タイトル: | 公開特許公報(A)_毛包幹細胞の培養方法 |
出願番号: | 2011123362 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 5/074,A61K 45/00,A61K 31/198,A61P 17/14,A61K 31/4709,A61K 31/4375,A61K 31/4409,A61K 31/4725 |
石坂 重昭 王寺 幸輝 JP 2012249556 公開特許公報(A) 20121220 2011123362 20110601 毛包幹細胞の培養方法 公立大学法人奈良県立医科大学 507126487 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 村林 望 100169579 石坂 重昭 王寺 幸輝 C12N 5/074 20100101AFI20121122BHJP A61K 45/00 20060101ALI20121122BHJP A61K 31/198 20060101ALI20121122BHJP A61P 17/14 20060101ALI20121122BHJP A61K 31/4709 20060101ALN20121122BHJP A61K 31/4375 20060101ALN20121122BHJP A61K 31/4409 20060101ALN20121122BHJP A61K 31/4725 20060101ALN20121122BHJP JPC12N5/00 202DA61K45/00A61K31/198A61P17/14A61K31/4709A61K31/4375A61K31/4409A61K31/4725 15 OL 18 4B065 4C084 4C086 4C206 4B065AA90X 4B065AC20 4B065BB13 4B065BD34 4B065CA44 4C084AA20 4C084AA23 4C084MA02 4C084NA05 4C084NA14 4C084ZA921 4C084ZC202 4C084ZC751 4C086BC17 4C086BC30 4C086BC36 4C086CB09 4C086GA07 4C086GA08 4C086GA12 4C086MA02 4C086MA03 4C086MA04 4C086NA05 4C086ZA92 4C086ZC75 4C206AA01 4C206FA53 4C206MA03 4C206MA04 4C206NA05 4C206ZA92 本発明は、例えば毛包幹細胞を大量に増殖させることができる培養方法に関する。 毛包の毛隆起(バルジ領域)に分布する毛包幹細胞は、神経細胞、グリア細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞及びメラノサイトに分化することが知られている。特に、毛包幹細胞から分化したケラチノサイト前駆細胞は、毛包や毛包脂腺を形成する能力を有する(非特許文献1)。 また、毛包幹細胞は、毛の発生及び周期並びに創傷治癒に重要であることが知られている(非特許文献2)。 上記のように、バルジ領域に毛包幹細胞が存在し、バルジ領域は毛包幹細胞のリザーバーとしての役割を有する。毛包幹細胞は、バルジ領域から毛に沿って下降し、毛乳頭細胞の傍で毛乳頭細胞から分泌される分化増殖因子により毛母細胞となり、この細胞が角質化し、毛になる。従って、毛包幹細胞は毛になる元の細胞である。 一方、毛乳頭細胞は毛包幹細胞を分化増殖させ、毛を形成するように働く。しかしながら、毛乳頭細胞単独の移植では、毛の形成には不十分である。 ところで、Rock阻害剤が細胞剥離後のヒト胚性幹細胞の生存を可能とし、剥離により誘導されるアポトーシスを低減できることが知られている(非特許文献3)。また、Rock阻害剤が凍結保存したヒト胚性幹細胞及びヒト人工多能性幹細胞の回復と増殖を増強できることが知られている(非特許文献4)。さらに、特許文献1は、ES細胞等の幹細胞をRock阻害剤含有培地で培養することにより、その生存率、増殖能、分化効率等を改善できることを開示する。特開2008-99662号公報天羽 康之及び勝岡 憲生, 「生化学」, 2008年, 第80巻, 第7号, pp. 638-641WANG Hong-taoら, Journal of US-China Medical Science, 2007年, Volume 4, No. 7 (Serial No. 32), pp. 1-9Watanabe, K.ら, Nat. Biotechnol, 2007年, Vol. 25, pp. 681-686Claassen, D.A.ら, Mol. Reprod. Dev., 2009年, Vol. 76, pp. 722-732 上述のように、毛包幹細胞は、毛の発生に関与する細胞である。従って、毛包から毛包幹細胞を大量に増殖できるように培養することができれば、毛包幹細胞を個体に移植することで、発毛を促進でき、また毛包幹細胞を発毛剤の開発に使用することができる。さらに、毛包から毛包幹細胞を大量に増殖させるように培養した後、保存することで将来的に必要となった場合に個体に移植することで発毛を促進することができる。 しかしながら、従来において、毛包幹細胞を大量に増殖させることができる培養方法は知られていなかった。 そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、毛包幹細胞を大量に増殖させることができる培養方法を提供することを目的とする。 上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、毛包を、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む培地において培養することで、毛包幹細胞を増殖させることができ、また得られた毛包幹細胞をトポイソメラーゼII阻害剤を含む培地において培養し、さらにALK5阻害剤とTGF-β阻害剤とを含む培地において培養することで、高度に増殖させることができ、クローン化し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、以下を包含する。 (1)毛包を、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む培地において培養する工程を含む、毛包幹細胞の培養方法。 (2)ALK5阻害剤が3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド又は2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジンである、(1)記載の方法。 (3)Rock阻害剤が4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニル-トランス-シクロヘキサンカルボキサミド若しくは(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン又はそれらの塩である、(1)又は(2)記載の方法。 (4)培地がさらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。 (5)培地が上皮細胞培養用培地である、(1)〜(4)のいずれか1記載の方法。 (6)上皮細胞培養用培地がインスリン、ヒドロコルチゾン及び上皮増殖因子から成る群より選択される1以上の成分を含む、(5)記載の方法。 (7)培養が細胞外基質でコーティングした容器中で行われる、(1)〜(6)のいずれか1記載の方法。 (8)細胞外基質がコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、エラスチン、プロテオグリカン及びグリコサミノグリカンから成る群より選択される1以上の成分を含む、(7)記載の方法。 (9)培養後、毛包幹細胞を単離する工程を含む、(1)〜(8)のいずれか1記載の方法。 (10)CD200の発現を指標に毛包幹細胞を単離する、(9)記載の方法。 (11)(1)〜(10)のいずれか1記載の方法において、培養後、皮膚幹細胞を単離する工程を含む、皮膚幹細胞の培養方法。 (12)Lgr5の発現を指標に皮膚幹細胞を単離する、(11)記載の方法。 (13)毛包幹細胞を、トポイソメラーゼII阻害剤を含む培地において培養する第1工程と、毛包幹細胞を、ALK5阻害剤とTGF-β阻害剤とを含む培地において培養する第2工程とを含む、毛包幹細胞の培養方法。 (14)毛包幹細胞が、(1)〜(10)のいずれか1記載の方法により得られた毛包幹細胞である、(13)記載の方法。 (15)トポイソメラーゼII阻害剤がアウリントリカルボン酸又は3,3',4,4',5',7-ヘキサヒドロ-2-フェニル-4H-クロメン-4-オンである、(13)又は(14)記載の方法。 (16)ALK5阻害剤が3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド又は2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジンである、(13)〜(15)のいずれか1記載の方法。 (17)TGF-β阻害剤が1,1-ジメチルビグアニド又はその塩である、(13)〜(16)のいずれか1記載の方法。 (18)第1工程における培地が上皮細胞培養用培地である、(13)〜(17)のいずれか1記載の方法。 (19)上皮細胞培養用培地がインスリン、ヒドロコルチゾン及び上皮増殖因子から成る群より選択される1以上の成分を含む、(18)記載の方法。 (20)第2工程における培地がES細胞増殖用培地である、(13)〜(19)のいずれか1記載の方法。 (21)培養が細胞外基質でコーティングした容器中で行われる、(13)〜(20)のいずれか1記載の方法。 (22)細胞外基質がコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、エラスチン、プロテオグリカン及びグリコサミノグリカンから成る群より選択される1以上の成分を含む、(21)記載の方法。 (23)ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む、毛包幹細胞培養用組成物。 (24)ALK5阻害剤が3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド又は2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジンである、(23)記載の毛包幹細胞培養用組成物。 (25)Rock阻害剤が4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニル-トランス-シクロヘキサンカルボキサミド若しくは(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン又はそれらの塩である、(23)又は(24)記載の毛包幹細胞培養用組成物。 (26)さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、(23)〜(25)のいずれか1記載の毛包幹細胞培養用組成物。 (27)ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む、毛包幹細胞培養用キット。 (28)ALK5阻害剤が3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド又は2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジンである、(27)記載の毛包幹細胞培養用キット。 (29)Rock阻害剤が4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニル-トランス-シクロヘキサンカルボキサミド若しくは(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン又はそれらの塩である、(27)又は(28)記載の毛包幹細胞培養用キット。 (30)さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、(27)〜(29)のいずれか1記載の毛包幹細胞培養用キット。(31)さらにトポイソメラーゼII阻害剤を含む、(27)〜(30)のいずれか1記載の毛包幹細胞培養用キット。 (32)トポイソメラーゼII阻害剤がアウリントリカルボン酸又は3,3',4,4',5',7-ヘキサヒドロ-2-フェニル-4H-クロメン-4-オンである、(31)記載の毛包幹細胞培養用キット。 (33)さらにTGF-β阻害剤を含む、(27)〜(32)のいずれか1記載の毛包幹細胞培養用キット。 (34)TGF-β阻害剤が1,1-ジメチルビグアニド又はその塩である、(33)記載の毛包幹細胞培養用キット。 (35)さらに上皮細胞培養用培地を含む、(27)〜(34)のいずれか1記載の毛包幹細胞培養用キット。 (36)上皮細胞培養用培地がインスリン、ヒドロコルチゾン及び上皮増殖因子から成る群より選択される1以上の成分を含む、(35)記載の毛包幹細胞培養用キット。 (37)さらにES細胞増殖用培地を含む、(27)〜(36)のいずれか1記載の毛包幹細胞培養用キット。 (38)さらに細胞外基質でコーティングした容器を含む、(27)〜(37)のいずれか1記載の毛包幹細胞培養用キット。 (39)細胞外基質がコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、エラスチン、プロテオグリカン及びグリコサミノグリカンから成る群より選択される1以上の成分を含む、(38)記載の毛包幹細胞培養用キット。 (40)ALK5阻害剤とRock阻害剤とを有効成分として含有する発毛剤。 (41)ALK5阻害剤が3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド又は2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジンである、(40)記載の発毛剤。 (42)Rock阻害剤が4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニル-トランス-シクロヘキサンカルボキサミド若しくは(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン又はそれらの塩である、(40)又は(41)記載の発毛剤。 (43)さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、(40)〜(42)のいずれか1記載の発毛剤。 本発明によれば、移植発毛療法に使用することができる毛包幹細胞を大量に増殖させることができる。また、得られた毛包幹細胞を保存することで将来的に必要となった場合に個体に移植することで発毛を促進することができる。さらに、得られた毛包幹細胞を発毛剤の開発に使用できる。また、得られた毛包幹細胞を分化させることで、神経細胞又は平滑筋細胞として、神経又は平滑筋の再生に利用できる。さらに、本発明に係る培養方法に準じて細胞増殖させる薬剤のスクリーニングを成すことにより新たな発毛剤の開発が可能である。 また、本発明によれば、毛包幹細胞の他に皮膚幹細胞を得ることができ、当該皮膚幹細胞を皮膚再生に使用することができる。 さらに、本発明によれば、発毛療法に使用することができる発毛剤が提供される。ヒト毛包幹細胞の増殖動態を示すグラフである。毛包細胞のCD200に対する免疫染色の写真である。毛包細胞のK-15に対する免疫染色の写真である。毛包細胞のK-19に対する免疫染色の写真である。ヌードマウス皮下移植後のヒト毛包幹細胞の動態を示す写真である。実施例5において得られた高増殖性細胞の写真である。実施例5において得られた高増殖性細胞のCD200に対する免疫染色の写真である。実施例5において得られた高増殖性細胞のK-15に対する免疫染色の写真である。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明に係る毛包幹細胞の培養方法は、毛包を、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む培地において培養する工程を含む(以下、「第1方法」と称する)。換言すれば、第1方法では、毛包を、ALK5阻害剤及びRock阻害剤の存在下で培養する。第1方法によれば、従来において大量培養できなかった毛包幹細胞を大量に増殖させるように培養することができる。培養する毛包幹細胞は、いずれの動物のものであってよいが、脊椎動物が好ましく、哺乳動物がより好ましく、ヒトが最も好ましい。 第1方法では、先ず毛包及び所定の成分を含有する培地を準備する。 毛包は、個体(例えば、移植発毛療法を受ける個体等)の頭髪、眉毛、睫毛、髭等を抜毛することで得ることができる。本方法で使用する毛包は、成長期の毛包であることが好ましい。成長期の毛包は、例えば抜毛を顕微鏡下で観察し、外毛根鞘とバルジ領域が存在することを指標に選択することができる。 第1方法で使用する培地は、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを添加した培地である。 ALK5阻害剤とは、アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)に対して阻害作用を有する化合物を意味する。ALK5阻害剤としては、ALK5に対して阻害作用を有する化合物であればいずれのものであってよいが、例えば3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド及び2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジン、EMD Chemical社から市販されている[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール(Cat. No. 616451)、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(Cat. No. 616452)、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩(Cat. No. 616453)、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(Cat. No. 616454)、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル)ピリジン-4-イルアミン(Cat. No. 616456)、1-(2-((6,7-ジメトキシ-4-キノリル)オキシ)-(4,5-ジメチルフェニル)-1-エタノン(Cat. No. 616458)及び6-(2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル)-キノキサリン(Cat. No. 616459)、イミダゾピリジン誘導体(特開2005-343889号公報)、2-フェニルピリジン-4-イルヘテロサイクリル誘導体(特表2005-539000号公報)、チアゾリル置換トリアゾール類(特表2005-513018号公報)、WO2005/085241(US Patent No. 7,678,810)に記載のチアゾール誘導体(例えば、表2においてTGF-β1刺激によるSmad2/3リン酸化に対する阻害活性が示されている化合物50、52、57、68、80、81、83、87、105、124、129、171、175、176、186、191、197、198、199、201等)、イミダゾ[1,2-a]ピリジン誘導体(特表2005-537291号公報)、US Patent No. 6,465,493に記載のトリアリールイミダゾール類(例えば、4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-ピリジル)-1-ヒドロキシ-1H-イミダゾール-2-イル]ベンゾニトリル、4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンゾニトリル、4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]安息香酸、メチル4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンゾエート、エチル4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンゾエート等)並びにUS Patent No. 