タイトル: | 公開特許公報(A)_イネ科植物を短稈化させる遺伝子および短稈イネ科植物の作出方法 |
出願番号: | 2012077453 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 15/09,A01H 1/00,A01H 5/00 |
富田 因則 JP 2013202023 公開特許公報(A) 20131007 2012077453 20120329 イネ科植物を短稈化させる遺伝子および短稈イネ科植物の作出方法 国立大学法人鳥取大学 504150461 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 冨田 憲史 100122301 富田 因則 C12N 15/09 20060101AFI20130910BHJP A01H 1/00 20060101ALI20130910BHJP A01H 5/00 20060101ALI20130910BHJP JPC12N15/00 AA01H1/00 AA01H5/00 A 16 OL 15 2B030 4B024 2B030AA02 2B030AB02 2B030AD04 2B030AD14 2B030CA17 2B030CB02 4B024AA08 4B024CA06 4B024DA01 4B024EA04 4B024GA11 本発明は、イネ科植物を短稈化させる遺伝子、短稈イネ科植物の製造方法、および短稈化したイネ科植物に関する。 イネ科植物は、イネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、シコクビエ、モロコシ等を含む農業上極めて重要な植物である。稈の長いイネ科植物は、強風、例えば、台風等によって倒伏していまい、収穫量が大きく減少するという問題があった。 そこで、倒伏しにくい品種を開発するために、短稈遺伝子を求めて、稈の短いイネ科植物の育種が長年に亘って行われている。しかし、植物体の背丈が短稈化すると共に穂や籾も小さくなる場合が多く、このような短稈遺伝子は、生産性の観点から望ましくない。したがって、穂や籾には影響せず、背丈だけを程よく短縮する短稈遺伝子が求められている。 今までに見出され、かつ、実用化されている短稈遺伝子はsd1だけである。sd1は、半矮性と呼ばれる、穂の長さは完全だが植物全体の背丈が低い形質を表出する遺伝子であり、ジベレリン(GA)の生合成系におけるC20酸化酵素遺伝子の欠損型である。現在、米国のCalrose76、東南アジアのIR36、日本のヒカリ新世紀など、世界各地でイネの短稈品種が栽培されているが、これらの短稈品種について遺伝子分析を行った結果、全ての品種において半矮性遺伝子sd1と同じ遺伝子座を持つことが分かった。すなわち、現在の短稈イネ科植物の栽培は、わずか1種類の特定の遺伝子に支配され、わずか1種類の特定の遺伝子が広範囲に使用されているという弊害が生じている。品種の遺伝的多様性を維持・拡大しようとする育種の目的に鑑みれば、sd1遺伝子だけに頼ることなく、他の短稈遺伝子の耐倒伏性育種への利用を推進すべきであり、新規の短稈遺伝子が求められている。 近年では、半矮性遺伝子d60が新たに見出された(非特許文献1および2)。d60は、当該遺伝子を有しない植物体と比べてその背丈だけを約20cm短稈化する遺伝子である。 半矮性遺伝子d60は、イネに普遍的に存在する配偶子致死遺伝子galと共存すると雌雄の配偶子が致死となるため、コシヒカリd60系統、北陸100号などd60を持つ品種・系統(遺伝子型d60d60GalGal)と他の品種・系統(D60D60galgal)との交雑F1(D60d60Galgal)では、花粉と種子の稔性が75%となり、後代F2では6可稔長稈(4D60D60:2D60d60GalGal):2部分不稔長稈(D60d60Galgal=F1型):1短稈(d60d60GalGal)の比に分離する特異な遺伝様式をとる。したがって、d60の遺伝にはGalが不可欠である。d60はGalの同時の人為突然変異なくしては自然界では得られなかった貴重な短稈遺伝子である。 半矮性遺伝子d60は、イネ科植物の第2染色体上に存在することが見出され、第1染色体上に存在するsd1とは遺伝的にも機能的にも独立した遺伝子であることが示された(特許文献1)。さらに、DNAマーカーもしくは遺伝子マーカーを利用して、第2染色体上のd60遺伝子の存在および/またはd60遺伝子の遺伝に不可欠な第5染色体上のGal遺伝子の存在を判別することにより、d60遺伝子およびGal遺伝子を有するイネ科植物を選抜する方法が開発されている(特許文献1)。 しかしながら、今までに、d60遺伝子は同定されておらず、その短稈化機能も解明されておらず、実用化には至っていない。