タイトル: | 特許公報(B2)_IgA腎症の予測方法およびIgA腎症患者の選択方法 |
出願番号: | 2010550526 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12Q 1/04,C12N 15/09,C12Q 1/68,G01N 33/569 |
長澤 康行 飯尾 健一郎 猪阪 善隆 福田 真嗣 大野 博司 JP 5170478 特許公報(B2) 20130111 2010550526 20100210 IgA腎症の予測方法およびIgA腎症患者の選択方法 国立大学法人大阪大学 504176911 岩谷 龍 100077012 長澤 康行 飯尾 健一郎 猪阪 善隆 福田 真嗣 大野 博司 JP 2009029227 20090212 20130327 C12Q 1/04 20060101AFI20130307BHJP C12N 15/09 20060101ALI20130307BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20130307BHJP G01N 33/569 20060101ALI20130307BHJP JPC12Q1/04C12N15/00 AC12Q1/68 AG01N33/569 F C12N15/ C12Q1/ CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 野澤はやぶさ 他,病巣感染症における扁桃細菌叢の検討,日本耳鼻咽喉科感染症研究会会誌,2004年 5月 1日,Vol.22, No.1,p.139-146 赤木博文 他,特集・扁桃摘出手術の適応 up date IgA腎症と扁摘,Monthly Book ENTONI,2004年 7月15日,No.39,p.21-26 8 JP2010051909 20100210 WO2010092961 20100819 17 20110630 小暮 道明 本発明はIgA腎症の予測方法およびIgA腎症患者の選択方法に関するものであり、詳細には、IgA腎症の確定診断前に高確率でIgA腎症であることを予測できる方法、および、扁桃摘出が有効なIgA腎症患者を選択する方法に関するものである。 IgA腎症は、腎臓の糸球体メサンギウム領域へのIgAの優位な沈着を認めることを特徴とする慢性糸球体腎炎である。IgA腎症は、日本の慢性糸球体腎炎の大半を占め、単一の腎疾患としては最も多く、そのうちの15〜30%は予後不良で腎不全へ移行する。しかしながら、IgA腎症の疾患の原因は未だ不明であるため、根本的な治療法はない。IgA腎症の確定診断は、腎臓の一部を生検し、メサンギウムにおけるIgA免疫複合体の沈着を免疫学的染色により確認する方法であるため、患者への負担が大きいという問題がある。そこで、腎生検を実施する前に、被験者に対して肉体的な負担をかけることなく、簡便かつ迅速に実施でき、しかも高確率でIgA腎症であることを予測できる方法の開発が望まれている。 また、IgAにはIgA1とIgA2の2種類があり、IgA1は、上部消化管、気道、扁桃で作られ、IgA2は下部消化管で作られることが知られている。IgA腎症において腎臓に沈着しているのはIgA1であることから、近年、IgA腎症患者の扁桃を摘出する治療法が行われている。 非特許文献1には、IgA腎症患者16人に対して扁桃摘出を行い、3年後に56.3%の患者の蛋白尿が寛解したことが報告されている。また、非特許文献2には、IgA腎症患者24人に対して扁桃摘出を行い、6か月後に41.7%、2年後に50%の患者の蛋白尿が寛解したことが報告されている。さらに、非特許文献3には、扁桃摘出とステロイドパルス治療を併用することにより、約60%のIgA腎症患者において尿蛋白および尿潜血の両方が同時に寛解することが報告されている。 しかしながら、約40%のIgA腎症患者には扁桃摘出が無効であり、扁桃摘出の有効性を予め予測することができないという問題があった。扁桃摘出には全身麻酔を伴う手術が必要であり、肉体的な負担が大きいことから、扁桃摘出が有効な患者を高確率で選択する方法の確立が望まれていた。Tokuda M et al. Acta Otolaryngol Suppl 523; 182-184, 1988.Akagi H et al. Acta Otolaryngol Suppl 540; 64-66, 1999.Hotta et al. Am J Kid Dis 38, pp736-743, 2001. 本発明は、被験者に対して肉体的な負担をかけることなく、簡便かつ迅速に実施でき、しかも高確率でIgA腎症であることを予測できる方法を提供することを目的とする。また、本発明は、IgA腎症の治療において扁桃摘出が有効なIgA腎症患者を高確率で選択する方法を提供することを目的とする。 本発明は、上記課題を解決するために、以下の発明を包含する。[1]被験者の扁桃由来の試料に存在するトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する工程を含むことを特徴とするIgA腎症の予測方法。[2]前記工程において、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌に特異的な核酸を検出することを特徴とする前記[1]に記載のIgA腎症の予測方法。[3]前記工程において、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体を用いることを特徴とする前記[1]に記載のIgA腎症の予測方法。[4]トレポネーマ属細菌が、トレポネーマ属細菌から抽出したトータルRNAを逆転写して得られるcDNAを鋳型とし、配列番号1で表わされる塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いるPCRにより検出される細菌から選択される一種以上である前記[1]に記載のIgA腎症の予測方法。[5]トレポネーマ属細菌が、トレポネーマ・デンチコラ、トレポネーマ・ビンセンチ、トレポネーマ・メディウム、トレポネーマ・ソクランスキー、トレポネーマ・ファージデニス、トレポネーマ・ペクチノボラム、トレポネーマ・アミロボラム、トレポネーマ・マルトフィラム、トレポネーマ・ブリアンチ、トレポネーマ・パリダム、トレポネーマ・サッカロフィラム、および、トレポネーマ・サクシニファシエンスからなる群より選択される一種以上である前記[1]に記載のIgA腎症の予測方法。