タイトル: | 公開特許公報(A)_細胞培養方法および培養装置 |
出願番号: | 2011270699 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 5/078,C12M 1/00,A61K 35/14 |
黒岩 保幸 JP 2013121334 公開特許公報(A) 20130620 2011270699 20111209 細胞培養方法および培養装置 黒岩 保幸 501104948 小野 新次郎 100140109 小林 泰 100075270 千葉 昭男 100080137 富田 博行 100096013 深澤 憲広 100117813 黒岩 保幸 C12N 5/078 20100101AFI20130524BHJP C12M 1/00 20060101ALI20130524BHJP A61K 35/14 20060101ALI20130524BHJP JPC12N5/00 202JC12M1/00 GA61K35/14 C 20 OL 19 4B029 4B065 4C087 4B029AA01 4B029BB11 4B029CC11 4B065AA94X 4B065BC21 4B065BC50 4B065BD14 4B065CA44 4C087AA01 4C087AA04 4C087BB43 4C087DA20 本発明は、細胞を含む体液から閉鎖系で細胞を分離し、閉鎖系培養器に閉鎖的に細胞を分注することにより、細胞の分離から培養まで全てを閉鎖系で実施する細胞培養分野。 血液や骨髄液を採取し、凝固抑制剤を加えて遠心分離すると、赤血球と血漿とが分離し、赤血球の層と血漿の層との間に白血球が含まれる膜状の層(バフィーコート)が形成される。再生医療などにおいて、血球系細胞を使用する場合、バフィーコートを無菌的に回収し、培養することは非常に重要な工程である。 従来は、得られた全血液を比重遠心法に供して開放系で血球系細胞を分離し、その後に開放系ないしは閉鎖系の培養容器内で培養を行うため、細胞の分離から培養までを通じて完全に閉鎖系の条件の下では細胞の処理を行えなかった。このことはすなわち、血球系細胞の分離および培養の工程において、常に環境からの微生物の汚染の可能性に曝されることを意味している。しかし、体液、特に血液や骨髄液または臍帯血、の中の細胞を培養する場合には、体液中の赤血球を除去するために、通常Ficoll比重遠心法により開放系で単核球を分離している。この工程が閉鎖系では行えないため、細胞の分離から培養までを全てを完全に閉鎖系で実施することが困難であった。 この様に、血液または骨髄液などから、バフィーコートを得る方法は広く知られているが(特開2002-171965)、バフィーコートを遠心して、有核細胞を分取する方法が一般的であり、閉鎖系でバフィーコートを分離・培養する方法は一般に行われていない。 また、再生医療で細胞を培養して、ヒトへの臨床応用をする場合、無菌試験およびマイコプラズマ試験により臨床応用する細胞の安全性を確認する必要がある。一般に、無菌試験の場合は2週間の無菌試験、マイコプラズマの場合は約1ヶ月間のマイコプラズマ試験を実施する必要がある。そのため、細胞を培養後に直ちにヒトへの臨床応用する場合には、培養終了の時点で無菌試験またはマイコプラズマ試験の結果が得られていなければならない。しかし、非閉鎖系での工程を含む分離・培養を行う場合には、環境からの微生物の汚染を完全に否定することはできず、最終製品での試験が必須である。培養終了後に無菌試験またはマイコプラズマ試験をせざるを得ず、結果的に試験結果は投与後に判定せざるをえなくなる。 この様な欠点を回避するためには、培養開始前に無菌試験またはマイコプラズマ試験を開始する必要があるが、この様な培養開始前に行う無菌試験またはマイコプラズマ試験が実効性を有するためには、閉鎖系でバフィーコートを分取し、閉鎖的に培養装置に送液し、細胞の分離から培養までを完全閉鎖系で実施することが必要になる。しかしながら、これまでにそのような閉鎖系での細胞の分離・培養は行われていない。特開2002-171965 本発明は、細胞の分離および培養を、完全閉鎖系で行うことのできる培養方法・システムを開発することを課題とする。 