タイトル: | 公開特許公報(A)_発酵麦芽飲料の製造方法 |
出願番号: | 2012013299 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12G 3/02,C12C 11/00 |
高橋 浩一郎 JP 2013150577 公開特許公報(A) 20130808 2012013299 20120125 発酵麦芽飲料の製造方法 アサヒビール株式会社 311007202 棚井 澄雄 100106909 志賀 正武 100064908 大槻 真紀子 100147267 高橋 浩一郎 C12G 3/02 20060101AFI20130712BHJP C12C 11/00 20060101ALI20130712BHJP JPC12G3/02C12C11/00 4 OL 10 4B015 4B015AG03 4B015AG17 本発明は、発酵麦芽飲料の製造工程において必須であった熟成工程及び安定化工程を行わず、従来よりも非常に短期間で発酵麦芽飲料を製造する方法に関する。 ビール等の発酵工程を要する飲料においては、醸造期間を短縮することにより、さらなる設備投資を要することなく製造能力を増加させることができる。醸造期間を短縮化する方法として様々な手段が検討されてきた。その中の一つに、高温発酵が挙げられる。発酵温度を高くすることにより、発酵時間を短くすることができる。但し、発酵温度を上げることにより香味が大きく変化し、品質が大きく変わってしまうという難点があった。 一方で、酵素剤を使用することにより、高温発酵を必要とせずに醸造工程を短縮する方法もある。例えば、発酵工程においてα−アセト乳酸脱炭酸酵素(ALDC)を使用する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照。)。発酵において、酵母がアミノ酸を生成する際に生じるα−アセト乳酸やα−アセトヒドロキシ酪酸は、菌体外に排出されたのちに化学反応を受けて、ジアセチルや2,3ペンタンジオンになる。ジアセチルや2,3ペンタンジオンはVDKと総称される、不快臭の原因物質である。VDKは、再度酵母に取り込まれ、還元されることにより無臭化される。そこで、通常は発酵工程後に7〜10日間程度の熟成工程を設け、十分な量のVDKを酵母に取り込ませ、還元させている。ALDCは、菌体外に放出されたα−アセト乳酸を直接アセトインに加水分解する酵素である。従って、ALDCを発酵工程時に発酵液に添加することにより、VDKが菌体外で還元されるため、VDK還元を主目的とする熟成工程の期間を短縮することができる。 その他、ビール等のビールテイスト飲料の製造において使用される酵素剤として、プロリン特異的プロテアーゼが挙げられる。当該酵素は、プロリン残基のC末端を特異的に切断する酵素である。製品における寒冷混濁を防ぐため、通常は、冷却した後、5日間以上の安定化期間を設けた後、濾過を行う。寒冷混濁は、タンパク質中のプロリン残基とポリフェノールの相互作用により、引き起こされる。そこで、プロリン特異的プロテアーゼを発酵液に添加することにより、タンパク質−ポリフェノール結合のネットワークの広がりが抑制され、混濁が生じにくくなることが知られている(例えば、特許文献4参照。)。特開平3−172180号公報特開昭60−70076号公報特表平6−500013号公報特表2004−515240号公報 本発明は、熟成工程及び安定化工程を行わず、従来よりも非常に短期間で発酵麦芽飲料を製造する方法を提供することを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、発酵麦芽飲料の製造において、発酵工程を、ALDC及びプロリン特異的プロテアーゼを添加して行うことにより、熟成工程及び安定化工程を行わずとも、品質が良好な発酵麦芽飲料を製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、(1) 麦芽を原料として用い、発酵工程において、発酵液中に、α−アセト乳酸脱炭酸酵素及びプロリン特異的プロテアーゼを添加し、発酵工程終了後、直ちに発酵液を冷却した後に濾過し、発酵工程終了時点から濾過開始時点までが3日間以内であることを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法、(2) 前記α−アセト乳酸脱炭酸酵素の添加量が300U/L以上であり、前記プロリン特異的プロテアーゼの添加量が0.01U/L以上であることを特徴とする、前記(1)の発酵麦芽飲料の製造方法、(3) 前記α−アセト乳酸脱炭酸酵素の添加量が400〜4000U/Lであり、前記プロリン特異的プロテアーゼの添加量が0.025〜0.2U/Lであることを特徴とする、前記(1)の発酵麦芽飲料の製造方法、(4) 前記プロリン特異的プロテアーゼの添加量が0.025〜0.05U/Lである、前記(1)〜(3)のいずれかの発酵麦芽飲料の製造方法、を提供するものである。 本発明の発酵麦芽飲料の製造方法により、それぞれ10日間程度を要していた熟成工程及び安定化工程を行わずとも、従来法と同様に不快臭が少なく、かつ寒冷混濁が充分に抑制された発酵麦芽飲料を製造することができる。すなわち、本発明の発酵麦芽飲料の製造方法により、良好な品質の発酵麦芽飲料を、従来よりも非常に短期間で醸造することができる。 