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タイトル:再公表特許(A1)_ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤,気道損傷部の組織肥厚抑制剤
出願番号:2011078040
年次:2014
IPC分類:A61K 31/7016,A61P 17/02,A61P 11/00


特許情報キャッシュ

佐々木 伸雄 鄭 雄一 鈴木 茂樹 JP WO2012077622 20120614 JP2011078040 20111205 ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤,気道損傷部の組織肥厚抑制剤 株式会社ネクスト21 301032160 国立大学法人 東京大学 504137912 白坂 一 100161322 佐々木 伸雄 鄭 雄一 鈴木 茂樹 JP 2010273379 20101208 A61K 31/7016 20060101AFI20140422BHJP A61P 17/02 20060101ALI20140422BHJP A61P 11/00 20060101ALI20140422BHJP JPA61K31/7016A61P17/02A61P11/00 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN 再公表特許(A1) 20140519 2012547840 16 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA01 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA59 4C086ZA89 本発明は,トレハロース又はトレハロースの誘導体を含有するケロイド又は肥厚性瘢痕の予防・治療剤などに関する。 創傷や組織損傷によって,血液凝固カスケードが活性化し,炎症反応が昂進する。その後,繊維芽細胞によって組織再生の土台となる肉芽形成が行われ,アクチンフィラメントに富む筋繊維芽細胞により創傷の最終的な修復がなされる。このとき,創部の大きさ,体質,感染などの影響によって,肥厚性瘢痕やケロイドが生じる。ケロイド及び肥厚性瘢痕は,外傷・熱傷・手術等の創傷後に形成される瘢痕である。 ケロイド,肥厚性瘢痕治療薬として,トラニラスト(商品名「リザベン(登録商標)」)が知られている。しかしながら,トラニラストは,副作用として出血性膀胱炎様症状を惹起することがある。 また,保湿クリームや保湿剤がケロイドの治療に有効であるとされている(特許文献1)。しかしながら,保湿クリームや保湿剤によるケロイドの治療効果はそれほど強力ではない。 エリスロポエチン拮抗物質もケロイド,肥厚性瘢痕の形成抑制に効果があるとされている(例えば,特許文献2を参照)。しかしながら,エリスロポエチン拮抗物質はタンパク製剤であり,取り扱いが困難である。 瘢痕形成や組織の線維化は,損傷組織の病理的修復の結果であり,その過程において,損傷部位や線維細胞の異常な増殖およびコラ−ゲンの大量合成や沈着が見られる。この修復過程においてトランスフォ−ミング成長因子(TGF−β)は重要な役割を果たしている(例えば,特許文献3,特許文献4,特許文献5を参照)。すなわち,肥厚性瘢痕やケロイドが生じる上で重要な働きをするものは,TGF−β及びMAPカイネースパスウェイによる炎症性サイトカイン産生の上昇(非特許文献1)である。 このような観点からTGF−βの阻害剤を用いたケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤が提案されている(特許文献6を参照)。 また,肥厚性瘢痕やケロイドが生じる上で重要な働きをするものとして,TNF−αによるNF-κBの活性化 (非特許文献2)があげられる。また,近年,外傷などによって生じる細胞死に伴う無菌性炎症反応に,IL−1α及びIL−1βが関わっているという報告がある (非特許文献3及び非特許文献4) さらに,PPARγのアゴニストを用いたケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤も提案されている(特許文献7を参照)。 