タイトル: | 公開特許公報(A)_バイオマーカーとしてのプロパノイルリジン、プロパノイルリジンの使用、及び検査用試薬キット |
出願番号: | 2010067691 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | G01N 33/68,G01N 33/53,G01N 27/62 |
日坂 真輔 大澤 俊彦 丸山 和佳子 永井 雅代 赤津 裕康 能▲勢▼ 充彦 JP 2011202964 公開特許公報(A) 20111013 2010067691 20100324 バイオマーカーとしてのプロパノイルリジン、プロパノイルリジンの使用、及び検査用試薬キット 財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 803000056 国立大学法人名古屋大学 504139662 学校法人 名城大学 599002043 前田 弘 100077931 竹内 宏 100110939 嶋田 高久 100110940 竹内 祐二 100113262 今江 克実 100115059 二宮 克也 100117581 原田 智雄 100117710 井関 勝守 100121728 関 啓 100124671 杉浦 靖也 100131060 安達 史朗 100150740 日坂 真輔 大澤 俊彦 丸山 和佳子 永井 雅代 赤津 裕康 能▲勢▼ 充彦 G01N 33/68 20060101AFI20110916BHJP G01N 33/53 20060101ALI20110916BHJP G01N 27/62 20060101ALI20110916BHJP JPG01N33/68G01N33/53 DG01N27/62 V 5 1 OL 25 2G041 2G045 2G041CA01 2G041EA04 2G041FA10 2G041GA09 2G041JA02 2G041LA08 2G045AA25 2G045BB24 2G045CA26 2G045CB01 2G045CB03 2G045DA35 2G045FA16 2G045FB03 2G045FB06 2G045FB07 2G045FB12 本発明は、アルツハイマー病の診断のためのバイオマーカーとしてのプロパノイルリジン、プロパノイルリジンのバイオマーカーとしての使用、及び、アルツハイマー病を診断するための検査用試薬キットに関する。 アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)は、認知機能低下や人格の変化を主な症状とする認知症の一種である。認知症は85歳以上の日本人口の約25%が発症するcommondiseaseであるが、アルツハイマー病がそのうち約半数を占めている。2009年の日本には約160〜180万人のアルツハイマー病患者が存在し、今後の高齢化に従い患者数は増加の一途を辿る。これはとりわけ少子高齢化が進む我が国において深刻な問題となっている。 アルツハイマー病の発症のメカニズムとしてアミロイドカスケード説が提唱されている。アミロイドカスケードとは、加齢に伴うアミロイド蓄積が引き金となり、炎症反応、異常蛋白であるタウの神経細胞内蓄積、最終的には神経細胞の機能不全や変性(細胞死)に至る複雑な経路の呼称である。即ち、非特許文献1及び非特許文献2に記載されるように、アミロイドβ(Aβ)タンパク質前駆体が、アミロイドβタンパク質を生成し、このアミロイドβタンパク質が凝集・沈着して脳神経細胞破壊及び脳神経の脱落を引き起こす可能性がある。 アミロイドβタンパク質は、アミノ酸の数によりAβ40、Aβ42及びAβ43の3種が知られている。アミロイドβタンパク質はアルツハイマー病発症の原因であるとしてもどのようにして神経細胞死が惹起されるのかは明らかとなっていない。培養細胞を用いた毒性研究では単量体では細胞毒性は低く、凝集して多量体になったときに強い毒性を発揮することがわかっている。 現在、ADの治療法の開発が活発に行われている。アミロイドβタンパク質、特にAβ42の神経毒性により神経変性が進むとの認識から、産生を低下させるためのアミロイドβを産生するβ−セクレターゼ・γ−セクレターゼの阻害剤、細胞外でアミロイドβタンパク質を分解するネプリライシンの活性化剤、アミロイドβタンパク質重合阻害剤、アミロイドβタンパク質に対する抗体療法等である。 しかしながら、これらの治療薬の多くには脳炎等の重篤な副作用があり、実用化の目処はたっていない。一方、ADに対する治療薬の開発及び評価のためにはアルツハイマー病の早期診断又は進行度判定のためのバイオマーカーが重要となる。 例えば非特許文献3に記載されるように、アルツハイマー病のバイオマーカーは、アミロイド斑及び神経原線維変化の主な成分であるAβ1−42及びタウのように脳脊髄液において発見されている。 また、例えば特許文献1には、新規クマリン化合物を患者に投与することにより、アルツハイマーを検出できるバイオマーカーが記載されている。また例えば、特許文献2には、ロイシン豊富リピートキナーゼ2(LRRK2)遺伝子を、アルツハイマー病進行のバイオマーカーとして使用することが記載されている。また例えば、特許文献3には、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)、及びFAM3C(I)からなる群より選択されるバイオマーカーを、アルツハイマー病のバイオマーカーとして使用することが記載されている。しかしこれらは臨床的にルーチン検査として使用可能なものではない。特開2009−102322号公報特表2009−541336号公報特表2008−537143号公報Yankner BA, Duffy LK, Kirschner DA. 1990. Neurotrophic andneurotoxic effects of amyloid beta protein: Reversal by tachykininneuropeptides. Science 250:p.279-p.282.Hyman BT. 1998. New neuropathological criteria for Alzheimerdisease. Arch. Neural. 55:p.1174-p.1176.Kosunen Oら,(1996)Acta Neuropathol 91:p.185-p.193 上記バイオマーカーの診断法は特異性、感度ともに十分ではない。そのため、ADの新たな診断マーカーを開発することは重要な意味をもつ。 