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タイトル:特許公報(B2)_新規加水分解酵素タンパク質
出願番号:2011539573
年次:2015
IPC分類:C12N 15/09,C12N 9/18,C12P 7/40,C12P 41/00


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川端 潤 三宅 良磨 朝田 久仁子 加藤 良平 JP 5657560 特許公報(B2) 20141205 2011539573 20110831 新規加水分解酵素タンパク質 株式会社エーピーアイ コーポレーション 396020464 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 川端 潤 三宅 良磨 朝田 久仁子 加藤 良平 JP 2010194630 20100831 20150121 C12N 15/09 20060101AFI20141225BHJP C12N 9/18 20060101ALI20141225BHJP C12P 7/40 20060101ALI20141225BHJP C12P 41/00 20060101ALI20141225BHJP JPC12N15/00 AC12N9/18C12P7/40C12P41/00 E C12N 15/00−15/90 C12N 9/00−9/99 C12P 7/40 C12P 41/00 UniProt/GeneSeq DDBJ/GeneSeq CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/ WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) PubMed 特表2009−502184(JP,A) 国際公開第87/006269(WO,A1) Gene,1994年,vol.151, no.1-2,pp.37-43 Synth. Commun.,1994年,vol.24, no.20,pp.2873-2876 Macromol. Rapid Commun.,2001年,vol.22, no.16,pp.1350-1353 J. Org. Chem.,2005年,vol.70, no.15,pp.5869-5879 12 JP2011069680 20110831 WO2012029819 20120308 26 20120326 戸来 幸男 本発明は、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造に利用可能な新規な加水分解酵素タンパク質、及びその利用に関するものである。 (1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸は、C型肝炎治療薬として開発中の各種HCV NS3プロテアーゼ阻害剤等の製造に有用な中間体である。非特許文献1にはジメチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を酵素により加水分解し、(1S,2S)-1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を得る方法が記載されているが、酵素の光学的選択性は不十分であり、得られた(1S,2S)-1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の光学純度は90%e.e.で、医薬品の中間体の工業的な製造法としては不向きであった。 また、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) ATCC23857のゲノム配列は公知であり、当該バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) ATCC23857株由来のパラニトロベンジルエステラーゼ(以下、「PNBE23857」と称する場合がある。)のアミノ酸配列は、GenBank Accession No. ZP_03593235に登録されている。C. Fliche他 Synth. Commun. 24(20), 2873-2876 (1994) 本発明は、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を酵素により加水分解し、C型肝炎治療薬の製造用中間体として有用である(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を効率的に得るための新規な加水分解酵素タンパク質を提供することを解決すべき課題とした。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)由来のパラニトロベンジル加水分解酵素タンパク質が良好な選択性でジエチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解し、(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を効率的に得ることが可能であることを見出した。また、既知のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)由来パラニトロベンジル加水分解酵素タンパク質のDNA配列情報を元に、近縁のバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)が有するパラニトロベンジル加水分解酵素遺伝子をクローニングし、当該遺伝子がコードするパラニトロベンジル加水分解酵素タンパク質の活性を確認したところ、既知のパラニトロベンジル加水分解酵素タンパク質に比べて高い選択性で上記加水分解反応を触媒する新規ホモログを得ることに成功した。さらに、パラニトロベンジル加水分解酵素タンパク質の既知の立体構造情報を元に、上記新規ホモログのホモロジーモデリングを行い、基質結合部位近辺のアミノ酸残基に対する変異導入試験を行ったところ、上記加水分解反応をさらに高い選択性で触媒する加水分解酵素タンパク質を作製することに成功した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。 すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。[1] 配列番号2〜5のいずれかに示すアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。[2] 配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番、106番、107番、108番、219番、270番、271番、272番、273番、274番、275番、276番、及び313番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。[3] 配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号188番、190番、193番、215番、216番、217番、314番、358番、362番、及び363番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが高いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。[4] 配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番、106番、107番、108番、219番、270番、271番、272番、273番、274番、275番、276番、及び313番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されていて、かつアミノ酸番号188番、190番、193番、215番、216番、217番、314番、358番、362番、及び363番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが高いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。[5] 配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、少なくとも、アミノ酸番号70番、270番、273番、及び313番のアミノ酸のうち1つ以上のアミノ酸が置換されている、[2]又は[4]に記載の加水分解酵素タンパク質。[6] 配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、少なくともアミノ酸番号70番のロイシンが、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、スレオニン、又はグリシンのいずれかのアミノ酸に置換されている、[5]に記載の加水分解酵素タンパク質。[7] 配列番号3又は4に示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号270番のロイシンが、セリン、グルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に置換されている、[5]又は[6]に記載の加水分解酵素タンパク質。[8] 配列番号1、2又は5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号270番のイソロイシンが、セリン、グルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に置換されている、[5]又は[6]に記載の加水分解酵素タンパク質。[9] 配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号273番のロイシンが、アルギニン、又はヒスチジンのいずれかのアミノ酸に置換されている、[5]から[8]のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質。