タイトル: | 公開特許公報(A)_金属表面に形成される潤滑剤の添加剤に由来する反応膜の構造を解析する方法 |
出願番号: | 2012042194 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 33/20,G01N 21/35 |
加藤 慎治 JP 2013178162 公開特許公報(A) 20130909 2012042194 20120228 金属表面に形成される潤滑剤の添加剤に由来する反応膜の構造を解析する方法 カヤバ工業株式会社 000000929 須藤 阿佐子 100102314 須藤 晃伸 100123984 加藤 慎治 G01N 33/20 20060101AFI20130823BHJP G01N 21/35 20060101ALI20130823BHJP JPG01N33/20 JG01N21/35 Z 9 1 OL 13 2G055 2G059 2G055AA02 2G055AA07 2G055BA09 2G055BA14 2G055BA16 2G059AA03 2G059BB04 2G059CC14 2G059EE01 2G059EE02 2G059EE09 2G059EE17 2G059HH01 2G059MM01 本発明は、機械部品におけるオイルシールなどの有機材料と金属材料面との間に封入される添加剤を配合した潤滑油または作動油に由来して、摺動後の金属部材表面に形成される反応膜の構造を解析する方法に関するものである。 潤滑の研究は17世紀の車軸と軸受けの発達と共に始まり、21世紀初頭の自動車と蒸気機関の出現によって、基油と化学添加剤で構成される現代の複雑な潤滑剤は急速に発展してきた(非特許文献1)。機械要素の用途や使用環境に応じた応用分野の拡大により、多くの機械の摺動部で用いられる潤滑剤の中でも作動油に対する高度な要件が近年高まっている。一般的に、作動油とは石油或いは鉱物油由来の基油に様々な種類の添加剤を処方したものである(非特許文献1)、故に、特定の性能を満たすには添加剤の処方は非常に重要である。しかしながら、添加剤個々の特性については十分に解明されているとは言えず、添加剤を基油に処方する為のメカニズムが確立されていないため、経験則に依存しているのが現状である。 一方、添加剤を処方した作動油は、機械部品ではオイルシールと金属面との間に封入されることが多いため、この部分での添加剤の摩擦特性を把握することは非常に重要な課題である。しかし,添加剤の研究は,炭素鋼球と酸化クロム(III)の摺動においてオレイン酸,オレイン酸グリコール、ジブチルフォスファイトが摩擦低減効果を示すという報告(非特許文献2)やアルミニウムと鉄との摺動に伴いトリクレジルホスフェート(TCP)がリン酸塩の膜を摩擦面に形成し、摩擦摩耗低減効果を示すという報告(非特許文献3)のように金属同士の摺動に着目したものが多いのが現状である。Stephen M. Hsu, Tribology International, 37 (2004) 553-559.Jianjun Wei and Qunji Xue, Wear, 160 (1993) 61-65.Keiji Sasaki et al., Wear, 268 (2010) 911-916.潤滑油や作動油は、機械の機械要素間に働く摩擦を軽減するために、また油圧装置の中で動力伝達媒体として使用されている。これらの潤滑油などが介在した機械要素間の摩擦特性について、例えば、自動車の運動性能(操縦性・安定性、乗心地性能)にとって、サスペンション構成部品であるショックアブソーバーの寄与率は大きい。ショックアブソーバー部品におけるトライボロジー特性の要求は、従来フリクションを極力下げることであったが、様々な工夫がされ、通常の使用であれば数十ニュートンのフリクションレベルとなっている。低フリクション化を実現したことで車体重量に対し、たかだか数十ニュートンとなったフリクションではあるが、車両運動性能に影響を与えている。しかし、フリクションの大小ではなく、フリクションの質ともいえるμ-V特性も含めたコントロールをして乗心地と、操縦性・安定性を両立させようと、ショックアブソーバーが発生する減衰力の中で極小さいフリクションに注目した。なぜならば、ショックアブソーバーの減衰力は油圧力が支配的な高速領域とフリクションが支配的となる微低速域があり、近年のように舗装率が高いと、サスペンションの動きが小さい走行頻度が多くなるために油圧力の割合が小さくなり、その結果フリクションの影響を大きく受ける走行頻度が多くなるからである。ショックアブソーバーにおけるフリクションは、ピストンとシリンダー間における摺動摩擦が影響しているものと考えられ、この摩擦特性を制御するための一方法として各種の添加剤が利用されている。