タイトル: | 特許公報(B2)_高いシュウ酸分解能を有する乳酸菌 |
出願番号: | 2010531847 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 1/20,A23L 1/30,A61K 35/74,A61P 13/04,A61P 13/12,A61P 7/06,A61P 19/10,A61P 3/00,C12R 1/225 |
越智 大輔 坪井 洋 JP 5632289 特許公報(B2) 20141017 2010531847 20090929 高いシュウ酸分解能を有する乳酸菌 株式会社明治 000006138 清水 初志 100102978 春名 雅夫 100102118 山口 裕孝 100160923 刑部 俊 100119507 井上 隆一 100142929 佐藤 利光 100148699 新見 浩一 100128048 小林 智彦 100129506 渡邉 伸一 100130845 大関 雅人 100114340 五十嵐 義弘 100114889 川本 和弥 100121072 越智 大輔 坪井 洋 JP 2008254975 20080930 20141126 C12N 1/20 20060101AFI20141106BHJP A23L 1/30 20060101ALI20141106BHJP A61K 35/74 20060101ALI20141106BHJP A61P 13/04 20060101ALI20141106BHJP A61P 13/12 20060101ALI20141106BHJP A61P 7/06 20060101ALI20141106BHJP A61P 19/10 20060101ALI20141106BHJP A61P 3/00 20060101ALI20141106BHJP C12R 1/225 20060101ALN20141106BHJP JPC12N1/20 AA23L1/30 ZA61K35/74 AA61P13/04A61P13/12A61P7/06A61P19/10A61P3/00C12N1/20 AC12R1:225 C12N 1/20 PubMed JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus/BIOSIS(STN) 国際公開第2007/070677(WO,A2) 特表2007−513639(JP,A) J.Appl.Microbiol.,2007 Nov,103(5),p.1600-9 FEMS Microbiol.Ecol.,2007 Jul,61(1),p.110-20 13 IPOD FERM BP-11005 IPOD FERM BP-11004 IPOD FERM BP-11007 IPOD FERM BP-11006 JP2009066881 20090929 WO2010038714 20100408 18 20120516 渡邉 潤也 本発明は、高いシュウ酸分解能を有する乳酸菌、及び、その用途に関する。 尿路結石は腹部に激痛を伴うことが多く、この痛みは、結石が尿路を通る時の刺激等により、突然起きる。腎臓結石は無症状の場合も多いが、無症状の結石を放置していると水腎症による腎機能低下や細菌感染などを引き起こすこともある。 近年、ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の開発により、尿路結石の治療はめざましく発展し、治療成績も格段に向上している。しかし、日本における尿路結石の2005年の年間罹患率(人口10万人対)は134となっており、年々増加傾向にあり、再発率も高い(非特許文献1)。このため、今後は単に結石を自然に排石させたり破砕したりするという治療だけではなく、その予防にも力を入れることが重要になっていると考えられる(非特許文献2)。 しかし、水分の摂取や食事習慣の改善、薬物療法以外に有効な結石予防手段はないとされており、例えば、食事習慣の改善では動物性タンパク質の過剰摂取制限、一定量のカルシウム摂取(600〜800mg/日)、塩分、脂肪の過剰摂取の制限、クエン酸の摂取などが挙げられる。またシュウ酸の摂取を控えることでシュウ酸カルシウム結石ができるのを防ぐとされている(非特許文献3)。 日本では腎尿路結石症のなかで、カルシウム含有結石は85%以上を占めており、さらにカルシウム含有結石の75%がシュウ酸カルシウム結石である(非特許文献4)。シュウ酸カルシウム結石の原因としては過カルシウム尿症や過シュウ酸尿症などが考えられる(非特許文献5)。 現在、主な尿路結石の治療法としては、猪苓湯などの排石を促進させるものが多く使用されているが、結石形成を阻止する目的で使用されている薬剤で確立されたものはない。 微生物を用いた予防としてはOxalobacter formigenesと呼ばれる腸管内に存在する細菌が、腎結石の再発リスクを減少させる可能性がある(非特許文献6)という報告もあり、シュウ酸分解能を有する腸内菌を使用することで腎結石を予防することも十分可能であると考えられる。乳酸菌は整腸作用や抗アレルギー作用など数多くの生理効果を有することが報告されており、シュウ酸分解能に関してもいくつかの種で報告がなされている(特許文献1)。また、シュウ酸分解能を高めた変異株やシュウ酸分解能を高めるために前もってシュウ酸を含む培養液で植継ぎを行うことによってシュウ酸分解能を誘導した状態では、ある程度シュウ酸分解能を高められる事が知られている(特許文献2、非特許文献7)。 なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。特許公表2003-500451特許公表2008-517628Prevalence and epidemiological characteristics of urolithiasis in Japan: national trends between 1965 and 2005.Urology 71:209-213,2008日本泌尿器科学会雑誌87巻6号p900〜908「再発予防ガイドライン」『尿路結石症診療ガイドライン 改訂版(2004年版)』腎と透析1987臨時増刊号結石に関する代謝系の検査法.臨床泌尿器科:小川由英45;47,1991Duncan, et al, Appl Environ Microbiol. 2002 Aug;68(8):3841-7Transcriptional and Functional Analysis of Oxalyl-Coenzyme A (CoA) Decarboxylase and Formyl-CoA Transferase Genes from Lactobacillus acidophilus. Applied and Environmental Microbiology.2006 Mar;72(3):1891-1899 本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、高いシュウ酸分解能を有する乳酸菌、該乳酸菌の処理物、シュウ酸又はシュウ酸化合物を分解するための方法、シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化された組成物の製造方法を提供することである。