タイトル: | 再公表特許(A1)_抗疎水性ペプチド抗体を得るための抗原調製方法 |
出願番号: | 2012050136 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C07K 16/28,C07K 14/705,G01N 33/53,G01N 33/531 |
岡本 雅次 花村 雅人 福島 均 吉田 徹彦 JP WO2012093706 20120712 JP2012050136 20120106 抗疎水性ペプチド抗体を得るための抗原調製方法 東亞合成株式会社 000003034 セイコーエプソン株式会社 000002369 特許業務法人 もえぎ特許事務所 110000774 岡本 雅次 花村 雅人 福島 均 吉田 徹彦 JP 2011002394 20110107 C07K 16/28 20060101AFI20140513BHJP C07K 14/705 20060101ALI20140513BHJP G01N 33/53 20060101ALI20140513BHJP G01N 33/531 20060101ALI20140513BHJP JPC07K16/28C07K14/705G01N33/53 DG01N33/531 B AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN 再公表特許(A1) 20140609 2012551879 35 4H045 4H045AA11 4H045AA20 4H045AA30 4H045BA10 4H045CA40 4H045DA76 4H045DA86 4H045EA20 4H045EA50 4H045FA72 4H045GA05 4H045GA20 4H045GA45 本発明は免疫工学分野における抗原調製方法に関する。 特に、キャリアタンパク質を用いずに疎水性ペプチドを免疫原とする、抗疎水性ペプチド抗体を得るための抗原調製方法に関する。 抗体は、極めて特異的な分子認識能と高い結合力を有し、解析するべき目的分子に対して高確率で容易に製造できるため、数十年前より、多くの研究室において極めて有用な研究試薬として利用され、また実用的には診断薬から医薬まで幅広い用途で利用されている。抗体は、ある種の薬物や環境汚染物質のような低分子化合物を標的としてその高感度検出にも利用されているが、多くの場合、抗体の標的はタンパク質である。 近年は、ヒトゲノム解析以降、ヒトを中心とする哺乳類の細胞において、何万もの遺伝子産物の発現状況や機能が活発に研究されつつある。組織や細胞には数万〜十数万種類のタンパク質が混在する。これらの中から特定のタンパク質分子の発現状況や局在性を調べるには、抗体が必要不可欠である。分化や組織再生、あるいは癌細胞や幹細胞の研究においても、同一ポピュレーションから機能の異なる細胞を分画するセルソーティングや分化制御理解のための分化マーカー検出手段として、やはり抗体は欠くことのできないツールとなっている。更には、特定タンパク質分子とある疾病との相関関係の基礎研究にも抗体は多用される。これらの研究は、診断薬の開発につながる。特定タンパク質分子の中和と疾病の治療効果に関する研究から抗体医薬の開発もなされている。このように抗体は、基礎研究から直接的な実用化まで幅広く利用されている。 通常、抗体を得るためには、抗原で動物の免疫を行う。抗原としては、天然のものと人工的なものがある。天然の抗原としては、精製した標的タンパク質か、標的タンパク質を含む粗精製または未精製混合物が用いられる。一方、人工的に調製される主な抗原としては、以下の2通りがある。(i)標的タンパク質をコードする遺伝子もしくはその断片を適当な宿主で発現させて生産した組換えタンパク質、および、(ii)標的タンパク質の一部のアミノ酸配列の合成ペプチドである。 以下本明細書で用いる用語「ぺプチド」は3〜約40アミノ酸の長さのものを意味するものとする。 合成ペプチドを抗原として用いる場合は、天然の細胞や組織から標的タンパク質を精製する場合や組換え遺伝子発現を利用する場合に比べて、不純物も少なく抗原調製に要する労力も時間も著しく少なくできる利点がある。DNAシーケンス技術進展に伴い、アミノ酸配列情報が容易に利用可能となった現在では、合成ペプチドを抗原とする免疫が多用されている。合成ペプチドを抗原とするもう一つの利点は、タンパク質の特定の領域を選択できる点である。 抗原としてよく用いられる合成ペプチドの長さは、通常10〜25アミノ酸程度である。免疫反応の惹起には、抗原がB細胞とクラスII型T細胞に同時に結合する必要があるとされている(非特許文献1 P.72)。また、抗原は、通常の免疫スケジュール(1〜2週間に1回投与)で免疫を行う場合には、動物に投与された後、一定時間以上体内に残存する必要がある。これらの要件を満たすには、抗原はある一定以上の分子量を有することを必要とするが、一般にペプチドは、分子量が小さく、投与後、速やかに代謝されるため、そのままで抗原として用いられることはない。 ところで、ペプチドによる免疫の不利な点は、そのペプチドに特異的に結合する抗体が得られたとしても、その抗体は必ずしもその配列を含む元のタンパク質との反応性が良いとは限らない点である(非特許文献1)。この点に関しては、目的とする抗体が得られる確率は、ペプチドを抗原とする方が、標的タンパク質自体あるいはその断片(分子量約5000以上)を抗原とする場合よりも低いため、2〜3通りの異なるペプチド抗原配列が試みられるのが一般的である。 標的タンパク質のどのアミノ酸配列を選択してペプチド抗原とすべきかについては、絶対確実な方法は未だ知られていない。一般的な選択基準としては、糖鎖修飾を受けそうな位置(Asn-X-Thrのモチーフを含む領域、またはser、thrに富む領域)を避けること、および、ある程度親水性が高く、分子表面に出ている可能性が高そうな部分や、プロリンを含む部位もしくはβターンのような折れ曲がり部分を選ぶこととされている(非特許文献1、非特許文献2)。"Antibodies; A LABORATORY MANUAL, Ed Harlow & David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988"大海忍、辻村邦夫、稲垣昌樹、秀潤社「抗ペプチド抗体実験プロトコル」、1994 近年のタンパク質のX線構造解析技術やNMRによる溶液中のタンパク質分子の構造解析技術の進展により、数多くのタンパク質分子構造が明らかになってきた。これらの知見によれば、タンパク質の疎水性アミノ酸配列を多く含む部分(疎水性部分)は中性水溶液中で難溶解であり、硬い分子構造を保つ。当該部分は、言わばリジッドなパーツとして、タンパク質分子の立体構造のコアとなり、タンパク質分子の統合性と個性(固有の立体構造)を生み出すのに重要な役割を果たしている。 また、タンパク質分子の疎水性部分は、抗原抗体反応、リガンド/リセプター結合、細胞内信号伝達、脂質や疎水的低分子化合物の輸送、細胞間コミュニケーションなどのような重要な分子間相互作用に寄与している。 生命の基本単位である細胞は脂質二重層から成る膜構造によって外部と仕切られている。進化の過程で、高等生物の細胞膜構造は、細胞の周縁のみならず、細胞内にも、核、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアのような数多くの複雑な膜構造を発達させ、それらの膜構造は種々の重要な細胞機能に関わっている。更には、膜構造は細胞の形を構築することや独自の特殊機能を発現することにより、分化や形態形成のような高次の生命活動に関わっている。 ところで、細胞の全タンパク質種のうち27%が膜タンパク質であると見積もられており、膜タンパク質は、脂質二重層に埋め込まれた状態で局在することからわかるように、疎水性配列に富んでいる。膜タンパク質の全体的な構造としては、1回〜12回膜貫通をする種類が知られている(非特許文献3)。膜貫通回数が多いほどそのタンパク質中の疎水性アミノ酸の比率が高くなる。これらの膜貫通型タンパク質は、細胞外の信号を細胞に伝えるリガンドのリセプター、神経伝達物質や薬物のリセプター、トランスポーター、更には、細胞間認識、分化、形態形成といった組織形成に関わっている。 現在、医薬品の少なくとも60%以上が膜タンパク質を標的としており(非特許文献4)、複数回膜貫通型の膜タンパク質は、脂質二重層に入って機能するため、非膜タンパク質より疎水性部分を多く含むことが知られている。 このように、膜タンパク質に関してより有用な情報を得るための研究に対するニーズは高く、必然的に、実用的な抗膜タンパク質抗体を効率よく作製することに対するニーズも高い。