生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_サトウキビ野生種ゲノムに由来する茎長関連マーカーとその利用
出願番号:2012069850
年次:2013
IPC分類:C12Q 1/68,A01H 1/02,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

島田 武彦 榎 宏征 西村 哲 木村 達郎 水藤 百江 石川 葉子 寺内 方克 服部 太一朗 境垣内 岳雄 JP 2013198453 公開特許公報(A) 20131003 2012069850 20120326 サトウキビ野生種ゲノムに由来する茎長関連マーカーとその利用 トヨタ自動車株式会社 000003207 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 島田 武彦 榎 宏征 西村 哲 木村 達郎 水藤 百江 石川 葉子 寺内 方克 服部 太一朗 境垣内 岳雄 C12Q 1/68 20060101AFI20130906BHJP A01H 1/02 20060101ALI20130906BHJP C12N 15/09 20060101ALN20130906BHJP JPC12Q1/68 AA01H1/02 ZC12N15/00 A 6 2 OL 15 2B030 4B024 4B063 2B030AB03 2B030AD14 2B030CA01 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA09 4B024CA20 4B024HA08 4B024HA09 4B024HA12 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ04 4B063QQ42 4B063QR08 4B063QR42 4B063QR55 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS36 4B063QX01 本発明は、サトウキビ野生種に特徴的な茎長の形質を有するイネ科植物を選抜することができる茎長関連マーカー及びその利用方法に関する。 サトウキビは、砂糖の原料、酒類原料など、食用に栽培されている他、バイオ燃料原料としての利用を含む様々な産業分野で利用されている。このような状況下、所望の特性(例えば、糖含有量、生長力の増強、新芽形成能、耐病性及び虫害抵抗性、耐寒性、葉長の増大、葉面積の増大、茎長の増大など)を有するサトウキビ植物の新品種を開発するニーズがある。また、サトウキビを含むイネ科植物についても、全般的に酒類原料やバイオ燃料原料に利用されている。 サトウキビや、イネ、トウモロコシなどイネ科植物については、既存品種の改良、すなわち所期の形質を有する新品種の作出などを目的とした交配が盛んに行われている。一般に、植物品種・系統の識別として、特性データを比較する「特性比較」、同一条件で栽培し比較する「比較栽培」、DNAを解析する「DNA分析」の3つの方法がある。特性比較および比較栽培による系統識別は、栽培条件の違いによる精度低下や多大な工数が必要とされる長期間の圃場調査など多くの問題を抱える。 特に、サトウキビは、他の作物と比べ植物体が極めて大きく、圃場調査による系統識別の実施が困難である。また、サトウキビの新品種作出には、先ず、交配により数万種類の交配種を作製し、そこから実生選抜、さらに優良な系統を段階的に選抜し、最終的に所望な特性を有する2〜3種の新品種を得ることができる。このように、サトウキビの新品種作出には、非常に多くの系統を栽培・評価する必要があり、上述したような温室や圃場を準備して多大な手間をかける必要がある。 したがって、所望の特性を有するイネ科植物、特にサトウキビ系統をゲノムに存在するマーカーを用いて識別する方法の開発が求められている。特に、サトウキビを用いた新品種作出に際して、種々の特性について優れたマーカーが使用できれば、上述したようなサトウキビに特有の諸問題を回避でき、非常に有効なツールとなりうる。しかしながら、サトウキビ植物は、高次倍数性で染色体数が多いため(約100〜130)、マーカー技術開発が遅れている。サトウキビでは、USDAにおいてSSRマーカーを用いた遺伝子型決定に関する報告があるものの(非特許文献1)、マーカー数及び各マーカーからの多型数が少ないことに起因して精度が低く、適用範囲がアメリカ・オーストラリア品種に限られるため、日本国内および台湾・インドなどの主要品種および有用な遺伝資源の系統識別に利用できない。 また、非特許文献2は、マーカー数を増やし、各々のマーカーの特性関係を比較し、検証することでサトウキビにおける遺伝子地図を作製する可能性を示唆している。しかしながら、非特許文献2には、十分な数のマーカーが開示されておらず、目的とする特性に連鎖したマーカーも見つかっていない。 マーカー開発の一例としては、例えば、特許文献1に記載されるようにテンサイにおける黒根病抵抗性関連マーカーの開発が挙げられる。また、特許文献2に示すように、トウモロコシにおいて、目的とする形質に連鎖したマーカーを利用して品種を選抜する技術が開示されている。 