さらには、該乳酸菌、又は、該処理物を含む組成物やシュウ酸又はシュウ酸化合物の分解剤を提供することも課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、従来知られているシュウ酸分解活性を有する乳酸菌よりも数倍高いシュウ酸分解活性を有する乳酸菌を単離し、本発明を完成した。具体的には、シュウ酸を大量に分解可能な乳酸菌を得ることを目的に鋭意選定作業を行った。ヒト成人の糞便及び胃液より独自に分離したLactobacillus属乳酸菌132菌株から、シュウ酸を大量に分解可能な乳酸菌をスクリーニングした。その結果、10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上であることを特徴とする乳酸菌を見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔22−2〕を提供するものである。〔1〕Lactobacillus属に属する乳酸菌であって、10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上であることを特徴とする乳酸菌。〔2〕Lactobacillus属に属する乳酸菌が、Lactobacillus gasseri種又はLactobacillus amylovorus種である、〔1〕に記載の乳酸菌。〔3〕以下の(a)から(d)からなる群より選択される乳酸菌:(a)受託番号:FERM BP-11005として寄託されている乳酸菌Lactobacillus gasseri OLL203195株; (b)受託番号:FERM BP-11007として寄託されている乳酸菌Lactobacillus amylovorus OLL2741株;(c)受託番号:FERM BP-11006として寄託されている乳酸菌Lactobacillus amylovorus OLL2880株;及び(d)受託番号:FERM BP-11004として寄託されている乳酸菌Lactobacillus gasseri OLL2727株。〔4〕〔1〕から〔3〕いずれか一項に記載の乳酸菌の処理物。〔5〕〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物を含む、組成物。〔6〕腎臓・尿路結石を治療、及び/又は、予防するための、〔5〕に記載の組成物。〔7〕貧血を治療、及び/又は、予防するための、〔5〕に記載の組成物。〔8〕骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための、〔5〕に記載の組成物。〔9〕医薬組成物である〔5〕から〔8〕いずれか一項に記載の組成物。〔10〕食品組成物である〔5〕から〔8〕いずれか一項に記載の組成物。〔11〕〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物の分解剤。〔12〕シュウ酸又はシュウ酸化合物を、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物に接触させる工程を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物を分解するための方法。〔13〕シュウ酸又はシュウ酸化合物を含む組成物を、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物に接触させる工程を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化された組成物の製造方法。〔14−1〕〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物を対象に投与する工程を含む、腎臓・尿路結石を治療、及び/又は、予防するための方法。〔14−2〕〔5〕に記載の組成物を対象に投与する工程を含む、腎臓・尿路結石を治療、及び/又は、予防するための方法。〔15−1〕〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物を対象に投与する工程を含む、貧血を治療、及び/又は、予防するための方法。〔15−2〕〔5〕に記載の組成物を対象に投与する工程を含む、貧血を治療、及び/又は、予防するための方法。〔16−1〕〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物を対象に投与する工程を含む、骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための方法。〔16−2〕〔5〕に記載の組成物を対象に投与する工程を含む、骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための方法。〔17〕腎臓・尿路結石を治療、及び/又は、予防するための医薬組成物の製造における、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物の使用。〔18〕貧血を治療、及び/又は、予防するための医薬組成物の製造における、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物の使用。〔19〕骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための医薬組成物の製造における、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物の使用。〔20−1〕腎臓・尿路結石を治療、及び/又は、予防するための方法に使用するための、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物。〔20−2〕腎臓・尿路結石を治療、及び/又は、予防するための方法に使用するための、〔5〕に記載の組成物。〔21−1〕貧血を治療、及び/又は、予防するための方法に使用するための、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物。〔21−2〕貧血を治療、及び/又は、予防するための方法に使用するための、〔5〕に記載の組成物。〔22−1〕骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための方法に使用するための、〔1〕、〔2〕若しくは〔3〕に記載の乳酸菌、又は、〔4〕に記載の処理物。〔22−2〕骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための方法に使用するための、〔5〕に記載の組成物。シュウ酸分解能の高い乳酸菌(Lactobacillus属)を食事性高シュウ酸尿症モデル動物に経口投与し、尿中シュウ酸値を測定した結果を示す図である。