例えば、NEDO (New Energy and Industrial Technology Development Organization)で「新機能抗体創製技術開発」と称される研究が行われている(事業期間:平成18年度〜平成22年度、平成21年度予算:9.0億円、PL:児玉 龍彦(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)、非特許文献5)M. S. Almen et. al, BMC biology 7:50,doi:10.1186/1741-7007-7-50,This article is available from: http://www.biomedcentral.com/1741-7007/7/50P. F. Slivka et al., ACS Chem. Biol., 2008, 3 (7), pp 402-411http://www.nedo.go.jp/activities/portal/gaiyou/p06009/p06009.html 上記以外に知られている他の方法を挙げる。 膜タンパク質以外でも、細胞外や核内、他の細胞内小器官で働くタンパク質は、細胞膜を通過して移動する。これらのタンパク質の細胞内移動および代謝の制御には、少なくともシグナルペプチド、移行ペプチド配列が関与している(O. Bakke and T. W. Nordeng, Immunol Rev. 172:171-87, 1999)。シグナルペプチドは、一般にその内部に疎水性の高い部分を含む。 上述のように、疎水性が高いアミノ酸配列は分子内に埋もれているとして、従来、抗ペプチド抗体作製時の候補配列として避けられてきた。また疎水性アミノ酸配列からなるペプチドは、合成しても、その難水溶性のために、中性水溶液の状態でのハンドリングが困難であり、キャリアータンパク質との架橋反応にも供し難いことが多く、これらの問題は疎水性アミノ酸配列が抗原として避けられるさらなる原因となっている。このため、シグナルペプチドや膜タンパク質における疎水性の高いアミノ酸配列を多く含む配列部分は、免疫原の候補として選択することは極めて困難であったため、このような配列に対する抗体は、重要であるにも関わらずほとんど作られていなかった。 膜タンパク質に対する抗体を得るのが困難な理由のもう一つは、高等生物の膜タンパク質の細胞外親水性部分はしばしば糖鎖付加されており、合成ペプチドで免疫して合成ペプチドを認識する抗ペプチド抗体ができても、天然の抗原タンパク質が認識されない場合が多いことである。 合成ペプチドによらずに免疫する場合の手段として、そのタンパク質のcDNAをクローンニングもしくは全合成して、組換え遺伝子として適当な宿主でタンパク質を発現させ、得られたタンパク質を精製して免疫に使用することができる。しかしながら、この方法では、膜タンパク質はしばしば発現レベルが低く、膜タンパク質であるがゆえに精製も比較的困難であるという問題がある。 また、別の免疫方法としては、DNA免疫といわれる方法がある(非特許文献6)。この方法は、マウスで発現できるプロモーター下流にクローニングサイトを配置したプラスミドベクターに、目的とするタンパク質をコードするcDNAをクローニングして、プラスミドDNAで免疫する方法であるが、免疫が成功する確実性は高くなく、細胞内局在性の膜タンパク質については用いることができず、さらに、手間がかかるという問題点がある。 また、バキュロウイルスのエンベロープ中に目的とするタンパク質を発現させて、ウイルス粒子で免疫する方法があるが、本方法も手間がかかる(非特許文献7)。 組換えウイルスを用いて適当な細胞に目的とするタンパク質を発現させ、細胞ごと免疫に使用する方法もあるが、特別な技術と多大な労力が必要である(非特許文献8)。 ペプチドはそのままでは分子量が小さすぎて、抗原として適していないために、分子量を大きくする必要がある。このため、通常はペプチドとキャリアータンパク質とを架橋したものを抗原として用いている。主に用いられる架橋試薬としては、アミノ基とスルフィドリル基を架橋するMBS (m-Maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)や、アミノ基とカルボキシル基を架橋するEDC (1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)が知られている(非特許文献1)。他に、glutaraldehyde bisimide esterが用いられる場合がある。これらの反応は、EDCはpH5付近、他の試薬はpH7〜8の水溶液で使用可能である(非特許文献1)。難溶性または不溶性の疎水性ペプチドは、このような条件下では反応に寄与できないため、コンジュゲート作製がうまくできない。 抗原にキャリアータンパク質を用いない方法としては、ペプチド合成時にリジンのアミノ基を利用して枝分かれさせて、8量体を合成するMAP (Multiple Antigen Peptide)法が報告されている(非特許文献9)。この方法の欠点として、合成されたMAPペプチドがHPLCでシングルピークとならず精製できない点、10アミノ酸以上になると溶解できない点、しばしば力価上昇がおきにくい点が上げられている(非特許文献10) 以上のとおり、疎水性ペプチドに対する抗体を取得する目的において、簡易でありかつ確実性が高く、汎用的に用いられるような方法は未だ開発されていなかった。小林岳 生物工学 86巻 p384-386 2008http://www.lsbm.org/staff/hamakubo.htmlhttps://ruo.mbl.co.jp/custom/custom#sev.htmlTam, J. P.: Synthesis and properties of a high-density multiple antigenic peptide system, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 5409-5413 (1988)大海忍、辻村邦夫、稲垣昌樹、「抗ペプチド抗体実験プロトコル」秀潤社 1994 そこで発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の末、非イオン性界面活性剤を含む中性水溶液に疎水性ペプチドを縣濁することに着眼した。このような溶液中では、高い疎水性配列を含むペプチドは、単一分子にまでは溶解せず、目視で透明であっても高分子量凝集体として存在することを発明者らは見出した。当該高分子量凝集体は、その大部分が10Kd以上であり、粒径数nm〜数十μmのものも含む。このような高分子量凝集体溶液を用いて、キャリアタンパクとのコンジュゲートを作成することなく、ヒト以外の動物を直接免疫したところ、驚くべきことに当該抗原のペプチド配列を特異的に認識する抗体が得られることを発明者らは見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の構成を有する。(1)キャリアタンパク質と結合していない状態の疎水性ペプチドを、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中において、高分子量凝集体とすることを特徴とする、抗原調製方法。(2)非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル 、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール(12)、ポリエチレングリコール(24)、ポリエチレングリコール(60)ドデシルエーテル、およびポリエチレングリコールコレステロール誘導体からなる群から選ばれる1以上である、前記(1)に記載の抗原調製方法。(3)非イオン性界面活性剤を含む水溶液中における疎水性ペプチドの高分子量凝集体は、20質量%以上が分子量100Kd以上のものである、前記(1)または(2)に記載の抗原調製方法。(4)疎水性ペプチドが、純水に添加した場合に単量体とならずに分子量1万以上の凝集体となるペプチドである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗原調製方法。(5)疎水性ペプチドの配列が MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1)、FGGYQVNPYVGFEMGYDWLGRMPY(配列番号2)またはFLFCWILMILVVLTFVVGANVEK(配列番号3)のいずれかである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗原調製方法。(6)以下の1)および2)の工程を含む、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の抗原調製方法。 