6,906,089に記載のトリアリールイミダゾール誘導体(例えば、4-(4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-5-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)フェノール、4-(4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-5-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-N-メチル-ベンズアミド、4-(4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-5-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-N-メトキシ-ベンズアミド、2-{4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-[4-(2H-テトラゾール-5-イル)-フェニル]-1H-イミダゾール-5-イル}-ピリジン、[4-(4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-5-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-フェノキシ]-酢酸等)等が挙げられる。 3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドは、例えば商品名StemoleculeTMA83-01(Stemgent社製)(以下、「A83-01」と称する)として市販されている。3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドは、例えば培地に対して0.1〜10μM、好ましくは1〜5μMの濃度で添加する。 また、2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジンは、例えば商品名Repsox(Sigma-Aldrich社製)(以下、「Repsox」と称する)として市販されている。2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジンは、例えば培地に対して0.1〜100μM、好ましくは1〜5μMの濃度で添加する。 一方、Rock阻害剤とは、Rho-associated coiled-coilキナーゼに対して阻害作用を有する化合物を意味する。Rock阻害剤としては、Rho-associated coiled-coilキナーゼに対して阻害作用を有する化合物であればいずれのものであってよいが、4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニル-トランス-シクロヘキサンカルボキサミド、(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン又はそれらの塩、ヘキサヒドロ-1-[(5-イソキノリル)スルホニル]-1H-1,4-ジアゼピン(Fasudil)(特許文献1)、EMD Chemicals社から市販されているN-(4-ピリジル)-N'-(2,4,6-トリクロロフェニル)ウレア(Cat. No. 555551)、3-(4-ピリジル)-1H-インドール(Cat. No. 555553)、(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン2塩酸塩(Cat. No. 555550)、4-((1R)-1-アミノエチル)-N-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イルベンズアミド2塩酸塩・2水和物(Cat. No. 555561)及び1-(1-ヒドロキシ-5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン塩酸塩(Cat. No. 390602)、チアゾビビン、N-(4-1H-ピラゾール-4-イル)-2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-2-カルボキサミン、AR-12286、アミド誘導体(特表2009-506979号公報)、置換チアゾール及びチオフェン誘導体(特表2006-514684号公報)、アミノトリアゾール化合物(特表2007-501257号公報)並びにジアミノトリアゾール(特表2006-515313号公報)等が挙げられる。 4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニル-トランス-シクロヘキサンカルボキサミドの塩としては、例えば2塩酸塩が挙げられ、当該2塩酸塩は、例えば商品名Y-27632(hydrochloride)(Cayman Chemical社製)(以下、「Y-27632」と称する)として市販されている。4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニル-トランス-シクロヘキサンカルボキサミド又はその塩は、例えば培地に対して1〜100μM、好ましくは10〜50μMの濃度で添加する。 また、(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジンの塩としては、例えば2塩酸塩が挙げられ、当該2塩酸塩は、例えば商品名H-1152(Calbiochem社製)(以下、「H-1152」と称する)として市販されている。(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン又はその塩は、例えば培地に対して0.005〜100μM、好ましくは0.1〜10μMの濃度で添加する。 さらに、第1方法に使用する培地は、3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含有することが好ましい。3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩の添加により、毛包幹細胞の増殖をさらに約20%増加させることができる。3,3',5-トリヨード-L-チロニンの塩としては、例えばナトリウム塩が挙げられ、当該ナトリウム塩は、例えばMP Biomedicals社等から市販されている(以下、「T3」と称する)。3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩は、例えば培地に対して1〜100pM、好ましくは1〜10pMの濃度で添加する。 一方、培地としては、例えば上皮細胞培養用培地が挙げられ、特にインスリン、ヒドロコルチゾン及び上皮増殖因子のうち少なくとも1成分を含有する上皮細胞培養用培地が挙げられる。