タイトル: | 公開特許公報(A)_遺伝子診断キット |
出願番号: | 2010059470 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12Q 1/68,C12N 15/09,G01N 33/53 |
森 展子 JP 2011188831 公開特許公報(A) 20110929 2010059470 20100316 遺伝子診断キット 公立大学法人大阪府立大学 505127721 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 松谷 道子 100106518 志賀 美苗 100127638 櫻井 陽子 100138911 橋本 諭志 100146259 森 展子 C12Q 1/68 20060101AFI20110902BHJP C12N 15/09 20060101ALI20110902BHJP G01N 33/53 20060101ALI20110902BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 AG01N33/53 D 10 OL 18 特許法第30条第1項適用申請有り 第32回 日本分子生物学会年会、特定非営利活動法人日本分子生物学会主催、平成21年11月20日 オンライン要旨集公開(http://share.dynacom.jp/mbsj2009abst/index.php)、平成21年12月9日 ポスター発表 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA02 4B024CA11 4B024HA14 4B063QA17 4B063QA18 4B063QQ43 4B063QQ52 4B063QQ79 4B063QR08 4B063QR42 4B063QR56 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX02 本発明は、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患、具体的には水頭症および網膜変性の遺伝子診断キット、該疾患の原因を調べる方法、該疾患の遺伝的素因の有無を調べる方法、および該疾患の研究キットに関する。 水頭症は、様々な要因により脳脊髄液が脳内に貯留し、脳実質が圧迫され脳機能が低下して起こる病態の総称である。日本では新生児約2000人に1人の頻度で起こる小児の難治性疾患である。水頭症のほとんどは原因不明であり、脳脊髄液の外科的排出以外に根本的な治療法は今のところ存在しない。水頭症突然変異マウスを用いてその原因遺伝子を明らかにすれば、水頭症発症機構の分子的基盤が解明でき、水頭症の診断・治療に結びつくと期待される。Hemorrhagic hydrocephalus (hhy): a novel mutation on mouse chromosome 12, M. Kuwamura, A. Kinoshita, M. Okumoto, J. Yamate, and N. Mori, Developmental Brain Research, 152(1) 69-72, 2004. 本発明は、水頭症の原因遺伝子を特定し、水頭症の遺伝子診断キットを提供することを目的とする。 本発明者らは以前に、生後まもなくほぼ100%の頻度で出血性水頭症(hemorrhagic hydrocephalus, hhy)を発症する常染色体劣性遺伝性自然突然変異hhyマウスを系統樹立し、原因遺伝子を12番染色体上にマップした(非特許文献1)。その後の遺伝子解析により、本発明者らはこの原因遺伝子hhyはCcdc85c遺伝子であることを突き止め、さらに、hhyマウスが網膜変性を発症していることを見出した。これにより、本発明を完成するに至った。 本発明は、CCDC85C遺伝子の変異を検出するためのプライマーまたはプローブを含む、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患、具体的には水頭症または網膜変性の、遺伝子診断キットを提供する。 本発明はさらに、ヒト被験者における疾患、具体的には水頭症または網膜変性の原因を調べる方法であって、 (1)該被験者から採取された試料においてCCDC85C遺伝子の変異を調べる工程、および (2)CCDC85C遺伝子に変異が存在する場合に、該疾患の原因がCCDC85C遺伝子の変異であると決定する工程、 を含む方法を提供する。 