本発明の発明者らは、細胞の分離から培養までを完全閉鎖系で行うために、閉鎖系で細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを無菌的に混合し、静置することにより赤血球を沈降させて除去し、リンパ球などの細胞を含む層(バフィーコート層)の液を閉鎖系培養装置に閉鎖的に送液することを含む、閉鎖的にバフィーコート層を分取する方法を提供すること、そしてまた、この様にして得られたバフィーコート層を送液した後、培養を行うことを含む、体液中に含まれる細胞の閉鎖的培養方法を提供すること、またはこれらの方法を行う培養システムおよび培養装置を提供することにより、上記課題を解決した。 本発明の方法により、細胞を含む体液を採取から一貫して閉鎖系の条件の下で、処理を行うことができ、結果として閉鎖系でバフィーコート層を分取すること、そしてその得られたバフィーコートを培養することにより体液中に含まれる細胞を閉鎖系で培養する方法を提供することができる。 このように、一貫して閉鎖系の下で細胞の採取・培養を行うことができることにより、移植に適した無菌でかつマイコプラズマの感染のない、より安全な細胞を提供できるだけではなく、移植前に行わなければならない無菌試験あるいはマイコプラズマ試験を、培養の前または培養と同時に早期に実施することができる。図1は、本発明の閉鎖系での培養を行う装置の一例を示す図である。この図において、採血管11で採血した血液を、注射針12に結合した連結チューブ13を介して、赤血球凝集剤が分注された容器14に、送液手段を用いて無菌的に閉鎖系で送液する。容器14が真空採血管の場合は送液ポンプを用いなくても良い。図2は、本発明の閉鎖系での培養を行う装置の一例を示す図である。この図において、採血管21で採血した血液を、連結チューブ23を介して、赤血球凝集剤が分注された容器25に、送液手段を用いて無菌的に閉鎖系で送液する。容器25が真空採血管の場合は送液ポンプを用いなくても良い。図3は、本発明の閉鎖系での培養を行う装置の一例を示す図である。この図において、輸血バッグ31中の採血した血液を、連結チューブ33を介して、赤血球凝集剤が分注された容器35に、送液手段を用いてに無菌的に閉鎖系で送液する。容器35が真空採血管の場合は送液ポンプを用いなくても良い。図4は、本発明の閉鎖系で赤血球凝集剤を用いてバフィーコートを分離させた際の状況を示す図である。この図において、赤血球凝集剤を含む容器に血液を送液後、転倒混和して2つの液を均一に混合後、30分〜1時間静置すると、凝集した赤血球が沈降し41、上層にバフィーコート層42が形成されたことを示す。バフィーコート層は血漿に浮遊した単核球、多核球および血小板を含む。図5は、本発明の閉鎖系での培養を行う装置の一例を示す図である。この図において、図4で形成されたバフィーコート層51を無菌的に連結チューブ53を介して送液ポンプ54を用いて、OKT3を固相化した培養バッグ55に無菌的に閉鎖系で送液する。 本発明の発明者らは、閉鎖系で細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを無菌的に混合し、静置することにより赤血球を沈降させて除去し、リンパ球などの細胞を含む層(バフィーコート層)の液を閉鎖系培養装置に閉鎖的に送液することを含む、閉鎖的にバフィーコート層を分取する方法を提供することができること、そしてまた、この様にして得られたバフィーコート層を送液した後、培養を行うことを含む、体液中に含まれる細胞の閉鎖的培養方法を提供することができること、を示し、細胞の分離から培養までを完全閉鎖系で行うことを示した。 従来技術において、血液または骨髄液などの細胞を含む体液に対して、赤血球凝集剤を加えて静置することにより、赤血球を除去する方法は知られていたが(特開2002-171965)、これまでの方法では、バフィーコートを遠心して、有核細胞を分取する方法が一般的であり、バフィーコートをそのまま培養液に添加して培養を行うという方法は一般に行われていなかった。さらに閉鎖系でバフィーコートを分取し、閉鎖的に培養装置に送液し、細胞の分離から培養までを完全閉鎖系で実施することは行われていなかった。 これに対して本願発明においては、閉鎖的条件下において、採取した細胞を含む体液を、赤血球凝集剤と混合し、静置するだけで、有核細胞を含むバフィーコート層が分離できること、そして閉鎖的条件を維持したままバフィーコートのみを培養液に移して閉鎖系において無菌条件を維持したまま得られたバフィーコートの細胞をそのまま培養に供することができることを示した。 本発明において、閉鎖系の条件下(すなわち、無菌条件下)において、細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを混合する。本発明において使用する「細胞を含む体液」は、血液、臍帯血、骨髄液、腹水液または胸水液から選択されるものである。