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タイトル:公開特許公報(A)_生体動物脳における単一神経細胞での多重遺伝子発現
出願番号:2010248940
年次:2012
IPC分類:C12N 15/09


特許情報キャッシュ

河崎 洋志 赤穗 吏映 松崎 政紀 平 理一郎 JP 2012100542 公開特許公報(A) 20120531 2010248940 20101105 生体動物脳における単一神経細胞での多重遺伝子発現 国立大学法人 東京大学 504137912 阿部 正博 100100181 河崎 洋志 赤穗 吏映 松崎 政紀 平 理一郎 C12N 15/09 20060101AFI20120427BHJP JPC12N15/00 A 10 3 OL 27 4B024 4B024AA01 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA01 4B024DA02 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B024HA17本発明は、野生型のプロモータに較べて外来性遺伝子の発現誘導における細胞型特異性が向上した修飾プロモータ、及び、該修飾プロモータによる発現制御によって外来性遺伝子を特定の細胞小集団で発現させ、該細胞小集団を特異的に標識する方法等に関する。哺乳動物の中枢神経系は非常に多くの異なる種類の神経細胞から構成されており、夫々の神経細胞の複雑な神経回路結合が共同して高次脳機能を発揮している。このような複雑さが神経科学のとって主な難関であり、外来性遺伝子を特定の神経細胞小集団(small subsets of neurons)に導入する技術は、神経形態及び脳機能、脳疾患病態を研究する上で非常に価値のあるものである。 これまでにも、少量のウイルスベクターを大脳皮質に注射して、少数の神経細胞を標識することが試みられてきた(非特許文献1,2)。しかし、従来の方法では、ランダムに選択された小数の神経細胞において遺伝子発現が生じてしまい、特定の少数の神経細胞での遺伝子発現は困難であった。マウスの場合にあっても、選択した特定のまばらな(少数の)神経細胞を標識することには多くの困難がある。様々なプロモータを用いても導入遺伝子の発現量が極めて少なく、外来遺伝子を充分量発現させるのに失敗してきた。一方で、他のプロモータは数多くの多種類の神経細胞集団を標識してしまうために、個々の少数の神経細胞を標識することができない。最近、位置効果(location effect variegation)と呼ばれる、導入遺伝子が染色体に組み込まれる際にマウス系列毎の差異を生じる現象を利用して、少数の神経細胞を標識するための新たな方法が開発された(非特許文献3)。Thy1発現カセットを用いて、GFP又はそれらの変異体(総称して「XFP」という)を発現する多数のマウス系列(以降、「Thy1-XFPマウス」とも称する)を作製することによって、XFPで鮮明に標識された特定の神経細胞小集団を解析することが可能となった(非特許文献4,5)。二光子励起レーザー顕微法(2PLSM)と組み合わせて、これらのマウスによって生体マウスにおける神経細胞分化及びリモデリングの動的プロセスが解明された。 更に、生体マウスの神経細胞小集団でXFPと Cre組換え酵素を共発現する技術も開発された(非特許文献6、7)。 一方で、上記のThy1-XFPマウスには幾つかの問題点も見られる。第一に、この技術では、同じ神経細胞において複数種類の遺伝子を共発現させることは容易ではない。第二に、Thy1-XFPマウスの作製には「位置効果」を利用するために、目的とする特定の神経細胞小集団が標識された新たなトランスジェニック(形質転換)Thy1-XFPマウス系列を作製するには長い時間と多く労力が必要とされる。もし、迅速で一過性の方法が利用できれば、一回の実験に要する時間がかなり短縮されるであろう。第三に、Thy1-XFPマウスと疾患モデルマウスとを組み合わせて、疾患モデルマウスにおける神経細胞の形態的欠損を検査することができれば興味深いが、Thy1-XFPマウスと疾患モデルマウスの遺伝的背景は異なることが多くあり問題となる。このような遺伝的背景の相違によって実験結果がしばしば影響されるので、同じ遺伝的背景を有するマウスを使用することが望ましい。これまでに、成体マウス脳の神経細胞にランダムに且つ迅速に遺伝子発現を行う方法として子宮内電気穿孔法が開発されている(非特許文献8、9)。この方法を参考に、本発明者は既に、インビボで複数の遺伝子で特定の神経細胞小集団を標識することが出来る、迅速且つ一過性の技術を開発した。トランスジェニック法と比較して、本法は遺伝的背景に関係なく生体マウスの中で目的とする遺伝子を迅速に発現させることができる。Luo, L., Callaway, E.M. & Svoboda, K. Genetic dissection of neural circuits. Neuron 57, 634-660 (2008).Arenkiel, B.R. & Ehlers, M.D. Molecular genetics and imaging technologies for circuit-based neuroanatomy. Nature 461, 900-907 (2009).Festenstein, R., et al. Locus control region function and heterochromatin-induced position effect variegation. Science 271, 1123-1125 (1996).Feng, G., et al. Imaging neuronal subsets in transgenic mice expressing multiple spectral variants of GFP. Neuron 28, 41-51 (2000).De Paola, V., Arber, S. & Caroni, P. AMPA receptors regulate dynamic equilibrium of presynaptic terminals in mature hippocampal networks. Nat. Neurosci. 6, 491-500 (2003).Young, P., et al. Single-neuron labeling with inducible Cre-mediated knockout in transgenic mice. Nat. Neurosci. 11, 721-728 (2008).Madisen, L., et al. A robust and high-throughput Cre reporting and characterization system for the whole mouse brain. Nat. Neurosci. 