タイトル: | 再公表特許(A1)_微生物検出法及び微生物検出キット |
出願番号: | 2010062474 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12Q 1/68,C12N 15/09,C12Q 1/34,C12Q 1/02 |
副島 隆志 シュリット−ディトリッヒ,フランク JP WO2011010740 20110127 JP2010062474 20100723 4825313 20111130 微生物検出法及び微生物検出キット 森永乳業株式会社 000006127 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 佐貫 伸一 100126505 丹羽 武司 100131392 副島 隆志 シュリット−ディトリッヒ,フランク JP 2009173566 20090724 C12Q 1/68 20060101AFI20121204BHJP C12N 15/09 20060101ALI20121204BHJP C12Q 1/34 20060101ALI20121204BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20121204BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 AC12Q1/34C12Q1/02 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20130107 2010529962 69 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA11 4B024CA20 4B024HA08 4B024HA11 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QQ10 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QR08 4B063QR42 4B063QR66 4B063QS25 4B063QS36 4B063QX02 本発明は、食品や生体試料中に含まれる微生物、工業用水や市水等の環境中に含まれる微生物の検出法、及び微生物検出キットに関する。さらに詳しくは、食品や生体試料、拭き取り試料、工業用水や市水等の環境中に含まれる微生物の生細胞の選択的な検出が可能な検出法及び微生物検出キットに関する。 食品や生体試料、拭き取り試料、又は環境中の一般生菌数の測定には、従来、平板培養法が用いられてきた。しかし、平板培養法は結果が得られるまでに2日間から一ヶ月程度の時間を要する。 食品の殺菌技術や加工技術が向上したことにより、微量であっても被検試料中に存在する微生物の生死の状態を識別するニーズが高まっている。特に、食品衛生検査や臨床検査領域においては、細菌の迅速検出法として、PCR法により各細菌の特異遺伝子を視覚的に捉えられる量まで増幅し、各細菌の存在の有無を判別及び定量する試みがなされている。しかし、細菌のDNAにターゲットを当てた場合、被検試料に元来含まれている死細胞のバックグラウンドまで検出されるため、PCRで陽性判定がでた場合、必ずしも生きた細菌の存在を示唆しているとは限らなかった。そのために、食品衛生や臨床検査の分野では、PCRは高感度・迅速でありながら普及していないのが現状であった。 最近では、mRNAをターゲットにして、逆転写酵素によりcDNAを作製後、各細菌の特異プライマーを用いてPCRを行い、被検試料中の微生物の生細胞のみを検出・定量する試みがなされている。しかし、この方法では死細胞のmRNAの逆転写そのものが阻害されるわけではなく、104cfu/ml又は104cfu/g以上の死細胞が被検試料に含まれている場合、死細胞のバックグラウンドを検出してしまうため、生死の判別法としては十分なものとは言えなかった。 具体的には、PCR法を利用した細菌等の微生物の生死を判別する方法としては、特許文献1又は特許文献2に記載の方法が開示されている。しかしながら、これらのPCR法を利用した細菌等の微生物の生死を判別する方法には以下に示すような問題が残されていた。 前記特許文献1の技術は、100℃、10〜30分の高温長時間加熱殺菌が施された一部のボイル(煮沸)食品中における死細胞や、エタノール殺菌やホルムアルデヒト殺菌を施した食品中の微生物の識別を例示しているが、特に後者については実際そのような殺菌処理を施されている食品は存在しない。また、現在食品業界で主流な殺菌方法である低温保持殺菌(LTLT殺菌)、高温短時間(HTST殺菌)または超高温瞬間加熱殺菌(UHT殺菌)を施された食品中の生きた微生物のみの検出や、抗生物質投与を受けた感染症患者における臨床検体中の生きた特定病原菌等の検出は想定されていない。また、特許文献1の技術では、被検試料中に死細胞バックグラウンドが104cfu/ml以上の濃度で存在する食品や臨床検体の場合、死細胞由来のPCR最終増幅産物量が検出限界以上になり、被検試料のPCR陽性反応が生細胞由来か死細胞由来かの識別が不可能である。 また、前記特許文献2の技術は、死細胞のRNA/DNAモル比が生細胞のそれと比較して相対的に低下することを利用した生細胞と死細胞を識別する方法を開示したものである。この方法は、トータルRNAを抽出し逆転写反応を利用してコンプリメンタリーDNAを作製し、その後PCRを行ってそのCt値を算出し、別途作製した検量線によりRNAのモル濃度を求め、一方で、このRNAに相当する染色体DNAの領域をPCRにより増幅してCt値を求め、前記検量線より染色体DNAのモル濃度を算出することにより、RNA/DNAのモル比を求めるものである。すなわち、上記操作は、煩雑なトータルRNA抽出を行う必要があり、逆転写反応−PCRという2工程を伴うために、定量性や迅速性で通常のDNAをターゲットにしたPCRより劣る。更に、生細胞ではRNAが連続的に産生される一方、死細胞由来のRNAは早期に経時的に分解されるため安定性に欠ける。また、高濃度の死細胞を含む食品や臨床検体においてはその1/10濃度の生細胞しか検出できない。したがって、迅速、高感度、且つ精確性を要求される食品衛生検査や臨床検査においては適用が困難であった。 微生物の生細胞(live cell又はViable-and-Culturable cell)を、死細胞(Dead cell)や損傷細胞(Injured cell又はViable-but-Non Culturable cell;「VNC cell」)に比べて選択的に検出する方法が、特許文献3に開示されている。特許文献3に記載された方法は、被検試料を、トポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で処理する工程、前記被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域をPCRにより増幅する工程、及び増幅産物を解析する工程を含む方法であり、トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤として、エチジウムモノアザイドが例示されている。 エチジウムモノアザイドを用いる方法は、非特許文献1にも開示されている。この方法は、被検試料中にエチジウムモノアザイドを添加すると共に光の照射を行う工程、照射後の試料からDNAを抽出する工程、及び抽出後のDNAを鋳型としてPCR法により特定の領域を増幅する工程からなる検出方法である。また、非特許文献1には、微生物の培養とリアルタイムPCR法を組み合わせて半定量的に生細胞数を定量化する手法が開示されている。 また、微生物の生細胞と損傷細胞とをさらに明確に区別する方法として、特許文献4に記載された方法が開示されている。この方法は、被検試料に350nm〜700nmの波長の光照射によりDNAを架橋する架橋剤を添加する工程、架橋剤を添加した被検試料に350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、光照射処理した被検試料に含まれる架橋剤を除去する工程、架橋剤を除去した被検試料に培地を添加して保温する工程、保温した被検試料に再び350nm〜700nmの波長の光照射によりDNAを架橋する架橋剤を添加する工程、架橋剤を添加した被検試料に350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、前記被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域を核酸増幅法により増幅する工程、及び増幅産物を解析する工程を含む方法である。 ところで、PCRによる核酸増幅において、アルブミンはPCRインヒビターの阻害活性を抑制すること、又は、PCR反応を促進する可能性が示唆されている(非特許文献2)。また、カルシウムはPCR反応を阻害するが、マグネシウムイオン添加によりカルシウムのPCR阻害に耐え得ることが示唆されている(非特許文献3)。 また、細菌DNAを鋳型とするPCR反応において、細菌からDNAを抽出せずにPCR反応を行う方法が開示されている(非特許文献4、特許文献5)。特許文献5には、DNAフィンガープリンテイング法において細菌からランダムPCRを行うことが記載されており、核酸合成用緩衝剤組成物の成分としてリン酸塩、ドデシル硫酸塩が記載されている。特表2003−530118号公報国際公開第2002/052034号パンフレット国際公開第2007/094077号パンフレット国際公開第2009/022558号パンフレット国際公開第2004/104196号パンフレットRudi, K., et al.,Letters in Applied Microbiology,2005,Vol.40, p.301-306Forbes, B. E., et al., Journal of Clinical Microbiology, 1996, 34(9), p.2125-2128Bickley, J., et al., Letter in Applied Microbiology, 1996, 22, p.153-158Kimberly, A., et al., BioTechniques, 31, 2001, p.598-607 上記のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤、又は架橋剤を用いた方法は、微生物の生細胞、特にクレブシェラ属、シトロバクター属、リステリア属、サルモネラ属等の細菌の生細胞は、高感度で選択的な検出が可能であるが、さらに改良された方法、特にエシェリヒア属やサルモネラ属細菌について高感度又は高精度で生細胞を検出する方法が望まれていた。 本発明は、食品や生体試料等に含まれる微生物の生細胞を死細胞や損傷細胞に比べて選択的に検出する新たな方法、及び同方法を実施するためのキットを提供することを課題とする。 本発明者らは、種々の殺菌方法に適用可能な、検出感度が高い食品衛生検査に適した微生物の生死の判別法、及び病院や臨床現場において感染症患者における特定病原菌の検出も可能な方法について鋭意検討したところ、被検試料を350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加して350nm〜700nmの波長を有する光照射を行い、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩を添加して、細胞外に溶出した微生物の染色体DNAを核酸増幅反応により増幅することによって、前記判別を高感度に行うことかできることを見い出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。 a)前記被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加する工程、 b)前記薬剤を添加した被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、 c)被検試料に含まれる微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を、細胞からの核酸の抽出を行わずに、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤の存在下で核酸増幅法により増幅する工程、及び d)増幅産物を解析する工程。 本発明は、前記ターゲット領域の増幅が、微生物細胞内で行われることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記c)の工程において、ターゲット領域の増幅を界面活性剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩から選択されるいずれか一種又は複数種の存在下で行うことを好ましい態様としている。 前記方法は、前記c)の工程の前に、前記a)の工程及びb)の工程を繰り返して行うことを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記a)の工程の前に、以下のe)の工程を行うことを好ましい態様としている。 e)被検試料を、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素で処理する工程。 また前記方法は、前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖分解酵素から選択されることを好ましい態様としている。また前記方法は、前記被検試料が、食品、生体試料、飲料水、工業用水、環境用水、排水、土壌、又は拭き取り試料のいずれかであることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記微生物が細菌、又はウイルスであることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記細菌がグラム陰性細菌であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択されることを好ましい態様としている。 また前記方法は、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、T4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択される1種又は複数種であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択されることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記リン酸塩がピロリン酸塩であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記ターゲット領域が50〜5000塩基のターゲット領域であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記ターゲット領域が、被検試料のDNAの5S rRNA遺伝子、16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、及びtRNA遺伝子から選択される遺伝子に対応するターゲット領域であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記核酸増幅法が、PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はマイクロアレイ法であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記PCR法をリアルタイムPCR法により行い、PCRと増幅産物の解析を同時に行うことを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記増幅産物の解析を、微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いて行うことを好ましい態様としている。 また、本発明のキットは、核酸増幅法により、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出するためのキットであって、下記の要素を含むキットを提供する。 1)350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤、 2)核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、及び 3)検出対象の微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を核酸増幅法により増幅するためのプライマー。 前記キットは、さらに界面活性剤、マグネシウム塩、有機酸塩又はリン酸塩から選択されるいずれか一種又は複数種を含むことを好ましい態様としている。 また前記キットは、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素を含むことを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記核酸増幅法が、PCR法、RT−PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はマイクロアレイ法であることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択されることを好ましい態様としている。 また前記キットは、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、及びT4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択される1種又は複数種であることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択されることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記リン酸塩がピロリン酸塩であることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖質分解酵素から選択されることを好ましい態様としている。本発明の方法によるPCR増幅産物の電気泳動写真。「生」は生細胞を、「損傷」は損傷細胞を示す。本発明の方法により微生物生細胞の検出結果を示す電気泳動写真。従来技術による微生物生細胞の検出結果を示す電気泳動写真。「生」は生細胞を、「損傷」は損傷細胞を示す。非加熱のエンテロバクター・サカザキ菌生理食塩水懸濁液の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。非加熱のエンテロバクター・サカザキ菌生理食塩水懸濁液上清の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。サーマルサイクルローテーション後のエンテロバクター・サカザキ菌生理食塩水懸濁液の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。サーマルサイクルローテーション後のエンテロバクター・サカザキ菌生理食塩水懸濁液上清の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。非加熱のエンテロバクター・サカザキ菌前処理剤溶液懸濁液の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。非加熱のエンテロバクター・サカザキ菌前処理剤溶液懸濁液上清の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。サーマルサイクルローテーション後のエンテロバクター・サカザキ菌前処理剤溶液懸濁液の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。サーマルサイクルローテーション後のエンテロバクター・サカザキ菌前処理剤溶液懸濁液上清の蛍光顕微鏡写真及び実体顕微鏡観写真。非加熱又はサーマルサイクルローテーション後のエンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水懸濁液もしくはそれらの上清のフローサイトメトリー測定結果を示す図。非加熱又はサーマルサイクルローテーション後のエンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤溶液懸濁液もしくはそれらの上清のフローサイトメトリー測定結果を示す図。各種固定液処理後のエンテロバクター・サカザキ菌を用いた本発明の方法による16S-23S rRNA遺伝子増幅産物の電気泳動写真。Ct値は平均値及びSDを表示し、SDは括弧内に表示。L: 100-bp DNA ladder;A: 固定液AB: 固定液B C: 固定液CS: 非固定各種固定液処理後のエンテロバクター・サカザキ菌を用いた本発明の方法によるompA遺伝子増幅産物の電気泳動写真。Ct値は平均値及びSDを表示し、SDは括弧内に表示。A: 固定液AB: 固定液BL: 100-bp DNA ladderエンテロバクター・サカザキ菌を用いたPCR(16S-23S rRNA遺伝子増幅反応)前後の電気泳動写真。レーン2、3: PCR反応上清レーン5、6: PCR反応後の2回洗浄後の遠心ペレットから抽出したDNAレーン7、8: 細胞から直接抽出したDNAレーン9、10: PCR直前に実際に試験に供した細胞から抽出したDNAレーン13、14: PCR産物を添加した後洗浄した細胞から抽出したDNAL: 100-bp DNA ladderB: 固定液BS: 非固定生理食塩水存在下又は前処理剤存在下で加熱処理後のエンテロバクター・サカザキ菌の懸濁液及びその遠心上清の電気泳動写真。L: 100-bp DNA ladder 次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。 本発明の方法においては、その検出の対象として、結果的に増幅することが可能であれば、核酸全般のいずれであってもよく、具体的には1本鎖DNA、2本鎖DNA、1本鎖RNA、及び2本鎖RNAを例示することができ、中でもDNAを検出対象とすることが好ましく、2本鎖DNAが特に好ましい。<1>本発明の方法 本発明の方法は、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出する方法であって、以下の工程を含む方法である。 a)前記被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加する工程、 b)前記薬剤を添加した被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、 c)被検試料に含まれる微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を、細胞からの核酸の抽出を行わずに、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤存在下で核酸増幅法により増幅する工程、及び d)増幅産物を解析する工程。 本明細書において、「被検試料」とは、その中に存在する微生物の生細胞を検出する対象であり、核酸増幅法による染色体DNA、又はRNAの特定領域の増幅によって存在を検出することが可能なものであれば特に制限されないが、食品、生体試料、飲料水、工業用水、環境用水、排水、土壌、又は拭き取り試料等が挙げられる。 