タイトル: | 公開特許公報(A)_マイクロ流路チップ及びマイクロ分析システム |
出願番号: | 2010083304 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | G01N 35/08,G01N 37/00,B01J 19/00 |
小野 航一 中尾 智貴 庭山 晃 JP 2011214996 公開特許公報(A) 20111027 2010083304 20100331 マイクロ流路チップ及びマイクロ分析システム 株式会社エンプラス 000208765 鷲田 公一 100105050 小野 航一 中尾 智貴 庭山 晃 G01N 35/08 20060101AFI20110930BHJP G01N 37/00 20060101ALI20110930BHJP B01J 19/00 20060101ALI20110930BHJP JPG01N35/08 AG01N37/00 101B01J19/00 321 5 7 OL 9 2G058 4G075 2G058CC05 4G075AA02 4G075AA39 4G075AA52 4G075CA54 4G075DA02 4G075EB50 4G075FA01 4G075FA12 4G075FB01 4G075FB12 本発明は、マイクロ流路が内部に形成された樹脂基板のマイクロ流路チップ及びこれを具備するマイクロ分析システムに関する。 近年、生化学や分析化学等の科学分野あるいは医学分野において、タンパクや核酸(例えば、DNA)などの微量な物質の検査分析を精度良く高速に行うために、マイクロ分析システムが使用されている。 マイクロ分析システムは、マイクロ流路チップの内部に数10〜200μm程度の幅および深さの流路、反応部、分離部、抽出部、検出部等の機能を有するミクロな空間を形成し、流路に泳動液(緩衝液)ととともに試料を注入し、分析を行うシステムである。 当初、マイクロ流路チップには、ガラス基板が用いられてきたが、ガラス基板は高コストであるため、最近では、量産可能で廉価な樹脂製のマイクロ流路チップが主流となっている。 ところが、樹脂製のマイクロ流路チップでは、蛍光色素やタンパク質等の疎水部分が流路表面に吸着することによりバックグラウンドの上昇や電気浸透流の発生等の問題が生じてしまう。タンパク質の電気泳動に用いられるSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)も疎水部分を有しており、この疎水部分が樹脂製マイクロ流路チップの流路表面に吸着することにより電気浸透流が発生してしまい、電気泳動の精度が悪くなってしまう。 そこで、樹脂製のマイクロ流路チップの流路表面を、SiO2(二酸化珪素)膜等の無機酸化膜でコーティングすることにより、疎水物質が流路表面に吸着することを防いだり、電気浸透流を抑えたりすることが可能な技術が開示されている。なお、SiO2膜のコーティングは、材料として安定し、流路表面に親水性の性質を付与し、高透明度を有する、等の特徴がある。 特許文献1には、樹脂製のマイクロチップ基板の流路部分および接着面に、蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical vapor deposition)法、または、塗布によりSiO2膜をコーティングし、その後に、マイクロチップ基板同士を超音波溶着する発明が記載されている。 特許文献2には、プラスチック製のマイクロチップ基板を、SiO2を過飽和に含む溶剤を使って浸漬することにより流路部分にSiO2膜をコーティングする発明が記載されている。 特許文献3には、プラスチック製のマイクロチップ基板の流路表面に、窒化シリコン等をプラズマCVD法により蒸着する発明が記載されている。 非特許文献1には、触媒CVD法により、SiO2膜をコーティングする発明が記載されている。