一方,医療用樹脂製製品は広く知られており,様々な医療現場で用いられている。しかし,特に塩化ビニル製の医療用樹脂製製品を使用すると原因不明の炎症を惹起するなどの問題がある。医療用樹脂製製品の例は,呼吸補助チューブである。 従来,呼吸補助チューブは,手術の際に広く使用されている。例えば,特開2003−102827号(特許文献8)には,熱可塑性材料で製造された気管チューブが開示されている。特開2003−102827号に開示された気管チューブは,反撥性が小さい。このため,気管内チューブを気管に挿入した際に生ずる痛みを抑えることができる。 しかし,呼吸補助チューブは,組織粘膜との接着性が高い。このため,呼吸補助チューブを取り外すとき,呼吸補助チューブが接着していた組織表面の細胞がはがれてしまう。痰の喀出困難や,呼吸補助チューブ使用後に,気管組織への炎症が生じるという問題がある。 また,呼吸補助チューブを取り外すときに気管壁の細胞に加え,繊毛が剥離してしまう。これにより,患者は痰を排出することができなくなる。そして,痰が肺に逆流することで,肺炎を惹き起こすという問題もあった。 さらには,気道に損傷が生ずると,気道損傷部の組織が肥厚化し,その結果気道を閉塞するという問題もあった。特開平7−149627号公報特開2002−326958号公報特表2003−509030号公報特表2000−500643号公報特表平08−504577号公報特開2007−084446号公報特開2009−096805号公報特開2003−102827Slemp AE and Kirschner RE (2006) Curr Opin Pediatr 18:396−402.Messadi DV et al. (2004) ArchDermatol Res 296:125-133.Chen CJ et al. (2007) Nat Med13:851−856.Lyer SS (2009) Proc Natl AcadSci USA 106:20388-20393. 本発明は,過剰な肉芽形成を防止するための治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。本発明は,副作用が少なく,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。 本発明は,副作用が少なく,有効な気道損傷部の組織肥厚抑制剤を提供することを目的とする。 本発明は,基本的には,トレハロース又はトレハロースの誘導体を含有した薬剤を用いることで,過剰な肉芽形成を防止でき,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤や気道損傷部の組織肥厚抑制剤を提供できるという知見に基づく。 本発明の第一の側面は,トレハロース又はトレハロースの誘導体を有効成分として含有するケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤に関する。後述する実施例により示された通り,トレハロース又はトレハロースの誘導体は,過剰な肉芽形成を防止できるので,トレハロース又はトレハロースの誘導体を有効成分として有効量含む剤は,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療又は予防に有効である。 また,この剤は,施術後の施術部に投与される剤であることが好ましい。この剤の剤型の例は,液剤である。液剤として噴霧剤が好ましい。 本発明の第二の側面は,トレハロース又はトレハロースの誘導体を有効成分として含有する気道損傷部の組織肥厚抑制剤に関する。後述する実施例により示された通り,トレハロース又はトレハロースの誘導体は,過剰な肉芽形成を防止できるので,本発明の剤は,気道損傷部の組織肥厚抑制剤として有効である。この剤は,気道損傷部の組織が肥厚することによる気道閉塞を防止するための剤としても利用されうる。 後述する実施例により実証されたとおり,有効成分としてトレハロース又はトレハロースの誘導体を含有する本発明の薬剤は,過剰な肉芽形成を防止できるので,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療及び予防に有効であった。よって,本発明によれば,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤を提供できる。 