タイトル: | 公開特許公報(A)_皮膚刺激評価用invitro皮膚モデル組成物及びそれを用いた評価方法 |
出願番号: | 2011158013 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 5/071,C12N 5/0793,C12Q 1/02,G01N 33/50,G01N 33/48,G01N 33/483 |
傳田 光洋 篠田 も絵 傳田 澄美子 仲谷 正史 JP 2013021946 公開特許公報(A) 20130204 2011158013 20110719 皮膚刺激評価用invitro皮膚モデル組成物及びそれを用いた評価方法 株式会社 資生堂 000001959 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 福本 積 100087871 古賀 哲次 100087413 渡辺 陽一 100117019 武居 良太郎 100150810 中島 勝 100141977 傳田 光洋 篠田 も絵 傳田 澄美子 仲谷 正史 C12N 5/071 20100101AFI20130108BHJP C12N 5/0793 20100101ALI20130108BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20130108BHJP G01N 33/50 20060101ALI20130108BHJP G01N 33/48 20060101ALI20130108BHJP G01N 33/483 20060101ALI20130108BHJP JPC12N5/00 202AC12N5/00 202SC12Q1/02G01N33/50 QG01N33/48 PG01N33/483 C 5 4 OL 15 2G045 4B063 4B065 2G045AA24 2G045BB20 2G045BB24 2G045FA16 2G045FA19 2G045FB12 2G045GC15 2G045JA01 4B063QA05 4B063QQ20 4B063QR77 4B065AA90 4B065AC12 4B065BC50 4B065CA46 本発明は、皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物、その調製方法、及びそれを用いた評価方法に関する。 敏感肌とは種々の環境因子に対する自覚的な皮膚の過剰反応状態のことを言い、他覚的な皮膚の刺激症状が認められないのに対し、肌のつっぱり感、ほてり、痛み、痒み、焼ける感じ、ちくちく感等の自覚症状がある。この敏感肌の原因としては、3つのタイプが知られており、タイプI:バリア機能低下群、タイプII:バリア機能は正常であるが、炎症性の変化がある群、及びタイプIII:バリア機能が正常であり、且つ炎症性の変化もない群に分けられる(非特許文献1:敏感肌の科学)。 皮膚が受容した刺激が神経細胞へ伝達される機構については、皮膚を構成する真皮に末梢神経の末端が存在しており、この末梢神経系が外界からの物理的・化学的刺激に応答する感覚受容機構にとって重要な役割を果たしているとの考えが長年通説となっていた。しかし、近年、皮膚における神経細胞の分布を調べた報告から、神経細胞の自由終末は表皮の角層直下まで侵入していることが報告されている(非特許文献2:McArthur et al., Arch Neurol., 55, pp. 1513-1520, 1998)。また、上記の敏感肌の全てのタイプにおいて、角層中に高濃度の神経成長因子が存在し、表皮に分布する神経線維が密接に関連することが報告されている(非特許文献1:敏感肌の科学)。 また、近年の研究では、特定の温度、浸透圧、電位、機械的ストレス等に応答する一連の感覚受容体タンパク質は、末梢神経系のみならず表皮ケラチノサイトにおいても同定されていることが報告されている(非特許文献3:Dhaka A, et al., "TRP ion channels and temperature sensation", Annu Rev Neurosci 29, pp. 135-161, 2006; 及び非特許文献4:Denda M, et al., "Effects of skin surface temperature on epidermal permeability barrier homeostasis", J Invest Dermatol, 127, pp. 654-659, 2007)。 更に、本発明者らの以前の研究では、特定の温度又は可視光が皮膚バリアのホメオスタシスに及ぼす効果が実証されている(非特許文献5:Denda M, et al., "Epidermal keratinocytes as the forefront of the sensory system", Exp Dermatol 16, pp. 157-161, 2007)。