タイトル: | 特許公報(B2)_パラクロレラ属新規微細藻類 |
出願番号: | 2010526774 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 1/12,C12P 19/04 |
湯川 恭啓 鈴田 哲也 佐藤 剛毅 宇野 邦彦 JP 5559690 特許公報(B2) 20140613 2010526774 20090821 パラクロレラ属新規微細藻類 株式会社バイノス 506066098 株式会社カネカ 000000941 前 直美 100113402 湯川 恭啓 鈴田 哲也 佐藤 剛毅 宇野 邦彦 JP 2008220213 20080828 20140723 C12N 1/12 20060101AFI20140703BHJP C12P 19/04 20060101ALI20140703BHJP JPC12N1/12C12P19/04 Z C12N1/00−1/38 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) G−Search 特開昭63−233797(JP,A) 特開平04−099491(JP,A) 11 IPOD FERM BP-10969 JP2009065025 20090821 WO2010024367 20100304 19 20120713 小暮 道明 本発明は、アルギン酸産生能を有する新規微細藻類及びその利用方法等に関する。 従来、クロレラ属として分類されていた単細胞の藻類は、近年の分子系統学的解析の結果、緑藻綱(Chlorophyceae)とトレボキシア藻綱(Trebouxiophyceae)とにまたがる多系統群であったことが示された(非特許文献1:Friedl,1995及び非特許文献2:Huss et al.,1999)。さらに、Ustinovaら(非特許文献3)は、18S rDNA及び16S rDNAを用いた分子系統学的解析を行うことにより、クロレラ・ケスレリ(Chlorella kessleri)はトレボキシア藻綱の中でも他のクロレラとは別のグループを形成することを示した。そのため、パラクロレラ(Parachlorella)属の設立が提唱され、それに伴ってクロレラ・ケスレリの学名は、パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)に変更された。パラクロレラ属に属する藻類としては、他にクロステリオプシス・アキキュラリス(Closteriopsis acicularis)があるが、これは形態学的にはパラクロレラ・ケスレリとは似ていないといわれている。緑藻類全般の分類体系については、非特許文献4(Proeschold and Leliaert)を参照されたい。 アルギン酸は、褐藻類の細胞間及び細胞壁や、一部の紅藻に含まれる粘性多糖類である。アルギン酸又はその塩は、増粘安定剤、ゲル化剤として、食品添加物、医薬品、化粧品、歯科用材料等に広く利用されている。また、アルギン酸は食物繊維の一種であり、近年注目されている。さらに、アルギン酸、特に、アルギン酸オリゴ糖とも呼ばれるアルギン酸分解物(オリゴマー)又は低分子量のアルギン酸は、種々の生理活性を有することが報告されている。 トレボキシア藻綱に属する藻類については、アルギン酸ナトリウムが含有又は代謝されていた例は報告されていない。Friedl,1995(J.Phycol.31:632−639)Huss et al.,1999(J.Phycol.35:587−598)Ustinova et al.,2001(Eur.J.Phycol.36:341−351)Thomas Proeschold and Frederik Leliaert,″Chapter 7 Systematics of the green algae:conflict of classic and modern approaches,″in Juliet Broodie and Jane Lewis eds.,″Unraveling the algae:the past,present and future of algal systematics″,(Taylor and Francis,2007)地域研究開発促進拠点支援事業(RSP事業)可能性試験研究成果報告書「アルギン酸分解物の食品および薬品素材への応用の可能性の検索」、渡邉正己ほか、2000年Uno et al.,2006(Biosci.Biotechnol.Biochem.70(12):3054−3057) 本発明は、有用な新規パラクロレラ属微細藻類及びその利用方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、自然界から単離されたパラクロレラ属微細藻類が、新規であり、アルギン酸産生能、特に比較的低分子量のアルギン酸を産生する能力を有することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、〔1〕 