タイトル: | 公開特許公報(A)_肺腺扁平上皮癌の腫瘍マーカー及び診断キット |
出願番号: | 2012050629 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 33/574 |
鎌田 春彦 角田 慎一 堤 康央 JP 2013185921 公開特許公報(A) 20130919 2012050629 20120307 肺腺扁平上皮癌の腫瘍マーカー及び診断キット 独立行政法人医薬基盤研究所 505314022 特許業務法人前田特許事務所 110001427 鎌田 春彦 角田 慎一 堤 康央 G01N 33/574 20060101AFI20130827BHJP JPG01N33/574 A 4 4 OL 10 本発明は、肺腺扁平上皮癌の腫瘍マーカー及び診断キットに関する。 日本において、肺癌は男性の癌死亡率の第1位であり、女性の癌死亡率では上位から3位に入る。肺癌は、肺小細胞癌と非肺小細胞癌とに大別され、非肺小細胞癌は腺癌、扁平上皮癌、及び腺扁平上皮癌に分類される。 このうち、肺腺扁平上皮癌は、肺癌の日本肺癌取扱規約(肺癌学会分類)及びWHO分類の何れにおいても、肺腺癌と肺扁平上皮癌との混在型として、独立した組織型に分類されている。 肺腺扁平上皮癌は、肺癌全体の1〜6%を占めており、比較的希な組織型であるが、予後は肺腺癌及び肺扁平上皮癌と比較して有意に不良であるとされる(非特許文献1)。そのため、肺腺扁平上皮癌をその他の組織型と的確に区別して早期に診断できる手法が求められる。 肺癌の一般的な腫瘍マーカーであるCEAは、肺癌全体では約50%の陽性率を示し、このCEAの陽性率が高い場合に、肺腺扁平上皮癌であるとの組織型診断がなされている(非特許文献2)。 しかしながら、非特許文献2によれば、肺腺扁平上皮癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、及び肺小細胞癌についてのCEAの陽性率は、各々、69%、67%、33%、55%であり、CEAは肺腺扁平上皮癌を他の組織型の肺癌と区別して的確に検出するものとはいえない。また、CEAは、肺癌以外にも乳癌、卵巣癌等の消化器癌において高い陽性率を示すため、他の種類の癌と区別しての検出が難しい。 また、特許文献1には、肺細胞試料において、PGP9.5、8-オキソ-dGTPアーゼ及びp67からなる群より選ばれる過剰発現した癌原遺伝子の存在を検出する工程を有する、肺細胞の腫瘍状態の診断方法が記載されている。また、特許文献2には、被検体から得られた試料における抗シナプトフィジン抗体のレベルを指標とする肺癌検査方法が記載されている。特開2009−171985号公報特開2010−190893号公報Lara-Guerra, H., et al. Histopathological and immunohistochemical features associated with clinical response to neoadjuvant gefitinib therapy in early stage non-small cell lung cancer. Lung Cancer (2011).「肺腺扁平上皮癌34例の臨床的検討」日本肺癌学会、肺癌35(1)1995年、p23〜28 しかしながら、これらの技術においても、肺腺扁平上皮癌をその他の組織型と区別して的確に検出するものとはいえない。 本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、他の種類の癌及び他の組織型の肺癌と区別して、肺腺扁平上皮癌を的確に検出することができる腫瘍マーカー、及び、肺腺扁平上皮癌の診断キットを提供することを目的とする。 本発明にかかる肺腺扁平上皮癌の腫瘍マーカーは、コンタクチン1からなる腫瘍マーカーである。 また、本発明にかかる肺腺扁平上皮癌の診断キットは、固相サンドイッチ免疫学的測定法に使用される肺腺扁平上皮癌の診断キットであって、被検体血液中のエクソソーム由来抗原タンパク質に結合する、捕捉抗体としてのテトラスパニンファミリー分子に属する抗体と、前記テトラスパニンファミリー分子に属する抗体に捕捉されたエクソソーム上に発現するコンタクチン1に結合するコンタクチン1に対する抗体と、を有する。 本発明によれば、他の種類の癌及び他の組織型の肺癌と区別して、肺腺扁平上皮癌を的確に検出することができ、早期診断を行うことができる。肺癌はその組織型により臨床経過が異なり、また治療に対する反応も異なる。更に、肺腺扁平上皮癌はまれな組織型であるため報告も少なく、その病理組織所見、臨床像、予後等については不明な点が多い。