このような刺激によって活性化される受容体タンパク質も、表皮ケラチノサイトで発現している(特許文献3:Dhaka A. et al. 前掲及び非特許文献6:Tsutsumi M, et al., "Expressions of rod and cone photoreceptor-like proteins in human epidermis", Exp Dermatol, 18, 6, pp. 567-570, June 2009)。以上の実験結果は、表皮ケラチノサイトが末梢神経系と同様の感覚受容機構を備えていることを示唆するものである。 したがって、敏感肌のメカニズムの解明及び有効な予防及び/又は治療方法の確立のために、表皮ケラチノサイトが受容した外部環境が神経細胞に伝達するメカニズムや、当該外部環境による神経細胞への影響を評価することが重要となる。より具体的には、ケラチノサイト−神経細胞間の情報伝達機構の解明、軸策誘導機構の解明、神経性炎症機構の解明のために、ケラチノサイトと神経細胞が共存する皮膚モデルの構築が必要となる。 これまで、表皮と神経の関係を調べるための皮膚モデルとして代表的な2つのモデルが報告されている。1つは皮膚切片を用いるin vivoの系であり、2つめはケラチノサイトと神経細胞を共培養するin vitroの系である。 皮膚切片を用いるin vivoの系としては、本発明者らにより、皮膚組織の層構造を維持するよう切断した皮膚断面生組織スライス組成物の発明が提案されている(特許文献1:特開2009−210433号)。しかしながら、組織スライスの作製は、作業者の一定の技術水準を要するためin vitroの系と比較すると簡便性に欠け、且つ組織の起源となる動物の個体差を考慮すると安定的なモデルの供給が困難な場合がある。 一方、in vitroの系としては、ケラチノサイトと神経細胞を同じ培地において共培養する系が検討されている(非特許文献7:L Ulmann et al., "Trophic effects of keratinocytes on the axonal development of sensory neurons in a coculture model" Eur J Neurosci, 26, pp. 113-125, 2007 及び非特許文献8: L. Ulmann et al., "Dehydroepiandrosterone and neurotrophins favor axonal growth in a sensory neuron-keratinocyte coculture model" Neuroscience, 159, pp. 514-525, 2009)。例えば、PLL(ポリ−L−リジン)コーティングしたカバーグラスにケラチノサイトを予め播種し、一定時間経過後に前記ケラチノサイトの上に神経細胞を播種し、それぞれ染色して挙動を顕微鏡観察する等の手法による。しかしながら、本手法では、選択する視野によって神経細胞数が異なり定量的な評価が困難であること、さらにケラチノサイトと神経細胞が存在する環境は本来異なる条件であるところ、同じ培地で培養することにより本来の生体内環境を反映しない系である可能性が指摘されていた。特開2009−210433号ハワード・I・メイバック、エンゾウ・ベラルデスカ、ヨアヒム・W・フルール 編著、田上八朗 監訳、『敏感肌の科学』、2007年10月McArthur et al., Arch Neurol, 55, pp. 1513-1520, 1998Dhaka A, et al., "TRP ion channels and temperature sensation", Annu Rev Neurosci, 29, pp. 135-161, 2006Denda M, et al., "Effects of skin surface temperature on epidermal permeability barrier homeostasis", J Invest Dermatol, 127, pp. 654-659, 2007Denda M, et al., "Epidermal keratinocytes as the forefront of the sensory system", Exp Dermatol 16, pp. 157-161, 2007Tsutsumi M, et al., "Expressions of rod and cone photoreceptor-like proteins in human epidermis", Exp Dermatol, 18, 6, pp. 567-570, June 