本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、判断能力に優れる新規なアルツハイマー病のバイオマーカー、及び、アルツハイマー病を診断するための検査用試薬キットを提供することを目的とする。 本発明の第1の観点に係るプロパノイルリジンは、アルツハイマー病の診断のためのバイオマーカーとして使用される。 また、本発明の第2の観点に係るプロパノイルリジンの使用は、アルツハイマー病の診断のためのバイオマーカーとしての使用である。 また、本発明の第3の観点に係る検査用試薬キットは、アルツハイマー病を診断するための検査用試薬キットであって、患者から得られた試料におけるプロパノイルリジンの発現量を検出又は定量する手段を含む。 前記試料は、患者の脳組織、髄液、血清、及び尿のうち少なくとも何れか一つを含むことが好ましい。 また、前記発現量は、質量分析、又は解析対象とするタンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的方法によって測定されることが可能である。 本発明によれば、最適な診断能力を有するアルツハイマー病のバイオマーカー、及びアルツハイマー病を診断するための検査用試薬キットを得ることができた。そのため、アルツハイマー病の早期診断が可能となり、高齢化社会を迎える現在において、介護負担軽減により社会に貢献することができ、また、アルツハイマー病の予防治療薬の開発も促進されうることになり、製薬企業による新薬開発に有用なツールとなりうる。プロパノイルリジンが、ω3系の多価不飽和脂肪酸由来のアミド型リジン付加体であることを示す説明図である。6ヶ月齢と24ヵ月齢のF344/Nラット脳におけるPRLの免疫組織化学的解析の結果を示す写真図である。非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRL(上段)及びAβ42(下段)の免疫組織化学的解析の結果を示す写真図である。非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRL及びAβ42の免疫蛍光染色の結果を示す写真図である。非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)における抗PRL抗体及び抗Aβ42抗体での老人斑の免疫蛍光染色の結果を示す写真図であり、そのうち(a)はMergeを示す写真図(図4のMergeと同じ写真図)であり、(b)はMergeの一部拡大写真図である。アルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRL及びAβ42の免疫蛍光染色の共焦点レーザー顕微鏡を用いたZ-stack解析を示す写真図であり、そのうち(a)はZ-stack解析の結果を示す写真図であり、(b)は神経細胞体の核染色結果(DAPI)、及び抗PRL抗体の染色像とDAPIをMergeさせた結果を示す写真図である。非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRL及びAβ40の免疫蛍光染色の結果を示す写真図である。非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(前頭葉)におけるPRL及びAβ42の免疫蛍光染色の結果を示す写真図であり、そのうち(a)は免疫蛍光染色であり、(b)はMergeを示す写真図((a)のMergeと同じ写真図)であり、(c)はMergeの一部拡大写真図である。非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(前頭葉)におけるPRL及びAβ(40及び42)の免疫蛍光染色の結果を示す写真図であり、そのうち(a)は免疫蛍光染色であり、(b)はMergeを示す写真図((a)のMergeと同じ写真図)であり、(c)はMergeの一部拡大写真図である。ヒト髄液中におけるPRLの存在を示す免疫学的解析(抗PRL抗体を用いたウェスタンブロット解析)の写真図である。ヒト髄液中において、プロパノイル化されたタンパク質の一つがアミロイドβタンパク質であることを示す図であり、そのうち(a)は抗PRL抗体を用いてヒト髄液中におけるプロパノイル化タンパク質を免疫沈降により精製し、その精製サンプルを抗Aβ(40及び42)抗体を用いてウェスタンブロット解析した結果であり、(b)はウェスタンブロット解析の結果(a)に示したAβのバンドの強さを分子に、抗PRL抗体のバンドの強さを分母にとった比の値をグラフ化したものである。ヒト髄液中において、遊離状態PRLの高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析器(LC/MS/MS)を用いた検出結果を示す図である。そのうち上段は、ヒト髄液中における遊離PRLの検出結果であり、下段はヒト髄液中におけるPRL-D(PRLの構造中にDで表記した重水素標識された安定同位体PRLを内部標準として用いている)の検出結果である。アルツハイマー病患者のヒト髄液におけるタンパク質中のPRLを酵素分解によって遊離させ、その総PRL量のLC/MS/MSを用いた検出結果であり、そのうち(a)は酵素分解未処理の髄液中の遊離PRL検出結果を示し、(b)は酵素分解処理後の総PRL検出結果を示し、(c)は標品であるPRL(500nM)を示し、(d)は(a)及び(b)の各定量値を髄液中のタンパク量で補正し、その値をグラフ化した結果を示す。LC/MS/MSを用いた非アルツハイマー病患者の髄液PRL定量値とアルツハイマー病患者の髄液PRL定量値の比較結果である。LC/MS/MSを用いたアルツハイマー病患者の髄液における遊離HELの検出結果であり、そのうち(a)は髄液中における遊離HEL検出結果であり、(b)は髄液中におけるHEL-D(HELの構造中にDで表記した重水素標識された安定同位体HELを内部標準として用いている)の検出結果である。ヒト尿中におけるPRLの免疫学的解析結果図であり、そのうち(a)は抗PRL抗体を用いたELISAの標準曲線であり、(b)はELISAによる、段階希釈したヒト尿中PRLの定量評価結果である。 本発明者は、鋭意研究の結果、加齢とともにドコサヘキサエン酸(DHA)等の多価不飽和脂肪酸が脂質過酸化の亢進によって減少し、その結果プロパノイルリジン(propanoyl-lysine(PRL))がアルツハイマー病患者の脳内において生成されている事実に基づき、本発明を完成させた。 本実施形態においては、患者のプロパノイルリジンをバイオマーカーとして使用し、その発現量を測定する。そして、プロパノイルリジンの発現量が上昇している場合、アルツハイマー病に罹患していると診断する。 