アルギン酸生産能を有するパラクロレラ属微細藻類、パラクロレラ・バイノス(Parachlorella sp.binos);〔2〕 以下の特徴を有する、前記〔1〕記載の微細藻類; 形態:単細胞、球形、大きさ約10μm〜約15μm 生殖様式:内生胞子形成四分裂型又は内生胞子形成八分裂型 ルテニウムレッド染色性:陽性;〔3〕 後述する無機III培地で培養した場合、大きさ約12μm〜約15μmであり、生殖様式が内生胞子形成四分裂型である、前記〔2〕記載の微細藻類;〔4〕 後述するOgbonna培地で培養した場合、大きさ約10μm〜約12μmである、前記〔2〕記載の微細藻類;〔5〕 細胞中のクロロフィルa及びクロロフィルbの含量が、約1:1〜約2.5:1である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載の微細藻類;〔6〕 配列番号1で表される18S rRNA遺伝子を有する、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項記載の微細藻類;〔7〕 受託番号FERM P−21513(FERM BP−10969)を有する、前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項記載の微細藻類;〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項記載の微細藻類を培養し、培養物又は培地からアルギン酸又はアルギン酸塩を回収することを特徴とする、アルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法;〔9〕 前記培養工程が、中性の培地を用いて行われる、前記〔8〕記載のアルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法;〔10〕 前記培養工程が、中性の培地を用いた後にアルカリ性の培地を用いて前記微細藻類を培養する工程を含む、前記〔9〕記載のアルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法;〔11〕 前記培養工程が、前記微細藻類を開放系で培養する工程を含む、前記〔8〕〜〔10〕のいずれか1項記載のアルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法;〔12〕 前記〔8〕〜〔11〕のいずれか1項記載の方法により生産されたアルギン酸又はアルギン酸塩を提供する。 本発明によれば、新規な有用微細藻類及びその応用が提供される。本発明のパラクロレラ属微細藻類は、一般的な環境下で容易に増殖させることができ、アルギン酸ナトリウムを分泌するので、アルギン酸及びその塩の生産などに利用することができる。 本発明の微細藻類は、クロロフィル含量が多く、特に、水深の深いところまで届く青色光を吸収するクロロフィルbの含量が多い。したがって、本発明の微細藻類は、水深の深い培養容器中で細胞数の多い過密な培養条件下でも、効率よく光合成を行うことができる。 また、本発明の微細藻類は内生胞子形成四分裂型又は内生胞子形成八分裂型の分裂様式を行う。すなわち、分裂後すぐに母細胞壁を脱ぎ捨て、未成熟な娘細胞の細胞壁のみからなる、プロトプラストに近い状態を経て、分裂が終了した後に細胞壁を形成する。したがって、細胞内容物の抽出、さらには遺伝子導入を用いた形質転換、遺伝子組換え又はRNAiを用いた品種改良を行う場合にも好都合である。 図1−1は、パラクロレラ・ケスレリ株及び本発明の株の顕微鏡写真を示す図である。パネルAはパラクロレラ・ケスレリ、2152株;パネルB〜Eはパラクロレラ・ケスレリ、2153株;パネルF及びGはパラクロレラ・ケスレリ、2154株;パネルHは本発明の株である。パネルD及びHについては蛍光顕微鏡、それ以外は光学顕微鏡を用いた。 図1−2は、パラクロレラ・ケスレリ株及び本発明の株の顕微鏡写真を示す図である。パネルAはパラクロレラ・ケスレリ、2152株;パネルB〜Eはパラクロレラ・ケスレリ、2153株;パネルF及びGはパラクロレラ・ケスレリ、2154株;パネルHは本発明の株である。パネルD及びHについては蛍光顕微鏡、それ以外は光学顕微鏡を用いた。 図1−3は、パラクロレラ・ケスレリ株及び本発明の株の顕微鏡写真を示す図である。パネルAはパラクロレラ・ケスレリ、2152株;パネルB〜Eはパラクロレラ・ケスレリ、2153株;パネルF及びGはパラクロレラ・ケスレリ、2154株;パネルHは本発明の株である。