タイトル: | 公開特許公報(A)_高クロム鋼のエッチング液、エッチング方法、レプリカ採取方法およびクリープ損傷率評価方法 |
出願番号: | 2010045370 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C23F 1/28,G01N 33/20 |
難波 一夫 JP 2011179083 公開特許公報(A) 20110915 2010045370 20100302 高クロム鋼のエッチング液、エッチング方法、レプリカ採取方法およびクリープ損傷率評価方法 電源開発株式会社 000217686 志賀 正武 100064908 高橋 詔男 100108578 渡邊 隆 100089037 村山 靖彦 100108453 難波 一夫 C23F 1/28 20060101AFI20110819BHJP G01N 33/20 20060101ALI20110819BHJP JPC23F1/28G01N33/20 G 13 6 OL 19 2G055 4K057 2G055AA03 2G055BA05 2G055BA20 2G055CA05 2G055DA08 2G055EA06 2G055FA02 4K057WA20 4K057WB02 4K057WE02 4K057WE08 4K057WE13 4K057WF10 4K057WG01 4K057WG02 4K057WN10 この発明は、高クロム鋼のエッチング液、このエッチング液を用いたエッチング方法、エッチング後の高クロム鋼の表面のレプリカを採取する方法および高クロム鋼のクリープ損傷率を評価する方法に関する。 従来より、炭素鋼など鋼材の表面にナイタール液などのエッチング液を接触させてその表面をエッチングし、現出した鋼材の金属組織を顕微鏡によって観察し、微細組織の面積率、粒径などを調査することが広く行われている(特許文献1、2参照)。 一方、耐熱鋼のクリープ寿命の評価方法として、調査対象部位から試験片を採取して薄片状の電子顕微鏡用試料に加工し、この試料の電子顕微鏡写真を撮影し、該撮影像から画像処理によって、サブグレイン(亜粒界組織)のサイズを求め、このサブグレインサイズに基づいてクリープ寿命消費率を求めるものが提案されている(特許文献3参照)。 この他、フェライト系耐熱鋼の硬度からクリープ寿命を推定する方法(特許文献4参照)なども提案されている。 ところで、鋼材のエッチング液としては、ナイタール液以外に鋼種に応じて組成の異なる多くのエッチング液が知られている。炭素鋼よりも高温強度、耐食性に優れ、ボイラなどの高温機器に多用されている高クロム鋼に適用できるエッチング液には、ビレラ試薬(塩酸1〜5g、ピクリン酸1〜5gを添加したアルコール溶液)が一般に使用されている。 しかし、該エッチング液では、高クロム鋼組織における旧オーステナイト粒界を現出できるものの、その下部組織であるパケット、ブロックまたはサブグレイン等の微細組織を現出することはできない。 また、特許文献3に開示されたクリープ寿命評価方法は、一種の破壊検査方法であり、かつ電子顕微鏡を用いるものであるので、試験片を採取した検査部位の補修が必要であり、高価な電子顕微鏡を必要とするなどの不具合がある。特開2007−204772号公報特開平5−163590号公報特開平10−170503号公報特開2006−258621号公報 本発明における課題は、炭素鋼よりも耐食性が高い高クロム鋼に適用でき、パケット、ブロック、サブグレイン等の金属組織中の種々の微細組織を識別して現出することができるエッチング液を得ることにある。 また、非破壊検査であって、高価な電子顕微鏡を用いることなく高クロム鋼のクリープ損傷率を簡便に評価できる方法を得ることにある。 かかる課題を解決するため、 請求項1にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項2にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項3にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項4にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項5にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項6にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)と、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項7にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と塩酸1.2×10−3〜6.1×10−2モル(濃度37重量%塩酸水溶液0.1〜5ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項8にかかる発明は、水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と塩酸1.2×10−3〜6.1×10−2モル(濃度37重量%塩酸水溶液0.1〜5ml)と、硝酸1.2×10−3〜3.9×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.1〜3ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液である。 