タイトル: | 公開特許公報(A)_3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物及びグリシドール系化合物の量の評価方法 |
出願番号: | 2012007152 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12Q 1/44 |
中村 絹子 JP 2013074873 公開特許公報(A) 20130425 2012007152 20120117 3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物及びグリシドール系化合物の量の評価方法 ハウス食品株式会社 000111487 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 遠藤 真治 100130443 中村 絹子 JP 2011203288 20110916 C12Q 1/44 20060101AFI20130329BHJP JPC12Q1/44 7 1 OL 20 4B063 4B063QA01 4B063QQ32 4B063QQ73 4B063QR12 4B063QR47 4B063QS02 4B063QX01 本発明は、食品等の試料における、3−クロロ−1,2−プロパンジオール又は3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステルである3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物、並びに、グリシドール又はグリシドール脂肪酸エステルであるグリシドール系化合物の量を評価する方法、及びそのためのキットを提供する。 食用油脂中には、3−クロロ−1,2−プロパンジオール(3−Monochloropropane−1,2−diol,以下「3−MCPD」と表現する場合がある)の脂肪酸エステルや、グリシドール脂肪酸エステルが含まれていることがある。これらの化合物の毒性は不明であるが、遊離の3−MCPDが腎臓に悪影響を及ぼすことが報告されており、遊離のグリシドールが発癌性と関連すること(国際がん研究機関により、発癌性物質グループ2に分類)が報告されている(非特許文献1)。近年、食品の安全性に対する消費者の関心の高まりから、3−MCPD脂肪酸エステル、グリシドール脂肪酸エステルの食品材料中での含有量を測定する必要性が増している。 3−MCPDは次式の構造を有する。 3−MCPD脂肪酸エステルはエステル結合の位置により以下の3種類に分類される。(式中、R1〜R4は独立に選択されるアルキル基を示す) グリシドール及びグリシドール脂肪酸エステルは以下の構造を有する。(式中、R5はアルキル基を示す) 近年、油脂試料中の3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルを定量分析するための様々な方法が提案されている。 油脂試料中の3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルを脂肪酸の種類や、3−MCPD脂肪酸エステルのエステル結合の位置及び数の違いを区別して定量する分析方法は、「直接分析法」と呼ばれる。直接分析法は、詳細な情報が得られるというメリットから、生成経路の解明や個々の毒性評価などに非常に有効な分析法である。しかし、モノエステルとジエステルが存在する3−MCPD脂肪酸エステルでは、定量のために数十種類の標準試料が必要であることから、現状では日常的な分析方法として用いることは難しい。 一方、油脂試料中の3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルを、エステル交換して3−MCPD及びグリシドールに変換し、これらを定量することにより、脂肪酸の種類、エステル結合の位置、及び数の違いに関係なく、3−MCPD脂肪酸エステル及び遊離の3−MCPD(これらを「3−MCPD系化合物」又は「3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物」と総称する)を一括して3−MCPDとして定量し、グリシドール脂肪酸エステル及び遊離のグリシドール(これらを「グリシドール系化合物」と総称する)を一括してグリシドールとして定量する方法は、「間接分析法」と呼ばれる。間接分析法は簡便であることから、日常的な食品の検査のための利用に適している。 間接分析法の代表例として、ドイツ脂質科学会標準法であるDGF Standard Methods C−III 18(09)(以下「ドイツ法」ともいう)がある。ドイツ法では、試料中の3−MCPD系化合物とグリシドール系化合物の総量を定量する「A法」と、試料中の3−MCPD系化合物のみを定量する「B法」とを行う。グリシドール系化合物の量は、A法とB法との結果の差から求めることができる。A法の概要を図2に、B法の概要を図3にそれぞれ示す。 ドイツ法のA法(図2)では、分析試料をナトリウムメトキシド(アルカリ触媒)を用いてエステル交換し、3−MCPD系化合物を全て3−MCPDに集約させ、グリシドール系化合物を全てグリシドールに集約させる。次いで、塩化ナトリウム溶液を用いて塩素化反応を行い、グリシドールを3−MCPDに変換する。この結果、3−MCPD系化合物及びグリシドール系化合物は全て3−MCPDに集約される。次いで、3−MCPDを適宜誘導体化して定量する。この定量結果は、試料中の3−MCPD系化合物及びグリシドール系化合物の合計量を反映する。A法では内部標準として3−MCPD−d5が添加される。 ドイツ法のB法(図3)では、A法の前にサンプルを酸処理(n-プロパノール/硫酸)することで、グリシドール系化合物のエポキシ部分を開環する。その後、A法と同様に、分析試料をナトリウムメトキシドを用いてエステル交換して、3−MCPD系化合物のみを3−MCPDに集約させる。酸処理によってグリシドール系化合物は異なる物質へ変換されていることから、塩化ナトリウム溶液を加えても3−MCPDへの変換は生じない。次に3−MCPDを適宜誘導体化して定量する。B法での定量結果は、試料中の3−MCPD系化合物の量を反映する。B法でも内部標準として3−MCPD−d5が添加される。 ただしドイツ法には主に二つの問題点があった。第一の問題点は、B法において、グリシドール系化合物の含量が高い試料は、酸処理を行ってもグリシドール系化合物の一部が残存してしまう点である。