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タイトル:公開特許公報(A)_エタノール産生菌及びエタノール生産方法
出願番号:2010210265
年次:2012
IPC分類:C12N 1/20,C12P 7/06


特許情報キャッシュ

林 毅 古川 謙介 JP 2012060985 公開特許公報(A) 20120329 2010210265 20100918 エタノール産生菌及びエタノール生産方法 学校法人別府大学 510252232 原 信海 100156959 林 毅 古川 謙介 C12N 1/20 20060101AFI20120302BHJP C12P 7/06 20060101ALI20120302BHJP JPC12N1/20 AC12N1/20 DC12N1/20 FC12P7/06 2 1 OL 16 4B064 4B065 4B064AC03 4B064BJ01 4B064CA02 4B064CC06 4B064CC12 4B064CD09 4B064DA16 4B065AA01X 4B065AC02 4B065AC10 4B065AC11 4B065AC14 4B065AC20 4B065BA23 4B065BB15 4B065BC03 4B065BC08 4B065CA06 4B065CA54 本発明は、糖質原料からエタノールを産生するエタノール産生菌、及び当該菌によってエタノールを生産する方法に関する。 エタノール発酵を行うには従来より酵母(Saccharomyces cerevisiae)が用いられてきたが、酵母より高いエタノール産生能を有するザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)(以後、単にザイモモナス菌と呼ぶこともある。)が注目されており、例えば後記する特許文献1には次のようなザイモモナス菌が開示されている。 すなわち、熱帯気候の地域であるタイ王国において複数株のザイモモナス菌を単離し、39℃と比較的高い温度でも良好に生育し、エタノール産生能が高い株を選択することによって、耐熱性が高いザイモモナス・モビリス NITE AP−410及びNITE AP−411を得た。 このようなザイモモナス菌を用いることによって、37℃〜39℃と比較的高い温度であっても効率的にエタノールを発酵することができる。特開2009−60836号公報 しかしながら、ザイモモナス菌は酵母と同様、嫌気的な環境下ではエタノール発酵を行うが、好気的な環境下では呼吸を行うためほとんどエタノール発酵が行われない。このようなザイモモナス菌を用いてタンク内でエタノール発酵を行うには、タンク内を撹拌しない静置培養によりエタノール発酵を実施しなければならず、かかる静置培養にあっては時間の経過とともに菌体がタンクの底部に沈降して行くため発酵効率が低下するという問題があった。 これを解決するには、タンク内に設置された撹拌羽根によって菌体を撹拌することが考えられるが、比較的低い回転速度で撹拌したとしても撹拌によって周囲の酸素が培地内に取り込まれるため、これに相応してエタノール発酵の効率が低下してしまう。そのため、窒素ガス又は炭酸ガスといった非酸素系のガスをタンク内に導入することが考えられるが、ランニングコストが嵩んでしまう。 また、上述したようにザイモモナス菌は好気的な環境下では主に呼吸を行うため、かかるザイモモナス菌を好気的な環境下で取り扱っていると、例えばエタノール発酵能が相対的に低いにも拘わらず呼吸能が高いものが優勢となってしまう場合も考えられ、エタノールの生産性が不安定になるという虞もあった。 本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、適宜の耐熱性を有するのに加え、好気環境下であってもエタノール発酵能を有するエタノール産生菌、及びこの菌を用いてエタノールを生産する方法を提供する。 (1)本発明に係るエタノール産生菌は、糖質原料からエタノールを産生するエタノール産生菌において、ザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)であることを特徴とする。 ザイモモナス・モビリス RDM−4及びザイモモナス・モビリス RDM−8は後記するように親株に比べて20%程度から30%程度しか酸素を取り込むことができない呼吸欠損変異株である。しかも、これら呼吸欠損変異株は、微生物又はその産生物を利用する食品産業の分野において永年に亘って用いられている突然変異の手法を用いて呼吸欠損変異株を造成した。従って、本発明に係るザイモモナス菌により生産されたエタノールは食品産業用として安全であり、当該エタノールを食品産業用の原料として用いることができる。 