添加剤を処方した作動油あるいは潤滑油は、ピストン部材やオイルシールと金属面との間に介在することから、添加剤による摩擦特性への影響を解明することは重要な課題である。しかしながら、機械要素などで採用されることが多い金属材料と有機材料からなる摺動界面での添加剤の挙動、例えば添加剤の反応、分解などによる構造の変化について解明されているとは言えない。 そこで、本発明は、機械要素における有機材料と金属材料面との間に介在する添加剤を配合した潤滑油や作動油によってその表面に形成される反応膜の構造を解析する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、添加剤に由来する金属表面上の反応膜の解析を可能とすることにより、油圧機械、ショックアブソーバーなどの機械要素の最適な作動条件や、最適な添加剤の化学構造を選択するために有用な情報を得ることを目的とする。より具体的には、本発明は、例えば、NBRゴムとCrメッキ表面を添加剤の存在下に摺動させて生成した金属表面の反応膜に着目し、添加剤の構造が摩擦特性に与える影響を明らかにすることを目的とする。 本発明者は、添加剤個々の基礎特性を把握するために、金属部材の表面に形成された潤滑油または作動油の添加剤に由来する反応膜の構造を解析する方法を提供するものであり、添加剤を含有する潤滑油または作動油が介在して接触運動した金属部材と有機材料部材の接触面から金属部材を得て、その表面に残存する潤滑剤を洗浄、除去した後、その金属表面をフーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)における高感度反射法(RAS法)により分析することにより、上記目的を達成した。 具体的には、鉱物油基油に添加剤を単体で混合した数種類の作動油を作製し、バウデン・レーベン型往復動試験機を用いて摺動試験を行い、Crメッキの摺動面を分析し添加剤が表面反応膜形成に与える影響の解明を試み、表面分析結果に基づく各種添加剤による表面反応膜形成と摩擦特性との関係より本発明に至った。 本発明は、以下の(1)ないし(9)の摺動後表面に形成される反応膜の構造を解析する方法に関するものである。(1)金属部材の表面に形成された潤滑油または作動油の添加剤に由来する反応膜の構造を解析するにあたり、添加剤を含有する潤滑油または作動油が介在して接触運動した金属部材と有機材料部材の接触面からの金属部材表面に残存する潤滑剤を洗浄、除去した後、その金属表面をフーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)における高感度反射法(RAS法)により分析することを特徴とする金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。(2)潤滑剤中に含有される添加剤が、油性向上剤、摩耗防止剤、または極圧剤から選ばれる上記(1)に記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。(3)潤滑剤中に含有される添加剤が、アルキルもしくはアルケニル基を有するリン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、またはそれらのアミン塩から選ばれた1種以上である上記(1)または(2)に記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。(4)有機材料部材が、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、スチレンゴム、ブチルゴム、4フッ化エチレンゴムのいずれかから選ばれる上記(1)から(3)のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。(5)金属部材の表面が、クロムメッキ面である上記(1)から(4)のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の化学構造を解析する方法。(6)潤滑油または作動油が介在した接触運動が、回転あるいは摺動である上記(1)から(5)のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。(7)添加剤の赤外線吸収スペクトルと、金属材料の表面に形成された添加剤由来の膜の赤外線吸収スペクトルを対比して、金属材料の表面に形成された添加剤由来の膜の構造を解析する上記(1)から(6)のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。