13, 133-140 (2010).Saito, T. & Nakatsuji, N. Efficient gene transfer into the embryonic mouse brain using in vivo electroporation. Dev. Biol. 240, 237-246 (2001).Tabata, H. &Nakajima, K. Efficient in utero gene transfer system to the developing mouse brain using electroporation: visualization of neuronal migration in the developing cortex. Neuroscience 103, 865-872 (2001). 上記の子宮内電気穿孔法において特定の神経細胞小集団の標識に十分に利用するための適当なプロモータが未だ見出されていない。本発明者は、特定の神経細胞小集団における遺伝子発現を誘導できる適当なプロモータを探すべく鋭意研究の結果、例えば、Thy1プロモータのような適当なプロモータの領域の一部を欠失させることによって、予想外なことに、元のプロモータに較べて発現誘導における細胞型特異性が向上し、特定の細胞小集団のみで外来性遺伝子の発現(転写)を誘導することが出来ることを見出し、本発明を完成した。 即ち、本発明者は、Thy1(以降、「long Thy1」又は「Thy1L」とも称する)発現カセットのエクソン4及びそれより下流(3’側)の全領域を欠失したThy1プロモータ(以降、「short Thy1」又は「Thy1S」と称する)を使用することによって、子宮内電気穿孔法によって大脳皮質及び海馬における特定の極少数の種類又は単一種の神経細胞、例えば、錐体神経細胞の小集団においてのみ、特異的に遺伝子発現を誘導できることを見出した。即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。[態様1]野生型プロモータの領域の一部を欠失させて成る修飾プロモータであって、野生型のプロモータに較べて外来性遺伝子の発現誘導における細胞型特異性が向上した、前記修飾プロモータ。[態様2]特定の細胞小集団のみで該外来性遺伝子の発現を誘導することが出来る、態様1記載の修飾プロモータ。[態様3]特定の神経細胞小集団が大脳皮質における2/3層神経細胞又は5層神経細胞、若しくは、海馬における神経細胞である、態様1又は2に記載の修飾プロモータ。[態様4]Thy1プロモータの3’領域の一部を欠失させて成る修飾Thy1プロモータであって、特定の神経細胞小集団のみで外来性遺伝子の発現を誘導することが出来る、態様1ないし3のいずれか一項に2記載の前記修飾プロモータ。[態様5]欠失した3’領域の一部がエクソン4及びそれより下流の領域である、態様1ないし3のいずれか一項に記載の修飾プロモータ。[態様6]以下の塩基配列を有する態様1ないし5のいずれか一項に記載の修飾プロモータ:(1)配列番号1で示される塩基配列;(2)配列番号1で示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列;及び(3)ストリンジェントな条件下で配列番号1で示される塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAが有する塩基配列。[態様7]態様1ないし6のいずれか一項に記載の修飾プロモータの発現制御下に結合した外来性遺伝子を有する発現ベクター。[態様8]外来性遺伝子が蛍光タンパク質をコードする領域を含む、態様7記載のベクター。[態様9]哺乳動物の細胞において機能する、態様8記載の発現ベクター。[態様10]態様1ないし6のいずれか一項に記載の修飾プロモータによる発現制御によって外来性遺伝子を特定の細胞小集団で発現させる方法。[態様11] 態様7又は8に記載の発現ベクターを用いて子宮内電気穿孔法によって動物の胎児の所望の部位に外来性遺伝子を導入し、インビボで該遺伝子を特定の細胞小集団で特異的に発現させることを含む、態様10記載の方法。[態様12]外来性遺伝子が標識マーカーをコードし、該標識マーカーの発現によって特定の細胞小集団を標識する、態様11記載の方法。[態様13]態様10ないし12のいずれか一項に記載の方法によって特定の細胞小集団を複数の蛍光タンパク質で特異的に標識し、二光子励起レーザー顕微法によって、該蛍光タンパク質で標識された動物の単一神経細胞をインビボで同時に可視化する方法。[態様14]態様1ないし6のいずれか一項に記載の修飾プロモータによる発現制御によってCre組換え酵素をコードする遺伝子を特定の細胞小集団で発現させ、該Cre組換え酵素の作用によって、loxP部位に挟まれた他の外来性遺伝子の発現を可能とする、態様13に記載の方法。[態様15]Cre組換え酵素がステロイドホルモンの受容体アンタゴニストのリガンド結合領域改変体との複合体を形成して成り、該アンタゴニストの細胞外からの添加によって該複合体が核内に移行し、その結果、Cre組換え酵素活性が発揮される、態様14記載の方法。[態様16]ステロイドホルモンの受容体アンタゴニストがエストレゲン受容体アンタゴニストである、態様15記載の方法。[態様17]生体マウスの単一神経細胞において複数の特徴・特性を同時に可視化する、態様12ないし16のいずれか一項に記載の方法。[態様18]スパイン形態とPSD-95の局在化を同時に可視化する、態様17記載の方法。[態様19]異なる種類の外来性遺伝子を含む複数の発現ベクターを共発現させる、態様10ないし18のいずれか一項に記載の方法。[態様20]野生型プロモータの領域の一部を欠失させることによって、該プロモータの外来性遺伝子の発現誘導における細胞型特異性を向上させる方法。本発明の修飾プロモータを用いることによって、大脳皮質及び海馬等において、特定の極少数の種類又は単一種の神経細胞、例えば、錐体神経細胞の小集団のみにおいて、特異的に外来性遺伝子の発現を誘導できることを見出した。 例えば、本発明のThy1Sプロモータは特定の神経細胞小集団のみで強力な遺伝子発現を誘導するので、これを子宮内電気穿孔法で導入したマウスを作製し、mCherry 及びPSD-95-GFPを共発現させ、2PLSMで生体マウスの同一神経細胞の形態及びPSD-95の分布パターンをインビボで同時に解明することが出来た。大脳皮質には多種多様な神経細胞が存在し、それぞれ様々な形態をとり得るので、神経細胞がランダムに標識された場合にはそれら神経細胞の形態を別の個体間(例えば、ノックアウトマウスと対照マウス)で比較することが困難となる。このような場合に本発明方法を用いることによって、特定の神経細胞小集団のみを標識することが可能となるので、別の個体間における神経細胞の形態の比較が可能となる。