生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_糖の生産方法
出願番号:2012031165
年次:2013
IPC分類:C12P 19/00,C07H 3/02,C07H 3/04,C12N 5/00,A01K 67/033


特許情報キャッシュ

細谷 浩史 濱生 こずえ 氏弘 一也 JP 2013165680 公開特許公報(A) 20130829 2012031165 20120215 糖の生産方法 国立大学法人広島大学 504136568 木村 満 100095407 末次 渉 100138955 毛受 隆典 100109449 細谷 浩史 濱生 こずえ 氏弘 一也 C12P 19/00 20060101AFI20130802BHJP C07H 3/02 20060101ALI20130802BHJP C07H 3/04 20060101ALI20130802BHJP C12N 5/00 20060101ALN20130802BHJP A01K 67/033 20060101ALN20130802BHJP JPC12P19/00C07H3/02C07H3/04C12N5/00A01K67/033 501 3 OL 15 特許法第30条第1項適用申請有り 日本生物物理学会、生物物理 SUPPLEMENT 1 Vol.51 第49回年会講演予稿集、平成23年8月15日 4B064 4B065 4C057 4B064AF01 4B064CA08 4B064CA09 4B064CA50 4B064CC30 4B064DA16 4B065AA99 4B065AB10 4B065AC14 4B065BA30 4B065BB40 4B065BC48 4B065CA20 4C057AA05 4C057BB02 4C057BB03 本発明は、糖の生産方法に関する。 糖は人類にとって重要な栄養成分であり、食品産業をはじめ、種々の産業でも重要な物質である。糖は主にサトウキビ、テンサイから生産されている。ところが、近年世界各地で多発する豪雨や干ばつなど地球規模の天候不純の影響でサトウキビ畑、テンサイ畑が破壊され、安定的な糖の供給が望めない状況が頻発に生ずる事態になっている。また、発展途上国などでは、年々、糖の需要量が多くなってきている。このため、サトウキビ、テンサイの他に、糖の供給源の確保が望まれている。 原生生物であるミドリゾウリムシの体内には、約400〜500個の共生藻と呼ばれる藻類が共存している。共生藻は光合成を行い、糖をミドリゾウリムシ体内に放出するので、ミドリゾウリムシの体内に糖が蓄積していることが明らかにされている(非特許文献1)。従って、ミドリゾウリムシに蓄積される糖を利用できれば、新たな糖源の確保につながると考えられる。 なお、ミドリゾウリムシに関する発明として、ミドリゾウリムシから共生藻を除去し、無藻ミドリゾウリムシを創製する方法(特許文献1)、また、ミドリゾウリムシの共生藻を取り出し、クローニングする方法(特許文献2)がある。J.A. Brown and P.J. Nielsen, J. Protozool., 21, 569-570, 1974特開平10−84号公報特開平10−295363号公報 非特許文献1では、ミドリゾウリムシ体内に糖が蓄積していることが記載されているだけであり、糖を生産させる方法については開示されていない。また、特許文献1及び2には、ミドリゾウリムシによる糖の生産について何ら記載されていない。 本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ミドリゾウリムシを用いて効率的に糖を生産可能な糖の生産方法を提供することにある。 本発明に係る糖の生産方法は、 ミドリゾウリムシの体内から共生藻を取り出す工程と、 取り出した共生藻のクローニングを行う工程と、 クローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させ、再共生可能な共生藻をスクリーニングする工程と、 再共生可能なクローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させて培養し、糖を生産させる工程と、を備える、 ことを特徴とする。 また、光を1日当たり12時間より長い時間照射して無藻ミドリゾウリムシを培養して糖を生産させることが好ましい。 また、光量子量40μmol photons/m2/s以上の条件下で培養することが好ましい。 