タイトル: | 特許公報(B2)_分化細胞の新規製造法 |
出願番号: | 2011531940 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 5/10,C12N 5/0789,A61P 7/04,A61K 35/19 |
江藤 浩之 高山 直也 中村 壮 中内 啓光 JP 5791191 特許公報(B2) 20150814 2011531940 20100915 分化細胞の新規製造法 国立大学法人 東京大学 504137912 稲葉 良幸 100079108 大貫 敏史 100109346 江口 昭彦 100117189 内藤 和彦 100134120 小林 綾子 100120880 江藤 浩之 高山 直也 中村 壮 中内 啓光 JP 2009213645 20090915 20151007 C12N 15/09 20060101AFI20150917BHJP C12N 5/10 20060101ALI20150917BHJP C12N 5/0789 20100101ALI20150917BHJP A61P 7/04 20060101ALI20150917BHJP A61K 35/19 20150101ALI20150917BHJP JPC12N15/00 AC12N5/00 102C12N5/00 202QA61P7/04A61K35/19 Z C12N 15/09 − 15/90 C12N 5/00 − 5/10 JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII) CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN) PubMed CiNii 国際公開第2008/041370(WO,A1) 特表平06−508749(JP,A) 特表平10−513358(JP,A) 特表2009−511081(JP,A) J.Neurosci.,2009年 7月,Vol.29, No.28,p.8884-8896 8 JP2010065903 20100915 WO2011034073 20110324 29 20130913 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、文部科学省、「科学技術試験研究委託事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの) 上條 肇 本発明は、特定の分化した細胞を製造する方法、及び該方法により製造された細胞に関する。特に、本発明は、分化した血球系細胞を製造する方法、及び該方法により製造された血球系細胞に関する。 疾患の治療のため、特定の細胞を必要とする場合、治療目的を達成するのに十分量の細胞を確保する必要がある。しかし、治療に供される細胞の十分量を生体から取得することは難しいため、生体外において、例えば、その前駆細胞などから目的の細胞を分化誘導して調製する方法などが試みられている。 血液関連疾患を治療する場合、あるいは、外科的な治療を行う場合、治療に供される血球系細胞が必要とされる。血球系細胞の中でも、血液凝固(止血)のために必須の細胞である血小板、血小板前駆体(proplatelet)さらには血小板を産生する細胞である巨核球細胞は特にニーズの高い細胞である。とりわけ血小板は、白血病、骨髄移植、抗癌治療などにおける需要が多く、安定供給の必要性は高い。これまでに、血小板は、ドナーからの献血により採取する方法の他、TPO様類似構造 (ミメティクス)製剤を投与する方法、臍帯血又は骨髄細胞から巨核球細胞を分化させる方法などにより確保されてきた。さらに、造血幹細胞又は造血前駆細胞を生体外で増幅させ、これらの前駆細胞から血球系細胞を調製する方法なども試みられている。例えば、マウスES細胞から造血幹細胞株を樹立する方法(特許文献1)、霊長類動物の胚性幹細胞から造血系細胞へ分化させる方法(特許文献2)、あるいは、造血幹細胞の未分化性を維持したCD34陽性/CD38陰性細胞を生体外で簡便かつ安定的に増幅させる方法(特許文献3)などが報告されている。 ところで、細胞を分化誘導する場合、多能性幹細胞の有用性は高い。ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞は、血小板などの血球系細胞を人工的に製造するためのソースとして利用することができる。近年では、iPS細胞の樹立により、再生医療における細胞療法の重要なソースとして多能性幹細胞の有用性が一層注目を浴びるようになってきた。これまでに、例えば、Takayamaらが、ヒトES細胞から巨核球細胞及び血小板を分化誘導することに成功し、この結果、血小板輸血のソースとしてES細胞から分化させた血小板の利用の可能性が出てきた(特許文献4及び非特許文献1)。さらに、発明者らは、iPS細胞からの巨核球細胞及び血小板の調製法を確立させ、ES細胞由来の血小板の輸血では回避困難であった、白血球抗原(human leukocyte antigen; HLA)適合性の問題を解決可能にした。そして、従来、ドナーからの献血によって供給されていた血小板は、慢性的なドナー不足などにより、十分量の血小板の安定供給が難しかったが、この点についても、ES細胞又はiPS細胞から血小板を分化誘導させることで、対応可能であるように思われた。しかし、これまでの方法ではiPS細胞又はES細胞から調製される血小板は、調製される量が少なく、かつ、一連の工程を都度製造する方法しかないために、血小板の量的安定性を確保するための効率のよい方法へと改良することが望まれている。 このような巨核球細胞や血小板などの血球系細胞の十分量を、安定に供給するために解決すべき問題は、他の細胞の供給についても言えることである。 所望の細胞を、細胞の分化誘導により調製する場合であっても、所望の細胞の前駆細胞を大量に調製することは容易なことではないため、最終的に分化した所望の細胞を十分量確保することは、現段階では困難である。特開2006−141356号公報特開2004−350601号公報特開2006− 61106号公報WO2008/041370Takayamaら,Blood,111:5298−5306 2008 本発明者らは、血球系細胞に関し、iPS細胞から巨核球及び血小板を取得する方法を確立しているが、この方法を臨床応用するにあたり、巨核球及び血小板を大量産生可能な方法に改良することが必要である。また、血小板の供給ニーズに迅速に対応でき、かつ安定的な供給を可能にすることも、将来の臨床応用を目指す上では重要になる。 そこで、上記事情に鑑み、本発明は、細胞を分化誘導して目的の細胞を製造するため、所望の分化段階にある細胞の増殖能を高め、細胞数を増幅し、該細胞から目的の細胞を製造する方法を提供する。 さらに、本発明は、上記方法を使用して、所望の分化した血球系細胞を提供する。特に、本発明は、成熟巨核球細胞や血小板のソースとなる血球系細胞である、増殖能の高い巨核球前駆細胞、及びその製造方法を提供する。 また、本発明は、該巨核球前駆細胞から大量かつ安定に成熟巨核球細胞及び血小板を製造する方法、並びに、これらの方法により製造される成熟巨核球細胞、及び該成熟巨核球細胞から分化誘導される血小板の提供を目的とする。 また、赤血球細胞についても血小板と同様に安定供給の必要性が指摘されていることから、本発明は、赤血球細胞の製造方法及び該方法で製造される赤血球の提供をも目的とする。 さらに、本発明は血小板の前駆細胞である成熟巨核球細胞の未成熟状態の細胞である巨核球前駆細胞の長期保存方法の提供を目的とする。 発明者らは、4遺伝子(OCT3/4,SOX2,KLF−4,c−MYC)により樹立したiPS細胞とc−MYCを除く3遺伝子(OCT3/4,SOX2,KLF−4)により樹立したiPS細胞の巨核球及び血小板産生能を比較したところ、4遺伝子によるiPS細胞の方が有意に効率よく巨核球及び血小板を産生することを明らかにした。さらに、樹立の際に導入した4遺伝子の発現は、iPS細胞の状態では抑制されているのに対し、巨核球分化に伴い、c−MYC遺伝子の再活性化が誘導され、巨核球産生量の増加に関与していることが明らかとなった。さらに、c−MYC遺伝子を強制発現させた多核化前の巨核球前駆細胞は、高い増殖能を獲得することも明らかとなった。 また、一般に、c−MYC等の癌遺伝子を細胞中で過剰発現させた場合、細胞周期が亢進し、増殖が活発化する。細胞は、この増殖をストレスとして捉え、これを抑制する防御反応(oncogene−induced senescence:OIS 癌遺伝子誘導性細胞老化)が誘導され、過剰な細胞増殖を抑制することが知られている。本発明者等は、さらに、この現象に着目し、分化段階にある細胞のOISを制御することで特定の分化した細胞を大量に製造する方法を見出した。 本発明は、以上の知見に基づき、完成されたものである。すなわち、本発明は以下の(1)〜(30)に関する。(1)細胞を分化誘導して特定の細胞を製造する方法であって、 所望の分化段階の細胞を増幅するために、当該所望の分化段階の細胞内で癌遺伝子を強制発現させる、特定細胞の製造方法。(2)所望の分化段階の細胞内で癌遺伝子を強制発現させることにより誘導される、癌遺伝子誘導性細胞老化を抑制することを特徴とする上記(1)に記載の特定細胞の製造方法。(3)前記癌遺伝子誘導性細胞老化の抑制が、ポリコーム遺伝子を発現させることにより達成される、上記(1)又は(2)に記載の特定細胞の製造方法。(4)前記所望の分化段階の細胞が、ES細胞又はiPS細胞から分化誘導された細胞であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の特定細胞の製造方法。(5)前記所望の分化段階の細胞内に、外来の癌遺伝子、又は、癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を導入し、該癌遺伝子又は、該癌遺伝子及び該ポリコーム遺伝子を強制発現させることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の特定細胞の製造方法。