又、本発明とコンディショナルノックアウト動物技術とを組み合わせて、単一神経細胞にCre組換え酵素とGFPを共発現させることによって、遺伝子ノックアウトによる単一神経細胞レベルでの細胞自律的効果及び細胞非自律的効果を識別することが可能となる。 更に、本発明方法においては、プラスミドベクターの投与量(濃度)を変化させることによって、陽性細胞密度を調節することが可能である。実験の目的等によって、最適な陽性細胞密度は異なる。例えば、長期間に亘って同じ樹状突起セグメントを繰り返し画像化したいような場合には、低密度が望ましい。一方で、十分な数の陽性神経細胞を得ようとすれば、高密度の陽性細胞が好ましいであろう。従って、陽性細胞の密度を容易に調節することができるのは非常に有益である。更に、本発明方法は対象動物の遺伝的背景に係わり無く適用することが出来る。既に記載したように、従来では、Thy1-XFPマウスと疾患モデルマウスの遺伝的背景は異なる場合には、遺伝的背景によって実験結果がしばしば影響されるので、遺伝的背景を調整するために、しばしば戻し交配が必要とされていた。これに対して、本発明方法では子宮内電気穿孔法を使用するので、遺伝的背景の相違という問題点は考慮する必要がない。又、トランスジェニック動物が利用できない動物に対しても本発明方法は適用することが出来る。子宮内電気穿孔法を用いて、Thy1L 発現カセット(A)、Thy1Sプロモータ(B)、synapsin I プロモータ(C)及びCaMKIIa プロモータ(D)を含む各プラスミドをpCAG-mCherry(0.5 mg/ml)と共導入し、GFPを発現させた結果を示す。スケールバー:50μm。pCAG-mCherryと共導入した場合の、mCherry陽性神経細胞数に対する、各プロモータを使用した場合のGFP陽性細胞の割合(%)を示す。マウスThy-1遺伝子、Thy1L発現カセット及びThy1Sプロモータの構造の概略を示す。各エクソンは枠(非翻訳部分は白枠、タンパク翻訳領域は黒枠)で示されている。Thy1L発現カセットにおいてはThy-1タンパク質の全タンパク質配列はGFPのような導入遺伝子と置換されている。pThy1S-GFPプラスミド濃度を2mg/mlにまで上昇させて導入し、GFPを発現させた結果を示す。スケールバー:100μm。子宮内電気穿孔法を用いたpThy1S-GFP とpCAG-mCherryをE15.5の2/3層の神経細胞内への共導入の結果を示す顕微鏡写真(A)及びグラフ(B)である。スケールバー:50μm。発生過程におけるThy1Sプロモータによる遺伝子発現誘導を示す顕微鏡写真である。スケールバー:100μm。Thy1Sプロモータによる大脳皮質5層神経細胞(A)及び海馬(B,C)における遺伝子発現誘導を示す顕微鏡写真である。スケールバー:100μm。大脳皮質5層神経細胞マーカー分子の発現及びThy1SプロモータによるGFP陽性細胞の結果を示す顕微鏡写真である。スケールバー:50μm。Cre-lox系とThy1Sプロモータを組み合わせた軸索及び樹状突起の可視化を示す顕微鏡写真である。スケールバー:100μm(A), 20μm(B, C)。Cre-lox系とThy1Sプロモータを組み合わせた軸索及び樹状突起の可視化における、タモキシフェンの有無による相違を示す顕微鏡写真である。スケールバー:100μm。単一の神経細胞において複数の蛍光タンパク質の発現を示す顕微鏡写真である。スケールバー:100μm(A)、10μm(B)、5μm(C)。マウスの頭蓋骨の背面を示す(矢印:ブレグマ、矢頭部:ラムダ)。2PLSMによる、生体マウスの脳における、多数のmCherry陽性神経細胞に囲まれたGFP陽性である2/3層の単一神経細胞の顕微鏡写真である。スケールバー:40μm(B上)、10μm(B)、5μm(C)。図13に基づく三次元再構成画像データを示す。本発明は、野生型プロモータの領域の一部を欠失させて成る修飾プロモータであって、野生型プロモータに較べて外来性遺伝子の発現誘導における細胞型特異性が向上したプロモータ、特に、特定の細胞小集団のみで外来性遺伝子の発現を誘導することが出来る、前記修飾プロモータに係る。従って、本発明は、野生型プロモータの領域の一部を欠失させることによって、該プロモータの外来性遺伝子の発現誘導における細胞型特異性を向上させる方法にも係る。本発明において、「特定の細胞小集団」とは、例えば、大脳等のある組織・器官を構成する細胞集団の中の更に小さい集団であって、例えば、「マーカー分子」の発現の有無によって識別されるような、或る性質・機能・構造及び/又は状態が共通する細胞群を意味する。その例として、大脳皮質(例えば、5層)及び海馬などの中枢神経細胞又は網膜における神経細胞に含まれる細胞小集団を挙げることが出来る。又、「細胞型特異性」とは、本発明の修飾プロモータによる遺伝子発現の誘導(調節)活性・機能がどのような特定の種類の細胞において発揮されるか、という選択性を意味する。従って、特定の細胞小集団のみで外来性遺伝子の発現を誘導することが出来る本発明の修飾プロモータは、このような「細胞型特異性」が非常に高いといえる。本発明で使用できる野生型プロモータの由来・種類に特に制限はない。外来性遺伝子の種類、該遺伝子を発現させる細胞の部位・種類などに応じて、当業者に公知のものから適宜選択することが出来る。例えば、中枢神経細胞で発現させたいような場合には、本明細書の実施例で使用しているマウス由来のThy1Lプロモータ、CaMKIIaプロモータ 及びpSynapsin Iプロモータ等を挙げることが出来る。Thy1Lは、中枢神経細胞において発現を誘導する汎用性のプロモータとして周知である。尚、Thy1L発現カセットは、ゲノムにランダムに挿入された際に、位置効果に関して非常に感受性があることが知られている(非特許文献4,5)。本発明の修飾プロモータの一好適例として、Thy1Lプロモータの3’領域の一部を欠失させて成る修飾Thy1プロモータ、特に、3’領域の一部がエクソン4及びそれより下流の領域を欠失させた修飾プロモータ(「short Thy1」又は「Thy1S」)を挙げることが出来る。Thy1Sの塩基配列(ヌクレオチド配列)を配列番号1で示す。 従って、本発明の修飾プロモータの例として、以下の塩基配列を有するものを挙げられる。下記の(2)又は(3)から成る塩基配列を有するDNA分子は、配列番号1で示される塩基配列から成るDNA分子と実質的に同じプロモータ機能・活性を有する。(1)配列番号1で示される塩基配列;(2)配列番号1で示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列;及び(3)ストリンジェントな条件下で配列番号1で示される塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAが有する塩基配列。尚、2つの塩基配列における配列の相同性(同一性)を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行う。