特開2008−232885号公報特開2002−139419号公報特開2006−153823号公報SiO2Ifilm growth at low temperatures by catalyzed atomic layer deposition in a viscous flow reactor (Thin Solid Films 491 (2005) 43-53) しかしながら、特許文献1の手法では、接着面もコーティングされた後、超音波溶着によって接着面を溶かして接合するため、流路の断面形状が変形してしまい、寸法精度が得られない。 また、特許文献2の手法では、SiO2膜の厚さが数μmと厚くなり、流路の断面積が変化してしまう。また、特許文献2の手法では、溶剤を使用するため、溶剤の管理負担が大きく、コストがかかる。 また、特許文献3に記載されたプラズマCVD法では、プラズマが当たらない面をコーティングすることができない。 また、非特許文献1の手法では、触媒成分(ピリジン等の有機成分)が表面に残ってしまうため、当該触媒部分にイオン性の疎水物質が吸着してしまう。 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、流路断面形状の変形を最小限に抑え、流路内を均一なSiO2膜等の無機酸化膜で薄くコーティングすることができ、かつ、無機酸化膜の表面に疎水物質が吸着することを防ぐことができるマイクロ流路チップ及びマイクロ分析システムを提供することを目的とする。 本発明のマイクロ流路チップは、流路の内壁面に無機酸化膜をコーティングした樹脂基板のマイクロ流路チップであって、前記無機酸化膜は複数の層からなり、流路表面に露出する表層は、前記樹脂基板に接する最下層よりも炭素原子あるいは窒素原子の含有量が少ない、構成を採る。 本発明のマイクロ分析システムは、上記マイクロ流路チップを備える構成を採る。 本発明によれば、樹脂基板に接する部分にC原子あるいはN原子の含有量が多い最下層を形成し、流路表面に露出する部分にC原子あるいはN原子が殆ど存在しない表層を形成することにより、無機酸化膜を均一で薄くコーティングすることができ、かつ、無機酸化膜の表面に疎水物質が吸着することを防ぐことができる。本発明の一実施の形態に係るマイクロ流路チップの形状を示す斜視図図1のマイクロ流路チップの平面図図1のマイクロ流路チップの下側プレート部材の平面図図2のA−A線断面図図2のB−B線断面図SiO2膜の形成に使用されるガスと圧力との関係を示す図図4のC部の拡大断面図発明の一実施の形態に係るマイクロ流路チップのバリエーションの拡大断面図 以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態では、無機酸化膜としてSiO2膜を形成する場合について説明する。 〔マイクロ流路チップの構成〕 図1は、本発明の一実施の形態に係るマイクロ流路チップの形状を示す斜視図である。また、図2は、図1のマイクロ流路チップの平面図である。 図1及び図2に示すように、マイクロ流路チップ10は、透明な略矩形の平面形状の下側プレート部材(基板部材)12と上側プレート部材(蓋部材)14とから構成されている。 下側プレート部材12の厚さは1mm程度であり、上側プレート部材14の厚さは数10μmから1mm程度である。また、下側プレート部材12及び上側プレート部材14の外形寸法は通常互いに同じであり、長辺が50mm程度、短辺が20mm程度である。 下側プレート部材12および上側プレート部材14は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、塩化ビニール、アクリル、ポリプロピレン、ポリエーテル、ポリエチレンなどの樹脂材料によって形成されている。なお、下側プレート部材12と上側プレート部材14とで、互いに異なる材料を用いても良い。また、本発明のマイクロ流路チップを用いる分析において吸光度測定を行う場合には、下側プレート部材12および上側プレート部材14の光の経路となる部分は透明な材料で形成されていることが必要であるが、蛍光測定を行う場合には下側プレート部材は黒色等の遮光性の色付きの材料で形成されていてもよい。 下側プレート部材12と上側プレート部材14とは、透明な有機接着剤による接着あるいは熱圧着等により接合される。 図3は、下側プレート部材の平面図であり、図4は、図2のA−A線断面図であり、図5は、図2のB−B線断面図である。 