タイトル: | 公開特許公報(A)_局所脳血流低下に伴う神経系障害の予防または治療のための医薬組成物 |
出願番号: | 2011048837 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 31/198,A61P 25/00,A61P 43/00 |
岩佐 元雄 足立 幸彦 垣内 雅彦 山本 実香 JP 2011116775 公開特許公報(A) 20110616 2011048837 20110307 局所脳血流低下に伴う神経系障害の予防または治療のための医薬組成物 味の素株式会社 000000066 結田 純次 100127926 竹林 則幸 100140132 岩佐 元雄 足立 幸彦 垣内 雅彦 山本 実香 JP 2004019518 20040128 A61K 31/198 20060101AFI20110520BHJP A61P 25/00 20060101ALI20110520BHJP A61P 43/00 20060101ALI20110520BHJP JPA61K31/198A61P25/00A61P43/00 121 2 2005517446 20050126 OL 10 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206FA53 4C206MA03 4C206MA04 4C206NA14 4C206ZA02 4C206ZC75 本発明は、局所脳血流低下に伴う神経系障害の予防または治療のための医薬組成物に関する。 近年、高齢化社会の進展とともに、種々の脳血管疾患が増加している。また、劇症肝炎や肝硬変等の重篤な肝疾患によって生じる意識障害を中心とする神経系障害も増加している。 一般に、原因となる疾患は様々であるが、局所脳血流の低下は、血栓性、塞栓性、血行動態性に分類され、酸素不足、基質供給の減少、代謝産物の蓄積が同時に進行する病態と考えられる。原因となる疾患や血流低下の程度により神経系障害の種類と程度は異なるが、重篤な障害はもとより、比較的軽症であっても、患者のQOLを損なうため、その予防および治療が重要となる。さらに、神経系障害の発生を未然に予防することが重要で、治療効果に即効性を要求される障害であることも特徴としてとらえられている。 比較的軽症の神経系障害としては、例えば年齢に関する認識または記憶の低下、認識能力および集中力の低下が挙げられ、精神的明瞭性や鮮明度を欠き、精神的活力や短期間の記憶、学習に問題のある患者も治療の対象として重要である。 神経系障害の一つに例えば肝性脳症がある。肝性脳症は、劇症肝炎や肝硬変などの重篤な肝障害が原因で生ずる意識障害を中心とする精神神経症状である。肝性脳症における精神神経症状は、肝性脳症の発症しない状態や顕性脳症の発現前には、乏しいか全く見られないと考えられてきた。しかし近年、顕性の肝性脳症のように精神神経症状が明らかでなく、臨床的に肝性脳症とは認められない肝硬変において鋭敏で定量的な精神神経機能検査を行うと精神神経機能の異常が指摘される病態の存在が明らかとなり、これを潜在性肝性脳症と呼んでいる。潜在性肝性脳症の診断には統一した診断基準や精神神経学検査法はないが、精神神経機能検査(記号追跡試験他)および神経学検査(脳波他)などを施行して異常を総合的に診断する方法が試みられている(非特許文献1参照)。潜在性肝性脳症の顕性脳症への移行率はまだ明確にされてはないが、約40%と報告がされており、非常に高い移行率と予想される。したがって、潜在性肝性脳症の顕性脳症への移行率を下げる効果を有する医薬の有用性は高いと考えられる。 神経系障害の治療薬として、血管拡張剤等は一定の効果を挙げているが、副作用を考慮して慎重に前述の患者に投与される。その場合、患者の基礎疾患に対応した薬剤の選択と投与量、投与期間の決定には相当の注意が必要である。また、予防的に前記薬剤が投与されることもあるが、副作用の発現で投与を中断する症例も多くある。 局所脳血流の低下を改善し、副作用が少なく、すみやかな治療効果の発現または予防的効果が期待できる薬剤の提供が期待されているなか、神経保護薬等のニューロン細胞死を防止する低分子化合物、脳細胞代謝改善剤等多くの薬剤による治療方法が提案されているが、脳内における局部的な血流低下に伴い発症する神経障害を副作用なく、また速やかに臨床的に効果を奏する薬剤を見出すには至っていない。 