その後、各部位における塩基が比較される。第一の配列における、ある部位に、第二の配列の相当する部位と同じ塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全塩基)数に対する百分率で示される。 上記の原理に従い、2つの配列における相同性は当業者に公知の任意の方法で決定することができる。例えば、Karlin及びAltshulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268,1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)により決定することが出来る。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムがAltshulらによって開発された(J.Mol.Biol.215:403−410,1990)。さらに、Gapped BLASTはBLASTより感度良く相同性を決定するプログラムである(Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)。上記のプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い相同性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。 或いは、配列間の相同性として、Tatiana A. Tatusovaらによって開発されたBLAST 2 Sequencesソフトウェア(FEMS Microbiol Lett.,174:247−250,1999)を用いて決定した値を用いることも可能である。このソフトウェアは米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能であり、入手も可能である。用いるプログラム及びパラメーターとしては、例えば、FASTAソフトウェア(W.R.Pearson and D.J.Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444−2448,1988)を用いて相同性を示す配列をデータベースから検索することもできる。いずれのパラメーターも、ウェブサイト上でデフォルト値として用いられているものである。 更に、本発明の修飾プロモータは、ストリンジェントな条件下で配列番号1で示される塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAであって、配列番号1で示される塩基配列から成るDNA分子と実質的に同じプロモータ機能・活性を有する分子を含む。 ここで、ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))又はMolecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)に記載の当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。本明細書において、DNAのハイブリダイズにおける「ストリンジェント(stringent)な条件」は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。更に、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。従って、「ストリンジェントな条件」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900mM、pH 6〜8であるような条件を挙げることが出来る。ストリンジェントな条件の一具体例としては、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mM クエン酸三ナトリウム)、1% SDS、5 x デンハルト溶液50% ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1 x SSC (15 mM NaCl、1.5 mM クエン酸三ナトリウム)、0.1% SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものである。 ここで、「外来性遺伝子」とは、一般的に、本発明の修飾プロモータによる発現誘導によって発現制御される対象となる遺伝子を意味する。従って、該外来性遺伝子が導入された細胞に元来存在していないか、又は、上記所定の条件において発現していない遺伝子に加えて、該細胞の染色体に元来存在し、又は発現している遺伝子等も含まれる。該外来性遺伝子は、その使用目的等に応じて当業者に公知の任意のものを使用することが出来る。例えば、本明細書の実施例で用いられているPSD-95のような細胞の特定部位で発現するタンパク質(細胞内局在マーカー等)をコードする遺伝子、又は、細胞を標識する場合には適当な標識マーカーとして、GFP等の各種の蛍光タンパク質及び光制御分子(例えば、チャネルロドプジン)の遺伝子を外来性遺伝子として用いることが出来る。更に、該細胞内局在マーカーと該標識マーカー又は抗体結合部位となる各種のペプチドタグ(FLAG及びAviTag等)との融合タンパク質、例えば、前シナプス性マーカー(例えば、シナプトフィシン-XFP)、経シナプス性マーカー(例えば、WGA及び WGA-Cre)、及び神経活性レポーター(例えば、GFPに基づくCa2+センサー)等をコードする遺伝子を挙げることが出来る。更に本発明は、上記の修飾プロモータの発現制御下に結合した外来性遺伝子を有する発現ベクターに係る。従って、このような発現ベクターにおいては、所定の条件において、修飾プロモータ活性・機能を介して該外来性遺伝子の転写が起こる。本発明の発現ベクターの形態・構造に特に制限はなく、例えば、プラスミドベクターであり得る。本発明のプラスミドベクターは、上記プロモータに加えて、本発明の修飾プロモータの活性・機能を損なわない限り、適宜、発現に必要な他の調節配列、例えば、エンハンサー及びその他の発現調節(制御)因子(例えば、ポリアデニル化シグナル)、リボソーム結合部位、合成オリゴヌクレオチドアダプター並びにリンカー等を含むことができる。 更に、Cre/loxP系を組み合わせて本発明方法に用いるためには、発現ベクターには、外来性遺伝子の一種として、Cre組換え酵素をコードする遺伝子、loxP配列、更に、ステロイドホルモンの受容体アンタゴニストのリガンド結合領域等を含むことが出来る。 本発明の発現ベクターは、以上の外来性遺伝子、他の構成要素(単位)、及び導入する細胞の種類等に応じて、当業者が適宜設計・構築することが出来る。一実施例として、本発明の発現ベクターは、マウス等の哺乳動物細胞で機能する発現ベクターである。更に、本発明は、上記の修飾プロモータによる発現制御によって外来性遺伝子を特定の細胞小集団で発現させる方法に係る。