1)キャリアタンパク質と結合していない状態の疎水性ペプチドを純水に縣濁する工程 2)1)で得られる縣濁液に非イオン性界面活性剤を添加する工程(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法により調製された抗原で、ヒト以外の哺乳動物を免疫して得られる抗体。(8)抗体がモノクローナル抗体である、前記(7)に記載の抗体。(9)サンプル中に存在する抗原の検出方法であって、前記(7)の抗体を当該サンプルと接触させる工程を含む、検出方法。(10)抗原がアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(SPAPP、以下単にSPAPPということがある)であって、抗体が抗アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチドモノクローナル抗体(抗SPAPPモノクローナル抗体)である、前記(9)に記載の検出方法。(11)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法により調製された抗原を、ヒト以外の哺乳動物に投与する工程を含む、抗体の製造方法。 本発明の方法によれば、抗原性が悪いと予想され、水溶液中でハンドリングが困難なために、長年避けられてきた疎水性ペプチドを用いて、当該疎水性ペプチドに対する抗体が得られる。本発明方法によれば、キャリアタンパクと疎水性ペプチドとを結合させてコンジュゲートを作成する費用と時間が不要となり、経済性が高まる。さらに、キャリアータンパク質を用いて免疫する場合には、キャリアタンパク質に対する抗体も必然的に生じてしまうが、本発明の方法はキャリアタンパク質を用いないため、目的とする抗体を高効率で得ることができる。 本発明により、疎水性ペプチドに対する抗体が得られるようになるため、疎水性シグナルペプチドおよび膜タンパク質についての代謝経路、細胞内局在性、相互作用相手などの生理的な役割に関するこれまでに得られなかった新たな有用情報が得られるようになる。このようにして得られる有用情報は、細胞機能の理解、ならびに診断薬および医薬品の開発に貢献できる可能性が高い。膜タンパク質に対する抗体を得るのは従来非常に困難であったが、本発明により、格段に労力と費用を軽減できるという効果が得られる。精製SPAPPのHPLCクロマトグラム精製SPAPPのLC-MSクロマトグラム本発明の方法で免疫したマウス20匹の血清(500倍希釈)を用いた、SPAPPに対するドットブロット免疫に用いたSPAPP/1% Tween20縣濁液中のCountess(登録商標)計測による粒子サイズ分布免疫に用いたSPAPP/1% Tween20縣濁液中のペプチド凝集体分子量分布の測定手順SPAPPの非イオン性界面活性剤中での分子量分布。A:SPAPPを純水縣濁直後に界面活性剤を混合した場合。B:SPAPPを純水縣濁後、90分室温に放置してから界面活性剤を添加した場合。本発明の方法で免疫したマウス30匹の血清(10000倍希釈)を用いた、SPAPPに対するEIAによる力価評価結果図7の3個体の血清を用いた、ヒト神経芽細胞腫SK-N-SH細胞の蛍光免疫染色。A:No.6、B:No.10、C:No.15本発明により得られた抗SPAPPモノクローナル抗体CM61による、SPAPPに対するドットブロットによる力価評価結果本発明により得られた抗SPAPPモノクローナル抗体(10種類)を用いた、SPAPPに対するEIAによる力価評価結果ペプチドFCG24およびFLF23の1% Tween20縣濁液中の粒子サイズ分布。A:ペプチドFCG24の1% Tween20縣濁液中のCountess(登録商標)計測による結果。B:1%Tween20溶液の動的光散乱式粒子径測定装置による計測結果。C:ペプチドFLF23の1% Tween20縣濁液中の動的光散乱式粒子径測定装置による計測結果ペプチドFCG24(A)およびFLF23(B)の1% Tween20縣濁液で免疫したマウスの血清を用いた、抗原ペプチドに対するEIAによる力価評価結果本発明により得られた抗SPAPPモノクローナル抗体CM6を用いてSPAPP添加ヒト血漿中のSPAPPを検出した結果 (疎水性ペプチド) 本発明の抗原調製方法に用いられる抗原としてのペプチドは、疎水性ペプチドであればいずれのものも用いることができ、キャリアタンパク質と結合していない状態の疎水性ペプチドであることを特徴とする。すなわち、本発明の抗原調製方法は、キャリアタンパク質を用いずに疎水性ペプチドのみを抗原として用いる方法である。 本発明において抗原とすべきペプチドの親水性/疎水性プロフィールは、基本的には、標的タンパク質のアミノ酸配列を調べることでわかる。ウェブサイト(ExPASy Proteomics toolsのprotscale ( HYPERLINK "http://expasy.org/tools/protscale.html" http://expasy.org/tools/protscale.html)等)や市販の遺伝子解析ソフト(株式会社ゼネティックスの遺伝情報処理ソフトウェア「GENETYX」等)で調べることができる。本発明に用いられる疎水性ペプチドとは、前記親水性/疎水性解析結果をベースにして疎水性と判断されるペプチドであり、さらに厳密にいえば、純水と混合した場合に、単量体とならずに分子量1万以上の凝集体となるようなペプチドである。ここで、凝集体の有無およびおよその分子量分布は、ペプチド溶液を、例えば、アミコンウルトラ(Amicon Ultra)-0.5、PLGC ウルトラセル(Ultracel)-10メンブレン のような、カットオフ分子量1万の遠心式限外ろ過ユニットにかけて、元の溶液と透過液のペプチド濃度を比較することによって、確認することができる。また、HPLCで適切な分画レンジのゲルろ過用カラムを用いて分析することにより調べることもできる。 本発明の抗原として用いられる疎水性ペプチドはF−MOC法ペプチド合成機で合成し、C18 HPLCカラムでアセトニトリルの濃度勾配により分離精製、分種することができる。なお、これらの手順を合成ペプチド受託メーカーに委託することもできる。本願明細書では、ペプチドに対する抗体を「抗ペプチド抗体」といい、特に疎水性ペプチドに対する抗体に限定する場合は「抗疎水性ペプチド抗体」という。 (疎水性ペプチドの凝集体) 疎水性ペプチドは、非イオン性界面活性剤を含む中性水溶液中で高分子量凝集体を形成するようなものであればいずれでも本発明における抗原として用いることができる。凝集の程度と凝集体の粒経は、抗原とするペプチドの疎水性配列によって変わり得るが、ペプチドの凝集体の大部分が分子量1万から2万またはそれ以上であればより好ましい。また、ハンドリング可能な範囲内であれば分子量は大きい程望ましい。なお、本明細書では、ペプチド同士が非共有結合で結合して形成された凝集体全体を指して「分子」と呼ぶことがあり、またペプチドを凝集体の状態で含んでいる液を指して「溶液」または「懸濁液」と呼ぶことがある。後述する実施例にあるように、本発明の抗原調製方法によれば、抗原とする疎水性ペプチドとキャリアタンパクとのコンジュゲートを作成しなくても、疎水性ペプチドのみで抗原として認識され、当該ペプチドに対する抗体(抗ペプチド抗体ともいう)を得ることができる。すなわち、ペプチドが水溶液中で、数個以上からなる凝集体を形成し、分子量1万程度以上の分子になっていれば、免疫反応において抗原として認識され、当該抗原に対する抗体が得られる。このように、本発明方法によれば、非イオン性界面活性剤の種類を問わず、その濃度も特定の濃度に限定されず、対象も特定のアミノ酸配列に限定されずに、疎水性ペプチドに対する抗体(抗疎水性ペプチド抗体ともいう)を取得することができる。 (抗原調製方法) 本発明の抗原調製方法は、例えば以下の工程により行われる。 1)純水に疎水性ペプチドを添加し、ミキサーでよく混合し、不透明な場合は、超音波をかけてある程度透明にする。 2)1)で得られた疎水性ペプチドの純水縣濁液に非イオン性界面活性剤を添加し、疎水性ペプチドの高分子量凝集体を生成させる。 ここで、高分子量凝集体の分子量分布は、分子量1万(10Kd)以上が大部分を占めることが必要である。また、好ましくは、懸濁液中において分子量10万(100Kd)以上がペプチド総質量の20質量%以上となるように調製することが望ましい。分子量分布はゲルろ過もしくは遠心分子量カット膜とBCAもしくはタンパク質(ペプチド)濃度アッセイ(実施例のように)とを組み合わせること、またはNative PAGEで概ね把握することができる。 また、高分子量凝集体の粒径分布は、1μm〜100μmの粒子が含まれていることが望ましい。粒径分布は、動的光散乱式粒子径測定装置のような動的光散乱を利用した機器や、CountessTM (Invitrogen)コールターカウンターのような細胞計数機で調べることができる。 なお、疎水性ペプチドを純水に縣濁した後界面活性剤添加までの時間は、その後の凝集体分子量分布に影響する。