パネルD及びHについては蛍光顕微鏡、それ以外は光学顕微鏡を用いた。 図1−4は、パラクロレラ・ケスレリ株及び本発明の株の顕微鏡写真を示す図である。パネルAはパラクロレラ・ケスレリ、2152株;パネルB〜Eはパラクロレラ・ケスレリ、2153株;パネルF及びGはパラクロレラ・ケスレリ、2154株;パネルHは本発明の株である。パネルD及びHについては蛍光顕微鏡、それ以外は光学顕微鏡を用いた。 図2は、本発明の株の透過型電子顕微鏡写真像(10,000倍)を示す図である。図中、「C」は葉緑体、「N」は核を表す。 図3は、本発明の株の微分干渉顕微鏡像(400倍)を示す図である。丸で囲んだ部分は本発明の株の細胞、点線で囲んだ部分はアルギン酸ナトリウム層及び共生菌を表す。 図4は、本発明の細胞溶解物及びアルギン酸ナトリウム標準品のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)測定の結果(スペクトル)を示す図である。 図5は、18S rRNA配列に基づいて作製した、本発明の株及び近縁種を含む分子系統樹を示す図である。左下のスケールは0.01遺伝距離を表す。 図6は、異なるpHの培地で培養された本発明の株によるアルギン酸産生量を示す図である。 1.本発明の微細藻類の単離法 本発明の微細藻類は、野外で採集した淡水サンプルから、継代培養により単離することができる。具体的には、例えば、少量のサンプルを液体培地(2.5g/L KNO3、7.5g/L MgSO4・7H2O、17.5g/L KH2PO4、2.5g/L CaCl2、2.5g/L NaCl、20g/L NH4H2PO4の各溶液10mL及び蒸留水940mLに、1滴の1%FeCl3及び2mLのArnons A5溶液(組成:蒸留水中、2.86g/L H3BO4、1.81g/L MnCl2・4H2O、0.222g/L ZnSO4・7H2O、0.079g/L CuSO4・5H2O、0.015g/L (NH4)5Mo7O24・4H2O)を添加したもの、pH6.5;以下「無機III培地」ということがある)で培養し、この培養液を100μL採取して、上記液体培地に1.5%(W/V)寒天を加えた平板培地(以下「平板培地」という)に塗り広げて同様に培養し、緑色のコロニーを選択する。この操作をコロニーが均一になるまで繰り返した後、LB平板培地(5g ペプトン、2.5g イーストエキストラクト、0.5g NaClを蒸留水1,000mLに溶解し、1.5%(W/V)寒天を加えたもの、pH6.5)で細菌汚染がないことを確認する。 本発明の微細藻類は、淡水又はLB培地等の一般的な培地中で、好気的又は嫌気的のいずれの条件下でも生育可能であるが、上記の液体培地中で、室温〜30℃、明条件、好気(振とう培養)の条件下で特によく増殖・生育する。本発明の微細藻類は、光要求性(最低700Lux、好ましくは約2,000〜約20,000Lux程度、最も好ましくは約3,000〜約8,000Lux)である。 継代培養条件は、約2週間〜約1カ月程度の間隔で継代することが望ましい。 後述する実施例1において記載した単離株は、2008年2月28日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託され、受託番号FERM P−21513が付与され、2008年5月23日付でFERM BP−10969として「特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約」下の国際寄託に移管され、受託された。 2.本発明の微細藻類の藻類学的性質 A.形態学的特徴 本発明の微細藻類は、単細胞で、球形であり、大きさは約12μm〜約15μm程度である。クロロフィル量が多く、緑色であり、ミトコンドリアを複数有することもある。吸光光度法により測定した場合、総クロロフィル量は、クロレラ(Chlorella vulgaris)の約2倍程度であり、藻類の乾燥重量100gあたり約800〜1,000mgに達する。また、クロレラではクロロフィルaが総クロロフィル量の75〜90%程度を占めるのに対し、本発明の微細藻類では、クロロフィルbの割合が多く、クロロフィルa:クロロフィルbの含量の比は約1:1〜約2.5:1程度(約50%対約50%〜約71%対約29%)である。 細胞の大きさは、培養条件によって変動することがあり、Ogbonna培地(500mg/L KNO3、1800mg/L MgSO4・7H2O、1250mg/L KH2PO4、100mg/L K2HPO4、30mg/L FeSO4・7H2O、40mg/L EDTA、Arnons A5溶液 1mL/L及びグルコース5g/L;pH7.5)で培養した場合、無機III培地で培養した場合よりも小さくなりうる(約10μm〜約12μm)ことが判明した。 B.