(6)前記外来の癌遺伝子又はポリコーム遺伝子を、所望の分化段階の細胞の前駆細胞に導入し、該癌遺伝子又は、該癌遺伝子及び該ポリコーム遺伝子を強制発現させることを特徴とする上記(5)に記載の特定細胞の製造方法。(7)前記癌遺伝子及び/又はポリコーム遺伝子を、各々、誘導型のプロモーターの下流に作用可能に連結し、該癌遺伝子又は、該癌遺伝子及び該ポリコーム遺伝子を誘導的に強制発現させることを特徴とする上記(5)又は(6)に記載の特定細胞の製造方法。(8)前記所望の分化段階の細胞の分化を進めるために、当該所望の分化段階の細胞内の癌遺伝子又は、癌遺伝子及びポリコーム遺伝子の発現を抑制することを特徴とする上記(5)乃至(7)のいずれかに記載の特定細胞の製造方法。(9)前記癌遺伝子又は、癌遺伝子及びポリコーム遺伝子の発現抑制が、各々、抑制型プロモーター下流に作用可能に連結し、該遺伝子の発現を抑制することで達成されることを特徴とする上記(8)に記載の特定細胞の製造方法。(10)前記癌遺伝子がMYCファミリー遺伝子であることを特徴とする上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の特定細胞の製造方法。(11)前記ポリコーム遺伝子がBMI1であることを特徴とする上記(3)乃至(10)のいずれかに記載の特定細胞の製造方法。(12)前記所望の分化段階の細胞の前駆細胞が造血前駆細胞であり、前記所望の分化段階の細胞が多核化前の巨核球前駆細胞であり、前記特定細胞が成熟巨核球細胞であることを特徴とする上記(6)乃至(11)のいずれかに記載の特定細胞の製造方法。(13)前記所望の分化段階の細胞の前駆細胞が造血前駆細胞であり、前記所望の分化段階の細胞が多核化前の巨核球前駆細胞であり、前記特定細胞が血小板であることを特徴とする上記(6)乃至(11)のいずれかに記載の特定細胞の製造方法。(14)前記造血前駆細胞が、ES細胞又はiPS細胞から調製されたネット様構造物内に存在するものであることを特徴とする上記(12)又は(13)に記載の特定細胞の製造方法。(15)上記(12)又は(14)に記載の特定細胞である成熟巨核球細胞。(16)上記(13)又は(14)に記載の特定細胞である血小板。(17)上記(16)に記載の血小板を有効成分とする血液製剤。(18)上記(15)又は(16)に記載の成熟巨核球細胞又は血小板を製造するためのキット。(19)癌遺伝子が強制発現された所望の分化段階の血球系細胞。(20)さらにポリコーム遺伝子が強制発現された、上記(19)に記載の血球系細胞。(21)前記所望の分化段階の血球系細胞が、ES細胞又はiPS細胞から分化誘導された細胞であることを特徴とする上記(19)又は(20)に記載の血球系細胞。(22)前記所望の分化段階の血球系細胞内に、外来の癌遺伝子、又は、癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を導入し、癌遺伝子又は、癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を強制発現させることを特徴とする上記(19)乃至(21)のいずれかに記載の血球系細胞。(23)前記外来の癌遺伝子又はポリコーム遺伝子を、所望の分化段階の血球系細胞の前駆細胞に導入し、該癌遺伝子又は、該癌遺伝子及び該ポリコーム遺伝子を強制発現させることを特徴とする上記(22)に記載の血球系細胞。(24)前記癌遺伝子及び/又はポリコーム遺伝子を、各々、誘導型のプロモーターの下流に作用可能に連結し、該癌遺伝子又は、該癌遺伝子及び該ポリコーム遺伝子を誘導的に強制発現させることを特徴とする上記(22)又は(23)に記載の血球系細胞。(25)前記癌遺伝子がMYCファミリー遺伝子であることを特徴とする上記(19)乃至(24)のいずれかに記載の血球系細胞。(26)前記ポリコーム遺伝子がBMI1であることを特徴とする上記(20)乃至(25)のいずれかに記載の血球系細胞。(27)前記所望の分化段階の血球系細胞の前駆細胞が造血前駆細胞であり、前記所望の分化段階の血球系細胞が多核化前の巨核球前駆細胞であることを特徴とする上記(23)乃至(26)のいずれかに記載の血球系細胞。(28)前記造血前駆細胞が、ES細胞又はiPS細胞から調製されたネット様構造物内に存在するものであることを特徴とする上記(27)に記載の血球系細胞。(29)上記(19)乃至(28)のいずれかに記載の血球系細胞を含む凍結細胞組成物。(30)上記(27)又は(28)に記載の血球系細胞である多核化前の巨核球前駆細胞を製造するためのキット。 本発明によれば、所望の分化段階にある細胞を増幅することができ、かつ、該増幅された細胞から分化する特定の細胞を大量に製造することが可能となる。 さらに、本発明を分化した血球系細胞の製造に使用する場合、多能性幹細胞から、例えば、巨核球細胞及び血小板などの血球系細胞を安定かつ大量に製造することが可能となる。 また、本発明により製造される血球系細胞は、凍結保存が可能である。従って、血球系細胞として、例えば、多核化前の巨核球前駆細胞を製造すると、これを凍結保存することができるため、同じソースの巨核球前駆細胞由来の成熟巨核球細胞及び血小板の供給が可能となる。 特に、本発明の方法によれば、iPS細胞から、凍結保存可能な多核化前の巨核球前駆細胞(成熟巨核球細胞の前駆細胞)を大量に調製することができる。その結果、この多核化前の巨核球前駆細胞をソースにすれば、HLA適合性の問題を回避し、かつ、繰り返し輸血に十分対応できる量の血小板を製造し、供給することが可能となる。 さらに、本発明により、赤血球細胞をインビトロで安定に供給する方法が提供される。4遺伝子由来のiPS細胞と3遺伝子由来のiPS細胞から産生された巨核球細胞数を比較したグラフ。縦軸は、培養後22日目のES細胞由来のCD42b陽性巨核球細胞数を1とした各細胞由来のCD42b陽性巨核球細胞数。横軸は、iPS細胞及びES細胞の培養開始からの日数。3−fは、3遺伝子由来の細胞株、4−fは4遺伝子由来の細胞株を表す。ESはES細胞。ヒトiPS細胞由来巨核球細胞における導入遺伝子の再活性化の確認。4因子由来のiPS細胞(TkDA3−2、TkDA3−4及びTkDA3−5)と3因子由来のiPS細胞(TkDN4−M)における、各導入遺伝子(OCT3/4,SOX2,KLF−4,c−MYC)の発現を、未分化iPS細胞及び分化した巨核球細胞について確認した。また、遺伝子導入のコントロールとして、各遺伝子を導入したヒト皮膚線維芽細胞(HDF)についても、その発現を確認した。endoは、内在性の遺伝子のことを、Tgは、導入した遺伝子のことを表す。未分化iPS細胞については、REX1及びNANOGについても発現の確認を行った。ES細胞由来造血前駆細胞中でのc−MYC強制発現による巨核球細胞数の増加。ヒトES細胞の培養後15日目のネット様構造物から血液前駆細胞を取り出し、遺伝子(OCT3/4,SOX2,KLF−4,c−MYC)を各々単独で導入し、その後産生される巨核球細胞数を経時的にカウントした。縦軸は、ウイルスベクターのみを導入した造血前駆細胞(mock)由来のCD42b陽性巨核球細胞数を1とした各細胞由来のCD42b陽性巨核球細胞数。横軸は、ES細胞の培養開始からの日数。4遺伝子由来のiPS細胞と3遺伝子由来のiPS細胞から産生された血小板数を比較したグラフ。縦軸は、培養後21日目のES細胞由来の血小板数を1とした各細胞由来の血小板数。横軸は、iPS細胞及びES細胞の培養開始からの日数。3−fは、3遺伝子由来の細胞株、4−fは4遺伝子由来の細胞株を表す。ESはES細胞のことである。iPS細胞由来の血小板によるモデルマウスへの輸血実験。あらかじめ放射線照射して血小板減少モデルの免疫不全マウスを作製した(A)。TkDA3−4株から産生された血小板を免疫不全マウスの尾静脈より輸血した。Bは、輸血後の経時的変化を示す(30分、2時間、24時間)。PB;ヒト末梢血ヒトiPS細胞由来血小板の生体での血栓形成能の確認。 ヒトiPS細胞由来血小板を、テトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE;赤い色素)で染色し、ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)と混ぜてマウス尾静脈から注射した。腸間膜動脈へのレーザー照射後、0秒、6秒、13秒、20秒の血管内における血栓の形成状態をタイムラプス共焦点顕微鏡で観察した。Blood flow:血流ES細胞から調製した造血前駆細胞へ遺伝子を導入するプロトコールの概要を示す。ES細胞から調製した造血前駆細胞へのc−MYC遺伝子導入後、9日目におけるFACS解析の結果を示す。Aは、FACS解析の結果。Bは、c−MYC導入後、9日目の導入細胞の顕微鏡写真を示す。コントロールは、MYCウイルスベクターのみを導入した細胞。c−MYC遺伝子を発現した巨核球前駆細胞の増殖能を示す。縦軸は、CD42b陽性細胞数。横軸は、細胞にc−MYC遺伝子を導入してからの日数。■は、c−MYCの代わりにウイルスベクターのみを導入したコントロールの結果。c−MYC遺伝子とBMI1遺伝子を導入した巨核球前駆細胞のFACS解析の結果を示す。c−MYC/BMI1(上図)は、c−MYC遺伝子とBMI1遺伝子の両方を導入した細胞のFACS解析結果を示し、c−MYC単独(下図)は、c−MYC遺伝子のみを導入した細胞のFACS解析結果を示す。c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を細胞に導入し、培養35日目の細胞のFACS解析結果を示す。Aは、巨核球の特異的機能分子について模式的に示した図である。Bは、FACS解析の結果を示す。MYC/BMI1発現細胞の増殖能を調べた結果を示す。縦軸は、細胞数を、横軸は、細胞への遺伝子導入後の日数を示す。