したがって、時間を置かずに界面活性剤を添加した場合には、凝集体の分子量分布は低い側になる傾向があり、純水縣濁状態でじゅうぶん時間を置いた場合には、より高分子量側に分布する傾向がある。このような方法で、疎水性ペプチド凝集体のサイズ分布を制御することが可能である。 (非イオン性界面活性剤) 本発明の疎水性ペプチドの高分子量凝集体を作成するための界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であればいずれのものでもよく、例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween80)、ポリエチレングリコール(12)(PEG12)、ポリエチレングリコール(24)(PEG24) 、ポリエチレングリコール(60)(PEG60) ドデシルエーテル、下記一般式で示されるポリエチレングリコールコレステロール誘導体、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル(Nonidet P-40)、β−オクチルグリコシド、ドデシル−β−D−マルトシドや下記市販の非イオン性界面活性剤が挙げられる。このうちでも特に、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル 、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール(12)、ポリエチレングリコール(24)、ポリエチレングリコール(60)ドデシルエーテル、またはポリエチレングリコールコレステロールが好ましく用いられる。本発明で用いる非イオン性界面活性剤は、疎水性ペプチドを純水に縣濁した状態の溶液に添加してもよいし、または、先に非イオン性界面活性剤水溶液を調製し、これに疎水性ペプチドを添加して疎水性ペプチド高分子量凝集体を調製しても良い。疎水性ペプチド高分子量凝集体の分子量分布は、疎水性ペプチドの配列、非イオン性界面活性剤の種類、あるいは非イオン性界面活性剤の濃度によっても変化する。非イオン性界面活性剤の濃度は、疎水性ペプチド高分子量凝集体の粒子サイズが幅広く分布するような範囲であればよく、例えば0質量%から2質量%程度の範囲が好ましい。 (市販非イオン性界面活性剤の例)N,N-Bis(3-D-gluconamidopropyl)cholamide[BIGCHAP] 同仁化学342-05611 N,N-Bis(3-D-gluconamidopropyl)deoxycholamide[Deoxy-BIGCHAP] 同仁化学149-05701 NIKKOL BL-9EX [Polyoxyethylene(9)Lauryl Ether] 和光特級348-05071 Octanoyl-N-methylglucamide [MEGA-8] 同仁化学345-05081 Nonanoyl-N-methylglucamide [MEGA-9] 同仁化学342-05091 Decanoyl-N-methylglucamide [MEGA-10] 同仁化学348-05093 同仁化学164-19881 Polyoxyethylene(8)Octylphenyl Ether [Triton X-114] 生化学用161-19911 Polyoxyethylene(9)Octylphenyl Ether [NP-40] 生化学用168-11805 Polyoxyethylene(10)Octylphenyl Ether [Triton X-100]163-11512 Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monolaurate [Tween 20]160-11522 Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monopalmitate [Tween 40]167-11532 Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monostearate [Tween 60]164-11542 Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate [Tween 80]161-11552 Polyoxyethylene(20)Sorbitan Trioleate Pr.G.160-11561 Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether [Brij35]533-80981 CALBIOCHEM167-11571 Polyoxyethylene(20)Cethyl Ether [Brij58]341-06161 n-Dodecyl-β-D-maltopyranoside 同仁化学346-05371 n-Heptyl-β-D-thioglucopyranoside 同仁化学340-05031 n-Octyl-β-D-glucopyranoside 同仁化学349-05361 n-Octyl-β-D-thioglucopyranoside 同仁化学343-06861 n-Nonyl-β-D-thiomaltoside 同仁化学043-21376 Digitonin 生化学用192-08851 Saponin, from Soybeans 和光一級 (免疫) 免疫は通常当業者が行う手法に従って行えばよい。試験採血により血清力価を測定し、免疫期間を延長しても良い。血清力価は抗原ペプチドのドットブロットや抗原ペプチドコンジュゲートコートプレートもしくは抗原ペプチドコートプレートを用いたEIAによって調べることができる。更には、目的に応じてウェスタンブロットや免疫染色により評価することが出来る。なお、本発明の免疫原の調製は、キャリアタンパクを用いずに、疎水性ペプチドを非イオン系界面活性剤に添加して凝集体を得る方法により行われているが、このことは、抗体の力価測定のための抗原ペプチドコンジュゲートコートプレートもしくは抗原ペプチドコートプレート作成において、キャリアタンパク質とペプチドとのコンジュゲートを使用することをなんら排除するものではないことはいうまでもない。 (モノクローナル抗体) 次に、上記抗原調製方法により得られる疎水性ペプチドの高分子量凝集体を抗原として用いて免疫した哺乳動物から、上記疎水性ペプチドに対するモノクローナル抗体を取得する方法について説明する。 免疫する哺乳動物としては、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ等の実験動物が用いられるが、モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体を得るためには、ラット、マウス、ウサギが好適である。免疫方法は、例えば、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮内等のいずれの投与経路を用いてもよいが、主として、皮下、腹腔内、静脈内に抗原を注入するのが好ましい。また、免疫間隔、免疫量等も特に制眼なく種々の方法を用いることが可能であるが、例えば、2週間隔で合計約2〜10回免疫し、最終免疫後、好ましくは約2〜7日後に、約1〜5回、生体内から検体を擦取する方法がよく用いられる。また、免疫量については、1回に投与するペプチド量を限定するものではいが、例えば、マウス1匹当りlO〜200μg程度のペプチドを用いることが好ましい。初回免疫は上記疎水性ペプチドの高分子量凝集体をアジュバント(例えば、フロイントの完全アジュバント)とよく混合してマウスの腹腔内に投与し、細胞を増殖させ、2週間隔で再び該高分子量凝集体をアジュバント (例えば、フロイントの不完全アジュバント)とともによく混合して腹腔内に投与し、その後血液や腹水や抗体産生細胞を採取することにより、高力価の抗疎水性ベプチドモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を効率良く取得することができる。なお、目的のモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過法、硫安塩析法等の公知の方法により行うことができる。 次に、上記疎水性ペプチドに対する抗体の製造方法により得られた抗体を用いた抗原抗体反応に基づいて、検体中から所定の疎水性ペプチドを検出する、検出方法について説明する。 上記検体としては、いかなる態様のものでもよく、例えば、血澄、血清、血漿、リンパ液、尿、髄液、唾液、汗、腹水、羊水、または細胞もしくは臓器の抽出液等から調製した生体試料を使用することができる。なお、上記生体試料は、必要に応じて適切に処理することができる。