肝硬変患者の低アルブミン血症の改善の改善等を目的とする、イソロイシン、ロイシン及びバリンを有効成分とする分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤として、味の素社製のリーバクト(登録商標)等が使用されている。この分枝鎖アミノ酸製剤の肝硬変症に対する有用性に関しては、窒素平衡や低アルブミン血症の改善、筋蛋白質量の増加など、主に栄養学的効果が検討および報告されてきたが、栄養学的効果以外の効果については、以下のような報告がある。 特許文献1には、平均寿命の延長に伴って、虚血または酸素欠乏を要因の一部とする脳障害が増加し、その代表的な例は脳虚血性発作および老人性痴呆であるとして、これを処置する薬剤としてL−イソロイシンが記載されている。 特許文献1には、L−ロイシンを腹腔内投与した後、動脈結さつしたマウスの呼吸停止までの時間が測定されており、L−ロイシン投与によりマウスの呼吸停止までの時間が延長するとの実験結果を示し、この結果からL−ロイシンの腹腔内投与が脳虚血又は酸素欠乏下の生存時間延長に有効であるとしている。しかし、特許文献1には、局所脳血流低下に伴う神経系障害に対するL−ロイシン投与の効果についてはなんら記載されていない。 特許文献2には、分岐鎖アミノ酸を老人性痴呆患者に3ヶ月間摂取させ、簡易知的機能検査を実施し、分岐鎖アミノ酸の摂取を続けることにより、知的機能の回復がみられ、脳細胞の代謝改善効果があったと考えられるとの記載がある。しかし、単に分岐鎖アミノ酸を投与した場合の知的機能検査に効果があったことが記載され、被験患者の痴呆が脳細胞代謝異常による場合の有用性を示唆しているものの、局所脳血流低下に伴う神経系障害を伴う患者に有用であることや、痴呆患者以外の例えば肝臓疾患による肝性脳症を基礎疾患とする局所脳血流低下に伴う神経系障害に有用であるとの記載はない。 特許文献3では、イソロイシン、ロイシン、アルギニンから選ばれるアミノ酸とグルコースを併用することによる虚血性脳障害治療薬が提案されており、マウスにアルギニンとグルコースを併用した経口投与およびそれぞれ単独投与により、弓状核障害が減少する実験データが記載されている。この結果より、アルギニンやグルコースなどの代表的栄養素が脳虚血による脳内グルタミン酸の異常上昇を抑制あるいは低下させ、弓状核障害で代表される脳障害を予防し、これを治療することができると記載されている。しかし、特許文献3においては、イソロイシンとロイシンについて、アルギニンと同様な効果を奏するかはなんらの実験もなされておらず、脳内局所の例えば弓状核障害改善による神経症状の改善に効果があるかは記載されていないし、脳虚血そのもの、すなわち局所脳血流低下に伴う神経系障害を改善することを示唆する実験データも説明も記載されていない。 非特許文献1には、肝性の顕性脳症の前段階として潜在性肝性脳症と診断される症状があることが記載されている。 さらに本発明者らは、肝硬変患者に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)およびアルギニン等複数のアミノ酸を含有する肝性脳症治療用輸液剤(商品名 モリヘパミン(登録商標)、味の素社製)を経静脈的に投与し、投与前後で脳血流SPECT(single photon emission computed tomography)画像の解析を行い、脳血流は増加し局所脳血流障害が改善する事を既に報告している(非特許文献2参照)。 しかし、前記輸液剤による脳血流改善効果は、輸液投与に伴う循環動態の変化、輸液に含まれるアルギニンによる血管拡張作用などの影響を受けている可能性を否定できていないため、分岐鎖アミノ酸に局所脳血流障害の改善効果があるか否か、また経口投与により短時間に効果を奏するか否かは全く明らかにされていなかった。特開平1−180823号公報(148頁右上欄下から8〜3行、151頁右上欄下2行)特開平2−172915号公報(96頁左下欄、下から7〜6行)特許登録2814529号公報((3)頁第6欄下から9〜4行)加藤章信著、「肝胆膵」47巻1号、2003年7月、63〜73頁、2003年7月28日発行(63頁1はじめに、67〜71頁3潜在性肝性脳症の概念)岩佐元雄著、「肝臓」第43巻 Suppl.(3)、平成14年11月5日、日本肝臓学会発行、第34回 日本肝臓学会東部会講演要旨、A271頁、肝S6−4 本発明は、局所脳血流の低下を改善し神経系障害を治療または予防するための分岐鎖アミノ酸を含む新規な医薬組成物を提供する事を目的とする。 