c−MYC/BMI1発現細胞由来の巨核球前駆細胞から放出された血小板の電子顕微鏡による観察像を示す。c−MYC遺伝子及びHOXA2遺伝子、並びに、c−MYC遺伝子及びBCLXL遺伝子を、ES細胞(KhES)由来造血前駆細胞に導入し、各々、105日後、及び、27日後の細胞についてFACS解析を行った結果を示す。pMX tet offベクターによる遺伝子発現制御システムの確認。 pMX tet offベクターにc−MYC及びBMI1を、2Aを挟んで連結したコンストラクトを293GPG細胞内で発現し、遺伝子の発現制御が機能するかを検討した結果である。Aは、ベクターのコンストラクト及び作用機序を説明した図である。Bは、テトラサイクリン及びβ−エストラジオールを、添加又は非添加の状態で、細胞内におけるc−MYCの発現をフローサイトメーターにより調べた結果である。Bの横軸は、c−MYCの発現量である。「293gpg」はコントロールの293GPG細胞の結果を示す。遺伝子制御ベクター発現細胞株の増殖能及び分化能について検討した結果を示す。Aは、各種ベクターによりc−MYC及びBMI1を発現させた細胞の増殖能を調べた結果である。縦軸は、細胞数を、横軸は、細胞への遺伝子導入後の日数を示す。Bは、抗CD42b(GPIb-alpha)抗体及び抗CD41a(Integrin alphaIIb/beta3複合体)抗体(上段)、抗Glycophorin-a抗体及び抗CD41a抗体(下段)で細胞を染色し、フローサイトメーターで解析した結果である。Bの上下ともに、左側は、pMX c-MYC及びDsam BMI1を別個に強制発現させた細胞の結果で、右側は、pMX tet off c-MYC 2A BMI1を発現させた細胞の結果である。β−エストラジオールの存在下、pMX tet off c-MYC 2A BMI1を発現させた巨核球細胞株の多核化の程度を検討した。Aは、ベクターのみ(遺伝子を発現させていない株)のコントロールの細胞の結果で、Bは、c−MYC及びBMI1を発現させた細胞の結果である。c−MYC及びBMI1を強制発現させた巨核球由来血小板に関し、フィブリノーゲン結合アッセイを行った結果を示す。上段(ヒト血小板)は、ヒト末梢血由来の血小板の結果で、中段(pMX tet off c-MYC 2A BMI1)は、β−エストラジオールの存在下でのpMX tet off c-MYC 2A BMI1株由来血小板の結果、下段(pMx Myc Dsam Bmi1)は、pMX c-MYC及びDsam BMI1で、c−MYC及びBMI1を強制発現させ株由来の血小板の結果を示す。c−MYC及びBMI1の発現を抑制した巨核球株から産生される血小板のインテグリン活性化能を調べた結果を示す。左図は、ADP非存在下、右図は、ADP存在下(50μM)でインテグリン活性化能をフローサイトメーターによって解析した。ES細胞からの巨核球系への分化経路を示す。 本発明の実施形態の1つは、ソースとなる細胞を分化誘導して特定の細胞を製造する方法であって、ソースとなる細胞から特定の細胞への分化途中における所望の分化段階の細胞を、増幅するため(又は増殖させるため)に、当該所望の分化段階の細胞内で、癌遺伝子を強制発現させる、特定細胞の製造方法である。 ここで、「ソースとなる細胞」としては、分化誘導を行って得られる目的の細胞(ここでは、特定細胞)の前駆細胞に相当するものであって、分化能を保持した最終分化した細胞以外の細胞であれば、如何なるものであってもよく、例えば、完全に未分化の多能性幹細胞等であっても、あるいは、ある程度分化は進行しているが依然として分化能を保持している細胞(例えば、血球系細胞の造血前駆細胞など)であってもよい。また、本実施形態で製造される「特定の細胞」又は「特定細胞」とは、完全未分化な細胞(例えば、多能性幹細胞)以外の細胞であれば、ある程度未分化な状態を保持した細胞であってもよく、つまり、完全未分化な段階から最終分化した段階の間に登場する細胞であって、完全未分化な細胞以外の細胞のことである。例えば、本実施形態の「特定の細胞」又は「特定細胞」とは、血球系細胞の例の一部を示すならば、成熟巨核球細胞、血小板又は赤血球細胞などのことである。 本実施形態で増幅(又は増殖)される、「分化段階の細胞」とは、完全未分化な段階から最終分化した段階の間に登場する細胞であって、完全未分化な段階の細胞(例えば、多能性幹細胞など)及び最終分化した段階の細胞以外の細胞のことである。例えば、本実施形態の「分化段階の細胞」とは、血球系細胞の一例を挙げれば、成熟巨核球細胞の前駆細胞である、造血前駆細胞又は多核化前の巨核球前駆細胞などのことである。分化段階の細胞として、例えば、ES細胞又はiPS細胞等の多能性幹細胞から誘導された細胞などを使用することができる。 本発明で使用されるES細胞は、特に限定されるものではなく、一般的には、胚盤胞期の受精卵をフィーダー細胞と共に培養し、増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにして、さらに、植え継ぐ操作を繰り返し、最終的にES細胞株として樹立することができる。このように、ES細胞は、受精卵から取得することが多いが、その他、例えば、脂肪組織、絨毛膜絨毛、羊水、胎盤、精巣細胞など、受精卵以外から取得され、ES細胞類似の特徴を持ち、分化多能性を有するES細胞様の細胞であってもよい。 また、本発明で使用されるiPS細胞は、体細胞(例えば、線維芽細胞や血液細胞など)へ分化多能性を付与する数種類の転写因子(以下、ここでは「分化多能性因子」と称する)遺伝子を導入することにより、ES細胞と同等の分化多能性を獲得した細胞であれば、如何なる由来の細胞であってもよい。分化多能性因子としては、すでに多くの因子が報告されており、限定はしないが、例えば、Octファミリー(例えば、Oct3/4)、SOXファミリー(例えば、SOX2、SOX1、SOX3、SOX15及びSOX17など)、Klfファミリー(例えば、Klf4、Klf2など)、MYCファミリー(例えば、c−MYC、N−MYC、L−MYCなど)、NANOG、LIN28などを挙げることができる。iPS細胞の樹立方法については、多くの文献が発行されているので、それらを参考にすることができる(例えば、Takahashiら,Cell 2006,126:663−676;Okitaら,Nature 2007,448:313−317;Wernigら,Nature 2007,448:318−324;Maheraliら,Cell Stem Cell 2007,1:55−70;Parkら,Nature 2007,451:141−146;Nakagawaら,Nat Biotechnol 2008,26:101−106;Wernigら,Cell Stem Cell 2008,10:10−12;Yuら,Science 2007,318:1917−1920;Takahashiら,Cell 2007,131:861−872;Stadtfeldら,Science 2008 322:945−949などを参照のこと)。 本発明において使用される癌遺伝子とは、その遺伝子が内在する細胞の癌化を誘導する遺伝子のことであり、限定はしないが、例えば、MYCファミリー遺伝子、SRCファミリー遺伝子、RASファミリー遺伝子、RAFファミリー遺伝子、c−KitやPDGFR、Ablなどのプロテインキナーゼファミリー遺伝子などを挙げることができる。 本発明において、所望の分化段階の細胞内での癌遺伝子又は後に詳述するポリコーム遺伝子の強制発現は、癌遺伝子又はポリコーム遺伝子を当該「所望の分化段階の細胞」内に導入し、強制発現させることで達成されてもよく、また、当該「所望の分化段階の細胞」の前駆細胞内にこれらの遺伝子を導入し、強制発現させ、その発現を維持しながら分化を進行させ、「所望の分化段階の細胞」内においてこれらの遺伝子の強制発現状態を維持することによって達成されてもよく、さらに、当該「所望の分化段階の細胞」の前駆細胞内にこれらの遺伝子を導入しておき、「所望の分化段階の細胞」に分化したときにこれらの遺伝子の強制発現を誘導することによって達成されてもよい。例えば、所望の分化段階の細胞として多核化前の巨核球前駆細胞を増幅する場合には、その前駆段階にある造血前駆細胞(後述)に癌遺伝子又はポリコーム遺伝子を導入し、強制発現させてもよい。所望の分化段階の細胞内で癌遺伝子とポリコーム遺伝子とを強制発現させる場合、癌遺伝子とポリコーム遺伝子とは同時に細胞に導入してもよく、異なったタイミングで導入してもよい。 さらに、本発明の実施形態には、所望の分化段階の細胞を増幅するため(又は増殖させるため)の方法として、当該所望の分化段階の細胞内で強制発現させた癌遺伝子によって誘導される癌遺伝子誘導性細胞老化を抑制することが含まれる。 癌遺伝子誘導性細胞老化(oncogene−induced senescence:OIS)とは、RASやMYCなどの癌遺伝子による異常な増殖刺激等により誘導されるストレス誘導性細胞老化のことである。癌遺伝子産物が過剰に細胞内で発現すると、CDKN2a(INK4a/ARF)遺伝子座にコードされるp16やp19などの癌抑制遺伝子産物の発現が誘導される。その結果細胞の老化とアポトーシスが誘導され、細胞の増殖活性が低下する。従って、癌遺伝子が誘導するOISを回避すれば、細胞の増殖能の高い状態で維持できることが予想される。 癌遺伝子誘導性細胞老化の抑制は、例えば、癌遺伝子が発現している細胞内にポリコーム遺伝子を発現させることで達成することができる。ポリコーム遺伝子(polycomb group:PcG)は、CDKN2a(INK4a/ARF)遺伝子座を負に制御し、細胞老化を回避するために機能している(以上、例えば、小黒ら、「ポリコーム群蛋白質複合体による幹細胞の老化制御」、再生医療 vol.6. No4 pp26-32;Jseus et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology vol.7 pp667-677 2006;Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.100 pp211-216 2003を参照のこと)。