インスリン、ヒドロコルチゾン及び上皮増殖因子を含む上皮細胞培養用培地が、例えばCnT-07 medium(CellnTEC Advanced Cell System社製)として市販されており、第1方法における培地として使用することができる。 第1方法では、培養を細胞外基質(Extracellular Matrix:以下、「ECM」と称する)でコーティングした容器中で行うことが好ましい。ECMでコーティングした容器は、平底培養プレート等の容器にECMを塗布することで作製することができる。ECMは、細胞増殖を促進する三次元環境を提供する。本方法で使用するECMとしては、例えばコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、エラスチン、プロテオグリカン及びグリコサミノグリカンのうち1以上の成分を含むECMが挙げられる。このようなECMは、市販のものであってよく、例えばコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、エラスチン、プロテオグリカン及びグリコサミノグリカンを含むMaxGelTMECM Matrix(Sigma-Aldrich社製)やラミニン、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びエンタクチン/ニドジェンを含むBD MatrigelTM基底膜マトリックス等が挙げられる。 第1方法では、例えばECMをコーティングした24穴平底プレートの穴にコラーゲンゲルを載せ、当該ゲルが固まらないうちに毛包を配置し、1時間程度培養した後、ALK5阻害剤とRock阻害剤(又はさらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩)とを添加した培地を添加し、培養する。培養温度としては、例えば35〜38℃、好ましくは37℃が挙げられる。適宜培養液を交換しながら、バルジ領域から細胞が増殖し、コンフルエンスとなった場合には、毛包細胞を回収し、継代を繰り返すことで、毛包幹細胞を増殖させることができる。 得られた毛包細胞が毛包幹細胞であるか否かの確認は、例えば当該毛包細胞における毛包幹細胞のマーカーであるCD200やサイトケラチン15(K-15)の発現(非特許文献2)をこれらタンパク質に対する抗体を用いた免疫学的手法(例えば、フローサイトメトリー、免疫染色等)によって確認することで行うことができる。 得られた毛包細胞はそのまま毛包幹細胞として使用してもよく、あるいは例えばCD200の発現を指標として、当該タンパク質に対する抗体を用いるフローサイトメトリーや磁気ビーズに基づく細胞分離による分取により、培養した毛包細胞から毛包幹細胞(すなわち、CD200陽性細胞)を単離(分離)することもできる。 このようにして得られた毛包幹細胞は、線維芽細胞及び毛乳頭細胞と共に発毛が望まれる皮膚(例えば、頭皮、眉)に移植することで発毛を促進することができる。移植した毛包幹細胞が毛母細胞となり、角質化し、毛を形成するか否かの確認は、例えば移植した毛包幹細胞における毛根マーカーであるサイトケラチン7/17(M. Kevin, et al., J. Invest. Dermatol., 2000年, Vol. 114, pp. 1101-1107)の発現を当該タンパク質に対する抗体を用いた免疫学的手法(例えば、フローサイトメトリー、免疫染色等)によって確認することで行うことができる。 また、得られた毛包幹細胞を分化させることで、神経細胞又は平滑筋細胞として、神経又は平滑筋の再生に利用できる。毛包幹細胞から神経細胞又は平滑筋細胞への分化誘導は、例えば毛包幹細胞を神経細胞培地あるいは平滑筋細胞培地にて培養することによって行うことができる(Hong, Y. et al., Am. J. Pathol., 2006年, Vol. 168, pp. 1879-1888;Amoh, Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2005年, Vol. 102, pp. 5530-5534)。 第1方法では、培養し、増殖させた毛包細胞のうち約90%が毛包幹細胞である。一方、残りの約10%は、皮膚幹細胞である。皮膚幹細胞は、皮膚組織を形成する幹細胞である。第1方法では、皮膚幹細胞のマーカーであるLgr5(leucine-rich repeat-containing G-protein-coupled receptor 5)(Snippert, H.J. et al., Science, 2010年, Vol. 327, pp. 1385-1389;Barker, N. et al., Gastroenterol., 2010年, Vol. 138, pp. 1681-1696)の発現を指標として当該タンパク質に対する抗体を用いるフローサイトメトリーや磁気ビーズに基づく細胞分離による分取により、培養した毛包細胞から皮膚幹細胞(すなわち、Lgr5陽性細胞)を単離(分離)することもできる。得られた皮膚幹細胞は、皮膚再生等に使用することができる。 また、本発明に係る毛包幹細胞の培養方法は、第1方法、公知の方法等で得られた毛包幹細胞を、トポイソメラーゼII阻害剤を含む培地において培養し(第1工程)、さらにALK5阻害剤とTGF-β阻害剤とを含む培地において培養すること(第2工程)を含む(以下、「第2方法」と称する)。第2方法によれば、毛包幹細胞をさらに増殖させることができる。 第2方法の第1工程で使用する培地は、トポイソメラーゼII阻害剤を添加した培地である。 ここで、トポイソメラーゼII阻害剤とは、トポイソメラーゼIIに対して阻害作用を有する化合物を意味する。トポイソメラーゼII阻害剤としては、トポイソメラーゼIIに対して阻害作用を有する化合物であればいずれのものであってよいが、例えばアウリントリカルボン酸、3,3',4,4',5',7-ヘキサヒドロ-2-フェニル-4H-クロメン-4-オン、4,4-(2,3-ブタンジイル)-ビス(2,6-ピペラジンジオン)、スベリプテノンF、γ-マンゴスチン、パリドール、ミヤベノールA、ミヤベノールC、α-ビニフェリン、ε-ビニフェリン、アンペロプシンC、アロペクロンA、アロペクロンD、アロペクロンC、ソフォラフラバノンH、ソフォラフラバノンI、ゲニステイン、セラストロール、7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン、イリノテカン塩酸塩・3水和物、エリプチシン、アンサクリン、エトポシド、ダウノルビシン、ミトキサントロン2塩酸塩、フォストリエシン、(E)-N,N-ジメチル-2-(キノリン-2-イルメチレン)ヒドラジンカルボチオアミド、テニポシド、ドキソルビシン塩酸塩、ポドフィロトキシン、ピラルビシン等が挙げられる。アウリントリカルボン酸は、例えばCalbiochem社より市販されている。3,3',4,4',5',7-ヘキサヒドロ-2-フェニル-4H-クロメン-4-オンは、例えば商品名ミリセチン(Cayman chemical社製)(以下、「myricetin」と称する)として市販されている。