本発明はまた、ヒト被験者におけるCCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患、具体的には水頭症または網膜変性の遺伝的素因の有無を調べる方法であって、 (1)該被験者から採取された試料においてCCDC85C遺伝子の変異を調べる工程、および (2)CCDC85C遺伝子に変異が存在する場合に、該被験者が該疾患の遺伝的素因を有すると決定する工程、 を含む方法を提供する。 本発明はまた、CcDC85Cタンパク質またはCCDC85Cタンパク質を特異的に認識する抗体を含む、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患、具体的には水頭症または網膜変性の研究キットを提供する。 本発明により、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする遺伝性疾患である水頭症および網膜変性の遺伝子診断・研究が可能となった。本発明は、水頭症および網膜変性の発見や治療法の開発・選択に有用である。12番染色体における原因遺伝子の存在領域の同定。発症個体は全てD12Mit181にBALB/cアリルをホモに持ち、非発症個体は同マーカーにMSMアリルを持つことから、hhy遺伝子は、D12Mit181を含むD12MIt53からD12Mit141の間約3 cMにあると判明した。A:affected(発症)、NA:not affected(非発症)、白四角:BALB/cアリル、黒四角:MSMアリル。原因遺伝子の存在する約1 Mbの領域の同定。図1Aにおいて絞られたhhy(D12Mit53−D12Mit141)領域に、BALB/cアリルをホモに持ちながらも一部に組換えが生じていた21個体(発症5、非発症16)について、表1のプライマーを用いて新規マイクロサテライトマーカーの遺伝子型を調べ、組換え点を決定した。これにより、非発症16個体が共通してMSMアリルをもつ1 Mbの範囲が同定された。A:affected(発症)、NA:not affected(非発症)。Ccdc85c遺伝子の構造。Ccdc85c mRNAの生後2週齢マウス脳における発現。野生型(WT)、変異型ヘテロ(hhy/+)およびホモ(hhy/hhy)、B2m:β2−ミクログロブリン(対照)。hhy変異型ホモマウスにおけるCcdc85c遺伝子のcDNA塩基配列(1)。hhy変異型ホモマウスにおけるCcdc85c遺伝子のcDNA塩基配列(2)。野生型(WT)およびホモ(hhy/hhy)マウスより抽出したゲノムDNAを鋳型とした広範囲PCR産物の制限酵素消化パターン。hhy変異領域の制限地図。図2Aの結果をまとめたもの。Ccdc85c 遺伝子の遺伝子型決定(代表例)。同定したhhy変異領域の塩基配列に基づいてプライマーCt2F(野生型配列)、Ct4R(野生型配列)、ht3R(変異型配列)(図2Bに位置を記す)を設計し使用した。野生型608 bp、hhyホモ793 bp。野生型マウス脳におけるCcdc85Cタンパク質のウエスタンブロットによる検出。Ccdc85Cタンパク質のC末側170アミノ酸配列に対する特異的抗体(ウサギポリクローナル)を作製し使用した。期待される分子量は45 kDaである。出生直後(P0)、生後7日(P7)、および4週齢の成体(Adult)。野生型マウス脳のCcdc85Cタンパク質の免疫蛍光染色。胎齢(E)15日(E15)、 18日(E18)、 出生(P)直後(P0), 5日(P5)。LV:側脳室、Ctx:大脳皮質。野生型マウス(E15)側脳室壁におけるCcdc85CおよびZO-1の免疫蛍光染色。LV:側脳室。Merge:Ccdc85CとZO-1の染色像を重ね合わせたもの。水頭症を発症するhhyマウスの写真。野生型および変異型ホモマウスにおける側脳室面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察。生後2週(2W)。野生型および変異型ホモマウスの網膜。HE染色。ヒトCCDC85C遺伝子の構造。白四角:非コード領域、黒四角:コード領域、括弧内の数字はCDS、矢印はプライマーを示す。矢印はプライマーを示す正常ヒトCCDC85C遺伝子のPCR増幅。A:エキソン2を含む領域、B:エキソン3−6領域。 本発明は、遺伝性疾患、具体的には水頭症または網膜変性の遺伝子診断キットを提供する。本発明の遺伝子診断キットは、ヒトCCDC85C遺伝子の変異を検出するためのプライマーまたはプローブを含む。hhyマウスにおいてCcdc85c遺伝子に変異が発見され、この遺伝子が水頭症および網膜変性の原因遺伝子であることが明らかとなった。よって、ヒト水頭症および網膜変性の患者DNAのCCDC85C遺伝子の変異の有無を調べれば、当該疾患の原因を特定でき、それに基づいた治療方針をたてることができる。 ある遺伝性疾患の原因遺伝子における変異は、通常、1種類に限定されない。