例えば、本発明の発現ベクターを用いて子宮内電気穿孔法によって動物、特に、マウス等の哺乳動物の胎児の所望の部位に外来性遺伝子を導入し、インビボで該遺伝子を特定の細胞小集団で特異的に発現させる。ここで、外来性遺伝子が蛍光タンパク質等の標識マーカーをコードする場合には、該標識マーカーによって細胞小集団を特異的に標識することが出来る。子宮内電気穿孔法自体は従来の方法に準じて行うことが出来る。発現した標識マーカーは当業者に公知の任意の手段・方法を用いて検出することが出来る。例えば、蛍光タンパク質である場合には、本明細書に記載のような免疫化学的手法、及び、落射蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡及び2光子励起レーザー顕微鏡等の各種の顕微鏡を用いる当業者に公知の方法・手段で観察・同定することが可能である。尚、本発明において外来性遺伝子は、子宮内電気穿孔法以外にも当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。更に、本発明方法においては、このように特定の細胞小集団を複数種類の蛍光タンパク質等の標識マーカーで特異的に標識した後に、二光子励起レーザー顕微法によって、インビボで動物の単一(一つの)神経細胞における複数の特徴・特性を同時に可視化することが可能となる。 この方法において、標識マーカー(例えば、蛍光タンパク質)をコードする遺伝子の発現量を増加させる目的で、Cre/loxP系を組み合わせることが出来る。即ち、本発明の修飾プロモータによる発現制御によってCre組換え酵素をコードする遺伝子を特定の細胞小集団で発現させ、該Cre組換え酵素の作用によって、loxP部位に挟まれた他の外来性遺伝子の発現を可能とさせる。尚、Cre/loxP系としては、Cre組換え酵素と同様の活性を有する様々な類似体(酵素)及び類似loxP配列が知られており、これらの系も本発明で使用することが可能である。更に、Cre組換え酵素の作用時期を調節する目的で、Cre組換え酵素とステロイドホルモンの受容体アンタゴニストのリガンド結合領域改変体との複合体を形成させ、該アンタゴニストの細胞外からの添加によって該複合体が核内に移行し、その結果、Cre組換え酵素活性が発揮されるようにすることが出来る。ステロイドホルモンの具体例としては、例えば、エストレゲンを挙げることが出来、そのリガンド結合領域改変体である(ER T2)に結合する受容体アンタゴニストとしてタモキシフェンがある。このような方法を用いて、例えば、生体動物、例えばマウスの脳内の単一神経細胞においてスパイン形態とPSD-95の局在化をインビボで同時に可視化することが可能となる。 尚、本発明方法において、複数種類の発現プラスミドベクターの共導入効率が低いような場合には、バイシストロニックレポータープラスミドを使用して同一細胞への複数遺伝子発現効率を高くすることも可能である。このレポータープラスミドには例えば、IRES2及びピコナウイルス2Aペプチドが含まれている。 尚、本発明方法において特定の細胞小集団を複数の蛍光タンパク質等の標識マーカーで特異的に標識する場合には、例えば、異なる種類の外来性遺伝子を含む複数の発現ベクターを用いて、それらの複数の外来性遺伝子を共発現させることが好ましい。 以下に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のために提供されているものである。従って、これらの実施例は、本願で開示する発明の範囲を限定し、又は制限するものではない。本発明では、特許請求の範囲の請求項に記載された技術的思想に基づく様々な実施形態が可能であることは当業者には容易に理解される。動物 ICRマウス(SLC, 浜松)は通常の12時間/12時間の昼/夜スケジュールで飼育した。誕生日を「P0」と数えた。全ての実験操作は東京大学動物管理委員会に承認されたプロトコールに則って実施した。幾つかの実験においてタモキシフェンを用いてマウスを処置した。タモキシフェン(Sigma, H6278, St. Louis, MO)をエタノールに溶解し(25 mg/ml)ゴマ油で10倍に希釈した。得られたタモキシフェン溶液を皮下注射した(65 mg/kg体重)。プラスミド構築 ベクターpCAG-GFP 及びpCAG-mCherryは文献(Sehara, K., et al. Whisker-related axonal patterns and plasticity of layer 2/3 neurons in the mouse barrel cortex. J. Neurosci. 30, 3082-3092 (2010).)に記載されており公知である。pThy1S-GFPはpCAG-GFP のCAGプロモータをThy1L発現カセット(非特許文献4)のエクソン4及びその下流の全領域を更に欠失させることによって得られた5’領域の一部(図3)と置換することによって作製した。pCaMKIIa-GFP 及びpSynapsin I-GFPはpCAG-GFP のCAGプロモータをマウスCaMKIIaプロモータ1.3 kb及びラットSynapsin Iプロモータ(Dittgen, T., et al. Lentivirus-based genetic manipulations of cortical neurons and their optical and electrophysiological monitoring in vivo. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 18206-18211 (2004).)と夫々置換したものである。pThy1S-mCherry, pThy1S-CRE, pThy1S-ERT2CreERT2は、pThy1S-GFPのGFPを、夫々、mCherry, CRE,及び ERT2CreERT2と置換したものである。ERT2CreERT2はエストロゲン受容体から修飾した2つのリガンド結合ドメイン(リガンド結合領域改変体)と融合したCreリコンビナーゼから成る。Cre依存性発現ベクターであるpCAG-FloxedStop-GFPはCAGプロモータ、lox配列で挟まれた(floxed)「停止カセット」及びGFPから構成されている。pCAG-FloxedStop-mCherry及びpCAG-FloxedStop-PSD-95-GFPは、pCAG-FloxedStop-GFPのGFPを、夫々、mCherry及びPSD-95-GFPと置換して構築した(Craven, S.E., El-Husseini, A.E. & Bredt, D.S. Synaptic targeting of the postsynaptic density protein PSD-95 mediated by lipid and protein motifs. Neuron 22, 497-509 (1999).)