タイトル: | 公開特許公報(A)_湿潤多孔質繊維の断面試料調製法 |
出願番号: | 2011233911 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 1/28,G01N 1/36 |
藤井 泰行 JP 2013092420 公開特許公報(A) 20130516 2011233911 20111025 湿潤多孔質繊維の断面試料調製法 三菱レイヨン株式会社 000006035 藤井 泰行 G01N 1/28 20060101AFI20130419BHJP G01N 1/36 20060101ALI20130419BHJP JPG01N1/28 FG01N1/28 LG01N1/28 RG01N1/28 G 6 OL 7 2G052 2G052AA22 2G052AD34 2G052AD52 2G052BA16 2G052EC03 2G052EC18 2G052FA01 2G052FD18 2G052GA35 本発明は、湿潤状態にある多孔質繊維の断面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するための試料調製方法に関する。 SEMは、材料の微細構造を解析するための手段として広く用いられているが、観察時に試料を真空中に入れる必要がある。そのため、水や有機溶剤で湿潤した試料を観察するには、予め乾燥処理する方法が一般に用いられる。微細構造を保持したまま試料を乾燥処理する方法としては、凍結乾燥や臨界点乾燥などが知られているが、実際には乾燥処理の前に溶媒の置換や急速凍結といった処理が必要であり、解析する試料の特性に応じて様々な方法が考えられるため、適切な手法や処理条件の選定が必要となる。 また、試料の断面を作製する方法としては、ミクロトームなどを用いてナイフで切削する方法のほか、近年ではイオンビームを用いて断面加工する装置も用いられる。多孔質試料の断面加工を行う場合、ナイフを用いる方法ではせん断力による試料の変形が生じて本来の形態が損なわれたり、イオンビームを用いる方法ではイオンビームで分解・飛散した物質が空隙部分に再び堆積して空隙を埋没させたりする問題がある。 たとえば、アクリル繊維は衣料用および建寝装分野で用いられ、染色性や耐侯性あるいは抗菌性などの機能性を付与または向上するための処理が施されることが多い。また、炭素繊維用の前駆体繊維としても用いられ、繊維の構造を制御することで炭素繊維にしたときの強度などの物性向上が図られている。このような機能性や物性の改善を図るために、紡糸工程における構造形成過程を解析して繊維構造を制御することが求められる。そのために、紡糸工程の途中段階の繊維(紡糸工程糸)を採取して、SEMにより繊維内部の構造を解析する方法が用いられる。このとき、アクリル繊維のように湿式紡糸法で賦形される場合の紡糸工程糸は水や有機溶剤で湿潤しており、また、繊維内部は多孔質構造であるため、上記のような問題がある。 このような問題を解決するために、たとえば、空隙を有する試料の断面をSEM観察するための試料調製法および観察法として、特許文献1および2には、集束イオンビーム加工装置を用いる方法が提案されている。しかし、これらの方法は高額な専用装置が必要であるほか、イオンビームで分解・飛散した物質が空隙部分に再び堆積するのを完全に防ぐことはできず、繊維内部に存在するナノメートルサイズの空隙を観察することは困難であった。特開平11−90648号公報特開2000−190084号公報 本発明の目的は、湿潤状態にある多孔質繊維の断面構造をSEMで観察するための試料調製方法を提供することにある。本発明者らは、湿潤状態にある多孔質繊維の内部構造をSEMで観察するための試料調製方法を検討し、内部構造を明瞭に観察できる試料調製方法を見出した。 本発明は、湿潤状態にある多孔質繊維の内部構造をSEMで観察するために繊維の断面を得る方法であって、繊維を乾燥処理する工程、前記乾燥処理した繊維を樹脂包埋する工程、前記樹脂包埋処理した繊維を断面加工する工程、前記断面加工処理した繊維から包埋樹脂を除去する工程を順に有する試料調製方法にある。 本発明は、前記繊維を乾燥処理する工程の前に、繊維内部に含浸している水および溶媒をt−ブタノールに置換する工程を有することが好ましい。 本発明は、前記繊維を乾燥処理する工程において、試料温度が−50〜0℃且つ圧力が500Pa以下で乾燥を行うことが好ましい。 