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タイトル:特許公報(B2)_低免疫原性ストレプトアビジンおよびその利用
出願番号:2011500525
年次:2014
IPC分類:C12N 15/09,C07K 14/195,C07K 19/00,A61K 38/00,A61K 47/42,A61P 35/00,A61K 49/00


特許情報キャッシュ

児玉 龍彦 浜窪 隆雄 土居 洋文 杉山 暁 津本 浩平 JP 5472754 特許公報(B2) 20140214 2011500525 20100219 低免疫原性ストレプトアビジンおよびその利用 国立大学法人 東京大学 504137912 株式会社ペルセウスプロテオミクス 503196776 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 児玉 龍彦 浜窪 隆雄 土居 洋文 杉山 暁 津本 浩平 JP 2009037750 20090220 20140416 C12N 15/09 20060101AFI20140327BHJP C07K 14/195 20060101ALI20140327BHJP C07K 19/00 20060101ALI20140327BHJP A61K 38/00 20060101ALI20140327BHJP A61K 47/42 20060101ALI20140327BHJP A61P 35/00 20060101ALI20140327BHJP A61K 49/00 20060101ALI20140327BHJP JPC12N15/00 AC07K14/195C07K19/00A61K37/02A61K47/42A61P35/00A61K49/00 A C12N 15/00−15/90 C07K 14/195 PubMed CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) UniProt/GeneSeq 特表2003−501096(JP,A) MEYER DL., et al.,Reduced antibody response to streptavidin through site-directed mutagenesis,Protein Sci.,2001年,vol.10, no.3,p.491-503 SUBRAMANIAN N., et al.,Mapping the common antigenic determinants in avidin and streptavidin,Biochem. Mol. Biol. Int.,1997年,vol.43, no.2,p.375-382 SHULTZ J., et al.,A tetravalent single-chain antibody-streptavidin fusion protein for pretargeted lymphoma therapy,Cancer Res.,2000年,vol.60, no.23,p.6663-6669 6 IPOD FERM BP-10921 JP2010001100 20100219 WO2010095455 20100826 21 20110818 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度〜22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発事業」委託研究、平成17年度 独立行政法人医薬基盤研究所、保険医療分野における基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの) 池上 文緒 本発明は、免疫原性を低下させたストレプトアビジン変異体およびその利用に関する。より詳細には、本発明は、アミノ酸に変異を導入することにより免疫原性を低下させたストレプトアビジン変異体およびその利用に関する。 アビジンとビオチン、あるいはストレプトアビジンとビオチンの間の親和性は非常に高く(Kd=10-15 から10-14M)、生体二分子間の相互作用としては、最も強い相互作用の一つである。現在、アビジン/ストレプトアビジン - ビオチン相互作用は、生化学、分子生物学、あるいは医学の分野で広く応用されている(Green, (1975), Adv. Protein Chem., 29: 85-133; Green, (1990), Methods Enzymol., 184: 51-67)。アビジンは卵白由来の塩基性糖タンパクで、等電点は10を超える。一方、ストレプトアビジンは放線菌(Streptomyces avidinii)由来で、等電点は中性付近で糖鎖は含まない。両タンパク質とも、4量体を形成し、1つのサブユニット当たり1分子のビオチンと結合する。分子量は60kDa程度である。 近年このアビジン/ストレプトアビジンとビオチンの高い結合能と抗体分子とを組合わせしたドラッグデリバリーの方法、プレターゲティング法が考案されている(Hnatowich, (1987), J. Nucl. Med., 28, 1294-1302)。しかしながら、ニワトリ由来のアビジンや微生物由来のストレプトアビジンは人体に対し高い免疫原性を示すため、人体に投与後、早期に抗アビジン/ストレプトアビジン抗体が産生されることが問題となりプレターゲティング法の実用化を妨げている原因の1つとなっている(Paganelli, (1991), Cancer Res., 51, 5960-5966)。 上記の問題を解決する為、過去にストレプトアビジンの低免疫原性化について述べた論文が発表されているが(Subramanian, (1998), Bioch. and Mol. biol. Int., 43, 357-82)、ストレプトアビジンの人体に対する免疫原性の問題は未だ解決に至っていない。米国特許第5,672,691号米国特許第6,022,951号Green, (1975), Adv. Protein Chem., 29: 85-133;Green, (1990), Methods Enzymol., 184: 51-67Hnatowich, (1987), J. Nucl. Med., 28, 1294-1302Paganelli, (1991), Cancer Res., 51, 5960-5966)。Mapping the common antigenic determinants in avidin and streptavidin. Subramanian, N et al. Biochemistry and Molecular biology International.1997, 43, 357-82Reduced antibody response to streptavidin through site-directed mutagenesis Meyer, DL et al. Protein Science. 