本発明及び本願明細書において、発酵麦芽飲料とは、原料として麦芽を使用し、発酵工程を経て製造される飲料である。本発明の発酵麦芽飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ということがある。)により製造される発酵麦芽飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。その他、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、スピリッツ等の一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。本発明の製造方法により製造される発酵麦芽飲料としては、ビールテイスト飲料であることが好ましい。具体的には、ビール、発泡酒、ビール又は発泡酒をアルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類等が挙げられる。 本発明の製造方法は、麦芽を原料として用い、発酵工程において、発酵液中に、ALDC及びプロリン特異的プロテアーゼを添加し、発酵工程終了後、直ちに発酵液を冷却した後に濾過し、発酵工程終了時点から濾過開始時点までが3日間以内であることを特徴とする。発酵工程を、ALDCの存在下で行うことにより、品質を損なうことなく、熟成期間を省略できる。また、同じく発酵工程をプロリン特異的プロテアーゼの存在下で行うことにより、品質を損なうことなく、冷却後の安定化期間を省略することができる。すなわち、両酵素を併用することによって、発酵工程終了後に発酵液を直ちに冷却した後、発酵工程終了時点から3日間以内に濾過を開始したとしても、不快臭が少なく、寒冷混濁も抑制された発酵麦芽飲料を製造することができる。 本発明において用いられるALDCとしては、加水分解反応によりα−アセト乳酸やα−アセトヒドロキシ酪酸からアセトインや2,3ペンタンジオールを生成する触媒活性を有する酵素であれば、特に限定されるものではなく、各種生物由来のALDCを使用することができる。例えば、市販されているALDCのうち、いずれの酵素を用いても良く、またこれらを組み合わせて用いることもできる。 本発明において用いられるプロリン特異的プロテアーゼとしては、プロリン残基のC末端を特異的に切断する触媒活性を有する酵素であれば、特に限定されるものではなく、各種生物由来のプロリン特異的プロテアーゼを使用することができる。例えば、市販されているプロリン特異的プロテアーゼのうち、いずれの酵素を用いても良く、またこれらを組み合わせて用いることもできる。 ALDC及びプロリン特異的プロテアーゼは、両酵素の存在下で発酵が行えればよく、発酵開始時点までに添加していてもよく、発酵工程の途中で発酵液に添加してもよい。また、一度に使用するALDC及びプロリン特異的プロテアーゼを全量添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。また、両酵素をそれぞれ別個に添加してもよく、同時に添加してもよい。本発明においては、両酵素とも、仕込工程後発酵開始時までの間に添加されることが好ましい。 ALDC及びプロリン特異的プロテアーゼの添加量は、それぞれによる酵素反応が充分に行われる量であれば特に限定されるものではなく、使用する酵素の種類や力価、発酵温度や発酵時間等を考慮して適宜決定することができる。例えば、発酵液に添加するALDCの量は、300U/L以上であることが好ましく、400〜4000U/Lであることがより好ましい。発酵液に添加するプロリン特異的プロテアーゼの量は、0.01U/L以上であることが好ましく、0.025〜0.2U/Lであることがより好ましく、0.025〜0.05U/Lであることがさらに好ましい。なお、1UのALDCは、α−アセト乳酸を脱炭酸させて1分間に1μmolのアセトインを生成するために要する酵素量を意味する。また、1Uのプロリン特異的プロテアーゼは、基質としてZ−Gly−Pro−pNA(カルボベンゾキシ−グリシル−プロリル−パラニトロアニリド)を用い、基質濃度が0.37mM、37℃、pH4.6である反応条件下で、基質を切断して1分間に1μmolのp−ニトロアニリド(pNA)を生成するために要する酵素量を意味する。 本発明の製造方法は、発酵工程においてALDC及びプロリン特異的プロテアーゼを添加すること以外は、ビールや発泡酒等の発酵麦芽飲料を製造するための一般的な方法を採用することができる。例えば、本発明の製造方法は、仕込、発酵、冷却、濾過、充填の工程で行うことができる。 まず、仕込工程として、麦芽を含む発酵原料から麦汁を調製する。具体的には、まず、麦芽若しくはその破砕物、必要に応じて麦芽以外の発酵原料、及び原料水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、マイシェを35〜70℃で20〜90分間保持する等、常法により行うことができる。その後、当該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理後、76〜78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な麦汁を得る。 