特に、食品としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の氷菓;加工乳、乳飲料、発酵乳、バター等の乳製品;経腸栄養食品、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;特定保健用食品、健康補助食品等の機能性食品等が好ましい。 また、生体試料としては、血液試料、尿試料、髄液試料、滑液試料、胸水試料、喀痰試料、糞便試料、鼻腔粘液試料、喉頭粘液試料、胃洗浄液試料、膿汁試料、皮膚粘膜試料、口腔粘液試料、呼吸器粘膜試料、消化器粘膜試料、眼結膜試料、胎盤試料、生殖細胞試料、産道試料、母乳試料、唾液試料、嘔吐物、又は水疱内容等が例示される。 さらに、環境用水としては、市水、地下水、河川水、又は雨水等が例示される。 本発明においては、被検試料は、前記のような食品、生体試料、飲料水、工業用水、環境用水、排水、土壌、又は拭き取り試料等そのものであってもよく、これらを希釈もしくは濃縮したもの、又は本発明の方法による処理以外の前処理をしたものであってもよい。前記前処理としては、加熱処理、濾過、遠心分離等が挙げられる。 また、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪及び糖質等の夾雑物は、これらを分解する活性を有する酵素による処理等によって除去又は低減させてもよい。前記被検試料中に存在する微生物以外の細胞としては、被検試料が乳、乳製品、乳又は乳製品を原料とする食品である場合には、ウシ白血球及び乳腺上皮細胞等が挙げられる。また、被検試料が血液試料、尿試料、髄液試料、滑液試料又は胸水試料等の生体試料の場合には、赤血球、白血球(顆粒球、好中球、好塩基球、単球、リンパ球等)、及び血小板等が挙げられる。 前記酵素としては、前記夾雑物を分解することができ、かつ、検出対象の微生物の生細胞を損傷しないものであれば特に制限されないが、例えば、脂質分解酵素、タンパク質分解酵素、及び糖質分解酵素が挙げられる。前記酵素は、1種類の酵素を単独で用いてもよいし、2種又はそれ以上の酵素を併用してもよいが、脂質分解酵素及びタンパク質分解酵素の両方、又は脂質分解酵素、タンパク質分解酵素、及び糖質分解酵素の全てを用いることが好ましい。 脂質分解酵素としては、リパーゼ、フォスファターゼ等が、タンパク質分解酵素としてはセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、プロテイナーゼK、プロナーゼ等が、糖質分解酵素としてはアミラーゼ、セルラーゼ等が挙げられる。 「微生物」は、本発明の方法により検出される対象であり、核酸増幅法により検出することが可能であって、かつ、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤の微生物に対する作用が生細胞と死細胞や損傷細胞とで異なるものであれば、特に制限されないが、好ましくは細菌、糸状菌、酵母、又はウイルス等が挙げられる。細菌としては、グラム陽性菌及びグラム陰性菌のいずれもが含まれる。グラム陽性菌としては、ブドウ球菌(スタフィロコッカス・エピダーミディス(Staphylococcus epidermidis))等のスタフィロコッカス属細菌、肺炎球菌(ストレプトコッカス・ニューモニアエ(Streptococcus pneumoniae))等のストレプトコッカス属細菌、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等のリステリア属細菌、バチラス・セレウス(Bacillus cereus)、炭疽菌(バチラス・アンスラシス(Bacillus anthracis))等のバチラス属細菌、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)等のマイコバクテリウム属細菌、ボツリヌス菌(クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum))、ウェルシュ菌(クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens))等のクロストリジウム属細菌等が挙げられる。また、グラム陰性菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)等のエンテロバクター属細菌、シトロバクター・コーセリ(Citrobacter koseri)等のシトロバクター属細菌、クレブシェラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)等のクレブシェラ属細菌に代表される腸内細菌群、サルモネラ属細菌、ビブリオ属細菌、シュードモナス属細菌、レジオネラ属細菌等が挙げられる。ウイルスとしては、エンベロープを有するインフルエンザウイルス等のウイルス、及び、エンベロープを有さずヌクレオカプシドのみを有するノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどが挙げられる。 ウイルスに関しては、水中でのウイルスの活性化・不活性化測定法で、光反応性核酸架橋剤(EMA)を作用させ、その後RT-PCR法により活性化ウイルスのみを測定する方法が知られている(http://www.recwet.t.u-tokyo.ac.jp/furumailab/j/sotsuron/H21/H21sotsuron.html、Development of ethidium monoazide (EMA)-RT-PCR for selective detection of enteric viruses. 15th International Symposium on Health-Related Water Microbiology. (May 31-Jun 05, 2009, Ursulines Conference Centre, Naxos, Greece))。すなわち、EMAは活性化ウイルスは透過せず、物理的損傷の激しいヌクレオカプシドを有する不活性化ウイルスのみに透過し、EMAにより活性化ウィルス(Live)と不活性化ウィルス(Dead)を識別することが可能なことが示唆されている。したがって、本発明は、細菌、糸状菌や酵母のみならず、ウイルスにも適用できると考えられる。 本発明において「生細胞」(Live cell)とは、一般に好適な培養条件によって培養した際に増殖が可能であって、その微生物が有する代謝活性を示す状態(Viable-and-Culturable state)であり、細胞壁の損傷はほとんど無い微生物をいう。なお、ここでいう代謝活性とはATP活性やエステラーゼ活性を例示することができる。本発明においては、ウイルス粒子も、便宜的に「細胞」と呼ぶ。「生細胞」は、ウイルスに関しては、哺乳動物細胞に感染し、増殖できる状態をいう。 「死細胞」(Dead cell)とは、好適な培養条件によって培養した場合であっても増殖は不可能であって、代謝活性を示さない状態(Dead)の微生物である。また、細胞壁の構造は維持されているものの、細胞壁自体は高度に損傷を受けており、ヨウ化プロピジウムのような弱透過性の核染色剤等が細胞壁を透過する状態である。ウイルスに関しては、哺乳動物細胞に感染できない状態をいう。 「損傷細胞」(Injured cell又はViable-but-Non Culturable cell)とは、人為的ストレス又は環境的ストレスにより損傷を受けているために、一般に好適な培養条件によって培養した場合であっても、増殖は困難であるが、その微生物が有する代謝活性は、生細胞と比較すると低下しているものの死細胞と比較すると有意に活性を有する状態の微生物である。ウイルスに関しては、哺乳動物細胞に感染したとしても、細胞中で増殖できない状態をいう。 本明細書においては、特記しない限り、「生細胞」、「死細胞」及び「損傷細胞」は、微生物の生細胞、死細胞及び損傷細胞を意味する。 特に、食品衛生検査や臨床検査において、穏和な加熱処理や抗生物質投与により、損傷細胞の状態を呈した細菌の検出が注目されており、本発明においては、生細胞の検出のみならず、生細胞と死細胞又は損傷細胞との識別も可能な微生物の検出方法を提供するものである。 尚、生細胞、損傷細胞及び死細胞の細胞数単位は、通常、いずれも細胞数(cells)/mlで表される。本明細書では細胞数は対数で表し、「a log10個/ml」は、10a個/mlを表す。 生細胞の細胞数は、好適な平板培地上で好適な条件で培養したときのコロニー形成数(cfu/ml(colony forming units / ml))で近似させることができる。また、損傷細胞の標準試料は、例えば、生細胞懸濁液を加熱処理、例えば沸騰水中で加熱処理することにより調製することができるが、その場合は、損傷細胞の細胞数は、加熱処理する前の生細胞懸濁液のcfu/mlで近似させることができる。尚、損傷細胞を調製するための沸騰水中での加熱時間は、微生物の種類により異なるが、例えば実施例に記載された細菌では、50秒程度で損傷細胞を調製することができる。さらに、損傷細胞の標準試料は、抗生物質処理によっても調製することができるが、その場合は、損傷細胞の細胞数は、生細胞懸濁液を抗生物質で処理した後、抗生物質を除去し、可視光(波長600nm)の透過度、すなわち濁度を測定し、生細胞数濃度が予め判っている生細胞懸濁液の濁度と比較することにより、好適な平板培地上で好適な条件で培養したときのコロニー形成数(cfu/ml)で近似させることができる。 ウイルスでは、細胞数単位は、プラーク形成単位(pfu又はPFU(plaque-forming units))で表される。 尚、本発明の方法は、生細胞の検出が目的であり、生細胞と区別される微生物は、損傷細胞であっても死細胞であってもよい。 本発明において、「生細胞の検出」とは、被検試料中の生細胞の有無の判別及び生細胞の量の決定のいずれをも含む。また、生細胞の量とは、絶対的な量に限られず、対照試料に対する相対的な量であってもよい。また、「生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出する」とは、死細胞又は損傷細胞に比べて選択的に検出することを意味する。尚、「生細胞と死細胞又は損傷細胞との識別」には、生細胞と、死細胞及び損傷細胞の両方との識別も含まれる。 以下、本発明の方法を工程毎に説明する。尚、前記したように、以下の工程の前に、任意の工程として、被検試料を、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素で処理する工程を含んでいてもよい。(1)工程a) 被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加する。すなわち、被検試料中の微生物を、前記薬剤で処理する。 後述するように、前記薬剤は、2本鎖DNA又はRNAにインターカレートし、光照射により共有結合して分子間を架橋する。また、前記薬剤は、1本鎖DNA又はRNAに対しては、光照射により共有結合して、PCR反応を阻害すると推定される。以下、前記薬剤を単に「架橋剤」と記載することがある。 前記架橋剤は、生細胞と、損傷細胞又は死細胞及びウシ白血球等の体細胞、白血球、血小板等に対する作用が異なるものであることが好ましく、より具体的には、生細胞の細胞壁よりも損傷細胞もしくは死細胞の細胞壁、又はウシ白血球等の体細胞、白血球、血小板等の細胞膜に対して透過性が高いものであることが好ましい。 前記架橋剤としては、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアジド(ethidium diazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)等が挙げられる。架橋剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種又はそれ以上を併用してもよい。 架橋剤による処理の条件は、適宜設定することが可能であり、例えば、検出対象の微生物の生細胞及び死細胞もしくは損傷細胞の懸濁液に、種々の濃度の架橋剤を加えて、種々の時間置いた後、遠心分離等によって菌体を分離し、核酸増幅法で分析することによって、生細胞と死細胞もしくは損傷細胞を区別しやすい条件を決定することができる。さらに、検出対象の微生物の生細胞、及びウシ白血球等の体細胞又は血小板等の懸濁液に、種々の濃度の架橋剤を加えて、所定時間放置した後、遠心分離等によって菌体及び前記各種細胞を分離し、核酸増幅法で分析することによって、生細胞と各種細胞を区別しやすい条件を決定することができる。このような条件として、具体的には、エチジウムモノアザイドでは終濃度1〜100μg/ml、4〜10℃、5分〜48時間、エチジウムジアジドでは終濃度1〜100μg/ml、4〜10℃、5分〜48時間、プロピジウムモノアザイドでは終濃度1〜100μg/ml、4〜10℃、5分〜48時間、プソラーレンでは終濃度1×10-5〜10μg/ml、25〜37℃、5分〜48時間、4,5',8−トリメチルプソラーレンでは終濃度1×10-5〜10μg/ml、25〜37℃、5分〜48時間、8−メトキシプソラーレンでは終濃度1×10-5〜10μg/ml、25〜37℃、5分〜48時間が挙げられる。(2)工程b) 次に、架橋剤を添加した被検試料に350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う。 上記架橋剤は、生細胞の細胞壁よりも死細胞及び損傷細胞の細胞壁の方が透過しやすい。したがって、前記に示す作用時間内であれば微生物の生細胞の細胞壁は実質的に透過せず、微生物の損傷細胞もしくは死細胞または死細胞になっている体細胞の細胞膜は透過すると考えられる。その結果、架橋剤は、体細胞の死細胞及び微生物の死細胞並びに損傷細胞の細胞内に進入し、続いて、染色体DNA、又はRNAと水素結合し、350nm〜700nmの波長の光照射を行うことによりDNAの分子間を架橋し、又はRNAと共有結合し、その結果、染色体DNA内に歪みが生じたり、RNAが架橋剤で修飾され、最終的に、染色体DNAが破壊(断片化・切断)されたり、RNAが核酸増幅反応の鋳型とはならなくなると推定される。 350nm〜700nmの波長の光とは、少なくとも350nm〜700nmの波長の光を含んでいればよく、単波長光であってもよく、複合光であってもよい。また、すべての成分が350nm〜700nmの範囲内にあってもよく、350nmよりも短波長の光、及び/又は700nm以上の長波長の光を含んでいてもよいが、強度分布におけるピークが350nm〜700nmの範囲内にあることが好ましい。尚、光照射のみによって微生物の染色体DNAを切断する程の短波長の成分は含まないことが好ましい。 生細胞よりも損傷細胞や死細胞の染色体DNAが優先的に破壊されると、生細胞では染色体DNAのターゲット領域が核酸増幅法により増幅されるのに対し、損傷細胞や死細胞では染色体DNAのターゲット領域が破壊(切断)される結果、核酸増幅反応が阻害され、生細胞を損傷細胞や死細胞に比べて選択的に検出することができる。 また、生細胞よりも損傷細胞や死細胞のRNAが優先的に架橋剤により修飾を受けると、生細胞ではRNAのターゲット領域が核酸増幅法により増幅されるのに対し、損傷細胞や死細胞ではRNAのターゲット領域が修飾を受ける結果、核酸増幅反応が阻害され、生細胞を損傷細胞や死細胞に比べて選択的に検出することができる。 本発明の好ましい態様は、前記架橋剤がエチジウムモノアザイドであり、エチジウムモノアザイドを添加した被検試料に350nm〜700nmの波長の光線を照射する工程を含む。エチジウムモノアザイド(EMA)は、微生物の生細胞の細胞壁よりも損傷細胞や死細胞の細胞壁を透過しやすい。したがって、EMAは微生物の生細胞の細胞壁は実質的に透過せず、微生物の損傷細胞や死細胞の細胞壁や死細胞になっている体細胞の細胞膜は透過すると考えられる。 尚、血液中の白血球、血小板が生細胞の場合、EMAは滅菌水や低張な塩溶液下で前記細胞の細胞膜をより透過する。 特に、DNAについては、EMAが体細胞の死細胞及び微生物の損傷細胞並びに死細胞の細胞内に進入して、核内DNAに無秩序にインターカレートした後、350nm〜700nmの波長の光照射によりインターカレートしたEMAがナイトレンに変換され、核内DNAに共有結合し、DNAの分子間を架橋する。そして、染色体DNAの各塩基およびデオキシリボースに対して至るところで共有結合したEMAにより、染色体DNA内に大きな歪みが生じ、その結果、染色体DNAが破壊(断片化)されると推定される。 また、2本鎖RNA(部分的な2本鎖も含む)については、EMAが体細胞の死細胞及び微生物の損傷細胞並びに死細胞の細胞内に進入して、RNAに無秩序にインターカレートした後、350nm〜700nmの波長の光照射によりインターカレートしたEMAのみがナイトレンに変換され、RNAに共有結合し、RNAの分子間を架橋する。そして、RNAの各塩基に対して至るところで共有結合したEMAにより、RNA内に大きな歪みが生じ、その結果、RNAが破壊(断片化)されると推定される。 さらに1本鎖DNA又はRNAについては、EMAが体細胞の死細胞及び微生物の損傷細胞並びに死細胞の細胞内に進入して、350nm〜700nmの波長の光照射によりEMAがナイトレンに変換されて、DNA又はRNAに共有結合すると推定される。 エチジウムモノアザイド以外の架橋剤であっても、微生物の生細胞の細胞壁よりも損傷細胞や死細胞の細胞壁を透過しやすく、350nm〜700nmの波長の光線(長波長紫外線、又は可視光線)を照射することにより、DNAを架橋し、又はRNAに共有結合し、その結果、染色体DNAを破壊するもの、又はRNAを修飾するものであれば、本発明に使用することができる。 EMAによる処理の条件は、適宜設定することが可能であり、例えば、検出対象の微生物の生細胞、及び損傷細胞や死細胞の懸濁液に、種々の濃度のEMAを加えて、種々の時間置いた後、可視光を照射して、必要に応じて遠心分離等によって菌体を分離し、核酸増幅法により分析することによって、生細胞と死細胞及び損傷細胞とを区別しやすい条件を決定することができる。また、光照射の条件も、照射時間を変えて上記の実験を行うことにより、好ましい条件を決定することができる。光照射の条件として具体的には、被検試料から10〜50cmの距離から100〜750Wの前記波長の光を5分〜2時間照射する条件が挙げられる。光照射は、低温下で、例えば試料を氷冷して行うことが好ましい。 上記工程a)の架橋剤添加、及び工程b)の光照射処理は、2サイクル、又はそれ以上のサイクルを繰り返して行ってもよい。その場合、架橋剤の濃度は、一回目の工程a)では、2回目以降よりも高くし、二回目以降の工程a)では、一回目よりも低くすることが好ましい。 例えばEMAは高濃度、例えば10μg/ml以上で作用させると、死細胞の細胞壁又は細胞膜への透過性は高くなるが、生細胞への透過率も高くなる(Microbiology and Immunology, 2007, 51, p.763-775、Journal of Clinical Microbiology, 2008, 46, p.2305-2313)。一方、低濃度、例えば10μg/mlより低い濃度で作用させると、生細胞への透過は避けられるが、死細胞への透過率も低下し核酸増幅反応により死細胞も検出することがある。したがって、一回目の工程a)においては架橋剤の濃度を高くし、二回目以降の工程b)では架橋剤の濃度を低くすることが好ましい。 具体的には例えば、一回目の工程a)では、エチジウムモノアザイドでは終濃度10〜100μg/ml、エチジウムジアジドでは終濃度10〜100μg/ml、プロピジウムモノアザイドでは終濃度10〜100μg/ml、プソラーレンでは終濃度2×10-5〜10μg/ml、4,5',8−トリメチルプソラーレンでは終濃度2×10-5〜10μg/ml、8−メトキシプソラーレンでは終濃度2×10-5〜10μg/mlが挙げられる。また、二回目以降の工程a)では、エチジウムモノアザイドでは終濃度1〜10μg/ml、エチジウムジアジドでは終濃度1〜10μg/ml、プロピジウムモノアザイドでは終濃度1〜10μg/ml、プソラーレンでは終濃度1×10-5〜9μg/ml、4,5',8−トリメチルプソラーレンでは終濃度1×10-5〜9μg/ml、8−メトキシプソラーレンでは終濃度1×10-5〜9μg/mlが挙げられる。 また、一回目の工程a)では、二回目以降の工程b)よりも処理時間を短くすることが好ましい。 具体的には例えば、一回目の工程a)では、エチジウムモノアザイドでは5分〜1時間、エチジウムジアジドでは5分〜1時間、プロピジウムモノアザイドでは5分〜1時間、プソラーレンでは5分〜1時間、4,5',8−トリメチルプソラーレンでは5分〜1時間、8−メトキシプソラーレンでは5分〜1時間が挙げられる。また、二回目以降の工程a)では、エチジウムモノアザイドでは6分〜48時間、エチジウムジアジドでは6分〜48時間、プロピジウムモノアザイドでは6分〜48時間、プソラーレンでは6分〜48時間、4,5',8−トリメチルプソラーレンでは6分〜48時間、8−メトキシプソラーレンでは6分〜48時間が挙げられる。 先のサイクルの工程b)と次のサイクルの工程a)の間で、未反応の架橋剤を除去する工程を追加してもよい。また、工程b)と以下の工程c)との間に、架橋剤を除去する工程を追加してもよい。尚、通常、工程a)で未反応の架橋剤は工程b)でほとんど不活性化される。したがって、架橋剤を除去する方法としては、被検試料を遠心分離して、微生物を含む沈殿と架橋剤を含む上清とを分離し、上清を除去する方法が挙げられる。この場合、架橋剤を除去した後、適宜、洗浄剤で微生物を洗浄する工程を追加することも可能である。(3)工程c) 次に、光照射処理後の被検試料に含まれる微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を、細胞からの核酸の抽出を行わずに、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤存在下で核酸増幅法により増幅する。 具体的には、被検試料を含む核酸増幅反応液に、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤を添加して、核酸増幅反応を行う。 さらに、増幅反応液には、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤に追加して、界面活性剤、マグネシウム塩、又は有機酸塩又はリン酸塩を添加することも可能である。これらは、いずれか一種、又は任意の二種以上の組合わせで使用することができる。これらの全てを添加することが特に好ましい。前記核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、界面活性剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩の添加の順序は問わず、また、同時に添加してもよい。 核酸増幅阻害物質とは、核酸増幅反応又は核酸伸張反応を阻害する物質であって、例えば、核酸(DNA又はRNA)の鋳型に吸着する正電荷阻害物質、又は核酸合成酵素(DNAポリメラーゼなど)に吸着する負電荷阻害物質等が挙げられる。前記正電荷阻害物質としては、カルシウムイオン、ポリアミン、ヘム(heme)等が挙げられる。また、負電荷阻害物質としては、フェノール、フェノール系化合物、ヘパリン、グラム陰性細菌細胞壁外膜等が挙げられる。食品や臨床検体中には、このような核酸増幅反応を阻害する物質が多く含まれているといわれている。 