有効成分としてトレハロース又はトレハロースの誘導体を含有する本発明の薬剤は,副作用が少なく,有効な気道損傷部の組織が肥厚することを有効に防止する。図1は,TGF−β1の産生量を示すグラフである。図2は,TNF−αの産生量を示すグラフである。図3は,IL−1αの産生量を示すグラフである。図4は,PGE2の産生量を示すグラフである。図5は,TNF−αの産生量を示すグラフである。 先に説明したとおり,本発明の第1の側面は,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤に関する。この発明のケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤は,トレハロース又はトレハロースの誘導体を有効成分として有効量含むことで,過剰な肉芽形成を防止し,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤として有効であるというものである。 ケロイド又は肥厚性瘢痕の予防剤はケロイド又は肥厚性瘢痕が生じる事態を予防するための薬剤である。本発明のケロイド又は肥厚性瘢痕の予防剤は,たとえば整形外科,形成外科,外科の手術や,乳腺外科の切開線のマーキング,瘻孔の確認,褥瘡に用いられる。ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤は,すでに生じてしまった患者のケロイド又は肥厚性瘢痕を治療するために用いられる。 ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤には,有効成分であるトレハロース又はトレハロースの誘導体のみならず,麻酔作用を有する薬剤や,炎症を防止する薬剤等が添加されていてもよい。 トレハロース誘導体の例は,α−グルコシルトレハロース,α−マルトシルトレハロース,α−マルトトリオシルトレハロース,α−マルトテトラオシルトレハロース及びα−マルトペンタオシルトレハロースである。これらの中では,α−マルトシルトレハロースが好ましい。 麻酔作用を有する薬剤の例は,コカイン,プロカイン,クロロプロカイン,テトラカイン,リドカイン,メピバカイン,プロピトカイン,ブピバカイン,ジプカイン,エチルアルコール,キシロカインである。また,炎症を防止する薬剤の例は,ステロイド性抗炎症剤(たとえば,ヒドロコルチゾン),又は非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)である。ここで,非ステロイド性抗炎症剤は,NSAIDsとトレハロースとが分子間化合物を形成したものが好ましい。NSAIDsの例は,インドメタシン,イブプロフェン,アスピリン,ジクロフェナクナトリウム,メフェナム酸,ピロキシカム,フェルビナク,ロキソプロフェン,ケトプロフェン,フルルビブロフェン,サリチル酸グリコール,グリチルレチン酸,ロキソニン,スプロフェン,ブフェキサマク,ウフェナマート,5−アミノサルチル酸,ナプロキセン,ブフェキサマク,グリチルレチン酸,カルベノキソロン及びこれらの誘導体である。ステロイド性抗炎症剤の例は,ヒドロコルチゾン,酢酸ヒドロコルチゾン,酪酸ヒドロコルチゾン,デキサメタゾン,酢酸デキサメタゾン,プレドニゾロン,酢酸プレドニゾロン,吉草酸酢酸プレドニゾロン,トリアムシノロンアセトニド,フルオシノロンアセトニド,吉草酸ベタメタゾン,プロピオン酸ベクロメタゾン及びこれらの誘導体である。ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤には,オピオイドが含まれていてもよい。オピオイドの例は,硫酸モルヒネ,塩酸モルヒネ,塩酸オキシコドン,フェンタニル,コデイン,塩酸ペンタゾシン,及びブプレノルフィン塩酸塩である。 ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤には,細菌感染を防止するために,抗生物質や抗菌剤が添加されていてもよい。抗生物質の例は,ペニシリン系薬剤,セフェム系薬剤,カルバペネム系薬剤,テトラサイクリン系薬剤,及びアミノグリコシド系薬剤である。