本発明に係る糖の生産方法では、ミドリゾウリムシから取り出した共生藻をクローニングし、再共生可能なクローン化共生藻を、無藻ミドリゾウリムシに摂取させて培養し、糖を生産させている。これにより、ミドリゾウリムシを用いて効率的に糖を生産することが可能である。ミドリゾウリムシの増殖速度の比較を示すグラフである。ミドリゾウリムシ体内糖量の比較を示すグラフである。 本実施の形態に係る糖の生産方法は、ミドリゾウリムシの体内から共生藻を取り出す工程と、取り出した共生藻のクローニングを行う工程と、クローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させ、再共生可能な共生藻をスクリーニングする工程と、再共生可能なクローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させて培養し、糖を生産させる工程とを備える。(ミドリゾウリムシの体内から共生藻を取り出す工程) まず、ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)体内から共生藻を取り出す工程について説明する。共生藻を取り出す方法について、特に限定されないが、特許文献2に記載の方法にて共生藻を取り出すことができ、具体的には以下のようにして取り出すことができる。 予め、ミドリゾウリムシの有機栄養源となるバクテリアとして、クレブジエラ・ニューモニアイ(Klebsiella pneumoniae)を接種した野菜浸出液培地中で、ミドリゾウリムシを培養しておく。ミドリゾウリムシの培養は、例えば、12時間明期:12時間暗期、23±1℃の条件で行う。 野菜浸出液培地は、野菜、特に緑色野菜の浸出液に少量の無機成分を含む半合成培地であることが好ましく、このような野菜浸出液としてはレタス浸出液が好ましい。野菜浸出液培地は、例えば、乾葉レタス粉末に少量のCaCO3を加え、約1000〜1500倍容量の水で数分間煮沸浸出し、濾過した後、オートクレーブ処理して調製する。野菜浸出液培地には、その他、酵母抽出物、ペプトン、グルコース等、微生物用培地に慣用される有機成分が適宜添加されてもよい。 ミドリゾウリムシから共生藻を分離するには、野菜浸出液培地中に懸濁したミドリゾウリムシに超音波処理を施す。超音波処理は、ミドリゾウリムシを完全に破砕するが、共生藻には影響を及ぼさない程度の適宜な出力及び処理時間を選定して行う。例えば、処理時間は30秒〜1分でミドリゾウリムシを破砕することができる。そして、ミドリゾウリムシを破砕した液を遠心処理し、上清を除去すれば、共生藻が得られる。(取り出した共生藻をクローニングする工程) 続いて、ミドリゾウリムシから取り出した共生藻をクローニングする工程について説明する。共生藻のクローニングは、種々の方法で行い得るが、例えば、以下のようにして行うことができる。 ミドリゾウリムシから分離した共生藻に、培地を添加して十分に洗浄し、その懸濁液を培地に接種し、24時間照明下、約24±1℃で培養する。培地として、貧栄養培地を用いるとよい。富栄養培地を用いると、バクテリアの増殖が盛んになり、共生藻のコロニーが形成され難いからである。貧栄養培地として、好ましくは、特許文献2に記載されているCA培地(CA液体培地)、より好ましくはCA液体培地を含む2%寒天培地(CA寒天培地)がよい。 約1カ月後に、共生藻の任意のコロニーを選んでかきとり、再びCA寒天培地に植え替え培養する。1回の培養期間は少なくとも30日間とするとよい。これらの操作による継代を複数回繰り返すことにより、クローン化共生藻を得ることができる。 また、上述の手法によりCA寒天培地でクローン化した共生藻を、CA液体培地で約24±1℃、24時間照明下の条件で振盪培養し、培養約7日後に共生藻の一部を新鮮なCA培地に接種し、以後約7日おきに継代を繰り返すことにより、クローン化共生藻を大量培養することができる。(クローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させ、再共生可能なクローン化共生藻をスクリーニングする工程) まず、無藻ミドリゾウリムシを準備する。本明細書において、無藻ミドリゾウリムシとは、体内から共生藻が取り除かれ、共生藻をほとんど或いは全く有していないミドリゾウリムシをいう。 無藻ミドリゾウリムシは、ミドリゾウリムシ体内から、体内の共生藻を除去することで準備することができる。この無藻ミドリゾウリムシを創製する方法については、ミドリゾウリムシが死滅することなく、共生藻を除去できればどのような方法でもよいが、一例として、特許文献1に記載の方法に基づいて得ることができ、具体的には、以下のようにして得ることができる。 