上記のような核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤としては、アルブミン、デキストラン、T4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチームから、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素選択される1種又は複数種を例示することができる。前記ポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコール400又はポリエチレングリコール4000が例示される。ベタインとしては、トリメチルグリシンやその誘導体等が挙げられる。また、ホスホリラーゼ及び乳酸脱水素酵素としては、ウサギ筋肉由来のグリコーゲンホスホリラーゼ及び乳酸脱水素酵素が挙げられる。なお、グリコーゲンホスホリラーゼとしては、グリコーゲンホスホリラーゼbが好ましい。 特に、アルブミン、デキストラン、T4ジーン32プロテイン、又はリゾチームを使用することが好ましい。 血液、糞便、及び肉を検査材料として想定し、それら検査材料中に含まれる核酸増幅阻害物質の阻害作用を低減させる試みとして上記のような物質をPCR反応液に加えて、前記阻害作用の低減が評価されている(Abu Al-Soud, W. et al, Journal of Clinical Microbiology, 38:4463-4470, 2000)。 BSA(ウシ血清アルブミン)に代表されるアルブミンは、ヘム(heme)のような核酸増幅阻害物質に結合することにより、核酸増幅阻害を低減させている可能性が示唆されている(前記Abu Al-Soudら)。また、T4ジーン32プロテインは1本鎖DNA結合性蛋白質であり、核酸増幅過程で鋳型となっている1本鎖DNAに予め結合して鋳型が核酸分解酵素による分解から免れ、核酸増幅反応が阻害されず促進されるか、又は、BSAと同様の核酸増幅阻害物質に結合することにより、核酸増幅が阻害されず進行する、という二つの可能性が考えられている(前記Abu Al-Soudら)。さらに、BSA、T4ジーン32プロテイン、及び蛋白質分解酵素阻害剤(proteinase inhibitor)は蛋白質分解酵素(proteinase)に結合することにより蛋白質分解活性を低減させ、核酸合成酵素の働きを最大限に引き出す可能性が示唆されている。事実、牛乳や血液には蛋白質分解酵素が残存していることもあり、その際、BSA又は蛋白質分解酵素阻害剤(大豆トリプシンインヒビターやα2-マクログリブリン)の添加により核酸合成酵素が分解を受けず、核酸増幅反応が良好に進行したケースも紹介されている(前記Abu Al-Soudら)。また、デキストランは一般にグルコースを原料として乳酸菌が合成する多糖類である。ムチンという同様の多糖類−ペプチド複合体が腸管粘膜に接着することも報告されており(Ruas-Madiedo, P., Applied and Environmental Microbiology, 74:1936-1940, 2008)、デキストランが負電荷阻害物質(核酸合成酵素に吸着)、又は正電荷阻害物質(核酸に吸着)に予め吸着することにより、それら阻害物質に結合する可能性は十分あるものと推察される。 また、リゾチームは、牛乳中に多数含まれていると考えられる核酸増幅阻害物質と吸着しているものと推察される(前記Abu Al-Soudら)。 以上のことから、アルブミン、T4ジーン32プロテイン、デキストラン、及びリゾチームに代表される上記物質は、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤であるといえる。 アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン、卵白アルブミン、乳アルブミン、ヒト血清アルブミン等が挙げられる。これらの中ではウシ血清アルブミンが好ましい。アルブミンは精製品でもよく、本発明の効果を損わない限りグロブリン等の他の成分を含んでいてもよい。また、分画物であってもよい。被検試料(核酸増幅反応液)中のアルブミンの濃度は、例えば、通常0.0001〜1質量%、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.2〜0.6質量%である。 デキストランとしては、デキストラン40やデキストラン500等が挙げられる。これらの中ではデキストラン40が好ましい。被検試料(核酸増幅反応液)中のデキストランの濃度は、例えば、通常1〜8%、好ましくは1〜6%、より好ましくは1〜4%である。 T4ジーン32プロテイン(例えば、ロシュ社製:gp32とも呼ばれる)の被検試料(核酸増幅反応液)中の濃度は、通常0.01〜1%、好ましくは0.01〜0.1%、より好ましくは0.01〜0.02%である。 リゾチームとしては、卵白由来のリゾチームが挙げられる。被検試料(核酸増幅反応液中のリゾチームの濃度は、例えば、通常1〜20μg/ml、好ましくは6〜15μg/ml、より好ましくは9〜13μg/mlである。 界面活性剤としては、Triton(ユニオンカーバイド社の登録商標)、Nonidet(シェル社)、Tween(ICI社の登録商標)、Brij(ICI社の登録商標)等の非イオン系界面活性剤、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)等の陰イオン系界面活性剤、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。TritonとしてはTriton X-100等が,NonidetとしてはNonidet P-40等が、TweenとしてはTween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80等が、BrijとしてはBrij 56等が挙げられる。 核酸増幅反応液中の界面活性剤の種類及び濃度は、微生物の細胞内へのPCR試薬の透過を促進し、核酸増幅反応を実質的に阻害しない限り特に制限されない。具体的には、SDSの場合は、例えば、通常0.0005〜0.01%、好ましくは0.001〜0.01%、より好ましくは0.001〜0.005%、より好ましくは0.001〜0.002%である。他の界面活性剤の場合、例えば、Nonidet P-40の場合は、通常、0.001〜1.5%、好ましくは0.002〜1.2%、より好ましくは0.9〜1.1%、Tween 20の場合は、通常、0.001〜1.5%、好ましくは0.002〜1.2%、より好ましくは0.9〜1.1%、Brij56の場合は、通常0.1〜1.5%、好ましくは0.4〜1.2%、より好ましくは0.7〜1.1%である。 核酸増幅反応に用いる酵素溶液に界面活性剤が含まれている場合は、同酵素溶液由来の界面活性剤のみでもよいし、さらに同種又は異なる界面活性剤を追加してもよい。 マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。被検試料(核酸増幅反応液)中のマグネシウム塩の濃度は、例えば、通常1〜10mM、好ましくは2〜6mM、より好ましくは2〜5mMである。 有機酸塩としては、クエン酸、酒石酸、プロピオン酸、酪酸等の塩が挙げられる。塩の種類としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。また、リン酸塩として、ピロリン酸等が挙げられる。これらは、1種でもよく、2種又は3種以上の混合物であってもよい。被検試料(核酸増幅反応液)中の有機酸塩又はリン酸塩の濃度は、例えば、通常合計量で0.1〜20mM、好ましくは1〜10mM、より好ましくは1〜5mMである。 本発明では、従来法では核酸増幅反応の前に行われる細胞からの核酸の抽出を行わない。細胞からの核酸の抽出とは、例えば、酵素や物理的手段によって細胞を破壊又は溶解して、核酸を採取又は精製することをいう。本発明においては、このような、細胞から核酸を抽出する処理、例えば、酵素や物理的手段によって細胞を破壊又は溶解して、核酸を採取又は精製する処理を行わない。 上記核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、及び必要に応じて他の各成分の存在下で、細胞内に存在していたDNA又はRNAのターゲット領域を核酸増幅法により増幅する。核酸増幅の鋳型には、微生物細胞懸濁液、又は蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、又は糖分解酵素等で処理した微生物細胞の懸濁液を用い、鋳型調製のための核酸の抽出は行わない。核酸増幅法は、高温、例えば90〜95℃、好ましくは93〜95℃、より好ましくは94〜95℃における核酸の熱変性のステップを含むことが好ましい。 ターゲット領域の増幅は、好ましくは、微生物細胞内で行われる。本発明においては、実施例に示すように、微生物細胞内で行われている可能性が高い。すなわち、核酸増幅反応における高温処理、及び、好適な態様ではさらに上記各成分の作用によって、細胞の形態は維持され、染色体DNAは細胞内に残されつつも、微生物の細胞膜又は細胞壁にピンホールもしくは空隙が形成され、プライマー及び核酸増幅に必要な酵素等は細胞内に流入し、細胞内で増幅反応が起きた後、増幅産物の遺伝子長によって、一部分が細胞内にとどまる又は細胞外に流出するものと推定される。一方、前記細胞膜又は細胞壁のピンホールもしくは空隙から、染色体DNA又はRNAの極めて一部が細胞外に流出している可能性も否定はできない。 いずれにしても、このように、細胞を実質的に破壊又は溶解せずに、プライマー等の核酸増幅に必要な成分が細胞内に流入すること、増幅産物の一部分が細胞内にとどまること又は細胞外に流出すること、及び、染色体DNA又はRNAが細胞外に流出させることは、「核酸の抽出」には含まれない。また、上記以外の他のメカニズムも否定はできないが、その場合であっても、細胞から核酸を抽出する処理、例えば、酵素や物理的手段によって細胞を破壊又は溶解して、核酸を採取又は精製する処理を行わない限り、「核酸の抽出を行わない」に該当する。 尚、細胞から溶出した染色体DNA又はRNAが鋳型となって、細胞外で核酸増幅反応が生じていたとしても、主たる増幅産物が細胞内で形成されていれば、核酸増幅反応は「微生物細胞内で行われる」といえる。具体的には例えば、増幅産物の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上が微生物細胞内で形成されれば、核酸増幅反応が微生物細胞内で行われたと評価できる。 核酸増幅法としては、PCR法(White,T.J. et al., Trends Genet., 5, 185(1989))、LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification:新規遺伝子増幅法(LAMP法)の原理と応用 、納富継宣、長谷哲、BIO INDUSTRY, Vol.18, No.2, 15-23, 2001)、SDA法(Strand Displacement Amplification:Edward L. Chan, et al.,Arch. Pathol. Lab. Med., 124:1649-1652, 2000)、LCR法(Ligase Chain Reaction:Barany, F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.88, p.189-193, 1991)、TMA法(Transcription-Mediated-Amplification:Sarrazin C. et al., J. Clin. Microbiol., vol.39: p.2850-2855 (2001))、TRC法(Transcription-Reverse Transcription-Concerted method:Nakaguchi Y. et al., J. Clin. Microbiol., vol.42: p.4248-4292 (2004))、HC法(Hybrid Capture:Nazarenko I., Kobayashi L. et al., J. Virol. Methods, vol.154: p.76-81, 2008)、マイクロアレイ法(Richard P. Spence, et al., J. Clin. Microbiol., Vol.46, No.5, p.1620-1627, 2008)等がそれぞれ例示される。なお、本発明においては、PCR法を利用することが特に好ましいが、これに制限されない。 本発明において「ターゲット領域」とは、染色体DNA、又はRNAのうち、本発明に用いるプライマーを用いた核酸増幅法により増幅され得る領域であり、検出対象の微生物を検出することができるものであれば特に制限されず、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、被検試料に検出対象の微生物と異なる種類の細胞が含まれる場合には、ターゲット領域は、検出対象の微生物に特異的な配列を有することが好ましい。また、目的によっては、複数種の微生物に共通する配列を有するものであってもよい。さらに、ターゲット領域は単一であっても、複数であってもよい。検出対象の微生物に特異的なターゲット領域に対応するプライマーセットと、広汎な微生物の核酸に対応するプライマーセットを用いると、検出対象の微生物の生細胞量と、多数種の微生物の生細胞量を、同時に測定することができる。ターゲット領域の長さとしては、通常50〜5000塩基が挙げられる。 核酸の増幅に用いるプライマーは、各種核酸増幅法の原理に基づいて、適宜設定することが可能であって、上記ターゲット領域を特異的に増幅することができるものであれば特に制限されない。 好ましいターゲット領域の例は、5S rRNA遺伝子、16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、tRNA遺伝子、及び病原遺伝子等の各種特異遺伝子である。これらの遺伝子の一つ又はその一部をターゲットとしてもよく、2又はそれ以上の遺伝子にまたがる領域をターゲットとしてもよい。例えば、大腸菌群(Coliform bacteria)、及び腸内細菌科の細菌では、配列番号1及び2に示すプライマーセットを用いることにより、16S rRNA遺伝子の一部を増幅することができる。また、配列番号3及び4に示すプライマーセットを用いることにより、16S rRNA遺伝子の一部、tRNA遺伝子、及び23S rRNA遺伝子の一部にまたがる領域を増幅することができる。 また、検出対象の微生物が病原性細菌である場合には、ターゲット領域としては病原遺伝子が挙げられる。病原遺伝子としては、リステリア属細菌のリステリオリシンO(hlyA)遺伝子、サルモネラ属細菌のenterotoxin(エンテロトキシン)遺伝子やinvasion(invA)遺伝子、病原性大腸菌O−157、O−26、O−111等のベロ毒素遺伝子、エンテロバクター属細菌のouter-membrane-proteinA(ompA)遺伝子(エンテロバクター・サカザキ菌)及びmacromolecular synthesis(MMS)オペロン(エンテロバクター・サカザキ菌)、レジオネラ属細菌のmacrophage-invasion protein(mip)遺伝子、腸炎ビブリオ細菌の耐熱性溶血毒遺伝子、耐熱性溶血毒類似毒素遺伝子、赤痢菌及び腸管侵入性大腸菌のipa遺伝子(invasion plasmid antigen gene)や、invE遺伝子(invasion gene)、黄色ブドウ球菌エンテロトキシン遺伝子、バチルス・セレウス菌のセレウリド(嘔吐毒素)遺伝子やエンテロトキシン遺伝子、ボツリヌス菌の各種毒素遺伝子等が挙げられる。また、病原遺伝子に対応するプライマーとしては、例えば、リステリア菌のhlyA遺伝子に対応する配列番号5及び6に示すプライマーセット、エンテロバクター・サカザキ菌のompA遺伝子に対応する配列番号7及び8に対するプライマーセット、及びエンテロバクター・サカザキ菌のMMSオペロンに対応する配列番号9及び10に対するプライマーセットが挙げられる。 又、エンベロープを有するインフルエンザウイルスの場合、ヘマグルチニン(Hタンパク質)遺伝子やノイラミニダーゼ(Nタンパク質)遺伝子、ノロウイルスに代表されるカリシウイルス科ウイルスのRNAポリメラーゼ遺伝子、各種カプシドタンパクをコードしている遺伝子領域等が挙げられる。食中毒ウイルスとしてノロウイルスの他、ロタウイルス、アデノウイルスもあり、対象遺伝子はノロウイルス同様、RNAポリメラーゼ遺伝子、カプシドタンパクをコードしている遺伝子領域が標的領域となる。 複数種の微生物に共通するプライマーを用いると、被検試料中の複数種の微生物の生細胞を検出することができる。また、特定の細菌に特異的なプライマーを用いると、被検試料中の特定の菌種の生細胞を検出することができる。 核酸増幅反応の条件は、各核酸増幅法(PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、及びマイクロアレイ法等)の原理に則った特異的な増幅が起る限り特に制限されず、適宜設定することができる。(4)工程d) 核酸増幅法により増幅した増幅産物を解析する。増幅産物の解析は、工程c)で採用する核酸増幅法に応じて、工程c)に続いて行われるか、又は、工程c)と同時に行われる。例えば、リアルタイムPCRの場合は、工程d)は工程c)と同時に行われ得る。 解析法は、核酸増幅産物の検出又は定量が可能なものであれば特に制限されず、電気泳動法等が例示される。尚、核酸増幅法にPCR法を用いた場合は、リアルタイムPCR法(Nogva et al., Appl. Environ. Microbiol., vol.66, 2000, pp.4266-4271、 Nogva et al., Appl. Environ. Microbiol., vol.66, 2000, pp.4029-4036)を利用することが可能である。 電気泳動法によれば、核酸増幅産物の量、及びその大きさを評価することができる。また、リアルタイムPCR法によれば、迅速にPCR増幅産物の定量を行うことができる。 リアルタイムPCR法を採用する場合、一般に増幅サイクル数1〜10までは蛍光強度の変化はノイズレベルでありゼロに等しいので、それらを増幅産物ゼロのサンプルブランクと見なし、それらの標準偏差SDを算出し、そのSD値に10を乗じた値をスレッショールド値とし、そのスレッショールド値を最初に上回るPCRサイクル数をサイクルスレッショールド値(Ct値)という。従って、PCR反応溶液に初期のDNA鋳型量が多い程、Ct値は小さな値となり、鋳型DNA量が少ない程、Ct値は大きな値となる。また、鋳型DNA量が同じでも、その鋳型内のPCRのターゲット領域に切断が生じている割合が多くなる程、同領域のPCR反応のCt値は大きな値となる。 また、増幅産物の有無は、増幅産物の融解温度(TM)パターンを解析することによっても行うことができる。 上記の各方法は、本発明の方法における諸条件の最適化に際しても使用することができる。 本発明の方法によって生細胞を検出する場合、核酸増幅産物の解析は、同定されている微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いると、生細胞の有無又は定量の精度を高めることができる。標準曲線は予め作成しておいたものを用いることができるが、被検試料と同時に標準試料について本発明の各工程を行って作成した標準曲線を用いることが好ましい。また、予め微生物量とDNA量又はRNA量との相関を調べておけば、その微生物から単離されたDNA又はRNAを標準試料として用いることもできる。<2>本発明のキット 本発明のキットは、核酸増幅法により、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出するためのキットであって、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、及び検出対象の微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を核酸増幅法により増幅するためのプライマーを含む。本発明のキットは、前記本発明の方法を実施するために用いることができる。 なお、本発明のキットには、界面活性剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩から選択されるいずれか一種又は複数種を追加することが可能である。 また、本発明のキットには、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素を追加することが可能である。 酵素、DNA又はRNAに共有結合する薬剤、及び核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、並びに必要に応じて界面活性剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩は、これらの成分を全て含む単一の組成物であってもよいし、各成分を任意の組合わせで含む複数の溶液又は組成物であってもよい。 前記核酸増幅反応は、PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はマイクロアレイ法であることが好ましい。なお、上記キットにおいて、架橋剤や培地は、本発明の方法で説明したものと同様である。 本発明のキットの好ましい態様は、DNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアジド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択されることが好ましく、特にエチジウムモノアザイドを使用することが好ましい。 また、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤としては、アルブミン、デキストラン、及びT4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択されるいずれか一種又は複数種を例示することができる。 また、マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。 また、有機酸塩としては、クエン酸、酒石酸、プロピオン酸、酪酸等の塩が挙げられる。塩の種類としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。また、リン酸塩として、ピロリン酸等が挙げられる。これらは、1種でもよく、2種又は3種以上の混合物であってもよい。 また、酵素としては、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪及び糖質等の夾雑物を分解することができ、かつ、検出対象の微生物の生細胞を損傷しないものであれば特に制限されないが、例えば、脂質分解酵素、タンパク質分解酵素、及び糖質分解酵素が挙げられる。前記酵素は、1種類の酵素を単独で用いてもよいし、2種又はそれ以上の酵素を併用してもよいが、脂質分解酵素及びタンパク質分解酵素の両方、又は脂質分解酵素、タンパク質分解酵素、及び糖質分解酵素の全てを用いることが好ましい。 脂質分解酵素としては、リパーゼ、フォスファターゼ等が、タンパク質分解酵素としてはセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、プロテイナーゼK、プロナーゼ等が、糖質分解酵素としてはアミラーゼ、セルラーゼ等が挙げられる。 