従って、MYCファミリー遺伝子などの癌遺伝子の発現に加えて、ポリコーム遺伝子を細胞内で発現させることにより、OISを回避し、癌遺伝子産物による細胞増殖効果をさらに高めることができる。 本発明で使用されるポリコーム群遺伝子としては、例えば、BMI1、Mel18、Ring1a/b、Phc1/2/3、Cbx2/4/6/7/8、Ezh2、Eed、Suz12、HADC、Dnmt1/3a/3bなどを挙げることができるが、特に好ましいポリコーム群遺伝子は、BMI1遺伝子である。 さらに、癌遺伝子誘導性細胞老化の抑制は、HOXA2遺伝子又はBCLXL遺伝子の発現によっても達成することができる。 癌遺伝子、ポリコーム遺伝子を細胞内で強制発現させる場合、当業者において周知のいかなる方法により実施してもよいが、例えば、外来の癌遺伝子又は外来のポリコーム遺伝子を、例えば、レンチウイルスやレトロウイルスなどによる遺伝子導入システムを利用して、細胞内に導入し、発現させてもよい。ウイルス遺伝子導入ベクターにより遺伝子発現を行う場合、適当なプロモーターの下流に該遺伝子を作用可能に連結し、これを遺伝子導入ベクターに挿入して、細胞内に導入して目的遺伝子を発現させてもよい。ここで、「作用可能」に連結するとは、該プロモーターによって目的遺伝子がシスに支配され、目的遺伝子の所望の発現が実現されるようにプロモーターと目的遺伝子を連結することを意味する。本発明の実施においては、例えば、CMVプロモーター、EF1プロモーターなどを使用して恒常的に目的遺伝子を発現してもよく、あるいは、テトラサイクリンなどの薬剤応答エレメントなどのトランス因子によって活性制御されるエレメントの支配下に、適当なプロモーター(誘導型のプロモーター)を配置し、例えば、薬剤添加などの制御により目的遺伝子を誘導的に発現させることもできる。このような薬剤による遺伝子発現システムは、癌遺伝子又はポリコーム遺伝子の所望の発現制御を実現するために、当業者において、適当なシステムを容易に選択することができる。このような発現システムのためのキットの市販品を購入して使用してもよい。また、発現制御の目的遺伝子である癌遺伝子、ポリコーム遺伝子は、別々のベクターに挿入してもよいが、同一のベクターに癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を挿入する方がより好ましい。 また、本実施形態には、癌遺伝子、又は癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を発現させた所望の分化段階の細胞をさらに分化誘導し、目的の特定細胞を製造する方法が含まれる。所望の分化段階の細胞をさらに分化誘導するには、当該分化誘導に適した培養条件(培地、培養温度などの条件)で分化段階の細胞を培養する他、必要に応じて、該分化段階の細胞内で発現している癌遺伝子又はポリコーム遺伝子の発現を抑制的に調節してもよい。この場合、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子の発現の抑制は、例えば、前述の誘導的な発現システムにより誘導される発現を薬剤等の除去により遺伝子の誘導を解除することで達成してもよい。あるいは、薬剤等が存在しない場合には恒常的な発現制御を行うプロモーターであって、薬剤存在下において抑制的な発現制御を行う抑制型プロモーターに、癌遺伝子又はポリコーム遺伝子を作用可能に連結して、これらの遺伝子の発現を抑制的に制御してもよい。さらに、導入した癌遺伝子、ポリコーム遺伝子をCre/Loxシステムなどを使用して除去し、これらの遺伝子の発現を抑制的に制御してもよい。癌遺伝子又はポリコーム遺伝子の発現を抑制的に調節するために、市販のキット等を適宜使用することもできる。 本実施形態には、所望の分化段階の細胞として多核化前の巨核球前駆細胞を増幅し(増殖させ)、多核化前の巨核球前駆細胞から、特定細胞として、成熟巨核球細胞を製造する方法が含まれる。ここで、癌遺伝子、又は癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を多核化前の巨核球前駆細胞内で強制発現させる場合、多核化前の巨核球前駆細胞の前駆段階にある造血前駆細胞内で、癌遺伝子、又は癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を発現させることが好ましい。 本明細書において、「多核化前の巨核球前駆細胞」とは、巨核球系列の特異的マーカーであるCD41a陽性/CD42a陽性/CD42b陽性で、核の多倍体化を起こしていない単核もしくは二核の細胞である。また、「造血前駆細胞」とは、CD34+細胞(CD34陽性細胞)として特徴付けられる造血系の細胞であり、例えば、ES細胞又はiPS細胞由来の細胞、特に、ES細胞又はiPS細胞から調製されるネット様構造物(ES−sac又はiPS−sacとも称する)から得られる細胞(特に、ネット様構造物から分離した直後の細胞)が好ましい。ここで、ES細胞又はiPS細胞から調製される「ネット様構造物」とは、ES細胞又はiPS細胞由来の立体的な嚢状(内部に空間を伴うもの)構造体で、内皮細胞集団などで形成され、内部に造血前駆細胞を含むもののことである。ネット様構造物の詳細については、例えば、TAKAYAMAら,BLOOD 2008,111:5298−5306、を参照のこと。 ネット様構造物をヒトES細胞又はヒトiPS細胞から調製するために適した細胞の培養条件は、用いるES細胞又はiPS細胞によって異なるが、例えば、培地としては、最終濃度15%のFBSを添加したIMDMを用い、その他無血清の場合においても適宜増殖因子およびサプリメント等を加えたものを使用することができる。さらに、ネット様構造物を効率的に形成させるために、VEGFを0〜100ng/ml、より好ましくは、20ng/ml程度加えるのがよい。培養の環境としては、用いるES細胞又はiPS細胞の種類によって異なるが、例えば、5% CO2、36〜38℃、好ましくは37℃の条件を用いることができる。ネット様構造物が形成されるまでの培養期間は、ES細胞又はiPS細胞の種類によって異なるが、フィーダー細胞上に播いてから、14〜16日後くらいにその存在を確認することができる。 形成されたネット様構造物は、濾胞状構造になっており、内部には、造血前駆細胞が濃縮された状態で存在している。ネット様構造物の内部に存在する造血前駆細胞は、物理的な手段、例えば、滅菌済みの篩状器具(例えば、セルストレイナーなど)に通すことにより、分離することができる。このようにして得られる造血前駆細胞を本発明に使用することができる。 造血前駆細胞内で強制発現させる癌遺伝子は、上述の癌遺伝子のいずれのものであってもよいが、特に、MYCファミリー遺伝子が好ましく、MYCファミリー遺伝子としては、例えば、c−MYC、N−MYC、L−MYCなどが挙げられ、特に、c−MYCが好ましい。また、造血前駆細胞内で強制発現させるポリコーム遺伝子は、上述のポリコーム遺伝子のいずれのものであってもよいが、特に、BMI1遺伝子が好ましい。 MYCファミリー遺伝子などの癌遺伝子、及びBMI1遺伝子などのポリコーム遺伝子を発現させた造血前駆細胞は、SCF(10〜200ng/ml、例えば100ng/ml)、TPO(10〜200ng/ml、例えば40ng/ml)、FL(10〜200ng/ml、例えば100ng/ml)、VEGF(10〜200ng/ml、例えば40ng/ml)などのいずれか又はこれらのうちの2つ以上を組合せて添加した条件で培養を行い、例えば、遺伝子導入後4〜7日程度で、高い増殖能を獲得した多核化前の巨核球前駆細胞になる。このようにして得られた多核化前の巨核球前駆細胞は、細胞増殖が、少なくとも、30〜50日程度、好ましくは、50〜60日程度以上、より好ましくは、60日以上は継続し、その細胞数は、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子導入時の細胞数の約1.0×104倍以上、好ましくは、約1.0×105倍以上、より好ましくは、約1.0×106倍以上にまで増幅する(例えば、図12を参照のこと)。 本発明には、本発明の方法によって製造された多核化前の巨核球前駆細胞を血球系細胞の分化誘導に適した条件で培養し、成熟巨核球細胞、さらに、血小板を産生する方法が含まれる。ここで血球系細胞の分化誘導に適した条件とは、例えば、TPO、IL−1α、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−11、EPO、GM−CSF、SCF、G−CSF、Flt3リガンド、Heparinなどのいずれか又はこれらのうちの2つ以上を組合せて添加した条件を挙げることができる。成熟巨核球細胞及び血小板を分化誘導する場合には、例えば、TPO(10〜200ng/mL、好ましくは100ng/mL程度)の存在下で、あるいは、TPO(10〜200ng/mL、好ましくは100ng/mL程度)、SCF(10〜200ng/mL、好ましくは50ng/mL程度)及びHeparin(10〜100U/mL、好ましくは25U/ml程度)の存在下で、7〜15日間程度培養することができる。培養環境としては、生体外で血球系細胞の分化誘導を行うにあたり適した環境であればよいが、例えば、5% CO2、36〜38℃、好ましくは37℃の条件下で培養を実施する。 癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を導入して高い増殖能を獲得した多核化前の巨核球前駆細胞を、成熟巨核球細胞及び血小板などに分化誘導する場合、上述のように、必要に応じて、癌遺伝子及びポリコーム遺伝子の発現を抑制的に制御してもよい。 