[10] 配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号313番のロイシンが、メチオニン、アラニン、又はプロリンのいずれかのアミノ酸に置換されている、[5]から[9]のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質。[11] 配列番号4に示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番のロイシンがアスパラギン酸に、270番のロイシンがグルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に、273番目のロイシンがアルギニンに、かつ313番目のロイシンがメチオニンに置換されているアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。[12] [1]から[11]の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、又は[1]から[11]の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列に対して1から数個のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加を有するアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。[13] [1]から[12]の何れかに記載の加水分解酵素タンパク質をコードするDNA。[14] 以下の塩基配列からなる、[13]に記載のDNA。(a)配列番号7から10に記載の塩基配列;(b)配列番号7から10に記載の塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質をコードする塩基配列:又は(c)配列番号7から10に記載の塩基配列において、1から数個の塩基の置換、欠失、及び/又は付加を有する塩基配列であって、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質をコードする塩基配列:[15] [1]から[12]のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質をジアルキル 2−ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に作用させて(1S,2S)−1−アルコキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造することを含む、(1S,2S)−1−アルコキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造方法。 本発明の加水分解酵素タンパク質は、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解して 1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造する際に、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を優先的に生成できるという高い選択性を有している。即ち、本発明の加水分解酵素タンパク質によれば、C型肝炎治療薬の製造用中間体として有用である(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を工業的に実用化可能な方法で、従来の方法に比べて効率的に製造することができる。本発明の加水分解酵素タンパク質を用いた(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造方法は、C型肝炎の治療薬及びその中間体の製造に利用することができる。本発明の製造方法により製造される化合物はC型肝炎の治療薬の製造における原料又は中間体として利用することができる。 以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。(1)本発明の加水分解酵素タンパク質 本発明の加水分解酵素タンパク質は、配列番号2〜5のいずれかに示すアミノ酸配列、又はそれに変異を施したアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有することを特徴とする。ここで、配列番号1は、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) ATCC23857株由来のパラニトロベンジルエステラーゼ(PNBE23857、GenBank Accession No. ZP_03593235)のアミノ酸配列である。 尚、式(1)中のEtはエチル基を示す。 本発明において、選択性とは光学的選択性のことであり、ある異性体を優先的に生成させることにより光学活性な化合物を生成する性質を意味する。具体的には、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解して(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を優先的に生成する性質を意味する。 ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解して(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を効率的に得るための加水分解酵素タンパク質に求められる選択性としては以下の点が挙げられる。<1R2S/1S2S比> まず、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸には、(2R)体及び(2S)体の2種類の立体異性体が存在するが、2位での立体反転が起こる特殊な条件で無い限り、基本的には(2S)体のみが目的とする(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の原料となり得る。 ジアルキル (2S)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解する際、加水分解酵素タンパク質は、1位のプロキラルな炭素に結合した二つのアルコキシカルボニル基のうち、pro-Rなアルコキシカルボニル基のみを優先的に加水分解し、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を優先的に生成する選択性を有する必要がある。なお、pro-Rとは、CX2YZ 上にある 2個の X について、それらを区別する表記法であり、概要は以下の通りである。C上の各置換基についてCIP則により優先順位を決める。そのとき、2個の X のうち一方の優先順位を他方よりも高いものと仮定する。Y、Z との優先順位の関係は変えない。仮の優先順位に基づき、RS表記法により中心炭素のキラリティが R か S かを決める。R体の場合は、そのときに優先させた X を pro-R とし、S体の場合はpro-S とする。 本選択性は、加水分解により生成する1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2S)体と(1R,2S)体の比率を指標として比較可能であり、(1S,2S)体の生成量に比して(1R,2S)体の生成量の比率が低いものほど(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の収率が向上し、工業化において有利である。<1S2S体光学純度(% e.e.)> 次に、ラセミ体のジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を基質とする際に、(2R)体を加水分解酵素タンパク質により加水分解して、(1S,2R)体及び(1R,2R)体を生成し得るが、目的とする(1S,2S)体のエナンチオマーにあたる(1R,2R)体はその生成量を極力低く抑えることが好ましい。即ち、加水分解酵素タンパク質は、ジアルキル (2R)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸の1位のプロキラルな炭素に結合した二つのアルコキシカルボニル基のうち、pro-Rなアルコキシカルボニル基のみを優先的に加水分解し、(1S,2R)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を優先的に生成する選択性、及び/又はジアルキル (2R)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に比してジアルキル (2S)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を優先的に加水分解する選択性を有する必要がある。いずれの選択性も、加水分解により生成する1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2S)体の(1R,2R)体に対するエナンチオマー過剰率(% e.e.)により比較可能であり、(1S,2S)体のエナンチオマー過剰率が高いものほど後の製造工程や製造された医薬品の生理活性に悪影響が生じる可能性が低く、工業化において有利である。<1S2R/1S2S比> また、上記したように、加水分解酵素タンパク質はジアルキル (2R)-2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸の1位のプロキラルな炭素に結合した二つのアルコキシカルボニル基のうち、pro-Rなアルコキシカルボニル基を加水分解し、目的とする(1S,2S)体のジアステレオマーにあたる(1S,2R)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を生成し得るが、後段の製造工程への影響を軽減するため、この(1S,2R)体の混入も極力低減させることが好ましい。 