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タイトル:公開特許公報(A)_レクチンと抗レクチン抗体との結合阻害剤
出願番号:2011058398
年次:2012
IPC分類:G01N 33/53,G01N 33/543


特許情報キャッシュ

玉井 豊廣 JP 2012194068 公開特許公報(A) 20121011 2011058398 20110316 レクチンと抗レクチン抗体との結合阻害剤 ベックマン コールター, インコーポレイテッド 510005889 山本 秀策 100078282 安村 高明 100062409 森下 夏樹 100113413 玉井 豊廣 G01N 33/53 20060101AFI20120914BHJP G01N 33/543 20060101ALI20120914BHJP JPG01N33/53 NG01N33/543 525EG01N33/543 525U 14 OL 26 本発明は、レクチンを用いる免疫測定に関し、より具体的には、レクチンと抗レクチン抗体との結合阻害剤、そのような結合阻害剤を用いる免疫学的反応検出法、およびそのような結合阻害剤を含む免疫学的反応検出用キットに関する。本発明の結合阻害剤は、レクチンと糖残基含有キャリアとを含む。 免疫測定においては、種々の非特異的反応が生じることが知られている。例えば、マウスモノクローナル抗体を用いる免疫測定においては、検出対象の抗原ではなくヒト検体中に存在するヒト抗マウス抗体(HAMA)が試薬中のマウスモノクローナル抗体と結合してしまい、偽陽性反応を呈する。このような偽陽性反応を低減する手段として、試薬中にマウス抗体を添加することによって、HAMAの結合を吸収する方法が周知である。 同様にレクチンに対する抗体を保有する検体が存在する。このような検体は赤血球に対する抗体が存在しないにも係わらず、レクチンをバインダーとして赤血球を固相化した場合に、陽性反応を呈し、本来の赤血球抗体による陽性なのか判別が出来にくく、試験の特異性を低下させるものである。 特許文献1は、小麦胚芽レクチンにより固相化した赤血球を用いる免疫学的検査における卵白または卵白関連物質の使用を開示している。特許文献1に記載の方法では、小麦胚芽レクチンをバインダーとして赤血球を固相化したマイクロプレートのウェルに、卵白または卵白関連物質を含む低イオン強度溶液(LISS溶液)、および血漿等の検体が添加され、インキュベートした後に、免疫学的反応の検出が行われる。特開平8−240592号明細書 本発明者は、レクチンと糖残基含有キャリアとを含む混合物が、抗レクチン抗体のレクチンへの結合を効果的に阻害し、レクチンを用いる免疫学的検査における偽陽性反応を低減させることを予想外に見出して、本発明を完成させた。 本発明者は、さらに研究を重ねたところ、レクチンと糖残基含有キャリアとを予め混合し、得られた混合物の存在下で、レクチンにより固相化された抗原と、その抗原に対する検体中の抗体との免疫反応の検出を行うと、レクチンと検体中の抗レクチン抗体との結合がより効果的に阻害されることを見出した。本発明では、糖残基含有キャリアは、レクチンの赤血球凝集活性をブロックするような量でレクチンと混合される。 本発明者は、レクチンとして小麦胚芽レクチンを用いる免疫測定法においては、糖残基含有キャリアとして、アルブミン、ムチン、またはムコイドが効果を有していることを見出し、特にオボムコイドが優れた効果を有するものであることを見出した。 したがって、本発明は、以下を提供する。 1つの局面において、本発明は、レクチンと糖残基含有キャリアとを含む、レクチンと抗レクチン抗体の結合阻害剤を提供する。 ある実施形態において、上記キャリアはタンパク質、合成ポリマーまたは糖である。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量を有する高分子である。 ある実施形態において、上記レクチンは小麦胚芽レクチン(WGA;wheat germ agglutinin;小麦胚芽凝集素ともいう)であり、上記糖はN−アセチルグルコサミンである。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、アルブミン、ムチン、およびムコイドからなる群より選択される。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、オボアルブミン、ブタ胃由来ムチン、およびオボムコイドからなる群より選択される。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアはオボムコイドである。 別の局面において、本発明は、免疫学的反応検出法であって、表面にレクチンが吸着された支持体を提供する工程、該支持体上にレクチン結合性抗原を固相化する工程、レクチンと糖残基含有キャリアとが混合された混合物を提供する工程、該混合物の存在下で検体と該支持体上の該抗原とを接触させる工程、および該抗原における該免疫学的反応を検出する工程を包含する方法を提供する。 ある実施形態において、上記抗原は生物体の一部である。 ある実施形態において、上記生物体の一部は赤血球または血小板である。 ある実施形態において、上記検体は、上記抗原に結合性の抗体またはその抗原結合性フラグメント、および上記レクチンに結合性の抗体またはその抗原結合性フラグメントを含む検体である。 ある実施形態において、上記検体は、血液、血清、および血漿からなる群より選択される。 ある実施形態において、上記キャリアはタンパク質、合成ポリマーまたは糖である。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量を有する高分子である。 ある実施形態において、上記レクチンは小麦胚芽レクチンであり、上記糖はN−アセチルグルコサミンである。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、アルブミン、ムチン、およびムコイドからなる群より選択される。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、オボアルブミン、ブタ胃由来ムチン、およびオボムコイドからなる群より選択される。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアはオボムコイドである。 別の局面において、本発明は、免疫学的反応検出用キットであって、表面にレクチンが吸着された支持体と、レクチンと、糖残基含有キャリアとを含むキットを提供する。 ある実施形態において、本発明のキットは、レクチン結合性抗原をさらに含む。 ある実施形態において、上記キャリアはタンパク質、合成ポリマーまたは糖である。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量を有する高分子である。 ある実施形態において、上記レクチンは小麦胚芽レクチンであり、上記糖はN−アセチルグルコサミンである。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、アルブミン、ムチン、およびムコイドからなる群より選択される。