そのため、グリシドール系化合物の含量が高い試料では、B法の定量結果として、3−MCPD系化合物の量に加えてグリシドール系化合物の一部の量も加算されてしまう。第二の問題点は、A法とB法という2つの方法をそれぞれ実施する必要があるという点である。 これらの2つの問題点を解決する方法として、2011年3月、一つの反応系により3−MCPD系化合物とグリシドール系化合物を定量分析する方法(以下「SGS法」という)が提案された(非特許文献2)。SGS法の概要を図4に示す。SGS法では、ドイツ法と同様にナトリウムメトキシドを用いてエステル交換を行っているが、ナトリウムメトキシドはエステル交換反応以外に、3−MCPDをグリシドールに変換する反応も触媒する。反応の途中に3−MCPDがグリシドールに変換してしまうと両方の物質を一つの反応系で分析することができなくなってしまう。そのため、エステル交換反応のみが進行する条件、すなわち試料を低濃度(0.25%)のナトリウムメトキシドで、低温(−25℃)かつ長時間(15時間以上)処理することで、3−MCPDからグリシドールへの変換を防ぎ、エステル交換反応のみを進行させる。この反応によって、3−MCPD系化合物の全量を3−MCPDに集約し、グリシドール系化合物の全量をグリシドールに集約する。次いで、臭素化剤である臭化ナトリウム溶液を用いてグリシドールを臭素化して3−ブロモ−1,2−プロパンジオール(3−MBPD,次式)に変換する。次に、3−MCPDと3−MBPDとをそれぞれ独立に定量する。このとき、共通の誘導体化剤を用いてそれぞれ独立して定量可能な3−MCPD誘導体と、3−MBPD誘導体とを取得することができる。3−MCPD誘導体の量に基づき試料中の3−MCPD系化合物の総量を決定することができ、3−MBPD誘導体の量に基づき試料中のグリシドール系化合物の総量を決定することができる。SGS法はナトリウムメトキシドによるエステル交換処理を低濃度かつ低温で実施することから、目的物間での相互変換が生じないという利点と、一連の反応により3−MCPD系化合物とグリシドール系化合物とが同時に定量することができるという利点がある。しかしながら、エステル交換工程に15時間という長時間を要するという問題がある。Bakhiya, N., Abraham, K., Gurtler, R., Appel, K. E. and Lampen, A., Toxicological assessment of 3−chloropropane−1,2−diol and glycidol fatty acid esters in food. Mol. Nutr. Food Res., 55: 509-521 (2011)J.Kuhlmann.,Eur.J.Lipid.Sci.Technol.2011,113,335−344 以上の通り、油脂等の試料中の3−MCPD系化合物と、グリシドール系化合物とをそれぞれ定量する方法として従来公知のドイツ法は、2種類の方法を組み合わせて実施する必要がある点、並びに、B法においてグリシドール系化合物含量が高い場合には、3−MCPD系化合物のみの量を把握できない点において望ましいものではなかった。一方、SGS法は1種類の方法により3−MCPD系化合物と、グリシドール系化合物とを一緒に定量することができる点において有利であるものの、エステル交換工程に長時間を要するという点で望ましいものではなかった。 そこで本発明は、試料中の3−MCPD系化合物及びグリシドール系化合物の量を短時間に、1種類の方法で評価することが可能な方法を提供することを目的とする。 本発明者らは鋭意検討の結果、3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルに由来するエステル結合の加水分解(エステル交換)を、リパーゼを用いて行うことにより、上記目的を達成することができることを見出し、以下の発明を完成させるに至った。 なお、3−MCPD、3−MCPD脂肪酸エステル、グリシドール、グリシドール脂肪酸エステル及び3−MBPDは、いずれも不斉炭素を1つ有するが、食品の製造工程において形成される対応する化合物はいずれもラセミ体である。本明細書では、3−MCPD、3−MCPD脂肪酸エステル、グリシドール、グリシドール脂肪酸エステル及び3−MBPDは、典型的にはラセミ体を指すが、一方の光学異性体のみからなるものであってもよいし、一方の光学異性体が他方の異性体よりも多く含まれるものであってもよい。本発明の方法及びキットは、分析しようとする3−MCPD系化合物及びグリシドール系化合物の光学異性に関して区別なく適用可能である。(1)試料中における、3−クロロ−1,2−プロパンジオール又は3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステルである3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物と、グリシドール又はグリシドール脂肪酸エステルであるグリシドール系化合物の一方又は両方の量を評価する方法であって、 試料に対して以下の処理A及び処理B:(処理A)リパーゼの作用によりエステル結合を加水分解させる、リパーゼ加水分解処理、(処理B)臭素化剤を用いてグリシジル基を3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピル基に変換する、臭素化処理、を施すことにより、試料中の3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステルを3−クロロ−1,2−プロパンジオールに変換し、グリシドール系化合物を3−ブロモ−1,2−プロパンジオールに変換する、リパーゼ加水分解/臭素化工程と、 前記工程の後に、3−クロロ−1,2−プロパンジオール及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオールの一方又は両方を定量する分析工程と、を含む、前記方法。(2)リパーゼが、カンジダ属に属する酵母に由来するリパーゼである、(1)の方法。(3)試料が油脂である、(1)又は(2)の方法。(4)処理Aが、試料である油脂が有機溶媒に溶解されている状態で行われる、(3)の方法。(5)分析工程が、3−クロロ−1,2−プロパンジオール及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオールを、誘導体化剤を用いた誘導体化反応により、独立に定量可能な3−クロロ−1,2−プロパンジオール誘導体及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオール誘導体に変換した後、当該2つの誘導体のうち一方又は両方を定量する工程である、(1)〜(4)のいずれかの方法。