2009L Ulmann et al., "Trophic effects of keratinocytes on the axonal development of sensory neurons in a coculture model" Eur J Neurosci, 26, pp. 113-125, 2007L. Ulmann et al., "Dehydroepiandrosterone and neurotrophins favor axonal growth in a sensory neuron-keratinocyte coculture model" Neuroscience, 159, pp. 514-525, 2009 したがって、簡便に調製でき、安定的に供給が可能であり、且つ定量化による評価が可能である皮膚刺激評価用の皮膚モデルの構築が求められていた。 上記要請に鑑み、本発明者らが検討を行った結果、ケラチノサイトと神経細胞を非接触且つ隣接した状態で培養することにより、ケラチノサイト方向への神経細胞の軸索伸展により神経細胞がケラチノサイト培養物領域に侵入することを発見した。さらにこのケラチノサイト培養物領域に侵入した神経細胞を画像解析処理することにより定量化することができることを見出し、本発明を為すに至った。 すなわち、本発明は下記の発明を包含する。[1]平板状ケラチノサイト培養物領域、及び前記ケラチノサイト培養物領域の境界に対して非接触且つ一定間隔で隣接するよう平板状に播種される神経細胞培養物領域、ここで当該神経細胞は、軸索伸展により前記ケラチノサイト培養物領域に侵入している、を含んでなる、皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物。[2]前記神経細胞がDRGニューロンである、[1]に記載の皮膚モデル組成物。[3](a)物理的仕切りにより区切られた平板の領域の一方にケラチノサイトを平板状に播種し、他方に神経細胞を播種するステップ、(b)各々の細胞培養物領域が定形化後、前記物理的仕切りを除去し、平板状のケラチノサイト培養物領域と神経細胞培養物領域を、非接触且つ一定間隔で隣接する状態にさせるステップ、及び(c)前記ケラチノサイト及び神経細胞を培養し、神経細胞の軸索伸展により神経細胞をケラチノサイト培養物領域に侵入させるテップ、を含んでなる、皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物の調製方法。[4](a)物理的仕切りにより区切られた平板の領域の一方にケラチノサイトを平板状に播種し、他方に神経細胞を播種するステップ、(b)各々の細胞培養物領域が定形化後、前記物理的仕切りを除去し、平板状のケラチノサイト培養物領域と神経細胞培養物領域を、非接触且つ一定間隔で隣接する状態にさせるステップ、(c)任意に、前記ケラチノサイトに刺激を与えるステップ、(d)前記ケラチノサイト及び神経細胞を培養し、神経細胞の軸索伸展により神経細胞をケラチノサイト培養物領域に侵入させるステップ、(e)前記ケラチノサイト及び神経細胞を各々異なる染色剤で染色するステップ、(f)前記ケラチノサイト培養物領域に侵入した神経細胞を画像処理により解析するステップ、及び(g)前記解析により得られた結果を用いて、神経細胞のケラチノサイト培養物領域への侵入度を決定するステップ、を含んでなる、皮膚刺激評価方法。[5]前記ステップ(e)の画像処理において、ケラチノサイト画像及び神経細胞画像を別々に二値化し、得られた二値化画像を重ね合わせることにより解析する、[4]に記載の方法。 本発明の皮膚モデル組成物は簡便に調製でき、安定的に供給が可能である。また、本発明の皮膚モデル組成物を用いる皮膚刺激評価方法により、皮膚刺激評価を定量的に行うことができる。図1は、本発明の皮膚モデル組成物の調製方法を示す。図2は、従来の共培養法で作製した皮膚モデルにおけるケラチノサイトと神経細胞の分布画像を示す。図3は、本発明の皮膚モデル組成物におけるケラチノサイトと神経細胞の経時的な分布画像を示す。画像の左側がケラチノサイト、右側が神経細胞であり、1日目には両者が完全に離れているが、3日目及び6日目では神経細胞の軸索がケラチノサイト培養物領域に侵入していることがわかる。図4は、本発明の皮膚モデル組成物におけるケラチノサイト培養物領域に侵入した神経細胞を定量化したグラフを示す。図5は、本発明の皮膚刺激評価方法における、画像解析ステップの一例を示す。 本発明の第一の態様によれば、本発明は、平板状ケラチノサイト培養物領域、及び前記ケラチノサイト培養物領域の境界に対して非接触且つ一定間隔で隣接するよう平板状に播種される神経細胞培養物領域、ここで当該神経細胞は、軸索伸展により前記ケラチノサイト培養物領域に侵入している、を含んでなる、皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物を提供する。 