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアは、オボアルブミン、ブタ胃由来ムチン、およびオボムコイドからなる群より選択される。 ある実施形態において、上記糖残基含有キャリアはオボムコイドである。 本発明により、レクチンにより抗原を固相化して実施される免疫測定において、偽陽性反応を低減する手段が提供され、より特異的な免疫測定が可能になる。図1は、WGAを介して赤血球が結合されたプレートに検体を添加した場合の免疫反応像を示す。左の2ウェルの広がった像が、WGA非特異検体216D7、102D3による陽性像である。右の2ウェルは、抗赤血球抗体も抗レクチン抗体も含まない陰性検体を添加した場合に観察される陰性像を示す。図2は、NAcGlcまたはオボアルブミンとWGAとの混合物の、WGA非特異検体の反応性への効果を示す。上段から、1.NAcGlc5%、2.NAcGlc2.5%、3.NAcGlc1.25%、4.オボアルブミン2.5%、5.オボアルブミン1.25%、6.オボアルブミン0.63%に、WGAを、左列から100μg/mL、50μg/mL、25μg/mL、12μg/mL、6.3μg/mL、3.1μg/mL、1.5μg/mL、0.8μg/mL、0.4μg/mL、0.2μg/mL、および0μg/mLを添加した混合物に、WGA非特異検体を添加したものである。図3は、熱変性WGAのWGA非特異検体の反応性への効果を示す。上段は、右から熱変性WGA50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.3μg/mL、3.1μg/mL、および1.5μg/mLの結果である。下段は、右端は熱変性WGAを添加していない(0μg/mL)検体希釈液に検体としてWGA非特異検体を用いた結果であり、その他は、何も添加していない検体希釈液で不規則性抗体陰性を反応させた反応像である。図4は、ムチンまたはトリプシンインヒビターと、WGAとの混合物の、WGA非特異検体の反応性への効果を示す。上段から、1.ムチン1.25%、2.ムチン0.63%、3.ムチン0.32%、4.ムチン0.15%、5.トリプシンインヒビター1.25%、6.トリプシンインヒビター0.63%、7.トリプシンインヒビター0.32%、8.トリプシンインヒビター0.15%に、WGAを、左列から10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.63μg/mL、0.31μg/mL、0.15μg/mL、0.07μg/mL、0.035μg/mLおよび0μg/mL(右列)添加した混合物に、WGA非特異検体を添加したものである。図5は、オボアルブミン−WGA、ムチン−WGA、TI−WGA混合物添加検体希釈液のWGA非特異検体反応像を示す。上段からLISS; グリシン低イオン強度メディウム(対照)、オボアルブミン−WGA,TI−WGA、ムチン−WGA添加検体希釈液による反応像(右2例は、陰性検体の反応像、左2列はWGA非特異検体反応像)を示している。 以下に本発明の好ましい形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の表記(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。 (定義) 以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。 本明細書における「レクチン」とは、糖鎖を特異的に認識して、結合または架橋するタンパク質をいう。本発明において、レクチンは、本発明の結合阻害剤の一部として使用されるほか、抗原における糖鎖を認識して結合することにより、支持体(例えばマイクロプレート等)と抗原とをつなぐバインダーとしても使用される。 本明細書における「糖残基含有キャリア」とは、任意の糖残基と、任意のキャリアの結合体または複合体を意味する。キャリアは、糖残基を含有する限りいかなる物質をも含み得、例えばタンパク質、ポリマーまたは糖などであり得るがこれらに限定されない。キャリアがタンパク質である場合、「糖残基含有キャリア」はいわゆる糖タンパク質であり、キャリアが糖である場合、「糖残基含有キャリア」はいわゆる多糖類である。 本明細書における「混合」とは、任意の2以上の成分の物理的混合を意味し、「混合」された対象を「混合物」という。混合物に含まれる2以上の成分は、結合されていてもよいし、結合されていなくてもよい。 本明細書における「複合体」とは、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、共有結合で結合されていてもよくそれ以外の結合(例えば、水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合されていてもよい。 本明細書において、ある物質によるレクチンと抗レクチン抗体との「結合阻害」とは、その物質の非存在下でのレクチンと抗レクチン抗体の結合の程度に対して、その物質の存在下でのレクチンと抗レクチン抗体の結合の程度が低減することをいう。本発明において、レクチンと抗レクチン抗体の結合の程度は、例えば磁性混合受身血球凝集法(magnetic−mixed passive hemagglutination法;M−MPHA法)におけるウェル中の凝集パターンに基づいて判断し得る。本明細書においては、凝集パターンは、以下のようにスコアに割り当てられる。 スコア0 陰性像 スコア1 リング状やや滲みの陰性像 スコア2 弱い陽性像 スコア3 広がっているがやや崩れのある陽性像 スコア4 強く広がった陽性像 本明細書における「高分子」とは、レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量を有する分子をいう。本発明において、「レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量」とは、その分子量の物質の存在下にて、M−MPHA法によってレクチンと抗レクチン抗体との結合の程度を測定した場合に、凝集スコアが1以上低下するような分子量をいう。本明細書における「レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量」とは、代表的に1,000以上の分子量をいう。 本明細書における「レクチン結合性抗原」とは、表面にレクチンによって認識される糖鎖を有し、かついずれかの抗体によって結合され得る任意の物質をいう。 本明細書における「支持体」とは、レクチンを吸着させ得る任意の固相をいう。本発明における支持体は、任意の材料、任意の材質から構成され得る。そのような材料としては、金属、プラスチック、ガラス、天然ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。 本発明における支持体としては、マイクロプレートのウェル、試験管、キュベット等の凹状容器の内壁、スライドガラス、シリコンチップ等の平板上のような、種々の公知の形状の支持体を用いることができる。 