だからこそ、肺腺扁平上皮癌を的確に検出することができる早期診断手法が切望されているのであり、本発明によれば、この肺腺扁平上皮癌の的確な早期診断が可能となるので、早期治療計画立案及び早期治療が可能となり、更には個別化医療及び重症化予防が実現され、患者のQOLを大きく向上させることができる。また患者自身のみならず患者家族に対しても肉体的・精神的・経済的負担を軽減させ、本発明により得られる社会的利益は計り知れない。肺癌組織及び正常肺組織におけるCNTN-1の発現を示す組織マイクロアレイを示す図である。肺癌組織及び正常肺組織におけるCNTN-1の発現を拡大して示す図である。各種癌組織におけるCNTN-1の発現を拡大して示す図であり、そのうち(a)は肺癌組織の陽性症例であり、(b)は精巣癌及び卵巣癌の陰性症例である。各種組織型の肺癌におけるCNTN-1の発現を示す図である。腫瘍体積に対する血液中のCNTN-1の発現量を示す図である。 以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。 コンタクチン1(contactin-1:CNTN-1)は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する脳神経系特異的細胞接着分子であり、脳の発生と発達過程に密接な関わりを持つと考えられているが、本発明者らは、このコンタクチン1が、正常肺組織においては発現していないが肺癌組織においては発現していること、各種癌組織に対して肺癌の組織特異性が高いこと、更に、各種組織型の肺癌に対して特異的に腺扁平上皮癌において発現率が高いことを見いだし、これら新知見に基づいて本発明を完成させた。 本実施形態にかかる発明おいては、被検体から得られる生物学的試料中におけるコンタクチン1の発現を測定する。被検体から得られる生物学的試料は、特に限定されるものではないが、例えば血液、血清、尿、生検材料であり、特に血液サンプルが好適である。一般的な癌診断では、癌細胞を直接バイオプシ等にて入手した後免疫染色等を行うため、侵襲性が高いものであるが、血液サンプル中のコンタクチン1を検出することにより被検体への心理的及び肉体的負担を軽減させることができる。 被検体の血液サンプル中からのコンタクチン1の検出は、特に限定されるものではないが、例えば血液サンプル中のエクソソーム(Exosome)に発現するコンタクチン1を検出することが好適である。エクソソームは、脂質2重膜で囲まれた膜小胞であり、分泌細胞由来の膜たん白質と細胞質成分とで構成されている。エクソソームは、被検体の癌細胞から癌の初期段階であっても直接に血中へ分泌され、更に被検体が癌に罹患している場合は健常な被検体と比較して血中のエクソソームの量が多いため、血液サンプル中のエクソソームを利用する利点は大きい。 コンタクチン1の発現の測定は、特に限定されるものではなく、単にコンタクチン1の有無を検出するものであってもよく、またコンタクチン1の発現量を相対的又は絶対的に決定するものでもよい。 コンタクチン1の発現の測定は、免疫学的手法によるのが好適であり、例えば酵素免疫吸着測定法(ELISA)により行うことができ、中でも固相サンドイッチ免疫学的測定法にて行うことが好適である。 固相サンドイッチ免疫学的測定法では、まず、固相担体を準備して、そこに測定対象物質である抗原を捕捉するために使用される捕捉抗体を添加して吸着固定(固相化)させる。固相担体としては、タンパク質を吸着できるものであれば種々のものを使用することができ、例えば、ラテックス、ガラスフィルター、金コロイド、磁性粉子等である。そして、固相担体上に捕捉抗体を固相化させた後、固相担体上の捕捉抗体吸着部位以外の吸着部位をブロッキング剤で封止する。次に、被検体の血液サンプルを含む試料溶液を、上述した捕捉抗体を固相化させた固相担体上に添加し、抗原抗体反応により、血液サンプル中のエクソソームを捕捉抗体に結合させる。次に、コンタクチン1に対する抗体(抗CNTN-1抗体)を添加すると、抗原抗体反応により、捕捉抗体に捕捉されたエクソソームに結合される。そして、例えばHRP標識抗ヤギ抗体等の標識抗体を添加させ、抗原抗体反応により、抗CNTN-1抗体に結合させる。その後、例えばテトラメチルベンジジン等により発色させることにより、コンタクチン1の発現が検出又は定量される。 捕捉抗体としては、エクソソーム由来抗原タンパク質に結合するものあれば特に限定されることなく使用することができるが、例えばテトラスパニンファミリー分子に属する抗体が好適である。テトラスパニンファミリーは30以上の膜糖タンパク質で形成され、4つの疎水性膜貫通ドメインを有する。