[6]カンピロバクター属細菌が、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ、カンピロバクター・コンシサス、カンピロバクター・カーバス、カンピロバクター・ショワエ、カンピロバクター・ムコサリス、カンピロバクター・フィータス、カンピロバクター・ヒオインテスティナリス、カンピロバクター・スプトラム、カンピロバクター・ヘルベチカス、カンピロバクター・アプサリエンシス、および、カンピロバクター・ラリからなる群より選択される一種以上である前記[1]に記載のIgA腎症の予測方法。[7]被験者が、尿蛋白質検査および尿潜血検査の少なくとも一方について陽性判定を受けていることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載のIgA腎症の予測方法。[8]IgA腎症を予測するためのキットであって、以下の(a)〜(d)の少なくとも1つ以上を包含することを特徴とするキット。(a)トレポネーマ属細菌を特異的に検出するためのプライマーセット(b)カンピロバクター属細菌を特異的に検出するためのプライマーセット(c)トレポネーマ属細菌と特異的に結合する抗体(d)カンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体[9]IgA腎症の治療において扁桃摘出を行うことが有効なIgA腎症患者を選択する方法であって、IgA腎症患者の扁桃由来の試料に存在するトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する工程を含むことを特徴とするIgA腎症患者の選択方法。[10]IgA腎症の治療において扁桃摘出およびステロイドパルス療法を行うことが有効なIgA腎症患者を選択する方法であって、IgA腎症患者の扁桃由来の試料に存在するトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する工程を含むことを特徴とするIgA腎症患者の選択方法。[11]前記工程において、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌に特異的な核酸を検出することを特徴とする前記[9]または[10]に記載のIgA腎症患者の選択方法。[12]前記工程において、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体を用いることを特徴とする前記[9]または[10]に記載のIgA腎症患者の選択方法。[13]トレポネーマ属細菌が、トレポネーマ属細菌から抽出したトータルRNAを逆転写して得られるcDNAを鋳型とし、配列番号1で表わされる塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いるPCRにより検出される細菌から選択される一種以上である前記[9]または[10]に記載のIgA腎症患者の選択方法。[14]トレポネーマ属細菌が、トレポネーマ・デンチコラ、トレポネーマ・ビンセンチ、トレポネーマ・メディウム、トレポネーマ・ソクランスキー、トレポネーマ・ファージデニス、トレポネーマ・ペクチノボラム、トレポネーマ・アミロボラム、トレポネーマ・マルトフィラム、トレポネーマ・ブリアンチ、トレポネーマ・パリダム、トレポネーマ・サッカロフィラム、および、トレポネーマ・サクシニファシエンスからなる群より選択される一種以上である前記[9]または[10]に記載のIgA腎症患者の選択方法。[15]カンピロバクター属細菌が、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ、カンピロバクター・コンシサス、カンピロバクター・カーバス、カンピロバクター・ショワエ、カンピロバクター・ムコサリス、カンピロバクター・フィータス、カンピロバクター・ヒオインテスティナリス、カンピロバクター・スプトラム、カンピロバクター・ヘルベチカス、カンピロバクター・アプサリエンシス、および、カンピロバクター・ラリからなる群より選択される一種以上である前記[9]または[10]に記載のIgA腎症患者の選択方法。[16]IgA腎症の治療において扁桃摘出を行うことが有効なIgA腎症患者を選択するためのキットであって、以下の(a)〜(d)の少なくとも1つ以上を包含することを特徴とするキット。(a)トレポネーマ属細菌を特異的に検出するためのプライマーセット(b)カンピロバクター属細菌を特異的に検出するためのプライマーセット(c)トレポネーマ属細菌と特異的に結合する抗体(d)カンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体 本発明によれば、被験者がIgA腎症であるか否かを、被験者に肉体的な負担をかけることなく簡便かつ迅速に、しかも高確率で予測することができる。また、本発明によれば、IgA腎症の治療において扁桃摘出が有効なIgA腎症患者を、患者に肉体的な負担をかけることなく簡便かつ迅速に、しかも高確率で選択することができる。DGGE法により扁桃細菌叢を網羅的に解析した結果を示す電気泳動像である。摘出扁桃中のトレポネーマ属細菌をRT−PCR法により検出した結果を示す電気泳動像である。摘出扁桃中のカンピロバクター・レクタスをRT−PCR法により検出した結果を示す電気泳動像である。扁桃におけるトレポネーマ属細菌の有無と扁桃摘出+ステロイドパルス療法の治療効果を示す図である。扁桃におけるヘモフィルス属細菌の有無と扁桃摘出+ステロイドパルス療法の治療効果を示す図である。扁桃におけるカンピロバクター属細菌の有無と扁桃摘出+ステロイドパルス療法の治療効果を示す図である。 本発明者らは、腎生検でIgA腎症と診断された患者および慢性扁桃炎患者から摘出された扁桃における細菌叢を網羅的に解析した結果、IgA腎症患者と慢性扁桃炎患者との間で扁桃細菌叢が異なることを見出し、IgA腎症患者には、トレポネーマ属細菌、ヘモフィルス属細菌、カンピロバクター属細菌が存在する確率が高いことを見出した。この知見から、扁桃にトレポネーマ属細菌、ヘモフィルス属細菌、カンピロバクター属細菌のいずれかが存在すればIgA腎症である確率が高いことが明らかとなった。これらの中で、ヘモフィルス属細菌については本願出願前にIgA腎症との関連が示唆されていたが、IgA腎症患者の扁桃において、トレポネーマ属細菌およびカンピロバクター属細菌の陽性率が高いことは、本発明者らが初めて見出したことである。 