(8)金属部材と有機材料を、添加剤を含有する潤滑油または作動油が介在した接触運動が、平板状の金属部材の表面と有機材料部材の表面を潤滑油または作動油を介在させてバウデン−レーベン摩擦試験機により行なわれる上記(1)から(7)のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。(9)平板状の金属部材として,φ24mmの軸受鋼に硬質Crメッキを施したディスクを用い、有機材料部材として長さ8mm、幅2mm、高さ3mmの直方体を用いる上記(8)に記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 本発明により、機械部品におけるオイルシールなどの有機材料と金属材料面との間に封入される添加剤を配合した潤滑剤や作動油に由来して、摺動後の表面に形成される反応膜の構造を解析する方法を提供することができる。具体的には、一般的なオイルシール材であるNBRゴムとCrメッキ表面の摺動における表面反応膜の形成に着目し、個々の添加剤の構造などの特質が摩擦特性に与える影響を明らかにすることができる。バウデン−レーベン摩擦試験機を説明する概略図である。RAS法(高感度反射測定法)により摺動後表面に形成される反応膜の赤外線吸収スペクトルの測定を説明する模式図である実施例で用いた基油と表1に示す各リン系添加剤のそれぞれの摩擦係数と摺動速度0〜30mm/sとの関係を示す。添加剤を配合した作動油の、摺動試験によりディスク表面に観察された反応膜および添加剤の原液(摺動試験前)の赤外線吸収スペクトルを同一の図に示す。図の(a)はNo.1の添加剤、(b)はNo.4の添加剤、(c)はNo.8の添加剤である。 本発明は、添加剤を含有する潤滑油または作動油が介在して摺動などの接触運動した金属材料部材と有機材料部材の接触面から金属部材を取り出し、その表面に残存する油類を洗浄、除去し、反応膜を露出させた後、その金属表面の反応膜をフーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)における高感度反射法(RAS法)により反射スペクトル得て、これを分析することにより金属材料部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法である。 例えば、バウデン−レーベン摩擦試験機を用いて静摩擦係数μを算出する際に、試験対象の添加剤を基油に配合した作動油を準備し、該試験機の往復動する台盤上に固定した平板状試験片と、保持部に保持させた円柱状試験片を用い、試験前に該作動油を平板状試験片の表面に滴下し、円柱状試験片の端面を、平板状試験片の摩擦試験面である表面に、一定の負荷荷重をかけて圧接させ、この圧接状態で、台盤を往復動させて、保持部に接続した板バネに発生する、摺動方向に沿う方向の歪み量を歪みゲージで測定して、台盤往復時の起動トルクと起動後の摺動トルクとを求め、静摩擦係数μを算出すると共に、摺動後表面に形成される膜の構造をフーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)における高感度反射法(RAS法)により分析するものであり、添加剤が摩擦特性に与える影響を解析することを可能とするものである。 本発明における説明において、潤滑油は二種類の部材が摺動、回転などにより接触運動する際にその界面のスムースな運動などの状態を得るために介在させる油組成物であり、また作動油は油圧装置の中で動力伝達媒体として使用される流体あり、潤滑、防錆、冷却などの作用をも有し、2種類の部材の接触運動にも介在しているものである。説明の便宜上、作動油および潤滑油を総称して、単に「作動油」あるいは「潤滑油」と表現することがある。 以下に、本発明について説明する。[潤滑油、作動油] オイルシールと金属面との間に封入される添加剤を配合した作動油または潤滑油は、基油として鉱油及び/又は合成油が用いられる。この鉱油や合成油については、一般に油圧作動油の基油として用いられているものであればよく、特に制限はない。このような鉱油,合成油は各種のものがあり、用途などに応じて適宜選定すればよい。鉱油としては、例えばパラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,中間基系鉱油などが挙げられ、具体例としては、溶剤精製または水添精製による軽質ニュートラル油,中質ニュートラル油,重質ニュートラル油,ブライトストックなどを挙げることができる。なかでも、軽質ニュートラル油,中質ニュートラル油が好ましい。一方合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン(PAO),α−オレフィンコポリマー,ポリブテン,アルキルベンゼン,ポリオールエステル,二塩基酸エステル,ポリオキシアルキレングリコール,ポリオキシアルキレングリコールエステル,ポリオキシアルキレングリコールエーテル,ヒンダードエステル,シリコーンオイルなどを挙げることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。