本発明の他の実施形態は赤血球細胞を製造する方法において、赤血球前駆細胞を増幅するために、造血前駆細胞内に癌遺伝子及びHOXA2遺伝子若しくはBCLXL遺伝子を強制発現させ、赤血球細胞を製造する方法である。より具体的には、本実施形態は、MYCファミリー遺伝子など癌遺伝子を、所望の分化段階の細胞である赤血球前駆細胞内で強制発現させ、その結果誘導される癌遺伝子誘導性細胞老化をHOXA2遺伝子又はBCLXL遺伝子の発現によって抑制し、赤血球前駆細胞を増幅させ、特定細胞である赤血球細胞を製造する方法である。本実施形態は、造血前駆細胞に癌遺伝子であるMYCと共に数十種類の造血転写因子や抗アポトーシス関連遺伝子を導入してスクリーニングした結果、HOXA2又はBCLXLが赤血球前駆細胞を増殖させるとの知見に基づく。 造血前駆細胞内で強制発現させる癌遺伝子は、上述のように、癌遺伝子であれば如何なるものも使用可能であるが、MYCファミリー遺伝子が好ましく、特に、c−MYC遺伝子が好ましい。 本明細書において、「赤血球前駆細胞」とは、赤血球系列特異的な分子であるGlycophorin A(グリコフォリンA)陽性の脱核前の細胞である。 MYCファミリー遺伝子などの癌遺伝子、及びHOXA2遺伝子若しくはBCLXL遺伝子を発現させた造血前駆細胞は、SCF(10〜200ng/ml、例えば100ng/ml)、TPO(10〜200ng/ml、例えば40ng/ml)、FL(10〜200ng/ml、例えば100ng/ml)、VEGF(10〜200ng/ml、例えば40ng/ml)、 EPO(1〜100U/ml、例えば6U/ml)などのいずれか又はこれらのうちの2つ以上を組合せて添加した条件で培養を行い、例えば、遺伝子導入後4〜7日程度で、高い増殖能を獲得した脱核前の赤血球前駆細胞になる。 MYCファミリー遺伝子及びBCLXL遺伝子若しくはHOXA2遺伝子を発現させた造血前駆細胞から得られる赤血球前駆細胞を介して、成熟赤血球細胞を分化誘導するために適した条件とは、例えば、TPO、IL−1α、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−11、EPO、GM−CSF、SCF、G−CSF、Flt3リガンド、Heparinなどのいずれか又はこれらのうちの2つ以上を組合せて添加した条件を挙げることができる。特に、赤血球細胞の場合、EPO (2〜100U/mL、好ましくは10U/mL程度)の存在下で、あるいは、EPO(2〜100U/mL、好ましくは10U/mL程度)、SCF(10〜200ng/mL、好ましくは50ng/mL程度)の存在下で、7〜15日間程度培養することができる。培養環境としては、生体外で血球細胞の分化誘導を行うにあたり適した環境であればよいが、例えば、5% CO2、36〜38℃、好ましくは37℃の条件下で培養を実施する。 本発明の他の実施形態には、癌遺伝子が強制発現された所望の分化段階の血球系細胞が含まれる。ここで、癌遺伝子としては、上述の癌遺伝子を使用することができ、例えば、MYCファミリー遺伝子などが使用可能であり、特に、c−MYC遺伝子が好ましい。また、「分化段階の血球系細胞」とは、完全未分化な段階から最終分化した段階の間に登場する血球系細胞であって、完全未分化な段階の細胞及び最終分化した段階の細胞以外の血球系細胞のことである。例えば、本実施形態の「分化段階の血球系細胞」とは、例えば、多核化前の巨核球前駆細胞などを挙げることができる。このような分化段階の血球系細胞として、例えば、ES細胞又はiPS細胞から誘導された細胞などを使用することができる。特に、ES細胞又はiPS細胞から調製されるネット様構造物(ES−sac又はiPS−sacとも称する)から得られる血球系細胞(特に、ネット様構造物から分離した直後の細胞)が好ましい。また、本実施形態には、癌遺伝子の他、さらに、上述のポリコーム遺伝子が強制発現された分化段階の血球系細胞も含まれる。癌遺伝子及びポリコーム遺伝子の強制発現は、上述のように、誘導型のプロモーターなどを使用して実施することができる。 所望の分化段階の細胞内での癌遺伝子又はポリコーム遺伝子の強制発現は、癌遺伝子又はポリコーム遺伝子を当該「所望の分化段階の血球系細胞」内に導入し、強制発現させることで達成されてもよく、また、当該「所望の分化段階の血球系細胞」の前駆細胞内にこれらの遺伝子を導入し、強制発現させ、その発現を維持しながら分化を進行させ、「所望の分化段階の血球系細胞」内においてこれらの遺伝子の強制発現状態を維持することによって達成されてもよい。さらに、該「所望の分化段階の血球系細胞」の前駆細胞内にこれらの遺伝子を導入しておき、「所望の分化段階の血球系細胞」に分化したときに、これら遺伝子の強制発現を誘導することによって達成されてもよい。例えば、所望の分化段階の血球系細胞として多核化前の巨核球前駆細胞を増幅する場合には、その前駆段階にある造血前駆細胞に癌遺伝子又はポリコーム遺伝子を導入し、強制発現させてもよい。 本実施形態における、例えば、多核化前の巨核球前駆細胞などの血球系細胞は、凍結保存後解凍しても、細胞増殖能及び分化能を維持している凍結解凍耐性を有している。そのため、当該血球系細胞を凍結して、必要に応じて溶解して、分化誘導した血球系細胞を製造することが可能である。従って、本細胞を用いることにより、ES細胞やiPS細胞から血球系細胞、例えば血小板を製造する一連の作業を始めの工程から行う必要がなくなる。つまり、本発明の癌遺伝子、又は癌遺伝子及びポリコーム遺伝子を強制発現させた血球系細胞を原料として、多量に調製し、必要に応じて凍結保存をしておくことにより、製造プロセスの合理化・効率化が図られ、血小板等の様々な血球系細胞を迅速に供給可能な仕組みを構築することができる。 本発明の多核化前の巨核球前駆細胞などの血球系細胞を用いて、凍結細胞組成物を作製する場合には、多核化前の巨核球前駆細胞などの血球系細胞と、凍結保存液とから構成することができ、その他必要に応じた添加剤なども組成中に含めることができる。凍結保存液としては、DMSO入りの凍結液などを利用できる。具体的にはセルバンカー(日本全薬工業株式会社)やバンバンカー(日本ジェネティクス株式会社)、TCプロテクター(DSファーマバイオメディカル株式会社)、アルブミン加cp−1(極東製薬工業株式会社)などである。 本発明で用いられるMYCファミリー遺伝子、ポリコーム遺伝子(例えば、BMI1遺伝子)、HOXA2遺伝子及びBCLXL遺伝子は、すでにそのcDNA配列が公開されている遺伝子は勿論のこと、これら公知のcDNA配列の相同性に基づいて従来技術により同定されるホモログも含まれる。 MYCファミリー遺伝子のうち、c−MYC遺伝子のホモログとは、そのcDNA配列が、例えば、配列番号1で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなる遺伝子のことである。配列番号1で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなるcDNAとは、配列番号1で表される配列からなるDNAと、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%の同一性を有する配列からなるDNA、もしくは、配列番号1で表わされる核酸配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAであって、これらのDNAによってコードされるタンパク質が、多核化前の巨核球前駆細胞など、分化段階の細胞の増幅に寄与するもののことである。 また、本発明で用いられるBMI1遺伝子のホモログとは、そのcDNA配列が、例えば、配列番号2で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなる遺伝子のことである。配列番号2で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなるcDNAとは、配列番号2で表される配列からなるDNAと、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%の同一性を有する配列からなるDNA、もしくは、配列番号2で表わされる核酸配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAであって、そのDNAによってコードされるタンパク質が、MYCファミリー遺伝子などの癌遺伝子が発現している細胞内で生じる癌遺伝子誘導性細胞老化を抑制し、該細胞の増幅を促進するもののことである。 本発明で用いられるHOXA2遺伝子又はBCXL遺伝子とは、各々、そのcDNA配列が、例えば、配列番号3又は配列番号4で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなる遺伝子のことである。配列番号3又は配列番号4で示される核酸配列と実質的に同一の配列からなるcDNAとは、各々、配列番号3又は配列番号4で表される配列からなるDNAと、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%の同一性を有する配列からなるDNA、もしくは、配列番号3又は配列番号4で表わされる核酸配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAであって、そのDNAによってコードされるタンパク質が、赤血球前駆細胞を増殖させる効果を有するもののことである。 ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーションの条件のことで、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な実験条件である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリッド形成は、一般的に、相補的鎖がその融点よりやや低い環境における再アニール能力に依存する。 