特開2008−237138号Tomita, M.: The gametic lethal gene gal: activated only in the presence of the semidwarfing gene d60 in rice. In Rice Genetics III (Ed. G.S. Khush, ISBN 971-22-0087-6), International Rice Research Institute, pp. 396-403 (1996)Tomita, M., Yamagata, H. and Tanisaka, T.: Developmental cytology on gametic abortion caused by induced complementary genes gal and d60 in japonica rice. In Advances in Rice Genetics (Eds. G.S. Khush, D.S. Brar and B. Hardy, ISBN 971-22-0199-6), International Rice Research Institute, pp. 178-181 (2003) 本発明は、sd1遺伝子以外の短稈遺伝子の同定、およびsd1遺伝子以外の短稈遺伝子を利用した短稈イネ科植物の作出を目的とする。 本発明者は、上記のような状況下、d60遺伝子の利用に着目し、当該遺伝子の同定およびその短稈化機能の解明のために鋭意研究した。その結果、d60遺伝子のファインマッピングにより、イネの第2染色体短腕末端から10.2ないし10.5Mbの位置付近にd60候補遺伝子領域があることを見出した。さらに、候補遺伝子の配列解析を行い、最終的に、d60遺伝子がOs02g0280200遺伝子の機能欠損型であることを同定し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、[1]イネ科植物において、Os02g0280200遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、短稈イネ科植物の作出方法、[2]アンチセンス法または突然変異誘発法によってOs02g0280200遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、[1]記載の方法、[3]Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、[2]記載の方法、[4]Os02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、[2]記載の方法、[5]Os02g0280200遺伝子の塩基配列の479位にチミンからシトシンへのヌクレオチド変異を導入することを特徴とする、[2]記載の方法、[6]配列番号2で示される塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、[5]記載の方法、[7]配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、[5]記載の方法、[8]配列番号6で示される塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、[5]記載の方法、[9]配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、[5]記載の方法、[10]Os02g0280200遺伝子の発現が抑制された、短稈イネ科植物、[11]配列番号2で示される塩基配列を含む短稈遺伝子、[12]配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする短稈遺伝子、[13]Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列からなるDNA、[14]Os02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列からなるDNA、[15]配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列のアンチセンス配列からなるDNA、および[16]配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列のアンチセンス配列からなるDNAを提供する。 本発明によると、イネ科植物においてOs02g0280200遺伝子の発現を抑制することによって、従来のsd1遺伝子に依存することなく、穂や籾には影響せずに背丈だけを程よく短縮した、短稈イネ科植物を得ることができる。したがって、本発明によると、耐倒伏性および生産性の両方を満足する有用なイネ科植物を得ることができる。図1は、d60遺伝子のファインマッピング結果を示す。図2は、Os02g0280200遺伝子のアンチセンス配列で形質転換したイネを示す。図3は、Os02g0280200遺伝子のアンチセンス配列で形質転換したイネの籾を示す。 本発明において、d60遺伝子は、以下の方法で同定された。 