本選択性は、生成する1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の(1S,2S)体の生成量と(1S,2R)体の生成量の比率により比較可能であり、(1S,2S)体の生成量に対する(1S,2R)体の生成量が低いものの方が後の製造工程や製造された医薬品の生理活性に悪影響が生じる可能性が低く、工業化において有利である。 したがって、本発明における選択性は、1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸における、「1R2S/1S2S比」、「1S2S体光学純度(% e.e.)」、あるいは「1S2R/1S2S比」を指標とするものである。 即ち、本発明の「式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性」とは、生成物である1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸における、「1R2S/1S2S比」、「1S2S体光学純度(% e.e.)」、あるいは「1S2R/1S2S比」を指標として決定することができる。 本発明の加水分解酵素タンパク質の好ましい態様としては、以下のものが挙げられる。(a)配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番、106番、107番、108番、219番、270番、271番、272番、273番、274番、275番、276番、及び313番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、上記式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。(b)配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号188番、190番、193番、215番、216番、217番、314番、358番、362番、及び363番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが高いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、上記式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。(c)配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番、106番、107番、108番、219番、270番、271番、272番、273番、274番、275番、276番、及び313番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されていて、かつアミノ酸番号188番、190番、193番、215番、216番、217番、314番、358番、362番、及び363番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが高いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、上記式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。(d)上記(a)又は(c)の加水分解酵素タンパク質であって、少なくとも、アミノ酸番号70番、270番、273番、及び313番のアミノ酸のうち1つ以上のアミノ酸が置換されているアミノ酸配列からなり、上記式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。 本発明においては、特に(d)の加水分解酵素タンパク質が好ましい。 「野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸」又は「野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが高いアミノ酸」における「嵩高さ」とは、具体的には、J.Theoret.Biol.,1968,21,170のTable 3にBulkinessとして示される値を指標とすることができる。各アミノ酸のBulkinessの値は、具体的には以下の通りである。Ala(アラニン):11.50Arg(アルギニン):14.28Asp(アスパラギン酸):11.68Asn(アスパラギン):12.82Cys(システイン):13.46Glu(グルタミン酸):13.57Gln(グルタミン):14.45Gly(グリシン): 3.40His(ヒスチジン):13.69Leu(ロイシン):21.40Ile(イソロイシン):21.40Lys(リシン):15.71Met(メチオニン):16.25Phe(フェニルアラニン):19.80Pro(プロリン):17.43Ser(セリン): 9.47Thr(スレオニン):15.77Trp(トリプトファン):21.67Tyr(チロシン):18.03Val(バリン):21.57 即ち、「野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されている」とは、野生型のアミノ酸に比べて上記Bulkinessの値が小さいアミノ酸に置換されているということであり、「野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが高いアミノ酸に置換されている」とは、野生型のアミノ酸に比べて上記Bulkinessの値が大きいアミノ酸に置換されているということである。 特に、本発明の加水分解酵素タンパク質としては、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番、270番、273番、又は313番のロイシン又はイソロイシンのうちの1つ以上が、これらよりも上記Bulkinessの値が小さいアミノ酸に置換されているものが好ましい。 このような加水分解酵素タンパク質としては、以下のものが挙げられる。(e)上記(d)の加水分解酵素タンパク質であって、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、少なくともアミノ酸番号70番のロイシンが、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、スレオニン、又はグリシンのいずれかのアミノ酸に置換されている加水分解酵素タンパク質。(f)上記(d)又は(e)の加水分解酵素タンパク質であって、配列番号3又は4に示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号270番のロイシンが、セリン、グルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に置換されている加水分解酵素タンパク質。(g)上記(d)又は(e)の加水分解酵素タンパク質であって、配列番号1、2又は5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号270番のイソロイシンが、セリン、グルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に置換されている加水分解酵素タンパク質。(h)上記(d)から(g)のいずれかの加水分解酵素タンパク質であって、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号273番のロイシンが、アルギニン、又はヒスチジンのいずれかのアミノ酸に置換されている加水分解酵素タンパク質。(i)上記(d)から(h)のいずれかの加水分解酵素タンパク質であって、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号313番のロイシンが、メチオニン、アラニン、又はプロリンのいずれかのアミノ酸に置換されている加水分解酵素タンパク質。 本発明においては、配列番号4に示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番のロイシンがアスパラギン酸に、270番のロイシンがグルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に、273番目のロイシンがアルギニンに、かつ313番目のロイシンがメチオニンに置換されているアミノ酸配列からなり、上記式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質が特に好ましい。 本発明の加水分解酵素タンパク質としては、さらに、上記した本発明の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、又は上記した本発明の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列に対して1から数個のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加を有するアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有するものも含まれる。 本発明において、「上記した本発明の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列」における「90%以上の相同性」とは、本発明の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列との相同性又は同一性が90%以上、好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上であることを意味する。 本発明において、「1から数個のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加」における「1もしくは数個」とは、例えば、1から40個程度を意味し、好ましくは1から20個程度を意味し、より好ましくは1から10個程度を意味し、さらに好ましくは1から5個程度を意味する。 