本発明のキットは、さらに、希釈液、DNA又はRNAに共有結合する薬剤の反応用の反応液、核酸増幅用の酵素及び反応液、本発明の方法を記載した説明書等を含めることもできる。 次に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。[実施例1] 大腸菌群(Coliform bacteria)として代表的なエンテロバクター サカザキ菌を使用して、細菌の生細胞と死細胞との識別を明瞭にするための条件の検討を行った。1.試験材料及び培養方法1−1)使用菌株及び培養方法 Enterobacter sakazakii(エンテロバクター サカザキ)ATCC51329を、ブレイン・ハート・インフュージョン・ブロス(Brain Heart Infusion Broth)(BHIブロス: Eiken Chemical Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いて、37℃、16時間培養した。培養液5mlを、15 ml falcon tube (Becton Dickinson Labware, NJ)に入れ、4℃、3,000×G、10分の冷却遠心処理を行い、上清を除去後、ペレットに5 mlの生理食塩水を加えて、エンテロバクター サカザキ菌のストック・生細胞けん濁液(8.95 ± 0.01 log10 cells/ml, n = 2)を調製した。更に、この生細胞懸濁液を生理食塩水により10倍希釈しエンテロバクター サカザキ菌の生細胞けん濁液(7.95 ± 0.01 log10 cells/ml, n = 2)を調製した。 又、上記ストック・生細胞けん濁液の1 mlを、1.5 ml容マイクロチューブ(Eppendorf, Hamburg, Germany)に入れ、沸騰水に50秒浸漬後急冷し、標準寒天培地(Eiken, Tokyo, Japan)によりコロニーを形成しないことを確認し、エンテロバクター サカザキ菌のストック・損傷細胞けん濁液を調製した。尚、生細胞けん濁液中のエンテロバクター サカザキ菌の生細胞数は標準寒天培地によりカウントし、同時に分光光度計U-2800A (Hitachi, Japan)を用いて波長600 nmによる濁度測定を実施し、生細胞数と濁度の関係を把握した。 また、ストック・生細胞けん濁液を市販殺菌牛乳により10倍希釈しエンテロバクター サカザキ菌の生細胞けん濁乳(7.95 ± 0.01 log10 cells/ml, n = 2)を調製した。 更に、ストック・損傷細胞けん濁液を市販殺菌牛乳により10倍希釈しエンテロバクター サカザキ菌の損傷細胞けん濁乳(7.95 ± 0.01 log10 cells/ml, n = 2)を調製した。1−2)エチジウムモノアザイド(EMA)処理・光照射処理 エチジウムモノアジド(EMA: Sigma, St. Louis, MO)を、滅菌水を用いて1000 μg/mlに溶解し、0.20 μmのフィルター(Minisart-plus; Sartorius AG, Gottingen, Germany)を用いてろ過滅菌を施し、ストックソリューションを調製し-20 ℃にて遮光して保管した。 10 μlのEMA溶液(1000 μg/ml)をエンテロバクター サカザキ菌の生細胞及び損傷細胞けん濁液(1 ml)に添加し、遮光下4 ℃、10分放置した。その後、氷上にて可視光源(100V PRF 500W Flood eye, Iwasaki Electric Co., Ltd., Tokyo, Japan)から20 cm離し5分照射した。EMA処理サンプルを4 ℃、15,000 ×G、10分の冷却遠心処理を行い、上清を除去後1 mlの生理食塩水を加え洗浄後、沈殿物(菌体)に10 μlの滅菌水を加えてけん濁し、その内のそれぞれ5 μlをPCR増幅用試料とした。 エンテロバクター サカザキ菌の生細胞及び損傷細胞けん濁乳(1 ml)に関しては、下記の方法によりEMA処理・光照射処理を行った。まずエンテロバクター サカザキ菌の生細胞及び損傷細胞けん濁乳(1 ml)に4 ℃、15,000 ×G、10分の冷却遠心処理を行い、上清を除去後1 mlの生理食塩水を加えた。3 μlのプロテアーゼ(バチラス由来:Sigma)を加え37 ℃、1時間処理後、冷却遠心処理(4 ℃、15,000 ×G、10分)により上清を除去し生理食塩水1 mlを加えた後、遮光下10 μlのEMA溶液(1000 μg/ml)を添加した。それ以降の方法は前記「エンテロバクター サカザキ菌の生細胞及び損傷細胞けん濁液(1 ml)」に従った。1−3)PCR増幅 クエン酸三ナトリウム2水和物(TSC;関東化学)及び塩化マグネシウム6水和物(ナカライテスク社製)からなる薬剤に、更に、ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma社製)、デキストラン(低分子M.W. 50,000〜70,000;ナカライテスク社製)、T4ジーンプロテイン32(gp32;日本ジーン社製)、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS;ナカライテスク社製)、Brij56(Sigma社製)、卵白リゾチーム(和光純薬工業社製)の1又は複数種類を含む薬剤をPCR増幅用試料5 μlに添加した。PCR増幅用試料に添加した各組成からなる薬剤を前処理剤と記載することがある。下記にその前処理剤の各組成を示す。組成1:2% BSA: 5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl0.05% SDS: 1 μl組成2:2% BSA: 5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl組成3:20% デキストラン: 2.5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl組成4:0.1% gp32: 5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl組成5:2% BSA: 5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl4% Brij56: 12.6 μl組成6:2% BSA: 5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl500 μg/ml 卵白リゾチーム: 1.0 μl組成7:2% BSA: 5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl0.05% SDS: 1 μl4% Brij56: 12.6 μl500 μg/ml 卵白リゾチーム: 1.0 μl組成8:2% BSA: 5 μl50 mM TSC: 1 μl100 mM MgCl2: 1.5 μl4% Brij56: 12.6 μl500 μg/ml 卵白リゾチーム: 1.0 μl組成9:2% BSA: 5 μl組成10: 組成1〜9までの各成分を含まず後述のa)〜g)の組成からなるPCRバッファーのみの成分 PCR増幅には、Primer F: 16S rRNA遺伝子検出用フォワードプライマー16S_10F (5'-AGTTTGATCCTGGCTC-3':配列番号1)、Primer R: 16S rRNA遺伝子検出用リバースプライマー16S_1500R(5'-GGCTACCTTGTTACGA-3': 配列番号2)をPCRプライマーとして使用した。 更に、リアルタイムPCR後の増幅産物の融解解析において、温度に対する蛍光物質の変化量(一次微分ピーク)を最大にして高感度検出を行うために、以下のa)〜g)の組成からなるPCRバッファーを調製し、このPCRバッファーを、前記PCR増幅用試料及び前処理剤の混合液に加えてPCR増幅を行った。 前記プライマーは、16S rRNA遺伝子の10〜1500位までを含むlong DNA(1491 bp)をターゲットとしている。a) Primer F (10 pmol/μl): 4 μlb) Primer R (10 pmol/μl): 4 μlc) Ex-Taq(5U/μl; Takara-Bio): 0.5 μl (Tween 20 0.5%、Nonidet P-40 0.5%、グリセロール 50%を含む)d) 10 × Ex-Taq Buffer (Takara-Bio): 5 μle) dNTP mixture (Takara-Bio): 4 μlf) 10 × SYBR Green I (BMA社製) 8 μlg) 滅菌水: PCR増幅用試料5 μl及び前処理剤と合せて全量55 μlにするための必要量 リアルタイムPCR装置(I cycler iQ, Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを実施した。1) 4 ℃, 3 分 (1 サイクル)2) 94 ℃, 30 秒 (1 サイクル)3) 94 ℃, 20 秒; 55 ℃, 30 秒; 72 ℃, 1 分 30 秒(50 サイクル)4) 95 ℃, 3 分 (1 サイクル) その後、PCR増幅産物の融解解析(60 ℃から0.1 ℃間隔で温度を上昇させ、各温度で8 秒保持、それを合計350回繰り返して95 ℃を終了温度とした)のプロトコールに従い、PCR増幅産物の融解温度を測定した。 陽性コントロールとしてエンテロバクター サカザキ菌の生細胞けん濁液 8 log10 cells/mlを使用した。又、ブランクサンプルとして何も加えずそのままPCRバッファーをPCRに供した。2. 結果 リアルタイムPCRの結果を表1に示す。 表1中、a)〜f)中の記号は以下のとおりである。また、前処理剤の「Lyso」は卵白リゾチームを表す。a) エンテロバクター サカザキ菌の生細胞数及び損傷細胞数:7.95 ± 0.01 log10 cells/ml(生理食塩水及び市販殺菌牛乳中)。b) 損傷細胞は生細胞を沸騰水中に50秒浸漬し作製した。c) EMA未処理を意味する。d) EMA処理(遮光下10 μg/ml、10 分、4 ℃) + 可視光照射 (5 分)e) リアルタイムPCRのCt値を意味し、mean ± SD (n = 2)として表示した。f) nd: リアルタイムPCRで対象遺伝子の増幅が行われなかったことを意味する。 表1の組成1と組成2の結果から、細菌から直接PCRを行う本系において、生理食塩水中のエンテロバクター サカザキ菌の生損識別(生細胞と損傷細胞とを識別)、牛乳中のエンテロバクター サカザキ菌の生損識別は共に明瞭に行われており、リアルタイムPCRの反応速度の指標となるCt値で評価しても、生理食塩水中及び牛乳中のエンテロバクター サカザキ菌(生細胞:EMA未処理)のCt値間に有意な差はなく、更に、生細胞のEMA処理間でも有意な差は生じなかった。これにより、前処理剤に界面活性剤SDSを含んでも含まなくても何れでもよいことが分かった。上記と同様な現象が組成7及び8の比較でも得られた。 組成2、3、及び4の比較結果から、アルブミン、デキストラン、又はT4ジーンプロテイン32の何れを含んでいても、エンテロバクター サカザキ菌の生損識別(生理食塩水及び牛乳中)は明瞭に行われ、生理食塩水中及び牛乳中のエンテロバクター サカザキ菌(生細胞:EMA未処理)のCt値間に有意な差はなく、更に、生細胞のEMA処理間でも有意な差は生じなかった。これら一連のデータより、アルブミン、デキストラン、又はT4ジーンプロテイン32の何れを用いてもよいことが分かった。 次に組成2と組成5の比較から、何れの組成においても生損識別は明瞭に行われているが(生理食塩水及び牛乳中)、非イオン性界面活性剤Brij56を添加した方が、特に牛乳中のエンテロバクター サカザキ菌(生細胞:EMA未処理及びEMA処理)のCt値が有意に低下し、生細胞の検出感度が向上していることが示唆された。更に、組成2と組成6の比較から何れの組成においても生損識別は明瞭に行われているが(生理食塩水及び牛乳中)、リゾチームを添加した方が、牛乳における生細胞(EMA未処理及びEMA処理)の検出感度が向上している傾向が観察された。 組成5、6、及び8の比較から、何れの組成においても生損識別は明瞭に行われているが(生理食塩水及び牛乳中)、組成8に示されるように、Brij56と卵白リゾチームが共存することにより、明らかに生細胞(EMA未処理及びEMA処理)の検出感度が向上していることが分かった。卵白リゾチームはグラム陽性細菌のペプチドグリカンに直接作用し、多糖類(N-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸のβ-1,4結合)を加水分解するが、グラム陰性細菌の場合、本多糖類を含むペプチドグリカンの外側(卵白リゾチームが作用する側)に外膜が存在するため、卵白リゾチームは作用することができない。この作用機序から考えられることは、組成8における卵白リゾチームは、グラム陰性細菌であるエンテロバクター サカザキ菌の溶解(破壊)を促進せず、予め牛乳中に存在しているグラム陽性細菌の死細胞(≧ 5 log10 cells/ml)の細胞壁にBrij56共存下で強力に作用し、従来からPCR阻害成分と考えられているグラム陽性細菌細胞壁表面構造を物理化学的に変化させたため、PCR阻害成分として、もはや機能しなくなったということである。事実、組成5、6、及び8の比較から牛乳においては、組成8による生細胞の検出感度が有意に向上しているが、生理食塩水にけん濁した生細胞においては、夾雑成分としてグラム陽性細菌は存在せず、グラム陰性細菌であるエンテロバクター サカザキ菌の生細胞には組成8が特別PCR反応を促進するようなデータは得られていない。 以上から、卵白リゾチームは、Bjii56存在下においてグラム陰性細菌の溶解には関与せず、寧ろPCR夾雑成分として考えられる検体中に予め含まれているグラム陽性細菌の細胞壁を物理化学的に変化させ、PCR阻害成分として機能させなくしたため、結果として対象としているグラム陰性細菌のエンテロバクター サカザキ菌の生細胞の感度を大幅に向上させたと考えられる。そのことは、組成2と組成8の比較からも、生理食塩水中の生細胞の感度(Ct値)には有意な差は見受けられないが、牛乳中(グラム陽性細菌損傷細胞・死細胞を多数含んでいる)の生細胞の感度は組成8が極めて有意に優れている結果が得られていることとも符合する。そして、卵白リゾチームは核酸増幅阻害物質と吸着し、核酸増幅反応を正常に進行させていると考えられる。 組成1、2と9の比較から、マグネシウム塩や有機酸塩を含まなくても、BSAにより核酸増幅反応阻害物質の働きが抑制できれば、生細胞と損傷細胞の識別は可能であると考えられる。なお、組成9については、生細胞(EMA未処理・EMA処理)、及び損傷細胞(EMA未処理)のCt値が約3ほど遅れており、反応性の点で、マグネシウム塩や有機酸塩を含む組成1及び2の方が優れている。 最後に、組成2と組成10の比較から、PCRバッファーのみでも生理食塩水にけん濁させたエンテロバクター サカザキ菌の生損識別は可能であるが、生細胞(EMA未処理及びEMA処理)の感度(Ct値)が極めて有意に劣る上、通常の検体として代表的な牛乳を想定した場合、PCRバッファーのみでは生細胞(EMA未処理及びEMA処理)及びEMA未処理損傷細胞を検出不可能なことから、少なくともアルブミンに代表されるPCR阻害物質の影響を緩和させる薬剤、マグネシウム塩、及び、有機酸塩又はリン酸塩を含むことが好ましいと考えられる。〔実施例2〕 大腸菌群(Coliform bacteria)、及び腸内細菌科の細菌の生細胞と損傷細胞との識別を行った。1.試験材料及び試験方法1−1)使用菌株及び培養方法 Klebsiella oxytoca(クレブシエラ・オキシトカ)/JCM1665、Citrobacter koseri(シトロバクター・コーセリ)/JCM1658、Enterobacter sakazakii(エンテロバクター・サカザキ)/ATCC51329、Serratia fonticola(セラチア・フォンティコーラ)/JCM1242、Budvicia aquilia(ブドヴィシア・アクイリア)/JCM3902、Rahnella aquatilis(ラーネラ・アクアティリス)/NBRC13544、Hafnia alvei(ハフニア/アルヴェイ)/JCM1666、Leclericia adecarboxylata(レクレリシア・アデカルボキシラタ)/JCM1667、Yokenella regensburgei(ヨケネラ・レゲンスブルゲイ)/JCM2403、Pantoea agglomerans(パントエア・アグロメランス)/JCM1236、Buttiauxella agrestis(ブッティオーキセラ・アグレスティス)/JCM1090、Kluyvera ascorbata(クルイヴェラ・アスコルバータ)/JCM2107、Cedecea davisae(セデセア・ダヴィサエ)/JCM1685、及びE. coli(エシェリヒア・コリ)DH5α、Salmonella enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス)/IID604の大腸菌群16属、並びに大腸菌群には属さない腸内細菌科1属について、ブレイン・ハート・インフュージョン・ブロス(Brain Heart Infusion Broth)(BHIブロス:Eiken Chemical Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いて、37℃、16時間培養を行った。 また、Ewingella Americana(エウィンゲラ・アメリカーナ)/JCM4911、及びMoellerella wisconsensis(モレレラ・ウィスコンセンシス)/JCM5894の大腸菌群2属2菌種について、BHIブロスを用いて30℃、16時間培養を行った。 培養を行った後の各培養液5 mlを、15ml falcon tube(Becton Dickinson Labware, NJ)に分取し、4℃、3,000×G、10分間の冷却遠心処理を行い、上清を除去した後、沈殿物(ペレット)に5mlの生理食塩水を添加し、更に、生理食塩水により10倍希釈して、各菌種の生細胞懸濁液を調製した。 また、上記生細胞懸濁液1mlを、1.5ml容のマイクロチューブ(Eppendorf, Hamburg, Germany)に分取し、沸騰水に50秒間浸漬処理し、その後、急冷した。沸騰水に浸漬処理した各懸濁液は、標準寒天培地(Eiken, Tokyo, Japan)によりコロニーを形成しないことを確認し、大腸菌群及び腸内細菌科の損傷細胞懸濁液を調製した。 前記により作製した生細胞懸濁液及び損傷細胞懸濁液を試験試料に用いて以下の試験に供した。 なお、生細胞懸濁液中の各大腸菌群及び腸内細菌科の生細胞数は、標準寒天培地によりカウントし、また、同時に分光光度計U-2800A(Hitachi, Japan)を用いて、波長600 nmによる濁度測定を実施し、生細胞数と濁度の関係を確認した。1−2)エチジウムモノアザイド(EMA)処理・光照射処理 エチジウムモノアザイド(EMA:Sigma, St. Louis, MO)を、滅菌水を用いて1000μg/mlに溶解し、0.20μmのフィルター(Minisart-plus; Sartorius AG, Gottingen, Germany)を使用して濾過滅菌し、ストックソリューション(EMA溶液)として、−20℃にて遮光して保管した。 試験試料(生細胞懸濁液、損傷細胞懸濁液)1mlに対し、EMA溶液(1000μg/ml)を10μl添加し、遮光下で4℃、10分間放置した。 その後、氷上にて、可視光源(100V PRF 500W Flood eye, Iwasaki Electric Co., Ltd., Tokyo, Japan)から20 cm離した位置に試験試料をセットし、5分間可視光照射を行った。 EMA処理・可視光照射処理した試験試料について、4℃、15,000×G、10分間の冷却遠心処理を行い、上清を除去した後、沈殿物に1mlの生理食塩水を添加して洗浄処理し、さらに冷却遠心処理して沈殿を回収した。このような洗浄処理を数回繰り返した後に、沈殿物(菌体)に10μlの滅菌水を加えて懸濁し、PCR増幅用試料とした。1−3)PCR増幅 ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma社製)、クエン酸三ナトリウム2水和物(TSC;関東化学)、塩化マグネシウム6水和物(ナカライテスク社製)を含む以下1)〜3)の組成からなる薬剤をPCR増幅用試料に各々添加し、さらに、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS;ナカライテスク社製)を含む4)の界面活性剤をPCR増幅用試料5 μlに各々添加した。 なお、以下の記載において、1)〜3)の組成からなる薬剤と、4)の界面活性剤を合わせて、前処理剤と記載することがある。1)2% BSA:5μl2)50 mM TSC:1μl3)100 mM MgCl2:1.5μl4)0.05% SDS:1μl PCR増幅には、Primer F:16S rRNA遺伝子検出用フォワードプライマー16S_10F (配列番号1)、Primer R:16S rRNA遺伝子検出用リバースプライマー16S_1500R(配列番号2)をPCRプライマーとして使用した。 更に、リアルタイムPCR後の増幅産物の融解解析において、温度に対する蛍光物質の変化量(一次微分ピーク)を最大にして高感度検出を行うために、以下のa)〜g)の組成からなるPCRバッファーを調製し、このPCRバッファーを、前記PCR増幅用試料及び前処理剤の混合液に加えてPCR増幅を行った。a)Primer F(10 pmol/μl):4μlb)Primer R(10 pmol/μl):4μlc)Ex-Taq(5U/μl:Takara-Bio):0.5μl (Tween 20 0.005%、Nonidet P-40 0.005%、を含む)d)10×Ex-Taq Buffer(Takara-Bio社製):5μle)dNTP mixture(Takara-Bio社製):4μlf)10×SYBR Green I(BMA社製):8μlg)滅菌水:16μl リアルタイムPCR装置(I cycler iQ, Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを実施した。1)4℃、3 分(1 サイクル)2)94℃、30 秒(1 サイクル)3)94℃、20 秒;55℃、30 秒;72℃、90 秒(50 サイクル)4)95℃、3 分(1 サイクル) その後、PCR増幅産物の融解解析(60℃から0.1℃間隔で温度を上昇させ、各温度で8秒間保持し、それを合計350回繰り返して、95℃を終了温度とした)のプロトコールに従い、PCR増幅産物の融解温度を測定した。 陽性コントロールとして、エンテロバクター サカザキ菌の生細胞懸濁液(8 log10 cells(個細胞)/ml)を使用して、同様にPCR増幅を行った。さらに、ブランクサンプルとして、試験試料を加えずに、そのままPCRバッファーを用いてPCR増幅を行った。1−4)ゲル電気泳動 0.5×TAEを用いて2%アガロースゲル(2% Seakem GTG agarose:FCM BioProducts, Rockland, Me)を調製した。 10μlのPCR増幅産物を前記アガロースゲルにアプライし、電気泳動を行った。 1μg/mlのエチジウムブロマイド溶液で染色後、そのゲルをデンシトグラフで観察し、その画像をAE-6905H Image Saver HR(Atto Co., Japan)を用いて取り込み保管した。2.結果 リアルタイムPCRの結果を表2に示す。また、PCR最終増幅産物の電気泳動の結果を、図1に示す。 