2001, 10, 491-503Biotin Reagents for Antibody Pretargeting. 4. Wilbur DS et al. Bioconjugate Chemistry. 2000, 11(4), 569-583 本発明は、微生物に属する Streptomyces avidinii 由来蛋白質であるストレプアビジンがもつ哺乳動物に対する免疫原性(抗原性)を低減させ、動物体内での抗ストレプトアビジン抗体産生を抑制し、かつビオチンに対する結合能は維持した、医薬およびその他の工業での種々の目的に使用することを可能にするストレプトアビジン変異体(低免疫原性ストレプトアビジン)を提供することを解決すべき課題とした。更に本発明は、上記ストレプトアビジン変異体を用いた診断薬・治療薬、上記ストレプトアビジン変異体を用いた診断キット・治療キットを提供することを解決すべき課題とした。 本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討し、ストレプトアビジンの立体構造およびペンタペプチド出現頻度解析からヒト体内において抗原部位となるアミノ酸を選び、低免疫原性化となる低免疫原性化候補アミノ酸を選び出した。次に、野生型ストレプトアビジンを鋳型とした遺伝子配列に点変異を入れ低免疫原性化候補アミノ酸への変換を行い蛋白質発現を実施し蛋白精製を実施した。さらに、これらの変異体ストレプトアビジンに対し、野生型ストレプトアビジンをカニクイサルに免疫を行い、調製を実施した抗ストレプトアビジン抗血清を用い反応性を解析したところ、抗血清の反応性が野生型ストレプトアビジンに比べ約40%以上の低下を認める変異体ストレプトアビジンを同定し、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。(1) 配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において、(a)72番目のアミノ酸残基のアルギニンが他のアミノ酸に置換しており、かつ(b)10番目のアミノ酸残基のチロシン、71番目のアミノ酸残基のチロシン、89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸、91番目のアミノ酸残基のアルギニン、及び104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸の何れか一つ以上が他のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列を含み、野生型ストレプトアビジンと比較して免疫原性が低下している、ストレプトアビジン変異体。(2) 配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において、(a)71番目のアミノ酸残基のチロシン及び72番目のアミノ酸残基のアルギニンが他のアミノ酸に置換しており、かつ(b)10番目のアミノ酸残基のチロシン、89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸、91番目のアミノ酸残基のアルギニン、104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸の何れか一つが他のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列を含む、(1)に記載のストレプトアビジン変異体。(3) 配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において以下の何れか1以上の変異を有する、(1)又は(2)に記載のストレプトアビジン変異体(1)10番目のアミノ酸残基のチロシンがセリン又はトレオニンに置換している変異:(2)71番目のアミノ酸残基のチロシンがアラニン又はセリンに置換している変異:(3)72番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(4)89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換している変異:(5)91番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(6)104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がグルタミン又はアスパラギンに置換している変異:(4) 配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において以下の何れか1以上の変異を有するアミノ酸配列を含み、野生型ストレプトアビジンと比較して免疫原性が低下している、ストレプトアビジン変異体。(1)10番目のアミノ酸残基のチロシンがセリン又はトレオニンに置換している変異:(2)71番目のアミノ酸残基のチロシンがアラニン又はセリンに置換している変異:(3)72番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(4)89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換している変異:(5)91番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(6)104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がグルタミン又はアスパラギンに置換している変異:(5) 配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において以下の変異を有するアミノ酸配列を含み、野生型ストレプトアビジンと比較して免疫原性が低下している、ストレプトアビジン変異体。(2)71番目のアミノ酸残基のチロシンがアラニン又はセリンに置換している変異:(3)72番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(4)89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換している変異:(6)104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がグルタミン又はアスパラギンに置換している変異:(6) さらに以下の変異を有する、(5)に記載のストレプトアビジン変異体。