L. amylovorus OLL2880株投与群(第4群)は投与開始後3日目、5日目および7日目において、尿中シュウ酸値上昇の有意な抑制が観察された(図中の*)。また、L.gasseri OLL2727株投与群(第3群)についても、尿中シュウ酸値上昇の有意な抑制が観察された。 本発明は、Lactobacillus属に属する乳酸菌であって、10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上であることを特徴とする乳酸菌(以下、「本発明の乳酸菌」と称す)に関するものである。 Lactobacillus 属は、乳酸菌の代表的な属の一つで、80種以上の種を含む。Lactobacillus属に含まれる種の例として、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis、Lactobacillus casei、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus amylovorus(以降、L. amylovorusともいう。)、Lactobacillus gallinarum、Lactobacillus gasseri(以降、L. gasseriともいう。)、Lactobacillus oris、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus brevis、Lactobacillus plantarumを挙げることができる。本発明のLactobacillus 属乳酸菌は、10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上であることを特徴とする乳酸菌である限りいずれの種であってもよいが、好ましくは、Lactobacillus gasseri種又はLactobacillus amylovorus種であり、例えば、本発明者によって単離されたLactobacillus gasseri OLL203195株、Lactobacillus amylovorus OLL2741株、Lactobacillus amylovorus OLL2880株、及び、Lactobacillus gasseri OLL2727株が挙げられる。 本発明の乳酸菌は、10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上であるという特徴を有する乳酸菌である。本発明者は、多数の乳酸菌についてシュウ酸分解活性を測定し、Lactobacillus gasseri OLL203195株、Lactobacillus amylovorus OLL2741株、Lactobacillus amylovorus OLL2880株、又は、Lactobacillus gasseri OLL2727株と名付けた乳酸菌が、10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上であることを具体的に見出した。 シュウ酸とは、ジカルボン酸の一種であり分子量90.03g/mol、CAS登録番号144-62-7である。野菜(ほうれん草、タケノコ)等の各種食品に含まれており、えぐみの一因ともなる。また、シュウ酸はミネラルと塩を形成しやすく血中のシュウ酸濃度が上昇した場合は、不溶性のカルシウム塩が形成され、尿路結石等の疾病につながる。 「10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上である」は、「5mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH4、4時間培養において、生菌数当たりのシュウ酸分解量が3.0×10-9 μmol/cfu以上である」、「5mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH4、4時間培養において、L.amylovorus JCM1126Tよりも17倍以上のシュウ酸分解活性を有する」、又は、「5mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH4、4時間培養において、シュウ酸分解率が28%以上である」と言い換えることができる。「シュウ酸分解率」は実施例1等で後述する式に従って算出することができる。 本発明の乳酸菌は、公知方法によって分離することができる。例えば、ヒト等の哺乳類の糞便から菌を培養し、培養した菌の形状、生理学的特徴等からLactobacillus属乳酸菌を分離し、シュウ酸分解活性を測定し、10mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH6.5、72時間培養において、シュウ酸分解率が50%以上であるLactobacillus属乳酸菌を選別することで単離可能である。シュウ酸分解活性の測定は公知方法によって可能であり、一例を示せば、本実施例の方法により可能である。 本発明の乳酸菌を培養するには、一般的に乳酸桿菌の培養に適した培地であれば良く、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、トレハロース、シュクロース、マンノース、セロビオース等の炭素源、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、イーストエキストラクト、カゼイン、ホエイタンパク質等の窒素源、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン等の無機栄養素を含む培地を用いることができる。好適な例の一つとして、Lactobacilli MRS Broth (Difco、以降MRS培地ともいう。)を挙げることができる。培養条件は、腸内乳酸菌が生育し得る条件であれば、特に制限はないが、好ましい条件としては、例えば、 pH5.0−pH8.0、温度20℃−45℃であり、より好ましい条件としては、嫌気性、pH5.0−pH7.0、温度30℃−40℃である。 本発明の「Lactobacillus gasseri OLL203195株」、及び、「Lactobacillus gasseri OLL2727株」は、本発明者によって、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託された。以下に、寄託を特定する内容を記載する。(1)寄託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(2)連絡先:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6 郵便番号 305-8566 電話番号 029-861-6029, 6079(3)識別のための表示:Lactobacillus gasseri OLL203195(受託番号:FERM BP-11005、原寄託日:平成20年9月2日) 識別のための表示:Lactobacillus gasseri OLL2727(受託番号:FERM BP−11004、原寄託日:平成20年9月2日) Lactobacillus gasseri OLL203195株(受託番号:FERM BP-11005)、及び、OLL2727株(受託番号:FERM BP-11004)は、グラム陽性桿菌であり、Lactobacilli MRS Agar, Difco上でのコロニー形態は円形、淡黄色、扁平状である。