最初の報告の後、様々な変異が見つかることが多い。それゆえ、本発明で対象とするヒトCCDC85C遺伝子の変異はマウスで観察された変異に限定されない。実施例に示すように、マウスCcdc85c遺伝子のエキソン2を含むゲノム3.7 kb領域で起こったゲノム再構成(リアレンジメント)の結果、エキソン2の配列は完全に欠損していた。さらに、欠損したエキソン2をスキップしてエキソン1−3間で起こった非正常スプライシングは、フレームシフトを引き起こし、Ccdc85cの(機能を喪失させる)遺伝子破壊(ノックアウト)をもたらすに至った(図1E、F)。このように、ヒトCCDC85C遺伝子のノックアウトをもたらす変異は、いずれも本発明の範囲内である。 本明細書において、「CCDC85C」はヒト遺伝子またはタンパク質を、「Ccdc85c」および「Ccdc85C」はそのマウスホモログを意味する。CCDC85C遺伝子のゲノム配列は、GeneBankに登録番号(NC_000014.8)で登録されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_000014.8?&from=99977602&to=100070726&report=genbank&strand=true)。このゲノム配列におけるエキソン1〜6の位置は以下のとおりである:431位〜1223位、68302位〜68375位、82150位〜82257位、87207位〜87302位、88104位〜88202位、89055位〜89144位。また、ヒトCCDC85C遺伝子のmRNAの配列は登録番号NM_001144995で、マウスCcdc85c遺伝子のmRNAはNM_001159910で、それぞれGeneBankに登録されている。 本発明において、上記GeneBankに開示されるCCDC85C遺伝子を「正常型CCDC85C遺伝子」と、PCRとアガロース電気泳動によってバンドサイズの差異として検出できる配列を有するCCDC85C遺伝子を「変異型CCDC85C遺伝子」と称する。検出可能なバンドサイズの差異は、増幅する配列長によっても異なり、アガロース濃度によっても異なる。0.5 kbのサイズに増幅した場合のバンドサイズの2.5%アガロース電気泳動による差異検出限界は、通常、25 bp程度である。 本発明の遺伝子診断キットに含まれるプライマーには、PCR用プライマーおよびシークエンス用プライマーが含まれる。プライマーは、変異に応じて適宜設計すればよい。例えば、正常型CCDC85C遺伝子の一部を増幅する一組のPCR用プライマーを作成し、正常型CCDC85C遺伝子と変異型CCDC85C遺伝子から増幅されるDNAのサイズをゲル電気泳動法などで比較することで、ゲノムリアレンジメントの有無を調べることができる。プライマー部分の配列が欠損しているような変異では、PCRで増幅しないことにより、スクリーニングの目的は達成される。詳細には、シークエンス用プライマーを用いて、増幅した被験者DNAをシークエンスして変異の有無を調べることができる。 プライマーは、好ましくはCCDC85C遺伝子のゲノム配列の一部からなるものであるが、PCRまたはシークエンスの条件下で当該配列に特異的にハイブリダイズできる限り、1〜数個の塩基の欠失、置換、付加を含んでいてもよい。プライマーの長さは特に限定されないが、通常18〜30塩基が望ましい。数kb以上の広範囲PCRの用途には、30塩基以上40塩基未満が望ましい。プライマーは、配列情報に基づき常法により合成することができる。 PCRの条件は、当業者が適宜設定可能である。ヒトCCDC85C遺伝子は、ゲノム上約93 kbの範囲に存在し、マウスCcdc85c遺伝子と同様、エキソン1から6までをもつ(図6)。ヒトCCDC85C遺伝子は419個のアミノ酸をコードしており、マウスのCcdc85Cタンパク質とのホモロジーは94%と極めて高い。ヒトCCDC85C遺伝子のエキソン1および2は、イン・フレームではない。エキソン3以降はイン・フレームである。したがって、エキソン2が欠損すれば、フレームシフトを起こし、CCDC85C遺伝子は破壊(ノックアウト)される。また、エキソン1−2間は67 kb離れている。例えば、プライマーをエキソン2の上流と下流に設定すれば、エキソン2が欠失するか、リアレンジメントしている変異をもつヒトでは、そのサイズが変化する。これに対して、エキソン3から6は約7 kbの比較的狭い範囲に存在するので、最初のスクリーニングではまとめて欠失を検索するとよい。例えば、エキソン3の上流およびエキソン6の停止コドンより下流にプライマーとることができる。 