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タイトル:特許公報(B2)_ペクチンリアーゼ、ペクチンリアーゼ遺伝子、酵素調製物、及び植物組織の単細胞化方法
出願番号:2011537170
年次:2013
IPC分類:C12N 15/09,C12N 9/88,C12R 1/66


特許情報キャッシュ

中野 長久 上野山 光広 小林 江莉奈 JP 5266394 特許公報(B2) 20130510 2011537170 20100715 ペクチンリアーゼ、ペクチンリアーゼ遺伝子、酵素調製物、及び植物組織の単細胞化方法 バイオアイ株式会社 501187136 中野 長久 594017145 溝上 哲也 100089462 岩原 義則 100116344 山本 進 100129827 中野 長久 上野山 光広 小林 江莉奈 JP 2009240651 20091019 20130821 C12N 15/09 20060101AFI20130801BHJP C12N 9/88 20060101ALI20130801BHJP C12R 1/66 20060101ALN20130801BHJP JPC12N15/00 AC12N9/88C12N9/88C12R1:66 C12N 15/00−15/90 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) DDBJ/GeneSeq UniProt/GeneSeq PubMed 国際公開第2004/074468(WO,A1) 国際公開第2009/108941(WO,A1) 特開平03−108487(JP,A) 第28回日本防菌防ばい学会年次大会要旨集, 2001, p.96-97 防菌防ばい, 37(10), 2009.10.10, p.773-781 醗酵工学会誌, 1984, 62(1), p.1-7 8 JP2010061981 20100715 WO2011048852 20110428 26 20120409 高山 敏充 本発明は、マセレーション活性を有するペクチンリアーゼとその遺伝子、前記ペクチンリアーゼを含有する酵素調製物、並びに前記ペクチンリアーゼを用いた植物組織の単細胞化方法に関する。 ペクチンは主に植物細胞の間隙に存在し、細胞同士の接着物質として機能している複合多糖であり、ペクチン分解酵素群はペクチナーゼと総称されている。 このペクチナーゼは、果汁の清澄化などの食品加工用途のみならず、近年では繊維の精練等の分野でも利用されており(例えば特許文献1)、さらには医薬品に応用する試みも行なわれている(例えば特許文献2)。このような需要の多様化に伴い、使用目的に応じて、種々の至適pHや温度特性等を有する新規なペクチナーゼが求められている。特開2009−35853号公報特開平9−315999号公報 ペクチナーゼの中でも、ある種の酵素は、植物細胞間隙に存在する不溶性ペクチン(プロトペクチン)を低分子化、断片化、若しくは可溶化することで植物組織を崩壊させ、単細胞を遊離させる活性(マセレーション活性、あるいはプロトペクチナーゼ活性とも呼ばれるが、以下、本明細書では「マセレーション活性」と呼ぶこととする。)を併せ持っている。一方、ペクチンの分解活性を有している酵素でも、マセレーション活性を有していない場合があり、また、両活性を有している場合でも、おのおのの作用する至適pHは異なる事がある。 マセレーション活性を有する酵素は、植物からのプロトプラストを調整する際に、セルラーゼと共に必須で、植物の基礎研究に欠かせない酵素である。ポリガラクツロナーゼ、ポリメチルガラクツロナーゼ等、ポリガラクツロン酸のα−1,4結合を加水分解する酵素や、ペクチンリアーゼ、ペクチン酸リアーゼ等、同結合をβ−脱離反応により分解するリアーゼのうちの何種かがマセレーション活性を併せ持つことが報告されている。 微生物の生産するこれらのマセレーション酵素によって植物組織が分解されて軟弱化する植物病害として、植物軟腐病が知られている。中でも、Erwinia 属由来のペクチン酸リアーゼが有名である(FLORENCE TARDY,WILLIAM NASSER,JANINE ROBERT-BAUDOUY,and NICOLE HUGOUVIEUX-COTTE-PATTAT,J.Bacteriol. 179,2503-2511(Apr.1997) )。 Erwinia 属ペクチン酸リアーゼはまた、そのマセレーション活性とペクチナーゼ活性の関連性についての詳細な研究も進められている。例えば、Erwinia chrysanthemi由来のペクチン酸リアーゼC(PelC)は、ペクチン酸リアーゼ活性とマセレーション活性を有するペクチナーゼであり、PelCと、後述の部位特異的突然変異誘発法を用いて作製した多種のPelCの1又は2アミノ酸変異体を比較した試験によって、それぞれの酵素が固有のペクチン酸リアーゼ活性と、そのペクチン酸リアーゼ活性に比例したマセレーション活性を有することが明らかとなっている(Nobuhiro Kita,Carol M.Boyd,Michael R.Garrett,Frances Jurnak,and Noel T.Keen,J.Biol.Chem.271,26529-26535(Oct25.1996) )。なお、報告されているペクチン酸リアーゼは、由来微生物に因らず、すべて至適pHがアルカリ側である。 マセレーション酵素の工業用酵素製剤は、Aspergillus 属糸状菌やRhizopus属糸状菌、Bacillus属など、主に微生物由来のものが利用されている。例えば、ペクトリアーゼY-23(登録商標:協和化成製)はAspergillus japonicus 由来のペクチンリアーゼ及びポリガラクツロナーゼを主要酵素とした研究用酵素製剤であり、マセレーション活性が強いことで良く知られている。ペクトリアーゼY-23は至適pHが5.5とされている。その他では、同じく強いマセレーション活性を有するマセロチームR10 (登録商標:ヤクルト薬品工業製)がよく使用される。マセロチームR10 は、ポリガラクツロナーゼ活性を有するペクチナーゼ製剤であり、至適pHは5.0とされている。これら基礎研究の分野でも、至適pH等が植物の特性に対応した新規のマセレーション酵素が望まれている。 また、植物の基礎研究のみならず、これらマセレーション酵素を利用して植物の単細胞化食品を製造する試みも行われている(例えば、特許文献3)。植物性機能性原料の製造工程に含まれるアルコール類を用いた抽出や熱水抽出と比較すると、植物のマセレーション酵素による単細胞化は、常温常圧で実施される穏和な工程であるため、環境に対する影響も少なく、さらには細胞壁と細胞膜によって細胞内成分のマスキング作用を有するために天然の植物成分が変性しにくく、風味もよくなるという利点がある。特開平9−75026号公報 ところが、従来、マセレーション酵素を利用して植物の単細胞化食品を量産する場合、酵素反応時に未分解組織が多く残ってしまうため、植物原料からの収率が低いことが問題となっていた。そのため、収率を上げるために、長時間の酵素処理を行うか、攪拌や打撃などの物理的処理を行う必要があった。 しかしながら、例えば常温の穏和な条件で1〜2日をかけて長時間酵素処理する場合には、原料中に残った有害微生物が酵素反応中で増殖してしまい、得られた植物細胞と有害微生物をフィルターで分離することは困難であるため、滅菌のために酵素反応液を100℃程度で加熱する必要があった。また、40℃程度で3〜5時間程度の短時間での酵素処理を行なう場合には、ある程度の強い攪拌や打撃を行う必要があった(例えば、酵素処理ユニットを構成する管内にその軸回りに回転可能に保持されるスパイラル状の攪拌部材を設ける構成につき、特許文献4)。これらの処理は、細胞内の脂質二重膜で構成される細胞膜を著しく破壊もしくは損傷してしまい、天然成分、特に水溶性成分を細胞内に保持する事を困難にする。特許第3986541号公報 本発明は、上記のような現状及び従来の問題点に鑑み、マセレーション酵素を利用して植物組織から単細胞を取得する際や、植物の単細胞化食品を量産する際に、植物原料からの収率を向上させることが可能で、長時間の酵素処理に伴う滅菌のための加熱処理等も、攪拌、打撃などの物理的処理も不要とした、新規なペクチンリアーゼ、ペクチンリアーゼ遺伝子、酵素調製物、及び植物組織の単細胞化方法を提供することを目的としている。 本発明者らは、上記の問題点を解決すべく、先ず、強いマセレーション活性を有するペクチナーゼを得ることができれば、酵素反応時間が短縮されて微生物の増殖を軽減したままで植物原料からの収率を向上させることができると考えた。一方、ペクチン分解物がpH5.0以下でE.coli、P.aeruginosa、S.aureus、B.subtilisに対して明白な抗菌活性を有すること(例えば、横塚弘毅, 松土俊秀, 櫛田忠衛, 稲峰成男, 中島智恭, 醗酵工学会誌62,1-7 (1984年 1月25日) )に注目し、ペクチン分解物を用いて微生物の生育阻害条件を検討したところ、微生物の生育が困難なpHが3.0付近の強酸性条件とペクチン分解物とを併用することで抗菌作用の相乗効果を生じることを見出した。 そこで、先ず、pH3.0の条件下で各種の市販マセレーション酵素を用いて単細胞化を試みたところ、微生物の生育阻害効果が確認されたが、一般生菌数が3,000/gを超えており、十分に実用的ではなかったため、より強い抗菌作用を有するペクチン分解物を効率的に生成するマセレーション酵素を検討する必要があった。 ペクチン分解物は、そのカルボキシル基のメチルエステル化度が高い方がより抗菌作用が強いことから、メチルエステル化度の高いペクチンに作用し易いマセレーション酵素が有効である。そこで、本発明者らは、pH3.0付近で強いマセレーション活性を持ち、かつ、メチルエステル化度が高いペクチン分解物を生成するような新規な酵素を生産することができれば、常温下の穏和な酵素反応条件の場合でも、ペクチン分解物の抗菌作用によって有害微生物の増殖を防ぐことができ、滅菌のための加熱処理等は不要となるため、細胞の状態、特に細胞膜を破壊もしくは損傷することがない植物単細胞化食品を安価に得ることができると考えた。 つまり、本発明が解決しようとする課題は、従来は、マセレーション酵素を利用して植物の単細胞化食品を量産する際に、pH3.0付近の強酸性条件下で十分に作用し、かつ、生成するペクチン分解物が強い抗菌作用を持つマセレーション酵素がなかった点である。 このようなマセレーション酵素は、強酸性条件下で生育する植物種の植物組織から新鮮な単細胞を高収率に取得する際にも有用である。また、本発明は、このマセレーション酵素をより大規模に利用する上で有用な、マセレーション酵素をコードする遺伝子、酵素調製物、植物組織の単細胞化方法を提供するものである。 上記の課題を解決するためになされた本発明のタンパク質、酵素調製物、遺伝子、植物組織の単細胞化方法は、以下の通りである。