生理学的特徴としては、ホモ乳酸発酵形式、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、シュクロース、セロビオース、ラクトース、トレハロースに対する発酵性、45℃での発育性を有する。菌体増殖においては培養中の培地のpHは5.0〜7.0に維持することが好ましい。 培地としては乳酸菌の培地に通常用いられる培地が使用される。すなわち主炭素源のほか窒素源、無機物その他の栄養素を程良く含有する培地ならばいずれの培地も使用可能である。炭素源としてはラクトース、グルコース、シュクロース、フラクトース、澱粉加水分解物、廃糖蜜などが使用菌の資化性に応じて使用できる。窒素源としてはカゼインの加水分解物、ホエイタンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物が使用できる。ほかに増殖促進剤として肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス等が用いられる。 培養は嫌気条件下で行うことが望ましいが、通常用いられる液体静置培養などによる微好気条件下でもよい。嫌気培養には炭素ガス気層下で培養する方法などの公知の手法を適用することができるが、他の方法でもかまわない。培養温度は一般に30〜40℃が好ましいが、菌が生育する温度であれば他の温度条件でもよい。培養中の培地のpHは5.0〜7.0に維持することが好ましいが、菌が生育するpHであれば他のpH条件でもよい。また、バッチ培養条件下で培養することもできる。培養時間は通常10〜24時間が好ましいが、菌が生育することができる時間であれば、他の培養時間であってもよい。 本発明の「Lactobacillus amylovorus OLL2741株」、及び、「Lactobacillus amylovorus OLL2880株」は、本発明者によって、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託された。以下に、寄託を特定する内容を記載する。(1)寄託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(2)連絡先:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6 郵便番号 305-8566 電話番号 029-861-6029, 6079(3)識別のための表示:Lactobacillus amylovorus OLL2741(受託番号:FERM BP-11007、原寄託日:平成20年9月2日) 識別のための表示:Lactobacillus amylovorus OLL2880(受託番号:FERM BP-11006、原寄託日:平成20年9月2日) Lactobacillus amylovorus OLL2741株(受託番号:FERM BP-11007)、及び、OLL2880株(受託番号:FERM BP-11006)は、グラム陽性桿菌であり、Lactobacilli MRS Agar, Difco上でのコロニー形態は円形、淡黄色、扁平状である。生理学的特徴としては、ホモ乳酸発酵形式、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、シュクロース、セロビオース、トレハロースに対する発酵性、45℃での発育性を有する。菌体増殖においては培養中の培地のpHは5.0〜7.0に維持することが好ましい。 培地としては乳酸菌の培地に通常用いられる培地が使用される。すなわち主炭素源のほか窒素源、無機物その他の栄養素を程良く含有する培地ならばいずれの培地も使用可能である。炭素源としてはグルコース、シュクロース、フラクトース、澱粉加水分解物、廃糖蜜などが使用菌の資化性に応じて使用できる。窒素源としてはカゼインの加水分解物、ホエイタンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物が使用できる。ほかに増殖促進剤として肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス等が用いられる。 培養は嫌気条件下で行うことが望ましいが、通常用いられる液体静置培養などによる微好気条件下でもよい。嫌気培養には炭素ガス気層下で培養する方法などの公知の手法を適用することができるが、他の方法でもかまわない。培養温度は一般に30〜40℃が好ましいが、菌が生育する温度であれば他の温度条件でもよい。培養中の培地のpHは5.0〜7.0に維持することが好ましいが、菌が生育するpHであれば他のpH条件でもよい。また、バッチ培養条件下で培養することもできる。培養時間は通常10〜24時間が好ましいが、菌が生育することができる時間であれば、他の培養時間であってもよい。 また、本発明は、本発明の乳酸菌の処理物(以下、「本発明の処理物」と称す)に関するものである。 処理物としては、例えば、培養物、濃縮物、ペースト化物、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、液状物、希釈物、破砕物等が挙げられるが、これらに限定されない。 本発明の処理物は、公知方法によって得ることができる。例えば、培養物又は濃縮物であれば、本発明の乳酸菌の培養終了後の培養上清や培地成分をそのまま用いたり、あるいは培地を濃縮したり等することで得ることができる。また、破砕物であれば、本発明の乳酸菌や乳酸菌含有物を公知の適当な装置を用いて破砕することにより得ることができる。 本発明の乳酸菌及び処理物は、シュウ酸若しくはシュウ酸化合物を分解するために、またはシュウ酸が関与する疾病、例えば、腎臓・尿路結石、貧血、骨粗しょう症等の治療や予防のために利用することができる。 また、本発明の乳酸菌及び処理物のシュウ酸分解活性を利用して、本発明の乳酸菌及び処理物が投与された対象の体内において、食品に含まれるシュウ酸の吸収を抑制することができる。 本発明において「対象」とは、シュウ酸が関与する疾病に罹患している、又はそのおそれのある生物体、などを挙げることができる。本発明の乳酸菌及び処理物が投与される生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物、ペット等)を含む。 また、本発明は、本発明の乳酸菌又は処理物を含む組成物(以下、「本発明の組成物」と称す)に関する。 本発明の組成物は、例えば、培地成分、経口経管摂取に適した添加物及び水などの溶媒、等を含んでいてもよい。その他、後述する医薬上許容される担体や糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、生体必須微量金属、香料等を含んでいてもよい。 