本明細書における「生物体の一部」とは、任意の生物体の任意の構成単位である。本明細書中における「生物体の一部」としては、ある生物体の臓器、組織、細胞、細胞成分などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、この生物体の一部は、代表的には、赤血球または白血球のような血球や、血小板のような無核の細胞であるが、これらに限定されない。 本明細書における「検体」とは、抗レクチン抗体を含み得る、被験体等から得られた任意の物質をいい、例えば、体液(血液、唾液、尿、涙液、血清、および血漿等)が含まれる。本発明で使用される検体としては、代表的に、血液、血清、または血漿が挙げられる。 本明細書における「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。抗体は通常、タンパク質の一種である。 本明細書における「抗体」とは、免疫反応において、抗原の刺激によって生体内でつくられ、抗原と特異的に結合したり反応したりするタンパク質またはそれらと同じ配列を有するものを化学合成等で生産したものを総称していう。実体は免疫グロブリンであり、Abとも称する。特に言及しない限り、本発明における抗体は、その抗原結合性フラグメントも含む。 本明細書における抗体(全長)の「抗原結合性フラグメント」とは、ある抗体(全長)について、その抗体(全長)の抗原と同じ抗原に対して結合性を有するフラグメントをいう。そのような「抗原結合性フラグメント」の範囲に入るかどうかは、親和性のアッセイによって評価することができる。本明細書中においては、そのような親和性は、抗体に対する標識抗原の結合量を50%阻害する濃度(IC50値)を指標として示すことができ、IC50値は、例えばlogistic曲線による回帰モデル(Rodbardら、Symposium on RIA and related procedures in medicine,P165,Int.Atomic Energy Agency,1974)で算出することができる。 抗原結合性フラグメントの例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、dsFv二重特異性抗体、およびFdフラグメントを含むが、これらに限定されない。 本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここで具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。 本明細書における「免疫学的反応検出法」とは、任意の抗原−抗体相互作用に基づく任意の免疫学的反応を検出する方法をいう。 本明細書における「接触(させる)」とは、ある成分を、直接的または間接的のいずれかで、所望の反応(例えば、免疫学的反応)が生じる様式で別の成分に対して物理的に近接させることを意味する。本発明における接触は、いかなる形態をとってもよく、代表的には検体を抗原に対して物理的に近接させることである。接触は、抗原を含むウェル等の支持体に、検体を置くことが挙げられる。 本明細書における「小麦胚芽レクチン」とは、小麦胚芽(Wheat germ)(Triticum vulgaris)より調製した糖鎖を持たないタンパク質であり、本明細書中では「WGA」ともいう。中性下ではサブユニットが2量体を形成している。分子量は約43,200である。 (好ましい実施形態の説明) 以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。 卵白または卵白関連物質の添加による偽陽性反応の低減が公知であった(特許文献1を参照のこと)が、それだけでは不十分であり(以下の実施例5を参照のこと)、本発明者は、さらに効果的な方法を探索した。本発明者は、マウス抗体の添加によるHAMAブロッキングを応用して、レクチンを添加することによる抗レクチン抗体ブロッキングによる偽陽性反応の低減を試みたが、その結果、むしろ免疫測定における抗レクチン抗体の結合による偽陽性反応は顕著に増加した(以下の実施例3を参照のこと)。 本発明は、レクチンと糖残基含有キャリアとを含む、レクチンと抗レクチン抗体との結合阻害剤を提供する。レクチンを用いて抗原を固相化して行う免疫測定において、本発明の結合阻害剤を使用することによって、検体中に存在し得る抗レクチン抗体が、固相化に用いられるレクチンよりも本発明の結合阻害剤に優先的に結合する。このことによって、免疫測定における偽陽性反応である、抗レクチン抗体の固相化用レクチンへの結合を吸収し、免疫測定における偽陽性が低減される。本発明において、固相化用レクチンと、結合阻害剤の成分であるレクチンとは、検体中の抗レクチン抗体による固相化用レクチンへの結合を阻害し、偽陽性反応を低減させることができる限り、同一のレクチンであってもよいし、異なるレクチンであってもよい。好ましい実施形態においては、固相化用レクチンと、結合阻害剤の成分であるレクチンとは、同一のレクチンである。 また、本発明においては、レクチンと糖残基含有キャリアとを予め混合することが重要であり得る。理論に束縛されることを望まないが、レクチンを用いて抗原を固相化して行う免疫測定において、レクチン単独を結合阻害剤として添加することによって、むしろ添加したレクチンが抗原に結合し、それによって検体中の抗レクチン抗体のレクチンへの結合によって生じる偽陽性反応が増大されるからである。しかしながら、レクチンと糖残基含有キャリアとを予め混合し、本発明の結合阻害剤とすることによって、結合阻害剤の一部であるレクチンが免疫測定における抗原に結合することを防ぐことができ、レクチンの添加によって生じる偽陽性反応をなくし、かつ効果的な偽陽性の低減をも達成する。したがって、本発明の免疫反応検出法においては、表面にレクチンが吸着された支持体にレクチン結合性抗原を固相化し、別途、レクチンと糖残基含有キャリアとが混合された混合物を提供し、その混合物の存在下で検体とその支持体上のその抗原とを接触させ、その後、抗原における該免疫学的反応を検出する。 (レクチンと糖残基の組み合わせ) 本発明で用いられるレクチンと糖残基の組み合わせは、検体中の抗レクチン抗体による固相化用レクチンへの結合を阻害し、偽陽性反応を低減させることができる限り、どのような量、種類、比率の組み合わせ、混合方法を用いてもよい。 レクチンのみを結合阻害剤として用いた場合には、レクチンを用いて抗原を固相化する免疫測定における偽陽性反応は大きく増加するが、他方、本発明の結合阻害剤を用いることによって、偽陽性反応は顕著に低減されることを、本発明者は見出した。何ら理論に拘束されることを望まないが、レクチンのみを結合阻害剤として添加すると、添加したレクチンが抗原に結合して偽陽性反応を増加させているものと考えられる。本発明の結合阻害剤においては、レクチンに糖残基含有キャリアが作用し、偽陽性反応を誘発する結合阻害剤中に含まれるレクチンの抗原への結合がブロックされ得る。何ら理論に拘束されることを望まないが、本発明の結合阻害剤においては、レクチンと糖残基含有キャリアとが、糖残基によるレクチンの特異的認識によって複合体を形成しているものと考えられる。なお、この複合体が具体的にどのような形態のものであるかは本発明の本質とは何ら関係がないことに留意すべきである。