ところで、サトウキビには野生種(学名:Saccharum spontaneum L.)と呼称される種がある。このサトウキビ野生種としては、インドネシア等のGlagahや日本国内にみられるワセオバナ、ベンガル語圏におけるKash(Kans Grass)などが知られている。Glagahやワセオバナ、Kashはいずれも、現地におけるサトウキビ野生種の一般的な呼び名である。なお、特定の品種・系統を指すためには、必要に応じて、収集地名や各国の収集番号等の情報を付した個別の系統名を用いる場合がある。サトウキビ野生種は、一般に、生育旺盛で環境耐性能力が高いといった特徴を備えており、細く強靭な茎を有し、繊維が多く、萎縮病や黄条病など、病害虫に対する抵抗性に優れる。含糖率は一般に低く、Glagahでは1〜3%以下の場合が多いが、日本国内で収集されたサトウキビ野生種には10%を上回る個体も認められるなど、変異の幅は大きい。 このようなサトウキビ野生種との種間交雑や属間交雑を通じて、サトウキビ野生種が有する優れた茎伸長性、多けつ性等の特性を製糖用品種やサトウキビ以外のイネ科植物品種に導入することが行われてきている。種間雑種には、低温伸長性や最終的な茎長に優れる系統が多いことが経験的に知られており、サトウキビ野生種ゲノムには、製糖用品種にない、茎長の増加をもたらす独自の遺伝子があることが推定されている。しかしながら、サトウキビ野生種の各種特性に関するマーカーは全く知られておらず、このような特性を有する種間雑種や属間雑種を選抜するには、上述のように多大な手間のかかる方法しかないのが現状である。WO 2007/125958特開2010-516236号公報Maydica 48(2003)319-329 “Molecular genotyping of sugarcane clones with microsatellite DNA markers”Nathalie Piperidis et al., Molecular Breeding, 2008, Vol 21, 233-247 そこで、本発明は、サトウキビ野生種における茎長特性に関連する、サトウキビ野生種ゲノムに由来する茎長関連マーカー及びその利用を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、サトウキビ野生種を含むサトウキビ植物における多数のマーカーを準備し、交雑後代系統における量的形質とマーカーとの連鎖解析によって、茎長といった量的形質に連鎖するサトウキビ野生種由来のマーカーを見いだし、本発明を完成するに至った。 本発明は以下を包含する。(1)イネ科植物の染色体における配列番号1に示す塩基配列及び配列番号2に示す塩基配列により挟まれる領域から選ばれる連続する核酸領域からなる、イネ科植物茎長関連マーカー。(2)上記核酸領域は、配列番号1又は2記載の塩基配列又は当該塩基配列の一部を含むことを特徴とする(1)記載のイネ科植物茎長関連マーカー。(3)上記イネ科植物は、一方の親がサトウキビ野生種であることを特徴とする(1)記載のイネ科植物茎長関連マーカー。(4)イネ科植物の染色体及び/又は当該イネ科植物の親の染色体を抽出する工程と、上記で得られた染色体における上記(1)乃至(3)いずれかに記載のイネ科植物茎長関連マーカーの存在・非存在を測定する工程とを含む、茎長が増大したイネ科植物の製造方法。(5)上記イネ科植物は種子又は幼苗であり、当該種子又は幼苗から染色体を抽出することを特徴とする(4)記載のイネ科植物の製造方法。(6)一方の親がサトウキビ野生種として交配により上記イネ科植物を作製する工程を更に含むことを特徴とする(4)記載のイネ科植物の製造方法。 本発明によれば、サトウキビ等のイネ科植物における量的形質の中でも茎長に連鎖する新規なイネ科植物茎長関連マーカーを提供することができる。本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを利用することによって、サトウキビ等のイネ科植物の交配系統における茎長を検定することができる。これにより、茎長が増大した特性を有するイネ科植物を非常に低コストに識別することができる。実施例で使用したサトウキビ品種・系統群について計測した茎長データを示す特性図である。茎長に関するQTL解析の結果(S3-19における第10連鎖群)を示す特性図である。各系統におけるS310951のシグナル値を示す特性図である。各系統におけるS311375のシグナル値を示す特性図である。 以下、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカー及びその利用方法、特にイネ科植物茎長関連マーカーを用いたイネ科植物の製造方法について説明する。イネ科植物茎長関連マーカー 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーとは、サトウキビ等のイネ科植物の染色体上に存在する特定の領域であり、イネ科植物の茎長といった形質の原因遺伝子(群)に連鎖して、イネ科植物の茎長という形質を判別できる機能を有する。