[1] 以下のa)〜g)の性質を有するタンパク質。 a)アスペルギルス属糸状菌(Aspergillus )が生産する b)マセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を有する c)分子量39,500 d)pH4.0におけるマセレーション比活性が7400/ (hr・mg) e)ペクチンリアーゼ活性の至適pHが4.5 f)121℃で15分間の煮沸処理で失活する、及び g)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるN末端を有する。[2] 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。[3] 上記[1]又は[2]に記載のタンパク質を含有する、ペクチンを分解することにより植物組織又は植物組織由来物を利用加工するための酵素調製物。[4] 上記[3]に記載の酵素調製物に、さらにセルラーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン酸リアーゼ、他のペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼのいずれか一以上の成分を含有させたことを特徴とする酵素調製物。[5] 上記[3]又は[4]に記載の酵素調製物をマセレーション酵素として使用する植物組織の単細胞化方法であって、ペクチン分解物の抗菌作用によって有害微生物の増殖を防いで滅菌加熱処理を不要とすべく、pH3.0〜3.5の酸性条件下で前記マセレーション酵素を前記植物組織に作用させて、植物組織を単細胞化する方法。[6] 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子。[7] 以下の(a) 又は(b) のDNAからなる遺伝子。 (a) 配列番号4に示される塩基配列からなるDNA (b) 配列番号4に示される塩基配列からなるDNAの全部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、マセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を有し、かつ、pH4.0におけるマセレーション比活性が7400/ (hr・mg)であるタンパク質をコードするDNA。[8] 配列番号3に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子。 本発明では、マセレーション活性の至適pHが3.5で、pH3.0付近の強酸性下でも強いマセレーション活性を有し、かつ、生成するペクチン分解物が強い抗菌作用を持つペクチンリアーゼが得られるので、常温下の穏和な酵素反応条件でも、ペクチン分解物の抗菌作用によって有害微生物の増殖を防ぐことができる。したがって、本発明を利用すれば、滅菌のための加熱処理は不要となり、攪拌、打撃等の物理的処理も不要となるので、細胞膜の破壊もしくは損傷を防止し、水溶性成分を細胞内に保持した植物の単細胞化食品を安価に量産することができる。 また、本発明は、強酸性下で生育する植物種の植物組織の単細胞化に利用すれば、その植物に適したpHであるため植物細胞にとって害が少ない上、微生物のコンタミネーションも軽減するため、新鮮な単細胞を高収率で取得することができる。また、新鮮な単細胞を高収率で取得できれば、その後の植物細胞培養など各種試験の際にも有利である。本発明のペクチンリアーゼの至適pH及びpH安定性を確認した試験結果を示すグラフであり、pH4.5(酢酸緩衝液)またはpH4.8(McIlvaine 緩衝液)での活性を1.0としたときの比活性と、(静置後の活性)/(静置前の活性)×100の計算式で評価したpH安定性を表したものである。本発明の酵素調製物のペクチンリアーゼ活性を確認した試験結果を示すグラフである。本発明のペクチンリアーゼが作用する温度領域を確認した試験結果を示すグラフであり、25℃における活性を1.0として活性比で表したものである。本発明のペクチンリアーゼのマセレーション活性の強さとpHの関係を確認した試験結果を示すグラフである。本発明のペクチンリアーゼのマセレーション活性の強さを評価するため、市販酵素製剤のマセレーション活性を測定した結果を示すグラフである。本発明のペクチンリアーゼのマセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を示すグラフである。本発明のペクチンリアーゼが生成するペクチン分解物の抗菌作用と殺菌作用を確認した試験結果を示すグラフである。(a)は、反応開始直後の試験液中で甘藷ディスクが全く崩壊していない状態の一例を、(b)は、試験液中で甘藷ディスクがほぼ均一に崩壊した状態の一例を示す図(写真)である。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、アスペルギルス属糸状菌からpH3.0付近の強酸性条件下で強いマセレーション活性を有する以下のa)〜g)の性質を有するタンパク質(ペクチンリアーゼ)を単離精製することに成功して、本発明を完成するに至った。これが請求項1に係る本発明である。 a)アスペルギルス属糸状菌(Aspergillus)が生産する b)マセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を有する c)分子量39,500 d)pH4.0におけるマセレーション比活性が7400/ (hr・mg) e)ペクチンリアーゼ活性の至適pHが4.5 f)121℃で15分間の煮沸処理で失活する、及び g)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるN末端を有する。 請求項1に係るタンパク質は、上記a)〜b)に記載のとおり、アスペルギルス属糸状菌に由来するマセレーション活性を有するタンパク質である。アスペルギルス属糸状菌の中では、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus Niger )が生産するものであることが好ましい。 また請求項1に係るタンパク質は、上記c)〜g)に記載のとおり、分子量39,500、pH4.0におけるマセレーション比活性が7400/ (hr・mg)、ペクチンリアーゼ活性の至適pHが4.5、121℃で15分の煮沸処理で失活するという特性を持ち、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるN末端を有するものである。 本発明者らは、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の生産するマセレーション活性を有するペクチンリアーゼを単離精製することに成功した。このペクチンリアーゼのN末端アミノ酸配列(配列番号1)は、後記するペクチンリアーゼ遺伝子(配列番号3及び配列番号4)によってコードされるアミノ酸配列(配列番号2)のN末端側の配列(配列番号2のアミノ酸1〜8)と同一であった。 よって、本発明のタンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。これが請求項2に係る本発明である。 本発明によって得られるペクチンリアーゼは、ペクチンの分解性能に優れており、ペクチンを含有する植物組織又は植物組織由来物の加工や利用性向上に適している。請求項3に係る本発明は、そのような酵素調製物を提供するものである。すなわち、本発明の酵素調製物は、上記に記載のタンパク質を含有する、ペクチンを分解することにより植物組織又は植物組織由来物を利用加工するための酵素調製物である。 さらに、請求項4に係る本発明は、上記に記載の酵素調製物に、さらにセルラーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン酸リアーゼ、他のペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼのいずれか一以上の成分を含有させたことを特徴とする酵素調製物である。 本発明のタンパク質を酵素調製物として利用する場合は、単独で使用することもできるし、上記のように、セルラーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン酸リアーゼ、他のペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼのいずれか一以上の成分を組み合せた酵素調製物として使用することもできる。何れを選択するかは、求められる機能に応じて適宜決定すれば良いが、他の酵素を組み合わせた酵素調製物を使用する場合は、ペクチナーゼとしての効果を一層増強することができる。 本発明の酵素調製物は、植物組織又は植物組織由来物の利用加工に使用することができる。ここで、植物組織又は植物組織由来物の範囲に特に限定はなく、全ての植物組織に適用することができる。本発明は、例えば食品分野では野菜や果実などを対象とすることができ、また、これらを加工した果汁、ピューレ、ペースト、絞り粕、抽出粕等にも適用できる。 請求項5に係る本発明の植物組織の単細胞化方法は、上記の酵素調製物をマセレーション酵素として使用する植物組織の単細胞化方法であって、ペクチン分解物の抗菌作用によって有害微生物の増殖を防いで滅菌加熱処理を不要とすべく、pH3.0〜3.5の酸性条件下で前記マセレーション酵素を前記植物組織に作用させて、植物組織を単細胞化する方法である。 以下、本発明を実施例を挙げて最良の形態と共に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 本発明者らは、pH3.0付近の強酸性条件下で効率的に作用するマセレーション酵素生産能を有する生物種を得ることができれば、該酵素の効率的生産に大きく貢献できるであろうと考えた。また、そのような生物種に由来するマセレーション酵素を単離・精製することができれば、pH3.0付近の強酸性条件下で、抗菌効果を有するペクチン分解物を効率よく生産して酵素反応時間の長短に関わらずに有害微生物の増殖を防いだまま、植物組織のマセレーションを可能にできると考えた。本発明は、このような発想に基づいてマセレーション活性を併せ持つペクチンリアーゼの生産能が高いことが見出されたアスペルギルス属糸状菌を用いて、完成されたものである。〔A〕本発明の実施に用いるマセレーション酵素産生微生物及び該微生物からのマセレーション酵素の取得 本発明では、マセレーション酵素を取得する生物起源として、アスペルギルス属糸状菌である微生物を用いる。本発明のこのような微生物としては、アスペルギルス属に属する糸状菌であればいかなる菌株をも用いることができるが、本発明者らが種々検討したところによると、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus Niger )を用いることが好ましく、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus Niger )のNBRC31125 株を用いることがさらに好ましい。 