本発明の組成物は、シュウ酸若しくはシュウ酸化合物を分解するために、またはシュウ酸が関与する疾病、例えば、腎臓・尿路結石、貧血、骨粗しょう症等の治療や予防のために利用することができる。 本発明の組成物としては、例えば、医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と称す)が挙げられる。 本発明の医薬組成物は、本発明の乳酸菌及び処理物以外に医薬上許容される担体を含むことができ、経口、あるいは非経口的に投与することができるが、好ましい投与方法は、経口投与である。担体としては、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が医薬上許容される担体として挙げられるが、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。 経口投与製剤としては、周知の各種剤型とすることができ、例えば、顆粒剤、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、トローチ剤等の剤型とすることができる。また、当業者に周知の方法で腸溶性製剤とすることにより、胃酸の効果を受けることなく、本発明の乳酸菌及び処理物をより効率的に腸まで運ぶことも可能である。 本発明の乳酸菌及び処理物を用いて製造された医薬組成物は、医薬組成物中の同菌の作用によって、シュウ酸分解活性やシュウ酸が関与する疾病の予防および/または治療効果を発揮するものと期待できる。さらに、上記医薬組成物は、投与される対象の体内において、食品に含まれるシュウ酸の吸収を抑制する効果を発揮するものと期待できる。 また、本発明の組成物としては、例えば、食品組成物(以下、「本発明の食品組成物」と称す)が挙げられる。 本発明の食品組成物は、本発明の乳酸菌及び処理物以外に、乳酸菌生育を妨げない限り、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウム、等)、香料やその他の配合物を含むことができる。 糖質としては、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。 タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。 脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。 ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。 本発明の食品組成物のカテゴリーや種類に制限はなく、機能性食品、特定保健用食品、特定用途食品、栄養機能食品、健康食品、介護用食品でも良く、また、菓子、乳酸菌飲料、チーズやヨーグルト等の乳製品、調味料等であっても良い。飲食品の形状についても制限はなく、固形、液状、流動食状、ゼリー状、タブレット状、顆粒状、カプセル状など、通常流通し得るあらゆる飲食品形状をとることができ、各種食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品その他の市販食品等)に添加してもよい。上記飲食品の製造は、当業者の常法によって行うことができる。 本発明の乳酸菌及び処理物は、上記の通り乳製品・発酵乳を含む一般飲食品に加工できる他、ヨーグルトやチーズ等の乳製品・発酵乳の製造用スターターとして利用することも可能である。スターターとする場合は、本発明の乳酸菌の生息・増殖に支障がない限り、また、乳製品製造に支障がない限り、他の微生物が混合されていても良い。例えば、ヨーグルト用乳酸菌として主要な菌種であるLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Streptococcus thermophilus、Lactobacillus acidophilus等と混合しても良く、その他、一般にヨーグルト用やチーズ用として用いられる菌種と混合してスターターとすることができる。上記スターターによる乳製品、発酵乳の製造は、常法に従って行うことができる。例えば、加温・混合・均質化・殺菌処理後に冷却した乳または乳製品に、上記スターターを混合し、発酵・冷却することにより、プレーンヨーグルトを製造することができる。 さらに、本発明は、本発明の乳酸菌、及び、処理物の用途に関する。 用途としては、例えば、本発明の乳酸菌又は処理物を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物の分解剤が挙げられる。当該分解剤は、シュウ酸やシュウ酸化合物を分解する。 当該分解剤は、本発明の乳酸菌又は処理物以外に上述の医薬上許容される担体や、上述の糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウム、等)、香料やその他の配合物を含むことができる。また、当該シュウ酸分解剤の剤型としては、例えば、上述の剤型を挙げることができる。 また、当該分解剤は、「シュウ酸又はシュウ酸化合物を、本発明の乳酸菌、又は、本発明の処理物に接触させる工程を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物を分解するための方法」と言い換えることもできる。 上記工程により、シュウ酸又はシュウ酸化合物を効率よく分解することが可能となる。上記工程は、本発明の乳酸菌が生存可能、または本発明の乳酸菌による発酵が可能な条件で行なわれることが好ましい。 また、用途としては、例えば、本発明の乳酸菌又は処理物を対象に投与する工程を含む、腎臓・尿路結石・貧血・骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための方法が挙げられる。 上記「対象」とは、本発明の乳酸菌又は処理物を投与する生物体、該生物体の体内の一部分、または生物体より摘出または排出されたその一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。 本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。例えば、経口投与、経管投与、経腸投与を例示できる。 経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することが出来る。 非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができる。また、本発明の乳酸菌又は処理物を、処置を施したい領域に局所的に投与することも出来る。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用により投与することも可能である。 さらに、本発明の乳酸菌及び処理物のシュウ酸分解活性を利用して、シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化された組成物を製造することも可能である。