抗菌剤の例は,ポリリジン,2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンズイミダゾール,ポリヘキサメチレンビグアニド及びグルクロン酸クロルヘキシジン,トリクロサン,ビス-(2-ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛,2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル,トリクロロカルバニリド,8-オキシキノリン,デヒドロ酢酸,安息香酸エステル類,クロロクレゾール類,クロロチモール,クロロフェン,ジクロロフェン,ブロモクロロフェン,ヘキサクロロフェンである。さらに,本発明の剤は,ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンを含んでもよい。 ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤の剤型の例は,塗布剤,噴霧剤,注射剤,注入剤,軟膏剤(含クリーム剤,ゲル剤),貼付剤である。ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤は,基剤中に,ホスファチジルコリン(レシチン),2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びヒアルロン酸のいずれか1つ以上含むものが好ましい。ホスファチジルコリン(レシチン)は,生体膜の主要成分である。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは,乾燥刺激から生体を守る成分として有効であり,特に軟膏基材やゲル材料として使用できる。ヒアルロン酸は,保湿成分として利用できる。 「塗布剤」とは,使用に際して対象部に液体を塗布するための剤である。「噴霧剤」とは,対象部に液体を噴霧することにより投与するための剤である。塗布又は噴霧に用いられるトレハロースの量は特に限定されない。トレハロースの使用量は,たとえば1g以上100g以下である。塗布剤及び噴霧剤は,トレハロースに公知の溶媒を混合することで製造できる。溶媒の例は,生理食塩水,蒸留水及び精製水である。 「注射剤」とは,皮膚内又は皮膚若しくは粘膜を通して体内に直接適用する医薬品の溶液,懸濁液,乳濁液または溶剤に溶解もしくは懸濁して用いる製剤であり,局所に適量の当該薬剤を付与することができる。適所に適量投与しうることから,たとえば,組織壊死作用を有する薬剤を含む場合であっても,組織壊死作用を最小限とすることができる。注射部位は腫瘍・ケロイド等部位に直接,又は腫瘍・ケロイド等の基底部等に注射することができる。なお,腫瘍基底部とは,腫瘍部と正常細胞部の境界領域を,ケロイド等の基底部とは,ケロイド等と正常細胞部の境界領域をいう。 注射剤を使用する場合にあっては,腫瘍部位への局所注射回数の例は,1日1回以上5回以下,又は1日以上10日以下に1回の割合である。また,1回当たりの局所注射剤量の例は0.1g以上10g以下,好ましくは0.1g以上1g以下である。 「注入剤」とは,皮膚内に直接適用する医薬品の溶液,懸濁液,乳濁液又は溶剤に溶解もしくは懸濁して用いる製剤であり,局所に当該薬剤を適切に投与しうる。腫瘍・ケロイド等治療剤を注入剤の形で,注入部位は腫瘍・ケロイド等部位に直接,又は腫瘍の基底部に注入することができる。 「軟膏剤」とは,適当な稠度の全質均等な半固形状の外用剤をいい,注入剤とは異なり,患部全体を覆い得ることから,患部の大小に係わらず対応することができる。軟膏剤は,脂肪,脂肪油,ラノリン,ワセリン,パラフィン,ろう,樹脂,プラスティック,グリコール類,高級アルコール,グリセリン,水,乳化剤,懸濁化剤,または他の適当な添加剤を原料とし,またはこれらを基材とし,トレハロースを加え,混和して全質を均等にしたものである。なお,軟膏剤には,保存剤,酸化防止剤,湿潤剤等が添加されていてもよい。また,軟膏の調剤法としては練合法,溶融法等があるが,そのいずれを用いるかは,基材により適合した方法が採られる。軟膏は,基材により油脂性,乳剤性,水溶性,懸濁性軟膏に分類されるが,これらのいずれであってもよい。なお,乳剤性基剤を用いた,水中油滴型(バニシングクリーム)・油中水滴型(コールドクリーム)はクリーム剤と称されるが,軟膏剤に含まれる。 