本発明において用いられる麦芽は、一般的な製麦処理により、大麦等を発芽させたものを用いることができる。具体的には、収穫された大麦、小麦、燕麦等を、水に浸けて適度に発芽させた後、熱風により焙燥することにより、麦芽を製造することができる。麦芽は常法により破砕してもよい。 麦芽以外の発酵原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉質原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。 マイシェには、発酵原料以外にも、必要に応じて、α−アミラーゼ、プルナラーゼ、グルコアミラーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。その他、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、スパイスやハーブ類、果物等を添加してもよい。 糖化処理時の温度や時間は、添加した酵素の種類やマイシェの量、目的とする発酵麦芽飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、60〜72℃にて30〜90分間保持することにより行うことができる。 その他、麦芽の一部、大麦の一部又は全部、及び温水を仕込釜に加えて混合して調製したマイシェを、糖化処理した後、前述の仕込槽で糖化させたマイシェと混合したものを、麦汁濾過槽にて濾過することにより麦汁を得てもよい。 得られた麦汁は煮沸される。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。煮沸処理前又は煮沸処理中に、ハーブや香料等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵麦芽飲料を製造することができる。 本発明においては、煮沸処理前又は煮沸処理中に、ホップを添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気を煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。 煮沸した麦汁を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去しておくことが好ましい。その後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。冷麦汁は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。 次いで発酵工程として、冷麦汁に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行う。発酵期間は通常6〜10日間であり、酵母が資化できるエキス分が1%未満となり、発酵が終了する。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。なお、ALDC及びプロリン特異的プロテアーゼを発酵開始時点までに添加する場合、両酵素は、酵母接種前の冷麦汁に添加してもよく、エキス濃度を調整した後酵母接種前の冷麦汁に添加してもよく、酵母と共に添加してもよい。 本発明においては、発酵工程終了後、得られた発酵液を直ちに0℃程度の低温にまで冷却する。さらに、冷却後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、目的の発酵麦芽飲料を得ることができる。本発明の製造方法においては、熟成工程と、冷却後の安定化期間が不要であるため、発酵工程終了後、発酵液を直ちに所望の温度にまで冷却した後、速やかに濾過することができる。例えば、通常の醸造設備の場合、発酵液は1〜2日間かけて冷却されるが、この場合、発酵工程終了時点から濾過開始時点までを3日間以内に、好ましくは2日間以内にすることができる。 また、酵母による発酵工程以降の工程において、例えばスピリッツと混和することにより、酒税法におけるリキュール類を製造することができる。得られた発酵麦芽飲料は、通常、充填工程により瓶詰めされて、製品として出荷される。 本発明の製造方法により、製造工程が従来になく大幅に短縮されるのみではなく、ホップ香やエステル香に優れ、爽やかな香味が改善された発酵麦芽飲料を製造することができる。発酵工程においてALDC及びプロリン特異的プロテアーゼを併用することによって、最終製品のホップ香やエステル香といった特定の香味品質を改善し得る理由は明らかではないが、プロリン特異的プロテアーゼの作用により充分量のポリフェノール類が最終製品中に安定的に溶解していることに加えて、醸造工程が大幅に短縮されたために香味成分の損失が充分に抑制されたことによる、予期せぬ相乗効果によるものと推察される。その他、発酵工程において両酵素が並存していることにより、それぞれ単独で存在していた場合には生じなかったような何らかの影響を、直接香味成分に与えている可能性もある。 次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。 なお、以下の実施例等において、VDK総量、強制劣化濁度、及びNIBEM値は、EBC(European Brewery Convention)のAnalytica−EBC標準法に準じて行った。