。各プラスミドはエンドフリー・プラスミド・マキシ・キット(Qiagen, Hamburg, Germany)を使用して精製した。子宮内電気穿孔法を実施する前に、プラスミドDNAを1 x PBS中で1-3 mg/mlに希釈し、注入をモニターする為のFast Greenを最終濃度0.03 %で添加した。各プラスミド液を混合し、これを子宮内電気穿孔法で使用した。 子宮内電気穿孔法 従来の方法(例えば、非特許文献4、5)に少し変更を加えて実施した。即ち、妊娠ICRマウスをペントバルビタール・ナトリウムで麻酔し、子宮を露出させた。約1-2μlのDNA溶液(1-3 mg/ml)をガラス針を用いて所定年齢の胎児の側脳室に注射した。子宮内の各胎児はピンセット型電極(CUY650-P5; NEPAGene, Chiba, Japan)の間に置き、エレクトロポレーター(ECM830, Harvard Apparatus, MA)で方形電気パルス(30-45 V, 50 ms)を1秒間のインターバルで5回印加した。過剰な体温低下を回避すべく、胎児を速やかに腹腔に戻すために迅速な処置を施した。腹腔の内壁及び皮膚を縫合し、胎児が通常に成長出来るようにした。免疫組織化学 文献に記載の方法で実施した(Kawasaki, H., et al. Induction of midbrain dopaminergic neurons from ES cells by stromal cell-derived inducing activity. Neuron 28, 31-40 (2000);及びKawasaki, H., Crowley, J.C., Livesey, F.J. & Katz, L.C. Molecular organization of the ferret visual thalamus. J. Neurosci. 24, 9962-9970 (2004).)。即ち、マウスをペントバルビタールで深く麻酔し、4%パラホルムアルデヒドを心臓に灌流した。続いて大脳を取り出し、30%ショ糖に一晩浸漬したのちに、OCT化合物内に包埋した。クライオスタットを用いて厚さ14又は50μmの切片を作製し、0.1% Trioton X-100のPBS溶液で浸透化し、一次抗体と一晩インキュベートした。次に、Alexa488- 又はCy3-標識二次抗体とインキュベートした後に、切片をHoechst 33342(1μg/ml)とインキュベートし、洗浄し、スライドグラスに貼付した。第一次抗体としては、抗GFP抗体(Medical &Biological Laboratories, Nagoya, Japan)、抗Ctip-2抗体(Abcam, San Francisco, CA)、抗Otx1抗体(Millipore, Billerica, MA)及びSMI32(Covance, Princeton, NJ)を使用した。実験は少なくとも3回実施し、一貫した結果が得られた。落射蛍光顕微法及び共焦点顕微法 落射蛍光顕微法はAxiomager A1 顕微鏡(Carl Zeiss, Goettingen, Germany)を用いて行なった。共焦点顕微法はLSM510 顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて行なった。Z-stack画像を集め、ZEN 2008 LE ソフトウェア(Carl Zeiss)を用いて三次元画像を再構成した。画像はデータの三次元像を計算し、投影軸に沿った最高強度を有するピクセルのみを表示された、最大投影画像で示した。二光子励起レーザー顕微法(2PLSM) マウスにペントバルビタールを注射して深く麻酔させた。顕微鏡下でマウスをしっかりと固定するために、金属棒を歯科用アクリルで頭蓋骨に貼った。大脳皮質の背面上を覆う骨を削ることによって頭部窓(直径3x3 mm)を設け、目的とする領域を覆う骨の小片を剥がした。硬膜を慎重に除去した後に上記頭部窓を低融点アガロースゲルで覆い、露出領域をマニキュア液で密封した。埋め込んだ金属棒を用いて顕微鏡ステージ上に設けた定位固定装置内にマウスを固定した。インビボ画像は、オリンパス製二光子励起レーザー顕微鏡で実施した。画像(1300- x 1000 ピクセル)はフレーム平均(2−4倍)し、画像スタックを得た。結果以下に、上記の方法を用いた各実施例を示す。2/3層の特定の神経細胞小集団におけるThy1Sプロモータによる遺伝子発現誘導 子宮内電気穿孔法を用いて、Thy1L 発現カセット、synapsin I プロモータ(1.1 kb)及びCaMKIIa プロモータ(1.3 kb、0.5 mg/ml)の制御下でGFPを発現させた。これらプロモータを含む各プラスミド(pThy1L-GFP(0.9 mg/ml), synapsin I-GFP(0.5 mg/ml), CaMKIIa-GFP(0.5 mg/ml))はpCAG-mCherry(0.5 mg/ml)と共に、E15.5において2/3層の神経細胞内に共導入した。大脳皮質をP15で取り出し、得られた切片を抗GFP抗体で染色した。いずれの実験においても、mCherry陽性の2/3層の神経細胞のほとんどはGFP陽性でもあった(Thy1L, 83.6 % + 1.5, n=997; synapsin I,67.5 % + TKTK, n=117;CaMKIIa 83.9 % + TKTK, n=93)(図1A,C,D)。これらの結果は、上記のプロモータが2/3層の神経細胞小集団を標識するのに適当ではないことを示すものである。 神経細胞の小集団における導入遺伝子の発現を達成するために、Thy1L発現カセットのエクソン4及びそれより下流(3’側)の全領域を欠失させてThy1Sプロモータを作製した(pThy1S-GFP(0.7 mg/ml)。このプロモータの制御下でGFPを発現させたところ、その発現パターンが顕著に相違することが判明した。即ち、Thy1L発現カセットは2/3層の殆どの神経細胞においてGFP発現を誘導した(図1、A)のに対して、Thy1Sプロモータは2/3層におけるmCherry陽性細胞の中の僅かな小細胞集団(Thy1S, 25.6% + 5.2, n=1288)においてのみGFP発現を誘導した(図1、B)。Thy1Sプロモータを使用した場合のGFP陽性細胞の割合は、他のプロモータを使用した場合と比較して有意に低かった(P<0.01, 非対応t検定(unpaired Student’s t-test) 、図2)。Thy1Sプロモータを含むプラスミドはThy1L発現カセットを含むプラスミドよりもサイズが小さく、子宮内電気穿孔法では全てのプラスミドを同じモル濃度(140 pmol/ml)で使用しているので、Thy1Sプロモータによる上記の結果は該プラスミドが低濃度(又は、十分に高い濃度ではなかった)であった、というような理由ではないと思われる。