図1中、記号の意味は以下のとおりである。EMA + : EMA (遮光下10 μg/ml、10 分、4 ℃) + 可視光照射 (5 分)EMA - : EMA未処理PC:エンテロバクター サカザキ菌の生細胞けん濁液 8 log10 cells/mlの5μlを使用した。NC: DNA鋳型の代わりに滅菌水を用いた陰性コントロールM: 100 bp DNAラダー。損傷菌: 生細胞けん濁液を沸騰水に50秒浸漬した。 また、各菌株の生細胞懸濁液中の細胞数は以下のとおりである。 E. coli: Escherichia coli DH5α (7.91 ± 0.20 log10 cells/ml) S. enteritidis: Salmonella enteritidis IIP 604 (8.07± 0.02 log10 cells/ml) K. oxytoca : Klebsiella oxytoca JCM1665 (8.38 ± 0.08 log10 cells/ml) C. koseri: Citrobacter koseri JCM1658 (8.02 ± 0.06 log10 cells/ml) E. sakazakii: Enterobacter sakazakii ATCC 51329 (7.95 ± 0.01 log10 cells/ml) S. fonticola: Serratia fonticola JCM1242 (7.47 ± 0.01 log10 cells/ml) B. aquilia: Budvicia aquilia JCM3902 (6.98 ± 1.50 log10 cells/ml) R. aquatilis: Rahnella aquatilis NBRC13544 (7.38 ± 0.14 log10 cells/ml) E. americana: Ewingella americana JCM4911 (7.47 ± 0.43 log10 cells/ml) H. alvei: Hafnia alvei JCM1666 (8.04 ± 0.22 log10 cells/ml) L. adecarboxylata: Leclericia adecarboxylata JCM1667 (7.46 ± 0.20 log10 cells/ml) M. wisconsensis: Moellerella wisconsensis JCM5894 (7.85 ± 0.34 log10 cells/ml) Y. regensburgei: Yokenella regensburgei JCM2403 (8.03 ± 0.13 log10 cells/ml) P. agglomerans: Pantoea agglomerans JCM1236 (7.67 ± 0.78 log10 cells/ml) B. agrestis: Buttiauxella agrestis JCM1090 (7.76 ± 0.00 log10 cells/ml) K. ascorbata: Kluyvera ascorbata JCM2107 (7.80 ± 0.02 log10 cells/ml) C. davisae: Cedecea davisae JCM1685 (7.56 ± 0.10 log10 cells/ml)。 表2中、a)〜f)の記号は以下のとおりである。a) 各大腸菌群/腸内細菌科の生細胞数を意味し、各カラムの数値はリアルタイムPCRのCt値を意味する。b) 沸騰水に50秒浸漬し損傷菌を調製したことを意味する。c) EMA未処理を意味する。d) EMA 終濃度10 μg/mlを意味する。e) Ct値はmean ± SD(n=2)として表示した。f) 2回PCR測定を行い、2回とも対象遺伝子が増幅されなかったことを意味する。 表2の結果から、生細胞のEMA未処理群については、Ct値(リアルタイムPCRカーブの立ち上がりのサイクル数)が13〜22であり、生細胞のEMA処理群については、Ct値16〜24であった。また、損傷細胞のEMA未処理群については、Ct値15〜22であり、いずれも良好なPCR増幅結果が得られた。しかし、損傷細胞のEMA処理群について、全ての大腸菌群及び腸内細菌科において、ターゲット遺伝子の増幅は行われなかった。 さらに、図1に示されるとおり、電気泳動の結果から、いずれの大腸菌群及び腸内細菌科においても、損傷細胞のEMA処理群のみが、PCR増幅産物陽性を示すバンドを検出することができなかった。 以上の結果から、本発明の方法により実施することにより、大腸菌群16属、及び腸内細菌科1属について、生細胞と損傷細胞、および生細胞と死細胞をそれぞれ識別することが可能であることが明らかとなった。また、従来検出が困難であった菌種、例えばエシェリヒア属細菌やサルモネラ属細菌においても、生細胞と損傷細胞の識別が可能となった。〔実施例3〕 牛乳等の食品に接種した大腸菌群(Coliform bacteria)及び腸内細菌科の生細胞と死細胞との識別を行った。1.試験材料及び試験方法1−1)使用菌株及び培養方法 Kluyvera ascorbata/JCM2107、Cedecea davisae/JCM1685、Citrobacter koseri/JCM1658、Klebsiella pneumoniae(クレブシエラ・ニューモニアエ)/NRBC3321、Serratia fonticola/JCM1242、Yokenella regensburgei/JCM2403、Rahnella aquatilis/NBRC13544、Hafnia alvei/JCM1666、Leclercia adecarboxylata/JCM1667、Pantoea agglomerans/JCM1236、Enterobacter sakazakii/ATCC51329、E. coli DH5α、Salmonella enteritidis/IID604の腸内細菌科1属、大腸菌群12属について、Brain Heart Infusion Broth(BHIブロス:Eiken Chemical Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いて、37℃、16時間培養を行った。 培養を行った後の各培養液5mlを、15ml falcon tube(Becton Dickinson Labware, NJ)に分取し、4℃、3,000×G、10分間の冷却遠心処理を行い、上清を除去した後、沈殿物(ペレット)に5mlの生理食塩水を添加し、更に、生理食塩水により10倍希釈して、各菌種の生細胞懸濁液を調製した。 前記により作製した生細胞懸濁液を試験試料に用いて以下の試験に供した。 なお、生細胞懸濁液中の各大腸菌群及び腸内細菌科の細菌の生細胞数は、標準寒天培地によりカウントし、また、同時に分光光度計U-2800A(Hitachi, Japan)を用いて、波長600 nmによる濁度測定を実施し、生細胞数と濁度の関係を確認した。1−2)食品への菌懸濁液の接種と沈殿物の回収 市販の殺菌牛乳22.2ml(培養法により生細胞は検出されなかった)について、前記で調製した各種大腸菌群又は腸内細菌科の生細胞懸濁液を用いて、9〜25 cellsを殺菌牛乳に接種した。 なお、牛乳各22.2mlに対して1種類の大腸菌群又は腸内細菌科の細菌を入れる形態をとった。 更に、サンプルブランクとして生細胞懸濁液を添加しない牛乳22.2 mlを用意した(菌未接種)。 前記で調製した大腸菌群/腸内細菌科・生細胞接種牛乳、及び菌未接種牛乳について、37℃、3,000×G、5分間遠心処理し、上清の表面の脂肪層、及び中間層に存在する水層をデカンテーションにより除去し、沈殿物を回収した。 なお、回収した沈殿物(ペレット)には、大腸菌群/腸内細菌科・生細胞接種牛乳、及び菌未接種牛乳ともに、市販の牛乳にすでに存在すると推測される殺菌によって死滅した死細胞群(大腸菌群等を含むグラム陰性細菌又はグラム陽性細菌(≧6 log10 cells))が含まれている。 したがって、大腸菌群/腸内細菌科・生細胞接種牛乳から調製された沈殿物には、死細胞と生細胞が含まれているものと判断した。1−3)酵素処理 前記で調製した大腸菌群/腸内細菌科・生細胞接種牛乳から調製された沈殿物(試験試料)に、予め37℃に保温したBrain Heart Infusion(BHI)ブロスを10ml添加して懸濁し、これに、プロテイナーゼK溶液(シグマ社製:EC. 3. 4. 21. 64、1250 U/ml相当)を生理食塩水により50倍希釈(25 U/ml)した希釈酵素溶液を25μl添加し、37℃で3時間酵素処理を行った。 酵素処理を行った試験試料は、37℃、3,000×G、5分間遠心処理し、上清を除去して再び沈殿物を回収した。1−4)エチジウムモノアザイド(EMA)処理・光照射処理 前記酵素処理後の沈殿物に生理食塩水を1ml添加して攪拌した後、実施例2と同様にして調製したEMA溶液(1000μg/ml)を10μl添加し、遮光下で4℃、10分間放置した。 その後、実施例2と同様にして、可視光照射及び洗浄処理を行い、沈殿物に滅菌水5μlを入れてPCR増幅用試料とした。1−5)PCR増幅 実施例2と同様に、PCR増幅用試料5 μlに前処理剤を添加した。 PCR増幅には、Primer F:16S rRNA遺伝子検出用フォワードプライマー 16S_1234F(5'-CTACAATGGCGCATACAAAGAGAAG-3':配列番号3)、Primer R:23S rRNA遺伝子 検出用リバースプライマー 23S_1703R(5'-CCTTCTCCCGAAGTTACGGCACCAT-3':配列番号4)をPCRプライマーとして使用した。 更に、リアルタイムPCR後の増幅産物の融解解析において、温度に対する蛍光物質の変化量(一次微分ピーク)を最大にして高感度検出を行うために、以下のa)〜g)の組成からなるPCRバッファーを調製し、このPCRバッファー41.5 μlを、前記PCR増幅用試料及び前処理剤の混合液に加えてPCR増幅を行った。 前記PCRプライマーは、16S rRNA遺伝子の1234〜1258位、tRNA遺伝子(76 bp)、及び23S rRNA遺伝子の1〜1703位までを含み、かつスペーサー領域(約 364 bp)を含むlong DNA(約 2450 bp)をターゲットとしている。a)Primer F(10 pmol/μl):4μlb)Primer R(10 pmol/μl):4μlc)Ex-Taq(5U/μl:Takara-Bio):0.5μl (Tween 20 0.5%、Nonidet P-40 0.5%、グリセロール 50%を含む)d)10×Ex-Taq Buffer(Takara-Bio社製):5μle)dNTP mixture(Takara-Bio社製):4μlf)10×SYBR Green I(BMA社製):8μlg)滅菌水:16μl リアルタイムPCR装置(I cycler iQ, Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを実施した。1)95℃、3 分(1 サイクル)2)95℃、30 秒;60℃、40 秒;68℃、3 分(40 サイクル)3)95℃、3 分(1 サイクル) その後、PCR増幅産物の融解解析(60℃から0.1℃間隔で温度を上昇させ、各温度で8秒間保持し、それを合計350回繰り返して、95℃を終了温度とした)のプロトコールに従い、PCR増幅産物の融解温度を測定した。 陽性コントロールとして、エンテロバクター サカザキ菌の生細胞懸濁液(8 log10 cells/m)を使用して、同様にPCR増幅を行った。さらに、ブランクサンプルとして、試験試料を加えずに、そのままPCRバッファーを用いてPCR増幅を行った。1−6)ゲル電気泳動 0.5×TAEを用いて0.8%アガロースゲル(Seakem GTG agarose:FCM BioProducts, Rockland, Me)を調製した。 5〜10μlのPCR増幅産物を前記アガロースゲルにアプライし、電気泳動を行った。 SYBR Gold nucleic acid gel stain(インビトロジェン、Eugene、Oregon、USA)を0.5×TAE により10,000倍希釈した溶液に、電気泳動後のアガロースゲルを15分間浸漬し、染色後、そのゲルをデンシトグラフで観察し、その画像をAE-6905H Image Saver HR (Atto Co., Japan)を用いて取り込み保管した。2.結果 リアルタイムPCRを行った結果を表3に示す。また、PCR最終増幅産物の電気泳動の結果を図2に示す。 図2中、記号の意味は以下のとおりである。 KP: K. pneumoniae CK: C. koseri EC: E. coli. SE: S. enteritidis KA: K. ascorbata CD: C. davisae SF: S. fonticola YR: Y. regensburgei RA: R. aquatilis HA: H. alvei LA: L. adecarboxylata PA: P. agglomerans ES: E. sakazakii ミルク: 大腸菌群未接種・市販殺菌牛乳 陽性: 陽性コントロール(エンテロバクター サカザキ菌:8 log10 CFU/mlの5μlをPCRの鋳型として使用) 陰性: 陰性コントロール (滅菌水5μlをPCR鋳型として使用) L: 100 bp DNA ラダー。 表3中、a)〜c)の記号は以下のとおりである。a) 大腸菌群の生菌数を意味し、測定はn = 2〜8で行われた。b) リアルタイムPCRによる増幅産物の融解解析(TMパターン)による全測定回数に対する陽性回数。c) PCR増幅産物の電気泳動/ゲル染色(SYBR Gold)法による全測定回数に対する陽性回数。 表3の結果から、殺菌牛乳22.2 mlに各種大腸菌群(生細胞)を9〜25細胞(cells)接種し、その後、遠心処理を行い、BHIブロス中でプロテイナーゼK処理、及びインキュベーション(生きた大腸菌群の増菌工程)した後の各サンプル中には、大腸菌群(生細胞)数は90〜2,900 cellsに増加していることが判明した。 また、PCR増幅産物の融解解析及びPCR増幅産物の電気泳動を行った結果、13菌種全てにおいて生細胞を検出することが可能となった。なお、大腸菌(生細胞)未接種牛乳に関しては、融解解析及び電気泳動いずれのケースにおいてもPCR反応は陰性を呈した。 以上の結果から、本発明の方法により、牛乳等の食品に接種した大腸菌群(Coliform bacteria)及び腸内細菌科の生細胞と、死細胞とを識別(生細胞の検出)して検出することが可能であることが明らかとなったことから、牛乳等の食品に生細胞と死細胞の識別が困難であった様々な細胞(菌種、ウイルス等)にまで、幅広い適用と高感度検出が可能となった。〔対照例1〕従来法による生細胞の検出 EMA処理後、DNA抽出により精製したDNAを鋳型とし、16S rRNA (long DNA)をターゲットにしたEMA-PCR法による高濃度大腸菌群損傷細胞(腸内細菌科も含む)の検出を行った。1.試験材料及び試験方法1−1)使用菌株及び培養方法 本試験の方法は、特許第4217797号(国際公開第2002/052034号パンフレット)の方法に基づいて行った。 Escherichia coli DH5α、Salmonella enteritidis IID604、Klebsiella oxytoca JCM1665、及びCitrobacter koseri JCM1658をブレイン・ハート・インヒュージョン(BHI)ブロス(Eiken、Tokyo)を用いて37℃で培養した。 対数増殖期の培養液から一定分量の10mlを採取し、4℃、15分間、8,000×Gにより冷却遠心処理した。上清を除去後10mlの生理食塩水をペレットに加えて再懸濁させ、同様の洗浄操作を行った後、10mlの生理食塩水を加えて生細胞懸濁液として使用した。生細胞数測定はL寒天平板培地により実施した。 1.5mlマイクロチューブに1mlの生細胞懸濁液を入れ50秒間沸騰水に浸積することにより損傷細胞を調製した(損傷細胞懸濁液)。本処理により得られた損傷細胞は、標準寒天培地でコロニーは形成しなかった。1−2)細菌へのEMA処理・光照射処理 滅菌水によりEMA(Sigma:St. Louis, Mo, USA)を1,000μg/mlで溶解し、0.20μmのフィルター(Minisart-plus; Sartorius AG, Gottingen, Germany)により無菌ろ過した。 大腸菌E. coli DH5α(7.91 ± 0.20 log10 cells/ml)の生細胞及び損傷細胞の各懸濁液1mlに10μlのEMA溶液(1000μg/ml)を添加し、遮光下4℃、10分間放置した。 その後、氷上にて可視光源(100V PRF 500W Flood eye, Iwasaki Electric Co., Ltd., Tokyo, Japan)から20cm離し、5分間照射した。 EMA処理サンプルを4℃、15,000×G、10分間の冷却遠心処理を行い、上清を除去後に1mlの生理食塩水により同様の洗浄操作を施した。 Salmonella enteritidis IID604(8.47 ± 0.02 log10 cells/ml)、Klebsiella oxytoca JCM1665(8.38 ± 0.08 log10 cells/ml)、及びCitrobacter koseri JCM1658(8.02 ± 0.06 log10 cells/ml)の生細胞及び損傷細胞の各懸濁液についても、大腸菌E. coli DH5αと同様のEMA処理を行った。1−3)大腸菌群(腸内細菌科も含む)からのDNA抽出 EMA処理後の各懸濁液の上清を除去した後、沈殿物(菌体)に10mM Tris-HCl(pH 8.0)を0.5ml添加し、10μlプロテアーゼK溶液(Sigma:1,250 U/ml相当)を添加し、200μlの10% (w/v) SDS溶液を添加して、50℃で、一晩インキュベーションした。 その後、フェノール/クロロホルム抽出、エタノール沈殿法(EP)によりDNA抽出を行った。 抽出精製したDNAに150μlの滅菌水を加え、その濃度をUV 260 nmの吸光度(OD260)により評価した。また、純度をOD260/OD280により評価した。1−4)リアルタイムPCR Primer F:16S rRNA遺伝子検出用フォワードプライマー16S_10F (配列番号1)、Primer R:16S rRNA遺伝子検出用リバースプライマー16S_1500R(配列番号2)を用いて、下記の組成に示されるPCRバッファーを調製した。a)Ex-Taq(5U/μl; Takara-Bio):0.5μlb)10×Ex-Taq Buffer (Takara-Bio):5μlc)dNTP mixture (Takara-Bio):4μld)Primer F (10 pmol/μl):4μle)Primer R (10 pmol/μl):4μlf)SYBR Green I(2×)(BMA社製):10μlg)滅菌水:22.5μl 上記50μl PCRバッファーに、鋳型DNAを150ng(相当)を添加し、リアルタイムPCR装置(I cycler iQ, Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、以下のPCRサーマルサイクル条件によりリアルタイムPCRを実施した。1)4℃、3 分(1 サイクル)2)94℃、30 秒(1 サイクル)3)94℃、20 秒;55℃、30 秒;72℃、90 秒(50 サイクル)4)95℃、3 分(1 サイクル) その後、PCR増幅産物の融解解析(60℃から0.1℃間隔で温度を上昇させ、各温度で8秒間保持し、それを合計350回繰り返して、95℃を終了温度とした)のプロトコールに従い、PCR増幅産物の融解温度を測定した。1−5)ゲル電気泳動 0.5×TAEを用いて2%アガロースゲル(2% Seakem GTG agarose:FCM BioProducts, Rockland, Me)を調製した。 10μlのPCR増幅産物をアガロースゲルにアプライし、電気泳動を行った。 1μg/mlのエチジウムブロマイド溶液で染色後、そのゲルをデンシトグラフで観察し、その画像をAE-6905H Image Saver HR(Atto Co., Japan)を用いて取り込み保管した。2.結果 リアルタイムPCRを行って得られたCt値(増幅曲線が境界値を超えるPCRサイクル数)を表4に示す。また、電気泳動の結果を図3に示す。 図3中、記号の意味は以下のとおりである。 クレブシェラ菌: K. oxytoca JCM1665 (8.38 ± 0.08 log10 cells/ml) シトロバクター菌: C. koseri JCM1658 (8.02 ± 0.06 log10 cells/ml) 大腸菌: E. coli DH5α (7.91 ± 0.20 log10 cells/ml) サルモネラ菌: S. enteritidis IIP 604 (8.47± 0.02 log10 cells/ml) EMA + : EMA (遮光下10 μg/ml、10 分、4 ℃) + 可視光照射(5 分)。 EMA - : EMA未処理。 NC: DNA鋳型の代わりに滅菌水を用いた陰性コントロール。 M: 100 bp DNAラダー。 損傷菌; 生菌けん濁液を沸騰水に50秒浸漬した。 表4中、a)〜f)の記号は以下のとおりである。a) クレブシェラ菌、シトロバクター菌、大腸菌、及びサルモネラ菌の生菌を意味し、各カラムの数値はリアルタイムPCRのCt値を意味する。b) 沸騰水に50秒浸漬し損傷菌を調製したことを意味する。c) EMA未処理を意味する。d) EMA 終濃度10 μg/mlを意味する。e) Ct値はmean ± SD (n = 2)として表示した。f) n.d. はPCR増幅反応が進行しなかったことを意味し、Ct値が観測できなかったことを意味する。 表4によれば、E. coli及びS. enteritidisの生細胞は、EMA処理を行ったことによるリアルタイムPCRのCt値に有意な変化は見られなかった。また、損傷細胞の場合EMA処理により未処理と比較して、Ct値がE. coliで18程度の高い値を示し、及びS. enteritidisで14程度の高い値を示し、PCR増幅を抑制している傾向は見受けられたが、PCRは陽性反応(Ct値40±1.4、及び34±1.1)を呈した。 PCR最終増幅産物による、生細胞及び損傷細胞の識別結果(図3)から、E. coli DH5α、及びS. enteritidis IID604については、損傷細胞のEMA処理後サンプルにおいても対象遺伝子のバンドが得られ、生細胞と損傷細胞の識別は十分に確認することが出来なかった。 一方、クレブシェラ菌及びシトロバクター菌については、生細胞に対してEMA処理を施した場合、Ct値は有意に上昇する現象は見受けられなかったが、損傷細胞にEMA処理を施すと、PCR増幅反応は完全に抑制されて、Ct値は測定できず、生細胞と損傷細胞の識別が可能であった。〔実施例4〕 エンテロバクター・サカザキ菌の細胞が前処理剤存在下50回のPCRサーマルサイクルローテーションにより、どの程度溶解(Lysis)しているか調べた。1.試験方法 108 cells/mlのエンテロバクター・サカザキATCC51329株(ES)の菌体を、生理食塩水、又は表5に示される前処理剤溶液(以下、「DB (direct buffer)」と記載することがある。)に懸濁させ、それぞれけん濁液を調製(0.25 mL)した。各懸濁液とも、25 μlずつに小分けして200 μl PCRチューブに移し、95℃ 15秒, 60℃ 20 s, 72℃ 30秒のPCRサーマルサイクルローテーション工程(50回)を経た後、再びひとまとめにし(合計0.25 ml)、PCR増幅用試料とした。