なお、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus Niger )は各種分譲機関から容易に入手することができる。例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus Niger )NBRC31125 株は、分譲機関独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NBRC)遺伝資源保存課から分譲を受けることができる。本発明において利用するこのようなアスペルギルス属糸状菌は、マセレーション活性を有するペクチンリアーゼの高い生産能を有する。〔B〕本発明のタンパク質(ペクチンリアーゼ)の単離 本発明のマセレーション酵素を得るためには、上記アスペルギルス属糸状菌を培養し、その培養物からマセレーション活性を有するタンパク質を単離すればよい。なお、本明細書において「培養物」とは、培養したアスペルギルス属糸状菌体を含有する培地を意味するものとする。培養に使用する培地は、アスペルギルス属糸状菌が生存し得る培地にペクチンを添加した培地であれば特に限定されない。例えば、ペクチン添加ポテト・デキストロース固体培地や、ペクチン添加小麦フスマ培地等を用いることができるが、本発明者らの知見によると、ペクチン添加小麦フスマ培地を用いるのが最も好ましい。 アスペルギルス属糸状菌から本発明のペクチンリアーゼを得る方法としては、例えば以下の第1〜第4工程からなる方法を用いることができる。 先ず、アスペルギルス属糸状菌を培地(例えばペクチン添加小麦フスマ培地等)中で25〜35℃、pH5.0〜7.0の範囲で40〜48時間培養し(第1工程)、その培養物を遠心分離にかけて菌体と培養上清とに分離し(第2工程)、さらにその培養上清をイオン交換若しくはゲルろ過等のクロマトグラフィー、硫安塩析及び/又はエタノール等の有機溶媒沈澱等に供して含有タンパク質を画分として分離し取得する(第3工程)。 第3工程を更に具体的に説明すると、例えば、第2工程で分離した培養上清をろ過滅菌して得た無菌上清を透析チューブに入れ、開始緩衝液に対して1昼夜透析したものを粗酵素液とし、これを開始緩衝液で十分に平衡化した陰イオン交換カラムにロードして同緩衝液にて十分に洗浄した後、緩衝液のイオン強度をNaClを用いて変化させて、ステップワイズ法にてタンパク質を分画する。 次に、分離したタンパク質画分についてマセレーション活性の存在を検出して、マセレーション酵素を含む酵素画分を選択的に得ることができる(第4工程)。この第4工程におけるマセレーション酵素の存在の検出は、例えば、タンパク質画分がマセレーション活性を有することを確認することにより行うことができるが、マセレーション活性を有するタンパク質がペクチンリアーゼ活性を併せ持つ場合、まずペクチンリアーゼ活性を有することを確認したのち、ペクチンリアーゼの存在する酵素画分のマセレーション活性の有無を確認してもよい。 マセレーション活性の測定法としては、例えば、甘藷ディスクを酵素液中に浸漬し、該酵素の作用によって不溶性ペクチンが分解された結果、酵素液中に甘藷ディスクが均一に崩壊するまでの時間を計測する方法を用いることができる。あるいは、他の公知の方法を用いても良い。 ペクチンリアーゼ活性の測定法としては、例えば、該酵素の作用によって基質が分解された結果、生成される不飽和ポリガラクツロニドの極大吸収波長である235nmの吸光度を経時的に計測する方法を用いることができる。あるいは、他の公知の方法を用いても良い。〔C〕マセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性の測定方法 以下に、本実施例で使用したマセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性の測定方法を一例として説明する。1.マセレーション活性 甘藷の中心部からコルクボーラーで直径6mmのカラムを打ち抜き、ナイフで厚さ約0.3mmの甘藷ディスクを作った後、70%エタノール中に60秒間浸漬し、蒸留水で洗浄する。試験管にHClを用いてpHを3.5に調整した酵素液を300μl、50mM酢酸緩衝液(pH3.5)200μlを入れて混合した後、30℃で恒温にしておき、そこに上記甘藷ディスクを3枚入れて反応を開始する。反応開始後、15分置きに試験管ミキサーで10秒攪拌を行い、崩壊の程度を肉眼で観察し、甘藷ディスク3枚のうち、2枚がほぼ均一に崩壊するのに要した時間の逆数でマセレーション活性の強さを表す(参考文献:菅沼俊彦, 福元哲郎, 池水陽子, 中間勝之, 藤本滋生, 永浜伴紀, 鹿兒島大學農學部學術報告37,89-98 (1987年 3月16日) )。2.ペクチンリアーゼ活性(1)酵素反応液の準備 まず、NaOH又はHClを用いてpH4.5に調整した2%重量ペクチン(シトラス由来:SIGMA 社製 P9436)溶液50μl 、酵素液50μlを準備する。先に2%重量ペクチン溶液50μlを400μlの50mM酢酸緩衝液(pH4.5)と混合して合計450μlとなるように調整し、活性測定時に酵素液50μlを入れて総量500μlの酵素反応液とする。なお、基質の反応液中での均一な分散及び安定化のために、あらかじめNaClを終濃度0.1M となるように添加しておく。(2)酵素活性の測定 酵素液、及び酵素液を除いた酵素反応液は、それぞれ25℃で10分間インキュベートした後、酵素液を除いた酵素反応液450μlに、酵素液50μlを混合して酵素反応を開始し、分光光度計を用いて235nmの吸光度を25℃の条件下で連続的に10分間計測する。生成した不飽和ポリガラクツロニド量は235nmにおける分子吸光係数5200(M -1cm-1)(Paloma SANCHEZ-TORRES, Jaap VISSER and Jacques A.E. BENEN, Biochem.J. 370,331-337(Feb15.2003) )を用いて算出し、ペクチンリアーゼ活性1単位(1U)は、1分間に1μmolの不飽和ジガラクツロニド相当の不飽和ポリガラクツロニドを生成する量とする。 このようにして、第4工程では、各タンパク質画分についてマセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性の検出及び定量を行う。また、以上のようにして得たマセレーション活性を有するペクチンリアーゼを含むタンパク質画分は、例えばQ-Sepharose HIGH PerformanceカラムやMono Qカラム(GEヘルスケアサイエンス製)等を使用してさらなる精製をおこなってもよい。そのような精製により、該画分に含まれるマセレーション活性を有するペクチンリアーゼをさらに精製して得ることができる。〔D〕本発明のペクチンリアーゼの性質を確認した各種試験 本発明に係るペクチンリアーゼの性質を確認するため、分子量の測定、N末端アミノ酸配列の分析、カイネティクス分析、至適pH、pH安定性の確認試験、最高温度の確認試験、金属イオンによる影響の確認試験、マセレーション活性の測定試験を行い、またペクチンリアーゼ活性とマセレーション活性の関係について調べると共に他のペクチンリアーゼとの比較を行い、さらにペクチン分解物の抗菌試験を行った。最初に、これらの試験に使用した実施例1のペクチンリアーゼを得るための、菌の培養、粗酵素液の調製、ペクチンリアーゼの単離精製の方法について説明する。[実施例1](1)菌の培養 小麦フスマ100gに等量の精製水、2gのペクチンを添加し均一に混ぜ合わせた後、NaOHを用いてpH7.0に調整し、底面が20cm×30cmのバットに均一に広げ、121℃×15分オートクレーブにて滅菌して小麦フスマ培地を作成した。この培地に、ポテト・デキストロース寒天培地(ニッスイ製)で前培養して得られたアスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の分生子を、表面積1cm2 あたり270個摂種して、30℃にて46時間培養した。(2)粗酵素液の調製 培地に3倍量の精製水(1%NaClを含む)を添加して4℃にて3時間、酵素抽出を行い、抽出した溶液をろ紙にて濾過し、濾液の遠心分離上清を集めた。この遠心分離上清に硫酸アンモニウムを90%飽和となるように溶解し、1晩4℃にて静置した後、遠心分離して生じた沈殿物を回収し、少量の20mMリン酸緩衝液(pH6.2)に再度溶解させて濃縮液とした。この濃縮液を同緩衝液に対して1昼夜透析して粗酵素液を得た。粗酵素液のタンパク質の総量をブラッドフォード法にて算出したところ、9.01mgであった。上記の方法による粗酵素液のペクチンリアーゼ比活性は、0.889U/mgであった。(3)ペクチンリアーゼの単離精製 得られた粗酵素液を、20mMリン酸緩衝液(pH6.2)にて十分に平衡化したDEAE-sepharose fast flowカラムにロードし、同緩衝液にてカラムを洗浄した後、NaClを0−1Mとなるように加えた同緩衝液を用いて、ステップワイズ法により酵素の溶出を行った。溶出するタンパク質量は各画分の280nmの吸光度をモニターして決定し、酵素活性は上記の方法を用いてペクチンリアーゼ活性を測定した。ペクチンリアーゼ活性を有するタンパク質は、非吸着部分及び0.4MNaClを含むリン酸緩衝液にて溶出された。 次に、ペクチンリアーゼ活性の確認されたたんぱく質画分を回収して混合し、同緩衝液に対して1昼夜透析したものを、同緩衝液にて十分に平衡化したQ-Sepharose HIGH Performanceカラム(GEヘルスケアサイエンス社)にロードし、同緩衝液にて十分洗浄したのち、同緩衝液のNaCl濃度が0.3〜0.6Mとなるグラジエント溶出法によって酵素の溶出を行った。ペクチンリアーゼ活性の確認されたタンパク質画分のうち、上記の方法を用いてマセレーション活性の確認されたタンパク質画分を回収し、同様に透析を行った後、再度Q-Sepharose HIGH Performanceカラムを用いて同条件下で酵素の溶出を行なった結果、NaCl0.43M にて単離精製されたマセレーション活性を有するペクチンリアーゼが溶出された。単離精製の完了は、SDS-PAGE(10%ポリアクリルアミドゲル)にて1本のバンドであることを確認することによって行った。精製されたマセレーション活性を有するペクチンリアーゼの、上記の方法によるペクチンリアーゼ比活性は54.7U/mgとなり、上述の粗酵素液のおよそ61倍であった。 上記のように単離精製して得られた実施例1のペクチンリアーゼの種々の性質を、以下のとおり確認した。(4)分子量の測定 精製されたマセレーション活性を有するペクチンリアーゼの分子量は、上述のSDS-PAGE(10%ポリアクリルアミドゲル)の結果から、約39,500と推定された。