例えば、細胞の分離、抽出操作などで得られた試料については、免疫組織染色法、酵素免疫測定法、凝集法、競合法、サンドイッチ法など既知の方法を適用することができる。免疫組織染色法は、例えば標識化抗体を用いる直接法、該抗体に対する抗体の標識化されたものを用いる間接法などにより行い得る。標識化剤としては蛍光物質、放射性物質、酵素、金属、色素など公知の標識物質はいずれも使用できる。 (コンジュゲート) 本明細書で用いる用語「コンジュゲート」とは、キャリアタンパク質と抗原ペプチドの化学的架橋による複合体を意味する。通常、ペプチドを抗原として用いる場合には、代謝時間を長くするために、クラスII型T細胞に結合させる効果のあるキャリアタンパク質に抗原を化学的に架橋してコンジュゲートとして用いる(非特許文献1)。キャリアタンパク質としてはKLH (Keyhole limpet hemocyanin)、BSA(Bovine serum albumin)、Ovoalbuminなどが用いられる(非特許文献1)。 架橋には、MBS (m-Maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、NHS (N-hydroxysuccinimide ester)、EDC (1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide)、グルタルアルデヒドなどが用いられる。MBSはシステイン残基の(-SH)とアミノ基を、NHSはアミノ基とアミノ基を、EDCはアミノ基とカルボキシル基とを、グルタアルデヒドはアミノ基同士を共有結合化させて(イミン結合を形成させて)架橋する。これらの架橋に寄与するには遊離の官能基である必要がある。 〔試験例1〕疎水性ペプチドSPAPP(アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド)の合成、精製、精密質量の確認 ヒト amyloid precursor protein A4 のシグナルペプチドと想定される1位〜17位の配列(配列表配列番号1)からなるペプチドMLPGLALLLLAAWTARA-COOH を、GL Biochem (Shanghai) Ltd.への委託により合成、精製した。精製ポリペプチドの純度は、HPLCのピーク面積比より、92%〜94%であった(図1)。また、分子量は、LC-MS(ESIモード)より、891.5の2価イオンシグナルもしくは1781の1価イオンシグナルが観測された(図2)ことから、質量1781であることを示している。これはアミノ酸配列から計算される分子量と一致しており、目的とするペプチドであることが確認された。 〔試験例2〕ペプチドSPAPPの各種溶媒への溶解性試験(1)粉末精製SPAPPを各種濃度で各種溶媒と混和し、溶解性について調べた。試験条件および結果を表1に示す。 なお、以下で用いる用語「可溶」とは目視で溶媒が透明な状態を意味し、「不溶」とは目視で溶媒が白濁した状態を意味する。 (2)結果および考察(i)中性水溶液 SPAPPは中性水溶液には白濁して全く不溶であった。(ii)強酸性水溶液 SPAPPの等電点は10.9であり、強酸性溶液には可溶であった。(iii)有機溶媒 SPAPPは極性有機溶媒に可溶であった。(iv)界面活性剤を含む中性水溶液 SPAPPは極性および非イオン性界面活性剤を含む中性水溶液に可溶であった。(v)以上のことから、SPAPPは高度の疎水性のために、中性水溶液中では溶解せず、大きな凝集体となって白濁を引き起こすが、SPAPPを水和させる分子の介在(すなわち、界面活性剤)によって、中性水溶液中であっても可溶化されると考えられる。このような状態のSPAPPは後述するように、目視で透明であっても、高分子量凝集体となって水溶液中に存在している。 なお、極性の界面活性剤を含む水溶液に疎水性ペプチドは溶解するものの、これを用いて免疫しても抗体は得られなかったことから(データを示さず)、界面活性剤としては非イオン性界面活性剤が好ましいと考えられた。また、強酸性水溶液および有機溶媒は参考例である。 〔試験例3〕ドットブロットによる抗体力価測定試験方法(1)ドットブロットは以下の手順で行った。(i)ニトロセルロース膜に、SPAPPの1% Tween20 溶液を1μl/dotでスポットして、当該ニトロセルロース膜を1%スキムミルク/TBSTまたはStarting Block (TBS) Blocking Bufferで室温で1時間以上ブロッキングした。(ii)力価を調べる血清を、0.2%スキムミルク/TBSTで400〜500倍に希釈して、前記SPAPPをスポットしたニトロセルロース膜に添加し、室温(20〜24℃)で1時間振とうすることによって、1次抗体反応を行った。(iii)結合しなかった未反応分の抗体の除去は、0.2%スキムミルク/PBSTで5分×3回、ニトロセルロース膜を洗浄することによって行った。(iv)2次抗体反応は、0.2%スキムミルク/TBSTで4000倍希釈した2次抗体と共にニトロセルロース膜を室温で1時間振とうすることによって行った。(v)0.2%スキムミルク/TBSTで5分×3回、ニトロセルロース膜を洗浄した。(vi)アルカリフォスファターゼ基質溶液を添加して、室温で30分呈色反応を行い、純水で洗浄して反応を停止させた。 (2)材料および試薬2次抗体 血清がマウスの場合:Anti-mouse IgG (Fc specific) Alkaline phosphatase conjugate (Sigma No. A-2429) 血清がウサギの場合:Goat polyclonal anti-rabbit immunoglobulins AP (DAKO No. D0487) アルカリフォスファターゼ基質溶液:サーモサイエンティフィック、No.34042 1-Step NBT/BCIP TBS:10mM Tris-HCl pH7.5, 0.1M NaCl TBST:TBS+1% Tween20 ニトロセルロース膜:GE ヘルスケア製 Hybond-ECL Starting Block (TBS) Blocking Buffer:サーモサイエンティフィック製 No.37542 〔比較例〕各種のコンジュゲートを免疫原として得られた血清(ポリクローナル抗体)の力価の測定(従来法) SPAPPと各種のキャリアタンパクとのコンジュゲートを作成しこれを免疫に使用して得られた血清を用いて力価の測定を行った。(1)SPAPP / KLHコンジュゲート(1−1)コンジュゲートの作成 2.5mg KLH (和光純薬 免疫化学用 No. 08607663)を66μlの 1.5 M NaClに溶解し、70μlの 1M MESバッファー(pH4.5)と565.5μlの純水を混合して終濃度3.77mg/mlのKLH溶液を調製した。SPAPP溶液は、濃度が7.5mg/mlとなるようにSPAPPを100% DMSOに溶解して調製した。EDC溶液は純水で33mg/mlとなるよう調製した。これらの溶液を以下の容量と順で混合し、23℃で15時間置いた。反応溶液は混合直後に白濁した。KLH溶液 270 ul (1017 μg)SPAPP溶液 180 ul (1315 μg)EDC溶液 30 ul 未反応アミノ基をクエンチングするために、1M Tris-HCL (pH7.0)を30μl添加した。次にPBSで2倍に希釈して10本のチューブに分注し、免疫まで-30℃に保存した。(1−2)免疫 免疫は、抗原を等容量の完全フロイントアジュバント(初回免疫時のみ)または不完全フロイントアジュバンドと混合し、2羽のウサギの皮下に、1回におよそ120μgの抗原ペプチドに相当する量を注射することにより行った。初回免疫日を第0日として、2週ごとに免疫を行った(合計4回)。第49日に採血を行い、血清の抗体価をドットブロット試験により調べた。(1−3)結果 SPAPPに対する抗体価は検出されなかった。原因としては、反応液組成がSPAPPの溶解状態を保つには適していないため、コンジュゲートの作成が不十分である可能性が考えられた。 (2)SPAPP/EWA コンジュゲート(2−1)コンジュゲートの作成 KLHはキャリアタンパク質として溶解性が低いので、溶解性の高いEgg white avidin (EWA, 和光純薬 No.017-21011)を選択した。EWAを純水に25mg/mlとなるように溶解してEWA水溶液とし、次に以下の組成でSPAPP/EWA DMSO溶液を調製した。 (i)EWA DMSO溶液 100%DMSO 280μl 1 M MES バッファー(pH4.5) 35μl EWA水溶液 50μl (ii)SPAPP DMSO 溶液 7.5mg/ml SPAPP / 100%DMSO 135μl 1M MESバッファー(pH4.5) 50μl 純水 50μl これらの溶液を以下の容量と順で混合し、23℃で15時間置いた。反応溶液はやや白濁した。