請求項9にかかる発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載のエッチング液に高クロム鋼を接触させてエッチングし、ついで水洗、乾燥し、金属組織を現出させることを特徴とする高クロム鋼のエッチング方法である。 請求項10にかかる発明は、請求項9に記載のエッチング方法によりエッチングされて現出した高クロム鋼の金属組織が転写されたレプリカ標本を採取することを特徴とする高クロム鋼のレプリカ採取方法である。 請求項11にかかる発明は、請求項9のエッチング方法によりに現出した高クロム鋼の金属組織を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡にて観察し、金属組織中のサブグレインのサイズを測定し、このサブグレインサイズに基づいて高クロム鋼のクリープ損傷率を評価することを特徴とする高クロム鋼のクリープ損傷率評価方法である。 請求項12にかかる発明は、請求項10のレプリカ採取方法によって採取されたレプリカ標本の転写された金属組織を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡にて観察し、該金属組織中のサブグレインのサイズを測定し、このサブグレインサイズに基づいて高クロム鋼のクリープ損傷率を評価することを特徴とする高クロム鋼のクリープ損傷率評価方法である。 請求項13にかかる発明は、請求項11または12に記載のクリープ損傷率評価方法において、評価対象部位が高クロム鋼の溶接継手の溶接熱影響部の細粒域であることを特徴とする高クロム鋼のクリープ損傷率評価方法である。 本発明のエッチング液およびエッチング方法によれば、高クロム鋼の表面の微細金属組織を明確に識別可能とすることができる。 本発明のレプリカ採取方法によれば、エッチング処理された高クロム鋼の表面の微細な金属組織が正確に転写されたレプリカ標本が得られる。 本発明の高クロム鋼のクリープ損傷率の評価方法によれば、前記エッチング液でエッチング処理された表面を直接光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡で観察するか、レプリカ標本を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡で観察して高クロム鋼のサブグレインサイズを求め、このサブグレインサイズからクリープ損傷率を評価するものであるので、実機に用いられている高クロム鋼材のクリープ損傷率を非破壊検査によって行うことができ、高価な電子顕微鏡を用いる必要がない。また、実機が存在する現場での評価も可能となる。 さらに、評価対象部位として、溶接継手の熱影響部(HAZ)の細粒域を対象としたときに熱影響部の細粒域の表面のサブグレインサイズを求めることで、最もクリープ損傷が進むとされている該細粒域の内部のクリープ損傷率を知ることができる。 熱影響部の細粒域の内部ではクリープの進行にともなってクリープボイドが生じ、TypeIVCrackが発生するとされている(「鉄と鋼」第90巻第4号2004年4月206〜212頁参照)。エッチング処理後の高クロム鋼母材の微細組織のレーザ顕微鏡写真である。エッチング処理後の高クロム鋼母材の微細組織のレーザ顕微鏡写真である。エッチング処理後の高クロム鋼母材の微細組織のレーザ顕微鏡写真である。高クロム鋼の溶接熱影響部の細粒域の深さの異なる部位での微細組織のレーザ顕微鏡写真である。高クロム鋼の溶接継手の断面を示す模式図である。サブグレインサイズとクリープ損傷率との関係を示すグラフである。(1)エッチング液 本発明のエッチング液は高クロム鋼のエッチングに好適なものである。本発明における高クロム鋼とは、8〜13mass%のクロムを含有するフェライト系耐熱鋼であって、必要に応じて1〜2mass%のモリブデンまたはタングステンが添加され、さらに微量のバナジウム、ニオブ、窒素などが添加されることがあり、焼戻しマルテンサイト組織を形成したものを言う。 本発明のエッチング液はその組成により、A液、B液、C液、D液、E液、F液、G液およびH液の8種がある。 A液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)の割合で溶解した水溶液。 B液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)の割合で溶解した水溶液。すなわち、A液にクエン酸を2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)の割合で添加した水溶液。 C液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で溶解した水溶液。すなわち、A液に硝酸を2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で添加した水溶液。 D液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で溶解した水溶液。すなわち、B液にエタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で添加した水溶液。 E液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で溶解した水溶液。すなわち、B液に硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で添加した水溶液。 F液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67%硝酸水溶液0.2〜6ml)と、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で溶解した水溶液。