本発明の第二の態様によれば、本発明は、(a)物理的仕切りにより区切られた平板の領域の一方にケラチノサイトを平板状に播種し、他方に神経細胞を播種するステップ、(b)各々の細胞培養物領域が定形化後、前記物理的仕切りを除去し、平板状のケラチノサイト培養物領域と神経細胞培養物領域を、非接触且つ一定間隔で隣接する状態にさせるステップ、及び(c)前記ケラチノサイト及び神経細胞を培養し、神経細胞の軸索伸展により神経細胞をケラチノサイト培養物領域に侵入させるテップ、を含んでなる、皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物の調製方法を提供する。 本発明の第三の態様によれば、本発明は、(a)物理的仕切りにより区切られた平板の領域の一方にケラチノサイトを平板状に播種し、他方に神経細胞を播種するステップ、(b)各々の細胞培養物領域が定形化後、前記物理的仕切りを除去し、平板状のケラチノサイト培養物領域と神経細胞培養物領域を、非接触且つ一定間隔で隣接する状態にさせるステップ、(c)任意に、前記ケラチノサイトに刺激を与えるステップ、(d)前記ケラチノサイト及び神経細胞を培養し、神経細胞の軸索伸展により神経細胞をケラチノサイト培養物領域に侵入させるステップ、(e)前記ケラチノサイト及び神経細胞を各々異なる染色剤で染色するステップ、(f)前記ケラチノサイト培養物領域に侵入した神経細胞を画像処理により解析するステップ、及び(g)前記解析により得られた結果を用いて、神経細胞のケラチノサイト培養物領域への侵入度を決定するステップ、を含んでなる、皮膚刺激評価方法を提供する。 本発明の実施態様によれば、前記ステップ(e)の画像処理において、ケラチノサイト画像及び神経細胞画像を別々に二値化し、得られた二値化画像を重ね合わせることにより解析する、皮膚刺激評価方法を提供する。 本発明において、「非接触」とは、複数の細胞培養物を播種する場合、各々の細胞培養物領域の境界が接触しないことを言う。細胞を播種する場合に細胞培養物領域が接触すると、一方及び/又は双方の境界が消失して細胞培養物領域が混合すること、及び/又は接触度合にむらが生じることなどにより、安定した皮膚モデルの提供が困難となり、且つ皮膚評価において定量化が困難になるという問題が生じる。 本発明において、複数の細胞培養物領域が「一定間隔で隣接する」とは、一方の細胞培養物領域と、他方の細胞培養物領域との間に、空気等の媒体以外の特定の物質(例えば、膜、チャンバー、ウェル、ワイヤー等)が存在しない状態を言う。「一定間隔」とは、神経細胞の軸索伸展により神経細胞が隣接するケラチノサイト培養物領域に侵入できる距離であれば、どのような距離でもよいが、当該距離の範囲としては、下限が、100 μm、150 μm、200 μm、450 μm、500 μm、及び900 μmからなる群から選択され、上限が、0.8mm、1mm、2mm、3mm、4mm、及び5mmからなる群から選択され、好ましい範囲としては、150 μm〜800μm、より好ましくは、300 μm〜600 μmがある。隣接が一定間隔でない場合、ケラチノサイト培養物領域への神経細胞の侵入にむらが生じ、定量的な評価が困難になる。また、隣接は、いかなる配置であってもよく、細胞培養物領域の形状に応じて様々な配置があり得る。 上記の非接触且つ一定間隔で隣接した状態を達成するために、1又は複数の細胞培養物領域が定形化するまでの間、接触を避けるための物理的仕切りを用いてもよい。当該仕切りは、細胞培養物領域が過度に接着せず、細胞培養物領域が定形化後に取り外しが容易なものであれば特に限定されるものではないが、形態としては例えば、膜、チャンバー、ウェル、ワイヤー等が挙げられ、素材としては、例えば、プラスチック、シリコン等が挙げられる。 本明細書において、神経細胞がケラチノサイト培養物領域に「侵入する」とは、一定間隔で隣接するケラチノサイト領域と神経細胞培養物領域を一定期間培養することにより、神経細胞の軸索伸展により神経細胞がケラチノサイト培養物領域に侵入することを表現するために使用される。 本明細書において、「平板状」とは、培養される細胞が存在する培地の形状のことを表し、定形化した形状を有することを意味する。平板状のケラチノサイトと平板状の神経細胞が隣接することにより、皮膚の切片のモデルとなる。よって平板の幅、厚み、大きさは、本発明の目的を達することができることができる任意ものであればよい。 本明細書において、「細胞培養物領域が定形化する」とは、播種の時点で液状又は半液状であった細胞培地を平板に播種した後、その境界が流動しなくなった状態を言う。 