具体的には、エキソン2の周辺のリアレンジメントの有無を調べるには、イントロン2および3の配列に、20 merのプライマーHcc2F(5'-ACAGGCCGTGCTGTTTCCAC-3')(配列番号1)と21 merのHcc2R(5'-GAGCCAGGGTTAGGTCCCTGA-3') (配列番号2)をそれぞれ設定し、PCR増幅条件として、95℃ 5分、95℃ 30秒・55℃ 45秒・72℃ 40秒(35 サイクル)などの条件を用いればよい。この場合、増幅される配列のサイズは0.42 kbであり、通常のPCR反応で十分増幅可能である。また、15 kb程度までであれば、広範囲PCR用のDNAポリメラーゼのキット(Takara LA PCRTM Kit Ver.2.1, Takara-bio, Co.)を使用すれば、問題なく増幅可能である。例えば、エキソン3−6の約7.4 kbの範囲に生じたリアレンジメントを1回の反応で検出しようとする場合、32 merのフォーワードプライマー Hcc3F (5'-CAAAGCCCACGTTGGAGAGTGGATCGCTGACA-3') (配列番号3)をエキソン3の上流、イントロン2の配列に設定し、同じく32 merのリバースプライマーHcc3R(5'-TCTCGTCTTCCCAGGTTGCTGGTGTATGAGGC-3') (配列番号4)を設定すればよい。この場合、PCR増幅条件は、95℃ 30秒・68℃ 8分のシャトルを30サイクルとするとよい。エキソン1に生じたリアレンジメントを検出しようとする場合、例えば、23 merのフォーワードプライマーHcc1F(5'-GCCTGCTTCTCCAGAACCCTGAG-3') (配列番号5)をエキソン1の非コード領域に設定し、22 merのHcc1R(5'-TGGCCCAGGATCCATGACAGCT-3') (配列番号6)をエキソン1の下流、イントロン1に設定すれば、約1.2 kbの配列の増幅が期待できる。 プローブは、野生型または変異型CCDC85C遺伝子のいずれか一方にのみ特異的にハイブリダイズするように設計する。例えば、変異がエキソン2の欠失変異の場合、エキソン2にハイブリダイズするプローブを設計すればよい。長さは特に限定されないが、通常15〜500塩基、好ましくは20〜200塩基、より好ましくは20〜50塩基である。プローブは、検出のための適当な標識、例えば、蛍光色素、酵素、タンパク、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されていてもよい。蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン、ローダミンまたはその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン)、その他の市販の蛍光色素を用いることができる。プローブによる核酸の検出方法は当業界にて周知であり、例えばノーザンブロット法、サザンブロット法、DNAマイクロアレイ法が挙げられる。 ヒト被験者の試料としては、末梢血白血球を使用することができる。定法により、血液白血球を分離し、ゲノムDNAを抽出して使用すればよい。これによって、被験者の苦痛を減らし、少ない試料から多くの情報を得ることができる。 本発明はまた、ヒト被験者における水頭症または網膜変性の原因がCCDC85C遺伝子の変異であるかを調べる方法を提供する。これら疾患の原因は複数存在するが、水頭症または網膜変性と診断された患者がCCDC85C遺伝子の変異を有することが明らかになれば、当該患者における疾患の原因を特定でき、それに基づいた治療方針をたてることができる。 本発明はまた、ヒト被験者が水頭症または網膜変性の遺伝的素因を有するか否かを調べる方法を提供する。被験者がCCDC85C遺伝子にヘテロに変異を有する場合、その被験者は水頭症または網膜変性キャリアであると判定される。また、被験者がCCDC85C遺伝子の変異をホモでもつ場合、その被験者は水頭症または網膜変性の病変をもっている可能性がある。 変異の有無は、上記のようにプライマーまたはプローブを用いて調べることができる。例えば、正常型CCDC85C遺伝子の一部を増幅するPCR用プライマーを用いてヒト被験者から採取された試料から得られたDNAとCCDC85C遺伝子のDNAとを増幅し、増幅されたDNAを比較することにより行えばよい。対照として使用する正常型CCDC85C遺伝子のDNAは、市販のヒト正常細胞株(例えば、ヒト正常皮膚細胞株NHDF-c Adult, PCI)より容易に得ることができる。 本発明はまた、マウスCcdc85Cタンパク質またはヒトCCDC85Cタンパク質を特異的に認識する抗体を含む、水頭症または網膜変性の研究キットを提供する。