生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_抗アテローム性動脈硬化作用のあるジペプチド
出願番号:2011503658
年次:2014
IPC分類:A61K 38/00,A61P 9/10


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今泉 勝己 松本 清 佐藤 匡央 松井 利郎 中森 俊宏 JP 5627568 特許公報(B2) 20141010 2011503658 20100105 抗アテローム性動脈硬化作用のあるジペプチド 不二製油株式会社 000236768 国立大学法人九州大学 504145342 今泉 勝己 松本 清 佐藤 匡央 松井 利郎 中森 俊宏 JP 2009060978 20090313 20141119 A61K 38/00 20060101AFI20141030BHJP A61P 9/10 20060101ALI20141030BHJP JPA61K37/02A61P9/10 A61K 38/05 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) Life Sciences,2008年,Vol.82,No.15−16,p869−875 Journal of Hypertension,1998年,Vol.16,No.11,p1667−1676 Vascular,2008年,Vol.16,No.3,p171−178 2 JP2010000008 20100105 WO2010103708 20100916 9 20121107 小森 潔 本発明は、Trp−Hisで示されるジペプチド又はその塩を有効成分とし、カルシウム拮抗薬が忌避される心臓疾患を併発していても使用可能な、アテローム性動脈硬化症を予防またはその進展を抑制する作用を有する、健康食品、機能性食品、医薬品等の組成物に関する。 カルシウムチャンネルブロッカーは血管弛緩作用ないし血管拡張作用を有する薬剤であるが、そのアテローム性動脈硬化症への効果について記載された文献もある。たとえば非特許文献1には、代表的なカルシウムチャンネルブロッカーであるアゼルニジピンに関し、その抗アテローム性動脈硬化作用についての記載がある。ここで示されている、効果が認められる最小有効作用量は、3mg/kg/dayであり、これは血管拡張作用に必要な作用量である8〜16mg/day(体重60kg患者)よりも格段に大きい値である。 アゼルニジピンに関する資料(「カルブロック(アゼルニジピン)及びカルブロック錠8mg・16mgに関する資料」宇部興産株式会社、三共株式会社(http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/g030102/ インターネットにより2009年2月23日入手))によると、ラットへの投与実験において、10mg/kg/dayの投与により心臓重量の増加をはじめとする副作用が確認されている。 カルシウムチャンネルブロッカーはその作用機序により、心臓への影響が懸念される薬剤である。カルシウムチャンネルブロッカーを血管拡張剤として使用する際には、その有効作用量と、心臓重量の増加という副作用が起こる量の間に一定の開きがあり、問題となることは少ないようであるが、カルシウムチャンネルブロッカーを抗アテローム性動脈硬化剤として使用する場合は、上記の通り、抗アテローム性動脈硬化剤としての有効作用量と、心臓重量の増加という副作用が起こる量の間に、3.3倍程度の開きしかなく、カルシウムチャンネルブロッカーを抗アテローム性動脈硬化剤として使用する上での懸念となっている。Atherosclerosis 196(2008)172−179 本発明の目的は、比較的容易に入手可能な素材で、心臓への影響が少ない、抗アテローム性動脈硬化作用を有する物質を提供することにある。 本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた。そして、カルシウムブロッカーとしての血管拡張作用が知られていたジペプチドTrp−Hisが、カルシウムブロッカーであれば当然起こると考えられていた心臓への有意な影響を起こすことなく、抗アテローム性動脈硬化作用を示すことを見出し、本発明の完成に至った。 即ち、本発明は(1)Trp−Hisで示されるジペプチド又はその塩を有効成分とする、有効作用量に対して過剰量の投与を行っても心臓への副作用を起こさないアテローム性動脈硬化症の予防または改善剤。(2)Trp−Hisで示されるジペプチド又はその塩を有効成分とする、カルシウム拮抗薬が忌避される心臓疾患を有する患者用である、アテローム性動脈硬化症の予防または改善剤。