アルツハイマー病とは、徐々に進行する認知障害(記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能等)及び人格の変化、また、社会的に適応できなくなる等の症状を呈する痴呆性疾患をいう。なお、本発明においてアルツハイマー病とは、アルツハイマー病症、アルツハイマー病型痴呆症、アルツハイマー病症候群等と称されることもある。 アルツハイマー病であるか否かの判断基準は、米国精神医学会が1994年に制定した「精神疾患の診断と統計のための手引き」(DSM-IV)の「アルツハイマー病型痴呆の診断基準」、あるいはNINCDS-ADRA基準が国際的に用いられている。 本発明のバイオマーカーにて診断できるアルツハイマー病には、家族性アルツハイマー病及び孤発性アルツハイマー病のいずれも含まれる。ここで、家族性アルツハイマー病とは、完全な常染色体優性のメンデル型の遺伝パターンを示す遺伝性アルツハイマー病である。また、孤発性アルツハイマー病とは、アルツハイマー病の中でほとんどを占め、遺伝的に発症せず、老年期に発症するアルツハイマー病である。 本明細書において「バイオマーカー」とは、アルツハイマー病の罹患の有無又は罹患の程度を診断するために、直接又は間接的に利用されるものである。 ヒト脳神経細胞には多価不飽和脂肪酸が多量に含まれており、膜の流動性を高めることによりシナプスの可塑性、膜に存在する機能分子の機能を保っている。多価不飽和脂肪酸には、ω6系のアラキドン酸、リノール酸等や、ω3系のドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等がある。図1は、プロパノイルリジンが、ω3系の多価不飽和脂肪酸由来のアミド型リジン付加体であることを示す説明図である。図1に示すように、プロパノイルリジンは、リジンがEPAやDHA等のω3系の不飽和脂肪酸由来のヒドロペルオキシドにより酸化修飾されたリジン付加体である。 プロパノイルリジンの発現量の測定は、特に限定されるものではなく、単にプロパノイルリジンの有無を検出するものであってもよく、またプロパノイルリジンの発現量を相対的又は絶対的に決定するものでもよい。 プロパノイルリジンの発現量の測定は、免疫学的手法によるものが可能であり、例えば、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素等による検出又は定量との組み合わせ(ウェスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法等により行うことができる。 また、プロパノイルリジンの発現量の測定は、質量分析により定量的に行うことも可能であり、具体的には液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を使用して測定を行うことができる。LC/MS/MSは、高速液体クロマトグラフ(HPLC)と質量分析計(MS)を結合させた装置であり、原理としては、(高速)液体クロマトグラフで分離された試料中の微量の成分を質量分析計で検出して質量スペクトルを測定し、試料成分を同定・定量する。LC/MS/MSを使用することにより、プロパノイルリジンを選択性高く、高感度に定量できる。 本実施形態に係るアルツハイマー病を診断するための検査用試薬キットは、患者から得られた試料におけるプロパノイルリジンの発現量を検出又は定量する手段を含む。 免疫学的手法により検査を行う場合には、少なくとも抗プロパノイルリジン抗体が検査用試薬に含まれる。抗プロパノイルリジン抗体は、プロパノイルリジンの発現を検出しうる抗体であればよく、特に限定されないが、例えばモノクローナル及びポリクローナル抗体、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体並びにこれらの結合活性断片等が挙げられる。好ましくはモノクローナル抗体である。 モノクローナル抗体の場合には、大腸菌等で発現し精製したオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる。一方、ポリクローナル抗体の場合には、例えば、オリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。 また検査用試薬キットには、上記抗体のほか検出用に用いる標識を含んでいてもよい。キットには、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤等の試薬を含むことができる。 患者から得られる試料は、特に限定されるものではないが、例えば患者の脳組織、髄液、血清、尿、又はこれらの混合物である。簡単に入手しうる血清又は尿から、簡易にアルツハイマー病の早期診断ができるため、生活習慣の改善を指導する等により、症状を改善又は緩和させることができる。 〈老化モデル動物及びアルツハイマー病患者脳切片における免疫組織化学的解析〉 老化モデル動物として、24ヵ月齢のF344/Nラットを用い、そのラット脳における抗PRL抗体を用いた免疫組織化学的解析を行った。 24ヵ月齢のF344/Nラットを用い、その加齢ラット脳の凍結切片をドライヤー(冷風)にて乾燥させ、PAPペンで組織を囲い込んだ。PBS浸漬5分間を1回行い、5%TritonX-100/PBSを400μ1/slideで10分間処理し、そして、PBS浸漬5分間を3回行い、0.5%H2O2/MeOHを400μ1/slideで10分間処理し、更にPBS浸漬5分間を3回行った(以下このPBS浸漬操作を洗浄とする。)。1%スキムミルクを400μl/slideで30分間処理した(ブロッキング)。1次抗体(抗PRL抗体)(1%スキムミルクにて各100倍希釈)を400μl/slide,4℃でovernightした。その後、上記の洗浄を行い、2次抗体(Goatanti-mouse IgG labeled HRP(DAKO))(1%スキムミルクにて200倍希釈)を400μl/slide,室温で1時間処理した。その後、上記の洗浄を行い、DAB(3,3’-Diaminobenzidine, ジアミノベンジジン)-H2O2で適度に時間(長くても4分)をみて発色した。DAB-H2O2の組成は、0.5%DAB/H2O:250μl,0.5%H2O2/MeOH:25μl,PBS:2.2mlであった。発色液は、フィルター(0.45μm)ろ過した後に使用した。その後、PBS浸漬5分間を1回行い、発色を停止し、H2Oにて洗浄5分間を5回行い、キムワイプ(登録商標)で組織に触れないように水気を拭いて封入し、顕微鏡にて観察を行った。 