また、サンプルを入れたセル中に飽和硫安溶液を一定量ずつ添加し、濁度の増加を側方散乱光方式の濁度計で測定し、測定曲線の直線部の延長線とX軸との交点を求め、当該交点のサンプル10mL当たりの硫安添加量を、SASPL(Saturated Ammonium Sulfate Precipitation Limit)値とした。[参考例1] 200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールの製造を行った。まず、仕込槽に、40kgの麦芽の粉砕物、及び160Lの仕込水を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。試験サンプルには、ALDC(ケリー社製、製品名:Biomat DAR)を冷麦汁に対して3800U/L添加した。対照サンプルには何も添加しなかった。両サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で8日間発酵させた後、得られた発酵液を2日間かけて−1℃にまで冷却させた。冷却後の発酵液を濾過することにより、ビールを得た。 得られたビールのVDK総量(ppm)、強制劣化濁度(EBC)、及びNIBEM値(秒)を測定した。測定結果を表1に示す。 この結果、ALDCを添加した試験サンプルでは、熟成工程が省略されていたにも関わらず、対照サンプルよりも遥かにVDKの含有量が低減されていた。一方で、強制劣化濁度やNIBEM値は両サンプルで大きな違いはなかったことから、その他の品質特性に対するALDCを添加したことによる影響は観察されなかった。[実施例1] 200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールの製造を行った。まず、仕込槽に、30kgの麦芽の粉砕物、10kgの液糖、及び160Lの仕込水を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。冷麦汁に対して、ALDC(ケリー社製、製品名:Biomat DAR)を3800U/Lと、プロリン特異的プロテアーゼ(以下、「PrP」と略記する。)(DSM社製、製品名:Brewers Clarex)を0、0.025、0.05、0.1、又は0.2U/Lを添加した。各サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で8日間発酵させた後、得られた発酵液を2日間かけて−1℃にまで冷却させた。冷却後直ちに発酵液を濾過することにより、ビールを得た。本実施例においては、10日間でビールが製造できた。 得られたビールの強制劣化濁度(EBC)、SASPL値(mL)及びNIBEM値(秒)を測定した。測定結果を表2に示す。 この結果、冷却後の安定化期間がなかったため、PrPを添加しなかった試験1サンプルでは強制劣化濁度が7.2と高かった。これに対して、PrPを添加した試験2〜5サンプルでは、強制劣化濁度0.1と非常に低かった。さらに、PrPの添加量が多くなるほど、SASPL値が上昇した。但し、泡持ちの指標であるNIBEM値はPrPの添加量が多くなるほど低下する傾向にあった。[実施例2] 試験サンプルでは、PrPを冷麦汁に0.025U/Lとなるように添加し、対照サンプルでは、仕込槽に0.025U/Lとなるように添加した以外は、実施例1と同様にしてビールを製造した。得られたビールの強制劣化濁度(EBC)、SASPL値(mL)及びNIBEM値(秒)を測定した。測定結果を表3に示す。この結果、PrPを仕込工程で添加した対照サンプルでは、発酵工程開始時点で添加した試験サンプルよりも、強制劣化濁度が大きく、かつSASPL値が小さく、製品の低温安定性に劣っていた。[実施例3] 200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールの製造を行った。まず、仕込槽に、30kgの麦芽の粉砕物、10kgの液糖、及び160Lの仕込水を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。冷麦汁に対して、ALDC(ケリー社製、製品名:Biomat DAR)を3800U/Lと、PrP(DSM社製、製品名:Brewers Clarex)を0.025又は0.05U/Lを添加した。各サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で8日間発酵させた後、得られた発酵液を2日間かけて−1℃にまで冷却させた後、−1℃で4日間保存した。発酵終了時点、冷却完了時点(発酵終了後2日目)、及び冷却後4日経過時点(発酵終了後6日目)において、各サンプルからそれぞれ測定用のサンプルを一部分取した。各測定用サンプルは、濾過した後、強制劣化濁度(EBC)、SASPL値(mL)及びNIBEM値(秒)を測定した。測定結果を表4に示す。 この結果、いずれの時点においても、PrP添加量が0.025のサンプルと0.05U/Lのサンプルとでは、強制劣化濁度、SASPL値及びNIBEM値はほぼ同等であった。また、発酵終了後冷却前では、強制劣化濁度が大きく、SASPL値も小さかったが(試験1及び2サンプル)、冷却後には、強制劣化濁度が大幅に低下し、SASPL値も上昇していた(試験3及び4サンプル)。