本発明は、前記乾燥処理した繊維を樹脂包埋する工程において、樹脂の硬化前の粘度が10〜500mPa・s、重合硬化に要する時間が1〜90分のアクリル系樹脂で包埋を行うことが好ましい。 本発明は、前記樹脂包埋処理した繊維を断面加工する工程において、ミクロトームまたはイオンビームにより断面加工を行うことが好ましい。 本発明は、前記断面加工処理した繊維から包埋樹脂を除去する工程において、プラズマエッチングにより包埋樹脂の除去を行うことが好ましい。 本発明の断面試料調製法により、湿潤状態にある多孔質繊維の内部構造を変化させることなくSEMで断面構造を観察することができ、繊維構造を解析するための有効な手法となった。 以下に本発明の試料調製法について説明する。(繊維試料) 本発明で用いる試料は特に制限はないが、水や有機溶剤で湿潤した多孔質繊維に有効である。たとえば、アクリル繊維を湿式法で紡糸する際の、紡糸工程の途中段階の繊維(以下、工程糸と記すことがある。)が挙げられ、採取する場所によって凝固浴通過後の凝固糸、温水による洗浄延伸工程通過後の湿熱糸などと呼ぶ。これらの繊維は、内部に空隙が存在しており、空隙部分に紡糸原液を調製するときの有機溶剤および紡糸工程で用いられる水や有機溶剤を含浸している。(乾燥処理工程) 本発明では、第1のステップとして、湿潤試料を乾燥処理する。自然乾燥法では試料が収縮変形して本来の形態が損なわれるため、本発明の乾燥処理の方法としては、臨界点乾燥法または凍結乾燥法が好ましく、専用の装置を必要としない点で凍結乾燥法の方が好ましい。臨界点乾燥または凍結乾燥法を用いる場合には、試料に含まれる水や有機溶剤を、予め乾燥処理を行うのに好ましい溶媒に置換する。置換する溶媒としては、臨界点乾燥法の場合には酢酸イソアミル、凍結乾燥法の場合にはt−ブタノールを用いるのが好ましい。置換処理は、置換液の濃度が徐々に高くなるように工程液と置換液の比率を変えた混合液を作製しておき、試料を順に浸漬する。このとき、混合液の比率が急激に変化すると試料の変形を生じるおそれがあるので、工程液/置換液の比率を80/20、50/50、20/80、0/100とし、最後は新鮮な0/100液に再び浸漬する。 各混合液に浸漬する時間は30〜60分とする。浸漬時間が30分以上であれば置換が十分となりやすく、また、60分以下であれば長時間要さないので好ましい。置換処理を行う際は、繊維の長さを固定せずに行ってもよいが、収縮変形を避けたい場合には、定長に固定して処理する方法を用いてもよい。 t−ブタノールで置換した試料を凍結乾燥する方法および条件としては、試料をナスフラスコに入れて、液体窒素に浸して急速凍結したのち、保冷浴で試料温度を−50〜0℃に保ちながら試料容器内を500Pa以下の減圧にして、48〜72時間処理する。この方法により、試料を湿潤している置換液が凝固した状態から昇華するので、試料の本来の形態を保持したまま乾燥することができる。なお、乾燥処理を行う際は、繊維の長さを固定せずに行ってもよいが、収縮変形を避けたい場合には定長に固定して処理してもよい。 試料を保冷する浴は特に制限はなく、氷またはドライアイスとメタノール、エタノール、エーテル、アセトンなどの有機溶剤とを混合した寒剤を用いることができる。試料温度が−50℃以上であれば置換液の昇華速度が速く乾燥処理に長時間要さないので好ましい。また、試料温度が0℃以下であれば置換液が融解するおそれがなく凍結した状態を保持して乾燥できるので好ましい。 また、試料容器内の圧力が500Pa以下であれば、置換液の昇華速度が速く乾燥処理に長時間要さないので好ましい。(樹脂包埋工程) 本発明では、第2のステップとして乾燥処理した試料を樹脂包埋する。本発明の最大の特徴は、多孔質試料の空隙部分に包埋樹脂を充填した後に断面加工し、その後包埋樹脂を選択的に除去することで、断面加工時のせん断変形の影響および空隙が埋没する問題を解消できることにある。 包埋樹脂の種類としては、メチルメタクリレート(MMA)またはブチルメタクリレート(BMA)を主成分とするアクリル系樹脂が用いられる。アクリル系樹脂は、重合硬化して断面加工した後に、包埋樹脂を選択的に除去しやすいので好ましい。MMAまたはBMAを主成分とするアクリル系樹脂であれば特に制限はなく、たとえば、MMAポリマーを5〜30質量%の濃度でMMAモノマーまたはBMAモノマーに溶解した溶液(以下MMAシラップと記す)を用いることができる。