ミドリゾウリムシの共生藻を除去するには、上記のバクテリアを接種した培地を用いて、ミドリゾウリムシを、その生存許容量の除草剤の存在下で培養する。除草剤として、パラコートが挙げられる。広葉除草剤であるパラコートは、酸化されたフェレドキシンに優先的に対抗して、照明された葉緑体の光システムからの電子流の転換により植物に作用するので、この除草剤が内共生藻の葉緑体中の電子流に影響を及ぼし、それを損傷するものと考えられる。 ミドリゾウリムシから共生藻を完全に除去するには、ミドリゾウリムシの生育段階によって異なるが、一般にはパラコートの濃度を高々105μg/Lとし、少なくとも5日間培養すればよい。特に対数期にあるミドリゾウリムシの場合には、約103μg/L〜105μg/Lのパラコートの濃度で、約5日間培養すれば完全無藻ミドリゾウリムシを得ることができる。パラコート濃度を102μg/L程度に減少した場合には、培養期間を少なくとも10日、場合によっては15日程度とすることによって共生藻の除去が可能である。一方、定常期にあるミドリゾウリムシの場合、少なくとも1μg/Lのパラコート濃度において、少なくとも10日間、好ましくは、少なくとも15日間の培養期間を要する。 なお、ミドリゾウリムシ或いは無藻ミドリゾウリムシの共生藻の有無は、例えば、ニコン社製ノマルスキー(Nomarski)微分干渉コントラスト顕微鏡(DIC)による観察で確認することができる。即ち、B2フィルターを標本と接眼レンズとの間に置いて紫外光を除けば、ミドリゾウリムシ中の共生藻のクロロフィルは赤色に蛍光を発するので、赤色の像として観察される。この蛍光顕微鏡検査に基づき「無藻」が確認された無藻ミドリゾウリムシを取り出せばよい。取り出した無藻ミドリゾウリムシは、0.05%(v/v)のファント・ホッフ人工海水で数回洗浄して除草剤を除去し、培養基中に保存しておくとよい。以上のようにして、無藻ミドリゾウリムシを準備することができる。 そして、クローンニングした共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させ、クローン化共生藻がミドリゾウリムシ中で共生しているか否かを確認し、再共生可能なクローン化共生藻をスクリーニングする。 まず、無藻ミドリゾウリムシにクローン化共生藻を摂取させる。例えば、培地にクローン化共生藻及び無藻ミドリゾウリムシを添加して培養する。これにより、無藻ミドリゾウリムシは共生藻を経口摂取し、無藻ミドリゾウリムシ体内にクローン化共生藻が取り込まれる。 例えば、以下のようにして、無藻ミドリゾウリムシにクローン化共生藻を摂取させるとよい。クローン化共生藻を遠心(例えば、720xgで5分間)し、レタス浸出液で洗浄し、この懸濁液に無藻ミドリゾウリムシを加える。この際、無藻ミドリゾウリムシ一個体に対し、クローン化共生藻を103以上に調整するとよい。原因は定かではないが、無藻ミドリゾウリムシ一個体に対し、クローン化共生藻が103以上添加されていないと、共生藻が無藻ミドリゾウリムシに共生しないからである(特許文献2参照)。そして、例えば、12時間明期:12時間暗期、23±1℃の条件で、24時間培養する。 培養後、ミドリゾウリムシを含む懸濁液をとり、レタス浸出液中で洗浄し、ミドリゾウリムシに取り込まれた共生藻以外の藻を除去し、クローン化共生藻が再共生しているか否かを確認する。 例えば、シャーレ等にバクテリアを接種したレタス浸出液を置き、この培養液にミドリゾウリムシを移す。さらに、シャーレの蓋の内側に濾紙を置いて、蒸留水で湿らせ、この上に水滴を置いた側を下にして(up−side down)シャーレをかぶせ、以後このハンギング・ドロップ(hanging−drop)状態で培養する。ミドリゾウリムシに再感染できなかった共生藻は消化吸収されるか、細胞外に排出されると考えられるため、その後、24時間、48時間後にミドリゾウリムシを前述したように洗い、培養液中に出現してくる共生藻を除去する。そして、ハンギング・ドロップで培養後(例えば培養開始から5日後)、ミドリゾウリムシの細胞内に共生藻が存在するか否かを観察する。共生藻は赤色の自家蛍光を発するため、共生藻の有無は、例えば、蛍光顕微鏡(ニコン、Optiphot BFD2TM )を用いて判定することができ、全細胞系のうち共生藻が再感染した細胞系の割合を再共生率として表すことで、再共生可能なクローン化共生藻、再共生率の高いクローン化共生藻をスクリーニングすることができる。