したがって、糖残基含有キャリアにおける糖残基は、使用するレクチン種に対して特異性を示すものであることが好ましい。 例えば、N−アセチルグルコサミン(NAcGlc)特異的レクチンとしては、小麦胚芽レクチン(WGA)、チョウセンアサガオレクチン(DSA)、またはアメリカヤマゴボウレクチン(PWM)などが挙げられるが、これらに限定されない。 例えば、ガラクトース(Gal)またはN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)に特異的なレクチンとしては、マッシュルームレクチン(ABA)、ドリコスマメレクチン(DBA)、デイゴマメレクチン(ECA)、インゲンマメレクチン(PHA−E4、PHA−L4、PHA−P)、ピーナッツレクチン(PNA)、またはダイズレクチン(SBA)などが挙げられるが、これらに限定されない。 例えば、マンノース(Man)特異的レクチンとしては、タチナタマメレクチン(Con A)、レンズマメレクチン(LCA、LCA−A)、またはエンドウマメレクチン(PSA)などが挙げられるが、これらに限定されない。 例えば、フコース(Fuc)特異的レクチンとしては、ヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、ロータスレクチン(Lotus)、ハリエニシダレクチン(UEA−I)、レンズマメレクチン(LCA)、レンズマメレクチン(LCA−A)、またはエンドウマメレクチン(PSA)が挙げられるが、これらに限定されない。 例えば、シアル酸(Sia)特異的レクチンとしては、イヌエンジュレクチン(MAM)、ニホンニワトコレクチン(SSA)または小麦胚芽レクチン(WGA)などが挙げられるが、これらに限定されない。 レクチンと、それが特異的に認識する糖については、Lectin Frontier DataBase(http://riodb.ibase.aist.go.jp/rcmg/glycodb/LectinSearch)等により公知であり、それらの情報に基づいて、当業者は本発明において使用する適切なレクチンと糖残基の組み合わせを選択することができ、当業者の技術常識の範囲内である。 本発明において使用されるレクチンは好ましくは小麦胚芽レクチン(WGA)である。したがって、使用される糖残基はN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)またはシアル酸(Sia)などが好ましく、本発明においては、特に小麦胚芽レクチン(WGA)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)との組み合わせが好ましい。 (好ましい糖残基含有キャリア) 本発明者は、レクチンとしてWGAを用いて抗原を固相化した免疫測定において、WGAへの非特異的抗体の結合阻害のために、WGAとGlcNAc単糖との混合物を添加しても、結合阻害剤として機能しないことを実証した(以下の実施例5を参照のこと)。しかしながら、アルブミン、ムチンまたはムテインのような、GlcNAcを含有する高分子とWGAとの混合物を添加したところ、WGAへの非特異的抗体の結合が顕著に低減された。決して理論に拘束されることを望まないが、この事実から、高分子の糖残基含有キャリアが本発明において好ましいものであり得る。 したがって、本発明の糖残基含有キャリアは「高分子」であり得る。上記の通り、本発明における「高分子」とは、レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量を有する分子をいい、「レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量」とは、その分子量の物質の存在下にて、M−MPHA法によってレクチンと抗レクチン抗体との結合の程度を測定した場合に、凝集スコアが1以上低下するような分子量をいう。1つの実施形態において、本発明の糖残基含有キャリアは、1,000以上の分子量を有する分子である。 ある実施形態において、本発明の糖残基含有キャリアとしては、オボムコイド(例えば、トリプシンインヒビター)(分子量約28,000)が好ましい。よって、本発明の糖残基含有キャリアは、28,000以上の分子量を有する高分子であり得る。 別の実施形態において、本発明の糖残基含有キャリアとしてはオボアルブミン(分子量約45,000)が好ましい。よって、本発明の糖残基含有キャリアは、45,000以上の分子量を有する高分子であり得る。 別の実施形態において、本発明の糖残基含有キャリアとしては、ムチン(分子量約106〜107)が好ましい。よって、本発明の糖残基含有キャリアは、106以上の分子量を有する高分子であり得る。 ある実施形態においては、本発明において好ましい糖残基含有キャリアは糖タンパク質である。特定の実施形態において、本発明において好ましい糖残基含有キャリアはアルブミンであり、より好ましくはオボアルブミンである。別の実施形態においては、本発明において好ましい糖残基含有キャリアはムチンであり、より好ましくはブタ胃由来ムチンまたはオボムチンであり、特に好ましくはブタ胃由来ムチンである。別の実施形態においては、本発明において好ましい糖残基含有キャリアはオボムコイド(トリプシンインヒビター)であり、オボムアルブミン、ムチンもまた好ましい。 (免疫学的反応検出法) ある局面において、本発明は、免疫学的反応検出法であって、表面にレクチンが固相化された支持体を提供する工程、その支持体上にレクチン結合性抗原を固相化する工程、レクチンと糖残基含有キャリアとが混合された混合物を提供する工程、その混合物の存在下で検体とその支持体上のその抗原とを接触させる工程、および、その抗原におけるその免疫学的反応を検出する工程を包含する方法を提供する。 本発明においては、表面にレクチンが固相化された支持体は、市販されているものを購入してもよいし、公知の方法によって調製してもよい。支持体表面へのレクチンの固相化は、例えば、支持体とレクチンとを液体中で接触させ、支持体へのレクチンの吸着が達成されるのに十分な条件にて放置し、その後その支持体を洗浄することによって調製され得る。 支持体へのレクチンの固相化が達成されるのに十分な条件とは均一な固相化が可能である任意の条件をいい、例えば、温度は冷蔵温度から室温の範囲、時間は30分以上である。 本発明の1つの実施形態においては、表面にレクチンが固相化された支持体は、特開平2−124464号に開示される方法によって調製され得る。具体的には、U字型マイクロプレート(例えば、NUNC社製)のような支持体に、例えばpH7.0の0.01Mリン酸緩衝液(PBS)を用いて、例えば濃度10μg/mlに調製した小麦胚芽レクチン(WGA;生化学工業社製)を各ウェルに例えば100μlずつ添加し、例えば室温で例えば30分間処理する。次に、例えばpH7.0の0.01M PBSを300μlずつ用いて5回洗浄し、例えば室温で乾燥させることによって、WGAが固相化された支持体を得ることができる。表面にレクチンが吸着された支持体の調製および入手は、当業者の技術常識の範囲内である。 