テトラスパニンファミリー分子に属する抗体としては、例えば、抗CD81抗体、抗CD9抗体、抗CD63抗体、抗CD82抗体、抗CD151抗体等を使用することができ、特に抗CD81抗体が好適である。CD81分子は、236個のアミノ酸からなる膜4回貫通型の膜たん白質であり、2つの細胞外領域、3つの細胞内ドメイン及び4つの膜貫通疎水性領域から形成されている。 そして、本発明において、コンタクチン1の発現が認められる場合に、肺腺扁平上皮癌であると判断する。 本実施形態にかかる肺腺扁平上皮癌の診断キットは、固相サンドイッチ免疫学的測定法に使用される。診断キットの検査用試薬には、少なくとも、被検体の血液中のエキソソーム由来抗原タンパク質に結合する、捕捉抗体としてのテトラスパニンファミリー分子に属する抗体と、テトラスパニンファミリー分子に属する抗体に捕捉されたエキソソーム上に発現するコンタクチン1に結合する抗CNTN-1抗体と、が含まれる。この診断キットにより、被検体から得られた血液中におけるコンタクチン1の発現を検出又は定量することができる。 〈CNTN-1の発現〉 肺癌、マルチ癌、マルチ正常組織マイクロアレイ(LC2161、MC2082、FDA994: US Biomax)、並びにanti-human CNTN-1 polyclonal antibody (AF904: R&D)を用いて組織マイクロアレイの免疫染色を行った。 各組織マイクロアレイのパラフィンを溶解・除去し、次に無水エタノール、90%エタノール、75%エタノールに順次浸すことで親水化した。抗原の賦活化にはPascal(DAKO)を利用した。DAKO Peroxidase-Blocking Reagent (DAKO)を添加し、5分間静置することにより、各組織の内因性ペルオキシダーゼを除去した。次いで、10% BSAを30分間静置することでブロッキングした。anti-human CNTN-1 polyclonal antibodyを作用させ室温で30分間静置した。Wash buffer(DAKO)で2回洗浄後、ENVISION+ Systemlabelled polymer-HRP(DAKO)を添加し、30分間静置した。カウンターステインとしてマイヤーのヘマトキシリンで染色を行った。再度、Wash bufferで2回洗浄後、DAB+ liquid(DAKO)を用いて発色させた。 図1は、肺癌組織及び正常肺組織におけるCNTN-1の発現を示す組織マイクロアレイを示す図である。図2は、肺癌組織及び正常肺組織におけるCNTN-1の発現を拡大して示す図であり、図中のスケールバーは100μmである。ヒトの肺癌組織が208検体、正常肺組織が8検体搭載された組織マイクロアレイに対して、anti-human CNTN-1 polyclonal antibodyを用いて免疫染色した結果、図1、図2及び表1に示されるように、CNTN-1は、正常の肺組織で染色されなかったのに対し、肺癌症例の約21%で発現していることが明らかとなった。 図3は、各種癌組織におけるCNTN-1の発現を拡大して示す図であり、そのうち(a)は肺癌組織の陽性症例であり、(b)は精巣癌及び卵巣癌の陰性症例である。18種の癌組織が搭載された組織マイクロアレイに対して、anti-human CNTN-1 polyclonal antibodyを用いて免疫染色した結果、図3及び表2に示されるように、CNTN-1は、各種癌の中でも比較的肺癌に対して組織特異性が高いことが明らかとなった。 各たん白質の発現分布をより詳細に解析すべく、各組織が有している臨床情報との相関を評価した。図4は、各種組織型の肺癌におけるCNTN-1の発現を示す図である。肺癌の中でも各組織型における発現分布を解析した結果、図4に示されるように、CNTN-1は非小細胞肺癌の中でも、肺腺扁平上皮癌において、約90% (10症例中9症例が陽性)の患者で発現していることが判明した。肺腺扁平上皮癌は、症例数が少なく、肺腺癌や肺扁平上皮癌よりも予後不良であることが報告されているが、CNTN-1は肺癌の中でも難治性の肺腺扁平上皮癌の可能性を示すバイオマーカーたん白質として有用であることが示唆された。 正常組織に比較して癌組織での特異性を評価するため、CNTN-1の正常組織での発現分布を検証した。33種類のヒト正常組織が搭載された組織マイクロアレイを各抗体で免疫染色した。3症例中全て陰性だったのは、副腎、卵巣、脾臓、副甲状腺、精巣、甲状腺、胸部、脾臓、扁桃腺、胸腺、骨髄、肺、食道、大腸、肝臓、腎臓、前立腺、子宮、子宮頸部、横紋筋、皮膚、神経、中皮、眼、喉頭である。3症例中で1症例が陽性だったのは胃であり、3症例中で2症例が陽性だったのは唾液腺である。