図2は、6ヶ月齢と24ヵ月齢のF344/Nラット脳におけるPRLの免疫組織化学的解析の結果を示す写真図である。図2に示すように、24ヵ月齢のF344/Nラット脳における免疫組織化学的解析の結果、抗PRL抗体陽性部位が海馬CA3領域において、コントロールラットと対比し顕著に認められた。このことから加齢に伴う脂質過酸化の亢進は、ω3系多価不飽和脂肪酸に対して亢進されていることが示唆された。 次に、ヒトにおけるPRLの生成をアルツハイマー病患者において検証した。抗PRL抗体として、Anti-PRL monoclonal antibody (mousemonoclonal antibody)を使用し、抗Aβ抗体として、Anti-Amyloidβ[1-42]rabbit IgG Affinity Purify(IBL)、Anti-Amyloidβ[1-40]rabbit IgG Affinity Purify (IBL)、及びAnti-Amyloidβ[1-14]rabbitIgG Affinity Purify (Rockland)を使用した。 非アルツハイマー病患者の脳切片及びアルツハイマー病患者の脳切片の脱パラフィンを以下の要領で行った。まず、スライドをかごに並べ、ドーゼ内の溶媒に順次浸した。即ち、キシレン5分×3(最初のキシレンで、かごを上下に数十回ゆする。)、100%エタノール5分×3、90%エタノール5分×1、80%エタノール5分×1、そして70%エタノール5分×1を行い、脱イオン水にて5分洗浄した。次に、ギ酸処理(賦活化操作)を室温で行い(5分)、脱イオン水にて5分洗浄した。1%BSA/PBSにて室温・1時間でBlockingを行った。1次抗体を0.01%NaN3含有1%BSA/PBSにて希釈(各Anti-Aβrabbit:200倍希釈、Anti-PRLmouse:100倍希釈)し、4℃で1晩反応させた。PBS洗浄(5分×1)、PBS-T洗浄(5分×1)、PBS洗浄(5分×1)を行った。2次抗体としてヒストファインAP(M)、ヒストファインAP(R)をマウントし、室温で30分反応させた。PBS洗浄(5分×1)、PBS-T洗浄(5分×1)、PBS洗浄(5分×1)を行った。発色は、ファーストレッド溶液にて15分で行った。脱イオン水にて5分洗浄し、ヘマトキシリン染色(5分)をした。脱イオン水にて5分洗浄し、乾燥(インキュベーター50℃下で2時間)させ、透徹・封入(Xylene 5分×3)した。 図3は、非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRLの免疫組織化学的解析の結果を示す写真図である。図3の上段に示すように、抗PRL抗体を用いた免疫組織化学的解析により検証した結果、陽性染色像が海馬領域において認められた。図3下段に示すように、この染色像は、対比染色として用いた抗Aβ42抗体による連続切片における免疫組織化学染色の結果と一致することが認められた。この抗PRL抗体の染色性は、ヘマトキシリンで染色した核の近傍であり、細胞体において認められた。 以上の結果より、アルツハイマー病患者の脳内おいてPRLが生成していることが抗PRL抗体を介して実証され、対比で染色した抗Aβ42抗体との染色性がよく一致していることが認められた。 〈蛍光多重染色によるPRLとAβ(40及び42)の局在性の一致〉 次に、PRL及びAβ42間の局在性の検証を、蛍光標識2次抗体を用いた多重染色によって検証した。抗PRL抗体として、Anti-PRLmonoclonal antibody(mouse monoclonal antibody)を使用した。抗Aβ42抗体として、Anti-Amyloidβ[1-42]rabbitIgG Affinity Purify(IBL)、抗Aβ40抗体として、Anti-Amyloidβ[1-40]rabbit IgG AffinityPurify(IBL)、抗Aβ[1-14]抗体として、Anti-Amyloidβ[1-14]rabbit IgG Affinity Purify(Rockland)を使用した。 スライドをかごに並べ、ドーゼ内の溶媒に順次浸して脱パラフィンを行った。即ち、キシレン5分×3(最初のキシレンで、かごを上下に数十回ゆする。)、100%エタノール5分×3、90%エタノール5分×1、80%エタノール5分×1、70%エタノール5分×1、そして脱イオン水にて5分洗浄し、ギ酸処理(賦活化操作)を室温で5分行い、脱イオン水にて5分洗浄した。1%BSA/PBSにて室温、1時間でBlockingを行った。1次抗体[anti-PRLantibody:100倍希釈+anti-Aβ42 antibody:100倍希釈(→下記の図4、図5(a)(b)、図6(a)(b)、図8(a)(b)(c)),anti-PRLantibody:100倍希釈+anti-Aβ40 antibody:100倍希釈(→下記の図7),anti-PRL antibody:100倍希釈+anti-Aβ[1-14]antibody:200倍希釈(→下記の図9(a)(b)(c))]を0.01%NaN3含有1%BSA/PBSにて調製し(各抗体溶液(+と記載している抗体2種)は同一溶液中で調製した)、切片上に塗布し、1次抗体の反応を4℃下で一晩行った。次に、PBS洗浄(5分×1)、PBS-T洗浄(5分×1)、PBS洗浄(5分×1)を行った。そして、2次抗体として、蛍光標識[Alexafluor 488 (anti-mouse),Alexa fluor 568(anti-rabbit)]抗体を各200倍希釈(同一溶液中で希釈)したものを使用し(1%BSA/PBSwith 0.01%NaN3)、2次抗体を室温で1時間反応させた。次に、PBS洗浄(5分×1)、PBS-T洗浄(5分×1)、PBS洗浄(5分×1)を行った。DAPI入り退色防止剤入り封入剤(Vectorlab)にて封入した。カバーガラスの囲いには市販のマニキュアを用い、蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察を行った。 図4は、非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRL及びAβ42の免疫蛍光染色の結果を示す写真図である。図4に示すように、抗PRL抗体及び抗Aβ42抗体の染色性が一致することが認められた。 また、図5は、非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)における抗PRL抗体及び抗Aβ42抗体での老人斑の免疫蛍光染色の拡大結果を示す写真図であり、そのうち(a)はMergeを示す写真図(図4のMergeと同じ写真図)であり、(b)は、(a)の枠で囲んだ領域であるMergeの拡大写真図である。