(1)10番目のアミノ酸残基のチロシンがセリン又はトレオニンに置換している変異:(5)91番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(7) 配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において以下の変異の全てを有する、ストレプトアビジン変異体(1)10番目のアミノ酸残基のチロシンがセリンに置換している変異:(2)71番目のアミノ酸残基のチロシンがセリンに置換している変異:(3)72番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(4)89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換している変異:(5)91番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:及び(6)104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がグルタミン又はアスパラギンに置換している変異:(8) (1)から(7)の何れかに記載のストレプトアビジン変異体をコードするDNA。(9) (1)から(7)の何れかに記載のストレプトアビジン変異体に抗体を結合させることにより得られる、抗体で標識したストレプトアビジン変異体。(10) (9)に記載の抗体で標識したストレプトアビジン変異体を含む、治療剤又は診断剤。(11) (a)(9)に記載の抗体で標識したストレプトアビジン変異体;及び(b)ストレプトアビジンに親和性を有するビオチン又はその誘導体で標識した診断用又は治療用物質:を含む治療又は診断キット。 本発明の変異体ストレプトアビジンは、ビオチンに対する結合能は維持しつつ、哺乳動物に対する免疫原性(抗原性)が低下していることを特徴とするため、動物体内での抗ストレプトアビジン抗体産生が抑制される。本発明の変異体ストレプトアビジンは、医薬およびその他の工業での種々の目的に使用することが可能である。図1は、ビアコア解析におけるセンサーグラムを示す。図2は、変異体ストレプトアビジンに対する抗血清の反応性を示す。図3は、天然型ストレプトアビジン、mcSA040、 mcSA072、 mcSA314、 mcSA414のサーマルシフトアッセイの結果を示す。図4は、B5209B mouse scFv-mcSA414(SA) の発現ベクターの構造を示す。図5は、B5209B scFv-mcSA414 をNi2+アフィニティカラムにより精製した結果を示す。図6は、サイズ排除クロマトグラフィーにより B5209B scFv-mcSA414 を最終精製した結果を示す。図7は、B5209B scFv-mcSA414とROBO1との等温滴定型熱量測定(ITC)の結果を示す。図8は、B5209B scFv-mcSA414とBiotinとの等温滴定型熱量測定(ITC)の結果を示す。図9は、B5209B scFv-mcSA414の示差走査型熱量測定(DSC)の結果を示す。 以下、本発明について更に詳細に説明する。 本発明のストレプトアビジン変異体は、配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において、所定のアミノ酸の変異を有し、野生型ストレプトアビジンと比較して免疫原性が低下していることを特徴とする。 野生型(天然)のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示し、これをコードする塩基配列を配列表の配列番号1に示す。 第一の態様によれば、本発明のストレプトアビジン変異体は、配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において、(a)72番目のアミノ酸残基のアルギニンが他のアミノ酸に置換しており、かつ(b)10番目のアミノ酸残基のチロシン、71番目のアミノ酸残基のチロシン、89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸、91番目のアミノ酸残基のアルギニン、及び104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸の何れか一つ以上が他のアミノ酸に置換しているアミノ酸配列を含む。 第二の態様によれば、本発明のストレプトアビジン変異体は、配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において以下の何れか1以上の変異を有するアミノ酸配列を含む。(1)10番目のアミノ酸残基のチロシンがセリン又はトレオニンに置換している変異:(2)71番目のアミノ酸残基のチロシンがアラニン又はセリンに置換している変異:(3)72番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(4)89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換している変異:(5)91番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(6)104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がグルタミン又はアスパラギンに置換している変異: 10番目のアミノ酸残基のチロシンが他のアミノ酸に置換している場合、他のアミノ酸の具体例としては、グリシン、セリン又はトレオニンが挙げられ、特に好ましくはセリン又はトレオニンが挙げられる。 71番目のアミノ酸残基のチロシンが他のアミノ酸に置換している場合、他のアミノ酸の具体例としては、グリシン、アラニン又はセリンが挙げられ、特に好ましくはアラニン又はセリンが挙げられる。 72番目のアミノ酸残基のアルギニンが他のアミノ酸に置換している場合、他のアミノ酸の具体例としては、グリシン、又はリジンが挙げられ、特に好ましくはリジンが挙げられる。 89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸が他のアミノ酸に置換している場合、他のアミノ酸の具体例としては、グリシン、アラニン、又はアスパラギン酸が挙げられ、特に好ましくはアスパラギン酸が挙げられる。 91番目のアミノ酸残基のアルギニンが他のアミノ酸に置換している場合、他のアミノ酸の具体例としては、グリシン、又はリジンが挙げられ、特に好ましくはリジンが挙げられる。 104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸が他のアミノ酸に置換している場合、他のアミノ酸の具体例としては、セリン、グルタミン又はアスパラギンが挙げられ、特に好ましくはグルタミン又はアスパラギンが挙げられる。 本発明で言う、野生型ストレプトアビジンと比較して免疫原性が低下しているとは、ストレプトアビジン変異体をヒトなどの哺乳動物に投与した場合における免疫原性が低下していることを言う。免疫原性が低下していることは、例えば、以下の方法で確認することができる。即ち、本発明の変異体ストレプトアビジンについて、野生型ストレプトアビジンをカニクイサルに免疫して取得した抗ストレプトアビジン抗血清に対する反応性を解析し、上記の抗ストレプトアビジン抗血清に対する反応性が野生型ストレプトアビジンに比べて低下していれば、野生型ストレプトアビジンと比較して免疫原性が低下していると判断することができる。