冷却完了後−1℃で4日間経過時点のサンプル(試験5及び6サンプル)は、強制劣化濁度、SASPL値及びNIBEM値において、冷却完了後の試験3及び4サンプルとほぼ同等であった。これらの結果から、発酵工程においてPrPを添加した場合には、発酵後冷却することにより低温安定性を改善することができ、かつこの改善効果は、冷却後に低温で一定期間維持せずとも得られることがわかった。[実施例4] 200Lスケールの仕込設備を用いて、発泡酒の製造を行った。まず、仕込槽に、20kgの麦芽の粉砕物、20kgの液糖、及び160Lの仕込水を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。試験1サンプル及び試験2サンプルでは、冷麦汁に対して、ALDC(ケリー社製、製品名:Biomat DAR)を3800U/Lと、PrP(DSM社製、製品名:Brewers Clarex)を0.025U/Lを添加した。対照サンプルでは、冷麦汁に対して、前記ALDCを3800U/Lのみ添加した。各サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で8日間発酵させた後、得られた発酵液を2日間かけて−1℃にまで冷却させた。試験1サンプルは冷却完了時点(発酵終了後2日目)に、試験2サンプル及び対照サンプルは冷却後4日間の安定化期間経過時点(発酵終了後6日目)に、発酵液を濾過することにより、発泡酒を得た。 得られた発泡酒の強制劣化濁度(EBC)、SASPL値(mL)及びNIBEM値(秒)を測定した。測定結果を表5に示す。この結果、PrPを添加した試験1サンプル及び試験2サンプルは、対照サンプルよりも強制劣化濁度が顕著に低かったが、NIBEM値は大きな差はなかった。また、安定化期間があった試験2サンプルと安定化期間がなかった試験1サンプルは、強制劣化濁度とNIBEM値がいずれもほぼ同等であった。よって、これらの結果から、ビールに対して行った実施例3と同様に、本発明の方法により、安定化期間がなくても、低温安定性が良好な発泡酒が製造できることがわかった。 さらに、各発泡酒について、8名の専門パネルにより、香味についての官能検査を行った。評価は、主に爽やかなスッキリした香味について行い、0、1、2、3点の4段階(爽やかさをほとんど感じない場合を0とし、非常に強く感じる場合を3とした。)で行った。官能評価の結果を表5に示す。なお、パネルから複数挙げられたコメントを、表中の「コメント」欄に示す。コメントの末尾の数字は、当該コメントをしたパネルの数を示す。この結果、PrPを添加し、安定化期間を省略した試験1サンプルは、PrPを添加せずに安定化期間を設けた対照サンプルとほぼ同等の爽やかなスッキリとした香味であった。特に、試験1サンプルは、その他のサンプルよりもホップ香やエステル香が高かった。これらの結果から、本発明の製造方法により、熟成期間及び安定化期間を省略できるのみならず、新鮮な麦と青いホップの香の高い、スッキリした味わいの優れた香味品質を有する発酵麦芽飲料が製造できることがわかった。 本発明の発酵麦芽飲料の製造方法により、熟成工程及び安定化工程を行わず、従来よりも非常に短期間で発酵麦芽飲料を製造できるため、当該製造方法及びそれにより製造された発酵麦芽飲料は、ビールをはじめとする、麦芽を原料とするビールテイスト飲料の製造分野で利用が可能である。 麦芽を原料として用い、発酵工程において、発酵液中に、α−アセト乳酸脱炭酸酵素及びプロリン特異的プロテアーゼを添加し、発酵工程終了後、直ちに発酵液を冷却した後に濾過し、発酵工程終了時点から濾過開始時点までが3日間以内であることを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法。 前記α−アセト乳酸脱炭酸酵素の添加量が300U/L以上であり、前記プロリン特異的プロテアーゼの添加量が0.01U/L以上であることを特徴とする、請求項1に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。 前記α−アセト乳酸脱炭酸酵素の添加量が400〜4000U/Lであり、前記プロリン特異的プロテアーゼの添加量が0.025〜0.2U/Lであることを特徴とする、請求項1に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。 前記プロリン特異的プロテアーゼの添加量が0.025〜0.05U/Lである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。 【課題】熟成工程及び安定化工程を行わず、従来よりも非常に短期間で発酵麦芽飲料を製造する方法の提供。【解決手段】麦芽を原料として用い、発酵工程において、発酵液中に、α−アセト乳酸脱炭酸酵素及びプロリン特異的プロテアーゼを添加し、発酵工程終了後、直ちに発酵液を冷却した後に濾過し、発酵工程終了時点から濾過開始時点までが3日間以内であることを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法、並びに、前記α−アセト乳酸脱炭酸酵素の添加量が300U/L以上であり、前記プロリン特異的プロテアーゼの添加量が0.01U/L以上であることを特徴とする前記記載の発酵麦芽飲料の製造方法。【選択図】なし