さらに、本発明者らは、IgA腎症患者のうち扁桃においてトレポネーマ属細菌が検出された患者、またはカンピロバクター属細菌が検出された患者に対して扁桃摘出療法を行うことが非常に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明はIgA腎症の予測方法であり、被験者の扁桃由来の試料に存在するトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する工程を含むことを特徴としている。また、本発明は、IgA腎症の治療において扁桃摘出を行うこと、または扁桃摘出およびステロイドパルス療法を行うことが有効なIgA腎症患者の選択方法であり、IgA腎症患者の扁桃由来の試料に存在するトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する工程を含むことを特徴としている。 本発明のIgA腎症の予測方法の対象となる被験者は特に限定されないが、IgA腎症の発症が疑われる者であることが好ましい。IgA腎症の発症が疑われる者としては、尿蛋白質検査および尿潜血検査の少なくとも一方について陽性判定を受けている者が挙げられる。より具体的には、例えば、学校健診、会社健診などの健診時や外来診察時などで実施される検尿で、蛋白尿および血尿が指摘され再検査でも検尿異常が持続する者が挙げられる。IgA腎症では蛋白尿と血尿の両者を伴うことが多いが、血尿のみを呈する場合もあるので、どちらか一方の陽性が持続する者を被験者とすることが好ましい。尿蛋白質陽性(蛋白尿)の判定および尿潜血陽性(血尿)の判定は、例えば、一般的な尿検査に使用される公知の尿検査試験紙を用いることにより行うことができる。 従来は、IgA腎症の発症が疑われた場合、腎生検を行って組織学的検査を行わなければ診断することができなかったので、結果としてIgA腎症でないと診断された被験者は、不要な肉体的負担を受けたことになる。本発明のIgA腎症の予測方法を用いれば、IgA腎症発症の確率が高い被験者のみについて腎生検を行うことができ、不要な肉体的負担を回避することが可能となる。 本発明のIgA腎症患者の選択方法の対象となるIgA腎症患者は限定されない。好ましくは、過去に扁桃摘出術を行っていないIgA腎症患者である。 従来、約40%のIgA腎症患者には扁桃摘出が無効であったが、本発明のIgA腎症患者の選択方法を用いれば、扁桃摘出が有効である確率が高い患者のみに扁桃摘出を行うことができるので、不要な肉体的負担および経済的負担を回避することが可能となる。 以下、本発明のIgA腎症の予測方法と本発明のIgA腎症患者の選択方法とを合わせて「本発明の方法」と称し、両方法に共通の項目について詳細に説明する。 本発明の方法において、検出対象となるトレポネーマ属細菌は特に限定されず、扁桃に存在し得るトレポネーマ属細菌はすべて検出対象となる。このようなトレポネーマ属細菌としては、例えばトレポネーマ属細菌から抽出したトータルRNAを逆転写して得られるcDNAを鋳型とし、フォワードプライマー(TTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAAC、配列番号1)とリバースプライマー(GTCRYMGGCAGTTCCGCCWGAGTC、配列番号2)とからなるプライマーセットを用いるPCRにより検出される細菌が挙げられる。ここで、塩基記号のRはグアニン(G)またはアデニン(A)を表し、Yはチミン(T)またはシトシン(C)を表し、Mはアデニン(A)またはシトシン(C)を表し、Wはアデニン(A)またはチミン(T)を表す。 具体的には、例えば、トレポネーマ・デンチコラ(Treponema denticola)、トレポネーマ・ビンセンチ(Treponema vincentii)、トレポネーマ・メディウム(Treponema medium)、トレポネーマ・ソクランスキー(Treponema socranskii)、トレポネーマ・ファージデニス(Treponema phagedenis)、トレポネーマ・ペクチノボラム(Treponema pectinovorum)、トレポネーマ・アミロボラム(Treponema amylovorum)、トレポネーマ・マルトフィラム(Treponema maltophilum)、トレポネーマ・ブリアンチ(Treponema bryantii)、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)、トレポネーマ・サッカロフィラム(Treponema saccharophilum)、トレポネーマ・サクシニファシエンス(Treponema succinifaciens)などが挙げられる。 本発明の方法において、検出対象となるカンピロバクター属細菌は特に限定されず、扁桃に存在し得るカンピロバクター属細菌はすべて検出対象となる。このようなカンピロバクター属細菌としては、例えば、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・コンシサス(Campylobacter concisus)、カンピロバクター・カーバス(Campylobacter curvus)、カンピロバクター・ショワエ(Campylobacter showae)、カンピロバクター・ムコサリス(Campylobacter mucosalis)、カンピロバクター・フィータス(Campylobacter fetus)、カンピロバクター・ヒオインテスティナリス(Campylobacter hyointestinalis)、カンピロバクター・スプトラム(Campylobacter sputorum)、カンピロバクター・ヘルベチカス(Campylobacter helveticus)、カンピロバクター・アプサリエンシス(Campylobacter upsaliensis)、カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)などが挙げられる。なかでも、カンピロバクター・レクタスが好ましい。 本発明の方法に供される試料は、被験者または患者の扁桃由来の試料であればよい。例えば、扁桃組織、扁桃ぬぐい液などから調製したDNA、RNA、細胞懸濁液、細胞破砕液などが挙げられる。これらの試料は、いずれも当業者に周知の方法で調製することができる。 トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する方法は、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を特異的に検出できる方法であれば特に限定されない。