表面にレクチンが吸着された支持体への赤血球等の細胞の固相化は、支持体上のレクチンへのレクチン結合性抗原の結合を達成できる任意の手法によって達成され得、当業者の技術常識の範囲内である。例えば、表面にレクチンが吸着された支持体への赤血球等の細胞の固相化は、例えば、支持体上のレクチンと固相化された赤血球等の細胞とを液体中で接触させ、レクチンへの赤血球等の細胞の固相化が達成されるのに十分な条件にて放置し、その後その支持体を洗浄することによって調製され得る。レクチンへの赤血球等の細胞の固相化が達成されるのに十分な条件とは、例えば、冷蔵温度から室温で10分間以上放置すれば達成され得る。また、血小板等更に小さな細胞の場合は、遠心分離(500rpm 5分程度)を実施すれば効果が大きい。具体的には、表面にレクチンが固相化された支持体への赤血球の固相化は、レクチンが固相化された支持体に赤血球を含有する溶液を添加し、室温で10分間以上放置すれば達成され得る。 レクチンと糖残基含有キャリアとの混合は、レクチンと糖残基含有キャリアとの物理的接触を達成する任意の手法によって達成され得、当業者の技術常識の範囲内である。例えば、レクチンと糖残基含有キャリアとの混合は、レクチンを含む溶液または懸濁液と、糖残基含有キャリアを含む溶液または懸濁液とを合わせることによって達成され得る。必要に応じて、合わせた混合物を、ローター、振盪機、ミキサーのような機械的手段によって、または手でウェルを揺らすことのような人的手段によって、さらに混合させてもよい。 本発明において、レクチンと糖残基含有キャリアとが混合された混合物を提供する工程は、レクチンと糖残基含有キャリアとを混合した後に、レクチンと糖残基含有キャリアの複合体化を達成するのに十分な条件にてインキュベートすることを包含する。レクチンと糖残基含有キャリアの複合体化を達成するのに十分な条件とは、例えば、冷蔵温度から室温で30分以上の混合攪拌をいう。具体的には、レクチンを含む溶液と、糖残基含有キャリアを含む溶液または懸濁液とを合わせて、例えば室温で、例えば約30分間インキュベートすることによって、レクチンと糖残基含有キャリアとが混合された混合物を提供することができる。 本発明の結合阻害剤において、レクチンと糖残基含有キャリアとは、該糖残基含有キャリアがレクチンの赤血球凝集活性を阻害するような比率で混合される。レクチンの赤血球凝集活性が消失する比率でレクチンと糖残基含有キャリアとを混合することによって達成される。 本発明におけるレクチンと糖残基含有キャリアの好ましい比率および量はまた、レクチン種、糖残基キャリア種、レクチンの赤血球凝集活性の消失、検体希釈液の成分、検体希釈液のpH、イオン強度、検体の種類等に応じて、当業者が容易に決定することができる。レクチンと糖残基含有キャリアとの比率または量の具体的な数値は、レクチンと抗レクチン抗体の結合阻害を効果的に達成することができる限り必ずしも限定されるものではなく、レクチンと糖残基含有キャリアとを組み合わせことによる効果を達成しうる任意の比率および量が本発明の範囲内に包含されることが理解される。 本発明の免疫学的反応検出法による検査対象は、抗赤血球抗体のような細胞表面上の抗原と結合反応し得る任意の抗体であり、本発明が適用され得る検査方法は、特に限定されない。 本発明の方法において、検体と抗原との接触は、検体中に存在する抗体とその抗原との抗原抗体反応が生じる条件であれば、いかなる手段を用いてもよく、例えば、抗原を含む支持体に検体を置くことによって行われ得る。 本発明の方法において、免疫学的反応の検出は、血球の凝集、抗原抗体複合体の沈降、蛍光抗体法、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、ウェスタンブロット法等の当該分野で周知の技術によって行われ得る。本発明の好ましい実施形態では、抗原として血球が使用され、免疫学的反応の検出は、目視による血球の凝集パターンの確認によって達成され得る。また、反応像を光学的に数値に置き換えて判定する方法でも実施可能である。 (キット) ある局面において、本発明はさらに、免疫学的反応検出用キットであって、表面にレクチンが固相化された支持体と、レクチンと、糖残基含有キャリアとを含むキットを提供する。支持体表面上のレクチンと、キット中の成分として提供されるレクチンとは同一のものである。 1つの実施形態では、本発明のキットは、さらに赤血球などのレクチン結合性抗原を含んでもよい。 好ましい実施形態では、本発明のキットは、レクチンと糖残基含有キャリアとを、該糖残基含有キャリアがレクチンの赤血球凝集活性を阻害するような比率で含む。レクチンの赤血球凝集活性を阻害するとは、レクチンによる赤血球の凝集が消失することをいう。 1つの実施形態では、本発明のキットは、さらに指示書を備えていてもよい。この指示書は、本発明の免疫反応検出法などを実施者に対して記載したものである。この指示書は、本発明の免疫反応検出手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、必要であれば本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、瓶に貼り付けられたフィルム、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。 1つの実施形態において、本発明のキットは、まずレクチンと糖残基含有キャリアとを混合し、そのようにして得られた混合物を、次いで、表面にレクチンが固相化された支持体に添加することによって使用され得る。 本発明は、例えば、J Ohgama,R Yabe,T Tamai et.al,A new solid−phase assay system using magnetic force on blood group serology.Transfusion Med.1996,6:351−359、T Tamai,Y Ishii,T Mazda,IgM alloantibody detection by M−MPHA,a new soild−phase assay system,Transfusion Science 2000,23:47−54、または斉藤 敏、玉井豊広、太田正穂 他、IgM型HLAクラスI抗体の血小板輸血不応答状態への関与−PTR患者における免疫グロブリンクラス別HLA抗体陽性率、日輸学会誌 2006.52,405−413などの当該分野で周知の文献に基づいて実施され得る。 本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。 以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。 まず、以下の実施例において使用する試薬、材料および方法について説明する。 (試薬および材料) 1.赤血球結合用マイクロプレート マイクロプレートは、Nalge−Nunc社のU底Maxisorpを使用した。小麦胚芽レクチン(WGA)は、生化学工業(株)から入手した。 2.抗ヒトIgG抗体感作顔料添加磁性粒子(以下IgG感作粒子) IgG感作粒子は、国際公開第2010/084626号に記載される方法に従って調製した。