このとき用いた分子量マーカーは、「第一」・II(第一化学薬品社製)であり、該マーカーが示す基準分子量は200kDa 、116kDa 、66kDa 、42kDa 、30kDa 、17kDa である。 なお、本明細書における「分子量」は、質量分析法、光散乱法、SDS-PAGE等の当業者に公知の分子量測定法により測定した値であってよいが、より好ましくはSDS-PAGEで測定した値を用いる。但し、分子量測定においては、測定値にある程度の誤差を生じることは避けられない。したがって、本明細書において「分子量39,500のタンパク質」という場合は、SDS-PAGEによる測定で39, 000〜40,000の測定値を示すタンパク質を包含するものとする。(5)N末端アミノ酸配列の分析 単離・精製されたマセレーション活性を有するペクチンリアーゼを、SDS-PAGEを行った後にPVDF膜に転写した。PVDF膜上の精製されたマセレーション活性を有するペクチンリアーゼを含む膜をナイフで切り取ってサンプルとし、プロテインシーケンサー(Procise 494 HT Protein Sequencing System)にてマセレーション活性を有するペクチンリアーゼのN末端アミノ酸配列の分析を行った。分析の結果、8アミノ酸が決定された。その配列は後記配列番号1に示した。(6)カイネティクス分析 単離・精製されたマセレーション活性を有するペクチンリアーゼのペクチン(シトラス由来、エステル化度<90%、:SIGMA社製 P9561)に対するKm値を確認するため、pH4.8に調整したMcIlvaine 緩衝液(0.1Mクエン酸、0.2Mリン酸)を使用して、ペクチンの終濃度を変化させたときの酵素活性を測定した。結果は、ラインウィーバー−バークのプロットより、Km値が5.4mg/ml、Vmax値が140U/mgと算出された。(7)ペクチンリアーゼの至適pH、及びpH安定性の確認試験 アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の生産するマセレーション活性を有するペクチンリアーゼの、ペクチンリアーゼ活性の至適pHを調べるため、pHを修正した上述の酵素反応液(上記〔C〕2.(1)で例示した酵素反応液)を使用して各pHにおける酵素活性を測定した。 なお、pH6.0〜7.5の酵素反応液には20mMリン酸緩衝液を、pH7.5〜9.5の酵素反応液には50mMトリス−HCl緩衝液を使用した。pH3〜6の範囲では、McIlvaine 緩衝液を使用した場合のペクチンリアーゼ活性も同様に測定した。さらに、酵素のpH安定性を調べるため、HCl又はNaOHを用いて精製された酵素を含む酵素液のpHを3.0,4.0,5.0,6.0,7.0,8.0,9.0,10.0となるように調整し、それぞれの酵素液を4℃で24時間静置した後のペクチンリアーゼ活性を25℃において50mM酢酸緩衝液(pH4.5)を使用して測定した。 pH安定性は、(静置後の活性)/(静置前の活性)×100で評価した。その結果、pH4.5でのペクチンリアーゼ活性を1.0としたときの各pHにおけるペクチンリアーゼ比活性、及びpH安定性は、図1のグラフに示す通りとなった。本発明に係るペクチンリアーゼ活性の至適pHは、酢酸緩衝液中で4.5、McIlvaine 緩衝液中で4.8であり、pH3〜6の範囲で安定であることが確認された。 さらに30℃の条件下で、McIlvaine 緩衝液を用いてpH3.0〜7.0の範囲内で、KClを使用して各緩衝液のイオン強度を0.5に修正したときのペクチンリアーゼ活性を測定した。その結果は図2に示すようになり、至適pHは4.8、ペクチンリアーゼ比活性は102U/mgであった。(8)ペクチンリアーゼの最高温度の確認試験 アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の生産するマセレーション活性を有するペクチンリアーゼの作用する温度領域を調べるため、上述の酵素反応液(上記〔C〕2.(1)で例示した酵素反応液)を使用して25℃〜65℃の範囲の各温度におけるペクチンリアーゼ活性を測定した。25℃における活性を1.0として、各温度における活性は図3のグラフに示す通りとなった。また、本酵素は121℃15分の煮沸処理により完全に失活した。(9)金属イオンによる影響の確認試験 アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の生産するマセレーション活性を有するペクチンリアーゼの、ペクチンリアーゼ活性の金属イオン(Ca2+、Ba2+、Co2+、Cu2+、Mg2+、Mn2+、Zn2+、Fe2+)による影響を検討した。 試験方法は、各金属の塩化物を使用し、酵素反応液中の終濃度が1mMとなるように調整し、添加の有無で活性の変化率を算出した。酵素反応液は50mM酢酸緩衝液、pH4.5を使用し、25℃、10分間の測定によって決定した。結果は以下の表1に示すようになった。Ca2+の添加によって活性は120%となったが、Ba2+、Co2+、Mg2+、Mn2+、Zn2+の添加は活性にほとんど影響を与えなかった。また、Fe2+、Cu2+の添加によって活性は著しく阻害された。 次に、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の生産するマセレーション活性を有するペクチンリアーゼのマセレーション活性について説明する。(10)マセレーション活性の測定試験 甘藷(約500g)の中心部からコルクボーラーで直径6mmのカラムを打ち抜き、ナイフで厚さ約0.3mmの甘藷ディスクを作った後、70%エタノールに60秒間浸漬し、蒸留水で洗浄した。試験管に精製した酵素液(1.30μg/ml)を300μl、緩衝液200μlを入れて混合した後30℃で恒温にしておき、そこに上記甘藷ディスクを3枚入れて反応を開始した。 緩衝液は、pH3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,6.0を50mM酢酸緩衝液、pH7.0を50mM HEPES緩衝液、pH8.0、9.0を50mMトリスHCl緩衝液で調整した。反応開始後、15分置きに試験管ミキサーで10秒攪拌を行い、崩壊の程度を肉眼で観察した。甘藷ディスク3枚のうち、2枚がほぼ均一に崩壊するのに要した時間の逆数でマセレーション活性の強さを表した。 結果は図4のグラフに示す通りとなった。pH6.0,7.0,8.0,9.0では全く崩壊が起こらなかったが、pH5.0以下にマセレーション活性が確認され、上述のマセレーション活性の至適pHは3.5付近であり、精製されたマセレーション活性を有するペクチンリアーゼ390ngあたりのマセレーション活性は0.15(1/hr)であった。 また、本発明のペクチンリアーゼのマセレーション活性の強さを評価するため、比較例として、マセロチームR10 、ペクトリアーゼY-23の2種類の市販酵素製剤を、酵素液中のタンパク質量がそれぞれ1.30μg /mlとなるように精製水に溶解して調整し、同様の試験に供した。以上の結果をまとめると図5に示したようになった。 至適pH及びタンパク質390ngあたりのマセレーション活性は、マセロチームR10 がpH4.0,0.0088(1/hr)、ペクトリアーゼY-23がpH5.0,0.0134(1/hr)であった。精製された本発明のマセレーション活性を有するペクチンリアーゼの、pH3.0におけるマセレーション比活性は、マセロチームR10 の27.7倍、ペクトリアーゼY-23の15.6倍であり、pH3.0の酸性条件下で、これら既存の市販酵素製剤と比べて極めて効率よい植物組織のマセレーションを可能にすることが確認された。(11)ペクチンリアーゼ活性とマセレーション活性の関係及び他のペクチンリアーゼとの比較 つぎに、本発明のペクチンリアーゼのマセレーション活性とペクチンリアーゼ活性の関係を調べるため、pH3.0からpH7.0の範囲でペクチンリアーゼ活性及びマセレーション活性を測定した。 比較対照として、Aspergillus niger N400株(=CBS120.49=NRRL3 =JCM12729)の産出するペクチンリアーゼA(PLA=PLII)を使用し、同様にペクチンリアーゼ活性及びマセレーション活性を測定した。PLAは、Aspergillus nigerN400 株を〔D〕(1)、(2)に示した方法に従い、ペクチンを添加した最小培地で30℃で48時間培養して粗酵素液を作成し、(3)に示した方法に従って、SDS-PAGE(10%ポリアクリルアミドゲル)にて1本のバンドとなるまでペクチンリアーゼの精製を行うことによって取得した(参考文献:J.A.M.Harmsen,M.A.Kusters-van Someren,and J.Visser,Curr Genet 18,161-166 (Aug.1990) )。なお、精製されたペクチンリアーゼがPLAであることは、SDS-PAGEによる推定分子量が38.5kDaであり、Paloma SANCHEZ-TORRES らの報告(Paloma SANCHEZ-TORRES, Jaap VISSER and Jacques A.E. BENEN らの報告, Biochem.J. 370,331-337(Feb15.2003))にあるN400株PLAとpH依存性及び比活性がほぼ一致したことで確認した。また、PLAは、高活性を有する市販ペクチナーゼ製剤として知られるUltrazyme (Novo社製)に含有されている主要酵素であるとされる(Margo A. Kusters-van Someren, Jan A. M. Harmsen, Harry C. M. Kester and Jaap Visser, Curr Genet 20,293-299,(Sep.1991) )が、PLAのマセレーション作用に関する報告はこれまでにない。 ペクチンリアーゼ活性は、以下のようにして測定した。まず、酵素反応液には、McIlvaine 緩衝液を使用し、基質としてHMペクチン(シトラス由来、エステル化度<90%、:SIGMA 社製p9561 )を終濃度3mg/mlとなるように使用した。酵素反応液のイオン強度はKClを用いてI=0.3または0.5にあらかじめ調整しておき、酵素液は50μl、酵素反応液の総量は500μlとした。次に、30℃の条件下で行った以外は上記〔C〕2(2)と同様にして測定を行った(参考:Paloma SANCHEZ-TORRES, Jaap VISSER and Jacques A.E. BENEN, Biochem.J. 370,331-337(Feb15.2003) )。 マセレーション活性は、以下のようにして測定した。まず上記と同様に甘藷ディスクを調整した。次に試験管に酵素液50μl、緩衝液450μlをいれて混合した後45℃で恒温にして試験液とし、そこに甘藷ディスクを1枚入れて反応を開始した。