また、これらの菌株のエタノール産生能はいずれも、好気環境下では親株のエタノール生産量の略3倍であり、嫌気環境下では親株のエタノール生産量より高いものであった。更に、これらの菌株は、39℃という高温でも通常の培養温度である30℃でのエタノール産生量の70%程度以上のエタノールを産生しており、耐熱性も有している。 このような菌株にあっては、好気的な環境下で取り扱っても、エタノール発酵能が相対的に低いにも拘わらず呼吸能が高いものが優勢となってしまうというような虞が無く、従って、エタノール生産のための本発酵前の各工程を好気環境下で取り扱えるので、各工程の操作を容易に行うことができる。 更に、例えばタンクによる本発酵において適宜に撹拌を行った場合であってもエタノール生産量を高レベルに維持することができるため、エタノール生産量を低下させることなく菌体が沈降することを防止することができ、効率的な発酵を行うことができる。 また、適宜の耐熱性も有するためより高い温度で発酵を行わせることによって、更にエタノール生産性の効率化を実現できる。 (2)本発明に係るエタノール生産方法は、エタノール産生菌を用いて糖質原料からエタノールを生産する方法において、前記エタノール産生菌としてザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、及び/又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)を用いることを特徴とする。 前記糖質原料としてはグルコースを用いることができるが、それ以外にも天然素材としてサトウキビ、廃糖蜜、甜菜等を用いることができる。また、トウモロコシ、ソルガム、ジャガイモ、サツマイモ、米、麦等に含まれるデンプン、及びスイッチグラス、パルプ廃液、バガス、廃材木、もみ殻・稲藁等に含まれるセルロース等の多糖を分解した分解物を用いることもできる。 サトウキビ及び甜菜等はそれらの搾汁液を用い、廃糖蜜は糖度を調整して用いる。また、デンプン及びセルロース等の多糖は酵素分解又は化学分解により単糖に分解した分解液を用いる。 このような糖質原料に必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム等の塩類、酵母抽出物といったビタミン類を適宜添加し、ザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)を単独で、又は両菌株を併用して接種してエタノール発酵を行わせることによってエタノールを生産する。 この場合、エタノール発酵は適宜容量のタンクで行うが、菌体が沈降しない程度の回転速度で撹拌羽根を連続的に、又は断続的に回転させるとよい。これらの菌株は前述したように呼吸欠損変異株であるため、適宜の撹拌を行った場合であってもエタノール生産量を高レベルに維持することができる。従って、エタノール生産量を低下させることなく菌体が沈降することを防止することができ、効率的な発酵を行うことができる。 一方、前述したようにこれらの菌株は耐熱性を有するため、例えばデンプンを60℃程度で酵素分解した後、分解液の温度が35℃程度まで低下したタイミングで菌体を接種して発酵を開始し、その温度を維持してエタノール発酵を行わせることができる。 これによって、エタノール生産の効率化を実現できる。 一方、ザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)を単独で、又は両菌株を併用して、バイオリアクターで通常用いられている方法を用いて例えばビーズ状に菌体を固定する。そして、固定した菌体と前述した糖質原料とを接触させることによってエタノールを生産することもできる。 これらの菌株は前述したように好気的な環境下で取り扱っても、エタノール発酵能が相対的に低いにも拘わらず呼吸能が高いものが優勢となってしまうというような虞が無く、従って、エタノール生産のための本発酵前の各工程を好気環境下で取り扱えるので、各工程の操作を容易に行うことができる。各菌株を好気培養した場合の培地中の溶存酸素を経時的に測定した結果を示すグラフである。各呼吸欠損変異株の嫌気環境下での培地中のエタノール含有量を測定した結果を示すヒストグラムである。各呼吸欠損変異株の好気環境下での培地中のエタノール含有量を測定した結果を示すヒストグラムである。嫌気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフである。好気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフである。嫌気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフである。好気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフである。39℃で嫌気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフである。39℃で好気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフである。39℃で嫌気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフである。39℃で好気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフである。 (呼吸欠損変異株の造成) 本発明者は鋭意検討した結果、好気的な環境下であっても呼吸を行わない又は殆ど行わない呼吸欠損変異株を造成すれば、好気的環境下であってもエタノール発酵能を有するザイモモナス菌を得ることができると考え、ザイモモナス菌の呼吸欠損変異株を造成することによって本発明を完成するに至った。 ただし、遺伝子導入又は遺伝子欠損といった所謂遺伝子組み換え技術を用いて呼吸欠損変異株を造成した場合、当該菌株により生産されたエタノールを食品産業の原料として用いることに様々な障害を伴うことが予想されたため、微生物又はその産生物を利用する食品産業の分野において長年に亘って用いられている突然変異の手法を用いて呼吸欠損変異株を造成した。従って、本発明に係るザイモモナス菌により生産されたエタノールは食品産業用として安全であり、当該エタノールを食品産業用の原料として用いることができる。 しかしながら、突然変異の手法によく用いられる紫外線又は放射線を変異原とした場合、菌体のDNAに作用するため、適宜の致死率であった菌液から生育させた複数のコロニーからランダムに釣菌した多くの株をそれぞれ検査しなければならず、目的とする呼吸欠損変異株を効率的に得ることができない。 そこで本発明にあっては、呼吸欠損変異株を効率的に得るべく、抗生物質耐性株を選択することとした。抗生物質としては蛋白質合成、蛋白質合成の前段階であるRNA合成を抑制する作用を有するものを1種類、又は複数種類を組み合わせて用いる。これによって、呼吸に関与する呼吸系酵素が変異した菌株を高効率に取得でき、呼吸系酵素が働かない呼吸欠損変異菌株を効率的に得ることができるのである。なお、抗生物質を添加する培地は液体状であっても固体状であってもよい。 ここで、抗生物質としてはストレプトマイシン(Sm)、カナマイシン(Km)、ゲンタマイシン(Gm)、リファマイシン(Rif)を用いることができるが、本発明はこれらに限られない。 また、親株としては、食品産業用として用いられているザイモモナス菌とする。例えば、ザイモモナス・モビリス エーティーシーシー29191(Zymomonas mobilis ATCC29191(NBRC13756))を親株とすることができる。 後述する液体基本培地にザイモモナス菌を接種し、30℃程度の温度で一晩培養する。後述する基本培地に前記抗生物質の1種類又は複数種類を、ザイモモナス菌の最小発育阻害濃度以上の適宜濃度になるように添加した薬剤添加培地を準備しておきこれに、液体の薬剤添加培地の場合はその1/60程度の容量の培養菌液を接種し、またシャーレに流入させた固体の薬剤添加培地の場合はその表面に100μL程度の培養菌液を広げた後、30℃程度の環境下で2日から1週間程度静置培養し、生育してきた菌をモノコロニー分離することによって呼吸欠損変異候補株を得る。 このようにして得られた呼吸欠損変異候補株をエタノール及びグルコースを所定量以上含有するストレス培地に接種する。なお、ストレス培地は固形培地とするとよい。ここで、ザイモモナス菌の野生株はエタノールを3容量/容量%以上及び、グルコースを12質量/容量%以上含有する培地には生育できない。そこで、例えばエタノールを4容量/容量%含み、グルコースを14質量/容量%含むストレス培地に呼吸欠損変異候補株を接種する。そして、このストレス培地上で、30℃程度、大気が存在する環境下で5日から3週間程度培養し、生育してきたコロニーを釣菌することによってエタノール高産生候補株を得る。これは、エタノールを産生するための基質たるグルコースとその産生物たるエタノールが共に高い濃度の環境下でも生育する菌株にあっては、エタノール産生能が高い場合が多いと考えられるからである。また、このような操作を大気が存在する環境下で実施することによって、酸素が存在しても高いエタノール産生能を有する株、すなわち呼吸欠損変異株を効率的に得ることができる。 なお、培地中のエタノール濃度は、高圧滅菌した培地が40℃程度まで冷却したタイミングで当該培地に95%程度のエタノールを所要量加えることによって調整した。 更に、このようにして得られたエタノール高産生候補株について、抗生物質の濃度をより高くして呼吸欠損変異候補株を得、得られた呼吸欠損変異候補株について、エタノール及び/又はグルコースの濃度がより高いストレス培地を用いてエタノール高産生候補株を得る。