例えば、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌に特異的な核酸を検出する方法、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体を用いる方法などが挙げられる。 上記核酸を検出する方法における核酸はDNAでもRNAでもよい。本発明には、公知の核酸検出方法を好適に用いることがきる。具体的には、例えば、PCR法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、RT−PCR法、in Situ ハイブリダイゼーション法、in Situ PCR法、DNAアレイ法などが挙げられる。なかでも、検出感度、操作の簡便さ、迅速性、低コスト性の観点から、RT−PCR法を用いることが好ましい。RT−PCR法を用いてトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する場合、試料には、扁桃組織、扁桃ぬぐい液などから調製したトータルRNAが使用される。トータルRNAは、公知の方法で調製することができる。 RT−PCR法は、当業者に周知の方法で実施することができる。例えば、扁桃組織、扁桃ぬぐい液などから調製したトータルRNAから、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、このcDNAを鋳型として検出対象細菌由来のDNA断片を特異的に増幅するプライマーセットを用いてPCRを行う方法が挙げられる。検出対象細菌由来のDNA断片を特異的に増幅するプライマーセットは特に限定されず、公知のデータベース(例えば、GenBankなど)から検出対象細菌のゲノム配列情報やリボゾーマルRNAの配列情報を取得して、公知の方法によりプライマーを設計すればよい。以下に、本発明の方法に好適に用いることができるプライマーセットを例示するが、これらに限定されるものではない。 トレポネーマ属に細菌を特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:TTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAAC(配列番号1) リバースプライマー :GTCRYMGGCAGTTCCGCCWGAGTC(配列番号2)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、657bpのDNA断片が増幅されることが期待される(J Clin Microbiol, 2002. 40(9): p.3334-40.)。 トレポネーマ・デンチコラを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:TAATACCGAATGTGCTCATTTACAT(配列番号3) リバースプライマー :CTGCCATATCTCTATGTCATTGCTCTT(配列番号4)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、860bpのDNA断片が増幅されることが期待される(J Clin Microbiol, 2002. 40(9): p.3334-40.)。 トレポネーマ・ビンセンチを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:GTCTCAATGGTTCATAAGAA(配列番号5) リバースプライマー :CAAGCCTTATCTCTAAGACT(配列番号6)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、851bpのDNA断片が増幅されることが期待される(J Clin Microbiol, 2002. 40(9): p.3334-40.)。 トレポネーマ・メディウムを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:CACTCAGTGCTTCATAAGGG(配列番号7) リバースプライマー :CCGGCCTTATCTCTAAGACC(配列番号8)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、851bpのDNA断片が増幅されることが期待される(J Clin Microbiol, 2002. 40(9): p.3334-40.)。 カンピロバクター・レクタスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:TTTCGGAGCGTAAACTCCTTTTC(配列番号9) リバースプライマー :TTTCTGCAAGCAGACACTCTT(配列番号10)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、598bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Archives of Oral Biology, 2006. 51: p.10-14.)。 カンピロバクター・ジェジュニを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:AGAATGGGTTTAACTCGTGTGATAAGT(配列番号11) リバースプライマー :TACCACGCAAAGGCAGTATAGCT(配列番号12)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、493bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・コリを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:AAATGCTAGTGCTAGGGAAAAAGACTCT(配列番号13) リバースプライマー :TGAGGTTCAGGCACTTTTACACTTACTAC(配列番号14)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、96bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・コンシサスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:AGCGGGCCTAACAAGAGTTATTACA(配列番号15) リバースプライマー :TGTAAGCACGTCAAAAACCATCTTT(配列番号16)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、217bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・カーバスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:CTGCCAAAGTAAGGACGCAAGTATA(配列番号17) リバースプライマー :GGCAAGATCGCCTGAAATACG(配列番号18)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、108bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・ショワエを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:AGGGTTTAAGCATAGGAACGCTG(配列番号19) リバースプライマー :CACCAGATAAAGCTCGCTGATCG(配列番号20)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、86bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・ムコサリスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:TGCGATTATGAACAAGGCCCTA(配列番号21) リバースプライマー :TCGCTTGAAACACACGGTCA(配列番号22)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、224bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・フィータスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:AGAGCTGGGCTTACAAGAGCTATTACA(配列番号23) リバースプライマー :GGTAAAATCGCTTGAAACGCTCTAT(配列番号24)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、482bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・ヒオインテスティナリスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:CGGTCAAAAGATGACTTTTGAAGTACTT(配列番号25) リバースプライマー :GCTTCCCTGCCACGAGCT(配列番号26)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、108bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・スプトラムを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:AGCTTTACTTGCTGCAAGAGGAAGA(配列番号27) リバースプライマー :AGGAAGCGTTCCAACAGAAAAGTT(配列番号28)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、94bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・ヘルベチカスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:CAATAACATACGCACACCAGATGGA(配列番号29) リバースプライマー :CAGGCACTTTAACGCTCACTATGG(配列番号30)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、176bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・アプサリエンシスを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:GCTTACGCGTGTAATTACAAACTATGTC(配列番号31) リバースプライマー :AATTGCCTTAGCCTCGATAGGG(配列番号32)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、250bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 カンピロバクター・ラリを特異的に検出可能なプライマーセットとして、 フォワードプライマー:CTATGTTCGTCCTATAGTTTCTAAGGCTTC(配列番号33) リバースプライマー :CCAGCACTATCACCCTCAACTAAATAA(配列番号34)のセットが挙げられる。当該プライマーセットを用いることにより、250bpのDNA断片が増幅されることが期待される(Appl Environ Microbiol, 2008. 74(8): p. 2529-33.)。 トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体を用いる方法における抗体は、トレポネーマ属細菌を検出する場合にはトレポネーマ属細菌と特異的に結合する抗体であればよく、カンピロバクター属細菌を検出する場合にはカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体であればよい。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、完全な抗体分子でもよく特異的に結合し得る抗体フラグメント(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント等)でもよい。