タイトル: | 公開特許公報(A)_悪液質改善剤 |
出願番号: | 2010274339 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 36/28,A61P 35/00,A61K 36/00,A61K 31/341,A61P 43/00 |
乾 明夫 浅川 明弘 藤塚 直樹 定金 千春 JP 2012121846 公開特許公報(A) 20120628 2010274339 20101209 悪液質改善剤 国立大学法人 鹿児島大学 504258527 株式会社ツムラ 000003665 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 乾 明夫 浅川 明弘 藤塚 直樹 定金 千春 A61K 36/28 20060101AFI20120601BHJP A61P 35/00 20060101ALI20120601BHJP A61K 36/00 20060101ALI20120601BHJP A61K 31/341 20060101ALI20120601BHJP A61P 43/00 20060101ALI20120601BHJP JPA61K35/78 TA61P35/00A61K35/78 WA61K31/341A61P43/00 3 OL 9 4C086 4C088 4C086AA01 4C086AA02 4C086BA03 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZB26 4C086ZC41 4C088AA04 4C088AB12 4C088AB18 4C088AB26 4C088AB60 4C088AB62 4C088MA07 4C088NA14 4C088ZB26 4C088ZC41 本発明は、悪液質の改善剤に関し、更に詳細には、特に癌患者に多く見られる悪液質を改善ないし緩和する悪液質改善剤に関する。 悪液質(cachexia, カヘキシー)とは、慢性疾患の経過中に起こる主として栄養失調に基づく病的な全身の衰弱状態であり、全身衰弱、羸痩(るいそう)、眼瞼や下腿の浮腫、貧血による皮膚蒼白などの症状を呈する。そして、悪液質は、脂肪、筋肉量の低下に伴う体重減少が認められ、血中C−反応プロテイン (CRP)やサイトカインの上昇、低アルブミン血症、心理的苦痛を有するという特徴を持つ。 この悪液質は、進行性がん患者の約80%に認められ、死亡率上昇の要因となっているため、がん治療においては、悪液質に積極的に対応する必要がある。すなわち、悪液質になると、食欲不振や倦怠感などの症状が現れ、治癒力や抵抗力が低下してQOL(Quality of Life, 生活の質)を悪くする原因となる。そして、抵抗力が低下すると、日和見感染などの感染症が発生してますます体力がなくなり死亡の原因となるので、悪液質を改善ないし緩和することが重要となるのである。 この悪液質に対しては、十分な蛋白質とカロリー投与により対応することが着想されるが、この方法によっても改善させることができない点が、単純な栄養失調とは異なる。すなわち、栄養失調では、体重減少は貯蔵脂肪の涸渇と相関するが、悪液質では骨格筋と体脂肪の両方が失われるため、蛋白質とカロリー投与だけでは不十分なのである。 これまで、悪液質に対しては、対症的な治療方法が行われており、第一選択としてプリンペラン、第二選択としてヒスロンH、第三選択としてステロイドが利用されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。しかし、これらの薬はいずれも強い副作用がある。悪液質状態までに病状が進行した患者は、もはやこれらの薬の副作用を耐え抜く体力はない。 そこで近年、天然薬用植物の抗悪液質作用の研究が行われるようになっており、黄連(非特許文献4)、薬用人参(非特許文献5)、十全大補湯(薬用人参、ブクリョウ、ビャクジュツ、カンゾウ、トウキ、シャクヤク、センキュウ、ジオウ、ニッキ、ブシとの十種類の生薬の混合物、非特許文献6)、ナンキンハゼ(特許文献1)等の抗悪液質作用が報告されている。 しかし、これらの薬用植物では、データ的には、生化学的指標(TNF-α、IFN、IL−6等)における改善がみられるものの、臨床的に充分な効果が得られたとは評価できるものではない。 また、日本国内で医療用医薬品として承認されている六君子湯では、白朮または蒼朮のいずれかを使用するが、白朮に含有されている成分であるアトラクチレノリドIに悪液質改善効果があることが報告されている(非特許文献7)がソウジュツに含有されている成分ではそのような報告は無い。再表2007−4390「緩和医療学」、1997、三輪書店、東京「終末期の諸症状からの解放」、2000、医学書院、東京「緩和ケアテキスト」、2002:中外医学社、東京”Biotherapy”、Vol.15、No.3、 p.354、2001「癌の臨床」、Vol.48、 No.3、 p.153−157、 2002”Prog. Med.”、Vol.24、 No.11、 p.2742-3、2004“Evidence―based Complementa ry and Alternative Medicine ”、Vol.5、No.3、p.337−344、 2008 従って本発明は、癌等に伴う悪液質を有効に改善ないし緩和することのできる手段の提供をその課題とするものである。 