未反応アミノ基をクエンチングするために、1M Tris-HCL (pH7.0)を30μl添加した。PBSで2倍に希釈して10本のチューブに分注し、免疫まで-30℃に保存した。 (iii)SPAPP/EWAコンジュゲート溶液 EWA DMSO溶液 365μl SPAPP DMSO 溶液 250μl 33mg/ml EDC 30μl(2−2)免疫 免疫は、抗原を等容量の完全フロイントアジュバント(初回免疫時のみ)または不完全フロイントアジュバンドと混合し、2羽のウサギの皮下に、1回におよそ120μgの抗原ペプチドに相当する量を注射することにより行った。初回免疫日を第0日として、2週ごとに免疫を行った(合計4回)。第49日に採血を行い、血清の抗体価をドットブロットで調べた。(2−3)結果 SPAPPに対する抗体価は検出されなかった。原因としては、反応液組成がSPAPPの溶解状態を保つには適していないため、コンジュゲート作成が不十分であった可能性が考えられた。 (3)SPAPP/HRPコンジュゲート(3−1)コンジュゲートの作成 Horseradish peroxidase (HRP, 和光純薬 No.169-10791) を純水に50mg/ml となるように溶解した。不溶性不純物を除去するために15000rpmで10分間遠心して上清を回収した。分解タンパク質を除去するために分子量カットオフ 5000の遠心フィルターユニット(Amicon YM-5)を 用いて純水で3回洗浄した。 (i)HRP DMSO溶液 100%DMSO 280μl 1 M MES バッファー(pH4.5) 35μl HRP 44μl 純水 6μl (ii)SPAPP DMSO 溶液 7.5mg/ml SPAPP / 100%DMSO 135μl 1M MESバッファー(pH4.5) 50μl 純水 50μl これらの溶液を以下の容量と順で混合し、23℃で15時間置いた。反応溶液はやや白濁した。未反応アミノ基をクエンチングするために、1M Tris-HCL (pH7.0)を30μl添加した。PBSで2倍に希釈して10本のチューブに分注し、免疫まで-30℃に保存した。 (iii)SPAPP/HRPコンジュゲート溶液 HRP DMSO溶液 365μl SPAPP DMSO 溶液 250μl 33mg/ml EDC 30μl(3−2)免疫 免疫は、抗原を等容量の完全フロイントアジュバント(初回免疫時のみ)または不完全フロイントアジュバンドと混合し、2羽のウサギの皮下に、1回におよそ120μgの抗原ペプチドに相当する量を注射することにより行った。初回免疫日を第0日として、2週ごとに免疫を行った(合計4回)。第49日に採血を行い、血清の抗体価をドットブロットで調べた。(3−3)結果 SPAPPに対する抗体価は検出されなかった。原因としては、反応液組成がSPAPPの溶解状態を保つには適していないため、コンジュゲート作成が不十分であった可能性が考えられた。 (4)SPAPP/OVAコンジュゲート (ii)に示す手順に従いSPAPPとOvalbumin (オボアルブミン、OVAと略)との間でコンジュゲート反応を行い、(i)に示すSPAPP/OVA溶液からSPAPP/OVAコンジュゲート溶液を作成した。 (i)SPAPP/OVA溶液 10 M urea, 20 mM Phosphate buffer 1320 ul 20 mg/ml SPAPP(純度:94.38%), DMSO溶液 300 ul 20 mg/ml Ovalbumin(Calbiochem, #32467), 10 M urea, 20 mM Phosphate buffer 300 ul 20% Tween20 120 ul DW 60 ul total 2100 ul(ii)手順 1. 95℃に加熱した乾燥機中で上記(i)の溶液を20分間プレインキュベートした後、架橋剤として62.5 mM BS3(サーモフィッシャーサイエンティフィク)/ 20 mM Phosphate bufferをボルテックスしつつ300 ulずつ加えた。 2. 引き続き95℃で2時間インキュベートした。 3. その後、1M Tris-HCl(pH7)を120 ulずつ加え、室温で〜30分間、未反応BS3をクエンチさせた。 4. さらに7080ul のPBS中に上記3.の溶液を滴下した。 〔実施例1〕本発明の抗原を用いた抗体の取得(1)ポリクローナル抗体 SPAPPを非イオン性界面活性剤を含む溶媒に縣濁した液を免疫原とした直接免疫法により得られた血清を用いてドットブロットによる力価の測定を行った。(1)抗原の調製〜SPAPP / 1% Tween20〜 純度92%のSPAPPを秤量して6mgを5.4mlの純水に縣濁した。この時点ではSPAPPは水溶液に全く溶けず白濁していた。この状態で約3時間置き、10% Tween 20を0.6ml添加混合した。SPAPP終濃度は2mg/mlであった。更にトミー精工Handy sonic model UR-20Pでpower level 7で断続的に延べおよそ3分超音波をかけた。ある程度透明度が増し、600nm の吸光度が0.2程度になるまで超音波振動を行った。このようにして得られたSPAPP溶液を試験管10本以上に分注して、免疫に用いられる直前まで-30℃で保存した。(2)免疫 免疫は、上記(1)で調製したSPAPP溶液を等量のフロイントcomplete またはincomplete アジュバントと混合して、Balb/cマウス20匹の皮下に1回1匹当たり20μgとなるように注射することにより行った。免疫は、2週間隔で合計6回というスケジュールで行い、適宜、抗原投与の1週後に中間採血または全採血を行った。(3)ドットブロット 試験例3に示すドットブロットにおいて、SPAPP濃度を1スポットあたり10、100ngとなるように調製し、(2)で得られた20匹のマウスの血清を500倍希釈したものについて力価を測定した。(4)結果 結果を図3に示す。20匹中約半数の血清で10ngのSPAPPが検出可能であった。このように、SPAPPの縣濁液をコンジュゲートなしで免疫に使用することにより、SPAPPと十分な反応性を示す血清(ポリクローナル抗体)が得られた。 〔実施例2〕SPAPPの粒子サイズ分布および分子量分布(1)粒子サイズ分布の測定 上記の免疫に供したSPAPP/1% Tween20縣濁液の粒子サイズ分布について以下のように調べた。2mg/mlのSPAPP縣濁液を等量の0.4%トリパンブルー液と混合して、細胞計数装置 Countess(登録商標) (INVITROGEN製)に適用した。この装置では、2μm〜80μmの粒子が計測できる。(2)その結果、縣濁液中のSPAPP粒子サイズ分布は2〜60μmで濃度は3.2 ×106/mlであった。大多数は数μmであった。図4に分子量分布の測定結果を示す。 次にこの縣濁液のSPAPP凝集体の分子量分布を、以下に示す手順にしたがって測定した。なお、本手順の概略を図5に示す。(i)15000rpmで5分間遠心して上清と沈殿に分けた。この遠心によっておよそ1μm以上の粒子が沈殿する。(ii)上清を分子量100,000カットスピンフィルター(Amicon Microcon YM--100)に適用し、遠心により当該フィルターに通す。(iii)(ii)のフロースルー液を、分子量10,000カットスピンフィルターに適用し、遠心により当該フィルターに通す。 以上の工程のそれぞれの段階で、溶液のタンパク質濃度を、BSAを標準としてBCAプロテインアッセイ(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で測定した。 その結果、最初の遠心によって、上清のタンパク質濃度が原液の約半分になることから、1μm以上の粒子(不溶性画分)が質量にして全タンパク質の約半分(48質量%)を占めることがわかった。残りは、分子量10,000-100,000(10-100kd)が20質量%、分子量100,000(100kd)以上が33質量%を占めることがわかった(表2)。 (3)まとめ SPAPPは17アミノ酸からなり、単量体の分子量は1781であるが、このように界面活性剤を含む水溶液に縣濁状態にした場合には、大きな分子量分布および粒子サイズ分布になっていることがわかる。 〔実施例3〕凝集体の分子サイズ(分子量/粒径)分布コントロール試験(1)純水中での放置時間と凝集体の分子サイズ分布の関係 SPAPPを純水に縣濁してから各種界面活性剤を添加するまでの時間を変更し、時間によって凝集体の分子サイズ分布が異なることを確認した。例えば、1% Tween20の場合、不溶性画分(沈殿)は、SPAPPの純水への縣濁直後に添加すると5%、1.5時間後では17%、3時間後では48%であった。(2)他の非イオン性界面活性剤溶液中での分子サイズ分布 SPAPPが他の非イオン性界面活性剤溶液中でも同様に高分子量凝集体を形成するかを調べた。