(6)試料中における、3−クロロ−1,2−プロパンジオール又は3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステルである3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物と、グリシドール又はグリシドール脂肪酸エステルであるグリシドール系化合物の一方又は両方の量を評価するためのキットであって、 リパーゼと、 グリシジル基を3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピル基に変換することが可能な臭素化剤と、を少なくとも備える前記キット。(7)3−クロロ−1,2−プロパンジオール及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオールを、それぞれ独立に定量可能な誘導体に変換するための誘導体化剤を更に備える、(6)のキット。 本発明の方法によれば、試料中の3−MCPD系化合物及びグリシドール系化合物の量を、短時間に、1種類の方法で評価することが可能である。本発明の方法の概要を示す図である。従来のドイツ法のA法の概要を示す図である。従来のドイツ法のB法の概要を示す図である。SGS法の概要を示す図である。 本発明の方法は、試料中における、3−MCPD系化合物(3−MCPD脂肪酸エステルと遊離の3−MCPDとの総称)、並びに、グリシドール系化合物(グリシドール脂肪酸エステルと遊離のグリシドールとの総称)の一方又は両方の量を評価する方法である。本発明の方法の概要を図1に示す。以下、各工程について説明する。<リパーゼ加水分解/臭素化工程> リパーゼ加水分解/臭素化工程は、試料に対して以下の処理A及び処理B:(処理A)リパーゼの作用によりエステル結合を加水分解させる、リパーゼ加水分解処理、(処理B)臭素化剤を用いてグリシジル基を3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピル基に変換する、臭素化処理、を施すことにより、試料中の3−MCPD脂肪酸エステルを3−MCPDに変換し、グリシドール系化合物を3−MBPD(3−ブロモ−1,2−プロパンジオール)に変換する工程である。 リパーゼ加水分解処理(処理A)は、試料にリパーゼを作用させることにより、試料中に存在し得る3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルに由来するエステル結合を加水分解して、遊離の水酸基に変換する処理である。ここで「3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルに由来するエステル結合」とは、「3−MCPD脂肪酸エステルのエステル結合」及び「グリシドール脂肪酸エステルのエステル結合」だけでなく、処理Bによりグリシドール脂肪酸エステルから生じる「3−ブロモ−1,2−プロパンジオール 1−脂肪酸モノエステルのエステル結合」も包含する。 臭素化処理(処理B)は、試料中に存在し得るグリシドール系化合物に由来するグリシジル基を、臭素化剤を用いて臭素化し、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピル基[−CH2CH(OH)CH2Br]に変換する処理である。「グリシドール系化合物に由来するグリシジル基」とは、「試料中に予め存在するグリシドールのグリシジル基」、「処理Aにより生じたグリシドールのグリシジル基」、「試料中に予め存在するグリシドール脂肪酸エステルのグリシジル基」のいずれも包含する。 試料に対して処理Aと処理Bとを施すことにより、試料中に存在し得る3−MCPD系化合物(3−MCPD及び3−MCPD脂肪酸エステル)は全て3−MCPDに集約され、試料中に存在しうるグリシドール系化合物(グリシドール及びグリシドール脂肪酸エステル)は全て3−MBPDに集約される。 本発明に用いるリパーゼは上記の目的を達成できるものであればその起源等は問わないが、好ましくは、カンジダ(Candida)属等に属する酵母、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、リゾプス(Rhizopus)属等に属するカビ等の種々の起源に由来するリパーゼが挙げられる。また、野生型のアミノ酸配列を有するリパーゼには限定されず、生物起源のリパーゼにおいてアミノ酸配列が適宜改変された変異型のリパーゼであってもよいし、人為的に合成されたリパーゼであってもよい。加水分解反応を短時間で完了できるという観点では、酵母由来のリパーゼが好ましく、特にカンジダ属の属する酵母に由来するリパーゼが好ましい。カンジダ属の属する酵母としては、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)などが例示される。 本発明に用いられるリパーゼは、好ましくは、3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルの光学異性体に対して非選択的に作用するリパーゼである。このようなリパーゼを用いることにより、3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルはラセミ体であっても、一方の光学異性体のみからなるものであっても、一方の光学異性体が他方の異性体よりも多く含まれるものであっても加水分解することができる。本発明に用いられるリパーゼは、更に好ましくは、3−MCPD脂肪酸エステルにおけるエステル結合の数及び位置に関しても非選択的に作用するリパーゼである。このようなリパーゼを用いることにより、3−MCPD脂肪酸エステルを、結合脂肪酸の数及び結合位置に関係なく加水分解することができる。 本発明において用いられる試料は、油脂、スナック、パン、ビスケット、シリアル、幼児用ミルク、フライ等の3−MCPD系化合物及びグリシドール系化合物の定量が求められる試料であれば特に限定されない。これらの試料から、3−MCPD系化合物及びグリシドール系化合物を含む画分を濃縮又は抽出した試料も本発明において試料として用いることができる。