本発明者らは、癌悪液質では、グレリンの血中濃度が高値を示しながら、グレリンによる摂食反応が減弱していることから、グレリン抵抗性を示すがん悪液質に対しては、グレリンシグナルを増強させる治療が有用であると着想した。 そして、各種薬用植物について、それらが有するグレリンシグナル増強作用を検索していたところ、ソウジュツ(蒼朮)を含有する六君子湯およびその構成成分がこの作用を有し、かつ悪液質改善作用を奏することを見いだし、本発明を完成した。 すなわち本発明は、ソウジュツを含有する六君子湯を有効成分とする悪液質改善剤である。 また本発明は、次の式(I)(式中、Rは水素原子または水酸基を示す)で表されるソウジュツ由来成分を有効成分とする悪液質改善剤である。 更に本発明は、悪液質改善のために使用する成長ホルモン分泌促進因子受容体(グレリン受容体;GHS R)活性化剤である。 本発明の悪液質改善剤によれば、悪液質患者においてグレリン受容体感受性を亢進することができ、グレリンシグナルを増強するので、悪液質による各症状を改善ないし緩和することが可能となる。ソウジュツを含有する六君子湯の使用量とグレリン結合活性の関係を示す図面である。アトラクチロジンの使用量とグレリン結合活性の関係を示す図面である。アトラクチロジノールの使用量とグレリン結合活性の関係を示す図面である。悪液質ラットに対するソウジュツを含有する六君子湯の投与と、生存日数の関係を示す図面である。悪液質ラットに対するアトラクチロジンの投与と、生存日数の関係を示す図面である。ガン悪液質ラットの空腹期収縮(phase III様収縮)頻度を、ソウジュツを含有する六君子湯投与と蒸留水投与(DW)で比較した結果を示す図面である。ガン悪液質ラットの体重変化を、ソウジュツを含有する六君子湯投与と蒸留水投与(DW)および対照薬としてSB242084(5-HT2cアンタゴニスト)として比較した結果を示す図面である。ガン悪液質ラットの腓腹筋および脛骨筋の重量減少を、ソウジュツを含有する六君子湯投与と蒸留水投与(DW)で比較した結果を示す図面である。 本発明の悪液質改善剤において用いられるソウジュツを含有する六君子湯は、公知の漢方製剤で、既にエキス剤として市販されており、虚弱な人の消化不良、食欲不振、嘔吐などに用いられている。 この六君子湯は、朮、茯苓、人参、大棗、生姜、甘草よりなる四君子湯と、半夏、陳皮、茯苓、生姜、甘草よりなる二陳湯の合方で、両処方の主薬が、朮、茯苓、人参、甘草及び陳皮、半夏の6生薬であることから、六君子湯と名付けられたものである。 なおソウジュツは、第十五改正日本薬局方に収載されている生薬のひとつであり、ホソバオケラ(Atractylodes lancea De Candolle又は Atractylodes chinensis Koizumi)の根茎である。 また本発明において用いられる前記式(I)のソウジュツ由来成分も、既に公知であり、式(I)中、Rが水素原子のものがアトラクチロジン、Rが水酸基のものがアトラクチロジノールである。 本発明の悪液質改善剤は、ソウジュツを含有する六君子湯を使用する場合は、この漢方製剤をそのままあるいは必要に応じて他の医薬用担体と組み合わせることにより、またアトラクチロジンまたはアトラクチロジノールを使用する場合は、これらを他の医薬担体と組み合わせることにより調製することができる。 使用できる医薬用担体としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等を挙げることができる。 また、上記必要に応じて他の任意成分、例えば崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を利用することもできる。 上記した悪液質改善剤は、癌等による悪液質患者に対し、ソウジュツを含有する六君子等を有効成分とする場合は、その乾燥エキスとして、成人1日あたり2gないし4gとなる量を1〜4回程度で投与すれば良い。また、式(I)で表されるアトラクチロジンまたはアトラクチロジノールとして、成人1日あたり1mgないし1000mgとなる量を1〜4回程度で投与すればよい。 なお、上記悪液質改善剤は、粉剤、顆粒剤、錠剤等の経口固形剤であることが好ましいが、液剤、シロップ剤等の経口液剤とすることもできる。 以上、ソウジュツを含有する六君子湯や、ソウジュツ由来成分を有効成分とする悪液質改善剤について説明してきたが、成長ホルモン分泌促進因子受容体(GHS R)活性化剤がグレリンシグナル増強作用を有し、この結果悪液質改善作用を有することは、未だ知られていないことである。従って、本発明の別の態様として、悪液質改善のために使用する成長ホルモン分泌促進因子受容体(GHS R)活性化剤を挙げることができる。 次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。実 施 例 1 グレリンの受容体結合活性の増強: 125Iでラベルしたヒトグレリンを0.03nMの濃度となるようにHEPESバッファー*1で溶解し、グレリン溶液を調製した。このグレリン溶液と、ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)(2〜200μg/mL)およびその成分(1〜100μmol/L)の1%ジメチルスルホキシド(DMSO)溶解液の各々を、ヒト遺伝子組み換えグレリン受容体(Growth hormone secretagogue receptor;GHS−R)を発現させたCHO(Chinese hamster ovary)−K1細胞と25℃で60分間反応させた。 