すなわち、既知のサトウキビ系統等のイネ科植物を用いて得られた後代系統において、イネ科植物茎長関連マーカーの存在・非存在を確認することで茎長の増大という形質を有する系統であると判断することができる。 また、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーは、茎長が増大する形質に連鎖するマーカーである。例えば、特定のイネ科植物において、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーが存在していれば茎長が増大した特徴を有すると判断できる。ここで、茎長の増大とは、とくに生育初期における茎長の増大を含む意味であり、生育初期における茎伸長速度が速いと言い換えることができる。茎長とは、サトウキビの場合、株の中の最高茎につき、発芽位置から+1葉(最上展開葉)の肥厚帯までの高さを意味する。初期の茎長とは、日本国内の場合、一般に発芽後から5カ月の期間における茎長を意味する(栽培地域、作型などに応じて期間は変動し得る)。 ここで、イネ科植物とは、特に限定されず、イネ科に属する植物を意味する。すなわち、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーは、イネ科に分類されるあらゆる植物について使用することができる。なお、イネ科植物は、更にタケ亜科、イチゴツナギ亜科、オリラ亜科及びキビ亜科に分類される。 詳細に、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを使用できるイネ科植物のなかでタケ亜科には、アズマザサ属(Arundinaria)、ホウライチク属(Bambusa)、カンチク属(Chimonobambusa)、クスクエア属(Chusquea)、マチク属(Dendrocalamus)、メロカンナ属(Melocanna)、オクシテナンテラ属(Oxytenanthera)、マダケ属(Phyllostachys)、メダケ属(Pleioblastus)、ヤダケ属(Pseudosasa)、ササ属(Sasa)、スズダケ属(Sasamorpha)、ナリヒラダケ属(Semiarundinaria)、オカメザサ属(Shibataea)、トウチク属(Sinobambusa)、シホウチク属(Tetragonocalamus)の植物が含まれる。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを使用できるイネ科植物のなかでイチゴツナギ亜科には、カズノコグサ属(Beckmannia)、ヤマカモジグサ属(Brachypodium)、コバンソウ属(Briza)、スズメノチャヒキ属(Bromus)、カモガヤ属(Dactylis)、ウシノケグサ属(Festuca)、ドジョウツナギ属(Glyceria)、ラマルキア属(Lamarckia)、ドクムギ属(Lolium)、コメガヤ属(Melica)、イチゴツナギ属(Poa)、チシマドジョウツナギ属(Puccinellia)、セスレリア属(Sesleria)、トリオディア属(Triodia)、カモジグサ属(Agropyron)、エゾムギ属(Elymus)、オオムギ属(Horudeum)、ライムギ属(Secale)、コムギ属(Triticum)、コヌカグサ属(Agrostis)、アレナテレム属(Arrhenatherum)、カラスムギ属(Avena)、コメススキ属(Deschampsia)、ヘリクトトリコン属(Helictotrichon)、シラゲガヤ属(Holcus)、ミノボロ属(Koeleria)、ラグルス属(Lagurus)、ダンチク属(Arundo)、コルタデリア属(Cortaderia)、ウラハグサ属(Hakonechloa)、ヌマガヤ属(Molinia)ヨシ属(Phragmites)、トダシバ属(Arundinella)、ロウデティア属(Loudetia)、トリスタキア属(Tristachya)、クサヨシ属(Phalaris)、スパルティナ属(Spartina)ミリウム属(Milium)及びハネガヤ属(Stipa)の植物が含まれる。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを使用できるイネ科植物のなかでミクライラ亜科には、ミクライラ属(Micraira)の植物が含まれる。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを使用できるイネ科植物のなかでスズメガヤ亜科には、ハマガヤ属(Diplachne)、オヒシバ属(Eleusine)、スズメガヤ属(Eragrostis)、ネズミガヤ属(Muhlenbergia)、ネズミノオ属(Sporobolus)、トリコグサ属(Tripogon)、オヒゲシバ属(Chloris)、ギョウギシバ属(Cynodon)、アリスティダ属(Aristida)及びシバ属(Zoysia)の植物が含まれる。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを使用できるイネ科植物のなかでイネ亜科には、サヤヌガグサ属(Leersia)、イネ属(Oryza)及びマコモ属(Zizania)の植物が含まれる。