トポイソメラーゼII阻害剤は、例えば培地に対して0.001〜10mM、好ましくは0.5〜2mMの濃度で添加する。 第2方法の第1工程で使用する培地としては、例えば第1方法における培地と同様に上皮細胞培養用培地が挙げられる。 一方、第2方法の第2工程で使用する培地は、ALK5阻害剤とTGF-β阻害剤とを添加した培地である。 ここで、TGF-β阻害剤とは、TGF-βに対して阻害作用を有する化合物を意味する。TGF-β阻害剤としては、TGF-βに対して阻害作用を有する化合物であればいずれのものであってよいが、例えば1,1-ジメチルビグアニド又はその塩、SB-431542、SIS3、ナリンゲニン、ロキシスロマイシン、5-アミノサリチル酸、インターフェロン-α、インターフェロン-γ、LY2157299、CAT-192、GC-1008、チアゾール誘導体(特表2004-524302号公報及び特表2004-521903号公報)、ピリジルアクリル酸アミド誘導体(WO99/05109)等が挙げられる。1,1-ジメチルビグアニドの塩としては例えば塩酸塩が挙げられ、当該塩酸塩は、商品名メトホルミン(Enzo Life Sciences International社製)(以下、「metformin」と称する)として市販されている。metforminは、糖尿薬として使用され、TGF-β mRNAの発現抑制とTGF-β−Smad3シグナル伝達経路の阻害剤として機能することが知られている(Sasaki et al., Circulation, 2009年, Vol. 119, pp. 2568-2577;Xiao H. et al., Cardiovasc Res., 2010年, Vol. 87, pp. 504-513)。 第2方法の第2工程における培地へのALK5阻害剤の添加濃度は、第1方法における培地への添加濃度と同様であってよい。また、TGF-β阻害剤は、例えば培地に対して0.1〜100μM、好ましくは1〜5μMで添加する。 また、第2方法の第2工程で使用する培地としては、例えばhESF-GRO培地(細胞科学研究所製)等のES細胞増殖用培地が挙げられる。 第2方法における培養は、第1方法における培養と同様にECMでコーティングした容器中で行うことが好ましい。 第2方法の第1工程では、例えばECMをコーティングした24穴平底プレートの穴に毛包幹細胞とトポイソメラーゼII阻害剤を添加した培地とを添加し、培養する。培養温度としては、例えば35〜38℃、好ましくは37℃が挙げられる。培養時間としては、例えば6〜24時間、好ましくは6〜12時間が挙げられる。 第1工程後、培地をALK5阻害剤とTGF-β阻害剤とを添加した培地に培地交換し、第2工程の培養を行う。培養温度としては、例えば35〜38℃、好ましくは37℃が挙げられる。培養時間としては、例えば10〜20日間、好ましくは10〜12日間が挙げられる。 第2方法では、第2工程後に、第2工程に使用したES細胞増殖用培地のみに培地交換し、さらに培養を行うことができる。 第2方法によれば、約100%がCD200及びK-15陽性である毛包幹細胞を得ることができる。また、高い増殖能を示す毛包幹細胞のコロニーを取出し、クローン化することもできる。 一方、本発明は、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む毛包幹細胞培養用組成物に関する。当該毛包幹細胞培養用組成物は、さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含むことができる。当該毛包幹細胞培養用組成物は、上述の第1方法における培地に添加すべき組成物として使用することができる。本発明に係る毛包幹細胞培養用組成物におけるALK5阻害剤、Rock阻害剤及び3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩の濃度は、上述の第1方法において培地へ添加する際の濃度に準じたものとすることができる。 また、本発明は、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む毛包幹細胞培養用キットに関する。当該毛包幹細胞培養用キットは、さらに上述の3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩、トポイソメラーゼII阻害剤、TGF-β阻害剤、上皮細胞培養用培地、ES細胞増殖用培地、及び細胞外基質でコーティングした容器を含むことができる。あるいは、細胞外基質と容器とを、使用の際に細胞外基質を容器にコーティングするように別々に提供してもよい。本発明に係る毛包幹細胞培養用キットにおいては、各成分を別々に提供しても、あるいは一緒に混合し、提供してもよい。さらに、本発明に係る毛包幹細胞培養用キットは、使用取り扱い説明書等を含むことができる。 さらに、本発明は、ALK5阻害剤及びRock阻害剤の組み合わせによる毛包幹細胞増殖作用に起因して、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを有効成分として含有する発毛剤に関する。当該発毛剤は、さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含有することができる。ALK5阻害剤、Rock阻害剤及び3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩の含有量は、上記第1方法における培地への添加濃度を基準として適宜決定することができる。 本発明に係る発毛剤は、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、毛生促進又は発毛促進に用いることができる。本発明に係る発毛剤は頭皮等に経皮投与することが好ましい。 また、例えば溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等の担体を本発明に係る発毛剤に含有させてもよい。さらに必要に応じて、通常の防腐剤、抗酸化剤、吸着剤、香料等の添加物を適宜含有してもよい。 さらに、本発明に係る発毛剤の剤形としては、例えばローション、軟膏、クリーム、スプレー、外用液剤、テープ剤、エアゾール、シャンプー、ダスティングパウダー等の外用剤が挙げられる。 本発明に係る発毛剤の投与量は、年齢、体重又は症状に応じて適宜決定でき、上記薬理作用が発揮でき、且つ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。〔実施例1〕ヒト毛包幹細胞の培養方法 男性65才の顔面髭の部分を70%アルコールにて消毒した後、眼科鑷子にて抜毛した。抜毛をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて2回洗い、実体顕微鏡にて成長期の毛包を選択した。 