軟膏剤にあっては,有効成分であるトレハロース以外にも,経皮吸収を促進させうる薬剤を添加してもよい。経皮吸収を促進させる薬剤としては,たとえば,ラウリル硫酸ナトリウム,ポリオキシエチレンエーテル等の界面活性剤,オレイルアルコール等のアルコール類,モノラウリン酸ソルビタン等のソルビタンエステル類等が挙げられるが,これらに制限されるものではなく,公知の経皮吸収促進剤が用いられる。また,麻酔剤や抗炎症剤,抗菌剤等が添加されていてもよい。 また,軟膏剤の使用方法は,単純に擦りこむ塗布法,ガーゼ又はリント布などに厚めにのばして貼り付ける貼付法,2種類以上の軟膏を重ねる重層法,病巣に軟膏を塗りその上をやや広めのプラスティックで覆い,周囲を絆創膏などで固定する密封包帯法などがあり,患部の状態に応じて使い分けられる。 「貼付剤」には,パップ剤やプラスター剤があり,簡便に使用することができる。また,貼付剤に用いられる薬剤としては,軟膏剤と同様の薬剤が使用される。特に,ケロイド及び肥厚性瘢痕の治療には,たとえばシリコンジェルシート,及びポリエチレンジェルシートが用いられており 医薬組成物 本発明の薬剤は,有効成分であるトレハロース又はトレハロースの誘導体と,1種又は2種以上の薬学的に許容される担体,賦形剤及び希釈剤と組み合わされて薬剤又は医薬的組成物とされうる。また,トレハロース以外に,上記した各併用剤を適宜含有してもよい。また,担体,賦形剤又は希釈剤としては,例えば,生理食塩水,水,乳糖,デキストロース,フラクトース,ショ糖,ソルビトール,マンニトール,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール,でんぷん,ガム,ゼラチン,アルギネート,ケイ酸カルシウム,リン酸カルシウム,セルロース,水シロップ,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,アルキルパラヒドロキシベンゾエート,タルク,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸,グリセリン,ゴマ油,オリーブ油,大豆油などの各種油があげられる。これらの中では,生理食塩水が好ましい。 本発明の薬剤は,有効成分として,セラミド類似の重合体を含んでも良い。この重合体は,セラミドと高い構造類似性を有する単量体を含む単量体原料を重合したものである。本発明の重合体は,式(1)で示されるグリセロール(メタ)アクリレート(以下,単量体M1とする)と,式(2)で示されるイソボルニル(メタ)アクリレート,ベンジル(メタ)アクリレート,2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート,2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート(以下,単量体M2とする)と,式(3)で示されるカチオン性基含有単量体(以下,単量体M3とする)を特定割合で重合して得られる特定の重量平均分子量を有する重合体である。 具体的には,この重合体は,式(1)で表される単量体M1を5〜90モル%と,式(2)で表される単量体M2を5〜90モル%と,式(3)で表される単量体M3を3〜80モル%からなり,M1+M2+M3が100モル%である単量体組成物を重合して得られる重合体である。重合体の平均分子量は,5,000〜5,000,000であることが好ましい。(式(1)中,R1は水素原子またはメチル基を示し,R2は炭素数1〜4のアルキル基,R3は炭素数1〜8のアルキル基を示す。(AO)は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し,Xは0〜1000の整数である。)(式(2)中,R4は水素原子またはメチル基を示し,Bはイソボルニル基,ベンジル基,フェノキシエチル基,2−メチル−2−アダマンチル基,2−エチル−2−アダマンチル基が選ばれる基である。)(式(3)中,R5は水素原子またはメチル基を示し,Lは−(CH2)n−L1,−(C=O)O−(CH2)n−L1,−(C=O)O−((CH2)m−O)n−L1または−CH2CH(OH)CH2−L1である。nは0〜24,mは2〜5の整数を示し,L1はアミノ基,アンモニウム塩基,ピリジル基またはピリジニウム塩基を示す。) 