これらの体液に含まれる「細胞」としては、免疫系の有核細胞を例としてあげることができ、例えば好中球、好塩基球、および好酸球などの白血球、T細胞、B細胞、NK細胞などのリンパ球、そして単球などが存在する。 上述した細胞を含む体液と混合する赤血球凝集剤は、細胞を含む体液と混合した場合に、赤血球は沈殿させるが、その他の有核細胞は沈殿させないという特性を有しているものであればどの様なものであってもよいが、細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを混合した後、遠心分離を行うことなく、単に静置するだけで有核細胞を分離・採取することができる特性を有するものであることが好ましい。本発明において使用することができる赤血球凝集剤としては、デキストラン類、Ficoll類、ヒドロキシエチルセルロース(HES)類などを例としてあげることができる。赤血球凝集剤としては、デキストラン類、ヒドロキシエチルセルロース(HES)類がより好ましい。 本発明において使用する場合、赤血球凝集剤は、細胞を含む体液と混合した際に、赤血球凝集剤の終濃度が0.0005%〜10.0%である場合に、バフィーコートに含まれる有核細胞を特に効率よく回収することができる。本発明においては、赤血球凝集剤の終濃度が0.1%〜3.75%である場合に、バフィーコートに含まれる有核細胞をより効率よく回収することができる。 本発明の方法は、例えば、注射筒で採血された血液を送液すること、真空採血管で採血された血液を送液すること、輸血バッグで採血された血液を送液すること、骨髄穿孔針を装着したシリンジで採取した骨髄液を送液すること、あるいは採取した臍帯血採取用バッグに採取された臍帯血を送液すること、等が具体的な実施態様として考えられ、それぞれの場合において、赤血球凝集剤が含まれる容器に対して、滅菌したチューブを介して閉鎖系で、上述した体液を送液する。 体液サンプルを、赤血球凝集剤が含まれる容器に送液するために、圧力差、ポンプ、重力、等を使用することができる。送液のために圧力差を利用する場合、例えば赤血球凝集剤を含む容器の内圧を減圧しておくことにより、チューブを介して、体液を赤血球凝集剤を含む容器へと移動させることができる。あるいは、細胞を含む体液を収容する容器自体に外部から圧力を加えて、チューブを介して、体液を赤血球凝集剤を含む容器へと移動させることができる。あるいは、送液のためにポンプを使用する場合、送液ポンプを使用して、チューブを通じて、体液を収容する容器から、赤血球凝集剤を含む容器へと体液を移動させることができる。 本発明は、上述した方法を実現するための装置もまた、提供することができる。具体的には、採取された細胞を含む体液を収容するための第1の容器、赤血球凝集剤および培養液を収容する第2の容器、第1の容器と第2の容器とを連結する第1の連絡手段、連絡手段を介して第1の容器の血液を第2の容器へと移動させる第1の送液手段、を装着する装置を提供することができる。この装置は、閉鎖系で細胞を含む体液からバフィーコート層を分離するために使用することができる。 第1の送液手段としては、圧力差、ポンプ、重力、などを使用することができる。圧力差を使用する場合には、第2の容器の内圧を減圧しておくことが必要である。また、この装置において使用する第1の容器、第2の容器および第1の連絡手段は、滅菌されたものであることが必要である。 この装置の具体例を、図1〜図3に示す。一例として、図1において、体液として血液を使用し、送液手段としてポンプ15を使用している。血液の入った容器11(第1の容器に相当)に対して、注射針12を含む連結チューブ13(第1の連絡手段に相当)を接続し、送液ポンプ15(第1の送液手段に相当)を使用して、容器11内の血液を、赤血球凝集剤を分注した容器14(第2の容器に相当)に移動させることにより、血液を赤血球凝集剤と混合した。 別の例として、図2において、体液として血液を使用し、送液手段として重力を使用している。血液の入った容器21(第1の容器に相当)に対して、連結チューブ23(第1の連絡手段に相当)を接続し、重力(第1の送液手段に相当)を使用して、容器21内の血液を、赤血球凝集剤を分注した容器25(第2の容器に相当)に移動させることにより、血液を赤血球凝集剤と混合した。 さらに別の例として、図3において、体液として血液を使用し、送液手段として第1の容器に対する外部からの圧縮力を使用している。