上記した方法で免疫原性の低下を判断した場合、本発明のストレプトアビジン変異体は、野生型ストレプトアビジンと比較して、免疫原性が好ましくは80%以下、さらに好ましくは60%以下、さらに好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下に低下している。 本発明によればさらに、上記した本発明のストレプトアビジン変異体をコードするDNAが提供される。本発明のDNAは、野生型(天然)のストレプトアビジンをコードするDNAに対して部位特異的変異誘発により作製することができる。 上記した本発明のストレプトアビジン変異体をコードするDNAは、ベクターに組み込んで使用することができる。特に、本発明のストレプトアビジン変異体を製造するためには、本発明のストレプトアビジン変異体をコードするDNAを発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを宿主に形質転換することによって、本発明のストレプトアビジン変異体を発現させることができる。 大腸菌を宿主とする場合には、本発明で用いるベクターとしては、複製起点(ori)を有し、さらに形質転換された宿主を選択するための遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン又はクロラムフェニコールなどの薬剤に対する薬剤耐性遺伝子など)を有していることが好ましい。また、発現ベクターの場合には、宿主において本発明のストレプトアビジン変異体を効率よく発現させることができるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーターまたはT7プロモーターなどを持っていることが好ましい。このようなベクターとしては、ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script、pGEX-5X-1(ファルマシア)、「QIAexpress system」(キアゲン)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21を使用することが好ましい)などが挙げられる。また、ベクターには、本発明のストレプトアビジン変異体の収量をあげるためのシグナル配列などを付加することもできる。 宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。また、可溶性を向上させるためのタグ、例えばグルタチオンーS−トランスフェラーゼやチオレドキシン、マルトース結合蛋白質をコードする配列が付加されていてもよい。また、精製を容易にすることを目的にした設計されたタグ、例えばポリヒスチジンタグ、Mycエピトープ、ヘマグルチニン(HA)エピトープ、T7エピトープ、XpressタグやFLAGペプチドタグ、その他の既知のタグ配列をコードする配列が付加されていてもよい。 大腸菌以外にも、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS(Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11 、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。 CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。 ベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、原核生物および真核生物のいずれでもよい。例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。 真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO細胞、COS細胞、3T3細胞、HeLa細胞、Vero細胞、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5などを用いることができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。 植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が蛋白質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。 原核細胞を使用する場合は、大腸菌(E. coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。 これらの細胞を、本発明のDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより本発明のストレプトアビジン変異体が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。また、細胞の増殖を促進するための成長因子の添加を行ってもよい。 さらに本発明によれば、本発明のストレプトアビジン変異体に抗体を結合させることにより得られる、ストレプトアビジン変異体―抗体結合物、並びにストレプトアビジン変異体―抗体結合物を含む治療剤又は診断剤が提供される。さらに、上記したストレプトアビジン変異体―抗体結合物は、ストレプトアビジンに親和性を有するビオチン又はその誘導体で標識した診断用又は治療用物質と組み合わせて、治療又は診断キットとして提供することができる。 即ち、本発明においては、癌抗原特異的抗体分子と本発明のストレプトアビジン変異体との融合体を調製し、患者に投与することで、癌細胞に特異的に本発明のストレプトアビジン変異体を集積できることができる。次に、ストレプトアビジンに親和性を有するビオチン又はその誘導体に結合させた診断用もしくは治療用物質(放射性同位元素、低分子化合物、タンパク質など)を患者に投与することによって、癌細胞へ的確に物質を集積させることが可能になる。本発明においては、低免疫原性化により抗体産生が抑制され、抗体による早期の体内からのクリアランス、アナフィラキシーなどのショックを防ぐことができる。 ストレプトアビジン変異体に結合させる抗体は種々の分子を用いることができる。ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体はどちらも使用することができる。抗体のサブクラスは特に問わないが、好ましくはIgG、特にIgG1が好適に用いられる。また、「抗体」は改変抗体および抗体断片の全てを含む。ヒト化抗体、ヒト型抗体、ヒト抗体、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、サル等の各種動物由来抗体、ヒト抗体と各種動物由来抗体とのキメラ抗体、diabody、scFv、Fd、Fab、Fab‘、F(ab)’2が挙げられるが、これらに限らない。 ストレプトアビジン変異体と抗体の結合物は、当業者に公知の方法を用いて得ることができる。