生殖様式 トレボキシア藻綱には、内生胞子形成型と呼ばれるタイプが多い。本発明の微細藻類の分裂様式は、顕微鏡観察に基づき、内生胞子形成四分裂型であると判断された。 なお、Ogbonna培地で培養した場合、内生胞子形成八分裂型の分裂様式をとることがあることが判明した。 C.生理学的・生化学的性状 微細藻類は、非常に高いCO2固定能力を有し、光合成産物としてデンプンを合成することが知られている。しかし、本発明の微細藻類は、ヨウ素デンプン反応に陰性であることが判明した。 また、本発明の微細藻類は、ルテニウムレッド染色によりいくつかの個体が赤く染色される。したがって、本発明の微細藻類自身がウロン酸を含有する物質を分泌すると考えられる。特に、本発明の微細藻類は、粘性多糖類様物質としてアルギン酸を分泌することができる。生育環境によっては、このアルギン酸によって、微生物がトラップされた、バイオフィルムのような共生微生物群集を作ることがある(図3)。 3.本株の分類学上の位置 18S rRNA配列に基づく分子系統学的研究から、本発明の微細藻類は、パラクロレラ(Parachlorella)属に属し、既知種パラクロレラ・ケスレリ(Parachlorella kessleri)と近縁であることが明らかとなった。本発明の株及び近縁種を含む分子系統樹を図5に示す。 本発明の株の18S rRNA遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号1に示す。 4.本発明の微細藻類を用いたアルギン酸生産法 上記のとおり、本発明の微細藻類は、アルギン酸を産生するので、本発明の微細藻類を培養し、その培養物又は培養液からアルギン酸を回収することにより、アルギン酸を得ることができる。 具体的には、例えば、本発明の微細藻類を上記の液体培地(無機III培地)又はOgbonna培地のようなその他の培地で大量培養し、その培養液からろ過によってアルギン酸を分離・回収することができる。培養は、中性(例えばpH6〜8、好ましくはpH6.5〜7.5)の培養液で行うことが増殖速度の点で有利である。培養中雑菌の混入といった刺激を与えることにより、アルギン酸の分泌が促進される。したがって、例えば、本発明の微細藻類が充分に増殖した培養の最後の段階で、単に開放系で数十分〜数時間程度さらに培養することにより、アルギン酸の分離・回収が容易になる。また、培養液のpHをアルカリ性とすることにより、アルギン酸分泌量が増大し、特に、比較的低分子量の(重合度の低い)アルギン酸が多量に産生されることが判明した。したがって、本発明の微細藻類の培養は、上記のように液体培地(無機III培地)又はOgbonna培地のようなその他の培地を用いて行うことができるが、培養液中に分泌されたアルギン酸の分離・回収前にアルカリ性の培養液で培養することが有利である。培養の最後の段階での開放系での培養及びアルカリ性培養液での培養は、いずれか一方を行なってもよく、両方を行なってもよい。 また、褐藻からのアルギン酸抽出に使用されている方法を、本発明の微細藻類について応用することもできる。この場合、本発明の微細藻類を乾燥・粉砕した後、アルカリ(水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)を加えて、アルギン酸ナトリウム塩(ゲル状)として細胞から溶出させ、ろ過して回収することができる。 特に記載しない限り、すべての培地・器具は、121℃(オートクレーブ)又は80%(V/V)エタノールにより滅菌したものを用いた。 1.本株の単離・選抜 岐阜県内の工場排水処理場より採取した水溶液サンプルを用いて、希釈による光照射液体継代培養を行い、微細藻類を単離した。 本実験で用いた「液体培地」(無機III培地)は、以下のようにして調製した。2.5g/L KNO3、7.5g/L MgSO4・7H2O、17.5g/L KH2PO4、2.5g/L CaCl2、2.5g/L NaCl、及び20g/L NH4H2PO4の各水溶液を10mLずつ、940mLの蒸留水に添加し、1%(W/V)FeCl3を1滴及びArnons A5溶液を2mL添加し、pHを6.5に調整した後、121℃、15分間、オートクレーブにかけた。固体培地は、pH調整前に上記液体培地に1.5%(W/V)濃度となるように寒天を加えて作製した(平板培地)。 「LB(液体)培地」は、5g ペプトン、2.5g イーストエキストラクト、0.5g NaClを蒸留水1,000mLに溶解し、pH6.5に調整した後、121℃、15分間、オートクレーブにかけた。固体培地は、pH調整前に上記液体溶液に1.5%(W/V)寒天を加えて作製した(LB固体培地)。 水溶液サンプルを100μL計り取り、液体培地で培養した。培養条件は、室温又は30℃、明条件、スターラーを用いた攪拌、を基本とし、1週間培養した。