式(1)において,R1は水素原子またはメチル基を示し,安定性の高さの観点からはメチル基が好ましい。R2は炭素数1〜4のアルキレン基を示す。R2は具体的に−CH2−,−CH2CH2−,−CH2CH2CH2−及び−CH2CH2CH2CH2−のいずれかであり,−CH2CH2−が好ましい。R3は炭素数1〜8のアルキレン基を示す。R3は具体的に−CH2−,−CH2CH2−,−CH2CH2CH2−及び−CH2CH2CH2CH2−が挙げられ,−CH2−が好ましい。(AO)はオキシアルキレン基を示し,Aは,炭素数2〜4のアルキレン基である。オキシアルキレン基のアルキレン基としては,エチレン基が好ましい。Xは0〜1000の整数であり,Xは0〜500が好ましい。 式(1)の単量体としては,好ましくはグリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンが挙げられる。 さらに,本発明の重合体は,式(1)で表される単量体M1を5〜90モル%と,式(2)で表される単量体M2を5〜90モル%と,式(3)で表される単量体M3を3〜80モル%と,単量体M1〜M3以外の単量体M4を50モル%以下含んでなり,M1+M2+M3+M4が100モル%である単量体組成物を重合して得られる重合体であってもよい。 本発明では,有効成分として,セラミドと高い構造類似性を有する上述した重合体を含むことで,過剰な肉芽形成をより効果的に防止することができる。セラミドと高い構造類似性を有する上述した重合体を有効成分として有効量含む剤は,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療又は予防に有効である。 さらに,本発明では,トレハロース又はトレハロースの誘導体と,上述した共重合体を混合して有効量含む剤を得ることもできる。2つの有効成分を組み合わせることにより,より,効果的に過剰な肉芽形成防止することができ,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療又は予防に有効に作用する。 本発明の医薬組成物は,通常用いられる製剤技術によって,錠剤,丸剤,カプセル剤,顆粒剤,粉剤,液剤,乳剤,懸濁剤,軟膏剤,注射剤,皮膚貼付剤などの経口又は非経口用医薬として調製される。本発明における剤型として,液剤又は注射剤が好ましく,具体的には,注射剤又は灌流液がより好ましい。例えば,トレハロース,併用剤,及び希釈剤を適宜混ぜ合わせて攪拌することにより液剤を得ればよい。得られた液剤は,アンプル,プレフィルシリンジあるいは薬剤パックなどに封入してもよい。 本発明の薬剤の投与方法として,成人患者(60kg)に対して,1回当たりトレハロース又はトレハロースの誘導体を,1g以上10g以下を1日1回又は数回に分けて塗布又は噴霧するものがあげられる。 本明細書は,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤及び予防剤を製造するための,本発明の薬剤の使用をも提供する。本発明の薬剤として,上記した各薬剤を適宜採用できる。 本明細書は,本発明の薬剤を対象に投与する工程を含む,ケロイド又は肥厚性瘢痕の治療及び予防をも提供する。上記の対象として,ヒト又はヒト以外の哺乳動物があげられる。また,「本発明の薬剤を対象に投与する工程」として,本発明の薬剤を対象の患部に塗布又は噴霧することにより本発明の薬剤を投与するものがあげられる。本発明の薬剤として,上記した各薬剤を適宜採用できる。 本発明の第二の側面は,トレハロース又はトレハロースの誘導体を有効成分として含有する気道損傷部の組織肥厚抑制剤に関する。この剤は,気道損傷部の組織が肥厚することによる気道閉塞を防止するための剤としても利用されうる。トレハロース及びトレハロースの誘導体は先に説明したとおりである。先述したとおり,トレハロース又はトレハロースの誘導体は,過剰な肉芽形成を防止できるので,気道損傷部の組織が肥厚することによる気道閉塞を防止できる。 この気道損傷部の組織肥厚抑制剤は,たとえば,ゲル剤や塗布剤として気道内に挿入される医療用器具に塗布されてもよい。また,医療用器具が気道に挿入される前に,気道に塗布又は噴霧することで,医療用器具による損傷がもたらす組織肥厚を防止し,損傷により気道が閉塞する事態を効果的に防止する。 