例えば、化学的結合方法(US5,608,060)によって得ることもできるし、ストレプトアビジン変異体をコードするDNAと抗体をコードするDNAを連結し、発現ベクター等を用いて宿主細胞に発現させることにより、融合タンパクとして得ることもできる。ストレプトアビジン変異体をコードするDNAと抗体をコードするDNAとの連結は、リンカーと呼ばれる適当なペプチドをコードするDNAを介しても良い。ストレプトアビジン変異体―抗体結合物は、抗体と標的分子との特異的結合力を残して作製されることが望ましい。 以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。実施例1:低免疫原性ストレプトアビジンの設計 配列番号1及び2に記載のコアストレプトアビジンの遺伝子配列及びアミノ酸配列を元に、以下の条件を満たすような変異を有する変異体ストレプトアビジンの配列を検討し、表1に記載の変異を有する変異体ストレプトアビジンを設計した。(1)抗体との融合タンパク質が、人体内において免疫原性を可能な限り少なくすると予測される配列であること。(2)ビオチン分子に対する高いアフィニティーを可能な限り維持している配列であること。 表1におけるY22は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列における10番目のアミノ酸残基のチロシンに対応する。表1におけるY22Sは、上記チロシンからセリンへの置換を示し、表1におけるY22Tは、上記チロシンからトレオニンへの置換を示す。 表1におけるY83は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列における71番目のアミノ酸残基のチロシンに対応する。表1におけるY83Aは、上記チロシンからアラニンへの置換を示し、表1におけるY83Sは、上記チロシンからセリンへの置換を示す。 表1におけるR84は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列における72番目のアミノ酸残基のアルギニンに対応する。表1におけるR84Kは、上記アルギニンからリジンへの置換を示す。 表1におけるE101は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列における89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸に対応する。表1におけるE101Dは、上記グルタミン酸からアスパラギン酸への置換を示す。 表1におけるR103は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列における91番目のアミノ酸残基のアルギニンに対応する。表1におけるR103Kは、上記アルギニンからリジンへの置換を示す。 表1におけるE116は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列における104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸に対応する。表1におけるE116Nは、上記グルタミン酸からアスパラギンへの置換を示し、表1におけるE116Qは、上記グルタミン酸からグルタミンへの置換を示す。実施例2:変異体ストレプトアビジンの製造(1)ワイルドタイプコアストレプトアビジンの塩基配列の合成 配列表の配列番号1に示すコアストレプトアビジンをコードする遺伝子の塩基配列は、人工遺伝子合成(Integrated DNA Technologies社)のサービスを使用した。(2)発現ベクターの構築 上記の配列を鋳型にし、5'端側にHindIIIサイト、3'端側にEcoRIサイトをPCRにより付加する下記のプライマー1及び2を用い、PCR後、制限酵素HindIII、EcoRIにて処理を行った。プライマー1: GCTCTTCAAAGCTTTGGCCGAAGCTGGTATCACTG (配列番号3)プライマー2:CTCGAGGAATTCTTAGCTAGCAGCAGAAGGCTTAAC (配列番号4) 制限酵素処理をしたサンプルは電気泳動の後、ゲル精製を行った。同様にpPAL7ベクター(BIO−RAD社製)も酵素処理を実施し、ゲル精製を行った。精製したベクターおよびPCR産物は2xRapid Ligation BufferとT4DNA Polymerase(供にPromega社)を用いて指定の方法でライゲーションを実施した。大腸菌のトランスフォーメーションは50マイクロリットルのDH5αコンピテントセル(TOYOBO社製)に対し、2マイクロリットルのライゲーション産物を添加し実施した。プラスミドの抽出はMiniprep Kit(QIAGEN社製)を用いて実施し、得られたプラスミドについてシーケンス解析により配列の確認を実施した。(3)変異株の作成 上記のワイルドタイプストレプトアビジン発現ベクターを鋳型とし、SiteーDirected Mutagenesis法により塩基配列の置換によるコドン配列の変更を行いアミノ酸配列の変換を行った。すなわち、変更する塩基配列が、ほぼ中心に来るように長さ28〜30ベースの相補的プライマーを設計し、野生型ストレプトアビジン発現ベクターを鋳型としてPCR法を実施した。その後、制限酵素DpnIにて鋳型プラスミドを切断し、大腸菌の形質転換を行った。プライマー:Y22S Fw: CACTGGCACCTGGTCGAACCAACTGGGGTC (配列番号5)Y22T Fw: CACTGGCACCTGGACTAACCAACTGGGGTC (配列番号6)E101D FW: CGTTGGCGGTGCTGATGCTCGTATCAACAC (配列番号7)R103K FW: GGTGCTGATGCTAAGATCAACACTCAGTGG (配列番号8)Y83A FW: GGAAAAACAACGCCCGTAATGCGCACAGCG (配列番号9)Y83S FW: GGAAAAACAACTCGCGTAATGCGCACAGCG (配列番号10)R84K FW: GAAAAACAACTATAAGAATGCGCACAGCG (配列番号11)E116N FW: CATCCGGCACTACCAATGCGAATGCATGG (配列番号12)E160Q FW: CATCCGGCACTACCCAAGCGAATGCATGG (配列番号13)(4)組換えタンパク質の発現 野生型ストレプトアビジンおよび変異体ストレプトアビジンの遺伝子配列を組み込んだpPAL7発現ベクターを大腸菌BL21(BIO−RAD社)に常法に従いトランスフェクションを行った。各タンパク質の発現は以下のように実施した。すなわち、大腸菌培養液の細胞密度がOD(600nm)0.5−0.7となるまで37度にて培養を行い、最終濃度1mMになるようにIPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyanoside)を添加し、タンパク質発現を誘導し、20度にて24時間の培養を行った。