一方、3症例中で3症例が陽性だったのは大脳灰白質、大脳白質、小脳、下垂体、心臓、小腸であった。よって、CNTN-1の発現は脳、心臓、小腸、唾液腺と一部の組織にのみ発現していたことが判明した。 以上の結果から、CNTN-1は肺腺扁平上皮癌に高発現していることが示唆され、肺腺扁平上皮癌のバイオマーカーたん白質として有望であることが示唆された。更に、CNTN-1は神経細胞のNotch1経路を活性化し、分化や接着能の制御に関係していることが知られているため、本たん白質が高発現している肺癌細胞では分化度や転移能に変化が起きている可能性があり、肺癌の悪性度を判定するバイオマーカーたん白質としても利用できることが推察された。 〈エクソソーム上に発現するCNTN-1の検出〉 6週齢のBALB/c Slc-nu/nu雌マウスの後背部皮内に1×106 cells/mouseのHARA-Bを移植して担癌マウスを作製した。その後の腫瘍径は(長径×短径2)/2で算出した。経時的に血漿を回収すると共に、腫瘍体積も測定した。 エクソソームの精製は下記のように行った。即ち、血清上清を回収し、200 gで5分遠心分離し、細胞を除去した。次に、上清を16,000 gで20分間遠心分離し、細胞デブリスを除去した。更に、上清を0.22 μmのフィルター(ADVANTEC)でろ過し、その溶液を140,000 gで70分遠心分離した。最後にPBSを加えて、140,000 gで70分遠心分離することで洗浄し、得られたペレットをエクソソーム分画として、50〜100 μlのPBSで回収した。 サンドイッチELISAは下記のように行った。即ち、マキシソープ(Maxisoup(登録商標))プレートにB bufferで希釈したMouse anti-human CD81 monoclonal antibody(Clone 1D6, Gene Tex)(1μg/ml)を100 μl添加し、4℃、overnightで固相化した。翌日、4% ブロックエース(DS ファーマバイオメディカル株式会社)を300 μl添加し、室温で1時間インキュベートし、ブロッキングした。PBSで洗浄後、エクソソームサンプルを100 μl添加し、37℃で1時間培養した。PBSで3回洗浄後goat anti-human CNTN-1 polyclonal antibody(R&D :1μg/ml)を100 μl添加し、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、PBSで3回洗浄し、anti-goat IgG-HRP antibody (Jackson Immuno Research : 160 ng/ml)を100 μl添加し、室温で1時間インキュベートした。TMB試薬で発色させ、1N硫酸で反応停止後、OD450 nmを吸光度計により測定した。また各群間の有意差はStudent's t-testにより統計解析した。 図5は、腫瘍体積に対する血液中のCNTN-1の発現量を示す図である。図5に示されるように、血液中に存在するエクソソームを検出することが可能であり、腫瘍体積の増大に伴って、CNTN-1を発現した癌細胞由来エクソソームが血液中に増加することが明らかとなった。また、上記のように癌組織由来エクソソームを効率良く検出し、その膜上に存在するCNTN-1を測定する方法論が確立された。 本発明によれば肺腺扁平上皮癌の早期診断が可能となるので、肺腺扁平上皮癌の治療に有益である。 コンタクチン1からなる肺腺扁平上皮癌の腫瘍マーカー。 前記コンタクチン1は、被検体血液中のエクソソームの膜タンパク質から検出されるものである請求項1記載の腫瘍マーカー。 固相サンドイッチ免疫学的測定法に使用される肺腺扁平上皮癌の診断キットであって、 被検体血液中のエクソソーム由来抗原タンパク質に結合する、捕捉抗体としてのテトラスパニンファミリー分子に属する抗体と、 前記テトラスパニンファミリー分子に属する抗体に捕捉されたエクソソーム上に発現するコンタクチン1に結合するコンタクチン1に対する抗体と、を有する診断キット。 前記テトラスパニンファミリー分子に属する抗体は、抗CD81抗体である請求項3記載の診断キット。 【課題】他の種類の癌及び他の組織型の肺癌と区別して、肺腺扁平上皮癌を的確に検出することができる腫瘍マーカーを提供する。【解決手段】被検体の生物学的試料からコンタクチン1の発現の有無を検出する。コンタクチン1は、固相サンドイッチ免疫学的測定法により、被検体血液中のエクソソームの膜タンパク質から検出する。捕捉抗体としては、テトラスパニンファミリー分子に属する抗体である抗CD81抗体が使用される。【選択図】図4