図5(b)に示すように、両抗体の染色像が一致して認められる領域は、主に老人斑近傍の、脱落したとみられる神経細胞体であり、次いでびまん性老人斑において染色性が観察された。 この神経細胞体と抗PRL抗体陽性部位の詳細な位置関係を、共焦点レーザー顕微鏡を用いたZ-stack reconstruction法により検証した。図6は、アルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRL及びAβ42の免疫蛍光染色のZ-stack解析を示す写真図であり、そのうち(a)はZ-stack解析の結果を示す写真図であり、(b)は神経細胞体の核染色結果(DAPI)、及び抗PRL抗体の染色像とDAPIをMergeさせた結果を示す写真図である。 図6(a)(b)に示すように、神経細胞体の核染色結果(DAPI)に関して、非アルツハイマー病患者において顕著な染色性を示すものの、アルツハイマー病患者では、抜け落ちたように核の染色性が減退していることが認められた。これは、アルツハイマー病患者に特徴的な神経細胞の脱落に起因するものと考えられる。この核を示すDAPI染色像をベースとし、その部位から上段へとZ-stackを重ねていくと抗PRL抗体の染色像が出現し、これと同時に抗Aβ42抗体の染色像が出現することが認められた。ただし、この共染色性は、神経細胞体付近において強く認められるが、さらに拡散し老人斑を形成するAβ42の染色性に対し、抗PRL抗体の染色性は減退していることが認められた。従って、抗PRL抗体の局在性は、抗Aβ42抗体の全てをカバーするのではなく、とりわけ神経細胞体が存在する部位において際立って認められることから、細胞体内又は膜上において存在するAβがプロパノイル化されている可能性が示唆された。 一方で、この老人斑を形成する過程において、Aβは、毒性及び凝集性の高いAβ42だけでなくAβ40と1:10の比率で凝集することが報告されている。ゆえに、上記の図4及び図5に認められたAβとPRLの共染色性は、Aβ42だけではなく、Aβ40においても生じている可能性が考えられる。 図7は、非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(海馬)におけるPRL及びAβ40の免疫蛍光染色の結果を示す写真図である。この仮定をAβ40特異な抗体を用いて検証した結果、図7に示すように、Aβ42と同様、その局在性が一致することが認められた。これらのことから、fibrilとして老人斑を形成したAβ42、Aβ40の複合体内においてPRLが生じているものと推察される。 また、この抗PRL抗体の染色性がアルツハイマー病患者の海馬領域おいてのみに観察されるものかどうかを検証するために、アルツハイマー病患者の前頭前野領域においても同様に染色を行った。図8は、非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(前頭葉)におけるPRL及びAβ42の免疫蛍光染色の結果を示す写真図であり、そのうち(a)は免疫蛍光染色の写真図であり、(b)はMergeであり((a)のMergeと同じ写真図)、(c)は、(b)の枠で囲んだ領域であるMergeの一部拡大図である。また、図9は、非アルツハイマー病患者及びアルツハイマー病患者の脳切片(前頭葉)におけるPRL及びAβ(40及び42)の免疫蛍光染色の結果を示す写真図であり、そのうち(a)は免疫蛍光染色の写真図であり、(b)はMergeであり((a)のMergeと同じ写真図)、(c)は、(b)の枠で囲んだ領域であるMergeの一部拡大図である。 この領域では、海馬領域において認められた老人斑性の染色は観察されないものの、図8及び図9に示すように、Aβ42及び40の各種抗体の染色性と局在が一致することが認められた。更に、この染色性の一致は、海馬領域でも観察されたDAPIの染色性が減退した脱落を示唆する細胞体(内又は膜上)において顕著に認められた。従って、PRLとAβの局在性は、海馬や前頭前野といった領域毎における染色性の違いは大きく認められないが、共通してDAPI染色性が減退した細胞体の近傍において両者の局在が観察された。 〈アルツハイマー病患者の髄液中におけるPRLの免疫学的解析〉 次に、ヒト髄液中からのPRLの検出解析を試みた。抗PRL抗体を用いたELISAによる定量評価を試みたところ、データは示さないが、ELISAでの検出限界である1μM以下であることが明らかとなった。この結果を踏まえ、まずはPRLが髄液中に存在するかどうかをタンパク質レベルで検証するため、ウェスタンブロット解析により、抗PRL抗体陽性のタンパク質の存在を検証した。 SDSを3.75g,Glycerolを6.52ml,ブロモフェノールブルー(BPB)を2.5mg,1MTris-HCl(pH6.8)を8.38ml,メルカプトエタノールを最後に2.5ml加え、MilliQで25mlにメスアップし、作製に5mlのサンプルチューブに分注し、−20℃で保存してバッファを作製した。トリス1.5molをmilliQに溶解し、HClでpH8.8に合わせた後、MilliQにて1Lにメスアップして、1.5MTris-HCl(pH 8.8)を作製し、4℃にて保存した。トリス0.5molをMilliQに溶解し、HClでpH6.8に合わせた後、MilliQにて1Lにメスアップして、0.5MTris-HCl(pH 6.8)を作製し、4℃にて保存した。APS(過硫酸アンモニウム)1gをMilliQ 10mlに溶解し、10%過硫酸アンモニウムを作製し、4℃にてアルミで遮光して保存した。SDS10gをMilliQ 100mlに溶解して、10%SDSを作製して室温にて保存した。 次に、ゲル板をメタノールで拭き、シールガスケットを挟んでガラス板を重ね合わせ、クリップで留めて組み立てた。そして、コームをはめ込み、コームの先から1cm程度のところに油性マジックで印をつけた(下層ゲルの上限)。1.5M Tris-HCl(pH 8.8):2ml,Protogel:2ml,MilliQ:3.44ml,10%SDS:75μl,10%APS:100μl,TEMED:10μlの配分(1枚分で記載)で試薬を50mlのスピッツ管(又は三角フラスコ)内で混合し、下層ゲル(8%)を調製した。 そして、ゲルをよく混合した後、組み立てたゲル板を傾けながら印をつけたところまで下層ゲルを流し込んだ。印まで下層ゲルを流し終えたら、すかさずMilliQを適当量、重層した。約20分間静置し、重層したMilliQとの境が明確に観察されれば、下層ゲルの固まりは十分だと判断した。