(3)1日当たりの投与量が体重1kg当り5〜100mgである、(1)〜(2)いずれか1つに記載のアテローム性動脈硬化症の予防または改善剤。に関するものである。 本発明によれば、合成などにより比較的容易に調製できるTrp−Hisで示されるジペプチド及びその塩により、心臓に有意な影響を与えない抗アテローム性動脈硬化作用を有する薬剤等の組成物を提供することができる。「βコングリシニン α‘サブユニット」の配列比較例1(Control),実施例1(Trp−His投与量10mg/kg/日)、実施例2(Trp−His投与量100mg/kg/日)における、9週間飼育後の大動脈(aortic tree)のアテローム性動脈硬化病変(白い部分)。比較例1(Control)に比べ、実施例1、2の病変は小さいことが確認できる。図2病変領域の数値解析データ。実施例1(Trp−His投与量10mg/kg/日),実施例2(Trp−His投与量100mg/kg/日)は比較例1(Control)に比べ、病変領域が小さい。比較例1(Control),実施例1(Trp−His投与量10mg/kg/日)、実施例2(Trp−His投与量100mg/kg/日)における、9週間飼育後の大動脈洞におけるアテローム性動脈硬化病変。比較例1、実施例1、実施例2間で大きな差は見られない。図4病変領域の数値解析データ。比較例1、実施例1(Trp−His投与量10mg/kg/日),実施例2(Trp−His投与量100mg/kg/日)間で有意な差は見られない。本発明で言う「抗アテローム性動脈硬化作用」とは、アテローム性動脈硬化症の発症を抑制したり、一旦発症したアテローム性動脈硬化症の進展を抑制することを指す。本発明でいう「有効作用量」とは、抗アテローム性動脈硬化作用を示す投与量のことである。そして、「有効作用量に対して過剰量の投与」とは、有効と考えられる作用量のうちできるだけ少ない量に対し、10倍量程度の投与をいう。また、「心臓への副作用を起こさない」とは、カルシウムブロッカーと呼ばれる薬剤が、その作用機序から心臓疾患を併発した患者への使用が忌避されている現状に鑑み、カルシウムブロッカーが忌避されるような心臓疾患を併発した患者においても使用可能な程度に、心臓への影響が少ないことを指す。より具体的には、本発明実施例2のように、目的とする効果が認められた投与量である10mg/kg/dayに対し、その10倍量に相当する100mg/kg/dayを投与しても、心臓重量に有意な影響を与えない場合は、本発明で言う「心臓への副作用を起こさない」と判断する。本発明は「心臓への副作用を起こさない」ことが特徴の一つであり、心臓疾患を併発した患者用、またカルシウムブロッカーが忌避される患者用として特に好ましい。なお、カルシウムブロッカーが忌避される心臓疾患としては、房室ブロック、心原性ショックなどがあげられる。 動脈は心臓より発し、ヒトでは左心室にある大動脈口より起始し、上行したのちに胸骨角または第2肋軟骨の高さで大動脈弓に移行する。上行大動脈の起始部における血管径は末梢側よりも大きいので大動脈球(bulb of aorta)と呼ばれ、その内腔を大動脈洞(sinus of aorta)またはバルサルバ洞(sinus of Valsalva)と呼ばれる。本発明においては、大動脈洞に対しては効果が確認されていない。本発明が効果を及ぼす動脈を大動脈(aortic tree)と標記する。ここで言う大動脈(aortic tree)には大動脈洞は含まない。 本発明の有効成分であるジペプチドTrp−Hisは大豆蛋白質中にもある配列であり、大豆たん白質を適切な酵素で分解し、これを分画して所望のペプチドを含む画分を精製することによって得ることができるし、またペプチド鎖長が2と短いので通常のペプチド合成の方法によっても得ることができる。なおTrp−Hisの配列は大豆蛋白質βコングリシニンのα’サブユニット一次構造中、125−126番目に存在している。該当する大豆蛋白質のアミノ酸配列を図1に示す。大豆蛋白などから酵素等による分解により調製したTrp−Hisであれば、過去に食経験のある素材に由来するものであることから、サプリメントや、健康補助食品、特定保健用食品などのポイントとなる素材として、有用である。 合成法によって本発明のジペプチドを得る場合には、通常のペプチド合成に用いられる化学合成法(固相法、液相法)、酵素合成法およびDNA組換え法を用いた生物学的合成方法が知られているが、いずれの方法を用いてもよい。酵素法に関して、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の逆反応を利用した方法(J.Biol.Chem.,707−720(1937))耐熱性アミノアシルt−RNA合成酵素を利用する方法[特開昭59−106298号公報参照] などが既に知られているが、最近では、エシェリヒア属やバチルス属に属する微生物を用いた製造方法(国際公開番号WO2004/058960)が開示されている。 