一方、予め24穴平底プレート(イワキ社製)にMaxGelTMECM Matrix(Sigma-Aldrich社製)(Dulbecco's modified Eagle's medium(DMEM)にて100倍希釈)を用いてコーティングした穴に20μlのI型コラーゲンゲル(Cellmatrix: 新田ゼラチン社製)を載せ、ゲルが固まらないよう4℃にて保ち、そのゲル内に選択した毛包を置き、5%炭酸ガス存在下37℃で1時間培養した。 1時間の培養後、培養物に0.5mlのCnT-07 medium(CellnTEC Advanced Cell System社製)を加え、さらに1μMのA83-01(Stemgent社製)、10μMのY-27632(Cayman Chemical社製)及び10pMの3,3',5-triiodo-L-thyronine,sodium salt(T3)(MP Biomedicals社製)を添加して、炭酸ガス培養器内にて培養した。隔日ごとに培養液を交換し、培養開始5〜7日後にバルジ部分から細胞が増殖し始め、約2週間でコンフルエンスとなった。 コンフルエンス後、培養液を除き、PBSにて1回洗浄した後、接着細胞剥離液のTrypLE Select(Invitrogen社製)を0.3ml加え、37℃で約5分間反応させた。反応後、0.5mlの培養液を加え、毛包細胞を集め、細胞低吸着性15ml用遠心管(ステムフル:住友ベークライト社製)に移し、100 x gで3分間遠心分離した。 遠心分離後、上清を捨て、2mlのCnT-07培養液を加え、ECM matrix(MaxGelTMECM Matrix)にてコーティングした6穴プレート(イワキ社製)に播種し、上記と同一濃度のA83-01、Y-27632及びT3を添加し、培養した。隔日に培養液を交換し、コンフルエンスになると、TrypLE Select液にて細胞を剥離し、遠心分離後、3mlの培養液に浮遊し、6穴プレートの全てに播種し、同量の3種類の添加物を加えて培養した。同様の操作を行い、コンフルエンスになると、2枚の6穴プレートへ移し、さらに4枚の6穴プレートに順次増やして培養を行った。その増殖動態は図1に示す。図1において、縦軸は毛包幹細胞数を示し、且つ横軸は培養日数を示す。培養日数0日目においては毛包であるため、便宜上、毛包幹細胞数を「0」として表示した。〔実施例2〕ヒト毛包幹細胞の免疫染色 実施例1に記載の方法にて24穴プレートにおいて増殖させた毛包細胞の上清を捨て、毛包細胞をPBS溶液にて20分間固定した。固定後、固定液を捨て、PBS溶液にて2回洗浄した後、2%過酸化水素含有PBS液を加え、10分間反応させた。 反応後、PBS溶液で3回の洗浄を行い、serum blocking solution(Invitrogen社製)を0.3ml加え、室温にて10分間反応させた後、PBS溶液で3回洗浄した。 次いで、ヒト毛包幹細胞のマーカーであるCD200及びcytokeratin 15(K-15)並びに皮膚幹細胞のマーカーであるcytokeratin 19(K-19)(M. Michel, et al., J. Cell Science, 1996年, Vol. 109, pp. 1017-1028)に対する抗体を用いて免疫染色を行った。抗ヒトCD200抗体(MBL社製)を0.3ml(50倍希釈)加え、あるいはマウスモノクローナル抗K-15抗体(NeoMarkers社製)を0.3ml(50倍希釈)加え、あるいはマウスモノクローナル抗ヒトK-19抗体(DAKO Cytomation社製)を0.3ml(50倍希釈)添加し、室温にて1時間反応させた。 反応後、PBS溶液にて3回の洗浄を行い、ビオチン標識2次抗体(Histostain-Plus Kit, Invitrogen社製)を0.3ml加え、室温にて30分間反応させた後、PBS溶液で3回洗浄し、streptavidin-peroxidase液(Invitrogen社製)を0.3ml加え、10分間反応させた。 次いで、PBS溶液にて3回の洗浄を行い、シンプルステインAEC溶液(ニチレイバイオサイエンス社製)を0.3ml添加し、常温で5〜10分間反応した。 免疫染色の結果を図2〜4に示す。図2は、毛包細胞のCD200に対する免疫染色の写真である。図2において、(A)の写真は、無染色の毛包細胞の写真であり、(B)の写真は、毛包細胞のCD200に対する免疫染色の写真である。図3は、毛包細胞のK-15に対する免疫染色の写真である。図3において、(A)の写真は、毛包細胞のK-15に対する免疫染色の写真であり、(B)の写真は、バルジ領域から毛包細胞が増殖している写真である。図4は、毛包細胞のK-19に対する免疫染色の写真である。 図2〜4に示すように、毛包細胞において、CD200及びK-15陽性細胞は約90%であり、K-19陽性細胞は約10%であった。〔実施例3〕ヒト毛包幹細胞培養においてY-27632、A83-01又はT3の単剤を添加した場合、及びA83-01に替えてRepSox又はY-27632に替えてH-1152を添加した場合の影響 実施例1において3継代した6穴プレートより毛包幹細胞を24穴プレートに5000個/穴の細胞濃度にして移し、Y-27632を100、10、1μMの濃度にて、A83-01を5、1μMの濃度にて、又はT3を10pMの濃度にて、それぞれ単独で添加して培養した。 また、A83-01を同様のALK5阻害剤であるRepSox(25μM)に替えてY-27632及びT3と共に添加して、あるいはY-27632を同様のRock阻害剤であるH-1152(1μM)に替えてA83-01及びT3と共に添加して、毛包幹細胞を培養した。 さらに、陽性コントロールとして、毛包幹細胞にA83-01(1μM)、Y-27632(10μM)及びT3(10pM)を添加して培養した。実施例1に記載の方法に準じて、隔日ごとに、培養液と添加剤を交換して、8日目に、実施例2に記載の方法に準じてCD200に対する免疫染色を行った。その結果を表1に示す。 表1に示すように、Y-27632、A83-01及びT3のそれぞれの単剤添加では、CD200陽性細胞は約9〜60%であり、毛包幹細胞の多くが分化していた。 一方、表1に示すように、A83-01を同様のALK5阻害剤であるRepSoxに替えてY-27632及びT3と共に添加して、あるいはY-27632を同様のRock阻害剤であるH-1152に替えてA83-01及びT3と共に添加して毛包幹細胞を培養しても、実施例1で使用した3種の化合物の混合(陽性コントロール)と変わりなく、未分化にて同様の増殖が得られた。〔実施例4〕ヒト毛包幹細胞のヌードマウス皮下移植 実施例1に記載の方法に準じて培養されたヒト毛包幹細胞、ヒト線維芽細胞株(TIG-119、JCRB)及びヒト毛乳頭細胞(HFDPC、東洋紡)をそれぞれ106個調製し、これら細胞に、DMEM培養液(Wako)に溶解したPKH-26-Red(Sigma)を添加し、細胞を蛍光ラベルした。 蛍光ラベル後、細胞を培養液で洗浄し、60μlのPBSに再懸濁し、BALB/cヌードマウス(日本SLC、メス、17週齢)の腹側部に皮下移植した。