試料として用いることができる油脂は、特に限定されず、食用の油脂製品等であってもよいし、スナック、パン、ビスケット、シリアル、幼児用ミルク、フライ等の油脂を含有する組成物から抽出等により分離取得された油脂であってもよい。 リパーゼ加水分解処理(処理A)は、試料中に存在し得る3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルに由来するエステル結合を加水分解して、遊離の水酸基に変換することが可能な条件において、リパーゼと試料とを接触させることにより行う。リパーゼと試料との接触は、例えば、試料の状態に応じて適当な反応系を用いて行うことができる。例えば試料が水溶解性である場合には、リパーゼと試料とを含む水相中で試料にリパーゼを作用させる。試料が水不溶性である場合には、リパーゼを含む水相の中に試料を分散させた状態で、或いは、該水相と試料を含む相とが界面において接触した状態で、試料にリパーゼを作用させる。必要に応じて適当な手段を用いて反応系を撹拌又は振動させて試料とリパーゼとを接触させる。試料とリパーゼとの接触を促進させるために反応系に適宜界面活性剤等を添加してもよい。リパーゼは適当な担体に固定化された形態で使用されてもよい。 試料として油脂を用いる場合、反応温度、例えば室温(25℃)、において液体状の油脂であってもよいし、固体状の油脂であってもよいし、液体状と固体状との混合状態(ペースト状)の油脂であってもよい。試料が反応温度で液体状の油脂である場合は、リパーゼを含む水相に分散又は接触させて加水分解を行うことができる。試料が反応温度で固体状の油脂又は液体状と固体状との混合状態の油脂である場合には、油脂を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて液状としてから、リパーゼを含む水相に分散又は接触させて加水分解を行うことが好ましい。油脂の状態に関わらず、油脂を有機溶媒中に溶解させた状態でリパーゼ加水分解処理(処理A)を行うことも可能である。油脂の溶解に用いることができる有機溶媒としては、イソオクタン、ヘプタン、ヘキサン、ペンタン等の炭素数5〜8の炭化水素溶媒が挙げられる。 リパーゼ加水分解処理(処理A)の条件は適宜設定することができるが、典型的には、20〜40℃の反応温度、20〜240分間の反応時間、より好ましくは30〜60分間の反応時間が挙げられる。リパーゼの量としては、試料が油脂である場合または油脂を含む組成物である場合、油脂0.1gに対して、100〜1000U、より好ましくは200〜450U、反応液のpHは3〜7、より好ましくはpH6〜7の範囲が挙げられる。他の好ましい条件としては、リパーゼの量として、油脂0.1gに対して、20〜500U、より好ましくは40〜200U、反応液のpHは3〜7、より好ましくはpH6〜7の範囲が挙げられる。 リパーゼ加水分解処理(処理A)と臭素化処理(処理B)を行う順序は特に限定されず、一方を先に行い他方を後に行ってもよいし、2つの処理を並行して行ってもよい。 臭素化処理(処理B)は、分析時間の短時間化と工程の簡略化の観点から、好ましくはリパーゼ加水分解処理(処理A)と並行して行われる。リパーゼと、試料と、臭素化剤とを、リパーゼ加水分解処理(処理A)に関して上述したのと同様にして接触させることにより、処理Aと処理Bとを並行して進行させることができる。典型的には、リパーゼと臭素化剤とを含む水相と、油脂試料又は油脂試料の有機溶媒による溶解液とを接触させることにより処理Aと処理Bとを並行して進行させることができる。 臭素化処理(処理B)をリパーゼ加水分解処理(処理A)の後に行う場合には、リパーゼ加水分解処理(処理A)の後に反応系に臭素化剤を添加すればよい。この場合、臭素化剤の添加の前に、ヘキサンを用いて反応系を洗浄してもよい。 臭素化剤としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム等が挙げられる。 臭素化剤の量は試料の量等の条件を考慮して適宜決定することができる。<分析工程> 分析工程は、リパーゼ加水分解/臭素化工程の後に、反応系中の3−MCPD及び3−MBPDの一方又は両方を定量する工程である。 ここで「定量する」とは、3−MCPD及び3−MBPDの一方又は両方を直接的に又は間接的に定量することを指す。「間接的に定量する」とは、例えば、3−MCPD及び3−MBPDの一方又は両方を適宜誘導体化し、誘導体化物を定量することを指す。どのような方法であっても、3−MCPD及び3−MBPDの一方又は両方の量を反映する量を測定すればよい。 分析工程に先立って、リパーゼ加水分解/臭素化工程が終了後の反応系をヘキサンを用いて洗浄することが好ましい。 3−MCPD及び3−MBPDを誘導体化して定量する場合、3−MCPD及び3−MBPDを、それぞれ独立に定量可能な誘導体に変換するための誘導体化剤を用いることが好ましい。単独の誘導体化剤を用いた単独の反応により、3−MCPD及び3−MBPDの両方をそれぞれ独立に定量可能な誘導体に変換することが好ましい。このような誘導体化剤としてフェニルボロン酸が挙げられる。 フェニルボロン酸により3−MCPDは次式:(式中、Phはフェニルを指す)で表される3−MCPD誘導体に変換され、3−MBPDは次式:(式中、Phはフェニルを指す)で表される3−MBPD誘導体に変換される。これらの誘導体は一回の反応で生成され、独立に定量可能であるため好ましい。 分析工程では、上述のように適宜誘導体化された3−MCPD及び3−MBPDの一方又は両方を、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)等の通常の定量手段を用いて定量することができる。既知量の標準試料を用いて作成された検量線を用いて反応系中の3−MCPD及び/又は3−MBPDの量を決定することができる。 分析工程で得られた3−MCPDの定量結果、及び分析工程で得られた3−MBPDの定量結果は、それぞれ、試料中の3−MCPD系化合物の総量、及び試料中のグリシドール系化合物の総量を反映している。ここで、「分析工程で得られた3−MCPDの定量結果」とは、分析工程で測定された3−MCPDや3−MCPD誘導体の量を指す。「分析工程で得られた3−MBPDの定量結果」も同様に、分析工程で測定された3−MBPDや3−MBPD誘導体の量を指す。従って、分析工程で得られた3−MCPDの定量結果、及び分析工程で得られた3−MBPDの定量結果を指標として、それぞれ、試料中の3−MCPD系化合物の総量、及び試料中のグリシドール系化合物の総量を評価することが可能である。 