この気道損傷部の組織肥厚抑制剤の好ましい態様は,潤滑ゲル剤である。組織肥厚抑制剤が潤滑ゲル剤である場合,5重量%以上20重量%以下のトレハロース又はトレハロースの誘導体を含有するものが好ましい。具体的なトレハロース又はトレハロースの誘導体の含有量は10重量%である。ゲル剤は,生体親和性のあるゲル剤を適宜用いることができる。すなわち,公知の方法に基づいて担体としてのゲル剤を形成し,ゲル剤に有効成分であるトレハロース又はトレハロースの誘導体を混合することで,潤滑ゲル剤である組織肥厚抑制剤を得ることができる。 潤滑ゲル剤である組織肥厚抑制剤は,たとえば,気道に挿入される医療用器具に塗布する。そして,組織肥厚抑制剤を付着させた医療用器具を気道に挿入する。すると,医療用器具を取り囲むゲルが組織を保護するほか,ゲルに含まれるトレハロース又はトレハロースの誘導体が,気管粘膜に蓄積する。そして,蓄積したトレハロース又はトレハロースの誘導体は,医療用器具を抜いた後の合併症を防止する。この合併症の例が,組織損傷に起因する気道閉塞である。気道に挿入される医療用器具の例は,カフ付チューブ,気管内チューブ,気管支チューブ,気管切開チューブ,喉頭気管チューブ,又は食道チューブである。 以下,実施例を用いて本発明を具体的に説明する。しかしながら,本発明は,本明細書に開示された発明から当業者にとって自明な範囲で適宜調整することができるものであり,以下の実施例に限定されるものではない。 外傷(外科手術を含む)によって起こる細胞破壊のモデルとして,ホモジェナイザーで破砕した細胞破砕液を使用した。細胞破砕液によってマクロファージ細胞を処理し,誘起されたTGF−β1産生を,トレハロースが抑制するか検討した。 225cm2フラスコで培養したRAW264.7細胞を生理食塩水又は10%トレハロース中でホモジェナイザーを用いて破砕し,細胞破砕液を調製した。6ウェル中で培養しているRAW264.7細胞に上記細胞破砕液を加えて,8時間培養した。培地を酸処理した後,培地中のTGF−β1をELISA法(R&D社)によって測定した。その結果を図1に示す。図1は,TGF−β1の産生量を示すグラフである。 図1に示されるとおり,生理食塩水中で調製した細胞破砕液は,濃度依存的にTGF−β1の産生を強く誘導するが,トレハロースを用いた条件ではTGF−β1の産生は減少していた。トレハロースによってTGF−β1産生が抑制することが明らかとなった。 細胞破砕液によって誘起する炎症性サイトカイン産生 (TNF−α,IL−1α)を,トレハロースが抑制するか検討した。 225cm2フラスコで培養したRAW264.7細胞を生理食塩水又は10%トレハロース中でホモジェナイザーを用いて破砕し,細胞破砕液を調製した。6ウェル中で培養しているRAW264.7細胞に上記細胞破砕液を加えて,8時間培養した。培地を酸処理した後,培地中のTNF−α及びIL−1αをELISA法(R&D社)によって測定した。その結果を図2及び図3に示す。図2は,TNF−αの産生量を示すグラフである。図3は,IL−1αの産生量を示すグラフである。 図2及び図3に示されるとおり,生理食塩水中で調製した細胞破砕液は,濃度依存的にTNF−α及びIL−1αの産生を強く誘導するが,トレハロースを用いた条件ではTNF−αの産生及びIL−1αの産生は減少していた。トレハロースによってTNF−α産生及びIL−1α産生が抑制することが明らかとなった。 細胞破砕液によって誘起するプロスタグランジン(prostaglandin)E2(PGE2)を,トレハロースが抑制するか検討した。 225cm2フラスコで培養したRAW264.7細胞を生理食塩水又は10%トレハロース中でホモジェナイザーを用いて破砕し,細胞破砕液を調製した。6ウェル中で培養しているRAW264.7細胞に上記細胞破砕液を加えて,8時間培養した。培地を酸処理した後,培地中のPGE2をELISA法(R&D社)によって測定した。その結果を図4に示す。図4は,PGE2の産生量を示すグラフである。 図4に示されるとおり,生理食塩水中で調製した細胞破砕液は,濃度依存的にPGE2の産生を強く誘導するが,トレハロースを用いた条件ではPGE2の産生は減少していた。トレハロースによってPGE2産生が抑制することが明らかとなった。 火傷による細胞傷害のモデルとして,熱ショックによって誘導される死細胞をモデルとして使用した。