本発明の加水分解酵素タンパク質の由来は、特に限定されるものではなく、微生物などに由来する天然の酵素でもよいし、遺伝子組み換えタンパク質でもよい。 天然の酵素としては、好ましくは、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis)から取得することができる。即ち、本発明の加水分解酵素タンパク質は、例えば、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3026、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3108、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3027、及びバシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3013などの菌株から、通常の酵素の抽出、精製方法によって得ることができる。抽出方法として具体的には、例えば細片化、ホモジナイズ、音波処理、浸透ショック法、凍結融解法等の細胞破砕による抽出、界面活性剤抽出等や、これらの組み合わせ等の処理操作が挙げられる。また、精製方法として具体的には、例えば硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸ナトリウム等による塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法、ザイモグラフィー等や、これらの組み合わせ等の処理操作が挙げられる。 また、本発明の加水分解酵素タンパク質の遺伝子を公知の方法に従ってクローニングし、適当な宿主に導入して、発現させることにより、本発明の加水分解酵素タンパク質を遺伝子組み換えタンパク質として得ることができる。例えば、本発明の加水分解酵素タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列の情報に基づいて本発明の加水分解酵素タンパク質の遺伝子に特異的なプローブ又はプライマーを設計し、当該プローブ又はプライマーを用いて、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3026、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3108、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3027、及びバシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3013などのDNAライブラリー(例えば、ゲノムDNAライブラリー又はcDNAライブラリーなど)から本発明の加水分解酵素タンパク質をコードするDNAを単離又は増幅し、これを遺伝子組換え技術によりベクターに入れ、宿主細胞に導入し、そこで発現させることにより、本発明の加水分解酵素タンパク質を得ることができる。(2)本発明のDNA 本発明によれば、上記した本発明の加水分解酵素タンパク質をコードするDNAが提供される。 本発明のDNAの具体例としては、以下の塩基配列からなるDNAが挙げられる。(a)配列番号7から10に記載の塩基配列;(b)配列番号7から10に記載の塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質をコードする塩基配列:又は(c)配列番号7から10に記載の塩基配列において、1から数個の塩基の置換、欠失、及び/又は付加を有する塩基配列であって、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質をコードする塩基配列: 本発明の加水分解酵素タンパク質をコードするDNAは、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3026、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3108、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3027、及びバシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3013からクローニングされたDNA、又は当該DNAに変異を導入したものである。また、本発明によりその塩基配列が決定されたので、この塩基配列に基づいて合成することも可能である。さらに、この塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプローブとするハイブリダイゼーションによって、又は前記配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRによって、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis)などの微生物のDNAライブラリー(例えば、ゲノムDNAライブラリー又はcDNAライブラリーなど)から単離することもできる。また、本発明の加水分解酵素タンパク質のDNAは、天然の微生物から分離されたもののみならず、既知のDNA合成方法、例えば、米国特許第6,472,184号公報や米国特許第5,750,380号公報に記載の方法を用いて合成されたものであってもよい。 本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNA」とは、配列番号7から10に記載の塩基配列あるいはその相補配列を有するDNAとBLAST解析で90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。 本発明において、「1から数個の塩基の置換、欠失、及び/又は付加を有する塩基配列」における「1から数個」とは、例えば、1から30個程度を意味し、好ましくは1から20個程度を意味し、さらに好ましくは1から10個程度を意味し、さらに好ましくは1から5個程度を意味する。 酵素活性を実質的に害さないアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加は、当業者であれば容易に選択することができる。また、酵素活性に実質的に影響を与えないアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加を有する本発明の加水分解酵素タンパク質をコードするDNAは、例えば、自然突然変異株又は変種から取得することができる。 配列番号7から10に記載の塩基配列において、1から数個の塩基の置換、欠失、及び/又は付加を有する塩基配列を有するDNAの作製は、突然変異剤を用いる方法や部位特異的変異法等の通常の変異操作によって得ることができる。これらは、例えばPrimeSTAR Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ社)やクイックチェンジサイトダイレクテッドミュータジェネシスキット(ストラタジーン社製)等の市販キットで容易に行うことができる。(3)組み換えベクター及び形質転換体 本発明によればさらに、本発明のDNAを有する組み換えベクターが提供される。組み換えベクターを調製する際には、通常、本発明のDNAを宿主微生物に適したプロモーターとともに、このプロモーターの下流に本発明のDNAのコード領域の5'末端側が連結されるようにして、ベクターに挿入する。あるいはプロモーターを含む発現ベクターを用い、これに本発明のDNAを挿入してもよい。 発現ベクターとしては、宿主微生物内で複製増殖可能であれば特に制限されるものではないが、プラスミドベクター、シャトルベクター及びファージベクターが挙げられる。具体的なプラスミドベクターとしては、pBR322、pUC18、pHSG298、pUC118、pSTV28、pTWV228、pHY300PLK(以上のプラスミドベクターは、例えばタカラバイオ社から購入できる)、pET発現ベクターシリーズ(Novagen社製)等を挙げることができる。大腸菌−コリネ型細菌のシャトルベクターとしては、例えば、特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−276575号公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2及びpCRY3;特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611及びpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4及びpCG11等、あるいはこれらの誘導体等を挙げることができる。また、ファージベクターとしては、(λFixIIベクター(Stratagene社から購入できる)等を挙げることができる。 本発明の加水分解酵素タンパク質をコードするDNAを発現させるためのプロモーターは、宿主微生物が保有するプロモーターを一般に用いることができるが、それに限られるものではなく、本発明の加水分解酵素タンパク質のDNAの転写を開始させるための原核生物由来の塩基配列であればいかなるプロモーターであっても良い。具体的には、ラクトースオペロンのプロモーター、トリプトファンオペロンのプロモーター、λファージ由来のPLプロモーター、トリプトファンラクトース雑種(tac)プロモーター[H. A. Bose et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., Vol.80, p.21 (1983)]等が挙げられる。これらのプロモーターのうち、発現効率を向上させる目的で、誘導性のあるプロモーターを使用することもできる。例えば、上記ラクトースオペロンのプロモーターの場合には、ラクトースやイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を添加することにより遺伝子発現を誘導することができる。 