本発明の方法は更に、分析工程で得られた3−MCPDの定量結果に基づいて、試料中の3−MCPD系化合物の量を決定する工程と、分析工程で得られた3−MBPDの定量結果に基づいて、試料中のグリシドール系化合物の量を決定する工程の一方又は両方を含む量決定工程を含んでもよい。 試料中の3−MCPD系化合物の量は、例えば3−MCPDのオレイン酸モノエステル等の所定の形態での換算量として表すことができる。試料中のグリシドール系化合物の量も同様に、例えばグリシドールのオレイン酸エステル等の所定の形態での換算量として表すことができる。 本発明で示した方法を用いることにより、分析試料の調製及び機器分析にかかる時間は既存の方法よりも大幅に短縮することが可能である。 本方法では、油脂中に含まれる3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD)脂肪酸エステル及び遊離の3-MCPDを3-MCPDとして、グリシドール脂肪酸エステル(GE)及びグリシドールを3-ブロモ-1,2-プロパンジオール(3-MBPD)として、それぞれを同時に測定する。まず、油脂にリパーゼ/臭化ナトリウム水溶液を作用させて、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステルを加水分解して3-MCPDに、GEを加水分解と同時にエポキシ部分を臭素化して3-MBPDに変換する。続いて、ヘキサン洗浄により夾雑物の除去、フェニルボロン酸による誘導体化を行ない、誘導体化された3-MCPDと3-MBPDの量をGC/MSで測定する。なお、誘導体化試薬、内部標準試薬の調製は、ドイツ脂質科学会標準法であるDGF Standard Methods C-III 18(09)に準じて行った。<試薬>(分析用試薬) イソオクタン、ヘキサン、アセトン、無水エタノール、tert-ブチルメチルエーテル、臭化ナトリウム、フェニルボロン酸、クエン酸、リン酸水素二ナトリウム、リパーゼAYアマノ30G(天野エンザイム(株))、リパーゼASアマノ(天野エンザイム(株))、リパーゼGアマノ50(天野エンザイム(株))、リパーゼF-AP15(天野エンザイム(株))、リパーゼAYSアマノ(天野エンザイム(株))、3-MCPD標準(和光純薬工業(株))、3-MBPD標準(和光純薬工業(株))、3-MCPD-d5標準(関東科学(株))、3-MBPD-d5標準(Toronto Research Chemicals Inc.)(標準の合成ならびに添加回収実験用試薬) 脂肪酸標準(パルミチン酸、オレイン酸)、ジクロロメタン、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジメチルアミノピリジン、シリカゲル、酢酸エチル、ヘキサン、3-MCPD-1-パルミテート標準(自社合成品)、3-MCPD-1-オレエート標準(自社合成品)、3-MCPD-ジパルミテート標準(和光純薬工業(株))、3-MCPD-ジオレエート標準(Toronto Research Chemicals Inc.)、3-MCPD-ジリノレート標準(和光純薬工業(株))、グリシジル パルミテート標準(和光純薬工業(株))、グリシジル オレエート標準(和光純薬工業(株))、グリシジル リノレート標準(和光純薬工業(株))<試験溶液等の調製>(a)臭化ナトリウム水溶液の調製 臭化ナトリウムを35%含む水溶液を作製した。0.1Mクエン酸溶液(溶媒:35% 臭化ナトリウム水溶液)と0.2Mリン酸水素二ナトリウム(溶媒:35% 臭化ナトリウム水溶液)を用いて35% 臭化ナトリウム溶液のpHを6.8に調整した。(b)誘導体化試薬の調製 フェニルボロン酸2.5 gをアセトン:超純水(19:1)混液20mLに溶解し、誘導体化試薬を調製した。(c)内部標準試薬の調製 3-MCPD-d5、3-MBPD-d5の各内部標準を2000mg/Lとなるように無水エタノールで溶解した。さらにtert-ブチルメチルエーテルで100倍に希釈したものを内部標準試薬とした。(d)検量線用の標準溶液の調製 3-MCPD、3-MBPDの各標準を300mg/Lとなるように(a)の臭化ナトリウム水溶液で希釈し、標準溶液の原液とした。(f)添加回収用3-MCPD-モノエステル(パルミテート、オレアート)標準の合成 3-MCPD標準22 mgと脂肪酸(オレイン酸42.3mgもしくはパルミチン酸38.4mg)をナスフラスコに加え、ジクロロメタンで溶解した。溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド64 mgとジメチルアミノピリジン(触媒)を加え、反応が終了するまで撹拌した。反応終了の確認は薄層クロマトグラフィー(TLC)によって行った。試験管に水と酢酸エチルを加え、そこに反応液を加え、ボルテックス混合後、パスツールピペットで有機層を回収した。さらに酢酸エチルを加え、ボルテックス混合後に有機層を回収した(2回)。得られた有機層を合わせ、減圧濃縮した後ヘキサンに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:9混液で溶出)で精製した。その結果、3-MCPD-1-パルミテートを35.5mg、3-MCPD-1-オレエートを48 mgをそれぞれ合成できた。構造はNMR、純度はLC/MSにて確認を行った。<GC/MS測定条件> GC: TRACE GC Ultra(Thermo Fisher Scientific) MS: TSQ Quantum GC(Thermo Fisher Scientific) カラム: FactorFour Capillary Column VF-5ms +5m EZ-Guard [30M×0.25mm ID, DF=0.25] (Valian) 注入口温度: 220℃ トランスファーライン温度: 280℃ 昇温条件: 60℃(1分)→6℃/分→190℃→20℃/分→280℃(5分) キャリアガス: ヘリウム、1.2mL/分(constant flow) 注入量: 1〜1.5μL MS条件:EI+、SIMモード(各標準m/z =146.90、各内部標準m/z=149.95)<検量線の作成> 3-MCPDと3-MBPDのそれぞれにおいて、横軸に各標準の濃度、縦軸に標準のピークエリア値と内部標準のピークエリア値の比をとり、検量線を作成した。この検量線を用いて、検液中の3-MCPDと3-MBPD濃度を求めた。