24時間の培養の後、菌体を遠心分離により細胞を集め、タンパク質精製までマイナス20度で保存した。(5)組換えタンパク質の精製 組換えタンパク質の精製は、Profinity eXact Protein Purification System (BIO−RAD社製)の方法を用い実施した。BugBuster(Novagen社)を培養容量の1/20添加し細胞の溶解を行った。遠心分離後上清を総可溶性タンパク質とした。回収した可溶性画分は、Profinity eXact Mini Spin Columns(BIO−RAD)の用法容量に従い処理を行った。総可溶性タンパク質、カラム通過画分、洗浄画分、溶出画分を10−20% レディーゲルJ(BIO−RAD社製)を用いてSDS−PAGE電気泳動した。泳動後、タンパク質をSimplyBlue SafeStain(Invitrogen社製)で染色し精製純度の確認を実施した。実施例3:カニクイサル抗ストレプトアビジン抗血清の作製 カニクイサルに対し、一回に付き1ミリグラムのリコンビナントストレプトアビジン(PIERCE社製)を2週間おきに3回の投与を実施した。投与前採血をDay1としDay8、15、29、36、50、57に実施した(イナリサーチ株式会社)。実施例4:タンパク質とビオチンとの結合性の解析(1)ビアコアバイオセンサーを用いたタンパク質とビオチンとの相互作用のカイネティクス分析 ビアコア(登録商標)のバイオセンサーのリガンド(センサーチップへ貼り付ける物質)は、抗マウスIgG抗体(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)とした。一方、アナライト(流路系に流す物質)としてビオチン化されたマウス抗体と各種ストレプトアビジン変異体を調製し、Biacore(登録商標)3000(表面プラズモン共鳴を原理としたバイオセンサー、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による分子間相互作用の分析を行った。抗マウスIgG抗体は、アミンカップリング法によってCM5センサーチップの全てのフローセルに固定化した。各フローセルの固定化量は8000RUであった。次にリファレンス用として非ビオチン化マウス抗体をフローセル1と3へキャプチャーさせ、ビオチン化マウス抗体をフローセル2と4へキャプチャーさせた。各種ストレプトアビジンは1と2または3と4に、流速20マイクロリットル/分で2分間、ランニングバッファー(HBS−EP、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)中にロードした。その後、7分間、サンプルの解離をモニターした。その後、10mMグリシン塩酸バッファー、pH1.7(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にて再生操作を行い繰り返し測定を実施した。得られたセンサーグラムから、解析ソフトウェアBIAevaluation ver.4.1を用い、1:1結合モデルを用いて、反応速度論的解析を行い、結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)を計算した。解離定数(Kd)は、kd/kaから求めた。 組み換えストレプトアビジンとビオチンとのBiacore(登録商標)3000(表面プラズモン共鳴を原理としたバイオセンサー、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による分子間相互作用のカイネティクス分析結果は表2の通りである。 得られたストレプトアビジン改変体の解離定数は、10-10Mのオーダーで、今回我々の測定したワイルドタイプストレプトアビジンの解離定数と同じオーダーであった。この結果によって、ストレプトアビジン改変体はワイルドタイプと同様にビオチンと非常に高い親和性をもつタンパク質であることが明らかとなった。現在広く応用されているストレプトアビジン・ビオチン技術に応用が可能であると考えられる。(2)ビアコアバイオセンサーを用いたタンパク質とカニクイサル抗血清との相互作用分析 ビアコア(登録商標)のバイオセンサーのリガンド(センサーチップへ貼り付ける物質)は、Amine-PEG3-Biotin (Thermo SCIENTIFIC)と各種ストレプトアビジン改変体とした。一方、アナライト(流路系に流す物質)として、ランニングバッファー(HBS−EP、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にて20倍希釈したカニクイサル抗血清を調製し、Biacore(登録商標)3000(表面プラズモン共鳴を原理としたバイオセンサー、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)による分子間相互作用の分析を行った。Amine-PEG3-Biotin (Thermo SCIENTIFIC)はアミンカップリング法によってCM5センサーチップの全てのフローセルに固定化した。各フローセルの固定化量の平均は160RUであった。次に、フローセル2はワイルドタイプストレプトアビジン、フローセル3、4それぞれに各種2種類のストレプトアビジン改変体を流し、ビオチンとの結合反応により固定化を行った。フローセル1はリファレンスとした。 希釈したカニクイサル抗血清は、測定温度37度に設定し、5マイクロリットル/分にて2分間、ランニングバッファー(HBS−EP、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)中にロードした。その後、7分間、サンプルの解離をモニターした。 その後、10mMグリシン塩酸バッファー、pH1.7(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にて再生操作を行い繰り返し測定を実施した。 得られたセンサーグラム(図1)から、解析ソフトウェアBIAevaluation ver.4.1を用い、ストレプトアビジン改変体の結合量、抗血清の反応量を導きだし、各フローセルに結合したストレプトアビジンの量で標準化を行い抗血清の反応を比較した。すなわち、(抗血清の反応後の値−反応前の値)/ストレプトアビジンの結合量、という式で数値を出しグラフ化を行った(図2)。実施例5:インシリコでのストレプトアビジンの免疫原性の解析 Epibase T-cell epitope profiling サービス(Algonomics社)を利用し、野生型ストレプトアビジン、mcSA072、mcSA040、mcSA314、mcSA414 についてインシリコベースで免疫原性(immunogenicity)の解析を実施した(Desmet, (2005), Proteins, 58, 53-69; ES126528)。予測で使用するアロタイプは、Caucasian、Oriental、Indo-European、Afro-American plus West African、Austronesian、Mestizoにおいて出現頻度が30%以上のものを選択した。