コシヒカリの第2染色体をインディカ品種 Kasalathに部分置換した系統(D60D60galgal)とd60コシヒカリ系統(d60d60GalGal)との交雑F2から、短稈ホモ型(d60d60GalGal)個体を選抜し、ジャポニカ品種/インディカ品種間で差を示す第2染色体上のSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーでファインマッピングを行った。DNA多型解析により、使用した各SSRマーカーとd60遺伝子との連鎖を調べ、組み換え価0%の位置を決定した。ここで、組み換え価は、以下の式によって求められ、完全に連鎖している場合の組み換え価は0%である。 組み換え価(%)=(組み換え型配偶子数/全配偶子数)×100 以前の研究により、d60遺伝子がSSRマーカー RM452から2.8cMの距離に座乗していることが明らかになった(特許文献1)。したがって、本発明においては、RM452を含めたRM452の付近にある各種SSRマーカーを用いてファインマッピングを行った。その結果、RM12970とd60遺伝子との組み換え価が0%であったことから、イネの第2染色体短腕末端から10.2ないし10.5Mb付近にd60候補遺伝子領域があることが判明した。 イネの第2染色体短腕末端から10.2ないし10.5Mb付近で推定される遺伝子のうち、Os02g0280200およびOs02g0280300について、コシヒカリおよびコシヒカリd60系統間の配列解析を行った。その結果、Os02g0280200遺伝子の塩基配列の第2エキソンにある479位において、チミン(T)からシトシン(C)へのヌクレオチド変異が見出された。また、コシヒカリおよびコシヒカリd60系統間のアミノ酸配列解析の結果、上記塩基配列の変異に相当する位置に、フェニルアラニン(F)からセリン(S)へのアミノ酸変異が見出された。 さらに、Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列またはOs02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列をコシヒカリに導入した結果、短稈型植物が得られ、d60遺伝子がOs02g0280200遺伝子の機能欠損型であることが同定された。 コシヒカリのOs02g0280200遺伝子の全長塩基配列の一例を配列番号1に示す。コシヒカリd60系統におけるOs02g0280200遺伝子の全長塩基配列の一例を配列番号2に示す。また、コシヒカリのOs02g0280200遺伝子の第2エキソンの塩基配列を配列番号5に示し、コシヒカリd60系統におけるOs02g0280200遺伝子の第2エキソンの塩基配列を配列番号6に示す。さらに、コシヒカリのOs02g0280200遺伝子の全長塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の一例を配列番号3に示し、コシヒカリd60系統におけるOs02g0280200遺伝子の全長塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の一例を配列番号4に示す。また、コシヒカリのOs02g0280200遺伝子の第2エキソンによりコードされるアミノ酸配列を配列番号7に示し、コシヒカリd60系統におけるOs02g0280200遺伝子の第2エキソンによりコードされるアミノ酸配列を配列番号8に示す。 したがって、本発明の第1の態様は、Os02g0280200遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、短稈イネ科植物の作出方法を提供する。Os02g0280200は、イネの第2染色体上の遺伝子座の一つを示し、イネアノテーションプロジェクトデータベース(RAP−DB)等において開示されている。本明細書中では、Os02g0280200にある遺伝子を「Os02g0280200遺伝子」と称する。本発明者は、d60遺伝子がOs02g0280200遺伝子の機能欠損型であることを同定し、当該遺伝子の発現を抑制することによって、イネ科植物を短稈化できることを見出した。したがって、Os02g0280200遺伝子は、キシログルカントランスグリコシラーゼ(XTH)遺伝子に類似する配列を持ち、D60は細胞壁のキシログルカンの分子架橋を触媒して形態形成にかかわると考えられ、d60ではこれが損なわれて短稈化すると考えられる。 本発明において、「Os02g0280200遺伝子」には、イネのOs02g0280200遺伝子および他のイネ科植物におけるそれに相当する遺伝子が含まれ、例えば、イネアノテーションプロジェクトデータベース(RAP−DB)Build4に開示されるイネの第2染色体上の短腕末端から10388558ないし10390067塩基に位置する遺伝子および他のイネ科植物におけるそれに相当する遺伝子が含まれる。イネのOs02g0280200遺伝子は、NCBI Reference Sequence Accession番号 NM 001053089に開示されるmRNA配列を有する。イネのOs02g0280200遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、NCBI Reference Sequence Accession番号 NP 001046554に開示される。