緩衝液は、McIlvaine 緩衝液を使用し、試験液(合計500μl)のイオン強度がI=0.3または0.5になるようにKClを用いてあらかじめ調整しておいた。反応開始後、上記と同様に攪拌を行い、崩壊の程度を肉眼で観察した。各条件3検体ずつ調整し、同一条件の3検体の反応は同時に開始した。同一条件の3検体の甘藷ディスク(合計3枚)のうち、いづれか2枚の甘藷ディスクがほぼ均一に崩壊するのに要した時間の逆数を、その条件下のマセレーション活性の強さとした。なお、図8(a)は、反応開始直後の試験液中で甘藷ディスクが全く崩壊していない状態の一例を、図8(b)は、試験液中で甘藷ディスクがほぼ均一に崩壊した状態の一例を示した図(写真)である。 測定の結果、本発明のペクチンリアーゼのペクチンリアーゼ活性とマセレーション活性の至適pHはI=0.3のとき4.0で一致、I=0.5のとき5.0で一致した。McIlvaine 緩衝液を使用した場合、本発明のペクチンリアーゼ、N400株PLA共にHMペクチンの分解にはI=0.5が、マセレーションにはI=0.3が適していた。 また、マセレーション比活性は、本ペクチンリアーゼ1mgあたり7400(1/(hr・mg))、N400株PLA1mgあたり2542(1/(hr・mg))と、本ペクチンリアーゼはN400株PLAのおよそ3倍の活性を有していた。一方、ペクチンリアーゼ比活性は本ペクチンリアーゼ1mgあたり102(U/mg)、N400株PLA1mgあたり110(U/mg)と同等であった。両酵素1mgのペクチンリアーゼ活性に対するマセレーション活性の比(=マセレーション活性/ペクチンリアーゼ活性)はそれぞれ、本発明のペクチンリアーゼが72.5、N400株PLAが23.1であり、本発明のペクチンリアーゼは、そのペクチンリアーゼ活性の強さから予測されるよりも極めて強いマセレーション活性を有することが確認された。 図6は、本実施例のペクチンリアーゼと比較例のN400株PLAについて、それぞれタンパク質1mgあたりのペクチンリアーゼ比活性(I=0.5)とマセレーション比活性(I=0.3)を測定した結果を示すグラフである。◆は本実施例のペクチンリアーゼのペクチンリアーゼ活性(平均値±標準偏差、N=5)を、○は本実施例のペクチンリアーゼのマセレーション活性を、▲は比較例(N400株PLA)のペクチンリアーゼ活性(平均値±標準偏差、N=5)を、△は比較例(N400株PLA)のマセレーション活性を示している。 この結果により、本発明のペクチンリアーゼは、Aspergillus niger N400株PLAの約3倍強いマセレーション活性を有することが示された。本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼは、後述のようにN400株PLAと9アミノ酸が異なるPLA変異体であるが、タンパク質1mgあたりのマセレーション比活性がN400株PLAの約3倍強いため、植物組織のマセレーションの際に特に有利である。(12)ペクチン分解物の抗菌試験 マセレーション活性を有する本発明のペクチンリアーゼを使用して、ペクチンからペクチン分解物を生成する酵素反応を行い、得られるペクチン分解物の抗菌作用を評価した(参考文献:横塚弘毅, 松土俊秀, 櫛田忠衛, 稲峰成男, 中島智恭, 醗酵工学会誌62,1-7 (1984年 1月25日) )。(i) ペクチン分解物の作成 50mM酢酸緩衝液8.5mlに、滅菌水に溶解させた3%ペクチン水溶液1ml(SIGMA 社製:メトキシル化度<68%、p9436 )を加え、最後に酵素液0.5ml(精製されたマセレーション活性を有する本発明のペクチンリアーゼ500ng:pH3.0におけるマセレーション活性=0.18(hr-1) )を加えて酵素反応液とした。 比較対照の酵素液として、2%マセロチームA(登録商標:ヤクルト薬品工業製)溶液0.5ml(pH3.0におけるマセレーション活性=0.18(hr-1) )と、0.16%ペクトリアーゼY-23溶液0.5ml(pH3.0におけるマセレーション活性=0.18(hr-1) )を使用した。これら酵素液のマセレーション活性は全てpH3.0において0.18(hr-1) であり、市販酵素製剤の試験液中の終濃度はマセロチームAで0.1%、ペクトリアーゼY-23で0.008%と、植物のマセレーションの際に通常に使用される濃度である。市販酵素溶液は、滅菌水にそれぞれの粉末を溶解した後、減菌済みディスポーザブルメンブランフィルター(Whatman 社、ポアーサイズ0.45μm)で濾過した濾液を使用した。なお、それぞれの濾液のマセレーション活性は濾過前と同一であった。 上記酵素反応液を30℃で6時間静置し、湯浴上で10分間加熱して酵素を失活させた後にそれぞれの反応液を0.45μmのフィルターで限外濾過した濾液の凍結乾燥粉末をペクチン分解物とした。なお、酢酸緩衝液はpH3.0、4.0、5.0の3種を用い、各pHでの反応によるペクチン分解物を作製した。また、酵素液のかわりに滅菌水を0.5ml添加し、その他はすべて同様にして作製した凍結乾燥粉末をコントロール(未分解ペクチン)とした。(ii)抗菌試験液の作製 抗菌作用測定の指標菌としてBacillus subtilis ATCC6633株を使用し、30℃で24時間振盪培養したものを菌液(28,000CFU/ml)として実験に使用した。次に、終濃度がそれぞれ、乾燥酵母エキス(ナカライテスク社)2.5g/L、ペプトン(和光純薬社)5.0g/L、D-(+)-グルコース1.0g/L(ナカライテスク社)となる液体培地を作成した。この液体培地は50mM酢酸緩衝液を使用し、pHが3.0、4.0、5.0となるよう調整して121℃×15分の加熱を行なった。加熱後も培地のpHに変化はなかった。 上記液体培地9.0mlに、液体培地と同じpHで反応させて作製した上記ペクチン分解物もしくは未分解ペクチンの総量を溶解させた後、上記菌液の1/10希釈液1ml(2,800CFU/1ml)を加えて抗菌試験液とした。(iii) 試験 培養は30℃での静置培養とし、培養開始直後及び6時間後に各試験液の一般生菌数をpH7.0の寒天培地(一般生菌数測定用標準寒天培地:ニッスイ)を用いて測定した。菌数は混釈平板培養法で、試験液またはその希釈液を接種して35℃で48時間培養して計測した。この方法で測定した場合、試験液に接種した菌液(1/10希釈液、1ml)と試験開始直後の試験液とで、菌の総数および確認されたコロニーの面積に差異はなかった。以上の本試験に使用した菌が対数増殖期であることは、pH5.0のコントロールの菌数を6時間後、12時間後、24時間後に測定することで確認した(倍加時間:約80分)。図7は、各酵素液及びコントロールの試験液の一般生菌の増加数(=(各試験液中の一般生菌数)−(接種した一般生菌数))を示したグラフである。同グラフには、各条件5検体の平均値±標準偏差を示した。 また、以下の表2は、上記各酵素液の生育阻害率(=(一般生菌の増加数)÷((対応するpHのコントロールの一般生菌数)−(接種した一般生菌数))×100)を示したものである。一般生菌の増加数が負の値となった場合には生育阻害率を100%とし、殺菌作用があると判断した。表2中、殺菌作用が確認された試験液に関しては、括弧内に殺菌率(=(接種した一般生菌数)−(各試験液の一般生菌数))÷(接種した一般生菌数)×100)を示した。 本試験の結果、pH3.0、4.0の条件下で、本発明のペクチンリアーゼによるペクチン分解物に殺菌作用が確認され、その強さは、今までに報告はなかったが、pH4.0の条件下で殺菌作用が確認されたペクトリアーゼY-23によるペクチン分解物の4倍以上であった。マセレーション活性を有する本発明のペクチンリアーゼを使用することで、そのペクチン分解物の殺菌作用と抗菌作用によって、他の既存酵素によるペクチン分解物より効率的に有害微生物の成育阻害及び減菌または滅菌が可能となる。 本発明のペクチンリアーゼを使用した場合、pH3.0〜4.0の範囲であれば、例え酵素反応中に反応液のpHに変動があった場合でも微生物の増殖を防いだ状態で酵素反応を行なうことが可能であり、さらにはペクチン分解物の殺菌効果によって反応液を減菌または滅菌することができる。なお、本発明のペクチンリアーゼを使用して、ペクチン分解物を生産する際には、本ペクチンリアーゼが作用する基質として植物から抽出したペクチンを使用してもよいし、細胞間隙にペクチンを含有する植物体そのものを使用してもよい。 以上のとおり、本発明の1つの実施形態は、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株が産生するマセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を有するタンパク質であって、分子量が39,500の、N末端が配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。また、このタンパク質は、マセレーション活性の至適pHが3.5であり、ペクチンリアーゼ活性の至適pHが4.5であり、121℃で15分間の煮沸処理で失活し、さらにpH3〜6の範囲でペクチンリアーゼ活性を明らかに有するという性質を有することが確認された。 また、酵素反応溶液のイオン強度をI=0.3に調整した場合、本発明のタンパク質のペクチンリアーゼ活性とマセレーション活性の至適pHは4.0で一致し、至適pHにおけるタンパク質1mgあたりのマセレーション比活性は既知のペクチンリアーゼであるアスペルギルス・ニガーN400株PLAに比べて約3倍強いことが確認された。さらに、本発明のタンパク質によって生成されるペクチン分解物は、pH3.0〜4.0の範囲で強い抗菌及び殺菌作用を有することが確認された。 なお、本明細書において、タンパク質が「マセレーション活性を有する」とは、該タンパク質が植物組織中の不溶性ペクチンに作用し、植物組織から単細胞を遊離させる活性を有することを意味し、「ペクチンリアーゼ活性を有する」とは、該タンパク質がβ−脱離反応でポリガラクツロン酸のα−1,4結合を切断し、非還元末端にC4−C5不飽和結合を形成する活性を有することを意味する。これらの活性は、例えば上記〔C〕の方法を用いて測定することができるが、他の公知の方法により測定しても良い。〔E〕本発明のタンパク質をコードする遺伝子 次に、本発明のタンパク質をコードする遺伝子について説明する。本発明のペクチンリアーゼ遺伝子は、本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼをコードする遺伝子である。遺伝子の種類は特に限定されず、天然由来のDNA、組み換えDNA、化学合成のDNAの何れでもよく、また、cDNAクローン、ゲノムDNAクローンの何れでもよい。