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを使用できるイネ科植物のなかでオリラ亜科には、オリラ属(Ollyra)、クリプトクロア属(Cryptochloa)及びレプラスピス(Leptaspis)の植物が含まれる。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを使用できるイネ科植物のなかでキビ亜科には、ニクキビ属(Brachiaria)、メヒシバ属(Digitaria)、ヒエ属(Echinochloa)、キビ属(Panicum)、スズメノヒエ属(Paspalum)、チカラシバ属(Pennisetum)、エノコログサ属(Setaria)及びチゴザサ属(Isachne)、メリケンカルカヤ属(Andropogon)、ウシクサ属(Schizoachyrium)、コブナグサ属(Arthraxon)、ヒメアブラススキ属(Bothriochloa)、オガルカヤ(キムボポゴン)属(Cymbopogon)、カリマタガヤ属(Dimeria)、アブラススキ属(Eccoilopus)、エリアンサス属(Erianthus)、ムカデシバ属(Eremochloa)、ウンヌケ属(Eulalia)、ウシノシッペイ属(Hemarthria)、チガヤ属(Imperata)、カモノハシ属(Ischaemum)、アシボソ属(Microstegium)、ススキ属(Miscanthus)、アイアシ属(Phacelurus)、イタチガヤ属(Pogonatherum)、サトウキビ(サッカルム)属(Saccharum)、モロコシ属(Sorghum)、メガルカヤ属(Themeda)、ジュズダマ属(Coix)及びトウモロコシ属(Zea)の植物が含まれる。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーは、これら亜科に分類される全てのイネ科植物に適用することができる。すなわち、例えば、これらイネ科植物の後代系統について本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーの存在・非存在を検出することによって、当該後代系統について茎長が増大する形質を有するか否か判断することができる。 特に、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを適用するイネ科植物としては、サトウキビ属が帰属するウシクサ亜科の植物及び当該植物からの後代系統が好ましい。なかでも、少なくとも一方の親をサトウキビとした交配によって得られた後代系統について、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを利用して、茎長に関する形質を判断することが好ましい。なお、サトウキビ属の植物と、例えばススキ、ソルガム、エリアンサス等の植物との「種・属間交配」は従来公知の手法により実施することができる。 なお、サトウキビとは、イネ科サトウキビ属に属する植物を意味する。また、サトウキビとは、所謂、高貴種(学名:Saccharum officinarum)と野生種(学名:Saccharum spontaneum)、バルベリ種(Saccharum barberi)、シネンセ種(Saccharum sinense)、オフィシナルム種の祖先種であるロバスタム種(Saccharum robustum)のいずれも含むことを意味する。既知のサトウキビ品種・系統としては、特に限定されず、日本国内にて使用可能なあらゆる品種・系統、日本国外において使用されている品種・系統等を含む意味である。例えば、サトウキビ日本国内育成品種としては、特に限定されないが、Ni1、NiN2、NiF3、NiF4、NiF5、Ni6、NiN7、NiF8、Ni9、NiTn10、Ni11、Ni12、Ni14、Ni15、Ni16、Ni17、NiTn19、NiTn20、Ni22及びNi23等を挙げることができる。また、サトウキビ日本国内主要品種としては、特に限定されないが、NiF8、Ni9、NiTn10及びNi15等を挙げることができる。さらに、サトウキビ日本国内導入主要品種としては、特に限定されないが、F177、Nco310及びF172等を挙げることができる。また、サトウキビ野生種としては、特に限定されないが、Glagah Kloet、Glagah 1286、Mandalay、SES14、US56-15-8及びJW599等を挙げることができる。 特に、初期の茎長に優れるといった形質を有するサトウキビ野生種及び/又は当該野生種の後代系統(例えば、S3-19)を一方の親とした交配によって得られた後代系統について、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーを利用して、茎長に関する形質を判断することが好ましい。本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーは、初期の茎長に優れるといった形質を有するサトウキビ野生種であるGlagahに由来する系統S3-19の染色体領域に対応しており、当該野生種の有する茎長の形質に関連している。