hhyマウスはCcdc85c遺伝子のゲノムリアレンジメントによりCcdc85Cタンパク質を発現しないことが明らかとなった。よって、マウスCcdc85Cタンパク質またはヒトCCDC85Cタンパク質の発現を検出可能な抗体は、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする水頭症または網膜変性の発症機構の解明等の研究に有用である。 本発明の抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれる。また、Fab、F(ab')2、およびFvのような抗体断片であってもよい。抗体は、例えば”Antibodies: A Laboratory Manual”, Lane, H. D. et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989に記載のような常法により作製することができる。一般的には、抗原で適当な動物を免役し、その免疫動物から血清を回収して、ポリクローナル抗体を得ることができる。また、免疫動物から抗体産生細胞を回収し、回収した細胞をマウス由来ミエローマセルラインと融合してハイブリドーマを作製し、HAT培地で選択した後、産生抗体の抗原特異性をELISA法等により検討することで、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得することができる。抗原としては、マウスCcdc85Cタンパク質またはヒトCCDC85Cタンパク質のC末端に相当するペプチド、例えばC末端170アミノ酸のペプチドを用いることが好ましい。抗体は、これらタンパク質の発現する組織に対する免疫組織染色などに用いることができる。 本発明を以下の実施例によりさらに説明する。1.方法(1)動物 hhyマウスは、大阪府立大学の動物実験施設において維持している。hhy変異はBALB/cアリルに生じたものであり、MSMマウスに交配し、hhyキャリアであることを交配によって確認してから、MSMマウスに戻し交配を繰り返し、D12Mit53−D12Nds2にBALB/cアリルをヘテロに持つマウスを選別し維持した。(hhy/+ x BALB/c) F1 世代の動物からhhy領域にBALB/cアリルを有するマウスを選択した。hhy/+同士交配して胎齢15日(E15)、胎齢18日(E18)、出生直後(P0)、生後5日(P5)の動物を得た。(2)遺伝子型決定 DNAは、動物組織(尾)から単離した。マイクロサテライトマーカー(D12Mit53、D12Mit144、 MCA1、D12Mit233、D12Mit81、D12Nds2 (配列および位置はMouse Genome Informaticsのデータベースに見られる))用のプライマーを用いてPCRを行った。PCRの条件は次の通りである: 94 ℃ 3 分 1サイクル、94 ℃ 30 秒・55 ℃ 1 分・72 ℃ 1 分 30サイクル、72 ℃ 3 分 1サイクル。PCR産物は8% PAGEで解析した。 また、hhy遺伝子の含まれる範囲を絞るため、新たなマイクロサテライトマーカーをゲノム配列中に見いだし、プライマーをデザインし追加した(表1)。 遺伝子同定後、hhy変異のタイピングには表2のプライマーを使用した。PCRの条件は次の通りである:94 ℃ 3 分、94 ℃ 1 分(変性)・55 ℃ 30 秒(アニーリング)・72 ℃ 1 分(伸長) 30サイクル、72 ℃ 3 分。PCR産物は2% アガロースゲル電気泳動で解析した。(3)RT-PCRによるCcdc85c遺伝子の発現解析 脳の全RNAから合成したcDNAを、フォワードプライマー3F: 5'-TCTCTGGATGACCTGTCAGC-3' (配列番号20)(エキソン1における配列)およびリバースプライマー1R: 5'-CGCCCCTTGAACTGATTACC-3' (配列番号21) (エキソン6における配列)を用いてPCR増幅した。PCRの条件は次のとおりである:94 ℃ 5 分、94 ℃ 30 秒・55 ℃ 30 秒・72 ℃ 1 分 20 秒 40 サイクル。増幅DNAは2%アガロースゲル電気泳動で解析した。(4)hhy変異領域の制限地図作製 9.8kbのゲノムDNAをシャトル-PCR プログラム(94℃ 1 分、98 ℃ 20 秒 ・ 68 ℃ 10 分 30サイクル、72 ℃ 1 分)により増幅した。PCR産物をカラム精製後、EcoRV、BamHI、XbaI、XhoIで制限酵素消化した。消化後のDNAを1%アガロースゲル電気泳動し、制限酵素断片長を解析した。(5)病理組織染色 hhy変異ホモマウス(2週齢)および野生型(14週齢)マウスを安楽死させ、眼球を摘出、ブアン固定した。