<試料中の濃度の算出> GC/MSで測定した検液中の3-MCPDと3-MBPDの濃度から、下記計算式により試料中の3-MCPDと3-MBPD濃度を求めた。 なお、試料中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGE濃度として求める場合には、上記によって求められた試料中の3-MCPD及び3-MBPD濃度から、下記の計算式により求めた。<添加回収実験における回収率の算出> 分析法の性能を確認するために、各標準試薬の添加回収実験を行った。添加回収率が80-110%の範囲に含まれることをもって、良好な分析法であると判断した。添加した標準の試料中濃度および3-MCPD、3-MBPDとしての濃度は下記計算式によって求めた。 回収率は下記計算式によって求めた。添加していない油脂にも3-MCPD脂肪酸エステルやGEは含まれているため標準無添加(ブランク)の油脂の濃度も同時に測定した。[実施例1〜14]<分析方法>(加水分解及び臭素化) スクリューキャップ付試験管に表1に掲げる油脂0.1gを秤量し、イソオクタンを0.2mL添加した(水溶性の溶液とエマルジョンが形成できるようであれば、イソオクタンを添加しなくてもよい)。油脂が固体で溶解しにくい場合には、イソオクタンを0.2〜0.5mL添加し、加温(45〜75℃)しながら溶解した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にCandida rugosa由来のリパーゼ(リパーゼAYアマノ30G)を溶解して反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して270Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、30分間)。この反応によって3-MCPD脂肪酸エステルは遊離型3-MCPDへと分解された。GEは加水分解と同時にエポキシ部分が臭素化され、遊離型3-MBPDに変換された。(ヘキサン洗浄) 加水分解反応後の溶液に上記(c)の内部標準試薬を各50μL、ヘキサン3mLを添加した。蓋を閉めてボルテックスで混合した。エマルジョン層と水層がきれいに分離しない場合には3,000rpmで数秒間の遠心分離を行なった。ヘキサン層とエマルジョン層を除去した水層に、ヘキサン3mLを添加し、ボルテックス混合後にヘキサン層を除いた溶液を得た。(誘導体化) 次に、ヘキサン洗浄後の溶液に上記(b)の誘導体化試薬を20〜100μL加え、蓋を閉めて85℃の恒温槽もしくはヒートブロックで20分間加熱した。溶液を室温に冷却後、ヘキサン3mLを加えた。5〜10分間振とう後、ヘキサン層1〜2mLを0.45μmメンブレンフィルターに通してGC/MS検液とした。(検量線作成のため標準液の調製) 上記(d)の3-MCPD標準原液及び3-MBPD標準原液を上記(a)の臭化ナトリウム水溶液で希釈し、それぞれ5種類の濃度の標準液を調製した。スクリューキャップ付試験管に各濃度の標準液を0.1mLずつ採取し、上記(c)の内部標準試薬を各50μL、上記(a)の臭化ナトリウム水溶液3mLを加えた。上記(b)の誘導体化試薬を20〜100μL加え、蓋を閉めて85℃の恒温槽もしくはヒートブロックで20分間加熱した。溶液を室温に冷却後、ヘキサン3mLを加えた。5〜10分間振とう後、ヘキサン層1〜2mLを0.45μmメンブレンフィルターに通してGC/MS検液とした。<添加回収実験> 上記分析方法の手順の前に、各標準試薬を試料中に約20mg/kgもしくは2mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、標準の溶媒を乾固した。添加した標準は3-MCPD脂肪酸ジエステルとして3-MCPD-ジオレエート、3-MCPD脂肪酸モノエステルとして3-MCPD-1-オレエート、GEとしてグリシジル オレエートを使用した(3-MCPD-ジオレエートと3-MCPD-1-オレエートは別々の油脂に添加した)。その後、表1に掲げる油脂0.1gの秤量を行い、上記分析方法の手順に従って分析を行った。添加回収実験の結果は、表1に示した。各サンプルはn=3で分析を行い、回収率は3回測定した値の平均値で、分析値のばらつきは相対標準偏差(RSD)値で示した。3-MCPD-ジオレエートの回収率は89〜108%、3-MCPD-1-オレエートの回収率は92〜108%、グリシジル オレエートの回収率は96〜109%となり、表1に掲げた全ての油脂で良好な結果であることが確認できた(n=3)。[実施例15〜19] 脂肪酸の種類が異なる各種3-MCPD脂肪酸エステル及びGEにおいても良好な回収率となることを確認した。3-MCPD-ジエステル標準として3-MCPD-ジパルミテート及び3-MCPD-ジリノレート、3-MCPD-モノエステル標準として3-MCPD-1-パルミテート、GE標準として、グリシジル パルミテート及びグリシジル リノレートを用いた。各標準は20mg/kgとなるようにパーム油に添加した。標準の溶媒を乾固後、実施例1〜14の分析方法に従って各標準の添加回収率を確認した。添加した全ての標準で回収率が101〜108%と良好な結果であった(n=3)。結果は表2に示した。[実施例20] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた。その後、パーム油0.1gを秤量し、イソオクタンを0.2mL添加した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にCandida rugosa由来のリパーゼ(リパーゼAYアマノ30G)を溶解して反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して220Uとなるように添加した。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、添加回収率を求めた。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は97%、109%であった。[実施例21] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた。その後、パーム油0.1gを秤量し、イソオクタンを0.2mL添加した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にCandida rugosa由来のリパーゼ(リパーゼAYアマノ30G)を溶解して反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して900Uとなるように添加した。