更に同様の操作を1又は複数回行ってもよい。 なお、ザイモモナス菌を培養するための基本培地としては、0.5質量/容量%の酵母エキス粉末(例えば和光純薬工業株式会社製)、2質量/容量%のグルコース(例えばシグマ−アルドリッチ社製)の組成の液体培地(pH5程度)を用い、固体培地の場合はこれに1.5質量/容量%となるように寒天粉末(例えばキシダ化学株式会社製)を添加したものを用いることができる。 なお、本実施形態では、呼吸欠損変異候補株及びエタノール高産生候補株を得るべく30℃程度で培養を行っているが、本発明はこれに限らずより高温で培養を行ってもよい。 このようにして得られた呼吸欠損変異候補株の変異操作条件を次の表に示す。 なお、表中RDMは呼吸欠損変異株(Respiration Deficient Mutants)を表している。前述した如く得られた呼吸欠損変異候補株は後述するように全て呼吸欠損変異株であったので表1ではRDMと表記してある。一方、LMは液体培地を、SMは固体培地を、Etはエタノールを、またGluはグルコースをそれぞれ表している。 ここで、ザイモモナス菌の野生株の最小発育阻害濃度は、ストレプトマイシン(Sm)は液体培地では300μg/mlであり、カナマイシン(Km)は固体培地では5μg/mlであり、ゲンタマイシン(Gm)は固体培地では10μg/mlであり、リファマイシン(Rif)は液体培地では10μg/mlであり、固体培地では5μg/mlである。 前述した親株及び各呼吸欠損変異候補株は、液体基本培地で一晩静置培養して得られた菌液に予め高圧滅菌した80%グリセロールを最終濃度が20容量%となるように添加混合し、−80℃で保存しておくことができる。 (呼吸能) 表1に示した菌株についてそれぞれ呼吸能を評価した。 呼吸能の評価は次のようにして行った。数mL(例えば3mL)の液体基本培地が入った試験管(例えば直径16.5mm、高さ165mm)内に、前述した如く保存しておいた菌液を適宜量(例えば100μL)投入し、30℃程度で一晩静置培養する。数十mL(例えば50mL)の液体基本培地が入った三角フラスコ内に、前記培養液を適宜量(例えば0.8mL)投入し、30℃程度で一晩静置培養する。 容量が5Lのジャーファーメンター(TSC―A3(5L)型:株式会社高杉製作所製)に基本液体培地を適宜量(例えば2L)投入しておき、三角フラスコで培養した培養液を適宜量(例えば50mL)投入し、300rpmの回転速度で8時間好気培養し、培地中の溶存酸素をDO電極(TYPE L:エイブル株式会社製)にて経時的に測定した。 図1は各菌株を好気培養した場合の培地中の溶存酸素を経時的に測定した結果を示すグラフであり、図中、縦軸は培地中の溶存酸素を、横軸は好気培養を開始してからの時間をそれぞれ示している。なお、図1中、野生株は前述した親株である。 図1から明らかな如く、いずれの呼吸欠損変異候補株も親株(野生株)の場合より溶存酸素の減少量が低いことが分かる。 次の表2には図1に示した結果から、1分間当たり、菌の1mg乾燥質量当たりに吸収した酸素量(μmol)を求めた結果を示すものである。なお、表2中、wtは親株たる野生株を示している。 表2から明らかな如く、いずれの呼吸欠損変異候補株も親株に比べて60%程度から20%程度しか酸素を取り込んでおらず、呼吸能が低下していた。 特に、ザイモモナス・モビリス RDM−4及びザイモモナス・モビリス RDM−8は親株に比べて20%程度から30%程度しか酸素を取り込んでいなかった。 これらの結果より、分離された呼吸欠損変異候補株はいずれも呼吸欠損変異株であった。 (エタノール産生能) 次に、各呼吸欠損変異株のエタノール産生能を評価した結果について説明する。 基本培地が3mL入った複数の試験管(直径16.5mm、長さ165mm)に各呼吸欠損変異株の保存菌液を100μLずつ添加して30℃でそれぞれ一晩静置培養した。得られた各培養液を前同様、基本培地が3mL入った2グループの複数の試験管にそれぞれ添加し、一方のグループは静置培養することによって嫌気環境下で培養し、他方のグループは220rpmの回転速度で振盪培養することによって好気環境下で培養した。なお、いずれのグループも30℃で培養した。そして、培養を開始してから18時間経過したときに各試験管内の培地中に含有されているエタノールの量をガスクロマトグラフィー(GC−2014:株式会社島津製作所社製)にて測定した。なお、対照として親株である野生株についても同様の操作を行った。 図2は各呼吸欠損変異株の嫌気環境下での培地中のエタノール含有量を測定した結果を示すヒストグラムである。図中、縦軸は培地中のエタノール(Ethanol)濃度(質量/容量%)を示している。 図2から明らかな如く、嫌気環境下での培地中のエタノール含有量は、いずれの呼吸欠損変異株にあっても親株である野生株と略同程度であった。 