また、合成によって得られた本発明のペプチドは逆相高速液体クロマトグラフィー、イオン交換樹脂やハイポーラスポリマー樹脂を用いたクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を用いた通常の精製法で精製することができる。なお、アミノ酸はL型であることが望ましい。 本発明の医薬組成物の投与経路、剤形は、当業者であれば適宜設計することができる。投与経路の例としては、経口、口腔、注射( 皮内、皮下、筋肉、静脈) 、気道呼吸器、体孔部(粘膜) があり、剤形の例としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、吸入剤、スプレー剤、エアゾール剤、坐剤等がある。製剤化の際には、医薬として許容可能な種々の担体、例えば、賦形剤、結合剤、外皮(コーティング) 、崩壊剤、滑沢剤、懸濁化剤、界面活性剤、矯味(香)剤、着色剤、保存剤、安定化剤等の製剤成分を用いることができる。この医薬組成物は、経口投与が可能であり、かつ有効である。 また、食品の形態による投与も可能であり、想定される様態としては飲料、錠菓、焼成菓子、アイスクリーム、チョコレートなどがあげられる。 なお、Trp−Hisで示されるジペプチド又はその塩が所定量含有されていれば、それ以外のペプチドおよび他成分が混在していても、本発明の効果等に悪影響を与えない限り問題はない。また、「ジペプチド又はその塩」との表現は、ジペプチドとその塩が混在した状態をも指す。 抗アテローム性動脈硬化作用を得るために必要なTrp−Hisの量は体重1kg当り5〜100mg/日が望ましく、より望ましくは7〜100mg/日であり、さらに望ましくは10〜100mg/日である。Trp−Hisの量が少なすぎる場合は、抗アテローム性動脈硬化作用が乏しく、好ましくない場合が多い。また100mg/kg/日を超える投与量については、心臓への影響について2009年2月23日の段階においては検証されていない。以下に実施例を記載する。特に示さない限り%は重量%を示す。実験1(実施例1〜2、比較例1)「ジペプチドTrp−Hisの抗アテローム性動脈硬化作用」ペプチド、試薬の入手Trp−HisはFmoc固相合成法(国産化学社製)により合成した。その他の試薬は試薬グレードのものを使用した。動物検体はJackson Laboratory(Bar Harbor,ME,USA)より購入し、九州大学医学部動物実験ラボラトリーにて飼育したアポE欠損マウス(オス 8〜18週齢)を使用した。これを3つの集団に分け、9週間にわたり表1に示す餌を与え飼育した。各集団間でのマウスの週齢には有意差はなかった。(比較例1 15.0±0.8,実施例1 14.3±1.2、実施例2 14.6±1.3)。表1 餌の配合 Trp−Hisの投与は、各マウスの体重に対し10ないし100mg/kgのTrp−Hisを1mlの脱イオン水に溶解し、経口挿管し、1日1回投与した。コントロールのマウスへは、同様の方法で脱イオン水を投与した。なお、Trp−His投与量10mg/kg/日を実施例1、投与量100mg/kg/日を実施例2、脱イオン水のみを投与したものを比較例1とした。マウスは室温22℃、12時間毎の明暗の繰り返しにより飼育した。また、表1の餌と脱イオン水は自由摂取可能とした。 9週間飼育後、6時間絶食させた後、心臓より採血した。また肝臓、後腹膜の白色脂肪組織、腸間膜、皮下部、精巣上体部を摘出し、液体窒素で冷却した。同様に、大動脈と心臓を摘出し、ホルマリンにて固定した。 血漿中のトリアシルグリセロール、総コレステロール、HDL-コレステロールは酵素法測定キット(Triglyceride E test from Wako Pure Chemicals,T−CHO kainos from Kainos)により行った。血漿MCP−1(ヒト単球走化活性因子)濃度の測定はELISAキット(Mouse MCP−1 ELISA kit from Invitrogen,California,USA)により行った。肝臓の脂質はCHCl3−CH3OH混合液により抽出し、「Br J Nutr.94,896−901(2005)」記載の方法により測定した。 アテローム性動脈硬化症病変の定量分析は「J Nurt128、1884−1889(1998)」に記載した方法により行った。結果は平均値および平均値の標準誤差(SEM)で表した。また Tukey−Kramerの多重比較に従い一元配置分散分析を用い評価した。P(probability)<0.05を有意と判断した。解析はソフトウエア(Stat View J5.0(SAS Institute,Cary,NC、USA))にて行った。