本発明のシュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化された組成物の製造方法は、シュウ酸又はシュウ酸化合物を含む組成物を、本発明の乳酸菌又は処理物に接触させる工程を含む。この工程により、該組成物に含まれるシュウ酸又はシュウ酸化合物の量を効率よく低減させることが可能となる。ここで、「シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化された」とは、上記シュウ酸又はシュウ酸化合物を含む組成物中のシュウ酸又はシュウ酸化合物の量が、上記工程を経る前に比べて上記工程を経た後の方が少ないことを意味する。例えば、上記工程を経た後のシュウ酸又はシュウ酸化合物の量が、上記工程を経る前のシュウ酸又はシュウ酸化合物の量に比べて、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上少ない場合、シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化されたということができる。また、上記工程を経た後の組成物中にシュウ酸又はシュウ酸化合物が全く含まれていない場合も、シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化されたということができる。 上記「シュウ酸化合物」としては、例えば、シュウ酸金属塩、シュウ酸アンモニウム塩及びシュウ酸のアミン塩等のシュウ酸化合物、あるいは、野菜等の植物に含まれるシュウ酸塩等を挙げることができる。より具体的には、例えば、シュウ酸塩の有機塩または無機塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、シュウ酸水素ナトリウム、カリウム塩)、シュウ酸鉄、及び、シュウ酸水和物等を挙げることができる。また、「シュウ酸化合物」は、「シュウ酸源」又は「水に溶解してシュウ酸イオンを生じる化合物」と表現することもできる。 なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。<基準株>L.gasseri JCM1131TL.amylovorus JCM1126T[実施例1] 以下で用いる供試乳酸菌としては、明治乳業株式会社保有の乳酸菌株、理化学研究所微生物系統保存施設(JCM)、より入手した乳酸菌株を使用した。菌株名にOLLと記載された菌株は明治乳業株式会社保有菌株を示す。菌株名にJCMと記載された菌株は理化学研究所微生物系統保存施設(JCM)保有菌株を示す。 各供試乳酸菌の菌体を、滅菌した10%(w/v)スキムミルク培地(明治乳業株式会社)中に分散し、使用するまでディープフリーザー中で-80℃下に保存した。 下記方法により、シュウ酸に対する分解活性を有する菌の1次スクリーニングを実施した。 当社保有の乳酸菌27菌種の中から各種について数株、合計41菌株を用いた。 各菌株は嫌気培養するために酸素吸収・炭酸ガス発生剤(「アネロパック・ケンキ」(三菱ガス化学株式会社製))と共に密閉容器に入れ、MRS培地(Difco、Detroit、MI、USA)で嫌気培養(37℃、16時間)した。次いで、得られた培養液のOD600を測定し、OD600=1になるように調整した。その後、OD600を調整した培養液5μLをMRS培地(Difco、Detroit、MI、USA)と20mMシュウ酸アンモニウム溶液を等量混合した培地5mL(pH6.5、50μmolのシュウ酸を含む)に添加し得られる菌体懸濁液を「アネロパック・ケンキ」と共に密閉容器に入れ、37℃で72時間、静置培養した。 得られた培養液を10倍希釈し、OD600を吸光度計を用いて測定した。 得られた培養液1mLを、15000回転/分、4℃、1分間遠心分離し、上清500μLに内部標準液として30mMクロトン酸溶液50μLを添加し、その後carrez試薬(carrezI溶液(100mLの蒸留水に53.5gのZnSO4・7H2O)、carrezII溶液(100mLの蒸留水に17.2gのK4[Fe(CN)6]・3H2O))で除タンパクし、10000回転/分、4℃、3分間遠心分離した。上清を0.22μmフィルターを用いて採取した。その後該液をHPLCに供した。尚、下記の溶液中でのシュウ酸測定にはすべて上記記載の方法を使用しており、HPLCはすべての実験で、以下の条件で実施した。<分析機器>高速液体クロマトグラフィー:SCL-10A(島津製作所製)<分析条件>カラム:有機酸分析用ポリマーカラム 東京化成工業(株)/TRANSGENOMIC社 ICSep ICE-ORH-801 6.5mmI.D×300mmGuard Kit:有機酸分析用ガードカラムカートリッジ ICSep ICE-ORH-801 4.0mmI.D×20mm検出器:電気伝導度検出器(島津CDD-10A)移動相:5mM p-トルエンスルホン酸水溶液反応液:5mM p-トルエンスルホン酸・100μM EDTA(2Na)/20mM Bis-Tris水溶液オーブン温度:50℃流量:0.5mL/min(移動相・反応液ともに)サンプル量:10μL シュウ酸およびクロトン酸をHPLC保持時間により決定した。またこれら各化合物の定量を、HPLCチャートのピーク面積値に基づき行った。更にシュウ酸の分解率を下式に従い算出した。分解率(%)={(a-X)/a}*100a:反応前の培地中におけるシュウ酸の濃度X:反応後の培養上清におけるシュウ酸の濃度 本試験は、特許公表2003-500451の実施例1とほぼ同様の手法で実施した。その結果、特許公表2003-500451の実施例1では、分解率が最高値で11.79%であるのに対し、本試験ではL.gasseri、L.amylovorus及びBifidobacterium adolescentis種の中に分解率が非常に高い菌株が存在した。また、上記の4菌株では56%以上の分解率であった。つまり、本発明で見出した表1の4菌株は特許公表2003-500451で見出された菌株と比較して約5倍(4.86倍)以上の高いシュウ酸分解活性を有することが明らかとなった。[実施例2] 実施例1で活性の高かったL.gasseri OLL2727株を用いて、以下の検討を行った。 菌株は嫌気培養するために酸素吸収・炭酸ガス発生剤(「アネロパック・ケンキ」(三菱ガス化学株式会社製))と共に密閉容器に入れ、MRS培地(Difco、Detroit、MI、USA)で嫌気培養(37℃、16時間)した。次いで、得られた培養液のOD600を測定し、OD600=5になるように調整した。その後、OD600=5に調整した培養液5mLを3000回転/分、室温、10分間遠心分離して集菌した。得られた菌を0.8%生理食塩水で洗浄し、再度3000回転/分、室温、10分間遠心分離して集菌した。 2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(nacalaitesqe)42.65g、グルコース(wako)5g、NaCl(wako)0.9g、KH2PO4(wako)0.4g、(NH4)2SO4(wako)0.45g、MgSO4・7H2O(wako)0.09g、CaCl2(関東化学)0.05g、K2HPO4(wako)0.4g及びL-システイン塩酸塩1水和物(wako)0.5gに水を加えて1Lとしたものを培地Bとした。