イネ以外のイネ科植物におけるOs02g0280200遺伝子に相当する遺伝子は、常法により同定することができ、例えば、当該植物のゲノム情報を格納したデータベースを用いて、イネのOs02g0280200遺伝子の塩基配列またはそのコードされるアミノ酸配列を用いて相同性検索により同定することができる。 本発明において、「短稈イネ科植物」とは、背丈が短縮されたイネ科植物をいい、好ましくは、穂の長さや籾の大きさは正常で、背丈だけが短縮されたイネ科植物をいう。本発明において、「短稈遺伝子」とは、イネ科植物の短稈化をもたらす遺伝子をいい、好ましくは、上記「短稈イネ科植物」をもたらす遺伝子をいう。 本発明において、「イネ科植物」には、イネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、シコクビエ、モロコシ等が包含され、好ましくはイネを用いることができる。イネとしては、Oryza sativa L.に属する種々の品種および系統を用いることができ、例えば、ジャポニカ種のコシヒカリ、日本晴、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、キヌヒカリ、ななつぼし、はえぬき、きらら397、つがるロマン、まっしぐら等、インディカ種のKasalath等を用いることができる。 本発明において、Os02g0280200遺伝子の発現の「抑制」とは、該遺伝子の発現が無いこと、または該遺伝子の発現が抑制されない対照と比べて、その発現量が減少することを意味する。 本発明において、Os02g0280200遺伝子の発現の抑制は、当該分野で常用されるいずれの方法で行ってもよく、特に限定されない。例えば、アンチセンス法、突然変異誘発法、RNA干渉法等が挙げられる。アンチセンス法の場合、例えば、Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列、またはOs02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列をイネ科植物に導入する。突然変異誘発法の場合、Os02g0280200遺伝子の発現を抑制するような変異を塩基配列中に導入する。例えば、限定するものではないが、Os02g0280200遺伝子の第2エキソンの44位に、例えば、Os02g0280200遺伝子の全長塩基配列の479位に、T(チミン)からC(シトシン)への変異を導入してもよい。例えば、配列番号2または配列番号6で示される塩基配列、または配列番号4または配列番号8で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列をイネ科植物に導入することができる。 本発明において、イネ科植物への目的遺伝子配列の導入は、当該分野で常用されるいずれの方法によって行ってもよい。限定するものではないが、例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール(PEG)法等の形質転換法が挙げられる。 本発明において、イネ科植物の形質転換は、Os02g0280200遺伝子の発現を抑制するようにまたはOs02g0280200遺伝子の構造を改変するように設計された種々の核酸分子、例えば、Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列、例えば配列番号9で示される配列、Os02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列、例えば配列番号10で示される配列、Os02g0280200遺伝子の塩基配列の479位にT→C変異を含む塩基配列、例えば配列番号2または配列番号6で示される塩基配列、または配列番号4または配列番号8で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を用いて実施することができる。 形質転換には、好ましくは、イネ科植物の細胞、例えば、プロトプラスト、カルス、胚等、組織片、または植物体等を用いることができる。 本発明の方法において、イネ科植物は、例えば、目的の核酸分子を含有するベクターを用いて形質転換することができる。ベクターは、目的の遺伝子を発現させることができる種々のプロモーター配列を含有していてもよい。例えば、限定するものではないが、プロモーター配列として、イネActin1プロモーター、35Sプロモーター等を用いることができる。ベクターはまた、ベクターが細胞中に組み込まれた形質転換細胞の選択を可能とする種々の選択マーカーを含有することができる。選択マーカーの例としては、限定するものではないが、抗生物質耐性遺伝子または除草剤耐性遺伝子、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。ベクターはまた、ターミネーターを含有することができる。