すなわち、B液に硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)と、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で添加した水溶液。 G液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と塩酸1.2×10−3〜6.1×10−2モル(濃度37重量%塩酸水溶液0.1〜5ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液。すなわち、A液に塩酸1.2×10−3〜6.1×10−2モル(濃度37重量%塩酸水溶液0.1〜5ml)の割合で添加した水溶液。 H液:水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と塩酸1.2×10−3〜6.1×10−2モル(濃度37重量%塩酸水溶液0.1〜5ml)と、硝酸1.2×10−3〜3.9×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.1〜3ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼用エッチング液。すなわち、G液に硝酸1.2×10−3〜3.9×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.1〜3ml)の割合で添加した水溶液である。 これらのエッチング液において、硝酸、塩酸、エタノールの配合割合を体積量で括弧書きにて表示したものについて、硝酸では濃度67重量%、比重1.36g/cm3、12.950モル/lの水溶液の配合量を示し、塩酸では濃度37重量%、比重1.19g/cm3、12.076モル/lの水溶液の配合量を示し、エタノールでは濃度99.5体積%、比重0.790g/cm3、17.062モル/lのものの配合量を示す。 これらのエッチング液は、各成分を水に溶解することで容易に作成することができる。これらのエッチング液のなかでも、D液が特に高クロム鋼に好適であり、微細組織が明瞭に現出し、かつ各微細組織がムラ無く着色され、光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡による観察が良好に行える。B液もD液とほぼ同等であり、チオ硫酸ナトリウムが3.7×10−2モル以上であれば、各微細組織がムラなく着色され、光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡による観察が良好に行える。F液は、12%Cr鋼などの比較的クロム含有量の高い高クロム鋼に好適であり、各微細組織がムラなく着色され、光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡による観察が良好に行える。 C液およびE液はD液よりもやや劣るものの実用上は十分使用できるものである。A液は若干着色程度が不十分なこともあるが、微細組織は現出する。G液およびH液は、特にレプリカ採取に好適な組成のエッチング液で、金属組織の凹凸がより明瞭に表れるものである。 なお、着色の色合いは、概ね観察面に露出した結晶面の方位に対応しており、{001}面は青色または茶色、{111}面、{101}面はあまり着色されず、白色または薄い茶色である。 (2)エッチング方法 本発明のエッチング方法は、基本的に高クロム鋼を前述のA液ないしH液のいずれかのエッチング液に接触させ、ついで水洗し、乾燥するものである。エッチング条件はエッチング液の種類に応じて若干異なる。 A液を用いる場合には、温度10〜40℃のA液を高クロム鋼に時間1分〜20分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する B液を用いる場合には、温度10〜40℃のB液を高クロム鋼に時間10秒〜15分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する。 C液を用いる場合には、温度10〜40℃のC液を高クロム鋼に時間1秒〜5分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する。 D液を用いる場合には、温度10〜40℃のD液を高クロム鋼に時間10秒〜40分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する。 E液を用いる場合には、温度10〜40℃のE液を高クロム鋼に時間10秒〜5分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する。 F液を用いる場合には、温度10〜40℃のF液を高クロム鋼に時間10秒〜3分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する。 G液を用いる場合には、温度10〜40℃のG液を高クロム鋼に時間30秒〜10分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する。 H液を用いる場合には、温度10〜40℃のH液を高クロム鋼に時間30秒〜10分間接触させたのち、水洗し、乾燥空気などを吹き付けて乾燥する。 エッチング方法の対象となる高クロム鋼が実機のパイプなどである場合には、対象部位の表面を軽く研磨などして清浄化して、鋼表面を露出させたのち、エッチング液を滴下して所定時間接触させたのち、水洗し乾燥する。 