具体的には、ゼラチンとアラビアゴムの混合物のpHを下げてコアセルベートを作成する過程で、磁性体と赤色顔料(株式会社呉竹)を添加し、取り込ませたものに抗ヒトIgG抗体を感作した。 3.赤血球及び検体 赤血球はオーソクリニカルダイアグノスティックスのセレクトジェンを使用した。陽性検体は、抗D抗体コントロール(抗D抗体保有の患者血清を陰性血清で適宜希釈したもの)、DiaMed社のIQCのコントロール血清等を使用した。陰性検体は不規則性抗体陰性検体を使用した。WGA非特異検体(抗赤血球非含有かつ抗WGA抗体含有検体)として、2種類のWGA非特異検体216D7および2102D3(いずれも不規則性抗体陰性検体をスクリーニングして得た)を使用した。検体希釈液としては、一般的なグリシンLISS液 pH6.4を使用した。 4.糖残基含有キャリア 糖残基含有キャリアとして、オボアルブミン(#9882)、オボアルブミン(#17071)、Nアセチルグルコサミン(NAcGlc)、ムチン(#132−09162)、トリプシンインヒビター(TI)#595−12355を和光純薬より入手した。トリプシンインヒビター(TI)#T2011、#T9253はSigma Aldorichより入手した。 5.マイクロタイピングシステム マイクロタイピングシステムIgGカード(DiaMed AG Switzerland)を使用した。血球は、オーソセレクトジェンを専用浮遊液CellStab(DiaMed AG Switzerland)にて浮遊調製して使用した。使用方法はマイクロタイピングシステムIgGカードの添付文書に従った。 (方法) 1.赤血球結合用プレートの作製 特開平2−124464号に開示される方法に従った。具体的には、U字型マイクロプレートに、pH7.0の0.01Mリン酸等張緩衝液(PBS)を用いて、濃度10μg/mlに調製したWGAを各ウェルに100μlずつ添加し、室温で30分間処理した。次に、pH7.0の0.01M PBSを300μlずつ用いて5回洗浄し、室温で乾燥させることによって、赤血球結合用プレートを得た。 2.磁性混合受身血球凝集法(magnetic−mixed passive hemagglutination法;M−MPHA法) 赤血球を0.01M PBSで0.9%に希釈したものを25μL/wellずつ、赤血球結合用マイクロプレートに分注し、10分間静置した。これを1.3%NaClで3回洗浄し、余分な赤血球を除去した。検体希釈液75μL/well分注して、さらに検体を25μL分注した。37℃15分間インキュベート後、洗浄液(生理食塩液)で6回洗浄し粒子希釈懸濁液(0.2%BSA添加0.01Mリン酸クエン酸等張バッファーpH6.8)で浮遊調製したIgG感作粒子を25μL/ウェルで分注して磁石上で3分間パターン形成した。 3.マイクロタイピングシステムアッセイ 使用方法はマイクロタイピングシステムIgGカードの添付文書に従った。 (実施例1 WGA非特異検体の反応性の確認) 赤血球結合用プレートにセレクトジェンを固相化して、WGA非特異検体216D7、102D3及び陰性検体をアッセイした。その結果を図1に示す。左の2ウェルの広がった像が、赤血球と反応する抗体は含まないがWGAに結合する抗体を含む検体による陽性像である。右の2ウェルは、抗赤血球抗体も抗レクチン抗体も含まない陰性検体を添加した場合に観察される陰性像を示す。 (実施例2 マイクロタイピングシステムによるWGA非特異検体の反応性) WGA非特異検体216D7および102D3について、マイクロタイピングシステムアッセイでの反応性を観察した。その結果、WGA非特異検体216D7および102D3は、マイクロタイピングシステムアッセイでは、陰性を呈した(図示せず)。また、このWGA非特異検体はWGAを固相化したマイクロプレートとアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG抗体を使用したEIAの結果からでも陽性であること、自己血球を使用した場合も陽性を呈したことも含めて、実施例1の結果と合わせて、WGA非特異検体が、プレートへの固相化のために使用されたWGAに結合していることが実証された。 (実施例3 レクチン添加による非特異反応吸収) 本実施例では、マウス抗体の添加によるHAMAブロッキングを応用して、レクチンを添加することによる抗レクチン抗体ブロッキングによる偽陽性反応の低減を試みた。 赤血球結合用プレートにセレクトジェンを固相化し、血球プレートを作製した。検体希釈液に5μg/mLのWGAを添加したものを75μl/well分注し、WGA非特異検体216D7を倍々希釈したものを検体として25μL/well加えて、37℃で15分間インキュベートして、洗浄後、抗ヒトIgG抗体感作粒子で、アッセイした。また、WGAを添加しない検体希釈液でも同様に試験した。結果を表1−1および表1−2に示した。 上記表1−1および1−2に示すように、WGAを検体希釈液に添加すると、216D7との反応性は、WGA非添加のものに比べて著しく増加した。これは、検体希釈液中のWGAが赤血球表面に結合することで更に非特異反応が増強したためであると考えられる。 以上から、レクチンを添加することによる抗レクチン抗体ブロッキングによる偽陽性反応の低減を試みたが、その結果、むしろ免疫測定における抗レクチン抗体の結合による偽陽性反応は逆に増加することが明らかになった。 (実施例4 中和WGAおよび変性WGAによる赤血球凝集能の変化) 実施例3の結果から、WGAが赤血球に結合することなく非特異検体を中和出来るようにすることを試みた。そこでWGAの活性部位が認識するN−アセチルグルコサミン(NAcGlc)残基を多く持つ物質による中和能を検討した。N−アセチルグルコサミン(NAcGlc)基を多く持つ物質として糖タンパク質であるオボアルブミン、オボムコイド(トリプシンインヒビター)およびムチンと、N−アセチルグルコサミン単糖を選択した。 NAcGlc単糖、オボアルブミン、トリプシンインヒビターおよびムチンは赤血球凝集を濃度依存的に阻害することが明らかになった。WGAと各種凝集阻害物質を等量混合したときの具体的な結果は、以下の通りである。 NAcGlc単糖は、5%のNAcGlcは50μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させ、2.5%のNAcGlcは12.5%以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させ、そして1.25%のNAcGlcは6.25μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させた。 2.5%の#17071オボアルブミンは25μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させ、1.25%の#17071オボアルブミンは12.5μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させ、そして0.62%の#17071オボアルブミンは1.25μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させた。 