トレポネーマ属細菌と特異的に結合する抗体(ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗体フラグメント)およびカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体(ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗体フラグメント)は、検出対象細菌の構成成分を免疫原として用いることにより、公知の方法で作製し、取得することができる。 トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体を用いる方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA法)、固相酵素免疫検定法(ELISA法)、放射免疫測定法(RIA法)、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、免疫組織化学法、抗体アレイ法などが挙げられる。なかでも、検出感度、操作の簡便さ、迅速性、低コスト性の観点から、ELISA法を用いることが好ましい。ELISA法を用いてトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する場合、試料には、扁桃組織、扁桃ぬぐい液などから調製した細胞懸濁液や細胞破砕液などが好適に使用される。 ELISA法は、当業者に周知の方法で実施することができる。例えば、検出対象の細菌と特異的に結合する一次抗体をマイクロプレートのウェルやプラスチックチューブなどの固相に結合させ、これに扁桃由来の試料(細胞懸濁液や細胞破砕液など)を添加し、洗浄後、酵素標識した二次抗体を添加する。未結合の二次抗体を洗浄、除去したのち、発色基質を添加して生成した発色物質の量を分光光度計で吸光度を測定する方法が挙げられる。 本発明の方法は、キットを用いることにより簡便かつ迅速に実施することができる。したがって本発明は、IgA腎症を予測するための試薬キット、および、扁桃摘出が有効なIgA腎症患者を選択するための試薬キット(以下、両キットを合わせて「本発明のキット」と称する。)を提供する。 本発明のキットの一実施形態として、トレポネーマ属細菌を特異的に検出するためのプライマーセットおよびカンピロバクター属細菌を特異的に検出するためのプライマーセットから選択される少なくとも一種以上のプライマーセットを備えるRT−PCR用キットを提供することができる。プライマーセット以外のキットの構成品は特に限定されないが、例えば、組織または細胞からRNAを調製するための試薬、逆転写酵素、逆転写反応に用いる緩衝液、耐熱性DNAポリメラーゼ、PCR用試薬、PCR用チューブ、PCR用プレートなどを含むことが好ましい。 本発明のキットの他の実施形態として、トレポネーマ属細菌と特異的に結合する抗体およびカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体から選択される少なくとも一種以上の抗体を備えるELISA用キットを提供することができる。抗体以外のキットの構成品は特に限定されないが、例えば、標識された二次抗体、発色用試薬、洗浄用緩衝液、ELISA用プレートなどを含むことが好ましい。 さらに、本発明のキットの他の実施形態として、DNAアレイを備えるキット、抗体アレイを備えるキットなどが挙げられる。 以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。〔実施例1:IgA腎症患者における扁桃細菌叢の検討〕(1)患者の登録 大阪大学医学部付属病院に入院し、腎生検でIgA腎症と診断された患者68名と、慢性扁桃炎で扁桃摘出を行った28名に対して、書面での同意文書を得て、扁桃摘出時の扁桃サンプルを得た。扁桃は摘出後、直ちにTrizol(invitrogen)を用いてRNA抽出を行い、RNAとして保存を行った。IgA腎症の患者扁桃の検討については大阪大学医学部付属病院倫理委員会の許可を得て、実施した。(2)DGGE(Denaturing Gradient Gel Electroforesis)法による扁桃細菌叢の網羅的解析 IgA腎症の患者ならびに慢性扁桃炎の患者の扁桃から得たRNAを逆転写し、得られたcDNAを鋳型として、細菌の16SリボゾーマルRNAのV6・V8領域に対するPCRプライマーセットであるuniversal bacterial primers 954f(CGCCCGCCGCGCCCCGCGCCCGGCCCGCCGCCCCCGCCCCGCACAAGCGGTGGAGCATGTGG、配列番号35)と1369r(GCCCGGGAACGTATTCACCG、配列番号36)を用いて、PCRを行った(参考文献:Yu, Z. and M. Morrison, Comparisons of different hypervariable regions of rrs genes for use in fingerprinting of microbial communities by PCR-denaturing gradient gel electrophoresis. Appl Environ Microbiol, 2004. 70(8): p.4800-6.)。各PCR反応液は100ngのDNA、10pmolの各プライマー、0.16mMのデオキシヌクレオチド三リン酸、5μLの10×Blend Taq buffer(東洋紡)、および1.25UのBlend Taq polymerase(東洋紡)含有し、蒸留水で最終容量を50μLとした。PCRの条件は1回目に、95℃で4分間の融解、95℃で30秒間の変性、61℃で30秒間のアニーリング、および72℃で1分間の伸長を行った後、0.5度ずつアニーリング温度を下げながら、95℃で4分間融解、95℃で30秒間の変性、サイクルごとの温度で30秒間のアニーリング、および72℃で1分間の伸長で10サイクルを行った。さらに、56℃のエクステンションを用いて25サイクル行い、最後に72℃で2時間の伸長を行った。 PCR産物をDCode universal mutation detection System(Bio-Rad laboratories)を用いて82V、60℃で15時間の電気泳動を行った。電気泳動用ゲルは、アクリルアミド/ビス30%溶液29:1(Bio-Rad laboratories Cat_No.161-0156)を用いて作製した。マーカーには、DGGE Marker II(10fragments)(株式会社ニッポンジーン社 Cat_No.315-06404)を使用した。