本発明において用いられるケラチノサイトには、例えば、ヒト新生児由来表皮ケラチノサイト(クラボウ)(商品名)(製造業者)等が用いられる。また本発明において用いられる神経細胞には、DRGニューロン(LONZA社)、(CLR-DRG-505)等がある。 本発明においてケラチノサイトを培養する培地としては、例えば、EpiLife, EpiLife-KG2(クラボウ)がある。好ましくは、EpiLife-KG2(クラボウ)である。 本発明において神経細胞を培養する培地としては、例えば、初代神経細胞培地キット(タカラバイオ)DMEM(インビトロジェン)EpiLife, EpiLife-KG2(クラボウ)がある。好ましくは、EpiLife(登録商標) Medium(インビトロジェン)である。 本発明において用いられる平板は、細胞が生着できる任意の平面を有する平板であってよく、例えば、スライドグラス、シャーレ等が挙げられる。 本発明の方法において用いられる染色剤は、細胞を染色することのできる任意の染色剤であってよく、例えば、(PGP9.5,、K14、DAPI, Hoechst33258, Rhodamine Red, FITC, Texas Red, Alexa Flour647等が挙げられる。ケラチノサイトの染色用として、好ましくはAlexa Fluor 488 がある。また神経細胞の染色用として、好ましくはAlexa Fluor 594 がある。 本発明の方法において用いる画像は、通常の顕微鏡、蛍光顕微鏡等にカメラを装備した装置により取得することができる。顕微鏡としては、例えば、オリンパス株式会社 システム工業顕微鏡(落射透過兼用)BX51を用いることができる。カメラとしては、例えば、オリンパス株式会社顕微鏡用デジタルカメラ「DP71」を用いることができる。取得した画像は、画像解析の定法によりコンピュータ解析ソフトに取り込み、解析をすることができる。解析ソフトとしては、MATLAB R2010b(The MathWorks, Inc.)を用いることができる。 本発明の方法において用いる画像処理には、取得したカラー画像を二値化処理し、ケラチノサイト培養物領域に侵入した神経細胞をコンピュータ等の機能を用いて自動的に定量化することもできる。具体的には、ケラチノサイト画像から、ケラチノサイト培養物の領域境界を決定し、一方で、神経細胞画像を二値化処理し、ケラチノサイト画像と神経細胞画像を重ね合わせることにより、ケラチノサイト培養物領域内の神経細胞数を定量化することができる。ケラチノサイト培養物の領域境界の決定の際に、ケラチノサイト画像を二値化処理してもよい。 本発明の方法において、皮膚刺激評価とは、皮膚への刺激やその阻害剤及び/又は緩和剤などの処理の有無により、ケラチノサイトが受けた刺激が神経細胞の挙動にどのような影響を与えるかを評価することが含まれる。したがって、本発明のある実施態様によれば、ケラチノサイト培養物領域へ刺激を与えた後、又は刺激物の阻害剤などでの処理を行った後、ケラチノサイト培養物領域への神経細胞の侵入度を決定し、この侵入度を比較することにより評価を行うことができる。なお、本発明の皮膚刺激評価方法は、刺激を与えない状態でケラチノサイトと神経細胞の挙動を調べるために用いることができることは、当然当業者に理解されるはずである。 本発明の皮膚モデル組成物及び/又はそれを用いた評価方法により、例えば下記の事項が可能になる。1.ケラチノサイト−神経細胞間の情報伝達機構の解明 刺激伝播機構評価モデルの作製 表皮が受容した外部環境がどのように全身に伝わるかを評価する系を確立し、様々な外的因子が痒みなどの皮膚感覚異常を惹起するメカニズムを明らかにできる。そしてその結果から上記皮膚感覚異常の予防策を確立することができる。2.軸策誘導機構の解明 軸策伸展評価モデルの作製 アトピーでは皮膚内神経線維の密度が高いことが知られており、これが痒みや敏感肌の原因である可能性がある。そのメカニズムを明らかにする目的で隣接させて培養した系における軸策伸展を観察するモデルを確立することができる。そしてその結果から上記皮膚感覚異常の予防策を確立することができる。3.神経性炎症機構の解明 敏感肌におけるケラチノサイトの寄与の可能性を検証する目的で、皮膚感覚異常を惹起する外部因子がケラチノサイトに及ぼす影響を観察することができる。 本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明する。皮膚モデル組成物の調製 スライドグラスに細胞の広がりを制限する幅約500μmの物理的仕切り(シリコン製ゴム)を密着させた。仕切られた区画の一方にケラチノサイトを播種し(培地:Epilife S7, Ca 0.06mM)、他方に、神経細胞であるDRG由来細胞(LONZA社より購入)を播種した(培地:Epilife S7, Ca 1.8mM, FBS10%)。