また、重合開始剤としては、アゾ化合物または有機過酸化物などのラジカル開始剤またはラジカル型光重合開始剤を用いることができる。本発明で用いる包埋樹脂は、硬化前の粘度が10〜500mPa・sの範囲であり、かつ重合硬化に要する時間が1〜90分である。樹脂の粘度および重合硬化に要する時間が上記の範囲にあれば、試料を膨潤させることなく包埋樹脂を空隙部分に浸透させることができるので好ましい。(断面加工工程) 本発明では、第3のステップとして樹脂包埋した試料を断面加工する。試料の繊維軸に平行な縦断面または繊維軸に垂直な横断面を露出させることで、内部構造をSEM観察できる。断面加工する方法としては、イオンビームによる方法またはミクロトームによる方法を用いることができる。中でも、イオンビーム法の方が試料のせん断変形を生じないので好ましい。 イオンビームで断面加工する方法としては、集束イオンビーム加工装置(FIB)またはイオンミリング装置を用いることができる。繊維の断面を得るには、広い領域が加工できるイオンミリング装置が好ましい。イオンミリング装置を用いる場合には、たとえばアルゴンガス雰囲気で加速電圧1〜6kVの標準的な条件で加工することができる。(樹脂除去工程) 本発明では、第4のステップとして断面加工した試料から包埋樹脂を選択的に除去する。包埋樹脂を除去する方法としては、プラズマでエッチングする方法を用いる。プラズマでエッチングする方法では、包埋樹脂を溶媒で溶解除去する方法に比べて、試料の変形や変質を生じることなく包埋樹脂を選択的に除去できる特徴がある。プラズマエッチングの条件としては、たとえば酸素またはアルゴン/酸素雰囲気でプラズマ出力30〜200Wの標準的な条件で処理することができる。 また、包埋樹脂を選択的にエッチング除去するために、凍結乾燥した試料を樹脂包埋する前あるいは樹脂包埋して断面加工した後に、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド系固定剤、四酸化オスミウム、過マンガン酸カリウムなどの重金属系固定剤などで、試料を染色・固定処理する方法を用いてもよい。(観察方法) 上記の方法で作製した試片をSEM観察することにより、繊維内部の多孔質構造を観察することができる。SEM装置としては、熱電子放出型SEMあるいは電界放射型SEMを用いることができ、加速電圧0.1〜20kVの標準的な条件で観察できる。また、試片に導電性を付与するために、金、白金、金−パラジウム、白金−パラジウム、タングステン、クロム、アルミニウム、カーボンなどを蒸着またはスパッターコーティングしてもよい。 以下、本発明を実施例により具体的に説明する。試料調製法の適否判定は、以下の方法で行った。<試料調製法の適否判定>1)試料の変形の有無 SEM画像において、樹脂包埋に起因する試料の膨潤または断面加工の際のナイフ切削によるせん断変形、空隙の埋没の有無を判定した。いずれの不具合もない場合は「○」とした。2)多孔質構造の明瞭さ SEM画像において、多孔質構造が明瞭に観察できるか否かにより判定した。明瞭に観察できた場合は「○」、不明瞭な場合は「×」とした。[実施例1] アクリロニトリル単位95%、酢酸ビニル単位5%からなる還元粘度1.6のアクリロニトリル系ポリマーをジメチルアセトアミドに溶解し重合体濃度24%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を75℃に調温し、35%ジメチルアセトアミド、温度50℃の凝固浴中にノズルから押し出して湿式紡糸し、次いで空気中で1.15倍の冷延伸を施した後、さらに沸水中で溶剤を洗浄しながら4.0倍延伸を施した工程糸(湿熱糸)を採取した。採取した試料を定長に固定したのち、水/t−ブタノールの比率が80/20、50/50、20/80、0/100、0/100の混合液に順次浸漬してt−ブタノールに置換した。各混合液の浸漬時間は30分とした。 次いで、t−ブタノール置換した試料をナスフラスコに入れて、液体窒素に浸して急速凍結したのち、氷/メタノール浴で試料温度を−30℃に保ちながら、試料容器内を200Paの減圧にして、72時間凍結乾燥した。凍結乾燥された試料は十分に乾燥しており、収縮や硬化もなく乾燥状態は良好であった。 