血液の入った容器31(第1の容器に相当、例えば輸血バッグなど)に対して、連結チューブ33(第1の連絡手段に相当)を接続し、第1の容器への圧縮力(第1の送液手段に相当)を使用して、容器31内の血液を、赤血球凝集剤を分注した容器35(第2の容器に相当)に移動させることにより、血液を赤血球凝集剤と混合した。 この図1〜図3の装置を用いて、第2の容器中で細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを混合し、静置すると、図4に示すように、下層に赤血球の凝集物(41)が、そして上層にバフィーコート(42)がそれぞれ分離した。 本発明はまた、閉鎖系で血液から分離されたバフィーコート層を収容する第2の容器、採取したバフィーコートを培養するための第3の容器、第2の容器と第3の容器とを連結する第2の連絡手段、そして第2の連絡手段を介して第2の容器のバフィーコート層を第3の容器へと移動させる第2の送液手段、を装着する装置を提供することができる。この装置は、閉鎖系で細胞を含む体液から分離されたバフィーコート層を、分取するために使用することができる。 第2の送液手段としては、圧力差、ポンプ、重力、等を使用することができる。圧力差を使用する場合には、第3の容器の内圧を減圧しておくことが必要である。また、この装置において使用する第2の容器、第3の容器および第2の連絡手段は、滅菌されたものであることが必要である。そして、第3の容器としては、閉鎖系の培養装置としては、特開2005-58103にある閉鎖系培養フラスコおよび特開2007-175028にある培養バッグを用いることができ、そしてその内部には、移動させたバフィーコート層を培養するための細胞培養液を含むものである。 第3の容器に対してCD3を固相化しておき、第2の容器から移動させたバフィーコート層を第3の容器中でCD3により直接的に刺激することもできる。この様な構成の容器を使用することにより、単に培養を行うだけでなく、培養を行うタイミングでリンパ球の活性化をも直接的に行うことができる。 この装置の態様の具体例を、図5に示す。図5において、図1〜図3の容器14、容器25、または容器35中で形成されたバフィーコートを使用し、送液手段としてポンプ54を使用している。分離されたバフィーコートが入った容器53(第2の容器に相当)に対して、連結チューブ53(第2の連絡手段に相当)を接続し、送液ポンプ54(第2の送液手段に相当)を使用して、容器51内のバフィーコートを、細胞培養液を分注した容器55(第3の容器に相当)に移動させることにより、バフィーコートを分取した。 この様にして、閉鎖系の条件下で、活性化リンパ球などの細胞を得ることができる。この細胞は、細菌またはマイコプラズマなどのコンタミネーションを有さない細胞であることを特徴とする。 以下、本発明を更に詳細に説明するために、本発明の実施例を示す。 実施例1:赤血球凝集剤の検討 本実施例は、本発明の方法および装置において使用することができる赤血球凝集剤を検討することを目的として行った。 2 gのデキストランT500(シグマ・アルドリッチ)、および2 gのデキストラン70(東京化成)を生理食塩水(大塚製薬)に溶解し、120℃20分間オートクレーブ滅菌を行った。6%HES40液(ニプロ)および6%サリンヘス液(ヒドロキシエチルデンプン注射液、フレゼニウスカービ)を生理食塩水で3倍希釈し、各2%溶液を作製した。 へパリン採血管(ニプロ)で採血した末梢血3 mLと作製した各2%溶液を等量混合し(終濃度1%)、30分間静置した。デキストランT500およびHES40は赤血球が沈降し、上層に黄色い白血球とリンパ球を含むバフィーコートが形成された。バフィーコート層を赤血球が混入しないように3 mL分取した。 デキストラン70、およびサリンヘスはさらに30分間、計1時間静置した。バフィーコート層が形成されたデキストラン70から赤血球が混入しないように3 mLのバフィーコートを分取した。サリンヘスはバフィーコート層の形成が悪くバフィーコートを分取できなかった。 また、末梢血2 mLに生理食塩水4 mLを加えて3倍希釈した後、3 mLのFicoll液(リンフォセパールI、免疫生物研究所)を分注した15 mL遠心管に重層した。Ficoll液に重層した末梢血の入った遠心管をブレーキ・オフにて400×g、20分間遠心した。中間層(Ficollとの境界)にできたリンパ球画分を赤血球が混入しないように分取した。分取したリンパ球層を新しい15 mL遠心間に移し、生理食塩水を加えて14 mLとし、430×g、10分間遠心した。上清を捨て無血清培地SKY-2(スカイセルサイエンス社)4 mLに浮遊させた。