[添加剤] 添加剤としては、清浄剤や分散剤からなる清浄分散剤、油性向上剤、摩耗防止剤や極圧剤からなる耐荷重添加剤、酸化防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤などが挙げられ、本発明によりこれらの添加剤に由来する金属面での反応膜の有無、あるいは生成した反応膜の構造が解析される。添加剤の典型的な例としては、ベンズトリアゾールおよびその誘導体、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシネート、ジチオリン酸亜鉛、コハンク酸イミド、コハク酸エステル、長鎖脂肪酸、脂肪酸エステル、アルキルアミン、アルカノールアミン、リン酸エステル、ジチオリン酸亜鉛、アルキルもしくはアルケニル基を有するリン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル又はそのアミン塩などを挙げることができる。 リン酸エステル類としては、下記の一般式(1)〜(3)で表されるリン酸エステル,酸性リン酸エステルを包含する。 (RO)3P=O ・・・・・・・・・・・(1) (RO)2(OH)P=O ・・・・・・・(2) (RO)(OH)2P=O ・・・・・・・・(3) 上記一般式(1)〜(3)において、Rは炭素数4〜30のアルキル基、アルケニル基または水素を示し、R は同一でも異なっていてもよい。リン酸エステルとしては、具体的には、上記(1)式で表される化合物としては、トリブチルホスフェート,エチルジブチルホスフェート,トリヘキシルホスフェート,トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート,トリデシルホスフェート,トリラウリルホスフェート,トリミリスチルホスフェート,トリパルミチルホスフェート,トリステアリルホスフェート,トリオレイルホスフェートなどを挙げることができる。 酸性リン酸エステルとしては、具体的には、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート,エチルアシッドホスフェート,ブチルアシッドホスフェート,テトラコシルアシッドホスフェート,イソデシルアシッドホスフェート,ラウリルアシッドホスフェート,ステアリルアシッドホスフェート,イソステアリルアシッドホスフェート,オレイルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。 他のリン酸化合物物としては、ホスホン酸の水酸基の1または2がエステルとなった化合物を挙げることができる。 (OH)2PH=O ・・・・・・・(4) また、ホスフィン酸の水酸基の水酸基がエステルとなった化合物などを挙げることができる。 (OH)PH2=O ・・・・・・・(5) さらに、これらとアミン塩を形成するアミン類としては、例えば下記の一般式R n NH3-n ・・・(7)(式中、R は炭素数6〜30のアルキル基もしくはアルケニル基,炭素数6〜30のアリール基もしくはアリールアルキル基又は炭素数2〜30のヒドロキシアルキル基を示し、nは1,2又は3を示す。また、Rが複数ある場合、複数のR は同一でも異なっていてもよい。)で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン又はトリ置換アミンが挙げられる。上記一般式(7)におけるRのうちの炭素数6〜30のアルキル基もしくはアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。中でも、炭素数8〜22の第三級第一級アミンが好ましく、特に炭素数12〜18の第三級第一級アミンが好ましい。 また、ポリエチレンポリアミンと脂肪酸の縮合物である。ポリエチレンポリアミンとして、ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,ペンタエチレンヘキサミンなどを挙げることができ、中でもテトラエチレンペンタミン,ペンタエチレンヘキサミンが好ましい。 脂肪酸として、炭素数14〜20の脂肪酸が好ましく、飽和、不飽和でもよいし、直鎖状、分岐状でもよい。具体的には、ミリスチン酸,イソミリスチン酸,パルミチン酸,イソパルミチン酸,ステアリン酸,イソステアリン酸,アラキン酸,イソアラキン酸,ミリストレイン酸,ゾーマリン酸,オレイン酸などを挙げることができるが、イソパルミチン酸,イソステアリン酸,オレイン酸が好ましい。 また、ジアルカノールアミンと脂肪酸の縮合物である。