よって、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーの存在・非存在を検出することによって、検査対処うの後代品種が初期の茎長に優れるといった形質を受け継いでいいるか否か確認することができる。 なお、後代系統は、母本及び父本の両方がサトウキビ品種・系統である同種交配による系統であっても良いし、いずれか一方がサトウキビ品種・系統であり他方が近縁のErianthus arundinaceusであるような交雑系統であっても良い。また、後代品種は、いわゆる戻し交配によって得られたものでも良い。 本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーは、NiF8、S3-19及び交雑後代214系統のシグナルデータから、NiF8由来の9,485個のマーカー及びS3-19由来の11,238個のマーカーを含む遺伝子連鎖地図と、茎長データとを用いたQTL(Quantitative Trait Loci)解析によって新たに同定されたものである。なお、茎長は、多数の遺伝子が関与していると考えられ、連続分布をとる量的形質である。QTL解析には、遺伝解析ソフトQTL Cartographer(Wang S.,C.J. Basten, and Z.B. Zeng (2010). QTL Cartographer 1.17. Department of Statistics, North Carolina State University, Raleigh, C)を使用し、Composite interval mapping(CIM)法を適用している。なお、サトウキビの染色体から独自に取得したNiF8由来の9,485個のマーカー及びS3-19由来の11,238個のマーカーは、特開2011−120558号公報及びWO2011/074510号公報に開示された方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイを使用することができる。 具体的に、上述したQTL解析により、ロッドスコア(LOD score)が所定の閾値(例えば2.5)以上となる領域を上記遺伝子連鎖地図に見いだした。すなわち、S3-19の第10連鎖群の約93.72cM(センチモルガン)の位置に約5.38cMからなる領域を、茎長の関するQTL領域として特定した。ここで、「モルガン(M)」は、染色体上の遺伝子間の距離を相対的に示した単位であり、交叉価をパーセントにした値である。サトウキビの染色体において、1cMは、約2000kbに相当する。なお、このピーク位置又はその近傍には、S3-19やその親である野生種Glagahにおける茎長を増大させる形質の原因遺伝子(群)が存在することが示唆される。 上記約5.38cMの領域は、表1に示すマーカーS310951及びS311375により挟み込まれる領域である。 なお、表1において、連鎖群とは、QTL解析において特定された複数の連鎖群についてそれぞれ付された番号である。表1においてマーカー名とは、本発明で独自に取得したマーカーに付された名称である。表1においてシグナル閾値とは、マーカーの有無を判定するための閾値である。 表1に示したマーカーが含まれる核酸領域を、イネ科植物茎長関連マーカーとして使用することができる。ここで、核酸領域とは、イネ科植物の染色体に存在する他の領域との同一性が95%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、最も好ましくは70%以下となるような塩基配列からなる領域を意味する。イネ科植物茎長関連マーカーとなる核酸領域と他の領域との同一性が上記範囲であれば、定法に従って、当該核酸領域を特異的に検出することができる。ここで、同一性の値は、例えばBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出することができる。 また、イネ科植物茎長関連マーカーとなる核酸領域の塩基長は、少なくとも8塩基長以上、好ましくは15塩基長以上、より好ましくは20以上、最も好ましくは30塩基長とすることができる。イネ科植物茎長関連マーカーとなる核酸領域の塩基長が上記範囲であれば、定法に従って、当該核酸領域を特異的に検出することができる。 特に、イネ科植物茎長関連マーカーとしては、5.38cMの領域、すなわち配列番号1に示す塩基配列と配列番号2に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域から選ばれることが好ましい。上記ピークが配列番号1に示す塩基配列と配列番号2に示す塩基配列とにより挟み込まれる領域に存在するためである。 また、イネ科植物茎長関連マーカーとしては、上記表1に示した2種類のマーカーから選ばれる1種類のマーカーを含む核酸領域とすることもできる。例えば、イネ科植物茎長関連マーカーとしては、配列番号1に示す塩基配列からなるマーカー(S310951)を含む核酸領域、又は配列番号2に示す塩基配列からなるマーカー(S311375)を含む核酸領域を使用することが好ましい。