分取したバフィーコート中の有核細胞数、Ficollで分離してSKY-2培地に浮遊させた有核細胞数および全血中の有核細胞数を表1に示した。 OKT-3を固相化した25 cm2活性化フラスコ(関根らの方法により作製した)に無血清培地5 mLを分注し、各バフィーコートを2 mLまたは全血1 mLを加えた。一方、Ficollで分離し、SKY-2培地に浮遊させた有核細胞2 mLを活性化フラスコに分注し、SKY-2培地3 mLを加え計5 mLとした。 炭酸ガス培養器(37℃、5%CO2)で培養を開始した。培養4日目にSKY-2培地5 mLを加えた。5日目にSKY-2培地15 mLを加え、培養を継続した。培養7日目に75 mLのSKY-2培地を含む225 cm2フラスコに25 cm2活性化フラスコ中の細胞を全て加え、培養を継続した。11日目にSKY-2培地100 mLを加え、培養を継続した。14日目に細胞を全て回収し、細胞数を計測した(表2)。 デキストランT500およびHES40では9×108個以上の有核細胞が得られた。デキストラン70では8×108個以上の有核細胞が、Ficollで分離した細胞からは7×108個以上の有核細胞が得られたのに対して、全血を加えた培養では5×108個程度の有核細胞しか得られず、全血では細胞増殖能が低下した。 実施例2:赤血球凝集剤濃度の検討 本実施例は、実施例1で検討した結果、赤血球凝集剤として良好であったデストランT500およびHES40について、好ましい濃度を検討することを目的として行った。 実施例1と同様に作製した6%デストランT500および6%HES40を生理食塩水で希釈して、1%〜3%濃度液を作製した。各濃度液2 mLにヘパリン採血管(ニプロ)で採血した末梢血2 mLを加え、転倒混和後、30分間静置し、バフィーコート層を2 mL分取した。実施例1と同様に5 mLのSKY-2培地を含む25 cm2活性化フラスコに各バフィーコート2 mLを加え14日間の培養を行った。培養終了後有核細胞数を計測した(表3)。デキストランT500およびHES40は1%〜3%(終濃度0.5%〜1.5%)の範囲で7×108個以上の有核細胞が回収された。 実施例3:赤血球凝集剤濃度と細胞数との関係の検討 本実施例は、赤血球凝集剤濃度と、使用する細胞数との関係を検討することを目的として行った。 実施例1と同様に作製した20%デストランT500を生理食塩水で希釈して、2.5%〜20%濃度液を作製した。また、2%デキストランT500を生理食塩水で希釈して0.0001%、0.001%、0.01%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%および0.5%濃度液を作製した。各濃度液2 mLにヘパリン採血管(ニプロ)で採血した末梢血2 mLを加え、転倒混和後、30分間静置した。0.0001%から0.2%濃度液はさらに30分間、計1時間静置した。バフィーコート層を分取した。分取したバフィーコートの液量と有核細胞数を表4に示した。 回収細胞数が3.0×106個以上分取できた分離条件のうち0.2%、0.3%、5.0%、7.5%濃度液(初濃度)およびFicollにより分離した細胞を用いて実施例1と同様に5 mLのSKY-2培地を含む25 cm2活性化フラスコに各バフィーコート2 mL(0.2%の条件は1.8 mL)またはFicollで回収した細胞を加え14日間の培養を行った。培養終了後有核細胞数を計測した(表5)。デキストランT500の0.2%〜5.0%(終濃度0.1%〜2.5%)の範囲で6×108個以上の有核細胞が回収された。 実施例4:採取したバフィーコートの培養 本実施例は、本発明の方法により得られたバフィーコートをさらに培養する際の条件を検討することを目的として行った。 クリーンベンチ内で、ヘパリンの入った真空採血管(テルモ社製VP-H100)を用いて採血した血液5 mLを5 mLの2%デキストラン生理食塩水を加えた10 mLの血清用真空採血管(テルモ社製VP-P100)と注射針(テルモ社製NN-2070C)、延長チューブ(テルモ社製SF-ET2022)およびロックコネクター(テルモ社製TS-LC11)を介して結合することにより、血液と2%デキストラン生理食塩水の1:1の混合液を作製した。 30分間静置すると赤血球が沈降し採血管の上部に淡黄色の層が形成された。上部より300 mL溶の活性化バックに接続した注射針(テルモ社製NN-2070C)を差し込みペリスタポンプにより5 mLのバフィーコート層を無血清培養液50 mLの入った活性化バッグに送り込んだ。チューブシーラー(テルモ社製AC-155)を用いて活性化バッグに連活したチューブをシールし、切り離す。 