上記0.25 mlから2.5 μlを採取し、表5記載の前処理剤溶液12.25μl(但し滅菌水を2.7 μlに変更)に加え、そこに以下に示すPCRバッファー12.75 μlを加えてPCR を行った(表6の懸濁液懸濁液Iに相当)。プライマーには、ompA_F: ompA遺伝子検出用フォワードプライマー(5'-ggatttaaccgtgaacttttcc-3';配列番号7)、ompA_R: ompA遺伝子検出用リバースプライマー(5'-cgccagcgatgttagaaga-3';配列番号8)を用いた。PCRバッファー組成:a) ompA_F (10 pmol/μl): 2 μlb) ompA_R (10 pmol/μl): 2 μlc) Ex-Taq (5U/μl: Takara-Bio): 0.25 μl (Tween 20 0.5%、Nonidet P-40 0.5%、グリセロール 50%を含む)d) 10 × Ex-Taq Buffer (Takara-Bio社製): 2.5 μle) dNTP mixture (Takara-Bio社製): 2 μlf) 10 × SYBR Green I (BMA社製): 4 μl その後、残り247.5 μl(0.25 mlから2.5 μlを減じたPCR増幅用試料)のPCR増幅用試料を冷却遠心処理(10,000×g, 5分, 4℃)し、上清の2.5 μlに前処理剤溶液 12.25μl、及びPCRバッファー 12.75 μlを加えPCRを行った(上清I)。次に、前記遠心後のペレットに生理食塩水又は表5の前処理剤溶液 0.25 mlを加えて、各けん濁液を作製し、各々2.5 μlに前処理剤溶液 12.25 μl、及びPCRバッファー 12.75 μlを加えPCRを行った(懸濁液懸濁液II)。前記懸濁液の残りを前記と同様に冷却遠心処理を行い、上清2.5 μlに表5の前処理剤溶液 12.25 μl、及びPCRバッファー 12.75 μlを加えPCRを行った(上清II)。以後、同様の操作を繰り返し、懸濁液IV及び上清IVまで調製し、各々PCRを実施した。 リアルタイムPCR装置(I cycler iQ, Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを実施した。1) 4 ℃、3分(1サイクル)2) 95 ℃、 15 秒;60℃ 20 秒;72℃ 30 秒(50サイクル)3) 95 ℃、3分(1サイクル) その後、PCR増幅産物の融解解析(60 ℃から0.1 ℃間隔で温度を上昇させ、各温度で8秒間保持し、それを合計350回繰り返して95 ℃を終了温度とした)のプロトコールに従い、PCR増幅産物の融解温度を測定した。2.結果 リアルタイムPCR増幅による各Ct値の結果を表6に示す。表中の「非加熱」はPCRサーマルサイクルによるヒート処理(95 ℃、60 ℃、72 ℃によるサーマルサイクルローテーション50回)を施さなかった群であり、サーマクサイクル加熱はそのサーマルサイクルローテーションを50回施した群である。なお、a)で示される懸濁液IVにおけるエンテロバクター・サカザキ菌の生菌数は標準寒天培地平板により測定した結果、107.6 cells/ml であり、また、b)で示される上清Iにおけるエンテロバクター・サカザキ菌の生菌数は同様の方法により、105.7 cells/ml であった。 本試験の基本的性質として、懸濁液IV及び上清Iの生菌数の測定結果から、エンテロバクター・サカザキ菌生理食塩水けん濁液を冷却遠心処理した上清中にも生菌が1%の割合で混入していることが示された。E. sakazakii(生理食塩水中)の非加熱群に関して、懸濁液I又はIIと上清IのCt値の比較において、懸濁液群のCtが5前後小さいのは主として生菌が有意に沈渣(ペレット)に回収されると共に、上清にも極めて少量が回収されているからであると考えられる。すなわち、このような現象は、生菌が特定の割合で沈渣と上清に分配されていることを意味するものである。 E. sakazakii(生理食塩水中)のサーマルサイクル加熱群は、エンテロバクター・サカザキ菌の生菌の生理食塩水けん濁液にPCRサーマルサイクルローテーション50回を施した後、上清及びペレットをPCR増幅反応に供した試験結果を意味するものであるが、PCRサーマルサイクルローテーション中に細菌細胞が溶解して染色体DNAが主として細胞外に流出していれば、懸濁液II〜IVにおいてCt値は基本的に測定不能となるはずであるが、Ct値は全て20未満であり良好なPCR反応が行われている。エンテロバクター・サカザキ菌が生理食塩水中でPCRサーマルサイクルローテーション50回を経た場合、どの程度菌が溶菌していたかは以後の実施例で検討することにした。 次に、エンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤存在下における「非加熱」においては、冷却遠心処理によりエンテロバクター・サカザキ菌が上清に流出する割合が0.1〜0.2%と生理食塩水の時と比較して10倍程度抑制され、ペレットとしての回収効率が格段に向上している。仮に、前処理剤溶液中にエンテロバクター・サカザキ菌を放置するだけで細菌細胞が溶解を起こすようであれば、懸濁液IからIVとステップを経るにつれCt値は有意に上昇し、完全溶解したなら染色体DNAは冷却遠心処理後に上清に回収されるので、懸濁液のCt値は測定不能となるはずであるが、表6の結果はそれを支持していない。 エンテロバクター・サカザキ菌を前処理剤溶液中でPCRサーマルサイクルローテーション50回を施したケースに関して特筆すべきことは、懸濁液IのCt値は上清IのCt値よりも8以上小さいこと、更に懸濁液IIのCt値は上清IのCt値よりも同様に8以上小さいこと、更にはペレットの洗浄回収を重ねても懸濁液III及びIVのCt値は上昇しないことが挙げられる。仮にエンテロバクター・サカザキ菌が前処理剤溶液中でPCRサーマルサイクルローテーション中に完全溶菌して染色体DNAが外部溶液に完全に流出していれば、懸濁液Iと上清IのCt値はほぼ同じ値を呈するはずであり、その後ペレットを洗浄すればするほど懸濁液のCt値は有意に上昇するか測定不能となるはずである。しかし表6の結果はそれを支持していない。それどころか、懸濁液IのCt値は上清IのCt値より8以上小さく、上清に溶出している染色体DNAの割合は最大でも0.1〜0.5%前後とも推察され(上清IのCt値の由来はサーマルサイクルローテーションにより比重の小さくなったエンテロバクター・サカザキ菌の細胞が極一部上清に回収されている可能性がある)、懸濁液IのCt値の由来は99%以上サカザキ菌細胞内のDNAと推察される。すなわち、エンテロバクター・サカザキ菌の細胞は前処理剤存在下で50回のPCRサーマルサイクルローテーションを受けても、99%以上溶菌していないことが示唆された。 次に、表6の E. sakazakii(DB中)群の「非加熱」の懸濁液Iと上清IのCt値は、「サーマルサイクル加熱」のそれぞれよりも有意に低い。仮に、エンテロバクター・サカザキ菌の細胞が前処理剤存在下50回のPCRサーマルサイクルローテーションにより大部分が溶解し、染色体DNAが溶液側に移行したとすると、サーマルサイクル加熱群の懸濁液Iと上清IのCt値は同等であるはずである。また、懸濁液IIにおいては、エンテロバクター・サカザキ菌は染色体の無い状態なのでCt値は測定不能に接近するはずであるが、表6の結果はそれを支持していない。さらに、上記懸濁液Iと上清Iに関して「非加熱」が「サーマルサイクル加熱」よりも有意に低いCt値になったのは、前処理剤には卵白リゾチームや牛血清アルブミンなどタンパク質を含んでいるので、50回のPCRサーマルサイクルローテーションにより変性したためという仮説を立て、表7に示される実験を追加した。具体的な実験手法を下記に示す。 表5に示される組成の前処理剤溶液25 μlを10本準備し、50回のPCRサーマルサイクルローテーションを施した後10本を混合し、サーマルサイクル加熱を施した前処理剤溶液250 μlを調製した。次に、一夜前培養した培養液50 μl から得られたエンテロバクター・サカザキATCC51329株生菌ペレット(洗浄済)を生理食塩水、前処理剤、又はサーマルサイクル加熱を施した前処理剤溶液に106〜109 cells/mlの濃度で加えて懸濁させた(各 50 μl調製)。各懸濁液2.5 μlを表5記載の前処理剤溶液12.25 μl(但し滅菌水を2.7 μlに変更)に加え、更にPCRバッファー12.75 μlを加えてPCR を行った(2回測定)。その結果を表7に示す。 サーマルサイクル加熱を施した前処理剤溶液にけん濁したエンテロバクター・サカザキ菌の生菌のCt値が、生理食塩水やサーマルサイクルローテーションを施していない前処理剤溶液を用いたときのCt値と比較して有意に高い値とは考えられず、少なくとも表6の「サーマルサイクル加熱」の懸濁液Iと上清IのCt値の双方が非加熱群と比較して上昇したことの原因とはなり得ないことを確認した。これらの結果からは、エンテロバクター・サカザキ菌を前処理剤存在下で50回のPCRサーマルサイクルローテーションを施し、更に4 ℃冷却後室温に戻すことにより、その後冷却遠心し、ペレット側及び上清側に回収されたエンテロバクター・サカザキ菌の菌体内の染色体DNAは、変性DNA結合性タンパク質や変性酵素と複雑に絡まりPCRの鋳型として当初機能していなかったのではないかと考察される。仮に、上清IのCt値の由来が、エンテロバクター・サカザキ菌が前処理剤存在下50回のPCRサーマルサイクルローテーションにより1%未満溶解したことにあったとしても、PCR開始当初はDNAが前記の理由により94 ℃によるPCRサーマルサイクル処理過程において、完全に一本鎖に解裂していなかったと考えられる。〔実施例5〕 エンテロバクター・サカザキ菌の細胞が前処理剤存在下50回のPCRサーマルサイクルローテーションにより溶解(Lysis)しているのかどうかを、PCRサーマルサイクルローテーション前後のサンプルを用い、核染色剤使用による蛍光顕微鏡観察・実体顕微鏡観察、更にはPCRサーマルサイクルローテーション後の残存細胞数の定量を可能にするフローサイトメトリー法を用いて評価した。A.蛍光顕微鏡観察・実体顕微鏡観察1.実験方法 実施例4の方法と同様に、109 cells/mlのエンテロバクター・サカザキATCC51329株(ES)の菌体を、生理食塩水、又は表5に示される前処理剤溶液に懸濁させ、各々けん濁液を調製(0.25 ml)した。各懸濁液とも、25 μlに小分けして200 μl PCRチューブに移し、(95℃ 15 s, 60℃ 20 s, 72℃ 30 s)のPCRサーマルサイクルローテーション工程(50回)を経た後、再び一まとめにした(合計0.25 ml)。それらを半分ずつに分け、一方はそのまま、他方は冷却遠心処理(3000 × g、10 min、4℃)を施し、上清を採取した。それぞれの過程を経た上記0.125 mlにSYTO9を1.5 μl/ mlの割合で添加し、遮光下4 ℃にて15分保持後、各2.5 μlをスライドガラスに載せた後、カバーガラスを掛け、蛍光/実体顕微鏡AxiosKop2 motplus(レンズ: Plan-NEOFLUAR 100×/1.30 oil ∞/0.17; 光源: KublercoDIX ebq 100 isolated; ソフトウェア: AxioVision Rel. 4.6.3; フィルター: FITC and DIC3; 露出時間: FITC 347 ms fixed, DIC3 20 ms fixed; LEJ Leistungs elektronik Jena GmbH, Germany)にセットし、アルゴンレーザー光488 nmを励起光として、530 nmの緑の蛍光が細菌細胞から発せられるかを観察した。2.結果 非加熱、又は50回PCRサーマルサイクル工程後のエンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液、及びその冷却遠心上清、並びに、非加熱、又は50回PCRサーマルサイクル工程後のエンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤溶液けん濁液、及びその冷却遠心上清の蛍光顕微鏡による観察像を、それぞれ図4〜11に示す。すなわち各蛍光顕微鏡観察像が表6のWashing step Iの懸濁液I〜上清Iに相当するよう実験を設定した。尚、これらの図には、実体顕微鏡像、及び実態顕微鏡像と蛍光顕微鏡像の重ね合わせ像も示した。 サーマルサイクル工程の有無に拘わらず、エンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液の遠心上清にもエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞が見い出され、表6のPCRの結果とも相関した。図4と図6に示されるように、エンテロバクター・サカザキ菌の細胞は生理食塩水中で50回PCRサーマルサイクルローテーションを受けても大部分は細菌形態を維持し(実体顕微鏡像及び蛍光顕微鏡像)、SYTO9染色像も明瞭なことから、細胞内に染色体DNAを保持していると考えられた。図6の実体顕微鏡像に細胞壁断片が見当たらないことから、表6のエンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液のサーマルサイクル加熱の懸濁液Iと上清IのCt値間の相違が少ないのは、主としてエンテロバクター・サカザキ菌の溶解によるDNAの水相への流出によるものではなく、50回PCRサーマルサイクルローテーションを受けてエンテロバクター・サカザキ菌の比重が軽くなり上清にエンテロバクター・サカザキ菌が回収される割合が上昇している可能性が示唆された(後述の図12に示すフローサイトメトリーの定量結果からも示唆される)。 次に、図8及び10に示されるように、エンテロバクター・サカザキ菌細胞は、前処理剤存在下50回PCRサーマルサイクルローテーションを受けても、生理食塩水中と同様に細胞自身の溶解(Lysis)は見受けられず、エンテロバクター・サカザキ菌細胞内に染色体DNAを保持していると考えられる。但し、生理食塩水の時と大きく異なる現象として、エンテロバクター・サカザキ菌を前処理剤存在下50回のPCRサーマルサイクルローテーションを施すと、凝集する現象が観察されたが、細菌細胞の溶解現象は見当たらなかった。B.フローサイトメトリー1.実験方法 次に、フローサイトメトリーによる実験方法を示す。まず実施例4の方法と同様に、109 cells/mlのエンテロバクター・サカザキATCC51329株(ES)の菌体を、生理食塩水、又は表5に示される前処理剤溶液に懸濁させ、けん濁液を調製(0.25 ml)した。各懸濁液とも、25 μlに小分けして200 μl PCRチューブに移し、(95℃ 15 s, 60℃ 20 s, 72℃ 30 s)のPCRサーマルサイクルローテーション工程(50回)を経た後、再び一まとめにした(合計0.25 ml)。各サンプルに共通してけん濁液及びその上清のそれぞれをフローサイトメトリー測定に使用するので、それぞれ0.25 ml×3本を用意した。具体的には、1本目はそのままとし、2本目は冷却遠心処理(3000 × g、10 min、4℃)後上清を除去し、沈殿に0.25 mlの生理食塩水を加えてけん濁させたもの、3本目は同様の冷却遠心処理を施し、上清を回収したものを調製した。それぞれに対してSYTO9を1.5 μl/mlの濃度で添加し遮光下4 ℃で15分保存し、フローサイトメトリー試験用サンプルとした。 測定装置はFACS Calibur(BECTON DICKINSON)、及び488 nmのアリゴンレーザーを用い、FSC(前方散乱光測定)及びSSC(側方散乱光測定)により細菌細胞プロットを認識した。仮に細胞内の染色体DNAにSYTO9がインターカレートしていれば、同レーザーにより励起を行うと530 nmをλmaxとするFL1フィルターにより緑の蛍光を検出できるので、そのFL1プロットも実施した。特にヨウ化プロピジウム(PI)による核染色剤は用いなかったが、FL3フィルターによる赤の蛍光も参考として計測した。フローサイトメトリーの測定条件の詳細を表8に示す。2.結果 エンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液及びその上清(非加熱・PCRサーマルサイクルローテーション処理)の実験結果を図12に、同菌前処理剤溶液けん濁液(1回洗浄後の再けん濁液も含む)及びその上清(非加熱・PCRサーマルサイクルローテーション処理)の実験結果を図13に示す。エンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液に関して50回のPCRサーマルサイクルローテーションにより細胞の大部分が溶解(Lysis)していれば細分化されているので、FSC-SSC図の細菌ゲート領域(多角形で囲っている領域が、細菌がプロットされる領域)に入らなくなり、その後のSYTO9による緑の蛍光を意味するFL1(図ではFL1-H)陽性(+)領域(X軸の右半分領域)には何もプロットされなくなるか、もしくはプロットは激減するはずである。しかし図12のエンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液の非加熱及びPCRサーマルサイクルローテーションサンプルの結果はそれを支持していない。寧ろ単純数値比較でも、サーマルサイクル後も95%は細菌形態を維持し、且つ染色体DNAも保有していると推察される。元来、フローサイトメトリー測定そのものの複数回数による標準偏差を考慮すれば、その数値差は誤差範囲の可能性が極めて高く、50回のPCRサーマルサイクルローテーションによりエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞は100%近い割合で形態を維持し、且つ染色体DNAも保有しているとみなせる。 同様に、図13のエンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤溶液けん濁液(非加熱及びPCRサーマルサイクルローテーション)及び洗浄後再けん濁液(非加熱及びPCRサーマルサイクル)の結果から、エンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤存在下でエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞が溶解しているとは考えにくい。前処理剤存在下では、SYTO9染色が幾分阻害を受けることが図12と図13の比較から容易に類推可能である。従って、図13のエンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤けん濁液(非加熱及びサーマルサイクルローテーション・分散している菌体)のFL1-H (SYTO9)強度101〜103のプロットがエンテロバクター・サカザキ菌由来のプロットとみなすのが妥当である。その前提によれば、エンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤溶液けん濁液の非加熱・PCRサーマルサイクルデータからはエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞は溶解していないことは自明であるが、エンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤溶液けん濁液(洗浄後再けん濁液)の非加熱・PCRサーマルサイクルデータに関しては補足が必要である。その際、大前提として、エンテロバクター・サカザキ菌SYTO9染色プロットは、菌体を1回洗浄後、生理食塩水に再けん濁させているので、FL1-H(+)領域を以って評価すべきであり、その場合、一見、PCRサーマルサイクルによりFL1-H(+)プロット数が「分散している菌体」及び「凝集している菌体」の双方を合せても非加熱のそれには至らないが、そもそも「凝集しているエンテロバクター・サカザキ菌」は1プロットで図10から最低でも数個〜数十個のエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞が凝集している可能性が高いことを考え合せると、非加熱のそれと同等もしくはそれ以上と推測され、洗浄を行わない場合のデータと総合的に考えると、ほぼ100%エンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞は溶解していないものと考えられる。〔実施例6〕 エンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞数と、それに含まれる染色体DNA量と同量の精製染色体を用いたリアルタイムPCR測定1.実験方法 エンテロバクター・サカザキATCC29544及びATCC51329の一夜増菌培養液から、WO2007/094077記載のDNA抽出方法に従い、RNAのコンタミネーションがない精製DNAを得、その260 nm及び280 nmの吸光値(OD260、OD280: DNA溶液50 μg/mlにおいてOD260 = 1.0、セル長1 cm)を測定し、DNA濃度をOD260から算出し、精製DNAの純度をOD260/OD280により評価した。 さらに、前記一夜増菌培養液を洗浄後、滅菌水にて段階希釈し4×103〜4 ×108 cells/mlのエンテロバクター・サカザキ菌の生菌けん濁液を調製した。その後、前記懸濁液2.5 μlを、実施例4の方法に従い、表5記載の前処理剤溶液 12.25 μl(但し滅菌水を2.7 μlに変更)に加え、そこにompA遺伝子検出用PCRバッファー12.75 μlを加えて実施例4と同様のPCR を行った。各PCRチューブ当たり101〜106 cellsのエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞が含まれていた。エンテロバクター・サカザキ菌1細胞から得られる染色体DNA量は5 fg (5×10-15 g)と見なせるので、この値に従い各PCRチューブが含有している染色体DNA量を算出し、同量の前記精製DNA(2.5 μl)を各PCRチューブに入れ、以下同様に前処理剤溶液及びPCRバッファーを順次加えPCRを行った。2.結果 DNA精製度を表9、リアルタイムPCR結果を表10に示す。表9の結果よりOD260/OD280の値が2.0付近なのでRNAのコンタミネーションの少ない高純度DNAをエンテロバクター・サカザキ菌の2菌株からそれぞれ調製できた。次に、表10の結果から、各エンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞数に対する同量の染色体DNA量のCt値間に有意差はなく、試験管内に溶解していた精製DNAが100% PCRの鋳型として機能しているなら、エンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞の染色体DNAもPCR鋳型として100%機能していることが判明した。 エンテロバクター・サカザキ菌の細胞を類似の前処理剤溶液または生理食塩水(又は滅菌水)にけん濁した後、実施例4に示すようなPCRバッファーを加えPCRを行う場合、従来の一般的常識では、エンテロバクター・サカザキ菌の細胞の一部が溶解し、染色体DNAが外部溶液に溶出しそれがPCRの鋳型となってPCR反応が生じているかのような錯覚が存在しているかと推察されるが、その仮説を本ケースに当てはめようとした場合、ほぼ100%のエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞が溶解していることが必要となり、その100%溶解現象は実施例4、及び、実施例5の実験結果より棄却されることは自明である。