2.5%、1.25%および0.63%ムチンはいずれも100μg/mL以下の赤血球凝集活性を消失させた。 1.25%のT9253トリプシンインヒビターは100μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させ、0.63%のT9253トリプシンインヒビターは50μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させ、0.32%のT9253トリプシンインヒビターは25μg/mL以下のWGAの赤血球凝集活性を消失させた。 また、熱変性WGAでは赤血球凝集能が消失することが明らかになった。 (実施例5 熱変性WGA、NAcGlc−WGA、オボアルブミン−WGA、ムチン−WGA、またはトリプシンインヒビター−WGAによるWGA非特異検体の吸収) 実施例4で赤血球凝集能がないことが明らかになった熱変性WGAや、実施例4で赤血球凝集能が阻害されることが明らかになった濃度のオボアルブミン、ムチン、またはトリプシンインヒビターとWGAとの混合物によって、WGA非特異検体が吸収出来るかどうかを検討した。 WGAを検体希釈液で、下記表2−1および2−2に示す濃度に調製したもの35μLと、検体希釈液で調製した等量の#17071オボアルブミン(2.5%、1.25%、0.63%)、NAcGlc(5%、2.5%、1.25%)、ムチン(1.25%、0.63%、0.32%、0.15%)、T9253トリプシンインヒビター(1.25%、0.63%、0.32%、0.15%)を30分間インキュベートした。なお、本明細書中、NAcGlc、オボアルブミン、ムチンおよびトリプシンインヒビターの濃度は、全てw/w%で示されていることに留意されたい。WGA非特異検体102D3を25μL加え、更に30分間インキュベートし、その全量を赤血球を固相化したプレートに移してアッセイした。 熱変性WGAもまた、検体希釈液で50μg/mL、25μg/mL、12μg/mL、6.3μg/mL、3.1μg/mL、および1.5μg/mL濃度に調製した。その35μLと、等量の検体希釈液とを加えたものを30分間インキュベートした。2倍希釈したWGA非特異検体102D3を25μL加え、更に30分間インキュベートし、その全量を赤血球を固相化したプレートに移してアッセイした。 結果を図2、図3および図4と、表2−1および2−2に示した。図2は、上段から、1.NAcGlc5%、2.NAcGlc2.5%、3.NAcGlc1.25%、4.オボアルブミン2.5%、5.オボアルブミン1.25%、6.オボアルブミン0.63%に、WGAを、左列から100μg/mL、50μg/mL、25μg/mL、12μg/mL、6.3μg/mL、3.1μg/mL、1.5μg/mL、0.8μg/mL、0.4μg/mL、0.2μg/mL、および0μg/mLを添加した混合物に、WGA非特異検体を添加した結果を示す。 図3は、熱変性WGAのWGA非特異検体の反応性への効果を示す。上段は、右から熱変性WGA50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.3μg/mL、3.1μg/mL、および1.5μg/mLの結果である。下段は、右端は熱変性WGAを添加していない(0μg/mL)検体希釈液に検体としてWGA非特異検体を用いた結果であり、その他は、何も添加していない検体希釈液で不規則性抗体陰性を反応させた反応像である。 図4は、上段から、1.ムチン1.25%、2.ムチン0.63%、3.ムチン0.32%、4.ムチン0.15%、5.トリプシンインヒビター1.25%、6.トリプシンインヒビター0.63%、7.トリプシンインヒビター0.32%、8.トリプシンインヒビター0.15%に、WGAを、左列から10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.63μg/mL、0.31μg/mL、0.15μg/mL、0.07μg/mL、0.035μg/mLおよび0μg/mL(右列)添加した混合物に、WGA非特異検体を添加した結果を示す。 以上から明らかなように、熱変性WGAでは、赤血球の凝集活性が消失しており、赤血球表面に結合しないため、実施例3の結果のようにWGA非特異を強めることはないと予想したが、WGA非特異検体の反応は低下しなかった。また、同様にNAcGlcにWGAを添加したものは、赤血球の凝集は見られなかったが、WGA非特異検体の反応は低下しなかった。 #17071オボアルブミン+WGAは、2.5%オボアルブミン+WGA(6.3〜0.2μg/mL)の範囲、および1.25%オボアルブミン+WGA(1.5μg/mL〜0.2μg/mL)の範囲でWGA非特異反応が陰性化(スコア0または1)した。本実施例の条件下においては、WGA1モルに対してオボアルブミン4モル以上を含むことが好ましいことが明らかになった。 ムチンは、本実施例の条件下においては、0.31%以上で使用するとWGA非特異反応は消失するが、赤血球の固相化に影響(血球膜にダメージがあり、ケズレを生じた)を及ぼし、その結果赤血球が剥がれ易くなるため、欠けのある陰性像となった。洗浄やピペッティングを穏やかに実施する必要があった。以下の実施例6および表3の結果から、異なる検体希釈液および0.0375%〜0.0047%というより低い濃度でムチンをキャリアとして使用した場合には、赤血球の固相化に影響はなく、かつWGA非特異検体は陰性を示したことから、ムチンも本発明の非特異反応低減効果を奏することは明らかである。 本実施例の条件下においては、トリプシンインヒビター+WGAは、0.62%トリプシンインヒビター+WGA(10μg/mL〜0.035μg/mL)、0.31%トリプシンインヒビター+WGA(5μg/mL〜0.035μg/mL)、および0.15%トリプシンインヒビター+WGA(2.5μg/mL〜0.07μg/mL)の範囲でWGA非特異反応が陰性化(スコア0または1)した。トリプシンインヒビターは、本実施例の条件下においては、1.25%以上では血球膜にダメージがあり、ケズレを生じた。本実施例の条件下においては、WGA1モルに対してトリプシンインヒビター1モル以上を含むことが好ましいことが明らかになった。 また、WGAを添加していなくてもムチン、オボアルブミン、トリプシンインヒビターだけでもWGA非特異反応は低減されたが、WGAと混合することによって顕著に、より効果的にWGA非特異反応が低減された。 本実施例においては、レクチンとしてWGAを用いて抗原を固相化した免疫測定において、WGAへの非特異的抗体の結合阻害のために、WGAとGlcNAc単糖との混合物を添加しても、結合阻害剤として機能しないことを実証した。しかしながら、アルブミン、ムチンまたはムテイン(トリプシンインヒビター)のような、GlcNAcを含有する高分子とWGAとの混合物を添加したところ、WGAへの非特異的抗体の結合が顕著に低減された。決して理論に拘束されることを望まないが、この事実から、高分子の糖残基含有キャリアが本発明において好ましいものであり得る。