(再共生可能なクローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させ、糖を生産させる工程) 上記と同様の手法により、無藻ミドリゾウリムシにスクリーニングした再共生可能なクローン化共生藻を摂取させる。クローン化共生藻は光合成により、糖を生産してミドリゾウリムシ体内に放出する。そして、ミドリゾウリムシ体内に糖が蓄積する。 なお、培地中に添加する無藻ミドリゾウリムシとクローン化共生藻との比率は、上記同様、無藻ミドリゾウリムシ一個体に対してクローン化共生藻が103以上とすることが好ましい。無藻ミドリゾウリムシ一個体に対しクローン化共生藻が103よりも少ないと、クローン化共生藻が無藻ミドリゾウリムシに共生せず、クローン化共生藻による糖の生産が行われないためである。 また、培養は光を一日当たり12時間より長い時間照射して行うとよく、好ましくは24時間明期の光条件下で行うとよい。常時光を照射して培養することで、クローン化共生藻が光合成を継続的に行い、糖を生産するので、糖の生産量が向上する。また、光量子量が40μmol photons/m2/s以上の条件下で培養を行うことが好ましい。なお、24時間光を照射して培養する場合、光量子量が40μmol photons/m2/s程度の条件下で行うことが好ましい。原因は定かではないが、光量子量が大きすぎると、糖の生産量が低下することになる。 以下の実験で用いたミドリゾウリムシ、無藻ミドリゾウリムシ、共生藻、クローン化共生藻野菜浸出培地等を以下に記す。<ミドリゾウリムシ、無藻ミドリゾウリムシ> 表1に記載したミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)を実験に用いた。 また、株KRSw−F1は、特許文献1記載の方法に基づいて、株KRS−F1をパラコート処理して得られた無藻ミドリゾウリムシである。これらの株は、バクテリア(Klebsiella pneumoniae)を接種した野菜浸出液培地で24−48時間23℃で培養した後に使用した。<共生藻> 共生藻は、特許文献2記載の方法に基づいて、ミドリゾウリムシ株KRS−F1、株AGF−13、株AGF−21、株KN−2、株KS−46及び株EZ−37から単離したものである。<クローン化共生藻> クローン化共生藻は、ミドリゾウリムシ株KRS−F1、株AGF−13、株AGF−21、株KN−2、株KS−46及び株EZ−37から単離した共生藻をクローニングして得た。具体的には、次の手順で単離し、クローニングした。 ミドリゾウリムシ各株を野菜浸出液で3回洗い、その後、再び野菜浸出液中に懸濁し、超音波発振装置、ソニファー・モデル・450TM(BRANSON社製)を用い、出力2で30秒間超音波破砕した。この破砕条件では、ミドリゾウリムシは完全に破砕されたが、共生藻には影響はなかった。 この破砕液を720xgで5分間遠心し、上清を除去した後、培養液を加え洗浄した。この操作を3回繰り返し、共生藻をよく洗った。この懸濁液を培養液を含む2%寒天(Difco社製)培地に接種し、24時間照明下(約2000ルクス)、24℃で培養し、共生藻のコロニーを形成した。 培養開始後、約1カ月で共生藻のコロニーが形成され、それぞれ1つのコロニーを任意に選んでかきとり、再び同じ培養液を含む寒天培地に植え替えた。これらの操作を繰り返すことで共生藻のクローンを得た。このようにして、表2に示す29種の共生藻のクローンを得た。<野菜浸出液培地> 培地の調製に使用する野菜浸出液は次のようにして調製した。レタスの葉を洗浄して30−60秒間煮沸し、60−80℃で乾燥して粉末にし、デシケーターに貯えた。この乾燥レタス粉末0.5gをCaCO3(片山化学)2mgと共に再蒸留水0.7リットル中で5−10分煮沸して浸出液を調製し、室温まで冷却後濾過した。濾液に再蒸留水を加えて全容1000mLとし、及びオートクレーブ処理(約15分)後、培地に使用した。(実験1:ミドリゾウリムシ及び無藻ミドリゾウリムシに含まれる糖分析) ミドリゾウリムシ及び無藻ミドリゾウリムシそれぞれの体内中の糖量の測定は、ポストカラム法により測定した。測定された糖種は、還元性単糖(8種)、還元性二糖(4種)、非還元性二糖(1種)である。ミドリゾウリムシ及び無藻ミドリゾウリムシそれぞれの糖の分析結果を表3に示す。 一個体あたりの糖量は、ミドリゾウリムシでは3.61ng、無藻ミドリゾウリムシでは0.46ngであり、共生藻の存在により、ミドリゾウリムシの体内には多くの糖が蓄積されていることを確認した。 また、単糖が最も多く含まれていることがわかった。例えば、デンプンから糖を生産する場合、液化処理、糖化処理が行われるが、ミドリゾウリムシの体内に蓄積される糖は単糖であるので、液化処理が不要という利点がある。 