反応終了後、ガンマカウンターを用いて受容体に結合したグレリンの放射活性を測定し、ビヒクル(1%DMSO)を100%とした場合の結合活性率を求めた。その結果、ソウジュツを含有する六君子湯は用量依存的にグレリン結合活性を増加させた(図1)。 また六君子湯の構成生薬であるソウジュツに由来する成分のアトラクチロジンおよびアトラクチロジノールにもグレリン結合活性の増強作用が見られた(図2および図3)。 この結果から、ソウジュツを含有する六君子湯およびソウジュツ由来成分アトラクチロジン類は、アロステリック調節作用によってグレリン受容体感受性を亢進すると判断された。 *1 HEPESバッファー: 25mM 4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸 (HEPES;pH 7.4)、5mM MgCl2、1mM CaCl2、 0.4% ウシ血清アルブミン(BSA)実 施 例 2 ガン悪液質ラットにおける六君子湯およびソウジュツ由来成分の延命作用: ウイスター(Wistar)系雄性ラット(6週齢)に、肝癌細胞AH−130(108cells/rat)を腹腔内移植し、移植当日よりツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)(125、250、500mg/kg)を1日2回、連日経口投与した。その結果、六君子湯はラットの生存日数を延長させた(図4)。 また、アトラクチロジンを1%tween−80溶液に溶解したものを、同様に0.2mg/kgおよび1mg/kgの用量で1日2回投与した結果、ビヒクル(1% tween−80溶液)投与群と比較してアトラクチロジン高用量投与群で延命作用が認められた(図5)。 本実施例より、ソウジュツを含有する六君子湯およびアトラクチロジンによるガン悪液質ラットの延命効果が明らかになった。この結果と実施例1から、グレリン受容体感受性の亢進に伴うグレリンシグナルの増強は、ガン悪液質での延命に有効な治療手段になりうることが示された。実 施 例 3 ガン悪液質ラットの消化管運動、体重、筋肉量に対するソウジュツを含有する六君子湯の作用:(1)消化管運動を測定するために、ウイスター(Wistar)系雄性ラット(8週齢)の胃前庭部および十二指腸の漿膜面にストレインゲージ・フォース・トランスデューサーを縫着した。3日後に癌細胞AH−130を108cell/ratで腹腔内移植し、その5日目に絶食下で消化管運動を測定した。この結果、ガン悪液質ラットの空腹期収縮(phase III様収縮)は、正常ラットと比較して低下していた。 次いで、ガン悪液質ラット(癌細胞移植5日目)にツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)(1000mg/kg)を経口投与したところ、投与90分以内に空腹期収縮が出現し、十二指腸の1時間あたりの収縮頻度は投与90分〜180分において、蒸留水(DW)投与群と比し増加し、正常レベルに回復した(図6)。この結果、ガン悪液質ラットで発症する消化管運動異常はソウジュツを含有する六君子湯の投与によって改善されることが明らかとなった。(2)ウイスター(Wistar)系雄性ラット(6週齢)にAH−130癌細胞(108cells/rat)を腹腔内移植し、5日目から蒸留水あるいはツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)(500mg/kg)を3日間連日経口投与した。最終投与2時間後に腹水重量を除いた体重を測定し、移植当日からの体重変化量を算出した。この結果、蒸留水(DW)投与群と比較して、ソウジュツを含有する六君子湯投与群では体重低下が抑制された(図7)。(3)ウイスター(Wistar)系雄性ラット(6週齢)に癌細胞AH−130(108cells/rat)を腹腔内移植し、移植当日より蒸留水またはツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)(500mg/kg)を1日2回、連日経口投与した。移植8日後に右肢筋肉重量を測定した結果、ソウジュツを含有する六君子湯投与群の腓腹筋(gastrocnemius)および脛骨筋(Tibialis)の重量は蒸留水(DW)投与群と比較して高値を示した(図8)。この結果、六君子湯はガン悪液質に伴う体重および筋肉量低下を抑制することが示された。 本発明の悪液質改善剤は、進行性癌等に伴う悪液質を改善ないし緩和することができるものであり、悪液質患者の治癒力や抵抗力の低下を防ぎ、QOL(Quality of Life, 生活の質)を高めることができる。 従って、本発明の悪液質改善剤は、医療分野において、癌患者等の治療や延命に利用可能なものである。 ソウジュツを含有する六君子湯を有効成分とする悪液質改善剤。 また本発明は、次の式(I)(式中、Rは水素原子または水酸基を示す)で表されるソウジュツ由来成分を有効成分とする悪液質改善剤。悪液質改善のために使用する成長ホルモン分泌促進因子受容体(GHS R)活性化剤。 【課題】 癌等に伴う悪液質を有効に改善ないし緩和することのできる手段を提供すること。【解決手段】 六君子湯または次の式(I) 【化1】で表されるソウジュツ由来成分を有効成分とする悪液質改善剤。【選択図】 なし