本発明によれば、さらに本発明のDNA又は組換えベクターを宿主細胞に導入した形質転換体が提供される。本発明のDNA又は組み換えベクターを導入する宿主としては、特に限定されるものではないが、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸以外に加水分解する活性を有するものは好適には用いられない。また、生成された(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸をさらに別の化合物に変化させる活性を有するものも好ましくない。 本発明で用いることができる宿主は、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸、あるいは目的物である(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸と接触させ、その結果、得られる化合物を分析することにより選択することができる。 本発明で用いることができる宿主微生物としては、具体的には、エシェリヒア(Escherichia)属細菌(例えば、大腸菌)が挙げられ、また、放線菌(Actinomycetes)属細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌、サーマス(Thermus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌等も、上記性質を有するものは、本発明のDNA又は組み換えベクターを導入する宿主として用いることができる。 具体的には、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・サチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、セラチア・マーセッセンス(Serratia marcescens)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)等であって、上記性質を有するものを用いることができる。 また、上記微生物において、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸以外に加水分解する活性や生成された(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸をさらに別の化合物に変化させる活性を有するものは、該活性を有する酵素タンパク質をコードする遺伝子を既存の方法により破壊することにより、本発明のDNA又は組み換えベクターを導入する宿主として用いることができる。 上記宿主微生物への遺伝子の導入法としては、コンピテントセル法[Journal of Molecular Biology, Vol.53, p.159 (1970)]、パルス波通電法[J. Indust.Microbiol., Vol.5, p.159 (1990)]等による形質転換法、ファージを用いた形質導入法[E. Ohtsubo, Genetics, Vol.64, p.189 (1970)]、接合伝達法[J. G. C. Ottow, Ann. Rev.Microbiol., Vol.29, p.80 (1975)]、細胞融合法[M.H. Gabor, J. Bacteriol., Vol.137, p.1346 (1979)]等を用いることができる。これらの方法から、宿主微生物に適した方法を適宜選択すればよい。 上記のような発現ベクターを用いた発現方法の他に、プロモーターを連結した本発明の加水分解酵素タンパク質をコードするDNAを、宿主微生物の染色体中に直接導入する相同組換え技術あるいはトランスポゾンや挿入配列等を用いて導入する技術によっても発現させることができる。従って、本発明の形質転換体は、本発明の酵素が発現していればよく、遺伝子の導入の方法は限定されない。(4)形質転換体を用いた本発明の加水分解酵素タンパク質の製造 本発明によれば、上記のようにして得られる形質転換体を培養し、その培養物から本発明の加水分解酵素タンパク質を採取することができる。 形質転換体の培養は、炭素源、窒素源、無機塩、各種ビタミン等を含む通常の栄養培地で行うことができ、炭素源としては、例えばブドウ糖、ショ糖、果糖、麦芽糖等の糖類、エタノール、メタノール等のアルコール類、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等の有機酸類、廃糖蜜等が用いられる。窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等がそれぞれ単独もしくは混合して用いられる。また、無機塩としては、例えばリン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等が用いられる。この他にペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンステイープリカー、カザミノ酸、ビオチン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することができる。 培養は、通常、通気撹拌、振とう等の好気条件下で行う。培養温度は、宿主微生物の生育し得る温度であれば特に制限はなく、また、培養途中のpHについても宿主微生物が生育し得るpHであれば特に制限はない。培養中のpH調整は、酸又はアルカリを添加して行うことができる。 培養物からの酵素の採取は、酵素の活性を指標として公知の採取方法により行うことができる。酵素は必ずしも均一にまで精製される必要はなく、用途に応じた精製度まで精製すればよい。 本発明で用いられる粗精製画分又は精製酵素としては、形質転換体を培養した培養液から分離した菌体はもちろんのこと、培養液、菌体を超音波、圧擦等の手段で破砕して得られる破砕物、該破砕物を水等で抽出して得られる、本発明の加水分解酵素タンパク質を含有する抽出物、該抽出物に更に硫安塩析、カラムクロマトグラフィー等の処理を行って得られる本発明の加水分解酵素タンパク質の粗酵素標品又は精製した酵素標品を使用してもよい。さらに、上記菌体、破砕物、抽出物、粗精製画分又は精製酵素を担体に固定化したものも使用することができる。 これら菌体、菌体破砕物、抽出物又は精製酵素の固定化は、それ自体既知の通常用いられている方法に従い、アクリルアミドモノマー、アルギン酸、又はカラギーナン等の適当な担体に菌体等を固定化させる方法により行うことができる。例えば、菌体を担体に固定化する場合には、培養物から回収されたまま、あるいは適当な緩衝液、例えば0.02M〜0.2M程度のリン酸緩衝液(pH6〜10)等で洗浄された菌体を使用することができる。(5)本発明の加水分解酵素タンパク質を用いた(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造 本発明によれば、式(2)で表される製造、即ち、本発明の加水分解酵素タンパク質をジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に作用させて(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造することを含む、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造方法が提供される。 式(2)中、Rは置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を示す。 Rで表される置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基としては、炭素数1〜10の置換又は無置換の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数1〜6の置換又は無置換の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基が挙げられる。これらのうち、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が好適に挙げられ、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。 Rで表される置換されていてもよい炭素数7〜20のアラルキル基としては、好ましくは炭素数7〜12の置換又は無置換のアラルキル基である。これらのうち、ベンジル基、4−メチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−クロロベンジル基、4−ブロモベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等が好適に挙げられる。 Rで表される置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基等が好適に挙げられる。 Rとしては、好ましくはメチル基、エチル基、tert−ブチル基、及びベンジル基であり、さらに好ましくはエチル基である。 本発明の加水分解酵素タンパク質をジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に作用させる際には、精製又は粗精製した本発明の加水分解酵素タンパク質、本発明の加水分解酵素タンパク質を産生する微生物(例えば、本発明の加水分解酵素タンパク質をコードするDNAを有する形質転換体など)又はその処理物を、ジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に作用させることによって、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造することができる。 反応の方法は特に限定されず、本発明の加水分解酵素タンパク質を含む液体に、基質となるジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加え、適当な温度(例えば、10℃から40℃程度)や圧力(例えば大気圧程度)で反応させることができる。