かかるターミネーターは、植物体中で機能するものであれば特に限定されないが、例えば、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター(Nosターミネーター)等が挙げられる。 例えば、本発明の方法においてイネ科植物をアグロバクテリウム法で形質転換する場合、ベクターとして、市販のプラスミドベクターを含む種々のプラスミドベクター、例えば、pSTARA R−5、pRI201−ON等を用いることができる。 形質転換後、細胞を一定期間、選択培地中で生育させ、形質転換植物細胞を選択する。次いで、得られた形質転換細胞から全植物体を再生することによって、短稈イネ科植物を得ることができる。 したがって、本発明の第2の態様は、Os02g0280200遺伝子の発現が抑制された短稈イネ科植物を提供する。本発明は、好ましくは、穂の長さや籾の大きさは正常で、背丈だけが短縮された短稈イネ科植物を提供する。 本発明の第3の態様は、Os02g0280200遺伝子の機能欠損型である短稈遺伝子を提供する。好ましくは、本発明は、配列番号2または配列番号6で示される塩基配列を含む短稈遺伝子、または配列番号4または配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする短稈遺伝子を提供する。さらに好ましくは、本発明は、配列番号2で示される塩基配列からなる短稈遺伝子、または配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする短稈遺伝子を提供する。 さらに、本発明は、短稈イネ科植物の作出に使用するための、Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列からなるDNA、またはOs02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列からなるDNA、好ましくは、配列番号9で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号10で示される塩基配列からなるDNAを提供する。本発明は、また、短稈イネ科植物の作出に使用するための、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする塩基配列のアンチセンス配列からなるDNA、または配列番号7で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする塩基配列のアンチセンス配列を提供する。 下記の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。d60遺伝子のファインマッピング コシヒカリの第2染色体をインディカ品種 Kasalathに部分的に置換した系統(D60D60galgal)とd60コシヒカリ系統(d60d60GalGal)とを交雑し、得られたF1(D60d60Galgal)をさらに自殖してF2を得た。すなわち、コシヒカリゲノムにおいてd60が座乗する第2染色体がインディカ品種Kasalathに部分的に置換された系統SL204(第2染色体の短腕末端から60.3cMまでがKasalathに置換された系統、D60D60galgal)とコシヒカリd60系統(d60d60GalGal)との交雑F2 5122個体を播種し、第3葉期にd60ホモ型の短くて丸い葉をもつ短稈(d60d60GalGal)532個体を選抜して鳥取大学フィールドサイエンスセンターで栽培した。これら短稈ホモ型F2全個体から葉をサンプリングしてDNAを抽出した。 F2各個体からのゲノムDNAの抽出は、下記のとおり行った。植物体から採葉し、−80℃で凍結保存した。葉を液体窒素で凍結し、粉砕した。これに葉の粉末の重量と等量のDNA抽出液(2%CTAB、100mM Tris−HCl、20mM EDTA・2Na、1.4M NaCl、pH8.0)を加え、55℃で振盪しながら90分間インキュベートした。この溶液をクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)で抽出した。上清に1/10量の3M 酢酸ナトリウムpH5.2を加えた後、等量の−20℃の99.5%イソプロパノールを加えて重合沈殿した高分子DNAをスプールアウトした。スプールアウトしたDNAを1.5mlのHigh−Salt TE(1M NaCl、10mM Tris・HCl、1mM EDTA・2Na、pH8.0)に溶解し、エタノール沈殿後、500μlのTE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA・2Na、pH8.0)に溶解した。これに1/100量のRNase溶液(1mg/ml)を加えて37℃で一晩インキュベートした。さらに、フェノール−クロロホルム抽出およびクロロホルム抽出を1回ずつ行った後、エタノール沈殿して500μlのTE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA・2Na、pH8.0)に溶解した。 