なお、前述した如く基本培地に含まれるグルコールは2質量/容量%であるので、培地中のエタノール含有量の理論値は1.02質量/容量%である。図2に示した如く、いずれの呼吸欠損変異株にあっても95%程度の理論収率を示している。 図3は各呼吸欠損変異株の好気環境下での培地中のエタノール含有量を測定した結果を示すヒストグラムである。 図3から明らかな如く、好気環境下での培地中のエタノール含有量は、いずれの呼吸欠損変異株にあっても親株である野生株に比べて略3倍高い値であった。 図2及び図3に示した結果より、嫌気環境下及び好気環境下においてグルコース1g当たり産生されたエタノールの量をそれぞれ求めた結果を表3に示す。 表3から明らかな如く、ザイモモナス・モビリス RDM−4,8,9,11にあっては、嫌気環境下において親株である野生株に比べてグルコース1g当たり産生されたエタノール量が1〜3%程度高いものであった。 これは、嫌気環境下にあっても前述した如き静置培養にあっては僅かながら呼吸が行われているが、ザイモモナス・モビリス RDM−4,8,9,11は図1に示したように呼吸能の欠損の程度が高いので、呼吸によるグルコースの消費が削減され、その結果としてより多くのグルコースがエタノールの産生に利用された為であると考えられる。 このことは、図1及び表2に示した如く、呼吸能の欠損の程度が高い菌株ほどグルコース1g当たり産生されたエタノール量が多いという結果からも首肯される。 以上のように各呼吸欠損変異株は好気環境下において高いエタノール産生能を有している。更に、好気環境下にあっては呼吸能の欠損の程度が高い菌株ほどグルコース1g当たり産生されたエタノール量が多く、特に本発明に係るザイモモナス・モビリス RDM−4,8は呼吸能の欠損の程度が他の呼吸欠損変異株より相対的に高く、嫌気環境下においてグルコース1g当たり産生されるエタノール量も他の呼吸欠損変異株より相対的に高いものであった。 これらザイモモナス・モビリス RDM−4,8を独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センターに寄託し、前者にはNITE P−966、後者にはNITE P−967の受託番号の付与を受けた。なお、両菌株の寄託日は2010年7月20日であり、受託証の通知日は2010年7月29日である。 ここで、各呼吸欠損変異株の増殖能について検討した結果について説明する。 図4は嫌気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフであり、図5は好気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフである。両図において縦軸は660nmにおける吸光度(A)を、横軸は時間をそれぞれ示している。 培養は図2及び図3で説明した操作と同様に行った。いずれも培養温度は30℃であり、親株である野生株を対照とした。なお、両図中、黒四角印はザイモモナス・モビリス RDM−4を、黒三角印はザイモモナス・モビリス RDM−5を、バッテン印はザイモモナス・モビリス RDM−7を、星印はザイモモナス・モビリス RDM−8を、黒丸印はザイモモナス・モビリス RDM−9を、縦棒印はザイモモナス・モビリス RDM−11をそれぞれ表している。親株である野生株(wt)は単に線で示してある。 図4から明らかな如く、嫌気環境下では、いずれの呼吸欠損変異株の増殖速度は親株の増殖速度と略同程度であった。 従って、得られた呼吸欠損変異株にあっては、嫌気環境下では呼吸を欠損することによる増殖能への影響は殆どなかったと判断できる。 一方、図5から明らかな如く、好気環境下では、いずれの呼吸欠損変異株の増殖速度も嫌気環境下での増殖速度と略同程度であったが、親株の増殖速度は明らかに低い結果であった。 特に、ザイモモナス・モビリス RDM−4,8にあっては嫌気環境及び好気環境のいずれであっても増殖速度が他の呼吸欠損変異株及び親株の増殖速度より高かった。 次に、各呼吸欠損変異株についてエタノール産生を経時的に検討した結果について説明する。 図6は嫌気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフであり、図7は好気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフである。 図2及び図3で説明した操作と同様に行って各呼吸欠損変異株を基本培地で増殖させエタノール産生量を経時的にガスクロマトグラフィーで定量した。いずれも培養温度は30℃であり、親株である野生株を対照とした。なお、両図中、黒四角印はザイモモナス・モビリス RDM−4を、黒三角印はザイモモナス・モビリス RDM−5を、バッテン印はザイモモナス・モビリス RDM−7を、星印はザイモモナス・モビリス RDM−8を、黒丸印はザイモモナス・モビリス RDM−9を、縦棒印はザイモモナス・モビリス RDM−11をそれぞれ表している。