それぞれのアロタイプについて結晶構造もしくは結晶構造に基づいてモデル化した最も近い構造を用い独自の側鎖の配置方法を含む方法を使用した(Desmet, (2002), Proteins, 48, 31-34)。次に、レセプターとターゲットペプチドとの結合自由エネルギーの計算を実施し、その結合力の強さに基づき抗原性の強さの分類を行った(Kapoerchan, (2009), Mol. Immunol. 47(5), 1091-1097)。 37種類のDRB1、8種類のDRB3/4/5、23種類のDQ、10種類のDP、合計78種類のHLA class II レセプターについてアロタイプレベルのプロファイリングを行った結果を表3、表4に示す。決定的なエピトープの数を表している表3から、野生型ストレプトアビジンはDBR1エピトープが最も少ないが、DRB3/4/5エピトープは最も多く、一方、mcSA314、mcSA414はDPエピトープが消失しているが、DQエピトープが増えていることが示された。影響を及ぼすアロタイプをまとめた表4からはmcSA314、mcSA414は他のタンパク質に比べエピトープの数が減少していることが示された。これらの結果から免疫原性の予測結果は mcSA314 < mcSA414 < 野生型ストレプトアビジン という順番になった(左のほうが免疫原性が低い)。実施例6:ストレプトアビジンタンパク質の熱安定性の評価 実施例2に従って精製された次の5種類のタンパク質、天然型ストレプトアビジン、mcSA040、mcSA072、mcSA314、mcSA414についてサーマルシフトアッセイを実施した(Vedadi, (2006), Proc Natl Sci USA., 103(43), 15835-15840)。リアルタイムPCR用チューブ(PCR Tube Strip, Flat Cap Strip, BIO-RAD社製)に各試料の最終濃度が次にようになるようにサンプルを調製した。SYPRO Orangeは5000倍希釈、各タンパク質は10μM、バッファーは1x PBS となるようにした。また、タンパク質の熱変性を加速化させる目的で、グアニジン塩酸溶液の濃度が終濃度0M, 0.5M, 1M, 2Mになるように調製した。反応ボリュームは20μlで行った。測定装置はCFX96リアルタイムPCR検出システム(BIO-RAD社製)を用いた。CFX96リアルタイムPCR検出システムのプログラムモードはFRET検出用を使用し、温度上昇は10秒ごとに 0.5 ℃づつ上昇させるプログラムで反応および検出を行った。 サーマルシフトアッセイの結果を解析した結果、改変したストレプトアビジン、mcSA040、mcSA072、mcSA314、mcSA414は天然型ストレプトアビジンと同等の熱安定性を100℃において示した(図3)。このことから前述したミューテーションは免疫原性を低下させるが、熱安定性には影響を及ばさないことが示唆された。実施例7:改変モノクロナール抗体の作製(1)ハイブリドーマ細胞からtotal RNAの調製 モノクロナール抗体B5209B(IgG2b)産生ハイブリドーマ細胞として、特開2008−290996号公報に記載されているモノクロナール抗体B5209Bを産生するハイブリドーマを用いた。このモノクロナール抗体B5209Bを産生するハイブリドーマは、受託番号FERM P−21238として、2007年(平成19年)3月2日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託されており、さらに受託番号FERM BP−10921として、2007年(平成19年)10月16日付で国際寄託に移管された。 上記のモノクロナール抗体B5209B(IgG2b)産生ハイブリドーマ細胞1x107個をphosphate buffered saline (PBS)で一回洗浄後、細胞沈殿にTrizol液(Invitrogen社製)1mlを加えて可溶化した。抽出液を20G注射針に2回通しDNAをせん断した後、Trizol液付属の説明書に従ってクロロホルム抽出、イソプロパノール沈殿、80%エタノール洗浄によりtotal RNAを精製し、ジエチルピロカーボネート含有滅菌蒸留水に溶解した。得られたtotal RNAは、アガロースゲル電気泳動により、分解していないことを確認した。(2)IgG heavy chain V region (VH) cDNAの合成とクローニング B5209B total RNA 5μgを鋳型として、3’ーPrimerとしてマウスIgG2b heavy chain C領域5’端のcDAN配列に基づくprimer (5'-ccaagcttaggggccagtggatagactg-3')(配列番号14)を用い、SuperScript cDNA合成キット(Invitrogen社製)を使用してキットの説明書に従い、1st strand cDNAを合成した。得られた1st strand cDNAにNovagen社Mouse Ig-Primer SetのMuIgVH5'-A primerを加えて、Expand High Fidelity PCR System (Roche Diagnostics社製)を用いて2本鎖cDNAを増幅した。得られた2本鎖cDNAをTAクローニング法によりpGEM-T vector (Promega社製)にサブクローンし、大腸菌DH5αに導入してプラスミド含有ベクターを得た。6クローンに関してプラスミドDNAをQiagen Plasmid Midi Kit (Qiagen社製)で精製し、常法に従って、DNA塩基配列を決定した。抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号16に記載のアミノ酸配列のうち1番目から122番目までのアミノ酸配列であることが判明した。(3)抗ROBO1モノクロナール抗体B5209BのIgG light chain N末端アミノ酸配列の決定 モノクロナール抗体B5209B(IgG2b)を含むハイブリドーマ無血清培養上清からProtein Gカラム(GE Healthcare社製)を用いて、付属の説明書に従って抗体の精製を行った。 精製したモノクロナール抗体B5209BをSDS-PAGEを用いて電気泳動を行った。電気泳動ゲルはPVDF膜に転写した後、クマシー染色を行った。染色されたIgG light chainのバンドを切り出しエドマン分解法によりN末端アミノ酸配列(DIQMT)を決定した。(4)B5209B mouse-scFv-mcSA414の発現ベクターの構築(図4) 図4に記載の構造を有するB5209B mouse-scFv-mcSA414の発現ベクターを構築した。当該発現ベクター中のB5209B mouse-scFv-SAの塩基配列を配列番号15に記載し、アミノ酸配列を配列番号16に記載する。抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号16のうちの1番目から122番目のアミノ酸配列に対応し、抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列は、配列番号16に記載のアミノ酸配列のうちの142番目から248番目のアミノ酸配列に対応する。(5)B5209B mouse-scFv-mcSA414 培養法 大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、アンピシリン50μg/ml含有LBプレート培地にて28℃条件下で20時間程度培養をした。プレートから単一コロニーを釣菌し、アンピシリンアンピシリン50μg/ml含有LB試験培地(3mL)に植菌後、28℃にて18時間程度振盪培養(140 rpm程度)を行った。続いて、アンピシリン50μg/ml含有2xYT培地(1L)前培養液の全量を植え継ぎ、28℃にて振盪培養(125 rpm)した。OD600 = 0.8の時点で終濃度0.5mMのIPTGを添加することで発現誘導を行い、引続き一晩培養をした。(6)B5209B mouse-scFv-mcSA414 調整法 菌体内可用性画分から目的タンパク質を回収し、Ni2+アフィニティーカラムHisTrap HP (GE Healthcare社製)によって粗精製を行った。このとき、50mM Tris-HCl, 200 mM NaCl, pH 8.0 緩衝液を移動相に用い、50mM Tris-HCl, 200 mM NaCl, 500mM イミダゾール, pH 8.0 緩衝液を用いて段階的に溶出させた(図5)。目的タンパク質溶出画分を回収し、50mM Tris-HCl, 200 mM NaCl, pH 8.0 緩衝液にて透析後、サイズ排除クロマトグラフィーにより最終精製を行った。使用したカラムはHiLoad 26/60 Superdex 200 (GE Healthcare)、移動相には 50mM Tris-HCl, 200 mM NaCl, pH 8.0 緩衝液を用いた。最終精製産物について、SDS-PAGEにより確認した。サイズ排除クロマトグラフィーによる最終精製とSDS-PAGEの結果を図6に示す。実施例8:B5209B mouse-scFv-mcSA414 の活性評価(1)ROBO1との結合性 等温滴定型熱量測定(ITC)により、B5209B mouse-scFv-mcSA414とのROBO1との相互作用に関する熱力学的解析を行った。図7には、溶媒にPBSを用い、25℃条件下にてB5209B mouse-scFv-mcSA414(3.7μM)に対し、ROBO1を一定量づつ滴下した時の測定結果を示す。 ここから算出された解離定数は3.3X10-8 (1/M)、エンタルピー変化量(ΔH)は-16.1kJ/mol、またエントロピー変化量(ΔS)は-22 J/mol・Kであった。scFvと比較すると、ΔHは顕著な変化は認められなかった。一方、ΔSは1/40程度低下しており、親和性ではおよそ一桁程度の低下が認められた。さらに、結合比では、B5209B mouse-scFv-mcSA414 4量体に対しROBO1が2分子結合することが示唆され、4量体のうち隣接した2つの抗原結合部位は立体障害のため片方しかROBO1を認識できない可能性があると考えられる。(2)mouse-scFv-mcSA414 と Biotin との結合性評価 等温滴定型熱量測定(ITC)により、B5209B mouse-scFv-mcSA414とのBiotinに対する結合活性評価を行った。図8には、溶媒にPBSを用い、25℃条件下にてB5209B mouse-scFv-SA(9μM)に対し、Biotin(90μM)を一定量づつ滴下した時の測定結果を示す。 ここから算出された解離定数は5.6X10-8 (1/M)、エンタルピー変化量(ΔH)は-25.5 kJ/mol、またエントロピー変化量(ΔS)は検出限界以下であった。(3)mouse-scFv-mcSA414 の熱安定性評価 示差走査型熱量測定(DSC)により、B5209B mouse-scFv-mcSA414の熱安定性を評価した。そのときの結果を図9に示す。溶媒には。PBSを用いた。B5209B mouse-scFvの熱安定性は50℃付近であることから、B5209B mouse-scFv-SAのscFvドメインの変性温度はTm 51.4℃、1分子の完全変性温度はTm 108℃であると推察される。また、Streptavidin ドメイン4量体解離温度は検出されないことから途中4量体の解離をせずに完全変性にいたっていると推察される。配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において以下の変異を有するアミノ酸配列を含み、野生型ストレプトアビジンと比較して免疫原性が低下している、ストレプトアビジン変異体。(1)10番目のアミノ酸残基のチロシンがセリン又はトレオニンに置換している変異:(2)71番目のアミノ酸残基のチロシンがアラニン又はセリンに置換している変異:(3)72番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(4)89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換している変異:(5)91番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(6)104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がグルタミン又はアスパラギンに置換している変異:配列番号2に記載のコアストレプトアビジンのアミノ酸配列において以下の変異の全てを有する、ストレプトアビジン変異体(1)10番目のアミノ酸残基のチロシンがセリンに置換している変異:(2)71番目のアミノ酸残基のチロシンがセリンに置換している変異:(3)72番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:(4)89番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換している変異:(5)91番目のアミノ酸残基のアルギニンがリジンに置換している変異:及び(6)104番目のアミノ酸残基のグルタミン酸がグルタミン又はアスパラギンに置換している変異:請求項1又は2に記載のストレプトアビジン変異体をコードするDNA。請求項1又は2に記載のストレプトアビジン変異体に抗体を結合させることにより得られる、ストレプトアビジン変異体―抗体結合物。請求項4に記載のストレプトアビジン変異体―抗体結合物を含む、治療剤又は診断剤。(a)請求項4に記載のストレプトアビジン変異体―抗体結合物;及び(b)ストレプトアビジンに親和性を有するビオチン又はその誘導体で標識した診断用又は治療用物質:を含む治療又は診断キット。配列表


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