本発明は、イソロイシン、ロイシン及びバリンを有効成分とし、それらの質量比が1:1.9〜2.2:1.1〜1.3であり、経口・経腸で投与することを特徴とする、局所脳血流低下に伴う神経障害の予防または治療に使用するための医薬組成物に関する。 本発明の医薬組成物における1回の有効成分の投与量は、1.0〜50gであることが好ましい。本発明の医薬組成物は、中枢神経系の神経系障害の予防治療に有効である。本発明の医薬組成物は、視床、帯状回、頭頂のいずれか1箇所若しくは2箇所以上の脳血流低下を改善するものである。本発明の医薬組成物は、潜在性肝性脳症に起因する神経系障害の予防治療に有効である。本発明の医薬組成物における特に有用な用途は、潜在性肝性脳症から顕性脳症への移行予防である。 本発明の医薬組成物によれば、経口または経腸投与という簡便な投与によって局所脳血流低下を改善することができ、該局所脳血流低下に伴う神経系障害の予防または治療が可能となる。とくに、潜在肝性脳症から顕性脳症への移行予防に有用である。図1はBCAA顆粒投与前後の脳血流の変化をSPECT画像のSPM解析を用いて調べた結果を示す図である。図2はコーンスターチ顆粒投与前後の脳血流の変化をSPECT画像のSPM解析を用いて調べた結果を示す図である。 以下、本発明を具体的に説明する。 本発明者らは、分岐鎖アミノ酸を有効成分として含有する組成物を経口投与した場合について、脳血流SPECT画像の解析による局所脳血流に対する影響を検討した。その結果、前記組成物が、脳血流SPECT画像の解析により観察される局所脳血流障害を改善する効果、具体的には視床、帯状回および頭頂の脳血流増加効果を有することを見出し、それによって局所脳血流低下に伴う神経系障害の予防または治療が可能であることを見出した。 また、本発明者らは、本発明の医薬組成物が潜在性肝性脳症の顕性肝性脳症への移行率を下げることも見出した。 ここで、脳の構成について説明する。 間脳は互いに積み重なった、視床上部、視床、視床下部の層に区別することができる。視床はさらに背側視床と腹側視床に区別することができる。 背側視床は、感覚路および知覚路(皮膚知覚、味覚、視覚、聴覚及び前庭覚路)の終わるところであり、大脳皮質と連絡している。腹側視床は中脳被蓋の続きであり、この領域は間脳の運動性領域とみなされている。運動障害や痛みの発作は、視床の定位手術によって治療される。また視床の特定部位である視床皮質路を切断することにより興奮状態から沈静状態になること、同時に総体的な無関心と人格の平坦化がみられる。さらに視床枕の障害によって言語障害がおこる。このように、視床の障害は運動や視覚を初めとする感覚器官に影響する。 帯状回(辺縁回)は脳梁を取り巻いており、脳梁辺縁に位置し尾側では海馬溝によって歯状回から分けられており、吻側では終板傍回と梁下野に終わっている。帯状回の皮質は視床下部と植物神経系に影響を及ぼしている。帯状回等の辺縁系は食物の摂取、消化および生殖といった基本的な生命過程の調節に大切な役割を演じている。 頭頂(頭頂葉)には知覚路が終わっており、ここを体性知覚性皮質といい、第1野、第2野及び第3野からなっている。第2野では体肢の位置と運動を記録している。頭頂がおかされた場合には象徴思考の障害が起こってくる。すなわち文字や数字の理解力がなくなるために、読み書きや数を数え計算することが不能となり、三次元的な空間概念がおかされる。 したがって、本願発明は視床、帯状回そして頭頂の局所脳血流低下を改善することにより、各種の神経系障害を予防、治療することができる。 また、神経系障害が潜在性肝性脳症である患者において好適に本発明の予防または治療剤を用いることができる。 本発明の予防または治療のための医薬組成物は、イソロイシン、ロイシン、及びバリンを有効成分とし、医薬上で許容される製剤用物質を含有させることが好ましい。 本発明において有効成分として使用するロイシン、イソロイシン及びバリンの異性体に関しては、L−体、D−体、及びDL−体何れも使用可能であるが、天然に存在するという観点からL−体が好ましい。 イソロイシン、ロイシン及びバリンの配合割合(重量比)において、イソロイシン/ロイシン/バリン=1/1.9〜2.2/1.1〜1.3となるような組成範囲で使用することがより好ましい。 上記本発明で使用する有効成分の投与量(摂取量)について算定する際、本発明の薬剤(本発明で目的とする疾患異常の治療、予防等の目的で使用される薬剤)の有効成分として前記の算定範囲が決められているので、これとは別目的で、例えば通常の食生活の必要から、或いは別の疾患の治療目的で、摂取又は投与される分岐鎖アミノ酸についてはこれを前記算定に含める必要はない。 