親株である野生株(wt)は単に線で示してある。 図6及び図4、並びに図7及び図5から明らかな如く、嫌気環境下及び好気環境下において、いずれの呼吸欠損変異株及び親株も、経時的なエタノール産生量は当該菌株の経時的な増殖に略倣う結果であった。 また、前述したようにザイモモナス・モビリス RDM−4,8にあっては嫌気環境及び好気環境のいずれであっても増殖速度が他の呼吸欠損変異株及び親株の増殖速度より高いので、エタノールの産生量も他の呼吸欠損変異株及び親株より高いものであった。 前述した如くザイモモナス・モビリス RDM−4及びザイモモナス・モビリス RDM−8は親株に比べて20%程度から30%程度しか酸素を取り込むことができない呼吸欠損変異株である。しかも、これら呼吸欠損変異株は、微生物又はその産生物を利用する食品産業の分野において永年に亘って用いられている突然変異の手法を用いて造成されている。従って、本発明に係るザイモモナス菌により生産されたエタノールは食品産業用として安全であり、当該エタノールを食品産業用の原料として用いることができる。 また、これらの菌株のエタノール産生能はいずれも、好気環境下では親株のエタノール生産量の略3倍であり、嫌気環境下では親株のエタノール生産量より高いものであった。更に、これらの菌株は、39℃という高温でも通常の培養温度である30℃でのエタノール産生量の70%程度以上のエタノールを産生しており、耐熱性も有している。 このような菌株にあっては、好気的な環境下で取り扱っても、エタノール発酵能が相対的に低いにも拘わらず呼吸能が高いものが優勢となってしまうというような虞が無く、従って、エタノール生産のための本発酵前の各工程を好気環境下で取り扱えるので、各工程の操作を容易に行うことができる。 更に、例えばタンクによる本発酵において適宜に撹拌を行った場合であってもエタノール生産量を高レベルに維持することができるため、エタノール生産量を低下させることなく菌体が沈降することを防止することができ、効率的な発酵を行うことができる。 また、適宜の耐熱性も有するためより高い温度で発酵を行わせることによって、更にエタノール生産性の効率化を実現できる。 (高温耐性能) 次に、各呼吸欠損変異株の高温耐性能について評価した結果について説明する。 図8は39℃で嫌気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフであり、図9は39℃で好気環境下における各呼吸欠損変異株のエタノール産生量を経時的に測定した結果を示すグラフである。 図2及び図3で説明した操作と同様に行って各呼吸欠損変異株を基本培地で増殖させエタノール産生量を経時的にガスクロマトグラフィーで定量した。いずれも培養温度は39℃であり、親株である野生株を対照とした。なお、両図中、黒四角印はザイモモナス・モビリス RDM−4を、黒三角印はザイモモナス・モビリス RDM−5を、バッテン印はザイモモナス・モビリス RDM−7を、星印はザイモモナス・モビリス RDM−8を、黒丸印はザイモモナス・モビリス RDM−9を、縦棒印はザイモモナス・モビリス RDM−11をそれぞれ表している。親株である野生株(wt)は単に線で示してある。 図8及び図9から明らかな如く、39℃の高温で培養した場合、親株は嫌気環境下であっても好気環境下程度の量しかエタノールを産生することができなかった。 これに対して呼吸欠損変異株にあっては、いずれの菌株も嫌気環境下及び好気環境下において親株以上のエタノールを産生していた。 特に、ザイモモナス・モビリス RDM−4,8にあっては嫌気環境では他の呼吸欠損変異株より高く、好気環境では他の呼吸欠損変異株より著しく高いものであった。 またこれらの結果と図1に示した呼吸欠損の程度の結果とから、エタノールの産生量と呼吸欠損程度との間には相関関係が存在するという知見が得られた。 かかる高温下での各呼吸欠損変異株の増殖を調べた。 図10は39℃で嫌気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフであり、図11は39℃で好気環境下における各呼吸欠損変異株の生育度合いを経時的に測定した結果を示すグラフである。両図において縦軸は660nmにおける吸光度を示している。いずれにあっても経時的に吸光度を測定する以外は前同様の操作を行った。なお、両図中、黒四角印はザイモモナス・モビリス RDM−4を、黒三角印はザイモモナス・モビリス RDM−5を、バッテン印はザイモモナス・モビリス RDM−7を、星印はザイモモナス・モビリス RDM−8を、黒丸印はザイモモナス・モビリス RDM−9を、縦棒印はザイモモナス・モビリス RDM−11をそれぞれ表している。