具体的には、例えば、低ストリンジェントな条件として、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄段階において、37℃〜42℃の温度条件下、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが上げられる。また、高ストリンジェントな条件として、例えば、洗浄段階において、65℃、5×SSCおよび0.1%SDS中で洗浄することなどが挙げられる。ストリンジェントな条件をより高くすることにより、相同性の高いポリヌクレオチドを得ることができる。 本発明の実施形態には、さらに、所望の分化段階の細胞(例えば、多核化前の巨核球前駆細胞又は赤血球前駆細胞)、最終的に製造される特定細胞(例えば、巨核球細胞、血小板又は赤血球細胞)、を製造するためのキットが含まれる。当該キットには、癌遺伝子、ポリコーム遺伝子、BCLXL遺伝子、HOXA2遺伝子等を細胞内で発現するのに必要な発現ベクター等及び試薬などの他、細胞培養のための培地、血清、増殖因子などのサプリメント(例えば、TPO、EPO、SCF、Heparin、IL−6、IL−11など)、抗生物質などが含まれる。その他、例えば、ES細胞又はiPS細胞由来の細胞を使用する場合、これらの細胞から調製したネット様構造物を同定するためのマーカー確認用の抗体(例えば、Flk1、CD31、CD34、UEA−Iレクチンなどに対する抗体)なども含まれる。キット中に含まれる試薬、抗体等は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。 また、本発明によって製造される血小板及び赤血球細胞は、製剤の形態で安定的に供給することも可能である。本発明の方法によって産生される血小板は、巨核球細胞から放出されて血小板が豊富に存在する培養液の画分を回収し、白血球除去フィルター(例えば、テルモ社、旭化成メディカル社などから購入可能)などを使用して、巨核球細胞、その他、血小板以外の血球系細胞成分を除去して、調製することができる。血液製剤を調製するにあたっては、血小板又は赤血球細胞の安定化に資する他の成分を含有せしめることもできる。このような安定化に資する成分は、当該技術分野の専門家において周知の方法を選択することが可能である。 より具体的には、取得した血小板は、例えば、以下の方法により製剤化することができる。 ACD−A液:FFP(fresh frozen plasma;献血で得られた全血液から調整したもの、アルブミン、凝固因子など血液成分以外のものをすべて含む)を1:10の比率で調整し、15−50Gyの放射線照射後に20−24℃にて振とうしながら保存する。ACD−A液;クエン酸ナトリウム22g/クエン酸8g/ブドウ糖22gを注射用水で全体を1Lとするように調整する。 以上の方法を使用する場合、血小板の濃度としては、例えば、1×109血小板/mL程度が望ましい。 また、GM6001(a broad−range hydroxamic acid−based metalloprotease inhibitor)(Calbiochem社、La Jolla,CA,USA)を添加しておくと、冷凍保存および室温保存中に起きる血小板機能分子GPIb−V−IXやGPVIの切断に伴う不活化を予防できる。本発明者らは、この方法により、マウスES細胞由来血小板に関し不活性化の予防が可能であることを確認している。なお、ヒト血小板を使用したこの血小板不活性化に関する機序の参考論文として、Bergmeier,W et al.,Cir Res 95:677−683,2004及び Gardiner,EE et al.,J Thrombosis and Haemostasis,5:1530−1537,2007を参照のこと。 なお、血小板を含む製剤を収納する容器は、ガラスのように血小板を活性化する材質のものを避けるのが好ましい。 一方、赤血球細胞の製剤化については、以下のように行うことができる。より具体的には、取得した赤血球は、例えば、以下の方法により製剤化することができる。培養上清を遠心後濃縮した濃厚赤血球液にMAP液(組成は以下参照)を加えて調製し、15−50Gyの放射線照射後に2〜6℃で保存する。 以上の方法を使用する場合、赤血球の濃度としては、例えば、1×1010赤血球/mL程度が望ましい。取得した赤血球は、赤血球保存用添加液 (MAP液)として、例えば、D−マンニトール(14.57g)、アデニン(0.14g)、結晶リン酸二水素ナトリウム(0.94g)、クエン酸ナトリム(1.50g)、クエン酸(0.20g)、ブドウ糖(7.21g)、塩化ナトリム(4.97g)を、注射用水を加えて溶かし、全量を1000mlとしたものを使用することができる。 その他、赤血球の製剤化に適当と思われる公知の方法を適宜選択することは、当業者において容易なことである。 さらに本発明には、本発明の血球系細胞の凍結組成物が含まれる。本組成物には、血球系細胞の他、該血球系細胞を保存するために必要な培地、緩衝液及び凍結の際に細胞を保護するためにDMSO、グリセロールなどが含まれていてもよい。その他、細胞の凍結に必要とされる通常の物質であれば如何なるものが含まれていてもよい。あるいは、市販の細胞凍結用試薬を使用した場合には、その試薬に含まれる物質を含んでいてもよい。 本明細書中に記載される「細胞」の由来は、ヒト及び非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、トリなど)であり特に限定はされないが。特に好ましくは、ヒト由来の細胞である。 以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。1.4遺伝子由来のiPS細胞と3遺伝子由来のiPS細胞からの巨核球産生効率の比較 4遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF−4、c−MYC)により樹立したiPS細胞(TkDA3−2、TkDA3−4及びTkDA3−5)とc−MYCを除く3遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF−4)により樹立したiPS細胞(253G1(京都大学、山中伸弥博士より供与)及びTkDN4−M)、及びヒトES細胞(KhES−3;京都大学、中辻憲夫先生より供与)からの産生される巨核球細胞の数を比較した(図1)。iPS細胞及びES細胞からの培養後15日目に、ネット様構造物から取り出した造血前駆細胞を、フィーダー細胞上に播種し、最終濃度15%のFBSを添加したIMDMにTPO(100ng/mL)、SCF(50ng/mL)及びHeparin(25U/ml)の存在下で培養を行う。その後、誘導されるCD42b陽性である巨核球細胞の数を経時的にカウントした(図1)。その結果、3遺伝子(c−MYCなし)由来iPS細胞及びヒトES細胞に比べて、4遺伝子(c−MYCあり)由来のiPS細胞は、使用した3株とも巨核球細胞数が増加していた。 次に、iPS細胞を作製するときに導入した遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF−4、c−MYC)の未分化iPS細胞における発現活性を調べたところ、いずれの遺伝子もサイレンシング機構により発現が抑制されていた(図2A)。これに対し、分化誘導を行った培養25日目の巨核球細胞では、各導入遺伝子の発現の再活性化が確認された(図2B)。 以上のことから、iPS細胞を作製するために導入した遺伝子のうち、いずれかの遺伝子発現の再活性化が、産生される巨核球細胞数の増加に関与している可能性が示唆された。そこで、巨核球細胞数の増加に関与している原因遺伝子の検証を行った。ヒトES細胞(iPS細胞と異なりOCT3/4、SOX2、KLF−4、c−MYCが外因性に導入されていない)由来の造血前駆細胞に、レトロウイルスにより各遺伝子を単独で強制発現させ、産生されたCD42b陽性の巨核球細胞の数をカウントした。その結果、c−MYCを導入した場合、他の遺伝子を導入した場合と比較して、産生されるCD42b陽性の巨核球細胞数が約10倍程度増加することが明らかとなった(図3)。以上のことから、4遺伝子由来iPS細胞からの巨核球誘導効率が高い理由として、c−MYC遺伝子の発現の再活性化が考えられた。 また、4遺伝子由来iPS細胞から誘導した巨核球細胞は、ES細胞又は3遺伝子由来iPS細胞から誘導した巨核球細胞よりも、凍結融解後生存率が高いことが確認された。具体的には、ヒトES細胞(KhES−3)又は3遺伝子由来ヒトiPS細胞(TkDN4−M)から誘導した巨核球細胞の凍結融解後生存率が、各々、56.7%、54.5%と約5割程度に留まったのに対し、4遺伝子由来ヒトiPS細胞(TkDA3−4)から誘導した巨核球細胞の凍結融解後生存率は、81.0%と約8割に達することが分かった。この事から、c−MYC遺伝子などの癌遺伝子の再活性化が生じている巨核球前駆細胞は、より凍結保存に適しており、解凍後の供給をしやすい細胞と考えられる。 血小板の産生数についても巨核球細胞と同様の検討を行った。iPS細胞及びES細胞からの培養後15日目に、ネット様構造物から取り出した造血前駆細胞を播種し、その後、誘導される血小板の数を経時的にカウントしたところ、巨核球細胞と同様に、4遺伝子導入によるiPS細胞から、効率よく血小板の産生が行われた(図4)。 次に、最も血小板産生能が高いTkDA3−4株を用いて、試験管内で産生した血小板の輸血実験を行った。あらかじめ放射線照射して血小板減少モデルの免疫不全マウスを作製し、iPS細胞由来の血小板を尾静脈より輸血した(図5A)。輸血後30分では20%前後、2時間後でも10%前後の血小板キメリズムが観察され、ヒト末梢血由来の新鮮な血小板と同様であった(図5B)。 さらに、ヒトiPS細胞由来血小板の生体での血栓形成能をタイムラプス共焦点顕微鏡(Time-lapse confocal microscopy)を用いて評価した。 