ジアルカノールアミンとして、ジエタノールアミン,ジプロパノールアミンなどを挙げることができ、中でもジエタノールアミンが好ましい。脂肪酸として、炭素数14〜20の脂肪酸が好ましく、飽和、不飽和でもよいし、直鎖状、分岐状でもよい。具体的には、ミリスチン酸,イソミリスチン酸,パルミチン酸,イソパルミチン酸,ステアリン酸,イソステアリン酸,アラキン酸,イソアラキン酸,ミリストレイン酸,ゾーマリン酸,オレイン酸などを挙げることができるが、イソパルミチン酸,イソステアリン酸,オレイン酸が好ましい。 これらは、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。配合量については、基油に、組成物全量基準で、0.1〜10重量%の割合で配合されるのが通常である。[有機材料部材] 有機材料部材は、潤滑剤が介在して金属と有機材料、例えば、ゴム類、プラスチック類と金属類の接触運動が生起する部材に使用されている材質であり、例えば、オイルシールやOリングにおいてシール体に使用されている材料が典型的な例である。これらのシール部材には主に合成ゴム製のシール体が使用されている。例えば、ニトリルゴム、MZラバー水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、スチレンゴム、ブチルゴム、4フッ化エチレンゴムなどを挙げることができる。これらの有機材料は、オイルダンパー、回転軸などにシール材として設置され、潤滑油と回転運動や摺動運動を受けながら金属部材と常時接触している。[バウデン−レーベン摩擦試験機による測定] 恒温室中で、バウデン−レーベン摩擦試験機の、往復動される台盤上にφ24mmの軸受鋼(SUJ2)に硬質Crメッキ(JISH8615相当,鏡面仕上げ)を施したディスク(平板状試験片)を固定し、その摩擦試験面である表面に作動油を滴下し、次いで温度を安定させた後、上記バウデン−レーベン摩擦試験機の保持部にNBRゴム試験片(長さ8mm、幅2mm、高さ3mm)(円柱状試験片)を保持させた状態で、当該円柱状試験片の摩擦試験面である端面を、平板状試験片の、作動油を滴下した面に、一定の負荷荷重をかけて圧接させ、この圧接状態で、台盤を往復動させた際に、保持部に接続した板バネに発生する、摺動方向に沿う方向の歪み量を歪みゲージで測定して、台盤往復時の起動トルクと起動後の摺動トルクとを求め、その結果から静摩擦係数μを算出する。試験機の外観と、試料の配置を図1に示す。試料1は上方から荷重5による圧力下に試験ディスク3と接触し、該ディスクの往復運動4により試料委1と試験ディスク3とが加圧下に摺動することにより金属表面に添加剤による反応膜が形成される。[フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)による好感度反射法(RAS法)による膜の構造の測定] FT−IRとは、フーリエ変換赤外分光光度計( Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FTIR)であり、主に有機化合物の構造推定(定性)を行う分析装置である。赤外線を分子に照射すると、分子を構成している原子間の振動エネルギーに相当する赤外線を吸収し、その吸収度合いを調べることによって化合物の構造推定や定量を行うことができる。連続光を試料に照射して干渉パターンをフーリエ変換することで分子構造に応じた吸収スペクトル物質中の原子団の情報を取得するものである。赤外分光法を行う装置としては、レーザ光による波数モニタ、移動鏡を有する干渉計、コンピュータによる電算処理部を有するフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)が現在の主流となっている。 こうした赤外分光法には、透過法、拡散反射法、ATR法など、様々な測定法がありますが、金属板のように赤外光を透過しない材質へ吸着、あるいは塗布された物質の測定には、反射法が必要となります。反射測定では、物質の反射率を調べるために、垂直に近い角度で赤外光を入射させる方法と、水平に近い角度で赤外光を入射させ、金属などの基板上の薄い試料層(薄膜)を測定する方法があり、後者の測定法は、一般に高感度反射法、あるいは、反射吸収法(Reflection Absorption Spectrometry=RAS法)と呼ばれている。本発明での測定には日本分光社製RT/IR−6100を用いた。測定の概略は図2に示す。平行偏向された赤外線6が添加剤由来の反応膜9による吸収を受け、その反射光7のスペクトルを得て解析することにより、表面の反応膜9に関する化学構造の情報が得られる。 本実施例では、リン系化合物を添加剤として含有する作動油を介在させて、硬質クロムメッキ表面とNBRゴムとの摺動によりクロム表面に生成する添加剤由来の反応膜の構造を解析した。