これにより、(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造することができる。 反応混合物から目的の(1S,2S)-1-アルコキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を分画する方法は特に限定されず、当業者に公知の分離又は精製のための手法を用いることができる。例えば、溶媒抽出、晶析、樹脂吸着、カラムクロマトグラフィー等により行うことができるが、これに限定されるものではない。 本発明の加水分解酵素タンパク質は、ジエチル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸を加水分解して、(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造する方法に、特に好適に用いることができる。 また、本発明のジアルキル 2-ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸は、以下の式(3)の反応により製造することができる。 即ち、式(3)の原料化合物を、アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ金属水素化物の存在下でマロン酸エステル類と反応させることにより製造することができる。 式(3)中、R3は、表される置換されていてもよい炭素数6〜12のアリールスルホニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基、及び炭素数7〜20のアラルキルスルホニル基としては、例えば、ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、1−ナフタレンスルホニル基、2−ナフタレンスルホニル基、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、プロパンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、及びベンジルスルホニル基等が挙げられる。R3は、好ましくはメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、及びp−トルエンスルホニル基であり、特に好ましくはp−トルエンスルホニル基である。また、Rは前記定義と同じである。 ここで、式(3)の原料化合物は、公知の方法、例えばFrederic Dolle他、Bioorg. Med. Chem. 2006, 14, 1115-1125 等に記載された方法に準じて製造することができる。また、以下の式(4)の反応により製造することができる。 即ち、1,4-ブテンジオールをR3Xで表される化合物と反応させた後、晶析することにより、あるいは、市販されている原料化合物を酸又は塩基で加水分解して1,4-ブテンジオールを得、さらにR3Xで表される化合物と反応させた後、晶析することにより製造することができる。 式(4)中、X1は水素原子又はR1を示し、X2は水素原子又はR2を示し、R1及びR2はそれぞれ独立して置換されていてもよい炭素数2〜11のアルキルカルボニル基、炭素数8〜21のアラルキルカルボニル基、又は炭素数7〜13のアリールカルボニル基を示す。但し、X1及びX2が同時に水素原子となる場合を除く。好ましくは、X1がR1で且つX2がR2であり、より好ましくはR1及びR2がアセチル基、エチルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、ベンゾイル基であり、さらに好ましくはアセチル基である。 本発明で得られた(1S,2S)-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸を用いることにより、C型肝炎治療薬として開発中の各種HCV NS3プロテアーゼ阻害剤等の製造に有用な中間体である(1R,2S)/(1S,2R)-1-アミノ-1-エトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパン及びその塩を製造することができる。 以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。実施例1:パラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子(pnbA;配列番号6から10)のクローニング(1)遺伝子のクローニング バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) ATCC23857、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3026、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3108、バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3027、及びバシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3013を各菌株保存機関が指定する液体培地でそれぞれ一晩培養して得られた菌体より、DNeasy Blood & Tissue Kit (キアゲン社製)を用いて、染色体DNAをそれぞれ調製した。 ゲノム配列公知株バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) ATCC23857由来パラニトロベンジルエステラーゼ(PNBE23857、GenBank Accession No. ZP_03593235、配列番号1)をコードする遺伝子配列(以下pnbA23857、配列番号6)を元に、パラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーpnbA F及びpnbA Rを設計、合成した。それぞれの塩基配列を、配列表の配列番号11(pnbA F)及び12(pnbA R)に示す。 調製した各菌株由来の染色体DNAを鋳型とし、pnbA F、pnbA Rをプライマーとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、それぞれ約1.5kbpのDNA断片を増幅した。 このときのPCRは、Easy-AハイフィデリティPCRクローニング酵素(アジレント・テクノロジー社製)を使用し、添付の取り扱い説明書の条件に従って反応を実施した。温度条件については、94℃で2分間保持の後、(94℃、30秒;50℃、30秒;72℃、90秒)を35サイクル繰り返し、72℃で5分間保持して終了した。(2)発現ベクターの調製 特開2005-34025号公報記載の方法に準じて調製したプラスミドpKV32をテンプレートとし、配列番号19に示すプライマー(pKVXmaIFW)と配列番号20に示すプライマー(pKVXmaIRV)を用いて、PCRにより約4kbpの断片を増幅した。増幅された断片を制限酵素XmaIにより消化した後、Ligation-Convenience Kit(ニッポンジーン社製)により自己閉環させてプラスミドを得た。得られたプラスミドをpKW32と命名した。 このときのPCRは、KOD -plus- Ver.2(東洋紡社製)を使用し、添付の取り扱い説明書の条件に従って反応を実施した。温度条件については、94℃で2分間保持の後、(94℃、15秒;58℃、30秒;68℃、4分)を30サイクル繰り返し、68℃で5分間保持して終了した。(3)発現用プラスミドの調製上記(1)で得られたDNA断片はそれぞれ、Ligation-Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いて、(2)で調製したクローニングベクターpKW32に導入した。以下、得られた各プラスミドをそれぞれppnbA23857、ppnbA3026、ppnbA3108、ppnbA3027、及びppnbA3013とする。 プラスミドppnbA3026、ppnbA3108、ppnbA3027、及びppnbA3013については、挿入されたDNA配列の解析を行い、それぞれ1467bpのORFからなる遺伝子を含むことを確認した。これらの遺伝子をそれぞれpnbA3026、pnbA3108、pnbA3027、及びpnbA3013と命名した。各配列は配列番号7(pnbA3026)、8(pnbA3108)、9(pnbA3027)及び10(pnbA3013)で示される通りであった。それぞれのDNA配列がコードするアミノ酸配列をPNBE3026、PNBE3108、PNBE3027、PNBE3013と命名した。各配列は配列番号2(PNBE3026)、3(PNBE3108)、4(PNBE3027)及び5(PNBE3013)で示される通りであった。各アミノ酸配列は既知のPNBE23857のアミノ酸配列(配列番号1)に対してそれぞれ97%、91%、90%、及び98%の配列一致度を示した。実施例2:新規パラニトロベンジルエステラーゼの選択性比較 実施例1で得られた5種のプラスミドを用い、大腸菌(Escherichia coli) JM109(タカラバイオ株式会社製) を常法に従い形質転換した。得られた組換え大腸菌それぞれをカナマイシン 20 mg/l、IPTG 0.2mMを含む液体LB培地を用いて30℃で振盪培養し、培養20時間目に集菌した。 得られた菌体を用いて、5 g/lのラセミ体1,1−ジエトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパン(以下、「VCPDE」と称する。)及び5%のジメチルスルホキシドを含む100mM リン酸カリウム緩衝液中で、30℃、pH 7の条件で21時間反応させた。 反応後の反応液を下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。