例えば、通常の食生活から摂取される1日当たりのイソロイシン、ロイシン及びバリンの量を前記本発明における有効成分の1日当たりの投与量から控除して算定する必要はない。 本発明の医薬組成物は、経口投与される。この場合、投与量は投与する患者の症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、一日当たりとして、イソロイシン0.1〜30.0g、ロイシン0.1g〜30.0g、及びバリン0.1〜30.0g程度である。一般成人の場合、好ましくは一日当たりとして、イソロイシン0.5〜10.0g、ロイシン0.5〜10.0g、及びバリン0.5〜10.0g程度、より好ましくはイソロイシン1.0〜5.0g、ロイシン2.0〜8.0g、及びバリン1.0〜5.0g程度である。また1投与当たりの投与量としては、上記1日当たりの投与量を1度に投与しても、数回に分けて投与しても良く、経口投与の場合は、1投与当たり20g以下であることが好ましく、さらに好ましくは10g以下である。 本発明の医薬組成物は、常法により調製することができる。薬理学的に許容し得る各種の製剤用物質(補助剤等として)を含むこともできる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等を挙げることができる。更に、製剤用物質を具体的に例示すると、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール及びその他の糖類、タルク、牛乳蛋白、ゼラチン、澱粉、セルロース及びその誘導体、動物及び植物油、ポリエチレングリコール、及び溶剤、例えば滅菌水及び一価又は多価アルコール、例えばグリセロールを挙げることができる。 製剤用物質としては有効成分の消化管吸収を損なうことのない、矯味剤、矯臭剤、賦形剤、又はコーティング剤から選ばれた少なくとも1種類を含有させることが好ましい。 さらに、本発明の予防または治療剤により1時間以内に局所脳血流低下を改善させるための有効量の有効成分を消化管吸収させることができるよう、易吸収性の製剤に調製するための製剤用物質が好適に選ばれ得る。 本発明においては、他の薬理成分(医薬活性物質)と共に、例えば混合又は組み合わせて使用することができ、このような場合本発明で目的とする有効成分、好ましくはL−イソロイシン、L−ロイシン及びL−バリンの混合物を、特に前記好ましい比率で含有し目的とする前記薬理活性を示すものであれば本発明の医薬組成物に含まれる。尚、本発明においてその有効成分に使用する個々のアミノ酸は、その一部又は全部についてそれぞれ塩の形態で使用することもできる。 本発明の医薬組成物は、前述の如く公知の又は将来開発される様々な医薬製剤の形態、前述の如く例えば、経口投与、腹腔内投与、経皮的投与、経静脈投与、吸入投与等各種の投与形態に調製することができる。本発明の薬剤をこれ等様々な医薬製剤の形態に調製するためには公知の又は将来開発される方法を適宜採用することができる。 これら様々な医薬製剤の形態として、例えば適当な固形又は液状の製剤形態、例えば顆粒、粉剤、被覆錠剤、錠剤、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、ジュース、懸濁液、乳濁液、滴下剤、注射用溶液、活性物質の放出を延長する製剤等を挙げることができる。 以上に例示した製剤形態にある本発明の薬剤には、薬効を奏するに有効な量の前記成分を含有すべきことは当然のことである。 分岐鎖アミノ酸製剤として「リーバクト(R)顆粒」が市販されているが、該製剤にはL−イソロイシン(952mg)、L−ロイシン(1904mg)、L−バリン(1144mg)が含有されており、経口投与可能な顆粒剤であることから、本発明の医薬組成物の一形態として有用な製剤である。 実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。 臨床試験例1(局所脳血流改善効果) 本発明の分岐鎖アミノ酸製剤の局所脳血流に対する効果について試験を行った。(投与対象および投与) 肝硬変と診断された患者35名中10名に対して、表1に示した有効成分を含有する分岐鎖アミノ酸製剤(商品名:リーバクト(R)顆粒、味の素社製)2包(9.48g)を経口投与し(BCAA顆粒投与群)、投与前後の脳血流SPECT画像の解析を施行した。 