電気泳動後のゲルをSYBR Green I(Lonza, Rockland, ME USA)で染色後、ゲル撮影装置GelDoc XR(Bio-Rad laboratories)を用いて、サンプルごとのバンドの位置と強度(バンドの濃さ)のデータを得た(参考文献:Muyzer, G., et al., Denaturant gradient gel electrophoresis in microbial ecology. Molecular Microbial Ecology Manual, Vol. 3.4.4, 1998: p. pp.1-27.)。 得られたバンドの位置と強度のデータについて多変量解析(PLS−DA)を行うことにより、IgA腎症と慢性扁桃炎との間で扁桃細菌叢が異なることが示された。また、Loading plot analysisを行うことにより、IgA腎症に特徴的なバンドが見出された。 電気泳動の結果を図1に示した。図1において、染色されたバンドがそれぞれ扁桃に存在した菌を表し、A、BおよびCの矢印で示したバンドがIgA腎症に特徴的なバンドであった。これらのバンドを切り出し、TAクローニングを行い、定法にしたがって塩基配列を決定し、公知の遺伝子データベースに登録された塩基配列との相同性検索を行ったところ、Aのバンドがトレポネーマ属細菌(Treponema sp.)と高い相同性を示し、Bのバンドがヘモフィルス・セグニス(Haemophilus segnis)と高い相同性を示し、Cのバンドがカンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)と高い相同性を示すことが明らかとなった。 IgA腎症患者68名と、慢性扁桃炎患者28名について、上記A、B、Cのバンドに該当する細菌の陽性率を表1に示した。データの統計学的解析にはt検定を用いた。表1から明らかなように、IgA腎症患者の扁桃には、トレポネーマ(Treponema)属の細菌、ヘモフィルス(Haemophilus)属の細菌、カンピロバクター(Campylobactor)属の細菌が存在する確率が高いことが示された。この中で、ヘモフィルス(Haemophilus)属の細菌については、IgA腎症患者の糸球体内および血清中にHaemophilus parainfluenzaeの構成成分が検出されたことが報告されており(Suzuki, et al. Lancet 1994)、IgA腎症との関連が示唆されているが、IgA腎症患者の扁桃において、トレポネーマ属の細菌およびカンピロバクター属の細菌の陽性率が高いことは、今回初めて明らかとなり、扁桃におけるトレポネーマ属の細菌、または、カンピロバクター属の細菌の存在を検出することが、IgA腎症の診断に有用であることが実証された。〔実施例2:RT−PCR法による摘出扁桃中のトレポネーマ属細菌の検出〕 トレポネーマ属細菌(Treponema sp.)に特異的なプライマーセットとして、文献「Asai, Y., et al., Detection and quantification of oral treponemes in subgingival plaque by real-time PCR. J Clin Microbiol, 2002. 40(9): p.3334-40.」に記載のtotal treponemas プライマー(Forward Primer:TTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAAC(配列番号1)、Reverse Primer:GTCRYMGGCAGTTCCGCCWGAGTC(配列番号2))を合成し、使用した。具体的には、実施例1に記載のIgA腎症の患者ならびに慢性扁桃炎の患者の扁桃から得たRNAを逆転写し、得られたcDNAを鋳型として、上記プライマーセット(配列番号1および2)を用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間変性させた後、95℃30秒、69.5℃60秒、72度1分のサイクルを25回行った。反応液をアガロースゲルで電気泳動した後、ゲルで泳動後SYBR Green I(Lonza, Rockland, ME USA)で染色し、ゲル撮影装置GelDoc XR(Bio-Rad laboratories)で画像を得た。 電気泳動の結果を図2に示した。実施例1のDGGE法でトレポネーマ属陽性のサンプルは、657bpの位置のバンドが出現し、陰性のサンプルはバンドが出現しないことが確認された。この結果から、扁桃中に存在するトレポネーマ属細菌をRT−PCRにより検出できることが示された。〔実施例3:RT−PCR法による摘出扁桃中のカンピロバクター・レクタスの検出〕 カンピロバクター・レクタスに特異的なプライマーセットとして、文献「Hayashi, F., et al., Subgingival distribution of Campylobacter rectus and Tannerella forsythensis in healthy children with primary dentition. Archives of Oral Biology, 2006. 51: p.10-14.」に記載のプライマー(Forward Primer:TTTCGGAGCGTAAACTCCTTTTC(配列番号9)、Reverse Primer:TTTCTGCAAGCAGACACTCTT(配列番号10))を合成し、使用した。プライマー以外は、実施例2と同様に行った。 電気泳動の結果を図3に示した。実施例1のDGGE法でカンピロバクター・レクタス陽性のサンプルは、598bpの位置のバンドが出現し、陰性のサンプルはバンドが出現しないことが確認された。この結果から、扁桃中に存在するカンピロバクター・レクタスをRT−PCRにより検出できることが示された。〔実施例4:扁桃ぬぐい液中のトレポネーマ属細菌およびカンピロバクター・レクタスのRT−PCR法による検出〕 IgA腎症の患者の扁桃を直視下に、清潔な綿棒で擦過してぬぐい液を採取した。採取した扁桃ぬぐい液からTrizol(invitrogen)を用いてRNAを抽出した。このRNAを逆転写して得られたcDNAを鋳型とし、上記トレポネーマ属細菌に特異的なプライマーセット(配列番号1,2)またはカンピロバクター・レクタスに特異的なプライマーセット(配列番号9,10)を用いて、実施例2と同様の条件でPCRを行った。 