カラム: CHIRALPAK AD-3(4.6 x 250 mm、ダイセル化学社製)溶離液: ヘキサン : エタノール : トリフルオロ酢酸 = 95 : 5 : 0.1流速: 0.8 ml/min温度: 30℃検出: UV 210 nm 分析の結果、1−エトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸(以下、「VCPME」と称する。)の生成が確認された。得られた結果から、選択性の指標である、生成したVCPMEの(1S,2S)体と(1R,2S)体の比率を表す「1R2S/1S2S比」、(1S,2S)体の(1R,2R)体に対するエナンチオマー過剰率を表す「1S2S体光学純度」、及び(1S,2S)体と(1S,2R)体の比率を表す「1S2R/1S2S比」について求め、その結果を表1にまとめた。また、プラスミドpKW32のみで形質転換した菌体では当該基質の加水分解活性は見られなかった。いずれの酵素も「1R2S/1S2S比」については十分低い値を示した。 PNBE3026、PNBE3108及びPNBE3027の3種の酵素は「1S2S体光学純度」において、配列既知の酵素PNBE23857に比べて高い値を示した。 また、PNBE3013は「1S2R/1S2S比」において、配列既知の酵素PNBE23857に比べて低い値を示した。合成例 実施例1で使用したVCPDEは以下のようにして合成した。 2L4口フラスコに、マロン酸ジエチルエステル93.4g(583mmol)、トルエン1000mLを仕込み、塩基として20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液223mL(569mmol)を加えた。室温下、1.5時間撹拌後、trans−1,4−ジブロモ−2―ブテン59.4g(278mmol、アルドリッチ社製試薬)を加えた。室温下、2時間撹拌後、さらに20%ナトリウムエトキシドエタノール溶液109mL(278mmol)を加えた。室温下、1時間撹拌後、trans−1,4−ジブロモ−2―ブテン29.1g(136mmol、アルドリッチ社製試薬)を加えた。室温下、4時間撹拌後、1M水酸化ナトリウム水溶液347mLを添加して14時間撹拌後、有機層を分離した。次いで有機層を水132mLで2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後に濾過し、得られた濾液を40℃にて減圧濃縮し、淡黄色油状物の粗生成物として1,1−ジ−エトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパン99.3gを得た。この粗生成物の中に1,1−ジ−エトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンは83.2g(収率94.9%)含まれていた。また、マロン酸ジエチルエステルは含まれていなかった。実施例3:本発明の加水分解酵素タンパク質(配列番号4)の立体構造モデリング PNBE3027のアミノ酸配列について、Protein Data Bank (PDB)に対してBLAST検索を行い、以下の3種の結晶構造を参照構造として選択した。なお、以下においてA56Vという表記は、56番目のアミノ酸残基アラニン(A)がバリン(V)に置換していることを示す。・para-nitrobenzyl esterase Mutation: A56V, I60V, T73K, L144M, L313F, H322Y, A343V, M358V, Y370F, A400T, G412E, I437T, T459S(PDB id: 1C7J) 配列一致度89%・para-nitrobenzyl esterase Mutation: I60V, L144M, P317S, H322R, L334S, M358V, Y370F (PDB id: 1C7I) 配列一致度90%・para-nitrobenzyl esterase (PDB id: 1QE3) 配列一致度91% ホモロジーモデルの作成は、Discovery Studio Modeling(以下DS Modeling)Ver. 2.5を用い、得られた初期モデリング構造について、CHARMM (Chemistry at Harvard Macromolecular Mechanics)力場を各原子に割り当て、分子力学計算による構造最適化を行った。構造の最適化は、まず、Steepest Decent法(最急降下法)で1000ステップ、次に、Adapted Basis Newton-Raphson法で5000ステップ、それぞれ計算を行うことにより行った。 基質複合体モデルは、得られたホモロジーモデルに対し、基質であるVCPDEのS体及びR体それぞれを、(1S,2S)-VCPMEが生成する方向及び(1R,2R)-VCPMEが生成する方向に配位させて初期構造とした後、エネルギー最小化を行って作成した。エネルギー最小化を行う際には、エステラーゼの加水分解反応機構を考慮し、以下の距離拘束条件を設定した。・オキシアニオンホールを形成する、アミド3個(Gly106, Ala107, Ala190)の窒素原子と加水分解されるエステル結合のカルボニル酸素との距離を2.0Å以上3.0Å以内とする。・活性部位Ser189のアルコール酸素原子と加水分解されるエステル結合のカルボニル炭素の距離を2.0Å以上3.0Å以内とする。 以上の処理により得られた構造を「1S2Sモデル」及び「1R2Rモデル」とした。実施例4:パラニトロベンジルエステラーゼ中の基質認識に関与するアミノ酸残基の推定 まず、実施例3で得られた「1S2Sモデル」及び「1R2Rモデル」それぞれにおいて、VCPDEのビニル基の2位の炭素原子から8Å以内に一部もしくは全部が存在するアミノ酸残基を全て抽出した。距離の計算にはDiscovery Studio Visualizer v2.5.5.9350を使用し、抽出された各アミノ酸残基の中でそれぞれのモデルのVCPDEのビニル基の2位の炭素原子からの距離が最も近い水素原子以外の原子との距離を各アミノ酸残基との距離と規定した。抽出された各アミノ酸残基について、規定した距離を「1S2Sモデル」における距離と「1R2Rモデル」における距離とで比較した結果、「1R2Rモデル」に比べて「1S2Sモデル」における距離が近いアミノ酸残基を表2に、「1S2Sモデル」に比べて「1R2Rモデル」における距離が近いアミノ酸残基を表3に示した。 以上の結果より、表2のアミノ酸残基については、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に変換された方が、また、表3のアミノ酸残基については、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが高いアミノ酸に変換された方が(1S,2S)体のVCPMEの生成に有利な選択性を発揮できると推定される。 表2及び表3中、対象原子(アミノ酸残基中の原子)の略称は、蛋白質構造データバンク(PDB)に規定された方法に従ったものである。以下にその例を示す。CA = Carbon, AlphaCB = Carbon, Beta CG = Oxygen, GammaCD = Carbon, DeltaCE = Carbon, EpsilonCZ = Carbon, Zeta OE = Oxygen, Epsilon実施例5:変異導入によるパラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子の改変 実施例1で得たプラスミドppnbA3027を鋳型として、配列表の配列番号13に示すプライマー(L70FW)と配列番号14に示すプライマー(L70RV)を用いて、QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit (ストラタジーン社製)によりアミノ酸番号70番のロイシンをコードする塩基にランダムな変異を導入した。得られた約200個のコロニーをそれぞれカナマイシン 20 mg/l、IPTG 0.2mMを含む液体LB培地を用いて30℃で振盪培養し、培養20時間目に集菌した。 得られた菌体を用いて、5 g/lもしくは30 g/lのラセミ体VCPDE、5%のジメチルスルホキシドを含む100mM リン酸カリウム緩衝液中で、30℃、pH 7の条件で21時間反応させた。 また、上記と同様にして、配列表の配列番号15に示すプライマー(L313FW)と配列番号16に示すプライマー(L313RV)を用いて、アミノ酸番号313番のロイシン残基をコードする塩基に対してランダムな変異を導入し、約200個のコロニーを上記と同様の方法で反応させた。 さらに、上記と同様にして、配列表の配列番号17に示すプライマー(L270L273FW)と配列番号18に示すプライマー(L270L273RV)を用いて、アミノ酸番号270と273番のロイシン残基をコードする塩基に対してランダムな変異を導入し、約400個のコロニーを上記と同様の方法で反応させた。 反応後の反応液を、実施例2と同様の方法及び条件でHPLCによる分析を行った。基質であるVCPDEの濃度5 g/l時の各変異株の反応結果については表4に、30 g/l時の結果については表5に示した。また、得られたクローンについては、各クローンが有するプラスミドDNAを常法に従い抽出し、DNA配列を解析した。その結果得られた各変異導入部位の変異後のアミノ酸残基について表4及び5に併記した。 表4のNo.1と、No.3〜6及び11との比較により、アミノ酸番号70番のロイシンがアスパラギン酸、アスパラギン、セリン、スレオニン、グリシンのいずれかのアミノ酸に変換されている場合、生成するVCPMEの(1S,2S)体の光学純度が向上していた。また、野生体No.1とNo.2、7及び13との比較により、アミノ酸番号313番のロイシンがメチオニン、アラニン、プロリンのいずれかのアミノ酸に変換されている場合にも、生成するVCPMEの(1S,2S)体の光学純度が向上していた。また、No.8、10及び15は特にアミノ酸番号70番及び313番のロイシンが同時に変換されることにより、生成するVCPMEの1R2S/1S2S比が野生体に比べて向上していた。 