熱ショック後の細胞死によって細胞内容物が流出するが,これらの細胞内容物によって誘導される炎症性サイトカイン産生(TNF−α)を,トレハロースが抑制するか検討した。 225cm2フラスコで培養したRAW264.7細胞を回収し,53℃10分間熱ショックを加えた。その後,5時間37℃で静置して細胞死を誘導し,これらを細胞溶液とした。その後,生理食塩水又は10%トレハロースを細胞溶液に加え,氷上で30分間処理した。6ウェル中で培養しているRAW264.7細胞に上記細胞破砕液を加えて,8時間培養した。培地を酸処理した後,培地中のTNF−αをELISA法(R&D社)によって測定した。その結果を図5に示す。図5は,TNF−αの産生量を示すグラフである。 図5に示されるとおり,細胞死によって流出した細胞内容物がTNF−α産生を誘導することを確認した。さらに,TNF−α産生はトレハロースを用いた条件では,トレハロースの濃度が上昇するに従って減少していた。すなわち,トレハロースによってTNF−α産生が抑制することも確認した。 ヌードマウスにケロイド組織を移植し,トレハロースがケロイド増殖を抑制する効果を確認する。移植材料として,ケロイド患者より摘出した組織片を移植するまで培養液中(MEM+10%FCS+PC+SM)に入れて,冷暗所に保存した。次に,ヌードマウスを6週齢で,麻酔下で細切ケロイド組織片を肩甲骨間に皮下に1匹に1片ずつ10匹のマウスに移植する。移植後,週に3回ケロイド組織の増殖した腫瘍の大きさ(長径×短径×高さ)をノギスで測定する。腫瘍の大きさが安定した3ケ月目に4匹のマウス腫瘍にトレハロース溶液を0.1g1時間間隔で3回注入する。対照マウス2匹には生理食塩水またはマウスの全血清をそれぞれ0.1gずつ同様に3回局注する。2匹のマウス腫瘍には,トレハロース溶液を3回塗布する。2匹のマウス腫瘍にはトレハロース溶液を3回噴霧するとともにトレハロース溶液を0.1g1時間間隔で3回注入する。1週間後にマウスより腫瘍を取り出し固定する。そのうえで,トレハロースのケロイド組織治癒効果を検証する。 本発明は,医薬産業などの分野において利用されうる。トレハロース又はトレハロースの誘導体を有効成分として含有するケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤。請求項1に記載のケロイド又は肥厚性瘢痕の予防剤であって,前記トレハロース又はトレハロースの誘導体が, トレハロース,α−グルコシルトレハロース,α−マルトシルトレハロース,α−マルトトリオシルトレハロース,α−マルトテトラオシルトレハロース及びα−マルトペンタオシルトレハロースからなる群から得らばれる1又は2以上の糖である, 肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤。請求項1に記載のケロイド又は肥厚性瘢痕の予防剤であって,前記トレハロース又はトレハロースの誘導体が, トレハロース又はα−マルトシルトレハロースである, 肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤。請求項1に記載のケロイド又は肥厚性瘢痕の予防剤であって,前記トレハロース又はトレハロースの誘導体が, トレハロースである, 肥厚性瘢痕の治療剤又は予防剤。請求項1に記載のケロイド又は肥厚性瘢痕の予防剤であって,施術後の施術部に投与される剤。トレハロース又はトレハロースの誘導体を有効成分として含有する気道損傷部の組織肥厚抑制剤。 【課題】 本発明はケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤及び予防剤を提供することを目的とする。 【解決手段】 上記課題は,トレハロースを有効成分として含有するケロイド又は肥厚性瘢痕の治療剤及び予防剤により解決される。また,本発明は,上記のケロイド又は肥厚性瘢痕の予防剤であって,施術後の施術部に投与される剤として好ましく用いることができる。実施例により実証されたとおり,本発明はトレハロースを有効成分として含むことで,ケロイド又は肥厚性瘢痕を効果的に治療でき,また予防できる。 【選択図】 図1


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