このとき、マーカーを含む核酸領域の塩基配列は、当該マーカーの塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いたインバースPCR等の隣接配列取得法によって特定することができる。 さらに、イネ科植物茎長関連マーカーとしては、上記2種類のマーカーそのものを使用することができる。すなわち、これら2種類のマーカーのうち1種類以上のマーカーをイネ科植物茎長関連マーカーとして使用することができる。例えば、イネ科植物茎長関連マーカーとしては、配列番号1に示す塩基配列からなるマーカー(S310951)又は配列番号2に示す塩基配列からなるマーカー(S311375)を使用することが好ましい。イネ科植物茎長関連マーカーの利用 イネ科植物茎長関連マーカーを利用することで、茎長に関する表現型が未知のイネ科植物系統について、茎長が増大するという表現型を示す系統であるか判断することができる。ここで、イネ科植物茎長関連マーカーを利用するとは、当該マーカーに対応するプローブを有するDNAマイクロアレイを利用する形態を含む意味である。イネ科植物茎長関連マーカーに対応するプローブとは、上述のように定義されたイネ科植物茎長関連マーカーに対して、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを意味する。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、上述のように定義されたイネ科植物茎長関連マーカーの塩基配列又はその相補鎖の少なくとも連続する10塩基、15塩基、20塩基、25塩基、30塩基、35塩基、40塩基、45塩基、50塩基又はそれ以上の塩基長の部分領域若しくは全領域として設計することができる。なお、このプローブを有するDNAマイクロアレイとしては、ガラスやシリコーン等の平面基板を担体とするマイクロアレイや、マイクロビーズを担体とするビーズアレイ、或いは中空繊維の内壁にプローブを固定する3次元マイクロアレイ等の如何なるタイプのマイクロアレイであってもよい。 以上のように作製されたDNAマイクロアレイを使用することで、後代系統等に代表される茎長に関する表現型が未知のイネ科植物系統について、茎長が増大するという表現型を示す系統であるか判断することができる。なお、上述したDNAマイクロアレイを使用する方法以外であっても、従来公知の手法を用いて上述したイネ科植物茎長関連マーカーを検出して、茎長に関する表現型が未知のイネ科植物系統について茎長が増大するという形質を有する系統であるか判断してもよい。 DNAマイクロアレイを使用する方法については、特開2011−120558号公報及びWO2011/074510号公報に詳細に開示されている。このようなDNAマイクロアレイを使用する方法等を利用して、供試するイネ科植物において、本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーが存在しているか、存在していないか検出する。本発明に係るイネ科植物茎長関連マーカーが存在しる場合、供試したイネ科植物は茎長が増大するといった品種であると判断できる。 特に、上述した方法では、供試したイネ科植物、例えばサトウキビを、茎長を計測できるまで成長させる必要はなく、例えば後代系統の種子や当該種子を発芽させた幼苗を使用することができる。したがって、イネ科植物茎長関連マーカーを利用することによって、供試したイネ科植物を生育させるための圃場やその他、生育のためのコストを大幅に削減することができる。 特に、例えばサトウキビの新品種作出に際して、先ず、交配により数万種類の交配種を作製した後、実生選抜に先立って若しくは実生選抜に代えて、イネ科植物茎長関連マーカーを利用した判断を行うことが好ましい。これにより、実際の圃場において、優良な系統を栽培する数を大幅に削減することができ、サトウキビの新品種作出に係る手間やコストを大幅に抑制することができる。 或いは、サトウキビの新品種作出に際して、先ず、交配に使用する親品種におけるイネ科植物茎長関連マーカーの存在の有無を判定し、茎長が増大するといった親品種を選抜することもできる。茎長が増大する親品種を優先的に使用して後代系統を作出することで、茎長が増大するといった形質を有する後代系統が高頻度に出現すると期待できる。これにより、優良な系統を栽培する数を大幅に削減することができ、サトウキビ等のイネ科植物の新品種作出に係る手間やコストを大幅に抑制することができる。 以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。1.DNAマイクロアレイ用プローブの作成(1)材料 サトウキビ品種:NiF8、Ni9、US56-15-8、POJ2878、Q165、R570、Co290及びB3439、サトウキビ近縁野生種:Glagah Kloet、Chunee、Natal Uba及びRobustum9、並びにエリアンサス:IJ76-349及びJW630を用いた。