この操作を繰り返し計20 mLのバフィーコートを活性化バックに送り込む。バフィーコートと培養液を良く混ぜ合わせた後、37℃の炭酸ガス培養器内で培養を開始する。 4日後に無血清培養液の入ったバッグと活性化バックを無菌接合器(テルモ社製、TSCD 202)により結合し、50 mLの培養液を追加する。チューブシーラーでシール後、2つのバッグを切り離す。培養液を追加した活性化バッグを37℃の炭酸ガス培養器内に戻し培養を継続する。翌日同様に活性化バッグと無血清培地の入ったバッグを連結し、無血清培養液150 mLを追加する。培養液を追加した活性化バッグを37℃の炭酸ガス培養器内に戻し培養を継続する。 2日後に750 mLの無血清培養液の入った培養バッグと活性化バッグを連結し、活性化バッグ内の培養液を750 mLの入った培養バッグに全量注入した。全量1000 mLの培養バッグを37℃の炭酸ガス培養器内で4日間培養した。1000 mLの培養バッグを新鮮な培養液1000 mLの入った培養バッグと接合し、2つのバッグの培養液を均一に混合した。2つのバッグの培養液量がそれぞれ1000 mLとした後、チューブシーラーでシール後に2つのバッグに切り離した。 2つのバッグを37℃の炭酸ガス培養器内でさらに3日間培養した。細胞が均一に分布するように培養液を撹拌した後、サンプリングポートよりそれぞれ10 mLの細胞浮遊液を採取した。 バッグ1の細胞密度は3.36×106細胞/mL、バッグ2の細胞密度は3.20×106細胞/mLであり、総細胞数は6.56×109細胞であった。 なお、本実施例で用いた300 mL用の活性化バッグは50μgの抗CD3抗体(OKT-3)を添加した10 mLの生理食塩水(大塚製薬)をサンプリングポートより21Gの注射針を取り付けた注射筒を用いて300 mL用培養バッグ(コージンバイオ社製TAZETTA-F)内に注入した。バッグ内に無菌空気を注射筒で注入し、バッグを膨らませた状態で2時間室温にて振騰し、培養バッグ片面にOKT3を固相化した。 生理食塩水1 Lを分注した1 L容の分離バッグ(ニプロ)とOKT固相化バッグを無菌接合機で接合し、300 mLの生理食塩水をOKT3固相化培養バッグに加えた。バッグ内の液を均一になるように撹拌し、5分間静置した。5分後に活性化バッグのもう一方のチューブと空の分離バッグを接合し、活性化バッグ内の液を廃液用の分離バッグに移した。チューブの中間部分を鉗子で挟み、液を止めた。この操作をさらに2回繰り返した。 チューブシーラーによりシールした後、3つのバッグを切り離した。活性化バッグに無血清培養液50 mLを注入することにより、活性化培養用の活性化バッグを作製した。 実施例5:採取したバフィーコートの培養 本実施例は、本発明の方法により得られたバフィーコートをさらに培養する際の別の条件を検討することを目的として行った。 5 mLの2%デキストラン生理食塩水を加えた5本の10 mLの血清用真空採血管(テルモ社製VP-P100)に30 mLの注射筒で採血した血液5 mL無菌的に注入した。転倒混和後、30分間静置した。計20 mLのバフィーコート層を実施例4と同様に50 mLのSKY-2培地を分注したOKT3固相化300 mL容培養バック注入し後、2 Lまで培養を継続した。2週間後に回収された細胞数は7.64×109細胞であった。 本発明の方法により、細胞を含む体液を採取から一貫して閉鎖系の条件の下で、処理を行うことができ、結果として閉鎖系でバフィーコート層を分取すること、そしてその得られたバフィーコートを培養することにより体液中に含まれる細胞を閉鎖系で培養する方法を提供することができる。 このように、一貫して閉鎖系の下で細胞の採取・培養を行うことができることにより、移植に適した無菌でかつマイコプラズマの感染のない、より安全な細胞を提供できるだけではなく、移植前に行わなければならない無菌試験あるいはマイコプラズマ試験を、培養の前または培養と同時に早期に実施することができる。 11 血液の入った容器 12 注射針 13 連結チューブ 14 赤血球凝集剤を分注した容器 15 送液ポンプ 21 採血管 22 注射針 23 連結チューブ 24 滅菌フィルター 25 赤血球凝集剤を分注した容器 31 輸血バッグ 32 注射針 33 連結チューブ 34 滅菌フィルター 35 赤血球凝集剤を分注した容器 41 沈降した赤血球層 42 バフィーコート層 51 バフィーコート層 52 注射針 53 連結チューブ 54 送液ポンプ 55 培養液を分注したOKT3固相化バッグ 56 送液されたバフィーコート 細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを混合し、 静置することにより赤血球を沈降させて除去し、 細胞を含む層の液を閉鎖系培養装置に閉鎖的に送液し、そして 培養を行う、ことを含む、体液中に含まれる細胞の閉鎖的培養方法。 