何故なら、第一に、同様のモル濃度のプラスミドを使用したにも拘わらず、Thy1Sプロモータのみが上記のような結果を示したこと、第二に、プラスミド濃度を2mg/mlにまで上昇させてもGFP陽性細胞の数は未だ少数であったこと、及び、プラスミド濃度を0.5 mg/ml以上にまで上昇させてもGFP陽性細胞の数が増加しなかったこと(図4)から、プラスミド濃度は0.5 mg/mlで十分であったものと考えられる。これらの結果から、pThy1S-GFPによるGFP陽性細胞の数が少なかったことはプラスミドの濃度が低かったことによるのではなく、GFP陽性神経細胞は2/3層の神経細胞の特定の小集団に属する可能性が示唆された。 この可能性を確証するために、子宮内電気穿孔法を用いて、pThy1S-GFP (1 mg/ml)とpThy1S-mCherry (1 mg/ml)をE15.5において2/3層の神経細胞内に共導入し、P15の段階で、GFP及びmCherryの発現を確認した。その結果、mCherry陽性細胞の殆どはGFP陽性(90.9 % + 8.5, n=228)でもあった(図5)。以上の結果から、pThy1S-GFP陽性神経細胞はランダムに選択されたのではなく、Thy1Sプロモータの調節下で特定の神経細胞小集団が特異的に標識されたことが示された。発生過程に伴うThy1Sプロモータ誘導による遺伝子発現の変化 子宮内電気穿孔法を用いて、pThy1S-GFP (1 mg/ml)とpCAG-mCherry (1 mg/ml)をE15.5において2/3層の神経細胞内に共導入した後、P6, P10 P15の段階で大脳皮質を切開し、冠状断切片を検討した。P6という早期の段階でもGFP陽性の2/3層神経細胞が観察され、その数は次第に増加した(図6)。以上の結果から、発生過程において2/3層が形成された直後から、Thy1Sプロモータを用いて2/3層の神経細胞の形態学的変化を調べることができることが判った。Thy1Sプロモータによる大脳皮質5層神経細胞及び海馬における遺伝子発現誘導 子宮内電気穿孔法を用いて、pThy1S-GFP (1 mg/ml)とpCAG-mCherry (1 mg/ml)をE12.5において5層の神経細胞内に共導入し、大脳皮質をP15で取り出し、得られた冠状断切片を抗GFP抗体及びHoechst33342で染色した。2/3層の神経細胞の場合と同様に、GFPは5層のmCherry陽性細胞の小集団でのみ発現した(6.93 % + 0.94, n=609)(図7A)。一方、E14.5において海馬内にpThy1S-GFPとpCAG-mCherryを共導入し、P15で脳を取り出し、得られた冠状断切片を抗GFP抗体及びHoechst33342で染色した(図7B)。又、E14.5において海馬内にpThy1S-mCherryとpThy1L-GFPを共導入し、P19で脳を取り出し、得られた冠状断切片を抗GFP抗体、抗RFP抗体及びHoechst33342で染色した(図7C)。その結果、少数のCA1神経細胞においてThy1SプロモータによってGFPが発現誘導され、一方、CAGプロモータ及びThy1L発現カセットは多数の神経細胞においてmCherryの発現を誘導したことが判った(図7B,C)。5層神経細胞には利用できるマーカー分子が数種類あるので、これらを使用してGFP陽性細胞の種類を同定した。即ち、Satb2及び Otx1 (P6)及びSMI-32(P32)の発現を調べた結果、GFP陽性細胞の殆どはSatb2を発現し、一方で、非GFP陽性神経細胞はOtx1 及びSMI-32を発現していた(図8)。更に、GFP陽性細胞数はSatb2陽性細胞数に比べてはるかに少なかった。これらの結果から、このGFP陽性細胞数は5層における交連性神経細胞の小集団であることが示唆された。このように、Thy1SプロモータはSatb2陽性神経細胞の小集団において遺伝子発現を誘導していることが示された。又、以上の結果は、GFP陽性神経細胞はランダムに選択されるのではなく、GFP陽性神経細胞は特定の神経細胞小集団に属するものであることを支持している。以上の結果から、Thy1Sプロモータは2/3層のみならず5層及び海馬における少数の神経細胞で目的とする遺伝子を発現させるのに有用であることが示された。Thy1Sプロモータを用いる軸索及び樹状突起の可視化 大脳皮質には非常に多数の軸索、樹状突起及び棘突起(スパイン)があるので、生体の脳内において、単一神経細胞由来の軸索及び樹状突起セグメント並びにスパインを画像化することは困難であった。そこで、従来は、錐体神経細胞の小集団においてXFPが発現するThy-1-XFPマウスを用いて、インビボにおけるスパインのダイナミックスが解明されていた。 これまでの結果から、Thy1SプロモータによるGFP発現によって単一神経細胞の軸索及び樹状突起並びにスパインを画像化することが可能であることが期待される。一方で、軸索及び樹状突起の詳細な構造を調べるには、免疫組織染色を用いないとThy1Sプロモータ調節下でのGFP蛍光強度は十分とはいえなかった。 そこで、GFP蛍光強度を増加させるために、Thy1SプロモータをCre/loxP系を組み合わせた。その際に、未熟な神経前駆細胞においてリポータープラスミドがCre組換え酵素(リコンビナーゼ)による組換えを起さず活性化にタモキシフェン処理が必要とされるように、Cre組換え酵素とエストレゲン受容体アンタゴニストのリガンド結合領域(ER T2)改変体との複合体であるERT2CreERT2を利用した。即ち、細胞外から添加されたタモキシフェンが該リガンド結合領域と結合することによって初めて、該複合体が核内へ移行でき、その結果、Cre組換え酵素活性によってCre-lox系の組換えが生起し、loxP配列が除去されて所定のプロモータ調節下でGFPが発現する。まず、子宮内電気穿孔法を用いて、pThy1S-ERT2CreERT2(0.5 mg/ml)pCAG-FloxedStop-GFP(0.5 mg/ml)及びpCAG-mCherry(0.5 mg/ml)をE15.5において2/3層の神経細胞内に共導入し、P5以降にタモキシフェンを新生児マウスに3回注射し、成熟神経細胞でのみCreによる組換えが誘起されるようにした。P28において大脳皮質を取り出し冠状断切片を検査した結果、2/3層の特定の神経細胞小集団でのみ強くGFPを発現していることが確認された(図9A)。免疫組織化学を依らなくとも、GFP陽性である単一の軸索及び樹状突起に沿ったスパインを明瞭に識別することが出来た(図9B,C,D)。一方で、CAGプロモータは実質的に全ての神経細胞で遺伝子発現を誘導するので、mCherry陽性によって単一の神経細胞の樹状突起軸全体を再構成することは困難であった。 タモキシフェンなしでも組換えが自発的に生起する可能性もあるので、タモキシフェンを添加しない状態で大脳皮質における遺伝子発現を調べた結果、GFP陽性神経細胞は実質的に観察されなかった(図10)。以上のことから、タモキシフェン処理によって引き起こされたERT2CreERT2による組換えによってGFP蛍光が誘導されたことが示された。