(2)制限酵素処理 これらサトウキビ品種、サトウキビ近縁野生種及びエリアンサスからそれぞれゲノムDNAを、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。ゲノムDNA(750ng)を制限酵素PstI(NEB社、25unit)で37℃、2時間処理後、制限酵素BstNI(NEB社、25unit)を添加、60℃、2時間処理した。(3)アダプターライゲーション (2)で処理したゲノムDNA断片(120ng)にPstI配列アダプター(5’-CACGATGGATCCAGTGCA-3’(配列番号3)、5’-CTGGATCCATCGTGCA-3’ (配列番号4))とT4 DNA Ligase(NEB社、800 unit)を加え、16℃、一昼夜処理した。これにより、(2)で処理したゲノムDNA断片のうち、両末端にPstI認識配列を有するゲノムDNA断片に対して選択的にアダプターを付加した。(4)PCR増幅 (3)で得られたアダプターを有するゲノムDNA断片(15ng)にPstI配列アダプター認識プライマー(5’-GATGGATCCAGTGCAG-3’(配列番号5))とTaq polymerase(TAKARA社PrimeSTAR、1.25unit)を加え、PCR( 98℃を10秒間、55℃を15秒間、72℃を1分間、30サイクル後、72℃で3分間処理後、4℃で保存)でゲノムDNA断片を増幅した。(5)ゲノムシークエンス取得 (4)においてPCR増幅したゲノムDNA断片についてFLX454(Roche社)又はサンガー法により塩基配列を決定した。また、ゲノムデータベース(Gramene:http://www.gramene.org/)に格納されたソルガム全ゲノム配列情報から、PstI認識配列により挟み込まれる塩基配列情報を取得した。(6)プローブ設計及びDNAマイクロアレイの作成 (5)のゲノムシークエンス情報をもとに50〜75bpのプローブを設計した。設計したプローブの塩基配列情報をもとに、これらプローブを有するDNAマイクロアレイを作製した。2.DNAマイクロアレイを用いたシグナルデータの取得(1)材料 サトウキビ品種・系統:NiF8及びS3-19、並びに、交配後代214系統を用いた。(2)制限酵素処理 これらNiF8及びS3-19、並びに214系統の後代系統からそれぞれゲノムDNAを、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。ゲノムDNA(750ng)を制限酵素PstI(NEB社、25unit)で37℃、2時間処理後、制限酵素BstNI(NEB社、25unit)を添加、60℃、2時間処理した。(3)アダプターライゲーション (2)で処理したゲノムDNA断片(120ng)にPstI配列アダプター(5’-CACGATGGATCCAGTGCA-3’(配列番号3)、5’-CTGGATCCATCGTGCA-3’(配列番号4))とT4 DNA Ligase(NEB社、800 unit)を加え、16℃、一昼夜処理した。これにより、(2)で処理したゲノムDNA断片のうち、両末端にPstI認識配列を有するゲノムDNA断片に対して選択的にアダプターを付加した。(4)PCR増幅 (3)で得られたアダプターを有するゲノムDNA断片(15ng)にPstI配列アダプター認識プライマー(5’-GATGGATCCAGTGCAG-3’(配列番号5))とTaq polymerase(TAKARA社PrimeSTAR、1.25unit)を加え、PCR(98℃を10秒間、55℃を15秒間、72℃を1分間、30サイクル後、72℃で3分間処理後、4℃で保存)でゲノムDNA断片を増幅した。(5)ラベル化 上述した(4)で得られたPCR増幅断片をカラム(Qiagen社)で精製後、Cy3-labeled 9mers(TriLink社、1O.D.)を加え、98℃、10分間処理後、氷上で10分間静置した。その後、Klenow(NEB社、100unit)を加え37℃、2時間処理した。そして、エタノール沈殿によりラベル化サンプルを調整した。(6)ハイブリ・シグナル検出 (5)のラベル化サンプルを用い、NimbleGen Array User's Guideに従い、上記1.で作製したDNAマイクロアレイを用いてハイブリダイズを行い、ラベルに基づくシグナルを検出した。3.イネ科植物茎長関連QTLの同定及びマーカーの開発(1)遺伝地図データシート作成 上記2.にて検出したサトウキビ品種NiF8、S3-19及びこれらの交配後代系統(214系統)のシグナルデータから、NiF8由来の9,485個のマーカー及びS3-19型の11,238個のマーカーとなりうる遺伝子型データを取得した。この遺伝子型データを元にして、遺伝地図作成ソフトウェアAntMap(Iwata H, Ninomiya S (2006) AntMap: constructing genetic linkage maps using an ant colony optimization algorithm. Breed Sci 56: 371-378)を使用し、遺伝距離計算式Kosambiにより染色体におけるマーカーの位置情報を算出した。