図3から図5に示すように、下側プレート部材12には、上側プレート部材14に対向する面(上面)の略中央部に、長手方向に延びる細長い直線状の流路12aが形成される。この流路12aは、一辺の長さ(幅および深さ)が数十μm程度の略矩形の断面を有し、数センチメートル程度の長さを有する。 上側プレート部材14には、流路12aの一端に対向して開口し且つ外部に開口するように、断面が略円形の貫通孔(注入口)14aが形成される。また、上側プレート部材14には、流路12aの他端に対向して開口し且つ外部に開口するように、断面が略円形の貫通孔(排出口)14bが形成される。各貫通孔14a、14bは、直径が数100μm〜数mmであり、有機溶媒及び分析対象溶液の注入口又は排出口として機能するだけの十分な大きさを有している。 流路12a、各貫通孔14a、14bの内壁面は、イオン性の疎水物質が流路表面に吸着することを防ぐために、全てSiO2膜16によってコーティングされている。本発明は、このSiO2膜16の部分に特徴がある。 〔SiO2膜の形成プロセス〕 以下、本実施の形態に係るマイクロ流路チップ10のSiO2膜の形成プロセスについて図6を用いて説明する。図6は、SiO2膜の形成に使用されるガス(横軸)と圧力(縦軸)との関係を示す図である。 まず、SiO2膜16をコーティングする前のマイクロ流路チップ10を、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置のチャンバにセットした状態で、チャンバ内の空気、ガスを排気し、チャンバ内を真空にする(ST101)。 次に、チャンバに、シリコン前駆体ガスとしてのSiCl4(四塩化珪素)、および、触媒としてのピリジンを注入する(ST102)。なお、チャンバには、前駆体ガスとともにパージガス及びキャリヤガスを注入する。 次に、チャンバ内のガスを排気し、チャンバ内を真空にする(ST103)。 次に、チャンバに、SiO2を形成するための酸化源としての水、および、触媒としてのピリジンを注入する(ST104)。水を酸化源とする場合、ピリジンを触媒として与えることにより、触媒が存在しないときよりも成膜速度を高速且つ低温で進めることができる。 次に、チャンバ内のガスを排気し、チャンバ内を真空にする(ST105)。 そして、上記ST101からST105を、SiO2層が所定の厚さになるまで繰り返す。以下、上記ST101からST105によって形成された、樹脂基板(下側プレート部材12、上側プレート部材14)に接するSiO2層を「最下層」という。 この最下層は、有機成分であるピリジンを触媒として使用しているため、C(炭素)原子の含有量が多い層となる。 最下層が形成された後、下記のST201からST205により、流路表面に露出するSiO2層(以下、「表層」という)を形成する。 まず、チャンバ内の空気、ガスを排気し、チャンバ内を真空にする(ST201)。 次に、チャンバに、シリコン前駆体ガスとしてのSiCl4を注入する(ST202)。なお、チャンバには、前駆体ガスとともにパージガス及びキャリヤガスを注入する。 次に、チャンバ内のガスを排気し、チャンバ内を真空にする(ST203)。 次に、チャンバに、SiO2を形成するための酸化源としての水を注入する(ST204)。 次に、チャンバ内のガスを排気し、チャンバ内を真空にする(ST205)。 そして、上記ST201からST205を、SiO2層(表層)が所定の厚さになるまで繰り返す。 この表層は、触媒(ピリジン)を使用していないため、C原子の含有量が殆ど存在しない層となる。 このように、上記のプロセスにより形成されたマイクロ流路チップ10のSiO2膜16は、図7に示すように、樹脂基板に接する最下層16aと、流路表面に露出する表層16bの2層になる。なお、図7は、図4のC部の拡大断面図である。 〔マイクロ流路チップによる電気泳動〕 マイクロ流路チップ10において、貫通孔(注入口)14aに試料を注入して電圧をかけると、試料は、貫通孔(排出口)14bに向かって流路12a内を電気泳動する。そして、流路12a内において、試料は、分子量毎の電気泳動速度の違いによって分離される。これにより、試験者は、蛍光強度を検出すれば、電気泳動の結果を得ることができる。 