この培地Bと10mMシュウ酸アンモニウム溶液を等量ずつ加え、微量の塩酸もしくは水酸化ナトリウムでpHを4及び6に調製し、0.45μmのフィルターで滅菌したものを培地Aとした。 得られた菌に、培地A(pH=4 及び 6)を5mL添加し、得られる菌体懸濁液を「アネロパック・ケンキ」と共に密閉容器に入れ、37℃で6時間、静置培養した。 得られた培養液中のシュウ酸量及び分解率を実施例1記載の方法に従って測定及び算出した。 この結果、pH6.0に比べてpH4.0で活性が高くなることがわかった。このことより、低pHである胃内においても菌株が生存し、かつシュウ酸分解活性を発揮する可能性が示された。すなわち、胃内においてシュウ酸分解活性を有する菌株であるといえる。pH6では、pH4に比べて活性は低いものの菌株が生存し、かつシュウ酸分解活性を有している。腸内のpHは通常6.5付近であるので、腸内においても菌株が生存し、かつシュウ酸分解活性を発揮する可能性が示された。また、腸内の乳酸菌が産生する乳酸により腸内が局所的に低pHになることも考えられ、低pHである胃だけでなく、腸内でのシュウ酸分解も期待される。[実施例3] そこでL.gasseri、L.amylovorusが属しており、当社が保有するヒト由来のL.acidophilus グループ 132株で以下の実験を行った。 下記方法により、本発明微生物のシュウ酸に対する分解活性を測定、評価した。 各菌株は嫌気培養するために酸素吸着剤(「アネロパック・ケンキ」(三菱ガス株式会社製))と共に密閉容器に入れ、MRS培地(Difco、Detroit、MI、USA)で嫌気培養(37℃、16時間)した。次いで、得られた培養液のOD600を測定し、OD600=5になるように調整した。その後、OD600=5に調整した培養液5mLを3000回転/分、室温、10分間遠心分離して集菌した。得られた菌を0.8%生理食塩水で洗浄し、再度3000回転/分、室温、10分間遠心分離して集菌した。 得られた菌に実施例2にて使用した培地A 5mL(pH4、25μ molのシュウ酸を含む)を添加し、得られる菌体懸濁液を「アネロパック・ケンキ」と共に密閉容器に入れ、37℃、pH4で4時間、静置培養した。次いで得られた培養液中のシュウ酸量及び分解率を実施例1記載の方法に従って測定及び算出した。 それぞれの種の基準株の生菌数当りのシュウ酸分解量に対して、生菌数当りのシュウ酸分解量が10〜20倍以上のシュウ酸分解活性の高い株を得ることができた。 今回スクリーニングを実施した132株中シュウ酸分解活性が0であった株は42株、0.1mM以下であった株は34株、1mM以下であった株は49株、1mM以上であった株は7株であり、シュウ酸分解活性が高い株は非常に少なかった。動物の体内におけるシュウ酸分解効果を期待する場合には短時間でシュウ酸分解活性が高いということは有利であると考えられる。 今回はヒト由来株を使用していることから、当該ヒト由来株が生きてヒト消化管内を通過できる可能性も十分考えられ、プロバイオティクスとして使用可能であると考えられる。pH4で4時間という短時間での分解量が多い菌であることから、胃内でシュウ酸を大量に分解することができれば、小腸より下流に持ち込まれるシュウ酸量が減り、腸でシュウ酸を分解する菌よりも効果的に尿中シュウ酸量を軽減させることが可能である。また腸内のpHは通常6.5付近であるものの、腸内の乳酸菌が産生する乳酸により、腸内が局所的に低pHになることも考えられ、低pHである胃だけでなく、腸内でのシュウ酸分解も可能であると考えられる。 このようにして、Lactobacillus gasseri OLL203195株、Lactobacillus amylovorus OLL2741株、Lactobacillus amylovorus OLL2880株及びLactobacillus gasseri OLL2727株の4菌株は特許公表2003-500451で見出された菌株と比較して約5倍(4.86倍)以上の高いシュウ酸分解活性を有することが明らかとなった。[実施例4]乳酸菌の尿中シュウ酸低減作用に関するin vivoの実験方法 食事性高シュウ酸尿症モデル動物を作製し、該動物の尿中シュウ酸値に及ぼす微生物(乳酸菌)の影響を検討した。上記方法は具体的には、シュウ酸2水和物を0.075重量%で含む混水を調製して、ラットに摂取させ、摂取後からの尿中シュウ酸値を陰性群や対照群と比較する方法である。〔材料および実験手順〕〔微生物〕 in vitro試験でシュウ酸分解能が高いと判断された、Lactobacillus gasseri 2727株(以下において、場合により「Lactobacillus」を「L.」と略す)、L. amylovorus 2880株の2株を使用した。各種の乳酸菌からin vitro試験と同様にして菌体懸濁液を調製した。菌体懸濁液を1×1010 CFU/10mL/kgでラットへ経口投与した。菌体懸濁液はグルコース(wako)2.5g、NaCl(wako)0.45g、KH2PO4(wako)0.2g、(NH4)2SO4(wako)0.2g、MgSO4・7H2O(wako)0.045g、CaCl2(関東化学)0.025g、K2HPO4(wako)0.2g、L-システイン塩酸塩1水和物(wako)0.25gに水を加えて1Lとした溶液を使用した。(以下において、この溶液を溶液Xとする)〔実験動物〕 ラット(Wister SPF、雄、7週齢)を使用した。飼育(馴化と試験)には、ラット用プラスチックケージを使用し、1ケージ当たり1匹のラットを収容した。明暗サイクルは明期を午前7時〜午後7時(12時間)とした。〔予備飼育(馴化)と群分け〕 実験動物は搬入した後に1週間の予備飼育(馴化)を行った。馴化中には、餌(飼料)としてカルシウム量を50mg/100gに調製したAIN-93G(オリエンタル酵母工業(株))(以下において、この飼料を特殊AIN-93Gとする)、飲水として注射用水(大塚)を自由摂取させた。予備飼育したラット(入荷7日後、8週齢、Day0)を代謝ケージにて24時間尿(入荷6日午前から7日午前)を採尿した。この尿を2N塩酸を用いてpHを5に調製し、シュウ酸カルシウム沈殿を避けるために1L当り0.5gのEDTAを加えた。得られた尿中のシュウ酸値を実施例1に記載した方法に従ってHPLCにて測定した。また、クレアチニン測定キット(ラボアッセイクレアチニン(Jaffe法)(和光純薬))を用いて尿中クレアチニンを測定した。方法は説明書の指示に従い、マイクロプレート法で実施した。 群分けは各群の尿中シュウ酸量が同等になるように行った。試験には、1群当たり7匹のラット(陰性群のみ3匹)を使用し、陰性群(第1群)、対照群(第2群)、菌体投与群(第3、4群)の合計4群を設定した。群名、餌、水、投与物(投与用量)、匹数などを以下に示す。