界面活性剤として、PEG60 dodecylether (Polypure社), Triton X-100, Nonidet P-40をいずれも1%で使用した。実施例2と同様の方法で、各々の界面活性剤を用いてSPAPP縣濁液を調製し、遠心とスピン型分子量カットフィルターを用いて、サイズ分画した後、各画分に終濃度1%となるように10%SDSを添加混合して凝集体を溶解した。各画分のペプチド濃度をBCAアッセイで測定し、SPAPP凝集体分子量分布を図6A, Bにまとめた。グラフAは、SPAPPを純水縣濁直後に界面活性剤を混合した場合、グラフBは、SPAPPを純水縣濁後、90分室温に放置してから界面活性剤を添加した場合である。グラフ中、「Ppt」は遠心により除去されるペプチド、即ち沈殿を意味しており、サイズとしては1μm以上で分子量としては数百キロダルトン以上と考えられる。「>100Kd」 は100Kd 以上、「<100Kd」は100Kd 以下を意味している。界面活性剤の種類によってサイズ分布に多少の変動はあるが、いずれの界面活性剤においても、上記のような条件で高分子量凝集体が形成されることがわかった。(3)考察 上記(1)および(2)より、界面活性剤の種類や純水への縣濁時間によって分子サイズ(分子量/粒径)を制御できることがわかった。 〔実施例4〕本発明の抗原を用いた抗体の取得(2)モノクローナル抗体 実施例1より、キャリアタンパクとコンジュゲートしない方法でSPAPPに対する抗体を得ることが可能であることがわかったので、次に、モノクローナル抗体の作製を試みた。(1)免疫 実施例1(1)の方法で抗原を調製し、30匹のBalb/cマウスに免疫を行った。免疫は、2週間隔で合計7回行った。アジュバントには、等量のTiter Max Gold (Titer Max Inc.)を用い、フットパッドに1回に20μg相当の抗原を注射して免疫を行った。免疫開始後77日目と90日目の血清について、以下の試験を行った。 (2)Enzyme immunoassay(EIA)による抗体の力価測定(2−1)EIA試験方法(2−1−1)手順(i)比較例(4)の方法で作成したSPAPP/OVAコンジュゲートを2.5μg/mlとなるようにPBSで希釈して、Nunc No.467120 Medisorpのウェルに100μl添加、4℃で一夜置いた。 (ii)ウェル内の溶液を吸引廃液して、次に230μlの1% BSA/PBSTを添加し、室温で1時間置いて、ブロッキングを行った。ブロッキング液をアスピレートで除去し、1%BSA/PBS溶液を230μl添加し、室温で1時間以上置いた後、ウェル内の溶液を吸引廃液した。(iii)1%BSA/PBSで希釈した血清を各ウェルに100μl添加して、室温で1時間置いた。(iv) ウェル内の溶液を吸引廃液し、300μlのPBST(0.1% Tween20 )でウェルを6回洗浄した。(v) 2次抗体として、1% BSA/PBST で4000倍希釈したPOD標識抗マウスIgG(MBL No.330)を100μlウェルに添加して、室温で1時間置いた。(vi)ウェル内の溶液を吸引廃液し、300μlのPBST(0.1% Tween20 )でウェルを6回洗浄した。(vii)発色のための基質としてTMB(DAKO No.S1599) を100 μlウェルに添加し、室温で30分反応を行い、2N硫酸を等量添加して反応を停止させた。反応液の吸光度を450nmで測定した。(2−2−2)結果図7に77日目と90日目の10000倍希釈血清の力価を示す。強度の差はあるが、30匹中約1/3にあたる9〜10匹の血清に、ある程度の反応性(400mOD以上)があることがわかった。 (3)免疫蛍光染色 上記(2)において力価の高い個体NO.6、NO.9、NO.15の血清について、ヒト神経芽細胞腫SK-N-SH細胞を用いて免疫蛍光染色を行った。(3−1)手順 ヒト神経芽細胞腫SK-N-SHを、MEMα培地中、Poly-D-lysine coated slide chamber(ベクトンデッキンソン No.354632)に蒔いて37 ℃ 5% CO2インキュベータで細胞培養した。 以下の操作は氷上で行った。(i)PBSで5分2回洗浄した(ii)-20℃メタノールで5分固定透過処理(iii)PBSで1回洗浄(iv)5%ヤギ血清/PBSで1時間ブロッキング(v)5%ヤギ血清/PBSで250倍希釈した上記マウス血清を添加して1時間置いた(vi)PBSで5分3回洗浄(vii)5%ヤギ血清/PBSで1000倍希釈した蛍光標識2次抗体(Alexa FluorR 488 Goat Anti-mouse IgG, 2 mg/ml, Invitrogen No.A11001)を添加して1時間置いた(viii)PBSで5分3回洗浄(ix)退色防止剤(ProLong Gold Antifade Reagent with DAPI,Invitrogen,No.P36935)を添加してカバーグラスをかけた(x)LSM(ZWEISS META5000)で画像撮影した(3−2)染色の結果結果を図8に示す。図中、オレンジは抗体反応に基づく染色、青は核のDAPI染色である。 (4)モノクローナル抗体の作製 NO6、10、15のマウスの脾臓リンパ球を細胞融合に供した。細胞融合のための細胞株としてマウスミエローマ細胞P3U1を用い、"Antibodies; A LABORATORY MANUAL, Ed Harlow & David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988"に記載されている標準的なPEG(PEG1500) 法によりハイブリドーマを作製し、抗SPAPP抗体産生ハイブリドーマクローンを15株選択した。候補株選択には、上記(2)に示すSPAPP/OVAコートプレートを用いたEIAを行った。EIAにおいて反応性の高いウェル13穴を選択した。各々のウェル内のハイブリドーマを回収し、限界希釈法によって各96穴プレートからシングルクローンを選抜し、HAT培地(Invitrogen #11875 RPMI medium 1640, 1% Pyruvate, 1% penicillin streptomycin stock, 1xHAT)で増殖培養を行った。培養した細胞をPBSで洗浄し、プリスタン投与 Balb/c マウスに1×107個程度、腹腔内投与して、定法にて腹水を得た。HiTrap proteinG カラム(GEヘルスケア)用い、各々の腹水から定法にてIgGを精製した。精製IgGは全部で10種類あり、それぞれ抗SPAPPモノクローナル抗体CM61、CM101、CM102、CM103、CM152、CM154、CM156、CM157、CM158、CM159と命名して以下の試験に用いた。 〔実施例5〕本発明のモノクローナル抗体の分析(1)ドットブロット検出感度と認識配列特異性(1−1)試験方法 実施例4(4)で得られた抗SPAPPモノクローナル抗体CM61を用いて、試験例3の方法でSPAPPのドットブロットを行った。スポットに染み込ませるSPAPP(1% Tween20で希釈した)の量は、図9に示す量であり、1次抗体として10μg/ ml のCM61を用いた。参考として、2箇所でアミノ酸が異なるマウスSPAPP、およびSPAPPと同じアミノ酸組成で配列をスクランブルした scSPAPPについても、SPAPPの量と同量についてドットブロットを行った。(1−2)結果 約40pgのSPAPPが検出できた。マウスSPAPP (mSPAPP)も同様に認識された。このことは、当該抗体はマウスの細胞や個体を用いた実験にも使用できることを意味している。一方、 scSPAPPは、160ngでもほとんど反応性を示さなかった。このことは、得られた抗体が単純に疎水性アミノ酸クラスターを認識しているということではなく、配列特異的認識結合性を有していることを意味している。 (2)EIA 実施例4(4)で得られたいくつかの抗SPAPPモノクローナル抗体について、SPAPP/OVAでコートしたプレートを用いてEIAを行った。(2−1)試験方法 実施例4に従い、1 mlあたり0 ng、4 ng、12 ng、37 ng、111 ng、333ng、1μg、3μg、9μgというSPAPP濃度について、10種類のモノクローナル抗体について試験を行った。(2−2)結果 結果を図10に示した。本EIAにおいては反応性の強い抗体では10ng/ml前後から反応性が検出されることがわかった。実施例1および5の結果から、本発明の、コンジュゲートを伴わない疎水性ペプチドを用いた免疫方法により、実用的な親和性と配列特異的認識結合性を有するポリクローナルおよびモノクローナル抗体が得られることが示された。 〔実施例6〕 本発明の抗体を用いて、臨床サンプル中の抗原(SPAPP)の検出を行った。臨床サンプルとしてヒト血漿を用いた。