この培養液を100μL計り取り、平板培地に塗布し、基本的に上記と同じ培養条件下で培養した。 この平板培地上に形成されたコロニーのうち、緑色を呈するコロニーをピックアップし、液体培地に入れ、基本的に上記と同じ培養条件下で培養した。 上記の液体培養及び平板培養のサイクルを、平板培地上に緑色のコロニー以外のものが出現しなくなるまで、繰り返した。 上記サイクルを2回繰り返した後(サイクル2)及び3回繰り返した後(サイクル3)の液体培養及び平板培地の顕微鏡観察の結果、これらのサンプルには緑色の微生物以外の雑菌が数種類確認された。この中には運動性をもつ微生物も含まれていた。 そこで、上記サイクルを3回以上繰り返した後に得たコロニーを、液体培地中で、30℃、明条件で10日間培養した。この培養液(5mL)にイソジン(商品名、ポピヨンヨード 700mg/L溶液)を10μL添加し、よく攪拌した後、30℃、嫌気、明条件下で24時間静置した。この液体培地100μLを5mLの液体培地に加え、14日間、30℃、好気、明条件下で培養した。 次に、この培養液に、0.01%(V/V)次亜塩素酸ナトリウムを添加して3時間静置した後、培養液を平板培地及びLB平板培地に塗布し、30℃、好気、明条件下で10〜12日間培養した。 その結果、雑菌を含まない単一のコロニーを単離することができた。このコロニーは、30℃で3日間の培養により、液体培地にて、好気の条件にて増殖した。 この株(パラクロレラ・バイノス;以下、「バイノス」と略称することがある)は、2008年2月28日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM P−21513が付与され、2008年5月23日付でFERM BP−10969として「特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約」下の国際寄託に移管され、受託された。 2.顕微鏡観察、染色性等i) ヨウ素デンプン反応 上記で得られた株及びクロレラ(クロレラ工業社製、生クロレラ(Chlorella vulgaris))をサンプルとして、酵素法によりデンプンを定量した。具体的には、サンプルに50%エタノールを用いて低分子等を抽出洗浄し、不溶物を加熱糊化して、グルコアミラーゼ処理した後、ろ過して得たろ液のブドウ糖を、「CIIテストワコー」(商品名)を使用して定量した。この結果から、ブドウ糖(%)×0.9=デンプン(%)としてデンプン量を算出したところ、デンプン量として、本発明の株については0.2%、クロレラについては0.9%の結果を得た。しかし、この方法ではブドウ糖が構成成分であり、かつデンプンと異なる結合の多糖を測定対照とする可能性があることから、確認のため、各サンプル(本発明の株については、色が濃く、そのままでは判定困難であるため、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過した後の液体を用いた)についてヨウ素デンプン反応を行ったところ、いずれもヨウ素デンプン反応陰性であった。ii) ルテニウムレッド染色 上記で得られた株を、そのまま又はルテニウムレッド染色した後、顕微鏡(ライカ社製、「LEICA DM1 6000B」)観察した。ルテニウムレッド染色は、微生物サンプルを遠心(3,000rpm、5分)して集め、ルテニウムレッド水溶液(ナカライテスク社製)を加え、室温にて1時間ほど静置した後、蒸留水にて微生物を洗浄することにより行った。iii) 顕微鏡観察 独立行政法人国立環境研究所微生物系統保存センターに保存されている9種類のパラクロレラ・ケスレリ株のうち、3株(2152、2153及び2154)を入手して同様の観察を行い、本発明の株と比較した。なお、これらのケスレリ株については、遺伝的にどのくらい離れているかなどの情報はない。 顕微鏡観察の結果を図1−1〜1−4に示す。観察の結果、これらの3株すべてが、何らかの粘性多糖類らしきものを分泌していることがわかった。これらの3株のうちで2152株は、外見上、本発明のパラクロレラ・バイノスに最もよく似ているが、バイノスと比較して一回り細胞体が小さく(図1−1、パネルA)、ルテニウムレッド染色陰性であった。2153株は、本発明の株(図1−4、パネルH)と同様ルテニウムレッド染色に陽性であったため、分泌物はアルギン酸のようなウロン酸を含む化合物であると考えられる(図1−1、パネルB〜図1−3、パネルE)。しかし、本発明の株が内生胞子形成四分裂型であるのに対し、2153株は内生胞子形成八分裂型であった。2154株は、細胞体が本発明の株よりも大きい個体も見受けられるが、細胞に含まれる葉緑体が明らかに少ないため、透き通って見えた。葉緑体が少ないことは蛍光顕微鏡を用いた観察からも明らかであった(図1−3、パネルF及び図1−4、パネルG)。