あらかじめ、iPS細胞由来血小板はテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE;赤い色素)で染色し、ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)と混ぜてマウス尾静脈から注射した。血流(細胞成分以外)をFITC−dextran(緑色)で染色することで、血管内の血液成分が抜けて見え、形態や大きさから血球成分を確認できる。レーザーによりヘマトポルフィリンが反応し、血管内皮障害が引き起こされると、障害内皮もしくは内皮剥離スポットに血小板が固層化および接着し、血栓形成が誘導される。 マウスの腸間膜微小動脈に波長488nm,30mWのレーザー照射を行うと、13秒後には赤く染色されたiPS細胞由来血小板が障害内皮へ接着した(図6中、矢印で「iPS由来」と示す部位)。20秒後には他のホスト由来の血小板(マウス血小板)と協調して血栓を形成し、血管閉塞を引き起こしたことが確認され、iPS細胞由来の血小板は生体内の流血下で血栓を形成する能力があることが証明された。 以上のことから、c−MYC遺伝子を含む4遺伝子の導入により樹立され、c−MYC遺伝子が再活性化されているiPS細胞から調製した血小板も、ヒト末梢血由来の血小板と同様の生理学的特徴を保持していることが確認できた。 ここまでの解析から、iPS細胞から巨核球細胞及び血小板を効率的に誘導するためには、c−MYC遺伝子の発現誘導とそのc−MYC遺伝子産物の細胞内での効果を維持することが重要であることが明らかとなった。従って、iPS細胞から巨核球細胞及び血小板を誘導する場合、未分化の巨核球前駆細胞である単核の巨核球前駆細胞中でc−MYC遺伝子を発現させ、かつ、c−MYC遺伝子産物の効果を維持すべく、癌遺伝子誘導性細胞老化(OIS)を抑制することが効果的であると予想される。そこで、OISの抑制のために、ポリコーム群遺伝子をc−MYC遺伝子と同時に発現させ、その効果について検討した。2.c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現させた巨核球前駆細胞からの成熟巨核球細胞の産生効率 iPS細胞の4遺伝子樹立株と3遺伝子樹立株の巨核球産生効率の比較により、巨核球前駆細胞中における、c−MYC遺伝子の再活性化が、その後誘導される成熟巨核球細胞の数に影響を与えることが分かった。そこで、c−MYC遺伝子が導入されていない多能性幹細胞であるES細胞由来の巨核球前駆細胞におけるc−MYC遺伝子の発現が、その後の巨核球細胞の誘導にどのような影響を与えるかを検討した。 ヒトES細胞株(KhES−3)から20ng/mlVEGF存在下でネット様構造物を調製し、このネット様構造物から取り出した巨核球前駆細胞(多核化前)を、10T1/2細胞上に細胞数1×105/ウェルになるように播き、c−MYC遺伝子(配列番号1)を保持したレトロウイルスベクターを、播種後、0時間、12時間、24時間経過時に感染させた。36時間後に、レトロウイルスを含まない培地に変更し、培養を継続した。レトロウイルスによる遺伝子導入は、培地を2〜3ml添加した6ウェルプレートを使用して、900rpm、90分の条件で、スピン感染法(Spin infection)を用いて行った。最終濃度15%のFBSを添加したIMDMに100ng/ml SCF、40ng/ml TPO、100ng/ml FL、40ng/ml VEGF及びプロタミンを添加した培地を用いて培養を行った(図7)。 レトロウイルスの感染後9日目にFACS解析を行ったところ、コントロールベクターと比べc−MYCを導入した細胞では、CD41a、CD42bをもつ細胞が優位に増加していることが観察された(図8A)。また、サイトスピンで細胞を観察したところ、コントロールでは多核化している細胞が観察されるが、c−MYC導入細胞では、多核化前の単核の細胞が観察された(図8B)。以上の結果から、c−MYCの強制発現により単核の未成熟な巨核球細胞が増加することが示唆された。この結果は、巨核球特異的にc−MYCを発現させたトランスジェニックマウスと同様の結果であった(Alexander et al., Deregulated expression of c-MYC in megakaryocytes of transgenic mice increases megakaryopoiesis and decreases polyploidization. J.Biol.Chem.,1996 Sep 20;271(38):22976-82を参照のこと)。 次に、c−MYCを発現した状態での細胞の増殖能を観察したところ、感染後14日目から増殖が減少することが観察された(図9)。この現象は、c−MYC等のOncogeneの過剰発現による異常な増殖シグナルに対し、細胞周期の停止、細胞老化、アポトーシスを行う細胞の癌化回避機構であり、癌遺伝子誘導性細胞老化(oncogene−induced senescence:OIS)と呼ばれている(前述)。そこで、癌抑制遺伝子産物であるp16及びp19をコードしているInk4a/Arf遺伝子を負に制御するポリコーム群遺伝子の1つ、BMI1を巨核球前駆細胞内に導入し、OISを回避することを試みた。前述のレトロウイルスによる遺伝子導入法により、c−MYC遺伝子とBMI1遺伝子(配列番号2)を細胞内に導入して発現させたのち、FACS解析を行った。その結果、遺伝子導入後の時間経過に伴い、指数関数的に安定して増殖するCD41a陽性CD42b陽性(巨核球のマーカー)細胞群を得ることができた(図10)。c−MYC遺伝子のみを細胞に導入した場合、遺伝子導入後20日目には、CD41a陽性CD42b陽性細胞がかなり減少しているのに対し(図10下の解析結果)、c−MYC遺伝子とBMI1遺伝子を導入した場合には、日を追うごとにCD41a陽性CD42b陽性細胞が増加していくのが確認できた(図10上の解析結果)。この結果から、ポリコーム遺伝子の1つであるBMI1遺伝子を導入したc−MYC遺伝子導入多核化前の巨核球前駆細胞は、OISを回避し、高い増殖能を保持しながら巨核球前駆細胞へと分化することが明らかになった。そこで、ここで得られた巨核球細胞の特徴を確認するため、さらに他の巨核球特異的機能分子であるCD9及びCD42aが細胞表面上に存在するかどうか(図11Aを参照)、FACS解析により検討した。その結果、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を導入した細胞株において、CD9及びCD42aの存在を確認することができた(図11B)。 次に、c−MYC/BMI1発現細胞の増殖能について検討した。c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を導入した多核化前の巨核球前駆細胞を、最終濃度15%のFBSを添加したIMDMに、100ng/ml SCF、40ng/ml TPO、100ng/ml FL、40ng/ml VEGFを添加した培地で培養し、経時的に細胞数をカウントした。その結果、遺伝子導入後49日目において、約4×107個のCD41a陽性細胞が得られた(図12)。さらに、c−MYC/BMI1発現細胞由来の巨核球前駆細胞から放出された血小板を電子顕微鏡により観察したところ、血小板に特徴的な、微小管構造、開放小管系(Open canalicular system)、血小板顆粒を確認することができた(図13)。3.c−MYC遺伝子導入造血前駆細胞からの赤血球前駆細胞を介した赤血球の誘導 次に、c−MYC遺伝子を導入した造血前駆細胞から得られる赤血球前駆細胞からの赤血球の産生を試みた。上記2において記載したc−MYC遺伝子又はBMI1遺伝子の導入と同様に、c−MYC/HOXA2(配列番号3)発現細胞及びc−MYC/BCLXL(配列番号4)発現細胞を作製し、FACS解析を行った。その結果、c−MYC/HOXA2発現細胞では、遺伝子導入後105日目において、赤血球のマーカーであるCD71及びGlyA陽性細胞群の存在が確認された(図14右上段)。また、c−MYC/BCLXL発現細胞においてもGlyA陽性細胞群の存在が確認された(図14右下段)。この結果から、c−MYC遺伝子の導入した造血前駆細胞は、組み合わせる導入因子を変えることで、赤血球への分化も可能であることが分かった。4.遺伝子の発現誘導システムを利用した機能性血小板の製造 巨核球細胞、血小板を効率よく、大量に調製するためには、巨核球前駆細胞の数を増加させることが有効であることが、明らかとなった。そのためには、c−MYCファミリー遺伝子、ポリコーム遺伝子を多核化前の巨核球前駆細胞中で同時に共発現させて、該多核化前の巨核球前駆細胞の増殖能を高めることが必要となるが、巨核球細胞の成熟化を(多核化)を促進するために、場合によっては、c−MYCファミリー遺伝子、ポリコーム遺伝子の発現を抑制的に制御することが望ましい。 そこで、pMX tet offシステムを利用して、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現を誘導的に調節して血小板を製造し、その血小板の生理的機能について検討を行った。4−1.遺伝子制御部ベクターの機能性の確認 pMX tet offベクター(自治医科大学 間野 博行 教授より供与)にc−MYC−2A−BMI1を組み込んだオールインワン(all in one)型ベクターを作製した(「2A]は、foot-and-mouth disease virus 由来のself cleavage 活性をもつペプチドで、この配列を複数のタンパク質の間に挟むことで、単一のプロモーターから複数のタンパク質を効率良く取得するためのものである(Hasegawaら、2007 Stem Cells))。pMx tet off c-MYC 2A BMI1ベクターは、エストラジオール存在化で、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現させる。