さらに、取得したマーカーの位置情報をもとに、Mapmaker/EXP ver.3.0(A Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report, Third Edition, January, 1993)により遺伝地図データシートを作成した。(2)茎長データの取得 NiF8、S3-19及び交雑後代214系統を2011年4月13日に、それぞれ1反復13個体/2.2m2とし、2反復で植え付けた。2011年7月28日に、各反復5個体について発芽位置から最上展開葉の肥厚帯までの長さを計測し、2反復の平均値をサトウキビの茎長データ(cm)として用いた。計測された各系統の茎長を図1にまとめた。NiF8は62(cm)、S3-19は67.7(cm)のデータ区間にそれぞれ含まれた。(3)量的形質(Quantitative trait loci: QTL)の解析 上記(1)で得られた遺伝地図データシート及び上記(2)で得られた茎長データを元にして、遺伝解析ソフトQTL Cartographer(Wang S., C. J. Basten, and Z.-B. Zeng (2010). QTL Cartographer 1.17. Department of Statistics, North Carolina State University, Raleigh, NC)を使用し、Composite interval mapping(CIM)法によりQTL解析を行った。このときLODの閾値を2.5とした。その結果、図2に示すように、サトウキビ系統S3-19の第10連鎖群に存在するマーカーS310951からS311375の近傍に、LODの閾値を超えるピークが得られた。得られたピークは表2に示すように特定することができ、当該ピークの位置に茎長を増大させる機能を有する原因遺伝子(群)が存在することが示唆された。なお、表2において効果(cm)の欄は、茎長の増大効果を定量的に示している。 そして、図4に示すように、当該ピークの近傍に位置するマーカーは、茎長を増大させる機能を有する原因遺伝子(群)と連鎖して遺伝するためイネ科植物茎長関連マーカーはとして使用できることが示された。すなわち、図4に示した2種類のマーカーは、イネ科植物茎長関連マーカーとして使用できることが明らかとなった。 なお、上記2.における(6)シグナル検出の一例として、NiF8、S3-19、並びに後代系統12系統における、マーカーS310951及びS311375のシグナル値を表3及びそれぞれ図3及び4に示した。(4)マーカーS310951及びS311375の由来判定 次に、上記(3)で特定したイネ科植物茎長関連マーカーに含まれるマーカーS310951及びS311375に由来を判定した。具体的には、サトウキビ品種S3-19の親であるIRK67-1及びGlagahについて、それぞれのゲノム間の相同性をDNAアレイ実験を行って調べた。なお、DNAアレイ実験は、特開2011-120558に開示された方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイを使用した。その結果、表4に示すように、上記(3)で特定したマーカーS310951及びS311375は、サトウキビ野生種であるGlaga由来であると判定された。 なお、表4において、Glaga_1とGlaga_2は、DNAアレイにおいて同じサンプルを使用した結果であり、同様にIRK67-1_1とIRK67-1_2は、同じサンプルにおける結果を示している。また、表4においてAとは、その列に示した品種のゲノム由来と判定できることを意味している。表4においてBとは、その列に示した品種のゲノム由来と判定できないことを意味している。 イネ科植物の染色体における配列番号1に示す塩基配列及び配列番号2に示す塩基配列により挟まれる領域から選ばれる連続する核酸領域からなる、イネ科植物茎長関連マーカー。 上記核酸領域は、配列番号1又は2記載の塩基配列又は当該塩基配列の一部を含むことを特徴とする請求項1記載のイネ科植物茎長関連マーカー。 上記イネ科植物は、一方の親がサトウキビ野生種であることを特徴とする請求項1記載のイネ科植物茎長関連マーカー。 イネ科植物の染色体及び/又は当該イネ科植物の親の染色体を抽出する工程と、 上記で得られた染色体における請求項1乃至3いずれか一項記載のイネ科植物茎長関連マーカーの存在・非存在を測定する工程とを含む、茎長が増大したイネ科植物の製造方法。 上記イネ科植物は種子又は幼苗であり、当該種子又は幼苗から染色体を抽出することを特徴とする請求項4記載のイネ科植物の製造方法。 一方の親がサトウキビ野生種として交配により上記イネ科植物を作製する工程を更に含むことを特徴とする請求項4記載のイネ科植物の製造方法。 【課題】イネ科植物の量的形質の中でも茎長に関連するマーカーを提供する。【解決手段】イネ科植物の染色体における特定の2種類の塩基配列により挟まれる領域から選ばれる連続する核酸領域からなる、イネ科植物茎長関連マーカー。【選択図】図2配列表


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