定法どおりに処理しパラフィン包埋した。3μm厚に薄切した切片をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した。(6)免疫組織染色 はじめに、抗Ccdc85C抗体(ウサギポリクローナル)を作製した。Ccdc85c遺伝子のcDNAのC末端側1026番から1538番までの510塩基(170アミノ酸をコード)を、BamHIおよびSalI認識配列を末端に含むプライマーBamEG31F(5'-ACGGATCCCTGGATGACCTGTCAGCG-3')(配列番号22)とSalEG31R(5'-CAAGTCGACCCCCTTGAACTGATTACC-3')(配列番号23)でRT-PCR増幅、制限酵素二重消化後、同様に処理した大腸菌GST融合タンパク発現ベクターpGEX-6P-2(GEヘルスケア)に組み込んだ。シークエンスを確認後、組換えプラスミドでE. Coli BL21細胞を電気パルス形質転換し、IPTG誘導してGST-Ccdc85C融合タンパク質を発現させた。BL21細胞を超音波破砕し、遠心によって集めた上清をグルタチオンセファロース4Bカラム(GEヘルスケア)に通し、GST-Ccdc85C融合タンパク質を回収した。回収した融合タンパク質をプロテアーゼ処理してGSTを切り離し、再度グルタチオンセファロース4Bカラムを通してGSTをトラップしCcdc85Cタンパク質のみ溶出させた。得られたタンパク質に対する抗体作製は、業者に外注委託した。この抗体(1:1000)を用いたウエスタンブロットによって、マウス脳のタンパク質抽出液より、Ccdc85Cのアミノ酸配列情報から予想される分子量45 kDaの位置に、バンドが検出された(図2D)。 凍結保存した胎仔脳を低温条件で冠状断に切り出し、Zamboni固定液に4℃で15分浸漬して固定した。切片を一次抗体(抗ZO-1抗体,1:100, Invitrogen および、作製した抗Ccdc85C抗体,1:1000)で染色した。二次抗体には(Alexa Fluor(登録商標)488標識抗ウサギIgG, 1:1000, Invitrogen)を用い、DAPI含有封入剤でマウントしたのち、蛍光顕微鏡で切片を観察した。ZO-1およびCcdc85Cの二重染色においては、抗Ccdc85C抗体をHiLyte Fluor(登録商標)555で標識した。(7)走査型電子顕微鏡(SEM)観察 hhyマウスを4% PFAで経左心灌流固定後、大脳を摘出、前額断で切り出し、2%グルタールアルデヒドで1晩または数日固定後、大脳皮質を剥離し側脳室を露出させた。切片を0.1Mリン酸緩衝液で洗浄後、2%オスミウムで後固定し、脱水、臨界点乾燥後、白金・パラジウム蒸着処理し、SEM (S-800, 日立製作所)により観察した。2.結果(1)hhyマウスの水頭症原因遺伝子の同定 hhy遺伝子は、BALB/cアリルに生じた変異であり、12番染色体D12Mit28からD12Nds2までの間、約7 cMのhhy領域に位置した(非特許文献1)。この範囲にBALB/cのアリルを持つマウスをキャリアとし、MSMに戻し交配した。N3-N6をキャリア同士交配して得られた256頭のうち29頭に、生後1-2週でhhyの水頭症の徴候である頭部の膨隆を認めた。剖検によって、29頭すべてに水頭症の発症が確認された。これらの遺伝子型を調べた結果、23頭は、hhy領域のマーカー全てにBALB/cアリルをホモに持っていたが、6頭は、D12Nds2またはD12Mit144-D12Nds2の範囲にMSMアリルを有していたことから、D12Mit141よりテロメア側はhhy候補領域から除外された。 また、256頭の中に、hhy領域内のマーカーいずれかがBALB/cホモでありながら、組換えを起こして一部にMSMアリルを持つ21個体が含まれており、これら個体は全て生後4週以上非発症であった。これらのマウスは共通してD12Mit181にMSMアリルを持っていたことから、D12Mit181を含むD12Mit53からD12Mit141までの範囲にhhy遺伝子があると推定された(図1A)。 さらに、表1の新規マーカーを用いて、発症5個体、非発症16個体の組換えポイントを調べ、hhy領域を、非発症16個体が共通してMSMアリルを持つMCA1からD12Opu2まで1Mbの範囲に絞り込んだ。この領域には、14個の遺伝子が存在する(図1B)。この14遺伝子についてRT-PCRにより発現スクリーニングを行ったところ、これら遺伝子は全て脳で発現していた。そのうち、Ccdc85c遺伝子のRT-PCRのバンドが、hhyでは野生型より短く、発現量が減少していた(図1C)。この結果は、Ccdc85cに欠失型変異があることを示唆する。 