結果体重と給餌効率9週間の飼育の後、体重、臓器重量、餌摂取量、給餌効率は3つのグループで差は認められなかった(表2)。体脂肪量(比較例1 Control:平均8.9(SEM1.2)%、n8;実施例1 10mg/kg Trp−His:平均7.1(SEM0.7)%、n7;実施例2 100mg/kg Trp−His:平均7.5(SEM0.6)%,n8)は腸間膜、精巣、下皮の脂肪量と同様、グループ間で差は認められなかった。表2 9週間飼育後の状態血中脂質血液の分析では、総コレステロール、HDL-コレステロール、MCP−1の量において、3つのグループに差は認められなかった(表3)。血漿コレステロール量は比較的高い(>1000mg/日)が、これは高コレステロール食によるものと思われる。表3 9週間飼育後のコレステロール量等ジペプチドTrp−Hisを9週間投与後、大動脈(aortic tree)においては、コントロールグループ(比較例1)よりもTrp−His投与グループ(投与量10mg/kg(実施例1),100mg/kg(実施例2)とも)の方が、アテローム性動脈硬化病変が小さかった(図2)。数値的には図3の通り、Trp−His投与グループの病変領域の割合(10mg/kg:平均9.5(SEM 1.3)%,n7, 100mg/kg:平均8.1(SEM1.6)%,n8,P<0.05)はコントロールグループ(平均13.0(SEM 1.0)%,n8)よりも明らかに小さかった。これはジペプチドTrp−Hisが動脈硬化病変の進展を阻害していることを示していた。Trp−His投与グループ間では、投与量に依存する有意な差は見られなかった。これは、Trp−Hisの投与量は10mg/kg/日あれば、効果を引き出す上で十分であることを示している。 大動脈洞におけるアテローム性動脈硬化病変(図4)と病変領域の数値解析データ(図5)は、3つのグループで違いは見られなかった(P>0.05)。考察 上記結果の通り、ジペプチドTrp−Hisを9週間投与したアポE欠損マウスにおいて、大動脈(aortic tree)のアテローム性動脈硬化症の病変領域は、ジペプチドを投与しなかったものに比べ小さかった。これはジペプチドTrp−Hisに、大動脈(aortic tree)のアテローム性動脈硬化症の発展を抑制する働きがあることを示している。そして大動脈(aortic tree)と基本的構造が類似する他の血管、特に動脈に対しては同様の効果があることが考えられた。そして、Trp−Hisの体重あたりの投与量の違いで効果に有意な差が見られなかったことから、5〜100mg/kg/日の投与量において、効果が見出されると考えられた。 また、今回の実験において、十分な効果の認められた投与量10mg/kg/日に対して、その10倍量に当たる100mg/kg/日の投与量においても、心臓重量に有意な変化は見られなかった。このようなことは従来は全く知られていないことであり、本発明のジペプチドTrp−Hisは、従来知られているようなカルシウムブロック作用以外の作用機序により、抗アテローム性動脈硬化作用を示していると推定される。 本発明では、大動脈洞においては、ジペプチドTrp−Hisによる抗アテローム性動脈硬化作用は確認されなかった。これも従来考えられていた作用機序からするときわめて異例である。すなわち、従来知られたカルシウム拮抗作用のみにより抗アテローム性動脈硬化作用を示しているのであれば、大動脈洞に対してもそれ以外の動脈と同様、抗アテローム性動脈硬化作用を示すはずであり、カルシウム拮抗作用以外の作用機序の存在を傍証している。そして、大動脈洞が心臓近傍に存在することからも、ジペプチドTpr−Hisが心臓に対し、従来知られていない特異的な働きをしている可能性を示唆している。 なお、Trp−Hisにより上記の通り効果が見出されているため、その塩においても同様の効果が見出されることは、当業者であれば十分に推測できることである。また本実験はマウスに対するものであるが、哺乳類一般に対し同様の効果が期待できることは、当業者であれば十分に推測できることである。本発明により、心疾患を併発したアテローム性動脈硬化症患者に対し、従来は心臓への影響を懸念し、カルシウム拮抗薬を服用できなかった患者に対しても、服用が可能な抗アテローム性動脈硬化剤を供給することができる。TrpーHisで示されるジペプチド又はその塩を有効成分とする、カルシウム拮抗薬が忌避される心臓疾患を有する患者用である、アテローム性動脈硬化症の予防または改善剤。1日当たりの投与量が体重1kg当り5〜100mgである、請求項1に記載のアテローム性動脈硬化症の予防または改善剤。


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