使用した精製ダイマー酸とイソステアリン酸には、GPCで検出できるレベルではトリマー酸は含有されていないことが確認された。[実施例2〜9、比較例1〜7] 原料脂肪酸組成物を表1及び2に示す脂肪酸組成とした以外は、実施例1と同様にして、炭化水素組成物を得た。表1及び2中、「C10」はカプリン酸[製品名:PALMAC 99−10(ACIDCHEM社製)]、「C12」はラウリン酸[製品名:PALMAC98−12(ACIDCHEM社製)]、「C14」はミリスチン酸[製品名:PALMAC98−14(ACIDCHEM社製)]「C16」はパルミチン酸[製品名:PALMAC98−16(ACIDCHEM社製)]、「C18」はステアリン酸[製品名:PALMAC98−18(ACIDCHEM社製)]、「C20」はアラキン酸、「C22」はベヘン酸(アラキン酸/ベヘン酸の混合物[製品名:EDENOR C20−22(コグニス社製)])、「SLFA」は1のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸の総量、「C10DA」はセバシン酸[製品名:セバシン酸(小倉合成工業社製)]、「Dimer」は精製ダイマー酸[製品名:EMPOL1012(コグニス社製)]、「iC18」はイソステアリン酸[製品名:PRISORINE 3505(クローダ社製)]、「iFA」は分岐鎖脂肪酸の総量を示す。また「Dimer/iFA」は、分岐鎖脂肪酸の総量に対する精製ダイマー酸の含有割合を示す。 実施例1〜9及び比較例1〜7で得られた炭化水素組成物について、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、光照射下における安定性、摩擦特性(潤滑性)、及び水分透過性を評価した。なお、比較例8としてノムコートW(日清オイリオグループ社製)、比較例9として局方白色ワセリン(小堺製薬社製)も使用した。<塗布時の滑性評価> 塗布時における滑性評価は、各炭化水素組成物を約100μg取り、腕の内側に塗布した際の官能試験によって評価した。判断基準を下記に示す。評価基準; ○:塗布時に固体感を感じることなく、滑らかに塗布できる。 △:塗布時にわずかな固形感を感じるが、滑らかに塗布できる。 ×:塗布時に明らかな固形感を感じ、滑らかさに欠ける。<保存安定性評価>(評価方法) 各炭化水素組成物を50mLの蓋付ガラス瓶に入れ蓋を密閉後、庫内温度が20℃と40℃を24時間で1サイクルする恒温庫内に48時間静置後、庫内温度が40℃の時点でサンプルを庫内から取り出した。取り出した直後の状態を各サンプルについて約100μg取り、腕の内側に塗布した際の官能試験によって確認し、下記の判断基準に従って評価した。評価基準; ○:安定性試験の前後で何ら変化はない。 △:安定性試験前後で、塗布時の滑性にわずかな変化が認められる。 ×:安定性試験前後で、塗布時の滑性に顕著な変化が認められる。<塗布時の艶評価> 塗布後の艶は、目視評価と光沢度の上昇度により評価した。 目視による塗布後の艶は、まず、パネラーの腕の内側を流水と手洗い用洗剤にて清浄後、さらにエタノールにて余剰な油分を除去した。清浄箇所を乾燥後、各炭化水素組成物を約100μgを当該清浄箇所に乗せ、塗り伸ばした後の艶を目視にて評価した。評価基準; ○:塗り伸ばした面に艶・光沢性が認められる。 △:塗り伸ばした面はわずかに艶・光沢性に欠ける。 ×:塗り伸ばした面に艶・光沢性は認められない。<塗布面の光沢評価> 塗布面の艶は、各炭化水素組成物を一定の膜厚で粗面に塗布した際の「光沢度の上昇度(以下、ΔGs)」によって評価した。光沢度の測定はJIS Z 8741に記載の方法1「85度 鏡面光沢度」を参考に測定した。測定には日本電色工業社製のPG−1M型ハンディ型光沢度計を用い、サンプル(炭化水素組成物)の塗布には膜厚固定型アプリケーター[製品名:ドクターブレード(テスター産業社製)]を用いて10μmの膜厚で塗布膜を調製した。光沢度は入射角85°の光沢度(以下、Gs85°)をn=2で測定し、下記式にてΔGs85°を算出した。式:[光沢度の上昇度(ΔGs85°)]=[サンプルのGs85°の平均値]−[粗面のGs85°の平均値]<光照射下における色相と臭気の安定性評価> 各炭化水素組成物を30mLの密栓できるガラス瓶に入れ、太陽光の当たる場所に静置し曝光試験を実施した。それぞれのサンプルにおいて、アルミホイルで遮光したサンプルを対照サンプルとして評価した。3日間経過後の各サンプルについて、色相の変化と臭気の変化をそれぞれ対照サンプルと比較し、下記の判断基準に従って評価した。[色相の変化] ◎:対照サンプルと比較し、色相に変化はない。 ○:対照サンプルと比較し、わずかな黄変が認められる。 △:対照サンプルと比較し、顕著な黄変が認められる。[臭気の変化] ◎:対照サンプルと比較し、臭気に変化はない。 ○:対照サンプルと比較し、わずかな劣化臭が認められる。 △:対照サンプルと比較し、顕著な劣化臭が認められる。<摩擦特性の評価> 静摩擦係数、動摩擦係数の測定により潤滑性の評価を実施した。静摩擦係数、動摩擦係数の測定には、静動摩擦測定機[型式;ハンディトライボマスターTS201Ts(トリニティラボ社製)]を用い、プロテイン粒子織込み人工皮革[製品名;サプラーレ(出光テクノファイン社製)]の表面で、下記の条件を用いて測定を実施した。