すなわち、実施例4については、表6のエンテロバクター・サカザキ菌の前処理剤存在下PCRサーマルサイクルローテーション50回実施後の懸濁液I及びIIと上清IのCt値比較により、ほぼ100%溶解なら上清IのCt値は懸濁液IIのCt値より有意に小さくなる必要がある上、同上清は懸濁液Iと同等のCt値になるはずであるが、表6はそれを支持していない。また、実施例5については、フローサイトメトリー測定結果である図13のPCRサーマルサイクルローテーション前後のエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞数の定量結果より、ほぼ100%溶解はあり得ない上、10%の溶解も可能性として低い。すなわち、一般的な科学的常識である「一部の細菌が溶解しそこから染色体DNAが外部溶液に溶出しPCRが行われている。」という仮説は、少なくとも本願における前処理剤存在下のPCR(50回)には当てはまらない。〔実施例7〕 実施例4〜6より、前処理剤存在下PCRバッファーによりPCR反応(50回)を行ってもエンテロバクター・サカザキ菌の細胞は大部分溶解せず、細胞内に染色体DNAを保有していることが分かった。その一方で、リアルタイムPCR反応後のPCR増幅産物のTMパターン解析(融解温度測定)により、ompA遺伝子産物と推察される温度ピークが得られリアルタイムPCR反応陽性と判別していた。しかしながら、PCR増幅反応物が細菌細胞内に存在しているのか、PCR反応用液中に存在しているのか、又は双方に存在しているのかは厳密に考えると定かではなく、常識的にはPCR反応用溶液にPCR増幅産物が主として溶解していると考えられるが、これとて解明されているわけではなく、更に本願記載の前処理剤存在下のPCR反応においては、尚更に解明されていない。前記実施例においては、前処理剤存在下のPCR反応が細菌細胞内で行われている可能性があることを示唆されるが、以降の実施例においては細菌細胞内にもPCR増幅産物が残留している可能性を示す。1.実験方法 エンテロバクター・サカザキATCC51329の一夜増菌培養液500 μl(9.3 ×108 cells/ml)を5本用意し、それらを冷却遠心処理(3000×g、10 min、4 ℃)し、上清を除去後、それぞれのペレットに対して一般的な細菌固定液A(4%パラホルムアルデヒド)の他、固定液B(メタノール/酢酸 = 3/1)、固定液C(Mildform 10N: 10%ホルマリン Neutral Buffer Solution Deodorized; 和光純薬工業、大阪)、又は、固定液D(Mildform 10NM: 10% ホルマリン Neutral Buffer-Methanol Solution Deodorized;和光純薬工業、大阪)の500 μlを加え、4 ℃一夜インキュベーションし、細菌細胞内染色体DNAと細胞壁構成蛋白質とをクロスリンクさせDNAを細胞内に予め固定させた。対照として、固定液の代りに生理食塩水500 μlを用いて、固定を行わない試料を作製した。 その後、500 μlの生理食塩水により3回洗浄し、最終的には250 μlの生理食塩水にけん濁させた。洗浄操作によるペレットとしての細菌の回収率は一般に80%と見なされているので、4回遠心していることを考慮すると、推定最終調製液中のエンテロバクター・サカザキ菌濃度は 7.6 × 108 cells/mlである。その250 μl生理食塩水けん濁液を更に10倍希釈した。この希釈液中の推定エンテロバクター・サカザキ菌濃度は7.6 × 107 cells/mlである。その2.5 μlをPCR増幅用試料とし、表5記載の前処理剤溶液 12.25 μl(但し滅菌水を2.7 μlに変更)に加え、そこに以下に示すグラム陰性細菌検出用PCRバッファー12.75 μlを加えた。各固定液で固定されたサンプルについて、それぞれ27.5 μl × 20本準備した。プライマーには、実施例3に記載した16S rRNA遺伝子検出用フォワードプライマー 16S_1234F(配列番号3)、及び、23S rRNA遺伝子 検出用リバースプライマー 23S_1703R(配列番号4)を使用した。PCRバッファー組成:a) 16S_1234F (10 pmol/μl): 2 μlb) 23S_1703R (10 pmol/μl): 2 μlc) Ex-Taq (5U/μl: Takara-Bio): 0.25 μl (Tween 20 0.5%、Nonidet P-40 0.5%、グリセロール 50%を含む)d) 10 × Ex-Taq Buffer (Takara-Bio社製): 2.5 μle) dNTP mixture (Takara-Bio社製): 2 μlf) 10 × SYBR Green I (BMA社製): 4 μl リアルタイムPCR装置(I cycler iQ, Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを実施した。1) 4 ℃、3分(1サイクル)2) 95 ℃、 15 秒;60℃ 20 秒;72℃ 3分(30サイクル)3) 95 ℃、3分(1サイクル) その後、PCR増幅産物の融解解析(60 ℃から0.1 ℃間隔で温度を上昇させ、各温度で8秒間保持し、それを合計350回繰り返して、95 ℃を終了温度とした)のプロトコールに従い、PCR増幅産物の融解温度を測定した。 PCRを終了した後、各固定液の20本のPCR反応用溶液を一纏めにした後、冷却遠心処理(3000 × g、10 min、4 ℃)を施し、上清は5 μlだけ採取し0.8%アガロースゲル電気泳動(SYBR Gold染色;以後ゲル染色法は全てSYBR Gold染色)を行い、残りの上清は捨て、ペレットに200 μlの生理食塩水を加えけん濁させた。懸濁液中の推定エンテロバクター・サカザキ菌の細菌数は1.5 × 107 cells/mlである。懸濁液にSYTO9を1.5 μl/mlの濃度で添加し、遮光下4 ℃、15分放置し、実施例5と同じ条件にてフローサイトメトリー測定を行った。対照として、PCRを30サイクル行わずに0サイクルの状態で、それ以外は全く同じ手順を行い対照サンプルとした。 更に、固定液A及びBに関しては、16S_1234Fや23S_1703Rの代わりに、実施例4に記載のompA_F(配列番号7)及びompA_Rプライマー(配列番号8)を用いて、実施例4のPCRサーマルサイクル条件を用い、それ以外は本実施例7に従い、PCR反応後の上清5 μlの電気泳動、及び、PCR反応後上清を除去したペレットの生理食塩水けん濁液に関してSYTO9によるフローサイトメトリー測定を実施した。2.結果 上記各固定液処理を経たPCR(16S-23S rRNA: 2450-bp)後の反応上清の電気泳動の結果を図14に、その反応溶液のリアルタイムPCRのCt値をその直下に示す。PCR反応後上清を除去し、ペレットを生理食塩水にけん濁し、SYTO9によるフローサイトメトリー測定を行った結果を表11に示す。同様にompA(469-bp)遺伝子をターゲットにしたPCR反応後の上清の電気泳動図を図15に示す。PCR反応後上清を除去し、ペレットを生理食塩水にけん濁し、SYTO9によるフローサイトメトリー測定を行った結果を表12に示す。図14から固定液BのPCR反応液上清には16S-23S遺伝子(2450-bp)産物量が他の固定液より有意に多く、非固定(図中、「S」)と同等のバンド強度であった。細菌の標準的固定法は固定液Aが一般的であり固定液C及び固定液Dも固定液Aに近い成分なので、エンテロバクター・サカザキ菌の細胞内の染色体DNAと細胞壁蛋白質とは強固にクロスリンクを形成していると推察される。図14の結果から固定液Bは非固定(S)と同等の機能しかないのかもしれないが、固定液Bは哺乳動物細胞染色体と細胞膜タンパクを強固にクロスリンクさせるので、細菌においても多少は固定機能を発揮していると考えるのが妥当である。 表11(表12も同様)のフローサイトメトリーの結果(Quadrant: 4分画中のLR、すなわち細菌のSYTO9+の数値を指標としたPCR反応前後のエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞数の比較)から、各固定液及び非固定(S)を用いて予め細菌細胞を固定し、すなわち細菌の染色体DNAを菌体内に留め置いた上で、前処理剤存在下PCRサーマルサイクルローテーションを30回繰り返しても、大部分の細菌細胞は溶解(Lysis)せず形態を保ち染色体は菌体内に保持されたことが示唆される。一方、PCR反応液上清にも標的遺伝子増幅産物の存在が電気泳動像(図14)より示唆されているが、図14のゲル直下のリアルタイムPCRのCt値は固定液Bと非固定(S)のみ観測され、それ以外の固定液からはリアルタイムPCRのCt値は観測されなかった。 これは、固定液A、C、及びDの場合、染色体と細胞壁の固定の度合いが高いため、一見、PCR反応工程の熱変性(95 ℃)が良好ではなく染色体DNAが一本鎖になれないため、その後プライマーによる染色体への接着が不良となったものと考えることも可能であるが、図15のompA遺伝子(469-bp)を標的とした同様の実験(30サイクル)結果を考慮すると、固定液AとBを用いた方法で双方ともリアルタイムPCRのCt値及びバンド強度で比較して有意差がないので、その仮説は否定される。 すなわち、図14の固定液A、C、及びDのPCR反応液上清に標的遺伝子増幅産物が少ないのは、PCR反応自体は細菌細胞内に保持された染色体を鋳型として良好に進行しているが、遺伝子産物が図15と比較して5倍程長く(2450-bp)、その結果、菌体内で増幅された遺伝子産物の外部溶液への流出が抑制されたためと考える。この仮説が正しければ、その2450-bpの遺伝子増幅産物はPCR反応後のエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞からも検出されるはずである。これは、実施例8において実証された。以上のとおり、細菌の染色体を細胞内に固定して外部溶液への染色体の流出を阻止した処理を予め施しておいても、前処理剤存在下ではPCRサーマルサイクルローテーションを50回繰り返しても、細菌細胞は100%近く細菌の形態を保持し、染色体も菌体内に保持されているにも拘わらず、PCR反応は進行しPCR増幅産物は外部溶液にも存在していることから、PCR反応は主として細菌細胞内で行われていると結論できる。尚、下記実施例8で示すように、上記条件下で、PCR産物は一部菌体内にも存在していた。〔実施例8〕 実施例4〜7では、前処理剤存在下PCRが細菌細胞内で行われている可能性が高いこと、すなわちIn-situ PCRが起きていた可能性を示唆してきた。In-situ PCR(例えば、Gerard J. et al., American Journal of Pathology, 139: 847-854, 1991.)は、ヒト免疫細胞を実施例7に示すような固定液で処理し、染色体DNAとヒト細胞膜たんぱく質とをクロスリンクさせ、蛋白質分解酵素で短時間処理し、又は、マイクロ波照射によりヒト免疫細胞の細胞膜処理をした上で、ヒト細胞内で、染色体DNAに組み込まれたHPV遺伝子のような遺伝子を検出・定量する手法である。 同手法は、PCR反応用溶液を、固定化させたヒト免疫細胞の上に載せ、ヒト免疫細胞内でPCR増幅反応を起こさせ、同時に500-bp程度のPCR産物でも細胞外に流出しない手法である。PCR産物が細胞外に流出しないため、PCR反応を5〜10サイクル未満の初期で停止すれば、細胞中の遺伝子の検出だけでなく、ある程度それが組み込まれた数まで推察可能な手法である。 本実施例においては、本願発明における前処理剤存在下でのPCRがIn-situ PCRであるとすれば、細菌細胞内にも一部増幅産物が残留する可能性があり、それを実証するため実験を行った。特に実施例7では、固定液Bに関してはエンテロバクター・サカザキ菌の染色体DNAは細胞壁蛋白質とクロスリンクしているであろうが、前処理剤存在下でのPCRの増幅産物が他の固定液と比較して外部溶液に流出している傾向が伺え、固定液を使用しない本願発明の手法(非固定(S)の手法)と同様の現象を呈している。 そこで、実施例7における固定液Bと非固定(S)に焦点を当て、PCR増幅産物が外部溶液に大量流出している状況でも細菌細胞内に一部PCR増幅産物が残留しているかどうかを検討した。1.実験方法 エンテロバクター・サカザキATCC51329の一夜増菌培養液(4.3 × 108 cells/ml)500 μlを2本用意し、それらを冷却遠心処理(3000 × g、10 min、4 ℃)し、上清を除去後、それぞれのペレットに対して固定液B(メタノール/酢酸 = 3/1)500 μlを加え、4 ℃一夜インキュベーションし、細菌細胞内染色体DNAと細胞壁構成蛋白質とをクロスリンクさせDNAを細胞内に予め固定させた。対照として、固定液 Bの代りに生理食塩水500 μlを用いて、固定を行わない試料を作製した。これ以降は実施例7と同様の方法により、最終的には10倍希釈して250 μlのエンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液を得た。懸濁液中の推定エンテロバクター・サカザキ菌濃度はおよそ3.5 × 107 cells/mlである。その2.5 μlをPCR増幅用試料とし、表5記載の前処理剤溶液 12.25 μl(但し滅菌水を2.7 μlに変更)に加え、そこに以下に示すグラム陰性細菌検出用PCRバッファー12.75 μlを加え、下記の条件によりPCRを行った。PCR反応の際には、固定液及び対照サンプル27.5 μl × 20本準備した。プライマーには、実施例3に記載した16S rRNA遺伝子検出用フォワードプライマー 16S_1234F(配列番号3)、及び、23S rRNA遺伝子 検出用リバースプライマー 23S_1703R(配列番号4)を使用した。 PCRを終了した後、各固定液の20本のPCR反応用液を一纏めにした後、冷却遠心処理(3000 × g、10 min、4 ℃)を施し、上清は5 μlだけ採取し0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、残りの上清は捨て、ペレットを500 μlの生理食塩水にて2回洗浄後、QuickGene SP kit DNA tissueを用いてDNAを抽出した。 別途、一夜増菌培養液(4.3 × 108 cells/ml)を500 μlを2本用意し、それらを冷却遠心処理(3000 × g、10 min、4 ℃)し、上清を除去後、それぞれのペレットに対して固定液B(メタノール/酢酸 = 3/1)500 μlを加え、4 ℃一夜インキュベーションし500 μlの生理食塩水により3回洗浄後、QuickGene SP kit DNA tissue (富士フィルム株式会社)を用いてDNAを抽出精製した。対照として、固定液 Bの代りに生理食塩水500 μlを用いて、固定を行わない試料を作製した。上記記載に従うと、固定直後に洗浄のみ施しペレットから直接DNAを抽出した場合の菌数は、合計4回遠心処理を施しているので4.3 × 108 × 0.5 × 0.41 = 0.9 × 108 cellsであるが、PCRに供した菌数は、推定菌濃度およそ3.5 × 107 cells/ml × 2.5 μl × 20 = 1.8 × 106 cellsと計算され、その後更に3回遠心処理を施していることを考えると0.9 × 106 cellsと推定される。 DNA抽出工程に供したそれぞれの菌数は、PCR前のサンプルがPCR反応後のサンプル群と比較して100倍多いので、菌数を統一するために、PCRに供する直前のエンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液(3.5 × 107 cells/ml)の2.5 μl × 20 (= 1.8 × 106 cells)(固定液B及び対照S)を調製し、PCRを行わず20本一纏めにした後合計3回の遠心処理により洗浄してDNA抽出を行った。 次に、上記検討により仮にエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞内から約2450-bpの長いPCR増幅産物が確認されたとしても、前処理剤存在下でPCR反応を行った場合、図14や図15に示されるようにPCR増幅産物が外部溶液に存在しているので、その外部溶液中のPCR増幅産物がエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞壁に吸着し、見かけ上あたかもPCR増幅産物が内部にあったかのような誤解釈を生む可能性があった。そこで、以下に示す実験も追加した。 各PCRチューブ当たりエンテロバクター・サカザキATCC51329から精製したDNA 0.44 ng (440 pg; 8.8 × 104 cellsが保有している染色体DNA量) を含むDNA水溶液2.5 μlを加え、前記と同様に前処理剤溶液を添加した後、PCRバッファーを加え27.5 μlに調整したものを20本用意し、それぞれ下記に示す条件によりPCRを行った。その後、20本のPCRチューブを一纏めにした後、3.5 × 107 cells/mlのエンテロバクター・サカザキ菌の生理食塩水けん濁液50 μl(実施例7に従い、予め固定液B処理又は非固定処理し、3回洗浄後のもの)を加えよく攪絆した後、冷却遠心処理(3000 × g、10分、4 ℃)して上清を除去し、ペレットを2回洗浄することによりDNA抽出を行った。PCRバッファー組成:a) 16S_1234F (10 pmol/μl): 2 μlb) 23S_1703R (10 pmol/μl): 2 μlc) Ex-Taq (5U/μl: Takara-Bio): 0.25 μl (Tween 20 0.5%、Nonidet P-40 0.5%、グリセロール 50%を含む)d) 10 × Ex-Taq Buffer (Takara-Bio社製): 2.5 μle) dNTP mixture (Takara-Bio社製): 2 μlf) 10 × SYBR Green I (BMA社製): 4 μl リアルタイムPCR装置(I cycler iQ, Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを実施した。1) 4 ℃、3分(1サイクル)2) 95 ℃、 15 秒;60℃ 20 秒;72℃ 3分(30サイクル)3) 95 ℃、3分(1サイクル) その後、PCR増幅産物の融解解析(60 ℃から0.1 ℃間隔で温度を上昇させ、各温度で8秒間保持し、それを合計350回繰り返して、95 ℃を終了温度とした)のプロトコールに従い、PCR増幅産物の融解温度を測定した。2.結果 図16に結果を示す。固定液Bを用いてエンテロバクター・サカザキ菌の細胞を固定化し、又は固定化せず、前処理剤存在下PCR(16S-23S: 2450-bp)を行い、その反応液上清を電気泳動した結果をレーン2及び3、同PCR反応後の2回洗浄後のペレットからDNA抽出を行い電気泳動した結果をレーン5及び6、本実験の検査材料である固定及び非固定エンテロバクター・サカザキ菌の細胞から直接DNAを抽出し電気泳動した結果をレーン7及び8、PCR反応に供する直前の固定・非固定エンテロバクター・サカザキ菌の細胞からDNAを抽出し電気泳動した結果をレーン9及び10、予めPCR増幅産物を調製しそれをエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞に添加後2回洗浄し、その後DNAを抽出・電気泳動した結果をレーン13及び14に、それぞれ示す。 固定、非固定のいずれにおいても、レーン13及び14からPCR遺伝子産物(2450-bp)がエンテロバクター・サカザキ細菌細胞壁外膜などに外部溶液側から吸着しても、洗浄を2回行うことで、そのPCR産物は細菌から除去できることが示された。従って、細胞壁外側表面に吸着しているかもしれないPCR遺伝子産物を細胞内に留まったPCR遺伝子産物と誤解釈する可能性は否定された。次に、PCR反応後ペレットを2回洗浄しDNA抽出したレーン5及び6の結果から、PCR遺伝子産物と推察される断片が検出されたこと、更にその断片がレーン13及び14の結果から細胞壁外側に吸着していた可能性のあるPCR遺伝子産物ではないことを考え併せると、レーン5及び6のPCR遺伝子産物は菌体内に留まっていたものが抽出されてきた可能性が極めて高い。尚、細胞壁に損傷が加わっている細菌細胞ゆえPCR遺伝子産物が通過自由な状態となり、その産物の濃度が外部溶液と菌体内で同濃度になっているとしても、菌の容積と外部溶液の容積の比較では後者の方が1010倍程大きく、PCR産物量も外部溶液に1010倍量多い、すなわち菌体内には1/1010量が分配されることになるが、レーン2、3、5、6のバンド強度の比較から菌体内に留まっているPCR産物量が1/1010量とは考えられない。すなわち、本発明の方法におけるPCRはIn-situ PCRである可能性が示唆された。レーン7及び8の結果から、検査材料に用いたエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞からは、固定、非固定のいずれにおいても染色体DNAが検出されているが、レーン5、6、9、及び10からは染色体DNAのバンドは得られなかった。これは恐らく、DNA抽出に供したエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞数の問題であって、具体的には0.9 × 106 cellsという細胞数がDNA抽出のためには不足していた可能性が高く、事実、検査材料のレーン7及び8は細胞数が0.9 × 108 cellsと高濃度であった。〔実施例9〕 エンテロバクター・サカザキ菌の細胞を生理食塩水中、又は、前処理剤存在下、煮沸処理を行いその処理時間に応じて、各上清にサカザキ菌染色体DNAがどの程度流出しているのかを調べた。1.実験方法 エンテロバクター・ザカザキATCC51329の一夜増菌培養液(1.1× 109 cells/ml)を洗浄し、生理食塩水で10倍希釈した後、一端、冷却遠心処理(3000 × g、10 min、4 ℃)によりペレットを回収し、そこへ同量(500 μl)の生理食塩水、又は、表5に示す組成の前処理剤溶液を加え、良くけん濁させた。その後、沸騰水にて0〜5分加熱し、加熱後直ぐに冷却した。加熱直後の各けん濁液5 μl、及び、けん濁液の冷却遠心後の上清5 μlを、それぞれ0.8% アガロースゲルにより電気泳動した。2.結果 生理食塩水中、又は、前処理剤存在下でエンテロバクター・サカザキ菌の細胞が沸騰水を用いて熱処理された時、上清にどの程度細菌の染色体が溶出しているかを図17に示した。まず、レーン2と9に、非加熱ながら既に僅かな染色体DNAの存在が示唆されるが、これは一夜増菌した増菌液が静止期に到達していたため、死菌の一部が溶解し外部溶液に染色体DNAが流れ出たと考えられ、評価の際は無視するものとする。生理食塩水中では加熱によりエンテロバクター・サカザキ菌の細菌細胞からDNAが溶出していると推察されるが、前処理剤存在下では5分ボイルしてもけん濁液及び上清に染色体DNAのバンドは検出されなかった。しかし、レーン10と12のウェルで評価した場合、けん濁液にはウェルにバンドがあるが、上清にはバンドは存在せず、前処理剤存在下、染色体DNAは細菌細胞から流出せず菌体内に留まっていることが判明した。一方、生理食塩水の上清(レーン5、6、及び7)でもウェル内にバンドが存在するが、これは煮沸により比重が軽くなったエンテロバクター・サカザキ菌の死菌の一部が遠心処理により上清に回収されたものと推察される。