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、添加回収率を求めた。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は102%、103%であった。[実施例22] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた。その後、パーム油0.1gを秤量し、イソオクタンを0.3mL添加した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にAspergillus niger由来のリパーゼ(リパーゼASアマノ)を溶解して反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して720Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、180分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、添加回収率を求めた。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は80%、92%であった。[実施例23] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた後、パーム油0.1gを秤量した(イソオクタンは無添加)。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にAspergillus niger由来のリパーゼ(リパーゼASアマノ)を溶解して反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して360Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、90分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、添加回収率を求めた。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は80%、101%であった。[実施例24] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた後、パーム油0.1gを秤量した(イソオクタンは無添加)。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にPenicillium camemberti由来のリパーゼ(リパーゼGアマノ50)を溶解して反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して3000Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、180分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、添加回収率を求めた。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は89%、100%であった。[実施例25] グリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた後、パーム油0.1gを秤量した(イソオクタンは無添加)。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にRhizopus oryzae由来のリパーゼ(リパーゼF-AP15)を溶解して反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して900Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、60分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、添加回収率を求めたところ、グリシジルオレエートの回収率は92%であった。[実施例26〜39] 3-MCPD-ジオレエートもしくは3-MCPD-1-オレエート、及びグリシジル オレエートを20mg/kgもしくは2mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加した(3-MCPD-ジオレエートと3-MCPD-1-オレエートは別々の油脂に添加した)。溶媒を乾固させた後、表4に掲げる油脂0.1gを秤量し、イソオクタンを0.2mL添加した。油脂が固体で溶解しにくい場合には、イソオクタンを0.2〜0.5mL添加し、加温(45〜75℃)しながら溶解した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にCandida rugosa由来のリパーゼ(リパーゼAYアマノ30G)を溶解して3mLを反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して54Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、30分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、各標準の添加回収率を確認した。添加回収実験の結果は、表4に示した。3-MCPD-ジオレエートの回収率は89〜108%、3-MCPD-1-オレエートの回収率は92〜108%、グリシジル オレエートの回収率は96〜109%となり、表4に掲げた全ての油脂で良好な結果であることが確認できた(n=3)。[実施例40〜44] 脂肪酸の種類が異なる各種3-MCPD脂肪酸エステル及びGEにおいても良好な回収率となることを確認した。3-MCPD-ジエステル標準として3-MCPD-ジパルミテート及び3-MCPD-ジリノレート、3-MCPD-モノエステル標準として3-MCPD-1-パルミテート、GE標準として、グリシジル パルミテート及びグリシジル リノレートを用いた。各標準は20mg/kgとなるようにパーム油(室温で液体)に添加した。標準の溶媒を乾固後、実施例26〜39の分析方法に従って各標準の添加回収率を確認した。