次に、表4のNo.1と表5のNo.16の比較により、基質であるVCPDE濃度が5 g/lから30 g/lに上昇することで、1S2S体光学純度が低下することが確認された。よって、導入した変異の効果は同一の基質濃度で行う必要があることが判明した。また、表5のNo.19及び21〜25と野生体No.16との比較によりアミノ酸番号270番のロイシン及び273番のロイシンを変換することにより、1R2S/1S2S比、1S2S体光学純度、及び1S2R/1S2S比全てにおいて向上が確認された。 ここで、表4及び表5における各記号は、以下のものを示す。P:プロリンG:グリシンT:スレオニンS:セリンN:アスパラギンA:アラニンM:メチオニンD:アスパラギン酸F:フェニルアラニンH:ヒスチジンR:アルギニンE:グルタミン酸Q:グルタミン また、本明細書における配列番号1〜20は以下の通りである。配列番号1:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) ATCC23857由来パラニトロベンジルエステラーゼ(PNBE23857、GenBank Accession No. ZP_03593235)のアミノ酸配列配列番号2:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3026由来加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列PNBE3026配列番号3:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3108由来加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列PNBE3108配列番号4:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3027由来加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列PNBE3027配列番号5:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3013由来加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列PNBE3013配列番号6:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) ATCC23857由来パラニトロベンジルエステラーゼ(PNBE23857、GenBank Accession No. ZP_03593235、配列番号1)をコードする遺伝子配列(pnbA23857)配列番号7:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3026由来加水分解酵素タンパク質をコードするDNAの塩基配列pnbA3026配列番号8:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3108由来加水分解酵素タンパク質をコードするDNAの塩基配列pnbA3108配列番号9:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3027由来加水分解酵素タンパク質をコードするDNAの塩基配列pnbA3027配列番号10:バシラス・サチリス (Bacillus subtilis) NBRC3013由来加水分解酵素タンパク質をコードするDNAの塩基配列pnbA3013配列番号11:パラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーpnbA F配列番号12:パラニトロベンジルエステラーゼ遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーpnbA R配列番号13:プライマー(L70FW)配列番号14:プライマー(L70RV)配列番号15:プライマー(L313FW)配列番号16:プライマー(L313RV)配列番号17:プライマー(L270L273FW)配列番号18:プライマー(L270L273RV)配列番号19:プライマー(pKVXmaIFW)配列番号20:プライマー(pKVXmaIRV)配列番号2〜5のいずれかに示すアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番、270番、273番、及び313番のアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、少なくともアミノ酸番号70番のロイシンが、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、スレオニン、又はグリシンのいずれかのアミノ酸に置換されている、請求項2に記載の加水分解酵素タンパク質。配列番号3又は4に示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号270番のロイシンが、セリン、グルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に置換されている、請求項3に記載の加水分解酵素タンパク質。配列番号1、2又は5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号270番のイソロイシンが、セリン、グルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に置換されている、請求項3に記載の加水分解酵素タンパク質。配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号273番のロイシンが、アルギニン、又はヒスチジンのいずれかのアミノ酸に置換されている、請求項3から5のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質。配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号313番のロイシンが、メチオニン、アラニン、又はプロリンのいずれかのアミノ酸に置換されている、請求項3から6のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質。配列番号4に示すアミノ酸配列において、アミノ酸番号70番のロイシンがアスパラギン酸に、270番のロイシンがグルタミン、グルタミン酸、又はアラニンのいずれかのアミノ酸に、273番目のロイシンがアルギニンに、かつ313番目のロイシンがメチオニンに置換されているアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。請求項1から8のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、又は請求項1から8のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質のアミノ酸配列に対して1から数個のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加を有するアミノ酸配列であって、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列におけるアミノ酸番号70番、270番、273番、及び313番に対応するアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列からなり、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質。請求項1から9のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質をコードするDNA。以下の塩基配列からなる、請求項10に記載のDNA。(a)配列番号7から10に記載の塩基配列;(b)配列番号7から10に記載の塩基配列の相補鎖からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAの塩基配列であって、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列におけるアミノ酸番号70番、270番、273番、及び313番に対応するアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列をコードし、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質をコードする塩基配列:又は(c)配列番号7から10に記載の塩基配列において、1から数個の塩基の置換、欠失、及び/又は付加を有する塩基配列であって、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列におけるアミノ酸番号70番、270番、273番、及び313番に対応するアミノ酸のうち1つ以上が、野生型のアミノ酸に比べて側鎖の嵩高さが低いアミノ酸に置換されているアミノ酸配列をコードし、式(1)に示す反応を、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質より高い選択性で触媒する活性を有する加水分解酵素タンパク質をコードする塩基配列:請求項1から9のいずれか1項に記載の加水分解酵素タンパク質をジアルキル 2−ビニルシクロプロパン-1,1-ジカルボン酸に作用させて(1S,2S)−1−アルコキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸を製造することを含む、(1S,2S)−1−アルコキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸の製造方法。配列表


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