次いで、凍結乾燥した試料を、MMAポリマーを20質量%の濃度でMMAモノマーに溶解したMMAシラップに光重合開始剤を添加した樹脂で包埋して、UVを60分照射して重合硬化した。 次いで、イオンミリング装置として日本電子(株)製クロスセクションポリッシャーSM09010を用い、アルゴンガス雰囲気で加速電圧5.0kVの条件で3時間エッチングして繊維の縦断面を得た。 次いで、プラズマエッチング装置として日本電子(株)製プラズマ処理装置JP−170を用い、アルゴン/酸素=75/25の雰囲気でプラズマ出力50Wの条件で5分間処理して包埋樹脂を除去した。 さらに、VCR社製イオンビームスパッター装置IBS/TM200Sを用い、アルゴンガス雰囲気で印加電圧6kV、イオン電流4mAの条件で白金を3分間コーティングしたのち、日本電子(株)製電界放射型走査電子顕微鏡JSM−7400Fにより加速電圧3.0kVの条件で観察した。 SEM画像において、試料の変形や膨潤および空隙の埋没はみられず、多孔質構造が明瞭に観察できた。[実施例2] 実施例1の断面加工法をミクロトームで切削する方法に変えた以外は実施例1と同じ方法で試料調製してSEM観察を行った。SEM画像において、試料の変形や膨潤および空隙の埋没はみられず、多孔質構造が明瞭に観察できた。[比較例1] 工程糸を採取してt−ブタノール置換したのち、室温で自然乾燥した。試料が収縮・硬化し、断面のSEM観察の結果、空隙がつぶれており多孔質構造が保持されていなかった。[比較例2] 包埋樹脂として、ソマール(株)製エポキシ樹脂エピフォームR−2100に硬化剤H−105を20質量%混合した樹脂を用いた以外は実施例1と同じ方法で試料調製してSEM観察を行った。包埋樹脂の粘度が高いために繊維内部の空隙部分に樹脂が浸透せず、イオンミリングの際に空隙が埋没している状況がみられた。[比較例3] 包埋樹脂として、MMA/BMA=30/70のモノマーにアゾ系開始剤を添加した樹脂を用いて50℃で12時間熱重合した以外は実施例1と同じ方法で試料調製してSEM観察を行った。多孔質構造は観察できたが、包埋樹脂の粘度が低く硬化までの時間が長いために、試料が膨潤し本来の多孔質構造が保持されていなかった。[比較例4] 断面加工した後の包埋樹脂の除去方法として、加熱したアセトンに浸漬して溶解除去する方法を用いた以外は実施例1と同じ方法で試料調製してSEM観察を行った。加熱によって試片が変形し、また、包埋樹脂が十分に除去できず、多孔質構造は不明瞭であった。 湿潤状態にある多孔質繊維の内部構造を観察するために繊維の断面を得る方法であって、次の工程を順に有する試料調製方法。1.繊維を乾燥処理する工程2.前記乾燥処理した繊維を樹脂包埋する工程3.前記樹脂包埋処理した繊維を断面加工する工程4.前記断面加工処理した繊維から包埋樹脂を除去する工程 前記繊維を乾燥処理する工程の前に、繊維内部に含浸している水および溶媒をt−ブタノールに置換する工程を有する請求項1に記載の試料調製方法。 前記繊維を乾燥処理する工程において、試料温度が−50〜0℃且つ圧力が500Pa以下で乾燥を行う請求項1または2に記載の試料調製方法。 前記乾燥処理した繊維を樹脂包埋する工程において、樹脂の硬化前の粘度が10〜500mPa・s、重合硬化に要する時間が1〜90分のアクリル系樹脂で包埋を行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の試料調製方法。 前記樹脂包埋処理した繊維を断面加工する工程において、ミクロトームまたはイオンビームにより断面加工を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の試料調製方法。 前記断面加工処理した繊維から包埋樹脂を除去する工程において、プラズマエッチングにより包埋樹脂の除去を行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の試料調製方法。 【課題】湿潤状態にある多孔質繊維の内部構造をSEMで観察するために繊維の断面を得る方法を提供する。【解決手段】湿潤状態にある多孔質繊維の内部構造を観察するために繊維の断面を得る方法であって、繊維を乾燥処理する工程、前記乾燥処理した繊維を樹脂包埋する工程、前記樹脂包埋処理した繊維を断面加工する工程、前記断面加工処理した繊維から包埋樹脂を除去する工程を順に有する試料調製方法。【選択図】なし