添加した全ての標準で回収率が101〜108%と良好な結果であった(n=3)。結果は表5に示した。[実施例45] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた。その後、パーム油(室温で液体)0.1gを秤量し、イソオクタンを0.2mL添加した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にCandida rugosa由来のリパーゼ(リパーゼAYアマノ30G)を溶解して3mLを反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して44Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、30分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、各標準の添加回収率を確認した。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は97%、109%であった。[実施例46] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた。その後、パーム油(室温で液体)0.1gを秤量し、イソオクタンを0.2mL添加した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にCandida rugosa由来のリパーゼ(リパーゼAYアマノ30G)を溶解して3mLを反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して180Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、30分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、各標準の添加回収率を確認した。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は102%、103%であった。[実施例47] 3-MCPD-ジオレエート及びグリシジル オレエートを20mg/kgとなるようにスクリューキャップ付試験管に添加し、溶媒を乾固させた。その後、パーム油(室温で液体)0.1gを秤量し、イソオクタンを0.2mL添加した。さらに、上記(a)臭化ナトリウム水溶液にCandida rugosa由来のリパーゼである、リパーゼAYSアマノ(天野エンザイム(株))を溶解して3mLを反応液に加えた。この時のリパーゼ量としては、油脂0.1gに対して54Uとなるように添加した。蓋をして振とう数200〜300で振とうし(SHAKER MW-1、iuchi)、油脂中の3-MCPD脂肪酸エステル及びGEの加水分解反応を行った(室温、30分間)。その後、実施例1〜14の分析方法に従って分析を行い、添加回収率を求めた。3-MCPDジオレエート及びグリシジルオレエートの各回収率は98%、102%であった。 試料中における、3−クロロ−1,2−プロパンジオール又は3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステルである3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物と、グリシドール又はグリシドール脂肪酸エステルであるグリシドール系化合物の一方又は両方の量を評価する方法であって、 試料に対して以下の処理A及び処理B:(処理A)リパーゼの作用によりエステル結合を加水分解させる、リパーゼ加水分解処理、(処理B)臭素化剤を用いてグリシジル基を3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピル基に変換する、臭素化処理、を施すことにより、試料中の3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステルを3−クロロ−1,2−プロパンジオールに変換し、グリシドール系化合物を3−ブロモ−1,2−プロパンジオールに変換する、リパーゼ加水分解/臭素化工程と、 前記工程の後に、3−クロロ−1,2−プロパンジオール及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオールの一方又は両方を定量する分析工程と、を含む、前記方法。 リパーゼが、カンジダ属に属する酵母に由来するリパーゼである、請求項1の方法。 試料が油脂である、請求項1又は2の方法。 処理Aが、試料である油脂が有機溶媒に溶解されている状態で行われる、請求項3の方法。 分析工程が、3−クロロ−1,2−プロパンジオール及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオールを、誘導体化剤を用いた誘導体化反応により、独立に定量可能な3−クロロ−1,2−プロパンジオール誘導体及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオール誘導体に変換した後、当該2つの誘導体のうち一方又は両方を定量する工程である、請求項1〜4のいずれか1項の方法。 試料中における、3−クロロ−1,2−プロパンジオール又は3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステルである3−クロロ−1,2−プロパンジオール系化合物と、グリシドール又はグリシドール脂肪酸エステルであるグリシドール系化合物の一方又は両方の量を評価するためのキットであって、 リパーゼと、 グリシジル基を3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピル基に変換することが可能な臭素化剤と、を少なくとも備える前記キット。 3−クロロ−1,2−プロパンジオール及び3−ブロモ−1,2−プロパンジオールを、それぞれ独立に定量可能な誘導体に変換するための誘導体化剤を更に備える、請求項6のキット。 【課題】本発明は、試料中の3−クロロ−1,2−プロパンジオール(3−MCPD)系化合物及びグリシドール系化合物の量を、短時間に、1種類の方法で評価することが可能な方法を提供することを目的とする。【解決手段】3−MCPD脂肪酸エステル及びグリシドール脂肪酸エステルに由来するエステル結合の加水分解をリパーゼを用いて行うことにより、上記目的を達成することができる。【選択図】図1