移植2週間後に皮下組織を回収し、4%PFAで固定した後、20%スクロース置換を行い、凍結ブロックを作製した。 次いで、凍結ブロックより凍結切片を作製し、良く風乾させた。乾燥後、凍結切片を蒸留水に10分浸し、その後、マイヤーヘマトキシリン液に5分間浸漬し、水洗した。さらに、凍結切片をエオシン液に5分間浸漬し、水洗した。水洗後、凍結切片を水溶性マリノールにて封入し、乾燥後、顕微鏡にて観察を行った。 また、凍結切片を良く風乾した後、PBSで2回洗浄し、0.2% Triton X-100-PBSで15分間処理した(室温)。処理液を除去し、凍結切片をPBSで2回洗浄した後、5% normal goat serum(NGS)-PBSでブロッキングを行った(室温、1時間)。 ブロッキング液を除去した後、凍結切片をPBSで2回洗浄し、ヒト毛根マーカーであるCytokeratin 7/17に対する1次抗体を加え(50倍希釈、anti-Cytokeratin 7/17, BioLegend社)、室温で1時間反応させた。反応後、抗体液を除去し、凍結切片をPBSで2回洗浄した後、2次抗体を加え(200倍希釈、Goat anti-mouse IgG conjugated Alexa 488, Invitrogen)、室温で45分反応させた。 反応後、抗体液を除去し、凍結切片をPBSで2回洗浄した後、DAPI(5000倍希釈、Dojin)を加え、室温で5分間反応させた。反応後、DAPI液を除去し、凍結切片をPBSで2回洗浄した後、水溶性封入剤を用いてマウントした。 次いで、カールツァイス蛍光顕微鏡システム(Aiovert 40 CFL)を用いてDAPI(青色蛍光)、Alexa 488(緑色蛍光)、PKH-26-Red(赤色蛍光)の蛍光を検出し、観察及び撮影を行った。 結果を図5に示す。図5において、(A)の写真は、マイヤーヘマトキシリン及びエオシンによる凍結切片の染色を示す写真であり、(B)の写真は、(A)の写真の拡大写真であり、(C)の写真は、DAPIによる凍結切片の核染色を示す写真であり、(D)の写真は、凍結切片のCytokeratin 7/17に対する免疫染色の写真であり、(E)の写真は、PKH-26-Redによる凍結切片の染色を示す写真であり、(F)の写真は、凍結切片におけるCytokeratin 7/17に対する免疫染色とPKH-26-Redによる染色とのオーバーレイを示す写真である。 図5に示すように、移植したPKH-26-Redによりラベルさせたヒト毛包幹細胞がヒト毛根マーカーであるcytokeratin7/17で染色されており、且つ、その領域にはHE染色では毛根断面像が見られた。〔実施例5〕ヒト毛包幹細胞の高増殖化とクローン化 実施例1にて増殖したヒト毛包幹細胞を、ECM Matrix(MaxGelTMECM Matrix)又はBDマトリゲル基底膜マトリックスにてコーティングした96穴プレートに5000個/0.2ml CnT-07培地の細胞密度にて移し、1mM aurintricarboxylic acid(Calbiochem社製)又は1mM myricetin(Cayman chemical社製)を添加し、培養した。 培養12時間後、培地をhESF-GRO培地(細胞科学研究所製)に替えて、1μM A83-01と1μM metformin(Enzo Life Sciences International社製)を加え、隔日にhESF-GRO培地交換とA83-01及びmetforminの添加を行い、培養を行った。培養から10〜14日目に小型細胞が増殖し始め、十分に増殖した後、細胞を24穴プレートに移し、培養を行った。 24穴プレートに移した後、hESF-GRO培地のみで高い増殖(培養開始9日目で約40倍の細胞の増殖)を示した(図6)。 また、この高い増殖性を有する細胞は、実施例2に記載の方法と同様の免疫染色により100%でCD200及びcytokeratin-15陽性であった(図7及び8)。それ故、この高増殖性細胞は毛包幹細胞と考えられた。さらに、顕微鏡下にてガラスピペットを用いて、高い増殖を示すコロニーを取出し、クローン化し得た。 毛包を、ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む培地において培養する工程を含む、毛包幹細胞の培養方法。 培地がさらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、請求項1記載の方法。 培養後、毛包幹細胞を単離する工程を含む、請求項1又は2記載の方法。 CD200の発現を指標に毛包幹細胞を単離する、請求項3記載の方法。 請求項1〜4のいずれか1項記載の方法において、培養後、皮膚幹細胞を単離する工程を含む、皮膚幹細胞の培養方法。 Lgr5の発現を指標に皮膚幹細胞を単離する、請求項5記載の方法。 毛包幹細胞を、トポイソメラーゼII阻害剤を含む培地において培養する第1工程と、 毛包幹細胞を、ALK5阻害剤とTGF-β阻害剤とを含む培地において培養する第2工程と、を含む、毛包幹細胞の培養方法。 毛包幹細胞が、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により得られた毛包幹細胞である、請求項7記載の方法。 ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む、毛包幹細胞培養用組成物。 さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、請求項9記載の毛包幹細胞培養用組成物。 ALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む、毛包幹細胞培養用キット。 さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、請求項11記載の毛包幹細胞培養用キット。 さらにトポイソメラーゼII阻害剤及びTGF-β阻害剤を含む、請求項11又は12記載の毛包幹細胞培養用キット。 ALK5阻害剤とRock阻害剤とを有効成分として含有する発毛剤。 さらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含む、請求項14記載の発毛剤。 【課題】毛包幹細胞を大量に増殖させることができる培養方法を提供する。【解決手段】毛包幹細胞を、トポイソメラーゼII阻害剤を含む培地において培養する第1工程と、毛包幹細胞を、ALK5阻害剤とTGF-β阻害剤とを含む培地において培養する第2工程と、を含む、毛包幹細胞の培養方法。培地がさらに3,3',5-トリヨード-L-チロニン又はその塩を含み、培養後、皮膚幹細胞を単離する工程を含む、皮膚幹細胞の培養方法。更にALK5阻害剤とRock阻害剤とを含む、毛包幹細胞培養用組成物。及びALK5阻害剤とRock阻害剤とを有効成分として含有する発毛剤にも関する。【選択図】なし