hhyマウスのRT-PCR産物をTAクローニングし解析した結果、全クローンでエキソン2が欠損しており、さらに、エキソン1−3のジャンクションに2塩基の欠落(図1E)もしくは増加(図1F)の異常を認めた。この異常は、翻訳されると予想される産物において、エキソン2の72塩基が本来コードするD266からP286までの24アミノ酸の欠損をもたらすだけでなく、エキソン3がコードするQ290をAに変化(図1Eの場合)させるか、あるいはこのAを欠損(図1Fの場合)させ、フレームシフトをもたらし、翻訳未完了のポイントL360を停止コドンに変化させる。フレームシフト変異は、一般にmRNAを不安定にし、図1Cに見られるように発現の著しい低下をもたらす。わずかに生じた異常mRNAの情報が翻訳された場合、生じたタンパク質は品質管理機構によって異常タンパク質として通常分解処理される。すなわち、得られた結果は全て、hhyマウスの表現型に見られる異常は、Ccdc85c遺伝子の機能が破壊されたためであることを示すものである。このことから、hhy遺伝子はCcdc85cであるとの結論を得た。(2)hhyマウスにおけるCcdc85Cタンパク質の組織局在解析 hhyマウスにおける水頭症原因遺伝子はCcdc85cであることが判明したが、そのタンパク質の機能は全く記載されていない。Ccdc85Cタンパク質の脳における組織局在を調べるため、Ccdc85cの塩基配列情報から、抗Ccdc85C抗体(ウサギ、ポリクローナル)を作製し、免疫組織染色を行った。 Ccdc85Cは、胎生期(E15およびE18)、出生直後(P0)の脳室面に存在するが、P5でほとんど消失した(図3A)。野生型マウス(E15)脳で、Ccdc85Cは頂端部ジャンクション部位にZO-1と共在し(図3B)、接着帯を形成していた(図3B囲み)。E15の側脳室面の細胞は、ニューロンおよびグリアに分化する神経幹細胞ラジアルグリア(RG)である。RGは出生直後には存在するが、まもなくグリアや上衣細胞に分化して消失する。Ccdc85CはRGの頂端部ジャンクション部位にあり、RGの分化とともに消失したと考えられる。(3)hhyマウスの脳室上衣層の異形成および網膜異形成 hhyマウスは、生後1-2週で頭部が膨隆し、水頭症を発症する(図4A)。hhyの原因遺伝子Ccdc85cにコードされるタンパク質が胎仔期の脳室面に検出され、生後急速に減少したことから、Ccdc85CはRGに存在し、ニューロン、グリア、上衣細胞などの大脳皮質構成細胞の分化に関わっていると推定された。そこで、水頭症発症と関連が深いとされている上衣細胞層の異形成があるかをSEMで検索した。 脳室面を覆う上衣細胞は、正常では繊毛に覆われており、脳実質と脳室との境界を形成するだけでなく、脳実質からの水分・老廃物の排出、脳脊髄液の吻側への移動を促し脳脊髄液成分の濃度勾配を形成するなどの機能を果たしている。上衣細胞繊毛の欠損は、交通性水頭症をもたらすことが報告されている。hhy変異型ホモマウスでは、側脳室の大脳皮質下背側部分の上衣細胞が欠損し脳実質が裸出しており、無論繊毛も見られなかった(図4B)。図4B中央にある巨大な細胞は、炎症部位に集まるマクロファージである。このSEM像により、Ccdc85Cの欠損によって、RGから上衣細胞への分化が局所的に障碍され、水頭症を発症するに至ったと解釈できる。 また、Ccdc85Cタンパク質がE15網膜最外側において確認されたことから(データ非提示)、hhy変異型ホモマウスに網膜変性があると想定し、hhyマウスの網膜神経層の構造を観察した。野生型マウス(15週齢)および変異型ホモマウス(2週齢)の網膜神経層のHE染色像を図5に示す。変異型ホモマウスでは、網膜神経層の層構造は、全体として正常に形成されていたが、局所に層構造の乱れを認めた(図5)。図5に示すように、局所で網膜神経層の異形成があり、そこでは、ガングリオンが形成されておらず、神経線維が欠如していた。したがって、hhy変異ホモマウスは、網膜の病変部では光を感知できない、すなわち、部分的に盲目であるとわかる。(4)ヒトCCDC85C遺伝子のPCR増幅 ヒト胎児正常繊維芽細胞株HE495(106個)より、定法に従ってDNAを抽出した。DNAは滅菌蒸留水に溶解し、濃度を50 ng/μlに調整した。PCRに使用するDNA量は、反応液の1/10量とした(最終濃度5 ng/μl)。PCR反応産物5μlをローディングバッファ3μlと混ぜ、アガロースゲルにアプライし、100Vで30分間電気泳動した。ゲルをエチジウムブロマイド染色し、紫外線照射によってバンドを検出した。 ヒトCCDC85C遺伝子の構造模式図を図6に示す。