次いで、0.5MTris-HCl(pH 6.8):600μl,Protogel:325μl,MilliQ:1525μl,10%SDS:24μl,10%APS:12.5μl,TEMED:2.5μlの配分で(1枚分で記載)で試薬を15mlのスピッツ管内で混合し、上層ゲル(4%)を調製した。 重層したMilliQを濾紙に吸収させて取り除き、上層ゲルを下層ゲルの上に流し込んで、SDS-PAGE用のゲルを作製した。ゲルは上層ゲルを流し込んでから、室温で2時間、4℃の場合は24時間以内に使用し、長時間使用しない場合は、乾燥を防ぐためにMilliQで湿らせたペーパータオルとラップで覆って4℃で保存した。 次に、泳動槽に泳動バッファ(25mM Tris/192mM glycine/0.1% SDS)を注ぎ入れ、コームとシールガスケットを外したゲル板を、気泡が入らないようにセットし、ゲルの上部にも泳動バッファを注ぎ入れ、泳動サンプル及びマーカーを適量アプライし、ミニゲル1枚あたり定電流(CC)20mAでSDS-PAGE電気泳動した。BPBによる泳動前線がゲルの底面まできたら電気泳動を終了した。 次に、ウェスタンブロット解析の転写バッファA液(0.3M Tris)、転写バッファB液(25mM Tris)、及び転写バッファC液(25mM Tris/40mM カプロン酸)を準備した。Tris:242.25g,NaCl:194g,Tween20:10ml,MilliQにて2Lにメスアップして調製(12NHClにてpHを調整してから)し、10×TTBS(pH7.5)を作製した。次に、10×TTBS(pH 7.5)をMilliQにて希釈することで1×TTBS(pH7.5)を調製した。PVDF Membrane (GE Healthcare)は、7cm×9cmの大きさにカットしたものを使用した。PVDF Membraneは、予め転写前に、メタノールで30秒ほど活性化を行い、その後、使用直前まで、転写バッファB液に浸しておいた。スキムミルク12.5gに1×TTBSを加えて250mlにして、ブロッキング溶液(5%スキムミルク/TTBS)を調製した。一次抗体は、Anti-PRLmonoclonal antibody (mouse monoclonal antibody)及びAnti-Amyloidβ[1-14]rabbit IgGAffinity Purify (Rockland)を使用した。二次抗体は、Horseradish peroxidase-linked anti-mouseIgG及びHorseradish peroxidase-linked anti-rabbit IgGを使用した。ウェスタンブロット検出システムは、ECLPlus Western Blotting Detection System(GE Healthcare)を使用した。 ウェスタンブロットの操作は、まず、電気泳動が終了する前に、カットした濾紙(Membraneと同サイズ)を、転写バッファA液に2枚、転写バッファB液に1枚、転写バッファC液に3枚浸しておき、電気泳動が終了したゲルは、転写までに転写バッファBに浸しておいた。ブロッティング装置に転写バッファA液をたらし、その上に空気が入らないように転写バッファA液に浸しておいた濾紙2枚を敷いた。更に、転写バッファB液に浸しておいた濾紙1枚を重ね、その上にMembraneを重ねた。Membraneの上に転写バッファB液をたらし、その上にゲルを重ねた。最後に、転写バッファC液に浸しておいた濾紙3枚を重ね、空気を15mlのスピッツ管や、試験官により押し出した。ブロッティング装置をセットし、1cm2あたり、2mA(1枚あたり126mA)の定電流で20分(ミニゲル)又は30分(プリキャストゲル)転写した。Membrane1枚あたり、5ml程度の5%スキムミルク/TTBSを加え、室温で1時間、振とうしてブロッキングを行った。次に、Membraneを1×TTBSで10分×3回洗浄する(室温で振とう)(以下、洗浄ステップとする。)。1次抗体を各抗体の推奨希釈倍率に1×TTBSにて希釈し、4℃下で一晩、反応させた。次に、洗浄ステップを行い、2次抗体を1×TTBSにて各々5000倍希釈し、Membraneに添加後、室温で1時間、振とうさせながら反応させた。そして、洗浄ステップを行い、ECLplus detection kit (A液:B液=1ml:25μl)の割合で混合し、Membraneに添加後、5分間遮光し反応させた後、Membraneをラップで気泡が入らないように挟み、化学発光強度をライトキャプチャーにて検出した。 免疫沈降では、髄液サンプル(1mg/ml)300〜500μlを用い(TBS-Tで希釈)、30μlのsepharose beseを1サンプルにつき使用した。140μlのProteinG (for mouse)又はProtein A Sepharose (for rabbit)を1500μlの体積(10倍以上)の0.1%BSAを含むTBSに懸濁し、ローテーターにて30分間以上攪拌した。免疫沈降に用いる抗体の宿主により、Proteinsepharoseを使い分けた。sepharose bese懸濁液を免疫沈降用と前処理用に半分に分け、免疫沈降用のsepharose beseを10000rpm、2秒程度の遠心により沈降させた。上清を取り除き、sepharosebeseと同体積(70μl)の抗体溶液を加え、ローテーターにて1時間以上攪拌した。上記濃度に希釈したサンプルを4℃、14000rpm、30分遠心した。遠心中に前処理用のsepharosebeseの上清を除き(10000rpm、2秒)、70μlのTBS-Tに懸濁した後、sepharose bese懸濁液を2mlのエッペンに60μl(sepharosebese量は30μl)ずつ分注して氷冷しておいた。サンプルの遠心終了後、上清を前処理用sepharose beseの入ったエッペンに移した。低温室に設置したローテーターにて、サンプル上清を移したエッペンを30分間攪拌した(前処理)。攪拌している間に、免疫沈降用sepharosebeseの懸濁液を60μl(sepharose bese量は30μl)ずつ2mlのエッペンに分注し氷冷しておいた。前処理用のsepharose beseを4℃、10000rpm、10秒の遠心で沈殿させ、上清を免疫沈降用sepharosebeseの入ったエッペンに移した。免疫沈降用sepharosebeseを低温室に設置したローテーターにて1晩攪拌した。攪拌した免疫沈降用sepharose bese入りのサンプルを遠心(4℃、10000rpm、10秒)により、sepharosebeseを沈降させた。