表6や図12の結果もそれを支持している。以上により、PCRサーマルサイクルローテーションとは条件が厳密には異なるが、前処理剤存在下の方が、細菌細胞から熱処理によってもDNAが流出困難であることが示唆された。 本発明の方法によれば、微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して高感度で検出することができる。本発明により、核酸増幅法による簡易かつ迅速な食品及び生体試料、拭き取り試料、工業用水、環境用水、排水等の環境中の微生物の生細胞・損傷細胞・死細胞の判別が可能となる。本発明の方法及びキットは、自主検査に応用可能であり、経済性にも優れている。 本発明の好ましい形態では、5 log10個細胞/ml以上の大腸菌(エシェリヒア・コリ)の損傷細胞又は死細胞を含む各種食品の衛生検査、又は大腸菌が血液を循環する小児菌血症の迅速診断にも応用可能である。 また、本発明の好ましい形態では、食品から腸内細菌科を含む大腸菌群の生菌細胞のみを高感度(1 CFU/2.22 ml乳)、且つ公定法(食品衛生法/乳等省令)と比較して極めて迅速(7時間30分)に検出することが可能なため、牛乳製造工場に代表される各種食品工場において、製造後の工場出荷前判定に利用することが期待され、産業上利用価値が高いことが想定される。 更には大腸菌群や腸内細菌科に限らず病原細菌を始めとする各種細菌、ウイルス等の微生物に関し、低濃度の生きた微生物のみを迅速に検出・定量可能とするため、各種衛生検査及び臨床検査、工程管理などへも応用が可能である。 被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出する方法であって、以下の工程を含む方法: a)前記被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加する工程、 b)前記薬剤を添加した被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、 c)被検試料に含まれる微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を、細胞からの核酸の抽出を行わずに、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤の存在下で核酸増幅法により増幅する工程、及び d)増幅産物を解析する工程。 前記ターゲット領域の増幅が、微生物細胞内で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 前記c)の工程において、ターゲット領域の増幅を、界面活性剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩から選択されるいずれか一種又は複数種の存在下で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。 前記c)の工程の前に、前記a)の工程及びb)の工程を繰り返して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。 前記a)の工程の前に、以下のe)の工程を行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 e)被検試料を、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素で処理する工程。 前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖分解酵素から選択される請求項5に記載の方法。 前記被検試料が、食品、生体試料、飲料水、工業用水、環境用水、排水、土壌、又は拭き取り試料のいずれかである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。 前記微生物が細菌、又はウイルスである請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。 前記細菌がグラム陰性細菌である請求項8に記載の方法。 前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。 核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、及びT4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択されるいずれか一種又は複数種である請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。 前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択される請求項2〜11のいずれか一項に記載の方法。 前記リン酸塩がピロリン酸塩である請求項2〜12のいずれか一項に記載の方法。 前記ターゲット領域が50〜5000塩基のターゲット領域である請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。 前記ターゲット領域が、被検試料のDNAの5S rRNA遺伝子、16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、及びtRNA遺伝子から選択される遺伝子に対応するターゲット領域である請求項14に記載の方法。 前記核酸増幅法が、PCR法、RT−PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はマイクロアレイ法である請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。 前記PCR法をリアルタイムPCR法により行い、PCRと増幅産物の解析を同時に行うことを特徴とする請求項16に記載の方法。 前記増幅産物の解析を、微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いて行うことを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。 核酸増幅法により、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出するためのキットであって、下記の要素を含むキット: 1)350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤、 2)核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、及び 3)検出対象の微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を核酸増幅法により増幅するためのプライマー。 さらに界面活性剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩から選択されるいずれか一種又は複数種を含む、請求項19に記載のキット。 さらに被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素を含む、請求項19又は20に記載のキット。 前記核酸増幅法が、PCR法、RT−PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はDNAマイクロアレイ法である請求項19〜21のいずれか一項に記載のキット。 前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択される請求項19〜22のいずれか一項に記載のキット。 核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、及びT4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択されるいずれか一種又は複数種である請求項19〜23のいずれか一項に記載のキット。 前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択される請求項20〜24のいずれか一項に記載のキット。 前記リン酸塩がピロリン酸塩である請求項20〜25のいずれか一項に記載のキット。 前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖質分解酵素から選択される請求項21〜26のいずれか一項に記載のキット。 以下の工程により、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出する。a)前記被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加する工程、b)架橋剤を添加した被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、c)被検試料に含まれる微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を、細胞からの核酸の抽出を行わずに、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤の存在下で核酸増幅法により増幅する工程、及びd)増幅産物を解析する工程。配列表20110615A16333全文3 被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出する方法であって、以下の工程を含む方法: a)前記被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加する工程、 b)前記薬剤を添加した被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、 c)被検試料に含まれる微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を、細胞からの核酸の抽出を行わずに、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩を前記被検試料に添加し、核酸増幅法により増幅する工程、及び d)増幅産物を解析する工程。 前記ターゲット領域の増幅が、微生物細胞内で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 前記c)の工程において、ターゲット領域の増幅を、界面活性剤の存在下で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。 前記c)の工程の前に、前記a)の工程及びb)の工程を繰り返して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。 前記a)の工程の前に、以下のe)の工程を行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 e)被検試料を、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素で処理する工程。 前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖分解酵素から選択される請求項5に記載の方法。 前記被検試料が、食品、生体試料、飲料水、工業用水、環境用水、排水、土壌、又は拭き取り試料のいずれかである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。 前記微生物が細菌、又はウイルスである請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。 前記細菌がグラム陰性細菌である請求項8に記載の方法。 前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。 核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、及びT4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択されるいずれか一種又は複数種である請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。 前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択される請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。 前記リン酸塩がピロリン酸塩である請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。 前記ターゲット領域が50〜5000塩基のターゲット領域である請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。 前記ターゲット領域が、被検試料のDNAの5S rRNA遺伝子、16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、及びtRNA遺伝子から選択される遺伝子に対応するターゲット領域である請求項14に記載の方法。 前記核酸増幅法が、PCR法、RT−PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はマイクロアレイ法である請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。 前記PCR法をリアルタイムPCR法により行い、PCRと増幅産物の解析を同時に行うことを特徴とする請求項16に記載の方法。 前記増幅産物の解析を、微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いて行うことを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。 核酸増幅法により、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出するためのキットであって、下記の要素を含むキット: 1)350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤、 2)核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩、及び 3)検出対象の微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を核酸増幅法により増幅するためのプライマー。 さらに界面活性剤を含む、請求項19に記載のキット。 さらに被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素を含む、請求項19又は20に記載のキット。 前記核酸増幅法が、PCR法、RT−PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はDNAマイクロアレイ法である請求項19〜21のいずれか一項に記載のキット。 前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択される請求項19〜22のいずれか一項に記載のキット。 核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、及びT4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択されるいずれか一種又は複数種である請求項19〜23のいずれか一項に記載のキット。 前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択される請求項19〜24のいずれか一項に記載のキット。 前記リン酸塩がピロリン酸塩である請求項19〜25のいずれか一項に記載のキット。 前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖質分解酵素から選択される請求項21〜26のいずれか一項に記載のキット。A1633000163 すなわち、本発明は、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。 a)前記被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤を添加する工程、 b)前記薬剤を添加した被検試料に、350nm〜700nmの波長の光照射処理を行う工程、 c)被検試料に含まれる微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を、細胞からの核酸の抽出を行わずに、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩を前記被検試料に添加し、核酸増幅法により増幅する工程、及び d)増幅産物を解析する工程。 本発明は、前記ターゲット領域の増幅が、微生物細胞内で行われることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記c)の工程において、ターゲット領域の増幅を、界面活性剤の存在下で行うことを好ましい態様としている。 前記方法は、前記c)の工程の前に、前記a)の工程及びb)の工程を繰り返して行うことを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記a)の工程の前に、以下のe)の工程を行うことを好ましい態様としている。 e)被検試料を、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素で処理する工程。 また前記方法は、前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖分解酵素から選択されることを好ましい態様としている。また前記方法は、前記被検試料が、食品、生体試料、飲料水、工業用水、環境用水、排水、土壌、又は拭き取り試料のいずれかであることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記微生物が細菌、又はウイルスであることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記細菌がグラム陰性細菌であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択されることを好ましい態様としている。 また前記方法は、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、T4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択される1種又は複数種であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択されることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記リン酸塩がピロリン酸塩であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記ターゲット領域が50〜5000塩基のターゲット領域であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記ターゲット領域が、被検試料のDNAの5S rRNA遺伝子、16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、及びtRNA遺伝子から選択される遺伝子に対応するターゲット領域であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記核酸増幅法が、PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はマイクロアレイ法であることを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記PCR法をリアルタイムPCR法により行い、PCRと増幅産物の解析を同時に行うことを好ましい態様としている。 また前記方法は、前記増幅産物の解析を、微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いて行うことを好ましい態様としている。A1633000173 また、本発明のキットは、核酸増幅法により、被検試料中の微生物の生細胞を、死細胞又は損傷細胞と識別して検出するためのキットであって、下記の要素を含むキットを提供する。 1)350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤、 2)核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤、マグネシウム塩、及び有機酸塩又はリン酸塩、及び 3)検出対象の微生物のDNA又はRNAのターゲット領域を核酸増幅法により増幅するためのプライマー。 前記キットは、さらに界面活性剤を含むことを好ましい態様としている。 また前記キットは、被検試料中に存在する微生物以外の細胞、タンパク質コロイド粒子、脂肪、又は糖質を分解する活性を有する酵素を含むことを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記核酸増幅法が、PCR法、RT−PCR法、LAMP法、SDA法、LCR法、TMA法、TRC法、HC法、又はマイクロアレイ法であることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記350nm〜700nmの波長の光照射によりDNA又はRNAに共有結合する薬剤が、エチジウムモノアザイド(ethidium monoazide)、エチジウムジアザイド(ethidium diazide)、プロピジウムモノアザイド(propidium monoazide)、プソラーレン(psolaren)、4,5',8−トリメチルプソラーレン(4,5',8-trimethyl psolaren)、及び8−メトキシプソラーレン(8-methoxy psolaren)から選択されることを好ましい態様としている。 また前記キットは、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤が、アルブミン、デキストラン、及びT4ジーン32プロテイン、アセトアミド、ベタイン、ジメチルスルフォキシド、ホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール、大豆トリプシンインヒビター、α2−マクログロブリン、テトラメチルアンモニウムクロライド、リゾチーム、ホスホリラーゼ、及び乳酸脱水素酵素から選択される1種又は複数種であることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記有機酸塩が、酢酸塩、プロピオン酸塩、及びクエン酸塩から選択されることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記リン酸塩がピロリン酸塩であることを好ましい態様としている。 また前記キットは、前記酵素が、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、及び糖質分解酵素から選択されることを好ましい態様としている。