(1)材料と方法(i)EIAプレートの調製 1% Tween20に1mg/mlとなるように溶解したSPAPPを純水で200倍に希釈して、Nunc No.467120 Medisorpのウェルに100μl添加、4℃で一夜置いた。ウェル内の溶液を吸引廃液して、次に230μlの1% BSA/PBSTを添加し、室温で1時間置いて、ブロッキングを行った。(ii)SPAPP添加ヒト血漿(臨床サンプル)の調製 ヒト血漿(コージン)は、大きな不要沈殿物をピンセットで除去した後、20000 x gで30分遠心し、上清を用いた。1% Tween20 に溶解した1mg/ml SPAPPを、10% BSA/1% Tween 20/PBSで、図13のグラフに示された終濃度の12倍の濃度となるように希釈した。この希釈したSPAPP溶液10μlをヒト血漿100μlに添加し、SPAPP添加ヒト血漿を得た。(iii)抗体溶液の調製および抗原抗体反応 実施例5で用いた抗体のうち EIA活性の高い抗SPAPPモノクローナル抗体CM61を、1% BSA/PBSTに120ng/mlとなるように希釈し、抗SPAPPモノクローナル抗体溶液とした。当該抗体溶液を(ii)で得られたSPAPP添加ヒト血漿に添加した。(終濃度10ng/ml)。室温で1時間、抗原抗体反応を行った。(iv)EIA 反応液を(i)のEIAプレートの各ウェルに100μl添加し、室温で1時間置いた。(v) ウェル内の溶液を吸引廃液し、300μlのPBST(0.1% Tween20 )でウェルを6回洗浄した。(vi) 2次抗体として、1% BSA/PBST で4000倍希釈したPOD標識抗マウスIgG(MBL No.330)を100μlウェルに添加して、室温で1時間置いた。(vii)ウェル内の溶液を吸引廃液し、300μlのPBST(0.1% Tween20 )でウェルを6回洗浄した。(viii)発色のための基質としてTMB(DAKO No.S1599) を100 μlウェルに添加し、室温で30分反応を行い、2N硫酸を等量添加して反応を停止させた。反応液の吸光度を450nmで測定した。 (2)結果と考察 結果を図13に示す。本アッセイにおけるヒト血漿の終濃度は83%である。抗SPAPPモノクローナル抗体CM61の終濃度は10ng/ml である。SPAPP無添加の血漿の場合、CM61抗体のEIAプレート(SPAPPコートプレート)への結合はヒト血漿によってほとんど阻害されず、本アッセイにおいては、呈色が450nmにおける吸光度で1100 mODとなった。血漿に添加されたSPAPP濃度が増加するにしたがって、CM61抗体は溶液中のSPAPPと先に結合するため、プレート上のSPAPPと溶液中のSPAPPとの間において競合が起こり、プレートへのCM61抗体の結合は阻害される。グラフの縦軸は、その阻害程度を吸光度として示している。この結果によれば、ヒト血漿中に、本抗原が少なくとも200pg/ml存在すれば、存在しない場合と比較して、本EIA系における吸光度の差として検出できることが示された。 ヒト血漿中のタンパク質濃度は50〜70mg/mlであるから、CM61抗体 を用いた本アッセイ系は、血漿中に本抗原(SPAPP)が、総タンパク質濃度の3億分の1の濃度で存在しても検出できることを意味する。また、ヒト血漿中に含まれるタンパク質の種類は、微量しか存在しないものも含めるとおよそ1万種類あると言われている。本アッセイ系は、1万種類の別のタンパク質と共存した状態においても、SPAPPをこれらと識別して検出できることを意味している。 〔実施例7〕SPAPP以外の疎水性ペプチドによる免疫 他の配列からなる疎水性ペプチドでもSPAPPと同様にコンジュゲート無しの免疫によって抗原となる疎水性ペプチドと反応性のある抗体が得られるかを調べた。試験方法は実施例1に準じた。(1)疎水性ペプチドの合成 疎水性ペプチドとして以下(i)、(ii)を選び、純度70〜80%の合成ペプチドを作成した。(i)大腸菌外膜タンパク質 ompA由来配列、FGGYQVNPYVGFEMGYDWLGRMPY(FCG24/配列番号2)(ii)ヒトCD133由来配列、FLFCWILMILVVLTFVVGANVEK(FLF23/配列番号3) (2)抗原の調製 1% Tween20に(1)の疎水性ペプチドを添加して縣濁液を調製した。各々の縣濁液中における疎水性ペプチドの大きな粒子の存在は、動的光散乱式粒子径測定装置(NIKKISO Nanotrac UPA-UT151)またはCountessによって確認した。 FCG24縣濁液では、動的光散乱式粒子径測定装置において、1% Tween20の溶液のみのシグナル(図11B)とシグナルが重なって粒子が確認できなかったが、Countess(登録商標)において、細胞サイズの粒子(5〜35μm)が確認された(図11A)。 FLF23縣濁液では、1% Tween20の溶液のみのシグナルより大きなサイズの粒子が確認された(図11C)。 (3)免疫 前記(2)で得られた各々の2mg/ml 縣濁液を用いてマウス10匹を免疫して、60日後の血清を得た(#1〜#10)。 (4)EIA 上記ペプチド(i)または(ii)(各5μg/ml)でコートしたプレートを用いて、EIAを行った。 (5)結果 結果を図12に示す。 FCG24は100倍希釈血清で、FLF23は500倍希釈血清で、非免疫マウス血清(図中、non-imm)と比較して、高い反応性を示した。 この結果から、本発明方法の抗原調製方法を用いれば、他の疎水性ペプチドについてもコンジュゲートを用いずに抗疎水性ペプチド抗体が得られることが判った。 本発明により、疎水性ペプチドに対する抗体が得られるようになるため、疎水性シグナルペプチドや膜タンパク質について、代謝経路、細胞内局在性、相互作用相手などの生理的な役割に関するこれまでに得られなかった新たな有用情報が得られるようになる。このようにして得られる有用情報は、細胞機能の理解、および診断薬や医薬品の開発に貢献できる可能性が高い。膜タンパク質に対する抗体は得るのが従来容易ではなかったが、本発明により、格段にその労力と費用を軽減できる効果がある。 キャリアタンパク質と結合していない状態の疎水性ペプチドを、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中において、高分子量凝集体とすることを特徴とする、抗原調製方法。 非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル 、ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール(12)、ポリエチレングリコール(24)、ポリエチレングリコール(60)ドデシルエーテル、およびポリエチレングリコールコレステロール誘導体からなる群から選ばれる1以上である、請求項1に記載の抗原調製方法。 非イオン性界面活性剤を含む水溶液中における疎水性ペプチドの高分子量凝集体は、分子量100Kd以上のものがペプチド総量の20質量%以上を占める分子量分布を有する、請求項1または2に記載の抗原調製方法。 疎水性ペプチドが、純水に添加した場合に分子量1万以上の凝集体となるペプチドである、請求項1〜3のいずれかに記載の抗原調製方法。 疎水性ペプチドの配列がMLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1)、FGGYQVNPYVGFEMGYDWLGRMPY(配列番号2)またはFLFCWILMILVVLTFVVGANVEK(配列番号3)のいずれかである、請求項1〜4のいずれかに記載の抗原調製方法。 以下の1)および2)の工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の抗原調製方法。1)キャリアタンパク質と結合していない状態の疎水性ペプチドを純水に縣濁する工程2)1)で得られる縣濁液に非イオン性界面活性剤を添加する工程 請求項1〜6のいずれかに記載の方法により調製された抗原を免疫原として用いて、ヒト以外の哺乳動物を免疫して得られる抗体。 抗体がモノクローナル抗体である、請求項7に記載の抗体。 サンプル中に存在する抗原の検出方法であって、請求項7に記載の抗体を当該サンプルと接触させる工程を含む、検出方法。 抗原がアミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチド(SPAPP)であって、抗体が抗アミロイド前駆体タンパク質シグナルペプチドモノクローナル抗体(抗SPAPPモノクローナル抗体)である、請求項9に記載の検出方法。 疎水性ペプチドに対する抗体を取得するための方法であって、簡易でありかつ確実性が高く、汎用的に用いられる方法を見出すこと。 キャリアタンパク質と結合していない状態の疎水性ペプチドを、非イオン性界面活性剤を含む水溶液中において、高分子量凝集体とすることを特徴とする抗原調製方法。配列表