また、エッチング方法の対象となる高クロム鋼が鋼材から切り出すなどによって採取した試験片であれば、これを同様に清浄化した後、ビーカーなどの容器内のエッチング液に浸漬し、ついで引き上げて水洗し、乾燥する。 表1ないし表4に、それぞれ高クロム鋼(火SCMV28[9%Cr鋼]、火SUS410J3TP[12%Cr鋼])を対象として各種エッチング液を用いてエッチング処理を施した結果を示す。 ここで、テスト番号1ないし37は火SCMV28[9%Cr鋼]、テスト番号38ないし45は火SUS410J3TP[12%Cr鋼]における結果である。なお、表1のテスト番号1、2、3は比較のためのものである。 また、表1〜4のテスト番号の(A)、(B)などの表記は、前述のエッチング液の種別を示すものである。表中の硝酸は濃度67重量%の水溶液を、塩酸は濃度37重量%の水溶液を、エタノールは濃度99.5体積%のものを示す。 また、図1ないし図3に、エッチング処理後の高クロム鋼の表面に現出した微細組織のレーザ顕微鏡写真を示す。図1の写真は表1のテスト番号10のものであり、図2の写真は表2のテスト番号20のものであり、図3の写真は表3のテスト番号45のものである。 (3)レプリカ採取方法 本発明のレプリカ採取方法は、前述のエッチング方法によりエッチング処理された高クロム鋼の表面部位を対象としてレプリカを取り、該表面部位に現出した微細組織をそのまま反転して転写されたレプリカ標本を得るものである。 この方法によれば、従来高クロム鋼のブロック、パケット、サブグレイン等の微細組織を現出できるエッチング液がなかったため、これのエッチング処理後の微細組織を転写した表面のレプリカ標本を採取することができなかったものが可能になり、さらには実機にて供用中の高クロム鋼からなるパイプなどの鋼材や切断が許されない大型の試験材の金属組織の状態を非破壊的に知ることができる。 レプリカ標本を採取する方法は、周知のレプリカ採取方法を適用できる。 例えば、エッチング処理された対象部位表面にアセトンなどを滴下し直ちにアセチルセルロースフィルムをこれに貼り付ける。ついで、ドライヤーなどを用いて十分乾燥する。乾燥後、アセチルセルロースフィルムを静かに剥がし取り、これを別途用意したガラス板などにセロファンテープなどを用いて固定する方法が適用できる。 (4)クリープ損傷率評価方法 本発明のクリープ損傷率評価方法は、前述のエッチング方法によって現出した金属組織またはレプリカ採取方法によって採取されたレプリカ標本に転写された金属組織を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡により観察し、金属組織のサブグレインサイズ(亜粒界組織の大きさ)を求め、このサブグレインサイズからクリープ損傷の程度を判定するものである。 特に、観察対象部位として、高クロム鋼材の溶接継手の熱影響部(HAZ)の母材側の領域である細粒域を対象としたときに、該細粒域内部で発生し、TypeIVCrackに至るクリープ損傷の度合いをその表面からの観察によって知ることができる。 具体的な方法は、エッチング処理後の表面の金属組織あるいはレプリカ標本に転写された金属組織を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡により倍率100〜10,000倍で観察し、写真撮影する。1枚の写真に写される金属組織の面積は20μm〜100μm×20μm〜100μm程度とし、マクロ領域として多くのサブグレイン(亜粒界組織)が写るようにする。得られた金属組織の画像からサブグレインサイズを算出する。 個々のサブグレインサイズの算出は、例えば周知のリニアインターセプト法や画像処理法によって行われる。 そして、予め同一組成の高クロム鋼について、クリープ損傷率の異なる複数の試験片を作成し、それらの試験片のサブグレインサイズとクリープ損傷率との相対関係を求めておき、この相対関係に基づいてクリープ損傷率を求める。 図4は、高クロム鋼(火SCMV28[9%Cr鋼])の溶接熱影響部(HAZ)の細粒域についてのクリープ損傷率が異なる試験片での表面、深さ7mm(クリープ損傷の最も顕著な部位)、深さ25mm(試験片[板厚50mm]の肉厚中心部)の金属組織のレーザ顕微鏡写真である。これらの写真は、前述のエッチング処理によって現出した微細組織のものである。 この写真から表面、深さ7mm、深さ25mmのいずれの部位においても、クリープ損傷率が大きくなるにつれてサブグレインサイズが大きくなることがわかる。 このことから、表面部位での観察結果(サブグレインサイズの測定)から、最もクリープ損傷が大きく、溶接継手のクリープ破壊の支配的な要因とされる深さ7mm付近でのサブグレインサイズを知ることができ、サブグレインが大きくなることによって、クリープ損傷度を判定できるだけでなく、TypeIVCrackの発生も予測できる。 なお、図4の写真における試験片のクリープ条件は応力50MPa、温度657℃である。 図5は、高クロム鋼の溶接継手の断面を示す模式的な図面であって、図中符号1は母材、2は溶接金属、3は溶接熱影響部(HAZ)、3aは粗粒域、3bは細粒域を示す。図4の写真はこれの細粒域3bにおける表面、深さ7mm、深さ25mm(肉厚中心部)の部位のものである。 図6は前述の図4の顕微鏡写真に示された表面、深さ7mm、深さ25mmでの金属組織についてのサブグレインサイズとクリープ損傷率との相関関係を示すグラフである。このグラフから、表面でのサブグレインサイズから各深さでのクリープ損傷率を推定することができる。