上清を新しいエッペンに回収し、BCA assayによりタンパク量を測定後、ウェスタンブロット解析へ用いた。沈降させたsepharosebese入りエッペンに500μlのTBS-Tを加えて軽くボルテックスし、sepharose beseを洗浄し、更に遠心(4℃、10000rpm、10秒)でsepharosebeseを沈殿させ、27Gの注射針を付けた2.5ml程度のシリンジを用いて上清を取り除いた。このステップを更に4回繰り返した。10μlのRIPAと20μlの3×サンプルバッファをsepharosebese沈殿物に加え、90℃(沸騰水)で2分間加熱し、結合しているたんぱく質を溶出させた。遠心(4℃、10000rpm、10秒)によりsepharosebeseを沈殿させた後、上清(25μl)をSDS-PAGE、ウェスタンブロット解析用の試料とし、結合たんぱく質を分析した。 図10は、ヒト髄液中におけるPRLの存在を示す免疫学的解析(抗PRL抗体を用いたウェスタンブロット解析)の写真図である。その結果、図10に示すように、抗PRL抗体陽性のバンドがアルツハイマー病患者由来の髄液においてのみ、50〜60kDa間において認められた。このことから、ヒト髄液中にはプロパノイル化されたタンパク質の存在が示唆された。 更に、この由来するタンパク質が何かを推定するため、免疫組織化学的解析を踏まえたタンパク質の推定を行った。図11は、ヒト髄液中において、プロパノイル化されたタンパク質の一つがアミロイドβタンパク質であることを示す図であり、そのうち(a)は抗PRL抗体を用いてヒト髄液中におけるプロパノイル化タンパク質を免疫沈降により精製し、その精製サンプルを抗Aβ(40及び42)抗体を用いてウェスタンブロット解析した結果であり、(b)はウェスタンブロット解析の結果(a)に示したAβのバンドの強さを分子に、抗PRL抗体のバンドの強さを分母にとった比の値をグラフ化したものである。 図11(a)に示すように、抗PRL抗体を用いた免疫沈降及び抗体カラムを用いたプロパノイル化タンパク質の精製及び本サンプルにおける解析の結果、プロパノイル化させたタンパク質の一つとしてAβであることが示唆された。しかしながら、検出されたバンドの分子量域は、Aβ(4.5kDa)そのものの分子量よりかなりかけ離れた領域で検出されている。この検出に用いた抗Aβ抗体は、アミノ基末端側より14残基のアミノ酸配列を認識することからAβ42及びAβ40の両者を認識する。また、AβはAβ42だけでなくAβ40と1:10の比率で凝集することが報告されている。そのため、Aβ本来の分子量は4.5kDaであるにも関わらず、50〜60kDaとかなり高分子量域において認められたのは、Aβ42及びAβ40の複合体(凝集体)を髄液中では形成しているためであると考えられ、更に、この凝集体はSDS耐性を有していることが示唆された。 一方で、データとして示さないものの、各髄液中のAβ量をウェスタンブロット解析により評価した。わずかにアルツハイマー病患者由来の髄液においてAβの減少が認められるものの、非アルツハイマー病患者とアルツハイマー病患者間において顕著な違いは認められなかった。従って、50〜60kDaに認められた抗PRL抗体陽性バンドがアルツハイマー病患者由来髄液に特異であること、また、抗Aβ抗体(N末認識抗体:1〜14残基)陽性バンドが同分子領域に認められ、ほぼ一致することにより、免疫沈降及び抗体カラムによる検討からAβが精製されることを勘案し、図11(b)に示すように、アルツハイマー病患者においてAβのプロパノイル化が亢進されていることが推察された。 〈アルツハイマー病患者髄液中におけるPRL及びHELの化学的解析〉 免疫組織化学的解析及び生化学的解析の結果、アルツハイマー病患者の脳及び髄液中においてPRLの生成が、非アルツハイマー病患者における脳及び髄液との比較によって顕著に増加することが認められた。これら結果を踏まえ、より定量的な解析を行うため高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析器(LC/MS/MS)を用いた化学的な解析を行った。 PRL及びHELの値の補正にタンパク含量にて行った。タンパク定量をBCAassayにより行った。ヒト髄液(cerebrospinal fluids:CSF)を100μlとり、1.5mlのエッペン管に移し、内部標準としてHEL-D(internalstandard:HEL)及びPRL-D(internal standard:PRL)の混合液(個々の濃度:HEL-D 5μM、PRL-D 5μM)1μlを添加した(最終濃度:HEL-D50nM、PRL-D 50nM)。更にCH3CN 900μlを加え、4℃で1時間以上静置し、静置したエッペン管を遠心(14000g、4℃、10分)した後、上清980μlを新しい1.5mlエッペン管に移し、遠心エバポレーターにて濃縮・乾固した。乾固したサンプルは、1mlの水で再溶解し、ボルテックス等によりしっかり溶解した。溶解後、遠心(14000rpm、4℃、10分)した上清1mlを固相抽出用サンプルとした。固相抽出カラム(MCXカラム)を15mlのスピッツ管にセットし、固相抽出用サンプルを投与する前のプレコンディショニングとして、メタノール2ml、水2mlの順で平衡化した。固相抽出用サンプルを担体へ投与し、サンプルが沈みきった後に、2%ギ酸水溶液2mlで洗浄し、次いでメタノール2mlを用いて洗浄した。洗浄後、5%アンモニア水/メタノール溶液2ml(1ml×2回)を加え、この画分を溶出画分として15mlのスピッツ管に回収し、溶出画分は、遠心エバポレーターにて濃縮・乾固を行った。乾固したサンプルは、5%CH3CN入り0.1%ギ酸100μlにて再溶解させ、遠心(10000g、4℃、10分)した後、上清80μlをLC/MS/MS分析へと供した。 LC/MS/MS分析は、API2000(登録商標)を使用し、Column:DevelosilC30-UG-3(2φ×250 mm),Flow rate:0.2 ml/min,Solvent A:H2O/0.1 % HCOOH,SolventB:CH3CN/0.1 % HCOOHであった。 また、酵素処理したCSF中からのPRLの検出・定量は、まず、0.2mg/mlのCSFを200μl、1.5mlエッペンチューブにとり、0.25N NaOH100μlを加え、37℃にて1時間アルカリ加水分解を行い、反応後1N HCl(25μl)にて中和した。その後、98℃にて5分間反応し、氷冷後、Protease0.6mg(20μl of PBSに溶解したもの)を加え、一晩、酵素加水分解反応を37℃で行った。