また、ルテニウムレッド染色陰性である点でも本発明の株と異なっていた。 これらの特徴をまとめると、以下のとおりである。iv) 電子顕微鏡観察 本発明の株については、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、「HITACHI H−7000」)による観察も行った。電子顕微鏡写真像(10,000倍)を図2に示す。図中、「C」は葉緑体、「N」は核である。視野面積の約70%が葉緑体であり、本発明の株が大量の葉緑体を蓄えていることが示された。なお、細胞の外周を取り囲む色の薄い層は、アルギン酸と考えられる。v) 本発明の微細藻類を含む微生物群集の観察 開放系で培養した本発明の株を、微分干渉顕微鏡(ライカ社製、「LEICA DM1 6000B」、拡大倍率400倍)で観察した。その結果を図3に示す。本発明の株が分泌した粘性多糖類によって窒素固定細菌を含む少なくとも4種の微生物がトラップされ、バイオフィルムのような共生微生物群集を作り上げていることが判明した。 3.分泌物の同定 上記のようにして液体培地で培養したパラクロレラ・バイノス(2,000mg/L)に対して、Na2CO3を終濃度で2%(W/V)になるように添加し、細胞を溶解させた。この溶解物を3,000rpmで10分遠心して不純物を沈降させ、上澄み液を0.4μmフィルターにて濾過した。フィルターに残った残渣を、1N塩酸及び1N NaOHで洗浄し、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)測定に供した。 この分析の結果を図4に示す。アルギン酸ナトリウム標準品についてのスペクトルと比較したところ、本発明のパラクロレラ・バイノスから分泌されている多糖類はアルギン酸であることが強く示唆された。 4.クロロフィル含量の測定 上記のようにして培養したパラクロレラ・バイノス及びクロレラ(クロレラ工業社製、生クロレラ(Chlorella vulgaris))をサンプルとして、日本食品分析センターに依頼して吸光光度法によりクロロフィル量を測定した。 結果を表2に示す。 バイノスは、クロレラと比較して総クロロフィル量、クロロフィルa量及びクロロフィルb量がいずれも有意に高く、総クロロフィル量及びクロロフィルa量やクロレラの約2倍程度であり、クロロフィルbはクロレラの約7倍であった。また、クロロフィルaとクロロフィルbとの比も、クロレラでは約9:1であったのに対し、本発明の株では約2:1であった。 5.18S rRNA遺伝子の塩基配列解析 鋳型として本発明のパラクロレラ・バイノスから抽出したゲノムDNAを用い、ユニバーサル18S rRNA遺伝子用プライマーを用いて、PCR法により目的遺伝子を増幅した後、アガロースゲル電気泳動を行ってゲルから目的遺伝子を切り出し、TAベクター(Promega社、商品名「P−GemT」)にライゲーションさせた。その後、このプラスミドで大腸菌をトランスフォームさせ、ブルーホワイトセレクションによるスクリーニングの後、アルカリ−SDS法によりプラスミドを抽出した。次いで、株式会社バイオマトリックス研究所に委託し、このプラスミドのsp6及びt7サイトより塩基配列を解析した。 塩基配列データは、NCBIに登録されている近縁種の18S rRNA遺伝子配列とともに、公開されている多重整列プログラム「Clustal W」を用いてアラインメントさせ、系統樹(近隣結合法)を構築した。 結果を図5に示す。この結果、本発明の株は、パラクロレラ・ケスレリと近縁の新種であることが判明した。 また、上記の解析により得られた本発明の株の18S rRNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す。 6.異なるpHの培地中でのパラクロレラ・バイノスによるアルギン酸の産生 無機III培地中で25℃、1週間以上培養し、細胞濃度が106個/Lとなったパラクロレラ・バイノスを、3つの容器に分注した。各容器の培養液のpHを、塩酸及び水酸化ナトリウムを用いてpH5、pH7、及びpH10に調整した。これを暗所で25℃で培養し、1、2、3、6、8日目にサンプリングして、アルギン酸産生量の指標として不揮発性有機炭素(non−pergeable organic carbon;NPOC)量を測定した。 NPOC量の測定は、具体的には以下のように行った。各時点で採取したパラクロレラ・バイノスを含む培養液0.5mLを、16,500×gで1分間遠心分離し、細胞を沈降させた。上澄み液を採取し、等量のイソプロパノールを加えた後、16,500×gで10分間遠心分離した。得られたペレットを滅菌蒸留水に溶解したものをサンプルとして使用した。