両方の培地がスライドグラスに生着後、物理的仕切りを外し、本発明の皮膚モデル組成物を得た。皮膚モデル組成物の評価 本発明の比較例として、ケラチノサイト細胞培養物領域と神経細胞培養物領域が接触する皮膚モデル組成物を調製した。PLLコーティングしたシャーレにケラチノサイト(培地:Epilife S7, Ca 1.8mM)を播種し、ケラチノサイトがシャーレに生着後、ケラチノサイトの上に直接DRGニューロンシュワン細胞を播種した。 上記比較例と、実施例1で調製した本発明の皮膚モデル組成物について、組成物調製から3日後、ケラチノサイトをEcadで染色し、神経細胞をβチューブリンで染色し、蛍光顕微鏡観察を行った。その結果、比較例では、視野の選択によってケラチノサイトに乗ったDRGニューロン数が大きく異なり、定量的な評価が困難であったのに対し、本発明の皮膚モデル組成物では、ケラチノサイト細胞培養物領域境界から当該領域内に向かってDRGニューロンの軸索が一定の方向性を有しながら伸展することが確認できた。皮膚モデル組成物を用いる皮膚刺激評価 実施例1及び2と同様の方法で取得した、本発明の皮膚モデル組成物の蛍光画像を用意し、Matlab 2010bのgreythresh関数(Otsu 法を利用したイメージの2値処理法)を用いて、ケラチノサイト蛍光画像を白黒の二値化画像にした。このケラチノサイトの白黒二値化画像から、ケラチノサイト培養物領域の境界を取得した。このケラチノサイト培養物領域の境界を示す画像と、神経細胞培養物領域の蛍光画像を重ね合わせ、且つ神経細胞の蛍光画像を同様に白黒の二値化画像にした。この神経細胞の白黒二値化画像を、Matlab 2010bのbwareaopen関数を用いて小さな画像ノイズ除去した。ケラチノサイト培養物領域内に含まれる神経細胞のピクセル数を計算し、神経細胞の軸索伸展度合いの指標とした。 上記方法により得られた神経細胞の軸索伸展の値を、培養日数に対して示した(図4)。これにより、培養日数に応じた軸索伸展度合いが定量的に評価できることが確認できた。 平板状ケラチノサイト培養物領域、及び前記ケラチノサイト培養物領域の境界に対して非接触且つ一定間隔で隣接するよう平板状に播種される神経細胞培養物領域、ここで当該神経細胞は、軸索伸展により前記ケラチノサイト培養物領域に侵入している、を含んでなる、皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物。 前記神経細胞がDRGニューロンである、請求項1に記載の皮膚モデル組成物。 (a)物理的仕切りにより区切られた平板の領域の一方にケラチノサイトを平板状に播種し、他方に神経細胞を播種するステップ、 (b)各々の細胞培養物領域が定形化後、前記物理的仕切りを除去し、平板状のケラチノサイト培養物領域と神経細胞培養物領域を、非接触且つ一定間隔で隣接する状態にさせるステップ、及び (c)前記ケラチノサイト及び神経細胞を培養し、神経細胞の軸索伸展により神経細胞をケラチノサイト培養物領域に侵入させるテップ、を含んでなる、皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物の調製方法。 (a)物理的仕切りにより区切られた平板の領域の一方にケラチノサイトを平板状に播種し、他方に神経細胞を播種するステップ、 (b)各々の細胞培養物領域が定形化後、前記物理的仕切りを除去し、平板状のケラチノサイト培養物領域と神経細胞培養物領域を、非接触且つ一定間隔で隣接する状態にさせるステップ、 (c)任意に、前記ケラチノサイトに刺激を与えるステップ、 (d)前記ケラチノサイト及び神経細胞を培養し、神経細胞の軸索伸展により神経細胞をケラチノサイト培養物領域に侵入させるステップ、 (e)前記ケラチノサイト及び神経細胞を各々異なる染色剤で染色するステップ、 (f)前記ケラチノサイト培養物領域に侵入した神経細胞を画像処理により解析するステップ、及び (g)前記解析により得られた結果を用いて、神経細胞のケラチノサイト培養物領域への侵入度を決定するステップ、を含んでなる、皮膚刺激評価方法。 前記ステップ(e)の画像処理において、ケラチノサイト画像及び神経細胞画像を別々に二値化し、得られた二値化画像を重ね合わせることにより解析する、請求項4に記載の方法。 【課題】簡便に調製でき、安定的に供給が可能であり、且つ定量化による評価が可能である皮膚刺激評価用の皮膚モデルの提供。【解決手段】平板状ケラチノサイト培養物領域、及び前記ケラチノサイト培養物領域の境界に対して非接触且つ一定間隔で隣接するよう平板状に播種される神経細胞培養物領域、ここで当該神経細胞は、軸索伸展により前記ケラチノサイト培養物領域に進入している、を含んでなる皮膚刺激評価用in vitro皮膚モデル組成物、その調製方法、及びそれを用いた評価方法。【選択図】図4