親株である野生株(wt)は単に線で示してある。 図10及び図11から明らかな如く、親株は嫌気環境下で僅かに増殖していたが、好気環境下にあっては吸光度が0.2未満と殆ど増殖していなかった。 これに対して呼吸欠損変異株にあっては、いずれの菌株も嫌気環境下及び好気環境下において親株以上増殖していた。 特に、ザイモモナス・モビリス RDM−4,8にあっては嫌気環境下及び好気環境下において吸光度が0.4を超える程度まで増殖しており、いずれの環境下において39℃という高温であっても比較的良好な増殖能を示した。 以上より、ザイモモナス・モビリス RDM−4,8にあっては所要の高温耐性を有していることが分かる。 (エタノール生産) ザイモモナス・モビリス RDM−4,8を用いてエタノールを生産するには次のように行うことができる。 糖質原料としてはグルコースを用いることができるが、それ以外にも天然素材としてサトウキビ、廃糖蜜、甜菜等を用いることができる。また、トウモロコシ、ソルガム、ジャガイモ、サツマイモ、米、麦等に含まれるデンプン、及びスイッチグラス、パルプ廃液、バガス、廃材木、もみ殻・稲藁等に含まれるセルロース等の多糖を分解した分解物を用いることもできる。 サトウキビ及び甜菜等はそれらの搾汁液を用い、廃糖蜜は糖度を調整して用いる。また、デンプン及びセルロース等の多糖は酵素分解又は化学分解により単糖に分解した分解液を用いる。 このような糖質原料に必要に応じてナトリウム、カリウム、マグネシウム等の塩類、酵母抽出物といったビタミン類を適宜添加し、ザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)を単独で、又は両菌株を併用して接種してエタノール発酵を行わせることによってエタノールを生産する。 この場合、エタノール発酵は適宜容量のタンクで行うが、菌体が沈降しない程度の回転速度で撹拌羽根を連続的に、又は断続的に回転させるとよい。これらの菌株は前述したように呼吸欠損変異株であるため、適宜の撹拌を行った場合であってもエタノール生産量を高レベルに維持することができる。従って、エタノール生産量を低下させることなく菌体が沈降することを防止することができ、効率的な発酵を行うことができる。 一方、前述したようにこれらの菌株は耐熱性を有するため、例えばデンプンを60℃程度で酵素分解した後、分解液の温度が35℃程度まで低下したタイミングで菌体を接種して発酵を開始し、その温度を維持してエタノール発酵を行わせることができる。 これによって、エタノール生産の効率化を実現できる。 一方、ザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)を単独で、又は両菌株を併用して、バイオリアクターで通常用いられている方法を用いて例えばビーズ状に菌体を固定する。そして、固定した菌体と前述した糖質原料とを接触させることによってエタノールを生産することもできる。 これらの菌株は前述したように好気的な環境下で取り扱っても、エタノール発酵能が相対的に低いにも拘わらず呼吸能が高いものが優勢となってしまうというような虞が無く、従って、エタノール生産のための本発酵前の各工程を好気環境下で取り扱えるので、各工程の操作を容易に行うことができる。 糖質原料からエタノールを産生するエタノール産生菌において、 ザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)であることを特徴とするエタノール産生菌。 エタノール産生菌を用いて糖質原料からエタノールを生産する方法において、 前記エタノール産生菌として、ザイモモナス・モビリス アールディーエム−フォー(Zymomonas mobilis RDM−4)(NITE P−966)、及び/又はザイモモナス・モビリス アールディーエム−エイト(Zymomonas mobilis RDM−8)(NITE P−967)を用いることを特徴とするエタノール生産方法。 【課題】 適宜の耐熱性を有するのに加え、好気環境下であってもエタノール発酵能を有するエタノール産生菌、及びこの菌を用いてエタノールを生産する方法を提供する。【解決手段】 ザイモモナス・モビリスに抗生物質を作用させることによって呼吸欠損変異株であるザイモモナス・モビリス RDM−4(NITE P−966)、RDM−8(NITE P−967)を得た。これらの菌株のエタノール産生能はいずれも、好気環境下では親株のエタノール生産量の略3倍であり、嫌気環境下では親株のエタノール生産量より高いものであった。更に、これらの菌株は、39℃という高温でも通常の培養温度である30℃でのエタノール産生量の70%程度以上のエタノールを産生しており、耐熱性も有している。【選択図】 図1


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