「本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼをコードする遺伝子」とは、発現させたときに本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼを産出することが出来るDNA断片を意味しており、限定するものではないが、具体的には上記の本発明のマセレーション活性を有するペクチンリアーゼをコードするcDNAを含むDNA断片であってもよいし、本発明のマセレーション活性を有するペクチンリアーゼをコードするゲノムDNA断片であってこのコード領域にイントロンを含むものであってもよい。なお、本明細書において、「DNAより構成される遺伝子」「DNAから構成される遺伝子」とは、「DNAからなる遺伝子」と同じ意味をさす。 本発明者らは、本発明のマセレーション活性を有するペクチンリアーゼをコードする遺伝子を取得することに成功した。すなわち、前述の方法に従ってアスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の生産するマセレーション活性を有するペクチンリアーゼを取得・精製し、そのN末端アミノ酸配列(配列番号1)を決定した。 次に、本発明者らは、RT-RCR法によって、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株から得られた全RNAを鋳型としてcDNAを作製し、そのcDNAを鋳型として上記N末端アミノ酸配列(配列番号1)から推定されるディジェネレートプライマーを用いてPCRを行い、目的の本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼ遺伝子の一部増幅断片を得た。続いてこの一部増幅断片の塩基配列を常法により決定した。得られた塩基配列は、配列番号4に示すとおりであった。 さらに、本発明者らは、この一部増幅断片を用いて、ゲノムDNA中に存在する本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼ成熟タンパク質をコードする部分遺伝子(N末端をコードする部分から終止コドンまで)をクローニングすることに成功した。このゲノムDNA中のマセレーション活性を有するペクチンリアーゼ遺伝子の塩基配列を、配列番号3に示す。 このような配列番号3に示される塩基配列からなるDNAは、配列番号2に示される本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼをコードする遺伝子である。配列番号3に示される塩基配列からなるDNAは、4つのイントロン(配列番号3の塩基288 〜341 、468 〜513 、611 〜668 、903 〜953 )を含んでいる。したがって、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAを真核細胞、好ましくは糸状菌、より好ましくはアスペルギルス属糸状菌の細胞中において発現させると、該DNAから転写されたmRNAがスプライシングにより上記イントロンが除去されて成熟mRNAとなり、その成熟mRNAが翻訳されて配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるマセレーション活性を有するペクチンリアーゼが産生され得る。 このようにして、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAを用いて、本発明のマセレーション活性を有するペクチンリアーゼを生産することが可能である。また、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAは、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号3に示される塩基配列に基づいて適宜設計・作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いたPCR によって目的のDNA断片を増幅することにより、取得することができる。プライマーの設計・作製及びPCR 反応条件設定は、当業者により最適化される。本発明の遺伝子は、このような配列番号3に示される塩基配列からなるDNAから構成される遺伝子を包含する。 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペクチンリアーゼはまた、配列番号4に示される塩基配列を有するcDNAにもコードされている。したがって、配列番号4に示される塩基配列からなるDNAを原核細胞及び/または真核細胞の細胞中において発現させると、該DNAから転写されたmRNAが翻訳されて配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるマセレーション活性を有するペクチンリアーゼが産出され得る。よって、配列番号4に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子も、本発明の遺伝子に包含される。この配列番号4に示される塩基配列からなるDNAは、該塩基配列の5' 側配列及び3' 側配列に基づいて設計・作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株から抽出した全RNAより作製したcDNAを鋳型としてPCR を行うことにより、目的のDNA断片を増幅して取得することができる。 しかしながら、本発明のペクチンリアーゼ遺伝子は、上記のようにして得られた配列番号3又は4に示される塩基配列からなるDNAより構成されるものには限定されない。より一般的には、本発明におけるマセレーション活性を有するペクチンリアーゼ遺伝子は、本発明のマセレーション活性を有するタンパク質をコードするものである。従って、本発明の遺伝子はさらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子を包含する。 本発明のペクチンリアーゼ遺伝子はまた、配列番号4に示される塩基配列からなるDNAの全部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、マセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を有し、かつ、pH4.0におけるマセレーション比活性が7400/ (hr・mg)であるタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子を包含する。本発明で、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。 上述のような本発明のペクチンリアーゼ遺伝子は、それぞれ化学合成によって、又はクローニングされたcDNA、cDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーを鋳型としたPCR 法などの核酸増幅反応等によって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてcDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーに対してハイブリダイズさせることによって、取得することもできる。cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等が由来する生物は、限定されるものではないが、アスペルギルス属糸状菌、特にアスペルギルス・ニガーに属する生物であることが好ましく、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株が最も好ましい。 また、本発明のペクチンリアーゼ遺伝子は、天然源から単離されたペクチンリアーゼ遺伝子の塩基配列を、部位特異的突然変異誘発法等の変異導入法を用いて改変することにより作製することもできる。変異導入には、Kunkel法、Gapped duplex 法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えば、Mutan(R)-K、Mutan(R)-Express Km 、若しくはMutan(R)-Super Express Km シリーズ、又はLA PCRTM in vitro Mutagenesis シリーズキット(いずれもタカラバイオ株式会社製))を用いて変異の導入が行われる。なお、得られた本発明のペクチンリアーゼ遺伝子については、塩基配列決定によりその配列を確認することが好ましい。塩基配列決定は公知手法(例えばABI 社製DNA シークエンサー等の自動塩基配列決定装置を用いる等)によって行うことができる。さらに、部位特異的突然変異誘発法等により変異を導入することによって本発明の遺伝子を改変して、マセレーション活性を有するタンパク質をコードする変異型遺伝子を作製することもできる。本発明の遺伝子をこのような変異導入方法を用いて改変したものであっても、上述の本発明の遺伝子の範囲に包まれるものは、本発明の遺伝子に包含される。〔F〕組換えベクターの作製 本発明によればさらに、本発明のペクチンリアーゼ遺伝子を含む組換えベクターが提供される。本発明の遺伝子は、取り扱いの便宜上、ベクター中にクローニングして組換えベクターとすることが好ましい。この組換えベクターは、簡便には、当業界において入手可能な組換え用べクター(例えば、プラスミドDNA、ファージDNAなど)に本発明のペクチンリアーゼ遺伝子を常法により連結することによって調製することができる。 ベクターとして用いるプラスミドDNAの具体例としては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えばpBR322、pUC18 、pUC19 、pBluescript 等、枯草菌由来のプラスミドとして、例えばpUB110、pTP5等、酵母由来のプラスミドとして、例えばYEp13 、YCp50 などが、ファージDNAの具体例としては、M13mp18/19、λファージ(例えばCharon4A、Charon21A 、EMBL3 、EMBL4 、λgt10、λgt11、λZAP )等が例示されるがこれらに限定されない。場合により、枯草菌シャトルベクター(例えばpHY300PLK 等)、酵母シャトルベクター(例えばpAUR101DNA、pAUR112DNA等)、糸状菌シャトルベクター(例えばpAUR316DNAなど)を用いることも好ましい。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。 ベクターに本発明のペクチンリアーゼ遺伝子を組み込む方法としては、例えば、「Sambrook, J.ら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition. 、Cold Spring Harbor Laboratory,1.53(1989)」に記載の方法が挙げられる。簡便には、市販のライゲーションキット(例えば、タカラバイオ社製等)を用いることもできる。 