BCAA顆粒投与群:10例(男性6例、女性4例で、8例は顕性肝性脳症の既往がなく、2例は脳症を反復していたが、検査時、顕性脳症を有する症例はなかった。 対照として、コーンスターチを分岐鎖アミノ酸製剤と同量経口投与し(コーンスターチ群)、BCAA顆粒投与群と同様の解析を施行した。) コーンスターチ群:9例(男性6例、女性3例で、8例は顕性肝性脳症の既往がなく、1例は脳症を反復していたが、検査時、顕性脳症を有する症例はなかった。)(脳血流SPECT画像の解析) 各群共、服用26分前に患者を安静、仰臥位とし、1.5mlの99mTc−ethylcysteinate dimer(ECD)を注入、東芝製SPECT装置GCA−9300A/DIを用いて両剤投与前のベースラインSPECTを撮影した。続いて、両剤投与後60分後に再度ECD1.5mlを投与、SPECTを施行した。 Statistical Parametric Mapping(SPM)ソフトウエア(SPM97)を用い、SPECT画像の統計解析を行った。さらに、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、小脳に関心領域を設定、両剤投与前後の脳血流変化を調べた。結果を図1および図2に示す。 試験の結果、コーンスターチ群では投与前後で脳血流量は変化しなかったが(図2)、BCAA投与群では、投与後1時間で、帯状回、頭頂、および視床の3部位に脳血流の増加が認められた(図1)。 分岐鎖アミノ酸投与により、帯状回、頭頂、および視床の脳血流は増加し、局所血流障害が軽快したことから、分岐鎖アミノ酸は直接中枢神経系に作用し、潜在性肝性脳症患者に有用であることが判った。 臨床試験例2(潜在性肝性脳症患者の顕性脳症予防効果) 本発明分岐鎖アミノ酸製剤の、潜在性脳症の顕性化への移行率に対する効果を調べた。肝硬変と診断された患者35名中、神経機能検査から潜在性脳症と判定された患者10名に対して、実施例1で用いたものと同じ分岐鎖アミノ酸製剤(商品名:リーバクト(R)顆粒、味の素社製)9.48gを2〜42ヶ月間経口投与した。 患者10名中2名に肝性脳症の顕性化が見られた(移行率20%)。 潜在性肝性脳症患者の顕性脳症への移行に関して次の報告がある。Manuel Romero−Gomez,M.D.et al.,Subclinical Hepatic Encephalopathy Predicts the Development of Overt Hepatic Encephalopathy,THE AMERICAN JOURNAL OF GASTROENTEROLOGY,Vol.96,No.9, 2001,pp.2718-2723によれば、34名の潜在性脳症の患者のうち、16名(47%)が顕性脳症に移行したとされている。また、Ieneke J.C.Hartmann,M.D.et al.,The Prognostic Significance of Subclinical Hepatic Encephalopathy,THE AMERICAN JOURNAL OF GASTROENTEROLOGY,Vol.95,No.8, 2000,pp.2029-2034)によれば25名の潜在性脳症の患者のうち、10名(40%)が顕性脳症に移行したとされている。 そこで無処理の場合の移行率を40%として本実施例の結果20%と比較すると、分岐鎖アミノ酸顆粒の投与により顕性脳症への発症率が低下したと考えられる。 実施例1で示された分岐鎖アミノ酸投与による局所脳内血流量の増加がひとつの改善要因となり、顕性脳症発症を予防していると評価できる。 本発明の医薬組成物によれば、経口または経腸投与という簡便な投与によって局所脳血流低下を改善することができ、該局所脳血流低下に伴う神経系障害の予防または治療が可能となる。とくに、潜在肝性脳症から顕性脳症への移行予防に有用である。 イソロイシン、ロイシン、及びバリンを有効成分とし、経口または経腸で投与することを特徴とする、潜在性肝性脳症から顕性脳症への移行予防用医薬組成物。 イソロイシン、ロイシン、バリンの質量比が1:1.9〜2.2:1.1〜1.3である、請求項1に記載の医薬組成物。 【課題】 潜在性肝性脳症から顕性脳症への移行を予防するための分岐鎖アミノ酸を含む新規な医薬組成物を提供する。【解決手段】 本発明は、イソロイシン、ロイシン及びバリンを有効成分とする、潜在性肝性脳症から顕性脳症への移行予防に有効な医薬組成物である。【選択図】 なし