なお、この相関関係はクリープ応力が50〜80MPaの範囲では同様に成立することが確認されている。 以上のように、本発明によれば、特定の組成のエッチング液を用いることで、高クロム鋼の微細な金属組織を明瞭に現出させることができ、さらには着色することができ、これを直接あるいはレプリカ標本を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡によって、旧オーステナイト粒のみならず、その下部組織であるパケット、ブロックまたはサブグレイン等の組織観察や組織測定(面積率、サイズ、周囲長など)ができるようになる。 また、光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡による観察であるので、金属組織のマクロな領域の観察が1回で行え、従来の透過型電子顕微鏡によるミクロな領域の観察を数十回行って全体的な評価を行うものに比べて操作性も向上する。 なお、背面反射電子線回折パターン法(EBSP)によって、微細な領域での結晶方位差を求めてクリープ寿命を評価する方法が報告されているが(「IHI技報」Vol.47 No.4(2007年12月)pp.157〜161)、この方法は調査対象部位から試験片採取が必要であるうえ、高価な測定機器を必要とする点で汎用性を欠くものである。 これに対して、本発明では、前述の特定組成のエッチング液を用いることで微細な金属組織が明瞭に現出でき、これにより汎用の光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡によって観察できる点で優位である。1・・・母材、2・・・溶接金属、3・・・溶接熱影響部(HAZ)、3a・・・粗粒域、3b・・・細粒域 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モル(0.05〜2.8g)と、硝酸2.5×10−3〜7.8×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.2〜6ml)と、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モル(濃度99.5体積%エタノール5〜20ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と塩酸1.2×10−3〜6.1×10−2モル(濃度37重量%塩酸水溶液0.1〜5ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 水6モル(108ml)に対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モル(4〜18g)と、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モル(1.7〜31g)と塩酸1.2×10−3〜6.1×10−2モル(濃度37重量%塩酸水溶液0.1〜5ml)と、硝酸1.2×10−3〜3.9×10−2モル(濃度67重量%硝酸水溶液0.1〜3ml)の割合で溶解した水溶液からなる高クロム鋼のエッチング液。 請求項1ないし8のいずれかに記載のエッチング液に高クロム鋼を接触させてエッチングし、ついで水洗、乾燥し、金属組織を現出させることを特徴とする高クロム鋼のエッチング方法。 請求項9に記載のエッチング方法によりエッチングされて現出した高クロム鋼の金属組織が転写されたレプリカ標本を採取することを特徴とする高クロム鋼のレプリカ採取方法。 請求項9のエッチング方法によりに現出した高クロム鋼の金属組織を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡にて観察し、金属組織中のサブグレインのサイズを測定し、このサブグレインサイズに基づいて高クロム鋼のクリープ損傷率を評価することを特徴とする高クロム鋼のクリープ損傷率評価方法。 請求項10のレプリカ採取方法によって採取されたレプリカ標本の転写された金属組織を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡にて観察し、該金属組織中のサブグレインのサイズを測定し、このサブグレインサイズに基づいて高クロム鋼のクリープ損傷率を評価することを特徴とする高クロム鋼のクリープ損傷率評価方法。 請求項11または12に記載のクリープ損傷率評価方法において、評価対象部位が高クロム鋼の溶接継手の溶接熱影響部の細粒域であることを特徴とする高クロム鋼のクリープ損傷率評価方法。 【課題】高クロム鋼に適用でき、金属組織中の種々の微細組織を識別して現出することができるエッチング液を得る。また、非破壊検査であって、高価な電子顕微鏡を用いることなく高クロム鋼のクリープ損傷率を評価できる方法を得る。【解決手段】水6モルに対して、チオ硫酸ナトリウム2.5×10−2〜1.2×10−1モルと、ピロ亜硫酸カリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムのいずれか一方もしくは両方9.2×10−3〜1.4×10−1モルと、クエン酸2.6×10−4〜1.5×10−2モルと、エタノール8.5×10−2〜3.5×10−1モルの割合で溶解した水溶液をエッチング液とする。このエッチング液によりエッチング処理して現出した金属微細組織を光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡により観察し、サブグレインサイズを求め、このサブグレインサイズからクリープ損傷率を求める。【選択図】図6