本発明のペクチンリアーゼを生産する目的においては、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターの種類は、原核細胞および/または真核細胞の各種宿主細胞中で本発明のペクチンリアーゼ遺伝子を発現し、本発明のペクチンリアーゼを生産する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌用発現ベクターとしてpET系ベクター(例えばNovagen 社製)、酵母用発現ベクターとしてpYES2(Invitrogen社製)、昆虫用発現ベクターとしてpBacPAK8/9(Clontech社製)などが好ましい。 一般に発現ベクターには、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必須な各種エレメントの他、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーやベクター内に簡単に正しい向きで遺伝子を挿入するためのポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、分泌因子配列等の有用な配列が必要に応じて連結されている。 組換え発現ベクターを用いて形質転換体を作製して組換えタンパク質を産生させる際には、宿主生物に適合した分泌因子配列を含むベクターが有用である。この分泌因子配列は、培養上清への分泌後に、ベクターに組み込んだ遺伝子にコードされるタンパク質から、特定のプロテアーゼ等で特異的に切断して除去することができるものであってもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が例示される。 以上のようなベクターに、本発明のペクチンリアーゼ遺伝子を、適切に発現されるような位置及び向きで連結する。 さらに、本発明の遺伝子は、相同組換え法により宿主生物ゲノムに直接導入することもできる。その場合には、本発明の遺伝子を組み込んだ適当なターゲティングベクターを作製する。このために使用可能なベクターとしては、例えばCre-loxP等の公知のジーンターゲティング用ベクターを用いることができる。〔G〕形質転換体の作製及び該形質転換体を用いたペクチンリアーゼの製造 本発明のペクチンリアーゼ遺伝子は、該遺伝子を当業者に公知の方法により宿主細胞に導入して、形質転換体(形質転換細胞)を作製することができる。さらにその形質転換体は、それを培養することにより培養物中にペクチンリアーゼを産生させて採取する手法により、ペクチンリアーゼを製造することができる。 宿主細胞としては、本発明の発現ベクターに適合し、形質転換され得るものであれば特に制限はなく、本発明の技術分野において通常使用される天然の細胞、または人工的に樹立された組換え細胞などの種々の細胞を用いることが可能である。例えば、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等が例示される。本発明においては、特に大腸菌、酵母細胞又は植物細胞を使用することが好ましい。より詳細には、例えば、本発明のペクチンリアーゼの製造においては、大腸菌又は酵母細胞を使用することが好ましい。また、ペクチン分解物(オリゴガラクツロン酸)が植物の抵抗反応を誘導する作用が知られているが、本発明のペクチンリアーゼ遺伝子を導入して植物の抵抗性を高めるためには、ダイズ、イネ等の植物細胞を使用することが好ましい。 形質転換には、一般的に行われている手法、例えば、リン酸カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等を適用することができる。形質転換体の選択は、定法に従って行うことができるが、通常は使用した組換えベクターに組み込まれた選択マーカーを利用して行う。 本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、特に限定されない。また、培地には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を添加してもよい。 さらに、誘導性プロモーターを含む発現ベクターを用いて形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じて培地にインデューサーを添加してもよい。例えば、GAL1プロモーター部位を含む発現ベクターを用いて形質転換した微生物を培養する場合には、培地にガラクトース等を添加してもよい。 本発明の形質転換体の培養条件は特に限定されないが、形質転換に用いる宿主生物に適した条件下が好ましい。培養後、ペクチンリアーゼが細胞内に蓄積される場合にはその細胞を破砕して採取することができる。一方、ペクチンリアーゼが細胞外に分泌される場合には、それを培養物から直接採取することができるし、培養物から遠心分離等により細胞を除去することにより培養上清として採取することもできる。また、本発明では、形質転換を行う代わりに、無細胞タンパク質発現系を使用してペクチンリアーゼを生産することもできる。 「無細胞タンパク質発現系」とは、宿主生物の細胞の構造を機械的に破壊して得た懸濁液に、翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加え、試験管中などのin vitro転写翻訳系またはin vitro翻訳系を構成したものである。無細胞タンパク質発現系としては、例えばEasyXpress Protein Synthesis Kit(QIAGEN社製)等の有利に使用可能なキットが市販されている。 生産されたペクチンリアーゼは、例えば、上記培養上清を限外濾過フィルター等で濃縮したり、硫酸アンモニウム分画後に透析した粗酵素液として用いてもよいし、硫酸アンモニウム塩析及び/又はエタノール等の有機溶媒沈殿、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることによって、上記培養物中(細胞破壊液、培養液、又はそれらの上清中)や上記粗酵素液中から単離精製して用いてもよい。 上述したような本発明の各工程において用い得る一般的な分子生物学的手法(DNAの電気泳動、電気泳動したDNAをゲルから回収する方法、制限酵素消化、PCR 、塩基配列決定等)は、例えば「Sambrook, J.ら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition. 、Cold Spring Harbor Laboratory,(1989)」に記載されるような当業者に公知の方法が採用される。〔H〕本発明のペクチンリアーゼ遺伝子の取得方法 以下、本発明のペクチンリアーゼ遺伝子を取得するための方法を、さらに詳細に説明する。[実施例2](1)全RNAの抽出 Aspergillus NigerNBRC31125株の分生子を1%ペクチンを含む最小培地(NaNO3 6g/L, KCl 0.52g/L, MgSO4(7H2O) 0.52g/L, KH2PO4 1.52g /L, FeCl3 0.4mg/L, ZnCl2 0.4mg/L , 培地のpHはNaOHを使用して6.5 に調整 ;参考:PONTECORVO G, Advances in Genet. 5, 141-238(1954) )に接種し、30℃×48時間振とう培養したのちに培養液をミラクロスで濾過して菌子体を回収した。この菌子体を−20℃で凍結し、液体窒素中で乳鉢、乳棒を使用して粉砕した後に、illustra RNAspin(GEヘルスケア社)を使用して総量19.8μgの全RNAを抽出した。(2)1 本鎖相補DNA(cDNA)の合成 抽出した全RNA1.0μgを鋳型に、オリゴ(dT)20プライマーを50pmol、逆転写反応バッファー、10mMdNTPミックス及び0.1MDTTを所定量加え、最後に逆転写酵素(SuperScript III インビトロジェン社)を200U加えて50℃60分、70℃15分の逆転写反応を行ない、mRNAの逆転写反応によって生成されるcDNA176ng/μlを20μl得た。(3)cDNAのクローニング 得られたcDNAを鋳型に、上記〔D〕 (5) で決定した8つのN末端アミノ酸配列を元に設計したディジェネレートプライマー5'-GTIGGIGTIWSNGGNWSNGC-3'(配列番号5)をセンスプライマー、オリゴ(dT)20をアンチセンスプライマーとして、PCR 反応を行なった(ただし、I はイノシン、W はA またはT 、S はG またはC 、N はA またはC またはG またはT 、をそれぞれ示す。)。なお、PCR 反応液はセンスプライマー50pmol、アンチセンスプライマー50pmolと、2.5mMdNTPミックス、10×PCR 反応バッファー(500mM KCl 、100mM Tris-HCl(pH8.3) )、25mM MgCl2及び滅菌蒸留水を所定量加え、cDNA176ng、耐熱性ポリメラーゼ(Takara Taq、タカラバイオ社製)2.5Uを加えて総量50μlとした。PCR 反応はサーマルサイクラーPROGRAM TEMP CONTROL SYSTEM PC320 (ASTEC社製) を使用して行ない、反応は94℃:30秒、50℃:30秒、72℃:90秒を40サイクル行なった。 この反応液をサンプルとして常法(Sambrookら、A Laboratory Mannual. 第2版、Cold Spring Harbour Press,Cold Spring Harbour,New York(1989))のアガロースゲル電気泳動(1.3%アガロース)を行なったところ、約1100bp(塩基対)のサイズのDNA断片が単一バンドとして検出された。このDNA断片を、常法(Sambrookら、前出)によりゲルから抽出・精製し、塩基配列決定の鋳型とした。 この鋳型を用いてApplied Biosystems 3730xl (Applied Biosystems社製)でシーケンシングを行なったところ、約1050bpの塩基配列が決定された。決定された塩基配列は、上記で設計したディジェネレートプライマー中に存在し得る塩基配列 5'-TCCGGCTCTGCー3'(配列番号6)を含んでいたため、N末端アミノ酸配列(配列番号1)及び配列番号6の塩基配列の情報を元に再度設計したディジェネレートプライマー5'-GTNGGNGTNTCCGGCTCTGC-3'(配列番号7)をセンスプライマー、オリゴ(dT)20をアンチセンスプライマーとして上記cDNAを鋳型に、上記と同条件でPCR 反応を行った。続いて得られた反応液を同様にアガロースゲル電気泳動した結果、約1100bpのサイズのDNA断片が単一バンドとして検出され、このDNA断片を同様にゲルから抽出・精製して塩基配列決定の鋳型とした。この鋳型を用いて同様にシーケンシングを行ったところ、配列番号4に示す1077bpの塩基配列を得た。