細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを混合し、 静置することにより赤血球を沈降させて除去し、そして 細胞を含む層の液を閉鎖系培養装置に閉鎖的に送液する、ことを含む、閉鎖的にバフィーコート層を分取する方法。 赤血球凝集剤が含まれる容器に対して、チューブを介して閉鎖系で細胞を含む体液を送液することにより、細胞を含む体液と赤血球凝集剤とを混合する、請求項1または2に記載の方法。 細胞を含む体液が、血液、臍帯血、骨髄液、腹水液または胸水液から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 赤血球凝集剤が、デキストラン、ヒドロキシエチルセルロース(HES)から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 赤血球凝集剤の終濃度が、0.0005%〜10.0%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 赤血球凝集剤の終濃度が、0.1%〜3.75%である、請求項6に記載の方法。 体液の赤血球凝集剤を含む容器への送液が、圧力差、ポンプ、重力、により行われる、請求項3〜7のいずれかに記載された装置。 赤血球凝集剤が含まれる容器に対して、滅菌したチューブを介して閉鎖系で、注射筒で採血された血液を送液する、請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。 赤血球凝集剤が含まれる容器に対して、滅菌したチューブを介して閉鎖系で、骨髄穿孔針を装着したシリンジで採取した骨髄液を送液する、請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。 赤血球凝集剤が含まれる容器に対して、滅菌したチューブを介して閉鎖系で、採取した臍帯血採取用バッグに採取された臍帯血を送液する、請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。 採取された細胞を含む体液を収容するための第1の容器、 赤血球凝集剤および培養液を収容する第2の容器、 第1の容器と第2の容器とを連結する第1の連絡手段、そして 連絡手段を介して第1の容器の血液を第2の容器へと移動させる第1の送液手段、を装着する、閉鎖系で細胞を含む体液からバフィーコート層を分離する装置。 第1の送液手段が、圧力差、ポンプ、重力を含む、請求項12に記載された装置。 第1の容器、第2の容器および第1の連絡手段が、滅菌されたものである、請求項12または13に記載の装置。 第1の容器が、臍帯血採取用バッグ、真空採血管、採血バッグ、から選択される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の装置。 閉鎖系で血液から分離されたバフィーコート層を収容する第2の容器、 採取したバフィーコートを培養するための第3の容器、 第2の容器と第3の容器とを連結する第2の連絡手段、そして 第2の連絡手段を介して第2の容器のバフィーコート層を第3の容器へと移動させる第2の送液手段、を装着する、バフィーコート層を分取する装置。 第2の送液手段が、圧力差、ポンプ、重力を含む、請求項16に記載された装置。 第2の容器、第3の容器および第2の連絡手段が、滅菌されたものである、請求項16または17に記載の装置。 第3の容器が、細胞培養液を含む、請求項16〜18のいずれか1項に記載の装置。 請求項1〜11のいずれか1項に記載された方法により得られた、活性化リンパ球。 【課題】 本発明は、細胞の分離および培養を、完全閉鎖系で行うことのできる培養方法・システムを開発することを課題とする。 【解決手段】 本発明の発明者らは、細胞の分離から培養までを完全閉鎖系で行うために、閉鎖系で血球細胞を含む体液と赤血球凝集剤を無菌的に混合し、静置することにより、赤血球を沈降させ、リンパ球を含むバフィーコート層を閉鎖系の培養装置に閉鎖的に注入することにより、血球細胞の培養を行う培養方法、培養システムおよび培養装置を提供することにより、上記課題を解決した。【選択図】 なし