このとき、流路12a、貫通孔14a、14bの内壁面の表面(表層16b)には、すべてC原子の含有量が殆ど存在しないので、イオン性の疎水物質が吸着することがない。従って、試験者は、精度が良い電気泳動の結果を得ることができる。 〔本実施の形態の効果〕 以上のように、本実施の形態によれば、樹脂基板に接する部分にC原子の含有量が多い最下層を形成し、流路表面に露出する部分にC原子が殆ど存在しない表層を形成することにより、SiO2膜を均一で薄くコーティングすることができ、かつ、SiO2膜の表面にイオン性の疎水物質が吸着することを防ぐことができる。 なお、触媒を用いないと樹脂基板上にSiO2膜を堆積させることはできないため、樹脂基板上にC原子を含有しない表層を直接形成することはできない。 〔バリエーション〕 本実施の形態では、最下層を形成するために、ST102でSiCl4とピリジンを注入し、ST104で水とピリジンを注入する場合について説明したが、本発明はこれに限られず、他の前駆体、酸化源、触媒を用いることもできる。 例えば、ST102でTMA(トリメチルアルミニウム)を注入し、ST104で水を注入することもできる。参考例として、ST102でTiCl4(四塩化チタン)を注入し、ST104で水を注入することもできる。この場合、触媒としてのピリジンは不要である。 また、本実施の形態では、SiO2膜を形成する場合について説明したが、本発明はこれに限られず、SiO2膜以外の無機酸化膜を形成しても良い。 また、本実施の形態では、表層にC原子の含有量が殆ど存在しない場合について説明したが、本発明はこれに限られず、少なくとも、表層の炭素原子の含有量が最下層よりも少なくなれば、従来技術に比して有効な効果を得ることができる。 また、本実施の形態では、SiO2膜(無機酸化膜)を最下層と表層の2層とする場合について説明したが、本発明はこれに限られず、図8に示すように、最下層と表層との間に他の層が存在する3層以上の多層とし、表層に近い程、C原子の含有量を少なくするようにしても良い。 また、本実施の形態では、無機酸化膜を複数の層とし、表層のC原子の含有量が最下層よりも少なくする場合について説明したが、本発明は、C原子をN(窒素)原子に置き換え、表層のN原子の含有量が最下層よりも少なくするようにしても良い。 例えば、ST102でTiCl4とアンモニアを注入し、ST104で水とアンモニアを注入する、こともできる。 本発明に係るマイクロ流路チップ及びマイクロ分析システムは、生化学や分析化学等の科学分野あるいは医学分野において、微量な物質の検査分析を精度良く高速に行う装置に使用することができる。 10 マイクロ流路チップ 12 下側プレート部材 12a 流路 14 上側プレート部材 14a、14b 貫通孔 16 SiO2膜 16a 最下層 16b 表層 流路の内壁面に無機酸化膜をコーティングした樹脂基板のマイクロ流路チップであって、 前記無機酸化膜は複数の層からなり、 流路表面に露出する表層は、前記樹脂基板に接する最下層よりも炭素原子あるいは窒素原子の含有量が少ない、 ことを特徴とするマイクロ流路チップ。 前記表層は、SiO2(二酸化珪素)膜である、請求項1記載のマイクロ流路チップ。 前記最下層は、有機成分の触媒を使用して形成し、前記表層は、有機成分の触媒を使用せずに形成する、請求項1記載のマイクロ流路チップ。 CVD法により前記最下層及び前記表層を形成する、請求項1記載のマイクロ流路チップ。 請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロ流路チップを具備するマイクロ分析システム。 【課題】無機酸化膜を均一で薄くコーティングすることができ、かつ、無機酸化膜の表面にイオン性の疎水物質が吸着することを防ぐこと。【解決手段】下側プレート部材12の流路12a、および、上側プレート部材14の各貫通孔14a、14bの内壁面は、全てSiO2膜16によってコーティングされている。SiO2膜16は、樹脂基板に接する部分にC原子の含有量が多い最下層16aと、流路表面に露出する部分にC原子が殆ど存在しない表層16bの2層からなる。【選択図】図7