また、WGAを添加せずに、アルブミン、ムチンまたはムテインのような糖残基含有キャリアのみを添加することによる偽陽性反応の低減は十分ではなく、レクチンと糖残基含有キャリアとを組み合わせることが結合阻害に重要であることが示された。 なお、本実施例の条件において効果を奏する数値を上記したが、レクチンと糖残基含有キャリアとの比率または量の具体的な数値は、レクチンと抗レクチン抗体の結合阻害を効果的に達成することができる限り必ずしも限定されるものではなく、レクチンと糖残基含有キャリアとを組み合わせことによる効果を達成しうる任意の比率および量が本発明の範囲内に包含されることが理解される。本発明におけるレクチンと糖残基含有キャリアの比率および量は、レクチン種、糖残基キャリア種、レクチンの赤血球凝集活性の消失、検体希釈液の成分、検体の種類等に応じて、当業者は容易に決定することができる。 (実施例6 WGA−各種糖残基含有キャリアによるWGA非特異結合の低減効果の確認) 以下のWGA−各種糖残基含有キャリア添加検体希釈液を使用して、血球固相膜へのダメージ及び、抗Dコントロール検体の反応性、陰性像、WGA非特異検体の反応像を検討した。対象としてWGA−各種糖残基含有キャリア非添加の検体希釈液も使用した。結果を表3に示した。 表3 WGA−各種糖残基含有キャリアによるWGA非特異結合の比較 ややリングとは、粒子の沈降が少し悪い場合をいう。陽性ではないが何かしらの弱い非特異反応が起きている可能性がある。 表3に示したように、0.0375%〜0.0047%ムチン+0.4μg/mL WGA添加検体希釈液、1%〜0.5%オボアルブミン+0.4μg/mL WGA添加検体希釈液、0.2〜0.1%トリプシンインヒビター#T9253+0.4μg/mL WGA添加検体希釈液で陰性となった。陽性の反応の感度は、非添加は64倍までの希釈感度であり、トリプシンインヒビターやオボアルブミンを添加した検体希釈液でも64倍以上であり、抗D抗体の反応に反応低下等の悪影響はなかった。 (実施例7 本発明の結合阻害剤による抗赤血球抗体の反応性への影響) 本実施例では、オボアルブミン−WGA、ムチン−WGA、TI−WGA混合物添加検体希釈液による抗赤血球抗体の反応性への影響を検証した。 抗D抗体、抗C抗体、抗E抗体、抗Fya抗体、抗Fyb抗体、抗Jka抗体、抗Jkb抗体、抗K抗体、抗S抗体、抗s抗体、抗M抗体、抗Lea抗体を陰性血漿を用いて希釈系列を作製し、従来の検体希釈液と、本発明の結合阻害剤添加検体希釈液の反応性を比較した。その結果を表4に示した。オボアルブミン−WGA、ムチン−WGA、TI−WGA混合物添加検体希釈液のいずれの検体希釈液でも、非添加の従来の検体希釈液と比較して希釈感度の低下は認められなかった。 表4 オボアルブミン−WGA、ムチン−WGA、TI−WGA混合物添加検体希釈液による抗赤血球抗体の反応性への影響I−1% #17071オボアルブミン+0.8μg/mL WGAII−0.2% #9253TI+0.4μg/mL WGAIII−0.01%ムチン+0.4μg/mL WGA*同じ希釈でも反応像の広がり方が強い 以上の結果から、本発明の結合阻害剤を使用しても、そのような結合阻害剤を添加していない従来の検体希釈液と比較して、希釈感度は低下しないことが明らかになり、目的とする抗赤血球抗体の検出の妨害になることはなかった。また、図5に示すように本発明の結合阻害剤を使用した検体希釈液はWGA非特異検体を陰性と正確に判定することが実証された。この事は、本発明の結合阻害剤が、免疫測定における偽陽性低減剤として有用であることを示している。 (実施例8 本発明のキットの製造) 本実施例では、本発明のキットの製造について記載する。 上記「方法」において記載するように、赤血球結合用プレートを作製した。具体的には、U字型マイクロプレートに、pH7.0の0.01Mリン酸緩衝液(PBS)を用いて、濃度10μg/mlに調製したWGAを各ウェルに100μlずつ添加し、室温で30分間処理した。次に、pH7.0の0.01M PBSを300μlずつ用いて5回洗浄し、室温で乾燥させることによって、赤血球結合用プレートを得た。 この赤血球結合用プレートと、WGAと、上記実施例5において使用したようなオボアルブミン、ムチンまたはトリプシンインヒビターとを同一の容器に、または別個の容器に包装することによって、本発明のキットを製造することができる。 以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。 本発明により、レクチンにより抗原を固相化して実施される免疫測定において、偽陽性反応を低減する手段が提供され、より特異的な免疫測定が可能になる。レクチンと糖残基含有キャリアとを含む、レクチンと抗レクチン抗体の結合阻害剤。前記キャリアがタンパク質、合成ポリマーまたは糖である、請求項1に記載の結合阻害剤。前記糖残基含有キャリアが、レクチンと抗レクチン抗体の結合を阻害するのに十分な分子量を有する高分子である、請求項1に記載の結合阻害剤。前記レクチンが小麦胚芽レクチンであり、前記糖がN−アセチルグルコサミンである、請求項2に記載の結合阻害剤。前記糖残基含有キャリアが、アルブミン、ムチン、およびムコイドからなる群より選択される、請求項4に記載の結合阻害剤。前記糖残基含有キャリアが、オボアルブミン、ブタ胃由来ムチン、およびオボムコイドからなる群より選択される、請求項4に記載の結合阻害剤。前記糖残基含有キャリアがオボムコイドである、請求項6に記載の結合阻害剤。免疫学的反応検出法であって、 表面にレクチンが吸着された支持体を提供する工程、 該支持体上にレクチン結合性抗原を固相化する工程、 レクチンと糖残基含有キャリアとが混合された混合物を提供する工程、 該混合物の存在下で検体と該支持体上の該抗原とを接触させる工程、および 該抗原における該免疫学的反応を検出する工程を包含する、方法。前記抗原が生物体の一部である、請求項8に記載の方法。前記生物体の一部が赤血球または血小板である、請求項9に記載の方法。前記検体は、前記抗原に結合性の抗体またはその抗原結合性フラグメント、および前記レクチンに結合性の抗体またはその抗原結合性フラグメントを含む検体である、請求項8に記載の方法。前記検体は、血液、血清、および血漿からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。免疫学的反応検出用キットであって、 表面にレクチンが固相化された支持体と、 レクチンと、 糖残基含有キャリアとを含む、キット。レクチン結合性抗原をさらに含む、請求項13に記載のキット。 【課題】レクチンを用いる免疫測定における偽陽性反応の低減のための手段を提供すること。【解決手段】本発明は、レクチンと糖残基含有キャリアとを含む、レクチンと抗レクチン抗体の結合阻害剤を提供する。本発明者は、さらに研究を重ねたところ、レクチンと糖残基含有キャリアとを予め混合し、得られた混合物の存在下で、レクチンにより固相化された抗原と、その抗原に対するサンプル中の抗体との免疫反応の検出を行うと、レクチンとサンプル中の抗レクチン抗体との結合が効果的に阻害されることを見出した。【選択図】なし


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