なお、静動摩擦係数は10往復における平均値を算出し評価を実施した。 測定荷重 :300g サンプル量:100μg 架台移動速度:0.5cm/秒の速度で10往復 架台移動距離:6cm <水分透過性の評価> 105℃の恒温槽の中で12時間溶解・乾燥させた各炭化水素組成物に、重量を精秤したΦ70mmの濾紙[ADVANTEC社製;No.5C](重量(A)とする。)を浸漬した後、各炭化水素組成物が含浸された濾紙の重量(B)を正確に測定した。なお、サンプル(炭化水素組成物)の含浸量は、以下の計算式を用いて試料塗布量が6〜8mg/cm2となるように調整した。式:[試料塗付量(mg/cm2)]=([重量(B)(mg)]−[重量(A)(mg)])/[38.47(cm2)(濾紙の面積)] グリセリン(約15g)を入れた透湿カップ(JIS−Z0208)にサンプルを塗付した濾紙を置き、溶解した封ロウ剤(ミツロウ/パラフィンワックス混合物、重量比:6:4)で固定した。封ロウ剤が固化した後、濾紙をセットした透湿カップの重量(重量(C)とする。)を正確に測定した。 濾紙を固定した透湿カップを、水蒸気が飽和したデシケーター(塩化アンモニウム飽和水溶液、湿度:80%)中にいれ、デシケーターごと25℃、3時間静置したのち、透湿カップの重量を正確に測定し、重量(D)とした 。 以下の計算式を用いて、各炭化水素組成物が塗布された濾紙の外側から内側に向かって透過し、グリセリンに溶解した水分透過量及び水分透過率を算出した。式:[水分透過量(mg/cm2)]=([重量(D)(mg)]−[重量(C)(mg)])/[28.26(cm2)(透湿カップの透過面積)]式:[水分透過率(%)]=[サンプルの水分透過量(mg)]/[ブランクの水分透過量(mg)]×100 各炭化水素組成物の評価結果を表1及び2に示す。この結果、実施例1〜9の炭化水素組成物は、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、及び光照射下における安定性が、比較例8及び9の既存のペースト状の炭化水素組成物製剤よりも優れており、摩擦特性(潤滑性)及び水分透過性は、比較例8及び9の炭化水素組成物製剤と同様に優れていた。これに対して、原料の脂肪酸組成物中の液状分岐鎖のモノマー酸の含有量が65質量%より多かった比較例1の炭化水素組成物は、ペースト状というよりも液状に近く、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、及び光照射下における安定性のいずれも、実施例1〜9の炭化水素組成物に比べて劣っていた。また、ダイマー酸を含まなかった比較例2及び3の炭化水素組成物、分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%未満であった比較例4〜7の炭化水素組成物は、いずれも固形状であり、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、及び光照射下における安定性のいずれも、実施例1〜9の炭化水素組成物に比べて劣っていた。 本発明のペースト状組成物の製造方法により得られたペースト状組成物は、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、光照射下における安定性、潤滑性、及び離形性に優れており、ワセリン代替物として好適であるため、化粧料、医薬品における軟膏基材、工業用の潤滑剤や離型剤等、様々な工業製品における産業基材として有用である。 脂肪酸組成が、(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であり、(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下であり、かつ(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ペースト状組成物の製造方法。 前記脂肪酸組成物が、イソステアリン酸、2個のカルボン酸を有する炭素数36の分岐鎖脂肪酸、及び3個のカルボン酸を有する炭素数54の分岐鎖脂肪酸からなる群より選択される1以上を含有する、請求項1に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記脂肪酸組成物が、さらに、1個又は2個のカルボン酸を有する直鎖脂肪酸を含有する、請求項1又は2に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸が、イソステアリン酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸が、2個のカルボン酸を有する炭素数36の分岐鎖脂肪酸及び3個のカルボン酸を有する炭素数54の分岐鎖脂肪酸からなる群より選択される1以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記脂肪酸組成物中の直鎖脂肪酸が、1個のカルボン酸を有する炭素数10〜22の直鎖脂肪酸、及び2個のカルボン酸を有する炭素数4〜10の直鎖脂肪酸からなる群より選択される1種以上である