・陰性群(第1群):「特殊AIN-93G」給餌、「注射用水」給水、投与なし、3匹・対照群(第2群):「特殊AIN-93G」給餌、「シュウ酸2水和物を0.075重量%で含む注射用水」給水、「溶液X」投与(10mL/kg)、7匹 ・菌体投与群(第3、4群):いずれの群も、「特殊AIN-93G」給餌、「シュウ酸2水和物を0.075重量%で含む注射用水」給水、7匹。各群の投与菌体および投与量は、 第3群は、「L. gasseri 2727株の溶液Xの懸濁液(1×109 CFU/mL)」投与(10mL/kg)、第4群は、「L. amylovorus 2880株の溶液Xの懸濁液(1×109 CFU/mL)」投与(10mL/kg)。〔本飼育(試験)〕 群分けした後の翌日より試験期間とし、「注射用水」飲用水(陰性群)と「シュウ酸2水和物を0.075重量%で含む注射用水」飲用水(対照群、菌体投与群)をそれぞれ給水器によりラットに7日間自由摂取させた。本飲用水の給水開始日をDay1とし、以後では日付と共にDayを起算した。菌体投与群の実験動物には、前記の菌体懸濁液を1×1010 CFU/10mL/kgで強制経口投与した。対照群には、菌体懸濁液ではなく、溶液Xを10mL/kgで強制経口投与した。〔測定と検査等〕・ 一般状態の観察と体重の測定 全例(全群)においてDay1からDay8の連日、投与時に一般状態を観察し、Day0、Day3、Day5、Day7の午前9〜10時に定時で体重を測定した。・ 摂餌量と摂水量の測定 全例(全群)においてDay3(セット値)、Day5(残値、セット値)、Day7(残値)の午前9〜10時に定時で摂餌量と摂水量を測定した。・ 採尿と生化学的検査 全例(全群)においてDay0、Day3、Day5、Day7に24時間尿を採尿した。採取した尿は、2N塩酸を用いてpHを5に調製し、シュウ酸カルシウム沈殿を避けるために1L当り0.5gのEDTAを加えた。得られた尿中のシュウ酸値を実施例1に記載した方法に従ってHPLCにて測定した。また、クレアチニン測定キット(ラボアッセイクレアチニン(Jaffe法)(和光純薬))を用いて尿中クレアチニンを測定した。方法は説明書の指示に従い、マイクロプレート法で実施した。〔統計処理〕 結果は平均値±標準偏差で示し、対照群と菌体投与各群を比較した。数値化した検査値の分散比はF検定を行い、等分散の場合にはStudent's t-検定を、不等分散の場合にはAspin-Welch t-検定を行った。統計処理には、エクセル統計 2004 の統計解析を使用し、最低有意水準を両側5%とした。〔結果〕 一般状態の結果を表4に、尿中シュウ酸値/g・クレアチニン値の推移を図1に示す。 乳酸菌投与による尿中のシュウ酸値の低下について、図1に示すように、溶液Xにて懸濁したL.amylovorus OLL 2880投与群およびL.gasseri OLL 2727投与群において、有意差が認められた。一般状態は、対照群(第2群)と菌体投与群(第3群、第4群)との間で有意差が認められなかった。 本発明によって、従来知られているシュウ酸分解活性を有する乳酸菌よりも数倍高いシュウ酸分解活性を有する乳酸菌が提供された。該乳酸菌、該乳酸菌の処理物、並びに、該乳酸菌、又は、該処理物を含む組成物は、シュウ酸が関与する疾病、例えば、腎臓・尿路結石、貧血、骨粗しょう症等の治療や予防、さらには、シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減された組成物やシュウ酸又はシュウ酸化合物の分解剤の製造、シュウ酸又はシュウ酸化合物を分解するための方法に有用である。また、乳酸菌は長い食経験があることから、長期間及び多量の投与であっても安全に摂取が可能である。ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)種又はラクトバシラス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)種に属する乳酸菌であって、5mMシュウ酸を含む培養液中で、37℃、培養開始時pH4、4時間培養において、シュウ酸分解率が28%以上であることを特徴とする乳酸菌。以下の(a)から(d)からなる群より選択される請求項1に記載の乳酸菌:(a)受託番号:FERM BP-11005として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) OLL203195株; (b)受託番号:FERM BP-11007として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus) OLL2741株;(c)受託番号:FERM BP-11006として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus) OLL2880株;及び(d)受託番号:FERM BP-11004として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) OLL2727株。請求項1又は2に記載の乳酸菌の処理物。請求項1若しくは2に記載の乳酸菌、又は、請求項3に記載の処理物を含む、組成物。腎臓・尿路結石を治療、及び/又は、予防するための、請求項4に記載の組成物。貧血を治療、及び/又は、予防するための、請求項4に記載の組成物。骨粗しょう症を治療、及び/又は、予防するための、請求項4に記載の組成物。医薬組成物である請求項4から7いずれか一項に記載の組成物。食品組成物である請求項4から7いずれか一項に記載の組成物。請求項1若しくは2に記載の乳酸菌、又は、請求項3に記載の処理物を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物の分解剤。シュウ酸又はシュウ酸化合物を、請求項1若しくは2に記載の乳酸菌、又は、請求項3に記載の処理物に接触させる工程を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物を分解するための方法。シュウ酸又はシュウ酸化合物を含む組成物を、請求項1若しくは2に記載の乳酸菌、又は、請求項3に記載の処理物に接触させる工程を含む、シュウ酸又はシュウ酸化合物が低減化された組成物の製造方法。以下の(a)から(d)からなる群より選択される乳酸菌:(a)受託番号:FERM BP-11005として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) OLL203195株; (b)受託番号:FERM BP-11007として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus )OLL2741株;(c)受託番号:FERM BP-11006として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus) OLL2880株;及び(d)受託番号:FERM BP-11004として寄託されている乳酸菌ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) OLL2727株。