このように、Thy1Sプロモータを用いることによって、大脳皮質における単一の軸索及び樹状突起並びにスパインの詳細な形態学的研究が可能となった。単一の神経細胞における複数遺伝子の発現 単一の神経細胞において複数の蛍光タンパク質を同時に可視化することが出来れば、神経細胞の機能の解明が容易になると考えられる。そこで、子宮内電気穿孔法を用いて、pThy1S-ERT2CreERT2(0.5 mg/ml)、pCAG-FloxedStop-PSD-95-GFP(0.5 mg/ml)、及びpCAG- FloxedStop-mCherry(0.5 mg/ml)をE15.5において2/3層の神経細胞内に共導入し、P5以降にタモキシフェンを新生児マウスに3回注射した。P15において皮質を検査したところ、2/3層の神経細胞小集団のみがmCherry及びPSD-95-GFPの両者を強く発現していることが確認された(図11A、B)。mCherry陽性神経細胞の殆どはGFP陽性の点状蛍光(GFP-positive puncta)を有していた。尚、共焦点顕微鏡によればGFP陽性点状蛍光がスパインに位置していた(図11C)。以上のことから、Thy1Sプロモータを用いることによって、単一神経細胞を複数の蛍光タンパク質で同時に標識することが可能であることが示された。生体マウスの単一の神経細胞におけるインビボでの複数の蛍光タンパク質の画像化 生きているThy1-XFPマウスを用いたインビボでの反復的な画像化によって、インビボでのスパイン形態の動的変化が明らかにされている。しかしながら、生体マウスの単一神経細胞においてスパイン形態とPSD-95の局在化を同時に視覚化することはこれまで困難であった。 そこで、子宮内電気穿孔法を用いて、pCAG-mCherry(0.25 mg/ml)、pThy1S-ERT2CreERT2(0.2 mg/ml)、及びpCAG-FloxedStop-GFP(2 mg/ml)をE15.5において2/3層の神経細胞内に共導入し、P5以降にタモキシフェンを新生児マウスに3回注射した。マウスを深く麻酔させ、頭部皮膚を矢状断方向に切開し(図12)し、2PLSM実施前に、頭蓋骨を透過したmCherry蛍光に基づきトランスフェクションされた脳領域の位置を同定した。2PLSMを用いてP25-45において画像を取得した(図13A)。P44における生体マウスの脳において、多数のmCherry陽性神経細胞に囲まれたGFP陽性である2/3層の単一神経細胞の明瞭な画像を得ることに成功した(図13B)。低倍率画像(図13B、上)は単一神経細胞における樹状突起全体を示し、高倍率画像(図13B、下)はスパインを有するGFP陽性な単一樹状突起セグメントを示している。尚、mCherry蛍光では、単一神経細胞における樹状突起全体像を同定することは出来なかった。 更に、三次元再構成画像データを用いて立体的画像を作成することに成功した(図14)。この立体的画像は蛍光タンパク質の詳細な分布パターンを研究するのに非常に有用である。 更に、生体マウスの単一神経細胞においてスパイン形態とPSD-95の局在化を同時に調べることが出来るか否かを検討するために、上記と同様に、子宮内電気穿孔法を用いて、pThy1S-ERT2CreERT2(0.2 mg/ml)、pCAG-FloxedStop-mCherry(0.5 mg/ml)及びpCAG-FloxedStop-PSD-95-GFP(0.5 mg/ml)をE15.5において2/3層の神経細胞内に共導入し、タモキシフェン処理した。その結果、2PLSMによって、インビボでPSD-95-GFPがmCherry陽性スパインに局在していることが確認された(図13、C)。この結果から、Thy1Sプロモータ、Cre/LoxP系、及び2PLSMを用いることによって、生体マウス脳において、複数の蛍光タンパク質の同時可視化が可能であることが示された。 本発明が提供する技術は、2PLSM等の適当な光学的技術と組み合わせることによって、任意の生理的状態又は病的状態にある生体動物における神経細胞の形態的変化、XFP等標識有用タンパク質の局在分布、及び、遺伝子機能をインビボで解明するために有用である。野生型プロモータの領域の一部を欠失させて成る修飾プロモータであって、野生型のプロモータに較べて外来性遺伝子の発現誘導における細胞型特異性が向上した、前記修飾プロモータ。特定の細胞小集団のみで該外来性遺伝子の発現を誘導することが出来る、請求項1記載の修飾プロモータ。特定の神経細胞小集団が大脳皮質における2/3層神経細胞又は5層神経細胞、若しくは、海馬における神経細胞である、請求項1又は2に記載の修飾プロモータ。Thy1プロモータの3’領域の一部を欠失させて成る修飾Thy1プロモータであって、特定の神経細胞小集団のみで外来性遺伝子の発現を誘導することが出来る、請求項1ないし3のいずれか一項に2記載の前記修飾プロモータ。欠失した3’領域の一部がエクソン4及びそれより下流の領域である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の修飾プロモータ。以下の塩基配列を有する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の修飾プロモータ:(1)配列番号1で示される塩基配列;(2)配列番号1で示される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列;及び(3)ストリンジェントな条件下で配列番号1で示される塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAが有する塩基配列。請求項1ないし6のいずれか一項に記載の修飾プロモータの発現制御下に結合した外来性遺伝子を有する発現ベクター。外来性遺伝子が蛍光タンパク質をコードする領域を含む、請求項7記載のベクター。哺乳動物の細胞において機能する、請求項8記載の発現ベクター。請求項1ないし6のいずれか一項に記載の修飾プロモータによる発現制御によって外来性遺伝子を特定の細胞小集団で発現させる方法。 【課題】成体マウス脳の神経細胞にランダムに且つ迅速に遺伝子発現を行う子宮内電気穿孔法において、特定の極少数の種類又は単一種の神経細胞、例えば、錐体神経細胞の小集団のみにおいて、特異的に外来性遺伝子の発現を誘導できるプロモータ等を提供すること。【解決手段】野生型プロモータの領域の一部を欠失させて成る修飾プロモータであって、野生型のプロモータに較べて外来性遺伝子の発現誘導における細胞型特異性が向上した、前記修飾プロモータ、修飾プロモータの発現制御下に結合した外来性遺伝子を有する発現ベクター、及び、修飾プロモータによる発現制御によって外来性遺伝子を特定の細胞小集団で発現させる方法。【選択図】図3配列表


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