[作製した作動油] API規格でGroupIIIに相当する鉱物油を基油として、表1に示す各リン系添加剤を0.5Wt%処方した計6種類の作動油を作製した。以下本文では表中の各番号で記す。[摺動試験] 試験には図1に示すバウデン・レーベン型往復動試験機を用いた。試験条件は表2に示す。試験片には、φ24mmの軸受鋼(SUJ2)に硬質Crメッキ(JISH8615相当、鏡面仕上げ)を施したディスクとNBRゴム試験片(長さ8mm、幅2mm、高さ3mm)を用いた。作動油は試験前に摺動面に適量滴下した。試験後、計測値より摩擦係数を算出し、比較を行った。[表面分析] 摺動試験を60℃で行ったところ反応膜9がディスク8の表面に観察された(図2)。反応膜の表面に付着している作動油はディスクの表面をアセトンで洗浄することにより除去した。洗浄により反応膜が除去されないことは、反応膜が形成された面が撥水性を有することにより確認される。この反応膜は、強い力で長時間摩擦することによってのみ除去することができた。FT−IR(日本分光社製FT/IR-6100)を用いて、RAS法(高感度反射測定法)により洗浄された反応膜の表面のスペクトルを測定した。また、顕微鏡IRにより添加剤原液の赤外線吸収スペクトルを測定した。測定後、試験後表面および添加剤原液の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ正規化し、スペクトルパターンの比較を行った。各スペクトルは図4に示す。[試験結果及び考察][摺動試験] 試験により得た摩擦係数と摺動速度との関係を図3に示す。図3から基油に処方する添加剤により、様々な摩擦特性を示すことが明らかとなった。アシッドフォスフェート系添加剤を添加した作動油(No.1、2)は、基油と比較して、低速域で摩擦係数が非常に小さく、速度の上昇に伴い摩擦係数の上昇が著しいことが確認された。また、同じアシッドフォスフェート系添加剤であっても、摩擦係数の値に差が見られた。これは添加剤そのものの構造あるいは摺動面に形成される膜によるものと推察される。フォスファイト系添加剤を添加した作動油(No.3)の結果から、アシッドフォスフェート系添加剤と比較し、全ての速度で摩擦係数が高いことが確認された。さらに、1mm/s以下の速度では摩擦係数がわずかに上昇した。フォスフェートアミン塩系添加剤を添加した作動油(No.4〜6)は、低速域で一度摩擦係数が上昇し、その後速度と共に摩擦係数が減少することが確認された。また、基油と比べ摩擦係数を増加させるものと減少させるものがあることが確認された。[摺動試験後の表面分析]図4にFT−IRによるスペクトル測定結果を示す。全体に共通して、摺動後表面では1150cm−1付近で高いP=0のピークが観察された。添加剤1のFT−IRによる測定結果を図4(a)に示す。摺動後、990cm−1付近でP-O、3000cm−1付近でC-Hの高いピークが得られた。以上から、アシッドフォスフェート系添加剤は摺動後の面に、P-O結合による強固なリン被膜が形成されるため、摩擦低減効果を発揮すると推察される。フォスファイト系添加剤3のFT−IRによる測定結果を図4(b)に示す。3000cm−1付近でC-Hのピークが得られたが、P=0に対するC-Hピークの割合は図4(a)と比較して、図4(b)の方が小さい。亜リン酸系化合物である添加剤3はリンと結合しているHまたは炭素鎖が分離し、リンがCrメッキ中の酸素と吸着するため、添加剤1と比較しリンと結合したまま残る炭素鎖が減少したと推察される。リンと結合する炭素鎖が減少することにより、フォスファイト系添加剤が潤滑効果を示さないものと推察される。フォスフェートアミン塩系添加剤5のFT−IRによる測定結果を図4(c)に示す。P=0のピークと共に、3600〜3900cm−1付近でNHX系のわずかなピークが得られた。すなわち、Crメッキ表面に対し、リンの吸着と共にアミン塩の吸着も示唆された。故に、リンとアミン塩の吸着作用により不均一な膜が摺動面に対して形成され、摺動を阻害し摩擦係数が大きくなると推察される。 以上の実施例おいて、リン系作動油を用いてNBRゴムとCrメッキによる摺動試験結果及び摺動面の分析結果より、以下の知見を得た。(1)FT−IRによるRAS法により金属部材の表面に形成された潤滑油または作動油の添加剤に由来する反応膜の構造を解析することが可能となった(2)同じリン系の添加剤であってもその構造により、基油と比べ摩擦係数を増加させるものと減少させるものがあることが明らかになった。(3)アシッドフォスフェート、フォスファイト、フォスフェートアミン塩系添加剤は異なる挙動を示した。(4)FT−IRによる表面分析より、摺動表面にリン系化合物の膜が形成されることが明らかとなった。 