現状の培養方法においては、ミドリゾウリムシの細胞密度は7〜10日間で106[cells]に達する。仮に深さ2m×1haの培養池で10日間ミドリゾウリムシを培養した場合、ミドリゾウリムシは、20,000[kL]×106[cells]=2.0×1013[cells]となる。 そして、ミドリゾウリムシ一個体あたりから生産される糖量が上記の如く3.61ngとし、深さ2m×1haの培養池で10日間ミドリゾウリムシを培養した場合には、糖の収量は3.61[ng/cell]×2.0[cells]=72,200[g]となる。 そして、1年間で、36.5回(365[日]/10[日])ミドリゾウリムシを培養し、糖を回収したとすれば、36.5[回]×72,200[g]=2,635.3[kg]となる。 平成22年6月公表の農林水産統計によれば、平成21年にサトウキビから1ha当たり7.65tの甘ショ糖が生産されており、上記のようにミドリゾウリムシから糖を生産した場合では、サトウキビに対する生産収率は約34.4%程度を占めることがわかる。(実験2:ミドリゾウリムシ体内の糖量と共生藻内の糖量との比較) 続いて、ミドリゾウリムシ体内の糖量と、共生藻を単独培養した場合の共生藻内の糖量との比較を行った。 フェノール硫酸法により、糖量を測定した。測定した糖種は還元糖である。ミドリゾウリムシ体内の糖量を表4に、共生藻を単独培養した場合の共生藻内の糖量を表5にそれぞれ示す。なお、培養時の光条件は、いずれも光周期が12時間明期:12時間暗期(12L/D)、光量子量が40μmol photons/m2/sとした。また、表5では、ミドリゾウリムシ体内にはおよそ500の共生藻が共生していることを考慮して、ミドリゾウリムシ一個体中の共生藻細胞数に相当するよう、共生藻500細胞内の糖量に換算して示している。 共生藻を単独で培養した場合、15日培養しても糖量はほとんど増加していない。一方、ミドリゾウリムシ体内の糖量は、培養期間が15日間で、およそ6−7倍にまで増加している。この結果から、共生藻はミドリゾウリムシに共生してこそ、糖の生産量が増加することがわかる。 なお、上記実験では、採取して培養したミドリゾウリムシを用いており、糖の生産量が高い共生藻、糖の生産量が低い共生藻が混在して共生しているミドリゾウリムシである。選択的に糖の生産量が高い共生藻をミドリゾウリムシに共生させていれば、より糖の生産量を高め得ると考えられる。つまり、クローン化した共生藻であって、かつ糖の生産量の高い共生藻をミドリゾウリムシに再共生させることで、より糖の生産量の高いミドリゾウリムシを作成しそれを利用して糖を生産することができる。(実験3:光量子量、光周期を変化させた際のミドリゾウリムシの増殖速度並びにミドリゾウリムシ体内糖量の比較) 光量子量、光周期を変化させてミドリゾウリムシを培養し、増殖速度並びにミドリゾウリムシ体内糖量の比較を行った。光周期は12時間明期:12時間暗期(12L/D)、24時間明期(24D)、24時間暗期(24D)とし、光量子量は0、40、170μmol photons/m2/sとした。なお、培養期間は2日間とした。培養は1000cells/mLの細胞密度で開始して、培養終了後のミドリゾウリムシの細胞密度を測定するとともに、培養開始時及び終了時のミドリゾウリムシ一個体当たりの糖量を測定した。 ミドリゾウリムシの増殖速度の比較を図1に、ミドリゾウリムシ体内糖量の比較を図2に示す。また、ミドリゾウリムシの細胞密度、細胞内糖量、培養液1mL中の総糖量を表6に示す。 光周期が12L/D、光量子量が40μmol photons/m2/sで培養した場合に、ミドリゾウリムシは最も増殖した。一方で、ミドリゾウリムシ一個体当たりの糖量は、1.3ngであり、培養液1mL中の総糖量は2.7μgであった。 光周期が24Lの場合、光周期が12L/Dの場合に比べて、ミドリゾウリムシの増殖速度は低いものの、ミドリゾウリムシ一個体当たりの糖量は大きい。特に、光周期が24L、光量子量が40μmol photons/m2/sの場合、5.9ngであり、培養液1mL中の総糖量は11.8μgとなった。これは、光周期が12L/Dの場合に比べ、約5倍の糖量である。 これらの結果から、光を一日当たり12時間より長い時間照射してミドリゾウリムシを培養すすること、また、光量子量が40μmol photons/m2/s以上の条件下でミドリゾウリムシを培養することで、糖の生産量を増加させ得ることがわかる。