次に、Kasalath/コシヒカリ間で多型を示す第2染色体短腕のSSRマーカー48個を用いて、d60またはGalとの組換え価を求め、d60遺伝子の座乗位置を絞り込んだ。 すなわち、上記のようにして抽出した各F2植物体由来のゲノムDNA200ngを鋳型にして、各SSRマーカーについて各200nMのフォワードプライマーおよびリバースプライマー、400μM dNTPs、2.5mM MgCl2、1×LA PCR BufferII(TAKARA)、0.5U LA TaqDNAポリメラーゼ(TAKARA)を含む全量25μlの反応液を作製した。サーマルサイクラーを用いて、変性94℃1分間、アニーリング55℃1分間、伸長72℃1分間の一連の反応を35回行った。PCR反応の後、電気泳動装置QIAxelで電気泳動を行った。電気泳動カートリッジはQIAxel DNA screening Kit(2400)を用い、サンプル注入を5kVで10秒、電気泳動を5kVで420秒行った。 電気泳動結果に基づくDNA多型解析より、各SSRマーカーとd60遺伝子との連鎖を調べ、各SSRマーカーとの組み換え価を求めた。その結果、SSRマーカー48個のうち第2染色体の短腕末端から9.2から11.0Mbの領域にある8個、RM12918、RM452、RM12938、RM12949、RM12964、RM12970、Os02ssr0104100、およびRM13002について、d60との強い連鎖が検出された。これらのSSRマーカーとd60との組換え価は、9.5Mb領域に存在するRM12918では5.7、9.6Mb領域のRM452では5.1、9.9Mb領域のRM12938では3.9、10.1Mb領域のRM12949では2.1、10.2Mb領域のRM12964では3.2、10.2Mb領域のRM12970では0.0、10.5Mb領域のOs02ssr0104100では0.7、10.9Mb領域のRM13002では4.5となった。これらの組換え価から、d60が第2染色体の短腕末端から10.2ないし10.5Mb領域に存在することが分かった(図1)。d60遺伝子の配列解析 イネの第2染色体の短腕末端から10.2ないし10.5Mb付近で推定される遺伝子Os02g0280200およびOs02g0280300をd60候補遺伝子として配列解析を行った。 コシヒカリおよびコシヒカリd60系統のOs02g0280200遺伝子およびOs02g0280300遺伝子をそれぞれPCRで増幅してpUC系ベクターpUC119を用いて単離し、大腸菌K12株由来のHST08に形質転換してクローニングし、常法によりシークエンスを行った。すなわち、コシヒカリおよびコシヒカリd60系統のゲノムDNA200ngを鋳型にして、各200nMのフォワードプライマー(配列番号11:TCGATCGATTGATTGATTGGT)およびリバースプライマー(配列番号12:CCATGGCATGCACATATACATGC)、400μM dNTPs、2.5mM MgCl2、1×LA PCR BufferII(TAKARA)、0.5U LA TaqDNAポリメラーゼ(TAKARA)を含む全量25μlの反応液を作製した。サーマルサイクラーを用いて、変性94℃1分間、アニーリング58℃1分間、伸長72℃2分間の一連の反応を35回行った。また、最初の変性94℃と最後の合成72℃を5分間ずつ行った。PCR産物を1%アガロースゲルで100Vで35分間電気泳動した。DNAの精製にはSUPREC−PCR(TAKARA)を使用した。まず、サンプルリザーバーに滅菌水400μlを加え、キャップをして3,500rpmで15分間遠心後、フィルターバイアルからサンプルリザーバーを外し、新しいバイアルへ置いた。次に、サンプルリザーバーにTE20μlを加え、軽くピペッティングした後、サンプルリザーバーを逆さに取り付け、3,500rpmで2分間遠心した。新しいマイクロチューブに精製したPCR産物1μlを入れ、pMD20−T vector(TAKARA)1μl、滅菌水3μlを加えて混合した後、30分ライゲーションした。E.coil HST08 Premium Competent Cells(TAKARA)を使用直前に、氷中で融解後、穏やかに混和し均一にし、100μlのコンピテントセルを14ml丸底チューブに移し、ライゲーション溶液を入れ、氷中で30分間放置した後、42℃で45秒間インキュベートした。その後、氷中で1〜2分間放置し、あらかじめ37℃に保温しておいたSOC培地を全量加え、37℃で1時間振とうし、固体LB培地に(50〜100μl)塗布した後、37℃で一晩放置した。放置した培地から白コロニーを選択して、液体LB培地3mlに移し、37℃で16時間振とうした。プラスミドを保持する大腸菌の培養液(3ml)からアルカリ法によってプラスミドDNAを精製した。このプラスミドを鋳型にしてダイデオキシ法でシーケンスを行った。 その結果、Os02g0280200遺伝子領域において、コシヒカリとコシヒカリd60系統間で、塩基配列の479位にT(チミン)→C(シトシン)変異があることが分かった。