その結果、扁桃ぬぐい液をサンプルとした場合でも、トレポネーマ属細菌およびカンピロバクター・レクタスがRT−PCR法により検出可能であることが示された。これにより、サンプル採取における患者の負担を大幅に軽減できることが明らかとなった。〔実施例5:扁桃に存在する細菌と治療効果との相関〕 扁桃から検出される細菌の種類と、扁桃摘出+ステロイドパルス療法の有効性との相関の有無を調査した。 扁桃摘出+ステロイドパルス療法のプロトコールは以下のとおりである。すなわち、扁桃切除の1週間後〜10日後に、3日間のステロイドパルス療法(500mgのステロイドの静脈投与)を行い、10〜14日間、体重1Kgあたり1mg(最大60mg)のプレドニン(ステロイド剤)を経口投与する。その後、もう一度3日間のステロイドパルス療法を行い、30mgのステロイド剤を経口投与する。この時期に退院し、その後外来にて5mgずつ減量し、半年〜1年で投与を中止する。 入院中(2回のステロイドパルス終了まで)は約3回/週の尿検査を行い、退院後は1〜2か月に1回の尿検査を行うことにより、尿蛋白および尿潜血が陰性化したか否かを確認した。 結果を図4(A)〜(C)に示した。(A)はトレポネーマ属の細菌、(B)はヘモフィルス属の細菌、(C)はカンピロバクター属の細菌についての結果を示したものである。縦軸の陽性率は、尿蛋白および尿潜血のいずれか一方が陽性であれば陽性として算出した。また、統計解析ソフトJMPを使用して、Kaplan−Meier methodを用いた生存曲線解析を行った。 図4(A)から明らかなように、扁桃からトレポネーマ属細菌が検出されたIgA腎症患者に扁桃摘出+ステロイドパルス療法を行うと、2年以内に全患者の尿蛋白および尿潜血の両方が陰性(完全寛解)となった。一方、扁桃からトレポネーマ属細菌が検出されなかった患者では、完全寛解した患者は40%未満であった。 図4(B)から明らかなように、扁桃におけるヘモフィルス属細菌の存在の有無は、扁桃摘出+ステロイドパルス療法の有効性に影響を及ぼさなかった。 図4(C)から明らかなように、扁桃からカンピロバクター属細菌が検出されたIgA腎症患者に扁桃摘出+ステロイドパルス療法を行うと、40カ月後に約70%の患者が完全寛解(尿蛋白陰性+尿潜血陰性)した。一方、扁桃からカンピロバクター属細菌が検出されなかった患者では、完全寛解した患者は30%未満であった。 この結果から、扁桃におけるトレポネーマ属細菌陽性、または、カンピロバクター属細菌陽性のIgA腎症患者に対して扁桃摘出+ステロイドパルス療法を行うことは非常に有効であることが明らかとなった。 以上の結果から、尿検査において尿蛋白および尿潜血が陽性である被験者の扁桃からトレポネーマ属細菌およびカンピロバクター属細菌のいずれか、または両方が検出された場合、IgA腎症である可能性が非常に高いと判定することができる。さらに、扁桃においてトレポネーマ属細菌およびカンピロバクター属細菌のいずれか、または両方が検出されたIgA腎症患者には、扁桃摘出+ステロイドパルス療法が非常に有効であると扁桃摘出前に予測することが可能である。 なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。 IgA腎症の治療において扁桃摘出を行うことが有効なIgA腎症患者を選択する方法であって、IgA腎症患者の扁桃由来の試料に存在するトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する工程を含むことを特徴とするIgA腎症患者の選択方法。 IgA腎症の治療において扁桃摘出およびステロイドパルス療法を行うことが有効なIgA腎症患者を選択する方法であって、IgA腎症患者の扁桃由来の試料に存在するトレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌を検出する工程を含むことを特徴とするIgA腎症患者の選択方法。 前記工程において、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌に特異的な核酸を検出することを特徴とする請求項1または2に記載のIgA腎症患者の選択方法。 前記工程において、トレポネーマ属細菌またはカンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のIgA腎症患者の選択方法。 トレポネーマ属細菌が、トレポネーマ属細菌から抽出したトータルRNAを逆転写して得られるcDNAを鋳型とし、配列番号1で表わされる塩基配列からなるプライマーと、配列番号2で表わされる塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いるPCRにより検出される細菌から選択される一種以上である請求項1または2に記載のIgA腎症患者の選択方法。 トレポネーマ属細菌が、トレポネーマ・デンチコラ、トレポネーマ・ビンセンチ、トレポネーマ・メディウム、トレポネーマ・ソクランスキー、トレポネーマ・ファージデニス、トレポネーマ・ペクチノボラム、トレポネーマ・アミロボラム、トレポネーマ・マルトフィラム、トレポネーマ・ブリアンチ、トレポネーマ・パリダム、トレポネーマ・サッカロフィラム、および、トレポネーマ・サクシニファシエンスからなる群より選択される一種以上である請求項1または2に記載のIgA腎症患者の選択方法。 カンピロバクター属細菌が、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ、カンピロバクター・コンシサス、カンピロバクター・カーバス、カンピロバクター・ショワエ、カンピロバクター・ムコサリス、カンピロバクター・フィータス、カンピロバクター・ヒオインテスティナリス、カンピロバクター・スプトラム、カンピロバクター・ヘルベチカス、カンピロバクター・アプサリエンシス、および、カンピロバクター・ラリからなる群より選択される一種以上である請求項1または2に記載のIgA腎症患者の選択方法。 IgA腎症の治療において扁桃摘出を行うことが有効なIgA腎症患者を選択するためのキットであって、以下の(a)〜(d)の少なくとも1つ以上を包含することを特徴とするキット。(a)トレポネーマ属細菌を特異的に検出するためのプライマーセット(b)カンピロバクター属細菌を特異的に検出するためのプライマーセット(c)トレポネーマ属細菌と特異的に結合する抗体(d)カンピロバクター属細菌と特異的に結合する抗体配列表