エキソン2を含む領域を増幅するため、プライマーHcc2F(5'-ACAGGCCGTGCTGTTTCCAC-3')(配列番号1)およびHcc2R(5'-GAGCCAGGGTTAGGTCCCTGA-3') (配列番号2)を作製した。プライマーHcc2FおよびHcc2Rを用い、0.6 mlのチューブに10 μlのスケールでPCR反応液を調整した。PCR反応液の組成は以下の通りである(10 x PCR buffer(TAKARA) 1μl、dNTP(各2.5 mM)(TAKARA) 0.8μl、フォワードプライマー(10μM) 0.2μl、リバースプライマー(10μM) 0.2μl、TAKARA Taq(登録商標)(5ユニット/μl) 0.04μl、蒸留水 6.76μl、DNA(50 ng/μl) 1μl)。反応液にミネラルオイル1滴をたらし、液表面を覆った。PCR反応プログラムは95℃ 3分、95℃ 30秒・55℃ 30秒・72℃ 45秒の30サイクルである。エキソン2を含む正常ヒトDNAをPTC-100TM(MJ)PCR装置で増幅し、その産物の一部を、2.5%アガロース内で電気泳動したところ、バンドサイズは、期待通り約0.4 kbであった(図7A)。 また、エキソン3−6を1度で増幅できるよう、プライマーHcc3F(5'-CAAAGCCCACGTTGGAGAGTGGATCGCTGACA-3') (配列番号3)およびHcc3R(5'-TCTCGTCTTCCCAGGTTGCTGGTGTATGAGGC-3') (配列番号4)を作製した。プライマーHcc3FおよびHcc3Rを用い、エキソン3−6の広範囲PCRを、20μlのスケールで行った。PCR反応液の組成は以下の通りである(2 x GCI buffer(TAKARA) 10 μl、dNTP(各2.5 mM)(TAKARA) 3.2 μl、フォワードプライマー(10μM) 2 μl、リバースプライマー(10μM) 2 μl、TAKARA LA-Taq(登録商標) ポリメラーゼ(5ユニット/μl) 0.2 μl、蒸留水 0.6 μl、DNA(50 ng/μl) 2 μl)。PCR反応プログラムは95℃ 5分、95℃ 30秒・68℃ 8分のシャトルを30サイクルである。PC320(アステック)PCR装置で増幅した産物の一部を1%アガロースゲル内で電気泳動したところ、期待通り7.4 kbのサイズのバンドが認められた(図7B)。 CCDC85C遺伝子の変異を検出するためのプライマーまたはプローブを含む、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患の遺伝子診断キット。 疾患が水頭症または網膜変性である、請求項1のキット。 プライマーが、CCDC85C遺伝子の一部を増幅するPCR用プライマーである、請求項1または2のキット。 PCR用プライマーが、配列番号1および配列番号2、または配列番号3および配列番号4のプライマーの組である、請求項3のキット。 ヒト被験者における疾患の原因を調べる方法であって、以下の工程を含む方法: (1)該被験者から採取された試料においてCCDC85C遺伝子の変異を調べる工程、および (2)CCDC85C遺伝子に変異が存在する場合に、該疾患の原因がCCDC85C遺伝子の変異であると決定する工程。 ヒト被験者おけるCCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患の遺伝的素因の有無を調べる方法であって、以下の工程を含む方法: (1)該被験者から採取された試料においてCCDC85C遺伝子の変異を調べる工程、および (2)CCDC85C遺伝子に変異が存在する場合に、該被験者が該疾患の遺伝的素因を有すると決定する工程。 工程(1)が、CCDC85C遺伝子の一部を増幅するPCR用プライマーを用いて、該試料から得られたDNAと対照のCCDC85C遺伝子のDNAとを増幅し、増幅されたDNAを比較することにより行われる、請求項5または6の方法。 疾患が水頭症または網膜変性である、請求項5〜7のいずれかの方法。 Ccdc85Cタンパク質またはCCDC85Cタンパク質を特異的に認識する抗体を含む、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患の研究キット。 疾患が水頭症または網膜変性である、請求項9のキット。 【課題】CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患、水頭症および網膜変性の遺伝子診断キットの提供。【解決手段】CCDC85C遺伝子の変異を検出するためのプライマーまたはプローブを含む、CCDC85C遺伝子を原因遺伝子とする疾患の遺伝子診断キット。該疾患の原因を調べる方法。該疾患の遺伝的素因の有無を調べる方法。該疾患の研究キット。【選択図】なし配列表