Os02g0280200遺伝子の塩基配列の479位は、第2エキソンにある。また、アミノ酸配列の112位にF(フェニルアラニン)→S(セリン)変異があることが分かった。 一方、Os02g0280300遺伝子領域については、コシヒカリとコシヒカリd60系統の配列間で変異が見出されなかった。 したがって、d60遺伝子は、Os02g0280200遺伝子の機能欠損型であると推測された。コシヒカリのOs02g0280200遺伝子の全長塩基配列の一例を配列番号1に示す。コシヒカリd60系統におけるOs02g0280200遺伝子の全長塩基配列の一例を配列番号2に示す。コシヒカリのOs02g0280200遺伝子によってコードされるアミノ酸配列の一例を配列番号3に示す。コシヒカリd60系統におけるOs02g0280200遺伝子によってコードされるアミノ酸配列の一例を配列番号4に示す。d60遺伝子を用いた短稈イネの生産 Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列またはOs02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列をコシヒカリに導入した。アンチセンス配列の導入は下記のとおり行い、最終的に、再分化した植物体を得た。1.バイナリーベクターのアグロバクテリウムへの導入 イネActin1プロモーター、Nosターミネーター、および選択マーカーとして、イネ由来W548L/S627I 2点変異型アセト乳酸シンターゼ遺伝子を含有するpSTARA系バイナリーベクターR−5(製品名:pSTARA R−5;クミアイ化学工業株式会社製)を制限酵素XbaIおよびKpnIで消化し、全長cDNAのアンチセンス配列(配列番号9)または第2エキソンのアンチセンス配列(配列番号10)を挿入し、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefacience)EHA105株にエレクトロポレーションによって導入した。スペクチノマイシン100ppmを含むLB培地で形質転換体を選抜した。2.胚盤由来カルスの誘導 滅菌したコシヒカリの種子(25〜35粒)をN6D培地に胚を上向きに置床し、30℃、明所(16時間明期)で5日間培養した。3.アグロバクテリウムの前培養 バイナリーベクターを導入したアグロバクテリウムEHA105株(グリセロールストックより)は、感染前日、LB液体培地(スペクチノマイシン100ppm含む)で培養した。4.アグロバクテリウムの感染と共存培養 1)5日間培養した胚盤由来カルスのシュートと胚乳部分を除去し、N6D培地に仮置きした。 2)50mlのファルコンチューブにAAM溶液を40ml入れ、アセトシリンゴン100mg/mlを16μL添加した。 3)上記3で前培養したアグロバクテリウムを集菌し、AAM溶液に懸濁、希釈した。 4)上記1)のカルスを新しい50mlファルコンチューブに入れ、上記3)のアグロバクテリウム懸濁液を加え、1.5分間ゆっくりと転倒混和した。 5)500mlビーカーの上に置いた滅菌済茶こしへ上記4)を注ぎ、カルスが入った茶こしを滅菌済キムタオルの上において余分な水分を除去した。 6)2N6−AS培地にカルス同士が接触しないように置床した(1プレートにつき、約25個のカルス)。 7)24℃の暗所で3日間共存培養した。5.アグロバクテリウムの除去と選抜 1)共存培養したカルスを50mlファルコンチューブへ移し、カルベニシリン(500mg/L)を含む滅菌水で7〜8回洗浄した。 2)洗浄後、水が透きとおってきたら滅菌水中に10分間静置した。 3)新しいピペットにかえて滅菌水500ml使いきりまで洗浄し、カルスを滅菌済キムタオル(登録商標)に移し、余分な水分を除去した。 4)カルスをカルベニシリン400mg/Lを適当量の選抜試薬を含む選抜培地(N6D培地)に置床(1プレートに14カルス)した。 5)30℃、明所(以降、16時間明期)で一ヶ月間培養した。(二週間目に継代培養を行った。)6.植物体再分化 1)新しいカルスが増殖してきたら、カルベニシリン(200mg/L)および0.25μMビスピリバックナトリウム塩を含む再分化培地(RE−III)に移植した。 2)30℃、明所で一ヶ月間培養した。(二週間目に継代培養を行った。) 3)カルスからシュートと根が分化した後、ホルモンフリー(HF)培地へ移植した。 結果を図2に示す。図2から明らかなように、Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列またはOs02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列のどちらの形質転換体も、コントロールより、約20cm短稈化した。また、穂長を測定したところ、コントロールで14.13cm、cDNA全長のアンチセンス遺伝子形質転換体で14.10cm、第2エキソンのアンチセンス遺伝子形質転換体で13.40cmであり、両形質転換体の穂長はコントロールと同等であった。