島津製作所製TPOC−vを用いて、酸性化・通気処理による測定法(JIS−K0551、ASTM−D2579にしたがい、各サンプル中のNPOC量を測定した。 結果を図6に示す。図6において、菱形(◆)はpH5、四角(■)はpH7、三角(▲)はpH10を表す。図6から明らかなように、本発明の株は、アルカリ性条件下で培養することにより、酸性又は中性条件下の場合よりも大量のアルギン酸を分泌することが判明した。 7.パラクロレラ・バイノス分泌物の特徴づけ この実験では、無機III培地にて1週間以上25℃にて培養し、細胞濃度が106個/L以上になったパラクロレラ・バイノスを用いた。このパラクロレラ・バイノスを含む培養液0.5mLを、16,500×gにて1分間遠心し、細胞を沈降させた。この上澄み液に等量のイソプロパノールを加えた後、16,500×gにて10分間遠心した。得られたペレットを滅菌蒸留水に溶解させたものをサンプルとし、限外ろ過膜(アズワン社、商品名「Vivaspin」)を用いて分画した。各画分に含まれるアルギン酸量を、上記6.に記載した方法でNPOCを計測することにより測定した。 その結果、サンプル中のアルギン酸は、すべて分画分子量10万の限外ろ過膜を通過した。一方、分画分子量1万の限外ろ過膜を用いた場合は、一部がトラップされたが、残りは通過した。 したがって、パラクロレラ・バイノス分泌物のアルギン酸は、概ね分子量10万以下であり、大部分は分子量2万以下であって、分子量1万以下のものを含むと考えられる。 8.異なる培地でのパラクロレラ・バイノスの培養 以下の培地を用いて本発明のパラクロレラ・バイノスを培養した。「Ogbonna培地」は、以下のようにして調製した。500mg/L KNO3、1800mg/L MgSO4・7H2O、1250mg/L KH2PO4、100mg/L K2HPO4、30mg/L FeSO4・7H2O、40mg/L EDTAを蒸留水に添加し、Arnons A5溶液を1mL及びグルコース5gを添加し、水酸化ナトリウムを用いてpHを7.5に調整した後、121℃、20分間、オートクレーブにかけた。この培地は、Ogbonna et al.によるJ.of Applied Phycology,Vol.9,No.4,pp.359−366(1997)を参考にして組成した。上述の液体培地の代わりにこの培地を用いたこと以外は上記1.と同じ条件(30℃、好気、明条件)で7日間培養した。 上記2.と同様にして顕微鏡観察を行った。この培地で培養した場合、パラクロレラ・バイノスは、形態:単細胞、球形、大きさ約10〜12μm生殖様式:内生胞子形成八分裂型であった。 この出願は、平成20年8月28日出願の日本特許出願、特願2008−220213に基づくものであり、特願2008−220213の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。[配列表] アルギン酸生産能を有するパラクロレラ属微細藻類、パラクロレラ・バイノス(Parachlorella sp. binos)。 以下の特徴を有する、請求項1記載の微細藻類。 形態:単細胞、球形、大きさ10μm〜15μm 生殖様式:内生胞子形成四分裂型又は内生胞子形成八分裂型 ルテニウムレッド染色性:陽性 無機III培地で培養した場合、大きさ12μm〜15μmであり、生殖様式が内生胞子形成四分裂型である、請求項2記載の微細藻類。 Ogbonna培地で培養した場合、大きさ10μm〜12μmである、請求項2記載の微細藻類。 細胞中のクロロフィルa及びクロロフィルbの含量が、1:1〜2.5:1である、請求項1〜4のいずれか1項記載の微細藻類。 配列番号1で表される18S rRNA遺伝子を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の微細藻類。 受託番号FERM P−21513(FERM BP−10969)を有する、請求項1〜6のいずれか1項記載の微細藻類。 請求項1〜7のいずれか1項記載の微細藻類を培養し、培養物又は培地からアルギン酸又はアルギン酸塩を回収することを特徴とする、アルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法。 前記培養工程が、中性の培地を用いて行われる、請求項8記載のアルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法。 前記培養工程が、中性の培地を用いた後にアルカリ性の培地を用いて前記微細藻類を培養する工程を含む、請求項9記載のアルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法。 前記培養工程が、前記微細藻類を開放系で培養する工程を含む、請求項8〜10のいずれか1項記載のアルギン酸又はアルギン酸塩の生産方法。