一方、テトラサイクリン存在化、エストラジオール非存在化では、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現を抑制する。 作製したpMx tet off c-MYC 2A BMI1ベクターを、293GPG細胞内で発現させ、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現制御の状況をFACSにより確認した。図15は、細胞内のc−MYCタンパク質を、抗c−MYCタンパク質抗体で染色後、Alexa647標識の2次抗体で染色し、FACS解析を行った結果である。pMX tet off c-MYC 2A BMI1を組み込んだ293GPG細胞において、テトラサイクリン存在化では、コントロールの293GPG細胞と変わらないc−MYC遺伝子の発現量であるが(図15中、293gpg及び+テトラサイクリンで示すグラフ)、エストラジオール存在化ではc−MYC遺伝子の発現が促進されていることがわかる(図15、+β−エストラジオール)。 以上の結果から、ここで使用するpMx tet off c-MYC 2A BMI1ベクターにより目的遺伝子の発現制御が可能であることが確認できた。4−2.遺伝子制御ベクターによる巨核球細胞株の作製 上記4−1で記載した遺伝子制御ベクターを用いて、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子をヒトES細胞株(KhES−3)由来の巨核球前駆細胞内で発現させ、その増殖能及び分化能について検討した。 ベクターのみを導入した細胞(図16A(a))、pMX c-MYC及びDsam BMI1を別個に強制発現させた細胞株(図16A(b))、pMX tet off c-MYC及びpMX tet off BMI1で別個に発現させた細胞株(図16A(c))、pMX tet off c-MYC 2A BMI1で発現させた細胞株(図16A(d))及びpMX tet off BMI1 2A c-MYC(図16A(e))で発現させた細胞株について検討を行った。ここで、(d)と(e)は、2A配列を挟んでc−MYC遺伝子とBMI1遺伝子の配置の順番が異なるコンストラクトである。 これらの細胞株について、CD41a+細胞の増殖曲線を図16Aに示す。巨核球マーカーである抗CD41a抗体及び抗CD42b抗体で各細胞株を染色し、フローサイトメーターを用いて解析した。pMX tet off c-MYC 2A BMI1で作成した細胞株(図16A(d))は、pMX c-MYC及びDsam BMI1を別個に強制発現させた細胞株(図16A(b))と同様の表現系を示し、ほとんどの集団が巨核球マーカーを発現していた(図16B上のパネル)。さらに、pMX tet off c-MYC 2A BMI1で作成した細胞株(図16A(d))は、pMX tet off c-MYC及びpMX tet off BMI1を別個に導入した細胞株(図16A(c))及びpMX tet off BMI1 2A c-MYCで作成した細胞株(図16A(e))よりも高い増殖能を示した。 また、抗Glycophorin-a抗体及び抗CD41a抗体で染色すると、pMX c-MYC及びDsam BMI1を別個に強制発現させた細胞株では、巨核球/赤芽球共通のマーカーであるCD41a+/Gly−a+の細胞集団が存在するのに対して(図16B、下のパネル左側)、pMX tet off c-MYC 2A BMI1で作成した細胞株ではGly−aは消失していた(図16B、下のパネル右側)。この結果は、pMX tet off c-MYC 2A BMI1で作成した細胞株は、pMX c-MYC及びDsam BMI1を別個に強制発現させた細胞株よりも、より巨核球系への分化が進んだ細胞株であることを示している。4−3.巨核球の多核化について β−エストラジオールの存在下、pMX tet off c-MYC 2A BMI1ベクターでc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を強制発現させた細胞株の多核化の程度について検討を行った。ヒト由来巨核球は、通常、32N程度に多核化しているが(図17A)、pMX tet off c-MYC 2A BMI1ベクターでc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を強制発現させた細胞株では、ほとんど多核化が進んでおらず、2N−4Nであることが示された。4−4.c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現する巨核球細胞株由来の血小板の機能解析 c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現する巨核球細胞株に由来する血小板の機能アッセイを行った。 コントロールのヒト末梢血由来血小板は、ADP(アデノシン二リン酸;血小板を活性化する細胞内因子)存在化でフィブリノーゲンと結合し、血栓形成の初期に必要なインテグリン活性化能(インサイドアウトシグナル)が正常であることを示される(図18上段右図)。一方、pMX tet off c-MYC 2A BMI1株(エストラジオール存在下)及びpMX c-MYC及びDsam BMI1強制発現株ともに、ADPを加えてもフィブリノーゲンに結合しなかった(図18中段及び下段)。従って、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子が強制発現されたままであると、正常機能を有する血小板を放出しないことがわかった。 次に、pMX tet off c-MYC 2A BMI1ベクターでc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を強制発現させている細胞株に対し、+テトラサイクリン及び−β−エストラジオールの条件下で強制発現を解除した後、培養4日目のCD41a+/CD42b+血小板のインテグリン活性化能を、フローサイトメーターを用いて解析した(図19)。その結果、ADP存在下でPAC1抗体(活性型インテグリンαIIbβ3結合抗体)が結合し、インテグリン活性化能(インサイドアウトシグナル)が正常であることが示された(図19B)。 以上の結果から、c−MYC遺伝子の強制発現により増殖させた巨核球株から産生される血小板は、機能に障害を持つが、巨核球株のc−MYC遺伝子等の強制的な発現を解除することで、正常な機能を有する血小板の産生が可能であることが示された。 上記巨核球前駆細胞内におけるc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現制御は、同様に赤血球前駆細胞株樹立に用いたMYCファミリー遺伝子、BCLXL遺伝子、HOXA2遺伝子についても使用することができ、成熟赤血球の誘導が可能になると考えられる。 MYC及びBMI1は、巨核球細胞・赤血球細胞の共通前駆細胞であるMEP分画、又はそれより分化が進んだ巨核球前駆細胞の段階で細胞を増殖させていることが示された(図20)。また、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を導入した多核化前の巨核球前駆細胞は、凍結保存が可能であることから、必要な時に凍結ストックから、巨核球細胞、血小板を調製することができる。 同様にMYC遺伝子とBCLXL又はHOXA2遺伝子導入で作製した赤血球前駆細胞株も凍結保存し、必要なときに解凍して調製できる。 また、導入したMYC遺伝子、BMI1遺伝子の発現を上方あるいは下方に制御することで、生理活性を保持した血小板又は赤血球細胞を充分な量調製することが可能となる。 本発明は、分化段階の細胞を増幅し、さらに分化した特定の細胞を製造する方法を提供する。本発明の方法を例えば、血球系細胞に適用することで、所望の分化段階の細胞を大量に供給することが可能となる。従って、本発明は、特に、医療分野における治療法の発展に大いに寄与するものである。 成熟巨核球細胞を製造する方法であって、 造血前駆細胞、CD34陽性細胞、又は多核化前の巨核球前駆細胞において、MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子と、BMI1遺伝子とを強制発現させ、該細胞を培養して増殖させる工程と、 前記増殖させた細胞を、成熟巨核球細胞に分化させる工程と、を含む方法。 前記分化させる工程は、前記癌遺伝子と前記BMI1遺伝子との強制発現を抑制して、又は、前記癌遺伝子と前記BMI1遺伝子とを前記細胞から除去して、前記増殖させた細胞を培養することによって行う、請求項1に記載の方法。 前記増殖させる工程の後、該増殖させた細胞を凍結保存する工程をさらに含み、該凍結保存した細胞を解凍した後、前記分化させる工程を行う、請求項1又は2に記載の方法。 血小板製剤の製造方法であって、 請求項1から3のいずれか1項に記載の方法で成熟巨核球細胞を製造する工程と、 前記成熟巨核球細胞の培養物から血小板画分を回収する工程と、 前記血小板画分から血小板以外の血球系細胞成分を除去する工程と、を含む方法。 血液製剤の製造方法であって、 請求項4に記載の方法で血小板製剤を製造する工程と、 前記血小板製剤を他の成分と混合して血液製剤を得る工程と、を含む方法。 MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子と、BMI1遺伝子とが導入されている多核化前の巨核球前駆細胞又は成熟巨核球細胞を含む細胞集団。 請求項6に記載の細胞集団を凍結した凍結細胞組成物。 MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子と、BMI1遺伝子とを強制発現させるための発現ベクターを含む、多核化前の巨核球前駆細胞、成熟巨核球細胞、又は血小板を製造するためのキット。配列表