この塩基配列は先に決定した本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼのN末端アミノ酸配列をコードし得る塩基配列(配列番号4の塩基1〜24)を含んでいた。従って、本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼ遺伝子の一部をクローニングできたと結論した。また、配列番号4 に示す塩基配列は終始コドン(配列番号4の塩基1078〜1080)を含んでいた。(4)DNAの抽出 Aspergillus NigerNBRC31125株の分生子を1%グルコースを含む最小培地(前述;PONTECORVO G)に接種し、30℃×48時間振とう培養したのち培養液を滅菌したガーゼで濾過して菌子体を得た。この菌子体を10mMTris-HCl1mlに懸濁し、ガラスビーズを加えてビーターで強く攪拌したのち6000G×10分遠心分離して不溶物を取り除き、0.5mlのDNA溶液を得た。この溶液に1mlのフェノール−クロロホルム(1:1)溶液を加えて15分間穏やかに混合した後、10000G×10分遠心分離した。 上層の水画分を回収して再度1mlのフェノール−クロロホルム(1:1)溶液を加えて15分間穏やかに混合した後、10000G×10分遠心分離した。上層の水画分を回収して3M酢酸ナトリウム50μl、99.5%冷エタノール1mlを加えて混合し、−20℃で1時間静置した後に10000G×10分遠心分離した。沈殿したDNAを70%エタノールで軽く洗浄し、風乾させた後に50μlのTEバッファーを加えて沈殿したDNAを溶解し、161μg /mlのDNA抽出液を得た。(5)ゲノムDNAのクローニング 次に、上記によって得られたcDNAの配列番号4の塩基配列の情報を元に、センスプライマー5'-GTCGGCGTGTCCGGCTCTGC-3'(配列番号8)及びアンチセンスプライマー5'-TTACAGGTTGCCCTGACCGG-3'(配列番号9)を設計・作製し、上記のようにして得られたゲノムDNAを鋳型としてPCR 反応を行った。なお、PCR 反応液はセンスプライマー20pmol、アンチセンスプライマー20pmolと、2.5mM dNTPミックス、10×PCR 反応バッファー(500mM KCl 、100mM Tris-HCl(pH8.3 )) 、25mM MgCl2及び滅菌水を所定量加え、DNA80ng 、耐熱性ポリメラーゼ(Takara Ex Taq 、タカラバイオ社製)2.5Uを加えて総量50μl とし、反応は94℃:30秒、55℃:30秒、72℃:90秒を40サイクル行った。得られたPCR 溶液をアガロースゲル電気泳動した結果、約1300bpのサイズのDNA断片が明瞭な単一バンドとして検出され、このDNA断片をゲルから抽出・精製し、得られたDNA断片の塩基配列を決定・解析した。このようにして、ゲノムDNAのN末端アミノ酸をコードする配列を含んだ配列番号3の塩基配列が決定された。(6)本発明のペクチンリアーゼのアミノ酸配列及び遺伝子の決定 得られたゲノムDNAの配列番号3の塩基配列と、cDNAの配列番号4の塩基配列を比較して、4つの推定イントロン(配列番号3の塩基288 〜341 、468 〜513 、611 〜668 、903 〜953 )を決定した。ゲノムDNAの配列番号3の塩基配列は終止コドン(配列番号3の塩基1,287 〜1,289 )を含んでおり、この塩基配列から上記イントロンを除去して得られる塩基配列は配列番号4と一致したため、配列番号4に示した塩基配列から終止コドン( 配列番号4の塩基1078〜1080) を除去して得られる塩基配列が本ペクチンリアーゼのN末端からC末端までをコードする塩基配列であると結論した。 この配列番号4の塩基配列から、配列番号2に示した359アミノ酸からなる本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼの成熟タンパク質の全アミノ酸配列が決定された。決定されたアミノ酸配列について、データベース(swissprot )に対して相同性検索(BLAST )を実施したところ、本マセレーション活性を有するペクチンリアーゼは、既知のペクチンリアーゼAである Aspergillus NigerN400株PLAと9アミノ酸が異なるPLA変異体であることが判明した。〔I〕単細胞化粉末の作成及び一般生菌数の検査 続いて、アスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の生産するマセレーション活性を有するペクチンリアーゼを用いて植物の単細胞化粉末を作成し、一般生菌数の検査を行った試験について説明する。[実施例3](1)菌の培養 最小培地(前述;PONTECORVO G)にペクチン1%、アガー1.5%を添加し、NaOHを用いてpH5.0に調整した寒天培地(20枚)に、ポテト・デキストロース寒天培地(ニッスイ製)で前培養して得られたアスペルギルス・ニガーNBRC31125 株の分生子を、寒天表面積1cm2 あたり270個摂種して、30℃にて46時間培養した。(2)粗酵素液の調製 培地を細断した後、培地の3倍容の精製水(1%NaClを含む)を添加して4℃にて3時間、酵素抽出を行い、抽出した溶液をろ紙にて濾過し、濾液の遠心分離上清を集めた。この遠心分離上清900mlに硫酸アンモニウムを90%飽和となるように溶解して4℃にて1晩静置したのち、遠心分離して生じた沈殿物を回収し、少量の精製水に再度溶解させて濃縮液とした。この濃縮液を精製水に対して1昼夜透析して22.5mlの粗酵素液を得た。粗酵素液のタンパク質の総量をブラッドフォード法にて算出したところ、1. 26mgであった。(3)単細胞化粉末の作成及び一般生菌数の検査 5mm角にカットしたブロッコリー(芯)を100g用意し、エタノールを用いて表面のみ殺菌を行なった。上記粗酵素液10mlに滅菌水40mlを加えて50mlとし、クエン酸(食品添加物:小西利七商店社)を用いてpH3.0に調整した本発明の実施例の酵素反応液A(pH3.0におけるマセレーション活性4.3(hr-1)相当)に、上記ブロッコリーを30g浸漬し、30℃で24時間の酵素反応を行なった。 また、比較対照として、マセロチームA(登録商標:ヤクルト薬品工業製)を滅菌水50mlに0.5%濃度となるように添加し、同様にクエン酸を用いてpH3.0に調整した比較例1の酵素反応液B(pH3.0におけるマセレーション活性4.7(hr-1)相当)と、さらにマセロチームA(登録商標:ヤクルト薬品工業製)を滅菌水50mlに0.5%濃度となるように添加し、pH6.0に調整した比較例2の酵素反応液C(pH6.0におけるマセレーション活性3.3(hr-1)相当)を準備し、同様の試験に供した。なお、使用するガラス器具等はすべて滅菌済みのものを使用し、粉末試薬の包装の開封や酵素反応等、すべての作業はクリーンベンチ内で行った。 酵素反応終了後、各酵素反応液とも、メッシュを用いて残渣を取り除いたろ液を1500G10分間の遠心分離にかけ、上清を取り除いて単細胞化された細胞を含む沈殿を回収し、それぞれ滅菌水20mlに均一に懸濁させたのちに凍結乾燥によって粉末化した。各単細胞化粉末の青果原料からの収率(%)及び、一般生菌数は以下の表3に示すとおりとなり、本発明に係る酵素調製物では生菌数は1000/g以下となり、食品衛生法の定める粉末清涼飲料水の基準(3000/g以下)を満たしていた。なお、一般生菌数の測定には、一般生菌数測定用標準寒天培地pH7.0(ニッスイ製薬社)を使用した。 このように、本発明に係る酵素調製物は、pH3.0付近の強酸性下でも十分に作用する強いマセレーション活性を有し、かつ、メチルエステル化度が高いペクチン分解物を生成して強い抗菌作用が得られるので、常温下の穏和な酵素反応条件でもペクチン分解物の抗菌作用によって有害微生物の増殖を抑える効果を有することが確認された。また、本発明の植物組織の単細胞化方法は、このような本発明の酵素調製物をマセレーション酵素として使用する方法である。本発明の方法を用いて植物組織を単細胞化処理する場合、ペクチン分解物の抗菌作用によって有害微生物の増殖を防いで滅菌加熱処理を不要とするために、pH3.0〜3.5の酸性条件下でマセレーション酵素を作用させる。 本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。 以下のa)〜g)の性質を有するタンパク質。 a)アスペルギルス属糸状菌(Aspergillus)が生産する b)マセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を有する c)分子量39,500 d)pH4.0におけるマセレーション比活性が7400/ (hr・mg) e)ペクチンリアーゼ活性の至適pHが4.5 f)121℃で15分間の煮沸処理で失活する、及び g)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるN末端を有する。 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。 請求項1又は2に記載のタンパク質を含有する、ペクチンを分解することにより植物組織又は植物組織由来物を利用加工するための酵素調製物。 請求項3に記載の酵素調製物に、さらにセルラーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、マンナナーゼ、ラムノガラクツロナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン酸リアーゼ、他のペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼのいずれか一以上の成分を含有させたことを特徴とする酵素調製物。 請求項3又は4に記載の酵素調製物をマセレーション酵素として使用する植物組織の単細胞化方法であって、ペクチン分解物の抗菌作用によって有害微生物の増殖を防いで滅菌加熱処理を不要とすべく、pH3.0〜3.5の酸性条件下で前記マセレーション酵素を前記植物組織に作用させて、植物組織を単細胞化する方法。 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子。 以下の(a) 又は(b) のDNAからなる遺伝子。 (a) 配列番号4に示される塩基配列からなるDNA (b) 配列番号4に示される塩基配列からなるDNAの全部に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、マセレーション活性及びペクチンリアーゼ活性を有し、かつ、pH4.0におけるマセレーション比活性が7400/ (hr・mg)であるタンパク質をコードするDNA。 配列番号3に示される塩基配列からなるDNAより構成される遺伝子。配列表


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