そして、適切な光量子量(40μmol photons/m2/s程度)であれば、24時間明期でミドリゾウリムシを培養することにより、ミドリゾウリムシを効率的に増殖させられるとともに、ミドリゾウリムシ一個体当たりの糖量を増加させ得ることがわかる。(実験4:再共生可能なクローン化共生藻のスクリーニング) 続いて、無藻ミドリゾウリムシに表1に示したクローン化共生藻をそれぞれ摂取させ、それぞれの再共生率を検証した。 無藻ミドリゾウリムシ(KRSw−F1)1細胞に対し1×104細胞のクローン化共生藻をKlebsiella pneumoniaを含むレタス液(以下培養液)にそれぞれ混ぜ合わせ、丸一日インキュベートした。ウォッシュしてミドリゾウリムシ細胞外の共生藻を除去した後、新たな培養液で丸5日間インキュベートした。ウォッシュを行い、ミドリゾウリムシ細胞を回収しホルムアルデヒドで固定後、ミドリゾウリムシの細胞内に共生藻が存在するか否かを観察した。共生藻は赤色の自家蛍光を発するため、共生藻の有無は蛍光顕微鏡(ニコン、Optiphot BFD2TM)を用いて判定した。 自家蛍光観察の際、ミドリゾウリムシ細胞内に赤いスポットが一つでも見られたものを共生とし、共生したミドリゾウリムシ細胞数を観測したミドリゾウリムシ細胞数で割ったものを共生率とした。 その結果を表7に示す。クローン化共生藻によっては、再共生率が高い株、低い株が存在することがわかる。このなかで、SA−23c、SA−23e、SA−23h、SA−23i、SA−23j、SA−25c、SA−25d、SA−26a、SA−28a、SA−28bが再共生率が90%を超えている。(実験5:ミドリゾウリムシ体内の糖量と共生藻を単独培養した場合の共生藻内の糖量との比較) 実験4で再共生率を測定したクローン化共生藻(株SA−23e、SA−23j、SA−24a、SA−24e、SA−24f、SA−26b、SA−28b)を、単独で培養し、生成された糖量を測定した。CA寒天培地上で培養しているクローン化共生藻をCA液体培地に移し、細胞密度を測定後、遠心して細胞ペレットを回収した。ペレットは−80℃で凍結後、フェノール硫酸法によりペレットの糖量を求めた。その結果を表8に示す。 また、無藻ミドリゾウリムシ(株KRSw−F1)に上記のクローン化共生藻(株SA−24a、SA−24e)を摂取させて得られたミドリゾウリムシを培養し、ミドリゾウリムシ体内にて生成された糖量を測定した。培養条件は、光量子量:40μmol photons/m2/s、光周期:12L/D、培地:野菜浸出液培地、培養期間:2日間、培養開始時の細胞密度:1000cells/mlである。その結果を表9に示す。 ミドリゾウリムシから取り出した共生藻をクローン化して、無藻ミドリゾウリムシに共生させて糖を生産可能であることを立証した。 以上説明したように、本発明では、ミドリゾウリムシから取り出してクローン化したクローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させて培養することで糖を生産することができる。このため、サトウキビ、テンサイに代わる糖源の確保への応用が期待できる。 ミドリゾウリムシの体内から共生藻を取り出す工程と、 取り出した共生藻のクローニングを行う工程と、 クローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させ、再共生可能な共生藻をスクリーニングする工程と、 再共生可能なクローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させて培養し、糖を生産させる工程と、を備える、 ことを特徴とする糖の生産方法。 光を1日当たり12時間より長い時間照射して無藻ミドリゾウリムシを培養して糖を生産させる、 ことを特徴とする請求項1に記載の糖の生産方法。 光量子量40μmol photons/m2/s以上の条件下で培養する、 ことを特徴とする請求項2に記載の糖の生産方法。 【課題】ミドリゾウリムシを用いて効率的に糖を生産可能な糖の生産方法を提供する。【解決手段】ミドリゾウリムシの体内から共生藻を取り出す工程と、取り出した共生藻のクローニングを行う工程と、クローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させ、再共生可能な共生藻をスクリーニングする工程と、再共生可能なクローン化共生藻を無藻ミドリゾウリムシに摂取させて培養し、糖を生産させる工程とを備える、糖の生産方法。【選択図】なし


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る