さらに、両形質転換体の籾の大きさもまた、コントロールと同等であった(図3)。 上記の結果から、d60遺伝子の機能相補性が証明され、d60遺伝子がOs02g0280200遺伝子の機能欠損型であることが確認できた。また、Os02g0280200遺伝子の発現を抑制することによって、短稈イネ科植物が得られることが証明された。形質転換体における組込み配列の確認 実施例3で得られた両形質転換体から、実施例1に記載のようにゲノムDNAを抽出し、下記の各プライマーを用いてPCR増幅し、電気泳動により増幅バンドを検出した。コントロールとして、形質転換されていないコシヒカリを用いた。cDNA全長のアンチセンス遺伝子形質転換体用プライマー:3303Fおよび3303R フォワードプライマー配列:TTTTGTAGGTAGAAGTCTAGATCAG(配列番号13) リバースプライマー配列:GGAAATTCGAGCTCGGTACCATGGC(配列番号14)第2エキソンのアンチセンス遺伝子形質転換体用のプライマー:3309Fおよび3309R フォワードプライマー配列:TGTAGGTAGAAGTCTAGAACGATCC(配列番号15) リバースプライマー配列:AATTCGAGCTCGGTACCACGTCGTC(配列番号16) その結果、cDNA全長のアンチセンス遺伝子形質転換体において891bpのバンドが検出され、第2エキソンのアンチセンス遺伝子形質転換体において194bpのバンドが検出された。一方、コントロールでは、これらのバンドは検出されなかった。これらの結果から、実施例3で得られた形質転換体中に、目的のDNAが確かに組み込まれたことが確認できた。したがって、実施例3で示されたイネ形質転換体の短稈化は、Os02g0280200遺伝子の発現抑制によるものであることが証明された。 本発明によると、イネ科植物のOs02g0280200遺伝子の発現を抑制することによって、従来のsd1遺伝子に依存することなく、短稈イネ科植物を作出することができる。本発明の短稈イネ科植物は、穂や籾は正常で背丈だけが短縮されているので、耐倒伏性を有するだけでなく、生産性も維持する。したがって、本発明は、農業分野におけるイネの生産および種々のイネ科植物の品種改良に利用可能である。 イネ科植物において、Os02g0280200遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、短稈イネ科植物の作出方法。 アンチセンス法または突然変異誘発法によってOs02g0280200遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、請求項1記載の方法。 Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、請求項2記載の方法。 Os02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、請求項2記載の方法。 Os02g0280200遺伝子の塩基配列の479位にチミンからシトシンへのヌクレオチド変異を導入することを特徴とする、請求項2記載の方法。 配列番号2で示される塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、請求項5記載の方法。 配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、請求項5記載の方法。 配列番号6で示される塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、請求項5記載の方法。 配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターでイネ科植物を形質転換することを特徴とする、請求項5記載の方法。 Os02g0280200遺伝子の発現が抑制された、短稈イネ科植物。 配列番号2で示される塩基配列を含む短稈遺伝子。 配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする短稈遺伝子。 Os02g0280200遺伝子の全長cDNAのアンチセンス配列からなるDNA。 Os02g0280200遺伝子の第2エキソンのアンチセンス配列からなるDNA。 配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列のアンチセンス配列からなるDNA。 配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列のアンチセンス配列からなるDNA。 【課題】本発明は、sd1遺伝子以外の短稈遺伝子の同定、およびsd1遺伝子以外の短稈遺伝子を利用した短稈イネ科植物の作出を目的とする。【解決手段】イネ科植物を短稈化させる遺伝子d60を利用する短稈イネ科植物の作出方法であって、Os02g0280200の発現を抑制することを特徴とする短稈イネ科植物の作出方法、およびOs02g0280200の発現を抑制された短稈イネ科植物等を提供する。【選択図】なし配列表