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記脱炭酸的二量化反応が、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上の存在下で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記脱炭酸的二量化反応が、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される1以上の金属の存在下で行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記金属が、酸化物又は水酸化物である、請求項8に記載のペースト状組成物の製造方法。 脂肪酸組成が、(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であり、(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下であり、かつ(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である、脂肪酸組成物と、II族、VII〜XII族の金属原子からなる群より選択される1以上とにより合成された金属石鹸に対して脱炭酸反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ペースト状組成物の製造方法。 前記水素化脱酸素反応が、ケトン基を還元してメチレン基にする反応であり、ヒドラジン又は亜鉛アマルガムの存在下で行われる、請求項1〜10のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記水素化脱酸素反応が、 前記脂肪族ケトンを還元し、脂肪族アルコールを合成するケトンの還元反応と、得られた脂肪族アルコールを、分子内脱水させて不飽和結合を形成させる分子内脱水反応と、 前記分子内脱水反応により不飽和結合が形成された炭化水素を還元し、飽和炭化水素を得る不飽和結合の還元反応と、を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記ケトンの還元反応と前記不飽和結合の還元反応の少なくとも一方が、Pt、Pd、Ni、Cu、Cr、Ru、Rh、Li、Al、B、及びZnからなる群より選択される1以上の存在下で行われる、請求項12に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記分子内脱水反応が、ブレンステッド酸及び/又はブレンステッド塩基の共存下で行われる、請求項12に記載のペースト状組成物の製造方法。 前記脂肪酸組成物における12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にある、請求項1〜14のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法。 請求項1〜15のいずれか一項に記載のペースト状組成物の製造方法により製造され、12C同位体に対する14C同位体の割合が、6×10−13〜1.2×10−12の範囲にあることを特徴とするペースト状組成物。 ワセリンの代替物として用いられる、請求項16に記載のペースト状組成物。 潤滑性向上剤として用いられる、請求項16に記載のペースト状組成物。 離形性向上剤として用いられる、請求項16に記載のペースト状組成物。 医薬品又は医薬部外品の軟膏基材として用いられる、請求項16に記載のペースト状組成物。 化粧料に用いられる、請求項16に記載のペースト状組成物。 脂肪酸組成が、(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であり、(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下であり、かつ(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンを含む組成物に対して水素化脱酸素反応を行うことにより得られたペースト状組成物を、ワセリンの代替物として用いることを特徴とする、ペースト状組成物の使用方法。 【課題】既存の炭化水素組成物と比較して、目的とする成分以外の共雑物含有量が低減され、保存安定性、塗布時の滑性(滑らかさ)、塗布後の艶、光照射下における安定性、潤滑性、及び離形性に優れ、環境負荷を低減した炭化水素組成物とその製造方法の提供。【解決手段】脂肪酸組成が、(1)分岐鎖脂肪酸の含有量が70質量%以上であり、(2)1個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有量が65質量%以下であり、かつ(3)分岐鎖脂肪酸に対する、2又は3個のカルボン酸を有する25℃で液状の分岐鎖脂肪酸の含有割合が10質量%以上である、脂肪酸組成物に対して、脱炭酸的二量化反応を行った後、得られた脂肪族ケトンに対して水素化脱酸素反応を行うことを特徴とする、ペースト状組成物の製造方法。【選択図】なし


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