反応後、再び98℃にて5分間反応することでプロナーゼを失活させた後、氷冷させ、22U/mlAminopeptidase M 1μlを加え、37℃にて18時間酵素加水分解反応を行い、反応後、Microcon YM-10により限外濾過(10000rpm、60分、4℃)を行った。この後の操作は、上記に記載したLC/MS/MSによる遊離PRL及び遊離HELの検出・定量の操作に従い、酵素分解後のPRLを検出・定量した。 図12は、ヒト髄液中において、遊離状態PRLの検出結果を示す解析結果図である。図12に示すように、遊離の状態で存在するPRLが極微量に認められた。図13は、アルツハイマー病患者のヒト髄液におけるタンパク質中のPRLを酵素分解によって遊離させ、その総PRL量のLC/MS/MSを用いた検出結果であり、そのうち(a)は酵素分解未処理の髄液中の遊離PRL検出結果を示し、(b)は酵素分解処理後の総PRL検出結果を示し、(c)は標品であるPRL(500nM)を示し、(d)は(a)及び(b)の各定量値を髄液中のタンパク量で補正し、その値をグラフ化した結果を示す。図13に示すように、プロテアーゼ及びアミノペプチダーゼ処理により、遊離のPRLが5倍以上に上昇することが認められた。この結果により、ヒト髄液中においてPRLは、主にタンパク質中のリジン残基がプロパノイル化されているものと考えられる。この結果は、既にウェスタンブロット解析により明らかではあるが、化学的な手法によっても裏付けることができたことに意義がある。図14は、非アルツハイマー病患者の髄液PRLとアルツハイマー病患者の髄液PRLとの比較結果である。図14に示すように、アルツハイマー病患者の髄液PRLは、非アルツハイマー病患者の髄液PRLよりも明らかに多く検出された。 次に、ω6系多価不飽和脂肪酸の酸化物に由来するHELをLC/MS/MSによる同時検出・定量を行った。図15は、LC/MS/MSを用いたアルツハイマー病患者の髄液における遊離HELの検出結果であり、そのうち(a)は髄液中における遊離HEL検出結果であり、(b)は髄液中におけるHEL-D(HELの構造中にDで表記した重水素標識された安定同位体HELを内部標準として用いている)の検出結果である。図15に示すように、HELそのもののピークとしては検出されなかった。 以上より、バイオマーカーを評価する生体試料として着目されているヒト髄液中において、HELのピークが検出されずPRLのピークが検出されたこと、またその定量値は、アルツハイマー病患者で高値を示すことより、PRLがアルツハイマー病発症におけるバイオマーカーとして利用できることが判明した。 〈ヒト尿中におけるPRLの免疫学的解析〉 次に、ヒト尿中におけるPRLの免疫学的解析を行った。PRL-BSA(1mg/ml)を1μg/mlにPBSにて希釈し、50μl/wellの量でイムノプレートに添加し、4℃で一晩静置してコーティングを行った。コーティングしたプレートを、TPBS200μl/wellで3回洗浄した。1% Block ace (in water) 200μl/wellにより、ブロッキングを37℃で1時間行った。PRLantibody-Biotin(0.2mg/ml)をTPBSにて1500倍希釈し、一方でPRLのstandardを600μMから3段階の希釈溶液(TPBSにて)を7種類、調製した。競争物質なし及びblank(TPBSのみ)も調製した。ヒト尿サンプルは、原液、5倍、10倍と各種PBSにて希釈して調製した。ブロッキングが終了したプレートを、ELISA洗浄ステップ処理を行い、PRLのstandard及び希釈サンプルをそれぞれ50μl分、プレートの各wellに添加し、更に50μlのPRLantibody-Biotin希釈液を添加し、1晩4℃で静置して競争反応を行った(Final concentration:PRLantibody-Biotin:3000倍希釈、各STD:300μMより3段階希釈の濃度)。ELISA洗浄ステップ後、2次抗体としてTPBSにて5000倍に希釈したstreptavidin-HRP溶液を100μl/wellずつ添加し、37℃で1時間反応させた。ELISA洗浄ステップ後、TMB発色(100μl/well)を15分間行い、1Nリン酸100μl/wellにより発色を停止させ、プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定し、検量線を作製して各定量値を算出した。 図16は、ヒト尿中におけるPRLの免疫学的解析結果図であり、そのうち(a)は抗PRL抗体を用いるELISAの標準曲線であり、(b)はELISAによるヒト尿PRLの評価である。図16に示すように、ヒト尿中においてもPRLが検出された。これにより、簡単に入手しうる尿から、アルツハイマー病の早期診断ができることが判明した。 本発明によればプロパノイルリジンをアルツハイマー病のバイオマーカーとして使用することにより、アルツハイマー病の早期診断が可能となる。これにより軽症認知障害の段階で確定診断をすることができ、生活指導や薬等で進行を遅らせることが可能となり、高齢化社会において介護負担軽減により社会貢献ができる。 アルツハイマー病の診断のためのバイオマーカーとして使用されるプロパノイルリジン。 アルツハイマー病の診断のためのバイオマーカーとしてのプロパノイルリジンの使用。 アルツハイマー病を診断するための検査用試薬キットであって、患者から得られた試料におけるプロパノイルリジンの発現量を検出又は定量する手段を含む検査用試薬キット。 前記試料は、患者の脳組織、髄液、血清、及び尿のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項3に記載の検査用試薬キット。 前記発現量が、質量分析、又は解析対象とするタンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的方法によって測定されることを特徴とする請求項3又は4に記載の検査用試薬キット。 【課題】判断能力に優れる新規なアルツハイマー病のバイオマーカーを提供する。【解決手段】プロパノイルリジンをアルツハイマー病の診断のためのバイオマーカーとして使用する。患者からの試料は、例えば患者の脳組織、髄液、血清、及び尿等から取得する。プロパノイルリジンの発現量は、例えば、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計、又は解析対象とするタンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的方法によって測定される。【選択図】図1