本発明は、機械部品におけるオイルシールなどの有機材料と金属材料面との間に封入される、添加剤を配合した潤滑油や作動油に由来して摺動後表面に形成される反応膜の構造を解析する方法を提供するものであり、添加剤に由来する金属表面上の反応膜の解析を可能とすることにより、ショックアブソーバーや油圧機械類の部品の最適な作動条件や、最適な添加剤の化学構造を選択するために有用な情報を得るものである。例えば、一般的なオイルシール材であるNBRゴムとCrメッキ表面の摺動後における表面反応膜の形成とその組成を明らかとすることにより、添加剤個々が持つ化学構造などの性質が摩擦特性に与える影響を明らかにすることができる。それによって、基油に加える添加剤を選択する方法が明らかとなり、添加剤の簡便な選択方法の提供により、効率的な機械類の作動が可能となり、様々な面で有用な情報を提供する基礎となるものである。1:ゴム材料からなる試料2:潤滑油(作動油)3:試験機ディスク4:往復運動方向5:荷重6:偏光した赤外線7:反射赤外線8:RASディスク9:添加剤由来反応膜 金属部材の表面に形成された潤滑油または作動油の添加剤に由来する反応膜の構造を解析するにあたり、添加剤を含有する潤滑油または作動油が介在して接触運動した金属部材と有機材料部材の接触面からの金属部材表面に残存する潤滑剤を洗浄、除去した後、その金属表面をフーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)における高感度反射法(RAS法)により分析することを特徴とする金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 潤滑剤中に含有される添加剤が、油性向上剤、摩耗防止剤、または極圧剤から選ばれる請求項1に記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 潤滑剤中に含有される添加剤が、アルキルもしくはアルケニル基を有するリン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、またはそれらのアミン塩から選ばれた1種以上である請求項1または2に記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 有機材料部材が、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、スチレンゴム、ブチルゴム、4フッ化エチレンゴムのいずれかから選ばれる請求項1から3のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 金属部材の表面が、クロムメッキ面である請求項1から4のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の化学構造を解析する方法。 潤滑油または作動油が介在した接触運動が、回転あるいは摺動である請求項1から5のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 添加剤の赤外線吸収スペクトルと、金属材料の表面に形成された添加剤由来の膜の赤外線吸収スペクトルを対比して、金属材料の表面に形成された添加剤由来の膜の構造を解析する請求項1から6のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 金属部材と有機材料を、添加剤を含有する潤滑油または作動油が介在した接触運動が、平板状の金属部材の表面と有機材料部材の表面を潤滑油または作動油を介在させてバウデン−レーベン摩擦試験機により行なわれる請求項1から7のいずれかに記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 平板状の金属部材として,φ24mmの軸受鋼に硬質Crメッキを施したディスクを用い、有機材料部材として長さ8mm、幅2mm、高さ3mm直方体を用いる請求項8に記載の金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。 【課題】潤滑特性を支配する添加剤由来の表面反応膜の構造を測定する方法の提供。【解決手段】金属部材の表面に形成された潤滑油または作動油の添加剤に由来する反応膜の構造を解析するにあたり、添加剤を含有する潤滑油または作動油が介在して接触運動した金属部材と有機材料部材の接触面から金属部材を得て、その表面に残存する潤滑剤を洗浄、除去した後、その金属表面をフーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)における高感度反射法(RAS法)により分析する金属部材の表面に形成された添加剤由来の反応膜の構造を解析する方法。【選択図】 図1